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特開2022-187831計測装置、リソグラフィ装置及び物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187831
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】計測装置、リソグラフィ装置及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 9/00 20060101AFI20221213BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20221213BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G03F9/00 H
G03F7/20 521
G01B11/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096031
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 祐平
(72)【発明者】
【氏名】原 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 威宣
(72)【発明者】
【氏名】麦倉 裕次
(72)【発明者】
【氏名】鳥波 祐記
【テーマコード(参考)】
2F065
2H197
【Fターム(参考)】
2F065AA03
2F065AA20
2F065BB28
2F065CC17
2F065CC20
2F065DD03
2F065FF04
2F065HH02
2F065HH13
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065LL04
2F065LL12
2F065MM03
2F065PP12
2F065QQ13
2F065QQ24
2F065QQ31
2H197AA05
2H197AA09
2H197DA03
2H197EA11
2H197EA14
2H197EA15
2H197EA17
2H197EA19
2H197EA25
2H197EB16
2H197EB22
2H197EB23
2H197HA03
2H197HA05
2H197HA10
(57)【要約】
【課題】位置計測精度の点で有利な計測装置を提供する。
【解決手段】物体の位置を計測する計測装置であって、前記物体に設けられたマークを撮像し、前記マークの像を含む光学像のアナログデータを取得する撮像部と、前記マークの位置を求める処理部と、を有し、前記処理部は、前記撮像部で取得された前記アナログデータを、前記光学像の輝度を含むデジタルデータに変換し、前記デジタルデータにおいて、前記マークの像を含むマーク領域の輝度と、前記マーク領域を除く領域の輝度との差を調整し、前記差を調整した前記デジタルデータに基づいて、前記マークの位置を求めることを特徴とする計測装置を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の位置を計測する計測装置であって、
前記物体に設けられたマークを撮像し、前記マークの像を含む光学像のアナログデータを取得する撮像部と、
前記マークの位置を求める処理部と、を有し、
前記処理部は、
前記撮像部で取得された前記アナログデータを、前記光学像の輝度を含むデジタルデータに変換し、
前記デジタルデータにおいて、前記マークの像を含むマーク領域の輝度と、前記マーク領域を除く領域の輝度との差を調整し、
前記差を調整した前記デジタルデータに基づいて、前記マークの位置を求めることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記アナログデータは、前記光学像の静止画像データであり、
前記処理部は、前記静止画像データを格子状の複数の分割領域に分割し、前記複数の分割領域のそれぞれに対して、各分割領域に対応する前記光学像の輝度を与えることで、前記アナログデータを前記デジタルデータに変換することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記差が基準値となるように、前記マーク領域の輝度、及び、前記マーク領域を除く領域の輝度とを調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記基準値は、前記撮像部が前記マークを撮像する際の条件を最適条件に設定したときに得られる理想デジタルデータにおける前記マーク領域の輝度と前記マーク領域を除く領域の輝度との差であることを特徴とする請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記デジタルデータにおいて、前記マーク領域の輝度を前記撮像部が前記マークを撮像する際の条件を最適条件に設定したときに得られる理想デジタルデータにおける前記マーク領域の輝度に、前記マーク領域を除く領域の輝度を前記理想デジタルデータにおける前記マーク領域を除く領域の輝度に置き換えることで、前記差を調整することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
基板にパターンを形成するリソグラフィ装置であって、
前記基板を物体として前記基板の位置を計測する請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の計測装置と、
前記計測装置で計測された前記基板の位置に基づいて、前記基板を位置決めする基板ステージと、
を有することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項7】
原版のパターンを前記基板に投影する投影光学系を更に有することを特徴とする請求項6に記載のリソグラフィ装置。
【請求項8】
前記計測装置は、前記原版を物体として前記原版の位置も計測し、
前記計測装置で計測された前記原版の位置に基づいて、前記原版を位置決めする原版ステージと、
を有することを特徴とする請求項7に記載のリソグラフィ装置。
【請求項9】
原版のパターンを基板に形成するリソグラフィ装置であって、
前記原版及び前記基板を物体として、前記原版の位置及び前記基板の位置を計測する請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の計測装置と、
前記計測装置で計測された前記原版の位置及び前記基板の位置から得られる前記原版と前記基板との相対位置に基づいて、前記原版と前記基板とを位置合わせする制御部と、
を有することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項10】
請求項6乃至9のうちいずれか1項に記載のリソグラフィ装置を用いてパターンを基板に形成する工程と、
前記工程で前記パターンが形成された前記基板を処理する工程と、
処理された前記基板から物品を製造する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置、リソグラフィ装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、一般的に、原版(マスク又はレチクル)のパターンを、投影光学系を介して、感光剤(レジスト)が塗布された基板(ウエハ又はガラスプレート)に投影(結像)する。近年では、投影光学系に対して、原版と基板とを同期させて走査して基板を露光する走査型の露光装置、所謂、ステップアンドスキャン方式の露光装置が主流となっている。
【0003】
露光装置においては、原版のパターンを基板(下地パターン)に高い重ね合わせ精度で転写するように、原版と基板とを高精度に位置合わせ(アライメント)することが求められている。このようなアライメントに関して、原版のマークからの光を原版の上方で検出(受光)するとともに、基板のマークからの光を投影光学系及び原版を介して検出することで、原版と基板との位置ずれを計測するTTL(スルー・ザ・レンズ)方式が知られている。具体的には、TTL方式では、電荷結合型撮像素子(CCD)などの撮像素子を用いて、原版のマーク像と基板のマーク像とを同時に観察し、その撮像信号を信号処理することで、原版と基板との位置ずれを求めている。
【0004】
TTL方式では、例えば、原版のマークや基板のマークを照明する照明光を発するアライメント光源の経年劣化に起因して、撮像素子(マーク像の撮像面(観察面))に入射する光の光量が変動、詳細には、低減する場合がある。また、TTL方式では、原版のマークからの光と基板のマークからの光とで撮像素子に入射する光の光量に大きな差が発生する。これは、基板のマークで反射して撮像素子に入射する光は、投影光学系を往復しているため、原版のマークで反射して撮像素子に入射する光に対して、その光量が小さくなるからである。従って、アライメント光源が経年劣化し、撮像素子に入射する光の光量が低減すると、撮像素子全体での輝度が低下して、原版のマーク像と基板のマーク像との間のコントラストも低下する。その結果、撮像信号を信号処理することで得られる原版及び基板のマークの信号強度が低下して、原版と基板との位置ずれの計測精度(位置計測精度)の低下につながる。
【0005】
そこで、TTL方式で高精度なアライメントを実現するために、原版のマーク像や基板のマーク像を取得する際の条件を、最適な条件に維持するための技術が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0006】
例えば、特許文献1には、照明光の光量や撮像素子の感度を自動で制御(調整)する技術が開示されている。特許文献1に開示された技術では、撮像素子で得られたカラー像の3原色(赤、緑、青)のそれぞれの濃度と、各色に対して予め設定された基準濃度との差の2乗和が最小値になるように、照明光の光量及び撮像素子の感度のいずれか一方を制御している。
【0007】
また、特許文献2には、原版のマークから撮像素子に入射する光と基板のマークから撮像素子に入射する光との間の光量差に対応するために、原版のマーク及び基板のマークのそれぞれに対する撮像素子の感度を個別に制御する技術が開示されている。特許文献2に開示された技術では、原版のマークと基板のマークとを、それぞれ個別に撮像素子で取り込み(撮像し)、個別に取り込まれた各画像から、原版と基板との相対的な位置ずれを求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-218247号公報
【特許文献2】特開2004-119769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2に開示された技術によれば、アライメント光源の経年劣化に起因して、撮像素子に入射する光の光量が低減したとしても、原版のマーク像や基板のマーク像を取得する際の条件を、最適な条件に維持することが可能である。しかしながら、撮像素子に入射する光の光量が少なければ、撮像素子から出力される撮像信号も小さくなるため、かかる撮像信号を電気回路で増幅しなければならない。この際、撮像信号に含まれているノイズ信号も増幅されてしまうため、位置計測精度が低下する問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、位置計測精度の点で有利な計測装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての位置計測装置は、物体の位置を計測する計測装置であって、前記物体に設けられたマークを撮像し、前記マークの像を含む光学像のアナログデータを取得する撮像部と、前記マークの位置を求める処理部と、を有し、前記処理部は、前記撮像部で取得された前記アナログデータを、前記光学像の輝度を含むデジタルデータに変換し、前記デジタルデータにおいて、前記マークの像を含むマーク領域の輝度と、前記マーク領域を除く領域の輝度との差を調整し、前記差を調整した前記デジタルデータに基づいて、前記マークの位置を求めることを特徴とする。
【0012】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、位置計測精度の点で有利な計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。
図2】本発明の一側面としての計測装置の構成を示す概略図である。
図3】原版及び基板のそれぞれに設けられたマークを検出する検出手法を説明するための図である。
図4】画像ファイルの一例を示す図である。
図5図4に示す画像ファイルから求められた積算投影波形を示す図である。
図6】基準画像ファイルを示す図である。
図7図6に示す基準画像ファイルから求められた積算投影波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の一側面としての露光装置1の構成を示す概略図である。露光装置1は、半導体素子などのデバイスの製造工程に用いられ、基板上にパターンを形成するリソグラフィ装置である。露光装置1は、本実施形態では、投影光学系30に対して、原版11と基板21とを同期させて走査して基板21を露光(走査露光)する走査型の露光装置、所謂、ステップアンドスキャン方式の露光装置(スキャナー)である。但し、露光装置1は、ステップ・アンド・リピート方式やその他の露光方式を採用することも可能である。
【0017】
露光装置1は、図1に示すように、原版ステージ10と、基板ステージ20と、投影光学系30と、照明光学系40と、計測装置50と、制御部60と、面位置計測部70とを有する。ここでは、投影光学系30の光軸と平行な方向にZ軸を定義し、Z軸に直交する方向にX軸及びY軸を定義する。
【0018】
原版ステージ10は、原版11を保持し、且つ、X方向、Y方向及びθ方向に駆動する機能を有する。原版11には、基板21に転写すべきパターン(例えば、回路パターン)に加えて、原版11の位置計測や位置合わせ(アライメント)に用いられるマークが設けられている。
【0019】
基板ステージ20は、基板21を保持し、且つ、X方向、Y方向、Z方向及びθ方向に駆動する機能を有する。基板21には、基板21の位置計測や位置合わせ(アライメント)に用いられるマークが設けられている。
【0020】
照明光学系40は、光源からの光を用いて、原版11を所望の角度分布で均一に照明する。投影光学系30は、照明光学系40によって照明された原版11のパターンを、基板21に投影する(原版11のパターンからの光を結像する)。
【0021】
計測装置50は、物体に設けられたマークを検出して、かかる物体の位置を計測する機能を有する。計測装置50は、本実施形態では、原版11に設けられたマークと基板21に設けられたマークとを検出して、X方向及びY方向における原版11と基板21との相対的な位置ずれ(原版11と基板21との相対位置)を計測する。
【0022】
面位置計測部70は、基板ステージ20、詳細には、基板ステージ20に保持された基板21のZ方向の位置を計測する。面位置計測部70は、例えば、基板21に光を投光する投光系70aと、基板21で反射された光を受光する受光系70bと、受光系70bでの受光結果に基づいて基板21のZ方向の位置を演算する演算部70cとを含む斜入射方式の計測器で構成される。
【0023】
制御部60は、CPUやメモリなどを含むコンピュータで構成され、記憶部に格納されたプログラムに従って露光装置1の各部を統括的に制御して露光装置1を動作させる。制御部60は、露光装置1の各部の動作などを制御することで、原版11を介して基板21を露光する露光処理を制御する。露光処理は、原版11に設けられたマークや基板21に設けられたマークを検出して原版11と基板21との相対的な位置ずれを計測する計測処理や計測処理の結果に基づいて原版11と基板21とをアライメントするアライメント処理などを含む。また、制御部60は、後述するように、計測処理において、原版11に設けられたマークの位置や基板21に設けられたマークの位置を求める処理部として機能する。
【0024】
以下、計測装置50の詳細について説明する。図2は、本発明の一側面としての計測装置50の構成を示す概略図である。計測装置50は、図2に示すように、対物レンズ51と、リレーレンズ52と、エレクターレンズ53a及び53bと、照明系レンズ54a、54b、54c、54d、54e及び54fとを有する。また、計測装置50は、撮像素子55(撮像部)と、ミラー56と、計測装置50は、ビームスプリッタ57及び58と、光源59m及び59pとを有する。
【0025】
対物レンズ51は、検出対象のマークの位置に応じて、原版ステージ10の上を移動する機能を有する。リレーレンズ52は、計測装置50の光学系における光軸、図2では、撮像素子55とミラー56との間の光学系における光軸に対して平行に移動する機能を有する。
【0026】
光源59mは、原版11に設けられたマークを照明するための光を発する光源であり、光源59pは、基板21に設けられたマークを照明するための光を発する光源である。光源59m及び59pは、露光波長とは異なる波長、例えば、450nm乃至1000nmの波長を有する光を発する。また、光源59mと光源59pとは、検出対象のマークの反射率(の差)に応じて、互いに異なる波長を有する光を発してもよい。
【0027】
図3(a)、図3(b)及び図3(c)を参照して、原版11に設けられたマーク、及び、基板21に設けられたマークを検出する検出手法を説明する。図3(a)は、原版11に設けられたマーク12の一例を示す概略平面図である。原版11は、透過部材12aを基材として構成されている。マーク12は、透過部材12a(原版11)の原版マーク領域12mL及び12mLに設けられた遮光部材によって構成されている。マーク12は、本実施形態では、原版11のX方向の位置を計測するためのXマーク12mxと、原版11のY方向の位置を計測するためのYマーク12myとを含む。また、透過部材12aの基板マーク検出領域12pには、マーク12は設けられていない。
【0028】
図3(b)は、基板21に設けられたマーク22の一例を示す概略平面図である。基板21は、遮光部材22aを基材として構成されている。マーク22は、遮光部材22a(基板21)の基板マーク領域22pに設けられた透過部材によって構成されている。マーク22は、本実施形態では、基板21のX方向の位置を計測するためのXマーク22pxと、基板21のY方向の位置を計測するためのYマーク22pyとを含む。また、遮光部材22aの原版マーク検出領域22mには、マーク22は設けられていない。
【0029】
光源59mから発せられた光は、原版11に設けられたマーク12(Xマーク12mx及びYマーク12my)を照明する。マーク12で反射された光は、対物レンズ51、リレーレンズ52などを介して、CCDなどの撮像素子55に結像する。この際、リレーレンズ52を、撮像素子55とミラー56との間の光学系における光軸に対して平行に移動させて、撮像素子55と原版11に設けられたマーク12とが光学的に共役な関係になるようにする。
【0030】
また、光源59pから発せられ、原版11を構成する透過部材12a、詳細には、透過部材12aの基板マーク検出領域12pを通過した光は、投影光学系30を介して、基板21に設けられたマーク22(Xマーク22px及びYマーク22py)を照明する。この際、マーク22で反射された光を撮像素子55で観察可能な状態にするため、基板ステージ20をZ方向に移動(上下)させて、マーク12とマーク22とが光学的に共役な関係になるようにする。これにより、マーク12とマーク22とが結像関係となるため、両者を、同一の光学系、即ち、投影光学系30及び計測装置50の光学系を介して、撮像素子55に結像させることができる。
【0031】
図3(c)は、原版11に設けられたマーク12及び基板21に設けられたマーク22を撮像素子55で撮像することで得られる撮像データ(撮像画像)の一例を示す図である。図3(c)を参照するに、原版11の原版マーク領域12mL及び12mLのそれぞれに設けられたXマーク12mx及びYマーク12myは、撮像データのデータ領域55mL及び55mRのそれぞれに像を形成する(撮像される)。また、基板21の基板マーク領域22pに設けられたXマーク22px及びYマーク22pyは、撮像データのデータ領域55pに像を形成する(撮像される)。
【0032】
制御部60は、図3(c)に示す撮像データから、原版11のXマーク12mx及びYマーク12myのそれぞれに対応する原版Xマーク像55mx及び原版Yマーク像55myを抽出する。同様に、制御部60は、図3(c)に示す撮像データから、基板21のXマーク22px及びYマーク22pyのそれぞれに対応する基板Xマーク像55px及び基板Yマーク像55pyを抽出する。そして、制御部60は、原版Xマーク像55mx及び原版Yマーク像55my、及び、基板Xマーク像55px及び基板Yマーク像55pyから、撮像素子55におけるマーク12の位置及びマーク22の位置を算出する。これにより、原版11と基板21のX方向及びY方向の相対位置関係、即ち、X方向及びY方向における原版11と基板21との相対的な位置ずれを求めることができる。
【0033】
本実施形態において、制御部60は、撮像素子55に結像されたマーク12及び22を含む撮像データを画像ファイルに変換する。ここで、撮像データとは、原版11に設けられたマーク12や基板21に設けられたマーク22を撮像して得られる光電変換信号(電圧信号)であって、マーク12の像やマーク22の像を含む光学像のアナログデータである。また、画像ファイルとは、例えば、ビットマップ画像と同様に、撮像データとしての静止画像データを格子状の微細な領域に分割し、かかる領域(以下、「分割領域」と称する)のそれぞれに対して輝度情報を与えて画像全体を表現したデジタルデータである。輝度情報とは、撮像素子55の複数の画素で構成される撮像面(観察面)に形成された像に対応する一連の光電変換信号を予め設定された階調に従って数値変換した値に関する情報である。
【0034】
図4は、図3(c)に示す撮像データを画像ファイルに変換したものを示している。図4を参照するに、撮像データのデータ領域55mL及び55mRのそれぞれにおける原版Xマーク像55mx及び原版Yマーク像55myは、画像ファイルのファイル領域77mL及び77mRに描画される。ファイル領域77mL及び77mRにおける原版Xマーク信号77mx及び原版Yマーク信号77myは、それぞれ、原版Xマーク像55mx及び原版Yマーク像55myに対応している。また、撮像データのデータ領域55pにおける基板Xマーク像55px及び基板Yマーク像55pyは、画像ファイルのファイル領域77pに描画される。ファイル領域77pにおける基板Xマーク信号77px及び基板Yマーク信号77pyは、それぞれ、基板Xマーク像55px及び基板Yマーク像55pyに対応している。なお、画像ファイルは、図3(c)に示す撮像データをビニングやトリミングしたデータであってもよい。
【0035】
制御部60は、図4に示す画像ファイルにおいて、マーク12及び22を含むマーク領域(マーク12及び22の像が存在する領域)と、マーク領域を除く領域(マーク12及び22の像が存在しない領域)、所謂、背景領域とを識別する。本実施形態では、ファイル領域77mL及び77mRとファイル領域77pとで、それぞれ個別に求めた輝度の積算投影波形から、マーク領域と、背景領域とを識別する。以下では、ファイル領域77mLにおける原版Xマーク信号77mx(原版Xマーク12mx)のマーク要素αを例に、マーク要素αが存在する領域(マーク領域)を識別する具体的な手法について説明する。なお、原版Xマーク信号77mxのその他のマーク要素、原版Yマーク信号77y、基板Xマーク信号77px及び基板Yマーク信号77pyについても、マーク要素αと同様な処理が行われる。
【0036】
図5(a)及び図5(b)は、図4に示すファイル領域77mLにおける原版Xマーク信号77mx(原版Xマーク像55mxの輝度)から求められた積算投影波形を示す図である。上述したように、画像ファイルは、格子状の微細な分割領域、例えば、I行×J列の分割領域によって構成される。図5(a)は、同一列の分割領域の輝度の総和を列ごとに示し、図5(b)は、同一行の分割領域の輝度の総和を行ごとに示している。
【0037】
図5(a)及び図5(b)を参照するに、制御部60は、既知のマーク設計情報から積算投影波形の変化点i、i、i、j、j、j、jを抽出する。
この場合、制御部60は、行i≦I≦i、列j≦J≦jの分割領域をマーク要素αが存在する領域として識別する可能性がある。この場合、制御部60は、パーティクルγをマーク要素αの一部と誤認識している。従って、正しくは、行i≦I≦i、列j≦J≦jの分割領域をマーク要素αが存在する領域として識別しなければならない。
【0038】
そこで、本実施形態では、制御部60は、図4に示す画像ファイルにおいて、上述したような誤認識を抑制するために、マーク領域の輝度と、背景領域との輝度の差を調整する。まず、制御部60は、マーク12及び13から撮像素子55に入射する光の光量を最適化して、図6に示すような基準画像ファイルを予め取得する。なお、基準画像ファイルとは、撮像素子55がマーク12及び13を撮像する際の条件を最適条件に設定したときに得られる理想的なデジタルデータ(理想デジタルデータ)である。図6を参照するに、基準画像ファイルにおいて、原版Xマーク12mx及び原版Yマーク12myのそれぞれに対応する原版Xマーク像55mx及び原版Yマーク像55myは、ファイル領域88mL及び88mRに描画される。また、基準画像ファイルにおいて、基板Xマーク22px及び基板Yマーク22pyのそれぞれに対応する基板Xマーク像55px及び基板Yマーク像55pyは、ファイル領域88pに描画される。このような基準画像ファイルは、例えば、露光装置1の立ち上げ時に取得するとよい。
【0039】
次いで、制御部60は、図7(a)及び図7(b)に示すように、ファイル領域88mL及び88mRとファイル領域88pとで、それぞれ個別に求めた輝度の積算投影波形から、マーク領域の輝度情報、及び、背景領域の輝度情報を得る。図7(a)及び図7(b)は、図6に示すファイル領域88mLにおける原版Xマーク信号(原版Xマーク像の輝度)から求められた積算投影波形を示す図である。なお、マーク領域の輝度情報、及び、背景領域の輝度情報を得る手法は、マーク領域と背景領域とを識別する手法と同様である。そして、制御部60は、図6に示す基準画像ファイルから得られたマーク領域の輝度情報、及び、背景領域の輝度情報を基準値として記憶する。
【0040】
次いで、制御部60は、図4に示す画像ファイルから得られたマーク領域の輝度情報、及び、背景領域の輝度情報と、図6に示す基準画像ファイルから得られたマーク領域の輝度情報、及び、背景領域の輝度情報とを比較する。そして、両者に差異がある場合には、図4に示す画像ファイルから得られたマーク領域の輝度情報と背景領域の輝度情報との差を調整(補正)する。例えば、図4に示す画像ファイルから得られたマーク領域の輝度情報と背景領域の輝度情報との差が図6に示す基準画像ファイルから得られたマーク領域の輝度情報と背景領域の輝度情報との差(基準値)となるようにする。本実施形態では、図4に示す画像ファイルから得られたマーク領域の輝度情報、及び、背景領域の輝度情報を、図6に示す基準画像ファイルから得られたマーク領域の輝度情報、及び、背景領域の輝度情報に置き換える(変更する)。
【0041】
具体的には、図4に示す画像ファイルのファイル領域77mLに存在するマーク要素αと、図6に示す基準画像ファイルのファイル領域88mLに存在するマーク要素βとを比較する。上述したように、パーティクルγをマーク要素αの一部と誤認識している場合を考える。この場合、マーク要素αが存在する領域として識別している行i≦I≦i、列j≦J≦jの分割領域の輝度と、マーク要素βが存在する領域として識別している行i’≦I≦i’、列j’≦J≦j’の分割領域の輝度とを比較する。そして、両者に差異がある場合には、マーク要素αの輝度をマーク要素βの輝度に置き換える。詳細には、図4に示すパーティクルγが存在する行i≦I≦i、列j≦J≦jの分割領域は、既知のマーク設計情報から、本来、背景領域であることがわかるため、図6に示す基準画像ファイルから得られた背景領域の輝度に置き換える。
【0042】
このようにして、制御部60は、マーク領域の輝度及び背景領域の輝度が補正された画像ファイル(原版Xマーク信号、原版Yマーク信号、基板Xマーク信号及び基板Yマーク信号)から、撮像素子55におけるマーク12の位置及びマーク22の位置を算出する。これにより、原版11と基板21のX方向及びY方向の相対位置関係、即ち、X方向及びY方向における原版11と基板21との相対的な位置ずれを求めることができる。
【0043】
本実施形態によれば、画像ファイルの輝度を抽出し、その輝度を予め設定された基準値に補正することで、画像ファイルにおけるマーク領域の輝度と背景領域の輝度との差(コントラスト)を最適に維持することができる。従って、原版11や基板21に設けられたマークの近傍にパーティクルが付着しているような場合であっても、かかるパーティクルをマークと誤認識することなく、位置計測精度の低下を抑制(回避)することができる。また、パーティクルにかかわらず、原版11や基板21に設けられたマークから撮像素子55に入射する光の光量が変動(低下)する場合であっても、画像ファイルにおけるマーク領域の輝度と背景領域の輝度との差を最適に維持することができる。従って、光源59m及び59pの経年劣化に起因して、撮像素子55に入射する光の光量が変動する場合であっても、位置計測精度の低下を抑制することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、計測装置50で原版11と基板21との相対位置を計測して、原版11と基板21とをアライメントする場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、計測装置50で原版11の位置を計測して、原版11を位置決めする場合、或いは、計測装置50で基板21の位置を計測して、基板21を位置決めする場合についても本発明の一側面を構成する。
【0045】
本発明の実施形態における物品の製造方法は、例えば、デバイス(半導体素子、磁気記憶媒体、液晶表示素子など)などの物品を製造するのに好適である。かかる製造方法は、露光装置1を用いて、感光剤が塗布された基板を露光する(パターンを基板に形成する)工程と、露光された基板を現像する(基板を処理する)工程を含む。また、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージングなど)を含みうる。本実施形態における物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0046】
これまでの実施形態では、リソグラフィ装置として、露光装置を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、リソグラフィ装置は、基板上のインプリント材を型で成形して基板上にパターンを形成するインプリント装置や荷電粒子線(電子線やイオンビームなど)を用いて基板上にパターンを描画する描画装置などを含む。
【0047】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0048】
1:露光装置 11:原版 12:マーク 21:基板 22:マーク 50:計測装置 55:撮像素子 60:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7