(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187844
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】発電システム制御方法、及び、発電システム制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 9/04 20060101AFI20221213BHJP
H02P 101/45 20150101ALN20221213BHJP
H02P 101/25 20150101ALN20221213BHJP
【FI】
H02P9/04 L
H02P101:45
H02P101:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096049
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村尾 和弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健吾
(72)【発明者】
【氏名】菊地 貴裕
【テーマコード(参考)】
5H590
【Fターム(参考)】
5H590AA01
5H590AA03
5H590AB03
5H590CA07
5H590CA23
5H590CD01
5H590CD03
5H590CE04
5H590CE05
5H590FA01
5H590FB07
5H590GB05
5H590HA02
5H590HA04
5H590HA27
5H590JA01
5H590JA08
(57)【要約】
【課題】動力源の過大な出力による損傷から発電システムを保護する発電システム制御方法及び発電システム制御装置を提供する。
【解決手段】発電システム制御方法は、エンジン17と、発電機18と、動力伝達機構19と、を有する発電システム12を制御する発電システム制御方法である。この発電システム制御方法においては、発電機トルク指令値T
G2
*と、発電機18の回転状態を表す回転数ω
Gと、に基づいて、動力伝達機構19で生じるダンパトルクT
dmpの推定値であるダンパトルク推定値T
dmp^が演算される。そして、ダンパトルク推定値T
dmp^に基づいて、エンジン17、発電機18、または、エンジン17及び発電機18の両方の出力を制限する出力制限として、第1保護制御及び/または第2保護制御が実行される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を発生する動力源と、前記動力によって発電する発電機と、前記動力を前記発電機に伝達する動力伝達機構と、を有する発電システムを制御する発電システム制御方法であって、
前記発電機が生ずべきトルクを指令する発電機トルク指令値と、前記発電機の回転状態と、に基づいて、前記動力伝達機構で生じる伝達機構トルクの推定値である伝達機構トルク推定値を演算し、
前記伝達機構トルク推定値に基づいて、前記動力源、前記発電機、または、前記動力源及び前記発電機の両方の出力を制限する出力制限を実行する、
発電システム制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発電システム制御方法であって、
前記伝達機構トルク推定値に基づいて、少なくとも前記動力源に対して前記出力制限を実行する、
発電システム制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発電システム制御方法であって、
前記伝達機構トルク推定値に基づいて、少なくとも前記発電機に対して前記出力制限を実行する、
発電システム制御方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の発電システム制御方法であって、
前記伝達機構トルク推定値は、前記発電機トルク指令値によって定まる前記発電機のトルクと、前記発電機の実際の回転数によって定まるトルクと、の偏差によって算出される、
発電システム制御方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発電システム制御方法であって、
前記出力制限は、前記伝達機構トルク推定値が予め定める閾値以上となったときに実行される、
発電システム制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の発電システム制御方法であって、
前記伝達機構トルク推定値が前記閾値以上になったか否かの判定は、予め定める所定時間内における前記伝達機構トルク推定値の最大値と前記閾値とを比較することによって行われる、
発電システム制御方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の発電システム制御方法であって、
前記閾値は、前記動力伝達機構が線形に変形可能な前記伝達機構トルクの限界値に設定される、
発電システム制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の発電システム制御方法であって、
前記動力伝達機構の製造誤差によって前記限界値がばらつくときに、前記閾値は、前記製造誤差によるばらつきの範囲における下限値に設定される、
発電システム制御方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の発電システム制御方法であって、
前記出力制限によって前記動力源及び前記発電機の両方の出力が制限されるときに、前記動力源のトルクが、前記発電機のトルクである発電機トルクよりも小さくなるように、前記出力制限が実行される、
発電システム制御方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の発電システム制御方法であって、
前記出力制限によって前記動力源及び前記発電機の両方の出力が制限されるときに、前記動力源に対する前記出力制限を実行した後、前記発電機に対する前記出力制限が補助的に実行される、
発電システム制御方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の発電システム制御方法であって、
前記動力伝達機構は、前記動力の変化を緩和して前記発電機に伝達するダンパである、
発電システム制御方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の発電システム制御方法であって、
前記動力伝達機構は、ねじれによって、伝達される前記動力の変動を緩和するねじりダンパであり、
前記伝達機構トルク推定値を用いて、前記ねじりダンパのねじり角の推定値であるねじり角推定値を演算し、
前記出力制限は、前記ねじり角推定値に基づいて行われる、
発電システム制御方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の発電システム制御方法であって、
前記発電システムは車両に搭載され、
前記出力制限が開始されると、前記出力制限は前記車両が停止または停車するまで継続される、
発電システム制御方法。
【請求項14】
動力を発生する動力源と、前記動力によって発電する発電機と、前記動力を前記発電機に伝達する動力伝達機構と、を有する発電システムを制御する発電システム制御装置であって、
前記発電機が生ずべきトルクを指令する発電機トルク指令値と、前記発電機の回転状態と、に基づいて、前記動力伝達機構が伝達するトルクの推定値である伝達機構トルク推定値を演算し、
前記伝達機構トルク推定値に基づいて、前記動力源、前記発電機、または、前記動力源及び前記発電機の両方の出力を制限する出力制限を実行する、
発電システム制御装置。
【請求項15】
請求項14に記載の発電システム制御装置であって、
前記発電機の動作を制御する発電機コントローラと、
前記動力源の動作を制御する動力源コントローラと、
を備え、
前記発電機コントローラが、前記伝達機構トルク推定値を演算し、
前記動力源コントローラが、前記発電機コントローラによって演算された前記伝達機構トルク推定値を用いて、前記動力源の出力を制限する、
発電システム制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源が発生させる動力で発電機を駆動することによって発電する発電システムの制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、産業プラント等に用いる大型の発電システムに関し、原動機と発電機を、減速機及び摩擦クラッチによって接続することが記載されている。この発電システムでは、摩擦クラッチがスリップすることによって、動力伝達系や原動機が過大なトルク入力から保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、発電機の動力源である原動機を、摩擦クラッチを介して発電機に接続すると、発電システムが大型化するという問題がある。例えば電動車両等に搭載する発電システムは小型化することが求められており、動力源と発電機がほぼ直結される構成が採用される場合がある。そして、こうした小型の発電システムでは、動力源の過大な出力に対して発電システムが保護されない。このため、動力源と電動機を接続する動力伝達機構等が損傷するおそれがある。
【0005】
本発明は、発電システムを巨大化させる構成を要することなく、動力源の過大な出力による損傷から発電システムを保護する発電システム制御方法及び発電システム制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、動力を発生する動力源と、動力によって発電する発電機と、動力を発電機に伝達する動力伝達機構と、を有する発電システムを制御する発電システム制御方法である。この発電システム制御方法では、発電機が生ずべきトルクを指令する発電機トルク指令値と、発電機の回転状態と、に基づいて、動力伝達機構で生じるトルクの推定値である伝達機構トルク推定値が演算される。そして、伝達機構トルク推定値に基づいて、動力源、発電機、または、動力源及び発電機の両方の出力を制限する出力制限が実行される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発電システムを巨大化させる構成を要することなく、動力源等の過大な出力による損傷から発電システムを保護する発電システム制御方法及び発電システム制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、電動車両の概略構成を示す説明図である。
【
図2】
図2は、動力伝達機構の動力伝達特性を示すグラフである。
【
図3】
図3は、発電機コントローラの構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、発電機トルク指令値演算部の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、保護制御部の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、エンジンコントローラの構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、発電システム制御方法の作用を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、過大トルク検出におけるダンパトルク推定値の具体的な評価方法を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、エンジントルクが制限される第1保護制御の作用を示すタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、発電機トルクが制限される第2保護制御の作用を示すタイミングチャートである。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る保護制御部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、電動車両100の概略構成を示す説明図である。
図1に示すように、電動車両100は、バッテリ10の電力によって駆動する車両であり、駆動モータ11及び発電システム12を備える。
【0011】
バッテリ10は、電動車両100の各部を駆動するための電力を蓄積する。バッテリ10は充電可能である。本実施形態では、バッテリ10は、少なくとも発電システム12が発電した電力によって充電される。本実施形態では、バッテリ10は直流電源である。バッテリ10が出力する直流電圧(以下、バッテリ電圧Vdcという)は検出可能である。
【0012】
駆動モータ11は、電動車両100を駆動する駆動用の電動機であり、バッテリ10の電力を用いて電動車両100の駆動力を発生する。本実施形態においては、駆動モータ11は三相交流モータである。
【0013】
駆動モータ11は、減速機13等を介してドライブシャフト14と接続される。そして、ドライブシャフト14には駆動輪15が接続される。したがって、駆動モータ11が、その出力軸に発生するトルクは、減速機13等を介して駆動輪15に電動車両100の駆動力を発生させる。また、電動車両100が減速するときには、いわゆる回生制御によって、駆動モータ11は電動車両100の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する。回生制御時に得られる電力の一部または全部は、バッテリ10に充電可能である。
【0014】
駆動モータ11は、駆動インバータ16を介してバッテリ10と接続される。駆動インバータ16は、駆動モータ11用のインバータであり、バッテリ10が出力する直流電力を交流電力に変換して駆動モータ11に供給する。また、回生制御時には、駆動インバータ16は、駆動モータ11で発生する交流電力を直流電力に変換する。
【0015】
発電システム12は、バッテリ10を充電する電力を発電するシステムである。すなわち、本実施形態の電動車両100は、いわゆるシリーズハイブリッド方式の電動車両である。発電システム12は、エンジン17、発電機18、及び、動力伝達機構19を備える。
【0016】
エンジン17は、いわゆる内燃機関であり、発電システム12の動力源である。すなわち、発電機18は、エンジン17が発生させる動力によって発電する。なお、本実施形態では、発電システム12は、動力源として内燃機関であるエンジン17を用いているが、エンジン17は発電機18を駆動し得る他の態様の動力源に置換してもよい。
【0017】
発電機18は、エンジン17の動力で発電する。すなわち、発電機18は、エンジン17の駆動力によって回転することにより、発電をする。発電機18は、発電機インバータ20を介してバッテリ10と接続しており、発電によって生じた電力はバッテリ10に充電される。発電機インバータ20は、発電機18で発生する交流電力を直流電力に変換して、バッテリ10に供給する。なお、発電機インバータ20は、バッテリ10の直流電力を交流電力に変換して発電機18に供給し、発電機18を力行回転させることができる。これにより、エンジン17の始動するときには、エンジン17がクランキングされる。また、必要に応じて発電機18を力行回転させ、エンジン17を空回しすることで、バッテリ10の電力が消費される。
【0018】
本実施形態では、発電機18は、U相,V相,及びW相を有する三相交流発電機である。発電機18のU相を流れる電流の検出値はU相電流Iuである。同様に、発電機18のV相を流れる電流の検出値はV相電流Ivであり、発電機18のW相を流れる電流の検出値はW相電流Iwである。以下では、発電機18の各相に流れる電流の検出値を三相電流と総称する場合がある。発電機18のd軸電流の検出値はd軸電流Idであり、発電機18のq軸電流の検出値はq軸電流Iqである。d軸電流Id及びq軸電流Iqは、三相電流を変換することによって検出される。以下では、発電機18のd軸電流Id及びq軸電流Iqをdq軸電流Id,Iqと総称する場合がある。この他、発電機18の回転数の検出値(以下、単に回転数ωGという)は検出可能である。
【0019】
動力伝達機構19は、エンジン17が発生させる動力を発電機18に伝達する機構である。本実施形態においては、動力伝達機構19は、いわゆるダンパであり、エンジン17が発生させる動力を伝達する他、エンジン17が発生させる動力の変化を緩和して発電機18に伝達する。特に、本実施形態の動力伝達機構19は、いわゆるねじりダンパであり、エンジン17の出力軸と発電機18の入力軸を直結し、伝達される動力の変動を機械的なねじれによって緩和する。すなわち、ねじりダンパである動力伝達機構19は、エンジン17から入力される動力、及び/または、発電のために発電機18に生じさせるトルク(以下、発電機トルクTGという(図示しない))に応じてねじれることにより、伝達する動力の変動を緩和する。なお、本実施形態では、他の物(部材または機構等)を介さず直接的に、任意に切断できない状態で機械的に結合することを直結という。
【0020】
図2は、動力伝達機構19の動力伝達特性(ねじりバネ特性)を示すグラフである。
図2に示すように、動力伝達機構19は、動力を伝達するときにねじれると、このねじれに応じたトルク(以下、ダンパトルクT
dmpという)が発生する。動力伝達機構19のねじれの角度(以下、ねじり角θ
TWという)とするときに、ねじり角θ
TWが所定範囲に収まる間については、ダンパトルクT
dmpはねじり角θ
TWに比例する。すなわち、ねじり角θ
TWが所定範囲に収まっていれば、動力伝達機構19は線形に変形可能である。以下では、入力される動力に対して非線形な応答を始める限界のねじり角θ
TWを線形限界ねじり角θ
TWlimとし、ねじり角θ
TWが線形限界ねじり角θ
TWlimに到達したときのダンパトルクT
dmpを線形限界ダンパトルクT
dmplimとする。したがって、動力伝達機構19が線形に変形可能な「所定範囲」は、ねじり角θ
TWに関しては±θ
TWlimの範囲であり、ダンパトルクT
dmpに関しては±T
dmplimの範囲である。線形限界ねじり角θ
TWlim及び線形限界ダンパトルクT
dmplimは、動力伝達機構19の材料や構造等によって予め定まる。
【0021】
また、線形限界ダンパトルクTdmplimは、動力伝達機構19がダンパとして機能するための許容し得るダンパトルクTdmpの限界値である。このため、線形限界ダンパトルクTdmplimは許容ダンパトルクということもできる。
【0022】
動力伝達機構19に入力される動力によって生じるダンパトルクTdmpが上記の所定範囲内に収まる場合、動力伝達機構19はその動力の変動を緩和して伝達できる。動力伝達機構19に入力される動力によって生じるダンパトルクTdmpが上記の所定範囲内に収まらない場合、動力伝達機構19はいわゆる底付き状態となる。底付き状態とは、入力される動力の変動を緩和できない状態をいう。動力伝達機構19が底付き状態になると、入力される動力によって、動力伝達機構19等に線形限界ねじり角θTWlimを超えて変形させようとする力が生じる。その結果、動力伝達機構19、エンジン17、または、発電機18、もしくはこれらの接合部分等が損傷してしまうおそれがある。したがって、本実施形態においては、ダンパトルクTdmpが上記の所定範囲内に収まるように、エンジン17、発電機18、または、これらの両方の出力が制限される出力制限が実行される。出力制限の具体的な態様については、詳細を後述する。
【0023】
電動車両100は、上記の発電システム12等の他に、走行等の制御及び発電システム12の制御のために、各種のコントローラを備える(
図1参照)。具体的には、
図1に示すように、システムコントローラ21、駆動モータコントローラ22、バッテリコントローラ23、発電機コントローラ24、及び、エンジンコントローラ25を備える。また、本実施形態においては、システムコントローラ21は発電制御部26を備える。
【0024】
システムコントローラ21は、車両情報を用いて電動車両100の各部を統括的に制御する上位の制御部である。車両情報とは、電動車両100を構成する各部の動作状態等を表すパラメータである。例えば、運転者によるアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Apo、車速V、及び、電動車両100がいる路面の勾配等、電動車両100の駆動状態を表すパラメータは車両情報である。また、バッテリ10のSOC(State Of Charge)、バッテリ10の入力可能パワー及び出力可能パワー、並びに、発電システム12による発電電力等、電動車両100の内部状態を表すパラメータも車両情報である。例えば、発電機18の回転数ωG、d軸電流Id、及び、q軸電流Iq等は車両情報である。これらは発電機18の回転状態を表すパラメータの例である。バッテリ電圧Vdcは車両情報である。この他、エンジン17の実際のトルク(以下、エンジントルクTEという)や実際の発電機トルクTGなど、センサ等を用いて直接的に取得され、または、車両情報を用いた演算によって間接的に取得される情報は、車両情報に含まれる。システムコントローラ21は、図示しないセンサや上記各種のコントローラ等を用いて、これら各種の車両情報を必要に応じて取得できる。
【0025】
システムコントローラ21は、1または複数の車両情報を用いて、駆動トルク指令値を演算する。駆動トルク指令値は、駆動モータ11が出力すべき目標のトルク(以下、駆動トルクという)を表す指令値である。したがって、システムコントローラ21は、電動車両100の駆動に関し、駆動トルク指令値を演算する駆動トルク指令値演算部として動作する。駆動トルク指令値は、駆動モータコントローラ22に入力される。本実施形態においては、システムコントローラ21は、アクセル開度Apo、車速V、バッテリ10のSOC,入力可能パワー,出力可能パワー、発電機18の発電電力等に応じて、駆動トルク指令値を演算する。
【0026】
システムコントローラ21は、1または複数の車両情報を用いて、目標発電電力を演算する。目標発電電力は、バッテリ10への充電、及び/または、駆動モータ11に供給するために、発電システム12によって発電すべき電力の目標値である。したがって、システムコントローラ21は、電動車両100における発電に関し、目標発電電力を演算する目標発電電力演算部として動作する。演算された目標発電電力は、発電制御部26に入力される。
【0027】
発電制御部26は、目標発電電力に基づいて、発電システム12による発電を制御する。具体的には、発電制御部26は、目標発電電力に基づいて、発電機回転数指令値ω
G
*及びエンジントルク指令値T
E1
*を演算し、これらに基づいて発電システム12を動作させる。発電機回転数指令値ω
G
*は、発電システム12によって目標発電電力の発電を実現するために、発電機18が維持すべき回転数を表す指令値(目標値)である。発電機回転数指令値ω
G
*は、発電機コントローラ24に入力される。エンジントルク指令値T
E1
*は、発電システム12によって目標発電電力を実現するために、エンジン17が出力すべきトルクを表す指令値(目標値)である。エンジントルク指令値T
E1
*は、エンジンコントローラ25に入力される。また、発電制御部26は、発電機18の回転数ω
Gを監視する。そして、回転数ω
Gが所定の回転数閾値TH
rs(
図10参照)を超え、発電機18が過回転に至ったときには、安全のために、発電制御部26は発電システム12による発電を停止させる。
【0028】
なお、本実施形態では、発電制御部26はシステムコントローラ21に設けられているが、発電制御部26は、発電機コントローラ24やエンジンコントローラ25と同様に、システムコントローラ21から独立して設けられていてもよい。
【0029】
駆動モータコントローラ22、バッテリコントローラ23、発電機コントローラ24、及び、エンジンコントローラ25は、それぞれシステムコントローラ21の指令に基づいて、電動車両100の各部を個別に制御する下位の制御部である。
【0030】
駆動モータコントローラ22は、駆動トルク指令値に基づき、駆動モータ11の回転数や電圧等の状態に応じて駆動インバータ16をスイッチングする。これにより、駆動モータコントローラ22は、システムコントローラ21から指令された駆動トルクを発生させるように、駆動モータ11を動作させる。
【0031】
バッテリコントローラ23は、バッテリ10が放電または充電する電流や電圧に基づいて、SOCを計測する。計測されたSOCはシステムコントローラ21に出力される。また、バッテリコントローラ23は、バッテリ10の温度、内部抵抗、及び/または、SOCに応じて、バッテリ10の入力可能パワーや出力可能パワーを演算する。入力可能パワーや出力可能パワーの演算結果は、システムコントローラ21に出力される。
【0032】
発電機コントローラ24は、発電機18の動作を制御する。より具体的には、発電機コントローラ24は、発電機回転数指令値ωG
*に基づき、発電機18の回転数や電圧等の状態に応じて発電機インバータ20をスイッチングする。これにより、発電機コントローラ24は、目標発電電力の発電を実現するための回転数で発電機18を動作させる。本実施形態においては、発電機コントローラ24は、発電システム12を保護するための制御(以下、保護制御という)を実行する構成を含む。発電機コントローラ24の構成については、詳細を後述する。
【0033】
エンジンコントローラ25は、動力源であるエンジン17の動作を制御する動力源コントローラである。より具体的には、エンジンコントローラ25は、エンジントルク指令値TE1
*に基づき、エンジン17の回転数や温度等の信号に応じてエンジン17のスロットル、点火時期、及び/または、燃料噴射量を調整する。これにより、エンジンコントローラ25は、エンジン17によって、目標発電電力の発電を実現する動力を発生させる。エンジン17の回転数や温度等の信号は、図示しないセンサ等により適宜取得される。本実施形態においては、エンジンコントローラ25は、発電システム12を保護するための制御を実行する構成を含む。エンジンコントローラ25の構成については、詳細を後述する。
【0034】
上記のシステムコントローラ21、駆動モータコントローラ22、バッテリコントローラ23、発電機コントローラ24、及び、エンジンコントローラ25は、1または複数のコンピュータで構成される。すなわち、これらのコントローラは、各々に、部分的に、または、全体として、例えば、中央演算装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)等を含む。また、これらのコントローラは、上記の各種制御を予め定められた所定の制御周期で定期的に実行するようにプログラムされている。
【0035】
なお、本実施形態では、上記の各種コントローラを別個に説明しているが、これらのコントローラのうち一部または全部が一体的に構成され得る。例えば、上記の各種コントローラは、全体として1つのコンピュータで実装することができる。また、例えば、発電機コントローラ24とエンジンコントローラ25を1つのコンピュータで実装する等、上記の各種コントローラのうちの一部を1つのコンピュータで実装してもよい。すなわち、上記の各種コントローラの区分は、説明の便宜のためのものに過ぎない。
【0036】
上記の各種コントローラのうち、発電機コントローラ24、エンジンコントローラ25、及び、発電制御部26は、特に発電システム12の制御に関連するコントローラである。したがって、発電機コントローラ24、エンジンコントローラ25、及び、発電制御部26は、発電システム12を制御する発電システム制御装置101を構成する。
【0037】
[発電機コントローラの構成]
図3は、発電機コントローラ24の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、発電機コントローラ24は、発電機トルク指令値演算部31、電流指令値演算部32、電流制御部33、非干渉化制御部34、電流変換器35、及び、電圧変換器36を備える。
【0038】
発電機トルク指令値演算部31は、発電機回転数指令値ωG
*と回転数ωGに応じて、発電機18のトルクを指令する発電機トルク指令値TG2
*を演算する。発電機トルク指令値TG2
*は、発電のために発電機18が生ずべき発電機トルクTGを指令する最終的な指令値である。したがって、発電システム12を保護するために発電機トルクTGを制限するときには、発電機トルク指令値TG2
*は、その調整後の発電機トルクTGを表す。発電機トルク指令値TG2
*は、電流指令値演算部32に入力される。なお、回転数ωGは、発電機18に設けられた回転数センサ37によって検出される。
【0039】
電流指令値演算部32は、発電機トルク指令値TG2
*、回転数ωG、バッテリ電圧Vdcを用いて、発電機18のd軸電流指令値Id
*及びq軸電流指令値Iq
*を演算する。d軸電流指令値Id
*は、発電機トルク指令値TG2
*に応じた発電機トルクTGを実現するために、発電機18のd軸電流Idを指令する指令値である。同様に、q軸電流指令値Iq
*は、発電機トルクTGを実現するために、発電機18のq軸電流Iqを指令する指令値である。d軸電流指令値Id
*及びq軸電流指令値Iq
*は電流制御部33に入力される。
【0040】
電流制御部33は、発電機18をいわゆる電流制御によって制御する。具体的には、電流制御部33は、d軸電流指令値Id
*、q軸電流指令値Iq
*、d軸電流Id、q軸電流Iq、及び、回転数ωGを用いて、発電機18のd軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*を演算する。d軸電圧指令値Vd
*は、発電機トルクTGを実現するために、発電機18のd軸電圧Vdを指令する指令値である。同様に、q軸電圧指令値Vq
*は、発電機トルクTGを実現するために、発電機18のq軸電圧Vqを指令する指令値である。d軸電圧指令値Vd
*は、減算部38によってd軸電圧に対する非干渉化電圧が減算された後、電圧変換器36に入力される。d軸電圧に対する非干渉化電圧が減算されたd軸電圧指令値Vd
*は、発電機18に対する最終的なd軸電圧指令値(以下、d軸最終電圧指令値V′d
*という)である。q軸電圧指令値Vq
*は、減算部39によってq軸電圧に対する非干渉化電圧が減算された後、電圧変換器36に入力される。q軸電圧に対する非干渉化電圧が減算されたq軸電圧指令値Vq
*は、発電機18に対する最終的なq軸電圧指令値(以下、q軸最終電圧指令値V′q
*という)である。以下では、d軸最終電圧指令値V′d
*及びq軸最終電圧指令値V′q
*をdq軸最終電圧指令値V′d
*,V′q
*と総称する場合がある。
【0041】
非干渉化制御部34は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを用いて、非干渉化電圧制御電圧を演算する。非干渉化とは、d軸とq軸間の干渉による電圧降下を低減することをいう。非干渉化電圧とは、d軸電圧及びq軸電圧を非干渉化するための調整値であり、d軸及びq軸についてそれぞれ演算される。これらの非干渉化電圧は、前述の通り、減算部38,39においてそれぞれd軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*から減算される。
【0042】
電流変換器35は、三相電流Iu,Iv,Iwをdq軸電流Id,Iqに変換する。三相電流Iu,Iv,Iwは、発電機インバータ20と発電機18との間に設けられた電流センサ40によって検出される。本実施形態では、U相電流IuとV相電流Ivが検出され、電流変換器35はW相電流Iwを演算によって求める。dq軸電流Id,Iqは、前述の通り、電流指令値演算部32及び非干渉化制御部34に入力される。
【0043】
電圧変換器36は、dq軸最終電圧指令値V′d
*,V′q
*から、UVW各相の電圧指令値(三相電圧指令値)Vu
*,Vv
*,Vw
*を演算する。これらの三相電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*は、発電機インバータ20に入力される。そして、発電機インバータ20はこれらに応じて、発電機18の各相に、それぞれU相電圧Vu、V相電圧Vv、及び、W相電圧Vwを印加する。その結果、発電機18は、発電機トルク指令値TG2
*に応じた発電機トルクTG2で駆動される。
【0044】
図4は、発電機トルク指令値演算部31の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、発電機トルク指令値演算部31は、回転数制御部41及び保護制御部42を備える。
【0045】
回転数制御部41は、発電機回転数指令値ωG
*に発電機18の実際の回転数ωGが追従するように、発電機18の実際の回転数ωGと発電機回転数指令値ωG
*に基づいて発電機トルク指令値TG1
*を演算する。発電機トルク指令値TG1
*は、発電機回転数指令値ωG
*を実現させるために、発電機18で生じさせるべきトルクを指令する指令値である。但し、回転数制御部41が演算する発電機トルク指令値TG1
*は、発電システム12の保護を考慮せずに演算される理想値または暫定値である。発電機トルク指令値TG1
*は、保護制御部42に入力される。回転数制御部41は、例えばPI制御(Proportional-Integral制御)により、発電機トルク指令値TG1
*を演算する。
【0046】
なお、回転数制御部41が演算する上記の発電機トルク指令値TG1
*と、発電機トルク指令値演算部31が最終的に出力する前述の発電機トルク指令値TG2
*との関係でいえば、発電機トルク指令値TG1
*は第1の発電機トルク指令値である。また、発電機トルク指令値TG2
*は第2の発電機トルク指令値である。また、発電機トルク指令値TG1
*は、回転数制御によって決定されるトルク指令値であるから、回転数制御トルク指令値といってもよい。
【0047】
保護制御部42は、回転数制御部41が演算した発電機トルク指令値T
G1
*と、発電機18の実際の回転数ω
Gと、に基づいて、発電機トルク指令値T
G2
*を演算する。この発電機トルク指令値T
G2
*が、発電機トルク指令値演算部31が出力する最終的な指令値となる。発電機トルク指令値T
G2
*は、制御対象43に伝達される。これにより、発電機18は、発電機トルク指令値T
G2
*に応じた所定の発電機トルクT
Gで動作する。制御対象43は、電流指令値演算部32から発電機18までの構成である(
図3参照)。
【0048】
制御対象43の全体としてのトルク伝達特性44は、所定の伝達特性Gp(s)で表される。但し、この伝達特性Gp(s)は、動力伝達機構19から入力されるダンパトルクTdmpを除いた理想的な伝達特性を表す。したがって、伝達特性Gp(s)は、発電機コントローラ24、発電機インバータ20、及び、発電機18の具体的構成によって予め定まる。また、動力伝達機構19でダンパトルクTdmpが生じたときには、制御対象43に伝達される発電機トルク指令値TG2
*に対して、ダンパトルクTdmpが外乱として付加される。なお、「s」はラプラス演算子である。
【0049】
保護制御部42は、上記のように最終的な発電機トルク指令値TG2
*を演算するときに、必要に応じて、発電システム12を保護するための制限を課す。すなわち、最終的な発電機トルク指令値TG2
*は、発電システム12を保護するために発電機トルクTGを制限する必要があるときに、発電機トルク指令値TG1
*を補正することにより、最終的な発電機トルク指令値TG2
*を演算する。一方、発電システム12を保護するために発電機トルクTGを制限する必要がないときには、保護制御部42は、回転数制御部41が演算した発電機トルク指令値TG1
*をそのまま最終的な発電機トルク指令値TG2
*として出力する。これにより、保護制御部42は発電システム12を保護する。
【0050】
また、保護制御部42は、発電システム12を保護するために発電機トルクTGを制限しないときでも、必要に応じて、別の方法で発電システム12を保護する。この発電機トルクTGを制限しないときの保護制御では、エンジントルクTEが制限される。エンジントルクTEが制限される保護制御を第1保護制御といい、発電機トルクTGが制限される保護制御を第2保護制御という。
【0051】
本実施形態では、発電システム12を保護する必要があるときには、まず、エンジントルクTEが制限される第1保護制御が実行される。その後、さらに発電機トルクTGを制限する必要があるときに第2保護制御が実行される。すなわち、本実施形態の発電システム12の保護制御において、発電機トルクTGが制限される第2保護制御は補助的な保護制御である。
【0052】
[発電システムの保護制御]
以下、保護制御部42及びエンジンコントローラ25の具体的構成に関して、特に保護制御に関連する部分を詳述する。
【0053】
図5は、保護制御部42の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、保護制御部42は、伝達機構トルク推定部51、過大トルク検出部52、及び、発電機トルク制限演算部53を備える。
【0054】
伝達機構トルク推定部51は、発電機トルクTGに対する外乱オブザーバであり、発電機トルクTGに作用する外乱を推定する。発電システム12では、動力伝達機構19で生じるトルク(以下、伝達機構トルクという)は、伝達特性Gp(s)に予め組み込まれない。これは、伝達機構トルクが、入力される動力に応じて変動し、また、発電システム12の運転状況に応じた異なる振る舞いをするからである。このため、発電システム12においては、伝達機構トルクが、発電機トルクTGに対して外乱として作用する。そして、本実施形態では、特に動力伝達機構19がダンパであるから、ダンパトルクTdmpが伝達機構トルクであり、発電機トルクTGに対して外乱として作用する。したがって、本実施形態においては、伝達機構トルク推定部51は、ダンパトルクTdmpを推定する。以下、外乱として作用するダンパトルクTdmpの推定値をダンパトルク推定値Tdmp^という。
【0055】
より具体的には、伝達機構トルク推定部51は、ローパスフィルタ54、演算部55、及び、減算部56を備える。
【0056】
ローパスフィルタ54は、発電機トルク制限演算部53が出力する発電機トルク指令値TG2
*を取得し、これを平滑化する。ローパスフィルタ54で処理された発電機トルク指令値TG2
*は、減算部56に入力される。なお、ローパスフィルタ54の特性は、伝達特性H(s)で表される。
【0057】
演算部55は、発電機18の回転数ωGを用いて、トルク指令値相当量を逆算する。演算部55は、ローパスフィルタ(H(s))と伝達特性Gp(s)の逆特性とを用いて、伝達特性H(s)/Gp(s)で表される。演算部55が出力するトルク指令値相当量は、減算部56に入力される。
【0058】
減算部56は、回転数ωGから逆算されたトルク指令値相当量と、平滑化された発電機トルク指令値TG2
*との偏差を演算する。この偏差は、発電機トルク指令値TG2
*が発電機18に伝達する過程で付加される外乱を表す。そして、この外乱は、前述のようにダンパトルクTdmpである。したがって、減算部56が出力する上記の偏差は、ダンパトルクTdmpの推定値、すなわちダンパトルク推定値Tdmp^である。ダンパトルク推定値Tdmp^は、過大トルク検出部52及び発電機トルク制限演算部53に入力される。なお、本実施形態では、減算部56は、トルク指令値相当量から発電機トルク指令値TG2
*を減算することにより、ダンパトルク推定値Tdmp^を演算する。
【0059】
過大トルク検出部52は、ダンパトルク推定値T
dmp^を用いて、過大なダンパトルクT
dmpを検出する。ダンパトルクT
dmpに関して「過大」とは、発電システム12の一部または全部を損傷するおそれがあることをいう。すなわち、エンジン17、ダンパトルクT
dmpが許容値を超え、動力伝達機構19、発電機18、及び/または、これらの接続部等を損傷させ得るときには、そのダンパトルクT
dmpは過大なダンパトルクT
dmpである。例えば、本実施形態では、線形限界ダンパトルクT
dmplim(
図2参照)を超える大きさを有するダンパトルクT
dmpは、過大なダンパトルクT
dmpとなり得る。但し、一時的に、または、瞬間的に、ダンパトルクT
dmpが線形限界ダンパトルクT
dmplimを超えたとしても、極端に大きなダンパトルクT
dmpでない限り、発電システム12が損傷するおそれは殆どない。また、ダンパトルクT
dmpは、その性質上、振動的な振る舞いをするので、発電システム12が継続的かつ正常に稼働するときでも、ダンパトルクT
dmpは瞬間的に線形限界ダンパトルクT
dmplimに到達する場合がある。したがって、過大トルク検出部52は、ダンパトルク推定値T
dmp^の瞬時値に依らず、ダンパトルク推定値T
dmp^の変遷に基づく継続的または持続的な評価によって、過大なダンパトルクT
dmpを検出する。
【0060】
過大トルク検出部52は、ダンパトルク推定値Tdmp^に基づいて過大なダンパトルクTdmpの発生を検出するための所定のダンパトルク値(以下、ダンパトルク閾値THdmpという)を保有する。そして、ダンパトルク推定値Tdmp^が継続的にダンパトルク閾値THdmp以上になったと評価できるときに、または、ダンパトルク推定値Tdmp^が継続的にダンパトルク閾値THdmp以上になると予測されるときに、過大トルク検出部52は過大なダンパトルクTdmpを検出する。本実施形態においては、ダンパトルク推定値Tdmp^が継続的にダンパトルク閾値THdmp以上になったことをもって、過大トルク検出部52は過大なダンパトルクTdmpを検出する。過大なダンパトルクTdmpの検出するためのダンパトルク推定値Tdmp^の評価方法については、詳細を後述する。過大トルク検出部52は、過大トルク検出フラグFETを上位コントローラ等に出力する。そして、過大トルク検出フラグFETに応じて発電システム12の保護制御が実行される。過大トルク検出フラグFETは、過大なダンパトルクTdmpが検出されたこと、または、過大なダンパトルクTdmpを検出されていないことを表す。
【0061】
本実施形態においては、過大トルク検出フラグFETは、上位のコントローラであるシステムコントローラ21(発電制御部26)に入力される他、エンジンコントローラ25に入力される。また、過大トルク検出フラグFETは、例えば、過大なダンパトルクTdmpが検出されないときに「0」であり、過大なダンパトルクTdmpが検出されたときに「1」となるフラグである。
【0062】
なお、過大トルク検出部52で行われる上記の過大トルク検出は、動力伝達機構19の継続的な底付き状態を検出することと実質的に同義である。
【0063】
また、ダンパトルク閾値THdmpは、実験またはシミュレーション等に基づいて適合により予め定められる。典型的には、ダンパトルク閾値THdmpは線形限界ダンパトルクTdmplimである。本実施形態のダンパトルク閾値THdmpは、線形限界ダンパトルクTdmplimと等しい。但し、動力伝達機構19には製造におけるばらつき、すなわち製造誤差あるいは個体差がある。このため、製造ばらつきに応じて線形限界ダンパトルクTdmplimにもばらつきがある。したがって、線形限界ダンパトルクTdmplimの製造ばらつきが±TMVであるときに、本実施形態のダンパトルク閾値THdmpは、このばらつきを考慮した下限値(Tdmplim-TMV)に設定される。これにより、本実施形態の保護制御では、動力伝達機構19及び線形限界ダンパトルクTdmplimの個体差に依らず、発電システム12が保護される。
【0064】
発電機トルク制限演算部53は、回転数制御部41から発電機トルク指令値TG1
*を取得し、必要に応じてこれを制限する発電機トルク制限演算を実行する。発電機トルク制限演算は、ダンパトルクTdmpが過大なダンパトルクTdmpとならない範囲(以下、正常範囲という)に継続的に収まるように、発電機トルク指令値TG1
*を補正することによって制限する演算である。発電機トルク制限演算で補正された発電機トルク指令値TG1
*は、最終的な発電機トルク指令値TG2
*として出力される。そして、補正後の最終的な発電機トルク指令値TG2
*に応じて発電機18が駆動されると、相応に発電機トルクTGが制限され、その結果、ダンパトルクTdmpは正常範囲に収まる。すなわち、発電機トルクTGを制限する第1保護制御によって、発電システム12が、過大なダンパトルクTdmpによる損傷から保護される。
【0065】
本実施形態においては、発電機トルク制限演算は、補助的な第2保護制御のための演算である。したがって、発電機トルク制限演算部53は、過大なダンパトルクTdmpが検出され、かつ、エンジントルクTEを制限する第1保護制御が実行された後、さらに発電機トルクTGを制限する必要があるときに、発電機トルク制限演算を実行する。
【0066】
なお、発電機トルク制限演算部53は、第1保護制御に加えて、さらに発電機トルクT
Gを制限する必要があるか否かを、第1保護制御の実行開始後の経過時間によって判断する。すなわち、発電機トルク制限演算部53は、第1保護制御の実行開始から、一定の時間を経過してもなお過大なダンパトルクT
dmpが検出されているときに、発電機トルク制限演算を実行する。第1保護制御の実行開始後の経過時間と対比する閾値である「一定の時間」は、発電システム12が過大なダンパトルクT
dmpに耐久し得る時間を考慮して、実験またはシミュレーション等に基づき、適合により予め定められる。以下、第1保護制御の実行開始後の経過時間と対比する「一定の時間」を経過時間閾値τ(
図10参照)という。
【0067】
一方、過大なダンパトルクTdmpが検出されていないとき、または、第1保護制御によってダンパトルクTdmpが正常範囲に収まっているときには、発電機トルク制限演算部53は発電に第2保護制御に係るトルク制限演算を実行しない。すなわち、これらの場合には、発電機トルク制限演算部53は、回転数制御部41から取得した発電機トルク指令値TG1
*に対して何ら制限を課さず、そのまま最終的な発電機トルク指令値TG2
*として出力する。
【0068】
また、正常範囲は、発電システム12を過大なダンパトルクTdmpの継続による損傷から保護する観点において、許容し得るダンパトルクTdmpの範囲であり、実験またはシミュレーション等に基づいて適合により予め定められる。例えば、結果として、実際の発電機トルクTGが、回転数制御部41が演算した発電機トルク指令値TG1
*に対して±数パーセント(例えば±5%)の範囲に収まるときに、ダンパトルクTdmpは正常範囲に収まる。
【0069】
したがって、本実施形態の発電機トルク制限演算においては、実際の発電機トルクTGと、発電機トルク指令値TG1
*によって定まる正常範囲内の発電機トルク(以下、正常発電機トルクTG1という)と、の差分ΔTG(図示しない)が演算される。そして、この差分ΔTGに基づいて、発電機トルク指令値TG1
*の制限値が決定される。以下では、この発電機トルク指令値TG1
*に対する制限値を、発電機トルク制限値LGという。
【0070】
発電機トルク制限値LGは、差分ΔTGに応じて変動するように演算によって決定される。但し、発電機トルク制限値LGは予め定める一定値とすることができる。本実施形態においては、発電機トルク制限値LGは一定の負値であり、差分ΔTGが予め定める所定閾値以上であるときに、発電機トルク指令値TG1
*に対して加算される。
【0071】
図6は、エンジンコントローラ25の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、エンジントルク制限演算部61を備える。エンジントルク制限演算部61は、発電制御部26からエンジントルク指令値T
E1
*を取得し、必要に応じてこれを制限するエンジントルク制限演算を実行する。エンジントルク制限演算は、ダンパトルクT
dmpが正常範囲に継続的に収まるように、エンジントルク指令値T
E1
*を補正することによって制限する演算である。エンジントルク制限演算で補正されたエンジントルク指令値T
E1
*は、エンジン17に対する最終的なトルク指令値(以下、エンジントルク指令値T
E2
*という)である。したがって、エンジンコントローラ25は、この最終的なエンジントルク指令値T
E2
*に応じたエンジントルクT
Eを発生させるように、エンジン17を駆動する。
【0072】
本実施形態においては、エンジントルク制御演算は、発電システム12を保護するために優先的に実行される第1保護制御のための演算である。したがって、エンジントルク制限演算部61は、過大なダンパトルクTdmpが検出されたときに、エンジントルク制御演算を実行する。一方、過大なダンパトルクTdmpが検出されていないときには、エンジントルク制限演算部61は、第1保護制御に係るエンジントルク制御演算を実行しない。すなわち、この場合には、エンジントルク制限演算部61は、発電制御部26が演算したエンジントルク指令値TE1
*をそのまま最終的なエンジントルク指令値TE2
*として使用し、エンジン17を駆動する。このように、補正後の最終的なエンジントルク指令値TE2
*に応じてエンジン17が駆動されると、相応にエンジントルクTEが制限され、その結果、ダンパトルクTdmpは正常範囲に収まる。すなわち、エンジントルクTEを制限する第2保護制御によって、発電システム12が、過大なダンパトルクTdmpによる損傷から保護される。
【0073】
なお、エンジントルク制限演算におけるダンパトルクTdmpの正常範囲は、発電機トルク制限演算におけるダンパトルクTdmpの正常範囲と同様である。そして、例えば、実際のエンジントルクTEが、発電制御部26が演算したエンジントルク指令値TE1
*に対して±数パーセント(例えば±5%)の範囲に収まるときに、結果として、ダンパトルクTdmpは正常範囲に収まる。
【0074】
したがって、本実施形態のエンジントルク制限演算においては、実際のエンジントルクTEと、エンジントルク指令値TE1
*によって定まる正常範囲内のエンジントルク(以下、正常エンジントルクTE1という)と、の差分ΔTE(図示しない)が演算される。そして、この差分ΔTEに基づいて、エンジントルク指令値TE1
*の制限値が決定される。以下では、このエンジントルク指令値TE1
*に対する制限値を、エンジントルク制限値LEという。
【0075】
エンジントルク制限値LEは、差分ΔTEに応じて変動するように演算によって決定される。但し、エンジントルク制限値LEは、予め定める一定値とすることができる。本実施形態においては、エンジントルク制限値LEは一定の負値であり、差分ΔTEが予め定める閾値以上であるときに、エンジントルク指令値TE1
*に対して加算される。
【0076】
以下、上記のように構成される電動車両100における発電システム12の保護制御の作用を説明する。
【0077】
図7は、発電システム制御方法の作用を示すフローチャートである。
図7に示すように、発電システム制御装置101では、ステップS101において、伝達機構トルク推定部51が、車両情報である発電機18の回転数ω
Gと、回転数制御部41が演算した発電機トルク指令値T
G1
*を取得する。次に、ステップS102において、伝達機構トルク推定部51は、取得した回転数ω
G及び発電機トルク指令値T
G1
*を用いて、伝達機構トルクの推定値であるダンパトルク推定値T
dmp^を演算する。
【0078】
その後、ステップS103において、過大トルク検出部52が、ダンパトルク推定値Tdmp^を用いて、過大なダンパトルクTdmpを検出する過大トルク検出を実行する。この過大トルク検出の結果、過大なダンパトルクTdmpの発生が検出されたときには、ステップS104において、トルク制限演算が実行される。本実施形態では、エンジントルクTEを制限する第1保護制御を優先的に実行するので、ステップS104においては、エンジントルク制限演算部61がエンジントルク制限演算を実行する。これにより、ステップS105においては、エンジントルクTEが低減するように出力が制限された状態でエンジン17が駆動される。その結果、エンジン17が動力伝達機構19に入力するトルクが低減するので、ダンパトルクTdmpが正常範囲に収まるように低減し、発電システム12が過大なダンパトルクTdmpによる損傷から保護される。
【0079】
なお、ステップS104において、エンジントルクTEを制限する第1保護制御が実行されて一定時間が経過した状態であるときには、発電機トルクTGを制限する第2保護制御が実行される。すなわち、第1保護制御が実行済みの状態においては、ステップS104において、発電機トルク制限演算部53が発電機トルク制限演算を追加的に実行する。これにより、その後のステップS105においては、エンジン17の出力が制限されるとともに、発電機18の出力が制限される。その結果、第1保護制御が実行された状態で一定時間が経過した後、なおも過大なダンパトルクTdmpが検出される状況においては、発電機18の出力が制限されることでダンパトルクTdmpが正常範囲に収まるようにさらに調整される。したがって、発電システム12が過大なダンパトルクTdmpによる損傷から確実に保護される。
【0080】
図8は、過大トルク検出におけるダンパトルク推定値T
dmp^の具体的な評価方法を示すフローチャートである。このダンパトルク推定値T
dmp^の評価方法は、保護制御の実行と停止が頻繁に繰り返されるハンチングを防ぐためのものである。具体的には、ダンパトルクT
dmp及びダンパトルク推定値T
dmp^は、動力伝達機構19の性質上、振動的な振る舞いをする。このため、ダンパトルク推定値T
dmp^の瞬時値によって過大トルク検出を行うと、ダンパトルク推定値T
dmp^がダンパトルク閾値TH
dmpを繰り返しまたぎ、発電システム12の保護制御の実行と停止が頻繁に繰り返される状態(いわゆるハンチング)が発生する場合がある。したがって、本実施形態の過大トルク検出においてはこれを考慮し、以下のようにダンパトルク推定値T
dmp^が一定時間内における最大値によって評価される。
【0081】
図8に示すように、過大トルク検出では、ステップS201において、各種のパラメータの初期値が設定される。ここで初期値が設定されるパラメータは、カウント数Nc、瞬時最大値、及び、一定時間最大値である。
【0082】
カウント数Ncは、瞬時最大値がダンパトルク閾値THdmpを超えた回数を格納するパラメータである。カウント数Ncの初期値は「0」である。過大トルク検出部52は、ダンパトルク推定値Tdmp^の推移に基づいて、瞬時最大値がダンパトルク閾値THdmpを超えた回数を計数し、カウント数Ncを適宜に更新する。
【0083】
瞬時最大値は、ダンパトルク推定値Tdmp^のごく短期間における瞬間的な最大値を格納するパラメータである。すなわち、瞬時最大値は、細かな振動的変動を含めて、ダンパトルク推定値Tdmp^を短期的にみたときの最大値を表す。また、瞬時最大値は、今回値と前回値の2種類がある。以下では、瞬時最大値の今回値を「M1」とし、瞬時最大値の前回値を「M1p」として区別する。瞬時最大値の今回値及び前回値の初期値はいずれも「0」である。過大トルク検出部52は、ダンパトルク推定値Tdmp^の推移に基づいて、瞬時最大値の今回値及び前回値を適宜に更新または維持する。
【0084】
一定時間最大値は、ダンパトルク推定値Tdmp^の一定時間における最大値を格納するパラメータである。したがって、一定時間最大値は、細かい振動的変動に左右されず、ダンパトルクTdmpを長期的にみたときの最大値(極大値)の推定値を表す。また、一定時間最大値は、今回値と前回値の2種類がある。以下では、一定時間最大値の今回値を「M2」とし、一定時間最大値M2の前回値を「M2p」として区別する。一定時間最大値の今回値及び前回値の初期値はいずれも「0」である。なお、ここでいう「一定時間」は、ダンパトルク推定値Tdmp^がダンパトルク閾値THdmpの近傍で振動するときに、カウント数Ncが所定回数(以下、カウント閾値THcntという)に到達するまでの時間である。このため、この「一定時間」は、実験またはシミュレーション等に基づいて適合により予め定められる。また、「一定時間」は、少なくとも、動力伝達機構19のねじり振動周波数の1周期分のデータを十分に取得可能な長さを有する。また、カウント閾値THcntは適合により予め定められる。過大トルク検出部52は、ダンパトルク推定値Tdmp^の推移に基づいて、一定時間最大値の今回値及び前回値を適宜に更新または維持する。
【0085】
ステップS202においては、過大トルク検出部52が、カウント数Ncをカウント閾値THcntと比較する。すなわち、ステップS202では、カウント数Ncとカウント閾値THcntと比較することにより、ダンパトルク推定値Tdmp^が継続的にダンパトルク閾値THdmp以上になったか否かが判定される。そして、カウント数Ncがカウント閾値THcntよりも小さく、ダンパトルク推定値Tdmp^が継続的にダンパトルク閾値THdmp以上になったとまではいえないときにはステップS203が実行される。
【0086】
ステップS203では、ダンパトルク推定値Tdmp^の絶対値(|Tdmp^|)と、瞬時最大値の前回値M1pと、が比較される。そして、ダンパトルク推定値Tdmp^の絶対値が、瞬時最大値の前回値M1pを超えるときには、ステップS204において、瞬時最大値の今回値M1にダンパトルク推定値Tdmp^の絶対値が格納される。一方、ダンパトルク推定値Tdmp^の絶対値が、瞬時最大値の前回値M1p以下であるときには、ステップS205において、瞬時最大値の今回値M1には、瞬時最大値の前回値M1pが入力され、その値が維持される。これにより、ダンパトルク推定値Tdmp^の推移に応じて、瞬時最大値が更新または維持される。
【0087】
また、ステップS206においては、一定時間最大値の今回値M2に、一定時間最大値の前回値M2pが格納され、一定時間最大値の値が維持される。ステップS206が実行されるのは、ステップS202の判定の通り、ダンパトルク推定値Tdmp^が継続的にダンパトルク閾値THdmp以上になったとはいえない状況である。このため、ステップS206では上記のように一定時間最大値の値が維持される。
【0088】
その後、ステップS207では、維持された一定時間最大値の今回値M2を用いて、過大なダンパトルクTdmpの検出が実行される。過大なダンパトルクTdmpの検出は、一定時間最大値の今回値M2と、ダンパトルク閾値THdmpが比較によって行われる。具体的には、一定時間最大値の今回値M2がダンパトルク閾値THdmpよりも大きいことをもって、過大なダンパトルクTdmpが検出される。
【0089】
過大なダンパトルクTdmpの検出処理が完了すると、ステップS208において、瞬時最大値の今回値M1は、その前回値M1pに格納される。また、一定時間最大値の今回値M2も同様に、その前回値M2pとして格納される。
【0090】
一方、ステップS202において、カウント数Ncがカウント閾値THcnt以上であると判定されたときには、ステップS209が実行される。ステップS209では、瞬時最大値の前回値M1pが、一定時間最大値の今回値M2に格納される。すなわち、カウント数Ncがカウント閾値THcnt以上になり、ダンパトルク推定値Tdmp^が継続的にダンパトルク閾値THdmp以上になったときに、一定時間最大値が、瞬時最大値を用いて更新される。
【0091】
次いで、ステップS210ではカウント数Ncが「0」にリセットされる。また、ステップS211では、瞬時最大値の今回値M1にはダンパトルク推定値Tdmp^の絶対値が格納される。これにより、瞬時最大値の今回値M1が更新される。
【0092】
その後、ステップS207において、更新された一定時間最大値の今回値M2を用いて、過大なダンパトルクTdmp^の検出が実行される。また、ステップS208において、瞬時最大値の今回値M1及び一定時間最大値の今回値M2が、それぞれ前回値として格納される。
【0093】
上記のように、過大トルク検出部52は、過大なダンパトルクTdmpを検出するために、ダンパトルク推定値Tdmp^の瞬時最大値ではなく、ダンパトルク推定値Tdmp^の一定時間最大値を用いる。これにより、保護制御のハンチングが防止される。
【0094】
図9は、エンジントルクT
Eの制限による第1保護制御の作用を示すタイミングチャートである。
図9(A)は、過大トルク検出フラグF
ETの変遷を表す。
図9(B)は、トルク制限値L
G,L
Eの変遷を表す。
図9(C)は、エンジントルクT
E及びエンジントルク指令値T
E2
*の変遷を表す。
図9(D)は、ダンパトルク推定値T
dmp^と一定時間最大値(今回値M2)の変遷を表す。
図9(E)は、発電機トルク指令値T
G2
*の変遷を表す。
図9(F)は、回転数ω
Gの変遷を表す。そして、これらの各チャートにおける横軸は時刻である。
【0095】
図9(C)に示すように、時刻t1は、発電システム12による発電の開始時刻である。時刻t1においてエンジントルク指令値T
E2
*が発生すると、これに追従してエンジントルクT
Eが上昇する。その結果、
図9(D)に示すように、エンジントルクT
Eの上昇に応じて、ダンパトルク推定値T
dmp^が上昇する。その後、動力伝達機構19が底付き状態に近づくと、ダンパトルク推定値T
dmp^は振動的に変動し始め、時刻t2に一定時間最大値(今回値M2)がダンパトルク閾値TH
dmpを超えたとする。その結果、
図9(A)に示すように、時刻t2において、過大なダンパトルクT
dmpが検出され、過大トルク検出フラグF
ETが「1」となる。
【0096】
このように時刻t2において過大なダンパトルクT
dmpが検出されると、エンジントルクT
Eが制限される第1保護制御が開始される。このため、
図9(B)に示すように、時刻t2から第1保護制御におけるエンジントルク制限値L
Eが生じる。これにより、
図9(C)に示すように、時刻t3から、エンジントルク指令値T
E2
*がエンジントルク制限値L
Eを用いた補正によって制限された値になる。そして、このエンジントルク指令値T
E2
*の変化に追従して、エンジントルクT
Eが低減される。
【0097】
すると、
図9(E)及び
図9(F)に示すように、発電機トルク指令値T
G2
*及び回転数ω
Gは振動的に変化しつつも、次第に収束する。そして、
図9(D)に示すように、これらに追従してダンパトルク推定値T
dmp^も徐々に収束する。その結果、時刻t4において、ダンパトルク推定値T
dmp^は概ねダンパトルク閾値TH
dmpを下回り、動力伝達機構19は底付き状態を脱する。
【0098】
上記のように、動力伝達機構19が一時的に底付き状態に至ったときでも、エンジントルクTEが制限される第1保護制御によって、動力伝達機構19は底付き状態を速やかに脱する。したがって、本実施形態の発電システム12の制御によれば、発電システム12が過大なダンパトルクTdmpによる損傷から保護される。
【0099】
図10は、発電機トルクT
Gが制限される第2保護制御の作用を示すタイミングチャートである。
図10(A)は、過大トルク検出フラグF
ETの変遷を表す。
図10(B)は、トルク制限値L
G,L
Eの変遷を表す。
図10(C)は、エンジントルクT
E及びエンジントルク指令値T
E2
*の変遷を表す。
図10(D)は、ダンパトルク推定値T
dmp^と一定時間最大値(今回値M2)の変遷を表す。
図10(E)は、発電機トルク指令値T
G2
*の変遷を表す。
図10(F)は、回転数ω
Gの変遷を表す。そして、これらの各チャートにおける横軸は時刻である。
【0100】
図10(C)に示すように、時刻t5は、発電システム12による発電の開始時刻である。時刻t5においてエンジントルク指令値T
E2
*が発生すると、これに追従してエンジントルクT
Eが上昇する。その結果、
図10(D)に示すように、エンジントルクT
Eの上昇に応じて、ダンパトルク推定値T
dmp^が上昇する。その後、動力伝達機構19が底付き状態に近づくと、時刻t6において、一定時間最大値(今回値M2)がダンパトルク閾値TH
dmpを超える。また、
図10(A)に示すように、時刻t6において、過大なダンパトルクT
dmpが検出され、過大トルク検出フラグF
ETが「1」となる。その結果、エンジントルクT
Eが制限される第1保護制御が実行され、
図10(B)に示すように、エンジントルク制限値L
Eが生じ、
図10(C)に示すように、これに応じてエンジントルク指令値T
E2
*が低減される。すなわち、ここまでの発電システム12の挙動は、
図9の場合と同様である。
【0101】
一方、
図10(C)に示すように、本例においては、エンジントルク制限値L
Eの不足、または、その他の不測の事態により、第1保護制御を実行しても、エンジントルクT
Eが十分に低減されなかったとする。この場合、
図10(D)に示すように、ダンパトルク推定値T
dmp^は収束せず、底付き状態による振動的変動が継続される。このため、第1保護制御が開始された時刻t6から一定の時間(経過時間閾値τ)が経過すると、時刻t7において第2保護制御が追加的に開始される。これにより、
図10(B)に示すように、発電機トルク制限値L
Gが発生し、発電機トルクT
Gが制限される。その結果、
図10(E)に示すように、発電機トルク指令値T
G2
*の振動的変動が収まり、
図10(D)に示すように、ダンパトルク推定値T
dmp^は収束し、ダンパトルク閾値TH
dmpを下回る。これにより、動力伝達機構19は底付き状態を脱する。
【0102】
但し、
図10(E)に示すように、発電機18の回転数ω
Gは、その振動的変動が収束に向かうものの、全体としては上昇傾向に転じる。そして、時刻t8において、回転数閾値TH
rsを超え、発電機18は過回転に至る。このため、発電システム12は、時刻t8において停止される。
【0103】
上記のように、本実施形態では、動力伝達機構19が底付き状態に至り、第1保護制御を実行してもなお動力伝達機構19の底付き状態が解消されないときには、発電機トルクTGが制限される第2保護制御によって、動力伝達機構19の底付き状態が解消される。その結果、発電機18が過回転に至って発電システム12による発電が停止されるものの、発電システム12は、過大なダンパトルクTdmpによる損傷から確実に保護される。
【0104】
以上のように、本実施形態の発電システム12の制御では、センサ等による計測が困難なダンパトルクTdmpを演算により推定し、その推定値(ダンパトルク推定値Tdmp^)を用いて、第1保護制御、または、第1保護制御及び第2保護制御を実行する。これにより、発電システム12が過大なダンパトルクTdmpによる損傷から保護される。
【0105】
なお、
図10に示した例は、第1保護制御を行わなかった場合と実質的に同様である。したがって、上記第1実施形態においては、第1保護制御によって過大なダンパトルクT
dmpが解消されなかった場合の保険として第2保護制御が補助的に実行されるが、第2保護制御が単独で実行されてもよい。この場合も、上記第1実施形態で
図10に示した態様で、過大なダンパトルクT
dmpによる損傷から発電システム12が保護され得る。また、上記第1実施形態においては、第1保護制御及び第2保護制御の両方が実行されるが、第1保護制御は単独で実行されてもよい。これは
図9の例に示す通りである。さらに、上記実施形態とは逆に、第2保護制御を優先的に実行した後、さらに必要な場合に、補助的に第1保護制御を実行する構成としてもよい。
【0106】
但し、第1保護制御によってダンパトルクTdmpを正常範囲内に収めるときには、発電機18の回転数ωGも安定するので、その後、発電を継続しやすい。これに対し、第2保護制御によってダンパトルクTdmpを正常範囲に収めるときには、発電機18の回転数ωGが上昇し、過回転に至り、発電システム12が停止されることがある。したがって、第1保護制御と第2保護制御の両方を実行し得るときには、少なくとも第1保護制御を実行することが好ましい。そして、上記第1実施形態のように、第1保護制御を実行した上で、さらに必要なときに、第2保護制御を補助的に実行することが特に好ましい。
【0107】
また、エンジン17や発電機18の出力は、これらのトルクと回転数によって決まる。したがって、上記第1実施形態では、第1保護制御では、エンジン17の出力制限として、エンジントルクTEが制限される。また、第2保護制御では、発電機18の出力制限として、発電機トルクTGが制限される。しかし、このようにトルクを制限する態様は、出力制限の一例である。したがって、第1保護制御及び/または第2保護制御においては、トルクの代わりに回転数等が制限されてもよい。すなわち、第1保護制御では、回転数でエンジン17の出力を制限することによっても、発電システム12は過大なダンパトルクTdmpによる損傷から保護され得る。同様に、第2保護制御では、回転数で発電機18の出力を制限することによっても、発電システム12が過大なダンパトルクTdmpから保護され得る。
【0108】
この他、上記第1実施形態においては、エンジントルクTEが制限される第1保護制御と発電機トルクTGが制限される第2保護制御の両方が実行されるときに発電機18が過回転に至っている。しかし、第1保護制御と第2保護制御の両方が実行されるときには、発電機18の過回転を防ぎ、発電システム12による発電を継続させることができる。発電機18が過回転に至る原因は、発電機トルクTGがエンジントルクTE以下となっており、エンジントルクTEを抑えられていないことである。したがって、これらの保護制御を同時に実行するときには、エンジントルクTEが発電機トルクTG未満となるように、エンジン17及び/または発電機18の出力制限を行うことで、発電機18の過回転が防止される。すなわち、エンジン17及び発電機18が保護制御による出力制限中であっても、発電機18の回転数を制御可能なトルクの範囲内にエンジントルクTEを制御することで、発電システム12の発電を継続させることができる。なお、第1保護制御中のエンジントルクTE及び第2保護制御中の発電機トルクTGの調整は、例えば、エンジントルク制限値LE及び/または発電機トルク制限値LGの調整によって行うことができる。
【0109】
[第2実施形態]
上記第1実施形態においては、第1保護制御及び第2保護制御において、ダンパトルク推定値Tdmp^がそのまま使用されるが、ダンパトルク推定値Tdmp^は、他のパラメータに変換等して使用されてもよい。例えば、ダンパトルク推定値Tdmp^をねじり角の推定値(以下、ねじり角推定値θTW^という)変換し、ダンパトルク推定値Tdmp^の代わりに、このねじり角推定値θTW^を用いて第1保護制御及び第2保護制御が実行されてもよい。
【0110】
図11は、第2実施形態に係る保護制御部42の構成を示すブロック図である。
図11に示すように、ダンパトルク推定値T
dmp^をねじり角推定値θ
TW^に変換して使用するときには、保護制御部42にトルク-ねじり角変換部201が設けられる。また、第1実施形態における過大トルク検出部52は過大ねじり角検出部202に置き換えられる。
【0111】
トルク-ねじり角変換部201は、既知である動力伝達機構19の動力伝達特性(
図2参照)に倣って、ダンパトルク推定値T
dmp^からこれに対応するねじり角推定値θ
TW^を演算する。また、過大ねじり角検出部202は、ダンパトルク推定値T
dmp^の代わりに、ねじり角推定値θ
TW^を用いて過大なダンパトルクT
dmpまたは過大なねじり角θ
TWを検出する。その具体的な演算態様は、第1実施形態の過大トルク検出部52の演算態様に準じる。
【0112】
そして、上記のように、トルク-ねじり角変換部201及び過大ねじり角検出部202を設ける場合、発電機トルク制限演算部53やエンジントルク制限演算部61は、第1実施形態においてダンパトルク推定値Tdmp^を用いて行う演算等と同様の演算を、ねじり角推定値θTW^を用いて行う。これにより、ねじり角推定値θTW^を用いた場合でも、第1実施形態と同様に、発電システム12が、過大なダンパトルクTdmpによる損傷から保護される。
【0113】
[第3実施形態]
上記第1実施形態及び第2実施形態では、第1保護制御及び第2保護制御は、過大なダンパトルクTdmp^が検出されたときに実行され、第1保護制御及び/または第2保護制御によってダンパトルクTdmp^が正常範囲に収まったときには、第1保護制御及び第2保護制御は終了する。しかし、一度、過大なダンパトルクTdmp^が生じた実績を考慮すれば、第1保護制御及び/または第2保護制御によってダンパトルクTdmp^が正常範囲に収まったとしても、再び過大なダンパトルクTdmp^が発生しやすい状況が継続している場合がある。この場合、第1保護制御及び/または第2保護制御を終了した後すぐに過大なダンパトルクTdmp^が生じ、第1保護制御及び/または第2保護制御が再び繰り返されることになる。すなわち、第1保護制御または第2保護制御のハンチングが生じてしまうことがある。
【0114】
そこで、過大なダンパトルクTdmpが検出されたときには、ダンパトルクTdmpが正常範囲に収まった後においても、第1保護制御及び/または第2保護制御を一定期間継続して実行することが好ましい。例えば、過大なダンパトルクTdmpを検出したことを示す過大トルク検出フラグFETが入力されたときには、発電制御部26は、発電機コントローラ24及びエンジンコントローラ25に対してそれぞれ第1保護制御及び第2保護制御の実行を一定期間継続させる指示を与える。これにより、第1保護制御及び第2保護制御のハンチングが防止される。
【0115】
ハンチングを防止するために第1保護制御及び第2保護制御を継続させるべき一定期間は、例えば、電動車両100の1回のトリップ期間である。トリップ期間とは、電動車両100が発進してから次に停止または停車するまでの期間である。そして、例えば、イグニッションがオフからオンに切り替わったときに、発電制御部26は、第1保護制御及び第2保護制御の継続指示を解除することができる。こうすれば、一旦、第1保護制御または第2保護制御が実行されても、これらの保護制御のハンチングは生じず、発電システム12による発電が安定して継続され得る。
【0116】
なお、上記のように保護制御を継続させる保護継続制御は、発電制御部26の代わりに、システムコントローラ21、発電制御部26、発電機コントローラ24、または、エンジンコントローラ25等、他のコントローラが主体となって行われてもよい。
【0117】
以上のように、上記実施形態等に係る発電システム制御方法は、動力を発生する動力源であるエンジン17と、その動力によって発電する発電機18と、その動力を発電機18に伝達する動力伝達機構19と、を有する発電システム12を制御する発電システム制御方法である。この発電システム制御方法においては、発電機18が生ずべきトルク(発電機トルクTG)を指令する発電機トルク指令値TG2
*と、発電機18の回転状態を表す回転数ωGと、に基づいて、動力伝達機構19で生じるトルク(ダンパトルクTdmp)の推定値である伝達機構トルク推定値(ダンパトルク推定値Tdmp^)が演算される。そして、伝達機構トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^に基づいて、動力源であるエンジン17、発電機18、または、動力源であるエンジン17及び発電機18の両方の出力を制限する出力制限として、第1保護制御及び/または第2保護制御が実行される。
【0118】
このように、上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、制御によって発電システム12を過大な伝達機構トルクによる損傷から保護するので、発電システム12を保護するために、発電システム12を巨大化させる構成を要しない。すなわち、上記実施形態等に係る発電システム制御方法によれば、発電システム12を巨大化させる構成を要することなく、動力源であるエンジン17等の過大な出力による損傷から、発電システム12が保護される。
【0119】
また、上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、伝達機構トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^に基づいて、少なくとも動力源であるエンジン17に対して出力制限を実行する。動力源であるエンジン17に対して出力制限を実行することによって発電システム12を保護すると、その後、発電を継続しやすいという利点がある。
【0120】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法には、伝達機構トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^に基づいて、少なくとも発電機18に対する出力制限を実行する態様が含まれる。発電機18に対して出力制限を実行する場合、発電機18の過回転によって発電システム12が停止することがあるとしても、少なくとも発電システム12の損傷を防ぐことができる。すなわち、発電システム12に致命的なエラーが生じることを防止できる。
【0121】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、伝達機構トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^が、発電機トルク指令値TG2
*によって定まる発電機18のトルクと、発電機18の実際の回転数によって定まるトルク(トルク指令値相当量)と、の偏差によって算出される。この方法によれば、センサ等で計測し難い伝達機構トルク(ダンパトルクTdmp)を、演算により、正確に求めることができる。その結果、発電システム12の保護制御である第1保護制御及び/または第2保護制御が的確に実行される。
【0122】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、動力源等に対する出力制限は、伝達機構トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^が予め定めるダンパトルク閾値THdmp以上となったときに実行される。この方法によれば、動力伝達機構19の底付き状態を、簡便かつ的確に把握または予測することができる。その結果、発電システム12の保護制御である第1保護制御及び/または第2保護制御が的確に実行される。
【0123】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、伝達機構トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^がダンパトルク閾値THdmp以上になったか否かの判定が、予め定める所定時間(一定時間)内における伝達機構トルク推定値の最大値(一定時間最大値)とダンパトルク閾値THdmpとを比較することによって行われる。ダンパトルク推定値Tdmp^の瞬時値を用いると、その振動的変動によって、発電システム12の保護制御がハンチングする場合があるが、この方法によれば、ハンチングを防止して、発電システム12の保護制御が的確に実行される。
【0124】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、ダンパトルク閾値THdmpは、動力伝達機構19が線形に変形可能な伝達機構トルクの限界値である線形限界ダンパトルクTdmplim(許容ダンパトルク)に設定される。線形限界ダンパトルクTdmplim以上のダンパトルクTdmpは、発電システム12を損傷する過大なダンパトルクTdmpとなり得る。このため、線形限界ダンパトルクTdmplimを閾値とすることで、過大なダンパトルクTdmpの判定が的確に行われる。その結果、発電システム12の保護制御が的確に実行される。
【0125】
特に、上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、動力伝達機構19の製造誤差によって限界値(線形限界ダンパトルクTdmplim)がばらつくときには、ダンパトルク閾値THdmpが、製造誤差によるばらつきの範囲(±TMV)における下限値(Tdmplim-TMV)に設定される。これによれば、動力伝達機構19の製造誤差があったとしても、過大なダンパトルクTdmpが看過されることなく、検出される。したがって、ダンパトルクTdmpが継続的にダンパトルク閾値THdmpを超えることがないように、より確実に、発電システム12の保護制御が実行される。
【0126】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、出力制限によって動力源であるエンジン17及び発電機18の両方の出力が制限されるときには、動力源であるエンジン17がトルクであるエンジントルクTEが、発電機18のトルクである発電機トルクTGよりも小さくなるように、出力制限が実行される。この方法によれば、発電機18の回転数が制御可能な範囲内に抑えられる。その結果、発電システム12を保護しつつ、かつ、発電機18を過回転に至らせることなく、発電システム12による発電が継続できる。
【0127】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法では、出力制限によって動力源であるエンジン17及び発電機18の両方の出力が制限されるときに、動力源であるエンジン17に対する出力制限(第1保護制御)を実行した後、発電機18に対する出力制限(第2保護制御)が補助的に実行される。この方法によれば、発電システム12の保護制御が2段階に実行されるので、不測の事態等により、第1保護制御によってダンパトルクTdmpが正常範囲に収束しなかったときでも、第2保護制御によってダンパトルクTdmpを正常範囲に収束させることができる。したがって、この方法によれば、より確実に発電システム12が保護される。
【0128】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法において、動力伝達機構19は、例えば、動力(エンジントルクTE)の変化を緩和して発電機18に伝達するダンパである。すなわち、エンジン17と発電機18はダンパである動力伝達機構19によって直結されている。このため、発電システム12は特に小型に形成されやすい上、過大なダンパトルクTdmpによる損傷から保護され得る。
【0129】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法においては、動力伝達機構19は、ねじれによって、伝達される動力(エンジントルクTE)の変動を緩和するねじりダンパである。特に第2実施形態においては、伝達機構トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^を用いて、ねじりダンパのねじり角θTWの推定値であるねじり角推定値θTW^が演算される。そして、エンジン17等の出力制限は、このねじり角推定値θTW^に基づいて行われる。ねじり角推定値θTW^は、ねじりダンパである動力伝達機構19の動力伝達特性(ねじりバネ特性)を良く表すパラメータである。このため、ねじり角推定値θTW^を用いると、ダンパトルク推定値Tdmp^をそのまま用いる場合と同様に、動力伝達機構19の底付き状態を的確に検出することができる。その結果、第1保護制御及び/または第2保護制御により、発電システム12が的確に保護され得る。
【0130】
上記実施形態等に係る発電システム制御方法においては、発電システム12は車両である電動車両100に搭載される。そして、特に第3実施形態においては、エンジン17等の出力制限が開始されると、その出力制限は電動車両100が停止または停車するまで継続される。これにより、保護制御のハンチングが防止され、第1保護制御または第2保護制御が実行されても、発電システム12による発電が安定して継続され得る。
【0131】
上記実施形態等に係る発電システム制御装置101は、動力を発生する動力源であるエンジン17と、その動力によって発電する発電機18と、その動力を発電機18に伝達する動力伝達機構19と、を有する発電システム12を制御する。この発電システム制御装置101は、発電機18が生ずべきトルク(発電機トルクTG)を指令する発電機トルク指令値TG2
*と、発電機18の回転状態を表す回転数ωGと、に基づいて、動力伝達機構19が伝達するトルクの推定値である伝達機構トルク推定値(ダンパトルク推定値Tdmp^)を演算する。そして、伝達機構トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^に基づいて、動力源であるエンジン17、発電機18、または、動力源であるエンジン17及び発電機18の両方の出力を制限する出力制限を実行する。
【0132】
このように、上記実施形態等に係る発電システム制御装置101では、制御によって発電システム12を過大な伝達機構トルクによる損傷から保護するので、発電システム12を保護するために、発電システム12を巨大化させる構成を要しない。すなわち、発電システム制御装置101によれば、発電システム12を巨大化させる構成を要することなく、動力源であるエンジン17等の過大な出力による損傷から、発電システム12が保護される。
【0133】
特に、発電システム制御装置101は、発電機18の動作を制御する発電機コントローラ24と、動力源であるエンジン17の動作を制御する動力源コントローラであるエンジンコントローラ25と、を備える。そして、発電機コントローラ24が伝達トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^を演算する。また、動力源コントローラであるエンジンコントローラ25が、発電機コントローラ24によって演算された伝達トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^を用いて、動力源であるエンジン17の出力を制限する。
【0134】
伝達トルク推定値であるダンパトルク推定値Tdmp^は発電機18の回転状態等から演算により求めることができるので、上記のように発電機コントローラ24が伝達トルク推定値を演算することが好ましい。これにより、伝達トルク推定値が特に正確に求められる。そして、上記のように、発電機コントローラ24が演算した伝達トルク推定値を用いて動力源であるエンジン17を制御することにより、動力源であるエンジン17の出力制限をするときでも、発電システム12を的確に保護することができる。
【0135】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態等で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【0136】
例えば、上記実施形態等においては、ダンパトルク推定値Tdmp^を演算する伝達機構トルク推定部51が保護制御部42に設けられており、発電機トルク指令値演算部31と一体となっている。すなわち、ダンパトルク推定値Tdmp^は発電機コントローラ24によって推定される。しかし、伝達機構トルク推定部51は、発電機トルク指令値演算部31や発電機コントローラ24から独立して設けられていてもよい。例えば、発電機コントローラ24やエンジンコントローラ25と並列に、ダンパトルク推定値Tdmp^を推定するコントローラを設けてもよい。また、システムコントローラ21が、ダンパトルク推定値Tdmp^を推定するコントローラを内包していてもよい。
【0137】
また、上記実施形態等においては、エンジンコントローラ25にエンジントルク制限演算部61が設けられている。このため、エンジンコントローラ25が、発電制御部26が演算したエンジントルク指令値TE1
*は、エンジンコントローラ25内で最終的なエンジントルク指令値TE2
*に補正される。しかし、エンジントルク制限演算部61は、システムコントローラ21に設けられていてもよい。また、発電制御部26が、エンジントルク制限演算部61の機能を有していてもよい。これらの場合、第1保護制御を実行するときには、システムコントローラ21または発電制御部26が第1保護制御用の最終的なエンジントルク指令値TE2
*を演算する。そして、エンジンコントローラ25は、初めから、最終的なエンジントルク指令値TE2
*を取得し、これに応じてエンジン17を駆動する。
【0138】
この他、上記実施形態等においては、発電システム12及び発電システム制御装置101が電動車両100に搭載されているが、これに限らない。すなわち、上記実施形態等に係る発電システム制御方法、及び、発電システム制御装置101は、電動車両100に搭載されていない発電システム12及び発電システム制御装置101にも好適である。また、電動車両100以外の車両に搭載される場合も、上記実施形態等に係る発電システム制御方法は好適である。
【0139】
なお、上記実施形態等に係る発電システム制御方法は、エンジン17と発電機18が直結された小型の発電システム12に特に好適であるが、エンジン17と発電機18を摩擦クラッチで接続する発電システム及びその他の大型の発電システムにおいても使用できる。この場合、発電システムは比較的大型になるが、上記実施形態等に係る発電システム制御方法によって、摩擦クラッチを滑らせることなく、発電システムが保護される。このため、摩擦クラッチの摩耗が低減される利点がある。
【0140】
この他、上記実施形態等に係る発電システム制御方法においては、発電機18の回転状態を表すパラメータとして、発電機18の回転数ωGを用いているが、回転数ωGの代わりに、回転速度や、回転数と相関があるその他の態様のパラメータ等を用いることができる。
【符号の説明】
【0141】
12:発電システム,17:エンジン,18:発電機,19:動力伝達機構,24:発電機コントローラ,25:エンジンコントローラ,26:発電制御部,42:保護制御部,51:伝達機構トルク推定部,52:過大トルク検出部,53:発電機トルク制限演算部,61:エンジントルク制限演算部,100:電動車両,101:発電システム制御装置