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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187847
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】車載用燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   B60K 8/00 20060101AFI20221213BHJP
   B60K 1/00 20060101ALI20221213BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20221213BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20221213BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20221213BHJP
【FI】
B60K8/00
B60K1/00
H01M8/00 Z
H01M8/04 Z
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096052
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博之
【テーマコード(参考)】
3D235
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB03
3D235CC12
3D235CC23
3D235CC28
3D235DD12
3D235DD33
3D235EE63
3D235EE64
3D235FF03
3D235FF06
3D235FF25
3D235FF43
3D235HH02
3D235HH22
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB04
5H127AB11
5H127EE03
5H127EE04
5H127EE30
(57)【要約】
【課題】車両が前面から衝突した場合でも分解する可能性を抑えられる車載用燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池スタックと、燃料電池スタックとの間でガスの授受を行う補機を含む補機構造体とが接続されて一体化した発電構造体を備える車載用燃料電池システムにおいて、発電構造体を収容する発電構造体ケースを備え、発電構造体ケースは、車体前後方向前側の前方部材と、車体前後方向後側の後方部材とからなることを特徴とする車載用燃料電池システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックとの間でガスの授受を行う補機を含む補機構造体とが接続されて一体化した発電構造体を備える車載用燃料電池システムにおいて、
前記発電構造体を収容する発電構造体ケースを備え、
前記発電構造体ケースは、車体前後方向前側の前方部材と、車体前後方向後側の後方部材とからなることを特徴とする、車載用燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記前方部材は前記後方部材に比べて、車体前方からの入力に対する強度及び剛性が高い、車載用燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記前方部材は前記後方部材に比べて前記発電構造体を収容する容積が大きい、車載用燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記前方部材と前記後方部材との接続部が平面である車載用燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記平面が車体の左右方向に沿っている、車載用燃料電池システム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記平面は、上端が下端に比べて車体前後方向後側に位置する、車載用燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記前方部材は、車載状態で車体前後方向の先端部となる前面と、前記前面の車体左右方向の両側から車体後方に延びる2つの側面と、前記前面の車体上下方向の両側から車体後方に延びる上面及び下面と、からなる箱形状を有し、
前記発電構造体は、前記2つの側面にのみ固定されており、前記前面と前記発電構造体との間には隙間がある、車載用燃料電池システム。
【請求項8】
請求項7に記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記前面には断熱材が設けられている、車載用燃料電池システム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記発電構造体は、車体左右方向の両側部の少なくとも一か所ずつが、ケース固定用ブラケットを介して前記前方部材の前記側面に固定されており、
前記側面は、前記ケース固定用ブラケットが取り付けられる部分を車体前後方向前側、車体上下方向上側及び車体上下方向下側から囲む補強部を有し、前記補強部は前記側面の他の部位から前記前方部材の内側に向けて突出している、車載用燃料電池システム。
【請求項10】
請求項9に記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記発電構造体ケースは車体固定用ブラケットを介して車体に固定され、
前記車体固定用ブラケットは前記補強部に取り付けられている、車載用燃料電池システム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つに記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記後方部材は、前記発電構造体と前記発電構造体ケースの外部にある電装ユニットとを接続する配線が通る開口部及び前記開口部を囲むシール部を有するシール面を有し、前記シール面に面剛性を高める補強が施されている、車載用燃料電池システム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一つに記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記後方部材は、車載状態で駆動ユニットのマウントと車体前後方向に並ぶ下方部分が前記下方部分より車体上下方向上側の上方部分より変形し易い構造になっている、車載用燃料電池システム。
【請求項13】
請求項7から12のいずれか一つに記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記発電構造体ケースの上面は、車載状態で車体前方にいくほど地上からの高さが低くなっている、車載用燃料電池システム。
【請求項14】
請求項11から13のいずれか一つに記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記発電構造体と前記発電構造体ケースの外部にある電装ユニットとを接続する配線が通る開口部は、車体前後方向後方に向けて開口し、かつ前記電装ユニットが前記開口部を囲むシール部に取り付けられることで塞がれている、車載用燃料電池システム。
【請求項15】
請求項14に記載の車載用燃料電池システムにおいて、
前記後方部材は、前記電装ユニットが取り付けられる部分の下方に、車体前後方向後方に向けて延びる庇形状の突出部を備える、車載用燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池スタックを収容するスタックケースと燃料電池システムの補機を収容する補機ケースが車体左右方向に並ぶ状態で接続されて、車両前部のモータルームに搭載される燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-29190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が前面から他の車両等の物体に衝突すると、燃料電池システムには車体前方から力が入力される。この場合、上記文献に記載の燃料電池システムではスタックケースと補機ケースのそれぞれが力を受けることになり、結果として燃料電池システムが分解してしまうおそれがある。
【0005】
そこで本発明では、車両が前面から衝突した場合でも分解する可能性を抑えられる車載用燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、燃料電池スタックと、燃料電池スタックとの間でガスの授受を行う補機を含む補機構造体とが接続されて一体化した発電構造体を備える車載用燃料電池システムが提供される。この車載用燃料電池システムは、発電構造体を収容する発電構造体ケースを備え、発電構造体ケースは車体前後方向前側の前方部材と、車体前後方向後側の後方部材とからなる。
【発明の効果】
【0007】
上記態様の車載用燃料電池システムによれば、車両が前面から衝突した場合でも分解する可能性を抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態にかかる車載用燃料電池システムの分解斜視図である。
図2図2は、燃料電池システムを車体左右方向の左側から見た図である。
図3図3は、前方部材を車体前後方向の斜め後ろから見た斜視図である。
図4図4は、燃料電池システムを車載した状態を車体左側から見た図である。
図5図5は、燃料電池システムを車載した状態を車体前方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[システム構成]
図1は、本実施形態にかかる車載用燃料電池システム(以下、「燃料電池システム」ともいう)1の分解斜視図である。図2は、燃料電池システム1を車体左右方向の左側から見た図である。図3は、後述する前方部材5を車体前後方向の斜め後ろから見た斜視図である。
【0011】
本実施形態の燃料電池システム1は、駆動モータ21(図4参照)により走行する電動車両に搭載されるものである。また、本実施形態では、固体酸化物形の燃料電池を想定している。
【0012】
燃料電池システム1は、発電構造体Aと、発電構造体Aを収容する発電構造体ケースBとを備える。
【0013】
発電構造体Aは、第1燃料電池スタック2Aと第2燃料電池スタック2Bの間に補機構造体3が配置され、下から第2燃料電池スタック2B、補機構造体3、第1燃料電池スタック2Aの順に積層された積層構造となっている。補機構造体3は、第1燃料電池スタック2A、第2燃料電池スタック2Bとガスの授受を行う補機(熱交換器、燃焼器等)を包含する筐体である。なお、以下の説明において、特に区別する必要がない場合には、第1燃料電池スタック2Aと第2燃料電池スタック2Bをまとめて燃料電池スタック2と称する。
【0014】
補機構造体3の車体左右方向の左側側面には、後述する第2ブラケット9Aを介して空気供給管34(図5参照)、燃料供給管(不図示)、燃焼用燃料供給管(不図示)及びバイパス空気供給管(不図示)がそれぞれ接続される流路の開口部が形成されている。空気供給管34は、補機としての熱交換器に外部から空気を供給するための配管である。空気供給管34から供給された空気は、熱交換器により加熱されてから燃料電池スタック2に供給される。燃料供給管は燃料電池スタック2に燃料ガスを供給するための配管である。燃焼用燃料供給管は、燃料電池システム1の起動時に、燃料ガスを補機としての燃焼器に供給するための配管である。バイパス空気供給管は、補機としての熱交換器を通さずに燃料電池スタックに供給する空気を供給するための配管である。
【0015】
また、補機構造体3の車体前後方向の後側側面には、排気管13が接続される排気通路の開口部3Aが設けられている。
【0016】
発電構造体ケースBは、車体前後方向前側に配置される前方部材5と、車体前後方向後側に配置される後方部材6とで構成される、分割構造となっている。前方部材5は、例えば金属鋳造により成形され、後方部材6は、例えば鋼板をプレス加工することにより成形される。
【0017】
前方部材5は、車載状態で車体前後方向の先端部となる前面5Aと、前面5Aの車体左右方向の両側から車体後方に延びる2つの側面5Bと、前面5Aの車体上下方向の両側から車体後方に延びる上面5C及び下面5Dと、からなる箱形状を有する。そして、発電構造体Aは、第1燃料電池スタック2Aに設けた第1ブラケット10A、10Bと、補機構造体3に設けた第2ブラケット9A、9Bと、第2燃料電池スタック2Bに設けた第3ブラケット11A、11Bと、を介してボルト(不図示)により前方部材5の側面5Bにのみ固定されている。なお、車体左右方向右側の第3ブラケット11Bは図示していない。
【0018】
車体左右方向左側の第2ブラケット9Aには、上述した補機構造体3の各開口部と、空気供給管34、燃料供給管(不図示)、燃焼用燃料供給管(不図示)及びバイパス空気供給管(不図示)をそれぞれ連通する通路が設けられている。
【0019】
側面5Bは、第2ブラケット9A、9Bが取り付けられる部分を車体前後方向前側、車体上下方向上側及び車体上下方向下側から囲む補強部14を有する。この補強部14は、側面5Bの他の部位から前方部材5の内側に向けて突出している。なお、補強部14は前方部材5と一体として形成してもよいし、別部材として成形したものを前方部材5に取り付けてもよい。
【0020】
前面5Aの内側には断熱材12が取り付けられている。そして、発電構造体Aが前方部材5に固定された状態で、前面5Aと発電構造体Aとの間には隙間が設けられている。なお、断熱材12はシート状のものを貼付してもよいし、液状のものを塗付してもよい。
【0021】
上面5Cは、車載状態で車体前方にいくほど低くなっている。
【0022】
後方部材6は、発電構造体Aと発電構造体ケースBの外部にある電装ユニット7とを接続する配線4が通る開口部8及び開口部8を囲むシール部8Aを有するシール面6Aを有する。なお、電装ユニット7には、コントローラ、コンバータ等が含まれる。そして、シール面6Aには他の面に比べて面剛性を高める補強が施されている。補強方法としては、シール面6Aの板厚を他の部位に比べて厚くする、または開口部8を囲む額縁上の補強材を取り付ける等、種々の方法を採り得る。
【0023】
開口部8は、車体前後方向後方に向けて開口しており、かつ、電装ユニット7がシール部8Aに取り付けられることで塞がれる。また、後方部材6は、電装ユニット7が取り付けられる部分の下方に、車体前後方向後方に向けて延びる庇形状の突出部7Bを備える。
【0024】
前方部材5と後方部材6は、前方部材5の合わせ面(前方合わせ面)5Eと、後方部材6の合わせ面(後方合わせ面)6Cとが接続されることにより一体化する。そして、前方合わせ面5Eと後方合わせ面6Cはいずれも平面である。つまり、前方部材5と後方部材6の接続部は平面になっている。そして、この平面は、車体左右方向に沿っており、かつ上端が下端に比べて車体前後方向後側に位置する(つまり、車体上下方向を基準として後傾している)。
【0025】
前方部材5と後方部材6とを比較すると、発電構造体Aを収容する容積は前方部材5の方が後方部材6より大きく、図2に示す通り、発電構造体Aの大部分は前方部材5に収容されている。
【0026】
前方部材5は後方部材6に比べて、車体前方からの入力に対する強度及び剛性が高くなっている。これは、使用する素材や構造等を変えることにより実現する。また、後方部材6単体では、後述する前方モータマウント28と対向する部位から車体上下方向下側の部分(下方部分)が、それよりも車体上下方向上側の部分(上方部分)より変形し易い構造になっている。
【0027】
[車載状態]
図4は、燃料電池システム1を車載した状態を車体左側から見た図である。図5は燃料電池システム1を車載した状態を車体前方から見た図である。
【0028】
発電構造体Aを収容した発電構造体ケースBは、車体の前部に設けられた原動機室32に配置される。原動機室32には、客室33と隔離するための隔壁26と、車体前後方向に延びるとともに原動機室32を車体左右方向から挟むように配置された一対のサイドメンバ24と、が設けられている。また、原動機室32には、駆動モータ21、操舵機構22等を搭載するサブフレーム25も設けられている。
【0029】
発電構造体ケースBは、車体固定用ブラケット31を介して車体に固定されている。より具体的には、サイドメンバ24に設けられた車体側ブラケット30に車体固定用ブラケット31がボルト等により固定されている。車体固定用ブラケット31は発電構造体ケースBの補強部14にボルト等により固定されている。
【0030】
発電構造体ケースB、操舵機構22及び駆動モータ21は、車体前方から発電構造体ケースB、操舵機構22及び駆動モータ21の順に並んでいる。
【0031】
駆動モータ21は、前方モータマウント28を介してサブフレーム25に支持される。また、発電構造体ケースBの前部にはラジエータ20等の冷却部品が、後部にはVDC(Vehicle Dynamics Control)アクチュエータ23等の部品が、側部にはエアボックス29等が、それぞれ配置される。
【0032】
また、車体固定用ブラケット31は空気供給用のコンプレッサ35の支持部としての機能も果たしている。そして、車体固定用ブラケット31は、コンプレッサ35の支持部としての機能を果たしつつエアボックス29との干渉を避けるため、エアボックス29の下面とコンプレッサ35との間を通る形状になっている。
【0033】
原動機室32はその上面がフード27に覆われている。フード27の地面からの高さ車体前方にいくほど低くなっており、発電構造体ケースBの上面の地面からの高さも上述した通り車体前方に行くほど低くなっている。
【0034】
[発電構造体ケースBの機能]
まず、発電構造体Aを発電構造体ケースBに収容する理由について説明する。
【0035】
固体酸化物形燃料電池は、発電温度が500℃以上であるため、システム運転中は発電構造体Aを500℃以上に維持する必要がある。一方、原動機室32に収容される他の補機や車載部品はこのような高温への耐性がない。そこで、放熱による温度低下を抑制するための断熱と、他の補機等の保護のための遮熱が必要となる。
【0036】
また、発電構造体Aは高電圧を発生するが、単独では発生した電圧の生成及び遮断ができない。さらに、発電構造体Aは、単独では耐衝撃性、耐振動性、耐水性等を確保することが難しい。
【0037】
以上の理由から、本実施形態では発電構造体Aを発電構造体ケースBに収容して車載する。
【0038】
発電構造体Aは各ブラケット9A、9B、10A、10B、11A、11Bにより前方部材5に固定されている。このうち、第2ブラケット9A、9Bの取り付け部には補強部14が設けられている。この補強部14は取り付け部の補強だけでなく、発電構造体Aを発電構造体ケースBに収める際のガイドレール及び位置決めの機能も果たす。これにより、組立作業が容易になる。
【0039】
また、補強部14は車体固定用ブラケット31の取り付け部でもある。このように補強部14が第2ブラケット9A、9Bの取り付け部の補強と車体固定用ブラケット31の取り付け部を兼ねることで、各取り付け部の強度、剛性を確保しつつ、個別の補強部材を設ける場合に比べて重量増加を抑制できる。
【0040】
車両の空力特性を考慮すると、フード27は車体前方に行くほど低くなることが望ましい。この場合、原動機室32の高さは車体前方にいくほど低くなる。この点、本実施形態の発電構造体ケースBの上面は、上記の通り車体前方にいくほど地上からの高さが低くなっているので、原動機室32内の空間を有効に活用できる。また、フード27との干渉を避けられるので、車体造形の自由度が高くなる。
【0041】
また、本実施形態の車両のように車体前部の原動機室32に駆動モータ21を搭載して前輪(不図示)を駆動するいわゆるFF車両の場合、ドライブシャフト(不図示)の取り回し等の制約により、駆動モータ21及び減速機(不図示)は原動機室32の後方寄りに配置される。このため、上記の通り車体前方から発電構造体ケースB、操舵機構22,駆動モータ21の順に並ぶこととなり、発電構造体ケースBは操舵機構22及び駆動モータ21との干渉を避ける必要がある。また、前方部材5は発電構造体Aを収容する容積を確保する必要がある。換言すると、車体前後方向の寸法を確保する必要がある。さらに、発電構造体Aを取り付ける作業を考慮すると、前方部材5の開口部は広い方が望ましい。そして、後述するように前方部材5と後方部材6との接続部の水密及び気密を確保するためには、接続部は平面であることが望ましい。この点、本実施形態の発電構造体ケースBは、前方部材5と後方部材6との接続部を平面とし、その平面を車体上下方向に対して後傾させているので、これらの要求を満足することができる。
【0042】
ところで、上記の通り車体前部の原動機室32に発電構造体ケースBを搭載すると、車両が前方から他の車両等と衝突(以下、「前面衝突」ともいう)したときに、車体の変形に伴って発電構造体ケースBには車体の前方から力が入る。
【0043】
このとき、分割構造の発電構造体ケースBの異なる部材で入力を受けると、発電構造体ケースBが分解してしまい、さらには発電構造体Aが露出するおそれがある。この点、本実施形態の発電構造体ケースBは前面衝突による入力を前方部材5の前面5Aのみで受けることとなる。したがって、発電構造体ケースBが分解し難い。
【0044】
発電構造体Aは発電構造体ケースBの側面5Bにのみ固定されており、前面5Aとの間には隙間があるので、入力によって前面5Aが変形した場合でもその影響を受けにくい。つまり、衝突による損傷を軽減できる。
【0045】
また、前方部材5後方部材6に比べて車体前方からの入力に対する強度、剛性が高い。つまり、入力を受ける前方部材5の強度、剛性を高めることで耐衝撃性を確保することができる。そして、後方部材6は入力によって発電構造体ケースBが全体として後退してから他の部品に接触し、後方部材6が他の部品と接触するまでに入力は前方部材5や車体固定用ブラケット31等の変形により減衰している。したがって、後方部材6に要求される機能は主に断熱性、遮熱性及び気密性になる。これにより、後方部材6の強度、剛性も高める場合に比べて製造コストを低減でき、軽量化も実現できる。
【0046】
ところで、発電構造体ケースBが後退する際には、発電構造体ケースBの下方部分と対向する前方モータマウント28によって移動が制限される。仮に後方部材6が変形しない場合には、発電構造体ケースBは前方モータマウント28を支点として後傾しながら後退することとなり、隔壁26に配置されたVDCアクチュエータ23等の部品と干渉するおそれがある。ひいては、VDCアクチュエータ23等を介して隔壁26が客室33側へ押し込まれるおそれがある。この点、本実施形態の後方部材6は上記の通り後方部材6の下方部分が上方部分より変形し易い構造になっているので、下方部分が変形することにより上方部分の後退量を抑制し、隔壁26の客室33側への後退量を抑制できる。
【0047】
また、後方部材6の上方部分には開口部8を有するシール面6Aがあり、開口部8は電装ユニット7により塞がれている。発電構造体ケースBが後退してVDCアクチュエータ23等と干渉することによって上方部分が変形すると、開口部8のシール性が低下するおそれがある。しかし、本実施形態の後方部材6は、シール面6Aが補強されているので、シール性の低下を抑制できる。
【0048】
なお、衝突による原動機室32への入力は車体前方からのものが殆どであるが、必ずしも真正面から入力されるとは限らない。この点、本実施形態の発電構造体ケースBは前方部材5と後方部材6との接続部が車体左右方向に沿っており、前方部材5は後方部材6に比べて発電構造体Aを収容する容積が大きく、発電構造体Aの大部分が前方部材5内に収容される。したがって、後方を除くいずれの面から入力されたとしても、発電構造体Aを保護することができる。
【0049】
発電構造体ケースBは前方部材5と後方部材6からなる分割構造なので、前方部材5と後方部材6との接続部の水密及び気密を確保する必要がある。このため、ガスケットを用いて接続部をシールする。このとき、接続部が曲面や複数の面で構成されていたり凹凸があったりすると、ガスケットにかかる圧力が均一にならないので、水密及び気密の確保が難しい。この点、本実施形態では接続部が平面なので、ガスケットにかかる圧力が均一となり、容易に水密及び気密を確保できる。
【0050】
また、前方部材5の前面5Aと発電構造体Aとの間には隙間がある。つまり、発電構造体Aと前面5Aとの間で直接熱交換が行われることがない。さらには、前面5Aの内側(発電構造体Aと対向する面)には断熱材12が設けられている。これにより、発電構造体Aからの放熱及び走行風による発電構造体Aの冷却を抑制できる。
【0051】
また、上述した通り後方部材6の開口部8は電装ユニット7により塞がれるが、その結果、図2に示す通り電装ユニット7の直下を排気管13が通ることになる。そこで本実施形態では、後方部材6の電装ユニット7が取り付けられる部分の下方に、庇形状の突出部7Bを設ける。この突出部7Bが電装ユニット7と排気管13との間で遮熱板として機能するので、電装ユニット7の温度上昇を抑制できる。
【0052】
以上の通り本実施形態では、燃料電池スタック2と、燃料電池スタック2との間でガスの授受を行う補機を含む補機構造体3とが接続されて一体化した発電構造体Aを備える車載用燃料電池システム1が提供される。この車載用燃料電池システム1は、発電構造体Aを収容する発電構造体ケースBを備え、発電構造体ケースBは、車体前後方向前側の前方部材5と、車体前後方向後側の後方部材6とからなることを特徴とする。これにより、前面衝突時の入力を前方部材5のみで受けることになり、複数の部材で受ける構造に比べて分解し難くなる。すなわち、発電構造体ケースBの内部が露出及び開放される可能性を低減できる。
【0053】
本実施形態では、前方部材5は後方部材6に比べて、車体前方からの入力に対する強度及び剛性が高い。つまり、前面衝突時の入力を受ける前方部材5の強度及び剛性を確保しつつ、後方部材6に要求される機能を主に断熱性、遮熱性及び気密性に絞る。これにより、製造コストの低減および軽量化を図ることができる。
【0054】
本実施形態では、前方部材5は後方部材6に比べて発電構造体Aを収容する容積が大きい。換言すると、前方部材5は後方部材6に比べて、車体前後方向の寸法が大きい。さらに、本実施形態では前方部材5と後方部材6との接続部である平面が車体の左右方向に沿っている。これにより、発電構造体Aの大部分を前方部材5に収容することができるので、車体側方からの入力を前方部材5の側面5Bで受けることができる。つまり、後方を除くすべての方向からの入力を、前方部材5のみで受けることができる。その結果、上記の通り後方部材6に要求される機能を絞って製造コストの低減及び軽量化を図ることができる。
【0055】
本実施形態では、前方部材5と後方部材6との接続部が平面(前方合わせ面5E及び後方合わせ面6C)である。これにより、燃料電池システム1の組み立て工程の容易化、製造コストの低減及び水密及び気密の確保を図ることができる。
【0056】
本実施形態では、前方部材5と後方部材6との接続部の平面は、上端が下端に比べて車体前後方向後側に位置する。換言すると、平面は車体上下方向に対して後傾している。これにより、接続部を、シール性を確保し易い平面にしつつ、接続部の開口面積をより大きくすることができる。
【0057】
本実施形態では、前方部材5は、車載状態で車体前後方向の先端部となる前面5Aと、前面5Aの車体左右方向の両側から車体後方に延びる2つの側面5Bと、前面5Aの車体上下方向の両側から車体後方に延びる上面5C及び下面5Dと、からなる箱形状を有する。そして、発電構造体Aは、2つの側面5Bにのみ固定されており、前面5Aと発電構造体Aとの間には隙間がある。これにより、前面衝突によって前面5Aに入力があった場合に、発電構造体Aに直接的に力がかかることがない。また、発電構造体Aから前面5Aへの放熱を抑制できる。
【0058】
本実施形態では、前面5Aに断熱材12が設けられている。これにより発電構造体Aから前面5Aへの放熱をより抑制できる。また、前面5Aが走行風を受けた場合でも、発電構造体Aの温度低下を抑制できる。
【0059】
本実施形態では、発電構造体Aは、車体左右方向の両側部の少なくとも一か所ずつが、第2ブラケット(ケース固定用ブラケット)9A、9Bを介して前方部材5の側面5Bに固定されている。そして側面5Bは、第2ブラケット9A、9Bが取り付けられる部分を車体前後方向前側、車体上下方向上側及び車体上下方向下側から囲む補強部14を有し、補強部14は側面5Bの他の部位から前方部材の内側に向けて突出している。これにより、収容する発電構造体Aの取り付け強度及び取り付け剛性を確保できる。また、補強部14が第2ブラケット9A、9Bのガイドレール及び位置決めの機能を果たすことで、組立工程が容易になる。さらには、発電構造体ケースB全体の補強効果も期待できる。
【0060】
本実施形態では、発電構造体ケースBは車体固定用ブラケット31を介して車体に固定され、車体固定用ブラケット31は補強部14に取り付けられている。これにより車体固定用ブラケット31の取り付け強度を確保できる。また、第2ブラケット9A、9Bの取り付け部を補強する補強部14を兼用することで、個別に補強部材を用いるよりも重量の増加を抑制できる。さらには、車体固定用ブラケット31の取り付け部が発電構造体Aを発電構造体ケースBに固定している場所と近いので、発電構造体Aの取り付け剛性を確保できる。
【0061】
本実施形態では、後方部材6は、発電構造体Aと発電構造体ケースBの外部にある電装ユニット7とを接続する配線4が通る開口部8及び開口部8を囲むシール部8Aを有するシール面6Aを有し、シール面6Aに面剛性を高める補強が施されている。これにより、後方部材6が変形した場合でも開口部8のシール性能を確保できる。
【0062】
本実施形態では、後方部材6は、車載状態で駆動ユニット(駆動モータ21及び不図示の減速機等からなるユニット)のマウント(前方モータマウント)28と車体前後方向に並ぶ下方部分が下方部分より車体上下方向上側の上方部分より変形し易い構造になっている。これにより、前面衝突によって発電構造体ケースBが後退した場合に下方部分が変形するので、発電構造体ケースBがVDCアクチュエータ23等の部品を介して隔壁26を客室33側へ押し込むことを抑制できる。なお、後方部材6は上記の通り鋼板等で形成されているので、変形したとしても穴開きや破れ等は生じにくい。したがって、後方部材6が変形したとしても後方部材6の気密および水密は確保される。
【0063】
本実施形態では、発電構造体ケースBの上面5Cは、車載状態で車体前方にいくほど地上からの高さが低くなっている。これにより発電構造体ケースBの容積を確保しつつ、原動機室32内の空間を有効活用できる。また、フード27との干渉を避けられるので車体造形の自由度が高まる。さらには、フード27の高さを抑えることができるので、空力性能を高めることもできる。
【0064】
本実施形態では、開口部8は車体前後方向後方に向けて開口し、かつ電装ユニット7がシール部8Aに取り付けられることで塞がれている。これにより、配線4を取り出す部分の水密及び気密を確保できる。
【0065】
本実施形態では、後方部材6は、電装ユニット7が取り付けられる部分の下方に、車体前後方向後方に向けて延びる庇形状の突出部6Bを備える。これにより、突出部7Bが電装ユニット7と排気管13との間で遮熱板として機能するので、電装ユニット7の温度上昇を抑制できる。
【0066】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0067】
1 車載用燃料電池システム、 2 燃料電池スタック、 3 補機構造体、 4 配線、 5 前方部材、 6 後方部材、 7 電装ユニット、 13 排気管、 14 補強部、 21 駆動モータ、 22 操舵機構、 24 サイドメンバ、 25 サブフレーム、 28 前方モータマウント、 31 車体固定用ブラケット、 32 コンプレッサ
図1
図2
図3
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図5