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特開2022-187848車両駆動制御方法及び車両駆動制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187848
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】車両駆動制御方法及び車両駆動制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/024 20160101AFI20221213BHJP
   H02P 29/028 20160101ALI20221213BHJP
   H02P 29/20 20160101ALI20221213BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H02P25/024
H02P29/028
H02P29/20
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096054
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井ノ尾 毅
(72)【発明者】
【氏名】吉松 定春
(72)【発明者】
【氏名】水口 尊博
(72)【発明者】
【氏名】中川路 周作
【テーマコード(参考)】
5H125
5H501
5H505
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125BA01
5H125BB03
5H125CA01
5H125EE07
5H125EE08
5H125EE42
5H501AA20
5H501BB08
5H501CC04
5H501DD04
5H501EE08
5H501HB08
5H501HB16
5H501HB18
5H501JJ17
5H501JJ25
5H501LL01
5H501LL52
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE08
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505HB01
5H505JJ17
5H505JJ25
5H505JJ28
5H505LL01
5H505LL55
(57)【要約】
【課題】巻線界磁型同期電動機として構成される駆動モータを備えた車両において、界磁電流の供給ができない状況であっても走行を可能とする。
【解決手段】
界磁巻線に界磁電流が供給できる場合には駆動モータの駆動点を基本駆動領域に含まれるように調節する基本駆動モードを実行し、界磁巻線に界磁電流が供給できない場合には界磁電流を停止するとともに駆動点を異常時駆動領域に含まれるように調節する異常時駆動モードを実行する車両駆動制御方法を提供する。特に、基本駆動領域は、駆動モータの界磁トルク及びリラクタンストルクの和である基本出力トルクによって駆動力を生成する駆動点の範囲として定められる。また、異常時駆動領域は、駆動モータのリラクタンストルクによって駆動力を生成する駆動点の範囲として定められる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線界磁型同期電動機として構成される駆動モータを備えた車両の駆動力を制御する車両駆動制御方法であって、
界磁巻線に界磁電流が供給できる場合には、前記駆動モータの駆動点を基本駆動領域に含まれるように調節する基本駆動モードを実行し、
前記界磁巻線に前記界磁電流が供給できない場合には、前記界磁電流を停止するとともに前記駆動点を異常時駆動領域に含まれるように調節する異常時駆動モードを実行し、
前記基本駆動領域は、前記駆動モータの界磁トルク及びリラクタンストルクの和である基本出力トルクによって前記駆動力を生成する前記駆動点の範囲として定められ、
前記異常時駆動領域は、前記駆動モータのリラクタンストルクによって前記駆動力を生成する前記駆動点の範囲として定められる、
車両駆動制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両駆動制御方法であって、
前記基本駆動モードでは、基本駆動マップを参照して前記駆動点を設定し、
前記異常時駆動モードでは、異常時駆動マップを参照して前記駆動点を設定し、
前記基本駆動マップは、前記基本駆動領域をモータ回転数に応じてとり得る前記基本出力トルクの範囲として規定したマップであり、
前記異常時駆動マップは、前記異常時駆動領域を前記モータ回転数に応じてとり得る前記リラクタンストルクの範囲として規定したマップである、
車両駆動制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の車両駆動制御方法であって、
前記基本駆動モードでは、
前記駆動点を、前記基本駆動領域に含まれる固定子電流の電流位相角である基本位相角及び前記界磁電流に基づく基本駆動点に設定し、
前記異常時駆動モードでは、
前記異常時駆動領域に含まれる前記駆動点を、前記基本位相角を所定のオフセット角度で補正した補正位相角に基づく補正駆動点として設定し、
前記オフセット角度は、前記補正位相角における前記リラクタンストルクの符号が前記基本位相角における前記基本出力トルクの符号と整合するように定められる、
車両駆動制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の車両駆動制御方法であって、
前記オフセット角度は、90°から前記基本位相角の最小値である基本最小位相角を減算した値に設定される、
車両駆動制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の車両駆動制御方法であって、
前記基本位相角の最大値である基本最大位相角と前記基本最小位相角との差が90°以上である場合に、前記基本最小位相角を補正して得られる補正最小位相角に対して90°以上大きくなる範囲を第1除外範囲として定め、
前記異常時駆動領域は、前記補正位相角がとり得る範囲から前記第1除外範囲を除外した領域に設定される、
車両駆動制御方法。
【請求項6】
請求項3に記載の車両駆動制御方法であって、
前記オフセット角度は、90°に設定される、
車両駆動制御方法。
【請求項7】
請求項3~6の何れか1項に記載の車両駆動制御方法であって、
さらに、前記補正駆動点に基づく前記リラクタンストルクの符号が前記基本出力トルクの符号と異なる前記補正位相角の範囲を第2除外範囲として定め、
前記異常時駆動領域は、前記補正位相角がとり得る範囲から前記第2除外範囲を除外した領域に設定される、
車両駆動制御方法。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の車両駆動制御方法であって、
前記異常時駆動モードでは、
前記駆動モータの駆動点を、前記駆動モータの回転数が所定値以下となる範囲に制限する、
車両駆動制御方法。
【請求項9】
巻線界磁型同期電動機として構成される駆動モータを備えた車両の駆動力を制御する車両駆動制御システムであって、
界磁巻線に界磁電流が供給できる場合に、前記駆動モータの駆動点を基本駆動領域に含まれるように調節する基本駆動モード実行部と、
前記界磁巻線に前記界磁電流が供給できない場合に、前記界磁電流を停止するとともに前記駆動点を異常時駆動領域に含まれるように調節する異常時駆動モード実行部と、を備え、
前記基本駆動領域は、前記駆動モータの界磁トルク及びリラクタンストルクの和である基本出力トルクによって前記駆動力を生成する前記駆動点の範囲として定められ、
前記異常時駆動領域は、前記駆動モータのリラクタンストルクによって前記駆動力を生成する前記駆動点の範囲として定められる、
車両駆動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動制御方法及び車両駆動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、界磁電流を制御する界磁回路の異常を検出した場合に、直流電源と交流回転電機との間の電力変換を行うブリッジ回路のパワー半導体素子に所定の操作を行い、交流回転電機の発電出力を停止して直流電圧の異常上昇を抑制する界磁巻線式交流回転電機装置が記載されている。特に、この界磁巻線式交流回転電機装置では、ブリッジ回路の全相の上アーム素子または全相の下アーム素子のうち、いずれか一方を全て導通状態とすることで交流回転電機の電気子巻線(固定子巻線)に対する短絡動作を行い、発電出力を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-189773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記界磁巻線式交流回転電機装置で採用されている制御方法は、界磁電流の供給ができないシーンにおいて直流電圧の上昇を抑制すべく、実質的に交流回転電機を停止させるものである。
【0005】
一方、車両の走行駆動源として機能する駆動モータを巻線界磁型同期電動機によって構成する場合、走行中に界磁電流の供給ができない状況となって駆動モータが停止してしまうと、走行を継続させることができないという問題がある。
【0006】
このような事情に鑑み、本発明の目的は、巻線界磁型同期電動機として構成される駆動モータを備えた車両において、界磁電流の供給ができない状況であっても走行を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、巻線界磁型同期電動機として構成される駆動モータを備えた車両の駆動力を制御する車両駆動制御方法が提供される。この車両駆動制御方法では、界磁巻線に界磁電流が供給できる場合には、駆動モータの駆動点を基本駆動領域に含まれるように調節する基本駆動モードを実行する。また、界磁巻線に界磁電流が供給できない場合には、界磁電流を停止するとともに駆動点を異常時駆動領域に含まれるように調節する異常時駆動モードを実行する。
【0008】
特に、基本駆動領域は、駆動モータの界磁トルク及びリラクタンストルクの和である基本出力トルクによって駆動力を生成する前記駆動点の範囲として定められる。一方、異常時駆動領域は、駆動モータのリラクタンストルクによって駆動力を生成する駆動点の範囲として定められる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、巻線界磁型同期電動機として構成される駆動モータを備えた車両において、界磁電流の供給ができない状況であっても走行を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の車両駆動制御方法を実行する車両駆動制御システムの構成の一形態を説明するブロック図である。
図2図2は、基本駆動マップ及び異常時駆動マップの一形態を説明する図である。
図3図3は、車両駆動制御システムの構成の一形態を説明するブロック図である。
図4図4は、電流位相角の補正の一形態を説明する図である。
図5図5は、第1除外範囲の設定に関する一形態を説明する図である。
図6図6は、電流位相角の補正の一形態を説明する図である。
図7図7は、補正電流位相角及び第2除外範囲を設定した場合の効果を説明する図である。
図8図8は、異常時駆動モードにおけるモータ回転数に基づく駆動点範囲の制限を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の車両駆動制御方法を実行するための車両駆動制御システム10の構成を説明するブロック図である。本実施形態の車両駆動制御システム10は、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド車両(HEV)、及び燃料電池車両(FCV)などの電動モータを走行駆動源として用いる車両に搭載される。
【0013】
図1に示すように、車両駆動制御システム10は、基本駆動モード実行部12と、異常時駆動モード実行部14と、界磁電流供給可否判定部16と、モータ電力制御部18と、巻線界磁型同期電動機(EESM)として構成される駆動モータ20と、駆動系22と、を備える。
【0014】
基本駆動モード実行部12は、トルク指令値T、回転数検出値ωc、及び適宜必要なパラメータを入力として、基本駆動マップMを参照しつつ、駆動モータ20の駆動点dを基本駆動領域RD1に含まれるように調節する(基本駆動モード)。
【0015】
ここで、トルク指令値Tは、車両に対する要求駆動力に応じて駆動モータ20が出力すべきトルク(以下、「出力トルクT」とも称する)として定められる。トルク指令値Tは、例えば、乗員によるアクセルペダルの操作量又は図示しない上位コントローラからの指令などに基づいて定められる。
【0016】
また、回転数検出値ωcは、現在の駆動モータ20の回転数(以下、「モータ回転数ω」とも称する)の検出値又は推定値に相当する。
【0017】
基本駆動領域RD1は、駆動モータ20の界磁トルクT及びリラクタンストルクTrelの和である基本出力トルクTm+elによって車両の駆動力を生成する駆動点dの範囲として定められる領域である。
【0018】
基本駆動マップMは、基本駆動領域RD1を、モータ回転数ωに応じてとり得る基本出力トルクTm+elの範囲として規定したマップである。なお、基本駆動マップMは、基本駆動モード実行部12がアクセス可能な所定の記憶領域に予め記憶させておくことが好ましい。
【0019】
特に、本実施形態の基本駆動モード実行部12は、駆動点dが基本駆動領域RD1に含まれる範囲で基本出力トルクTm+elがトルク指令値Tに近づくように、固定子電流の基本指令値のd軸成分(以下、「基本d軸電流指令値i* 」とも称する)、q軸成分(以下、「基本q軸電流指令値i* 」とも称する)、並びに界磁電流iの基本指令値(以下、「基本界磁電流指令値i* 」とも称する)を定める。
【0020】
なお、固定子電流とは、図示しない駆動モータ20の固定子(ステータ)に設けられた巻線(固定子巻線)に流れる電流を意味する。また、界磁電流iとは、回転子(ロータ)に設けられた巻線(界磁巻線)に流れる電流を意味する。
【0021】
そして、基本駆動モード実行部12は、求めた基本d軸電流指令値i* 、基本q軸電流指令値i* 、及び基本界磁電流指令値i* を界磁電流供給可否判定部16に出力する。なお、以下では記載の簡略化のため、適宜、これらの電流の基本指令値の成分を包括して「基本電流指令値(i* ,i* ,i* )」と記載する。
【0022】
一方、異常時駆動モード実行部14は、トルク指令値T、モータ回転数ω、及び適宜必要なパラメータを入力として、異常時駆動マップMを参照しつつ、駆動モータ20の駆動点dが異常時駆動領域RD2に含まれるように調節する(異常時駆動モード)。
【0023】
ここで、異常時駆動領域RD2は、駆動モータ20のリラクタンストルクTrelによって車両の駆動力を生成する駆動点dの範囲として定められる領域である。
【0024】
異常時駆動マップMは、異常時駆動領域RD2を、モータ回転数ωに応じてとり得るリラクタンストルクTrelの範囲として規定したマップである。なお、異常時駆動マップMは、本システムがアクセス可能な所定の記憶領域に予め記憶させておくことが好ましい。
【0025】
特に、異常時駆動モード実行部14は、駆動点dが異常時駆動領域RD2に含まれる範囲でリラクタンストルクTrelがトルク指令値Tに近い値となるように、固定子電流の指令値のd軸成分(以下、「異常時d軸電流指令値i** 」とも称する)、q軸成分(以下、「異常時q軸電流指令値i** 」とも称する)を定める。さらに、異常時駆動モード実行部14は、トルク指令値T及びモータ回転数ωに関わらず、異常時の界磁電流iの指令値(以下、「異常時f軸電流指令値i** 」とも称する)を固定値0に設定する。
【0026】
そして、異常時駆動モード実行部14は、求めた異常時d軸電流指令値i** 、異常時q軸電流指令値i** 、及び異常時f軸電流指令値i** (=0)を界磁電流供給可否判定部16に出力する。なお、以下では記載の簡略化のため、適宜、これらの電流の基本指令値の成分を包括して「異常時電流指令値(i** ,i** ,0)」と記載する。
【0027】
界磁電流供給可否判定部16は、異常状態信号fsを検出したか否かに応じて、基本電流指令値(i* ,i* ,i* )及び異常時電流指令値(i** ,i** ,0)の何れか一方をモータ電力制御部18に出力する。
【0028】
具体的に、界磁電流供給可否判定部16は、異常状態信号fsを検出していない場合(すなわち、界磁電流iを界磁巻線に供給できる場合)において、基本電流指令値(i* ,i* ,i* )をモータ電力制御部18に出力する。一方、界磁電流供給可否判定部16は、異常状態信号fsを検出した場合(すなわち、界磁電流iを界磁巻線に供給できない場合)には、異常時電流指令値(i** ,i** ,0)をモータ電力制御部18に出力する。
【0029】
ここで、異常状態信号fsは、回転子巻線に界磁電流iを供給できない場合に生成される信号である。異常状態信号fsは、例えば、界磁電流iを供給するための界磁回路(図示せず)において異常を検出した場合(異常電圧や異常電流が生じた場合など)に生成されて、界磁電流供給可否判定部16に入力される。
【0030】
モータ電力制御部18は、界磁電流供給可否判定部16から入力される基本電流指令値(i* ,i* ,i* )又は異常時電流指令値(i** ,i** ,0)に応じて駆動モータ20に供給すべき電力を定め、これを駆動モータ20に供給する。なお、モータ電力制御部18は、基本電流指令値(i* ,i* ,i* )又は異常時電流指令値(i** ,i** ,0)に応じたdq軸座標系の電圧指令値を三相電圧指令値に変換する座標変換器、当該三相電圧指令値からスイッチング素子の駆動信号を生成するPWM変換器、及び生成された駆動信号に基づいて所定の直流電源(車載バッテリ)から駆動モータ20への供給電力を操作するインバータなどにより構成することができる。
【0031】
駆動モータ20は、界磁巻線(ロータ巻線)を有する回転子と、固定子巻線(ステータ巻線)を有する固定子とを備える巻線界磁型同期モータにより構成される。特に、駆動モータ20は、モータ電力制御部18により操作される供給電力に応じた駆動力を駆動系22に伝達する。
【0032】
駆動系22は、駆動モータ20で生成された駆動力を車両の走行駆動力に変換するための各種の機械要素により実現される。駆動系22は、例えば、駆動モータ20と車輪との間の回転駆動力の伝達を行う各種のギア機構及び駆動シャフトなどにより構成することができる。
【0033】
上記の車両駆動制御システム10の構成によれば、制御モードとして基本駆動モードが選択されている場合(界磁電流iの供給が可能な通常時)には、基本電流指令値(i* ,i* ,i* )に基づいて駆動モータ20の電流を制御することで、駆動点dが基本駆動領域RD1に含まれるように調節されることとなる。
【0034】
一方、制御モードとして異常時駆動モードが選択されている場合(界磁電流iの供給ができない異常時)には、異常時電流指令値(i** ,i** ,0)に基づいて駆動モータ20の電流を制御することで、駆動点dが異常時駆動領域RD2に含まれるように調節されることとなる。以下では、この制御方法による技術的意義について説明する。
【0035】
先ず、巻線界磁型同期モータの出力トルクTは、下記の式(1)のように表すことができる。
【0036】
【数1】
【0037】
なお、式(1)に含まれる各パラメータは既に説明したものも含めて、以下のように定義される。
: d軸電流
: q軸電流
: f軸電流(界磁電流)
: d軸インダクタンス
: q軸インダクタンス
: f軸インダクタンス(界磁巻線のインダクタンス)
M: 固定子と回転子の間の相互インダクタンス
p: 極対数
T: 出力トルク
【0038】
式(1)において、右辺第1項が界磁トルクTに相当し、右辺第2項がリラクタンストルクTrelに相当する。
【0039】
したがって、上述のように、界磁電流iの供給が可能であるシーンで実行される基本駆動モードにおいて、出力トルクTが基本出力トルクTm+el(=T+Tel)に一致することを前提として駆動点dの調節(基本駆動領域RD1内における調節)を行うことで、現実の駆動モータ20の通常時の挙動に合致した制御を実現することができる。一方、界磁電流iの供給が可能ではないシーンで実行される異常時駆動モードにおいて、界磁電流iが0に設定され且つ出力トルクTがリラクタンストルクTrelに一致することを前提として駆動点dの調節(異常時駆動領域RD2内における調節)を行うことで、現実の駆動モータ20の異常時の挙動に合致した制御を実現することができる。
【0040】
すなわち、界磁電流iの供給が可能であるときには、駆動モータ20の設計などに応じて定まる通常の出力特性に基づいた駆動点dの範囲で車両の駆動力を制御することができる。一方で、界磁電流iの供給ができないときには、駆動モータ20の出力トルクTがリラクタンストルクTrelに一致することを前提とした駆動点dの範囲で車両の駆動力を制御することができる。
【0041】
このため、界磁電流iの供給が可能であるシーンでは既存の制御と同様に駆動モータ20を駆動して車両を走行させることができ、さらに界磁電流iの供給ができないシーンにおいても、駆動モータ20を駆動させて車両を走行させることができる。
【0042】
図2(A)及び図2(B)には、それぞれ、基本駆動マップM及び異常時駆動マップMの一例を示す。
【0043】
図の例において、基本駆動マップMは、モータ回転数ωに応じて出力トルクT(=T+Tel)が理論上とり得る値の全範囲を基本駆動領域RD1として規定している。また、異常時駆動マップMは、界磁電流iの供給ができないことを前提として場合に、モータ回転数ωに応じて出力トルクT(Tel)が理論上とり得る値の全範囲を異常時駆動領域RD2として規定している。
【0044】
これらのマップを用いて駆動点dを調節することで、界磁電流iの供給ができるときには、駆動モータ20のトルクの上限内において、車両を走行させることができる。その一方で、界磁電流iの供給ができないときには、リラクタンストルクTrelの上限内において、車両を走行させることができる。
【0045】
特に、車両の走行中に何らかの理由で界磁電流iが供給できくなるシーンにおいても、制御モードが基本駆動モードから異常時駆動モードに切り替わることで(使用するマップが基本駆動マップMから異常時駆動マップMに切り替わることで)、駆動力の供給を停止せずに車両の走行を継続させることができる。
【0046】
以上説明した本実施形態の車両駆動制御方法の構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0047】
本実施形態では、巻線界磁型同期電動機として構成される駆動モータ20を備えた車両の駆動力を制御する車両駆動制御方法が提供される。この車両駆動制御方法では、界磁巻線に界磁電流iが供給できる場合には、駆動モータ20の駆動点dを基本駆動領域RD1に含まれるように調節する基本駆動モードを実行する。一方、界磁巻線に界磁電流iが供給できない場合には、界磁電流iを停止するとともに駆動点dを異常時駆動領域RD2に含まれるように調節する異常時駆動モードを実行する。
【0048】
そして、基本駆動領域RD1は、駆動モータ20の界磁トルクT及びリラクタンストルクTrelの和である基本出力トルクTm+elによって駆動力を生成する駆動点dの範囲として定められる。一方、異常時駆動領域RD2は、駆動モータ20のリラクタンストルクTrelによって駆動力を生成する駆動点dの範囲として定められる。
【0049】
これにより、界磁電流iが供給できないシーンであっても、駆動モータ20のリラクタンストルクTrelにより車両に駆動力を与えて走行させることができる。したがって、車両の走行中に界磁回路が故障するなどの状況に至った場合であっても、制御モードが基本駆動モードから異常時駆動モードに切り替わることで車両への駆動力の供給を停止させずに走行を継続させることができる。
【0050】
特に、本実施形態の基本駆動モードでは、基本駆動マップMを参照して駆動点dを設定する。また、異常時駆動モードでは、異常時駆動マップMを参照して駆動点dを設定する。
【0051】
これにより、基本駆動モード及び異常時駆動モードにおける駆動点dの設定を、専用のマップを切り替えるという簡素な処理により行うことができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、上記車両駆動制御方法が実行される車両駆動制御システム10が提供される。
【0053】
この車両駆動制御システム10は、巻線界磁型同期電動機として構成される駆動モータ20を備えた車両の駆動力を制御する。
【0054】
より詳細には、車両駆動制御システム10は、界磁巻線に界磁電流iが供給できる場合に、駆動モータ20の駆動点dを基本駆動領域RD1に含まれるように調節する基本駆動モード実行部12と、界磁巻線に界磁電流iが供給できない場合に、界磁電流iを停止するとともに駆動点dを異常時駆動領域RD2に含まれるように調節する異常時駆動モード実行部14を備える。
【0055】
特に、基本駆動領域RD1は、駆動モータ20の界磁トルクT及びリラクタンストルクTrelの和である基本出力トルクTm+elによって駆動力を生成する駆動点dの範囲として定められる。一方、異常時駆動領域RD2は、駆動モータ20のリラクタンストルクTrelによって駆動力を生成する駆動点dの範囲として定められる。
【0056】
これにより、本実施形態の車両駆動制御方法を実行するための好適なシステム構成が実現される。
【0057】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
図3は、本実施形態の車両駆動制御方法を実行するための車両駆動制御システム10の構成を説明するブロック図である。
【0059】
図示のように、本実施形態の基本駆動モード実行部12は、駆動点dが基本駆動領域RD1に含まれる範囲で基本出力トルクTm+elがトルク指令値Tに近づくように、固定子電流に係る電流ノルムIの基本指令値(以下、「基本ノルム指令値I* 」とも称する)、電流位相角β(以下、「基本位相角β」とも称する)の基本指令値(以下、「基本位相角指令値β*」とも称する)、及び基本界磁電流指令値i* を定める。
【0060】
なお、本実施形態の電流ノルムIは、回転座標系における固定子電流(i,i)の大きさとして定義される。また、電流位相角βは、回転座標系においてq軸から固定子電流(i,i)への位相の進み量として定義される。すなわち、電流位相角βは、以下の式(2)により定まる。
【0061】
【数2】
【0062】
そして、基本駆動モード実行部12は、定めた基本ノルム指令値I* 、位相角指令値β*、及び基本界磁電流指令値i* を界磁電流供給可否判定部16に出力する。なお、以下では記載の簡略化のため、適宜、これら制御値を包括して「基本電流制御値(I* ,β*,i* )」と記載する。
【0063】
一方、本実施形態の異常時駆動モード実行部14は、異常時f軸電流指令値i** を0に設定する一方、基本駆動モード実行部12と同様に基本ノルム指令値I* 及び位相角指令値β*を定める。さらに、異常時駆動モード実行部14は、下記の式(3)のように、基本位相角指令値β*に予め定められたオフセット角度Δβを加算して補正位相角指令値β**を演算する。
【0064】
【数3】
【0065】
すなわち、補正位相角指令値β**は、基本位相角βをオフセット角度Δβの分進めるように補正した電流位相角β(以下、「補正位相角β」)の指令値である。オフセット角度Δβは、基本駆動領域RD1に含まれる駆動点d(以下、「基本駆動点dp1」とも称する)を補正した駆動点d(以下、「補正駆動点dp2」とも称する)のリラクタンストルクTrelの符号を、基本出力トルクTm+el(=T+Tel)の符号と整合させるように定められる。具体的なオフセット角度Δβの設定方法については後述する。
【0066】
そして、異常時駆動モード実行部14は、得られた基本ノルム指令値I* 、補正位相角指令値β**、及び異常時f軸電流指令値i** (=0)を界磁電流供給可否判定部16に出力する。なお、以下では記載の簡略化のため、適宜、これら制御値を包括して「異常時電流制御値(I* ,β**,0)」と記載する。
【0067】
なお、界磁電流供給可否判定部16、モータ電力制御部18、駆動モータ20、及び駆動系22における各処理は、第1実施形態の入力値である「基本電流指令値(i* ,i* ,i* )」及び「異常時電流指令値(i** ,i** ,0)」を、それぞれ、「基本電流制御値(I* ,β*,i* )」及び「異常時電流制御値(I** ,β**,0)」に置き換えて同様に実行される。次に、具体的なオフセット角度Δβの設定方法について説明する。
【0068】
図4は、本実施形態に係る電流位相角βの補正を説明するベクトル図である。
【0069】
図4、式(1)、及び式(2)からわかるように、界磁トルクT(右辺第1項)は電流位相角βが-90°から90°の範囲(q軸電流iが正となる範囲)で正となり、90°から270°(=-90°)の範囲(q軸電流iが負となる範囲)で負となる。すなわち、図4に示すベクトル図上において、界磁トルクTの正負はq軸電流iの正負と一致する。
【0070】
そして、界磁トルクTの大きさがリラクタンストルクTrelの大きさよりも十分に大きいことを考慮すると、基本出力トルクTm+elの符号は実質的に界磁トルクTの符号にほぼ一致するため、すなわち、基本出力トルクTm+elの正負もq軸電流iの正負に一致する。
【0071】
一方で、リラクタンストルクTrel(右辺第2項)は、L>Lを前提とすると電流位相角βが-90°~0°の範囲(図の第1象限)及び90°~180°の範囲(第3象限)で正となるが、0°~90°の範囲(第2象限)及び180°~270°(=-90°)の範囲(第4象限)では負となる。
【0072】
したがって、同一の電流位相角βに対して、異常時駆動モードにおける出力トルクT(=Tel)の正負は、基本駆動モードにおける基本出力トルクTm+elの正負とは整合しない。
【0073】
この点を考慮して、本実施形態では、制御モードが基本駆動モードから異常時駆動モードに切り替わりの前後で出力トルクTの符号を整合させるオフセット角度Δβを設定する。
【0074】
より具体的に、オフセット角度Δβは、90°から基本位相角βの最小値である基本最小位相角βmin1(βmin1<0)を減算した値に設定される。すなわち、電流位相角βを基本位相角βに対して90°-βmin1分進めた値を、補正位相角βに設定する。
【0075】
ここで、基本最小位相角βmin1は、異常時駆動モードにおいて所望のリラクタンストルクTrelを実現する観点から定められる最小の電流位相角βである。基本最小位相角βmin1は特定の数値に限定されるものではいが、-90°<βmin1<0を満たすように、特に-45°<βmin1<0を満たすように設定される。なお、基本最小位相角βmin1は、本システムがアクセス可能な所定の記憶領域に予め記憶させておくことが好ましい。
【0076】
上記のようにオフセット角度Δβを設定することで、補正位相角βは、少なくとも、基本最小位相角βmin1をオフセット角度Δβで補正した電流位相角β(具体的には90°)よりも大きい範囲(リラクタンストルクTrelが正となる範囲)に含まれることとなる。なお、以下では、説明の便宜のため、基本最小位相角βmin1をオフセット角度Δβで補正した電流位相角βを「補正最小位相角βmin2」とも称する。すなわち、補正最小位相角βmin2は、補正位相角βの最小値に相当する。
【0077】
したがって、異常時駆動モードにおける駆動点dを規定する異常時駆動領域RD2を、上記補正位相角β(補正駆動点dp2)で規定することで、車両の走行中に基本駆動モードから異常時駆動モードに切り替わるタイミング(界磁電流iの供給ができなくなるタイミング)の前後において、車両の駆動力の方向(出力トルクTの符号)を維持することができる。すなわち、界磁電流iの供給ができなくなっても車両の走行を継続させることができる。
【0078】
以上説明した本実施形態の車両駆動制御方法の構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0079】
本実施形態の基本駆動モードでは、駆動点dを、基本駆動領域RD1に含まれる固定子電流(i,i)の電流位相角βである基本位相角β、及び界磁電流iに基づく基本駆動点dp1に設定する。一方、異常時駆動モードでは、異常時駆動領域RD2に含まれる駆動点dを、基本位相角βを所定のオフセット角度Δβで補正した補正位相角βに基づく補正駆動点dp2として設定する。
【0080】
そして、オフセット角度Δβは、補正位相角βにおけるリラクタンストルクTrelの符号が基本位相角βにおける基本出力トルクTm+el(=T+Tel)の符号と整合するように定められる。
【0081】
これにより、異常時駆動モード中(界磁電流iの供給ができないシーン)であっても、基本駆動モード中(界磁電流iの供給が可能な駆動モータ20の通常動作時)における駆動力の方向と同一方向の駆動力を発生させるように、駆動モータ20の駆動点dを調節することができる。すなわち、界磁電流iが供給できなくなっても、車両の走行を継続させる好適な制御ロジックが実現される。
【0082】
特に、本実施形態の車両駆動制御方法では、異常時駆動モードの異常時駆動領域RD2が、補正位相角β(特に補正位相角βがとり得る範囲)を用いて規定されている。すなわち、図2で説明したように、基本駆動領域RD1及び異常時駆動領域RD2のそれぞれを規定するマップを用いずとも、通常時と異常時のそれぞれの駆動点dを切り分けることができる。したがって、本実施形態では、基本駆動モード及び異常時駆動モードの双方で共通の駆動マップ(図3では基本駆動マップM)を用いる構成を実現することが可能となっており、制御に係る演算のためのデータ容量を低減することができる。
【0083】
さらに、本実施形態のオフセット角度Δβは、90°から基本位相角βの最小値である基本最小位相角βmin1を減算した値に設定される。
【0084】
これにより、異常時駆動モード中の駆動点dが取り得る範囲(異常時駆動領域RD2)を、基本出力トルクTm+elとリラクタンストルクTrelの符号が整合しない電流位相角βの範囲(0°<β<90°)を避けて規定するための具体的な演算ロジックが実現されることとなる。
【0085】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態について説明する。なお、第1又は第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。特に、本実施形態では、異常時駆動モード実行部14が、異常時駆動モード中に上記オフセット角度Δβ(=90°-βmin1)を用いた補正を実行することを前提として、当該補正を実行しても出力トルクTが負となり得る駆動点範囲を除外する処理を行う。
【0086】
図5は、本実施形態に係る電流位相角βの補正を説明するベクトル図である。
【0087】
本実施形態の異常時駆動モード実行部14は、基本位相角βの最大値である基本最大位相角βmax1と上記基本最小位相角βmin1の差が90°以上である場合に、補正位相角βがとり得る範囲から所定の第1除外範囲を除外して異常時駆動領域RD2を定める。特に、第1除外範囲は、補正最小位相角βmin2に対して90°以上大きくなる電流位相角βの範囲の少なくとも一部(すなわち、β>180°の少なくとも一部)として定められる。
【0088】
なお、基本最大位相角βmax1は、駆動モータ20の動作効率を高める観点から定まる最小のd軸電流i(<0)をとるときの駆動点dにおける電流位相角βである。特に、基本最大位相角βmax1は、いわゆる弱め界磁制御を実行することを想定して、好ましいd軸電流iを得る観点から適切な値に設定される。基本最大位相角βmax1は特定の数値で限定されるものではないが、概ね、0<βmax1<90°を満たすように設定される。
【0089】
なお、第1除外範囲及び基本最大位相角βmax1は、本システムがアクセス可能な所定の記憶領域に予め記憶させておくことが好ましい。
【0090】
上記のように基本最小位相角βmin1及び基本最大位相角βmax1を定めることで、これらをそれぞれ補正して得られる補正最小位相角βmin2及び補正最大位相角βmax2は、「90°+βmin1」及び「90°-βmin1+βmax1」となる。すなわち、補正位相角βがとり得る範囲は90°+βmin1<β<90°-βmin1+βmax1となる。
【0091】
このため、基本最大位相角βmax1と基本最小位相角βmin1との差が90°以上である場合(すなわち、βmax1-βmin1>90°である場合)とは、補正位相角βが180°以上となる可能性がある場合に相当する。
【0092】
したがって、本実施形態では、第1除外範囲をβmin2+90°(=180°)<β、特にβmin2+90°<β<βmax2とする。これにより、異常時駆動領域RD2から、基本出力トルクTm+elとリラクタンストルクTrelの符号が整合しない領域をより確実に除外することができる。
【0093】
以上説明した本実施形態の車両駆動制御方法の構成及びそれによる作用効果について説明する。
【0094】
本実施形態の車両駆動制御方法では、基本位相角βの最大値である基本最大位相角βmax1と基本最小位相角βmin1との差が90°以上である場合に、基本最小位相角βmin1を補正して得られる補正最小位相角βmin2に対して90°以上大きくなる範囲を第1除外範囲(βmin2+90°<β)として定める。
【0095】
そして、異常時駆動領域RD2は、補正位相角βがとり得る範囲(βmin2<β<βmax2)から上記第1除外範囲(βmin2+90°<β)を除外した領域に設定される。
【0096】
これにより、異常時駆動領域RD2を、より確実に基本出力トルクTm+elとリラクタンストルクTrelの符号が整合する駆動点dの範囲を画定する領域に限定することができる。
【0097】
[第4実施形態]
以下、第4実施形態について説明する。なお、第1~第3実施形態のいずれかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。特に、本実施形態の車両駆動制御方法は、オフセット角度Δβを第2実施形態又は第3実施形態で説明した値と異なる値に設定する。
【0098】
図6は、本実施形態に係る電流位相角βの補正を説明するベクトル図である。
【0099】
本実施形態では、オフセット角度Δβが90°に設定される。すなわち、本実施形態では、オフセット角度Δβを、基本最小位相角βmin1又は基本最大位相角βmax1とのように駆動モータ20の設計に応じた変動値に依らない固定値に設定する。これにより、基本最小位相角βmin1又は基本最大位相角βmax1のような変動値を参照せずに補正を実行できるため、当該補正のために要求されるデータ容量を削減することができる。
【0100】
特に、オフセット角度Δβを90°とすることで、基本駆動領域RD1に含まれる基本駆動点dp1の大部分(β<0の領域に含まれるものを除く)に対する補正駆動点dp2に関して、基本出力トルクTm+elとリラクタンストルクTrelの符号を整合させることができる。
【0101】
さらに、本実施形態では、補正駆動点dp2に基づくリラクタンストルクTrelの符号が、基本駆動点dp1における基本出力トルクTm+elの符号が相互に異なる補正位相角βの範囲(βmin2<β<90°)を第2除外範囲として定める。そして、異常時駆動領域RD2は、補正位相角βがとり得る範囲(βmin2<β<βmax2)から第2除外範囲(βmin2<β<90°)を除外した領域(90°<β<βmax2)に設定される。
【0102】
これにより、異常時駆動領域RD2を、より確実に基本出力トルクTm+elとリラクタンストルクTrelの符号が整合する駆動点dの範囲を画定する領域に限定することができる。
【0103】
図7は、本実施形態の異常時駆動領域RD2を用いた場合における駆動点dと出力トルクTの正負の関係を説明する図である。特に、図7(A)は基本駆動時のモータ特性を示す。図7(B)は、異常発生時(界磁電流iができないとき)であって基本駆動時と同様の制御を行った場合のモータ特性を示す。さらに、図7(C)は電流位相角βの補正が実行された場合のモータ特性を示す。
【0104】
図示のように、基本駆動時では、とり得る駆動点dの全範囲(すなわち、基本駆動領域RD1)において、出力トルクTが正となる(図7(A)参照)。これに対して、異常発生時においては、出力トルクTが実質的にリラクタンストルクTrelと一致することとなるため、とり得る駆動点dの範囲の大部分で出力トルクTが負となる(図7(B)参照)。
【0105】
一方で、図7(C)に示すように、電流位相角βの補正を行うことで、当該駆動点dの全範囲の大部分の出力トルクTを正とすることができる。その一方で、電流位相角βの補正を行っても、出力トルクTが負となる駆動領域(特に、弱め界磁制御が機能しない低回転・低負荷領域)が存在する。これに対して、上述のように当該駆動点dの全範囲から第2除外範囲を除いて異常時駆動領域RD2を定めることで、上述の出力トルクTが負となる駆動領域を避けて駆動点dを定めることができる。
【0106】
[第5実施形態]
以下、第5実施形態について説明する。なお、第1~第4実施形態のいずれかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、第1~第4実施形態のいずれかの車両駆動制御方法を前提とし、さらに以下で説明する処理を実行する。
【0107】
図8は、本実施形態の車両駆動制御方法における異常時駆動モードにおけるモータ回転数ωに基づく駆動点範囲の制限を説明する図である。
【0108】
図示のように、本実施形態では、異常時駆動領域RD2を、モータ回転数ωが所定値ωlim以下となる範囲に制限する。すなわち、本実施形態では、異常時駆動モードにおいて、モータ回転数ωが所定値ωlim以下の駆動点dのみが設定されることとなる。
【0109】
これにより、界磁巻線の断線が生じて異常状態信号fs(図1又は図3参照)が検出される場合(界磁電流iが供給できないと判断される場合)において、駆動モータ20が高回転域で駆動する事態が抑制される。すなわち、異常時駆動モード中における駆動モータ20への負担を軽減することができる。
【0110】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。また、上記各実施形態は、矛盾しない範囲において相互に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0111】
10 車両駆動制御システム,12 基本駆動モード実行部,14 異常時駆動モード実行部,16 界磁電流供給可否判定部,18 モータ電力制御部,20 駆動モータ,22 駆動系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8