(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187853
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】カーボンナノウォール成長用金属基板とカーボンナノウォール付き金属基板とこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/70 20060101AFI20221213BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20221213BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20221213BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20221213BHJP
H01G 11/36 20130101ALI20221213BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20221213BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20221213BHJP
C01B 32/18 20170101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M4/70 A
H01M4/66 A
H01M4/133
H01M4/587
H01G11/36
H01G11/86
H01G11/68
C01B32/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096060
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】小田 修
(72)【発明者】
【氏名】ノ・ヴァン・ノン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ラジ・デニス・クリスティ
【テーマコード(参考)】
4G146
5E078
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA07
4G146AB07
4G146AC01B
4G146AD11
4G146AD25
4G146BA12
4G146BA48
4G146BB05
4G146BB14
4G146BB23
4G146BC09
4G146BC23
4G146BC25
4G146BC26
4G146BC32B
4G146BC43
4G146DA03
4G146DA07
4G146DA47
4G146DA48
5E078AB06
5E078BA15
5E078BA73
5E078BB30
5E078BB36
5E078FA12
5E078FA23
5E078FA24
5E078LA08
5E078ZA01
5H017AA03
5H017BB08
5H017BB17
5H017CC01
5H017DD01
5H017EE01
5H017EE05
5H017HH04
5H017HH08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050DA03
5H050DA07
5H050DA08
5H050FA10
5H050FA15
5H050GA24
5H050GA27
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】 0℃以上500℃未満の程度の低温状況下でカーボンナノウォールを成膜することが可能なカーボンナノウォール成長用金属基板とカーボンナノウォール付き金属基板とこれらの製造方法を提供することである。
【解決手段】 負極集電体N1はカーボンナノウォール成長用金属基板である。負極集電体N1は第1面N1aを有する。負極集電体N1は、第1面N1aに複数の突起部PR1を有する。突起部PR1を第1面N1aに射影した射影領域の面積は、10nm
2 以上10000nm
2 以下である。突起部PR1の密度は、1個/μm
2 以上1000個/μm
2 以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノウォール成長用金属基板において、
第1面を有する金属基板を有し、
前記金属基板は、
前記第1面に複数の突起部を有し、
前記突起部を前記第1面に射影した射影領域の面積は、
10nm2 以上10000nm2 以下であり、
前記突起部の密度は、
1個/μm2 以上1000個/μm2 以下であること
を含むカーボンナノウォール成長用金属基板。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノウォール成長用金属基板において、
前記突起部は、
前記金属基板と同じ材質であるとともに、
前記金属基板の前記第1面と融合して前記金属基板と一体となっていること
を含むカーボンナノウォール成長用金属基板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のカーボンナノウォール成長用金属基板において、
前記金属基板が
銅とアルミニウムとの少なくとも一方
を含むカーボンナノウォール成長用金属基板。
【請求項4】
第1面を有する金属基板と、
前記金属基板の前記第1面の上に形成されたカーボンナノウォールと、
を有し、
前記金属基板は、
前記第1面に複数の突起部を有し、
前記突起部を前記第1面に射影した射影領域の面積は、
10nm2 以上10000nm2 以下であり、
前記突起部の密度は、
1個/μm2 以上1000個/μm2 以下であり、
前記カーボンナノウォールは、
前記突起部を跨いでいること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板。
【請求項5】
請求項4に記載のカーボンナノウォール付き金属基板において、
前記突起部は、
前記金属基板と同じ材質であるとともに、
前記金属基板の前記第1面と融合して前記金属基板と一体となっていること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のカーボンナノウォール付き金属基板において、
前記金属基板が
銅板または銅箔であること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板。
【請求項7】
請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載のカーボンナノウォール付き金属基板において、
前記金属基板の前記第1面と前記カーボンナノウォールとの間にアモルファスカーボン層を有すること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板。
【請求項8】
水素ガスを含むガスをプラズマ化して金属基板に供給し、
前記金属基板の第1面の上に前記金属基板と同じ材質からなる複数の突起部を形成すること
を含むカーボンナノウォール成長用金属基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のカーボンナノウォール成長用金属基板の製造方法において、
前記突起部は、
前記金属基板と同じ材質であるとともに、
前記金属基板の前記第1面と融合させたものであること
を含むカーボンナノウォール成長用金属基板の製造方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載のカーボンナノウォール成長用金属基板の製造方法において、
前記金属基板が
銅板または銅箔であること
を含むカーボンナノウォール成長用金属基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のカーボンナノウォール成長用金属基板に、炭素原子を含むガスをプラズマ化して前記金属基板に供給し、前記金属基板の前記第1面の前記突起部を成長起点として、カーボンナノウォールを成長させること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法。
【請求項12】
水素ガスを含むガスをプラズマ化して金属基板に供給し、
前記金属基板の第1面の上に前記金属基板と同じ材質からなる複数の突起部を形成し、
炭素原子を含むガスをプラズマ化して前記金属基板に供給し、前記金属基板の前記第1面の前記突起部を成長起点として、カーボンナノウォールを成長させること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法において、
前記突起部は、
前記金属基板と同じ材質であるとともに、
前記金属基板の前記第1面と融合させたものであること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法。
【請求項14】
請求項11から請求項13までのいずれか1項に記載のカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法において、
前記金属基板が
銅板または銅箔であること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法。
【請求項15】
請求項11から請求項14までのいずれか1項に記載のカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法において、
前記カーボンナノウォールを成長させる際の前記金属基板の温度が、
0℃以上500℃未満であること
を含むカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、蓄電デバイスに用いるカーボンナノウォール成長用金属基板とカーボンナノウォール付き金属基板とこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
充放電可能な蓄電デバイスとして例えば、二次電池、電気二重層キャパシタ等が挙げられる。また、リチウムイオンを利用する蓄電デバイスとして、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン一次電池、リチウムイオンキャパシタが挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極と負極とセパレータと非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池が開示されている。正極活物質としてコバルト酸リチウムまたはニッケル酸リチウムを用い、負極活物質としてカーボンを用いる技術が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲および実施例)。カーボン材料としてグラファイト(黒鉛)が用いられることが多い。グラファイトは、六員環の炭素原子6個あたり1個のリチウムイオンを吸蔵または放出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、カーボンナノウォールをリチウムイオン二次電池の負極に用いる技術について研究開発中である。しかし、負極集電体である銅箔または正極集電体であるアルミ箔にカーボンナノウォールを成膜するためには500℃以上600℃以下の程度の高温状況下で成膜する必要があった。この場合には、成膜前に銅箔もしくはアルミ箔を加熱する際に、または成膜後に銅箔もしくはアルミ箔を冷却する際に、銅箔もしくはアルミ箔とカーボンナノウォールとの間で熱膨張係数差に起因する応力が発生する。場合によっては、負極集電体もしくは正極集電体にしわが発生する。
【0006】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、0℃以上500℃未満の程度の低温状況下でカーボンナノウォールを成膜することが可能なカーボンナノウォール成長用金属基板とカーボンナノウォール付き金属基板とこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様におけるカーボンナノウォール成長用金属基板は、第1面を有する金属基板を有する。金属基板は、第1面に複数の突起部を有する。突起部を第1面に射影した射影領域の面積は、10nm2 以上10000nm2 以下である。突起部の密度は、1個/μm2 以上1000個/μm2 以下である。
【0008】
このカーボンナノウォール成長用金属基板は、第1面の上に突起部を有する。突起部は、カーボンナノウォールを生成するための起点になる。このように突起部は、例えば、触媒のような作用を有する。このため、0℃以上500℃未満の程度の低い温度で集電体の上にカーボンナノウォールを成膜することができる。
【発明の効果】
【0009】
本明細書では、0℃以上500℃未満の程度の低温状況下でカーボンナノウォールを成膜することが可能なカーボンナノウォール成長用金属基板とカーボンナノウォール付き金属基板とこれらの製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1の概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1のカーボンナノウォールCNW1の断面を模式的に示す図である。
【
図3】第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1のカーボンナノウォールCNW1の構造を概念的に示す図である。
【
図4】第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1におけるカーボンナノウォールCNW1を成長させる製造装置の構成を示す概略構成図である。
【
図5】銅箔の上に水素ラジカルを照射した後の銅箔の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(その1)である。
【
図6】ヒーター設定温度が500℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】ヒーター設定温度が500℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図8】ヒーター設定温度が400℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図9】ヒーター設定温度が400℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図10】ヒーター設定温度が300℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図11】ヒーター設定温度が300℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図12】ヒーター設定温度が200℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図13】ヒーター設定温度が200℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図14】ヒーター設定温度が20℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図15】ヒーター設定温度が20℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図16】水素ラジカルを照射することなく基板温度が500℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図17】基板温度を500℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
【
図18】基板温度を400℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
【
図19】基板温度を300℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
【
図20】基板温度を200℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
【
図21】基板温度を20℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
【
図22】銅箔の上に水素ラジカルを照射した後の銅箔の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(その2)である。
【
図23】銅箔の上に水素ラジカルを照射した後の銅箔の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(その3)である。
【
図25】水素の供給量と突起部の面積が10nm
2 以上100nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
【
図26】水素の供給量と突起部の面積が100nm
2 以上1000nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
【
図27】水素の供給量と突起部の面積が1000nm
2 以上10000nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
【
図28】水素の供給量と突起部の個数との関係を示すグラフである。
【
図29】バイアスの大きさと突起部の面積が10nm
2 以上100nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
【
図30】バイアスの大きさと突起部の面積が100nm
2 以上1000nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
【
図31】バイアスの大きさと突起部の面積が1000nm
2 以上10000nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
【
図32】バイアスの大きさと突起部の個数との関係を示すグラフである。
【
図33】水素の供給量が100sccmであるとともにバイアスが-25Vの場合の基板の表面を示す顕微鏡写真である。
【
図34】
図33の基板の上にカーボンナノウォールを成長させた場合を示す顕微鏡写真である。
【
図35】水素の供給量が100sccmであるとともにバイアスが-100Vの場合の基板の表面を示す顕微鏡写真である。
【
図36】
図35の基板の上にカーボンナノウォールを成長させた場合を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施形態について、カーボンナノウォール成長用金属基板とカーボンナノウォール付き金属基板とこれらの製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。本明細書において、蓄電デバイスとは充放電することが可能な装置である。蓄電デバイスは、リチウムイオン一次電池とリチウムイオン二次電池とリチウムイオンキャパシタとその他のリチウムイオンを利用して充放電するデバイスとを含む。
【0012】
(第1の実施形態)
1.リチウムイオン二次電池
図1は、第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1の概略構成図である。リチウムイオン二次電池LiB1は、正極PEと、負極NEと、セパレータSp1と、電解液ES1と、容器V1と、を有する。
【0013】
正極PEは、リチウムイオン二次電池LiB1の正極である。正極PEは、正極集電体P1と、正極活物質層P2と、を有する。正極集電体P1の第1面P1aおよび第2面P1bの表面には、正極活物質層P2が形成されている。
【0014】
正極集電体P1は金属基板である。正極集電体P1は、例えば、金属箔である。正極集電体P1の形状はその他の形状であってもよい。正極集電体P1の材質は、例えば、AlまたはTiである。正極集電体P1の材質は、その他の金属などの導電体であってもよい。
【0015】
正極活物質層P2は、正極活物質と、導電助剤と、結着剤と、を含有する。正極活物質層P2は、増粘剤等を含んでいてもよい。正極活物質として例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、三元系が挙げられる。導電助剤として例えば、カーボンブラックが挙げられる。結着剤として例えば、SBRが挙げられる。増粘剤として例えば、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。このように、正極活物質層P2は、リチウム原子を有する。
【0016】
負極NEは、リチウムイオン二次電池LiB1の負極である。負極NEは、負極集電体N1と、負極活物質層N2と、を有する。負極集電体N1の第1面N1aおよび第2面N1bの表面には、負極活物質層N2が形成されている。負極NEは、カーボンナノウォールCNW1が形成されたカーボンナノウォール体である。
【0017】
負極集電体N1はカーボンナノウォール成長用金属基板である。負極集電体N1は金属基板である。負極集電体N1は、例えば、金属箔である。負極集電体N1の形状はその他の形状であってもよい。負極集電体N1の材質は、例えば、Cuである。負極集電体N1は、例えば、銅板または銅箔である。負極集電体N1の材質は、アルミニウム、チタン、その他の金属などの導電体であってもよい。
【0018】
負極活物質層N2は、負極活物質を含有する。負極活物質層N2は、負極活物質としてカーボンナノウォールCNW1を含む。カーボンナノウォールCNW1については後述する。
【0019】
セパレータSp1は、正極PEと負極NEとを電気的に絶縁するためのものである。セパレータSp1は、電解液ES1中のリチウムイオンを透過させることが可能である。
【0020】
電解液ES1は、正極PEと負極NEとの間でリチウムイオンを伝達する特性を有する。電解液ES1は、容器V1を満たしている。電解液ES1は、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )などのリチウム塩をジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などに溶かした液体である。
【0021】
容器V1は、正極PEと負極NEとセパレータSp1と電解液ES1とをその内部に収容する。容器V1は、電解液ES1に対して反応しにくい材質を備えている。
【0022】
2.突起部
図2は、第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1のカーボンナノウォールCNW1の断面を模式的に示す図である。負極集電体N1は、カーボンナノウォールを成長させるための金属基板である。負極集電体N1は、第1面N1aを有する。第1面N1aは、負極集電体N1の一方の表面である。負極集電体N1の第1面N1aの上には複数の突起部PR1が形成されている。
【0023】
突起部PR1は、負極集電体N1が第1面N1aから部分的に突出している部分である。突起部PR1は1個の粒子GR1から構成されていてもよいし、複数の粒子GR1から構成されていてもよい。この場合、粒子GR1の材質は負極集電体N1の材質と同じであることが好ましい。粒子GR1は、負極集電体N1の第1面N1aと融合して、負極集電体N1と一体になっていることが好ましい。これは、負極集電体N1と粒子GR1との密着性を高め、負極集電体N1から粒子GR1が剥がれることを防止するためである。
【0024】
突起部PR1の平面的な大きさは、負極集電体N1の第1面N1aに垂直な方向から走査型電子顕微鏡を用いて表面を観察する。突起部PR1を第1面N1aに射影した射影領域の面積は、10nm2 以上10000nm2 以下である。好ましくは、20nm2 以上5000nm2 以下である。
【0025】
突起部PR1は、例えば、負極集電体N1の第1面N1aの10μm2 あたり10個以上10000個以下で存在する。つまり、突起部PR1を第1面N1aに射影した射影領域の密度は、1個/μm2 以上1000個/μm2 以下である。好ましくは、2個/μm2 以上800個/μm2 以下である。より好ましくは、3個/μm2 以上500個/μm2 以下である。
【0026】
後述するように、水素プラズマの照射により突起部PR1を形成する場合には、次のように突起部PR1が形成されたと考えられる。負極集電体N1の第1面N1aから銅の粒子GR1が叩き出され、その叩き出された粒子GR1が負極集電体N1の第1面N1aの上に再付着するとともに負極集電体N1の第1面N1aに融合することにより、突起部PR1が形成される。なお、突起部PR1の大きさおよび密度が、カーボンナノウォールCNW1の成長密度を決定する重要な要因であると考えられる。
【0027】
突起部PR1は、カーボンナノウォールCNW1の成長の起点としての役割を果たす。そのため、カーボンナノウォールCNW1は負極集電体N1の第1面N1a上に突起部PR1を跨いだ状態で形成されている。
【0028】
3.カーボンナノウォール
3-1.カーボンナノウォールの構造
本明細書において、カーボンナノウォールとは、負極集電体N1などの基材上に壁状に配置された炭素原子を主成分とする導電性ナノ構造体である。
【0029】
図3は、第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1のカーボンナノウォールCNW1の構造を概念的に示す図である。
図3では、1つのグラフェンシートGS1が概念的に例示されている。カーボンナノウォールCNW1は、導電性を備えている。カーボンナノウォールCNW1は、複数のグラフェンシートGS1から構成されていてもよい。また、グラフェンシートGS1は、完全なグラフェン構造でなく、六員環構造の炭素を主成分とする薄膜であってもよい。また、グラフェンシートGS1は六員環構造の炭素を主成分とするモザイク構造のものであってもよい。モザイク構造とは、六員環構造を有する複数の領域が離散的に配置されている構造である。つまり、カーボンナノウォールCNW1は、六員環の全面単結晶でなくともよい。
【0030】
負極NEは、負極集電体N1と、負極活物質層N2と、を有する。負極活物質層N2は、カーボンナノウォールCNW1を有する。
【0031】
カーボンナノウォールCNW1は、グラフェンシートGS1がカーボンナノウォールCNW1の厚み方向に10層程度積層されたグラファイト様の物質である。その積層数は上記以外であってもよい。カーボンナノウォールCNW1がグラファイト様の物質であるため、カーボンナノウォールCNW1は活性炭等の炭素材料に比べて高い電気伝導率を備えている。
【0032】
カーボンナノウォールCNW1において、負極集電体N1の側には根元部R1があり、負極集電体N1の反対側には、先端部E1がある。根元部R1は、多くの場合突起部PR1を介して負極集電体N1に固定されている固定部である。また、根元部R1は、負極集電体N1に電気的に接続されている接続部である。
【0033】
カーボンナノウォールCNW1において、グラフェンシートGS1は、負極集電体N1の表面(第1面N1a、第2面N1b)に交差する向きに形成されている。
図3では、グラフェンシートGS1と、負極集電体N1とは、ほぼ垂直である。なお、カーボンナノウォールCNW1は負極集電体N1に対して垂直でなくてもよい。その場合であっても、カーボンナノウォールCNW1はリチウムイオン二次電池LiB1の負極NEとして動作する。
【0034】
また、前述のように、カーボンナノウォールCNW1は、グラフェンシートGS1を多数枚積層したグラファイトである。実際には、互いのグラフェンシートGS1が完全に平行に延びているわけではない。各々の初期成長核で異なる方向にグラフェンシートGS1が成長するため、実際には、グラフェンシートGS1がランダムに合流して重ね合わせられた形状となっている(
図6参照)。
図3に示すように、隣り合う壁状のグラファイト間の距離をウォール間隔D1ということとする。
【0035】
このウォール間隔D1の平均値である平均ウォール間隔は、カーボンナノウォールCNW1の密度と関連している。つまり、平均ウォール間隔が広いほど、カーボンナノウォールCNW1の密度は低い。逆に、平均ウォール間隔が狭いほど、カーボンナノウォールCNW1の密度は高い。
【0036】
3-2.カーボンナノウォールの高さ
カーボンナノウォールCNW1の平均高さH1は50nm以上であるとよい。また、カーボンナノウォールCNW1の平均高さH1は、200nm以上であってもよい。カーボンナノウォールCNW1の平均高さH1が100nm以上の場合には、カーボンナノウォールCNW1を起点にしてリチウムが析出しやすい。平均高さH1が高いほど、成長時間が長くなる。すなわち、製造コストが高い。このため、例えば、平均高さH1は1μm以上10μm以下である。
【0037】
カーボンナノウォールCNW1の平均厚みW1は例えば、0.5nm以上100nm以下である。好ましくは、1nm以上50nm以下である。より好ましくは、1.5nm以上30nm以下である。
【0038】
グラファイトの層間隔は約0.35nmである。このため、10層のグラフェンシートGS1から構成されるカーボンナノウォールCNW1の厚さは約3.5nmである。製造条件に依存するが、カーボンナノウォールCNW1の平均的な厚みは約3.5nmであり、5層から20層のグラフェンシートGS1から構成されていると考えられる。カーボンナノウォールCNW1の厚みは、例えば、1.5nm以上7nm以下である。
【0039】
3-3.ウォール間隔
隣り合うカーボンナノウォールCNW1とカーボンナノウォールCNW1との間の平均ウォール間隔D1は、例えば、10nm以上500nm以下である。好ましくは、15nm以上100nm以下である。より好ましくは、20nm以上50nm以下である。これらの数値範囲は例示であり、上記以外の数値であってもよい。なお、カーボンナノウォールは長い壁が必ずしも並行して成長しているわけではなく、ウォール同士が互いに合流することがある(
図6参照)。そのため、この合流箇所付近におけるカーボンナノウォールCNW1同士の間隔は、その他の箇所におけるカーボンナノウォールCNW1同士の間隔より狭い。
【0040】
このように15nm以上100nm以下のウォール間隔D1のカーボンナノウォールCNW1を成長させるために、カーボンナノウォールCNW1の成長の起点である突起部PR1を第1面N1aに射影した面積は、20nm2 以上5000nm2 以下であることが好ましく、突起部PR1の密度は、3個/μm2 以上2500個/μm2 以下であることが好ましい。モデル化して考えると、以下のようになる。20nmのウォール間隔D1のカーボンナノウォールCNW1を成長させるためには、20nm間隔の格子点に1個の突起部PR1があり、その格子点にあるPR1を起点としてカーボンナノウォールCNW1が成長すればよい。この場合、突起部を半球状と仮定すると、直径10nm程度が好ましく、突起部PR1を第1面N1aに射影した面積は、約80nm2 になる。また、突起部PR1の密度は、2500個/μm2 となる。同様に、50nmのウォール間隔D1のカーボンナノウォールCNW1を成長させるためには、突起部PR1を第1面N1aに射影した面積は約500nm2 になり、突起部PR1の密度は、400個/μm2 となる。また、100nmのウォール間隔D1のカーボンナノウォールCNW1を成長させるためには、突起部PR1を第1面N1aに射影した面積は、約2000nm2 になり、突起部PR1の密度は100個/μm2 となる。すなわち、20nm以上100nm以下のウォール間隔D1のカーボンナノウォールCNW1を成長させるために、カーボンナノウォールCNW1の成長の起点である突起部PR1を第1面N1aに射影した面積は、80nm2 以上2000nm2 以下であることが好ましく、突起部PR1の密度は、100個/μm2 以上2500個/μm2 以下であることが好ましい。実際には、各格子点の全てに突起部PR1が存在する必要はなく、もう少し低密度の突起部PR1でもよいと考えられる。
【0041】
4.リチウムイオンの介在する充放電反応
4-1.充放電反応
負極NEは、カーボンナノウォールCNW1を有する。カーボンナノウォールCNW1は、1度の充電または放電において、炭素原子1個あたり2個以上のリチウムイオンを充放電反応に関与させることが可能である。
【0042】
ここで、充放電反応とは、例えば、下記の化学反応式で表される化学反応のことである。
Li+ + e- ⇔ Li …(1)
Li1-x CoO2 + xLi+ + xe- ⇔ LiCoO2 …(2)
式(1)は、負極活物質層N2における反応である。式(2)は、正極活物質層P2における反応である。いずれの反応も、リチウムイオンおよび電子が介在している。充放電反応とは、正極PEまたは負極NEにおいて、リチウムイオンが介在するとともに電子の授受が生じる化学反応のことである。この充放電反応により、リチウムイオンの吸蔵または放出、およびリチウムまたはリチウム化合物の析出、堆積、吸着、溶解などの現象が生じうる。なお、リチウムまたはリチウム化合物が析出等する場合には、充放電反応は正極活物質層P2または負極活物質層N2の外部で発生しうる。なお、正極活物質層P2および負極活物質層N2の材料によっては、充放電反応の種類は変わる。
【0043】
5.製造装置
負極集電体N1の第1面N1aにカーボンナノウォールCNW1を形成する製造装置について説明する。
【0044】
図4は、第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1におけるカーボンナノウォールCNW1を成長させる製造装置1の構成を示す概略構成図である。製造装置1は、プラズマ生成室46と、反応室10とを有している。プラズマ生成室46は、その内部でプラズマを発生させるとともに、反応室10に供給するラジカルをも発生させるためのものである。反応室10は、プラズマ生成室46で生じたラジカルを利用して、カーボンナノウォールCNW1を形成するためのものである。
【0045】
また、製造装置1は、導波路47と、石英窓48と、スロットアンテナ49とを、有している。導波路47は、マイクロ波39を導入するためのものである。スロットアンテナ49は、石英窓48からプラズマ生成室46にマイクロ波39を導入するためのものである。
【0046】
プラズマ生成室46は、マイクロ波39により表面波プラズマ(SWP)を発生させるためのものである。プラズマ生成室46には、ラジカル源導入口42が設けられている。ラジカル源導入口42は、プラズマ生成室46に発生するプラズマ61の内部にラジカル源となるガスを供給するためのものである。
【0047】
プラズマ生成室46と、反応室10との間には、隔壁44が設けられている。隔壁44は、プラズマ生成室46と、反応室10とを仕切るためのものである。隔壁44は、電圧を印加するための第1電極22も兼ねている。そして、隔壁44には、貫通孔14が形成されている。プラズマ生成室46で生成されたラジカルを反応室10に供給するためである。
【0048】
反応室10は、容量結合型プラズマ(CCP)を発生させるためのものである。また、反応室10は、負極集電体N1にカーボンナノウォールCNW1を形成するためのものでもある。反応室10は、第2電極24と、ヒーター25と、原料導入口12と、排気口16とを有している。第2電極24は、第1電極22との間に電圧を印加するためのものである。ヒーター25は、負極集電体N1を加熱して、負極集電体N1の温度を制御するためのものである。原料導入口12は、カーボンナノウォールの原料となる炭素系ガス32を供給するためのものである。排気口16は、真空ポンプ等に接続されている。真空ポンプは、反応室10の内部の圧力を調整するためのものである。
【0049】
前述のように、隔壁44は、第2電極24との間に電圧を印加するための第1電極22を兼ねている。第1電極22には、電源および回路が接続されている。第1電極22の電位を時間的に制御するためである。第2電極24は、第1電極22との間に電圧を印加するためのものである。そして、第2電極24は、負極集電体N1を載置するための載置台でもある。第2電極24は、接地されている。第1電極22と第2電極24との間の距離は約5cmである。もちろん、この値に限らない。
【0050】
6.負極の製造方法
6-1.突起部形成工程
まず、製造装置1の内部に、カーボンナノウォールCNW1を形成する前の負極集電体N1を載置する。このとき、負極集電体N1の第1面N1aが上になっており、第2面N1bが第2電極24に接触している。次に、マイクロ波39を導波路47に導入する。マイクロ波39は、スロットアンテナ49により、石英窓48から、プラズマ生成室46に導入される。これにより、高密度プラズマ60が発生する。
【0051】
そして、この高密度プラズマ60がプラズマ生成室46の内部で拡散して、プラズマ61となる。このプラズマ61は、ラジカル源導入口42から供給されるラジカル源のイオンを含んでいる。ラジカル源として、水素ガスを含むガスを用いる。プラズマ61中の大部分のイオンは、隔壁44に引き寄せられて衝突する。プラズマ61中のラジカル38は、隔壁44に引き寄せられることなく隔壁44の貫通孔14を通過して、反応室10に入る。そして、第1電極22と、第2電極24との間に電圧を印加する。これにより、反応室10の内部にプラズマ34が発生する。
【0052】
プラズマ34の雰囲気中には、ラジカル38が存在している。そして、このプラズマ34の雰囲気中で負極集電体N1の第1面N1aに突起部PR1が成長する。その際に、負極集電体N1の第1面N1aから銅の粒子GR1が飛散し、負極集電体N1の第1面N1aに再付着する。
【0053】
反応室10の内部の圧力は、5~2000mTorr(0.65Pa~267Pa)の範囲内である。また、負極集電体N1の温度は、0℃以上500℃未満の範囲内である。好ましくは、0℃以上400℃以下である。もちろん、これらは例示であり、これらの数値範囲に限らない。
【0054】
6-2.カーボンナノウォール成長工程
続いて、製造装置1の内部で、突起部PR1の上にカーボンナノウォールCNW1を成長させる。突起部PR1を成長させる場合と同様に、プラズマ61を発生させる。反応室10の内部には、ラジカル38の他に、原料導入口12から炭素系ガス32を供給する。ラジカル38のラジカル源として水素ガスを用い、炭素系ガス32として、例えば、CH4 やC2 F6 を用いる。もちろん、それ以外のものであってもよい。また、これらのガスにAr等の希ガスを追加してもよい。
【0055】
このように、製造装置1の内部で炭素原子を含むガスをプラズマ化して負極集電体N1に供給する。負極集電体N1の第1面N1aの突起部PR1を成長起点として、突起部PR1の上にカーボンナノウォールを成長させる。
【0056】
反応室10の内部の圧力は、5~2000mTorr(0.65Pa~267Pa)の範囲内である。また、負極集電体N1の温度は、0℃以上500℃以下の範囲内である。もちろん、これらは例示であり、これらの数値範囲に限らない。
【0057】
このように、第1の実施形態では、水素ガスを含むガスをプラズマ化して金属基板に供給し、金属基板の第1面の上に金属基板と同じ材質の複数の粒子を第1面と融合させた突起部を形成する。炭素原子を含むガスをプラズマ化して金属基板に供給し、金属基板の第1面の突起部の上にカーボンナノウォールを成長させる。
【0058】
8.第1の実施形態の効果
第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1の負極NEは、突起部PR1を有する。突起部PR1は、複数の粒子GR1が集合した集合体が負極集電体N1の第1面N1aに融合したものである。このため、突起部PR1を起点にしてカーボンナノウォールCNW1が生成されやすい。したがって、カーボンナノウォールCNW1の成膜温度は、0℃以上500℃以下であり、従来の成膜温度よりも低い。
【0059】
9.変形例
9-1.アモルファスカーボン層
負極NEは、アモルファスカーボン層AC1を有していてもよい。アモルファスカーボン層AC1は、導電性である。アモルファスカーボン層AC1は、負極集電体N1の第1面N1aとカーボンナノウォールCNW1との間に位置している。アモルファスカーボン層AC1は、カーボンナノウォールCNW1を構成するグラフェンシートGS1の成長の起点となり得る層である。アモルファスカーボン層AC1の膜厚は、例えば、10nm以上300nm以下である。好ましくは、10nm以上100nm以下である。より好ましくは、12nm以上30nm以下である。
【0060】
9-2.製造装置
第1の実施形態では、製造装置1の内部で突起部形成工程およびカーボンナノウォール成長工程を続けて実施する。しかし、突起部形成工程およびカーボンナノウォール成長工程を別々の装置で実施してもよい。また、製造装置1以外のプラズマを用いた成膜装置を用いてもよい。
【0061】
9-3.突起部形成工程
突起部形成工程として別の処理を行ってもよい。突起部形成工程における処理として、例えば、プレスなどの圧力処理、薬液処理、銅またはアルミニウムのターゲットを用いたスパッタリング等が挙げられる。
【0062】
9-4.金属基板
金属基板は、銅とアルミニウムとの少なくとも一方を含有するとよい。例えば、金属基板は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金を含有する。また、金属基板の形状は、板、箔、その他の形状であってもよい。
【0063】
9-5.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてよい。
【実施例0064】
(実験)
1.突起部の形成
製造装置1の内部で銅箔(銅基板)の上に突起部PR1を形成した。その際の条件を表1に示す。水素ガスの流量は50sccmであった。Arの流量は5sccmであった。マイクロ波の電力(MW電力)は400Wであった。電極間に印加した電力(CCP電力)は400Wであった。ヒーター25の温度は560℃であった。処理時間は10分であった。
【0065】
なお、製造装置1の内部にはカーボンナノウォールCNW1の原料ガスとなる炭素系ガス32を供給していない。このため、水素ガスのプラズマが発生し、水素ラジカルが銅箔に供給される。
【0066】
[表1]
条件 突起部形成工程
H2 (sccm) 50
Ar(sccm) 5
MW電力(W) 400
CCP電力(W) 400
圧力(Pa) 2
ヒーター温度(℃) 560
処理時間(min) 10
【0067】
図5は、銅箔の上に水素ラジカルを照射した後の銅箔の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(その1)である。
図5には、銅箔の表面に多数の銅の粒子が堆積し、突起部を形成している様子が示されている。観察される粒子の形状から、水素ラジカルの照射により銅箔から叩き出された銅粒子が銅箔の表面に再付着したものと考えられる。
【0068】
2.突起部およびカーボンナノウォールの形成
2-1.成膜
製造装置1の内部で銅箔(銅基板)の上に突起部PR1およびカーボンナノウォールCNW1を形成した。その際の条件を表2に示す。なお、突起部PR1およびカーボンナノウォールCNW1を成長させる際に、ヒーター25の温度を室温(RT)から500℃の間で変化させた。
【0069】
[表2]
条件 突起部形成工程 CNW成長工程
CH4 (sccm) 0 100
H2 (sccm) 50 50
Ar(sccm) 5 5
MW電力(W) 400 400
CCP電力(W) 400 400
圧力(Pa) 2 1
ヒーター温度(℃) 20-500 20-500
処理時間(min) 10 10
【0070】
2-2.カーボンナノウォールの写真
図6は、ヒーター設定温度が500℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。基板温度はヒーター設定温度とプラズマが基板に与えるエネルギーとにより決まる。プラズマからの粒子が基板に衝突するために、基板温度はヒーター設定温度より高温になることがあるが、これらの温度はおおむね同程度であると推定される。
図6に示すように、カーボンナノウォールがランダムに成長し、ウォールが互いに合流している。
【0071】
図7は、ヒーター設定温度が500℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図7に示すように、10分間の成膜により高さ1μmのカーボンナノウォールが成膜された。
【0072】
図8は、ヒーター設定温度が400℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図8に示すように、カーボンナノウォールがランダムに成長し、ウォールが互いに合流している。
【0073】
図9は、ヒーター設定温度が400℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図9に示すように、10分間の成膜により高さ900nmのカーボンナノウォールが成膜された。
【0074】
図10は、ヒーター設定温度が300℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図10に示すように、カーボンナノウォールがランダムに成長し、ウォールが互いに合流している。
【0075】
図11は、ヒーター設定温度が300℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図11に示すように、10分間の成膜により高さ850nmのカーボンナノウォールが成膜された。
【0076】
図12は、ヒーター設定温度が200℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図12に示すように、カーボンナノウォールがランダムに成長し、ウォールが互いに合流している。
【0077】
図13は、ヒーター設定温度が200℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図13に示すように、10分間の成膜により高さ750nmのカーボンナノウォールが成膜された。
【0078】
図14は、ヒーター設定温度が20℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図14に示すように、カーボンナノウォールがランダムに成長し、ウォールが互いに合流している。
【0079】
図15は、ヒーター設定温度が20℃で成長させたカーボンナノウォールの断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図15に示すように、10分間の成膜により高さ800nmのカーボンナノウォールが成膜された。
【0080】
図16は、水素ラジカルを照射することなくヒーター設定温度が500℃で成長させたカーボンナノウォールの表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。この場合には、突起部PR1は形成されない。
図16に示すように、水素ラジカルを照射しなかった場合であってもカーボンナノウォールはわずかに成長している。しかし、カーボンナノウォールの密度は疎である。このため、このカーボンナノウォールはリチウムイオン二次電池の負極に用いるにはカーボンナノウォールの密度が不十分である。
【0081】
2-3.リチウムイオン二次電池
第1の実施形態のリチウムイオン二次電池LiB1を製造した。正極集電体P1はアルミニウムであり、正極活物質はコバルト酸リチウムであった。負極集電体N1は銅であり、負極活物質はカーボンナノウォールであった。電解液は1MのLiPF6 であった。正極活物質層は、直径1.6cmの領域であった。負極活物質層は、直径1.3cmの領域であった。
【0082】
正極活物質層は、コバルト酸リチウムと、導電助剤と、結着剤と、を含有する。導電助剤はアセチレンブラックであった。結着剤はPVDFであった。コバルト酸リチウムと、アセチレンブラックと、PVDFとの重量比は、100:5:3であった。
【0083】
図17は、ヒーター設定温度を500℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
図17の横軸は充放電容量である。
図17の縦軸は電圧である。充電電流または放電電流は0.5mAであった。
図17に示すように、リチウムイオン二次電池の放電容量は13.1mAhであった。
【0084】
図18は、ヒーター設定温度を400℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
図18の横軸は充放電容量である。
図18の縦軸は電圧である。充電電流または放電電流は0.5mAであった。
図18に示すように、リチウムイオン二次電池の放電容量は13.1mAhであった。
【0085】
図19は、ヒーター設定温度を300℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
図19の横軸は充放電容量である。
図19の縦軸は電圧である。充電電流または放電電流は0.5mAであった。
図19に示すように、リチウムイオン二次電池の放電容量は13.1mAhであった。
【0086】
図20は、ヒーター設定温度を200℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
図20の横軸は充放電容量である。
図20の縦軸は電圧である。充電電流または放電電流は0.5mAであった。
図20に示すように、リチウムイオン二次電池の放電容量は12.8mAhであった。
【0087】
図21は、ヒーター設定温度を20℃にして銅箔にカーボンナノウォールを成長させた負極を有するリチウムイオン二次電池の容量と電圧との間の関係を示すグラフである。
図21の横軸は充放電容量である。
図21の縦軸は電圧である。充電電流または放電電流は0.5mAであった。
図21に示すように、リチウムイオン二次電池の放電容量は13.1mAhであった。
【0088】
3.粒子
3-1.プラズマ装置
この実験においては、製造装置1の代わりに、誘導結合プラズマ(ICP)装置を用いて突起部形成工程を実施した。表3は、ICP装置における処理条件を示している。
【0089】
[表3]
条件 突起部形成工程
H2 (sccm) 100
Ar(sccm) 15
ICP電力(W) 1000
圧力(Pa) 3
ヒーター温度(℃) 560
処理時間(min) 10
【0090】
3-2.水素ガスの供給量と突起部
水素ガスの供給量を変化させて突起部の数および大きさについて調べた。なお、第2電極24に印加するバイアスは0Vであった。
【0091】
図22は、銅箔の上に水素ラジカルを照射した後の銅箔の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(その2)である。
【0092】
図23は、銅箔の上に水素ラジカルを照射した後の銅箔の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(その3)である。
図23は
図22の一部を拡大した写真である。白くなっている領域が突起部の領域である。
【0093】
図24は、
図23の線上の凹凸の測定結果を示すグラフである。
図24の横軸は位置である。
図24の縦軸は基準面からの高さである。
図24に示すように、高さ200nm程度、幅200nm程度の突起部が観測されている。
図24からも推定されるように、突起部の高さと幅は同程度である。
【0094】
走査型電子顕微鏡における白い領域の面積を走査型電子顕微鏡の機能を用いて測定した。白い領域の面積が突起部の二次元的な大きさに該当する。
【0095】
図25は、水素の供給量と突起部の面積が10nm
2 以上100nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
図25の横軸は水素の供給量(sccm)である。
図25の縦軸は10μm
2 あたりの突起部の個数である。水素の供給量が100sccmの場合に、面積が10nm
2 以上100nm
2 以下の小さい突起部の数が多い傾向にある。
【0096】
図26は、水素の供給量と突起部の面積が100nm
2 以上1000nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
図26の横軸は水素の供給量(sccm)である。
図26の縦軸は10μm
2 あたりの突起部の個数である。水素の供給量が50sccmの場合に、面積が100nm
2 以上1000nm
2 以下の中程度の突起部の数が多い傾向にある。
【0097】
図27は、水素の供給量と突起部の面積が1000nm
2 以上10000nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
図27の横軸は水素の供給量(sccm)である。
図27の縦軸は10μm
2 あたりの突起部の個数である。水素の供給量が100sccmの場合に、面積が1000nm
2 以上10000nm
2 以下の大きい突起部の数が多い傾向にある。
【0098】
図28は、水素の供給量と突起部の個数との関係を示すグラフである。
図28の横軸は水素の供給量(sccm)である。
図28の縦軸は10μm
2 あたりの突起部の個数である。水素の供給量が100sccmの場合に、突起部の数が多い傾向にある。
【0099】
このように、水素の供給量が100sccmの場合に、突起部の数が多い傾向にある。この場合には、小さい突起部と大きい突起部との数が多い。
【0100】
水素の供給量が50sccmの場合に、面積が100nm2 以上1000nm2 以下の中程度の突起部の数が多い傾向にある。このときには、大きい突起部および小さい突起部の数がそれほど多くない。したがって、この場合には、突起部の大きさが中程度に揃っている。
【0101】
3-3.バイアスと突起部
水素の供給量を100sccmとし、第2電極24に印加するバイアスを変化させた。第2電極24に印加するバイアスはDCバイアスである。
【0102】
図29は、バイアスの大きさと突起部の面積が10nm
2 以上100nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
図29の横軸はバイアスである。
図29の縦軸は10μm
2 あたりの突起部の個数である。
図29に示すように、負のバイアスを印加することにより、突起部の面積が10nm
2 以上100nm
2 以下の突起部の個数は減少する。
【0103】
図30は、バイアスの大きさと突起部の面積が100nm
2 以上1000nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
図30の横軸はバイアスである。
図30の縦軸は10μm
2 あたりの突起部の個数である。
図30に示すように、-25Vのバイアスを印加した場合に、突起部の面積が100nm
2 以上1000nm
2 以下の突起部の個数が最も多い。このため、面積が100nm
2 以上1000nm
2 以下の突起部の個数が多い基板を形成する場合には、-25V程度のバイアスを印加することが好ましい。
【0104】
図31は、バイアスの大きさと突起部の面積が1000nm
2 以上10000nm
2 以下の突起部の個数との関係を示すグラフである。
図31の横軸はバイアスである。
図31の縦軸は10μm
2 あたりの突起部の個数である。
図31に示すように、-50Vのバイアスを印加した場合に、突起部の面積が1000nm
2 以上10000nm
2 以下の突起部の個数が最も多い。このため、面積が1000nm
2 以上10000nm
2 以下の突起部の個数が多い基板を形成する場合には、-50V程度のバイアスを印加することが好ましい。
【0105】
図32は、バイアスの大きさと突起部の個数との関係を示すグラフである。
図32の横軸はバイアスである。
図32の縦軸は10μm
2 あたりの突起部の個数である。負のバイアスを印加する場合には、バイアスの絶対値が大きいほど、突起部の数が減少する傾向にある。
【0106】
バイアスが0Vの場合には、面積が10nm2 以上100nm2 以下の小さい突起部の数が多い傾向にある。バイアスが-25Vの場合には、面積が100nm2 以上1000nm2 以下の中程度の突起部の数が多い傾向にある。バイアスが-50Vの場合には、面積が1000nm2 以上10000nm2 以下の大きい突起部の数が多い傾向にある。バイアスが-100Vの場合には、突起部の大きさによらず突起部が形成されにくい傾向にある。
【0107】
負のバイアスの絶対値が大きいほど、水素イオンが基板に衝突しやすい。また、水素イオンの運動エネルギーも高い。
【0108】
このように、水素の供給量とバイアスの値とを選択することにより、基板に形成される突起部の大きさおよび個数をある程度制御することができる。
【0109】
図33は、水素の供給量が100sccmであるとともにバイアスが-25Vの場合の基板の表面を示す顕微鏡写真である。
図33に示すように、比較的多くの突起部が形成されている。
【0110】
図34は、
図33の基板の上にカーボンナノウォールを成長させた場合を示す顕微鏡写真である。カーボンナノウォールは十分に成長し、互いに合流している。
【0111】
図35は、水素の供給量が100sccmであるとともにバイアスが-100Vの場合の基板の表面を示す顕微鏡写真である。
図35に示すように、突起部は疎らに存在し、その数は少ない。
【0112】
図36は、
図35の基板の上にカーボンナノウォールを成長させた場合を示す顕微鏡写真である。カーボンナノウォールも疎らに成長し、ウォール間隔も広い。すなわち、カーボンナノウォールの密度は低い。
【0113】
したがって、カーボンナノウォールを成長させる際に、突起部の数が大きいほうがカーボンナノウォールの密度が高い傾向にある。
【0114】
(付記)
第1の態様におけるカーボンナノウォール成長用金属基板は、第1面を有する金属基板を有する。金属基板は、第1面に複数の突起部を有する。突起部を第1面に射影した射影領域の面積は、10nm2 以上10000nm2 以下である。突起部の密度は、1個/μm2 以上1000個/μm2 以下である。
【0115】
第2の態様におけるカーボンナノウォール成長用金属基板においては、突起部は、金属基板と同じ材質であるとともに、金属基板の第1面と融合して金属基板と一体となっている。
【0116】
第3の態様におけるカーボンナノウォール成長用金属基板においては、銅とアルミニウムとの少なくとも一方を含有する。
【0117】
第4の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板は、第1面を有する金属基板と、金属基板の第1面の上に形成されたカーボンナノウォールと、を有する。金属基板は、第1面に複数の突起部を有する。突起部を第1面に射影した射影領域の面積は、10nm2 以上10000nm2 以下である。突起部の密度は、1個/μm2 以上1000個/μm2 以下である。カーボンナノウォールは、突起部を跨いでいる。
【0118】
第5の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板においては、突起部は、金属基板と同じ材質であるとともに、金属基板の第1面と融合して金属基板と一体となっている。
【0119】
第6の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板においては、金属基板が銅板または銅箔である。
【0120】
第7の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板は、金属基板の第1面とカーボンナノウォールとの間にアモルファスカーボン層を有する。
【0121】
第8の態様におけるカーボンナノウォール成長用金属基板の製造方法においては、水素ガスを含むガスをプラズマ化して金属基板に供給し、金属基板の第1面の上に金属基板と同じ材質からなる複数の突起部を形成する。
【0122】
第9の態様におけるカーボンナノウォール成長用金属基板の製造方法においては、突起部は、金属基板と同じ材質であるとともに、金属基板の第1面と融合させたものである。
【0123】
第10の態様におけるカーボンナノウォール成長用金属基板の製造方法においては、金属基板が銅板または銅箔である。
【0124】
第11の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法においては、カーボンナノウォール成長用金属基板に、炭素原子を含むガスをプラズマ化して金属基板に供給し、金属基板の第1面の突起部を成長起点として、カーボンナノウォールを成長させる。
【0125】
第12の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法においては、水素ガスを含むガスをプラズマ化して金属基板に供給し、金属基板の第1面の上に金属基板と同じ材質からなる複数の突起部を形成し、炭素原子を含むガスをプラズマ化して金属基板に供給し、金属基板の第1面の突起部を成長起点として、カーボンナノウォールを成長させる。
【0126】
第13の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法においては、突起部は、金属基板と同じ材質であるとともに、金属基板の第1面と融合させたものである。
【0127】
第14の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法においては、金属基板が銅板または銅箔である。
【0128】
第15の態様におけるカーボンナノウォール付き金属基板の製造方法においては、カーボンナノウォールを成長させる際の金属基板の温度が、0℃以上500℃未満である。