(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018788
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】姿勢変換装置
(51)【国際特許分類】
A61G 5/14 20060101AFI20220120BHJP
A61G 7/053 20060101ALI20220120BHJP
A61G 7/14 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A61G5/14
A61G7/053
A61G7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122140
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(71)【出願人】
【識別番号】599126017
【氏名又は名称】日邦プレシジョン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516137786
【氏名又は名称】株式会社土橋製作所
(71)【出願人】
【識別番号】520264678
【氏名又は名称】小林 弘
(71)【出願人】
【識別番号】520264508
【氏名又は名称】矢里 晴司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】寺田 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】牧野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】田口 稔仁
(72)【発明者】
【氏名】村松 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松野 博史
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘
(72)【発明者】
【氏名】矢里 晴司
【テーマコード(参考)】
4C040
【Fターム(参考)】
4C040AA08
4C040GG14
4C040JJ02
4C040JJ08
(57)【要約】
【課題】装置に大きな負荷をかけることなく着座状態から非着座状態へと変換することの可能な姿勢変換装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば、要介護者の前方に配置して、当該要介護者の姿勢を着座状態から非着座状態に変換させるための姿勢変換装置であって、台座部と、伸縮駆動手段と、ベルトと、膝当てとを備え、前記伸縮駆動手段は、前記台座部に支持されるシリンダ部と、当該シリンダ部に対して伸縮可能なロッド部とを備え、前記ベルトは、前記ロッド部に取り付けられるとともに前記要介護者の腰部を保持可能に構成され、前記膝当ては、前記要介護者の膝が当接可能な位置に配置されており、前記シリンダ部は、前記ロッド部が鉛直軸に対して前記前方に0度~90度傾いた方向に伸長するよう前記台座部に支持され、前記ベルトによって前記要介護者の腰部を保持しつつ前記要介護者の膝を前記膝当てに当接させた状態で前記ロッド部を伸長させることで、前記要介護者の姿勢を変換させる、姿勢変換装置が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
要介護者の前方に配置して、当該要介護者の姿勢を着座状態から非着座状態に変換させるための姿勢変換装置であって、
台座部と、伸縮駆動手段と、ベルトと、膝当てとを備え、
前記伸縮駆動手段は、前記台座部に支持されるシリンダ部と、当該シリンダ部に対して伸縮可能なロッド部とを備え、
前記ベルトは、前記ロッド部に取り付けられるとともに前記要介護者の腰部を保持可能に構成され、
前記膝当ては、前記要介護者の膝が当接可能な位置に配置されており、
前記シリンダ部は、前記ロッド部が鉛直軸に対して前記前方に0度~90度傾いた方向に伸長するよう前記台座部に支持され、
前記ベルトによって前記要介護者の腰部を保持しつつ前記要介護者の膝を前記膝当てに当接させた状態で前記ロッド部を伸長させることで、前記要介護者の姿勢を変換させる、姿勢変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の姿勢変換装置であって、
前記シリンダ部は、前記ロッド部が前記鉛直軸に対して前記前方に10度以上傾いた方向に伸長するよう前記台座部に支持される、姿勢変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の姿勢変換装置であって、
前記シリンダ部は、前記非着座状態において、当該シリンダ部及び前記ロッド部と前記要介護者の膝から上の部分とで略Vの字を形成してバランスを取ることができるよう配置される、姿勢変換装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れかに記載の姿勢変換装置であって、
前記台座部は、前記要介護者の足を乗せるステップを備える、姿勢変換装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れかに記載の姿勢変換装置であって、
第1の車輪及び第2の車輪をさらに備え、
前記第1の車輪は前記膝当てよりも前記前方側において前記台座部に取り付けられ、
前記第2の車輪は前記膝当てよりも前記要介護者側において前記台座部に取り付けられている、姿勢変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載の姿勢変換装置であって、
前記台座部に支持されるとともに前記前方側に延びるハンドルを備え、
前記ハンドルを用いて、前記要介護者を介護者によって前記非着座状態のまま移動可能に構成される、姿勢変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要介護者の姿勢を着座状態から非着座状態に変換させるための姿勢変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自力で立ち上がることが困難な要介護者を車椅子やベッド等の間で移乗させるための、姿勢変換装置がある。例えば、特許文献1には、腰部及び臀部を支持するスリング(ベルト)と胸部を支持する胸パッドと取り付けたアームをねじ駆動機構(伸縮駆動手段)によって回動させることで、要介護者を立位姿勢にすることの可能な姿勢変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、要介護者に向かって延びるアームによって要介護者の上体を完全に持ち上げる構成である。したがって、要介護者の自重と、アーム及び伸縮駆動手段自体の自重とによって、アーム及び伸縮駆動手段を支持する支柱やフレーム(台座部)に大きなモーメントが加わってしまっていた。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、要介護者の姿勢を、装置に大きな負荷をかけることなく着座状態から非着座状態へと変換することの可能な姿勢変換装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、要介護者の前方に配置して、当該要介護者の姿勢を着座状態から非着座状態に変換させるための姿勢変換装置であって、台座部と、伸縮駆動手段と、ベルトと、膝当てとを備え、前記伸縮駆動手段は、前記台座部に支持されるシリンダ部と、当該シリンダ部に対して伸縮可能なロッド部とを備え、前記ベルトは、前記ロッド部に取り付けられるとともに前記要介護者の腰部を保持可能に構成され、前記膝当ては、前記要介護者の膝が当接可能な位置に配置されており、前記シリンダ部は、前記ロッド部が鉛直軸に対して前記前方に0度~90度傾いた方向に伸長するよう前記台座部に支持され、前記ベルトによって前記要介護者の腰部を保持しつつ前記要介護者の膝を前記膝当てに当接させた状態で前記ロッド部を伸長させることで、前記要介護者の姿勢を変換させる、姿勢変換装置が提供される。
【0007】
本発明によれば、伸縮駆動手段のシリンダ部が鉛直軸に対して要介護者の方向には傾いていないため、要介護者の自重と伸縮駆動手段自体の自重が台座部に対し同じ向きのモーメントを生じさせることはない。したがって、要介護者の姿勢を、装置に大きな負荷をかけることなく着座状態から非着座状態へと変換することが可能となっている。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0009】
好ましくは、前記シリンダ部は、前記ロッド部が前記鉛直軸に対して前記前方に10度以上傾いた方向に伸長するよう前記台座部に支持される。
【0010】
好ましくは、前記シリンダ部は、前記非着座状態において、当該シリンダ部及び前記ロッド部と前記要介護者の膝から上の部分とで略Vの字を形成してバランスを取ることができるよう配置される。
【0011】
好ましくは、前記台座部は、前記要介護者の足を乗せるステップを備える。
【0012】
好ましくは、第1の車輪及び第2の車輪をさらに備え、前記第1の車輪は前記膝当てよりも前記前方側において前記台座部に取り付けられ、前記第2の車輪は前記膝当てよりも前記要介護者側において前記台座部に取り付けられている。
【0013】
好ましくは、前記台座部に支持されるとともに前記前方側に延びるハンドルを備え、前記ハンドルを用いて、前記要介護者を介護者によって前記非着座状態のまま移動可能に構成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る姿勢変換装置100を示す斜視図である。
【
図2】
図1の姿勢変換装置100を他の方向から見た斜視図である。
【
図7】
図7Aは、
図1の姿勢変換装置100において、シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαを約0度にした様子を示す概念図であり、
図7Bは、同姿勢変換装置100において、シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαを約90度にした様子を示す概念図である。
【
図8】
図8Aは、本発明の変形例1に係る姿勢変換装置100を示す概念図であり、
図8Bは、本発明の変形例2に係る姿勢変換装置100を示す概念図である。
【
図9】
図9Aは、本発明の変形例3に係る姿勢変換装置100を示す概念図であり、
図9Bは、本発明の変形例4に係る姿勢変換装置100を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0016】
本実施形態に係る姿勢変換装置100は、要介護者A(
図5A及び
図5B参照)の姿勢を着座状態から非着座状態に変換させるためのものである。姿勢変換装置100は、自力で立ち上がることのできない又は立ち上がることが不自由な要介護者Aを、ベッドと車椅子の間、あるいは車椅子とトイレの間等で移乗させるために用いられる。例えば、要介護者Aを車椅子からベッドへ移乗させる場合、車椅子に着座した要介護者Aの上半身を車椅子の座面Xから浮かせて非着座状態とし(
図6A~
図6C参照)、この状態で姿勢変換装置100を移乗先のベッドの側方まで移動させ、その後、要介護者Aを非着座状態から着座状態とする。
【0017】
以下、このような用途で用いられる姿勢変換装置100の構成を具体的に説明する。なお、以下の説明においては、移乗前における着座状態の要介護者Aが向いている方向、すなわち要介護者Aの正面の方向を前方とし、これとは反対の方向、すなわち要介護者A側の方向を後方とする(
図5A及び
図5B参照)。また、前方を向いた状態での左右をそれぞれ左側、右側とする。
【0018】
1.構成
本実施形態に係る姿勢変換装置100は、
図1~
図4に示すように、台座部1と、伸縮駆動手段としての電動シリンダ2と、第1の車輪としての一対のタイヤ3と、第2の車輪としての一対のキャスタ4と、一対の膝当て5と、一対のハンドル6と、ベルト7(
図6A~
図6C参照)とを備える。
図1~
図4では、ベルト7の図示を省略している。
【0019】
台座部1は、フレーム10と、壁部材11と、シリンダ保持部12とを備える。フレーム10は、壁部材11と、一対のタイヤ3及び一対のキャスタ4とを支持する。フレーム10は、一般的な車椅子に用いられるフレームと同様、複数のパイプ又は中実の棒状体を組み合わせて構成され、例えば金属製とされる。フレーム10の上部には、アームサポート13が設けられる。なお、フレーム10の材質及び構造は、後述する各要素及び要介護者Aを支持可能な強度を有していれば特に限定されず、強度のほか、製造コストや意匠性等を考慮して設計される。
【0020】
壁部材11は、底壁部11aと、左右一対の側壁部11bとを備える。底壁部11aは、矩形且つ薄板状に形成され、床面からわずかに離間した位置に床面と平行に配置される。底壁部11aは、要介護者Aの足を乗せるためのステップとして利用される。
【0021】
一対の側壁部11bは、矩形且つ薄板状に形成され、底壁部11aの左右両縁から上方に向かって延びるよう構成される。一対の側壁部11bは、シリンダ保持部12を支持するよう構成される。また、本実施形態の側壁部11bは、姿勢変換装置100の使用時に要介護者Aとタイヤ3とを隔離するサイドガードとしても機能し、要介護者Aの手足や洋服等がタイヤ3に巻き込まれないようにしている。
【0022】
このような構成の壁部材11は、電動シリンダ2の下方と側方とを覆うよう配置され、断面形状が上向きに開口する略コの字形状となっている。本実施形態において、底壁部11aと一対の側壁部11bとからなる壁部材11は、1枚の金属板を折り曲げることで形成される。
【0023】
シリンダ保持部12は、一対の側壁部11bに支持され左右方向に延びる複数本の支持杆12aと、これら複数本の支持杆12aに支持される直方体形状の枠体12bとを備える。枠体12bは、左右方向の中央に配置される。支持杆12a及び枠体12bを構成する各棒状体はそれぞれ金属製とされる。シリンダ保持部12は、後述するように、電動シリンダ2のシリンダ部20を鉛直軸に対して前方に所定角度傾けた状態で支持する。また、シリンダ保持部12の後方側の支持杆12aは、左右一対の膝当て5を支持する。
【0024】
電動シリンダ2は、シリンダ部20と、ロッド部21とを備える。電動シリンダ2は、図示しない電源から供給された電力により、シリンダ部20に対しロッド部21が伸縮するよう構成される。電源は、コンセントを介して接続される家庭用電源であってもよく、姿勢変換装置100に搭載するバッテリであっても良い。本実施形態において、シリンダ部20は、ロッド部21が鉛直軸に対して前方に約30度傾いた方向に伸長するよう、シリンダ保持部12の枠体12bに支持される。すなわち、シリンダ部20は、その鉛直軸に対する傾きα(
図3参照)が約30度となるよう支持される。なお、伸縮駆動手段は、直動するものであれば電動シリンダではなくてもよく、例えば、油圧シリンダとすることも可能である。
【0025】
一対のタイヤ3及び一対のキャスタ4は、要介護者Aを姿勢変換装置100により非着座状態に持ち上げた状態で移動させ、移乗させるために用いられる。一対のタイヤ3は、その回転軸30がフレーム10に軸支されており、床面上を走行可能となっている。一対のタイヤ3は、後述する膝当て5よりも前方側に配置される。タイヤ3としては、一般的な車椅子に用いられるタイヤ(後輪)を用いることが可能である。ただし、姿勢変換装置100は要介護者Aが自走させる必要がないため、ハンドリムは設けられていない。また、一対のタイヤ3の間の幅(左右方向の距離)は、通常の車椅子の駆動輪間の幅よりも広くなっている。なお、タイヤ3の近傍には、タイヤ3の回転を規制するストッパ(図示せず)が設けられている。
【0026】
一対のキャスタ4は、フレーム10の後端部に取り付けられ、姿勢変換装置100を方向転換させるために用いられる。一対のキャスタ4は、後述する膝当て5よりも後方側、すなわち要介護者A側に配置される。キャスタ4も、一般的な車椅子に用いられるキャスタ(前輪)を用いることが可能である。ただし、上述したタイヤ3と同様、一対のキャスタ4の間の幅(左右方向の距離)は、通常の車椅子のキャスタ間の幅よりも広くなっている。
【0027】
一対の膝当て5は、シリンダ保持部12の支持杆12aに支持される。膝当て5は、電動シリンダ2を挟んで左右に1つずつ配置される(
図4参照)。また、膝当て5は、要介護者Aの膝又は脛の上部を保持するために設けられるものであり、要介護者Aの膝又は脛の上部が当接可能な位置に配置される。膝当て5は、要介護者A側に向かって凹となるよう湾曲し、且つ平面視が略C字形状となっている。なお、膝当て5は、要介護者Aの膝又は脛の上部が当接可能な位置に配置されていれば、支持杆12a以外に支持されていてもかまわない。
【0028】
一対のハンドル6は、フレーム10と一体的に形成され、前方に向かって延びている。本実施形態のハンドル6は、要介護者Aを非着座状態とした場合、すなわち電動シリンダ2のロッド部21が伸長した場合(
図6C参照)でも、介護者が両手で操作可能な長さとなっている。
【0029】
ベルト7は、
図6A~
図6Cに示すように、要介護者Aの腰部に巻いて要介護者Aを斜め前方へと引っ張るために用いられる。本実施形態において、ベルト7は、ベルト本体70と、腰当て71とを備える。ベルト本体70は、帯状に形成され、その両端部が電動シリンダ2のロッド部21の先端に取着される。ベルト本体70のロッド部21への取着方法は任意である。例えば、板状の固定部材72を準備し、ベルト本体70の両端部をロッド部21と固定部材72の間に挟んで固定部材72をねじによりロッド部21に取り付けることで、ベルト本体70をロッド部21に固定することができる。なお、ベルト本体70の長さは、固定部材72により固定する位置を変更することで調整する構成としてもよく、面ファスナなどでベルト7をロッド部21に固定したあとに調整できる構成としても良い。
【0030】
腰当て71は、ベルト本体70よりも幅広に形成され、要介護者Aの腰部にあてがうことでベルト本体70と要介護者Aの間に配置し、要介護者Aを保持する。
【0031】
2.動作
次に、
図5A~
図6Cを用いて、上記構成の姿勢変換装置100によって要介護者Aの姿勢を着座状態から非着座状態に変換させる動作を説明する。
図5A及び
図5Bでは、要介護者Aが車椅子に着座した状態を示しているが、ベッド等に着座した状態から非着座状態へと変換させる場合の動作も基本的に同一である。なお、
図6A~
図6Cでは、簡単のため、車椅子については座面Xのみを示し、姿勢変換装置100については電動シリンダ2、ステップとしての底壁部11a、膝当て5及びベルト7のみを示している。
【0032】
要介護者Aの姿勢を着座状態から非着座状態にするには、まず、
図5Aに示すように、要介護者Aが着座する車椅子の正面に姿勢変換装置100を配置し、姿勢変換装置100を要介護者Aに接近させる(図の矢印参照)。この際、姿勢変換装置100の一対のキャスタ4の間の幅は、車椅子のキャスタ間の幅よりも広くなっていることから、
図5Bに示すように、姿勢変換装置100のキャスタ4と車椅子のキャスタが干渉しない。これにより、姿勢変換装置100を要介護者Aに近接させ、要介護者Aの足を底壁部11aに乗せるとともに、要介護者Aの膝を姿勢変換装置100の膝当て5に当接させることが可能となっている(
図6A参照)。
【0033】
次に、
図6Aに示すように、両端部が電動シリンダ2のロッド部21に固定され環状になったベルト7を要介護者Aに掛け、その腰当て71を要介護者Aの腰部にあてがう。
【0034】
そして、このようにベルト7によって要介護者Aの腰部を保持し、要介護者Aの膝を膝当て5に当接させた状態で、電動シリンダ2のロッド部21を伸長させる。すると、
図6Bに示すように、要介護者Aは、膝の位置が膝当て5によって規制された状態で上体が引っ張られ、上体が座面Xから持ち上がる。
【0035】
その後、
図6Bの状態からさらに電動シリンダ2のロッド部21を伸長させ、要介護者Aの上体をさらに持ち上げる。すると、
図6Cに示すように、電動シリンダ2(シリンダ部20及びロッド部21)と要介護者Aの膝から上の部分とで、略Vの字が形成される。要介護者Aが非着座状態となった
図6Bの状態から
図6Cの状態にかけて、電動シリンダ2と要介護者Aの自重がベルト7を介して釣り合い、バランスが取れた状態となるため、要介護者Aの上体を安定して支持することが可能となっている。
【0036】
そして、
図6Cに示すように要介護者Aを非着座状態としたまま、姿勢変換装置100を移乗先のベッド等所望の位置まで移動させ、電動シリンダ2のロッド部21を収縮させると、
図6Bの状態を経て
図6Aの着座状態へと要介護者Aの姿勢が変換される。
【0037】
3.シリンダ部20の傾きαについて
ところで、シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαは、本実施形態においては約30度であるが、0度~90度であれば、最低限の姿勢変換動作を行うことが可能である。つまり、
図7Aに示すようにシリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαを約0度にした場合も、
図7Bに示すように傾きαを約90度にした場合も、要介護者Aを着座状態から非着座状態にすることができる。シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαを約90度又はこれに近い角度にする場合は、
図7Bに示すように、シリンダ部20を床面から離れた高さ位置に配置することが好適である。シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαを0度~90度の範囲とすれば、シリンダ部20が鉛直軸に対して要介護者Aの方向に傾くことはないため、要介護者Aの自重と電動シリンダ2自体の自重が台座部1に対し同じ向きのモーメントを生じさせることはない。したがって、要介護者Aの姿勢を、姿勢変換装置100に大きな負荷をかけることなく着座状態から非着座状態へと変換することが可能となっている。
【0038】
ただし、シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαは、腰部をうまく持ち上げることが可能な程度大きくしつつも、動作する床面積が広くならないような値を選択するのが好適である。すなわち、シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαが小さすぎる場合、ロッド部21の伸長によってベルト7により要介護者Aの腰部を持ち上げる角度が真上に近くなってしまい、腰部をうまく持ち上げることがやや困難になる。他方、シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαが大きすぎる場合は、ロッド部21がほぼ前方向に伸長することになり、動作する床面積を大きく取らなければならなくなる。
【0039】
以上の点を考慮すると、シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαは、10度以上とすることが好ましく、また、60度以下とすることが好ましい。傾きαは、好ましくは15度~45度であり、より好ましくは20度~40度であり、さらに好ましくは25度~35度である。シリンダ部20の鉛直軸に対する傾きαは、具体的には例えば、10,15,20,25,30,35,40,45,60度であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0040】
そして、このような範囲の傾きαであれば、電動シリンダ2(シリンダ部20及びロッド部21)と要介護者Aの膝から上の部分とで略Vの字を形成し、鉛直方向及び前後方向(水平方向)において力を釣り合わせることができるため、電動シリンダ2に加わる曲げモーメントを低減することが可能となっている。
【0041】
4.作用効果
以上のように、本実施形態の姿勢変換装置100は、電動シリンダ2のシリンダ部20が要介護者Aに対して前方に傾いていることから、ベルト7によって持ち上げられ重心が後方となる要介護者Aの自重と電動シリンダ2の自重が台座部1に対し同じ向きのモーメントを生じさせることはない。したがって、要介護者Aの姿勢を、姿勢変換装置100に大きな負荷をかけることなく着座状態から非着座状態へと変換することが可能となっている。また、シリンダ部20は、要介護者Aの非着座状態において、シリンダ部20及びロッド部21と要介護者Aの膝から上の部分とで略Vの字を形成するよう配置されていることから、ベルト7を介してこれらが釣り合うことでバランスが取れ、非着座状態を安定させることができる。
【0042】
また、電動シリンダ2と要介護者Aとがバランスを取ったまま要介護者Aを着座状態から非着座状態へと変換するため、要介護者Aを完全に持ち上げて非着座状態とする構成よりも電動シリンダ2のパワー抑えることができ、製造コスト及び消費電力を低減することも可能である。さらに、要介護者Aを支持するベルト7は要介護者Aの腰部のみを保持すればよいため、ベルトを要介護者Aの股の間を通す構成のように異性による介護が困難になることもない。
【0043】
また、本実施形態の姿勢変換装置100は、台座部1がステップとしての底壁部11aを備えており、また、タイヤ3及びキャスタ4を備えていることから、要介護者Aを非着座状態で移動させることができ、所望の場所に移乗させることができる。この際、介護者は前方側に延びるハンドル6を利用して、姿勢変換装置100の移動及び方向転換を容易に行うことが可能である。
【0044】
また、本実施形態において、タイヤ3は膝当て5よりも前方側において台座部1のフレーム10に取り付けられ、キャスタ4は膝当て5よりも後方側において台座部1のフレーム10に取り付けられている。このような構成により、姿勢変換装置100は、要介護者Aを非着座状態とした際に、前方側にも後方側にも転倒しない構成となっている。
【0045】
なお、本実施形態の姿勢変換装置100は、麻痺等により下肢の機能が低下した要介護者Aのバランス感覚を訓練する、機能訓練器具(リハビリテーション器具)として利用することもできる。すなわち、立ち上がり動作が困難となった要介護者Aが本姿勢変換装置100を用いて着座状態から非着座状態、非着座状態から着座状態の動作を繰り返すことで、立ち上がり動作の感覚を得ることができ、新しいバランス感覚を取得することも可能である。
【0046】
5.変形例
なお、本発明は、以下の態様でも実施可能である。
上述した実施形態の姿勢変換装置100において、ベルト7を引いて要介護者Aの上体を引き上げる駆動手段は伸縮駆動する電動シリンダ2であった。しかしながら、ベルト7を要介護者Aに対して斜め上方に引くことが可能であれば、駆動手段として、他の方式のものを用いることも可能である。ベルト7を要介護者Aに対して斜め上方に引くことで、要介護者Aの上体を重心が後方にある状態で持ち上げることができ、要介護者Aの上体を安定した状態で持ち上げることが可能となる。
【0047】
例えば、
図8Aに示すように、駆動手段2として、着座状態の要介護者Aの腰部よりも高い位置に配置された電動ウィンチ22を用いることも可能である。電動ウィンチ22によりベルト7を巻き取ることにより、要介護者Aの姿勢を着座状態から非着座状態へと変換することが可能である(変形例1)。
【0048】
また、
図8Bに示すように、駆動手段2として電動ウィンチ22を台座部1に載置し、着座状態の要介護者Aの腰部よりも高い位置に滑車23を配置することで電動ウィンチ22によるベルト7の巻取り方向を変更した構成とすることも可能である(変形例2)。滑車23を用いることで、電動ウィンチ22を変形例1のものよりも下方に配置し、姿勢変換装置100を安定させることが可能となる。
【0049】
また、
図9Aに示すように、駆動手段2として、伸縮駆動するシリンダ24と、左右方向の回転軸25に軸支されたアーム26とを備え、シリンダ24によりアーム26を回動させることでアーム26の先端に取り付けられたベルト7を引っ張る構成のものを用いることも可能である(変形例3)。このような構成でも、ベルト7を要介護者Aに対して斜め上方に引くことが可能である。
【0050】
さらに、
図9Bに示すように、駆動手段2として、回転駆動する円盤27とモータ(図示せず)とを備え、モータによって円盤27を回転駆動することで、円盤27の外周縁部に取り付けたベルト7を引く構成とすることも可能である(変形例4)。このような構成でも、ベルト7を要介護者Aに対して斜め上方に引くことが可能である。
【0051】
上述した実施形態の姿勢変換装置100は、第1の車輪としての一対のタイヤ3と第2の車輪としての一対のキャスタ4とを備えた4輪の構成であったが、第1の車輪又は第2の車輪を1つのみとして3輪で走行する構成とすることも可能である。
【0052】
また、上述した実施形態の姿勢変換装置100は、第1の車輪及び第2の車輪を備えるとともに、要介護者Aの足を乗せるステップとしての底壁部11aを備え、要介護者Aを非着座状態で移動可能に構成されていた。しかしながら、姿勢変換装置100を、第1の車輪、第2の車輪及び/又はステップを備えず、非着座状態では移動できない構成とすることも可能である。非着座状態では移動できない構成であっても、例えば、2つの車椅子の間での移乗が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 :台座部
2 :電動シリンダ(伸縮駆動手段)
3 :タイヤ(第1の車輪)
4 :キャスタ(第2の車輪)
5 :膝当て
6 :ハンドル
7 :ベルト
10 :フレーム
11 :壁部材
11a :底壁部(ステップ)
11b :側壁部
12 :シリンダ保持部
12a :支持杆
12b :枠体
13 :アームサポート
20 :シリンダ部
21 :ロッド部
30 :回転軸
70 :ベルト本体
71 :腰当て
72 :固定部材
100 :姿勢変換装置
A :要介護者
X :座面
α :傾き