(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187893
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】操船制御装置および操船システム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/02 20060101AFI20221213BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20221213BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20221213BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20221213BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G08G3/02 A
B63B79/40
B63H25/04 D
B63H21/21
B63B49/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096115
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 幸平
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181CC03
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF05
5H181FF14
5H181FF22
5H181FF27
5H181FF32
5H181FF40
5H181LL01
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】パターン航走機能を用いる操船時の利便性を向上できる操船制御装置、およびそれを備える操船システムを提供する。
【解決手段】操船制御装置20は、船舶の周囲の障害物を検出する障害物センサ27と、船舶をパターン航走させるために使用者によって操作されるパターン航走モードボタン26Bと、推進機10を制御するようにプログラムされたオートパイロットコントローラ26と、を含む。オートパイロットコントローラ26は、パターン航走モードボタン26Bによる指令に応じて、船舶をパターン航走させるように推進機10を制御するパターン航走コントローラ41と、船舶がパターン航走するときの予想航走水域を演算する予想航走水域演算ユニット43と、障害物センサ27が予想航走水域と干渉する障害物を検出するとパターン航走を中断または中止するパターン航走介入ユニット44とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に備えられる推進機を制御する操船制御装置であって、
前記船舶の周囲の障害物を検出する障害物センサと、
前記船舶を所定の航走パターンで航走させるために使用者によって操作されるパターン航走指令ユニットと、
前記推進機を制御するようにプログラムされたコントローラと、を含み、
前記コントローラは、
前記パターン航走指令ユニットによる指令に応じて前記所定の航走パターンで前記船舶を航走させるように前記推進機を制御するパターン航走コントローラと、
前記パターン航走指令ユニットによる指令に応じて前記所定の航走パターンで前記船舶が航走するときの予想航走水域を演算する予想航走水域演算ユニットと、
前記障害物センサが、前記予想航走水域と干渉する障害物を検出すると、前記所定の航走パターンでの前記船舶の航走を中断または中止するパターン航走介入ユニットと、
の機能を実行するようにプログラムされている、操船制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記船舶が時系列に従って順に通過すべき複数の通過ポイントを演算する通過ポイント演算ユニットの機能を実行するようにプログラムされており、
前記通過ポイント演算ユニットは、前記パターン航走指令ユニットによる指令に応じて、前記所定の航走パターンの航跡を前記船舶が描くように複数の通過ポイントを演算し、
前記パターン航走コントローラは、前記船舶が前記複数の通過ポイントを順に通過するように前記推進機を制御し、
前記予想航走水域演算ユニットは、前記複数の通過ポイントを通る予想航跡を前記予想航走水域として演算する、請求項1に記載の操船制御装置。
【請求項3】
前記パターン航走介入ユニットが前記所定の航走パターンでの前記船舶の航走を中断または中止すると、前記通過ポイント演算ユニットは、前記障害物センサが検出した障害物を回避する経路を通るように前記通過ポイントを再演算する、請求項2に記載の操船制御装置。
【請求項4】
前記パターン航走介入ユニットが前記所定の航走パターンでの前記船舶の航走を中断した後、前記パターン航走コントローラは、前記障害物センサが、前記予想航走水域と干渉する障害物を検出しない状態で、前記所定の航走パターンでの前記船舶の航走を再開するように前記推進機を制御する、請求項1~3のいずれか一項に記載の操船制御装置。
【請求項5】
前記船舶を航走させるルートを設定するために使用者によって操作されるルート設定ユニットをさらに含み、
前記パターン航走コントローラは、前記ルート設定ユニットによってルートが設定されているとき、当該設定されているルートに従って、前記所定のパターンで前記船舶を航走させるように前記推進機を制御する、請求項1~4のいずれか一項に記載の操船制御装置。
【請求項6】
前記パターン航走コントローラは、前記ルート設定ユニットによってルートが設定されていないとき、前記船舶の現在位置を基準として前記所定の航走パターンで前記船舶を航走させるように前記推進機を制御する、請求項5に記載の操船制御装置。
【請求項7】
推進機と、
前記推進機を制御する、請求項1~6のいずれか一項に記載の操船制御装置と、
を含む、操船システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操船制御装置および操船システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プレジャーボートと総称される小型船舶は、主に海洋レクリエーションの目的で使用される。たとえば、フィッシングのためにモータボート等の小型船舶を使用するとき、魚群を探しながら船舶を航走させる場合がある。たとえば、航跡が一定のパターンを描くように、海上を走査しながら船舶が航走させられる。一つの典型例は、ジグザグパターンの航跡を描くように船舶を航走させる場合である。
【0003】
航跡が一定のパターンを描くように操船者が操舵を行うためには、相応の操船技術が求められる。そこで、パターン操舵のための自動操船システムが船舶に搭載される場合がある。典型的な従来技術では、使用者がパターン操舵の指令を入力することによって、その時点の船舶の進行方向に沿う直線を中心線とする一定振幅のジグザグパターンの航跡を描くように自動操舵が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動操舵機能を利用しているときであっても、使用者には、船舶の周囲に注意を払うことが求められる。使用者は、自動操舵を継続することが適切でない状況であると判断すれば、自動操舵を中止して、手動操船に切り換える。たとえば、使用者は、ジグザグパターンのための自動操舵により、陸地や他の船舶に近づき過ぎると予想すると、自動操舵を中止する。
【0006】
一方、パターン操舵による自動操舵は、魚群を探す場合のように、使用者が他の作業を行うために操船から解放される目的で利用されるのが一般的である。そこで、本発明者は、パターン操舵による自動操船時の状況判断およびその対処に関して使用者を補助する機能を備えることにより、より利便性の高い操船システムを実現できると考えた。
この発明の一実施形態は、パターン航走機能を用いる操船時の利便性を向上できる操船制御装置、およびそれを備える操船システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一実施形態は、船舶に備えられる推進機を制御する操船制御装置を提供する。操船制御装置は、前記船舶の周囲の障害物を検出する障害物センサと、前記船舶を所定の航走パターンで航走させるために使用者によって操作されるパターン航走指令ユニットと、前記推進機を制御するようにプログラムされたコントローラと、を含む。前記コントローラは、前記パターン航走指令ユニットによる指令に応じて前記所定の航走パターンで前記船舶を航走させるように前記推進機を制御するパターン航走コントローラと、前記パターン航走指令ユニットによる指令に応じて前記所定の航走パターンで前記船舶が航走するときの予想航走水域を演算する予想航走水域演算ユニットと、前記障害物センサが、前記予想航走水域と干渉する障害物を検出すると、前記所定の航走パターンでの前記船舶の航走を中断(suspend)または中止(cancel)するパターン航走介入ユニットと、の機能を実行するようにプログラムされている。
【0008】
この構成によれば、使用者がパターン航走指令ユニットによって指令を与えることによって、パターン航走コントローラが推進機を制御し、それによって、船舶を所定の航走パターンで自動的に航走(以下「パターン航走」という。)させることができる。一方、予想航走水域演算ユニットによって、パターン航走による予想航走水域が演算される。そして、障害物センサが船舶の周囲において予想航走水域と干渉する障害物を検出すると、パターン航走介入ユニットがパターン航走に介入し、パターン航走を中断または中止させる。したがって、パターン航走時の周囲の状況への対処に関して使用者を支援できるので、パターン航走機能を用いる操船時の利便性を向上できる。
【0009】
船舶の周囲とは、具体的には、障害物センサの検出レンジを上限とする所定距離内の領域をいう。この場合の所定距離は、パターン航走の中断または中止によって、検出される障害物を回避できるように適切に定められることが好ましい。
障害物センサは、予想航走水域と干渉する位置に存在する場合に所定の航走パターンでの航走を中止することが適切な物体を障害物として検出する。このような障害物の典型例は、陸地、土地定着物(橋脚、突堤、防波堤、桟橋など)、浅瀬、他の船舶、水上/水中固定物(定置漁具など)である。
【0010】
「予想航走水域と障害物とが干渉する」とは、予想航走水域内に障害物が存在する場合のほか、予想航走水域と障害物とが所定距離以下に接近する場合を含む。
障害物センサの典型例は、ライダー(LiDAR: Light Detection and Ranging、光探知測距)、レーダー(Radar: Radio Detecting and Ranging、電波探知測距)、ミリ波レーダーなどである。その他、たとえば、GNSS(Global Navigation Satellite System)装置と地図データとによって、船舶の現在位置の周囲に陸地、橋脚、突堤、防波堤、桟橋等の障害物を検出することもでき、このような構成も障害物センサの一例であり得る。具体的には、ナビゲーション装置によって、目的地(対象物)として桟橋を設定している場合に、その目的地までの距離が所定値未満となれば、その目的地(対象物)を障害物と見なして、パターン航走を中断または中止してもよい。
【0011】
中断とは、パターン航走を一時的に止めることを意味し、その後にパターン航走が再開される余地のある状態をいう。中止とは、パターン航走を止めて、その後のパターン航走の再開を原則として前提としない場合をいう。
所定の航走パターンの一つの例は、基準線に沿って船舶が蛇行するジグザグパターンの航走である。所定の航走パターンの他の例は、基準位置を中心とした渦巻き状の経路に沿って船舶が基準位置から徐々に遠ざかるように航走するスパイラルパターンの航走である。これらの他にも、様々なパターンの航跡を描きながら船舶が航走するパターンが「所定の航走パターン」であり得る。
【0012】
予想航走水域は、船舶が航走する経路そのもの、すなわち、予想航跡であってもよい。また、予想航走水域は、前記予想航跡を包含する領域(たとえば、蛇行する予想航跡に対する包絡線で囲まれる帯状等の領域)であってもよい。
一つの実施形態では、前記コントローラは、前記船舶が時系列に従って順に通過すべき複数の通過ポイント(passing point)を演算する通過ポイント演算ユニットの機能を実行するようにプログラムされている。前記通過ポイント演算ユニットは、前記パターン航走指令ユニットによる指令に応じて、前記所定の航走パターンの航跡を前記船舶が描くように複数の通過ポイントを演算する。前記パターン航走コントローラは、前記船舶が前記複数の通過ポイントを順に通過するように前記推進機を制御する。前記予想航走水域演算ユニットは、前記複数の通過ポイントを通る予想航跡を前記予想航走水域として演算する。
【0013】
この構成では、パターン航走が指令されると、所定の航走パターンの航跡を船舶が描くように複数の通過ポイントが演算され、その複数の通過ポイントを順に通るように推進機が制御される。そして、複数の通過ポイントを通る予想航跡が演算され、その予想航跡が予想航走水域として利用される。つまり、障害物センサが、予想航跡と干渉する障害物を検出すると、パターン航走が中断または中止される。こうして、パターン航走のために演算される通過ポイントの情報を用いて予想航走水域の情報を得ることができるので、少ない演算量で、パターン航走機能の利便性を高めることができる。
【0014】
一つの実施形態では、前記パターン航走介入ユニットが前記所定の航走パターンでの前記船舶の航走を中断または中止すると、前記通過ポイント演算ユニットは、前記障害物センサが検出した障害物を回避する経路を通るように前記通過ポイントを再演算する。
この構成によれば、予想航走水域と干渉する障害物が検出されてパターン航走が中断または中止されると、障害物を回避する経路を通るように通過ポイントが再演算される。それにより、自動操船によって障害物を回避することができる。これにより、パターン航走機能の利便性を一層向上することができる。
【0015】
一つの実施形態では、前記パターン航走介入ユニットが前記所定の航走パターンでの前記船舶の航走を中断した後、前記パターン航走コントローラは、前記障害物センサが、前記予想航走水域と干渉する障害物を検出しない状態で、前記所定の航走パターンでの前記船舶の航走を再開するように前記推進機を制御する。
この構成によれば、予想航走水域と干渉する障害物が検出されると、パターン航走が中断される一方で、予想航走水域と干渉する障害物が検出されない状態に至ると、パターン航走が再開される。それにより、パターン航走の中断および再開を適切に行うことができ、かつそれらが自動的に実行されるので、パターン航走機能の利便性を向上できる。
【0016】
一つの実施形態では、前記操船制御装置は、前記船舶を航走させるルートを設定するために使用者によって操作されるルート設定ユニットをさらに含む。前記パターン航走コントローラは、前記ルート設定ユニットによってルートが設定されているとき、当該設定されているルートに従って、前記所定のパターンで前記船舶を航走させるように前記推進機を制御する。
【0017】
この構成によれば、船舶を航走させるルートを設定でき、さらにその設定されたルート上でパターン航走を行うことができる。それにより、パターン航走機能の利便性を一層向上できる。とくに、パターン航走機能を利用しようとする領域の付近の周辺環境を考慮してルートを設定しておくことにより、パターン航走機能を利用しやくすくなる。
一つの実施形態では、前記パターン航走コントローラは、前記ルート設定ユニットによってルートが設定されていないとき、前記船舶の現在位置を基準として前記所定の航走パターンで前記船舶を航走させるように前記推進機を制御する。
【0018】
この構成によれば、ルートが設定されていないときには、船舶の現在位置を基準にパターン航走を行うことができる。その場合に、障害物センサによって予想航走水域と干渉する障害物が検出されると、パターン航走を適切に中断または中止することができる。したがって、ルートを設定しない状況でも利用しやすいパターン航走機能を提供できる。
ルート設定がされていない場合、船舶の現在位置に加えて、船舶の現在の方位(船首方位)も基準として、パターン航走が実行されてもよい。
【0019】
この発明の一実施形態は、推進機と、前記推進機を制御する、前述の操船制御装置と、を含む、操船システムを提供する。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、パターン航走機能を用いる操船時の利便性を向上できる操船制御装置、およびそれを備える操船システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システムの構成を説明するためのブロック図である。
【
図2】
図2は、オートパイロットコントローラの機能的な構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、ルート設定装置におけるルート設定の例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、ルート追従モードが設定されていない状態でのパターン航走の例を説明するための図であり、ジグザグパターンによるパターン航走の例を示す。
【
図5】
図5は、ルート追従モードが設定されている状態でのジグザグパターンの航走の例を示す。
【
図6】
図6は、ルート追従モードが設定されていない状態でのスパイラルパターンによるパターン航走の例を示す。
【
図7】
図7は、ルート追従モードが設定されている状態でのスパイラルパターンの航走の例を示す。
【
図8A】
図8Aは、パターン航走介入ユニットの動作例を説明するため図である。
【
図8B】
図8Bは、パターン航走介入ユニットの動作例を説明するため図である。
【
図9】
図9は、パターン航走介入ユニットの他の動作例を説明するための図であり、ルート追従モードが設定されていない場合の動作例を示す。
【
図10】
図10は、ルート追従モードが設定されている状態で、かつスパイラルパターンで航走しているときのパターン航走介入ユニット44の動作例を示す。
【
図11】
図11は、ルート追従モードが設定されており、パターン航走が指令されていない場合の動作例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る操船システムの構成を説明するためのブロック図である。操船システムは、船舶に装備されて用いられる。船舶は、典型的には、プレジャーボートと呼ばれる小型船舶であってもよい。
操船システムは、推進機10A,10B(総称するときには「推進機10」という。)と、操船制御装置20とを含む。操船システムは、さらに、操船のために使用者によって操作される操作ユニット類30,32を含む。
【0023】
推進機10は、この実施形態では複数個(より具体的には2個)設けられている。むろん、推進機10は1個であってもよく、3個以上であってもよい。推進機10は、船尾に設けられる船外機であってもよく、エンジン船外機または電動船外機のいずれの形態であってもよい。
図1には、エンジン船外機の例を示す。
エンジン船外機の形態を有する推進機10は、エンジン101、シフト機構102、プロペラ103、転舵機構104などを備えている。エンジン101が発生する動力が、シフト機構102を介してプロペラ103に伝達される。転舵機構104は、推進機10が発生する推進力の方向を左右に変化させる機構であり、船外機の場合には、船外機を船体に対して左右に旋回させる。シフト機構102は、前進位置、後進位置およびニュートラル位置のシフト位置を選択可能に構成されている。前進位置のとき、エンジン101の回転が伝達されることによってプロペラ103が正転方向に回転する。後進位置のとき、エンジン101の回転が伝達されることによってプロペラ103が逆転方向に回転する。ニュートラル位置のとき、エンジン101とプロペラ103との間の動力伝達が遮断される。
【0024】
推進機10は、さらに、推進機ECU105、スタータモータ106、燃料噴射装置107、スロットルアクチュエータ108、点火装置109、シフトアクチュエータ110、転舵アクチュエータ111などを備えている。推進機ECU105は、スタータモータ106、燃料噴射装置107、スロットルアクチュエータ108、点火装置109、シフトアクチュエータ110、転舵アクチュエータ111の動作を制御する。スタータモータ106は、エンジン101を始動するための電動モータである。燃料噴射装置107は、エンジン101内で燃焼される燃料を噴射する装置である。スロットルアクチュエータ108は、エンジン101のスロットルバルブを作動させる電動アクチュエータ(典型的には電動モータを含む。)である。点火装置109は、エンジン101の燃焼室内の混合気に点火する装置であり、典型的には、点火プラグおよび点火コイルを含む。シフトアクチュエータ110は、シフト機構102を作動させるためのアクチュエータである。転舵アクチュエータ111は、転舵機構104の駆動源であり、典型的には、電動モータを含む。転舵アクチュエータ111は、電動ポンプ式の油圧装置を含んでいてもよい。
【0025】
操船制御装置20は、推進機コントローラ21と、ルート設定装置22と、位置検出装置24と、方位計25と、オートパイロットコントローラ26と、障害物センサ27とを備えている。この実施形態では、操船制御装置20は、さらに、魚群探知機28を備えている。推進機コントローラ21、ルート設定装置22、位置検出装置24、オートパイロットコントローラ26、障害物センサ27、および魚群探知機28は、通信線29(たとえば船内ローカルエリアネットワーク)を介して通信可能に接続されている。
【0026】
ルート設定装置22は、表示装置22Aおよびタッチパネル22Bを備えている。表示装置22Aは、典型的には、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの二次元表示装置である。タッチパネル22Bは、表示装置22Aの表示画面上に備えられている。タッチパネル22Bの出力信号は、通信線29に導出される。使用者は、タッチパネル22Bを操作することによって、表示装置22Aの表示画面を切り換えたり、表示画面に表示されたボタン(ソフトウェアキー)を操作して、各種の機器の操作を行ったりすることができる。ルート設定装置22は、この実施形態では、船舶を航走させるルートを設定するために使用者によって操作されるルート設定ユニットとしての機能を提供する。
【0027】
ルート設定装置22は、プロセッサ22Pおよびメモリ22Mを備えている。メモリ22Mには、プログラムおよびデータが格納されている。データは、地図データを含む。プロセッサ22Pは、プログラムを実行することにより、メモリ22Mから地図データを読み出して、表示装置22Aに航海図を表示する機能を有する。使用者は、表示された航海図を見ながら、タッチパネル22Bを操作することにより、船舶を航走させるルートを設定することができる。
【0028】
位置検出装置24の一つの典型例は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機である。GNSS受信機は、人工衛星からの電波を受信し、地球上での位置データおよび移動速度データを生成する。これらのうち、少なくとも位置データが通信線29に導出される。方位計25は、船舶の方位、より具体的には船首の向く方位を表す方位データを生成する。方位データは、通信線29に導出される。ルート設定装置22は、位置データおよび方位データに基づき、航海図上に船舶の現在位置および現在方位を表示装置22Aに表示する。たとえば、航海図上に配置される船舶アイコンの位置によって船舶の現在位置が表され、船舶アイコンの方向によって船舶の現在方位(船首方位)が表される。
【0029】
オートパイロットコントローラ26は、自動操船を実現するための装置である。オートパイロットコントローラ26には、ルート追従モードボタン26Aおよびパターン航走モードボタン26Bが接続されている。ルート追従モードボタン26Aは、ルート設定装置22によって設定されたルートに従って船舶を航走させる自動操船モード(ルート追従モード)を選択するために使用者によって操作される操作スイッチである。パターン航走モードボタン26Bは、船舶を所定のパターンの航跡を描きながら航走(以下「パターン航走」という。)させるための自動操船モード(パターン航走モード)を選択するために使用者によって操作される操作スイッチであり、パターン航走指令ユニットの一例である。複数のパターンの航走が可能である場合には、パターン航走モードボタン26Bは、いずれかのパターンを選択するための航走パターン選択スイッチを兼ねていてもよい。たとえば、パターン航走モードボタン26Bを繰り返し操作することによって、航走パターンの選択が可能であってもよい。
【0030】
オートパイロットコントローラ26は、プロセッサ26Pおよびメモリ26Mを備えている。メモリ26Mには、プログラムおよびデータが格納されている。プロセッサ26Pは、プログラムを実行することにより、自動操船のための演算および制御を実行する。具体的には、ルート追従モードおよび/またはパターン航走モードでの自動操船のための演算および制御が行われる。
【0031】
オートパイロットコントローラ26は、ルート設定装置22において設定されるルート情報、位置検出装置24が生成する位置情報、および方位計25が生成する方位情報を入力として、自動操船のための推進機制御指令を推進機コントローラ21に供給する。推進機制御指令は、少なくとも操舵制御指令を含み、必要に応じて推進力制御指令を含む。推進機コントローラ21は、推進機制御指令に応じて、推進機10を制御する。具体的には、推進機コントローラ21は、操舵制御指令に応じて、推進機10の転舵角を制御するための制御指令を推進機ECU105に供給する。また、推進機コントローラ21は、推進力制御指令に応じて、推進機10が発生する推進力の大きさ(さらに必要に応じて推進機10のシフト位置)を制御するための制御指令を推進機ECU105に供給する。オートパイロットコントローラ26および推進機コントローラ21は、推進機10を制御するコントローラの一例である。
【0032】
障害物センサ27は、船舶の周囲の障害物を検出し、その障害物の位置情報(障害物位置情報)を通信線29に導出する。障害物位置情報は、船舶の現在位置に対する相対位置情報であってもよい。また、障害物センサ27は、位置検出装置24から船舶の現在位置情報を得て、障害物の絶対位置情報を演算し、その絶対位置情報を障害物位置情報として出力してもよい。オートパイロットコントローラ26は、通信線29に導出された障害物位置情報を取得して、必要な演算および制御を実行する。ルート設定装置22は、通信線29に導出された障害物位置情報を取得して、表示装置22Aにおいて、航海図上に障害物の位置を表示してもよい。
【0033】
障害物センサ27は、この実施形態では、船舶を中心とした所定半径内の検出エリアを有し、その検出エリア内に存在する障害物を検出するように構成されている。検出される障害物は、具体的には、船舶の航走の妨げとなり得る物体である。このような障害物の典型例は、陸地、土地定着物(橋脚、突堤、防波堤、桟橋など)、浅瀬、他の船舶、水上/水中固定物(定置漁具など)である。また、繁殖した水中植物(藻など)のように、水上または水中に漂う物体であっても、検出対象の障害物であり得る。
【0034】
障害物センサ27の典型例は、ライダー(LiDAR: Light Detection and Ranging、光探知測距)、レーダー(Radar: Radio Detecting and Ranging、電波探知測距)、ミリ波レーダーなどである。
魚群探知機28は、船舶の近傍の水中の魚群を探知する装置である。探知結果を表すデータは、通信線29を介してルート設定装置22に供給され、表示装置22Aの画面に表示される。パターン航走モードは、典型的には、ジグザグやスパイラル等の所定の航走パターンで船舶を航走させながら、魚群探知機28を用いて水中を走査して魚群を探す目的で用いられる。
【0035】
操作ユニット類30,32は、この実施形態では、ステアリングホイール30およびリモコンレバー32を含む。これらにそれぞれ対応するようにステアリングECU(電子制御ユニット)31、リモコンECU33およびジョイスティックECU35が備えられている。ステアリングECU31およびリモコンECU33は、推進機コントローラ21および推進機ECU105に通信可能に接続されている。ただし、ステアリングECU31およびリモコンECU33は、推進機コントローラ21を介して推進機ECU105と通信するように接続されていてもよい。
【0036】
ステアリングホイール30は、船舶の進行方向を定めるための操作、すなわち、手動操舵を行うために使用者によって操作される操作部材である。この実施形態では、ステアリングホイール30の操作に応じて推進機10が発生する推進力の方向が左右に変化し、それによって、操舵が達成される。リモコンレバー32は、推進機10のシフト位置および推進機10の出力、すなわち、推進機10が発生する推進力の方向および大きさを設定/調整するための使用者によって操作される操作部材である。この実施形態では、2つの推進機10に対応するように2つのリモコンレバー32が備えられている。各ECU31,33は、対応する操作部材の操作方向および操作量に応じた信号を生成して、推進機コントローラ21に入力するように構成およびプログラムされている。
【0037】
図2は、オートパイロットコントローラ26の機能的な構成を説明するためのブロック図である。前述のとおり、メモリ26Mに格納されたプログラムをプロセッサ26Pが実行することによって、オートパイロットコントローラ26は、様々な機能処理ユニットとして作動する。このような機能処理ユニットの例は、パターン航走コントローラ41、通過ポイント演算ユニット42、予想航走水域演算ユニット、パターン航走介入ユニット44、および通知制御ユニット45を含む。
【0038】
パターン航走コントローラ41は、パターン航走モードボタン26Bによってパターン航走モードが指令されると、所定の航走パターンで船舶を航走させるための推進機制御指令を生成する。所定の航走パターンは、1種類であってもよいし、複数種類から選択可能であってもよい。たとえば、所定の航走パターンは、ジグザグパターンとスパイラルパターンとを含む。ジグザグパターンとは、基準線に沿って(たとえば基準線を中心線として)船舶が蛇行する航走パターンである。スパイラルパターンとは、基準位置を中心とした渦巻き状の経路に沿って船舶が基準位置から徐々に遠ざかるように航走するパターンである。スパイラルパターンは、右まわりおよび左まわりが選択可能であってもよい。
【0039】
パターン航走のためのパラメータが設定可能であってもよい。たとえば、ジグザグパターンに関しては、基準線を中心線として蛇行するときの蛇行幅、蛇行のために針路を変更するときの折り返し角、針路変更の回数、ジグザグパターンでの航走を終了する地点までの直線距離などのうちの一つ以上のパラメータが設定可能であってもよい。また、スパイラルパターンに関しては、たとえば、隣り合う線の間隔が等しい螺旋であればその間隔、基準位置から終了点までの距離、基準位置のまわりの周回数などのうちの一つ以上のパラメータが設定可能であってもよい。
【0040】
パターン航走コントローラ41は、航走パターン情報およびそのパラメータを表す情報を通過ポイント演算ユニット42に与える。
ジグザグパターンの場合の航走パターン情報は、ジグザグパターンの指定およびそのジグザグパターンの基準線の情報を含む。ルート追従モードボタン26Aによってルート追従モードが指令されていないとき、パターン航走コントローラ41は、船舶の現在位置から現在方位に延びる半直線を表す基準線情報を通過ポイント演算ユニット42に与える。船舶の現在位置および現在方位の情報は、位置検出装置24および方位計25からそれぞれ取得される。ルート追従モードボタン26Aによってルート追従モードが指令されているとき、パターン航走コントローラ41は、ルート設定装置22において設定されたルートを表すルート情報を基準線情報として通過ポイント演算ユニット42に与える。ルート情報は、少なくとも一つの目的地(destination)および少なくとも一つの経由ポイント(waypoint)の情報を含む。それらを順に接続した経路が設定されたルートであり、そのルートがジグザグパターンでの航走のための基準線となる。
【0041】
スパイラルパターンの場合の航走パターン情報は、スパイラルパターンの指定および基準位置の情報を含む。ルート追従モードボタン26Aによってルート追従モードが指令されていないとき、パターン航走コントローラ41は、船舶の現在位置を表す基準位置情報を通過ポイント演算ユニット42に与える。船舶の現在位置の情報は、位置検出装置24から取得される。ルート追従モードボタン26Aによってルート追従モードが指令されているとき、パターン航走コントローラは、ルート設定装置22において設定されたルートを表す基準位置情報を通過ポイント演算ユニット42に与える。この場合、基準位置は、ルートを形成する経由ポイント(waypoint)を含む。隣り合う経由ポイントの間隔が、所定の閾値よりも大きいときには、一対の経由ポイントを結合するルート上に、一つ以上の補足経由ポイントを設け、その補足経由ポイントも基準位置に加えてもよい。補足経由ポイントは、パターン航走コントローラ41が生成してもよいし、通過ポイント演算ユニット42が生成してもよい。
【0042】
通過ポイント演算ユニット42は、船舶が時系列に従って順に通過すべき複数の通過ポイント(passing point)を演算(より正確には通過ポイントの位置情報を演算)する。
すなわち、ジグザグパターンでの航走が指令されているときには、船舶が基準線を中心としたジグザグパターンの航跡を描いて航走するように、複数の通過ポイントが演算される。基準線は、ルート追従モードのときには、設定されたルートであり、具体的には、現在位置から最初の経由ポイントまでの線分、隣接する経由ポイントの間を結ぶ線分、最後の経由ポイントから目的地までの線分のいずれかであり得る。ルート追従モードでなければ、基準線は、船舶の現在位置から船舶の現在方位に向かって引いた半直線である。
【0043】
スパイラルパターンでの航走が指令されているときには、船舶が基準位置を中心としたスパイラルパターンの航跡を描いて航走するように、複数の通過ポイントが演算される。基準位置は、ルート追従モードのときには、船舶の現在位置、ルート上の経由ポイント、補足経由ポイント、目的地のいずれかであり得る。たとえば、最初の基準位置は現在位置に最も近い経由ポイントであってもよい。そして、次の基準位置はルート上の経由ポイントまたは補足経由ポイントのうち現在位置に近いものであり、さらに次の基準位置は、ルート上の次の経由ポイントまたは補足経由ポイントであってもよい。ルート上の次の経由ポイントまたは補足経由ポイントがない場合には、目的地が基準位置となってもよい。或る基準位置を中心としたスパイラルパターンで航走することにより、次の基準位置までの距離が所定の閾値未満になると、次の基準位置へと遷移し、当該次の基準位置を中心としたスパイラルパターンでの航走が始まる。このような航走パターンとなるように、複数の通過ポイントが演算される。ルート追従モードでなければ、船舶が現在位置を基準位置としたスパイラルパターンの航跡を描くように複数の通過ポイントが演算される。
【0044】
ルート追従モードが設定されており、パターン航走モードが設定されていないときには、パターン航走コントローラ41は、ルート設定装置22からルート情報を得て、それを通過ポイント演算ユニット42に与える。通過ポイント演算ユニット42は、現在位置から最初の経由ポイントに向かい、その最初の経由ポイントを含む一つ以上の経由ポイントを通って目的地に至るように複数の通過ポイントを演算する。
【0045】
演算された通過ポイントは、パターン航走コントローラ41に与えられる。パターン航走コントローラ41は、時系列に従って複数の通過ポイントを船舶が順に通るように推進機10を制御するための推進機制御指令を生成する。具体的には、船舶の現在位置と次に船舶が通過すべき通過ポイントとを比較し、船舶の針路が現在位置から当該通過ポイントに向かうように、推進機制御指令を生成して、推進機コントローラ21に与える。推進機コントローラ21がそれに応じて推進機10を制御することにより、船舶は複数の通過ポイントを順に通過する航跡を描いて航走する。
【0046】
予想航走水域演算ユニット43は、船舶が航走することになる水域(予想航走水域)を演算する。予想航走水域演算ユニット43は、通過ポイント演算ユニット42から通過ポイントの情報を得て、その通過ポイントを接続してできる予想航跡を予想航走水域として演算する予想航跡演算ユニットであってもよい。また、予想航走水域演算ユニットは、予想航跡を包摂する領域を予想航走水域として演算してもよい。具体的には、ジグザグパターンでの航走が指令されている場合に、基準線を中心としたジグザグ形状の予想航跡に対して基準線の両側から接する一対の包絡線によって規定される帯状の領域を予想航走水域として演算してもよい。スパイラルパターンの場合にも、ルート追従モードの場合には、複数の基準位置を中心にそれぞれ描かれる渦巻き形状にルートの両側から接する一対の包絡線によって規定される帯状の領域を予想航走水域として演算してもよい。
【0047】
パターン航走介入ユニット44は、障害物センサ27が予想航走水域と干渉する障害物を検出するかどうかを監視する。障害物センサ27が船舶の周囲の所定の検出エリア内において障害物の検出が可能である場合には、当該検出エリアと予想航走水域との重複部分において、障害物が存在するかどうかが監視されることになる。パターン航走介入ユニット44は、予想航走水域内に障害物が検出されるかどうかを監視してもよい。また、パターン航走介入ユニット44は、予想航走水域内にある障害物だけでなく、予想航走水域に対して所定距離未満で接近している障害物を、航走水域と干渉する障害物として検出してもよい。
【0048】
パターン航走介入ユニットは、パターン航走を実行中に予想航走水域と干渉する障害物が検出されると、パターン航走を中断または中止する。中断は、その後にパターン航走を再開することを前提としてパターン航走を止めることをいう。中止は、パターン航走の再開を前提とすることなくパターン航走を止めることをいう。ルート追従モード中であって、パターン航走モードが設定されていない状態で、予想航走水域と干渉する障害物が検出されたときは、パターン航走介入ユニット44は、ルート追従モードを中断または中止してもよい。
【0049】
通知制御ユニット45は、予想航走水域と干渉する障害物が検出され、それにより、パターン航走が中断または中止されると、そのことをルート設定装置22に通知して、表示装置22Aに使用者への通知を表示させる。また、通知制御ユニット45は、予想航走水域と干渉する障害物が検出され、それより、ルート追従モードが中断または中止されると、そのことをルート設定装置22に通知して、表示装置22Aに使用者への通知を表示させる。使用者への通知は、表示に限らず、アラーム音等の音信号によって行われてもよい。
【0050】
図3は、ルート設定装置22におけるルート設定の例を説明するための図であり、表示装置22Aの表示例を示す。表示装置22Aには、陸地51および航走可能な水路域52の表示を含む航海図が表示され、その航海図上に、船舶の現在位置を表す船舶アイコン50が表示される。使用者は、表示された航海図上で、画面(正確にはタッチパネル22B)に触れることによって、一つ以上の経由ポイントW(W1,W2,…)および一つ以上の目的地Dを指定することができる。ルート設定装置22は、船舶の現在位置から近い順にそれらの経由ポイントWおよび目的地Dを接続する線分で表されるルートRを航海図上に表示する。使用者は、航海図上のルートRの表示を参照しながら、必要に応じて経由ポイントWおよび/または目的地Dを画面上で移動させてルートRの修正を行うことができる。このようにして設定されるルートRを表す情報(ルート情報)がオートパイロットコントローラ26に与えられる。
【0051】
図4は、ルート追従モードが設定されていない状態でのパターン航走の例を説明するための図であり、ジグザグパターンによるパターン航走の例を示す。基準線RLは、船舶の現在位置から船舶の現在方位に延びる半直線によって定義される。この基準線RLを中心に、設定された蛇行幅Wdおよび設定された折り返し角αで蛇行が繰り返される。通過ポイント演算ユニット42は、針路変更が必要な位置に通過ポイントP(P1,P2,P3,…)を設定する。折り返し点付近では、短い間隔で通過ポイントPが設定される。それにより、船舶60は、進行しながら滑らかに針路を変えていく。予想航走水域演算ユニット43は、通過ポイントPを時系列に従って結合することにより、予想航跡TP(予想航走水域の一例)を演算する。前述のように、予想航走水域演算ユニット43は、予想航跡TPを基準線RLの両側から包絡する一対の包絡線EL1,EL2の間の領域を予想航走水域として演算してもよい。
【0052】
図5は、ルート追従モードが設定されている状態でのジグザグパターンの航走の例を示す。ルート追従モードが設定されているときには、船舶60は、経由ポイントWおよび目的地Dを接続してできるルートRを基準線RL1,RL2として、ジグザグパターンで航走する。たとえば、船舶60の現在位置から最も近い経由ポイントW1に船舶が達すると、当該経由ポイントW1と次の経由ポイントW2までの直線を基準線RL1として、ジグザグパターンでの航走が開始されてもよい。さらに、ジグザグパターンで航走することにより、船舶60が次の経由ポイントW2を超えたときには、当該次の経由ポイントW2とさらに次の経由ポイント(
図5の例では目的地D)との間の直線を基準線RL2としてジグザグパターンでの航走が行われてもよい。このような動作の繰り返しによって、経由ポイントWを跨ぎながら、ルートRに沿ってジグザグパターンでの航走を行うことができる。通過ポイント演算ユニット42は、このようなパターン航走を実現するための針路変更点に通過ポイントP(P1,P2,…)を設定する。そして、予想航走水域演算ユニット43は、それらの通過ポイントPを結ぶ予想航跡TPを演算する。予想航跡TPは、前述のとおり予想航走水域の一例である。そして、ルートRの両側から予想航跡TPを包絡する一対の包絡線EL1,EL2の間の帯状の領域は、予想航走水域の他の例である。
【0053】
図6は、ルート追従モードが設定されていない状態でのスパイラルパターンによるパターン航走の例を示す。基準位置RPは、船舶60の現在位置である。この基準位置RPを中心にスパイラルパターン(渦巻き形状)を描くように、複数の通過ポイントP(P1,P2,P3,…)が通過ポイント演算ユニット42によって演算される。それにより、船舶60は進行しながら滑らかに針路を変えて、スパイラルパターンの航跡を描く。予想航走水域演算ユニット43は、通過ポイントPを時系列に従って結合することにより、予想航跡TP(予想航走水域の一例)を演算する。
【0054】
図7は、ルート追従モードが設定されている状態でのスパイラルパターンの航走の例を示す。ルート追従モードが設定されているときには、船舶60は、スパイラルパターンの航跡を描きながら、経由ポイントW(W1,W2,…)および目的地Dを接続してできるルートRに従って航走する。たとえば、通過ポイント演算ユニット42は、船舶60の現在位置から最も近い経由ポイントW1を最初の基準位置RP1に設定してもよい。その最初の基準位置RP1から所定距離内に次の経由ポイントが存在しないときには、通過ポイント演算ユニット42は、ルートR上において当該所定距離の位置に補足経由ポイントWp1を設定し、その補足経由ポイントWp1を次の基準位置RP2に設定する。最初の基準位置RP1から所定距離内に次の経由ポイントが存在すれば、その経由ポイントを次の基準位置に設定する。以下、同様にして、必要に応じて補足経由ポイントWp1,Wp2を補足しながら、複数の基準位置RP1(RP1,RP2,…)が設定される。
【0055】
通過ポイント演算ユニット42は、最初の基準位置RP1のまわりをスパイラル状に周回するように複数の通過ポイントPを演算する。そして、通過ポイントPと次の基準位置RP2との間が所定距離未満となると、当該次の基準位置RP2のまわりをスパイラル状に周回するように複数の通過ポイントPを演算する。同様にして、複数の基準位置RP(RP1,RP2,…)のまわりを順にスパイラル状に周回するように通過ポイントPが演算される。これにより、船舶60は、経由ポイントW(W1,W2,…)および補足経由ポイントWp(Wp1,Wp2,…)のまわりを順にスパイラル状に周回しながら、設定されたルートRに従って航走することになる。
【0056】
予想航走水域演算ユニット43は、複数の通過ポイントPを時系列に従って順に結合することにより、予想航跡(予想航走水域の一例)TPを演算する。前述のように、予想航走水域演算ユニット43は、予想航跡TPをルートRの両側から包絡する一対の包絡線EL1,EL2の間の領域を予想航走水域として演算してもよい。
図8Aおよび
図8Bは、パターン航走介入ユニット44の動作例を説明するため図である。この例では、障害物センサ27の検出エリア27dは、船舶60を中心とする所定の半径の円内である。ジグザグパターンでのパターン航走を実行中に、予想航走水域(たとえば予想航跡TP)と干渉する障害物(たとえば陸地65)が検出されると(
図8A参照)、パターン航走介入ユニット44は、パターン航走を中断させる。たとえば、パターン航走介入ユニット44は、ジグザグパターンでの航走のための一回のターン66をスキップすべきことを通過ポイント演算ユニット42に通知する(
図8B参照)。それに応じて、通過ポイント演算ユニット42は、検出された障害物の近傍の一回のターン66をスキップする複数の通過ポイントPを再演算する。その再演算された複数の通過ポイントPに基づいて、予想航走水域演算ユニット43が予想航走水域(たとえば予想航跡TP)を新たに演算する。すると、パターン航走介入ユニット44は、新たに演算された予想航走水域と干渉する障害物が検出されるかどうかを判断する。障害物が検出されなければ、修正された通過ポイントPに従ってパターン航走が行われる。
図8Aには修正前の状態の一例を示し、
図8Bに修正後の状態の一例を示す。一回のターン66をスキップすることにより、障害物の近傍において、ジグザグパターンの航走が一時的に中断され、船舶60は、基準線RLに従って航走することになる。
【0057】
もしも、新たに演算された予想航走水域と干渉する障害物が検出されれば、パターン航走介入ユニットは、さらに別の一回のターンをスキップすべきことを通過ポイント演算ユニット42に通知する。それに応じて、通過ポイント演算ユニット42は、さらに別の一回のターンをスキップする複数の通過ポイントPを再演算する。その再演算された複数の通過ポイントPに基づいて予想航走水域が演算され、その予想航走水域と干渉する障害物が検出されるかどうかか判断される。このような処理の繰り返しによって、通過ポイント演算ユニット42は、障害物センサ27によって検出された障害物を回避する経路を通るように通過ポイントPを再演算することになる。そして、パターン航走コントローラ41は、障害物と干渉するおそれのある区間ではパターン航走を中断し、障害物センサ27が予想航走水域と干渉する障害物を検出しない状態で、ジグザグパターンの航走を再開するように推進機制御指令を生成することになる。
【0058】
なお、
図8Bには、基準線RLが直線で描いてあるが、ルート追従モードのときには、基準線RLは、折れ線または曲線の場合がある。ルート追従モードの場合には、設定されたルートRに従ってジグザグパターンで船舶を航走させることができ、干渉の可能性のある障害物が検知されたときには、一時的にジグザグパターンを中断して障害物を回避し、その後は、ジグザグパターンでの航走を再開できる。
【0059】
図9は、パターン航走介入ユニットの他の動作例を説明するための図であり、ルート追従モードが設定されていない場合の動作例を示す。スパイラルパターンでのパターン航走を実行中に、予想航走水域(たとえば予想航跡TP)内に障害物(たとえば陸地65)が検出されると、パターン航走介入ユニット44は、障害物を回避する余裕のある地点で、パターン航走を中止させる。たとえば、パターン航走介入ユニット44は、障害物と干渉する前の回避ポイント70を求め、その回避ポイント70以降の通過ポイントを破棄する。そして、回避ポイント70に達すると、船舶60を減速して停止させるための推進機制御指令を生成する。それにより、船舶60が障害物に達するよりも前に、スパイラルパターンでの自動航走を中止することができる。
【0060】
図10は、ルート追従モードが設定されている状態で、かつスパイラルパターンで航走しているときのパターン航走介入ユニット44の動作例を示す。設定されたルートRに従ってスパイラルパターンでのパターン航走を実行中に、予想航走水域(たとえば予想航跡TP)と干渉する障害物(たとえば陸地65)が検出されると、パターン航走介入ユニット44は、パターン航走を中断させる。たとえば、パターン航走介入ユニット44は、或る基準位置RP3の周りのスパイラルパターンの予想航走水域(たとえば予想航跡TP)中に障害物が検出されると、その基準位置RP3のまわりのスパイラルパターン航走をスキップすべきことを通過ポイント演算ユニット42に通知する。
【0061】
それに応じて、通過ポイント演算ユニット42は、障害物と干渉するおそれのある予想航跡TP(
図10中に二点鎖線で示す。)を形成する通過ポイントを破棄する。そして、通過ポイント演算ユニット42は、当該基準位置RP3まわりのスパイラルパターン航走をスキップして次の基準位置RP4に向かい、当該次の基準位置RP4からスパイラルパターン航走を再開するための複数の通過ポイントPを再演算する。その再演算された複数の通過ポイントPに基づいて、予想航走水域演算ユニット43が予想航走水域(たとえば予想航跡TP)を新たに演算する。すると、パターン航走介入ユニット44は、新たに演算された予想航走水域と干渉する障害物が検出されるかどうかを判断する。障害物が検出されなければ、修正された通過ポイントPに従ってパターン航走が行われる。一つの基準位置まわりのスパイラルパターン航走をスキップすることにより、障害物の近傍において、スパイラルパターンの航走が一時的に中断され、船舶60は、設定されたルートRに従って航走することになる。
【0062】
もしも、新たに演算された予想航走水域と干渉する障害物が検出されれば、パターン航走介入ユニット44は、さらに当該次の基準位置RP4まわりのスパイラルパターン航走をスキップすべきことを通過ポイント演算ユニット42に通知する。それに応じて、通過ポイント演算ユニット42は、さらに当該次の基準位置RP4まわりのスパイラルパターン航走をスキップし、さらに次の基準位置からスパイラルパターン航走を再開するための複数の通過ポイントPを再演算する。その再演算された複数の通過ポイントPに基づいて予想航走水域が演算され、その予想航走水域と干渉する障害物が検出されるかどうかか判断される。
【0063】
このような処理の繰り返しによって、通過ポイント演算ユニット42は、障害物センサ27によって検出された障害物を回避する経路を通るように通過ポイントPを再演算することになる。そして、パターン航走コントローラ41は、障害物と干渉するおそれのある区間ではスパイラルパターンでの航走を中断し、障害物センサ27が予想航走水域と干渉する障害物を検出しない状態で、スパイラルパターンの航走を再開するように推進機制御指令を生成することになる。このようにして、設定されたルートに従ってスパイラルパターンで船舶を航走させることができ、障害物が検知されたときには、一時的にスパイラルパターンの航走を中断して障害物を回避し、その後は、スパイラルパターンでの航走を再開できる。
【0064】
図11は、ルート追従モードが設定されており、パターン航走が指令されていない場合の動作例を説明するための図である。船舶60が設定されたルートRに従って航行中に障害物センサ27がルート上の障害物(たとえば陸地65)を検出する可能性がある。このような場合には、通過ポイント演算ユニット42は、障害物の近傍の区間の通過ポイントPを再演算する。すなわち、障害物を回避する回避ルート72に相当する通過ポイントPを演算する。その再演算された通過ポイントPに従ってパターン航走コントローラ41が推進機制御指令を生成することによって、船舶60は障害物を回避できる。回避ルート72は、たとえば、検出された障害物から所定距離を確保する経路であってもよい。
【0065】
以上のように、この実施形態によれば、使用者がパターン航走モードボタン26Bを操作して指令を与えることによって、パターン航走コントローラ41が、船舶をパターン航走させるための推進機制御指令を生成する。一方、予想航走水域演算ユニット43によって、パターン航走による予想航走水域が演算される。そして、障害物センサ27が船舶の周囲において予想航走水域と干渉する障害物を検出すると、パターン航走介入ユニット44がパターン航走に介入し、パターン航走を中断または中止させる。したがって、パターン航走時の周囲の状況への対処に関して使用者を支援できるので、パターン航走機能を用いる操船時の利便性を向上できる。
【0066】
この実施形態では、通過ポイント演算ユニット42は、船舶が時系列に従って順に通過すべき複数の通過ポイントを演算する。パターン航走が指令されると、通過ポイント演算ユニット42は、船舶が指令されたパターンの航跡を描くように複数の通過ポイントを演算する。そして、パターン航走コントローラ41は、船舶が複数の通過ポイントを順に通過するように推進機制御指令を生成する。また、予想航走水域演算ユニット43は、複数の通過ポイントを通る予想航跡を演算する。この予想航跡が予想航走水域として利用される。つまり、障害物センサが、予想航跡と干渉する障害物を検出すると、パターン航走が中断または中止される。こうして、パターン航走のために演算される通過ポイントの情報を用いて予想航走水域の情報を得ることができるので、少ない演算量で、パターン航走機能の利便性を高めることができる。
【0067】
また、この実施形態では、パターン航走介入ユニット44がパターン航走を中断または中止すると、通過ポイント演算ユニット42は、障害物センサ27が検出した障害物を回避する経路を通るように通過ポイントを再演算する(
図8Bおよび
図10参照)。これにより、自動操船によって障害物を回避することができるから、パターン航走機能の利便性を一層向上することができる。
【0068】
また、この実施形態では、パターン航走介入ユニット44がパターン航走を中断した後、パターン航走コントローラ41は、障害物センサ27が、予想航走水域と干渉する障害物を検出しない状態で、パターン航走を再開させる。つまり、予想航走水域と干渉する障害物が検出されない状態に至ると、パターン航走が再開される。それにより、パターン航走の中断および再開を適切に行うことができ、かつそれらが自動的に実行されるので、パターン航走機能の利便性を向上できる。
【0069】
また、この実施形態では、使用者は、ルート設定装置22を操作して、船舶を航走させるルートを設定することができる。そして、ルート追従モードボタン26Aによって、当該ルートに従って船舶を航走させるためのルート追従モードを設定できる。ルート追従モードであり、かつパターン航走が指令されているときには、パターン航走コントローラ41は、当該設定されているルートに従って船舶をパターン航走させる。すなわち、設定されたルート上でパターン航走を行うことができる。それにより、パターン航走機能の利便性を一層向上できる。とくに、パターン航走機能を利用しようとする領域の付近の周辺環境を考慮してルートを設定しておくことにより、パターン航走機能を利用しやくすくなる。
【0070】
パターン航走コントローラ41は、ルートが設定されていないとき、すなわち、ルート追従モードでないときには、船舶の現在位置を基準としてパターン航走のための推進機制御指令を生成する。その場合でも、障害物センサ27によって予想航走水域と干渉する障害物が検出されると、パターン航走を適切に中断または中止することができる。したがって、ルートを設定しない状況でも利用しやすいパターン航走機能を提供できる。
【0071】
このようにして、この実施形態は、パターン航走機能を用いる操船時の利便性を向上できる操船制御装置20、およびそれを備える操船システムを提供する。
以上、この発明の一実施形態について説明してきたが、この発明は、さらに他の形態で実施することができる。
たとえば、前述の実施形態では、障害物センサ27の検出エリア27d内において予想航走水域と干渉する障害物を検出して、パターン航走を中断または中止している。しかし、障害物センサ27の検出エリア27dよりも狭い範囲を検出エリアとして設定し、当該狭い検出エリア内で予想航走水域と障害物との干渉を判定してもよい。前述のとおり、障害物との干渉は、予想航走水域と障害物とが重なる場合に限らず、予想航走水域と障害物との距離が所定距離未満に接近している場合を含んでもよい。
【0072】
また、障害物センサの例は、ライダー、レーダー、ミリ波レーダーに限られない。たとえば、GNSS(global navigation satellite system)装置と地図データとによって、船舶の現在位置の周囲に陸地、橋脚、突堤、防波堤、桟橋等の障害物を検出することもできる。このような構成も障害物センサの一例である。たとえば、ルート設定装置22によって、目的地(対象物)として桟橋を設定している場合に、その目的地までの距離が所定値未満となれば、その目的地(対象物)を障害物と見なして、パターン航走を中断または中止してもよい。
【0073】
また、前述の実施形態では、予想航跡や包絡線EL1,EL2の間の領域を予想航走水域の例として説明したが、たとえば予想航跡に沿って当該予想航跡の両側に所定幅で広がる帯状の領域を予想航走水域としてもよい。換言すれば、予想航跡(予想航走水域)は、複数の通過ポイントを結合してできる中心線の両側に所定幅で広がる帯状の領域であってもよい。
【0074】
また、前述の実施形態では、ジグザグパターンおよびスパイラルパターンでのパターン航走について説明したが、さらに別の航走パターンにも前述の実施形態を応用できる。具体的には、円形パターン、矩形パターン、8の字パターンなどを例示できる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0075】
10A,10B…推進機、20…操船制御装置、21…推進機コントローラ、22…ルート設定装置、24…位置検出装置、25…方位計、26…オートパイロットコントローラ、26A…ルート追従モードボタン、26B…パターン航走モードボタン、27…障害物センサ、27d…検出エリア、41…パターン航走コントローラ、42…通過ポイント演算ユニット、43…予想航走水域演算ユニット、44…パターン航走介入ユニット、70…回避ポイント、72…回避ルート、D…目的地、EL1,EL2…包絡線、P…通過ポイント、R…ルート、RL…基準線、RP…基準位置、TP…予想航跡、W…経由ポイント、Wp…補足経由ポイント