(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187898
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20221213BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20221213BHJP
【FI】
H02M3/28 C
H02M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096126
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】西坂 太志
【テーマコード(参考)】
5H730
5H740
【Fターム(参考)】
5H730BB27
5H730DD02
5H730DD03
5H730DD04
5H730EE08
5H730FD26
5H730FD30
5H730FD51
5H730FD61
5H730XX04
5H730XX19
5H730XX35
5H730XX38
5H730XX40
5H730XX50
5H730ZZ07
5H730ZZ13
5H740AA10
5H740BA11
5H740BA12
5H740JA01
5H740JB01
5H740MM01
5H740MM08
5H740MM11
5H740PP02
5H740PP03
(57)【要約】
【課題】個別のスイッチング素子の故障を高い精度で判定できる電源装置を提供する。
【解決手段】電源装置A1において、スイッチング素子TR1と、スイッチング素子TR1に隣接配置されて素子温度を検出する温度検出部61cと、スイッチング素子TR1の素子飽和電圧を検出するための回路を有する飽和電圧検出部61aと、スイッチング素子TR1に流れる素子電流を検出する電流検出部61bと、少なくとも、素子温度、素子飽和電圧、および素子電流に基づいて、スイッチング素子TR1の故障を判定する故障判定部52とを備えた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子に隣接配置されて素子温度を検出する温度検出部と、
前記スイッチング素子の素子飽和電圧を検出するための回路を有する飽和電圧検出部と、
前記スイッチング素子に流れる素子電流を検出する電流検出部と、
少なくとも、前記素子温度、前記素子飽和電圧、および前記素子電流に基づいて、前記スイッチング素子の故障を判定する故障判定部と、
を備えている電源装置。
【請求項2】
前記飽和電圧検出部は、前記スイッチング素子に並列接続された、抵抗、ダイオード、および定電圧ダイオードがこの順で直列接続された電圧クリップ回路を備えている、
請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記故障判定部は、
前記素子飽和電圧を前記素子電流で除算することでオン抵抗値を算出するオン抵抗算出部と、
前記素子温度の上昇と下降のサイクルであるパワーサイクルのサイクル数をカウントして積算するパワーサイクルカウント部と、
前記パワーサイクルの動作可能サイクル数から前記パワーサイクルカウント部が積算した第1積算回数を減算することで第1残存寿命を算出し、前記第1残存寿命に対応するオン抵抗閾値を設定する第1閾値調整部と、
前記オン抵抗値が前記オン抵抗閾値以上になった場合に、前記スイッチング素子に故障が発生したと判定する第1判定部と、
を備えている、
請求項1または2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記故障判定部は、
前記素子温度の所定期間の移動平均値である平均温度を算出する移動平均算出部と、
前記平均温度を前記素子電流で除算することで温度電流比を算出する温度電流比算出部と、
前記平均温度の上昇と下降のサイクルであるサーマルサイクルのサイクル数をカウントして積算するサーマルサイクルカウント部と、
前記サーマルサイクルの動作可能サイクル数から前記サーマルサイクルカウント部が積算した第2積算回数を減算することで第2残存寿命を算出し、前記第2残存寿命に対応する温度電流比閾値を設定する第2閾値調整部と、
前記温度電流比が前記温度電流比閾値以上になった場合に、前記スイッチング素子に故障が発生したと判定する第2判定部と、
を備えている、
請求項1ないし3のいずれかに記載の電源装置。
【請求項5】
前記故障判定部は、
前記素子温度、前記素子飽和電圧、および前記素子電流を入力され、故障の判定結果を出力するように機械学習されたニューラルネットワークと、
前記素子温度、前記素子飽和電圧、および前記素子電流と、実際に前記スイッチング素子が故障した場合の故障情報とに基づいて、前記ニューラルネットワークに機械学習を行わせる学習処理部と、
を備えている、
請求項1または2に記載の電源装置。
【請求項6】
前記故障判定部は、通信部と、前記通信部と通信を行うサーバと、をさらに備え、
前記学習処理部は、前記サーバに配置されている、
請求項5に記載の電源装置。
【請求項7】
前記ニューラルネットワークは、前記サーバに配置されている、
請求項6に記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ回路が直流電源から入力される直流電圧を高周波電圧に変換する電源装置が知られている。電源装置の動作中に、インバータ回路が備えるスイッチング素子が故障した場合、インバータ回路内の他の回路や、電源装置の他の装置にも影響が及ぶので、定期点検時に各スイッチング素子の点検が行われる。しかし、スイッチング素子の寿命は、周囲温度や使用条件により大きく左右され、劣化が急激に進むこともある。したがって、電源装置の動作中に、スイッチング素子の故障を推定して、作業者に知らせる機能が開発されている。このような機能として、スイッチング素子の温度変化による熱ストレスの回数からスイッチング素子の寿命を判断する方法がある。特許文献1には、このような方法が開示されている。
【0003】
特許文献1の発明は、放熱フィンでの検出温度とインバータ装置の出力電流とからトランジスタのジャンクション温度を推定し、推定されたジャンクション温度の変化に基づいて熱ストレス回数を演算し、熱ストレス回数が所定回数を超えた場合にトランジスタが寿命になったと判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の発明では、トランジスタのジャンクション温度を放熱フィンでの検出温度とインバータ装置の出力電流とから推定するので、推定による誤差が生じる。また、インバータ装置は複数のトランジスタを備えているが、トランジスタによって通電状況が異なる場合でも、同じ寿命で判断される。また、熱ストレス回数が寿命として規定された所定回数に達しただけであり、トランジスタに故障が生じたわけではない。つまり、当該発明では、故障を推定する精度が低い。
【0006】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、個別のスイッチング素子の故障を高い精度で判定できる電源装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される電源装置は、スイッチング素子と、前記スイッチング素子に隣接配置されて素子温度を検出する温度検出部と、前記スイッチング素子の素子飽和電圧を検出するための回路を有する飽和電圧検出部と、前記スイッチング素子に流れる素子電流を検出する電流検出部と、少なくとも、前記素子温度、前記素子飽和電圧、および前記素子電流に基づいて、前記スイッチング素子の故障を判定する故障判定部とを備えている。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記飽和電圧検出部は、前記スイッチング素子に並列接続された、抵抗、ダイオード、および定電圧ダイオードがこの順で直列接続された電圧クリップ回路を備えている。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記故障判定部は、前記素子飽和電圧を前記素子電流で除算することでオン抵抗値を算出するオン抵抗算出部と、前記素子温度の上昇と下降のサイクルであるパワーサイクルのサイクル数をカウントして積算するパワーサイクルカウント部と、前記パワーサイクルの動作可能サイクル数から前記パワーサイクルカウント部が積算した第1積算回数を減算することで第1残存寿命を算出し、前記第1残存寿命に対応するオン抵抗閾値を設定する第1閾値調整部と、前記オン抵抗値が前記オン抵抗閾値以上になった場合に、前記スイッチング素子に故障が発生したと判定する第1判定部とを備えている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記故障判定部は、前記素子温度の所定期間の移動平均値である平均温度を算出する移動平均算出部と、前記平均温度を前記素子電流で除算することで温度電流比を算出する温度電流比算出部と、前記平均温度の上昇と下降のサイクルであるサーマルサイクルのサイクル数をカウントして積算するサーマルサイクルカウント部と、前記サーマルサイクルの動作可能サイクル数から前記サーマルサイクルカウント部が積算した第2積算回数を減算することで第2残存寿命を算出し、前記第2残存寿命に対応する温度電流比閾値を設定する第2閾値調整部と、前記温度電流比が前記温度電流比閾値以上になった場合に、前記スイッチング素子に故障が発生したと判定する第2判定部とを備えている。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記故障判定部は、前記素子温度、前記素子飽和電圧、および前記素子電流を入力され、故障の判定結果を出力するように機械学習されたニューラルネットワークと、前記素子温度、前記素子飽和電圧、および前記素子電流と、実際に前記スイッチング素子が故障した場合の故障情報とに基づいて、前記ニューラルネットワークに機械学習を行わせる学習処理部とを備えている。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記故障判定部は、通信部と、前記通信部と通信を行うサーバと、をさらに備え、前記学習処理部は、前記サーバに配置されている。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記ニューラルネットワークは、前記サーバに配置されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、温度検出部がスイッチング素子に隣接配置されて、当該スイッチング素子の素子温度を直接検出する。したがって、故障判定部は、個別のスイッチング素子の素子温度に基づいて、当該スイッチング素子の故障を判定できる。また、飽和電圧検出部が個別のスイッチング素子の素子飽和電圧を検出し、電流検出部が個別のスイッチング素子の素子電流を検出する。故障判定部は、素子温度、素子飽和電圧、および素子電流に基づいて、スイッチング素子の故障を判定する。したがって、本発明に係る電源装置は、個別のスイッチング素子の故障を高い精度で判定できる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る溶接電源装置の全体構成を示す図である。
【
図3】スイッチング素子を備えたモジュールの構造の一例を示す模式図である。
【
図4】(a)はパワーサイクルの温度変化を示す波形図であり、(b)はサーマルサイクルの温度変化を示す波形図である。
【
図5】故障判定部の内部構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図6】(a)は閾値調整部が設定するオン抵抗閾値を説明するための図であり、(b)は閾値調整部が設定する温度電流比閾値を説明するための図である。
【
図7】第2実施形態に係る溶接電源装置の一部の構成を示すブロック図である。
【
図8】第3実施形態に係る溶接電源装置の一部の構成を示すブロック図である。
【
図9】第4実施形態に係る溶接電源装置の一部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る電源装置を溶接電源装置とした場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る溶接電源装置A1を説明するための図であり、溶接電源装置A1の全体構成を示す図である。
【0020】
溶接電源装置A1は、溶接トーチBの電極の先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給するものである。
図1に示すように、溶接電源装置A1は、直流電源1、インバータ回路2、トランス3、整流回路4、制御回路5、検出部61~64、電流センサ7、および表示部81を備えている。
【0021】
直流電源1は、直流電圧を出力するものであり、例えば、電力系統から入力される交流電圧を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、直流電源1の構成は限定されず、インバータ回路2に直流電圧を出力するものであればよい。
【0022】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を高周波電圧に変換して、トランス3に出力する。インバータ回路2は、単相フルブリッジ型のインバータであり、4個のスイッチング素子TR1~TR4を備えている。本実施形態では、スイッチング素子TR1~TR4として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)を使用している。なお、スイッチング素子TR1~TR4はIGBTに限定されず、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、バイポーラトランジスタなどであってもよい。
【0023】
スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3とは、スイッチング素子TR1のエミッタ端子とスイッチング素子TR3のコレクタ端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子TR1のコレクタ端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子TR3のエミッタ端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4とは、スイッチング素子TR2のエミッタ端子とスイッチング素子TR4のコレクタ端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子TR2のコレクタ端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子TR4のエミッタ端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。
【0024】
各スイッチング素子TR1~TR4には、それぞれ逆並列に還流ダイオードが接続されている。また、各スイッチング素子TR1~TR4のコレクタ端子とエミッタ端子との間には、それぞれスナバコンデンサが接続されている。各スイッチング素子TR1~TR4のゲート端子には、制御回路5から出力される駆動信号がそれぞれ入力される。各スイッチング素子TR1~TR4は、それぞれ駆動信号に基づいて、オンとオフとを切り替えられる。これにより、直流電圧が高周波電圧に変換される。なお、インバータ回路2の構成は限定されない。
【0025】
トランス3は、インバータ回路2が出力する高周波電圧を変圧して、整流回路4に出力する。トランス3は、一次巻線31および二次巻線32を備えている。一次巻線31の一方の入力端子は、スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3との接続点に接続されている。他方の入力端子は、スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4との接続点に接続されている。また、二次巻線32の一方の出力端子は整流回路4の一方の入力端子に接続され、他方の出力端子は整流回路4の他方の入力端子に接続されている。二次巻線32には、2つの出力端子とは別にセンタタップが設けられている。一次巻線31および二次巻線32は、それぞれ図示しないコアに巻回されており、互いに磁気結合可能である。
【0026】
整流回路4は、トランス3のセンタタップを用いた両波整流回路であり、トランス3が出力する高周波電流を整流して、直流電流として出力する。整流回路4は、2個の整流用ダイオード41,42と、直流リアクトル43とを備えている。整流用ダイオード41,42は、トランス3の二次巻線32の各出力端子に、それぞれアノード端子が接続されて、それぞれのカソード端子が互いに接続されている。直流リアクトル43は、整流用ダイオード41,42のカソード端子側での接続点と、溶接電源装置A1の出力端子aとの間に直列接続されており、出力電流を安定させる。トランス3のセンタタップは、溶接電源装置A1の出力端子bに接続されている。整流回路4が出力する直流電流が、溶接電流として溶接トーチBに流れる。なお、整流回路4の構成は限定されない。
【0027】
電流センサ7は、トランス3のセンタタップと出力端子bとの間の接続線に配置されており、溶接電源装置A1の出力電流を検出して、電流信号Iとして制御回路5に出力する。
【0028】
検出部61は、スイッチング素子TR1のエミッタ端子を流れる素子電流、コレクタ-エミッタ間の素子飽和電圧、および素子温度を検出する。同様に、検出部62~64は、それぞれ、スイッチング素子TR2~TR4の素子電流、素子飽和電圧、および素子温度を検出する。検出部61~64がそれぞれ検出した検出信号は、制御回路5に出力される。
【0029】
図2は、検出部61の一例を示す回路図である。検出部61は、飽和電圧検出部61a、電流検出部61b、および温度検出部61cを備えている。
【0030】
飽和電圧検出部61aは、スイッチング素子TR1のコレクタ-エミッタ間の素子飽和電圧を検出する。飽和電圧検出部61aは、抵抗R1、ダイオードD1、および定電圧ダイオードD2がこの順で直列接続された電圧クリップ回路を備えている。電圧クリップ回路において、ダイオードD1のカソード端子は定電圧ダイオードD2のカソード端子に接続され、ダイオードD1のアノード端子は、抵抗R1の一方の端子に接続されている。当該電圧クリップ回路は、抵抗R1の他方の端子がスイッチング素子TR1のコレクタ端子に接続され、定電圧ダイオードD2のアノード端子がスイッチング素子TR1のエミッタ端子に接続されている。定電圧ダイオードD2は、ツェナー電圧が5V程度のものが使用される。例えば、ダイオードD1および定電圧ダイオードD2は、スイッチング素子TR1を備えるモジュール内に内蔵され、損失および発熱の多い抵抗R1は、当該モジュールに外付けされる。なお、飽和電圧検出部61aの構成は限定されない。
【0031】
飽和電圧検出部61aは、ダイオードD1のアノード端子と定電圧ダイオードD2のアノード端子との間の電圧を電圧検出信号として出力する。スイッチング素子TR1のコレクタ-エミッタ間電圧は、オフ時には数百Vになるが、オン時の飽和電圧は数V程度である。飽和電圧検出部61aは、スイッチング素子TR1がオフの時には、検出される電圧を定電圧ダイオードD2によって約5Vに抑えることで、スイッチング素子TR1がオンの時の飽和電圧を精度よく検出できる。
【0032】
電流検出部61bは、スイッチング素子TR1のエミッタ端子を流れる素子電流を検出する。電流検出部61bは、スイッチング素子TR1のエミッタ端子に直列接続されたシャント抵抗R2を備え、シャント抵抗R2の端子間電圧を電流検出信号として出力する。温度検出部61cは、スイッチング素子TR1の素子温度を検出する。温度検出部61cは、スイッチング素子TR1に隣接配置された例えばダイオードD3を備え、定電流が流れるダイオードD3の端子間電圧を温度検出信号として出力する。なお、温度検出部61cは、ダイオードD3の代わりに、サーミスタなどを使用してもよい。なお、
図2は、検出部61の一例であって、飽和電圧検出部61a、電流検出部61b、および温度検出部61cの各構成は限定されない。検出部62~64も、検出部61と同様の構成である。
【0033】
制御回路5は、インバータ回路2を制御する構成であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路5は、インバータ回路2を制御するための駆動信号を生成して、各スイッチング素子TR1~TR4に出力する。制御回路5は、出力電流制御を行っており、電流センサ7より入力される電流信号Iに基づいて、溶接電源装置A1の出力電流をフィードバック制御する。また、制御回路5は、各スイッチング素子TR1~TR4の故障を検出して、表示部81に表示させる。制御回路5は、機能構成として、駆動信号生成部51および故障判定部52を備えている。
【0034】
駆動信号生成部51は、駆動信号を生成する機能構成である。駆動信号生成部51は、電流センサ7より入力される電流信号Iと、溶接電源装置A1の出力電流の目標値とに基づいて、駆動信号を生成して、スイッチング素子TR1~TR4にそれぞれ出力する。駆動信号生成部51の構成は限定されず、詳細な説明は省略する。
【0035】
故障判定部52は、各スイッチング素子TR1~TR4の故障を判定する機能構成である。故障判定部52は、検出部61~64から入力される各検出信号に基づいて、各スイッチング素子TR1~TR4の故障を判定し、判定結果を表示部81に出力する。表示部81は、表示画面を有し、故障判定部52から入力される判定結果を表示する。本実施形態では、故障判定部52は、判定結果が「故障」を示す場合にだけ、判定結果を表示部81に出力する。表示部81は、警告表示として、故障と判定されたスイッチング素子を示す表示と、故障が発生したことを示す表示を、表示画面に表示する。なお、表示部81による表示方法は限定されない。また、溶接電源装置A1は、音声出力部を備え、表示部81による警告表示と合わせて、音声による報知を行ってもよい。
【0036】
図3は、スイッチング素子TR1を備えたモジュールの構造の一例を示す模式図である。スイッチング素子TR1は、絶縁基板21に配置された配線22上に、はんだ24を介して接合されている。スイッチング素子TR1の一部の電極は、ワイヤ25を介して、配線23に導通接続されている。スイッチング素子TR1およびワイヤ25は、図示しない封止樹脂によって覆われている。また、絶縁基板21は、はんだ27を介して、放熱部材26に接合されている。
【0037】
スイッチング素子TR1は、スイッチングに応じて流れる電流により、短い時間(例えば数秒から数十秒程度)のサイクル(以下では、「パワーサイクル」と記載します)の温度変化がある。
図4(a)は、パワーサイクルの温度変化を示す波形図である。横軸は時間を示し、縦軸はスイッチング素子TR1の素子温度Tjを示す。
図4(a)に示すように、素子温度Tjは、第1温度幅ΔTj1での上昇と下降とを比較的短いサイクルで繰り返す。スイッチング素子TR1とワイヤ25との接合部分には、この温度変化によって、スイッチング素子TR1、ワイヤ25、および封止樹脂の線膨張係数が異なることによる応力がかかるので、亀裂が発生し、亀裂が進展して剥離が発生する。故障判定部52は、このパワーサイクルの温度変化に基づく故障を判定する。
【0038】
また、スイッチング素子TR1は、溶接電源装置A1の稼働と停止により、比較的穏やかな温度変化がある。この温度変化のサイクル(以下では、「サーマルサイクル」と記載します)は、パワーサイクルと比較すると十分長い(例えば数分以上)。
図4(b)は、サーマルサイクルの温度変化を示す波形図である。横軸は時間を示し、縦軸はスイッチング素子TR1の素子温度Tjを示す。
図4(b)に示すように、素子温度Tjは、第2温度幅ΔTj2での上昇と下降とを比較的長いサイクルで繰り返す。スイッチング素子TR1と絶縁基板21とを接合するはんだ24には、この温度変化によって、スイッチング素子TR1と絶縁基板21との線膨張係数が異なることによる応力歪みが生じるので、亀裂が発生する。また、絶縁基板21と放熱部材26とを接合するはんだ27にも、この温度変化によって、絶縁基板21と放熱部材26との線膨張係数が異なることによる応力歪みが生じるので、亀裂が発生する。はんだ24またははんだ27に亀裂が発生すると、熱抵抗が増加して、スイッチング素子TR1が発する熱を適切に放熱できなくなる。故障判定部52は、このサーマルサイクルの温度変化に基づく故障も判定する。
【0039】
図5は、故障判定部52の内部構成の一例を示す機能ブロック図である。故障判定部52は、第1故障判定部521、第2故障判定部522、第3故障判定部523、第4故障判定部524、および出力部525を備えている。第1故障判定部521、第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524は、それぞれ、スイッチング素子TR1~TR4の故障を判定する機能構成である。出力部525は、第1故障判定部521、第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524による判定結果を、表示部81に出力する。
【0040】
第1故障判定部521は、検出部61から入力される検出信号に基づいて、スイッチング素子TR1の故障を判定する。検出部61から入力される検出信号には、電流検出信号、電圧検出信号、および温度検出信号が含まれる。なお、検出信号には、その他の検出信号が含まれてもよい。第1故障判定部521は、情報取得部11、パワーサイクル故障判定部12、およびサーマルサイクル故障判定部13を備えている。情報取得部11は、検出部61から入力される各検出信号から、それぞれ対応する情報を取得し、パワーサイクル故障判定部12およびサーマルサイクル故障判定部13に出力する。具体的には、情報取得部11は、電流検出信号に応じた電流値I1を取得する。当該電流値I1は、スイッチング素子TR1のエミッタ端子を流れる電流の電流値である。情報取得部11は、電圧検出信号に応じた電圧値V1を取得する。当該電圧値V1は、スイッチング素子TR1のコレクタ-エミッタ間の飽和電圧の電圧値である。情報取得部11は、温度検出信号に応じた素子温度T1を取得する。当該素子温度T1は、スイッチング素子TR1の素子温度である。
【0041】
パワーサイクル故障判定部12は、スイッチング素子TR1のパワーサイクルの温度変化に基づく故障を判定する。パワーサイクル故障判定部12は、オン抵抗算出部121、第1温度幅検出部122、素子寿命検出部123、パワーサイクルカウント部124、閾値調整部125、および判定部126を備えている。
【0042】
オン抵抗算出部121は、情報取得部11から電流値I1および電圧値V1を入力され、電圧値V1を電流値I1で除算することで、オン抵抗値を算出する。パワーサイクルの温度変化によりスイッチング素子TR1とワイヤ25との接合部分に亀裂や剥離が発生すると、オン抵抗値が上昇する。したがって、オン抵抗算出部121が算出したオン抵抗値に基づいて、パワーサイクルの温度変化に基づく故障を判定できる。オン抵抗算出部121は、算出したオン抵抗値を判定部126に出力する。
【0043】
第1温度幅検出部122は、情報取得部11から素子温度T1を入力され、パワーサイクルでの温度の変化幅である第1温度幅ΔTj1(
図4(a)参照)を検出する。第1温度幅検出部122は、入力される素子温度T1から、所定期間(パワーサイクルの1サイクル以上の期間)での最高温度と最低温度とを検出し、最高温度から最低温度を減算することで、第1温度幅ΔTj1を算出する。第1温度幅検出部122は、検出した第1温度幅ΔTj1を素子寿命検出部123に出力する。また、第1温度幅検出部122は、検出した最高温度をパワーサイクルカウント部124に出力する。
【0044】
素子寿命検出部123は、第1温度幅検出部122から入力される第1温度幅ΔTj1に基づいて、スイッチング素子TR1の素子寿命を検出する。当該素子寿命は、パワーサイクルのサイクル数で示すスイッチング素子TR1の寿命であり、スイッチング素子TR1が使用開始から故障するまでのパワーサイクルの動作可能サイクル数を示している。スイッチング素子の素子寿命は、使用される環境によって異なり、パワーサイクルでの温度の変化幅と関係性がある。例えば、パワーサイクルでの温度の変化幅の対数と素子寿命(パワーサイクルの動作可能サイクル数)の対数とは比例関係にあることが知られている。素子寿命検出部123は、この関係性を用いて、入力された第1温度幅ΔTj1に対応する素子寿命を検出する。なお、第1温度幅ΔTj1が変動する場合は、最初に検出した素子寿命に対して、変動後の第1温度幅ΔTj1に対応する素子寿命に応じた調整を行えばよい。素子寿命検出部123は、検出した素子寿命を閾値調整部125に出力する。なお、素子寿命の検出方法は限定されない。また、素子寿命があらかじめ判っている場合は、素子寿命検出部123で検出する必要はなく、当該素子寿命が直接、閾値調整部125に入力される。
【0045】
パワーサイクルカウント部124は、パワーサイクルによる温度の変化のサイクル数をカウントして積算する。パワーサイクルカウント部124は、情報取得部11から素子温度T1を入力され、第1温度幅検出部122から入力された最高温度に基づいて、パワーサイクルのサイクル数をカウントする。例えば、最高温度より少し低い温度を設定し、情報取得部11から連続的に入力される素子温度T1が設定された温度を上回ったときにカウントを行う。なお、パワーサイクルのサイクル数のカウント方法は限定されない。例えば、第1温度幅検出部122がパワーサイクルでの温度の変化の最低温度をパワーサイクルカウント部124に出力し、パワーサイクルカウント部124が当該最低温度に基づいて、パワーサイクルのサイクル数をカウントしてもよい。パワーサイクルカウント部124は、スイッチング素子TR1が交換されたときに、積算回数を「0」に初期化し、その後はカウントした回数を積算する。パワーサイクルカウント部124は、積算回数を閾値調整部125に出力する。
【0046】
閾値調整部125は、オン抵抗算出部121が算出したオン抵抗値と比較するためのオン抵抗閾値を設定する。閾値調整部125は、素子寿命検出部123から入力された素子寿命(パワーサイクルの動作可能サイクル数)とパワーサイクルカウント部124から入力される積算回数とから、残存寿命を算出する。具体的には、閾値調整部125は、素子寿命から積算回数を減算することで残存寿命を算出する。そして、閾値調整部125は、残存寿命に対応するオン抵抗閾値を設定する。閾値調整部125は、残存寿命が小さい場合に、オン抵抗閾値が小さくなるように設定する。
図6(a)は、閾値調整部125が設定するオン抵抗閾値を説明するための図であり、残存寿命と設定されるオン抵抗閾値との関係の一例を示している。残存寿命がある程度大きい場合には、パワーサイクルに基づく故障の故障率がかなり低いので、オン抵抗閾値は、大きな値が設定される。残存寿命がある程度小さくなると、故障率が急激に大きくなることが解っている。したがって、閾値調整部125は、残存寿命の低下に応じて、オン抵抗閾値が急減するように設定する。なお、
図6に示す関係は一例であって限定されない。残存寿命に対して、オン抵抗閾値をどのように設定するかは、実験やシミュレーションなどに基づいて適宜設定される。閾値調整部125は、設定したオン抵抗閾値を判定部126に出力する。
【0047】
判定部126は、オン抵抗算出部121から入力されるオン抵抗値と、閾値調整部125から入力されるオン抵抗閾値とを比較する。判定部126は、オン抵抗値がオン抵抗閾値以上になった場合に、スイッチング素子TR1にパワーサイクルの温度変化に基づく故障が発生したと判定して、出力部525に当該判定結果を出力する。閾値調整部125は残存寿命が小さいほどオン抵抗閾値が小さくなるように設定するので、判定部126は、残存寿命が小さいほど、オン抵抗値の上昇をより厳しく判定する。
【0048】
サーマルサイクル故障判定部13は、スイッチング素子TR1のサーマルサイクルの温度変化に基づく故障を判定する。サーマルサイクル故障判定部13は、移動平均算出部130、温度電流比算出部131、第2温度幅検出部132、素子寿命検出部133、サーマルサイクルカウント部134、閾値調整部135、および判定部136を備えている。
【0049】
移動平均算出部130は、情報取得部11から素子温度T1を入力され、所定期間の素子温度T1の移動平均値である平均温度を算出する。所定期間は、パワーサイクルでの温度変化の影響を受けないようにするために、パワーサイクルの1サイクルの期間より長い時間が設定される。移動平均算出部130は、算出した平均温度を、温度電流比算出部131、第2温度幅検出部132、およびサーマルサイクルカウント部134に出力する。
【0050】
温度電流比算出部131は、情報取得部11から電流値I1を入力され、移動平均算出部130から平均温度を入力され、平均温度を電流値I1で除算することで、温度電流比を算出する。サーマルサイクルの温度変化により、はんだ24またははんだ27に亀裂が発生すると、熱抵抗が増加して、スイッチング素子TR1の放熱が適切にできなくなる。このため、スイッチング素子TR1に流れる電流に対するスイッチング素子TR1の温度が上昇する。したがって、温度電流比算出部131が算出した温度電流比に基づいて、サーマルサイクルの温度変化に基づく故障を判定できる。温度電流比算出部131は、算出した温度電流比を判定部136に出力する。
【0051】
第2温度幅検出部132は、移動平均算出部130から平均温度を入力され、サーマルサイクルでの温度の変化幅である第2温度幅ΔTj2(
図4(b)参照)を検出する。第2温度幅検出部132は、入力される平均温度から所定期間(サーマルサイクルの1サイクル以上の期間)での最高温度と最低温度とを検出し、最高温度から最低温度を減算することで、第2温度幅ΔTj2を算出する。第2温度幅検出部132は、検出した第2温度幅ΔTj2を素子寿命検出部133に出力する。また、第2温度幅検出部132は、検出した最高温度をサーマルサイクルカウント部134に出力する。
【0052】
素子寿命検出部133は、第2温度幅検出部132から入力される第2温度幅ΔTj2に基づいて、スイッチング素子TR1の素子寿命を検出する。当該素子寿命は、サーマルサイクルのサイクル数で示すスイッチング素子TR1の寿命であり、スイッチング素子TR1が使用開始から故障するまでのサーマルサイクルの動作可能サイクル数を示している。スイッチング素子の素子寿命は、使用される環境によって異なり、サーマルサイクルでの温度の変化幅と関係性がある。例えば、サーマルサイクルでの温度の変化幅の対数と素子寿命(サーマルサイクルの動作可能サイクル数)の対数とは比例関係にあることが知られている。素子寿命検出部133は、この関係性を用いて、入力された第2温度幅ΔTj2に対応する素子寿命を検出する。なお、第2温度幅ΔTj2が変動する場合は、最初に検出した素子寿命に対して、変動後の第2温度幅ΔTj2に対応する素子寿命に応じた調整を行えばよい。素子寿命検出部133は、検出した素子寿命を閾値調整部135に出力する。なお、素子寿命の検出方法は限定されない。また、素子寿命があらかじめ判っている場合は、素子寿命検出部133で検出する必要はなく、当該素子寿命が直接、閾値調整部135に入力される。
【0053】
サーマルサイクルカウント部134は、サーマルサイクルによる平均温度の変化のサイクル数をカウントして積算する。サーマルサイクルカウント部134は、移動平均算出部130から平均温度を入力され、第2温度幅検出部132から入力された最高温度に基づいて、サーマルサイクルのサイクル数をカウントする。例えば、最高温度より少し低い温度を設定し、移動平均算出部130から連続的に入力される平均温度が設定された温度を上回ったときにカウントを行う。なお、サーマルサイクルのサイクル数のカウント方法は限定されない。例えば、第2温度幅検出部132がサーマルサイクルでの平均温度の変化の最低温度をサーマルサイクルカウント部134に出力し、サーマルサイクルカウント部134が当該最低温度に基づいて、サーマルサイクルのサイクル数をカウントしてもよい。サーマルサイクルカウント部134は、スイッチング素子TR1が交換されたときに、積算回数を「0」に初期化し、その後はカウントした回数を積算する。サーマルサイクルカウント部134は、積算回数を閾値調整部135に出力する。
【0054】
閾値調整部135は、温度電流比算出部131が算出した温度電流比と比較するための温度電流比閾値を設定する。閾値調整部135は、素子寿命検出部133から入力された素子寿命(サーマルサイクルの動作可能サイクル数)とサーマルサイクルカウント部134から入力される積算回数とから、残存寿命を算出する。そして、閾値調整部135は、残存寿命に対応する温度電流比閾値を設定する。閾値調整部135は、残存寿命が小さい場合に、温度電流比閾値が小さくなるように設定する。
図6(b)は、閾値調整部135が設定する温度電流比閾値を説明するための図であり、残存寿命と設定される温度電流比閾値との関係の一例を示している。残存寿命がある程度大きい場合には、サーマルサイクルに基づく故障の故障率がかなり低いので、温度電流比閾値は、大きな値が設定される。残存寿命がある程度小さくなると、故障率が急激に大きくなることが解っている。したがって、閾値調整部135は、残存寿命の低下に応じて、温度電流比閾値が急減するように設定する。なお、
図6(b)に示す関係は一例であって限定されない。残存寿命に対して温度電流比閾値をどのように設定するかは、実験やシミュレーションなどに基づいて適宜設定される。閾値調整部135は、設定した温度電流比閾値を判定部136に出力する。
【0055】
判定部136は、温度電流比算出部131から入力される温度電流比と、閾値調整部135から入力される温度電流比閾値とを比較する。判定部136は、温度電流比が温度電流比閾値以上になった場合に、スイッチング素子TR1にサーマルサイクルの温度変化に基づく故障が発生したと判定して、出力部525に当該判定結果を出力する。閾値調整部135は残存寿命が小さいほど温度電流比閾値が小さくなるように設定するので、判定部136は、残存寿命が小さいほど、温度電流比の上昇をより厳しく判定する。
【0056】
なお、第1故障判定部521は、パワーサイクル故障判定部12またはサーマルサイクル故障判定部13のいずれか一方だけを備えてもよい。
【0057】
第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524の構成は、第1故障判定部521と同様である。出力部525は、第1故障判定部521、第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524から入力された判定結果を、表示部81に出力する。このとき、出力部525は、どこから判定結果が入力されたかを示す情報も表示部81に出力する。出力部525は、例えば、第1故障判定部521のパワーサイクル故障判定部12から判定結果(故障の判定結果)を入力された場合、当該判定結果を表示部81に出力する。表示部81は、警告表示として、スイッチング素子TR1においてパワーサイクルの温度変化に基づく故障が発生したことを示す表示を、表示画面に表示する。なお、表示部81は、故障の種類を表示せず、故障が発生したスイッチング素子を示す表示だけを、表示画面に表示してもよい。
【0058】
次に、溶接電源装置A1の作用効果について説明する。
【0059】
本実施形態によると、検出部61の温度検出部61cは、スイッチング素子TR1に隣接配置されて、スイッチング素子TR1の素子温度を直接検出する。同様に、検出部62~64の温度検出部は、それぞれ、スイッチング素子TR2~TR4の素子温度を直接検出する。したがって、故障判定部52は、個別のスイッチング素子の素子温度に基づいて、当該スイッチング素子の故障を判定できる。
【0060】
また、検出部61の飽和電圧検出部61aは、電圧クリップ回路を備え、スイッチング素子TR1のコレクタ-エミッタ間の素子飽和電圧を検出する。同様に、検出部62~64の飽和電圧検出部は、それぞれ、スイッチング素子TR2~TR4の素子飽和電圧を検出する。スイッチング素子のオフ時の電圧を検出するための電圧検出部は、飽和電圧を精度よく検出できない。したがって、故障判定部52は、個別のスイッチング素子の精度の高い素子飽和電圧に基づいて、当該スイッチング素子の故障を判定できる。
【0061】
また、検出部61の電流検出部61bは、スイッチング素子TR1のエミッタ端子を流れる素子電流を検出する。同様に、検出部62~64の電流検出部は、それぞれ、スイッチング素子TR2~TR4の素子電流を検出する。したがって、故障判定部52は、個別のスイッチング素子の素子温度、素子飽和電圧、および素子電流に基づいて、当該スイッチング素子の故障を判定できる。これにより、溶接電源装置A1は、個別のスイッチング素子TR1~TR4の故障を高い精度で判定できる。
【0062】
また、本実施形態によると、第1故障判定部521のパワーサイクル故障判定部12は、スイッチング素子TR1の素子飽和電圧および素子電流に基づいてオン抵抗値を算出し、オン抵抗値がオン抵抗閾値以上になった場合に、スイッチング素子TR1のパワーサイクルの温度変化に基づく故障を判定する。このとき、パワーサイクル故障判定部12は、スイッチング素子TR1の素子温度に基づいてカウントされたパワーサイクルのサイクル数の積算回数と、素子寿命(パワーサイクルの動作可能サイクル数)とから残存寿命を算出し、残存寿命が小さいほどオン抵抗閾値が小さくなるように設定する。これにより、パワーサイクル故障判定部12は、残存寿命が小さいほど、オン抵抗値の上昇をより厳しく判定する。したがって、パワーサイクル故障判定部12は、オン抵抗値を固定の閾値と比較する場合や、パワーサイクルのサイクル数が素子寿命以上になったことで故障を判定する場合と比較して、高い精度で故障の判定ができる。
【0063】
また、本実施形態によると、第1故障判定部521のサーマルサイクル故障判定部13は、スイッチング素子TR1の素子温度および素子電流に基づいて温度電流比を算出し、温度電流比が温度電流比閾値以上になった場合に、スイッチング素子TR1のサーマルサイクルの温度変化に基づく故障を判定する。このとき、サーマルサイクル故障判定部13は、スイッチング素子TR1の素子温度に基づいてカウントされたサーマルサイクルのサイクル数の積算回数と、素子寿命(サーマルサイクルの動作可能サイクル数)とから残存寿命を算出し、残存寿命が小さいほど温度電流比閾値が小さくなるように設定する。これにより、サーマルサイクル故障判定部13は、残存寿命が小さいほど、温度電流比の上昇をより厳しく判定する。したがって、サーマルサイクル故障判定部13は、温度電流比を固定の閾値と比較する場合や、サーマルサイクルのサイクル数が素子寿命以上になったことで故障を判定する場合と比較して、高い精度で故障の判定ができる。
【0064】
図7~
図9は、本開示の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0065】
〔第2実施形態〕
図7は、本開示の第2実施形態に係る溶接電源装置A2を説明するための図であり、溶接電源装置A2の一部の構成を示すブロック図である。
図7においては、直流電源1、インバータ回路2、トランス3、整流回路4、検出部61~64、電流センサ7、および表示部81の記載を省略している。本実施形態に係る溶接電源装置A2は、故障判定部52の内部構成が、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なる。本実施形態の他の部分の構成および動作は、第1実施形態と同様である。
【0066】
本実施形態では、第1故障判定部521は、パワーサイクル故障判定部12およびサーマルサイクル故障判定部13の代わりに、故障判定ニューラルネットワーク15(以下では、「故障判定NN15」と記載する)を備えている。故障判定NN15は、情報取得部11から、スイッチング素子TR1の素子電流の電流値I1、素子飽和電圧の電圧値V1、および素子温度T1を入力され、故障の判定結果を出力する。故障判定NN15は、入力層、複数の中間層、および出力層を有する学習済みの再帰型ニューラルネットワークである。入力層は、時系列データである素子電流、素子飽和電圧、および素子温度が入力される複数のニューロンを備える。出力層は、故障が発生した確率を示した情報を出力する第1ニューロンと、故障が発生していない確率を示した情報を出力する第2ニューロンとを備える。この場合、故障の判定結果は、第1ニューロンおよび第2ニューロンから出力された情報である。出力部525は、第1ニューロンおよび第2ニューロンから出力された情報に基づいて、判定結果を表示部81に出力する。出力部525は、例えば、第1ニューロンから出力された情報(故障が発生した確率を示した情報)が、第2ニューロンから出力された情報(故障が発生していない確率を示した情報)より大きい場合に、スイッチング素子TR1に故障が発生したとする判定結果を出力する。なお、出力部525による判定方法は、これに限られない。
【0067】
なお、故障判定NN15は、故障の判定結果を故障が発生したか否かの2値で出力するニューロンを出力層に備えても良い。また、故障判定NN15は、故障の判定結果を故障の可能性を示すアナログ値を出力するニューロンを出力層に備えても良い。また、故障判定NN15の中間層の層数、各層のニューロン数等、その構造は特に限定されない。また、故障判定NN15は、再帰型ニューラルネットワークに限定されず、他の種類のニューラルネットワークで構成されてもよい。
【0068】
故障判定NN15は、素子電流、素子飽和電圧、素子温度と、実際にスイッチング素子TR1が故障した場合の故障情報とを教師データとして、学習前の再帰型深層ニューラルネットワークに与えることにより、あらかじめ機械学習が行われている。また、故障判定NN15は、学習処理部526によってさらに機械学習を行われることで、故障判定の精度が向上する。第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524の構成は、第1故障判定部521と同様である。
【0069】
学習処理部526は、故障判定NN15の機械学習を行う。学習処理部526は、第1故障判定部521の情報取得部11から、電流値I1、電圧値V1、および素子温度T1を入力され、図示しない記憶部に記憶する。学習処理部526は、第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524からも同様に、電流値、電圧値、および素子温度を入力され、記憶部に記憶する。また、学習処理部526は、入力部82から、実際にスイッチング素子TR1~TR4が故障した場合の故障情報を入力され、記憶部に記憶する。学習処理部526は、記憶部に蓄積された情報を教師データとして、故障判定NN15に機械学習を行う。学習処理部526は、第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524の故障判定NNにも同様に機械学習を行う。
【0070】
本実施形態においても、検出部61の温度検出部61cは、スイッチング素子TR1に隣接配置されて、スイッチング素子TR1の素子温度を直接検出する。また、検出部61の飽和電圧検出部61aは、電圧クリップ回路を備え、スイッチング素子TR1のコレクタ-エミッタ間の素子飽和電圧を検出する。また、検出部61の電流検出部61bは、スイッチング素子TR1のエミッタ端子を流れる素子電流を検出する。検出部62~64も同様である。したがって、故障判定部52は、個別のスイッチング素子の素子温度、精度の高い素子飽和電圧、および素子電流に基づいて、当該スイッチング素子の故障を判定できる。これにより、溶接電源装置A2は、個別のスイッチング素子TR1~TR4の故障を高い精度で判定できる。
【0071】
さらに、本実施形態によると、第1故障判定部521の故障判定NN15は、素子電流、素子飽和電圧、素子温度と、実際にスイッチング素子TR1が故障した場合の故障情報とを教師データとして、あらかじめ機械学習が行われている。第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524も同様である。したがって、故障判定部52は、検出部61~64から入力される各スイッチング素子TR1~TR4の素子温度、素子飽和電圧、および素子電流に基づいて、各スイッチング素子の故障を判定できる。また、故障判定NN15は、学習処理部526によってさらに機械学習を行われることで、故障判定の精度が向上する。
【0072】
なお、本実施形態においては、故障判定部52が学習処理部526を備える場合について説明したが、これに限られない。故障判定部52は、学習処理部526を備えず、最初に学習された状態で使用されてもよい。
【0073】
〔第3実施形態〕
図8は、本開示の第3実施形態に係る溶接電源装置A3を説明するための図であり、溶接電源装置A3の一部の構成を示すブロック図である。
図8においては、直流電源1、インバータ回路2、トランス3、整流回路4、検出部61~64、電流センサ7、および表示部81の記載を省略している。本実施形態に係る溶接電源装置A3は、学習処理部が外部のサーバに配置されている点で、第2実施形態に係る溶接電源装置A2と異なる。本実施形態の他の部分の構成および動作は、第2実施形態と同様である。
【0074】
第3実施形態に係る溶接電源装置A3は、サーバ9を備えている。本実施形態では、故障判定部52は、学習処理部526を備えておらず、通信部527を備えている。通信部527は、サーバ9と通信を行い、第1故障判定部521の情報取得部11が取得したスイッチング素子TR1の素子電流の電流値I1、素子飽和電圧の電圧値V1、および素子温度T1を、サーバ9に送信する。同様に、通信部527は、各スイッチング素子TR2~TR4の素子電流の電流値、素子飽和電圧の電圧値、および素子温度も、サーバ9に送信する。また、通信部527は、入力部82から入力されるスイッチング素子TR1~TR4の故障情報も、サーバ9に送信する。なお、サーバ9の配置場所は限定されない。また、通信部54とサーバ9との通信方法も限定されない。
【0075】
サーバ9は、溶接電源装置A3の故障判定部52と通信を行う。サーバ9は、学習処理部91を備えている。学習処理部91は、第2実施形態に係る溶接電源装置A2の故障判定部52が備える学習処理部526と同様の機能を有する。学習処理部91は、溶接電源装置A3の故障判定部52から受信した情報を図示しない記憶部に記憶する。学習処理部91は、記憶部に蓄積された情報を教師データとして、図示しない故障判定NNに機械学習を行う。サーバ9は、学習後の故障判定NNを規定するパラメータを溶接電源装置A3に送信する。故障判定NN15は、通信部527がサーバ9から受信したパラメータを用いて再構成される。なお、学習処理部91は、故障判定NN15などに直接、機械学習を行ってもよい。溶接電源装置A3は、溶接電源装置A2では制御回路5に配置されていた学習処理部526の機能を、外部のサーバ9に配置したものである。本実施形態では、サーバ9も故障判定部52の一部であると考えることができる。
【0076】
また、本実施形態では、サーバ9は、複数の溶接電源装置A3と通信を行い、各溶接電源装置A3から情報を収集する。学習処理部91は、各溶接電源装置A3から収集した情報を教師データとして、故障判定NNに機械学習を行う。
【0077】
本実施形態においても、第2実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、本実施形態によると、学習処理部91は、複数の溶接電源装置A3から収集した情報を教師データとして、故障判定NNに機械学習を行う。したがって、各溶接電源装置A3は、大量の情報を用いて機械学習されるので、故障判定の精度がより向上する。
【0078】
〔第4実施形態〕
図9は、本開示の第4実施形態に係る溶接電源装置A4を説明するための図であり、溶接電源装置A4の一部の構成を示すブロック図である。
図9においては、直流電源1、インバータ回路2、トランス3、整流回路4、検出部61~64、電流センサ7、および表示部81の記載を省略している。本実施形態に係る溶接電源装置A4は、外部のサーバが故障の判定を行う点で、第3実施形態に係る溶接電源装置A3と異なる。本実施形態の他の部分の構成および動作は、第3実施形態と同様である。
【0079】
第4実施形態に係る溶接電源装置A4では、第1故障判定部521は、故障判定NN15を備えていない。第2故障判定部522、第3故障判定部523、および第4故障判定部524も同様である。一方、サーバ9は、故障判定NN92を備えている。故障判定NN92は、第3実施形態に係る溶接電源装置A3の故障判定NN15と同様の機能を有する。故障判定NN92は、各溶接電源装置A4から受信した、素子電流の電流値、素子飽和電圧の電圧値、および素子温度に基づいて故障の判定を行う。サーバ9は、判定結果を当該溶接電源装置A4に送信する。故障判定NN92は、学習処理部91によって機械学習が行われる。つまり、溶接電源装置A4は、溶接電源装置A3では第1故障判定部521に配置されていた故障判定NN15などの機能を、外部のサーバ9に配置したものである。本実施形態では、サーバ9も故障判定部52の一部であると考えることができる。
【0080】
本実施形態においても、第3実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、本実施形態によると、サーバ9に故障判定の機能を集約することができる。
【0081】
なお、第1~4実施形態においては、本発明を溶接電源装置に適用した場合について説明したが、これに限られない。本発明は、インバータ回路またはチョッパ回路などの半導体スイッチング素子を備えるすべての電源装置に適用可能である。
【0082】
本発明に係る電源装置は、上記した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0083】
A1~A4:溶接電源装置、2:インバータ回路、TR1~TR4:スイッチング素子、52:故障判定部、121:オン抵抗算出部、124:パワーサイクルカウント部、125,135:閾値調整部、126,136:判定部、130:移動平均算出部、131:温度電流比算出部、134:サーマルサイクルカウント部、15:故障判定ニューラルネットワーク、526:学習判定部、527:通信部、9:サーバ、91:学習処理部、92:故障判定ニューラルネットワーク、61a:飽和電圧検出部、R1:抵抗、D1:ダイオード、D2:定電圧ダイオード、61b:電流検出部、61c:温度検出部