(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187900
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】銑鉄製造方法及び鉱石原料
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20221213BHJP
C22B 1/248 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C21B5/00 301
C21B5/00 319
C21B5/00 311
C22B1/248
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096131
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】笠井 昭人
(72)【発明者】
【氏名】燒谷 将大
(72)【発明者】
【氏名】大菅 宏児
【テーマコード(参考)】
4K001
4K012
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001BA23
4K001GA02
4K012BA01
4K012BC06
4K012BC07
4K012BE00
(57)【要約】
【課題】本発明は、高炉内の通気性を改善できる銑鉄製造方法及び鉱石原料の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る銑鉄製造方法は、羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程とを備え、上記鉱石原料が、還元鉄を圧縮成形した複数の還元鉄成形体を含み、上記還元鉄成形体の形状が、中央部が周辺部より厚い膨らみを両面に有し、平面視で角取りされた長方形状であり、平面視での上記還元鉄成形体の短辺に対する長辺の長さ比が1.5以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記鉱石原料が、還元鉄を圧縮成形した複数の還元鉄成形体を含み、
上記還元鉄成形体の形状が、中央部が周辺部より厚い膨らみを両面に有し、平面視で角取りされた長方形状であり、
平面視での上記還元鉄成形体の短辺に対する長辺の長さ比が1.5以下である銑鉄製造方法。
【請求項2】
上記複数の還元鉄成形体における粒径50mm以上の還元鉄成形体の割合が10質量%以下である請求項1に記載の銑鉄製造方法。
【請求項3】
銑鉄の製造に用いられる鉱石原料であって、
還元鉄を圧縮成形した複数の還元鉄成形体を含み、
上記還元鉄成形体の形状が、中央部が周辺部より厚い膨らみを両面に有し、平面視で角取りされた長方形状であり、
平面視での上記還元鉄成形体の短辺に対する長辺の長さ比が1.5以下である鉱石原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銑鉄製造方法及び鉱石原料に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層し、羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、上記鉱石原料を還元し、溶解することで銑鉄を製造する方法が公知である。このとき、上記コークスは、鉱石原料の溶解のための熱源、鉱石原料の還元材、溶鉄へ浸炭し融点を低下させるための加炭材、及び高炉内の通気性を確保するためのスペーサーの役割を果たしている。このコークスにより通気性を維持することで、装入物の荷下がりを安定させ、高炉の安定操業を図っている。
【0003】
高炉操業においては、コスト削減の観点からはこのコークスの割合が低いことが望ましい。しかし、コークスの割合を低くすると、上述のコークスの果たす役割も低下する。例えばコークスの割合を低減、すなわち鉱石原料の割合を増加させる方法として、還元鉄を用いた高炉操業方法が提案されている(特開2015-199978号公報参照)。上記高炉操業方法では、還元鉄と酸性塊鉱石とを事前に混合し、高炉に装入することにより、高温通気抵抗が上昇しない高炉操業を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の高炉操業方法では、還元鉄が粉化し難い原料であることを利用し、他の鉱石原料が粉化したとしても、還元鉄は形状を維持して骨材となることで、シャフト部のガス流れを維持している。このため、上記従来の高炉操業方法では、還元鉄に強度が必要とされ、見掛け密度の大きいブリケットとすることが必須となる。ところが、見掛け密度を大きくすると還元鉄が下層に溜まる、いわゆる偏析が生じ易くなり、還元鉄による通気性改善効果が得られなくなる。この影響は還元鉄の大きさが小さい場合に顕著となるため、上記従来の高炉操業方法では、還元鉄の粒径を見掛け密度に応じて大きくとることで、還元鉄の強度と偏析抑止とのバランスを取っている。しかし、上記バランスポイントでは、通気性改善効果が十分に得られているとは言えず、高炉内の通気性のさらなる改善が求められている。
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、高炉内の通気性を改善できる銑鉄製造方法及び鉱石原料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、還元鉄の偏析について鋭意検討した結果、特定の形状を有する還元鉄を用いると、偏析が生じ難くなることを見出して本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の一態様に係る銑鉄製造方法は、羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程とを備え、上記鉱石原料が、還元鉄を圧縮成形した複数の還元鉄成形体を含み、上記還元鉄成形体の形状が、中央部が周辺部より厚い膨らみを両面に有し、平面視で角取りされた長方形状であり、平面視での上記還元鉄成形体の短辺に対する長辺の長さ比が1.5以下である。
【0009】
当該銑鉄製造方法では、第1層の鉱石原料が平面視での短辺に対する長辺の長さ比が上記上限以下である還元鉄成形体を含む。この還元鉄成形体は、第1層を積層する際に偏析を生じ難いので、高炉内のガスの流れが均一化され、高炉内の通気性を改善できる。
【0010】
上記複数の還元鉄成形体における粒径50mm以上の還元鉄成形体の割合としては、10質量%以下が好ましい。当該鉱石原料に含まれる還元鉄成形体は、第1層を積層する際に偏析を生じ難いので、粒径の大きい還元鉄成形体に依らずとも偏析を抑制することができる。また、粒径の大きい還元鉄成形体は、第1層を積層する際の落下衝撃エネルギーが大きく、その衝撃により粉化し易い傾向にある。このため、粒径50mm以上の還元鉄成形体の割合を上記上限以下とすることで、落下衝撃エネルギーを低減し、粉化あるいは体積破壊を抑制し、還元鉄成形体の装入歩留まりを向上させ、高炉内の通気性をさらに改善できる。
【0011】
本発明の別の実施形態に係る鉱石原料は、銑鉄の製造に用いられる鉱石原料であって、還元鉄を圧縮成形した複数の還元鉄成形体を含み、上記還元鉄成形体の形状が、中央部が周辺部より厚い膨らみを両面に有し、平面視で角取りされた長方形状であり、平面視での上記還元鉄成形体の短辺に対する長辺の長さ比が1.5以下である。
【0012】
当該鉱石原料は、平面視での短辺に対する長辺の長さ比が上記上限以下である還元鉄成形体を含む。この還元鉄成形体は、鉱石原料を積層する際に偏析を生じ難いので、銑鉄の製造に用いる際、高炉内のガスの流れが均一化され、高炉内の通気性を改善できる。
【0013】
ここで、「粒径50mm以上の還元鉄成形体」とは、50mmの目を有する篩にかけ、上記篩に残留した還元鉄成形体を指す。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の銑鉄製造方法及び鉱石原料は、これを用いることで高炉内の通気性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る銑鉄製造方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、
図1の銑鉄製造方法で使用する高炉内部を示す模式図である。
【
図3】
図3は、還元鉄成形体の形状を説明する模式的斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2の融着帯から滴下帯付近の模式的部分拡大図である。
【
図5】
図5は、実施例で用いた高炉装入物分布実験装置の構成を示す模式図である。
【
図6】
図6は、鉄板の大きさが20mm×7mm×4mmである場合の実施例における径方向5箇所の原料の割合を示すグラフである。
【
図7】
図7は、鉄板の大きさが10mm×7mm×4mmである場合の実施例における径方向5箇所の原料の割合を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例におけるタンブラー回転試験時のタンブラー回転数と通気抵抗指数との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例における粒径50mm以上のHBIの割合と通気抵抗指数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態に係る銑鉄製造方法について説明する。
【0017】
図1に示す銑鉄製造方法は、
図2に示す高炉1を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であり、積層工程S1と、還元溶解工程S2とを備える。
【0018】
<高炉>
高炉1は、
図2に示すように、炉下部に設けられた羽口1aと、出銑口1bとを有する。羽口1aは通常複数設けられる。高炉1は、固気向流型のシャフト炉であり、高温の空気に、必要に応じて高温又は常温の酸素を加えた熱風を羽口1aから炉内に吹き込んで、後述する鉱石原料11の還元及び溶融等の一連の反応を行い、出銑口1bから銑鉄を取り出すことができる。また、高炉1には、ベル・アーマー方式の原料装入装置2が装備されている。この原料装入装置2については、後述する。
【0019】
<積層工程>
積層工程S1では、
図2に示すように、高炉1内に第1層10と第2層20とを交互に積層する。つまり、第1層10及び第2層20の層数は、それぞれ2以上である。
【0020】
(第1層)
第1層10は、それ自体が本発明の一実施形態である鉱石原料11を含む。当該鉱石原料11は、銑鉄の製造に用いられる鉱石原料であり、還元溶解工程S2で羽口1aより吹き込まれる熱風により昇温還元されて溶銑Fとなる。
【0021】
〔鉱石原料〕
「鉱石原料」とは、鉄原料となる鉱石類を指し、主として鉄鉱石を含有する。当該鉱石原料11は、還元鉄を圧縮成形した複数の還元鉄成形体11aを含む。当該鉱石原料11は、他の鉱石原料11bとして、焼成鉱(鉄鉱石ペレット、焼結鉱)、塊鉱石、炭材内装塊成鉱、メタル等を含み得る。
【0022】
還元鉄成形体11a(HBI、Hot Briquette Iron)は、後述する融着帯Dの通気性を改善し、上記熱風を高炉1の中心部まで通気させる骨材の役割を果たす。
【0023】
還元鉄成形体11aは、還元鉄DRI(Direct Reduced Iron)を熱間状態で成形したものである。DRIが、気孔率が高く、海上輸送や屋外保存時に酸化発熱する欠点を有するのに対し、HBIは気孔率が低く、再酸化し難い。還元鉄成形体11aは、第1層10の通気性の確保を果たした後は、メタルとして機能し、溶銑となる。還元鉄成形体11aは金属化率が高く還元の必要がないので、この溶銑となる際に還元材をあまり必要としない。従って、CO2排出量を削減できる。なお、「金属化率」とは、全鉄分に対する金属鉄の割合[質量%]をいう。
【0024】
還元鉄成型体11aは、一般に双ロール型成型器で製造される。このとき、還元鉄成形体11aの形状は、
図3に示すように、中央部が周辺部より厚い膨らみを両面に有し、平面視で角取りされた長方形状とされる。具体的には、還元鉄成形体11aは、長方形状の面を基準として、長辺に垂直方向の断面の輪郭は、上下にアーチ状の弧を描くように膨らんでいる。一方、長辺に平行方向の断面の輪郭は、それぞれの短辺近傍では上下にアーチ状の弧を描き、中央部は長方形状の面に略平行である。なお、長辺に垂直方向の断面の輪郭も長方形状の面に略平行な部分を中部に有していてもよい。上記長辺に垂直方向の断面の輪郭の長辺の位置、及び上記長辺に平行方向の輪郭の短辺の位置において、上下に延びる弧の端点は、一致していてもよいし、
図3に示すように、一定の距離を有し、上記輪郭がその間に上下に延びる直線部を有していてもよい。また、平面視形状は、上述のように角取りされた長方形状、すなわち長方形の角部分が丸まっている。少なくとも長辺側の辺は、角部の丸まりと直線とで構成されるが、短辺側の辺は、角部の丸まりと直線とで構成されてもよいが、
図3のように角部の丸まりのみで構成されていてもよい。なお、還元鉄成型体11aが、特に周縁部において、いわゆるバリを有する場合がある。また、還元鉄成形体は、成形時不良により一部が欠けていたり、輸送時あるいは高炉装入時の衝撃等により割れたりする場合があり、鉱石原料の一部にこのような不完全な還元鉄成形体が含まれることがあるが、本明細書でいう「還元鉄成形体の形状」は、上述の不完全な還元鉄成形体を除いた完全体を対象とし、かつバリを含まない還元鉄成形体本体の形状を指すものとする。
【0025】
平面視での還元鉄成形体11aの長辺の長さ(
図3のL)が40mm以上140mm以下、平面視での還元鉄成形体11aの短辺の長さ(
図3のB)が20mm以上70mm以下、還元鉄成形体11aの厚さ(中央部の厚い部分の高さで、
図3のH)が20mm以上50mm以下である還元鉄成形体11aが占める割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
また、平面視での還元鉄成形体11aの短辺Bに対する長辺Lの比(L/B)の上限としては、1.5であり、1.4がより好ましい。L/Bが上記上限を超えると、第1層10に鉱石原料11を積層する際に、還元鉄成形体11aの偏析が生じ易くなるおそれがある。一方、L/Bの下限としては、長辺≧短辺であるから、1.0である。
【0027】
複数の還元鉄成形体11aにおける粒径50mm以上の還元鉄成形体11aの割合の上限としては、10質量%が好ましく、8質量%がより好ましい。当該鉱石原料11に含まれる還元鉄成形体11aは、第1層10を積層する際に偏析を生じ難いので、粒径の大きい還元鉄成形体11aに依らずとも偏析を抑制することができる。また、粒径の大きい還元鉄成形体11aは、第1層10を積層する際の落下衝撃エネルギーが大きく、その衝撃により粉化し易い傾向にある。このため、粒径50mm以上の還元鉄成形体11aの割合を上記上限以下とすることで、落下衝撃エネルギーを低減し、粉化あるいは体積破壊を抑制し、還元鉄成形体11aの装入歩留まりを向上させ、高炉1内の通気性をさらに改善できる。
【0028】
鉱石原料11における還元鉄成形体11aの含有量の上限としては、30質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。還元鉄成形体11aの含有量を上記上限以下とすることで、偏析を抑止することができ、鉱石堆積傾斜角が低位安定する。このため、還元鉄成形体11aが第1層10内で比較的均一に存在し、上記熱風を高炉1の中心部まで確実に通気させることができるようになる。従って、コークス21の使用量を低減することができる。また、還元鉄成形体11aの偏析による第1層10の不安定さを回避できるので、還元溶解工程S2で下方から溶解し、上層が降下していく際に層崩れが発生することを抑止できる。なお、鉱石堆積傾斜角とは、鉱石堆積層(第1層10等)の傾斜面の水平からの角度を言う。
【0029】
還元鉄成形体11aの装入量の下限としては、銑鉄1トン当たり100kgが好ましく、150kgがより好ましい。還元鉄成形体11aの装入量が上記下限未満であると、還元溶解工程S2で、融着帯Dでの還元鉄成形体11aの通気性確保機能が十分に働かないおそれがある。一方、還元鉄成形体11aの装入量の上限は、骨材過多となり骨材効果が小さくならない範囲で適宜決定されるが、還元鉄成形体11aの装入量の上限は、例えば銑鉄1トン当たり700kgとされる。
【0030】
他の鉱石原料11bの平均粒径に対する還元鉄成形体11aの平均粒径の比の下限としては、1.3が好ましく、1.4がより好ましい。
図4に示すように、第1層10の他の鉱石原料11bの一部が溶解して滴下スラグ12として高炉1の下方へ移動し、この移動した他の鉱石原料11bが軟化収縮した際にも、高融点の還元鉄成形体11aは軟化しない。他の鉱石原料11bに対して一定以上大きい還元鉄成形体11aを骨材として混合させると、還元鉄成形体11aの骨材効果が発現し易く、第1層10全体が層収縮することを抑止できる。従って、上記平均粒径の比を上記下限以上とすることで、
図4の矢印で示すような熱風の流路を確保できるので、還元溶解工程S2での通気性を向上させることができる。一方、上記平均粒径の比の上限としては、10が好ましく、5がより好ましい。上記平均粒径の比が上記上限を超えると、還元鉄成形体11aを第1層10に均一に混合させ難くなり偏析が増大するおそれがある。なお、「平均粒径」とは、粒子径分布にて累積質量が50%となる粒径をいう。
【0031】
また、還元鉄成形体11aが酸化アルミニウムを含む場合、還元鉄成形体11a中の上記酸化アルミニウムの含有量の上限としては、1.5質量%が好ましく、1.3質量%がより好ましい。上記酸化アルミニウムの含有量が上記上限を超えると、スラグ融点の高温化や粘度の増加により炉下部での通気性の確保が困難となるおそれがある。このため、還元鉄成形体11a中の酸化アルミニウムの含有量を上記上限以下とすることで、後述する第2層20のコークス21の使用量が増大することを抑止できる。なお、上記酸化アルミニウムの含有量は0質量%、すなわち還元鉄成形体11aが酸化アルミニウムを含まないものであってもよいが、上記酸化アルミニウムの含有量の下限としては、0.5質量%が好ましい。上記酸化アルミニウムの含有量が上記下限未満であると、還元鉄成形体11aが高価なものとなり、銑鉄の製造コストが高くなるおそれがある。
【0032】
第1層10には、鉱石原料11に加えて、石灰石、ドロマイト、珪石等の副原料を一緒に装入してもよい。また、第1層10には、鉱石原料11に加えて、コークスを篩分けした篩下の小粒コークスを混合使用することが一般的である。
【0033】
(第2層)
第2層20はコークス21を含む。
【0034】
コークス21は、鉱石原料11の溶解のための熱源、鉱石原料11の還元に必要な還元材であるCOガスの生成、溶鉄へ浸炭し融点を低下させるための加炭材、及び高炉1内の通気性を確保するためのスペーサーの役割を果たす。
【0035】
(積層方法)
第1層10及び第2層20を交互に積層する方法は、種々の方法を用いることができる。ここでは、
図2に示すようなベル・アーマー方式の原料装入装置2(以下、単に「原料装入装置2」ともいう)を搭載した高炉1を例にとり、その方法について説明する。
【0036】
原料装入装置2は、炉頂部に備えられている。つまり、第1層10及び第2層20は、炉頂より装入される。原料装入装置2は、
図2に示すように、ベルカップ2aと、下ベル2bと、アーマー2cとを有する。
【0037】
ベルカップ2aは、装入する原料を充填する。第1層10を装入する際は、第1層10を構成する原料をベルカップ2aに充填し、第2層20を装入する際は、第2層20を構成する原料を充填する。
【0038】
下ベル2bは下方に広がる円錐状であり、ベルカップ2a内に配設される。下ベル2bは上下に移動可能である(
図2で、上方に移動した状態を実線、下方に移動した場合を破線で示している)。下ベル2bは、上方に移動した場合、ベルカップ2aの下部を密閉し、下方に移動した場合ベルカップ2aの側壁の延長上に隙間が構成されるようになっている。
【0039】
アーマー2cは、下ベル2bより下方で、高炉1の炉壁部に設けられている。下ベル2bを下方に移動した際、上記隙間から原料が落下するが、アーマー2cは、この落下する原料を反発させるための反発板である。また、アーマー2cは、高炉1の内部に向かって出退可能に構成されている。
【0040】
この原料装入装置2を用いて、以下のようにして、第1層10を積層することができる。なお、第2層20についても同様である。また、第1層10及び第2層20の積層は、交互に行われる。
【0041】
まず、下ベル2bを上方に位置させ、第1層10の原料をベルカップ2aに装入する。下ベル2bが上方に位置する場合、ベルカップ2aの下部は密閉されるので、ベルカップ2a内に上記原料が充填される。なお、その充填量は、各層の積層量とする。ベルカップ2aの容量が各層の積層量に満たない場合は、複数回に分けて第1層10を積層してもよい。この1回の充填での積層を「1バッチ」ともいう。
【0042】
次に、下ベル2bを下方へ移動させる。そうすると、ベルカップ2aとの間に隙間が生じるので、この隙間から上記原料は炉壁方向へ落下し、アーマー2cに衝突する。アーマー2cに衝突し、反発した上記原料は、炉内に装入される。上記原料には、アーマー2cでの反発により炉内方向に移動しつつ落下するので、落下した位置から炉内の中心側に向かって流れ込みながら堆積する。アーマー2cは、高炉1の内部に向かって出退可能に構成されているから、上記原料の落下位置は、アーマー2cを出退させることで調整することができる。この調整により第1層10を所望の形状に堆積させることができる。
【0043】
<還元溶解工程>
還元溶解工程S2では、羽口1aから送風する熱風により補助燃料を高炉1内へ吹込みつつ、積層された第1層10の鉱石原料11を還元及び溶解する。なお、高炉操業は連続操業であり、還元溶解工程S2は連続して行われている。一方、積層工程S1は間欠的に行われており、還元溶解工程S2で第1層10及び第2層20の還元及び溶解処理の状況に応じて、新たに還元溶解工程S2で処理すべき第1層10及び第2層20が追加されていく。
【0044】
図2は、還元溶解工程S2での状態を示している。
図2に示すように、羽口1aからの熱風により羽口1a付近には、コークス21が旋回し著しく疎な状態で存在する空洞部分であるレースウェイAが形成されている。高炉1内では、このレースウェイAの温度が最も高く2000℃程度である。レースウェイAに隣接して、高炉1の内部においてコークスの擬停滞域である炉芯Bが存在する。また、炉芯Bから上方に滴下帯C、融着帯D及び塊状帯Eがこの順で存在する。
【0045】
高炉1内の温度は頂部からレースウェイAに向かって上昇する。つまり、塊状帯E、融着帯D、滴下帯Cの順に温度が高く、例えば塊状帯Eで20℃以上1200℃以下程度であるのに対し、炉芯Bは1200℃以上1600℃以下程度となる。なお、炉芯Bの温度は径方向で異なり、炉芯Bの中心部では滴下帯Cより温度が低くなる場合もある。また、炉内の中心部に熱風を安定して流通させることで、断面が逆V字型の融着帯Dを形成させ、炉内の通気性と還元性を確保している。
【0046】
高炉1内では、鉄鉱石原料11は、まず塊状帯Eで昇温還元される。融着帯Dでは、塊状帯Eで還元された鉱石が軟化収縮する。軟化収縮した鉱石は降下して滴下スラグとなり、滴下帯Cへ移動する。還元溶解工程S2で、鉱石原料11の還元は、主に塊状帯Eで進行し、鉱石原料11の溶解は、主に滴下帯Cで生じる。なお、滴下帯Cや炉芯Bでは、降下してきた液状の酸化鉄FeOとコークス21の炭素とが直接反応する直接還元が進行する。
【0047】
還元鉄成形体11aは、融着帯Dで骨材効果を発揮する。つまり、鉱石が軟化収縮した状態でも、高融点の還元鉄成形体11aは軟化せず、上記熱風を高炉1の中心部まで確実に通気させる通気路が確保される。
【0048】
また、炉床部には、還元された鉄が溶融した溶銑Fが堆積しており、その溶銑Fの上部に溶融スラグGが堆積している。この溶銑F及び溶融スラグGは、出銑口1bから取り出すことができる。
【0049】
<利点>
当該鉱石原料11は、平面視での短辺に対する長辺の長さ比が1.5以下である還元鉄成形体11aを含む。この還元鉄成形体11aは、鉱石原料11を積層する際に偏析を生じ難いので、銑鉄の製造に用いる際、高炉1内のガスの流れが均一化され、高炉1内の通気性を改善できる。
【0050】
また、当該銑鉄製造方法では、本発明の鉱石原料11を第1層10に積層するので、高炉1内のガスの流れが均一化され、高炉1内の通気性を改善できる。
【0051】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0052】
上記実施形態では、本発明の鉱石原料として還元鉄成形体と他の鉱石原料とを含む場合を説明したが、本発明の鉱石原料は、還元鉄成形体のみを含むものであってもよい。このような鉱石原料にあっては、必要に応じて他の種類の鉱石原料と混合して、高炉内に積層される第1層に含めることができる。
【0053】
上記実施形態では、本発明の銑鉄製造方法が、積層工程と還元溶解工程とのみを備える場合を説明したが、当該銑鉄製造方法は、他の工程を含んでもよい。
【0054】
例えば当該銑鉄製造方法は、上記高炉の中心部にコークス及び還元鉄成形体の混合物を装入する工程を備えてもよい。この場合、上記混合物における上記還元鉄成形体のうち、粒径5mm以上の還元鉄成形体が占める割合が90質量%以上であり、上記混合物における上記還元鉄成形体の含有量が75質量%以下であることが好ましい。上記熱風は、高炉の中心部まで到達すると、この中心部を上昇する。このように中心部に粒径の大きい還元鉄成形体を上記上限以下の含有量で含めることで、上記熱風の流れを妨げることなく顕熱を効果的に利用できる。従って、コークスの使用量をさらに低減することができる。ここで、高炉の「中心部」とは、炉口部の半径をZとするとき、中心からの距離が0.2Z以下の領域を指す。
【0055】
また、当該銑鉄製造方法は、還元鉄成形体に由来する粉体及び石炭を微粉砕する工程を備えてもよい。この場合、上記補助燃料として上記微粉砕工程で得られる微粉体を含めることが好ましい。還元鉄成形体は、搬送過程等により一部が破砕され粉体となる。このような粉体は高炉内の通気性を低下させるため、第1層として使用することは適当ではない。また、この粉体は比表面積が大きいため、酸化鉄へと再酸化する。この酸化鉄を含む補助燃料を羽口から吹き込むと通気性を改善することができる。従って、還元鉄成形体に由来する粉体を石炭とともに微粉砕し、微粉砕した上記粉体及び上記石炭を含む微粉体を羽口から吹き込む補助燃料として用いることで、還元鉄成形体の有効利用を図ることができるとともに、高炉内の通気性を改善することができる。
【0056】
上記実施形態の積層工程として、ベル・アーマー方式を用いる場合を説明したが、他の方式を用いることもできる。このような他の方式としてはベルレス方式を挙げることができる。ベルレス方式では、旋回シュートを用いて、その角度を調整しながら積層を行うことができる。
【実施例0057】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<還元鉄成形体の形状>
まず、還元鉄成形体の形状が偏析に与える影響を実験した。
【0059】
図5に、この実験に用いた高炉装入物分布実験装置8を示す。
図5に示す高炉装入物分布実験装置8は、スケール1/10.7でベル・アーマー方式の原料装入装置を模擬した2次元スライス冷間模型である。高炉装入物分布実験装置5の大きさは、高さ1450mm(
図5のL1の長さ)、幅580mm(
図5のL2の長さ)、奥行き100mm(
図5で紙面に垂直方向の長さ)である。
【0060】
高炉装入物分布実験装置8の各構成要素は、
図2のベル・アーマー方式の原料装入装置2の対応する同一機能の構成要素と同一番号を付した。機能は同一であるので、詳細説明は省略する。また、高炉装入物分布実験装置8は、
図5に示すように、中心装入を模したコークスを装入するための中心装入シュート8aを有する。
【0061】
この高炉装入物分布実験装置8に下地となるコークス層81、中心装入コークス層82、第1鉱石層83及び第2鉱石層84をこの順で装入した。
【0062】
第1鉱石層83及び第2鉱石層84の装入に用いた原料は、焼結鉱及び塊鉱石を模擬した焼結鉱(粒径2.8~4.0mm)、鉄鉱石ペレットを模擬したアルミナボール(φ2mm)、塊コークスを模擬したコークス(粒径8.0~9.5mm)、及び還元鉄成形体(HBI)を模擬した鉄板である。原料は、2/11.2縮尺とした。また、HBI/焼結鉱/アルミナボールの質量比は、18.5質量%/32.6質量%/48.9質量%とした。
【0063】
上述の条件で、HBIを模擬した鉄板の大きさを20mm×7mm×4mm(短辺に対する長辺の長さ比L/B=2.86)と、10mm×7mm×4mm(L/B=1.43)の2通りについて、装入後に、径方向に5箇所(A~E)で、鉱石試料を採取し、各原料の割合を求めた。L/B=2.86の場合の結果を
図6に、L/B=1.43の結果を
図7に示す。
【0064】
図5に示すように、第1鉱石層83及び第2鉱石層84は中心近傍に向かって下方に傾斜して堆積する。この場合、個重の大きいHBIは下方である中心近傍に偏析が生じ易い。L/B=2.86の場合、
図6に示すように、中心近傍のHBIの割合が上昇しており、偏析が生じていることが分かる。なお、周辺に近いA及びBでHBIの割合が低いのは意図的なものである。すなわち、周囲においては通気性が確保し易いため原料装入の際にHBIの割合が減るように制御されていることに起因するものである。
【0065】
これに対し、L/B=1.43の場合も個重は焼結鉱やアルミナボールより十分大きいが、
図7に示すように、中間から中心付近に近いC~EにおいてHBIの割合が比較的安定しており、
図6のL/B=2.86より偏析が抑制されている。
【0066】
以上から、還元鉄成形体の短辺に対する長辺の長さ比が1.5以下とすることで鉱石原料を積層する際の偏析を抑制できることが分かる。
【0067】
<還元鉄成形体の粒径>
次に、還元鉄成形体の粒径が通気抵抗指数に与える影響を実験した。
【0068】
まず、粒径の違いによる落下衝撃エネルギーの差が通気抵抗指数に与える影響を調査した。具体的には、HBIに輸送状態を模した衝撃を与えるため、タンブラー回転試験を実施した。
【0069】
HBIのタンブラー回転試験は、JIS-M8712:2000「鉄鉱石類(ペレット、焼結鉱)の回転強度測定法」に準じて実施した。回転ドラムは、厚さ6mmの鋼板で、内径φ1000mm、長さ500mmである。内面には、50mm×50mm×6mmの等辺山形鋼の羽根2枚が対称の位置に軸方向に取り付けてある。その取付面は回転方向と反対向きとし、試料を回転によって持ち上げ易くされている。
【0070】
使用した試料は乾燥したHBIで、15±0.15kgである。上記試料のサイズ内訳を変更し(大サイズと小サイズの比率を変更し)、試験を実施した。なお、大サイズは粒径40mm以上100mm以下、小サイズは粒径20mm以上40mm以下のHBIを指す。
【0071】
回転速度25±1rpmで所定回数回転させた後、以下のようにして通気抵抗指数Kを算出した。タンブラー回転試験を行った後、還元鉄成形体の篩分けによる粒径分布を取得する。この粒度分布は、篩分けを行った篩目間の代表粒径(中央値)をd
i[cm]、代表粒径d
iに属する還元鉄成形体の重量分率をw
iとして表される。この粒度分布を用いて、調和平均径D
p[cm]、粒度構成指数I
spを下記式1により算出する。さらに、重力換算係数g
c[9.807(g・cm)/(G・sec
2)]を用いて、下記式1により通気抵抗指数Kを求める。結果を
図8に示す。
【数1】
【0072】
図8の結果から、タンブラー回転数が増加し、累積の回転落下衝撃が増加すると、HBIは破壊され、通気抵抗指数Kが増加している。一方、同一回転数で比較すると、大サイズ割合が増加し小サイズ割合が低下すると通気抵抗指数Kが増加している。これは個重の増加により落下衝撃力が増加したためと推察される。
【0073】
そこで、粒径50mm以上のHBIの割合を変化させて、上述のタンブラー試験を回転数400回及び800回で実施し、通気抵抗指数Kを算出した。結果を
図9に示す。
【0074】
図9の結果から、粒径50mm以上のHBIの割合を10質量%以下とすることで、搬送時及び高炉装入時の粉化と体積破壊を抑制できることが分かる。その結果として、HBIの装入歩留を向上させることができ、高炉内の通気性も向上できる。