IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

<>
  • 特開-核酸増幅方法 図1
  • 特開-核酸増幅方法 図2
  • 特開-核酸増幅方法 図3
  • 特開-核酸増幅方法 図4
  • 特開-核酸増幅方法 図5
  • 特開-核酸増幅方法 図6
  • 特開-核酸増幅方法 図7
  • 特開-核酸増幅方法 図8
  • 特開-核酸増幅方法 図9
  • 特開-核酸増幅方法 図10
  • 特開-核酸増幅方法 図11
  • 特開-核酸増幅方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187903
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】核酸増幅方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20221213BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20221213BHJP
   C12N 15/50 20060101ALN20221213BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12N15/50
C12N9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096136
(22)【出願日】2021-06-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「高感度FETと等温増幅法によるウイルス・病原菌センサー開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝田 禎亮
(72)【発明者】
【氏名】保川 清
(72)【発明者】
【氏名】兒島 憲二
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050KK02
4B050KK03
4B050KK07
4B050LL03
4B063QA01
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR07
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR79
4B063QS24
(57)【要約】
【課題】リコンビナーゼと一本鎖DNA結合タンパク質の効率の良い製造法を提供すること。特に、RPA法による核酸増幅試薬が十分な性能を有する場合の成分の種類や濃度の範囲を提供すること。また、RPA法を用いた汎用性が高い核酸増幅検出キットを提供すること。
【解決手段】特定の組成を有する溶液中で、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RPA法)により、DNAを増幅させる方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成を有する溶液中で、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RPA法)により、DNAを鋳型としてDNAを増幅させる方法。
(1)uvsX濃度が226ng/μL以上1200ng/μL以下
(2)uvsY濃度が20ng/μL以上1200ng/μL以下
(3)gp32濃度が300ng/μL以上600ng/μL以下
(4)Bst鎖置換DNAポリメラーゼ濃度が0.2units/μL以上0.8units/μL以下
(5)クレアチンキナーゼ濃度が60ng/μL以上240ng/μL以下
(6)ジチオトレイトール(DTT)の濃度が0.5mM以上8mM以下
(7)PEG35000の濃度が5.5%以上6.5%以下
(8)dNTP濃度が550μM以上750μM以下
(9)トリス塩酸緩衝液の濃度が40mM以上60mM以下
(10)ATP濃度が0.3mM以上4mM以下
(11)酢酸カリウムの濃度が30mM以上50mM以下
(12)ホスフォクレアチンの濃度が15mM以上25mM以下
(13)酢酸マグネシウム濃度が5mM以上11mM以下
(14)プライマー濃度が0.4μM以上1.6μM以下
【請求項2】
以下の組成を有する溶液中で、逆転写-リコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RT-RPA法)により、RNAを鋳型としてDNAを増幅させる方法。
(1)uvsX濃度が226ng/μL以上1200ng/μL以下
(2)uvsY濃度が20ng/μL以上1200ng/μL以下
(3)gp32濃度が300ng/μL以上600ng/μL以下
(4)Bst鎖置換DNAポリメラーゼ濃度が0.2units/μL以上0.8units/μL以下
(5)クレアチンキナーゼ濃度が60ng/μL以上240ng/μL以下
(6)ジチオトレイトール(DTT)の濃度が0.5mM以上8mM以下
(7)PEG35000の濃度が5.5%以上6.5%以下
(8)dNTP濃度が550μM以上750μM以下
(9)トリス塩酸緩衝液の濃度が40mM以上60mM以下
(10)ATP濃度が0.3mM以上4mM以下
(11)酢酸カリウムの濃度が30mM以上50mM以下
(12)ホスフォクレアチンの濃度が15mM以上25mM以下
(13)酢酸マグネシウム濃度が5mM以上11mM以下
(14)プライマー濃度が0.4μM以上1.6μM以下
(15)逆転写酵素の濃度が1nM以上100nM以下
【請求項3】
増幅される核酸がSARS-CoV-2の核酸である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅方法(特に、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)法による核酸増幅方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
最も代表的な核酸増幅法はPCR(Polymerase chain reaction)である。PCRは温度の上げ下げを行うための装置が必須であるという欠点をもつ。この欠点を克服するために、温度の上げ下げが不要な一定温度での核酸増幅法が開発されてきた。このような核酸増幅法として、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法(例えば非特許文献1)、SDA(Strand displacement amplification)法(例えば非特許文献2)、RCA(Rolling circle amplification)法(例えば非特許文献3)、HAD(Helicase-dependent isothermal DNA amplification)法(例えば非特許文献4)、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法(例えば非特許文献5)、RPA(Recombinase polymerase amplification)法(例えば非特許文献6)が挙げられる。このうちRPA法が近年最も注目されている。RPA法は、リコンビナーゼ、一本鎖DNA結合タンパク質、鎖置換型DNAポリメラーゼを用いて、DNAを熱変性させることなく、標的配列から成るDNAを増幅させる方法である。RPA法は他の一定温度増幅法と異なり、プライマーの設計が容易であることと、体温付近の一定温度で反応が進行するという長所をもつ。
【0003】
RPA法はあらかじめ酵素、基質、塩を含む試薬キットがTwist(ツイスト)社から市販されている。本試薬は成分の種類や濃度を変えることができないので、本試薬を用いて作製された核酸増幅試薬は最適化ができない。実際、RPA法に関連する論文はすべてがツイスト社の試薬キットを用いたものである。本試薬キットの利用者は、自身の研究で扱う標的核酸に対応するプライマーを合成し、これを試薬に添加する。このような利用形態は測定数が少ない(例えば100程度の)研究においては通常支障はないが、測定数が多い(例えば10000程度の)研究においては試薬キットのコストが負担になると思われる。また、核酸増幅試薬は、標的核酸の違いや増幅された核酸を検出する方法の違いにより、要求される感度、特異性、迅速性、生産コストが異なる。これらは核酸検査を商業利用する場合に顕著である。要求される性能を満たすためには、核酸増幅試薬の成分の最適化が必要となる。しかしながら、RPA法は、基本原理は公知であるが、試薬成分の種類や濃度は限定的に開示されているだけであり、これらの情報だけでは最適化はできない。その結果、PCR法を用いた、標的核酸があらかじめ設定された商用キットは多く開発されているが、RPA法を用いた同様の商用キットは開発されていない。
【0004】
これまでに、リコンビナーゼであるT4ファージ由来のuvsXとuvsY、一本鎖DNA結合タンパク質であるT4ファージ由来のgp32の製造法が報告されている(非特許文献7)。この論文に基づく製造法の特徴は以下のとおりである。
1)HisタグをN末端あるいはC末端あるいは両末端に付加させたものを発現させる。
2)核酸除去のためにポリエチレンイミンを用いる。
3)ニッケルアフィニティーカラムクロマトグラフィーを行う。
4)uvsXとgp32については上記3)のニッケルアフィニティーカラムクロマトグラフィーの活性画分にトロンビンを加えて作用させ、付加させたHisタグを切断する。
5)さらに、上記4)の切断物をそのまま陰イオン交換クロマトグラフィーにかけ、トロンビンと切断されたHisタグを除く。
6)さらに、上記陰イオン交換クロマトグラフィーの活性画分を、ホウ酸緩衝液(pH9.3)中で限外ろ過により濃縮し、精製標品とする。
7)uvsYについては、上記3)のニッケルアフィニティーカラムクロマトグラフィーの活性画分にトロンビンを作用させると沈殿するので、上記3)のニッケルアフィニティーカラムクロマトグラフィーの活性画分を精製標品とする。
一方、上記論文では最適な試薬組成として下記が開示されている。
8)反応試薬の成分は、トリス塩酸緩衝液、酢酸カリウム、ジチオトレイトール(DTT)、dNTP、uvsX、uvsY、gp32、Bst鎖置換DNAポリメラーゼ、クレアチンキナーゼ、ホスフォクレアチン、フォワードプライマー、リバースプライマー、PEG35000、ATP、及び酢酸マグネシウムから構成される。ただし、DTT、uvsY、クレアチンキナーゼは除いてもよい。
9)反応液のpHは7.0以上9.0以下であり、7.5以上8.0以下が最も好ましい水準である。
10)酢酸カリウムの濃度は20mM以上140mM以下であり、40mM以上80mM以下が最も好ましい水準である。
11)反応温度は37℃以上45℃以下であり、39℃以上45℃以下が最も好ましい水準である。
【0005】
ここで問題となるのは、uvsX、uvsY、gp32、Bst鎖置換DNAポリメラーゼ、クレアチンキナーゼ、DTT、PEG35000、dNTP、ATP、CHCOOK、及びホスフォクレアチンについての最適条件が開示されていないことである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T.Kievitsら、NASBA isothermal enzymatic in vitro nucleic acid amplification optimized for the diagnosis of HIV-1 infection、ジャーナル・オブ・バイロロジカル・メソッド(Journal of Virological Methods)、1991年発行、第35巻、pp.273-286
【非特許文献2】G.T.Walkerら、Strand displacement amplification-an isothermal, in vitro DNA amplification technique、ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research)、1992年発行、第20巻、pp.1691-1696
【非特許文献3】P.M.Lizardiら、Mutation detection and single-molecule counting using isothermal rolling-circle amplification.ネイチャー・ジェネティックス(Nat Genet)、1998年発行、第19巻、pp.225-232
【非特許文献4】M.Vincentら、Helicase-dependent isothermal DNA amplification、エンボ・レポート(EMBO Reports)、2004年発行、第5巻、pp.795-800
【非特許文献5】T.Notomiら、Loop-mediated isothermal amplification of DNA、ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research)、2000年発行、第28巻、pp.E83
【非特許文献6】O.Piepenburg ら、DNA Detection Using Recombination Proteins、プロス・バイオロジー(PLoS Biology)、2006年発行、第4巻、pp.e204
【非特許文献7】K.Kojimaら、Solvent engineering studies on recombinase polymerase amplification、ジャーナル・オブ・バイオサイエンス・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Bioscience and Bioengineering)、2021年発行、第131巻、pp.219-224
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、RPA法の試薬成分であるリコンビナーゼと一本鎖DNA結合タンパク質の効率の良い製造法が求められている。また、核酸増幅試薬が十分な性能を有する場合のリコンビナーゼ濃度、一本鎖DNA結合タンパク質濃度、pH、塩濃度、温度の範囲の情報が求められている。しかしながら、先行論文にはこれらの情報が開示されていない。
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、リコンビナーゼと一本鎖DNA結合タンパク質の効率の良い製造法を提供する。RPA法による核酸増幅試薬が十分な性能を有する場合の成分の種類や濃度の範囲を提供することを目的とする。また、本発明は、RPA法を用いた汎用性が高い核酸増幅検出キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、リコンビナーゼであるT4ファージ由来のuvsXとuvsY、一本鎖DNA結合タンパク質であるT4ファージ由来のgp32の効率的な製造法を見出し、さらに、酵素濃度と塩濃度の最適反応条件を見出すことにより、改良されたRPA法の発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
以下の組成を有する溶液中で、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RPA法)により、DNAを鋳型としてDNAを増幅させる方法。
(1)uvsX濃度が226ng/μL以上1200ng/μL以下
(2)uvsY濃度が20ng/μL以上1200ng/μL以下
(3)gp32濃度が300ng/μL以上600ng/μL以下
(4)Bst鎖置換DNAポリメラーゼ濃度が0.2units/μL以上0.8units/μL以下
(5)クレアチンキナーゼ濃度が60ng/μL以上240ng/μL以下
(6)ジチオトレイトール(DTT)の濃度が0.5mM以上8mM以下
(7)PEG35000の濃度が5.5%以上6.5%以下
(8)dNTP濃度が550μM以上750μM以下
(9)トリス塩酸緩衝液の濃度が40mM以上60mM以下
(10)ATP濃度が0.3mM以上4mM以下
(11)酢酸カリウムの濃度が30mM以上50mM以下
(12)ホスフォクレアチンの濃度が15mM以上25mM以下
(13)酢酸マグネシウム濃度が5mM以上11mM以下
(14)プライマー濃度が0.4μM以上1.6μM以下
項2.
以下の組成を有する溶液中で、逆転写-リコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RT-RPA法)により、RNAを鋳型としてDNAを増幅させる方法。
(1)uvsX濃度が226ng/μL以上1200ng/μL以下
(2)uvsY濃度が20ng/μL以上1200ng/μL以下
(3)gp32濃度が300ng/μL以上600ng/μL以下
(4)Bst鎖置換DNAポリメラーゼ濃度が0.2units/μL以上0.8units/μL以下
(5)クレアチンキナーゼ濃度が60ng/μL以上240ng/μL以下
(6)ジチオトレイトール(DTT)の濃度が0.5mM以上8mM以下
(7)PEG35000の濃度が5.5%以上6.5%以下
(8)dNTP濃度が550μM以上750μM以下
(9)トリス塩酸緩衝液の濃度が40mM以上60mM以下
(10)ATP濃度が0.3mM以上4mM以下
(11)酢酸カリウムの濃度が30mM以上50mM以下
(12)ホスフォクレアチンの濃度が15mM以上25mM以下
(13)酢酸マグネシウム濃度が5mM以上11mM以下
(14)プライマー濃度が0.4μM以上1.6μM以下
(15)逆転写酵素の濃度が1nM以上100nM以下
項3.
増幅される核酸がSARS-CoV-2の核酸である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るRPA法による核酸増幅方法によれば、標的核酸を非常に効率よく増幅することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】プラスミドpET-uvsX-2、pET-uvsY-2、及びpET-gp32-2の構造を示す。
図2】実施例(uvsX、uvsY、又はgp32の発現と精製)に示す方法でuvsX、uvsY、又はgp32を精製したときの各工程で得られた画分を12.5%アクリルアミド電気泳動で解析した結果を示す。
図3】実施例(RPA反応条件の検討)で用いたテンプレート核酸配列及びプライマーの配列を示す。図中の「1F+4」はN_Sarbeco_F+4プライマー(配列番号2)を、「1R+8」はN_Sarbeco_R+8プライマー(配列番号3)を表す。
図4】実施例(RPA反応条件の検討)に示す方法でDNAを鋳型として27個の実験条件でRPAを行ったときの反応物を2%アガロース電気泳動で解析した結果を示す。
図5】実施例(最適条件でのRPA反応)で用いたテンプレート核酸配列及びプライマーの配列を示す。図中の「2F-15」はCDC-F-15プライマー(配列番号5)を、「2R-11」はCDC-R-11プライマー(配列番号6)を表す。
図6】実施例(最適条件でのRPA反応)に示す方法でDNAを鋳型としてRPAを行ったときの反応物を2%アガロース電気泳動で解析した結果を示す。
図7】実施例(最適条件でのRPA反応)に示す方法で最適化された条件と最適化前の条件でRPA反応を行ったときの反応物を2%アガロース電気泳動で解析した結果を示す。
図8】実施例(最適条件でのRT-RPA反応)に示す方法でRNAを鋳型としてRT-RPAを行ったときの反応物を2%アガロース電気泳動で解析した結果を示す。
図9】実施例(uvsX、uvsY、gp32、又はATPの濃度が反応効率に与える影響)に示す方法でuvsX濃度を40~4000ng/μLとし、DNAを鋳型としてRPAを行ったときの反応物を2%アガロースゲル電気泳動で解析した結果を示す。
図10】実施例(uvsX、uvsY、gp32、又はATPの濃度が反応効率に与える影響)に示す方法でuvsY濃度を4~400ng/μLとし、DNAを鋳型としてRPAを行ったときの反応物を2%アガロースゲル電気泳動で解析した結果を示す。
図11】実施例(uvsX、uvsY、gp32、又はATPの濃度が反応効率に与える影響)に示す方法でgp32濃度を40~4000ng/μLとし、DNAを鋳型としてRPAを行ったときの反応物を2%アガロースゲル電気泳動で解析した結果を示す。
図12】実施例(uvsX、uvsY、gp32、又はATPの濃度が反応効率に与える影響)に示す方法でATP濃度を0.35~35mMとし、DNAを鋳型としてRPAを行ったときの反応物を2%アガロースゲル電気泳動で解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示について、さらに詳細に説明する。
【0014】
本開示のRPA法では、リコンビナーゼであるT4ファージ由来のuvsX及びuvsY、一本鎖DNA結合タンパク質であるT4ファージ由来のgp32、好熱性細菌Bacillus stearothermophilusから単離された耐熱性鎖置換型DNAポリメラーゼ(以下、「Bst鎖置換DNAポリメラーゼ」という)、クレアチンキナーゼ、ジチオトレイトール(DTT)、PEG35000、dNTP、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl)、ATP、酢酸カリウム(CHCOOK)、ホスフォクレアチン、酢酸マグネシウム(MgOAc)、及び、プライマーを用いる。
【0015】
本開示のRPA法に用いられるuvsX、uvsY、及び、gp32の効率的な製造法の特徴は以下のとおりである。
1)HisタグをN末端あるいはC末端あるいは両末端に付加させたものを発現させる。
2)ポリエチレンイミン等のポリアミンを用いた核酸除去は行わない。
3)ニッケルアフィニティーカラムクロマトグラフィーを行う。uvsYについてはトリス緩衝液(pH8.0)あるいはホウ酸緩衝液(pH9.3)中で限外ろ過により濃縮し、精製標品とする。
4)uvsXとgp32に対しては、上記3)のニッケルアフィニティーカラムクロマトグラフィーの活性画分にトロンビンを加えて作用させ、付加させたHisタグを切断する。このとき、uvsXについてはNaCl濃度を0.2~0.8Mとする。gp32についてはその限りではない。
5)上記4)の切断物を透析してから、陰イオン交換クロマトグラフィーにかけ、トロンビンと切断されたHisタグを除く。
6)さらに、上記5)の陰イオン交換クロマトグラフィーの活性画分を、トリス緩衝液(pH8.0)中で限外ろ過により濃縮し、精製標品とする。
【0016】
本開示に係るRPA法では、上記成分の量については、特に制限されないが、本発明に係るRPA法の利用方法(例えばRT-RPA(reverse transcription-RPA)法等)も考慮して、適宜設定することが出来る。
【0017】
例えば、uvsX濃度は、226~1200ng/μL程度が好ましく、300~
900ng/μL程度がより好ましく、360~600ng/μL程度がさらに好ましい。
【0018】
uvsY濃度は、20~1200ng/μL程度が好ましく、30~600ng/μL程度がより好ましく、40~120ng/μL程度がさらに好ましい。
【0019】
gp32濃度は、300~600ng/μL程度が好ましく、330~550ng/μL程度がより好ましく、360~500ng/μL程度がさらに好ましい。
【0020】
Bst鎖置換DNAポリメラーゼ濃度は、0.2~0.8units/μL程度が好ましく、0.25~0.7units/μL程度がより好ましく、0.3~0.6units/μL程度がさらに好ましい。
【0021】
クレアチンキナーゼ濃度は、60~240ng/μL程度が好ましく、80~200ng/μL程度がより好ましく、100~160ng/μL程度がさらに好ましい。
【0022】
DTTの濃度は、0.5~8mM程度が好ましく、1~6mM程度がより好ましく、1.5~4mM程度がさらに好ましい。
【0023】
PEG35000の濃度は、5.5~6.5%程度が好ましく、5.7~6.3%程度がより好ましく、5.9~6.1%程度がさらに好ましい。
【0024】
dNTP濃度は、550~750μM程度が好ましく、575~725μM程度がより好ましく、600~700μM程度がさらに好ましい。
【0025】
トリス塩酸緩衝液の濃度は、40~60mM程度が好ましく、42~58mM程度がより好ましく、44~56mM程度がさらに好ましい。
【0026】
ATP濃度は、0.3~4mM程度が好ましく、0.7~3.8mM程度がより好ましく、1~3.6mM程度がさらに好ましい。
【0027】
酢酸カリウムの濃度は、30~50mM程度が好ましく、32~48mM程度がより好ましく、34~46mM程度がさらに好ましい。
【0028】
ホスフォクレアチンの濃度は、15~25mM程度が好ましく、17~23mM程度がより好ましく、19~21mM程度がさらに好ましい。
【0029】
酢酸マグネシウム濃度は、5~11mM程度が好ましく、6~10mM程度がより好ましく、7~9mM程度がさらに好ましい。
【0030】
プライマー濃度は、0.4~1.6μM程度が好ましく、0.5~1.4μM程度がより好ましく、0.6~1.2μM程度がさらに好ましい。
【0031】
また、反応温度や反応時間についても、各酵素の反応効率等に基づいて検討し決定し得る。例えば、反応温度は、39~43℃が好ましく、40~42℃がより好ましい。また、反応時間は、例えば、15~60分が好ましく、20~40分がより好ましく、30分程度がさらに好ましい。
【0032】
なお、最も良好な反応条件の一つは、以下の条件である。この条件は、各種要因について要因解析を繰り返して得られたものであり、反応溶液における各成分の濃度が最適化されている。
【0033】
uvsX 400ng/μL
uvsY 40ng/μL
gp32 400ng/μL
Bst鎖置換DNAポリメラーゼ 0.4units/μL
クレアチンキナーゼ 120ng/μL
DTT 2mM
PEG35000 6%
dNTP 650μM
トリス塩酸緩衝液 50mM
ATP 3.5mM
CHCOOK 40mM
ホスフォクレアチン 20mM
MgOAc 8mM
プライマー 1μM
反応液容量 30μL
【0034】
また、本開示に係るRPA法を利用することで、様々な応用が可能である。特に、得られうる核酸に対して核酸増幅反応を行うことができる。例えば、RT-RPAを行い、cDNAを大量に合成することができる。つまり、本開示に係るRPA法によりcDNAを合成し、当該cDNAに対してRPAを行うことができる。この場合、本開示に係るRPA法に用いる溶液には、上記成分(uvsX、uvsY、gp32、Bst鎖置換DNAポリメラーゼ、クレアチンキナーゼ、ジチオトレイトール(DTT)、PEG35000、dNTP、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl)、ATP、酢酸カリウム(CHCOOK)、ホスフォクレアチン、酢酸マグネシウム(MgOAc)、及び、プライマー)に加えて、さらに逆転写酵素が含まれ得る。
【0035】
逆転写酵素濃度は、1~100nM程度が好ましく、3~70nM程度がより好ましく、5~40nM程度がさらに好ましい。
【0036】
uvsX、uvsY、gp32、Bst鎖置換DNAポリメラーゼ、クレアチンキナーゼ、ジチオトレイトール(DTT)、PEG35000、dNTP、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl)、ATP、酢酸カリウム(CHCOOK)、ホスフォクレアチン、酢酸マグネシウム(MgOAc)、及び、プライマーの各成分の量については、上記と同様の濃度で用いることが出来る。
【0037】
また、逆転写酵素が含まれる場合、反応温度や反応時間についても、各酵素の反応効率等に基づいて検討し決定し得る。例えば、反応温度は、39~43℃が好ましく、40~42℃がより好ましい。また、反応時間は、例えば、20~60分が好ましく、30~50分がより好ましく、40分程度がさらに好ましい。
【0038】
またさらに、このようにして得られうる増幅した核酸を検出することで、鋳型RNAの存在を検出することができる。つまり、核酸が増幅している場合には、それを検出することが可能であり、検出されたということは鋳型RNAが存在していたことを意味する。逆に、核酸が増幅していない場合には、それを検出することは不可能であり、検出できないということは鋳型RNAが存在していない又はごく微量しか存在していないことを意味する。
【0039】
これを利用すれば、例えば、ウイルスや細菌に特有のRNAや、疾患に特有のRNAを検出することが可能であり、ひいてはウイルスや細菌の感染検査や、特定の疾患の検査(特に診断検査)に用いることが可能である。特に、本願発明に係るRPA法を利用することで、極めて高感度且つ正確に検査を行うことができる。標的RNAの種類や反応条件にもよるが、標的RNA分子が例えば、10~1000分子(あるいは、10~500分子、10~300分子、10~100分子)程度しか存在していなくとも、検出可能であり得る。
【0040】
なお、増幅した核酸の検出方法は特に制限されず、公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、アガロースゲル電気泳動をして核酸染色試験(例えば越路有無ブロマイド)で染色する、あるいは核酸クロマトグラフィーを用いるなどの方法が例示される。またあるいは、増幅された核酸に相補的であり、かつ蛍光物質又は放射性物質が結合したプローブを、増幅核酸とハイブリダイゼーションさせる、といった方法も例示される。
【0041】
これら以外の様々な反応にも本開示に係るRPA法は利用することが可能であり、利用形態は特に制限されない。
【0042】
また、本開示は、上記RPA法に用いるキットも包含する。当該キットには、uvsX、uvsY、gp32、Bst鎖置換DNAポリメラーゼ、クレアチンキナーゼ、ジチオトレイトール(DTT)、PEG35000、dNTP、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl)、ATP、酢酸カリウム(CHCOOK)、ホスフォクレアチン、及び、酢酸マグネシウム(MgOAc)など上述した成分のうち少なくとも一つの成分が含まれる。それ以外に、例えば、RPA法に用いるプライマー、逆転写酵素などが備わっていてもよい。
【0043】
上記成分は、簡便にその濃度が設定できるようにキットに含まれる。上記成分がキットに含まれる形態は特に制限されず、例えば、複数の成分が同一溶液内に予め混合されて含まれていてもよいし、別々の溶液に含まれており、用いる際に全てを混ぜ合わせることであってもよい。また、上記成分以外の成分についても、上記成分と同様の溶液中に含まれていてもよいし、別の溶液に含まれていてもよい。また、固体や粉体の状態で含まれていてもよい。例えば、当該キットは、Ready to useのプレミックスタイプのキットであり、前処理の必要なく標的核酸を直接添加するだけでRPA法が実施できる形態であってもよいし、あるいは、Bst鎖置換DNAポリメラーゼなどの酵素以外の成分(例えばPEG35000や酢酸カリウムなど)が予め混合された状態で含まれており、RPA法の実施の直前に上記酵素及び標的核酸を混ぜ合わせる形態であってもよい。
【0044】
当該キットは、例えば、生体から得られた核酸を含む試料中のマーカーを検出するために好ましく用いることができる。つまり、検出キットとして好ましく用いることができる。本開示に係るRPA法は、上記成分を用いることにより、高い効率性及び高い正確性を維持した状態でcDNAを増幅できるため、当該検出キットは、種々の試料に対して用いることができ、汎用性が高い。核酸検出対象試料としては、例えば、食品(飲料を含む)、海水、水、排水、土壌、植物や動物の一部(組織等)、大気等が挙げられるが、特に制限されない。
【0045】
前記マーカーとしては、生体中に含まれるウイルス又は細菌に特有の塩基配列、疾患に特有の塩基配列を有するRNAなどが挙げられる。なお、本明細書において、「ウイルス又は細菌に特有の塩基配列」とは、ウイルス又は細菌には存在するが、生体には存在しない塩基配列、あるいはウイルス又は細菌に感染した生体と感染していない生体での発現量に有意に差異のある塩基配列をいう。また、「疾患に特有の塩基配列」とは疾患に罹患した生体には存在するが、疾患に罹患していない正常な生体には存在しない塩基配列、あるいは疾患に罹患した生体と罹患していない正常な生体での発現量において有意に差異のある塩基配列をいう。
【0046】
前記ウイルスとしては、特に制限されないが、例えば、HPV、HIV、インフルエンザウイルス、HCV、ノロウイルス、ウエストナイルウイルスなどが挙げられる。また、前記細菌としては、例えば、食中毒の原因となるバチルス・セレウス、サルモネラ、腸管出血性大腸菌、ビブリオ、カンピロバクター、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌などが挙げられる。前記疾患としては、例えば、癌、糖尿病、心臓病、高血圧、感染症、遺伝性疾患、先天性疾患などが挙げられる。
【0047】
前記マーカーの検出用試薬としては、例えば、前記マーカーとなるRNAに相補的であり、かつ蛍光物質又は放射性物質が結合したプローブ、二本鎖核酸に特異的にインターカレートする蛍光物質(例えば、エチジウムブロマイドなど)などが挙げられる。
【0048】
以上のように、当該検出キットを用いることで、二次構造の形成が抑制される温度条件下においても効率よく逆転写反応を行うことができるため、汎用性が高く、被験試料として用いられるRNAの種類を問わず、ウイルスもしくは細菌に特有の塩基配列又は疾患に特有の塩基配列を高い精度で検出することができる。
【0049】
逆転写酵素としては、特に制限されず、公知の逆転写酵素を適宜選択して用いることができる。40~45℃程度で逆転写活性を有する逆転写酵素が好ましく、至適温度が40~45℃程度の逆転写酵素がより好ましい。逆転写酵素としては、市販品を購入して用いることもできる。特に好ましい逆転写酵素の一例として、例えば、AMV reverse transcriptase(AMV-RT)を挙げることができる。AMV-RTはDNA及びRNA依存性DNAポリメラーゼである。なお、AMVはAvian Myeloblastosis Virusの略である。
【0050】
NTPはATP、GTP、CTP、UTPのミックスであることが好ましい。また、dNTPはdATP、dGTP、dCTP、dTTPのミックスであることが好ましい。
【0051】
なお、以上の酵素の市販品の購入先としては、例えばタカラバイオ株式会社、NEB、プロメガ株式会社等が挙げられる。
【0052】
標的DNAは一本鎖でも二本鎖でもよい。
【0053】
標的DNAの増幅に用いるプライマーセットとしては、特に制限されず、任意のプライマーセットを用いることができる。
【0054】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0055】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0056】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断らない限り、%は質量%を示す。
【0057】
uvsX、uvsY、又はgp32の発現と精製
下記(a)~(c)の手順により、uvsX、uvsY、又はgp32を発現させた。
(a)図1に示すプラスミドをそれぞれ、BL21(DE3)により形質転換菌を得た。コロニーを50μg/mLのカナマイシンを含むLブロス10mLが入った試験管6本に播種し、振盪しながら37℃で12時間インキュベーションした。
(b)50μg/mLのカナマイシンを含むLブロス300mL2本に、前記培養液をそれぞれ30mL加え、37℃で6時間インキュベーションした。
(c)30℃に保温した50μg/mLのカナマイシンを含む2LのLブロスに、前記培養液を600mL加え、エアレーションを行った。さらに、1Mイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を2.6mL加え、30℃で4時間インキュベーションすることにより、タンパク質を発現させた。
(d)培養物から遠心により得られた菌体は、
uvsXとuvsYについては、緩衝液A〔組成:50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)、1M NaCl、2mM フェニルメチレンスルホニルフオリド〕50mLに懸濁し、超音波で処理した。
gp32については、緩衝液B〔組成:50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)、2mM フェニルメチレンスルホニルフオリド〕50mLに懸濁し、超音波で処理した。
(e)得られた破砕物を遠心にかけ、上清を回収した。上清のSDS-PAGEのパターンを図2のレーン1に示す。
(f)硫酸アンモニウム濃度がuvsX、uvsYでは40%飽和、gp32では30%飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた。
(g)gp32については上記(f)で得られた溶液を遠心にかけ、上清を回収し、60%飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた。
(h)uvsX、uvsYについては上記(f)で得られた溶液を、gp32については上記(g)で得られた溶液を遠心にかけ、沈殿を回収した。uvsX、uvsYについては、緩衝液C〔組成:50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)、500mM NaCl〕に溶解させた。gp32については、緩衝液D〔組成:50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)〕に溶解させた。これのSDS-PAGEのパターンを図2のレーン2に示す。
(i)上記(h)で得られた溶液を、緩衝液Bで平衡化されたニッケルアフィニティークロマトグラフィーレジン〔Bio-Rad製、商品名:Profinity IMAC resin〕に添加した。
(j)uvsX、uvsYについては、100mMのイミダゾールを含む100mLの緩衝液Cでカラムを洗浄して未結合のタンパク質などを除去した。続いて、500mMのイミダゾールを含む20mLの緩衝液Cを用いて前記カラムに吸着したタンパク質を溶出した。各溶出液1μLに2×SDS緩衝液9μLを加え、12.5%SDS-PAGEにかけた。目的のタンパク質が溶出された画分を活性画分として回収した。活性画分のSDS-PAGEのパターンを図2のuvsX及びuvsYのレーン3に示す。
(k)gp32については、100mLの緩衝液Dでカラムを洗浄して未結合のタンパク質などを除去した。続いて、500mMのイミダゾールを含む20mLの緩衝液Dを用いて前記カラムに吸着したタンパク質を溶出した。各溶出液1μLに2×SDS緩衝液9μLを加え、12.5%SDS-PAGEにかけた。目的のタンパク質が溶出された画分を活性画分として回収した。活性画分のSDS-PAGEのパターンを図2のgp32のレーン3に示す。
(l)上記(j)と(k)で得られたuvsX、uvsY、又はgp32を含む溶液(20mL)に、20units/mL トロンビン(ナカライテスク)となるように混合物を調製した。
(m)4℃で一晩保温した。
(n)反応後、反応液1μLに2×SDS緩衝液9μLを加え、12.5%SDS-PAGEにかけた。結果を図2のレーン4に示す。uvsXとgp32はいずれもトロンビン処理によりバンドの位置が下に移動した。このことから、uvsXとgp32はいずれもトロンビンにより切断されたことを確認した。
(o)上記(n)で得られた反応液を4℃で1Lの50mMリン酸緩衝液(pH7.2)に対して一晩透析した。
(p)uvsX、gp32については、50mM リン酸緩衝液(pH7.2)で平衡化された陰イオン交換レジン〔東ソー社製、商品名:DEAE650M〕に添加した。
(q)100mLの50mM リン酸緩衝液(pH7.2)でカラムを洗浄して未結合のタンパク質などを除去した。
(r)30mLのNaCl濃度が異なる3種類の溶出緩衝液〔組成:20mMリン酸緩衝液(pH7.2)、100、150、200mM NaCl〕を用いて前記カラムに吸着したタンパク質を溶出した。各溶出液1μLに2×SDS緩衝液9μLを加え、12.5%SDS-PAGEにかけた。目的のタンパク質が溶出された画分(uvsXは150mM NaCl、gp32は150mM NaCl)を活性画分として回収した。活性画分のSDS-PAGEのパターンを図2のuvsX及びgp32のレーン5に示す。
(s)uvsYについては、緩衝液Cで平衡化されたニッケルアフィニティークロマトグラフィーレジン〔Bio-Rad製、商品名:Profinity IMAC resin〕に添加した(素通り溶液)。
(t)30mLの緩衝液Cでカラムを洗浄した(洗浄溶液)。
(u)(s)の素通り溶液と(t)の洗浄溶液を活性画分として回収した。活性画分のSDS-PAGEのパターンを図2のuvsYのレーン5に示す。
(v)(u)で得た溶液にNaClを加え2Mとした。
(w)緩衝液E〔組成:50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)、2M NaCl〕で平衡化された疎水性レジン〔東ソー社製、商品名:phenyl650M〕に添加した。
(x)100mLの緩衝液Eでカラムを洗浄して未結合のタンパク質などを除去した。
(y)50mLの緩衝液F〔組成:50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)、1M NaCl〕でカラムを洗浄して未結合のタンパク質などを除去した。
(z1)30mLの緩衝液Dを用いて前記カラムに吸着したタンパク質を溶出した。各溶出液1μLに2×SDS緩衝液9μLを加え、12.5%SDS-PAGEにかけた。目的のタンパク質が溶出された画分を活性画分として回収した。活性画分のSDS-PAGEのパターンを図2のuvsYのレーン6に示す。
(z2)得られた活性画分をAmicon Ultra-15 MWCO 10kを用いて溶媒を10mM トリス緩衝液(pH8.0)に置換するとともに濃縮した。得られた画分を図2のuvsX及びgp32のレーン6に示す。
(t)濃縮液に80%グリセロールをサンプルの3分の1量加え、30~50μLに分注して-30℃に保存した。
【0058】
RPA反応条件の検討
RPA反応系において、反応に影響を与える可能性がある各要因を以下の手法を用いて出来る限り最適化した。
1)反応に影響を与える可能性がある要因を13個あげ、各要因に対し、3個の水準(それぞれ水準1、水準2、水準3)を設定した。一例を表1にあげる。表1では、要因1~13が条件検討要因であり、各要因の濃度を3個の水準に分けて検討している。
2)各要因から1個の水準を選び、27個の異なる反応条件を決定した。一例を表2にあげる。表2から明らかなように、各要因の1個の水準は9個の反応条件に使われている。
3)27個の反応条件に対してそれぞれ、SARS-CoV-2の遺伝子の一部(GENE BANKのアクセッション番号MN908947の28571~28970)(配列番号1)の配列をもつDNA6億コピーを鋳型とし、N_Sarbeco_F+4プライマー(配列番号2)とN_Sarbeco_R+8プライマー(配列番号3)をプライマーとして(図3)、41℃でRPA反応を1時間行った。反応物を2%アガロースゲル電気泳動にかけて増幅バンドを観察した。結果の一例を図4に示す。各反応条件に対して、明瞭な増幅バンドが確認されたものには3、薄い増幅バンドが確認されたものには2、バンドが確認されなかったものには1のスコアを与えた。さらに、各要因の各水準について、その水準が使われている反応条件のスコアを合計した。一例を表1にあげる。各要因に対して、最も絶対値が高いスコアである水準(下線で明示)が好ましいといえる。
4)さらに、全体を100%にしたときの、スコアに対する各要因の寄与率を求めた。一例を表1にあげる。
5)寄与率の大きい要因は、次の要因解析においては、水準をせまい範囲でとり、さらに詳細な条件を検討した。
【0059】
第1回解析の結果に基づいた、新たな要因と水準を表3にあげる。例えば酢酸マグネシウム(MgOAc)については、寄与率が最も高く、且つ水準1(7mM)が最もスコアの絶対値が高いことから、次の検討(表4)においては、7mMよりも更に濃度を低くした場合にどのようになるかを検討できるよう条件を設定している。次の検討の一例を表3にあげた。表3では配列番号1の配列をもつDNA6億コピーを鋳型とした。さらに、その次の検討の一例を表4にあげた。表4では配列番号1の配列をもつDNA6万コピーを鋳型とした。
【0060】
第一回解析
【表1】
【0061】
27個の反応条件
【表2】
【0062】
第2回解析
【表3】
【0063】
第3回解析
【表4】
【0064】
上記の検討を3回行った結果、以下の濃度範囲における条件が好ましいことが判明した。
【0065】
uvsX 226ng/μL以上1200ng/μL以下
uvsY 20ng/μL以上1200ng/μL以下
gp32 300ng/μL以上600ng/μL以下
Bst鎖置換DNAポリメラーゼ 0.2units/μL以上0.8units/μL以下
クレアチンキナーゼ 60ng/μL以上240ng/μL以下
DTT 0.5mM以上8mM以下
PEG35000 5.5%以上6.5%以下
dNTP 550μM以上750μM以下
トリス塩酸緩衝液 40mM以上60mM以下
ATP 0.3mM以上4mM以下
CHCOOK 30mM以上50mM以下
ホスフォクレアチン 15mM以上25mM以下
MgOAc 5mM以上11mM以下
プライマー 0.4μM以上1.6μM以下
【0066】
最適条件でのRPA反応
以下の反応条件でRPA反応を行った。なお、以下の条件は、上記のようにしてRPA法における最適条件を探索した結果、得られた最適条件である。
【0067】
uvsX 400ng/μL
uvsY 40ng/μL
gp32 400ng/μL
Bst鎖置換DNAポリメラーゼ 0.4units/μL
クレアチンキナーゼ 120ng/μL
DTT 2mM
PEG35000 6%
dNTP 650μM
トリス塩酸緩衝液 50mM
ATP 3.5mM
CHCOOK 40mM
ホスフォクレアチン 20mM
MgOAc 8mM
プライマー 1μM
反応液容量 30μL
【0068】
SARS-CoV-2の遺伝子の一部(GENE BANKのアクセッション番号MN908947の28171~28470)(配列番号4)の配列をもつDNA60~6億分子を鋳型とし、CDC-F-15プライマー(配列番号6)とCDC-R-11プライマー(配列番号7)をプライマーとして(図5)、41℃でRPA反応を1時間行った。反応物を2%アガロースゲル電気泳動にかけて増幅バンドを観察した。反応物を2%アガロース電気泳動にかけた結果を図6に示す。図6において、レーン1はDNAを含まない上記条件、レーン2は60分子のDNAを含む上記条件、レーン3は6000分子のDNAを含む上記条件、レーン4は60万分子のDNAを含む上記条件、レーン5は6000万分子のDNAを含む上記条件で、RPAをそれぞれ行ったときの結果を示す。レーン2でバンドが見られたことから、標的DNA60分子を含む試料でRPAにより増幅DNAが検出されたことが示された。
【0069】
さらに、最適化された条件と最適化前の条件でRPA反応を行い、感度を比較した。以下の条件は、最適化前の条件である。
【0070】
uvsX 452ng/μL
uvsY 70ng/μL
gp32 200ng/μL
Bst鎖置換DNAポリメラーゼ 0.4units/μL
クレアチンキナーゼ 120ng/μL
DTT 2mM
PEG35000 6%
dNTP 450μM
トリス塩酸緩衝液 50mM
ATP 2.5mM
CHCOOK 40mM
ホスフォクレアチン 30mM
MgOAc 14mM
プライマー 0.5μM
反応液容量 30μL
【0071】
反応物を2%アガロース電気泳動にかけた結果を図7に示す。図7において、レーン1はDNAを含まない上記条件、レーン2は60分子のDNAを含む上記条件、レーン3は600分子のDNAを含む上記条件、レーン4は6万分子のDNAを含む上記条件、レーン5は600万分子のDNAを含む上記条件、レーン6は6億分子のDNAを含む上記条件で、RPAをそれぞれ行ったときの結果を示す。最適化前の条件では600分子のレーン3でバンドが見られなかったが、最適化された条件ではレーン2でバンドが見られたことから、最適化により感度が向上したことが示された。
【0072】
最適条件でのRT-RPA反応
下記の条件で、SARS-CoV-2の遺伝子の一部(GENE BANKのアクセッション番号MN908947の28171~28470)(配列番号5)の配列をもつRNA60~600万分子を鋳型とし、CDC-F-15プライマー(配列番号6)とCDC-R-11プライマー(配列番号7)をプライマーとして(図5)、41℃でRT-RPA反応を1時間行った。反応物を2%アガロースゲル電気泳動にかけて増幅バンドを観察した。RT-RPA反応を行った。ここで、MM4とはWO2012/020759パンフレットの「実施例」欄の記載(特に実施例4の記載)のモロニ―マウス白血病ウイルス逆転写酵素の耐熱型四重変異体(E286R/E302K/E434R/D524A)である。
【0073】
MM4 10nM
uvsX 400ng/μL
uvsY 40ng/μL
gp32 400ng/μL
Bst鎖置換DNAポリメラーゼ 0.4units/μL
クレアチンキナーゼ 120ng/μL
DTT 2mM
PEG35000 6%
dNTP 650μM
トリス塩酸緩衝液 50mM
ATP 3.5mM
CHCOOK 40mM
ホスフォクレアチン 20mM
MgOAc 8mM
プライマー 1μM
反応液容量 30μL
【0074】
反応物を2%アガロースゲル電気泳動にかけて増幅バンドを観察し、RT-RPA反応を41℃で行った。反応物を2%アガロース電気泳動にかけた結果を図8に示す。図8において、レーン1はRNAを含まない上記条件、レーン2は60分子のRNAを含む上記条件、レーン3は6000分子のRNAを含む上記条件、レーン4は60万分子のRNAを含む上記条件、レーン5は6000万分子のRNAを含む上記条件で、RT-RPAをそれぞれ行ったときの結果を示す。レーン2でバンドが見られたことから、標的RNA60分子を含む試料でRT-RPAにより増幅DNAが検出されたことが示された。
【0075】
uvsX、uvsY、gp32、又はATPの濃度が反応効率に与える影響
uvsX、uvsY、gp32、ATPの濃度が反応効率に与える影響を調べるために、下記の条件を基本条件として、SARS-CoV-2の遺伝子の一部(GENE BANKのアクセッション番号MN908947の28171~28470)(配列番号4)の配列をもつDNA6000分子を鋳型とし、CDC-F-15プライマー(配列番号6)とCDC-R-11プライマー(配列番号7)をプライマーとして(図5)、41℃でRPA反応を30分間行った。
【0076】
uvsX 400ng/μL
uvsY 40ng/μL
gp32 400ng/μL
Bst鎖置換DNAポリメラーゼ 0.4units/μL
クレアチンキナーゼ 120ng/μL
DTT 2mM
PEG35000 6%
dNTP 650μM
トリス塩酸緩衝液 50mM
ATP 3.5mM
CHCOOK 40mM
ホスフォクレアチン 20mM
MgOAc 8mM
プライマー 1μM
反応液容量 30μL
【0077】
反応物を2%アガロース電気泳動にかけた結果を図9~12に示す。ここで、図9は基本条件に対してuvsX濃度を40~4000ng/μLとしたときの結果を、図10は基本条件に対してuvsY濃度を4~400ng/μLとしたときの結果を、図11は基本条件に対してgp32濃度を40~4000ng/μLとしたときの結果を、図12は基本条件に対してATP濃度を0.35~35mMとしたときの結果をそれぞれ示す。図9ではuvsX濃度が400~4000ng/μLで明瞭な増幅バンドが、120ng/μLで薄い増幅バンドが観察された。図10ではuvsY濃度が40~400ng/μLで明瞭な増幅バンドが、12ng/μLで薄い増幅バンドが観察された。図11ではgp32濃度が400ng/μLで明瞭な増幅バンドが、120ng/μLで薄い増幅バンドが観察された。図12ではATP濃度が0.35~3.5mMで明瞭な増幅バンドが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
従来のPCR法による核酸検査ではサーマルサイクラーが必要なため、現場での病原体等の検出は困難であり、医療、食品製造・保蔵、畜産、環境等の広い分野での利用が制限されていた。特に、新興国での普及は困難であった。本発明により、この問題が解決し、RPA法による核酸検査が上記の広い分野で利用され、核酸検査の普及につながることが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2022187903000001.app