(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187938
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】編地の編成方法、ニットデザインシステム、及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20221213BHJP
D04B 15/36 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
D04B15/36 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096210
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】清原 千晴
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌紀
【テーマコード(参考)】
4L002
4L054
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002EA00
4L054AA01
4L054AB02
4L054KA36
4L054NA01
4L054NA07
(57)【要約】
【課題】編成効率に優れる編地の編成方法を提供する。
【解決手段】相対的にラッキング可能な第一針床及び第二針床と、少なくとも二つのカムシステムを搭載するキャリッジとを備える横編機を用いて、複数の編成コースを実行することで編地を編成する編地の編成方法において、前記複数の編成コースは、少なくとも一つの特定編成コースを含み、各特定編成コースでは、前記キャリッジが一方向に移動して一つの編成領域を通過する間に、第一ラッキング工程と、第一目移し工程と、第二ラッキング工程と、第二目移し工程とをこの順で行い、前記一つの編成領域は、編幅方向に連続する一連の編目が係止される領域である、編地の編成方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的にラッキング可能な第一針床及び第二針床と、少なくとも二つのカムシステムを搭載するキャリッジとを備える横編機を用いて、複数の編成コースを実行することで編地を編成する編地の編成方法において、
前記複数の編成コースは、少なくとも一つの特定編成コースを含み、
各特定編成コースでは、前記キャリッジが一方向に移動して一つの編成領域を通過する間に、第一ラッキング工程と、第一目移し工程と、第二ラッキング工程と、第二目移し工程とをこの順で行い、
前記一つの編成領域は、編幅方向に連続する一連の編目が係止される領域である編地の編成方法。
【請求項2】
前記横編機は自走式のヤーンフィーダーを備え、
前記特定編成コースでは更に、前記第一ラッキング工程よりも後にニット工程を行う請求項1に記載の編地の編成方法。
【請求項3】
ユーザーが編地の編成に係るデザインデータを編集する入力部と、
前記デザインデータに基づいて、横編機に備わるコンピュータで読み取り可能な編成プログラムを作成する作成部とを備えるニットデザインシステムにおいて、
前記作成部は、請求項1又は請求項2に記載の編地の編成方法を前記横編機に実行させるために前記コンピュータに前記横編機を制御させる編成プログラムを作成するニットデザインシステム。
【請求項4】
横編機に備わるコンピュータで読み取り可能な編成プログラムを記憶した記憶媒体において、
前記編成プログラムは、請求項1又は請求項2に記載の編地の編成方法を前記横編機に実行させるように前記コンピュータに前記横編機を制御させる記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地の編成方法、ニットデザインシステム、及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
編地を編成する横編機は、相対的にラッキング可能な第一針床及び第二針床と、針床に沿って往復するキャリッジとを備える。キャリッジには、針床の編針に編成動作を行わせるカムシステムが搭載されている。この横編機を用いた編地の編成方法は、複数の編成コースによって構成されている。各編成コースではキャリッジが、針床の長手方向のいずれか一方向に移動する。編成コースでは、キャリッジの移動に伴って、ラッキング工程や、ニット工程、目移し工程などが行われる。ラッキング工程は、第一針床と第二針床の相対的な位置をずらす工程であって、一般的にキャリッジが反転するタイミングで行われる。ニット工程は、編針に編目を形成する工程である。目移し工程は、対向する針床間で編目を移動させる工程である。編成コースには、キャリッジの移動のみを行う空コースも含まれる。
【0003】
横編機は編成プログラムに従って編地を編成する。その編成プログラムは、例えば特許文献1に開示されるニットデザインシステムによって作成される。ニットデザインシステムは、入力部と作成部とを備える。入力部は、ユーザーが編地の編成に係るデザインデータを編集するためのものである。作成部は、デザインデータに基づいて、横編機に備わるコンピュータで読み取り可能な編成プログラムを作成するためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
消費者のニーズの多様化により、小ロット・多品種の編地を効率的に編成したいという生産者のニーズがある。このニーズに応えるため、どのような編地であっても、効率よく編成することができる編地の編成方法が求められている。
【0006】
本発明の目的の一つは、編成効率に優れる編地の編成方法を提供することにある。本発明の目的の一つは、編成効率に優れる編成プログラムを作成するニットデザインシステムを提供することにある。本発明の目的の一つは、編成効率に優れる編成プログラムを記憶した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、一つの編地を編成するための全工程とその並び順を調べた。その結果、どのような編地においても、編地を編成する過程で、ラッキング工程、目移し工程、ラッキング工程、目移し工程の順で並ぶ箇所が多く存在することが明らかになった。従来は、ラッキング工程と目移し工程とが一つの編成コースで行われている。つまり、上記4工程は、キャリッジを往復させる二つの編成コースで行われている。本発明者らは、これらの動作をキャリッジが一方向に移動する間に行うことで編地全体の編成効率が劇的に改善することを見出した。以下、本発明の編地の編成方法、ニットデザインシステム、及び記憶媒体を列記する。
【0008】
<1>本発明の編地の編成方法は、
相対的にラッキング可能な第一針床及び第二針床と、少なくとも二つのカムシステムを搭載するキャリッジとを備える横編機を用いて、複数の編成コースを実行することで編地を編成する編地の編成方法において、
前記複数の編成コースは、少なくとも一つの特定編成コースを含み、
各特定編成コースでは、前記キャリッジが一方向に移動して一つの編成領域を通過する間に、第一ラッキング工程と、第一目移し工程と、第二ラッキング工程と、第二目移し工程とをこの順で行い、
前記一つの編成領域は、編幅方向に連続する一連の編目が係止される領域である。
【0009】
ここで、編成領域の一連の編目は、一つの編糸で構成されていても良いし、異なる編糸で作られた複数の編目列が接合されたものであっても良い。また、特定編成コースにおけるキャリッジの移動時に複数の編成領域を通過する場合がある。例えば、セーターの編成では、針床の長さ方向の離れた位置に右袖と身頃と左袖が係止される場合がある。この場合、右袖の編成領域と、身頃の編成領域と、左袖の編成領域とは、編幅方向に分離しているため、別物と考える。
【0010】
<2>本発明の編地の編成方法の一形態として、
前記横編機は自走式のヤーンフィーダーを備え、
前記特定編成コースでは更に、前記第一ラッキング工程よりも後にニット工程を行う形態が挙げられる。
【0011】
<3>本発明のニットデザインシステムは、
ユーザーが編地の編成に係るデザインデータを編集する入力部と、
前記デザインデータに基づいて、横編機に備わるコンピュータで読み取り可能な編成プログラムを作成する作成部とを備えるニットデザインシステムにおいて、
前記作成部は、上記<1>又は<2>の編地の編成方法を前記横編機に実行させるために前記コンピュータに前記横編機を制御させる編成プログラムを作成する。
【0012】
<4>本発明の記憶媒体は、
横編機に備わるコンピュータで読み取り可能な編成プログラムを記憶した記憶媒体において、
前記編成プログラムは、上記<1>又は<2>の編地の編成方法を前記横編機に実行させるように前記コンピュータに前記横編機を制御させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の編地の編成方法では、一つの特定編成コースにおいて2回のラッキングと2回の目移しとを行うため、編地を完成させるための編成コースの総数が少なくなる。また、特定編成コースを実行することで、空コースの数を大幅に減らせる可能性がある。そのため、本発明の編地の編成方法によれば、編地の編成効率を劇的に向上させることができる。
【0014】
横編機が自走式のヤーンフィーダーを備える場合、特定編成コースに更にニット工程を含ませることができる場合がある。一つの編成コースにおいて更にニット工程を行うことで、編地の編成効率を更に向上させることができる。
【0015】
本発明のニットデザインシステムは、ユーザーが入力した編成データに基づいて、編地を効率的に編成できる編成プログラムを自動で作成できる。ユーザーは、後述する実施形態に示すように、ニットデザインシステム上で編成データを入力するだけで良い。
【0016】
本発明の記憶媒体に記憶された編成プログラムを用いることで、横編機に編地を効率的に編成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、3つのカムシステムを搭載するキャリッジを備える横編機の一部模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に示される編成例1の説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態に示される編成例2の説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態に示されるニットデザインシステムの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態に係る編地の編成方法、ニットデザインシステム、及び記憶媒体を図面に基づいて説明する。
【0019】
<実施形態1>
≪編成例1≫
本実施形態では、最初に4枚ベッド横編機を用いた本発明の編地の編成方法の一例を図面に基づいて説明する。後述するように、2枚ベッド横編機によって本発明の編地の編成方法を実行することも可能である。
【0020】
4枚ベッド横編機は、下部前針床と下部後針床と上部前針床と上部後針床とを備える。以下、下部前針床、下部後針床、上部前針床、及び上部後針床をそれぞれ、FD、BD、FU、及びBUと表記する。本例ではFD及びFUが第一針床、BD及びBUが第二針床である。FDとBDは互いに対向している。FDの上部に配置されるFUと、BDの上部に配置されるBUとは互いに対向している。4枚ベッド横編機は更に、複数のヤーンフィーダーとキャリッジとを備える。
図1の模式図を用いて、針床とヤーンフィーダーとキャリッジの関係を簡単に説明する。
【0021】
図1は、横編機5の一部をFD側から見た模式図である。
図1では、FUの図示を省略している。横編機5に備わるキャリッジ6は、針床上を往復移動する。本例のキャリッジ6は3つのカムシステム6A,6B,6Cを備える。各カムシステムは、キャリッジ6におけるFD、FU、BD、及びBUに対応する箇所に設けられる複数のカムの総称である。各カムシステムは、ニット工程及び目移し工程のいずれもを行うこともできる。例えば、ある編成コースでニット工程を行ったカムシステムが、他の編成コースで目移し工程を行うこともできる。カムシステムの数は、カムシステム6A,6Bの2つでも良いし、カムシステム6A~6Cにもう一つのカムシステムを加えた4つでも良い。各ヤーンフィーダー8は、針床の上方に配置されるレール7に走行可能に取り付けられている。
【0022】
図2には、10目以内の狭い範囲内の離れた位置に二つの重ね目を形成する例を説明する。ここでは、セットインセーターにおける前後の編地を接合するショルダーラインを形成する編成工程の一部が示されている。具体的には、1回目のラッキングを行った後、1回目の目移しによって1つ目の重ね目を形成する。次いで、1回目のラッキングと同方向に2回目のラッキングを行った後、2回目の目移しによって2つ目の重ね目を形成する。
図2における紙面左端の欄に示される『S+数字』は編成工程の番号である。左から二番目のA欄には、各編成工程における編目の形成状態が示されている。A欄における黒点は編針を、Ωマークは編目を、逆三角マークはヤーンフィーダー8を、直線矢印は目移しを示す。左から3番目のB欄には、従来の編地の編成方法においてA欄の編成工程を実行するための編成コースが示されている。右端のC欄には、本例の編地の編成方法においてA欄の編成工程を実行するための編成コースが示されている。まずは、A欄を参照して各編成工程の説明を行う。
【0023】
S1では、ヤーンフィーダー8を左方向に移動させ、BDにおいて複数の編目を編成した後、それらの編目のうち、左側の5つの編目をFUに目移しする。
【0024】
S2では、BD,BUを左方向に1ピッチラッキングさせた後、FUに係止される編目のうち、右側の三つの編目をBDに移動させる。この目移しによって、BDに重ね目が形成される。
【0025】
S3では、BD及びBUを左方向に1ピッチラッキングさせた後、FUに係止される二つの編目をBDに移動させる。この目移しによって、BDに更に重ね目が形成される。
【0026】
S4では、BD及びBUを右方向に1ピッチラッキングさせた後、FDの左端の編目をBDに移動させる。この目移しによって、BDに更に重ね目が形成される。
【0027】
S5では、BD及びBUを右方向に2ピッチラッキングさせた後、FDの右端の編目をBDに移動させる。この目移しによって、BDに更に重ね目が形成される。
【0028】
次に、B欄に示す従来の編地の編成方法における編成コースの構成を説明する。左右方向の矢印は
図1のキャリッジ6の移動方向を、上向きの矢印は前針床から後針床への目移しを、下向きの矢印は後針床から前針床への目移しを示す。二点鎖線は
図1のカムシステム6A,6B,6Cの境界を示している。キャリッジ6の移動方向側にあるカムシステムが先行のカムシステムである。各カムシステムに対応する箇所に記載される『K』はニット工程を、『TR』は目移し工程を、『R』はラッキング工程を示している。『R』の上部にある白抜き矢印はラッキングの方向を示している。
【0029】
B欄に示されるように、従来の編地の編成方法では、各工程に1対1で対応する5つの編成コースを実行している。
【0030】
次に、C欄に示す実施形態に係る編地の編成方法における編成コースの構成を説明する。C欄の見方は、B欄と同じである。C欄に示されるように、実施形態に係る編地の編成方法では、三つの編成コースによってA欄の編成工程を実行している。具体的には、C欄の第一編成コースではS1を実行している。第二編成コースではS2及びS3を実行している。第三編成コースではS4及びS5を実行している。第二編成コースと第三編成コースとは、キャリッジ6(
図1参照)を一方向に移動させる間に、2回のラッキングと2回の目移しとを行う特定編成コースである。より具体的には、第二編成コースでは、キャリッジ6を右方向に移動させる間に、第一ラッキング工程と、第一目移し工程と、第二ラッキング工程と、第二目移し工程とをこの順番で実行している。第一ラッキング工程では、BD及びBUを左方向にラッキングする。第一目移し工程では、キャリッジ6の進行方向の1番目のカムシステム6Aによって編目を目移しする。第二ラッキング工程では、BD及びBUを左方向にラッキングする。第二目移し工程では、3番目のカムシステム6Cによって編目を目移しする。ここで、第二ラッキング工程は、カムシステム6A,6B,6Cが編針に作用していないタイミングで実行する。以降の説明における第二ラッキング工程も、カムシステム6A,6B,6Cが編針に作用していないタイミングで実行する。
【0031】
第三編成コースでは、キャリッジ6を左方向に移動させる間に、第一ラッキング工程と、第一目移し工程と、第二ラッキング工程と、第二目移し工程とをこの順番で実行している。第一ラッキング工程では、BD及びBUを右方向にラッキングする。第一目移し工程では、キャリッジ6の進行方向の1番目のカムシステム6Cによって編目を目移しする。第二ラッキング工程では、BD及びBUを右方向にラッキングする。第二目移し工程では、3番目のカムシステム6Aによって編目を目移しする。
【0032】
以上説明したように、C欄に示される本発明の編地の編成方法では、B欄に示される従来の編地の編成方法に比べて、A欄の編成工程を実行するための編成コース数が少ない。従って、実施形態1に係る編地の編成方法は、従来の編地の編成方法に比べて効率的に編地を編成できる。
【0033】
≪編成例2≫
編成例2では、伏目処理の編成工程の一部を
図3,4に基づいて説明する。伏目処理は、3目以内の狭い範囲において、目移しによって重ね目を形成することと、その重ね目に新たな編目を編成することとを繰り返す処理である。伏目処理は、どのような編地においても高頻度で実行される処理である。
図3,4の伏目処理は、例えば衿などの編地の終端部が解れないようにするための伏目処理である。この伏目処理においては第一のラッキングの方向と第二のラッキングの方向とが異なる。
図3,4の見方は
図2と同じである。編成例2では、
図1のヤーンフィーダー8が自走式である横編機5を用いた編成例を説明する。自走式のヤーンフィーダー8は、キャリッジ6とは独立して移動可能なヤーンフィーダー8である。
図3,4では、ヤーンフィーダー8の移動方向を塗り潰し矢印によって示す。
【0034】
図3のA欄に示されるS1では、ヤーンフィーダー8を右方向に移動させ、BDの左端の編目を編成する。S2では、BDの左端の編目をFUに目移しする。S3では、BD及びBUを左方向に1ピッチラッキングさせた後、FUの編目をBDの左端の編目に重ねる。S4では、ヤーンフィーダー8を左方向に移動させる。S5では、BD及びBUを右方向に1ピッチラッキングさせた後、ヤーンフィーダー8を右方向に移動させ、重ね目のウエール方向に続く編目を編成する。S1からS5によって1回目の伏目処理が完了する。
【0035】
S6では、S5において編成した編目をBDからFUに目移しする。
図4のS7では、BD及びBUを左方向に1ピッチラッキングさせた後、FUの編目をBDの左端の編目に重ねる。S8では、ヤーンフィーダー8を左方向に移動させる。S9では、BD及びBUを右方向に1ピッチラッキングさせた後、ヤーンフィーダー8を右方向に移動させ、BDの重ね目のウエール方向に続く編目を編成する。S6からS9によって2回目の伏目処理が完了する。S9の後は、S2からS5と同様の編成を行う。S10には、3回目の伏目処理の最初の工程が示されている。
【0036】
B欄に示される従来の編地の編成方法では、A欄の編成工程を実行するために、5つの編成コースを実行している。具体的には、従来の編地の編成方法では、各編成コースにおいて二つの工程を実行している。
【0037】
次に、C欄に示される本発明の編成方法では、3つの編成コースによってA欄の編成工程を実行している。具体的には、
図3のC欄の第一編成コースではS1及びS2を実行している。第二編成コースではS3からS6を実行している。
図4のC欄の第三編成コースではS7からS10を実行している。
図3のC欄の第二編成コースと、
図4のC欄の第三編成コースは、キャリッジを一方向に移動させる間に、2回のラッキング工程と2回の目移し工程と1回のニット工程を行う特定編成コースである。より具体的には、
図3のC欄の第二編成コースでは、キャリッジ6を左方向に移動させる間に、第一ラッキング工程と、第一目移し工程と、第二ラッキング工程と、ニット工程と、第二目移し工程とをこの順番で実行している。本編成例の場合、第二ラッキング工程とニット工程の順番は入れ替え可能である。第一ラッキング工程では、BD及びBUを左方向にラッキングする。第一目移し工程では、1番目のカムシステム6Cによって編目を目移しする。第二ラッキング工程では、BD及びBUを右方向にラッキングする。ニット工程では、2番目のカムシステム6Bによって編目を編成する。本例の第二編成コースでは、ニット工程の前にキャリッジ6の進行方向と同方向にヤーンフィーダー8を動かしておく。このヤーンフィーダー8の移動はS4に相当するもので、S5において右方向にヤーンフィーダー8を動かしてニット工程を行うための準備工程である。ニット工程は、キャリッジ6の進行方向と逆方向にヤーンフィーダー8を動かして行う。第二目移し工程では、3番目のカムシステム6Aによって編目を目移しする。
【0038】
図4のC欄に示される第三編成コースでは、キャリッジ6を右方向に移動させる間に、第一ラッキング工程と、第一目移し工程と、第二ラッキング工程と、ニット工程と、第二目移し工程とをこの順番で実行している。本編成例の場合、第二ラッキング工程とニット工程の順番は入れ替え可能である。第一ラッキング工程では、BD及びBUを左方向にラッキングする。第一目移し工程では、1番目のカムシステム6Aによって編目を目移しする。第二ラッキング工程では、BD及びBUを右方向にラッキングする。ニット工程では、2番目のカムシステム6Bによって編目を編成する。本例の第三編成コースでは、ニット工程の前にキャリッジ6の進行方向と逆方向にヤーンフィーダー8を動かしておく。ニット工程は、キャリッジ6の進行方向と同方向にヤーンフィーダー8を動かして行う。目移し工程では、3番目のカムシステム6Cによって編目を目移しする。
【0039】
以上説明したように、
図3,4のC欄に示される本発明の編地の編成方法は、B欄に示される従来の編地の編成方法に比べて効率的に編地を編成できる。
【0040】
≪編成プログラム及び記憶媒体≫
上述した編地の編成方法を横編機に行わせる編成プログラムは、特定編成コースを含む複数の編成コースを横編機5(
図1参照)に実行させるように、横編機5に備わるコンピュータに横編機5を制御させるための編成プログラムである。
【0041】
横編機5では、針床上を走行するキャリッジ6に備わるカムが、編針に備わるバットに作用し、編針が針床の針溝に沿って進退することで編目が形成される。この横編機5には、どの編針にどのような動きをさせるかを決定する選針機構と、キャリッジ6の走行とカムの出没を制御するキャリッジ制御機構と、針床のラッキングを制御するラッキング制御機構とが備わっている。編成プログラムは、これらの機構に指令を出して、キャリッジ6の移動、針床のラッキング位置、及び個々の編針の動きなどを制御することで、横編機に編地を編成させる。
【0042】
編成プログラムを記憶する記憶媒体は、ニットデザインシステムに搭載されていても良いし、横編機に搭載されていても良い。記憶媒体は、ニットデザインシステムで作成された編成プログラムを横編機に移行させる可搬記憶媒体であっても良い。可搬記憶媒体としては、例えばCD-ROMやUSBメモリ、磁気ディスクなどが挙げられる。ここで、編地のデザインシステムとは、ユーザーが画面上で編地をデザインすることで、そのユーザーのデザインに基づいて横編機を動作させるための編成プログラムを作成するシステムである。
【0043】
≪ニットデザインシステム≫
図5の機能ブロック図に示すように、ユーザーのデザインに基づく上記編成プログラムを作成する編地のニットデザインシステム1は、入力部2と作成部3とメモリ4と表示部10とを備える。この編地のニットデザインシステム1は、デザインデータに基づいて、自動で上記編成プログラムを作成するように構成されている。以下、ニットデザインシステム1の各構成を簡単に説明し、次いでユーザーの入力した情報に基づいて編地のニットデザインシステム1が編成プログラムを作成する手順を説明する。
【0044】
入力部2は、ユーザーがデザインデータを編集する際に用いられるものであって、キーボードやマウス、スキャナ、デジタイザなどの形態で構成される。デザインデータには、どのような形状・大きさの編地を編成するかについての情報や、編糸の種類に関する情報、編地を構成する編成単位の情報、各編成単位に割り当てる編成コードの情報などが含まれる。編成コードの情報には、編成単位の位置とその位置に割り当てられる編成コードの情報が含まれる。
【0045】
ここで、編地の編成単位は、編地における編目一つ分に対応するものである。また、各編成単位に割り当てられる編成コードは、横編機に行わせる編成動作を、例えば色や数字、図形あるいはこれらの組み合わせにより表現したものである。例えば、赤色で表される編成コードは、表目を横編機に編成させる編成コードというように規定される。もちろん、一つの編成コードで複数の編成動作が規定されていても良い。例えば、編目を編成した後、その編目を目移しする編成コードが挙げられる。これらの編成コードは、後述するメモリ4に記憶されている。
【0046】
作成部3は、編地の編成プログラムの作成を行うものであって、例えばコンピュータで構成することができる。この作成部3は、デザインデータに基づいて特定編成コースを実行可能であるかを決定する判定部31と、判定部31の判定結果に基づいて編成プログラムを作成する構築部32とを備える。
【0047】
判定部31は、第一判定部31Aと第二判定部31Bとを備える。第一判定部31Aはは、編地の編成するための全工程を参照し、全工程の中から特定編成コースを構成する工程群を抽出する。工程群としては例えば以下の三つが挙げられる。
(1)ラッキング工程、目移し工程、ラッキング工程、目移し工程の順に並んでいる工程群。
(2)ラッキング工程、目移し工程、ラッキング工程、ニット工程、目移し工程の順に並んでいる工程群。
(3)ラッキング工程、目移し工程、ニット工程、ラッキング工程、目移し工程の順に並んでいる工程群。
【0048】
第二判定部31Bは、第一判定部31Aによって抽出された各工程群について、キャリッジ6を一方向に移動させる間に実行可能であるかを判定する。一つの工程群に含まれる全ての工程を実行可能であるかは、例えば以下の情報などに基づいて決定する。第二判定部31Bは、以下の情報などに基づいて、カムシステム6A,6B,6Cが編針に作用していないタイミングでラッキング工程を実行できるかどうかを判定する。
(1)横編機5に備わるカムシステム6A,6B,6Cの種類。カムシステムの種類としては、ニット工程専用のカムシステム、目移し工程専用のカムシステム、及びニット工程と目移し工程の両方を実行できるカムシステムが挙げられる。
(2)カムシステム6A,6B,6Cの数。
(3)キャリッジ6の移動速度。
(4)1回目の目移し工程を実行するカムシステムと、二回目の目移し工程を実行するカムシステムとの距離、及び目移し工程を実行するカムシステムと、ニット工程を実行するカムシステムとの距離。
(5)針床上における1回目の目移し工程と2回目の目移し工程とが行われる位置。
【0049】
構築部32は、デザインデータに基づいて、ラッキングや、編針の動作、編糸の繰り出し手順などを設定した編成プログラムを作成する。本例では、構築部32は、判定部31の判定結果に基づいて、特定編成コースを含む編成プログラムを作成する。構築部32は、第一判定部31Aによって上記工程群が抽出されなかった場合、従来の編成コースからなる編成プログラムを作成する。第一判定部31Aによって上記工程群が抽出された場合、構築部32は、第二判定部31Bによる判定結果が『YES』である工程群については特定編成コースを実行するように編成プログラムを作成する。構築部32は、第二判定部31Bによる判定結果が『NO』である工程群については、従来の編成コースを実行するように編成プログラムを作成する。構築部32で作成された編成プログラムは、磁気ディスクなどの記録媒体や、有線、無線などを介して横編機5へ送られる。
【0050】
メモリ4は、ソリッドステートドライブやハードディスクなどの記憶媒体である。メモリ4には、デザインデータや、編成コードなどの情報が記憶されている。
【0051】
表示部10は、編地のデザインに関する情報を視覚的に把握するためのものであって、特に限定されない。表示部10としては、例えば液晶ディスプレイなどを挙げることができる。表示部10としてタッチパネルを利用すれば、表示部10に入力部2の役割の一部を担わせることができる。
【0052】
以上の構成を備えるニットデザインシステム1によって、少なくとも一つの特定編成コースを含む複数の編成コースを実行する編成プログラムが自動で作成される。この編成プログラムによれば、従来よりも効率的に編地を編成できる。
【0053】
<その他の実施形態>
本発明の編地の編成方法は、2つ又は4つのカムシステムを搭載する横編機によっても実行可能である。特に、4つのカムシステムを備える横編機であれば、3つのカムシステムを備える横編機よりも効率的に編地を編成できる可能性がある。4つのカムシステムを備える横編機では、第一目移し工程を実行するカムシステムと、第二目移し工程を実行するカムシステムとの距離を確保し易いため、特定編成コースの数を増やすことができる可能性がある。また、この横編機では、キャリッジの移動のみを行う空コースの数を劇的に減らせる可能性もある。
【0054】
本発明の編地の編成方法は、2枚ベッド横編機によっても実行可能である。2枚ベッド横編機を使用する場合、前編地部と後編地部とは針抜き編成によって編成される。針抜き編成とは、隣接する編目の間に空針を配置した状態で編成を行うことを意味する。隣接する編目の間に配置される空針は、編目の目移しに利用される。
【符号の説明】
【0055】
1 ニットデザインシステム
2 入力部
3 作成部
31 判定部、31A 第一判定部、31B 第二判定部
32 構築部
4 メモリ
5 横編機
6 キャリッジ
6A,6B,6C カムシステム
7 レール
8 ヤーンフィーダー
10 表示部