(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187939
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】偏光異方性の測定に基づく標的物質の検出、測定方法およびそのための粒子
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20221213BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20221213BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G01N33/543 575
G01N33/543 525C
G01N33/543 581D
G01N33/543 525U
G01N33/543 501M
G01N21/64 A
C09K11/06 660
C09K11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096211
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】掛川 法重
(72)【発明者】
【氏名】増村 考洋
(72)【発明者】
【氏名】榊原 悌互
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 生朗
(72)【発明者】
【氏名】山内 文生
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043BA17
2G043CA03
2G043DA02
2G043EA01
2G043GA02
2G043GA04
2G043GB03
2G043HA07
2G043JA04
2G043KA03
2G043KA05
2G043LA01
2G043NA01
(57)【要約】
【課題】検出感度の高い標的物質の測定方法およびキットを提供する。
【解決手段】試料液中の標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を測定する方法であって、
(a)前記標的物質に特異的に結合し、希土類錯体を含む第一の粒子、および前記第一の粒子よりも平均粒径が大きく、前記標的物質に特異的に結合する、第二の粒子を準備する工程
(b)前記試料液と前記第一の粒子と前記第二の粒子を混合して混合液を得る工程と、
(c)(b)で得られた混合液の偏光異方性から、前記標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求める工程を含む方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液中の標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求める方法であって、
(a)前記標的物質に特異的に結合し、希土類錯体を含む第一の粒子、および前記第一の粒子よりも平均粒径が大きく、前記標的物質に特異的に結合する、第二の粒子を準備する工程、
(b)前記試料液と前記第一の粒子と前記第二の粒子を混合して混合液を得る工程と、
(c)(b)で得られた混合液の偏光異方性から、前記標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求める工程を含む方法。
【請求項2】
前記偏光異方性が式1により求められる請求項1の方法、
【数1】
(ただし、
<r>・・・偏光異方性
I
VV・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
I
VH・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
I
HV・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
I
HH・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
G・・・補正値
である)。
【請求項3】
標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求めるための検査キットであって、
前記標的物質に特異的に結合する第一の粒子、および前記標的物質に特異的に結合する第二の粒子を有し、
前記第一の粒子は希土類錯体を有し、
前記第一の粒子の平均粒径が10nm以上1μm以下であり、
前記第二の粒子の平均粒径が100nm以上5μm以下である検査キット。
【請求項4】
前記第一の粒子が、
ポリスチレンと、シロキサン結合を有する重合体を含み、
該粒子の表面に親水性ポリマーを含み、
該粒子の内部に希土類錯体を含む
請求項3の検査キット。
【請求項5】
前記希土類錯体が、ユウロピウム、テルビウム、ネオジム、エルビウム、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ツリウム、イッテルビウム、スカンジウムから選ばれる希土類の錯体である
請求項3または4に記載の検査キット。
【請求項6】
前記第一の粒子と前記第二の粒子が、前記標的物質を介して凝集体を形成することを特徴とし、
前記凝集体が、分散媒中において示す偏光異方性は、前記第一の粒子が、分散媒中で示す偏光異方性と比べ0.004以上上昇することを特徴とする、
請求項3から5のいずれか1項に記載の検査キット、
ただし、偏光異方性は式1で定められる。
【請求項7】
前記凝集体は、分散媒中において、0.1以上の偏光異方性を示すことを特徴とする請求項6に記載の検査キット。
【請求項8】
前記第一の粒子の励起波長と前記第二の粒子の励起波長とが異なる、または前記第一の粒子の発光波長と前記第二の粒子の発光波長とが異なる、または前記第一の粒子の励起波長と前記第二の粒子の励起波長とが異なり、かつ前記第一の粒子の発光波長と前記第二の粒子の発光波長とが異なることを特徴とする請求項3から7のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項9】
前記第二の粒子が、300nm以上450nm以下の波長の励起光により励起されないことを特徴とする請求項3から8のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項10】
前記第二の粒子が、550nm以上650nm以下の波長領域に発光極大を持たないことを特徴とする請求項3から9のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項11】
前記第一の粒子の平均粒径が、20nm以上400nm以下であることを特徴とする、請求項3から10のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項12】
前記第一の粒子および前記第二の粒子が、それぞれ、前記標的物質に特異的なリガンドを有することを特徴とする請求項3から11のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項13】
前記リガンドが、抗体、抗原、および核酸から選ばれることを特徴とする請求項12に記載の検査キット。
【請求項14】
前記第一の粒子、および前記第二の粒子の少なくともいずれか一方は、粒子表面にエーテル、ベタイン、ピロリドン環のいずれかを含む親水性ポリマーを含む層を有することを特徴とする請求項3から13のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項15】
前記第一の粒子および前記第二の粒子が分散媒に分散されていることを特徴とする請求項3から14のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項16】
該検査キットが、筐体に内包されてなる、請求項3から15のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項17】
少なくとも、希土類錯体、スチレンを含むラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、および、ピロリドン環を有するユニットを含む重合体を、水系媒体と混合して乳濁液を調製する第一の工程と、
前記乳濁液を撹拌し、前記ラジカル重合性モノマーを重合する第二の工程と、を有することを特徴とする、請求項3から16のいずれか1項に記載の検査キットの第一の粒子の製造方法。
【請求項18】
前記第一の粒子と前記第二の粒子を分散媒に分散する工程を含む、請求項3から16のいずれか1項に記載の検査キットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検試料の標的物質を検出、測定する方法および該方法に用いられる粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、臨床検査の分野において、血液や採取された臓器の一部等から微量な生体成分を高感度で検出することは、病気の原因を追究するために必要である。生体成分の検出手法の中でも、免疫分析は広く利用されている。免疫分析の一つに、抗原抗体反応を利用したラテックス凝集法がある。ラテックス凝集法とは、生体試料等の液体試料中の抗原を検出するために、抗原に特異的に結合する抗体等を担持させたラテックスと、液体試料とを混合して、ラテックスの凝集の程度を測定することにより、抗原の検出や定量を行う方法である。
ラテックス凝集法では、抗原がラテックスに結合した抗体に捕捉され、捕捉された抗原を介して複数のラテックスが架橋し、その結果、凝集が起きる。つまり、生体試料等の液体試料中の抗原の量は、ラテックスの凝集の程度を評価することで定量できる。凝集の程度は、液体試料を透過、あるいは散乱する光の量の変化を評価することで定量できる。
【0003】
ラテックス凝集法は、簡便かつ迅速に、抗原の定量評価ができる一方、生体試料等の液体試料中における抗原の量が少ないと、検出できないという課題があった。
検出感度を向上させるためには、透過光を散乱させるシステムをより感度の高い発光特性を検出する方法に置き換えることが考えられる。具体的には蛍光偏光解消法を利用した検体検査方法等が提案されている(特許文献1から3)。
【0004】
特許文献1では、蛍光偏光解消法の装置を臨床に用いるために改良する提案がされている。蛍光偏光解消法では、一般的な蛍光測定法で必要とされる、測定物質と未反応の発光物質の事前の分離、すなわち、B/F(Bound/Free)分離と呼ばれる洗浄工程を必要としない。したがって、ラテックス凝集法と同様に簡便な検体検査が可能である。さらに、測定プロセスが、測定物質と特異的に反応する発光物質を混合するだけで、ラテックス凝集法と同様の検査システムで測定することが可能であると考えられる。しかし、特許文献1では、フルオレセイン等の単分子を発光材料に用いることを提案していて、原理的に薬物や低分子抗原等にしか適用ができなかった。
【0005】
特許文献2は、特許文献1で困難であった、タンパク質等の高分子の物質の検出を可能にするため、ラテックス粒子に発光寿命の長い色素を吸着した材料を用いることを提案している。特許文献2では、蛍光偏光解消法の原理から、粒径が大きくなることに伴う液中の物質の回転ブラウン運動の低下と、発光寿命の長さのバランスをとり、高分子の物質の測定を提案している。しかし、粒子の表面に非特異吸着を抑制する目的で生体分子のウシ血清アルブミン(BSA)を担持するため、粒度分布が広がることや、タンパク質であるBSAによって、ロットばらつきを起こす可能性があった。結果として、非常に高い感度での抗原検出を実現できているとは言い難い。
【0006】
特許文献3では、蛍光標識とターゲットの抗原を、抗原抗体反応にて競争的に大きな粒子に吸着させることにより、測定する方法を提案している。しかし、この方法だと蛍光標識一つに対して、抗体一つが反応するため、偏光度の変化を高感度で捉えることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3-52575号公報
【特許文献2】特許第2893772号公報
【特許文献3】特開平3-103765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、偏光異方性の変化に基づく高感度な測定方法および検査キットを提供することを目的とする。特に、偏光異方性の変化を大きくして、反応をより鋭敏に捉える手法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は試料液中の標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求める方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。
(a)標的物質に特異的に結合し、希土類錯体を含む第一の粒子、および第一の粒子よりも平均粒径が大きく、標的物質に特異的に結合する、第二の粒子を準備する工程。
(b)試料液と第一の粒子と第二の粒子を混合して混合液を得る工程。
(c)(b)で得られた混合液の偏光異方性から、標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求める工程。
【0010】
また、本発明は、第一の粒子と第二の粒子を含む検査キット、その製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液中における粒子の凝集を、偏光を用いた測定によって高感度に検出することができ、標的物質を高感度に測定できる。特に、粒子が液中で凝集する際に検出される偏光異方性の変化から、反応をより鋭敏に捉えることができる。
【0012】
また、粒子表面に親水性の層を形成することで、BSA等を用いることなく非特異吸着を抑制する効果の高い粒子を提案する。そのため、本発明の粒子は、偏光異方性に基づく測定に、より有利に用いられ、さらに高感度な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る測定方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0015】
本発明は、実施形態の一として、以下の工程を含む、試料液中の標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求める方法を提供する。
(a)標的物質に特異的に結合し、希土類錯体を含む第一の粒子、および第一の粒子よりも平均粒径が大きく、標的物質に特異的に結合する、第二の粒子を準備する工程。
(b)試料液と第一の粒子と第二の粒子を混合して混合液を得る工程。
(c)(b)で得られた混合液の偏光異方性から、標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求める工程。
【0016】
偏光異方性は、偏光を照射された対象が発する発光が、照射された偏光の方位の成分を保つ傾向を示す指数である。具体的には、偏光異方性は以下の式1中の<r>で示される。
【数1】
(ただし、
<r>・・・偏光異方性
I
VV・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
I
VH・・・第一の偏光で励起したときの、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
I
HV・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度
I
HH・・・第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光で励起したときの、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度
G ・・・補正値
である)。
【0017】
光の入射側に、偏光子を設ける等によって、第一の偏光で対象を励起する。検出側に、入射側の偏光子と平行方向に偏光子を設けて、発光の強度を測定すれば、第一の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度、すなわちIVVを測定できる。一方、検出側に、入射側の偏光子と直交する方向に偏光子をセットして、発光の強度を測定すれば、第一の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度、すなわちIVHを測定できる。
【0018】
光の入射側に、第一の偏光を得たときと、直交する方向に偏光子を設けて、すなわち、第二の偏光で対象を励起する。検出側に、入射側の偏光子と平行方向に偏光子を設けて、発光の強度を測定すれば、第二の偏光と振動方向が平行な発光成分の発光強度、すなわちIHVを測定できる。一方、検出側に、入射側の偏光子と直交する方向に偏光子をセットして、発光の強度を測定すれば、第二の偏光と振動方向が直交する発光成分の発光強度、すなわちIHHを測定できる。
【0019】
また、本発明は、実施形態の一として、標的物質の有無、および濃度の少なくともいずれか一方を求めるための検査キットを提供する。
検査キットは、第一の粒子と第二の粒子を有し、第一の粒子は、標的物質に特異的に結合し、また、希土類錯体を有する。第二の粒子は、標的物質に特異的に結合する。
【0020】
標的物質に特異的に結合するとは、標的物質と特異的相互作用する性質を持つことをいい、特に好ましくは、標的物質に特異的に結合する能力を有することをいう。結合する機構として、静電気相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、水素結合による相互作用などを挙げることができる。第一の粒子と第二の粒子が、標的物質と結合する部位や機構は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
なんらかの物質と相互作用を示す物質であれば、あらゆる物質が標的物質となりうる。標的物質の例として、抗原、抗体、低分子化合物、各種レセプター、酵素、基質、核酸、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、情報伝達物質、膜タンパク質等を挙げることができる。抗原として、アレルゲン、細菌、ウィルス、細胞、細胞膜構成成分、がんマーカー、各種疾病マーカー、抗体、血液由来物質、食品由来物質、天然物由来物質、あらゆる低分子化合物を挙げられる。核酸として、細菌、ウィルス、細胞等由来のDNA、RNA、cDNA、それらの一部または断片、合成核酸、プライマー、プローブ等を挙げられる。低分子化合物としては、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、情報伝達物質、膜タンパク質等とそれらのレセプター等を挙げられる。
【0022】
第一の粒子は、希土類錯体を有し、発光性を有する。すなわち、励起波長を照射することにより、発光を示す性質を有する。第一の粒子の希土類錯体は、発光性を有する希土類錯体である。その好ましい例は、ユウロピウム、テルビウム、ネオジム、エルビウム、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ツリウム、イッテルビウム、スカンジウムの錯体を挙げることができる。希土類錯体の発光は寿命が長い。偏光異方性は、発光時間中の発光材料の回転運動の変化に依存するため、発光寿命の長い希土類錯体を発光物質として用いることは好ましい。
【0023】
第一の粒子と第二の粒子は、標的物質を介して凝集体を形成する。第一の粒子は、試料液との混合前においては、偏光異方性が相対的に低く、すなわち、測定される偏光異方性は低く、蛍光偏光の解消が生じていることが望ましい。
【0024】
一方、粒子同士が、標的物質を介して凝集した場合には、相対的に、偏光異方性が高くなる。すなわち、蛍光偏光の解消の一部(あるいは全部)が打ち消されることが望ましい。
【0025】
第一の粒子と第二の粒子は標的物質を介して分散媒中で凝集体を形成する。第一の粒子同士の凝集、第二の粒子同士の凝集も生じてもよい。凝集体が分散媒中で示す偏光異方性は、凝集していない第一の粒子が分散媒中において示す偏光異方性と比べ上昇することが好ましい。好ましくは、0.004以上上昇し、より好ましくは0.01以上上昇し、さらに好ましくは0.02以上上昇する。
【0026】
第一の粒子は、分散媒中において、好ましくは、0.2以下のより好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは0.12以下の偏光異方性を示す。
また、凝集体は、分散媒中において、好ましくは0.05以上、より好ましくは、0.09以上、さらに好ましくは0.13以上の偏光異方性を示す。
【0027】
また、測定に用いられる、第一の粒子と、第二の粒子は、合計で、分散媒中0.000001質量%から1質量%であることが好ましく、また、その重量比が1対9から9対1の範囲であることが好ましい。
【0028】
偏光異方性を決定するための測定の際は、光の入射側に、偏光フィルタ等の偏光子を設けることで、偏光の励起光(第一の偏光)を照射することができる。偏光フィルタをこれと直交する方向に設ければ、第一の偏光と振動方向が直交する第二の偏光を照射することができる。検出側に、入射側の偏光子と平行方向に偏光子を設ければ、励起側と振動方向が平行な発光成分の発光強度を測定することができる。検出側に、入射側の偏光子と直交する方向に設ければ、励起光と振動方向が直交する発光成分の発光強度を測定することができる。なお、発光強度は、分光光度計等によって測定が可能である。
【0029】
測定は、好ましくは、分散溶液中で0℃から100℃の範囲のいずれかで行われる。より好ましくは4℃から50℃の範囲で測定が行われる。また、溶液は好ましくは、水系溶媒であり、例えば、緩衝液、生理食塩水、水などである。
測定の条件は適宜当業者が設定することができ、その際、本明細書で後述する、実施例等を参照することができるが、これに限定されるものではない。
【0030】
粒子の凝集前後で、十分な偏光異方性の変化を生じるために、第一の粒子は大きすぎないことが望ましい。一方、第一の粒子が小さすぎると、標的物質を介した凝集が十分起こらない、あるいは、十分な発光性を示さないといった問題や、製造上の問題を生じる可能性がある。第一の粒子の平均粒径は好ましくは10nm以上1μm以下である。すなわち、第一の粒子は好ましくは1μm(ミクロン)以下であり、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは400nm以下、さらに好ましくは250nm以下で有る。第一の粒子の平均粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。なお、本明細書における平均粒径は数平均粒径であり、平均粒径は動的光散乱法により測定することができる。
【0031】
第一の粒子は、その粒度分布が小さいことが好ましく、pdiが0.1以下であることが好ましい。また、第一の粒子は、ポリスチレンと、シロキサン結合を有する重合体を含み、該粒子の表面に親水性ポリマーを含むことができる。また、第一の粒子は、エーテル、ベタイン、ピロリドン環のいずれかを含む親水性ポリマーを含む層を粒子の表面に有することができる。粒子表面に親水性ポリマーを含むことで、非特異吸着が抑制される。このように、非特異吸着の抑制をタンパク質等によらず、親水性ポリマーで行うことで、粒度分布が抑制され、偏光異方性に基づく測定により有利に用いられる。
【0032】
第二の粒子は、第一の粒子よりも平均粒径が大きく、標的物質にアフィニティを有する粒子をいう。第二の粒子は好ましくは、その平均粒径が、100nm以上5μm以下である。すなわち、第二の粒子の平均粒径の下限は、凝集体の偏光異方性を十分に大きくするため、その下限は、100nm以上であり、より好ましくは150nmである。上限は、粒子の分散安定性等の観点から、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。
【0033】
また、第二の粒子は、その粒度分布が小さいことが好ましく、pdiが0.1以下であることが好ましい。第二の粒子は、ポリスチレンと、シロキサン結合を有する重合体を含み、該粒子の表面に親水性ポリマーを含むことができる。また、第二の粒子は、エーテル、ベタイン、ピロリドン環のいずれかを含む親水性ポリマーを含む層を粒子の表面に有することができる。粒子表面に親水性ポリマーを含むことで、非特異吸着が抑制される。このように、非特異吸着の抑制をタンパク質等によらず、親水性ポリマーで行うことで、粒度分布が抑制され、偏光異方性に基づく測定により有利に用いられる。
【0034】
なお、第一の粒子の励起波長と第二の粒子の励起波長とが異なる、または第一の粒子の発光波長と第二の粒子の発光波長とが異なる構成でもよい。または第一の粒子の励起波長と第二の粒子の励起波長とが異なり、かつ第一の粒子の発光波長と第二の粒子の発光波長とが異なる構成であってもよい。すなわち、第二の粒子は、第一の粒子の励起波長とは異なる励起波長により発光を生じることができ、また、第一の粒子の発光波長とは異なる発光を生じることができる。第二の粒子に、第一の粒子とは異なる発光特性を供することで、複数の波長で励起する、あるいは、複数の波長の発光を観察する、といった、多次元測定が可能となる。
【0035】
一方、第二の粒子は、第一の粒子を励起するのに適した波長では励起されないことが望ましい。具体的には、第二の粒子は、300nm以上450nm以下の波長の励起光により励起されないことが好ましい。
【0036】
また、第二の粒子は、第一の粒子と重複する発光を生じないことが好ましい。具体的には、第二の粒子は、550nm以上650nm以下の波長領域に発光極大を持たないことが好ましい。
【0037】
第一の粒子、第二の粒子は、標的物質に対してアフィニティを有するために、リガンドを有することができる。リガンドは特定の物質にアフィニティを示すものであれば、あらゆるものを用いることができる。リガンドと標的化合物あるいは標的化合物とリガンドの組み合わせの例として以下を挙げることができる。すなわち、抗原と抗体、低分子化合物とそのレセプター、酵素と基質、相補的核酸同士を挙げることができる。さらに、抗体と、それに特異的な、アレルゲン、細菌、ウィルス、細胞、細胞膜構成成分、がんマーカー、各種疾病マーカー、抗体、血液由来物質、食品由来物質、天然物由来物質、あらゆる低分子化合物等を挙げることができる。さらには、レセプターと、それに特異的な、低分子化合物、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、情報伝達物質、膜タンパク質等を挙げることができる。さらには、細菌、ウィルス、細胞等由来のDNA、RNA、cDNA、それらの一部または断片、合成核酸、プライマー、プローブ等と、それらに相補性を有する核酸等を挙げることができる。上記以外においても、アフィニティを有することが知られる組合せであれば、標的物質とリガンドの組合せとして用いられる。リガンドとして、とりわけ、代表的な例として、抗原、抗体、核酸を挙げることができる。
【0038】
リガンドは、第一の粒子あるいは第二の粒子に次のように導入できる。すなわち、粒子の基質、あるいは、その表面を形成する層を形成してから、それらが有する官能基を介して結合することができる。あるいは、粒子の基質、あるいは、その表面を形成する層を作成するときに、リガンドを組み込むこともできる。リガンドは、ラテックス凝集法等に用いられるリガンドを、転用して用いてもよい。
【0039】
また、さらなる実施形態の一として、本発明は第一の粒子と第二の粒子が分散媒に分散されていることを特徴とする検査キットを提供する。また、第一の粒子と第二の粒子を分散媒に分散する工程を含む、検査キットの製造方法を提供する。検査キットは、筐体に内包されてもよい。
【0040】
また、実施形態の一として、本発明は、少なくとも、第一の工程と第二の工程を有する第一の粒子の製造方法を提供する。第一の工程では、希土類錯体、スチレンを含むラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、および、ピロリドン環を有するユニットを含む重合体を、水系媒体と混合して乳濁液を調製する。第二の工程では、第一の工程で得られた乳濁液を撹拌し、ラジカル重合性モノマーを重合する。
【0041】
標的物質に結合する粒子を指して、アフィニティ粒子、発光を示す粒子を指して発光粒子、相対的に平均粒径の大きい粒子を大粒径粒子と呼ぶことがある。発光性を有し、かつ、標的物質に結合する粒子を指して、発光アフィニティ粒子と呼ぶことがある。また、相対的に平均粒径が大きく、標的物質に結合する粒子を指して、大粒径アフィニティ粒子と呼ぶことがある。本発明における、第一の粒子は、発光アフィニティ粒子に、第二の粒子は大粒径アフィニティ粒子に相当する。
【0042】
粒子の粒度分布を小さくすることと、発光性の希土類錯体を該粒子に導入することで、粒子の液中での分散状態の微細な変化を、偏光発光特性の変化として捉えることができる。すなわち、標的物質をはさみこんで、アフィニティを有する粒子が凝集する(サンドイッチ型反応が生じる)ことで、粒子の回転ブラウン運動の変化が生じる。これを偏光異方性の変化として捉えることができる。この方法によれば、溶液1mL当たりナノグラム~ピコグラム程度の標的物質も検出が可能である。
【0043】
希土類錯体は長寿命のりん光の偏光を発光することができる。偏光異方性は、発光性色素の遷移モーメント(遷移双極子モーメント)の異方性と関わる。遷移モーメントに異方性がある発光色素の場合、その遷移モーメントに沿った偏光を励起光とすると、発光も同様に遷移モーメントに沿った偏光となる。希土類錯体の場合、異方性を有する配位子を励起すると、配位子から中心金属イオンへのエネルギー移動に基づいた蛍光発光を示すため、偏光で配位子を励起することにより偏光を発光する。
【0044】
蛍光偏光解消の原理は偏光発光が起きている時間内における発光材料の回転運動による遷移モーメントのズレを計測するものである。発光材料の回転運動は式2で表せる。
Q=3Vη/kT ・・・(式2)
Q:材料の回転緩和時間
V:材料の体積
η:溶媒の粘度
k:ボルツマン定数
T:絶対温度
材料の回転緩和時間は、cosθ=1/eとなる角度θ(68.5°)を分子が回転するのに要する時間である。
【0045】
式2より、発光材料の回転緩和時間は材料の体積、つまり発光材料の粒径の3乗に比例することがわかる。一方、蛍光偏光解消における材料の発光寿命と偏光度の関係は式3で表せる。
p0/p=1+A(τ/Q)・・・(式3)
p0:材料が停止しているとき(Q=∞)の偏光度
p:偏光度
A:定数
τ:材料の発光寿命
Q:回転緩和時間
【0046】
式2および3より、偏光度の変化を大きく計測するためには発光材料の発光寿命と回転緩和時間、すなわち発光材料の体積(粒径)の関係が重要であり、発光材料の粒径が大きいほど発光寿命も長くする必要がある。
【0047】
式3で示した発光の偏光度を実験から求める場合、サンプルに偏光を入射し、励起光の進行方向および振動方向と90度方向に発光を検出すればよい。この時、検出光を入射光の偏光と並行と垂直方向の偏光成分に分けて検出し、式4に従って評価すればよい。
r(t)=(I∥(t)―GI⊥(t))/(I∥(t)+2GI⊥(t))・・・(式4)
r(t):時間tにおける偏光異方性
I∥(t):時間tにおける励起光と平行な発光成分の発光強度
I⊥(t):時間tにおける励起光と垂直な発光成分の発光強度
G:補正値、サンプル測定に使用した励起光と振動方向が90度異なる励起光で計測したI⊥/I∥の比
【0048】
つまり、適切な粒子(あるいは凝集体)のサイズと発光寿命の範囲で有れば、抗原抗体反応等による発光材料のサイズの変化を鋭敏に偏光異方性の値として読み取ることが可能となる。なお、偏光異方性とは、Gおよび2Gで補正をした値の事であり、偏光度は式4からGおよび2Gを外した値となる。現実の測定では、Gの補正値が必要なので、偏光異方性を求める事となる。
【0049】
材料設計としては、第一の粒子は小さく、標的物質との反応により、偏光異方性が飽和する程に粒子サイズが増大することが適している。しかしながら、一種類の粒子のみを用いて、サンドイッチ型の抗原抗体反応を行うと、反応後に形成する粒子サイズは限定的になる。偏光異方性を高くするために、第一の粒子のサイズを大きくすると、反応前の異方性が高くなり、結局偏光異方性の変化は大きくすることができない。
【0050】
そこで、第一の粒子と第一の粒子よりも平均粒径の大きな第二の粒子とサンドイッチ型に反応する事ができれば、反応前後での偏光異方性の差が大きくなることに着眼した。
【0051】
(粒子の詳細な説明)
本実施形態に係る粒子の一例について図を用いて詳細に説明する。
【0052】
(第一の粒子1)
本実施形態に係る第一の粒子(発光アフィニティ粒子)1は、粒度分布が小さく、粒子の表面が親水性にコートされている。該粒子の内部には、発光性の希土類錯体が存在する。
【0053】
図1は本実施形態に係る第一の粒子と第二の粒子の一例を示す概略図である。
図1においては、粒子が球状の例を示す。第一の粒子の直径(平均粒径)は好ましくは10nm以上、あるいは20nm以上、さらに好ましくは25nm以上であり、また、好ましくは1μm以下、より好ましくは400nm以下である。本実施形態における第一の粒子の平均粒径は20nm以上400nm以下であることが特に好ましい。粒度分布はより揃っていることが好ましい。例えば、動的光散乱法で測定した時の多分散指数(以下pdiと略)が0.1以下である粒子が好適に用いることができる。
【0054】
pdiは、溶液中に分散している粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測して求めることができる。粒子はブラウン運動により絶えず移動しているため、散乱光の干渉による強度分布も絶えず揺らぐ。動的光散乱法は、ブラウン運動の様子を散乱光強度の揺らぎとして観測する粒子の測定法である。時間に対する散乱光の揺らぎを自己相関関数で表し、並進拡散係数を決定する。決定した拡散係数からストークス径を求めて、溶液中に分散している粒子サイズを導き出せる。また、自己相関関数を、キュムラント解析することで、キュムラント径およびpdiを求めることができる。pdiは粒子径分布の多分散度を示すこととなり、この数値が小さいほど、粒度分布が揃っていることを示す。一般にはpdiが0.1以下であると、その粒子は溶媒中で単分散であると考えられている。
【0055】
本実施形態に係る第一の粒子1は、pdiが0.1以下であることが好適である。安定的にpdiを0.1以下とするためには、該粒子の表面に非特異吸着抑制剤は付与しないことが望ましい。一方、本発明の目的のためには、標的物質以外の物質が粒子に非特異吸着することを防ぐ必要があり、そのため、該粒子の表面を親水性に保つためのコートが必要である。
【0056】
一方、上記の目的で一般的に行われるBSAの担持では、pdiを0.1以下に安定して保つことが難しい。また、BSAの担持では、ロットばらつきがでることがある。そこで、親水性のポリマーを用いて、粒子サイズに対するpdiが0.1以下になるようなコートが必要である。
【0057】
本実施形態に係る第一の粒子は、好ましくは直径が10nm以上1μm以下である。より、好適には、20nm以上500nm以下である。さらには、より好適には、直径50nm以上400nm以下であり、さらに好適には、直径50nm以上250nm以下である。平均粒径が1μmより大きくなると、凝集前の偏光異方性が高くなり、凝集反応後の偏光異方性との差が小さくなってしまう。また、平均粒径が10nm未満になると、粒子一個当たりの体積が小さくなり、含有できる希土類錯体の量が少なくなり、測定に必要な発光強度が得られなくなることが有る。
【0058】
(粒子基質2)
粒子基質2は第一の粒子1のコア部分を指す。粒子基質2は好ましくは球状あるいはそれに近い形である。粒子基質2の材料は、希土類錯体を安定に含有できる材料であれば特に指定はない。粒子基質として、特にスチレンモノマーを主成分に重合したポリスチレン粒子、前記ポリスチレン粒子にシロキサン結合を含む重合体が含まれている粒子等を好適に用いることができる。ポリスチレン粒子は後述する乳化重合法により、非常に粒度分布が揃った粒子として作製され得る。また、シロキサン結合を含む重合体に存在するシラノールによって、後述する親水コートやリガンドを付与することができる。
【0059】
(親水層3)
親水層3は、粒子基質2の外側に形成され、親水基を含む分子あるいはポリマーで構成される。親水基を含む分子とは、水酸基、エーテル、ピロリドン、ベタイン構造等を有する分子、ポリマーを意味する。具体的には親水層3はポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、スルホベタイン、ホスホベタインのポリマー、あるいはグリシジル基を開環し、水酸基を分子の末端に修飾したポリグリシジルメタクリル酸等を主成分とすることができる。親水層3は、親水基を有する単分子をシリカ粒子1の表面にシランカップリング剤等を用いて付与することができ、あるいは、後述のように、粒子基質2の合成の際に同時に形成してもよい。親水層3の厚さに限定はなく、親水性を発揮できればよい。ただし、親水層が厚すぎると、ヒドロゲル様になり、溶媒中のイオンの影響で水和して、親水層の厚さが変化して、不安定になる可能性がある。親水層の厚さは1nm以上50nm以下が好適である。
【0060】
(希土類錯体4)
発光の波長や強度は周囲の影響を受けにくく、発光が長寿命であるという特徴から本発明における発光色素は発光性の希土類錯体を用いることが好ましい。希土類錯体4は希土類元素と配位子より構成されている。希土類元素は、ユウロピウム、テルビウム、ネオジム、エルビウム、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ツリウム、イッテルビウム、スカンジウム等から選ばれる。発光寿命や可視の発光波長領域等であることを考慮すると、ユウロピウム、テルビウムが特に好適に用いられる。例えば、ユウロピウムは一般に0.1~1.0msの発光寿命を有する。発光寿命と、式2より得られる回転緩和時間が適度に調整されることが好ましい。水分散液中のユウロピウムの場合、第一の粒子を50から300nm程度の直径の粒子サイズとすると、凝集体形成前後において式4で表される偏光異方性が大きく変化する。
【0061】
希土類錯体4を構成する配位子については、少なくともその一つは光集光機能を有した配位子であることが必要である。光集光機能とは、特定の波長で励起し、エネルギー移動によって錯体の中心金属を励起する作用のことである。さらに、光集光機能を有した配位子は遷移モーメントに異方性がある分子が好ましく、例えばフェナントロリン等が好適に用いられるが、この限りではない。また、希土類錯体4を構成する配位子にβ-ジケトン等の配位子が存在し、水分子の配位を防いでいることが好ましい。希土類イオンに配位しているβ-ジケトン等の配位子が、溶媒分子等へのエネルギーの移動による失活過程を抑制し、強い蛍光発光が得られる。
【0062】
希土類錯体4は、遷移モーメントに異方性を有するのであれば、多核錯体であっても構わない。
【0063】
媒体中で希土類錯体4のブラウン回転運動が停止しているとみなせる状態の時に、偏光異方性が0.1以上あることが望ましい。ブラウン回転運動が停止しているとみなせる状態とは、粒子の回転緩和時間が希土類錯体4の発光寿命よりも十分に長い状態のことを示す。
【0064】
(リガンド5)
本実施形態において、リガンドとは、標的物質またはその一部に特異的に結合する化合物のことである。リガンドは標的物質に対し、選択的または特異的に親和性を有する。例えば、標的物質とリガンド、あるいはリガンドと標的物質の組み合わせとして、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質等のシグナル物質とその受容体、核酸と核酸等が例示されるが、これらに限定されない。核酸として代表的なものとしてデオキシリボ核酸等が挙げられる。
図1において、リガンド5は第二の粒子7と第一の粒子1に含まれる。
リガンド5は、粒子基質2、あるいは、親水層3に存在する結合できる官能基を介して、結合することができ、あるいは、粒子基質の作製、あるいは、親水層の形成時にリガンドを組み込むこともできる。
また、リガンド5は、ラテックス凝集法に用いられる既知のリガンドを参照して、同様の物を用いることもできる。ラテックス凝集法で凝集を生じるリガンドであれば、本実施形態においても、有効に用いられる可能性が高い。
本実施形態におけるリガンドの代表的な例として、抗体、抗原、および核酸を挙げることができる。
【0065】
(標的物質6)
図1中の標的物質6は測定対象物であり、リガンド5と親和性を示し、特異的に吸着する物質である。標的物質6は、対応するリガンドが入手可能な限りにおいて、あらゆる物質であり得る。標的物質の例として、以下を挙げることができる。すなわち、抗体、抗原、核酸、低分子化合物、各種レセプター、酵素、基質を挙げることができる。さらには、アレルゲン、サイトカイン、ホルモン、細菌、ウィルス、DNA,RNA,cDNA,細胞、細胞膜構成成分、がんマーカー、各種疾病マーカー、抗体、血液由来物質、食品由来物質、天然物由来物質等あらゆる物質が挙げることができる。標的物質6は第一の粒子1および第二の粒子7のリガンド5と反応する。これによって、標的物質6を介して、凝集体8が形成される。なお、
図1においては、模式的に、第二の粒子7と、標的物質6と、第一の粒子1が、それぞれ1個ずつの例を示している。実際は、第一の粒子1も、第二の粒子7も、多数のリガンドを有し、多数の標的物質6と結合し、それらを介して、さらに多数の第一の粒子1および/または第二の粒子と結合して、凝集体8を形成している。
【0066】
(第二の粒子7)
本実施形態に係る第二の粒子(大粒径アフィニティ粒子)7は、第一の粒子1と同様の、粒子基質2および親水層3およびリガンド5を有するが、希土類錯体4は含む必要はない。
希土類錯体4を含まないこと、また、粒子サイズが異なる以外は第一の粒子と同様の性質を有することができる。
第二の粒子7は大きいほど凝集体形成による偏光異方性の変化を生じる効果は高い。一方、粒子サイズが大きすぎると、液中での分散安定性が低くなり、粒子が沈降する可能性がある。また、粒子が大きすぎると、粒子1つ当たりの光散乱が強くなり、偏光が解消される可能性がある。したがって、第二の粒子7の平均粒径は好ましくは100nm以上5μm以下である。
第二の粒子7は、偏光異方性を測定するための波長や、偏光異方性を示す希土類錯体4を励起する波長領域において測定の障害となるような程度の発光や吸収がないことが好ましい。
【0067】
本実施形態に係る第一の粒子1、第二の粒子7を分散した液を用いると、粒子の凝集・分散の挙動に対して偏光発光の異方性を高感度に検出することができる。したがって、第一の粒子1、第二の粒子7を水溶媒に分散したコロイド液は、蛍光偏光解消法を用いて高感度な検査試薬として利用することができる。水溶媒には、緩衝液を用いることも可能である。また、分散液の安定性を増すために、水溶媒中に、界面活性剤、防腐剤や増感剤等を添加してもよい。
【0068】
(発光粒子の製造方法の一例)
次に、本実施形態に係る発光粒子の製造方法の一例を説明する。
本実施形態に係る発光粒子は、ラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、希土類錯体、並びに、親水性ポリマーを水系媒体と混合して乳濁液を調製する(第一の工程)。
さらに、乳濁液を加熱し、モノマーを重合する(第二の工程)。
本実施形態に係る発光粒子は、ラジカル重合性を有する二重結合を有する化合物を共重合し得られる発光粒子である。
さらに、適宜、リガンドを結合する官能基を発光粒子表面に付与する工程(第三の工程)を有することができる。ここで、リガンドを結合できる官能基は、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、エポキシ基、マレイミド基、スクシニミジル基、または、シリコンアルコキシド基のいずれかを用いることができる。
【0069】
(1.ラジカル重合性モノマー)
ラジカル重合性モノマーは、スチレン系モノマーを含むことができる。さらに、アクリレート系モノマー、メタクリレート系モノマーからなる群より選択されるモノマーが含まれていてもよい。そのようなモノマーの例として、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリロニトリル、アクリル酸メチル等を挙げることができる。スチレン系モノマーに加えて、上記のモノマーの群より選択される少なくとも一つを用いることができる。すなわち、これらのモノマーの中から、単独であるいは複数種組み合わせて使用できる。また一つの分子内に二重結合を2つ以上有するモノマー、例えばジビニルベンゼンを架橋剤として用いてもよい。
【0070】
また、シロキサン結合を発光粒子に取り入れるために、有機シランを含むラジカル重合性モノマーをさらに用いてもよい。有機シラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらのモノマーの群より選択される少なくとも一つを用いることができる。すなわち、これらの有機シラン化合物の中から、単独であるいは複数種組み合わせて使用してもよい。有機シランを含むラジカル重合性モノマーは、合成した発光粒子内で無機酸化物の骨格を作り、発光粒子の物理、化学的安定性を向上する。さらに、有機シランを含むラジカル重合性モノマーは、発光粒子表面の親水性ポリマーとリガンドを結合できる官能基を有するユニットと、スチレンを含むポリマー微粒子の骨格材料との親和性を高める。
【0071】
シロキサン結合を発光粒子に取り入れる際は、スチレンモノマーに対するシロキサン結合を有するユニットの割合が40質量%以下であることが好ましい。
【0072】
さらに、有機シランを含むラジカル重合性モノマーを用いることで、発光粒子の表面にシラノール基を付与することが出来る。シラノール基と親水性を示すポリマー、例えばPVポリビニルピロリドンとの水素結合により、ポリビニルピロリドンはより強固に粒子表面に吸着する。
【0073】
(2.ラジカル重合開始剤)
ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物等から広く使用することができる。具体的には、ラジカル重合開始剤として、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム(NPS)、過硫酸カリウム(KPS)等を挙げることができる。
【0074】
(3.親水性ポリマー)
非特異吸着を抑制するための親水性ポリマーとしては、エーテル、ベタイン、ピロリドン環等を有するユニットを含む親水性ポリマーを挙げられる。親水性ポリマーは合成した発光粒子に含まれ、主に粒子表面に存在することができる。好ましい例の1つとして、ピロリドン環を有するポリマー(以下PVPと略す場合がある)を用いる場合について説明する。
【0075】
PVPは、粒子の合成時から投入してもよく、PVPを加えることで、粒子に非特異吸着抑制能と、リガンド結合能を一度に付与することが可能となる。PVPは、ラジカル重合性モノマーよりも親水性なので、合成時に、PVPは溶媒と生成中の粒子との界面に存在する。重合時にPVPのポリマー鎖を一部巻き込むことや、ピロリドン環とスチレン(ラジカル重合性モノマー)との相互作用等の物理・化学吸着することによって、該粒子の表面にPVPを吸着する。
【0076】
PVPの分子量は10000以上100000以下が好ましく、40000以上70000以下がなお好適である。分子量が10000未満だと、発光粒子表面の親水性が弱く、非特異吸着を起こし易くなる。分子量が100000より大きいと、発光粒子の表面の親水層が厚くなりすぎて、発光粒子がゲル化して扱いにくくなる。
【0077】
発光粒子合成時にPVPに加えて、あるいは、PVPとは別に、保護コロイドとしてさらなる親水性ポリマーを添加しても構わない。
【0078】
上記のように調製された発光粒子の一例において、16μLの血清を混合した60μLの緩衝液に、0.1質量%の粒子の分散液30μLを添加し、37℃にて5分間放置した。この添加の前後で、光路10mmにおける、波長572nmの吸収スペクトルの差は0.1以下であった。すなわち、血清中の夾雑物の非特異吸着が十分に小さかった。
【0079】
(4.水系媒体)
上記の合成時に用いられる水溶液(水系媒体)は、媒体中に含まれる水が80%以上100%以下であることが好ましい。水溶液は、水や、水に可溶な有機溶媒、たとえばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンを水に混合した溶液が例示される。水以外の有機溶媒を20%より多く含有させると、発光粒子製造時に重合性モノマーの溶解が生じるおそれがある。
【0080】
また上記水溶液(水系媒体)は、有機シランを含むラジカル重合性モノマーを用いる場合は、pHが6以上9以下に予め調整されていることが好ましい。pHが6未満または9より大きい値であると、有機シラン化合物中のアルコキシド基、シラノール基が発光粒子の形成前に縮重合や他の官能基と反応してしまい、得られる粒子が凝集するおそれがある。本実施形態においては、粒子の形成前にアルコキシドを意図的に縮重合することは行わない。
【0081】
上記pHの調整は、pH緩衝剤を用いて調整することが好ましいが、酸、塩基で調整しても構わない。そのほかに、界面活性剤、消泡剤、塩、増粘剤等を水系媒体に対して10%以下の割合で添加して用いても構わない。
【0082】
本実施形態に係るポリマー粒子の製造においては、まずpHが6から9に調整された水系媒体にPVPを溶解することが好ましい。PVPは水系媒体に対して0.01質量%から10質量%、好ましくは、0.03質量%から5質量%加えられる。0.01質量%以下だと、ポリマー微粒子への吸着量が少なくその効果が発現されない。また10質量%以上だと水系媒体の粘度が上昇し、撹拌が十分に行えない可能性がある。
【0083】
続いて、ラジカル重合性モノマー(A)を上記水系媒体中に添加し乳濁液とする。この時、(A)に加えて有機シランを含むラジカル重合性モノマー(B)も上記水系媒体中に添加し乳濁液としてもよい。(A)と(B)の質量比は、6:4から10:0である。さらに、調製したモノマー液に発光性希土類錯体を混合する。この時、発光性希土類錯体の溶解度が低い場合は非水溶性の有機溶媒を加えてもよい。発光性希土類錯体とモノマーの質量比は1:1000から1:10である。
【0084】
(A)が60%以下だと、粒子全体の比重が上がり、粒子の沈降が顕著となるおそれがある。また、(B)は無くてもよいが、PVPと発光粒子の密着性を上げるためには、(B)を添加する方がより好適である。
【0085】
水系媒体と(A)と(B)の合計量の質量比は、5:5から9.5:0.5が好ましい。水系媒体の比が50%以下だと生成される粒子の非特異的な凝集が問題となるおそれがある。また、95%以上であっても発光粒子の生成には問題ないが、生成量が少なくなるおそれがある。
【0086】
ラジカル重合開始剤は、水、緩衝剤等に溶解させて用いる。(A)と(B)の合計の質量に対するラジカル重合開始剤は、0.5質量%から10質量%の間で用いることができる。
【0087】
上記乳濁液を加熱する工程は、乳濁液全体が均一に加熱されれば構わない。加熱する温度は、50℃から80℃、加熱時間は2時間から24時間の間で任意に設定できる。乳濁液を加熱することにより、モノマーが重合される。
【0088】
リガンドを結合できる官能基は、例えば、タンパク質、核酸、ペプチド、アミノ酸、アミノ基等を結合できる官能基が好ましい。このような官能基として、例えば、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、エポキシ基、マレイミド基、スクシニミジル基、シリコンアルコキシド基等を挙げられる。リガンドを結合できる官能基を有するシランカップリング剤と、合成した発光粒子を混合することで、前記官能基を発光粒子表面に付与することが可能である。具体的には、例えば、カルボキシ基を有するシランカップリング剤の水溶液を用意して、合成した発光粒子分散液に混合することで、粒子表面にカルボキシ基を付与することができる。この時、反応溶液にTween20等の分散剤を添加してもよい。反応温度は、0℃から80℃、反応時間は1時間から24時間の間で任意に設定できる。急激なシランカップリング剤の縮合反応を抑えるために、25℃程度の室温からそれ以下の温度で、3時間から14時間程度の反応時間で設定することが好適である。リガンドを結合できる官能基によっては酸、またはアルカリの触媒を添加して、粒子表面への反応を促進させることもできる。
【0089】
乳化重合等によって合成した粒子に各種の抗体等のリガンドを結合させることで、標的物質に対するアフィニティを付与することができる。リガンドを結合する手法は特に限定されず、親水層3あるいは粒子基質2に存在する官能基を利用して目的の抗体を結合させるための最適な手法を選択すればよい。
【0090】
(大粒径粒子の製造方法)
希土類錯体4を導入する工程を除いて、発光粒子の上記の合成方法と同様に、大粒径粒子を得ることができる。
ただし、大粒径粒子は、希土類錯体4とは、異なる蛍光色素を含有してもよい。
【0091】
(アフィニティ粒子)
本実施形態において、リガンドとは、特定の標的物質に特異的に結合する化合物のことである。リガンドが標的物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。例えば、標的物質とリガンド、あるいはリガンドと標的物質の組合せの代表的な例として以下を挙げることができる。すなわち、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質等のシグナル物質とその受容体、核酸等が例示される。ただし、本実施形態におけるリガンドはこれらに限定されない。核酸としてはデオキシリボ核酸等が挙げられる。本実施形態におけるアフィニティ粒子は、標的物質に対して選択的または特異的な親和性(アフィニティ)を有する。本実施形態におけるリガンドの代表的な例として、抗体、抗原、および核酸を挙げられる。
本実施形態に係る粒子が有する反応性官能基とリガンドとを化学結合する化学反応の方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。また、リガンドをアミド結合させる場合は、1-[3-(ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド]等の触媒を適宜用いることができる。
本実施形態におけるアフィニティ粒子が、リガンドとして抗体(抗原)、標的物質として抗原(抗体)を用いる場合、臨床検査、生化学研究等の領域において広く活用されている免疫ラテックス凝集測定法に好ましく適用できる。
【0092】
(検査キット)
本実施形態に係る検査キットは、第一の粒子と、第二の粒子を有する。さらには、検査キットは分散媒を有することができる。また、検査キットにおいて、第一の粒子、第二の粒子は、分散媒に分散されていてもよい。また、検査キットは、第一の粒子、第二の粒子、分散媒を含む試薬を有してもよい。本実施形態における試薬中に含有される本実施形態に係るアフィニティ粒子の量は、0.000001質量%から20質量%が好ましく、0.0001質量%から1質量%がより好ましい。本実施形態に係る試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、本実施形態に係るアフィニティ粒子の他に、溶剤やブロッキング剤等の第三物質を含んでも良い。溶剤やブロッキング剤等の第三物質は2種類以上を組み合わせて含んでも良い。本実施形態において用いる溶剤の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液等の各種緩衝液が例示されるが、本実施形態における試薬に含まれる溶剤はこれらに限定されない。
【0093】
検査キットは、上記試薬と、上記試薬を内包する筐体とを有することもできる。
また、本実施形態に係るキットは、標的物質を介した粒子の凝集を促進する増感剤を含有させても良い。増感剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。また、本実施形態に係るキットは、陽性コントロール、陰性コントロール、血清希釈液等を備えていても良い。陽性コントロール、陰性コントロールの媒体として、標的物質が含まれていない血清、生理食塩水の他、溶剤を用いても良い。本実施形態に係るキットは、通常の体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットと同様にして、本実施形態に係る標的物質の検出方法に使用できる。また、従来公知の方法によって標的物質の濃度も測定することができ、特に、ラテックス凝集法による検体中の標的物質の検出に用いることが好適である。
【0094】
(検出方法)
本実施形態における標的物質の有無または濃度を求める方法は、本実施形態に係る第一の粒子と、第二の粒子と、標的物質を含む可能性のある試料液とを混合する工程を有する。混合は、pH3.0からpH11.0の範囲で行われることが好ましい。また、混合温度は0℃から100℃、あるいは4℃から50℃、さらには20℃から50℃の範囲であり、混合時間は1秒から2時間、あるいは、1分から60分の範囲である。また、本方法は、溶剤を使用することが好ましい。また、本実施形態に係る方法において、第一の粒子と、第二の粒子の濃度は、好ましくは、次のとおりである。すなわち、その総量が、反応系中、0.000001質量%から1質量%が好ましく、さらには0.00001質量%から0.001質量%がより好ましい。本実施形態に係る検出方法は、第一の粒子と、第二の粒子と検体との混合の結果として生じる凝集反応を蛍光偏光解消法にて検出される。すなわち、検出方法は、具体的には、検査試薬に、検体を混合して混合液を得る工程と、混合液に、偏光を照射する工程と、混合液中のアフィニティ粒子の発光の偏光成分を分けて検出する工程を有する。
混合液において生じる上記凝集反応を光学的に検出することで、検体中の標的物質が検出され、さらに標的物質の濃度も測定することができる。
【実施例0095】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0096】
(1)発光粒子の作製
pH7のMES(2-モルホリノエタンスルホン酸)緩衝液(キシダ化学社製)にポリビニルピロリドン(PVP-K30:東京化成工業社製)、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製、以下SDSと略)を溶解して溶媒Aを調製した。希土類錯体として、セントラルテクノ株式社製のEu(TTA)3Phenを用いた。Eu(TTA)3Phenは[トリス(2-テノイルトリフルオロアセトナト)(1,10-フェナントロリン)ユウロピウム(III)]とも記される。また、Eu(TTA)3Phenは[Tris(2-thenoyltrifluoroacetonato)(1,10-phenanthroline)europium(III)]とも記される。Eu(TTA)3Phenと、スチレンモノマー(キシダ化学社製)、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、以下MPSと略)を混合して反応液Bを調製した。4つ口フラスコ中の溶媒Aに、反応液Bを添加してメカニカルスターラーを300rpmに設定して攪拌を行った。窒素フロー条件下で30分攪拌後、用意していた油浴の温度を70℃に設定してさらに30分窒素フローを行った。加熱攪拌後、過硫酸カリウム(アルドリッチ社製、KPS)が溶解した水溶液を反応溶液内に加えて10時間乳化重合を行った。反応後、得られた懸濁液を遠心分離して上清を除去し、さらに純水で沈殿物を再分散させた。この遠心分離と再分散の作業を3回繰り返して生成物の洗浄を行った。得られた沈殿物は純水で再分散して、発光粒子分散液を得た。使用した試薬の重量比は表1に示すとおりである。
【0097】
【0098】
(2)大粒径粒子の作製
pH7のMES(2-モルホリノエタンスルホン酸)緩衝液(キシダ化学社製)にポリビニルピロリドン(PVP-K30:東京化成工業社製)、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製、SDS)を溶解して溶媒Aを調製した。スチレンモノマー(キシダ化学社製)、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、MPS)を混合して反応液Bを調製した。4つ口フラスコ中の溶媒Aに、反応液Bを添加してメカニカルスターラーを300rpmに設定して攪拌を行った。窒素フロー条件下で30分攪拌後、用意していた油浴の温度を70℃に設定してさらに30分窒素フローを行った。加熱攪拌後、過硫酸カリウム(アルドリッチ社製、KPS)が溶解した水溶液を反応溶液内に加えて10時間乳化重合を行った。反応後、得られた懸濁液を遠心分離して上清を除去し、さらに純水で沈殿物を再分散させた。この遠心分離と再分散の作業を3回繰り返して生成物の洗浄を行った。得られた沈殿物は純水で再分散して大粒径粒子分散液を得た。使用した試薬の重量比は表2に示すとおりである。
【0099】
【0100】
乳化重合により得られた発光粒子および大粒径粒子の分散液を分取してTween20(キシダ化学社製)が1重量%溶解している水溶液に添加した。10分間攪拌後、有機官能基としてカルボン酸を有するシランカップリング剤、X12-1135(信越化学工業社製)を添加して一晩攪拌した。攪拌後、分散液を遠心分離し、上清を除去して沈殿物を純水で再分散した。遠心分離と再分散の作業を3回以上行い、生成物を洗浄した。洗浄後の沈殿物を純水に再分散させて、発光粒子および大粒径粒子の分散液を得た。粒子、純水、X12-1135の重量比は、1:300:2とした。
【0101】
(3)抗CRP抗体修飾アフィニティ粒子の作製
合成した発光粒子および大粒径粒子の1.2wt%の粒子分散液を0.25mL分取し、1.6mLのpH6.0のMES緩衝液で溶媒を置換した。粒子MES緩衝液に:1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミドおよびN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウムを0.5wt%添加し、25℃で1時間反応させた。反応後、分散液をpH5.0のMES緩衝液で洗浄し、抗CRP抗体を100μg/mL添加し、25℃で2時間抗CRP抗体を粒子に結合させた。結合後、粒子をpH8のTris緩衝液で洗浄した。反応後、粒子をリン酸緩衝液で洗浄し、0.3wt%濃度のCRP抗体修飾アフィニティ粒子を得た。
抗体が結合していることは、抗体を加えた緩衝液中の抗体濃度の減少量をBCAアッセイで測定することで確認した。
【0102】
(4)アフィニティ粒子と抗原溶液の反応
得られたCRP抗体修飾アフィニティ粒子を、MES緩衝液で希釈したCRP抗原と混合する前後の蛍光偏光の変化を観察した。CRP抗体修飾アフィニティ粒子は0.0001mg/mLに固定して、CRPの抗原濃度は0~1000pg/mLで検討した。観察は常温で行った。蛍光偏光の測定方法は後述する。
【0103】
(実施例1)
合成した発光アフィニティ粒子-1に相当する試料と、合成した大粒径アフィニティ粒子-1に相当する試料を、重量比で9:1の割合で混合した分散液を調製した。調製した分散液に、MES緩衝液で希釈したCRP抗原を混合し、混合する前後での蛍光偏光の変化を観察した。分散液中の粒子の総量は、0.001mg/mLとし、CRP抗原は1pg/mLとした。測定は常温で行った。
【0104】
(実施例2)
実施例1において、合成した発光アフィニティ粒子-1に相当する試料と、合成した大粒径アフィニティ粒子-1に相当する試料を、重量比で5:5の割合にしたこと以外は、同様の検討を行った。
【0105】
(実施例3)
実施例1において、合成した発光アフィニティ粒子-1に相当する試料と、合成した大粒径アフィニティ粒子-1に相当する試料を、重量比で1:9の割合にしたこと以外は、同様の検討を行った。
【0106】
(実施例4)
合成した発光アフィニティ粒子-2に相当する試料と、合成した大粒径アフィニティ粒子-2に相当する試料を、重量比で5:5の割合で混合した分散液を調製した。調製した分散液に、MES緩衝液で希釈したCRP抗原を混合し、混合する前後での蛍光偏光の変化を観察した。分散液中の粒子の総量は、0.001mg/mLとし、CRP抗原は10pg/mLとした。測定は常温で行った。
【0107】
(比較例1)
合成した発光アフィニティ粒子-1に相当する試料の分散液を調製した。調製した分散液に、MES緩衝液で希釈したCRP抗原を混合し、混合する前後での蛍光偏光の変化を観察した。分散液中の粒子の総量は、0.001mg/mLとし、CRP抗原は1pg/mLとした。測定は常温で行った。
【0108】
(比較例2)
合成した大粒径アフィニティ粒子-1に相当する試料の分散液を調製した。調製した分散液に、MES緩衝液で希釈したCRP抗原を混合し、混合する前後での蛍光偏光の変化を観察した。分散液中の粒子の総量は、0.001mg/mLとし、CRP抗原は1pg/mLとした。測定は常温で行った。
【0109】
(比較例3)
合成した発光アフィニティ粒子-2に相当する試料の分散液を調製した。調製した分散液に、MES緩衝液で希釈したCRP抗原を混合し、混合する前後での蛍光偏光の変化を観察した。分散液中の粒子の総量は、0.001mg/mLとし、CRP抗原は1pg/mLとした。測定温度はで行った。
【0110】
(生成物の評価)
実施例および比較例における生成物について、以下の評価を行った。
生成物の形状は、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー製 S5500)を用いて評価した。
生成物の平均粒径は、動的光散乱(マルバーン製 ゼータサイザー ナノS)を用いて評価した。
生成物を分散した懸濁液の濃度は、質量分析装置(リガク製 サーモプラス TG8120)を用いて評価した。
生成物を含む分散液の蛍光スペクトルは、室温で、励起光340nmで、励起側と発光側の光路に偏光子を入れて測定した。偏光子の向きは、励起側を固定して、発光側を励起側に対して平行あるいは垂直の向きに設置して測定を行った。装置は日立ハイテクサイエンス製 分光蛍光光度計F-4500を用いた。偏光発光を解析する観察光のピーク波長は、611nmとした。得られた偏光発光のデータを式4で解析することで、偏光異方性rを求めた。
生成物の非特異凝集抑制評価は以下の通りに行った。
実施例1~4および比較例1~3で作製した各発光アフィニティ粒子分散液(3mg/mL)を30μlに緩衝液で15倍に希釈したヒト血清溶液60μlを添加し37℃で5分保温した。保温の前後で527nmの吸光度を測定し、前後での吸光度の変化量を3回測定した。
【0111】
(性能評価)
非特異凝集抑制評価の結果、実施例および比較例全てにおいて吸光度の変化が規定の数値以下であった。すなわち、実施例1~4および比較例1から3の全てにおいて吸光度の変化が、規定の数値以下の0.01以下であり、非特異吸着を抑制することができる発光粒子であることを確認した。
実施例1、2、3および比較例1、2の粒子材料の構造と物性を表3に示す。
【0112】
【0113】
実施例1、2、3、および比較例1の発光アフィニティ粒子-1のサイズは、98nmであり、pdiの値もそれぞれ0.024と、0.1を切る単分散な粒子であることを確認した。実施例1、2、3、および比較例2の大粒径粒子-1のサイズは、347nmであり、pdiの値もそれぞれ0.082と、0.1を切る単分散な粒子であることを確認した。それぞれ、反応後の偏光異方性rの値と、反応前後での偏光異方性の変化Δrを比較すると、大粒径アフィニティ粒子を含まない比較例1の値に対して、大粒径アフィニティ粒子を混合した実施例の方高くなっていることが判明した。さらに、反応後の偏光異方性rの値と、反応前後での偏光度の変化Δrは大粒径アフィニティ粒子を混合した割合が高い実施例3、2、1の順番で大きくなっていることが判明した。最も偏光度の変化が大きかった実施例3と比較例1を比べるとそのΔrの値は60倍になっていることが判明した。
一方で、発光粒子を含まない、比較例2は偏光異方性を検出することはできなかった。
【0114】
実施例4および比較例3の粒子材料の構造と物性を表4に示す。
【表4】
【0115】
実施例4、および比較例3の発光アフィニティ粒子-2のサイズは、207nmであり、pdiの値もそれぞれ0.039と、0.1を切る単分散な粒子であることを確認した。実施例4の大粒径アフィニティ粒子-2のサイズは、275nmであり、pdiの値もそれぞれ0.082と、0.1を切る単分散な粒子である事を確認した。それぞれ、反応後の偏光異方性rの値と、反応前後での偏光異方性の変化Δrを比較すると、大粒径アフィニティ粒子を含まない比較例3の値に対して、大粒径アフィニティ粒子を混合した実施例4の方が高くなっていることが判明した。
蛍光偏光解消法により求める偏光異方性は、粒子サイズ(凝集体のサイズ)に依存し、粒子(凝集体)の半径の3乗に比例する。本件の実施例による測定結果は、粒子(凝集体)サイズをより大きくする凝集反応を検討した結果であり、蛍光偏光解消法の測定原理と一致する合理的な結果となった。
【0116】
以上のことから、本発明にかかる測定方法は、極めて検出感度が高く、本発明の検査キット、あるいは、発光アフィニティ粒子、大粒径アフィニティ粒子によって、高感度の測定が可能であることが示された。