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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187940
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/536 20060101AFI20221213BHJP
   G01N 33/552 20060101ALI20221213BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20221213BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G01N33/536 D
G01N33/552
G01N21/64 F
C09K11/06
C09K11/06 660
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096212
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】掛川 法重
(72)【発明者】
【氏名】増村 考洋
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043DA02
2G043EA01
(57)【要約】
【課題】低分子物質および高分子物質のいずれを対象とした測定にも適用可能であり、蛍光偏光解消法により高感度な検体検査を可能とする粒子、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】検体検査用の粒子であって、前記粒子はシリカ粒子を有し、前記粒子の平均粒径が50nm以上215nm以下であり、前記粒子の屈折率が1.4以下であり、前記粒子は、発光性希土類錯体を内部に担持していることを特徴とする粒子。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体検査用の粒子であって、
前記粒子はシリカ粒子を有し、
前記粒子の平均粒径が50nm以上215nm以下であり、
前記粒子の屈折率が1.4以下であり、
前記粒子は、発光性希土類錯体を内部に担持している、ことを特徴とする粒子。
【請求項2】
前記シリカ粒子の表面が親水性の化合物で被覆されている請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記親水性の化合物が、ピロリドン基、エーテル結合、ベタイン基、および水酸基からなる群から選ばれる少なくともいずれか1つの官能基または結合を含む請求項2に記載の粒子。
【請求項4】
前記発光性希土類錯体が、ユウロピウム、テルビウム、ネオジム、エルビウム、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ツリウム、イッテルビウム、およびスカンジウムからなる群から選ばれる少なくともいずれか1つの希土類元素を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項5】
前記発光性希土類錯体が、配位子として、ビピリジンおよびフェナントロリンから選ばれる少なくともいずれか1つを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項6】
前記シリカ粒子が多孔質シリカ粒子である請求項1~5のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項7】
前記シリカ粒子が中空シリカ粒子である請求項1~5のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項8】
前記シリカ粒子が有機官能基を有する請求項1~7のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の粒子と、前記粒子に結合したリガンドと、を有することを特徴とするアフィニティー粒子。
【請求項10】
前記リガンドが、抗体、抗原、および核酸からなる群から選ばれる少なくともいずれか1つである請求項9に記載のアフィニティー粒子。
【請求項11】
請求項9または10に記載のアフィニティー粒子と、前記アフィニティー粒子を分散させる分散媒と、を有することを特徴とする体外診断用の検査試薬。
【請求項12】
前記リガンドが抗体または抗原であり、検体中の抗原または抗体の検出に用いられる請求項11に記載の検査試薬。
【請求項13】
請求項11または12に記載の検査試薬と、前記検査試薬を内包する筐体とを有することを特徴とする体外診断用の検査キット。
【請求項14】
蛍光偏光解消法による検体中の標的物質の検出方法であって、
請求項11または12に記載の検査試薬と、検体とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液に、偏光を照射する工程と、
前記混合液から発せられた偏光を検出する工程と、を有することを特徴とする検出方法。
【請求項15】
シリカ粒子前駆体を、鋳型となる分子が溶解した酸または塩基性の溶液中で縮重合した後、前記鋳型となる分子を脱離することで、屈折率が1.4以下のシリカ粒子を得る工程(工程1)と、
発光性希土類錯体を溶解した液中で、工程1で得た前記シリカ粒子に前記発光性希土類錯体を担持させることで発光色素担持粒子を得る工程(工程2)と、
を有することを特徴とする粒子の製造方法。
【請求項16】
工程2で得た前記発光色素担持粒子の表面を親水性化合物で被覆し、発光粒子を得る工程(工程3)と、を有する請求項15に記載の粒子の製造方法。
【請求項17】
前記シリカ粒子前駆体がテトラアルコキシシランである請求項16に記載の粒子の製造方法。
【請求項18】
前記鋳型となる分子が、界面活性剤およびブロックコポリマーから選択される少なくともいずれか1種である請求項16または17に記載の粒子の製造方法。
【請求項19】
前記発光粒子にリガンドを結合する工程をさらに有する請求項16~18のいずれか1項に記載の粒子の製造方法。
【請求項20】
前記リガンドが、抗体、抗原、および核酸からなる群から選ばれる少なくともいずれか1つである請求項19に記載の粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、臨床検査の分野において、血液や採取された臓器の一部等から微量な生体成分を高感度で検出することは、病気の原因を追究するために必要である。生体成分の検出手法の中でも、免疫分析は広く利用されている。
免疫分析の一つに、抗原抗体反応を利用したラテックス凝集法がある。ラテックス凝集法とは、ラテックス粒子と、標的物質を含む液体試料とを混合して、ラテックス粒子の凝集の程度を測定することにより、標的物質の検出や定量を行う方法である。検出に用いるラテックス粒子には、標的物質と特異的に結合する標的結合物質が結合されている。例えば、生体試料等の液体試料中の抗原を標的物質として検出する場合には、標的結合物質としては、抗体を用いることができる。
【0003】
ラテックス凝集法では、ラテックス粒子に結合した標的結合物質に標的物質が捕捉され、捕捉された標的物質に、さらに他のラテックス粒子が有する標的結合物質が結合することで複数のラテックス粒子が架橋し、その結果、凝集が起きる。つまり、生体試料等の液体試料中の標的物質の量は、ラテックス粒子の凝集の程度を評価することで定量できる。凝集の程度は、液体試料を透過、あるいは散乱する光の量の変化を評価することで定量できる。
【0004】
ラテックス凝集法は、簡便かつ迅速に、標的物質の定量評価ができる一方、生体試料等の液体試料中における標的物質の量が少ないと、検出できないという課題があった。
【0005】
液体試料中の標的物質の検出感度を向上させるためには、液体試料を透過、あるいは散乱する光を検出する方法に代えて、より感度の高い発光特性を利用した検出方法に置き換えることが考えられる。具体的には、特許文献1および2には、蛍光偏光解消法を利用した検体検査方法が提案されている。
【0006】
蛍光測定法では、測定物質と未反応の発光物質とを測定前に分離する、B/F(Bound/Free)分離といわれる洗浄工程が必要であることが問題となるが、蛍光偏光解消法は、この洗浄工程を必要としない。そのため、蛍光測定を利用したラテックス凝集法と比べてより簡易に検体検査が可能となる。さらに、測定プロセスも、基本的には測定物質と特異的に反応する発光物質を測定対象試料と混合するのみであり、ラテックス凝集法と同様の検査システムで測定することが可能である。
【0007】
特許文献1では、蛍光偏光解消法に用い得る装置を臨床目的に改良したものが提案されており、発光材料としては、フルオレセイン等の単分子を用いることができると記載されている。
また、特許文献2では、長い発光寿命を有する色素を不溶性担体に担持させて色素標識粒子を作製すること、および、得られた色素標識粒子を試料液と反応させたのち、発光偏光度を求めること、を含む免疫測定法が提案されている。
特許文献2では、蛍光標識する物質を、従来の抗原に代えて不溶性担体とすることで蛍光標識粒子の粒径を大きくし、また、蛍光標識に発光寿命の長い色素を用いている。これにより、蛍光標識粒子の粒径が大きくなることに伴う蛍光標識粒子の回転ブラウン運動の低下と、発光寿命の長さとのバランスをとり、高分子物質を対象とした測定を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3-52575号公報
【特許文献2】特許第2893772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で開示されている発光材料は低分子物質であり、低分子の薬物や低分子抗原等を対象とした測定には適用できる一方で、タンパク質等の高分子物質を対象とした測定には原理的に適用できないという課題があった。
また、特許文献2に記載の蛍光標識粒子は、高分子物質の測定への適用が可能である一方で、蛍光標識粒子のサイズが大きいために蛍光標識粒子による励起光の散乱が偏光解消を引き起こし、測定の高感度化が難しいという課題があった。
本発明は、従来技術における上記課題に鑑みてなされたものであり、低分子物質および高分子物質のいずれを対象とした測定にも適用可能であり、蛍光偏光解消法により高感度な検体検査を可能とする粒子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る粒子は、検体検査用の粒子であって、前記粒子はシリカ粒子を有し、前記粒子の平均粒径が50nm以上215nm以下であり、前記粒子の屈折率が1.4以下であり、前記粒子は、発光性希土類錯体を内部に担持していることを特徴とする。
また、本発明の別の態様に係る粒子の製造方法は、シリカ粒子前駆体を、鋳型となる分子が溶解した酸または塩基性の溶液中で縮重合した後、前記鋳型となる分子を脱離することで、屈折率が1.4以下のシリカ粒子を得る工程(工程1)と、発光性希土類錯体を溶解した液中で、工程1で得た前記シリカ粒子に前記発光性希土類錯体を担持させることで発光色素担持粒子を得る工程(工程2)と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に依れば、低分子物質および高分子物質のいずれを対象とした測定にも適用可能であり、蛍光偏光解消法により高感度な検体検査を可能とする粒子、およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る粒子の構造を示す概略図である。
図2】光学シミュレーションによる透過率の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0014】
本発明に係る粒子は、検体検査用の粒子であって、前記粒子はシリカ粒子を有し、好ましくは前記粒子の表面は親水性化合物で被覆されている。また、前記粒子の平均粒径が50nm以上215nm以下であり、前記粒子の屈折率が1.4以下であり、前記粒子は、発光性希土類錯体を内部に担持している。
以下、本発明に係る粒子の一実施形態について図を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係る粒子の構成を示す概略図である。
図1に、本発明の一実施形態に係る粒子として、発光粒子1を示す。発光粒子1は、コア粒子としてシリカ粒子2を有し、シリカ粒子2の外表面は親水性化合物からなる親水層4により覆われている(親水性の化合物で被覆されている)。シリカ粒子2は、内部に空孔3を有し、空孔3の中に、発光性希土類錯体5が担持されている。親水層4の屈折率、及び厚さは、蛍光偏光解消法により測定ができるように設定されている。
【0016】
発光粒子1を用いた検体検査は、蛍光偏光解消法により行われる。
発光粒子1は、発光性希土類錯体5を有し、発光性希土類錯体5は、遷移モーメント(遷移双極子モーメント)を有する。そのため、発光性希土類錯体5を、遷移モーメントに沿った偏光により励起したとき、発せられる蛍光もまた遷移モーメントに沿った偏光となる。
実際には、溶媒中の発光粒子1(発光材料)は、ブラウン運動等により回転しているため、発光性希土類錯体5が有する遷移モーメントも時間と共に変化する。そのため、蛍光が発せられている時間内における発光材料の回転運動により、蛍光偏光が一部解消され、蛍光偏光解消法ではこれを偏光異方性として測定して評価する。
【0017】
発光材料の回転運動は下記式1で表すことができる。
Q=3Vη/kT ・・・(1)
Q:発光材料の回転緩和時間
V:発光材料の体積
η:溶媒の粘度
k:ボルツマン定数
T:絶対温度
発光材料の回転緩和時間Qは、cosθ=1/eとなる角度θ(68.5°)を発光材料が回転するのに要する時間である。
式1より、発光材料の回転緩和時間は材料の体積、つまり粒径の3乗に比例することがわかる。
【0018】
一方、蛍光偏光解消法における材料の発光寿命および回転緩和時間と、偏光度との関係は下記式2で表すことができる。
p0/p=1+A(τ/Q) ・・・(2)
p0:材料が停止していると仮定したとき(Q=∞)の偏光度
p:偏光度
A:定数
τ:材料の発光寿命
Q:回転緩和時間
【0019】
式1および2より、偏光度の変化を大きく計測するためには、発光材料の発光寿命と回転緩和時間、すなわち発光材料の体積(粒径)の関係が重要であり、発光材料の粒径が大きいほど発光寿命も長くする必要があることがわかる。つまり、蛍光偏光解消法では、発光材料のサイズ(粒径)と、発光寿命とを適切な範囲とすることで、抗原抗体反応等による発光材料の凝集に基づくサイズの変化を鋭敏に検出することが可能となる。
【0020】
式2で示した偏光度を実験により評価するためには、励起光として偏光をサンプルに照射し、励起光の進行方向と90度異なる方向において発光を検出すればよい。この時、検出光を、励起光の偏光方向と並行な偏光成分と、励起光の偏光方向と垂直な偏光成分とに分けて検出し、下記式3に示す数式により偏光異方性を求めればよい。
r(t)=(I∥(t)―GI⊥(t))/(I∥(t)+2GI⊥(t))
・・・(3)
r(t):時間tにおける偏光異方性
I∥(t):時間tにおける励起光の偏光方向と並行な偏光成分の発光強度
I⊥(t):時間tにおける励起光の偏光方向と垂直な偏光成分の発光強度
G:補正値、サンプル測定に使用した励起光と振動方向が90度異なる励起光を照射したときの、照射した励起光の偏光方向と垂直な偏光成分の発光強度に対する、照射した励起光の偏光方向と平行な偏光成分の発光強度の比
【0021】
図1に示す発光粒子1は球状であり、発光粒子1の平均粒径は50nm以上215nm以下である。ここで、発光粒子1の平均粒径は、動的散乱法により求められる値(数平均粒径)である。
発光粒子1の平均粒径が50nm以上であれば、検体検査において標的物質と結合して凝集を生じたときのサイズの変化を十分に大きくすることができ、精度よく偏光異方性を求めることが可能となる。
また、発光粒子1の平均粒径が215nm以下であれば、発光粒子1の粒子一個当たりの光の散乱を小さくすることができ、散乱光による偏光解消を抑制することで精度よく偏光異方性を求めることができる。
【0022】
発光粒子1の粒度分布の変動係数、つまり発光粒子1の平均粒径を標準偏差で除した値は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。発光粒子1が均一な粒径を有することで測定される偏光異方性の値が安定し、再現性に優れた測定を行うことができる。
なお、発光粒子1の形状は球状に限られず、動的散乱法により測定したときに、上記の平均粒径となる粒子である限りにおいて、球状以外の形状を有していてもよい。
続いて、発光粒子1の各構成要素について以下に詳述する。
【0023】
(シリカ粒子2)
発光粒子1は、コア粒子としてシリカ粒子2を有する。これにより、単分子を発光材料とする場合に比べて粒子を大きくすることができ、低分子物質および高分子物質のいずれも標的物質とすることができる。
図1に示すシリカ粒子2は球状である。ただし、シリカ粒子1の形状は球状に限られず、発光粒子1について動的散乱法により平均粒径を測定したときに、上記の値の範囲内となる限りにおいて、球状以外の形状を有していてもよい。シリカ粒子の平均粒径は、40nm以上205nm以下とすることができ、46nm以上204nm以下とすることができる。
【0024】
シリカ粒子2を形成する材料はシリカを主成分とする材料より構成されている。シリカ粒子2はシリコンアルコキシドを主成分として加水分解、縮合することで得ることができる。
シリカ粒子2は、有機官能基を有することが好ましい。これによりシリカ粒子2の表面特性が変化し、発光性希土類錯体5の担持量や、担持可能な材料の種類に幅を持たせることができる。有機官能基を有するシリカ粒子2は、例えば、シリカ粒子2の合成時に2官能および3官能の金属アルコキシド等を加えて反応させることで作製することができる。
アルコキシドの加水分解、縮合は水系溶媒を含む塩基性条件下で行うとよい。
図1に示すシリカ粒子2は、空孔3を複数有する多孔質シリカ粒子であるが、発光粒子1が有するシリカ粒子2は、空孔3を1つ有する中空シリカ粒子であってもよい。
【0025】
(空孔3)
シリカ粒子2を構成するシリカの屈折率は一般に1.46程度であり、発光粒子1の屈折率は1.4以下である。つまり、シリカ粒子2が体積比率で約10%以上の空孔3を有することで、発光粒子1の屈折率を1.4以下とすることができ、これにより発光粒子1における光の散乱による偏光解消を抑制することができる。
さらに、シリカ粒子2が体積比率で30%程度の空孔3を有し、発光粒子1の屈折率が約1.3程度となるとき、水の屈折率1.33とほぼ同じ値となる。そのため、水を媒体として用いたときの発光粒子1における光の散乱を効果的に抑制することができ、好適である。
【0026】
空孔3はシリカ粒子2の内部に一つ以上存在する。空孔3は、1~10nm程度のサイズでシリカ粒子2の内部に多数存在していてもよい。あるいは中空構造の様にシリカ粒子2のサイズに近い、大きな空孔3が一つ存在していてもよい。シリカ粒子2に対する空孔3の体積比率が大きいほど、発光粒子1の屈折率は小さくなる。実際には、作製可能なシリカ粒子2における空孔3の体積比率にも上限があることから、発光粒子1が有する屈折率としては1.2以上が現実的である。
空孔3はシリカ粒子2を合成する際に界面活性剤、ブロックコポリマー等を鋳型に用いることで形成することが可能である。
【0027】
(親水層4)
発光粒子1は、シリカ粒子2の外表面上に親水層4を有する。水系媒体中の発光粒子1において、発光粒子1の表面にある親水層4が吸水していることで、水系媒体とシリカ粒子2との間で光の干渉層としての役割を果たすと考えられる。これにより、シリカ粒子2が空孔3を有することの効果に加えてさらに光散乱を抑制することができる。また、発光粒子1が表面に親水層4を有することで、BSAを用いることなく非特異吸着を抑制する効果が高い粒子とすることができる。そのため、ロットごとの品質のばらつきを抑制することができる。
【0028】
親水層4は、親水性化合物、すなわち、親水基を含む分子あるいはポリマーで構成されている。
親水基として、電荷が小さいあるいはカチオンとアニオンとのバランスで電荷を相殺している構造を有する分子あるいはポリマーを粒子の表面に固定化することで、検体中に存在する夾雑物が粒子に非特異吸着をすることを低減できる。このことから、親水層4を構成する親水性化合物は、ピロリドン基、エーテル結合、ベタイン基、および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基または結合を含むことが好ましい。
【0029】
具体的には親水層4は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、スルホベタインあるいはホスホベタインのポリマー、グリシジル基を開環し水酸基を分子の末端に修飾したポリグリシジルメタクリル酸等を主成分とすることができる。あるいは、親水基を有する単分子をシリカ粒子2の表面にシランカップリング剤等を用いて直接付与してもよい。
【0030】
親水層4の厚さに限定はないが、親水性を発揮できる厚さ以上に厚くする必要はない。親水層4が厚すぎてもヒドロゲルの様になり、溶媒中のイオンの影響で水和した親水層の厚さが変化する可能性がある。親水層4の厚さは10nm以上50nm以下が好適である。上記特許文献2に記載の蛍光標識粒子の表面には、非特異吸着を抑制するためにウシ血清アルブミン(BSA)が担持されており、ロットごとに蛍光標識粒子の性能にばらつきが生じる可能性があった。一方、本実施形態に係る粒子が親水性の化合物で被覆されている(親水性層を有する)構成であることで、非特異吸着を低減できる。
【0031】
(発光性希土類錯体5)
発光の波長や強度が周囲環境の影響を受けにくく、発光が長寿命であるという特徴から本発明においては、発光色素として発光性希土類錯体5を用いる。
発光性希土類錯体5は希土類元素と配位子とにより構成されている。発光性希土類錯体5は、ユウロピウム、テルビウム、ネオジム、エルビウム、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ツリウム、イッテルビウム、およびスカンジウムからなる群から選ばれる少なくともいずれか1つの希土類元素を含むことが好ましい。
【0032】
発光性希土類錯体5が有する希土類元素としては、発光寿命および発光波長領域が可視光領域であること等を考慮すると、ユウロピウムおよびテルビウムを好適に用いることができる。
例えば、ユウロピウム錯体は一般に0.1~1.0msの発光寿命を有する。この発光寿命と、数式1より得られる回転緩和時間とを適度に調整することで、偏光異方性を好適に検出することができる。水分散液中のユウロピウム錯体の場合、発光粒子1の粒径が50~300nm程度であるとき、標的物質と発光粒子1との結合前後において式3で表される偏光異方性が大きな値となる。
【0033】
発光性希土類錯体5が有する配位子のうち、少なくとも一つは集光機能を有した配位子である。集光機能とは、特定の波長で励起し、エネルギー移動によって錯体の中心金属を励起する作用のことである。さらに、集光機能を有する配位子としては遷移モーメントを有する分子が選ばれる。例えば発光性希土類錯体5は、集光機能を有する配位子として、ビピリジンおよびフェナントロリンから選ばれる少なくともいずれか1つを含むことがこのましいが、この限りではない。
【0034】
また、発光性希土類錯体5は、β-ジケトン等の配位子を有し、水分子の配位が抑制されていることが好ましい。これにより希土類イオンに配位しているβ-ジケトン等の配位子が、溶媒分子等へのエネルギーの移動による失活過程を抑制し、強い蛍光発光が得られる。
発光性希土類錯体5は、遷移モーメントを有する限りにおいて、多核錯体であってもよい。
【0035】
本実施形態に係る発光粒子1を分散した液を用いることで、光散乱の影響を抑制しつつ、発光粒子1の凝集および分散の挙動に対して偏光異方性を測定することができる。したがって、本実施形態に係る発光粒子1を水系媒体に分散したコロイド液は、例えば、蛍光偏光解消法を用いた高感度な抗体検査試薬として利用することができる。水系媒体としては、緩衝液を用いてもよい。また、本実施形態に係る粒子を分散した液の安定性を向上させるために、水系媒体中に、界面活性剤、防腐剤や増感剤等を添加してもよい。
【0036】
(粒子の製造方法)
本実施形態に係る、コア-シェル構造を有する発光粒子1の製造方法は、以下の各工程を有する。
【0037】
シリカ粒子前駆体を、鋳型となる分子が溶解した酸または塩基性の溶液中で縮重合した後、鋳型となる分子を脱離することで、屈折率が1.4以下のシリカ粒子2を得る工程(工程1)。
発光性希土類錯体5を溶解した液中で、工程1で得たシリカ粒子2に発光性希土類錯体5を担持させることで発光色素担持粒子を得る工程(工程2)。
工程2で得た発光色素担持粒子の表面を親水性化合物で被覆し、発光粒子1を得る工程(工程3)。
【0038】
(工程1)
図1中におけるシリカ粒子2は、シリカ粒子前駆体としてシリコンアルコキシドを主成分として含む溶液の加水分解-縮合反応により得ることができる。
シリカ粒子前駆体としてのシリコンアルコキシドは、テトラアルコキシシランであることが好ましく、主にテトラエチルオルソシリケートが用いられる。また、シリカ粒子2の表面特性を変化させるために、シリカ粒子2の合成時に2官能および3官能の金属アルコキシド等を加えて反応させてもよい。
アルコキシドの加水分解-縮合反応は水系溶媒を含む塩基性条件下で行うとよい。塩基性触媒としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、およびリシン等のアミノ酸を用いることができる。
シリカ粒子2が有する空孔3は、界面活性剤やブロックコポリマーを鋳型として用いることでシリカ粒子2中に形成することができる。具体的には長鎖アルキルアンモニウム塩や、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロックコポリマーを用いて液中に形成したミセルを鋳型とし、その表面にアルコキシドの加水分解でシリカを主成分とする骨格を析出させる。
鋳型となる分子は、界面活性剤およびブロックコポリマーから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
工程1において、反応温度、反応時間、各成分の濃度あるいは溶媒の種類を適宜変更することで粒子サイズを制御することができる。
空孔3より鋳型を除去するためには、弱酸性の溶液で鋳型分子を溶脱する方法を用いることができる。例えば、酢酸を混合した溶液に、半透膜中に詰めた粒子を浸漬し、数回溶媒を交換することで、空孔3から鋳型を除去することができる。
【0039】
(工程2)
発光性希土類錯体5を空孔3に担持する方法としては、例えば、発光性希土類錯体5を溶解した液に工程1で得たシリカ粒子2を浸漬することが挙げられる。発光性希土類錯体5の吸着は、発光性希土類錯体5の濃度、溶媒への溶解度と空孔3により形成されるシリカ粒子2の表面への親和性とのバランスで制御することができる。
発光性希土類錯体5が疎水性の場合は、空孔3により形成されるシリカ粒子2の表面を、発光性希土類錯体5と親和性の高い分子で表面処理してもよい。
表面処理としては、例えばシランカップリング剤を用いて処理した後に、シランカップリング剤が有する官能基を利用して疎水化処理を行うことができる。シランカップリング剤としては、例えば、アルキルトリアルコキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン、メタクリロキシアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン等を用いることができる。
あるいは表面処理としてヘキサメチルジシラザンのようなシラザンで疎水処理することができる。シラザンによる疎水処理に用いる溶媒としては、水、アルコール類、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、およびジメチルスルホキシド等の極性溶媒を用いることができる。また、溶媒としてクロロホルムやトルエン、ベンゼン等を用いることも可能であり、これらを混合して用いても構わない。
空孔3の大きさは、発光性希土類錯体5よりも大きなサイズであることで、上記の方法により空孔3により形成されるシリカ粒子2の表面に発光性希土類錯体5を吸着させることができ、好ましい。
【0040】
(工程3)
工程2で得た発光色素担持粒子の表面を親水性化合物で被覆し、親水層4を形成するためには、以下の方法を用いることができる。シード重合等によって発光色素担持粒子の表面を親水性ポリマーで被覆する方法、親水性ポリマーを発光色素担持粒子に直接吸着させる方法、および、シランカップリング剤を用いて親水基を直接発光色素担持粒子の表面に付与する方法等。
シード重合を行う場合は、発光色素担持粒子の表面をメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等で表面処理した後に、水系溶媒中でグリシジルメタクリレート等を重合するとよい。開始剤には過硫酸カリウム、アゾ重合開始剤等を用いることができる。脱酸素条件下で、穏やかに攪拌しながら50~70℃に加温してシード重合を行うことができる。
得たサンプル中に存在するグリシジル基はエタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、メルカプトプロパンジオール等で開環して、水酸基を付与することができる。さらに、グリシジル基をメルカプトこはく酸等で処理することで、カルボン酸を粒子表面に付与することができる。カルボン酸やアミン等の官能基を粒子表面に付与することで、例えば、抗体等を粒子に結合することが可能となる。
あるいはグリシジルメタクリレートモノマーの代わりにスルホベタインモノマー等も使用することができる。
さらに、グリシジルメタクリレートモノマーの代わりにスチレンモノマーおよびメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いてもよい。スチレンモノマーおよびメタクリロキシプロピルトリメトキシシランは、ポリビニルピロリドンを分散剤として用いた溶液中で反応させる。これにより、発光色素担持粒子の表面に親水層4を形成することができる。
【0041】
親水性のシランカップリング剤を用いる場合は、シランカップリング剤として、ポリエチレングリコールやベタイン基を有するシランカップリング剤を使用することができる。この時、こはく酸を官能基にもつシランカップリング剤やアミノプロピルアルコキシシランを同時に反応させると、発光粒子1の表面上に、抗体等を粒子に結合する足場を同時に形成することができる。
【0042】
親水性のポリマーを発光色素担持粒子の表面に直接吸着させる場合は、ポリビニルピロリドン等を用いることができる。ポリビニルピロリドンはシリカの表面との親和性が高く、容易に吸着する。さらに、ポリビニルピロリドン-ポリアクリル酸のコポリマーを用いることで、親水層4にカルボン酸を付与することができる。
【0043】
本実施形態に係る発光粒子1に、各種の抗体等のリガンドを結合させることで、検体検査粒子として利用することができる。発光粒子1にリガンドを結合させるためには、親水層4に存在する官能基を利用して目的のリガンドを結合させる最適な手法を適宜選択すればよい。
【0044】
(アフィニティー粒子)
本実施形態に係る発光粒子1の利用方法として、例えば、本実施形態に係る発光粒子1と、発光粒子1に結合したリガンドとを有するアフィニティー粒子を提供することが挙げられる。
【0045】
リガンドとは、特定の標的物質が有する受容体に特異的に結合する化合物のことである。リガンドが標的物質に結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。リガンドと標的物質の組み合わせとしては、例えば、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質等のシグナル物質とその受容体、核酸と核酸認識受容体等が例示されるが、これらに限定されない。例えば、検体中の抗原または抗体の検出に用いる場合は、リガンドは、抗体または抗原を用いることができる。核酸としてはデオキシリボ核酸等が挙げられる。
本発明においてアフィニティー粒子とは、標的物質に対して選択的または特異的に高い親和性(アフィニティー)を有する粒子をいう。リガンドは、抗体、抗原、および核酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0046】
本実施形態に係る発光粒子1が有する反応性官能基とリガンドとを化学反応により結合させる方法は、本発明の目的を達成可能な限りにおいて、従来公知の方法を適用することができる。また、リガンドをアミド結合させる場合は、1-[3-(ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド]等の触媒を適宜用いることができる。
【0047】
アフィニティー粒子が、リガンドとして抗体(抗原)を有し、標的物質が抗原(抗体)である場合、臨床検査および生化学研究等の領域において広く活用されている免疫ラテックス凝集測定法の検査システムを好ましく適用できる。
【0048】
(体外診断用の検査試薬)
本発明に係る体外診断用の検査試薬、すなわち体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるための検査試薬は、上記のアフィニティー粒子と、アフィニティー粒子を分散させる分散媒とを有する。検査試薬中に含有されるアフィニティー粒子の量は、0.001質量%以上20質量%以下が好ましく、0.01質量%以上10質量%以下がより好ましい。
検査試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、アフィニティー粒子の他に、溶剤やブロッキング剤等の第三物質を含んでも良い。溶剤やブロッキング剤等の第三物質は2種類以上を組み合わせて含んでも良い。溶剤の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液等の各種緩衝液が例示されるが、検査試薬に含まれる溶剤はこれらに限定されない。
【0049】
(検査キット)
体外診断における検体中の標的物質の検出に用いるための本発明に係る検査キットは、上記検査試薬と、上記検査試薬を内包する筐体とを有する。
検査キットは、例えば抗原抗体反応時における粒子の凝集を促進させる増感剤をさらに含有していて良い。増感剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、検査キットは、陽性コントロール、陰性コントロール、血清希釈液等を備えていても良い。陽性コントロール、陰性コントロールの媒体として、測定対象となる標的物質が含まれていない血清、生理食塩水の他、溶剤を用いても良い。
本発明に係るキットは、従来公知の方法に適用して標的物質の濃度を測定することもでき、特に、ラテックス凝集法による検体中の標的物質の検出に好適に用いることができる。
【0050】
(検出方法)
本発明に係る検出方法は、体外診断による検体中の標的物質の検出方法である。本発明に係る検出方法は、上記の検出試薬と、標的物質を含む可能性のある検体とを混合して混合液を得る工程と、上記混合液に、偏光を照射する工程と、上記混合液から発せられた偏光を検出する工程と、を有する。
先にも述べた通り、混合液から発せられた偏光を検出する工程においては、発光の偏光成分を励起光と平行な発光成分と、励起光と垂直な発光成分とに分けて検出し、式(3)を用いることで偏光異方性を求めることができる。
混合液において生じる上記アフィニティー粒子と標的物質との凝集反応を光学的に検出することで、検体中の標的物質が検出され、さらに標的物質の濃度を測定することができる。
検出試薬と検体との混合は、pH3.0からpH11.0の範囲で行われることが好ましい。また、混合温度は20℃から50℃の範囲であり、混合時間は1分から20分の範囲であることが好ましい。また、検出においては、溶剤を使用することが好ましい。
また、上記混合液中のアフィニティー粒子の濃度は、好ましくは0.001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上1質量%以下である。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0052】
(1)シリカ粒子1の作製
ストーバー法を改良してコア粒子としてのシリカ粒子1を作製した。
具体的には、まず、丸底四ツ口のセパラブルフラスコにエタノールと純水、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、L-リシンを加え、メカニカルスターラーを用いて30分間撹拌した。次に、オイルバスにて試料を撹拌した状態のまま70度まで加熱した後、テトラエチルオルソシリケートを一度に添加して、激しく攪拌を行った。試薬の仕込み量は、エタノール10mL、純水90mL、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド790mg、L-リシン900mg、テトラエチルオルソシリケート895mgであった。
一晩攪拌し、試料を冷却した後、遠心分離にて沈殿物を回収し、エタノールと純水の混合溶媒を用いて生成物の洗浄を行った。洗浄して得られた試料を半透膜に詰め、体積比で0.7%の酢酸溶液に試料を詰めた半透膜を浸漬し、鋳型の除去を行った。一晩浸漬した半透膜を新しい酢酸溶液に漬け直す作業を3回行った後、エタノールと純水の混合溶媒で洗浄し、シリカ粒子1を得た。
得られたシリカ粒子1の平均粒径は46nmであった。電子顕微鏡観察の結果、得られた平均粒径46nmシリカ粒子には規則的な細孔が存在することを確認した。さらに乾燥試料の窒素吸着測定の結果、シリカ粒子1は空孔率が約30%であった。
なお、細孔の有無および空孔率は、電子顕微鏡(商品名:S5500、日立ハイテクノロジー製)および窒素吸着測定(商品名:トライスター、島津製作所製)を用いて評価した。また、平均粒径は、動的光散乱法によりゼータサイザー ナノS(マルバーン製)を用いて評価した。
【0053】
(2)シリカ粒子2の作製
上記(1)のシリカ粒子1の作製において、溶媒の仕込み量をエタノール20mL、純水80mLに変更した。それ以外はシリカ粒子1と同様の方法でシリカ粒子2を作製した。得られたシリカ粒子2の平均粒径は95nmであった。
【0054】
(3)シリカ粒子3の作製
上記(1)のシリカ粒子1の作製において、溶媒の仕込み量をエタノール50mL、純水50mLに変更した。それ以外はシリカ粒子1と同様の方法でシリカ粒子3を合成した。得られたシリカ粒子3の平均粒径は204nmであった。
【0055】
(4)シリカ粒子4の作製
エタノールと純水の混合溶媒にテトラエチルオルソシリケートを溶解し30分攪拌を行った。攪拌後アンモニア水を溶媒に対する体積比で5%添加して5時間激しく攪拌を行った。生成物をエタノールと純水の混合液で洗浄し、シリカ粒子4を得た。得られたシリカ粒子4の平均粒径は100nmであった。
【0056】
(実施例1)
上記(1)で得られたシリカ粒子1を60℃の条件で乾燥させた後、オクタノールに分散した。ユウロピウム錯体を溶解したオクタノール液を、シリカ粒子1を分散した液と混合して一晩攪拌を行った。ユウロピウム錯体は、(1,10-フェナントロリン)トリス[4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-1,3-ブタン ジオナト]ユウロピウム(III)(以下Eu(TTA)phenと省略する)を用いた。
攪拌後試料を遠心分離して、トルエン溶媒で洗浄を行った。洗浄後、試料をポリビニルピロリドンK-30を溶解したエタノールと純水の混合溶媒に分散し、一晩攪拌することで、試料表面へのポリビニルピロリドンK-30の吸着を行った。得た試料にVOCフリー型シランカップリング剤X12-1135(信越化学製)を添加してカルボン酸処理を行った。得た試料を純水で洗浄し発光粒子を得た。
【0057】
(実施例2)
上記(2)で得られたシリカ粒子2を60℃の条件で乾燥させた後、オクタノールに分散した。Eu(TTA)phenを溶解したオクタノール液を、95nmシリカ粒子を分散した液と混合して一晩攪拌を行った。
攪拌後試料を遠心分離して、トルエン溶媒で洗浄を行った。洗浄後、エタノール溶媒中で3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランを添加して、50℃で一晩攪拌した。攪拌後の試料を、トリエチルアミンを用いてpH10に調整し、さらに、メルカプトこはく酸およびメルカプトプロパンジオールの水溶液に添加して、60℃で一晩攪拌することで水酸基とカルボキシル基を試料表面に付与した。得た試料を純水で洗浄し、発光粒子を得た。
【0058】
(実施例3)
実施例1において、用いるコア粒子の種類を上記(3)で得たシリカ粒子3に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、発光粒子を得た。
【0059】
(実施例4)
上記(3)で得られたシリカ粒子3を60℃の条件で乾燥させた後、オクタノールに分散した。テルビウム錯体を溶解したオクタノール液を、シリカ粒子3を分散した液と混合して一晩攪拌を行った。テルビウム錯体は、トリス(アセチルアセトナト)(1,10-フェナントロリン)テルビウム(III)(以下Tb(AcAc)phenと省略する)を用いた。
攪拌後試料を遠心分離して、トルエン溶媒で洗浄を行った。洗浄後、エタノール溶媒中で分子量400のポリエチレングリコールとイソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピルをアルゴン雰囲気のピリジン溶液化で反応させて合成した親水性シランカップリング剤を添加して、50℃で一晩攪拌した。さらにVOCフリー型シランカップリング剤X12-1135(信越化学製)を添加してカルボン酸処理を行った。得た試料を純水で洗浄し、発光粒子を得た。
【0060】
(実施例5)
上記(3)で得られたシリカ粒子3を60℃の条件で乾燥させた後、フェニルトリメトキシシランを溶解したトルエン溶液に分散させ、シリカ粒子3が有する細孔内の表面をフェニル基で修飾した。Eu(TTA)phenを溶解したトルエン液を、シリカ粒子3を分散した液と混合して一晩攪拌を行った。
攪拌後試料を遠心分離して、トルエン溶媒で洗浄を行った。洗浄後、試料をポリビニルピロリドン-ポリアクリル酸のコポリマーが溶解した水溶液に分散し一晩攪拌することで、試料表面へコポリマーの吸着を行った。得た試料を純水で洗浄し発光粒子を得た。
【0061】
(比較例1)
乳化重合法にてポリスチレン粒子を作製した。
具体的には、まず、丸底四ツ口のセパラブルフラスコに純水、スチレンモノマー、パラスチレンスルホン酸ナトリウム、Eu(TTA)phenを溶解したスチレンモノマー、ポリビニルピロリドン-ポリアクリル酸コポリマーを加えた。続いて、得られた混合液をメカニカルスターラーを用いて窒素バブリングをしながら30分撹拌した。オイルバスにて試料を撹拌した状態のまま70度まで加熱した後、触媒の過硫酸カリウム(アルドリッチ製)を加え、窒素雰囲気にて8時間スチレンの重合反応を行った。
試料を冷却した後、遠心分離にて沈殿物を回収し、純水を用いて発光粒子の洗浄を行った。上記で得られたポリスチレンを主成分とする発光粒子は平均粒径が100nmであった。
【0062】
(比較例2)
上記(4)で得たシリカ粒子4を60℃で一晩乾燥させて、トルエン溶媒に分散した。Eu(TTA)phenを溶解したトルエン溶液を、シリカ粒子4を分散した液に混合して一晩攪拌を行った。攪拌後試料をトルエン溶媒で洗浄を行った。洗浄後、試料をポリビニルピロリドン-ポリアクリル酸コポリマーが溶解した水溶液に分散し一晩攪拌することで、試料表面へのポリビニルピロリドン-ポリアクリル酸コポリマーの吸着を行った。得た試料を純水で洗浄し発光粒子を得た。
【0063】
(ビオチン修飾アフィニティー粒子の作製)
実施例および比較例で得たそれぞれの発光粒子にビオチンを結合した。
具体的には、まず、1質量%の粒子分散液を0.8mL分取し、1.6mLのpH5.4のMES緩衝液で溶媒を置換した。MES緩衝液中の粒子分散液に水溶性カルボジイミド(WSC)およびN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム(スルホ―NHS)をそれぞれ0.5質量%となるように添加し、25℃、で1時間反応させた。反応後、分散液をMES緩衝液で洗浄し、アミノ基付きのビオチン分子(Amin-PEG2-Biotin サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を添加し、25℃で2時間反応させてビオチンを粒子に結合させた。結合後、粒子をMES緩衝液で洗浄し、エタノールアミン(東京化成工業製)を添加し、25℃で30分反応させた。反応後、粒子をMES緩衝液で洗浄し、2質量%濃度のビオチン修飾アフィニティー粒子を得た。
【0064】
(発光粒子の評価)
実施例および比較例で得た発光粒子についての各測定は、以下にしたがって行った。
親水層の厚さは、電子顕微鏡(商品名:S5500、日立ハイテクノロジー製)による観察およびゼータサイザー ナノS(マルバーン製)を用いた動的光散乱法による測定により評価した。
発光粒子を分散した懸濁液の濃度は、重量分析装置(商品名:サーモプラス TG8120、リガク製)を用いて評価した。
蛍光スペクトルは、励起光の波長を330nmとし、励起側と発光側の光路に偏光子を入れて測定した。偏光子の向きは、励起側を固定して、発光側を励起側に対して平行あるいは垂直の向きに設置して測定を行った。装置は分光蛍光光度計(商品名:F-4500、日立ハイテクサイエンス製)を用いた。
発光粒子の透過率は、紫外可視吸収スペクトルにおける波長330nmの光の吸光度を用いて評価した。光路長は10mmとし、粒子の濃度が0.002体積%となるように純水に分散させた分散液について透過率を測定した。
また、発光粒子の凝集状態における透過率を評価するために、ビオチン結合アフィニティー粒子を分散したpH7.4のリン酸緩衝液にアビジンを添加して調製した分散液についても透過率を評価した。装置は日立ハイテクサイエンス製 ダブルビーム分光光度計U-2810を用いた。
透過率は90%以上をA、90%未満をBと評価した。
【0065】
(性能評価)
実施例および比較例に用いた材料と透過率の評価結果を表1に示す。
なお、実施例に用いた各シリカ粒子1~3は、窒素吸着測定の結果、体積比で約30%の空孔が存在する粒子であり、シリカ成分と空孔の体積比から屈折率は約1.3である。比較例1で得た生産物は、ポリスチレンの屈折率が1.59である事から、屈折率は約1.6である。比較例2に用いたシリカ粒子4は、シリカの屈折率が1.45であることから、少なくとも1.4を超える屈折率を有する。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例で得た各発光粒子(粒子)は、いずれもコア粒子としてシリカ粒子を有する。そのため、単分子を発光材料とする場合に比べて粒子が大きく、低分子物質および高分子物質のいずれを標的物質とした測定にも使用することができる。
実施例1,2,3,5および比較例1,2で得た発光粒子は330nmの波長の光で励起すると、赤い発光を示し、生成した粒子にユウロピウム錯体が吸着していることが確認された。また、実施例4で得た発光粒子は330nmの波長の光で励起すると、緑色の発光を示し、テルビウム錯体が吸着していることが確認された。
【0068】
すべての実施例および比較例で得た発光粒子において、0.002体積%の濃度の粒子分散液は安定していた。
また、実施例および比較例で得た生産物の親水層の厚さは、いずれも10nm以下であった。
非凝集時の透過率は、実施例で得た発光粒子はいずれも95%以上であり、比較例2で得た発光粒子は90%以上であった。一方、比較例1で得た発光粒子は、透過率が80%以下であり、分散液中の粒子による多重散乱が顕著に起きていることが判明した。
凝集後の透過率は、実施例で得た発光粒子はいずれも90%以上の透過率を維持したが、比較例2で得た発光粒子は80%となり、粒子による入射光の多重散乱が顕著となった。
【0069】
実施例で得た発光粒子の分散液に、8質量%の濃度となるように塩化ナトリウムを添加した前後において、蛍光スペクトル測定の結果から式(3)により偏光異方性を求めたところ、塩化ナトリウムの添加の前後で偏光異方性が0.01以上変化した。このことから、粒子の凝集反応を偏光異方性の値の変化で捉えることが可能であることが確認された。一方比較例で得た発光粒子では、透過率が低く、散乱による偏光解消の影響が大きいために、偏光異方性の値の変化を確認することができなかった。
【0070】
なお、平均粒径が20nm以下となるようにした以外は、シリカ粒子1と同様にしてシリカ粒子を作製し、このシリカ粒子を用いて得た発光粒子についても、塩化ナトリウムの添加前後における偏光異方性を評価したが、値の変化を確認することができなかった。これは、凝集粒子のサイズが偏光異方性を確認できる程度に大きくなっていなかったと考えられる。
【0071】
(光学シミュレーション)
仮想の粒子分散液について透過率を光学シミュレーションで算出した。光学シミュレーションにおいては、ミー(Mie)散乱理論を用いて、屈折率、粒径、および粒子濃度から散乱係数を計算した。次に、算出された散乱係数と光路長の積から透過率を算出した。屈折率、粒径、および粒子数密度はそれぞれ実施例および比較例に沿った値とした。具体的には、屈折率は1.3~1.6の範囲から複数選んだ値、粒径は50~300nmの範囲から複数選んだ値、粒子濃度は0.002体積%として計算を行った。
【0072】
(光学シミュレーションによる材料評価)
光学シミュレーションによる透過率の計算結果を図2に示す。
図2中の座標における横軸は粒径を示し、縦軸は屈折率を示す。図2中の座標平面に記載した数値は計算で求めた波長330nmの光に対する透過率を示し、最低でも2つ以上の粒子が凝集した状態を想定した値である。
光学シミュレーションの結果、屈折率が1.4以下でかつ、粒径が200nm以下であれば、透過率は90%以上となることがわかる。一方、屈折率が1.4より大きいとき、粒子の粒径が50nm程度であれば透過率は高い値となるが、粒径が100nm以上になると、粒径の増大に応じて透過率が大きく低下し、散乱の程度が顕著に大きくなることがわかる。
屈折率1.46は、空孔を有しないシリカ粒子を想定したものであるが、粒径が100nmである場合で既に透過率が86%であった。
また、屈折率1.6はポリスチレン粒子を想定したものであり、この場合粒径が50nmであっても透過率は80%を下回っていた。
【0073】
上記の実施例で得た各粒子は、空孔率が約30%であることから屈折率は1.33程度であると考えられる。つまり図2中で示される通り透過率は90%を超え、実施例で得られた透過率測定の結果と整合した。
光学シミュレーションの結果から、粒子における光の多重散乱を抑制し、測定に使用できる粒子は、屈折率1.4以下、かつ、粒子サイズ200nm以下となる。
【0074】
以上のことから、実施例で得た各発光粒子(粒子)は、液中における光の多重散乱を抑制することができ、偏光異方性測定において、散乱による偏光解消の影響が小さいことがわかる。
【0075】
よって、実施例に係る各粒子は、検出感度が高い、蛍光偏光解消法用の検体検査粒子として提供することができる。特に、実施例に係る各粒子は、検出信号のノイズを小さくする効果に優れているため、低濃度の標的物質の検出に適している。
【符号の説明】
【0076】
1 発光粒子
2 シリカ粒子
3 空孔
4 親水層
5 発光性希土類錯体
図1
図2