IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリエンタルモーター株式会社の特許一覧 ▶ 小関 栄男の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187943
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】運動検出器
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
G01D5/245 W
G01D5/245 110M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096215
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521251039
【氏名又は名称】小関 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】寳田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】染谷 雅行
(72)【発明者】
【氏名】小関 栄男
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA25
2F077AA37
2F077AA43
2F077CC02
2F077NN04
2F077NN17
2F077PP12
2F077PP13
2F077PP14
2F077QQ13
(57)【要約】
【課題】複数の磁界発生源を用いて高周期の交番磁界を効率よく磁性ワイヤに印加することにより小型化が図られた検出器を提供する。
【解決手段】検出器100は、6個の磁界発生源112を有する回転体110と、単一の発電センサ120とを備える。6個の磁界発生源は、回転体の回転軸から等距離にあるとともに、回転体の周方向に沿って等間隔に配置され、回転体の周方向に隣り合う2個の磁界発生源の磁界の向きが異なり、発電センサは、大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性ワイヤ121と、磁性ワイヤに巻回されたコイル122とを備え、磁性ワイヤは、回転体の回転軸に直交する直線上に配置され、磁性ワイヤの中心位置121aが回転体の回転軸上にある。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6個の磁界発生源を有する回転体と、
単一の発電センサと
を備え、
前記6個の磁界発生源は、前記回転体の回転軸から等距離にあるとともに、前記回転体の周方向に沿って等間隔に配置され、
前記回転体の周方向に隣り合う2個の前記磁界発生源の磁界の向きが異なり、
前記単一の発電センサは、大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルとを備え、
前記磁性ワイヤは、前記回転体の回転軸に直交する直線上に配置され、前記磁性ワイヤの中心位置が前記回転体の回転軸上にある、
回転体の運動を検出する検出器。
【請求項2】
前記6個の磁界発生源が、6個の磁石と、6箇所に着磁が施された単一の磁石とのいずれかである、請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
前記6個の磁石又は前記単一の磁石の着磁方向が、前記回転体の回転軸と直交する、請求項2に記載の検出器。
【請求項4】
前記回転体が軟磁性体により形成されたハブであり、前記6個の磁石又は前記単一の磁石が前記ハブに設けられている、請求項2又は3に記載の検出器。
【請求項5】
前記6個の磁石又は前記単一の磁石が前記回転体の外周部に配置され、前記6個の磁石の径方向中心位置又は前記単一の磁石における6つの着磁箇所の径方向中心位置が、前記磁性ワイヤの両端部よりも径方向内側にある、請求項4に記載の検出器。
【請求項6】
前記6個の磁石又は前記単一の磁石の着磁方向が、前記回転体の回転軸と平行である、請求項2に記載の検出器。
【請求項7】
前記6個の磁石又は前記単一の磁石から前記磁性ワイヤまでの距離が、前記磁性ワイヤの全長の半分以下である、請求項6に記載の検出器。
【請求項8】
前記回転体が軟磁性体部により形成されたハブであり、前記6個の磁石又は前記単一の磁石が前記ハブに設けられている、請求項6又は7に記載の検出器。
【請求項9】
前記磁性ワイヤと対向する前記ハブの表面の外周縁部に、前記表面の中央部よりも一段下がるように段部が形成され、
前記段部に前記6個の磁石又は前記単一の磁石が配置されている、
請求項8に記載の検出器。
【請求項10】
前記6個の磁石又は前記単一の磁石の着磁方向が、前記回転体の回転軸を中心とする円の円周方向又は円周接線方向である、請求項2に記載の検出器。
【請求項11】
前記回転体が軟磁性体により形成されたハブであり、前記6個の磁石又は前記単一の磁石が前記ハブに設けられている、請求項10に記載の検出器。
【請求項12】
前記発電センサが信号を出力したときの前記磁界発生源からの磁界を検出する磁気センサと、
前記回転体の回転に応じて前記発電センサ及び前記磁気センサが出力する信号に基づき、前記回転体の回転数及び回転方向を求める回路と
をさらに備える請求項1~11のいずれか一項に記載の検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電センサを用いて運動体の運動を検出する検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
大バルクハウゼン効果(大バルクハウゼンジャンプ)を有する磁性ワイヤは、ウィーガンドワイヤ又はパルスワイヤの名で知られている。この磁性ワイヤは、芯部とその芯部を取り囲むように設けられた表皮部とを備えている。芯部及び表皮部の一方は弱い磁界でも磁化方向の反転が起きるソフト(軟磁性)層であり、芯部及び表皮部の他方は強い磁界を与えないと磁化方向が反転しないハード(硬磁性)層である。
ハード層とソフト層がワイヤの軸方向に沿って同じ向きに磁化されているときに、その磁化方向とは反対方向の外部磁界強度が増加してソフト層の磁化方向が反転する磁界強度に達すると、ソフト層の磁化方向が反転する。このとき、大バルクハウゼン効果が発現し、当該磁性ワイヤに巻かれたコイルにパルス信号が誘発される。ソフト層の磁化方向が反転するときの磁界強度を本明細書では「動作磁界」と呼ぶ。また、磁性ワイヤとコイルとをまとめて発電センサと呼ぶ。
上述の外部磁界強度がさらに増加し、ハード層の磁化方向が反転する磁界強度に達すると、ハード層の磁化方向が反転する。ハード層の磁化方向が反転するときの磁界強度を本明細書では「安定化磁界」と呼ぶ。
大バルクハウゼン効果が発現するためには、ハード層とソフト層の磁化方向が一致していることを前提として、ソフト層のみ磁化方向が反転することが必要である。ハード層とソフト層の磁化方向が不一致の状態で、ソフト層のみ磁化方向が反転したとしても、パルス信号は生じないか、あるいは生じたとしても非常に小さい。
【0003】
この磁性ワイヤによる出力電圧は、磁界の変化スピードにかかわらず一定であり、入力磁界に対するヒステリシス特性を持つためチャタリングがないなどの特徴を有する。そのため、この磁性ワイヤは、磁石及びカウンタ回路と組み合わせて、位置検出器などにも使用される。また、外部電力の供給なく、磁性ワイヤの出力エネルギーにより周辺回路も含めて動作させる事ができる。
【0004】
発電センサに交番磁界が与えられた場合、1周期に対して正パルス信号1つ及び負パルス信号1つの計2つのパルス信号が発生する。磁界の発生源としての磁石を運動体とし、運動体である磁石と発電センサとの位置関係により発電センサに与えられる磁界が変化するようにすることで、運動体の運動を検出することができる。
しかし、単一の発電センサを用いるのみでは、運動体の運動方向が変化した場合に運動方向の識別がつかない。特許文献1の図1に見られるように、複数の発電センサを用いれば運動方向を識別することができるが、検出器のサイズ及びコストの増加につながる。
特許文献2には、単一の発電センサと、発電センサではない別のセンサ要素とを用いることが記載されている。同文献にはさらに、単一の磁石(2極)を用いた場合と複数の磁石(多極)を用いて分解能を向上させることが記載されている。
また、単一磁石による検出(特許文献2の図2)の構造例として、特許文献3の図1が挙げられる。2極磁石と発電センサを対向させる構造は発電センサの全長まで径を小さくできるので小型化に向く。分解能を上げる(特許文献2の図3)ための構造例として、特許文献4の図1が挙げられる。この種の運動検出器の主な用途に1回転単位の回転数の検出がある。発電センサを用いた運動検出器は本来出力されるはずのパルス信号が場合によっては、出力されないという問題があり、1回転当たり2パルスしか出力されない単一の磁石(2極)の構造では通常は精度が不足し、回転数の検出が正しくできない。
特許文献5には、発電センサ内のコイルに電流を流し磁界を発生させて、出力状態をモニタすることで発電センサ内の磁性ワイヤの磁化方向を判別することが記載されている。同文献では、このような磁化方向の判別により、単一の磁石を用いる場合でも回転数を識別することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5511748号公報
【特許文献2】特許第4712390号公報
【特許文献3】米国特許第9,528,856号公報
【特許文献4】米国特許第8,283,914号公報
【特許文献5】特許第5730809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
運動の検出に際し、複数の発電センサを用いることは、検出器自体のサイズ増加につながりやすい。他方、発電センサが単一であったとしても、発電センサ内の磁性ワイヤの磁化方向を判別することは、処理が複雑となる可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、単一の発電センサと複数の磁界発生源とを用いて高周期の交番磁界を効率よく磁性ワイヤに印加することにより小型化が図られた検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
検出器は、6個の磁界発生源を有する回転体と、単一の発電センサとを備える。前記6個の磁界発生源は、前記回転体の回転軸から等距離にあるとともに、前記回転体の周方向に沿って等間隔に配置され、前記回転体の周方向に隣り合う2個の前記磁界発生源の磁界の向きが異なる。前記単一の発電センサは、大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルとを備える。前記磁性ワイヤは、前記回転体の回転軸に直交する直線上に配置され、前記磁性ワイヤの中心位置が前記回転体の回転軸上にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の磁界発生源を用いて高周期の交番磁界を効率よく磁性ワイヤに印加することにより小型化が図られた検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る検出器を示す側面図である。
図2】第1の実施形態に係る検出器を示す上面図である。
図3A】第1の実施形態に係る検出器を示す別の上面図である。
図3B】第1の実施形態に係る検出器の磁気回路を示す説明図である。
図3C】比較例に係る検出器の上面図である。
図4】第2の実施形態に係る検出器を示す上面図である。
図5A】第2の実施形態に係る検出器を示す別の上面図である。
図5B】第2の実施形態に係る検出器の磁気回路を示す説明図である。
図6】第3の実施形態に係る検出器を示す上面図である。
図7A】発電センサに印加される磁界と出力信号を示す説明図である。
図7B】磁気センサに印加される磁界と出力信号を示す説明図である。
図7C】(A)発電センサの検出結果と磁気センサの検出結果との組み合わせを示す説明図である。(B)発電センサと磁気センサの同期と出力信号の回転座標を示す説明図である。
図7D】出力信号のカウント数を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
図1及び図2に示すように、検出器100は、回転体110と、発電センサ120とを備えている。
回転体110は、ハブ111と6個の磁界発生源112とを有する。
ハブ111は、その形状が円板状、円柱状又は角柱状などであり、軟磁性体製である。
回転体110は、ハブ111の軸111aを回転軸として回転する。
6個の磁界発生源112は、ハブ111の回転軸111aから等距離に、かつ周方向に沿って等間隔となるように、ハブ111の外周部に配置されている。
6個の磁界発生源112は、径方向に着磁されており、径方向外側に位置する外側磁極部と径方向内側に位置する内側磁極部とを有する。
周方向に隣り合う2個の磁界発生源112の外側磁極部は、異極である。
【0013】
なお、6個の磁界発生源112を、N極及びS極の対を6つ有する単一のリング磁石に置き換えてもよい。
【0014】
発電センサ120は、回転体110と回転軸方向に対向するように配置された基板130上に配置されている。発電センサ120は、磁性ワイヤ121と、磁性ワイヤ121に巻かれたコイル122とを備えている。磁性ワイヤ121の軸方向は、回転軸111aと直交し、その軸方向中心部121aは、回転軸111a上にある。
【0015】
検出器100はさらに、基板130上に配置された磁気センサ140と、信号処理回路(不図示)とを備えている。磁気センサは、回転軸111aに関して、磁性ワイヤ121の軸方向第1端部121bと所定の角度をなすように配置されている。
【0016】
回転体110が回転し、回転軸111aを挟んで対向する2つの磁界発生源112のうち、一方が磁性ワイヤ121における軸方向第1端部121bの下方に位置し、他方が軸方向第2端部121cの下方に位置している様子を図3A及び3Bに示す。
【0017】
仮に、ハブ111が軟磁性体製ではない場合、図3Cに示すように、周方向に隣り合う2つの磁界発生源112のうち、一方の磁界発生源の内側磁極部から、磁性ワイヤ121の軸方向中央部を経て、他方の磁界発生源の内側磁極部へと磁力線L2が通る。
本実施形態において、軟磁性体製のハブ111は、本検出器にとって余分な磁力線L2を遮断する働きがある。
ハブ111は、磁界発生源112と一体となって回転するため、2つの磁界発生源間の吸引力が回転体110の回転運動に影響を与えることはない。
【0018】
図3Bに示すように、径方向に向かい合う2つの磁界発生源112のうち、一方の磁界発生源の外側磁極部から磁性ワイヤ121を経て他方の磁界発生源の外側磁極部へと向かう磁束L1が生じる。
また、このような磁束L1が生じるようにするためには、磁界発生源112における2つの磁極の境界部112aは、磁性ワイヤ121の軸方向両端面よりも径方向内側に位置していればよい。
【0019】
発電センサ120からパルス電圧が出力されたときに、磁気センサ140により、その近傍に位置する磁石の極性を判別することで、特許文献2に見られるような技術を使って、回転方向及び位置の判別ができる。同文献の分類では、「第3グループ:再磁化のトリガ方向は規定されない」に相当する。
【0020】
磁界発生源が6つ設けられているため、発電センサの1パルスは60°回転に相当する。回転方向の逆転によっては、発電センサから出力されることが期待されるパルスが最大2つ分、出力されないことがある。この±2パルスの誤差は±120°に相当することから、パルスが出力されない場合があっても、回転数の判別に影響はない。
【0021】
このように、本実施形態によれば、回転数の判別が可能であり、小型で低コストの運動検出器が実現される。
【0022】
[第2実施形態]
図4、5A及び5Bに示すように、検出器200は、回転体210と、発電センサ120と磁気センサ140とを備えている。
回転体210は、ハブ211と6個の磁界発生源212とを有する。
ハブ211は、その形状が円板状、円柱状又は角柱状などであり、軟磁性体製である。
回転体210は、ハブ211の軸211aを回転軸として回転する。
ハブ211の上面の外周縁部には、上面中央部よりも一段下がるように段部211bが形成されている。
6個の磁界発生源212は、ハブ211の回転軸211aから等距離に、かつ周方向に沿って等間隔となるように、段部211bに配置されている。
6個の磁界発生源212は、回転軸方向に着磁されており、回転軸方向の一方向を向いた第1磁極部と、他方向を向いた第2磁極部とを有する。
周方向に隣り合う2個の磁界発生源212の第1磁極部は、異極である。
【0023】
なお、6個の磁界発生源212を、N極及びS極の対を6つ有する単一のリング磁石又は円板状磁石に置き換えてもよい。また、第2実施形態におけるハブ211は、軟磁性体製でなくてもよく、さらには磁性が無くてもよい。
【0024】
ハブ211の上面中央部は、磁界発生源が配置されている段部211bよりも磁性ワイヤに近い位置にある。そのため、周方向に隣り合う2つの磁界発生源212のうち、一方の磁界発生源から磁性ワイヤ中央部を経て他方の磁界発生源へと向かう磁束(本検出器にとって余分な磁束)を、ハブ211の上面中央部により遮断することができる。
【0025】
6個の磁界発生源が、単一部材に対する多極着磁により形成されている場合、その磁束はあまり遠くまで及ばないため、磁性ワイヤと磁界発生源とをより近づけて配置する必要がある。磁性ワイヤと磁界発生源との回転軸方向の間隔を、磁性ワイヤの長さの半分以下とすることが好ましい。
【0026】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、回転数の判別が可能であり、小型で低コストの運動検出器が実現される。
【0027】
[第3実施形態]
図6に示すように、検出器300は、回転体310と発電センサ120と磁気センサ140とを備えている。
回転体310は、ハブ311と6個の磁界発生源312とを有する。
ハブ311は、六角柱状であり、軟磁性体製である。
回転体311は、ハブ311の軸を回転軸として回転する。
6個の磁界発生源312は、棒状の磁石であり、ハブ311の回転軸から等距離に、かつ周方向に沿って等間隔となるように、ハブ311の6つの外周面にそれぞれ取り付けられている。6個の磁界発生源312は周方向に着磁されている。また、周方向に隣り合う2個の磁界発生源において、一方の磁界発生源の磁極部と、その磁極部と隣り合う他方の磁界発生源の磁極部とは、同極である。
【0028】
なお、第2実施形態と同様に、第3実施形態においても、ハブ311の上面の外周縁部に上面中央部よりも一段下がるように段部を形成し、その段部に6個の磁界発生源312を配置してもよい。
【0029】
[回転数、回転方向を判定する方法]
図2において、回転体(あるいは運動体)110の右回転を正転、左回転を反転とする。回転時に発電センサ120に印加される磁界Haを図7Aに示す。また、正転時に発電センサ120に生じる正パルス信号を符号Pで示し、信号Pの出力の前提となる安定化磁界を符号Psで示し、負パルス信号を符号Nで示し、信号Nの出力の前提となる安定化磁界を符号Nsで示す。安定化磁界は±H2、動作磁界は±H1とする。反転時の出力は正転時と同一符号で示すが、正転時は白塗り、反転時は黒塗りで示す。
磁界発生源112から発電センサ120に印加される磁界は、1回転3周期の交番磁界となる。よって、発電センサ120は、正転1回転につき正負(P,N)の信号を3回出力し、反転1回転についても、正転時と同じように正負(P,N)の信号を3回出力する。
【0030】
図7Bに、磁気センサ140に印加される磁界Hbを一点鎖線で示す。磁気センサ140は、前述のとおり、回転軸111aに関して軸方向第1端部121bと所定の角度をなすように配置されている。そのため、上記所定の角度が30度であれば、交番磁界Hbは、図7Aに示した交番磁界Haより30度位相がずれる。磁気センサ140として、例えばホール素子、磁気抵抗効果素子(SV-GMR、TMR)のようにNS極(図におけるプラス及びマイナス)を判別できる磁気センサを使用することができる。この場合、発電センサ120から、正転の3つのP信号、反転の3つのN信号が出力されると、磁気センサ140からマイナス磁界を検出した信号が出力される。これを図中の白塗り及び黒塗りの三角形で示す。また、発電センサ120から、正転の3つのN信号、反転の3つのP信号が出力されると、磁気センサ140からはプラス磁界を検出した信号が出力される。これを図中の白塗り及び黒塗りの四角形で示す。
図7C(A)に、発電センサ120の出力信号と磁気センサ140の検出信号との組み合わせを示す。
【0031】
図7C(B)に回転座標を示す。正パルス信号Pが出力されてから、運動体110が符号Rに示すように右回転し、次の信号N´が検出されるまでの回転角度は、+60度である。その一方で、正パルス信号Pが出力された直後に運動体110が符号Lに示すように左回転した場合、次の信号は信号Nであることが期待される。しかし、安定化磁界Nsを経ていないことから、信号Nは出力されないか、あるいは出力されたとしても非常に小さく、評価することが困難である。よって、次の、評価できる信号P´の左回転信号が出力されるまでの回転角度は、約-(60度+α)となる。このように正転、反転の双方において安定化磁界が印加されない回転運動が起きても、同一信号で重複する範囲が発生しない。また、判定できる位置の範囲は360度未満となり、運動体110の回転数を正確に検出することができる。
【0032】
運動体110の回転方向を判定する方法について、理解を容易にするため、一例として連続する信号を2つとして説明する。
判定は、メモリを含む信号処理回路(不図示)により行われる。この信号処理回路は、識別機能と参照機能と演算機能とを有する。まず、信号処理回路は、識別機能により、発電センサ120からの信号を、P、P’、N、及びN’の4つのいずれかとして識別する。次に、信号処理回路は、参照機能にて、回転数及び回転方向の計数を開始する初期状態で記憶された1つ前の(前状態)履歴信号と、その後の回転に伴う信号(新状態)とを順次、メモリに書き込む。信号処理回路は、メモリに格納された過去と現在の連続する2つの信号を、予め設定した4種類のコード化したテーブルで検索し、一致したカウント値を返す。このテーブルの一例を図7Dに示す。信号処理回路は、信号が入力される毎に検索を行い、その結果のカウント値を演算機能にて、順次加減算する。加減算された数値は、その時点での回転数と回転方向を表すことになる。信号Nと信号Pとの間に規準位置を設定し、図7Dに示したようなテーブルを用いることで、運動体110の回転方向及び回転数を正確にカウントできる。
【0033】
[1回転内の位置と回転数を同期する方法]
検出器をモーターの多回転用として用いる場合、モーター駆動システムの停電中は、図7Dを参照しながら先に述べた方法で回転数を検出する。モーター駆動システムの起動時には、信号P、P´、N、及びN´は、1回転にそれぞれ2箇所存在するため、2つの領域の二者択一となり、回転数を特定できない。そのため、回転数カウンタの基準位置からの変位角度を判別する必要がある。そこで、1回転アブソリュート型の位置センサを外付けすることで、どの領域に位置しているかを判別し、回転数を特定することができる。
【0034】
これまでに説明した実施形態に関し、以下の付記を開示する。
[付記1]
6個の磁界発生源を有する回転体と、
単一の発電センサと
を備え、
前記6個の磁界発生源は、前記回転体の回転軸から等距離にあるとともに、前記回転体の周方向に沿って等間隔に配置され、
前記回転体の周方向に隣り合う2個の前記磁界発生源の磁界の向きが異なり、
前記単一の発電センサは、大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルとを備え、
前記磁性ワイヤは、前記回転体の回転軸に直交する直線上に配置され、前記磁性ワイヤの中心位置が前記回転体の回転軸上にある、
回転体の運動を検出する検出器。
[付記2]
前記6個の磁界発生源が、6個の磁石と、6箇所に着磁が施された単一の磁石とのいずれかである、付記1に記載の検出器。
[付記3]
前記6個の磁石又は前記単一の磁石の着磁方向が、前記回転体の回転軸と直交する、付記2に記載の検出器。
[付記4]
前記回転体が軟磁性体により形成されたハブであり、前記6個の磁石又は前記単一の磁石が前記ハブに設けられている、付記2又は3に記載の検出器。
[付記5]
前記6個の磁石又は前記単一の磁石が前記回転体の外周部に配置され、前記6個の磁石の径方向中心位置又は前記単一の磁石における6つの着磁箇所の径方向中心位置が、前記磁性ワイヤの両端部よりも径方向内側にある、付記4に記載の検出器。
[付記6]
前記6個の磁石又は前記単一の磁石の着磁方向が、前記回転体の回転軸と平行である、付記2に記載の検出器。
[付記7]
前記6個の磁石又は前記単一の磁石から前記磁性ワイヤまでの距離が、前記磁性ワイヤの全長の半分以下である、付記6に記載の検出器。
[付記8]
前記回転体が軟磁性体部により形成されたハブであり、前記6個の磁石又は前記単一の磁石が前記ハブに設けられている、付記6又は7に記載の検出器。
[付記9]
前記磁性ワイヤと対向する前記ハブの表面の外周縁部に、前記表面の中央部よりも一段下がるように段部が形成され、
前記段部に前記6個の磁石又は前記単一の磁石が配置されている、
付記8に記載の検出器。
[付記10]
前記6個の磁石又は前記単一の磁石の着磁方向が、前記回転体の回転軸を中心とする円の円周方向又は円周接線方向である、付記2に記載の検出器。
[付記11]
前記回転体が軟磁性体により形成されたハブであり、前記6個の磁石又は前記単一の磁石が前記ハブに設けられている、付記10に記載の検出器。
[付記12]
前記発電センサが信号を出力したときの前記磁界発生源からの磁界を検出する磁気センサと、
前記回転体の回転に応じて前記発電センサ及び前記磁気センサが出力する信号に基づき、前記回転体の回転数及び回転方向を求める回路と
をさらに備える付記1~11のいずれか一項に記載の検出器。
【0035】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
100、200、300 運動検出器

110、210、310 運動体
111、211、311 軟磁性体部
112、212、312 磁界発生源

120、220 発電センサ
121、221 磁性ワイヤ
122、222 コイル
140 磁気センサ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図7D