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特開2022-187976タイヤ用ゴム組成物、トレッドゴム及びタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187976
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物、トレッドゴム及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20221213BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221213BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/36
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061048
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021096134
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】青木 康平
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BA05
3D131BB06
3D131BC12
3D131BC15
3D131BC19
3D131BC51
4J002AC03X
4J002AC08W
4J002AE00Y
4J002AE05Y
4J002BA00Y
4J002DA036
4J002DJ017
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD02Y
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】タイヤのグリップ性能と製造作業性とを両立することが可能なタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム成分と充填剤と軟化剤とを含むタイヤ用ゴム組成物であって、前記ゴム成分がスチレン-ブタジエンゴム及びブタジエンゴムから選択される少なくとも1種を含み、前記充填剤がシリカとカーボンブラックとを含み、前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量が前記ゴム成分100質量部に対して65~140質量部であり、前記軟化剤が液状軟化剤成分と水素添加樹脂とを含み、前記軟化剤の総含有量中の前記水素添加樹脂の割合が40質量%以上であり、前記水素添加樹脂は軟化点が110℃を超え且つポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1600g/molであることを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、充填剤と、軟化剤と、を含むタイヤ用ゴム組成物であって、
前記ゴム成分が、スチレン-ブタジエンゴム及びブタジエンゴムから選択される少なくとも1種を含み、
前記充填剤が、シリカと、カーボンブラックと、を含み、
前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して65~140質量部であり、
前記軟化剤が、液状軟化剤成分と、水素添加樹脂と、を含み、
前記軟化剤の総含有量中、前記水素添加樹脂の割合が、40質量%以上であり、
前記水素添加樹脂は、軟化点が110℃を超え且つポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1600g/molであることを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記水素添加樹脂の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上80質量部以下である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記軟化剤の総含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上170質量部以下である、請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分は、スチレン単位の割合が10質量%以上50質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量に対する前記軟化剤の総含有量の比率(軟化剤の総含有量/シリカとカーボンブラックの総含有量)が、70質量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記軟化剤の総含有量中、前記水素添加樹脂の割合が、40質量%以上85質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して80~120質量部である、請求項1~6のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量中、前記シリカの比率が、5~30質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
二輪車のタイヤ用である、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物からなることを特徴とする、トレッドゴム。
【請求項11】
請求項10に記載のトレッドゴムを具えることを特徴とする、タイヤ。
【請求項12】
二輪車用である、請求項11に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、トレッドゴム及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤトレッド、特には、二輪車用タイヤのトレッドにおいては、グリップ性能の向上が望まれており、グリップ性能を向上させるために、軟化剤として樹脂を適用する技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、ブタジエン部のビニル結合量が40重量%以上のスチレン-ブタジエン共重合体を含むゴム成分に対し、カーボンブラックと、シリカと、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂又はフェノール・アセチレン樹を配合してなるゴム組成物を、二輪車用タイヤのトレッドゴムに適用することで、乾燥路面及び湿潤路面におけるグリップ力(以下、「グリップ性能」と略称する。)が向上することが開示されている。また、更なるグリップ性能の向上のために、軟化剤総量に占める樹脂の割合を増加させることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-29656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ゴム組成物に樹脂を高含有量で配合すると、生産設備への未加硫状態のゴム組成物の密着により、製造作業性が悪化する。従って、タイヤのグリップ性能と、ゴム組成物の製造作業性とを両立する技術が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤのグリップ性能と、製造作業性とを両立することが可能なタイヤ用ゴム組成物、及びかかるゴム組成物からなるトレッドゴムを提供することを課題とする。
また、本発明は、グリップ性能と、製造作業性とを両立したタイヤを提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、充填剤と、軟化剤と、を含むタイヤ用ゴム組成物であって、
前記ゴム成分が、スチレン-ブタジエンゴム及びブタジエンゴムから選択される少なくとも1種を含み、
前記充填剤が、シリカと、カーボンブラックと、を含み、
前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して65~140質量部であり、
前記軟化剤が、液状軟化剤成分と、水素添加樹脂と、を含み、
前記軟化剤の総含有量中、前記水素添加樹脂の割合が、40質量%以上であり、
前記水素添加樹脂は、軟化点が110℃を超え且つポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1600g/molであることを特徴とする。
かかる本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤのグリップ性能と、製造作業性とを両立することが可能である。
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の好適例においては、前記水素添加樹脂の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上80質量部以下である。この場合、ゴム組成物の低温脆化性の悪化を抑制しつつ、ゴム組成物を適用したタイヤのグリップ性能を更に向上させることができる。
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の他の好適例においては、前記軟化剤の総含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上170質量部以下である。この場合、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、また、ゴム組成物の製造作業性が向上する。
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、前記ゴム成分は、スチレン単位の割合が10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。この場合、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、また、ゴム組成物の低温脆化性が向上する。
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の他の好適例においては、前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量に対する前記軟化剤の総含有量の比率(軟化剤の総含有量/シリカとカーボンブラックの総含有量)が、70質量%以上である。この場合、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなる。
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の他の好適例においては、前記軟化剤の総含有量中、前記水素添加樹脂の割合が、40質量%以上85質量%以下である。この場合、ゴム組成物の製造作業性の悪化を抑制しつつ、ゴム組成物の低温脆化性が向上する。
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の他の好適例においては、前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して80~120質量部である。この場合、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が更に大きくなり、また、ゴム組成物の耐摩耗性が向上する。
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の他の好適例においては、前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量中、前記シリカの比率が、5~30質量%である。この場合、タイヤのウェットグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、また、タイヤのドライグリップ性能を向上させる効果も大きくなる。
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、二輪車のタイヤ用であることが好ましい。二輪車用のタイヤには、高いグリップ性能が要求されるため、本発明のタイヤ用ゴム組成物が特に好適である。
【0016】
また、本発明のトレッドゴムは、上記のタイヤ用ゴム組成物からなることを特徴とする。かかる本発明のトレッドゴムは、タイヤのグリップ性能と、製造作業性とを両立することが可能である。
【0017】
また、本発明のタイヤは、上記のトレッドゴムを具えることを特徴とする。かかる本発明のタイヤは、グリップ性能と、製造作業性とが両立されている。
【0018】
本発明のタイヤは、二輪車用であることが好ましい。二輪車用タイヤには、高いグリップ性能が要求されるため、本発明のタイヤが特に好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、タイヤのグリップ性能と、製造作業性とを両立することが可能なタイヤ用ゴム組成物、及びかかるゴム組成物からなるトレッドゴムを提供することができる。
また、本発明によれば、グリップ性能と、製造作業性とを両立したタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明のタイヤ用ゴム組成物、トレッドゴム及びタイヤを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0021】
<タイヤ用ゴム組成物>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、充填剤と、軟化剤と、を含む。そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、前記ゴム成分が、スチレン-ブタジエンゴム及びブタジエンゴムから選択される少なくとも1種を含み、前記充填剤が、シリカと、カーボンブラックと、を含み、前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して65~140質量部であり、前記軟化剤が、液状軟化剤成分と、水素添加樹脂と、を含み、前記軟化剤の総含有量中、前記水素添加樹脂の割合が、40質量%以上であり、前記水素添加樹脂は、軟化点が110℃を超え且つポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1600g/molであることを特徴とする。
【0022】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分として、スチレン-ブタジエンゴム及びブタジエンゴムから選択される少なくとも1種を含むことで、タイヤ用のゴム組成物としての十分な破壊特性を有する。
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、充填剤として、シリカと、カーボンブラックとを含み、シリカとカーボンブラックの総含有量が、ゴム成分100質量部に対して65質量部以上であることで、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、また、140質量部以下であることで、ゴム組成物の耐摩耗性が向上し、タイヤ用のゴム組成物として適している。
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、軟化剤として、液状軟化剤成分と、軟化点が110℃を超え且つポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1600g/molである水素添加樹脂と、を含むことで、タイヤに適用することで、タイヤのグリップ性能を向上させることができる。
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、軟化剤の総含有量中の水素添加樹脂の割合を40質量%以上とすることで、未加硫状態のゴム組成物が生産設備に密着することを抑制して、製造作業性を向上させることができる。
従って、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤのグリップ性能と、製造作業性とを両立することが可能である。
【0023】
(ゴム成分)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分を含み、該ゴム成分は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)から選択される少なくとも1種を含み、更に他のゴム成分を含んでもよい。なお、ゴム成分は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)の両方を含むことが好ましい。
【0024】
スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)は、比較的密着し難く、また、破壊特性に優れる。また、スチレン-ブタジエンゴムは、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が高く、一方、ブタジエンゴムは、耐摩耗性を向上させる効果が高い。従って、ゴム成分が、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)から選択される少なくとも1種を含むことで、タイヤ用途に適したゴム組成物となる。
前記スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)は、未変性のものであっても、変性されたものであってもよく、また、未変性のものと、変性されたものとのブレンドであってもよい。
【0025】
前記ゴム成分において、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)の合計割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上がより一層好ましく、100質量%であってもよい。
また、前記ゴム成分において、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上が更に好ましく、また、100質量%以下が好ましく、90質量%以下が更に好ましい。
また、前記ゴム成分において、ブタジエンゴム(BR)の割合は、0質量%以上が好ましく、10質量%以上が更に好ましく、また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0026】
前記ゴム成分は、スチレン単位の割合が10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。ここで、ゴム成分のスチレン単位の割合とは、ゴム成分全体に占める、スチレン由来の単量体単位の含有率を指す。ゴム成分のスチレン単位の割合が10質量%以上であると、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、また、50質量%以下であると、ゴム組成物の低温脆化性が向上する。なお、ゴム成分のスチレン単位の割合は、赤外法(モレロ法)で求めることができる。
【0027】
前記ゴム成分は、更に他のゴムを含んでもよく、ゴム成分中の他のゴムの含有率は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が更に好ましく、10質量%以下がより一層好ましく、0質量%であってもよい。かかる他のゴムとしては、天然ゴム(NR)や、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム等が挙げられる。これら他のゴムは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
前記ゴム成分は、一部又は全部が油展されていてもよく、ゴム成分が油展されている場合、伸展油は、後述する軟化剤に分類される。
【0029】
(充填剤)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、充填剤を含み、該充填剤は、シリカと、カーボンブラックと、を含み、更に他の充填剤を含んでもよい。該充填剤は、ゴム組成物を補強して、ゴム組成物の破壊特性を向上させることができる。
【0030】
前記充填剤の総含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して65質量部以上140質量部以下であることが好ましい。充填剤の総含有量が、ゴム成分100質量部に対して65質量部以上であると、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が更に大きくなり、また、140質量部以下であると、ゴム組成物の耐摩耗性が向上する。
【0031】
-カーボンブラック-
前記カーボンブラックは、ゴム組成物を補強して、ゴム組成物の破壊特性を向上させることができ、また、ゴム組成物を適用したタイヤのグリップ性能の向上にも寄与する。
【0032】
前記カーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、及びSAFグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらカーボンブラックは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
前記ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム組成物の破壊特性や、ゴム組成物を適用したタイヤのグリップ性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。また、ゴム組成物の耐摩耗性の観点から、ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して140質量部以下であることが好ましく、130質量部以下であることがより好ましい。
【0034】
-シリカ-
前記シリカは、ゴム組成物を適用したタイヤのグリップ性能(特には、ウェットグリップ性能)の向上に寄与する。
【0035】
前記シリカは、窒素吸着比表面積(BET法)が80m/g以上330m/g未満であることが好ましい。シリカの窒素吸着比表面積(BET法)が80m/g以上であると、該ゴム組成物を適用したタイヤを十分に補強できる。また、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)が330m/g未満であると、ゴム組成物の弾性率が高くなり過ぎず、該ゴム組成物を適用したタイヤのウェットグリップ性能が向上する。タイヤの破壊特性を更に向上させる観点から、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)は、100m/g以上であることが好ましく、120m/g以上であることが好ましく、140m/g以上であることが好ましく、150m/g以上であることが好ましく、170m/g以上であることが好ましく、180m/g以上であることが好ましく、190m/g以上であることが好ましく、195m/g以上であることが更に好ましい。また、タイヤのウェットグリップ性能をより向上させる観点から、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)は、300m/g以下であることが好ましく、280m/g以下であることがより好ましく、270m/g以下であることが更に好ましい。
また、前記シリカは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が好ましくは150m/g以上であり、より好ましくは150~300m/g、より一層好ましくは150~250m/g、特に好ましくは150~220m/gである。CTABが150m/g以上であると、該ゴム組成物を適用したタイヤを十分に補強できる。また、CTABが300m/g以下であると、ゴム組成物の弾性率が高くなり過ぎず、該ゴム組成物を適用したタイヤのウェットグリップ性能が向上する。
【0036】
前記シリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0037】
前記ゴム組成物中のシリカの含有量は、タイヤのグリップ性能(特には、ウェットグリップ性能)の観点から、ゴム成分100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましい。また、ゴム組成物の耐摩耗性の観点から、ゴム組成物中のシリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して110質量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることがより好ましい。
【0038】
前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して65~140質量部である。シリカとカーボンブラックの総含有量が、ゴム成分100質量部に対して65質量部以上であると、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、また、140質量部以下であると、ゴム組成物の耐摩耗性が向上する。
また、前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して80~120質量部であることが好ましい。シリカとカーボンブラックの総含有量が、ゴム成分100質量部に対して80質量部以上であると、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が更に大きくなり、また、120質量部以下であると、ゴム組成物の耐摩耗性が更に向上する。
【0039】
前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量中の前記シリカの比率は、5~30質量%であることが好ましい。シリカとカーボンブラックの総含有量中のシリカの比率が5質量%以上であると、タイヤのウェットグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、また、シリカとカーボンブラックの総含有量中のシリカの比率が30質量%以下であると、タイヤのドライグリップ性能を向上させる効果が大きくなる。シリカとカーボンブラックの総含有量中のシリカの比率は、タイヤのウェットグリップ性能の観点から、より好ましくは8質量%以上、特に好ましくは13質量%以上であり、また、タイヤのドライグリップ性能の観点から、より好ましくは26質量%以下、特に好ましくは22質量%以下である。
【0040】
-他の充填剤-
前記充填剤は、カーボンブラック、シリカ以外に、例えば、クレー、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の他の充填剤を含んでもよい。
【0041】
(軟化剤)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、軟化剤を含み、該軟化剤は、液状軟化剤成分と、水素添加樹脂と、を含み、更に他の軟化剤成分を含んでもよい。
ここで、前記軟化剤の総含有量中、前記水素添加樹脂の割合は、40質量%以上である。軟化剤の総含有量中の水素添加樹脂の割合が40質量%未満であると、ゴム組成物が生産設備に密着して、製造作業性が悪化する。
【0042】
前記軟化剤の総含有量中の水素添加樹脂の割合は、40質量%以上85質量%以下であることが好ましい。軟化剤の総含有量中の水素添加樹脂の割合が85質量%以下であると、ゴム組成物の低温脆化性が向上する。ここで、ゴム組成物の生産設備への密着を抑制して、製造作業性を向上させる観点から、軟化剤の総含有量中の水素添加樹脂の割合は、43質量%以上が好ましく、47質量%以上がより好ましく、51質量%以上がより一層好ましく、54質量%以上が特に好ましい。また、ゴム組成物の低温脆化性の観点から、軟化剤の総含有量中の水素添加樹脂の割合は、82質量%以下がより好ましく、77質量%以下が更に好ましく、72質量%以下がより一層好ましく、68質量%以下が特に好ましい。
【0043】
前記軟化剤とは、ゴム組成物を軟化させる作用を有する配合剤であり、具体的には、上述の液状軟化剤成分と、水素添加樹脂の他、他の熱可塑性樹脂等が挙げられる。ここで、液状軟化剤成分は、25℃(室温)において、液状である。
【0044】
前記軟化剤の総含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して30質量部以上170質量部以下が好ましい。軟化剤の総含有量が、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上であると、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、また、170質量部以下であると、ゴム組成物の製造作業性が向上する。軟化剤の総含有量は、タイヤのグリップ性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して60質量部以上がより好ましく、80質量部以上がより一層好ましく、また、ゴム組成物の製造作業性の観点から、ゴム成分100質量部に対して140質量部以下がより好ましく、120質量部以下がより一層好ましい。
【0045】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、前記シリカと前記カーボンブラックの総含有量に対する前記軟化剤の総含有量の比率(軟化剤の総含有量/シリカとカーボンブラックの総含有量)は、70質量%以上であることが好ましい。シリカとカーボンブラックの総含有量に対する軟化剤の総含有量の比率(軟化剤の総含有量/シリカとカーボンブラックの総含有量)が70質量%以上であると、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなる。また、シリカとカーボンブラックの総含有量に対する軟化剤の総含有量の比率(軟化剤の総含有量/シリカとカーボンブラックの総含有量)は、120質量%以下が好ましい。シリカとカーボンブラックの総含有量に対する軟化剤の総含有量の比率(軟化剤の総含有量/シリカとカーボンブラックの総含有量)が120質量%以下であると、ゴム組成物の製造作業性が向上する。
【0046】
-液状軟化剤成分-
前記液状軟化剤成分は、25℃(室温)において、液状である。かかる液状軟化剤成分を含むゴム組成物をタイヤに適用することで、タイヤのグリップ性能を向上させることができる。ここで、液状軟化剤成分としては、オイル、液状ポリマー等が挙げられる。
【0047】
前記オイルとは、ゴム成分に含まれる伸展油、及び、ゴム組成物の配合剤として添加する液状の油分の総称であり、アロマ系オイル、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル等の石油系軟化剤;パーム油、ひまし油、綿実油、大豆油等の植物系軟化剤が挙げられる。これらの中でも、アロマ系オイル、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル等の石油系軟化剤が好ましい。作業性の観点から、伸展油:配合剤油分の好ましい質量比率は、1:1~10:1である。
【0048】
また、前記液状ポリマーは、25℃(室温)において、液状であり、重量平均分子量が5,000~100,000であることが好ましい。かかる液状ポリマーとしては、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、液状ポリスチレン-ブタジエン等が挙げられる。
【0049】
前記液状軟化剤成分の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して20質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましく、また、90質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましい。ゴム組成物中の液状軟化剤成分の含有量が、ゴム成分100質量部に対して20質量部以上であると、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、一方、90質量部以下であると、ゴム組成物の製造作業性が向上する。
【0050】
-水素添加樹脂-
前記水素添加樹脂は、軟化点が110℃を超え且つポリスチレン換算の重量平均分子量が200~1600g/molである。かかる水素添加樹脂を含むゴム組成物をタイヤに適用することで、タイヤのグリップ性能を向上させることができる。
【0051】
前記水素添加樹脂の軟化点が110℃以下であると、ゴム組成物を適用したタイヤを十分に補強することができない。水素添加樹脂の軟化点は、タイヤの破壊特性の観点から、116℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、123℃以上であることがより好ましく、126℃以上であることがより好ましく、128℃以上であることが更に好ましい。また、水素添加樹脂の軟化点は、タイヤのグリップ性能の観点から、160℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、145℃以下であることがより好ましく、141℃以下であることがより好ましく、136℃以下であることが更に好ましい。
【0052】
また、前記水素添加樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量が200g/mol未満であると、タイヤから水素添加樹脂が析出し、水素添加樹脂による効果を十分に発現させることが難しく、また、1600g/molを超えると、水素添加樹脂がゴム成分と相溶し難くなる。
タイヤからの水素添加樹脂の析出を抑制し、タイヤ外観の低下を抑制する観点から、水素添加樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、300g/mol以上であることが好ましく、400g/mol以上であることが好ましく、500g/mol以上であることがより好ましく、550g/mol以上であることが好ましく、600g/mol以上であることがより好ましく、650g/mol以上であることがより好ましく、700g/mol以上であることが更に好ましい。また、ゴム成分への水素添加樹脂の相溶性を高め、水素添加樹脂による効果をより高める観点から、水素添加樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、1570g/mol以下であることがより好ましく、1530g/mol以下であることがより好ましく、1500g/mol以下であることがより好ましく、1470g/mol以下であることがより好ましく、1430g/mol以下であることがより好ましく、1400g/mol以下であることがより好ましく、1370g/mol以下であることがより好ましく、1330g/mol以下であることがより好ましく、1300g/mol以下であることがより好ましく、1200g/mol以下であることがより好ましく、1100g/mol以下であることがより好ましく、1000g/mol以下であることがより好ましく、950g/mol以下であることが更に好ましい。
【0053】
前記水素添加樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量(MwHR)(単位はg/mol)に対する水素添加樹脂の軟化点(TsHR)(単位は℃)の比(TsHR/MwHR)は、0.075以上であることが好ましく、0.083以上であることがより好ましく、0.095以上であることがより好ましく、0.104以上であることがより好ましく、0.125以上であることがより好ましく、0.135以上であることがより好ましく、0.14以上であることがより好ましく、0.141以上であることが更に好ましい。また、該比(TsHR/MwHR)は、0.25以下であることが好ましく、0.23以下であることが更に好ましい。
なお、水素添加樹脂の軟化点及びポリスチレン換算の重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。
【0054】
前記水素添加樹脂の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上80質量部以下が好ましい。ゴム組成物中の水素添加樹脂の含有量が、ゴム成分100質量部に対し10質量部以上であると、タイヤのグリップ性能を向上させる効果が大きくなり、一方、80質量部を超えると、ゴム組成物の低温脆化性が悪くなる。ゴム組成物中の水素添加樹脂の含有量は、タイヤのグリップ性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して20質量部以上がより好ましく、30質量部以上が特に好ましい。また、ゴム組成物の低温脆化性の観点から、ゴム組成物中の水素添加樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して70質量部以下がより好ましく、60質量部以下が特に好ましい。
【0055】
上述の、水素添加樹脂とは、樹脂を還元水素化して得られる樹脂を意味する。
水素添加樹脂の原料となる樹脂としては、C系樹脂、C-C系樹脂、C系樹脂、テルペン系樹脂(テルペン-芳香族化合物系樹脂を包含する)、ジシクロペンタジエン系樹脂等が挙げられ、これら樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
前記C系樹脂としては、石油化学工業のナフサの熱分解によって得られるC留分を(共)重合して得られる脂肪族系石油樹脂が挙げられる。
留分には、通常1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等のオレフィン系炭化水素、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,2-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン等のジオレフィン系炭化水素等が含まれる。なお、C系樹脂は、市販品を利用することができる。
【0057】
前記C-C系樹脂とは、C-C系合成石油樹脂を指し、C-C系樹脂としては、例えば、石油由来のC-C11留分を、AlCl、BF等のフリーデルクラフツ触媒を用いて重合して得られる固体重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデン等を主成分とする共重合体等が挙げられる。
-C系樹脂としては、C以上の成分の少ない樹脂が、ゴム成分との相溶性の観点から好ましい。ここで、「C以上の成分が少ない」とは、樹脂全量中のC以上の成分が50質量%未満、好ましくは40質量%以下であることを言うものとする。C-C系樹脂は、市販品を利用することができる。
【0058】
前記C系樹脂とは、C系合成石油樹脂を指し、例えばAlClやBF等のフリーデルクラフツ型触媒を用い、C留分を重合して得られる固体重合体を指す。
系樹脂としては、例えば、インデン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等を主成分とする共重合体等が挙げられる。
【0059】
前記テルペン系樹脂は、松属の木からロジンを得る際に同時に得られるテレビン油、或いはこれから分離した重合成分を配合し、フリーデルクラフツ型触媒を用いて重合して得られる固体状の樹脂であり、β-ピネン樹脂、α-ピネン樹脂等がある。また、テルペン系樹脂には、テルペン-芳香族化合物系樹脂も包含され、該テルペン-芳香族化合物系樹脂としては、代表例としてテルペン-フェノール樹脂、スチレン-テルペン樹脂を挙げることができる。このテルペン-フェノール樹脂は、テルペン類と種々のフェノール類とを、フリーデルクラフツ型触媒を用いて反応させたり、或いは更にホルマリンで縮合する方法で得ることができる。また、スチレン-テルペン樹脂は、スチレンとテルペン類とを、フリーデルクラフツ型触媒を用いて反応させることで得ることができる。原料のテルペン類としては特に制限はなく、α-ピネンやリモネン等のモノテルペン炭化水素が好ましく、α-ピネンを含むものがより好ましく、特にα-ピネンであることが好ましい。
【0060】
前記ジシクロペンタジエン系樹脂は、例えばAlClやBF等のフリーデルクラフツ型触媒等を用い、ジシクロペンタジエンを重合して得られる樹脂を指す。
【0061】
また、水素添加樹脂の原料となる樹脂は、例えば、C留分とジシクロペンタジエン(DCPD)とを共重合した樹脂(C-DCPD系樹脂)を含んでいてもよい。
ここで、樹脂全量中のジシクロペンタジエン由来成分が50質量%以上の場合、C-DCPD系樹脂はジシクロペンタジエン系樹脂に含まれるものとする。樹脂全量中のジシクロペンタジエン由来成分が50質量%未満の場合、C-DCPD系樹脂はC系樹脂に含まれるものとする。更に第三成分等が少量含まれる場合でも同様である。
【0062】
前記ゴム成分と前記水素添加樹脂との相溶性を高め、ゴム組成物を適用したタイヤのグリップ性能をより向上させる観点から、水素添加樹脂は、水添C系樹脂、水添C-C系樹脂、水添ジシクロペンタジエン系樹脂(水添DCPD系樹脂)、及び水添テルペン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、水添C系樹脂及び水添C-C系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、水添C系樹脂であることが更に好ましい。また、少なくともモノマーに水添DCPD構造又は水添された環状構造を有する樹脂であることが好ましい。
前記水素添加樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
-他の軟化剤-
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の液状軟化剤成分、水素添加樹脂の他、他の軟化剤を更に含んでいてもよい。ここで、他の軟化剤としては、上述の水素添加樹脂以外の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0064】
前記水素添加樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、C系樹脂、C系樹脂、C-C系樹脂、テルペン系樹脂(テルペン-芳香族化合物系樹脂を包含する)、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂等が挙げられる。
【0065】
(スチレン系熱可塑性エラストマー)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)を含んでもよい。該スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)は、スチレン系重合体ブロック(ハードセグメント)と、共役ジエン系重合体ブロック(ソフトセグメント)とを有し、スチレン系重合体部分が物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、共役ジエン系重合体ブロックがゴム弾性を付与する。共役ジエン系重合体ブロック(ソフトセグメント)の二重結合は、一部又は全部が水素化されていてもよい。
なお、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)は、熱可塑性である一方、前記ゴム成分(好ましくは、ジエン系ゴム)は、熱可塑性ではない。そのため、本明細書においては、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)は、前記ゴム成分に含めないものとする。スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して1~30質量部の範囲が好ましい。
【0066】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)としては、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)ブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)ブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)ブロック共重合体、スチレン/イソプレン(SI)ブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEPS)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEEPS)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/ブチレン(SEB)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン(SEP)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/エチレン/プロピレン(SEEP)ブロック共重合体等が挙げられる。
【0067】
(その他の成分)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、既述のゴム成分、充填剤、軟化剤、スチレン系熱可塑性エラストマー、並びに、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される各種成分、例えば、シランカップリング剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛(亜鉛華)、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0068】
前記シランカップリング剤としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド等が挙げられる。該シランカップリング剤の含有量は、前記シリカ100質量部に対して2~20質量部の範囲が好ましく、5~15質量部の範囲が更に好ましい。
【0069】
前記老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6C)、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(AW)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)等が挙げられる。該老化防止剤の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~15質量部の範囲が好ましく、1~10質量部がより好ましい。
【0070】
前記加硫促進剤としては、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等が挙げられる。また、前記加硫剤としては、硫黄等が挙げられる。前記加硫促進剤と加硫剤とステアリン酸を含む加硫系(加硫パッケージ)の総含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、1~25質量部の範囲が好ましく、5~20質量部の範囲が更に好ましい。
【0071】
(ゴム組成物の製造方法)
前記ゴム組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、既述のゴム成分、充填剤及び軟化剤に、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。また、得られたゴム組成物を加硫することで、加硫ゴムとすることができる。
【0072】
前記混練りの条件としては、特に制限はなく、混練り装置の投入体積やローターの回転速度、ラム圧等、及び混練り温度や混練り時間、混練り装置の種類等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。混練り装置としては、通常、ゴム組成物の混練りに用いるバンバリーミキサーやインターミックス、ニーダー、ロール等が挙げられる。
【0073】
前記熱入れの条件についても、特に制限はなく、熱入れ温度や熱入れ時間、熱入れ装置等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。該熱入れ装置としては、通常、ゴム組成物の熱入れに用いる熱入れロール機等が挙げられる。
【0074】
前記押出の条件についても、特に制限はなく、押出時間や押出速度、押出装置、押出温度等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。押出装置としては、通常、ゴム組成物の押出に用いる押出機等が挙げられる。押出温度は、適宜に決定することができる。
【0075】
前記加硫を行う装置や方式、条件等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択することができる。加硫を行う装置としては、通常、ゴム組成物の加硫に用いる金型による成形加硫機等が挙げられる。加硫の条件として、その温度は、例えば100~190℃程度である。
【0076】
(用途)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、種々のタイヤに用いることができ、二輪車のタイヤにも、四輪車のタイヤにも使用できるが、二輪車のタイヤ用として好適に使用でき、二輪車用タイヤのトレッドゴムとして特に好適に使用できる。また、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤのトレッド部において、センター部にも、ショルダー部にも使用できる。二輪車用のタイヤには、高いグリップ性能が要求されるため、本発明のタイヤ用ゴム組成物が特に好適である。
【0077】
<トレッドゴム>
本発明のトレッドゴムは、上記のタイヤ用ゴム組成物からなることを特徴とする。かかる本発明のトレッドゴムは、上記のタイヤ用ゴム組成物からなるため、タイヤのグリップ性能と、製造作業性とを両立することが可能である。
なお、本発明のトレッドゴムは、新品タイヤに適用してもよいし、更生タイヤに適用してもよい。
本発明のトレッドゴムは、二輪車用タイヤのトレッドゴムとして、特に好適である。二輪車用タイヤには、高いグリップ性能が要求されるため、本発明のトレッドゴムが特に好適である。
【0078】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上記のトレッドゴムを具えることを特徴とする。かかる本発明のタイヤは、上記のトレッドゴムを具えるため、グリップ性能と、製造作業性とが両立されている。
本発明のタイヤは、二輪車用タイヤとして、特に好適である。二輪車用タイヤには、高いグリップ性能が要求されるため、本発明のタイヤが特に好適である。
【0079】
本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、本発明のタイヤは、好ましくは空気入りタイヤであり、空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例0080】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
<水素添加樹脂の分析方法>
水素添加樹脂の軟化点、重量平均分子量は、以下の方法で測定する。
【0082】
(1)軟化点
水素添加樹脂の軟化点は、JIS-K2207-1996(環球法)に準拠して測定する。
【0083】
(2)重量平均分子量
以下の条件で、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により、水添樹脂の平均分子量を測定し、ポリスチレン換算の重量平均分子量を算出した。
・カラム温度:40℃
・注入量:50μL
・キャリアー及び流速:テトラヒドロフラン 0.6mL/min
・サンプル調製:樹脂成分約2.5mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解
【0084】
<ゴム組成物の調製>
比較例2以外は、表1に示す配合処方で、通常の混練り装置を用いて混練を行って、ゴム組成物を調製した。比較例2については、同様に調整する。
【0085】
<ゴム組成物の評価>
比較例2以外のゴム組成物に対して、以下の方法で、グリップ性能及び製造作業性を評価した。比較例2については、同様の手法で評価する。結果を表1に示す。
【0086】
(3)グリップ性能
比較例2以外は、上島製作所製スペクトロメーターにて、周波数52Hz、初期歪2%、動歪1%、温度20℃でゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定し、比較例1のtanδを100として、指数表示した。比較例2については、同様に指数表示する。指数値が大きい程、tanδが大きく、グリップ性能に優れることを示す。
【0087】
(4)製造作業性
比較例2以外は、未加硫状態のゴム組成物と金属との間の90℃での密着力を、タックメータを用いて測定し、比較例1の密着力の逆数を100として、指数表示した。比較例2については、同様に指数表示する。指数値が大きい程、密着力が小さく、製造作業性に優れることを示す。
【0088】
【表1】
【0089】
*1 BR: ブタジエンゴム、下記の方法で合成した変性重合体
*2 SBR: スチレン-ブタジエンゴム、スチレン単位の割合(結合スチレン量)=35.5質量%、旭化成社製、商品名「タフデンE581」、ゴム成分100質量部に対して伸展油(液状軟化剤成分、25℃で液状)37.5質量部を含む油展ゴム、上段にゴム成分の含有量、下段に伸展油の含有量を示す。
*3 カーボンブラック: 旭カーボン社製、商品名「旭#107」
*4 シリカ: セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)=191m/g、窒素吸着比表面積(BET法)=245m/g
*5 オイル: 液状軟化剤成分(25℃で液状)、JX日鉱日石エネルギー社製、商品名「A/O MIX」
*6 樹脂A: 水素添加樹脂以外の樹脂(C系樹脂)、三井化学社製、商品名「ハイレッツ T500X」
*7 樹脂B: 水素添加樹脂(水添C系樹脂)、Eastman社製、商品名「登録商標Impera E1780」、軟化点=130℃、重量平均分子量(Mw)=909g/mol
*8 シランカップリング剤: 信越化学工業社製、商品名「ABC-856」
*9 老化防止剤: 精工化学社製の商品名「サンタイトA」と住友化学株式会社製の商品名「アンチゲン6C」とを含むトータル量
*10 加硫パッケージ: 加硫促進剤と硫黄とステアリン酸とを含むトータル量
【0090】
<BR(*1)の合成方法>
窒素置換された5Lオートクレーブに、窒素下、シクロヘキサン2.4kg、1,3-ブタジエン300gを仕込んだ。これらに、予め触媒成分としてバーサチック酸ネオジム(0.09mmol)のシクロヘキサン溶液、メチルアルモキサン(以下「MAO」ともいう)(1.8mmol)のトルエン溶液、水素化ジイソブチルアルミニウム(以下「DIBAH」ともいう)(5.0mmol)およびジエチルアルミニウムクロリド(0.18mmol)のトルエン溶液と1,3-ブタジエン(4.5mmol)を50℃で30分間反応熟成させた触媒を仕込み、80℃で60分間重合を行った。1,3-ブタジエンの反応転化率は、ほぼ100%であった。この重合体溶液200gを抜き取り、2,4-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1.5gを含むメタノール溶液を添加し、重合停止させた後、スチームストリッピングにより脱溶媒し、110℃のロールで乾燥して、変性前重合体を得た。
さらに、残りの重合体溶液を温度60℃に保ち、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(4.5mmol)のトルエン溶液を添加し、30分間反応させた。続いて、テトラ2-エチルヘキシルチタネート(13.5mmol)のトルエン溶液を添加し、30分間混合させた。その後、2,4-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1.5gを含むメタノール溶液を添加し、変性重合体溶液2.5kgを得た。
次に、水酸化ナトリウムによりpH10に調整した水溶液20Lに上記変性重合体溶液を添加し、110℃で2時間、脱溶媒とともに縮合反応を行い、110℃のロールで乾燥して、変性重合体を得た。
【0091】
表1から、本発明に従う実施例のゴム組成物は、水素添加樹脂を含まない比較例1のゴム組成物に比べて、グリップ性能と製造作業性の両方が優れていることが分かる。