(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187988
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電気化学セルおよび電気化学セルスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20221213BHJP
C04B 35/486 20060101ALI20221213BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20221213BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20221213BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221213BHJP
C25B 11/04 20210101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M4/86 U
C04B35/486
C04B35/50
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081464
(22)【出願日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2021095732
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
【Fターム(参考)】
4K011AA02
4K011AA11
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
5H018AA06
5H018AS02
5H018CC06
5H018EE02
5H018EE12
5H018HH05
(57)【要約】
【課題】機械的信頼性を十分に向上可能な電気化学セル等を提供する。
【解決手段】実施形態の電気化学セルは、水素極と酸素極との間に電解質膜が介在している。水素極は、第1の水素極層と、第1の水素極層よりも電解質膜の側に位置する第2の水素極層とを少なくとも有する。第1の水素極層は、第1の金属と第1の酸化物との焼結体で構成されている。第2の水素極層は、第2の金属と、第1の酸化物とは異なる第2の酸化物との焼結体で構成されている。第1の金属および第2の金属は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属もしくは合金である。第1の酸化物は、Y、Sc、Ca、および、Mgからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物で安定化されたジルコニアである。第2の酸化物は、Sm、Gd、および、Yからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物がドープされたセリアである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素極と酸素極との間に電解質膜が介在している電気化学セルであって、
前記水素極は、
第1の水素極層と、
前記第1の水素極層よりも前記電解質膜の側に位置する第2の水素極層と
を少なくとも有し、
前記第1の水素極層は、第1の金属と第1の酸化物との焼結体で構成され、
前記第2の水素極層は、第2の金属と、前記第1の酸化物とは異なる第2の酸化物との焼結体で構成され、
前記第1の金属および前記第2の金属は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属もしくは合金であり、
前記第1の酸化物は、Y、Sc、Ca、および、Mgからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物で安定化されたジルコニアであり、
前記第2の酸化物は、Sm、Gd、および、Yからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物がドープされたセリアである、
電気化学セル。
【請求項2】
第1の水素極層の厚みT1と第2の水素極層の厚みT2とが下記の(式A)に示す関係を満たす、
請求項1に記載の電気化学セル。
0.05≦T2/T1≦0.15 ・・・(式A)
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気化学セルを複数含み、
前記複数の電気化学セルが積層されている、
電気化学セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気化学セルおよび電気化学セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、水素極と酸素極とが電解質膜を挟むように構成されている。電気化学セルは、複数が積層され、電気化学セルスタックを構成する。
【0003】
電気化学セルにおいて、固体酸化物を電解質膜に用いた固体酸化物型電気化学セルは、高価な貴金属触媒を用いなくても反応速度が十分に高いため、注目されている。
【0004】
固体酸化物型電気化学セルは、固体酸化物型燃料電池セル(SOFC;Solid Oxide Fuel Cell)または固体酸化物型電解セル(SOEC;Solid Oxide Electrolysis Cell)として利用可能である。
【0005】
固体酸化物型電気化学セルがSOFCとして使用される場合には、高温条件下において、たとえば、水素極に供給された水素と、酸素極に供給された酸素とが、電解質膜を介して反応することで、電気エネルギーが得られる。SOFCは、発電効率が高く、CO2の発生も少ないため、クリーンな次世代の発電システムとして期待されている。
【0006】
これに対して、固体酸化物型電気化学セルがSOECとして使用される場合には、たとえば、高温条件下で水(水蒸気)が電気分解されることによって、水素極において水素が発生し、酸素極において酸素が発生する。SOECは、高い動作温度によって、原理的に低い電解電圧で水素を製造することが可能であるため、水素の製造効率が高い。
【0007】
また、固体酸化物型電気化学セルは、SOFCおよびSOECの両者として機能するため、電力貯蔵システムとして利用することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の電気化学セルにおいては、電気化学セルの形態を維持するために、支持層を有する。一般に、水素極が支持層を有し、支持層に活性層が積層されていることが多い。水素極において、活性層は、十分な反応活性が必要である。これに対して、水素極において、支持層は、電気化学セルの形態を維持するための強度が必要である他に、ガスの拡散性を高めるために多孔度が高いことが好ましい。
【0010】
しかしながら、支持層の多孔度を高めた場合には、支持層の強度が低下する。支持層の多孔度を下げた場合には、支持層の強度が向上するが、ガスの拡散性が低下する。
【0011】
上記のような事情により、電気化学セルにおいては、電気化学セルの性能を保持した上で機械的信頼性を十分に向上させることが困難である。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、機械的信頼性を十分に向上可能な電気化学セルおよび電気化学セルスタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態の電気化学セルは、水素極と酸素極との間に電解質膜が介在している。水素極は、第1の水素極層と、第1の水素極層よりも電解質膜の側に位置する第2の水素極層とを少なくとも有する。第1の水素極層は、第1の金属と第1の酸化物との焼結体で構成されている。第2の水素極層は、第2の金属と、第1の酸化物とは異なる第2の酸化物との焼結体で構成されている。第1の金属および第2の金属は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属もしくは合金である。第1の酸化物は、Y、Sc、Ca、および、Mgからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物で安定化されたジルコニアである。第2の酸化物は、Sm、Gd、および、Yからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物がドープされたセリアである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態において、電気化学セルスタック200の全体構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る電気化学セル1の構造を示す断面図である。
【
図3A】
図3Aは、実施形態に係る電気化学セル1を製造する製造工程を示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、実施形態に係る電気化学セル1を製造する製造工程を示す断面図である。
【
図3C】
図3Cは、実施形態に係る電気化学セル1を製造する製造工程を示す断面図である。
【
図3D】
図3Dは、実施形態に係る電気化学セル1を製造する製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下より、実施形態に関して図面を用いて説明する。以下の説明で参照する図面は、模式図であって、各部の寸法は、実際のものと必ずしも一致するものではない。
【0016】
[A]電気化学セルスタックの構造
図1は、実施形態において、電気化学セルスタック200の全体構成を模式的に示す断面図である。
【0017】
電気化学セルスタック200は、複数の電気化学セル1と複数のセパレータ2とを含み、電気化学セル1とセパレータ2とが積層方向において交互に積層されている。電気化学セルスタック200は、積層方向において一対のエンドプレート(図示省略)の間に介在しており、一対のエンドプレートの間は、タイロッドやバンドなどの締結部材(図示省略)を用いて締め付けられている。
[B]電気化学セル1の構造
【0018】
図2は、実施形態に係る電気化学セル1の構造を示す断面図である。
【0019】
図2に示すように、電気化学セル1は、水素極10と電解質膜20と酸素極30とを備える。電気化学セル1は、たとえば、平板形の固体酸化物型電気化学セルである。また、電気化学セル1は、水素極支持型である。電気化学セル1を構成する各部について順次説明する。
【0020】
[B-1]水素極10
電気化学セル1において、水素極10は、
図2に示すように、第1の水素極層101と第2の水素極層102とを備えており、第1の水素極層101の上面に第2の水素極層102が設けられている。
【0021】
[B-1-1]第1の水素極層101
水素極10のうち、第1の水素極層101は、たとえば、支持層として機能するように構成されている。第1の水素極層101は、電気化学セル1において最も表面側に位置する層である。
【0022】
第1の水素極層101は、多孔質体であって、第1の金属と第1の酸化物との焼結体で構成されている。
【0023】
具体的には、第1の水素極層101において、第1の金属は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属、もしくは、当該元素の合金である。また、第1の水素極層101において、第1の酸化物は、Y、Sc、Ca、および、Mgからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Y2O3,Sc2O3,CaO,MgO)で安定化されたジルコニアである。第1の水素極層101を構成する焼結体においては、第1の金属が第1の酸化物に固溶している。
【0024】
[B-1-2]第2の水素極層102
水素極10のうち、第2の水素極層102は、たとえば、活性層として機能するように構成されている。第2の水素極層102は、多孔質体であって、第1の水素極層101よりも電解質膜20の側に位置している。つまり、水素極層102は、第1の水素極層101と電解質膜20との間に介在している。
【0025】
第2の水素極層102は、第2の金属と、第1の水素極層101を構成する第1の酸化物とは異なる第2の酸化物との焼結体で構成されている。
【0026】
具体的には、第2の水素極層102において、第2の金属は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属、もしくは、当該元素の合金である。第2の水素極層102を構成する第2の金属は、第1の水素極層101を構成する第1の金属と同じであっても相違していてもよい。また、第2の水素極層102において、第2の酸化物は、Sm、Gd、および、Yの群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Sm2O3、Gd2O3、Y2O3)がドープされたセリア(CeO2)である。第2の水素極層102を構成する焼結体においては、第2の金属が第2の酸化物に固溶している。
【0027】
[B-1-3]第1の水素極層101の厚みT1と第2の水素極層102の厚みT2との関係
水素極10においては、第1の水素極層101の厚みT1と第2の水素極層102の厚みT2とが下記の(式A)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0028】
0.05≦T2/T1≦0.15 ・・・(式A)
【0029】
[B-2]電解質膜20
電気化学セル1において、電解質膜20は、水素極10と酸素極30との間に挟まれている。ここでは、電解質膜20は、水素極10および酸素極30よりも気孔率が低い緻密層であって、水素極10の上面に積層されている。電解質膜20は、固体酸化物の焼結体で形成されている。
【0030】
具体的には、電解質膜20は、たとえば、Y、Sc、Yb、Gd、Ca、Mg、および、Ceからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Y2O3,Sc2O3,Yb2O3,Gd2O3,CaO,MgO,CeO2)で安定化されたジルコニアを用いて形成されている。この他に、電解質膜20は、たとえば、Sm、Gd、および、Yの群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Sm2O3,Gd2O3,Y2O3)がドープされたセリアを用いて形成されていてもよい。
【0031】
[B-3]酸素極30
電気化学セル1において、酸素極30は、多孔質体であって、電解質膜20の上面側に設けられている。酸素極30は、ペロブスカイト酸化物を含む焼結体で構成されている。ペロブスカイト酸化物は、主として、化学式Ln1-xAxB1-yCyO3-δで表される。化学式において、Lnは、例えば、Laなどの希土類元素である。Aは、例えば、Sr,Ca,Ba等である。B及びCは、例えば、Cr,Mn,Co,Fe,Ni等である。なお、化学式において、x、y、および、δは、下記式に示す関係を満たす。
【0032】
0≦x≦1
0≦y≦1
0≦δ≦1
【0033】
酸素極30は、上記の他に、Sm2O3、Gd2O3とY2O3等からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物をドープしたセリアを含んでもよい。
【0034】
[B-4]反応防止層25
本実施形態の電気化学セル1は、
図2に示すように、更に、反応防止層25を含む。反応防止層25は、電解質膜20と酸素極30との間に介在しており、電解質膜20と酸素極30とが直接的に接触することを防いでいる。
【0035】
反応防止層25は、固体酸化物の焼結体で形成されている。
【0036】
具体的には、反応防止層25は、たとえば、Y、Sc、Yb、Gd、Ca、Mg、および、Ceからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Y2O3,Sc2O3,Yb2O3,Gd2O3,CaO,MgO,CeO2)で安定化されたジルコニアを用いて形成されている。この他に、反応防止層25は、たとえば、Sm、Gd、および、Yの群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Sm2O3,Gd2O3,Y2O3)がドープされたセリアを用いて形成されていてもよい。
【0037】
[C]電気化学セル1の製造方法
上記の電気化学セル1を製造する工程の一例について説明する。
【0038】
【0039】
[C-1]第1の水素極層前駆体101aの形成
電気化学セル1を製造する際には、まず、
図3Aに示すように、第1の水素極層前駆体101aを形成する。
【0040】
第1の水素極層前駆体101aは、第1の水素極層101を形成する前段階の層である。第1の水素極層前駆体101aの形成では、第1の水素極層101において第1の金属を構成する金属の酸化物からなる粉末と、第1の水素極層101において第1の酸化物を構成する酸化物の粉末とを含むペーストを作製する。ペーストの作製では、樹脂などのバインダー、および、バインダーを溶解する溶媒等を用いる。
【0041】
そして、その作製したペーストを用いてシート状の成形体を形成することで、第1の水素極層前駆体101aを作製する。第1の水素極層前駆体101aの作製は、たとえば、ドクターブレード法によって、ペーストの膜を均一な厚みに形成することで実行される。
【0042】
[C-2]第2の水素極層前駆体102aおよび電解質膜20の形成
つぎに、
図3Bに示すように、第2の水素極層前駆体102aの形成および電解質膜20の形成を行う。
【0043】
第2の水素極層前駆体102aは、第2の水素極層102を形成する前段階の層である。第2の水素極層前駆体102aの形成では、第1の水素極層101の作製と同様に、第2の水素極層102において第2の金属を構成する金属の酸化物からなる粉末と、第2の水素極層102において第2の酸化物を構成する酸化物の粉末とを含むペーストを作製する。そして、第2の水素極層前駆体102aの形成は、その作製したペーストを用いてシート状の成形体を第1の水素極層前駆体101aの上面に形成することによって実行される。
【0044】
電解質膜20の形成では、電解質膜20を構成する物質の粉末を含むペーストを作製する。そして、その作製したペーストを用いてシート状の成形体を第2の水素極層前駆体102aの上面に形成することによって、電解質膜20の形成が実行される。
【0045】
その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20との積層体について、焼成を実行する。焼成は、各層の内部の強度、および、各層間の強度が十分になるような条件で実行される。
【0046】
[C-3]反応防止層25の形成
つぎに、
図3Cに示すように、反応防止層25の形成を行う。
【0047】
ここでは、反応防止層25を構成する物質の粉末を含むペーストを作製する。そして、その作製したペーストを用いてシート状の成形体を電解質膜20の上面に形成することによって、反応防止層25の形成が実行される。
【0048】
その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25との積層体について、焼成を実行する。上記と同様に、焼成は、各層の内部の強度、および、各層間の強度が十分になるような条件で実行される。
【0049】
[C-4]酸素極30の形成
つぎに、
図3Dに示すように、酸素極30の形成を行う。
【0050】
ここでは、たとえば、スクリーン印刷で反応防止層25の上面に酸素極30を形成する。
【0051】
その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25と酸素極30との積層体について、焼成を実行する。上記と同様に、焼成は、各層の内部の強度、および、各層間の強度が十分になるような条件で実行される。
【0052】
そして、第1の水素極層前駆体101aにおいて第1の金属を構成する金属の酸化物、および、第2の水素極層前駆体102aにおいて第2の金属を構成する金属の酸化物を還元する処理を実行する。第1の水素極層前駆体101aにおいて第1の金属を構成する金属の酸化物が、第1の金属を構成する金属になる。同様に、第2の水素極層前駆体102aにおいて第2の金属を構成する金属の酸化物は、第2の金属を構成する金属になる。これにより、第1の金属と第1の酸化物との焼結体で構成された第1の水素極層101が第1の水素極層前駆体101aから形成される。これと共に、第2の金属と第2の酸化物との焼結体で構成された第2の水素極層102が第2の水素極層前駆体102aから形成される。
【0053】
なお、上記した製造方法の他に、たとえば、熱圧着によって各層の積層体を形成することで、電気化学セル1の作製を行ってもよい。
【0054】
[D]実施例
以下より、上記実施形態の実施例等について、表1を用いて説明する。表1において、例1から例11は、実施例であり、例C1および例C2は、比較例である。
【0055】
【0056】
[D-1]サンプル作製
各例の作製に関して説明する。
【0057】
[例1]
(1)第1の水素極層前駆体101aの形成
例1では、まず、第1の水素極層前駆体101aの形成を行った(
図3A参照)。
【0058】
ここでは、第1の水素極層前駆体101aを形成するために、表1に示すように、第1の金属を構成する金属(Ni)の酸化物(NiO)の粉末と、第1の酸化物を構成する酸化物(YSZ)の粉末とを含むペーストを準備した。各粉末については下記に示す混合割合で混合して、ペーストを作製した
【0059】
・酸化ニッケル(NiO) …60重量部
・イットリア(Y2O3)安定化ジルコニア(YSZ;(Y2O3)0.08(ZrO2)0.92の組成) …40重量部
【0060】
そして、その準備したペーストを用いてシート状の成形体を形成することで、第1の水素極層前駆体101aを作製した。ここでは、表1に示すように、第1の水素極層101の厚みT1である400μmになるように、第1の水素極層前駆体101aの成膜を行った。
【0061】
(2)第2の水素極層前駆体102aの形成および電解質膜20の形成
つぎに、第2の水素極層前駆体102aの形成および電解質膜20の形成を行った(
図3B参照)。
【0062】
ここでは、第1の水素極層前駆体101aを形成するために、表1に示すように、第2の金属を構成する金属(Ni)の酸化物(NiO)の粉末と、第2の酸化物を構成する酸化物(GDC)の粉末とを含むペーストを準備した。各粉末については下記に示す混合割合で混合して、ペーストを作製した
【0063】
・酸化ニッケル(NiO) …60wt.%
・Gd2O3がドープされたセリア(GDC;(Gd2O3)0.1(CeO2)0.9の組成) …40wt.%
【0064】
そして、その準備したペーストを用いてシート状の成形体を形成することで、第2の水素極層前駆体102aを作製した。ここでは、表1に示すように、第2の水素極層102の厚みT2である60μmになるように、第2の水素極層前駆体102aの成膜を行った。
【0065】
その後、電解質膜20を形成するために、表1に示すように、電解質膜20を構成する物質(YSZ;イットリア安定化ジルコニア((Y2O3)0.08(ZrO2)0.92の組成))の粉末を含むペーストを準備した。そして、そのペーストを第2の水素極層前駆体102aの上面に成膜することで、電解質膜20の作製を実行した。本例では、厚みが約5μmになるように電解質膜20を作製した。
【0066】
そして、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20との積層体について、焼成を実行した。ここでは、1200℃以上1600℃以下の条件で、各層の内部の強度、および、各層間の強度が十分になるまで、焼成を実行した。
(3)反応防止層25の形成
つぎに、反応防止層25の形成を行った(
図3Cに参照)。
【0067】
ここでは、反応防止層25を構成する物質(GDC:Gd2O3がドープされたセリア)の粉末を含むペーストを作製した。そして、その作製したペーストを用いてシート状の成形体を電解質膜20の上面に形成することによって、反応防止層25の形成を実行した。本例では、厚みが約3μmになるように反応防止層25を作製した。
【0068】
その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25との積層体について、焼成を実行した。ここでは、1100℃以上1500℃以下の条件で、各層の内部の強度、および、各層間の強度が十分になるまで、焼成を実行した。
【0069】
(4)酸素極30の形成
つぎに、酸素極30の形成を行った(
図3D参照)。
【0070】
ここでは、組成がLa0.6(Sr)0.4Co0.2(Fe)0.8O3-δであるLSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルト・フェライト)の酸素極30を、反応防止層25の上面に形成した。本例では、厚みが約30μmになるように酸素極30を作製した。
【0071】
その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25と酸素極30との積層体について、焼成を実行した。ここでは、900℃以上1200℃以下の条件で、焼成を実行した。
【0072】
そして、上記のように焼成された積層体のうち、第1の水素極層前駆体101aにおいて第1の金属を構成する金属(Ni)の酸化物(NiO)、および、第2の水素極層前駆体102aにおいて第2の金属を構成する金属(Ni)の酸化物(NiO)を還元する還元処理を実行した。
ここでは、後述するI-V特性などの出力特性を評価するための出力特性評価装置を用いて、還元処理を実行した。具体的には、上記の積層体を出力特性評価装置に設置し、700℃以上の条件で、水素極10の側に乾燥水素を流すと共に、酸素極30の側に、空気(もしくは空気組成の混合気体)を流した。
【0073】
これにより、表1に示すように、第1の金属(Ni)と第1の酸化物(YSZ)との焼結体で構成された第1の水素極層101、および、第2の金属(Ni)と第2の酸化物(GDC)との焼結体で構成された第2の水素極層102を含む、例1の電気化学セル1を完成させた。
【0074】
[例2]
例2では、表1に示すように、例1と異なり、第1の水素極層101において、第1の酸化物が、Sc2O3(酸化スカンジウム)で安定化されたジルコニア(ScSZ;(Sc2O3)0.1(ZrO2)0.89の組成)で構成されている。
【0075】
また、電解質膜20がSc2O3(スカンディア)で安定化されたジルコニア(ScSZ)で構成されている。
【0076】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0077】
[例3]
例3では、表1に示すように、例1と異なり、第1の水素極層101において、第1の酸化物が、Sc2O3(酸化スカンジウム)で安定化されたジルコニア(ScSZ;(Sc2O3)0.1(ZrO2)0.89の組成)で構成されている。
【0078】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0079】
[例4]
例4では、表1に示すように、例1と異なり、第2の水素極層102において、第2の酸化物が、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC;(Sm2O3)0.1(CeO2)0.9の組成)で構成されている。
【0080】
また、本例では、例1と異なり、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC)で反応防止層25を形成した。
【0081】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0082】
[例5]
例5では、表1に示すように、例1と異なり、第2の水素極層102において、第2の酸化物が、Y2O3(イットリア)がドープされたセリア(YDC;(Y2O3)0.1(CeO2)0.9の組成)で構成されている。
【0083】
また、本例では、例1と異なり、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC)で反応防止層25を形成した。
【0084】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0085】
[例6]
例6では、表1に示すように、例1と異なり、第1の水素極層101において第1の金属がCuで構成されている。このため、本例では、第1の金属を構成する金属(Cu)の酸化物(CuO)の粉末を用いて、第1の水素極層前駆体101aの形成を行った。
【0086】
また、本例では、例1と異なり、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC)で反応防止層25を形成した。
【0087】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0088】
[例7]
例7では、表1に示すように、例1と異なり、第1の水素極層101において、第1の酸化物が、Ca2O3(酸化カルシウム)で安定化されたジルコニア(CSZ;(Ca2O3)0.08(ZrO2)0.92の組成)で構成されている。
【0089】
また、本例では、例1と異なり、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC)で反応防止層25を形成した。
【0090】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0091】
[例8]
例8では、表1に示すように、例1と異なり、第2の水素極層102の厚みT2が100μmである。
【0092】
また、本例では、例1と異なり、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC)で反応防止層25を形成した。
【0093】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0094】
[例9]
例9では、表1に示すように、例1と異なり、第2の水素極層102の厚みT2が20μmである。
【0095】
また、本例では、例1と異なり、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC)で反応防止層25を形成した。
【0096】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0097】
[例10]
例10では、表1に示すように、例1と異なり、第2の水素極層102の厚みT2が15μmである。
【0098】
また、本例では、例1と異なり、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC)で反応防止層25を形成した。
【0099】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0100】
[例11]
例11では、表1に示すように、例1と異なり、第2の水素極層102の厚みT2が120μmである。
【0101】
また、本例では、例1と異なり、Sm2O3(酸化サマリウム)がドープされたセリア(SDC)で反応防止層25を形成した。
【0102】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0103】
[例C1]
例C1では、表1に示すように、例1と異なり、第1の水素極層101において、第1の酸化物が、Gd2O3(酸化ガドリニウム)がドープされたセリア(GDC;(Gd2O3)0.1(CeO2)0.9の組成)で構成されている。
【0104】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0105】
[例C2]
例C2では、表1に示すように、例1と異なり、第2の水素極層102において、第2の酸化物が、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)で構成されている。
【0106】
本例では、この相違点を除き、例1と同様に、電気化学セル1の作製を行った。
【0107】
[D-2]試験
表1に示すように、各例について、初期I-V特性評価試験、気孔率の測定、破壊強度の測定、および、ヤング率の測定を行った。
【0108】
[D-2-1]初期I-V特性評価試験
初期I-V特性評価試験は、出力特性評価装置を用いて実施した。具体的には、水素極10側の水蒸気濃度を制御し、SOFCモードおよびSOECモードで電気化学セル1を動作させることによって、初期のIV特性評価を行った。表1では、同一のセル電圧(1.3V)の下で求めた電流密度(A/cm2)を示している。
【0109】
表1に示すように、例1から例11は、電流密度(A/cm2)が0.8~0.98(A/cm2)の範囲であって、例C1および例C2は、電流密度(A/cm2)が0.8~0.96(A/cm2)の範囲であり、同様の範囲にある。具体的には例1から例9は、電流密度(A/cm2)が例C1と同等であり、例10および例11は、電流密度(A/cm2)が例C2と同等である。
【0110】
[D-2-2]気孔率の測定
気孔率の測定は、水銀圧入法によって行った。ここでは、各例で作成した第1の水素極層前駆体101aの気孔率について測定した。なお、第1の水素極層前駆体101aを還元処理してられる第1の水素極層101の気孔率は第一の水素極層前駆体101aよりも15%向上する。
【0111】
表1に示すように、例1から例11は、気孔率が例C1および例C2と同等である。
【0112】
[D-2-3]破壊強度およびヤング率
破壊強度およびヤング率は、荷重負荷速度が0.5mm/minである条件で3点曲げ試験を実施することで測定した。ここでは、各例で作成した第1の水素極層前駆体101aの破壊強度およびヤング率について測定した。
【0113】
表1に示すように、例1から例11は、破壊強度およびヤング率が例C1および例C2よりも高い。
【0114】
[D-3]まとめ
[D-3-1]
表1に示すように、例C1および例C2は、例1から例11と異なり、第1の水素極層101と第2の水素極層102とが互いに同じ材料で構成されている。
【0115】
この一方で、例1から例11は、第1の水素極層101と第2の水素極層102とが互いに異なる材料で構成されている。例1から例11では、第1の水素極層101は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属もしくは合金である第1の金属と、Y、Sc、Ca、および、Mgからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物で安定化されたジルコニアである第1の酸化物との焼結体で構成されている。これと共に、例1から例11では、第2の水素極層102は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属もしくは合金である第2の金属と、Sm、Gd、および、Yからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物がドープされたセリアである第2の酸化物との焼結体で構成されている。
【0116】
これにより、例1から例11は、電流密度(A/cm2)および気孔率が、例C1および例C2と同様であるが、破壊強度およびヤング率が例C1および例C2よりも高い結果を得た。その結果、例1から例11は、例C1および例C2よりも機械的信頼性を十分に向上可能であることが判った。
【0117】
[D-3-2]
例1から例11のうち、例1から例9は、第1の水素極層101の厚みT1と第2の水素極層102の厚みT2とが上記した(式A)(=0.05≦T2/T1≦0.15)に示す関係を満たしている。
【0118】
これにより、例1から例9は、例10および例11よりも、電流密度(A/cm2)が高い結果を得た。その結果、例1から例9は、機械的信頼性が例10および例11と同等であって、例10および例11よりも高いセル性能を得ることができることが判った。
【0119】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0120】
1:電気化学セル、2:セパレータ、10:水素極、20:電解質膜、25:反応防止層、30:酸素極、101:第1の水素極層、101a:第1の水素極層前駆体、102:第2の水素極層、102a:第2の水素極層前駆体、200:電気化学セルスタック