(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188019
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5831 20060101AFI20221213BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20221213BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138293
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2021525837の分割
【原出願日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2019226360
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真知子
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
(72)【発明者】
【氏名】松川 倫子
(72)【発明者】
【氏名】東 泰助
(57)【要約】 (修正有)
【課題】立方晶窒化硼素複合焼結体を用いた工具における、更なる耐摩耗性や耐欠損性等の工具性能を向上させる立方晶窒化硼素焼結体、および該立方晶窒化硼素焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上85体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、前記結合相は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の第1化合物、並びに、前記第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、1種以上の前記第1化合物及び前記第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウム化合物と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40体積%以上85体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合相は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の第1化合物、並びに、前記第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、1種以上の前記第1化合物及び前記第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウム化合物と、を含み、
前記立方晶窒化硼素粒子は、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以上、かつ、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以下含み、
前記立方晶窒化硼素粒子の質量を100質量%とした場合、前記立方晶窒化硼素粒子中のリチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ベリリウム及びバリウムの合計含有量は0.001質量%未満である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記立方晶窒化硼素焼結体のX線回折スペクトルにおいて、圧縮型六方晶窒化硼素由来のピーク強度IA、六方晶窒化硼素由来のピーク強度IB、ウルツ鉱型窒化硼素由来のピーク強度IC及び立方晶窒化硼素由来のピーク強度IDが、下記式Iの関係を示す、
(IA+IB+IC)/ID≦0.05 式I
請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法であって、
六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを混合して、混合粉末を得る第1工程と、
前記混合粉末を、圧力8GPa以上20GPa以下、かつ、温度2300℃以上2500℃以下まで昇圧昇温し、昇圧昇温により到達した最高圧力及び最高温度において30分以上90分未満保持することにより焼結して立方晶窒化硼素焼結体を得る第2工程とを備える、立方晶窒化硼素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体及びその製造方法に関する。本出願は、2019年12月16日に出願した日本特許出願である特願2019-226360号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素(以下「cBN」とも記す。)焼結体は、非常に高い硬度を有するとともに、熱的安定性及び化学的安定性にも優れることから、切削工具や耐磨工具に利用されている。
【0003】
特開2005-187260号公報(特許文献1)、国際公開第2005/066381号(特許文献2)には、立方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを混合して混合粉末を得、該混合粉末を超高圧高温条件下で焼結することにより、cBN粒子と結合材とを含む立方晶窒化硼素を得る方法が開示されている。
【0004】
また、特開2015-202981号公報(特許文献3)、特開2015-202980号公報(特許文献4)には、常圧型窒化硼素とセラミックスとを混合して混合体を得、該混合体を超高圧高温条件下で焼結することにより、立方晶窒化硼素多結晶体とセラミックス相とを含む立方晶窒化硼素複合焼結体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-187260号公報
【特許文献2】国際公開第2005/066381号
【特許文献3】特開2015-202981号公報
【特許文献4】特開2015-202980号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上85体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合相は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の第1化合物、並びに、前記第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、1種以上の前記第1化合物及び前記第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウム化合物と、を含み、
前記立方晶窒化硼素粒子は、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以上、かつ、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以下含み、
前記立方晶窒化硼素粒子の質量を100質量%とした場合、前記立方晶窒化硼素粒子中のリチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ベリリウム及びバリウムの合計含有量は0.001質量%未満である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0007】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、上記の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法であって、
六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを混合して、混合粉末を得る第1工程と、
前記混合粉末を、圧力8GPa以上20GPa以下、かつ、温度2300℃以上2500℃以下まで昇圧昇温し、昇圧昇温により到達した最高圧力及び最高温度において30分以上90分未満保持することにより焼結して立方晶窒化硼素焼結体を得る第2工程とを備える、立方晶窒化硼素焼結体の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1及び特許文献2の立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具に対して、特に、焼入鋼の高負荷加工に用いる場面において、更なる耐摩耗性や耐欠損性等の工具性能の向上が求められている。本発明者らは、特許文献1及び特許文献2の立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具において摩耗や欠損の生じるメカニズムについて検討した結果、下記のメカニズムを新たに想定した。
【0009】
特許文献1及び特許文献2では、立方晶窒化硼素粉末を原料として用いる。該立方晶窒化硼素粉末は、六方晶窒化硼素(以下、「hBN」とも記す。)と触媒を、cBNの熱的安定条件である高温高圧下で処理することにより製造される。触媒としては、一般的にアルカリ金属元素(リチウム)、アルカリ土類金属元素(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ベリリウム、バリウム)等が用いられる。従って、得られた立方晶窒化硼素粉末には、触媒元素が含まれている。
【0010】
立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具で切削加工を行うと、被削材との接点付近の工具の圧力及び温度が上昇する。特に焼入鋼の高負荷加工においては、圧力及び温度の上昇が顕著である。立方晶窒化硼素焼結体が触媒元素を含む場合、焼入鋼の高負荷加工における被削材との接点付近の工具の圧力及び温度条件下では、触媒元素が立方晶窒化硼素から六方晶窒化硼素への相変換を促進する。このため、工具の切れ刃の被削材との接点近傍で、熱伝導率の低下や、硬度の低下が生じやすい傾向がある。熱伝導率の低下や硬度の低下は、耐摩耗性や耐欠損性等の切削性能の低下を引き起こすと考えられる。
【0011】
特許文献3及び特許文献4の立方晶窒化硼素複合焼結体を用いた工具に対しても、特に、焼入鋼の高負荷加工に用いる場面において、更なる耐摩耗性や耐欠損性等の工具性能の向上が求められている。本発明者らは、特許文献3及び特許文献4の立方晶窒化硼素複合焼結体を用いた工具において摩耗や欠損の生じるメカニズムについて検討した結果、下記のメカニズムを新たに想定した。
【0012】
特許文献3及び特許文献4では、立方晶窒化硼素多結晶体を構成する立方晶窒化硼素単結晶の平均結晶粒径が500nm以下と小さく、微粒である。立方晶窒化硼素焼結体中に微粒成分が多く存在すると、立方晶窒化硼素焼結体の靱性及び熱伝導率が低下する傾向がある。このため、特に焼入鋼の高負荷加工において、耐摩耗性及び耐欠損性等の工具性能の低下を引き起こすと考えられる。
【0013】
本発明者らは、上記の新たに想定したメカニズムに基づき、立方晶窒化硼素焼結体中の触媒元素の量、及び、立方晶窒化硼素単結晶の粒径が耐摩耗性及び耐欠損性等の工具性能に影響を与えていると仮定した。
【0014】
本開示は、上記の想定した新たなメカニズム及び仮定に基づき、本発明者らが鋭意検討して得られたものである。
【0015】
本開示は、工具として用いた場合に、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた切削性能を有することのできる立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【0016】
[本開示の効果]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具として用いた場合に、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた切削性能を有することができる。
【0017】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0018】
(1)本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、
40体積%以上85体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合相は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の第1化合物、並びに、前記第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、1種以上の前記第1化合物及び前記第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウム化合物と、を含み、
前記立方晶窒化硼素粒子は、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以上、かつ、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以下含み、
前記立方晶窒化硼素粒子の質量を100質量%とした場合、前記立方晶窒化硼素粒子中のリチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ベリリウム及びバリウムの合計含有量は0.001質量%未満である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0019】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具として用いた場合に、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた切削性能を有することができる。
【0020】
(2)前記立方晶窒化硼素焼結体のX線回折スペクトルにおいて、圧縮型六方晶窒化硼素由来のピーク強度IA、六方晶窒化硼素由来のピーク強度IB、ウルツ鉱型窒化硼素由来のピーク強度IC及び立方晶窒化硼素由来のピーク強度IDが、下記式Iの関係を示すことが好ましい。
【0021】
(IA+IB+IC)/ID≦0.05 式I
これによると、立方晶窒化硼素を用いた工具の耐欠損性が更に向上する。
【0022】
(3)本開示の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、上記の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法であって、
六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを混合して、混合粉末を得る第1工程と、
前記混合粉末を、圧力8GPa以上20GPa以下、かつ、温度2300℃以上2500℃以下まで昇圧昇温し、昇圧昇温により到達した最高圧力及び最高温度において30分以上90分未満保持することにより焼結して立方晶窒化硼素焼結体を得る第2工程とを備える、立方晶窒化硼素焼結体の製造方法である。
【0023】
これによると、工具として用いた場合に、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた切削性能を有することができる立方晶窒化硼素焼結体を得ることができる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体及びその製造方法を以下に説明する。
【0025】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiN」と記載されている場合、TiNを構成する原子数の比は従来公知のあらゆる原子比が含まれる。このことは、「TiN」以外の化合物の記載についても同様である。
【0026】
[実施形態1:立方晶窒化硼素焼結体]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上85体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、結合相は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の第1化合物、並びに、第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、1種以上の第1化合物及び第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウム化合物と、を含み、立方晶窒化硼素粒子は、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以上、かつ、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50q%以下含み、立方晶窒化硼素粒子の質量を100質量%とした場合、立方晶窒化硼素粒子中のリチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ベリリウム及びバリウムの合計含有量は0.001質量%未満である。
【0027】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具として用いた場合に、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた切削性能を有することができる。この理由は、下記(i)~(iv)の通りと推察される。
【0028】
(i)本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、優れた強度及び靱性を有する立方晶窒化硼素粒子を40体積%以上85体積%以下含む。このため、立方晶窒化硼素焼結体も優れた強度及び靱性を有することができる。従って、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0029】
(ii)本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、結合相は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の第1化合物、並びに、第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、1種以上の第1化合物及び第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウム化合物と、を含む。第1化合物は、それ自体が高い強度及び靱性を有し、かつ、cBN粒子同士の結合力を向上させる。従って、該第1化合物を結合相として含む立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0030】
(iii)本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子は、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以上、かつ、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以下含む。
【0031】
立方晶窒化硼素粒子が微粒であると、立方晶窒化硼素焼結体の靱性及び熱伝導率が低下する傾向にある。本開示の立方晶窒化硼素焼結体では、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以上である。すなわち、微粒である円相当径が0.5μm以下の立方晶窒化硼素粒子の割合が50%以下であり、微粒の割合が小さいため、立方晶窒化硼素焼結体は優れた靱性及び熱伝導率を有することができる。
【0032】
また、立方晶窒化硼素粒子が粗粒であると、立方晶窒化硼素焼結体の強度が低下する傾向にある。本開示の立方晶窒化硼素焼結体では、粗粒である円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の割合が50%以下であり、粗粒の割合が小さいため、立方晶窒化硼素焼結体は優れた強度を有することができる。
【0033】
よって、本開示の立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0034】
(iv)本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の質量を100質量%とした場合、立方晶窒化硼素粒子中のリチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ベリリウム及びバリウム(以下、これらの元素を「触媒元素」とも記す。)の合計含有量は0.001質量%未満である。立方晶窒化硼素粒子中に触媒元素が存在すると、焼入鋼の高負荷加工における工具と被削材との接点付近の圧力及び温度条件下では、触媒元素が立方晶窒化硼素から六方晶窒化硼素への相変換を促進する。このため、工具の切れ刃の被削材との接点近傍で、熱伝導率の低下や、硬度の低下が生じやすい傾向がある。
【0035】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体においては、立方晶窒化硼素粒子中の触媒元素の合計含有量が0.001質量%未満であるため、触媒元素による立方晶窒化硼素から六方晶窒化硼素への相変換は生じにくい。よって、本開示の立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0036】
<組成>
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を40体積%以上85体積%以下と、結合相とを備える。
【0037】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、優れた強度及び靱性を有する立方晶窒化硼素を含むため、立方晶窒化硼素焼結体も優れた強度及び靱性を有することができる。よって、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0038】
cBN焼結体中のcBN粒子の含有割合の下限は、40体積%であり、45体積%が好ましい。cBN焼結体中のcBN粒子の含有割合の上限は、85体積%であり、75体積%が好ましい。cBN焼結体中のcBN粒子の含有割合は、45体積%以上75体積%以下が好ましい。
【0039】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、高い強度を有し、かつ、cBN粒子同士の結合力を向上させる結合相を含むため、立方晶窒化硼素焼結体も優れた強度及び靱性を有することができる。よって、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0040】
cBN焼結体中の結合相の含有割合の下限は、15体積%が好ましく、25体積%がより好ましい。cBN焼結体中の結合相の含有割合の上限は、60体積%が好ましく、55体積%がより好ましい。cBN焼結体中の結合相の含有割合は、15体積%以上60体積%以下が好ましく、25体積%以上55体積%以下が好ましい。
【0041】
cBN焼結体におけるcBN粒子の含有割合(体積%)及び結合相の含有割合(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製の「JSM-7800F」(商標))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(EDAX社製の「Octane Elect(オクタンエレクト) EDS システム」(商標))を用いて、cBN焼結体に対し、組織観察、元素分析等を実施することによって確認することができる。
【0042】
具体的には、次のようにしてcBN粒子の含有割合(体積%)を求めることができる。まず、cBN焼結体の任意の位置を切断し、cBN焼結体の断面を含む試料を作製する。断面の作製には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、上記断面をSEMにて5000倍で観察して、反射電子像を得る。反射電子像においては、cBN粒子は黒く見え(暗視野)、結合相が存在する領域が灰色又は白色(明視野)となる。
【0043】
次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(例えば、三谷商事(株)の「WinROOF」)を用いて二値化処理を行う。二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める暗視野に由来する画素(cBN粒子に由来する画素)の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、cBN粒子の含有割合(体積%)を求めることができる。
【0044】
二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める明視野に由来する画素(結合相に由来する画素)の面積比率を算出することにより、結合相の含有割合(体積%)を求めることができる。
【0045】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、本開示の効果を示す範囲において不可避不純物を含んでいても構わない。不可避不純物としては、例えば、タングステン、コバルトを挙げることができる。立方晶窒化硼素焼結体が不可避不純物を含む場合は、不可避不純物の含有量は0.1質量%以下であることが好ましい。不可避不純物の含有量は、二次イオン質量分析(SIMS)により測定することができる。
【0046】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、本開示の効果を示す範囲において、圧縮型六方晶窒化硼素、六方晶窒化硼素及びウルツ鉱型窒化硼素の少なくともいずれかを含んでいても構わない。ここで、「圧縮型六方晶窒化硼素」とは、通常の六方晶窒化硼素と結晶構造が類似し、c軸方向の面間隔が通常の六方晶窒化硼素の面間隔(0.333nm)よりも小さいものを示す。立方晶窒化硼素に対する圧縮型六方晶窒化硼素、六方晶窒化硼素及びウルツ鉱型窒化硼素の含有割合については、後述の<X線回折スペクトル>において詳述する。
【0047】
<立方晶窒化硼素粒子>
(円相当径)
本開示の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素粒子は、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以上、かつ、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で50%以下含む。ただし数基準を計算する際は、円相当径が0.05μm未満の粒子をカウントしないこととする。
【0048】
円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の割合が50%以上であると、立方晶窒化硼素焼結体は優れた靱性及び熱伝導率を有することができる。また、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の割合が50%以下であると、立方晶窒化硼素焼結体は優れた強度を有することができる。よって、本開示の立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0049】
立方晶窒化硼素粒子全体における円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合の下限は、50%であり、70%が好ましい。立方晶窒化硼素粒子全体における円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合の上限は、100%が好ましい。立方晶窒化硼素粒子全体における円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合は、50%以上100%以下が好ましく、70%以上100%以下がより好ましい。
【0050】
立方晶窒化硼素粒子全体における円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合の下限は、0%が好ましい。立方晶窒化硼素粒子全体における円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の割合の上限は、50%であり、20%が好ましい。立方晶窒化硼素粒子全体における円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の割合は、0%以上50%以下が好ましく、0%以上20%以下がより好ましい。
【0051】
立方晶窒化硼素粒子における円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合、及び、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合の算出方法について、下記に具体的に説明する。
【0052】
まず、測定箇所が露出するように立方晶窒化硼素焼結体をダイヤモンド砥石電着ワイヤー等で切断し、断面を研磨する。立方晶窒化硼素焼結体が工具の一部として用いられている場合は、立方晶窒化硼素焼結体の部分を、ダイヤモンド砥石電着ワイヤー等で切り出して、切り出した断面を研磨する。該研磨面において5箇所の測定箇所を任意に設定する。5箇所の各測定箇所をSEM(日本電子株式会社社製「JSM-7500F」(商標))を用いて観察し、5つのSEM画像を得る。測定視野のサイズは12μm×15μmとし、観察倍率は10000倍とする。
【0053】
5つのSEM画像のそれぞれを画像処理ソフト(Win Roof ver.7.4.5)を用いて処理することにより、測定視野内に観察される立方晶窒化硼素粒子の総数、及び、各立方晶窒化硼素粒子の円相当径を算出する。
【0054】
各測定視野に含まれる立方晶窒化硼素粒子の総数を分母として、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数の割合を算出する。5箇所の測定視野における円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数の割合の平均値が、立方晶窒化硼素粒子における円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合に該当する。
【0055】
各測定視野に含まれる立方晶窒化硼素粒子の総数を分母として、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の数の割合を算出する。5箇所の測定視野における円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の数の割合の平均値が、立方晶窒化硼素粒子における円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合に該当する。
【0056】
なお、出願人が測定した限りでは、同一の試料において立方晶窒化硼素粒子の総数及び各立方晶窒化硼素粒子の円相当径を測定する限り、測定視野の選択個所を変更して複数回算出しても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0057】
(触媒元素)
本開示の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の質量を100質量%とした場合、立方晶窒化硼素粒子中のリチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ベリリウム及びバリウムの合計含有量は0.001質量%未満である。本開示の立方晶窒化硼素焼結体では、立方晶窒化硼素から六方晶窒化硼素への相変換を促進する触媒元素の含有量が非常に少ない、又は、触媒元素が存在しないため、焼入鋼の高負荷加工時の圧力及び温度条件下においても、触媒元素による立方晶窒化硼素から六方晶窒化硼素への相変換は生じにくい。よって、本開示の立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0058】
立方晶窒化硼素粒子中の触媒元素の合計含有量の下限は、0質量%が好ましい。これらの触媒元素の合計含有量の上限は、0.001質量%未満である。これらの触媒元素の合計含有量は、0質量%以上0.001質量%未満が好ましい。
【0059】
立方晶窒化硼素粒子中の触媒元素の含有量は、高周波誘導プラズマ発光分析法((ICP発光分光分析法)、使用機器:島津製作所製「ICPS-8100」(商標))により測定することができる。具体的には、下記の手順で測定することができる。
【0060】
まず、立方晶窒化硼素焼結体を密閉容器内で弗硝酸に48時間浸し、結合相を弗硝酸に溶解させる。弗硝酸中に残った立方晶窒化硼素粒子について高周波誘導プラズマ発光分析法を行い、各触媒元素の含有量を測定する。これにより、立方晶窒化硼素粒子中の触媒元素の合計含有量を測定することができる。
【0061】
<結合相>
本開示の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる結合相は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、「第1元素」とも記す。)と、窒素(N)、炭素(C)、硼素(B)及び酸素(O)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の第1化合物、並びに、第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、1種以上の第1化合物及び第1化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルミニウム化合物と、を含む。第1化合物は、それ自体が高い強度及び靱性を有し、立方晶窒化硼素粒子同士を強固に結合することができるため、焼結体の強度が向上し、焼結体は優れた耐摩耗性を有することができる。
【0062】
すなわち、結合相は下記の(1)~(6)のいずれかの態様とすることができる。
(1)第1化合物を含む結合相
(2)第1化合物由来の固溶体を含む結合相
(3)第1化合物及び第1化合物由来の固溶体を含む結合相
(4)第1化合物及びアルミニウム化合物を含む結合相
(5)第1化合物由来の固溶体及びアルミニウム化合物を含む結合相
(6)第1化合物、第1化合物由来の固溶体及びアルミニウム化合物を含む結合相
第1元素と窒素とからなる第1化合物(窒化物)としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(Cr2N)、窒化モリブデン(MoN)、窒化タングステン(WN)、窒化チタンジルコニウム(TiZrN)、窒化チタンハフニウム(TiHfN)、窒化チタンバナジウム(TiVN)、窒化チタンニオブ(TiNbN)、窒化チタンタンタル(TiTaN)、窒化チタンクロム(TiCrN)、窒化チタンモリブデン(TiMoN)、窒化チタンタングステン(TiWN)、窒化ジルコニウムハフニウム(ZrHfN)、窒化ジルコニウムバナジウム(ZrVN)、窒化ジルコニウムニオブ(ZrNbN)、窒化ジルコニウムタンタル(ZrTaN)、窒化ジルコニウムクロム(ZrCrN)、窒化ジルコニウムモリブデン(ZrMoN)、窒化ジルコニウムタングステン(ZrWN)、窒化ハフニウムバナジウム(HfVN)、窒化ハフニウムニオブ(HfNbN)、窒化ハフニウムタンタル(HfTaN)、窒化ハフニウムクロム(HfCrN)、窒化ハフニウムモリブデン(HfMoN)、窒化ハフニウムタングステン(HfWN)、窒化バナジウムニオブ(VNbN)、窒化バナジウムタンタル(VTaN)、窒化バナジウムクロム(VCrN)、窒化バナジウムモリブデン(VMoN)、窒化バナジウムタングステン(VWN)、窒化ニオブタンタル(NbTaN)、窒化ニオブクロム(NbCrN)、窒化ニオブモリブデン(NbMoN)、窒化ニオブタングステン(NbWN)、窒化タンタルクロム(TaCrN)、窒化タンタルモリブデン(TaMoN)、窒化タンタルタングステン(TaWN)、窒化クロムモリブデン(CrMoN)、窒化クロムタングステン(CrWN)、窒化モリブデンクロム(MoWN)を挙げることができる。
【0063】
第1元素と炭素とからなる第1化合物(炭化物)としては、例えば、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(Cr2C)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)、炭化チタンジルコニウム(TiZrC)、炭化チタンハフニウム(TiHfC)、炭化チタンバナジウム(TiVC)、炭化チタンニオブ(TiNbC)、炭化チタンタンタル(TiTaC)、炭化チタンクロム(TiCrC)、炭化チタンモリブデン(TiMoC)、炭化チタンタングステン(TiWC)、炭化ジルコニウムハフニウム(ZrHfC)、炭化ジルコニウムバナジウム(ZrVC)、炭化ジルコニウムニオブ(ZrNbC)、炭化ジルコニウムタンタル(ZrTaC)、炭化ジルコニウムクロム(ZrCrC)、炭化ジルコニウムモリブデン(ZrMoC)、炭化ジルコニウムタングステン(ZrWC)、炭化ハフニウムバナジウム(HfVC)、炭化ハフニウムニオブ(HfNbC)、炭化ハフニウムタンタル(HfTaC)、炭化ハフニウムクロム(HfCrC)、炭化ハフニウムモリブデン(HfMoC)、炭化ハフニウムタングステン(HfWC)、炭化バナジウムニオブ(VNbC)、炭化バナジウムタンタル(VTaC)、炭化バナジウムクロム(VCrC)、炭化バナジウムモリブデン(VMoC)、炭化バナジウムタングステン(VWC)、炭化ニオブタンタル(NbTaC)、炭化ニオブクロム(NbCrC)、炭化ニオブモリブデン(NbMoC)、炭化ニオブタングステン(NbWC)、炭化タンタルクロム(TaCrC)、炭化タンタルモリブデン(TaMoC)、炭化タンタルタングステン(TaWC)、炭化クロムモリブデン(CrMoC)、炭化クロムタングステン(CrWC)、炭化モリブデンクロム(MoWC)を挙げることができる。
【0064】
第1元素と炭素と窒素とからなる第1化合物(炭窒化物)としては、例えば、炭窒化チタン(TiCN)、炭窒化ジルコニウム(ZrCN)、炭窒化ハフニウム(HfCN)を挙げることができる。
【0065】
第1元素と硼素とからなる第1化合物(硼化物)としては、例えば、硼化チタン(TiB2)、硼化ジルコニウム(ZrB2)、硼化ハフニウム(HfB2)、硼化バナジウム(VB2)、硼化ニオブ(NbB2)、硼化タンタル(TaB2)、硼化クロム(CrB2)、硼化モリブデン(MoB2)、硼化タングステン(WB)を挙げることができる。
【0066】
第1元素と酸素とからなる第1化合物(酸化物)としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)を挙げることができる。
【0067】
第1元素と窒素と酸素とからなる第1化合物(酸窒化物)としては、例えば、酸窒化チタン(TiON)、酸窒化ジルコニウム(ZrON)、酸窒化ハフニウム(HfON)、酸窒化バナジウム(VON)、酸窒化ニオブ(NbON)、酸窒化タンタル(TaON)、酸窒化クロム(CrON)、酸窒化モリブデン(MoON)、酸窒化タングステン(WON)を挙げることができる。
【0068】
第1化合物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
結合相は、第1化合物由来の固溶体を含むことができる。ここで、第1化合物由来の固溶体とは、2種類以上の第1化合物が互いの結晶構造内に溶け込んでいる状態を意味し、侵入型固溶体や置換型固溶体を意味する。
【0069】
アルミニウム化合物としては、窒化チタンアルミニウム(TiAlN、Ti2AlN、Ti3AlN)、炭化チタンアルミニウム(TiAlC、Ti2AlC、Ti3AlC)、炭窒化チタンアルミニウム(TiAlCN、Ti2AlCN、Ti3AlCN)、硼化アルミニウム(AlB2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、AlN(窒化アルミニウム)、SiAlON(サイアロン)を挙げることができる。
【0070】
アルミニウム化合物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
結合相は、第1化合物及び第1化合物の固溶体からなる群より選択される1種以上のみからなることができる。また、結合相は、第1化合物及び第1化合物の固溶体からなる群より選択される1種以上を99.9体積%以上と、残部とからなることができる。
【0072】
結合相は、第1化合物及び第1化合物の固溶体からなる群より選択される1種以上、及び、アルミニウム化合物のみからなることができる。また、結合相は、第1化合物及び第1化合物の固溶体からなる群より選択される1種以上、及び、アルミニウム化合物を合計で99.9体積%以上と、残部とからなることができる。
【0073】
ここで残部とは、結合相中の不可避不純物に該当する。立方晶窒化硼素焼結体における不可避不純物の含有割合は、0.1質量%以下が好ましい。
【0074】
結合相の組成は、X線回折法を用いて測定することができる。具体的な測定方法は下記の通りである。
【0075】
まず、測定箇所が露出するように立方晶窒化硼素焼結体をダイヤモンド砥石電着ワイヤー等で切断し、断面を研磨する。立方晶窒化硼素焼結体が工具の一部として用いられている場合は、立方晶窒化硼素焼結体の部分を、ダイヤモンド砥石電着ワイヤー等で切り出して、切り出した断面を研磨する。当該研磨面において5箇所の測定箇所を任意に設定する。
【0076】
X線回折装置(Rigaku社製「MiniFlex600」(商標))を用いて上記の研磨面のX線回折スペクトルを得る。このときのX線回折装置の条件は、下記の通りとする。
【0077】
特性X線: Cu-Kα(波長1.54Å)
管電圧: 45kV
管電流: 40mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法。
【0078】
得られたX線回折スペクトルに基づき、結合相の組成を同定する。
<X線回折スペクトル>
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、そのX線回折スペクトルにおいて、圧縮型六方晶窒化硼素由来のピーク強度IA、六方晶窒化硼素由来のピーク強度IB、ウルツ鉱型窒化硼素由来のピーク強度IC及び立方晶窒化硼素由来のピーク強度IDが、下記式Iの関係を示すことが好ましい。
【0079】
(IA+IB+IC)/ID≦0.05 式I
圧縮型六方晶窒化硼素、六方晶窒化硼素、ウルツ鉱型窒化硼素及び立方晶窒化硼素は、全て同程度の電子的な重みを有する。従って、X線回折スペクトルにおけるピーク強度IA、ピーク強度IB、ピーク強度IC及びピーク強度IDの比は、立方晶窒化硼素焼結体中の圧縮型六方晶窒化硼素、六方晶窒化硼素、ウルツ鉱型窒化硼素及び立方晶窒化硼素の体積比と見做すことができる。
【0080】
ピーク強度IA、ピーク強度IB、ピーク強度IC及びピーク強度IDが上記式Iの関係を満たす場合、立方晶窒化硼素焼結体中の圧縮型六方晶窒化硼素、六方晶窒化硼素、ウルツ鉱型窒化硼素の体積割合は、立方晶窒化硼素の体積割合よりも非常に小さい。従って、該立方晶窒化硼素焼結体は、圧縮型六方晶窒化硼素、六方晶窒化硼素、ウルツ鉱型窒化硼素に起因する強度及び靱性の低下という影響が非常に少なく、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することができる。
【0081】
圧縮型六方晶窒化硼素由来のピーク強度IA、六方晶窒化硼素由来のピーク強度IB、ウルツ鉱型窒化硼素由来のピーク強度IC及び立方晶窒化硼素由来のピーク強度IDの測定方法について、下記に具体的に説明する。
【0082】
まず、測定箇所が露出するように立方晶窒化硼素焼結体をダイヤモンド砥石電着ワイヤー等で切断し、断面を研磨する。立方晶窒化硼素焼結体が工具の一部として用いられている場合は、立方晶窒化硼素焼結体の部分を、ダイヤモンド砥石電着ワイヤー等で切り出して、切り出した断面を研磨する。当該研磨面において5箇所の測定箇所を任意に設定する。
【0083】
X線回折装置(Rigaku社製「MiniFlex600」(商標))を用いて上記の研磨面のX線回折スペクトルを得る。このときのX線回折装置の条件は、下記の通りとする。
【0084】
特性X線: Cu-Kα(波長1.54Å)
管電圧: 45kV
管電流: 40mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法。
【0085】
得られたX線回折スペクトルにおいて、下記のピーク強度IA、ピーク強度IB、ピーク強度IC、ピーク強度IDを測定する。
【0086】
ピーク強度IA:回折角2θ=28.5°付近のピーク強度から、バックグランドを除いた圧縮型六方晶窒化硼素のピーク強度。
【0087】
ピーク強度IB:回折角2θ=41.6°付近のピーク強度から、バックグランドを除いた六方晶窒化硼素のピーク強度。
【0088】
ピーク強度IC:回折角2θ=40.8°付近のピーク強度から、バックグラウンドを除いたウルツ鉱型窒化硼素のピーク強度。
【0089】
ピーク強度ID:回折角2θ=43.5°付近のピーク強度から、バックグラウンドを除いた立方晶窒化硼素のピーク強度。
【0090】
5箇所の測定箇所のそれぞれにおいて、ピーク強度IA、ピーク強度IB、ピーク強度IC、ピーク強度IDを測定し、(IA+IB+IC)/IDの値を得る。5箇所の測定箇所における(IA+IB+IC)/IDの値の平均値が、立方晶窒化硼素焼結体における(IA+IB+IC)/IDに該当する。
【0091】
なお、出願人が測定した限りでは、同一の試料においてピーク強度IA、ピーク強度IB、ピーク強度IC、ピーク強度IDを測定する限り、測定箇所の選択個所を変更して複数回算出しても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定箇所を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0092】
<用途>
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具、耐摩工具、研削工具などに用いることが好適である。
【0093】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体を用いた切削工具、耐摩工具および研削工具はそれぞれ、その全体が立方晶窒化硼素焼結体で構成されていても良いし、その一部(たとえば切削工具の場合、刃先部分)のみが立方晶窒化硼素焼結体で構成されていても良い。さらに、各工具の表面にコーティング膜が形成されていても良い。
【0094】
切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイトなどを挙げることができる。
【0095】
耐摩工具としては、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサーなどを挙げることができる。研削工具としては、研削砥石などを挙げることができる。
【0096】
[実施形態2:立方晶窒化硼素焼結体の製造方法]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法であって、六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを混合して、混合粉末を得る第1工程と、混合粉末を、圧力8GPa以上20GPa以下、かつ、温度2300℃以上2500℃以下まで昇圧昇温し、昇圧昇温により到達した最高圧力及び最高温度において30分以上90分未満保持することにより焼結して立方晶窒化硼素焼結体を得る第2工程とを備える。
【0097】
<第1工程>
まず、六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを準備する。六方晶窒化硼素粉末は、純度(六方晶窒化硼素の含有率)が98.5%以上が好ましく、99%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。六方晶窒化硼素粉末の粒径は特に限定されないが、例えば、0.1μm以上10μm以下とすることができる。
【0098】
結合材粉末は、目的とする結合相の組成に合わせて選択される。具体的には、実施形態1の結合相に記載される第1化合物からなる粒子を用いることができる。また、第1化合物からなる粒子とともに、アルミニウム化合物からなる粒子を用いることができる。結合材粉末の粒径は特に限定されないが、例えば、0.1μm以上10μm以下とすることができる。
【0099】
次に、六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを混合して、混合粉末を得る。六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末との混合比は、最終的に得られる立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の割合が40体積%以上85体積%以下となるように調整する。
【0100】
混合には、例えばボールミル、アトライタ等の混合装置を使用できる。混合時間は、たとえば5時間以上24時間以下程度である。
【0101】
こうして得られた混合粉末では、六方晶窒化硼素粉末が、混合中に表面酸化の影響で生成される酸化硼素や水分等の吸着ガスを含み得る。これらの不純物は六方晶窒化硼素から立方晶窒化硼素への直接変換を阻害する。又は、これらの不純物が触媒となって粒成長を引き起こし、立方晶窒化硼素粒子同士の結合を弱化させる。そこで高温精製処理を行なって不純物を除去することが好ましい。例えば、混合粉末を窒素ガス中2050℃以上の条件、または真空中1650℃以上の条件等で熱処理して酸化硼素や吸着ガスを除去することができる。こうして得られた混合粉末は不純物が非常に少なく、六方晶窒化硼素から立方晶窒化硼素への直接変換に適する。
【0102】
(第2工程)
第2工程では、上記の混合粉末を圧力8GPa以上20GPa以下、かつ、温度2300℃以上2500℃以下まで昇圧昇温し、昇圧昇温により到達した最高圧力及び最高温度において30分以上90分未満保持することにより焼結して立方晶窒化硼素焼結体を得る。このとき六方晶窒化硼素は立方晶窒化硼素へと直接変換される。更に、六方晶窒化硼素から立方晶窒化硼素への変換と同時に混合粉末が焼結され、立方晶窒化硼素焼結体となる。
【0103】
第2工程では、触媒元素を用いることなく、六方晶窒化硼素から立方晶窒化硼素への直接変換が行われる。このためには、混合粉末の焼結条件を、従来の触媒元素を用いる焼結条件よりも高圧高温とする必要がある。
【実施例0104】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0105】
[実施例1]
<立方晶窒化硼素焼結体の作製>
〔試料No.1~試料No.6、試料No.13~試料No.22〕
下記の製造方法を用いて、試料No.1~試料No.6、試料No.13~試料No.22の立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0106】
(第1工程)
まず出発物質(原料)として、平均粒子径10μmの六方晶窒化硼素粉末(表1において「hBN粉末」と記す。)と、表1の「第1工程」の「原料粉末」欄に示す組成を有する結合材粉末とを準備した。例えば、試料No.1では、結合材粉末としてTiN粉末を準備した。
【0107】
六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末との混合比は、最終的に得られる立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の割合が表1の「立方晶窒化硼素焼結体」の「cBN粒子(体積%)」欄に記載の割合となるように調整した。2種以上の結合材粉末を用いる場合は、各結合材粉末の組成の後ろの括弧内に、該結合材粉末の質量割合を記載した。例えば、試料No.17では、結合材粉末中に、TiN0.5粉末が85質量%、Al粉末が15質量%含まれることを示す。
【0108】
六方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とをボールミルを使用して5時間に亘って混合した。これにより混合粉末を得た。該混合粉末を窒素雰囲気下2050℃の温度で熱処理して不純物を除去した(高温精製処理)。
【0109】
(第2工程)
高温精製処理を経た混合粉末をタンタル製カプセルに入れ、超高圧高温発生装置を使用して表1の「第2工程」の「圧力(GPa)」、「温度(℃)」及び「時間(分)」欄に示す圧力、温度及び時間で保持して、立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0110】
〔試料No.7~試料No.12〕
下記の製造方法を用いて、試料No.7~試料No.12の立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0111】
(第1工程)
まず出発物質(原料)として、平均粒子径1μmの立方晶窒化硼素粉末(表1において、「cBN粉末」と記す。)と、表1の「第1工程」の「原料粉末」欄に示す組成を有する結合材粉末とを準備した。立方晶窒化硼素粉末は、触媒を用いる従来の方法で作製されたものである。
【0112】
立方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを体積比でcBN粉末:結合材粉末=55:45で配合し、さらにボールミルを使用して立方晶窒化硼素粉末と結合材粉末とを5時間に亘って混合した。これにより混合粉末を得た。該混合粉末を窒素雰囲気下2050℃の温度で熱処理して不純物を除去した(高温精製処理)。
【0113】
(第2工程)
高温精製処理を経た混合粉末をタンタル製カプセルに入れ、超高圧高温発生装置を使用して表1の「第2工程」の「圧力(GPa)」、「温度(℃)」及び「時間(分)」欄に示す圧力、温度及び時間で保持して、立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0114】
【0115】
<測定>
(立方晶窒化硼素焼結体の組成)
各試料の立方晶窒化硼素焼結体の組成(立方晶窒化硼素の含有率、結合相の含有率)をSEM反射電子像の画像解析により測定した。具体的な測定方法は実施形態1に示されるためその説明は繰り返さない。結果を表1の「立方晶窒化硼素焼結体」の「cBN粒子(体積%)」及び「結合相(体積%)」欄に示す。
【0116】
(結合相の組成)
各試料の結合相の組成をX線回折法を用いて測定した。具体的な測定方法は実施形態1に示されるためその説明は繰り返さない。結果を表1の「結合相の組成」欄に示す。
【0117】
(立方晶窒化硼素粒子の粒径)
各試料の立方晶窒化硼素粒子の粒径をSEM反射電子像の画像解析により測定し、円相当径が0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合、及び、円相当径が2μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合を算出した。具体的な測定方法は実施形態1に示されるためその説明は繰り返さない。結果を表1の「cBN粒子の数基準割合」の「円相当径0.5μm超(%)」及び「円相当径2μm超(%)」欄に示す。
【0118】
(触媒元素の含有量)
各試料の立方晶窒化硼素粒子中の触媒元素の種類及び含有量をICP発光分光分析法を用いて測定した。具体的な測定方法は実施形態1に示されるためその説明は繰り返さない。結果を表1の「cBN粒子中の触媒元素含有量(質量%)」欄に示す。なお、結果が「-」と示されている場合は、未検出であり、含有量が検出限界(0.001質量%)未満であることを示す。
【0119】
(X線回折スペクトル)
各試料の立方晶窒化硼素粒子についてX線回折測定を行い、X線回折スペクトルを得た。具体的な測定方法は実施形態1に示されるためその説明は繰り返さない。該X線回折スペクトルに基づき、圧縮型六方晶窒化硼素由来のピーク強度IA、六方晶窒化硼素由来のピーク強度IB、ウルツ鉱型窒化硼素由来のピーク強度IC及び立方晶窒化硼素由来のピーク強度IDを測定し、(IA+IB+IC)/IDの値を得た。結果を表1の「(IA+IB+IC)/ID」欄に示す。なお、結果が「-」と示されている場合は、圧縮型六方晶窒化硼素由来のピーク強度IA、六方晶窒化硼素由来のピーク強度IB及びウルツ鉱型窒化硼素由来のピーク強度ICのいずれのピークも検出されず、立方晶窒化硼素由来のピークのみが検出されたことを示す。すなわち、結果が「-」と示されている場合は、(IA+IB+IC)/ID=0であることを示す。
【0120】
<評価>
(切削工具の製造および切削性能の評価)
各試料の立方晶窒化硼素焼結体を刃先に用いて、工具形状SNMN120408の工具を作製した。該工具を使用して、下記の切削条件で切削試験を行い、耐摩耗性及び耐欠損性を評価した。
【0121】
(切削条件)
切削方式:乾式切削
被削材:軸受鋼 SUJ2丸棒(硬度HRc61)
切削速度:170m/min
送り:0.12mm/rev.
切り込み量:ap=0.2mm
評価方法:10分間切削を行った際の逃げ面摩耗量(単位:mm)。
【0122】
上記の切削条件は、焼入鋼の高負荷加工に該当する。逃げ面摩耗量が小さいほど、耐摩耗性が高く、切削性能に優れていることを示している。結果を表1の「逃げ面摩耗量(mm)」欄に示す。なお、切削開始後10分以内に工具の欠損が生じた場合は、「欠損」と記す。
【0123】
<考察>
試料No.2-1、試料No.2-2、試料No.3~試料No.5、試料No.14、試料No.15、試料No.17~試料No.22の製造条件、及び、得られた立方晶窒化硼素焼結体は実施例に該当する。これらの立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、優れた切削性能を示した。
【0124】
試料No.1の製造方法により得られた立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子の含有割合が35体積%であり、比較例に該当する。従って、試料No.1の製造条件も、比較例に該当する。該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、切削開始後10分以内に欠損が生じた。これは、立方晶窒化硼素粒子の割合が40体積%未満であり、立方晶窒化硼素焼結体において強度の劣る結合相の割合が大きく、立方晶窒化硼素焼結体の硬度が低下したためと考えられる。
【0125】
試料No.6の製造方法により得られた立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子の含有割合が90体積%であり、比較例に該当する。従って、試料No.6の製造条件も、比較例に該当する。該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、実施例に比べて逃げ面摩耗量が大きく、耐摩耗性が劣っていた。これは、立方晶窒化硼素粒子の割合が85体積%を超えており、立方晶窒化硼素粒子間の結合を保持する結合相の割合が小さく、立方晶窒化硼素粒子が脱落しやすくなり、摩耗が進行しやすいためと考えられる。
【0126】
試料No.7~試料No.12の製造条件は、触媒を用いる従来の方法で作製された立方晶窒化硼素粉末を用い、比較例に該当する。試料No.7~試料No.12の焼結体は、立方晶窒化硼素粒子中の触媒元素の含有量が0.001質量%以上であり、比較例に該当する。これらの立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、実施例に比べて逃げ面摩耗量が大きく、耐摩耗性が劣っていた。これは、立方晶窒化硼素粒子中に存在する触媒元素が、加工時の被削材との接点付近の圧力及び温度条件下で、立方晶窒化硼素から六方晶窒化硼素への相変換を促進し、刃部領域で硬度及び熱伝導率が低下し、耐摩耗性が低下したためと考えられる。
【0127】
試料No.13の製造条件は、第2工程における温度が2200℃、かつ保持時間が20分であり、比較例に該当する。試料No.13の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子が、円相当径0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の数基準の割合が38%であり、比較例に該当する。該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、実施例に比べて逃げ面摩耗量が大きく、耐摩耗性が劣っていた。これは、円相当径0.5μm超の立方晶窒化硼素粒子の含有割合が小さく、円相当径0.5μm以下の微粒子の割合が大きく、靱性及び熱伝導率が低下し、耐摩耗性が低下したためと考えられる。
【0128】
試料No.16の製造条件は、第2工程における保持時間が90分であり、比較例に該当する。試料No.16の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子が、円相当径2μm超の立方晶窒化硼素粒子を数基準で70%含み、比較例に該当する。該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、切削開始後10分以内に欠損が生じた。これは、円相当径2μm超の立方晶窒化硼素粒子の含有割合が大きいため、強度が低下し、耐欠損性が低下したためと考えられる。
【0129】
[実施例2]
<立方晶窒化硼素焼結体の作製>
〔試料No.3、試料No.8、試料No.23~試料No.26〕
実施例1と同様の方法で、試料No.3及び試料No.8の立方晶窒化硼素焼結体を作製した。試料No.23~試料No.26は、第1工程及び第2工程における各条件を表2の「第1工程」及び「第2工程」欄に示す条件にした以外は、試料No.1と同様の方法で立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0130】
【0131】
<測定>
各試料について、実施例1と同様の方法で、立方晶窒化硼素焼結体の組成(立方晶窒化硼素の含有率、結合相の含有率)、結合相の組成、立方晶窒化硼素粒子の粒径、触媒元素の含有量、X線回折スペクトルを測定した。結果を表2に示す。
【0132】
<評価>
(切削工具の製造および切削性能の評価)
各試料の立方晶窒化硼素焼結体を刃先に用いて、工具形状SNMN120408の工具を作製した。該工具を使用して、下記の切削条件で切削試験を行い、耐欠損性を評価した。
【0133】
(切削条件)
切削方式:乾式切削
被削材:浸炭焼入鋼 SCr420H 4U溝(硬度HRc62)
切削速度:170m/min
送り:0.16mm/rev.
切り込み量:ap=0.2mm
評価方法:欠損が生じるまでの切削時間(分)。
【0134】
上記の切削条件は、焼入鋼の高負荷加工に該当する。欠損が生じるまでの切削時間が長いほど耐欠損性が高く、切削性能に優れていることを示している。結果を表2の「欠損までの切削時間(分)」欄に示す。
【0135】
<考察>
試料No.3、試料No.23~試料No.26の製造条件、及び、得られた立方晶窒化硼素焼結体は実施例に該当する。これらの立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、焼入鋼の高負荷加工においても、欠損が生じるまでの時間が長く、優れた切削性能を示した。中でも、試料No.3、試料No.23及び試料No.24の立方晶窒化硼素焼結体は、(IA+IB+IC)/IDの値が0.05以下であり、切削性能が非常に優れていた。
【0136】
試料No.8の製造条件は、触媒を用いる従来の方法で作製された立方晶窒化硼素粉末を用い、比較例に該当する。試料No.8の焼結体は、立方晶窒化硼素粒子中の触媒元素の含有量が0.001質量%以上であり、比較例に該当する。該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、実施例に比べて欠損までの時間が短く、耐欠損性が劣っていた。これは、立方晶窒化硼素粒子中に存在する触媒元素が、加工時の被削材との接点付近の圧力及び温度条件下で、立方晶窒化硼素から六方晶窒化硼素への相変換を促進し、刃部領域で硬度及び熱伝導率が低下し、耐欠損性が低下したためと考えられる。
【0137】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0138】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。