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  • 特開-電動輸送機器用の電池モジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188051
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電動輸送機器用の電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20221213BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221213BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20221213BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20221213BHJP
   H01M 50/229 20210101ALI20221213BHJP
   H01M 50/236 20210101ALI20221213BHJP
   H01M 50/233 20210101ALI20221213BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20221213BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20221213BHJP
   H01M 50/28 20210101ALI20221213BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20221213BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20221213BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20221213BHJP
   H01M 10/655 20140101ALI20221213BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K3/013
C08K7/02
C08K3/04
C08K7/14
C08K3/26
H01M50/249
H01M50/229
H01M50/236
H01M50/233
H01M50/204 401H
H01M50/293
H01M50/28
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/653
H01M10/655
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022144519
(22)【出願日】2022-09-12
(62)【分割の表示】P 2019538325の分割
【原出願日】2018-01-19
(31)【優先権主張番号】62/449,624
(32)【優先日】2017-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500100822
【氏名又は名称】ティコナ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン・シン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】乗物のための電池モジュールにおいて用いることができるポリマー組成物を提供する。
【解決手段】本ポリマー組成物は、ポリアリーレンスルフィド、熱伝導性粒子状材料、無機粒子状材料、及び繊維状フィラーを含む。本ポリマー組成物は、ISO試験No.179-1:2010にしたがって23℃の温度において測定して約3kJ/m以上のシャルピーノッチ付き衝撃強さ、及びASTM-E1461-13にしたがって求めて約0.7W/m・K以上の面方向熱伝導率を示す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の電池モジュールにおいて用いるためのポリマー組成物であって、ポリアリーレンスルフィド、熱伝導性粒子状材料、無機粒子状材料、及び繊維状フィラーを含み、そしてISO試験No.179-1:2010にしたがって23℃の温度において測定して約3kJ/m以上のシャルピーノッチ付き衝撃強さ、及びASTM-E1461-13にしたがって求めて約0.7W/m・K以上の面方向熱伝導率を示す、前記ポリマー組成物。
【請求項2】
ISO試験No.527:2012にしたがって23℃の温度において求めて約15,000MPa以上の引張弾性率を示す、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性粒子状材料が、前記組成物中のポリアリーレンスルフィド100重量部あたり組成物の約5~約50重量部を構成する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記無機粒子状フィラーが、前記組成物中において用いられるポリアリーレンスルフィド100重量部あたり組成物の約30~約70重量部を構成する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記繊維状フィラーが、前記組成物中において用いられるポリアリーレンスルフィド100重量部あたり約50~約180重量部を構成する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
ポリアリーレンスルフィドが前記組成物の約15重量%~約60重量%を構成する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記ポリアリーレンスルフィドが線状ポリアリーレンスルフィドである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記組成物中において用いられるポリアリーレンスルフィドの50重量%以上が線状ポリアリーレンスルフィドである、請求項7に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記熱伝導性粒子状材料が約50W/m・K以上の固有熱伝導率を有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記熱伝導性粒子状材料がグラファイトを含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記熱伝導性粒子状材料がフレークの形態である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記繊維状フィラーがガラス繊維を含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記無機粒子状材料が約0.6~約2.0のアスペクト比を有する粒子を含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
前記無機粒子状材料が炭酸カルシウム粒子を含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項15】
有機シラン化合物を更に含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項16】
請求項1に記載のポリマー組成物を含む電池モジュールであって、ハウジング内に配置されている少なくとも1つの電気化学セルを含む、前記電池モジュール。
【請求項17】
前記ハウジングが前記ポリマー組成物を含む、請求項16に記載の電池モジュール。
【請求項18】
前記電池モジュールが複数の電気化学セルを含む、請求項16に記載の電池モジュール。
【請求項19】
前記ハウジングが、その中に前記電気化学セルが収容される区画を画定する外壁を含む、請求項18に記載の電池モジュール。
【請求項20】
前記外壁が前記ポリマー組成物を含む、請求項18に記載の電池モジュール。
【請求項21】
前記ハウジングが、個々の電気化学セルを隔離するための内壁を含む、請求項19に記載の電池モジュール。
【請求項22】
前記内壁が前記ポリマー組成物を含む、請求項21に記載の電池モジュール。
【請求項23】
前記ハウジングが前記区画を閉止するカバーを含む、請求項19に記載の電池モジュール。
【請求項24】
前記カバーが前記ポリマー組成物を含む、請求項23に記載の電池モジュール。
【請求項25】
前記電気化学セルがリチウムイオン電池を含む、請求項16に記載の電池モジュール。
【請求項26】
それに前記ハウジングが接続されるフレームを更に含む、請求項16に記載の電池モジュール。
【請求項27】
前記フレームが前記ポリマー組成物を含む、請求項26に記載の電池モジュール。
【請求項28】
請求項16に記載の電池モジュールを含む乗物。
【請求項29】
前記乗物が、電動輸送機器、ハイブリッド電動輸送機器、又はプラグインハイブリッド電動輸送機器である、請求項28に記載の乗物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[001]本出願は、2017年1月24日出願の米国仮出願62/449,624(その
全部を参照として本明細書中に包含する)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
[0002]それらの原動力の全部又は一部のために電力を用いる電動輸送機器(electric vehicle)(例えば、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車)は、より伝統的なガソリン駆動の乗物に対して数多くの有利性を与えることができる。例えば、電動輸送機器は、望ましくない排気生成物の生成をより少なくすることができ、内燃エンジンを用いる乗物と比べてより高い燃料効率を示すことができる。電動輸送機器技術は発展し続けているので、かかる乗物が再充電の必要なしに走行することができる距離を増加させるためにかかる乗物のための改良された電子システムを提供する必要性が存在する。この点に関し、製造業者は、高い電荷密度を有し、したがって高いレベルの電荷を貯蔵することができるリチウムイオン電池を開発し始めた。残念なことに、リチウムイオン電池はまた、温度感受性である傾向を有し、したがって過度に高い温度に達すると不具合を起こす可能性がある。この理由のために、リチウムイオン電池モジュールのハウジングにおいては、運転中に電池から熱を伝導放出させるために伝導性金属がしばしば用いられている。これらの金属は、多少は有効であるが、高価であり、比較的重量が大きい場合があり、これにより乗物の出力効率が減少する。同様の機能を果たす熱伝導性ポリマーが存在するが、これらの組成物はこれも熱感受性であるポリマーから形成される傾向があり、或いはこれらの組成物は殆どの自動車用途の厳しい要件を満足するために必要な程度の強度に欠けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
[0003]したがって、かかる用途において用いることができる改良された電池モジュール及び熱伝導性ポリマー組成物に対する必要性が現在のところ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0004]本発明の一態様によれば、乗物の電池モジュールにおいて用いるためのポリマー組成物が開示される。このポリマー組成物は、ポリアリーレンスルフィド、熱伝導性粒子状材料、無機粒子状材料、及び繊維状フィラーを含む。この組成物は、ISO試験No.179-1:2010にしたがって23℃の温度において測定して約3kJ/m以上のシャルピーノッチ付き衝撃強さ、及びASTM-E1461-13にしたがって求めて約0.7W/m・K以上の面方向熱伝導率を示す。幾つかの態様においては、この電池モジュールは、ハウジング内に配置されているリチウムイオン電池のような少なくとも1つの電気化学セルを含んでいてよい。所望の場合には、ハウジング(例えば外壁、内壁、カバー等)に本ポリマー組成物を含ませることができる。ハウジングはフレーム(これにも本ポリマー組成物を含ませることができる)に接続することができる。
【0005】
[0005]下記において、本発明の他の特徴及び形態をより詳細に示す。
[0006]当業者に対するそのベストモードを含む本発明の完全且つ実施化可能な程度の開示を、添付の図面の参照を含む明細書の残りの部分においてより詳しく示す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】[0007]図1は、本発明の電池モジュールを用いることができる乗物の一態様の斜視図である。
図2】[0008]図2は、本発明の電池モジュールを用いることができるハイブリッド電動輸送機器の一態様の概要切欠図である。
図3】[0009]図3は、本発明において用いることができる電池モジュールの一態様の部分分解組立図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[0010]本議論は代表的な態様のみの記載であり、本発明のより広い形態を限定することは意図しないことが当業者に理解される。
[0011]一般的に言えば、本発明は、1以上の電気化学セル(例えば、リチウムイオン電池、ニッケル金属水素化物電池、リチウムポリマー電池等)を含む、電動輸送機器において用いるための電池モジュールに関する。注目すべきことは、モジュールの少なくとも一部は熱伝導性ポリマー組成物を含む。本発明者らは、組成物において用いる成分をそれらの相対濃度と共に選択的に制御することによって、この組成物が、熱伝導率、衝撃強さ(例えばシャルピーノッチ付き衝撃強さ)、及び機械特性(例えば引張弾性率及び曲げ弾性率)のユニークな組合せ(これによりこの組成物を電動輸送機器のための電池モジュールにおいて容易に用いることが可能になる)を示すことができることを見出した。例えば、本ポリマー組成物は、ISO試験No.179-2010(ASTM-D256-10、方法Bと技術的に同等)にしたがって23℃において測定して、約3kJ/m以上、幾つかの態様においては約4kJ/m以上、幾つかの態様においては約5kJ/m以上、幾つかの態様においては約6~約30kJ/m、幾つかの態様においては約6~約25kJ/mのシャルピーノッチ付き衝撃強さを示すことができる。本組成物はまた、約40メガパスカル(MPa)以上、幾つかの態様においては約50MPa以上、幾つかの態様においては約55~約200MPa、幾つかの態様においては約60~約150MPaの引張り強さ、並びに約15,000MPa以上、幾つかの態様においては約16,000MPa以上、幾つかの態様においては約17,000~約50,000MPa、幾つかの態様においては約18,000~約25,000MPaの引張弾性率も示すことができ、ここで引張特性は、ISO試験No.527:2012(ASTM-D638-14と技術的に同等)にしたがって23℃において求められる。本組成物はまた、約70~約500MPa、幾つかの態様においては約80~約400MPa、幾つかの態様においては約90~約300MPaの曲げ強さ、及び/又は約15,000MPa~約30,000MPa、幾つかの態様においては約18,000MPa~約25,000MPa、幾つかの態様においては約19,000MPa~約24,000MPaの曲げ弾性率も示すことができる。曲げ特性は、ISO試験No.178:2010(ASTM-D790-10と技術的に同等)にしたがって23℃において求めることができる。
【0008】
[0012]従来の知識に反して、高い衝撃強さと引張/曲げ特性におけるかかるバランスを、熱伝導性に悪影響を与えることなく達成することができることが見出された。したがって、本組成物は、電池モジュールから熱を伝達除去するための熱経路を生成することができるので、「ホットスポット」を迅速に排除することができ、使用中にモジュールの全体的な温度を低下させることができる。より詳しくは、本組成物は、ASTM-E1461-13にしたがって求めて、約0.7W/m・K以上、幾つかの態様においては約0.8W/m・K以上、約1W/m・K以上、幾つかの態様においては約1.5~約10W/m・Kの面方向熱伝導率を有する。
【0009】
[0013]本発明者らは、かかる複数の特性のユニークな組合せを有するポリマー組成物を達成する能力は、組成物中において用いる成分の特質及びそれらの相対濃度を選択的に制御することによって達成することができることを見出した。例えば、本組成物は、ポリアリーレンスルフィドを、熱伝導性粒子状材料、無機粒子状フィラー、及び繊維状フィラーと組み合わせて用いることができる。熱伝導性粒子状材料は、通常は組成物中において用いる1種類又は複数のポリアリーレンスルフィド100重量部あたりの重量基準で約5~
約50部、幾つかの態様においては約8部~約40部、幾つかの態様においては約10~約35部の量で用いる。また、無機粒子状フィラーは、組成物中において用いる1種類又は複数のポリアリーレンスルフィド100重量部あたりの重量基準で約30~約70部、幾つかの態様においては約35~約60部、幾つかの態様においては約40~約55部の量で用いることができ、一方で繊維状フィラーは、組成物中において用いる1種類又は複数のポリアリーレンスルフィド100重量部あたりの重量基準で約50~約180部、幾つかの態様においては約80~約160部、幾つかの態様においては約90~約150部の量で用いることができる。例えば、熱伝導性粒子状材料は、通常はポリマー組成物の約1重量%~約20重量部、幾つかの態様においては約2重量%~約15重量%、幾つかの態様においては約3重量%~約10重量%を構成し、無機粒子状材料は、通常はポリマー組成物の約1重量%~約30重量%、幾つかの態様においては約5重量%~約25重量%、幾つかの態様においては約10重量%~約20重量%を構成し、繊維状フィラーは、通常はポリマー組成物の約25重量%~約70重量%、幾つかの態様においては約30重量%~約65重量%、幾つかの態様においては約40重量%~約60重量%を構成する。ポリアリーレンスルフィドはまた、通常はポリマー組成物の約15重量%~約60重量%、幾つかの態様においては約20重量%~約55重量%、幾つかの態様においては約25重量%~約50重量%を構成する。
【0010】
[0014]ここで、本発明の種々の態様をより詳細に記載する。
I.ポリマー組成物:
A.ポリアリーレンスルフィド:
[0015]本ポリマー組成物中において用いる1種類又は複数のポリアリーレンスルフィドは、一般に、式:
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、Ar、Ar、Ar、及びArは、独立して6~18炭素原子のアリーレン単位であり;
W、X、Y、及びZは、独立して、-SO-、-S-、-SO-、-CO-、-O-、-C(O)O-、又は1~6炭素原子のアルキレン若しくはアルキリデン基から選択される二価の連結基であり、連結基の少なくとも1つは-S-であり;
そして、n、m、i、j、k、l、o、及びpは、独立して、0、1、2、3、又は4であり、但しこれらの合計は2以上である)
の繰り返し単位を有する。
【0013】
[0016]アリーレン単位のAr、Ar、Ar、及びArは、選択的に置換又は非置換であってよい。有利なアリーレン単位は、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセン、及びフェナントレンである。ポリアリーレンスルフィドは、通常は約30モル%より多く、約50モル%より多く、又は約70モル%より多いアリーレンスルフィド(-S-)単位を含む。例えば、ポリアリーレンスルフィドは、少なくとも約85モル%の、2つの芳香環に直接結合しているスルフィド連結基を含んでいてよい。1つの特定の態様においては、ポリアリーレンスルフィドは、本発明においてその成分としてフェニレンスルフィド構造:-(C-S)-(式中、nは1以上の整数である)を含むものとして定義されるポリフェニレンスルフィドである。
【0014】
[0017]ポリアリーレンスルフィドを製造するのに用いることができる合成技術は、当該技術において一般的に知られている。例として、ポリアリーレンスルフィドを製造するプ
ロセスには、ヒドロスルフィドイオンを与える材料(例えばアルカリ金属硫化物)を、有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物と反応させることを含めることができる。アルカリ金属硫化物は、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、又はこれらの混合物であってよい。アルカリ金属硫化物が水和物又は水性混合物である場合には、アルカリ金属硫化物を、重合反応の前に脱水操作によって処理することができる。アルカリ金属硫化物はまた、in situで生成させることもできる。更
に、少量のアルカリ金属水酸化物を反応中に含めて、アルカリ金属硫化物と共に非常に少量で存在する可能性があるアルカリ金属ポリスルフィド又はアルカリ金属チオスルフェートのような不純物を除去するか又は(例えばかかる不純物を無害の材料に変化させるために)反応させることができる。
【0015】
[0018]ジハロ芳香族化合物は、限定なしに、o-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、p-ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ-ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、又はジハロジフェニルケトンであってよい。ジハロ芳香族化合物は、単独か又はその任意の組合せのいずれかで用いることができる。具体的な代表的ジハロ芳香族化合物としては、限定なしに、p-ジクロロベンゼン;m-ジクロロベンゼン;o-ジクロロベンゼン;2,5-ジクロロトルエン;1,4-ジブロモベンゼン;1,4-ジクロロナフタレン;1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼン;4,4’-ジクロロビフェニル;3,5-ジクロロ安息香酸;4,4’-ジクロロジフェニルエーテル;4,4’-ジクロロジフェニルスルホン;4,4’-ジクロロジフェニルスルホキシド;及び4,4’-ジクロロジフェニルケトン;を挙げることができる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素であってよく、同じジハロ芳香族化合物中の2つのハロゲン原子は、同一か又は互いと異なっていてよい。一態様においては、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、又はこれらの2以上の化合物の混合物をジハロ芳香族化合物として用いる。当該技術において公知なように、ポリアリーレンスルフィドの末端基を形成するためか、或いは重合反応及び/又はポリアリーレンスルフィドの分子量を調節するために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物ではない)をジハロ芳香族化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0016】
[0019]1種類又は複数のポリアリーレンスルフィドはホモポリマー又はコポリマーであってよい。例えば、ジハロ芳香族化合物の選択的な組み合わせによって、2以上の異なる単位を含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。例えば、p-ジクロロベンゼンをm-ジクロロベンゼン又は4,4’-ジクロロジフェニルスルホンと組み合わせて用いる場合には、式:
【0017】
【化2】
【0018】
の構造を有するセグメント、及び式:
【0019】
【化3】
【0020】
の構造を有するセグメント、又は式:
【0021】
【化4】
【0022】
の構造を有するセグメントを含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。
[0020]1種類又は複数のポリアリーレンスルフィドは、線状、半線状、分岐、又は架橋型であってよい。線状ポリアリーレンスルフィドは、通常は80モル%以上の繰り返し単位:-(Ar-S)-を含む。かかる線状ポリマーはまた、少量の分岐単位又は架橋単位を含んでいてもよいが、分岐又は架橋単位の量は、通常はポリアリーレンスルフィドの全モノマー単位の約1モル%未満である。線状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、上記に記載の繰り返し単位を含むランダムコポリマー又はブロックコポリマーであってよい。また、半線状ポリアリーレンスルフィドは、3つ以上の反応性官能基を有する少量の1種類以上のモノマーをポリマー中に導入した架橋構造又は分岐構造を有していてよい。例として、半線状ポリアリーレンスルフィドを形成するのに用いるモノマー成分に、分岐ポリマーの製造において用いることができる分子あたり2以上のハロゲン置換基を有する所定量のポリハロ芳香族化合物を含ませることができる。かかるモノマーは、式:R’X(式中、それぞれのXは、塩素、臭素、及びヨウ素から選択され、nは3~6の整数であり、R’は、約4個以下のメチル置換基を有していてよい価数nの多価芳香族基であり、R’中の炭素原子の総数は6~約16の範囲内である)によって表すことができる。半線状ポリアリーレンスルフィドを形成するのに用いることができる分子あたり2個より多いハロゲンで置換されている幾つかのポリハロ芳香族化合物の例としては、1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3-ジクロロ-5-ブロモベンゼン、1,2,4-トリヨードベンゼン、1,2,3,5-テトラブロモベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロ-2,4,6-トリメチルベンゼン、2,2’,4,4’-テトラクロロビフェニル、2,2’,5,5’-テトラヨードビフェニル、2,2’,6,6’-テトラブロモ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル、1,2,3,4-テトラクロロナフタレン、1,2,4-トリブロモ-6-メチルナフタレンなど、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
[0021]必ずしも必須ではないが、線状ポリアリーレンスルフィドは、それらの比較的高い結晶化度(これにより衝撃強さを向上させることができる)のために特に好適である可能性がある。例えば、線状ポリアリーレンスルフィドは、ポリマー組成物中において用いるポリアリーレンスルフィドの約50重量%以上、幾つかの態様においては約70重量%以上、幾つかの態様においては約80重量%~約100重量%(例えば100重量%)を構成することができる。
【0024】
B.熱伝導性粒子状材料:
[0022]ポリマー組成物中において用いる熱伝導性粒子状材料は、大きい比表面積を有していてよい。比表面積は、例えば約0.5m/g以上、幾つかの態様においては約1m/g以上、幾つかの態様においては約2~約40m/gであってよい。比表面積は、当該技術において一般的に知られており、Brunauer, Emmet, 及びTeller(J. Amer. Chem. Soc., vol.60, 1938年2月, pp.309-319)によって記載されている吸着ガスとして窒素
を用いる物理的ガス吸着法(BET法)などによる標準的な方法にしたがって求めることができる。粒子状材料はまた、ASTM-B527-15などにしたがって求めて約0.
2~約1.0g/cm、幾つかの態様においては約0.3~約0.9g/cm、幾つかの態様においては約0.4~約0.8g/cmの粉末タップ密度を有していてもよい。
【0025】
[0023]熱伝導性粒子状材料はまた、約50W/m・K以上、幾つかの態様においては約100W/m・K以上、幾つかの態様においては約150W/m・K以上のような高い固有熱伝導率を有していてもよい。かかる材料の例としては、例えば、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)、グラファイト(例えば膨張グラファイト)、炭化ケイ素(SiC)、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム等)、金属粉末(例えば、アルミニウム、銅、青銅、黄銅等)並びにこれらの組合せを挙げることができる。グラファイトは、本発明の組成物において用いるのに特に好適である。実際、幾つかの態様においては、グラファイトは、ポリマー組成物中において用いる熱伝導性粒子状材料の大部分、例えば熱伝導性粒子状材料の約50重量%以上、幾つかの態様においては約70重量%以上、幾つかの態様においては約90重量%~100重量%(例えば100重量%)を構成することができる。
【0026】
[0024]熱伝導性粒子状材料は、通常は、例えばISO-13320:2009にしたがい、レーザー回折法を用いて(例えばHoriba LA-960粒径分布分析装置を用いて)測定し
て約1~約100マイクロメートル、幾つかの態様においては約2~約80マイクロメートル、幾つかの態様においては約5~約60マイクロメートルの平均寸法(例えば直径又は長さ)を有する。幾つかの態様においては、粒子状材料は、約4:1以上、幾つかの態様においては約8:1以上、幾つかの態様においては約10:1~約2000:1のような比較的高いアスペクト比(例えば平均長さ又は直径を平均厚さで割った値)を有するという点で「フレーク」形状を有していてよい。平均厚さは、例えば、約10マイクロメートル以下、幾つかの態様においては約0.01マイクロメートル~約8マイクロメートル、幾つかの態様においては約0.05マイクロメートル~約5マイクロメートルであってよい。
【0027】
C.無機粒子状フィラー:
[0025]示されているように、ポリマー組成物中において無機粒子状フィラーも用いる。当該技術において公知の種々のタイプの無機粒子状フィラーを用いることができる。例えば、クレイ鉱物は本発明において用いるのに特に好適である可能性がある。かかるクレイ鉱物の例としては、例えば、タルク(MgSi10(OH))、ハロイサイト(AlSi(OH))、カオリナイト(AlSi(OH))、イライト((K,HO)(Al,Mg,Fe)(Si,Al)10[(OH),(HO)])、モンモリロナイト(Na,Ca)0.33(Al,Mg)Si10(OH)・nHO)、バーミキュライト((MgFe,Al)(Al,Si)10(OH)・4HO)、パリゴルスカイト((Mg,Al)Si10(OH)・4(HO))、パイロフィライト(AlSi10(OH))等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。クレイ鉱物に代えて、又はこれに加えて、更に他の無機フィラーを用いることもできる。例えば、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、マイカ、珪藻土、珪灰石などのような他の好適なシリケートフィラーを用いることもできる。無機粒子状フィラーは、通常は、例えばISO-13320:2009にしたがい、レーザー回折法を用いて(例えばHoriba LA-960粒径分布分析装置を用いて)測定して約1~約1
00マイクロメートル、幾つかの態様においては約2~約80マイクロメートル、幾つかの態様においては約5~約60マイクロメートルの平均寸法(例えば直径又は長さ)を有する粒子を含む。幾つかの態様においては、粒子は、それらが約0.6~約2.0、幾つかの態様においては約0.7~約1.5、幾つかの態様においては約0.8~約1.2のような1付近のアスペクト比(例えば、平均長さ又は直径を平均厚さで割った値)を有す
るという点で概して球状の形状を有していてよい。高いアスペクト比の材料と比べたそれらの固有の柔軟性のために、概して球状の粒子を用いると、組成物の全体的な靱性及び衝撃強さを更に向上させることができる。幾つかの態様においては、概して球状の炭酸カルシウム粒子が本発明において用いるのに特に好適である可能性がある。
【0028】
D.繊維状フィラー;
[0026]繊維状フィラーは、一般にそれらの質量に対して高い程度の引張強さの繊維を含む。例えば、繊維の極限引張強さ(ASTM-D2101にしたがって測定)は、通常は約1,000~約15,000MPa、幾つかの態様においては約2,000MPa~約10,000MPa、幾つかの態様においては約3,000MPa~約6,000MPaである。高強度の繊維は、ガラス、セラミクス(例えばアルミナ又はシリカ)等並びにそれらの混合物のような同様に事実上電気絶縁性である材料から形成することができる。E-ガラス、A-ガラス、C-ガラス、D-ガラス、AR-ガラス、R-ガラス、S1-ガラス、S2-ガラス等、及びこれらの混合物のようなガラス繊維が特に好適である。
【0029】
[0027]繊維はまた、比較的大きい長さ(これは熱伝導性を更に増大させると考えられる)を有していてもよい。例えば、繊維は、約1~約400マイクロメートル、幾つかの態様においては約80~約250マイクロメートル、幾つかの態様においては約100~約200マイクロメートル、幾つかの態様においては約110~約180マイクロメートルの体積平均長さを有していてよい。繊維はまた、狭い長さ分布を有していてもよい。即ち、繊維の少なくとも約70体積%、幾つかの態様においては繊維の少なくとも約80体積%、幾つかの態様においては繊維の少なくとも約90体積%は、約1~約400マイクロメートル、幾つかの態様においては約80~約250マイクロメートル、幾つかの態様においては約100~約200マイクロメートル、幾つかの態様においては約110~約180マイクロメートルの範囲の長さを有する。上述の長さの特徴を有することに加えて、繊維はまた、得られるポリマー組成物の機械特性を向上させるために、比較的高いアスペクト比(平均長さを見かけ直径で割った値)を有していてもよい。例えば、繊維は、約2~約50、幾つかの態様においては約4~約40のアスペクト比を有していてよく、幾つかの態様においては約5~約20が特に有益である。繊維は,例えば約5~約35マイクロメートル、幾つかの態様においては約8~約30マイクロメートルの見かけ直径を有していてよい。
【0030】
D.他の成分:
[0028]また、有機シラン化合物、滑剤、顔料、酸化防止剤、UV安定剤、界面活性剤、ワックス、難燃剤、垂れ防止剤、更なるポリマー、並びに特性及び加工性を向上させるために加える他の材料のような広範囲の更なる添加剤をポリマー組成物中に含ませることもできる。例えば幾つかの態様においては、ポリマー組成物に有機シラン化合物を含ませて、ポリアリーレンスルフィドとフィラー成分(例えば繊維状フィラー)との間の適合性を向上させることができる。用いる場合には、かかる有機シラン化合物は、通常はポリマー組成物の約0.01重量%~約3重量%、幾つかの態様においては約0.02重量%~約1重量%、幾つかの態様においては約0.05~約0.5重量%を構成する。有機シラン化合物は、例えば、ビニルアルコキシシラン、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン、及びこれらの組合せのような当該技術において公知の任意のアルコキシシランであってよい。例えば一態様においては、有機シラン化合物は次の一般式:
-Si-(R
(式中、
は、スルフィド基(例えば-SH)、1~10個の炭素原子を含むアルキルスルフィド(例えば、メルカプトプロピル、メルカプトエチル、メルカプトブチル等)、2~10個の炭素原子を含むアルケニルスルフィド、2~10個の炭素原子を含むアルキニルス
ルフィド、アミノ基(例えばNH)、1~10個の炭素原子を含むアミノアルキル(例えば、アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチル等);2~10個の炭素原子を含むアミノアルケニル、2~10個の炭素原子を含むアミノアルキニルなどであり;
は、1~10炭素原子のアルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシなどである)
を有していてよい。
【0031】
[0029]混合物中に含ませることができる有機シラン化合物の幾つかの代表例としては、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリメトキシシラン、エチレントリメトキシシラン、エチレントリエトキシシラン、エチントリメトキシシラン、エチントリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン又は3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3-アミノプロピル)テトラメトキシシラン、ビス(3-アミノプロピル)テトラエトキシジシロキサン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン等、及びこれらの組合せが挙げられる。特に好適な有機シラン化合物は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン及び3-メルカプトプロピルトリメトキシシランである。
【0032】
[0030]所望の場合には、ポリアリーレンスルフィドと組み合わせて他のポリマーを用いることもできる。例えば、組成物中において用いるのに好適なポリマーとしては、ポリアミド(例えば、ナイロン-6、ナイロン-66等)、ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン、液晶ポリマー、ポリアリールエーテルケトン(例えばポリエーテルエーテルケトン)、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシドなどを挙げることができる。
【0033】
[0031]用いる特定の成分に関係なく、ポリアリーレンスルフィド、熱伝導性粒子状材料、無機粒子状フィラー、繊維状フィラー、及び他の随意的な添加剤は、一緒に溶融加工又はブレンドすることができる。成分は、バレル(例えば円筒形のバレル)内に回転可能に備えられて収容されている少なくとも1つのスクリューを含み、スクリューの長さに沿って供給セクション及び供給セクションの下流に配置されている溶融セクションを画定し得る押出機に、別々か又は組み合わせて供給することができる。通常は、押出機の混合及び/又は溶融セクション内で用いられる分配及び/又は分散混合部材の数を最小にすることが望ましい。このようにすると、押出中に繊維の長さが減少する程度を最小にすることができ、これにより上述のように熱伝導性が増大する。繊維は、ポリアリーレンスルフィドを供給する位置の下流の位置(例えばホッパー)で加えることができる。繊維はまた、繊維の分解を更に最小にするために、ポリアリーレンスルフィドの下流の位置で押出機に供給することもできる。熱伝導性粒子状材料及び無機粒子状フィラーもまた、通常はポリアリーレンスルフィドを供給する位置の下流の位置で押出機に加える。押出機の1以上のセクションを、通常は例えば約200℃~約450℃、幾つかの態様においては約220℃~約350℃、幾つかの態様においては約250℃~約350℃の温度範囲内で加熱して組成物を形成する。スクリューの速度は、所望の滞留時間、剪断速度、溶融加工温度等を
達成するように選択することができる。例えば、スクリュー速度は、約50~800回転/分(rpm)、幾つかの態様においては約70~約150rpm、幾つかの態様においては約80~約120rpmの範囲であってよい。また、溶融ブレンド中のみかけ剪断速度は、約100秒-1~約10,000秒-1、幾つかの態様においては約500秒-1~約5000秒-1、幾つかの態様においては約800秒-1~約1200秒-1の範囲であってよい。みかけ剪断速度は、4Q/πR(式中、Qはポリマー溶融体の体積流量(m/秒)であり、Rはそれを通って溶融ポリマーが流れる毛細管(例えば押出機ダイ)の半径(m)である)に等しい。
【0034】
[0032]得られるポリマー組成物の結晶化温度は、約250℃以下、幾つかの態様においては約100℃~約245℃、幾つかの態様においては約150℃~約240℃にすることができる。また、ポリマー組成物の融点は、約250℃~約320℃、幾つかの態様においては約260℃~約300℃の範囲にすることができる。融点及び結晶化温度は、当該技術において周知なように、ISO試験No.11357:2007にしたがい、示差走査熱量測定を用いて求めることができる。かかる融点においても、融点に対する、荷重たわみ温度(DTUL)(短時間耐熱性の指標)の比は、なお比較的高く維持することができる。例えば、この比は、約0.65~約1.00、幾つかの態様においては約0.70~約0.99、幾つかの態様においては約0.80~約0.98の範囲にすることができる。具体的なDTUL値は、例えば、約250℃~約340℃、幾つかの態様においては約260℃~約330℃、幾つかの態様においては約270℃~約320℃の範囲にすることができる。かかる高いDTUL値は、中でも、小さい寸法公差を有する部品の製造中にしばしば用いられる高速プロセスを使用することを可能にすることができる。
【0035】
II.電池モジュール:
[0033]上述したように、本発明のポリマー組成物は、熱を除去、伝導、及び/又は吸収させるために、電池モジュールにおいて用いることができる。電池モジュールは、一般に電気化学セル(例えば電池)の収納又は収容、電気化学セル素子の互いとの接続及び/又は乗物の電気システムの他の部品との接続、並びに電気化学セル素子及びシステムの他の機構の調節に関与する。熱伝導性ポリマー組成物は、電池モジュールの独立した部品(例えばヒートシンク)として用いることができ、或いは1以上の電気化学セルのためのハウジング、又はかかるハウジングが接続されるフレームなどにおけるモジュールの幾つかの他の機能を果たすこともできる。これに関係なく、これらの部品は、成形(例えば、射出成形、圧縮成形等)、キャスト、熱成形等などによる種々の異なるプロセスを用いて形成することができる。例えば、部品は、ポリマー組成物から形成される顆粒を金型中に射出し、成形し、その後に冷却する一成分射出成形プロセスを用いて成形することができる。得られる部品のデザイン及び形状は、当該技術において公知なように変化させることができ、具体的な用途、必要な熱伝達の程度、部品の位置、及び利用できるスペースの量のような種々の異なるファクターによって定めることができる。
【0036】
[0034]通常は、電池モジュールは、ハウジング内に配置される1以上の電気化学セル(例えば、リチウムイオン電池、ニッケル金属水素化物電池、リチウムポリマー電池等)を含む。例えば、モジュールは、2以上、幾つかの態様においては3以上、幾つかの態様においては4~20のセルを用いることができる。所望の場合には、それぞれの個々のセルをケース内に個々に収納することもできる。更に、モジュールハウジングをフレーム又はカバーに接続して、使用中に1つ又は複数のセルを保護及び安定化させることができる。熱伝導性ポリマー組成物を用いて、個々のセルのケース、モジュールハウジング、フレーム等などの場合のようにモジュールの任意の部品の全部又は一部を形成することができる。
【0037】
[0035]例えば図3を参照すると、電池モジュール22の1つの特定の態様(例えば電池
パック)が示されている。電池モジュール22は、電荷を貯蔵するように構成されている複数の電気化学セル24を含む。セルの形状は、角柱形、長円形、円筒形、多角形等のように所望に応じて変化させることができる。セル24は、通常は複数の負電極40、正電極42、及び交互に積層されているセパレーターを含む。セル24は、バスバーのようなコネクターを用いて互いに、又は電池モジュールの他の部品に電気接続することができる。電池モジュール22はまたハウジング26も含み、これは1以上の電気化学セル24を受容するための区画29を画定する外壁36を含んでいてもよい。所望の場合には、ハウジング36にはまた、1以上の内壁28も含ませて個々の電気化学セル24を更に互いから隔離させることもできる。ハウジング26にはまた、区画29を閉止するためのカバー30も含ませることができ、これには場合によって電解液を区画29中に供給するために複数の開口34と流体連絡している溝32を含ませることができる。ハウジング内に供給したら、開口34を密閉して電解液が区画29内に保持されるようにすることができる。
【0038】
[0036]上記で示したように、本発明の熱伝導性ポリマー組成物を用いて、外壁36、内壁28、及び/又はカバー30のようなハウジング36の1以上の部品を形成することができる。例えば示されている態様においては、本組成物を用いて外壁38を形成している。具体的には示していないが、電池モジュールにはまた当該技術において公知の他の部品を含ませることもできることを理解すべきである。例えば、電池モジュールに、公知の技術を用いて、例えばオーバーモールド等によってハウジングに接続されているフレームを含ませることができる。フレームは、モジュールを乗物構造体に取り付けることを補助するために用いることができ、熱伝導性ポリマー組成物又は通常の材料(例えばアルミニウムのような金属)から形成することができる。
【0039】
[0037]用いる特定の構造に関係なく、電池モジュールは、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、又は駆動のために電力を用いる他のタイプの乗物(「電動輸送機器」と総称される)のような広範囲の乗物において用いることができる。乗物は、自動車、バス、トラック、オートバイ、ボート等の形態であってよい。例えば図1を参照すると、乗物10のための駆動力の全部又は一部を提供するための電池システム20を有する自動車(例えば乗用車)の形態の好適な乗物10の一態様が示されている。図1においては、電池システム20は乗物のトランク又は後部の中に配置されるように示されているが、他の代表的な態様によれば、電池モジュール20の位置は変化させることができる。例えば、電池モジュール20の位置は、乗物内の利用できるスペース、乗物の所望の重量バランス、モジュール20と共に用いられる他の部品(例えば、電池管理システム、排気口、又は冷却装置等)の位置、及び種々の他の考慮事項に基づいて選択することができる。図2は、ハイブリッド電動輸送機器の形態で与えられている特定の乗物10Aの切欠概要図を示す。この態様においては、電池モジュール20Aは、燃料タンク12付近の乗物10Aの後部の近くに装備されている。勿論、電池モジュール20Aはまた、燃料タンク12に直接隣接して装備することもでき、或いは乗物10Aの後部内の別の区画(例えばトランク)内に装備することができ、或いは乗物10A内の他の箇所に装備することができる。乗物10Aが乗物10Aを駆動させるためにガソリン動力も用いる場合には、内燃エンジン14を装備することができる。電気モーター16、動力分割機構17、及び発電機18も、乗物の駆動システムの一部として装備される。かかる乗物10Aは、電池モジュール20Aのみによって、エンジン14のみによって、又は電池モジュール20Aとエンジン14の両方によって動力供給又は駆動することができる。他の代表的な態様にしたがって他のタイプの乗物及び乗物駆動システムに関する構成を用いることができ、図2の概要図は本出願において記載されている主題の範囲を限定するとはみなされないことを留意すべきである。
【実施例0040】
[0038]本発明は、以下の実施例を参照してより良好に理解することができる。
試験法:
[0039]融点:融点(Tm)は、当該技術において公知なように示差走査熱量測定(DSC)によって求めることができる。融点は、ISO試験No.11357-2:2013によって求められる示差走査熱量測定(DSC)ピーク融解温度である。DSC手順においては、TA-Q2000装置で行うDSC測定を用いて、ISO標準規格10350に示されているように試料を20℃/分で加熱及び冷却した。
【0041】
[0040]引張弾性率、引張応力、及び破断点引張伸び:引張特性は、ISO試験No.527:2012(ASTM-D638-14と技術的に同等)にしたがって試験することができる。80mmの長さ、10mmの厚さ、及び4mmの幅を有する同じ試験片試料について、弾性率及び強度の測定を行うことができる。試験温度は23℃であってよく、試験速度は1又は5mm/分であってよい。
【0042】
[0041]曲げ弾性率及び曲げ応力:曲げ特性は、ISO試験No.178:2010(ASTM-D790-10と技術的に同等)にしたがって試験することができる。この試験は64mmの支持材スパンに関して行うことができる。試験は、未切断のISO-3167多目的棒材の中央部分について行うことができる。試験温度は23℃であってよく、試験速度は2mm/分であってよい。
【0043】
[0042]ノッチ付きシャルピー衝撃強さ:ノッチ付きシャルピー特性は、ISO試験No.ISO-179-1:2010(ASTM-D256-10,方法Bと技術的に同等)にしたがって試験することができる。この試験は、タイプAのノッチ(0.25mmの底半径)、及びタイプ1の試験片寸法(80mmの長さ、10mmの幅、及び4mmの厚さ)を用いて行うことができる。試験片は、一枚歯フライス盤を用いて多目的棒材の中央部分から切り出すことができる。試験温度は23℃であってよい。
【0044】
[0043]荷重たわみ温度(DTUL):荷重たわみ温度は、ISO試験No.75-2:2013(ASTM-D648-07と技術的に同等)にしたがって求めることができる。より詳しくは、80mmの長さ、10mmの厚さ、及び4mmの幅を有する試験片試料を、沿層方向3点曲げ試験にかけることができる。ここで、規定荷重(最大外繊維応力)は1.8メガパスカルであった。試験片をシリコーン油浴中に降下させることができ、そこで0.25mm(ISO試験No.75-2:2013に関しては0.32mm)たわむまで温度を2℃/分で上昇させる。
【0045】
実施例:
[0044]試料1は、16重量%のFORTRON(登録商標)0203(線状PPS)、13重量%
のRYTON(登録商標)P25(分岐PPS)、1重量%のFORTRON 110(線状PPS)、2重
量%のカーボンブラック、50重量%のガラス繊維、及び18重量%のマイカから形成される。
【0046】
[0045]試料2は、33.62重量%のFORTRON(登録商標)0203(線状PPS)、1重
量%の黒色顔料、45重量%のガラス繊維、5重量%のフレーク状黒鉛(3715 RF174, Asbury)、0.08重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシラン、15重量%の炭酸カルシウム、及び0.3重量%の滑剤(Glycolube P)から形成される。
【0047】
[0046]試料1を熱特性及び機械特性に関して試験し、その結果を下表に与える。
【0048】
【表1】
【0049】
[0047]本発明のこれら及び他の修正及び変更は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく当業者によって実施することができる。更に、種々の態様の複数の形態は、全体的又は部分的の両方で相互に交換することができることを理解すべきである。更に、当業者であれば、上記の記載は例のみの目的であり、添付の特許請求の範囲において更に記載されている発明を限定することは意図しないことを認識するであろう。
図1
図2
図3
【外国語明細書】