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特開2022-188079結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の調製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188079
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の調製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20025 20180101AFI20221213BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20221213BHJP
   G01N 1/30 20060101ALI20221213BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G01N23/20025
G01N23/207
G01N1/30
G01N1/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147199
(22)【出願日】2022-09-15
(62)【分割の表示】P 2020036307の分割
【原出願日】2020-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019210754
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 慈将
(72)【発明者】
【氏名】松本 理惠
(57)【要約】
【課題】結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の調製方法の提供。
【解決手段】本発明によれば、結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試
料の調製方法であって、(A)解析対象化合物をそのカウンターイオン化合物とイオンペ
ア形成させる工程と、(B)イオンペア形成した前記化合物を結晶スポンジに浸漬させる
工程とを含んでなり、前記解析対象化合物が塩基性化合物または酸性化合物である方法が
提供される。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の調製方法であって、(A
)解析対象化合物をそのカウンターイオン化合物とイオンペア形成させる工程と、(B)
イオンペア形成した前記化合物を結晶スポンジに浸漬させる工程とを含んでなり、前記解
析対象化合物が塩基性化合物または酸性化合物である、方法。
【請求項2】
解析対象化合物が塩基性化合物であり、かつ、工程(A)において前記塩基性化合物と
酸性化合物とをイオンペア形成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
解析対象化合物が酸性化合物であり、かつ、工程(A)において前記酸性化合物と塩基
性化合物とをイオンペア形成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(A)と工程(B)を連続的に、あるいは同時に実施する、請求項1~3のいずれ
か一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の調製方法を実施して結晶構造解析用試料を調製し
、得られた結晶構造解析用試料の構造解析を行う工程を含む、解析対象化合物の構造決定
方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の調製方法に関
する。本発明はまた、上記調製方法を用いた構造決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の分子構造を正確に決定する手法として単結晶X線構造解析法が知られているが、
解析対象の物質の結晶化が困難な場合等にはその利用が制限されていた。近年、X線結晶
解析により構造決定する革新的な手法として「結晶スポンジ法」が注目されている。結晶
スポンジ法は、解析対象物質を結晶スポンジと呼ばれる多孔性単結晶の細孔内にゲストと
して浸漬させ、三次元的に規則正しく整列した空隙を有する細孔内に解析対象の物質を安
定的に配置することで、結晶化のプロセスを経ることなくX線結晶解析により構造決定す
ることができる点で極めて有用性が高い(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、解析対象物質の特性によっては結晶スポンジに浸漬することが困難なも
のが存在し、結晶スポンジ法で解析可能な物質が限定されているという問題があった。結
晶スポンジの改良によりこの問題の解決に向けて一定の進展は見られるものの、依然とし
て解析が可能な物質の対象範囲に改善の余地が残されていた(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5969616号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】F. Sakurai et al., Chem. Eur. J. 2017, 23, 15035-15040
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の新規な調製方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、結晶構造解析用試料の調製手法について鋭意検討を重ねたところ、結晶
スポンジ法による構造解析が困難な塩基性化合物を酸性化合物とイオンペア形成させて結
晶スポンジに浸漬させることで結晶構造解析用試料の調製が可能であることを見出した。
本発明者らはまた、この結晶構造解析用試料を構造解析することで、イオンペア状態にあ
る塩基性化合物と酸性化合物の双方の構造を決定できることを見出した。本発明者らはさ
らに、結晶スポンジ法による構造解析が困難な酸性化合物についても同様の手法で構造解
析が可能であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]結晶スポンジ法による構造解析のための結晶構造解析用試料の調製方法であって、
(A)解析対象化合物をそのカウンターイオン化合物とイオンペア形成させる工程と、(
B)イオンペア形成した前記化合物を結晶スポンジに浸漬させる工程とを含んでなり、前
記解析対象化合物が塩基性化合物または酸性化合物である、方法。
[2]解析対象化合物が塩基性化合物であり、かつ、工程(A)において前記塩基性化合
物と酸性化合物とをイオンペア形成させる、上記[1]に記載の方法。
[3]解析対象化合物が酸性化合物であり、かつ、工程(A)において前記酸性化合物と
塩基性化合物とをイオンペア形成させる、上記[1]に記載の方法。
[4]工程(A)と工程(B)を連続的に、あるいは同時に実施する、上記[1]~[3
]のいずれかに記載の方法。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の調製方法を実施して結晶構造解析用試料を
調製し、得られた結晶構造解析用試料の構造解析を行う工程を含む、解析対象化合物の構
造決定方法。
【0009】
本発明の方法によれば、結晶スポンジ法による構造解析が困難な化合物の構造(特に絶
対立体配置)を簡易な手法で迅速かつ正確に決定することができる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、解析対象化合物が(1R,2R)-2-シクロプロピルアミノシクロヘキサノールである場合の、CS法による結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図2図2は、解析対象化合物がメタンスルホン酸である場合の、CS法による結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図3図3は、解析対象化合物がトリフルオロ酢酸である場合の、CS法による結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図4図4は、(1R,2R)-2-シクロプロピルアミノシクロヘキサノールを解析対象化合物として、メタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図5図5は、図4中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図6図6は、(1R,2R)-2-シクロプロピルアミノシクロヘキサノールを解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図7図7は、図6中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図8図8は、2-フェニルエチルアミンを解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図9図9は、図8中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図10図10は、2-フェニルエチルアミンを解析対象化合物として、トリフルオロ酢酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図11図11は、図10中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図12図12は、rac-trans-2-(フェネチルアミノ)シクロペンタン-1-オールを解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図13図13は、図12中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図14図14は、rac-trans-2-(フェネチルアミノ)シクロペンタン-1-オールをHPLCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図15図15は、図14のピーク1化合物を解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図16図16は、図15中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図17図17は、図14のピーク2化合物を解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図18図18は、図17中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図19図19は、rac-trans-2-(フェネチルアミノ)シクロヘプタン-1-オールをHPLCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図20図20は、図19のピーク3化合物を解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図21図21は、図20中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図22図22は、図19のピーク4化合物を解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図23図23は、図22中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図24図24は、解析対象化合物がN,N-ジメチルシクロヘキシルアミンである場合の、CS法による結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図25図25は、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンを解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図26図26は、図25中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図27図27は、1,1,3,3-テトラメチルグアニジンを解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図28図28は、図27中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図29図29は、1,3-ジフェニルグアニジンを解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図30図30は、図29中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
図31図31は、ジアザビシクロウンデセンを解析対象化合物として、トリフルオロメタンスルホン酸をカウンターイオン化合物としてイオンペア形成させて調製した結晶構造解析用試料について、CS法により結晶構造解析した結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図32図32は、図31中の破線で囲まれた箇所の結晶構造の拡大図を示す。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明は、解析対象化合物の構造解析に用いるための結晶構造解析用試料の調製方法で
ある。本発明の方法は、(A)解析対象化合物をカウンターイオン化合物とイオンペア形
成させる工程と、(B)イオンペアを形成した前記化合物を結晶スポンジに浸漬させる工
程とを含んでなるものである。
【0012】
本発明の方法の工程(A)では、解析対象化合物をそのカウンターイオン化合物とイオ
ンペア形成させる。ここで「イオンペア」とはカチオン性化合物とアニオン性化合物との
組み合わせのように反対に荷電した二種の化合物の組み合わせをいう。また、「カウンタ
ーイオン化合物」とは解析対象化合物とは反対の電荷を有する化合物をいう。
【0013】
本発明の方法では、塩基性化合物および酸性化合物のいずれか一方を解析対象化合物と
することができる。解析対象となる化合物は好ましくは有機化合物である。
【0014】
塩基性化合物はプロトン(H)受容体として機能する官能基を1つ以上有する化合物
であり、好ましくは孤立電子対を有する化合物である。解析対象となる塩基性化合物は特
に限定されないが、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、グアニジン、アミジン
、ピリジン、ピロールなどの含窒素化合物(例えば、含窒素芳香族化合物、含窒素脂肪族
化合物など)が挙げられる。
【0015】
酸性化合物はプロトン(H)供与体として機能する官能基を1つ以上有する化合物で
あり、好ましくはプロトン(H)を放出しうる化合物である。解析対象となる酸性化合
物は特に限定されないが、例えば、カルボン酸、スルホン酸、有機リン酸などの酸性化合
物が挙げられる。
【0016】
解析対象化合物はその反応性の影響(例えば、結晶スポンジの破壊)や、分子構造や分
子サイズの影響(例えば、結晶スポンジのフレームワークとの相互作用の不適合)により
結晶スポンジ法による構造解析が困難な化合物が好適である。例えば、塩基性化合物は求
核性化合物であることが多く、本発明の方法の解析対象となりうる。また、塩基性化合物
および酸性化合物のうち結晶スポンジのフレームワークとの相互作用が弱すぎて、細孔内
に整列しない化合物や、逆に相互作用が強すぎることで結晶スポンジの細孔入口で動きが
抑制されてしまい、細孔内に均一に行き渡らないために解析困難な化合物も本発明の方法
の解析対象となりうる。
【0017】
本発明の方法において解析対象化合物が塩基性化合物である場合には、工程(A)では
前記塩基性化合物と酸性化合物とをイオンペア形成させることができる。解析対象化合物
とイオンペアを形成する酸性化合物は任意のものを選択することができるが、イオンペア
形成した化合物が結晶スポンジの細孔を通過できる大きさに収まるように選択することが
できる(細孔径の目安は10Å×10Å)。また酸性化合物は、結晶スポンジのフレーム
ワーク構造に用いられている高分子金属錯体との相互作用(例えば、π-π結合、CH-
π結合、水素結合、ハロゲン-π結合など)を考慮して選択することもできる。
【0018】
本発明の方法において解析対象化合物が酸性化合物である場合には、工程(A)では前
記酸性化合物と塩基性化合物とをイオンペア形成させることができる。解析対象化合物と
イオンペアを形成する塩基性化合物は任意のものを選択することができるが、イオンペア
形成した化合物が結晶スポンジの細孔を通過できる大きさに収まるように選択することが
できる(細孔径の目安は10Å×10Å)。また塩基性化合物は、結晶スポンジのフレー
ムワーク構造に用いられている高分子金属錯体との相互作用(例えば、π-π結合、CH
-π結合、水素結合、ハロゲン-π結合など)を考慮して選択することもできる。
【0019】
本発明の方法において、その分子内にプロトン(H)受容体として機能する官能基と
プロトン(H)供与体として機能する官能基とをあわせ持つ化合物を解析対象化合物と
する場合は、そのどちらかの官能基に対応するカウンターイオン化合物を添加してイオン
ペアを形成させてもよいし、両方の官能基に対応するカウンターイオン化合物をそれぞれ
添加してイオンペアを形成させてもよい。また、解析対象化合物にプロトン(H)受容
体として機能する官能基またはプロトン(H)供与体として機能する官能基が複数存在
する場合には、その一部のみに対応するカウンターイオン化合物を添加してもよいし、全
部に対応するカウンターイオン化合物をそれぞれ添加してもよい。
【0020】
イオンペアの形成は、解析対象化合物とカウンターイオン化合物とを溶解可能な溶媒中
で混合することにより行うことができる。そのような溶媒は両者を溶解、混合することが
できれば特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素類(例えば、n-ヘキサン、ペン
タン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサンなど)、
芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素
類(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロメタン、ジクロロエタン、クロロエ
タンなど)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メチルter
t-ブチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢
酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチル
ケトン、ペンタノンなど)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノ
ール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなど)、ニトリル類(例えば、アセトニ
トリルなど)、アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)
、ジメチルスルホキシドまたは水および上記溶媒を任意の割合で混合したものなどが挙げ
られる。後述のように工程(A)と工程(B)を連続して行う場合や、工程(A)と工程
(B)を同時に行う場合には、結晶スポンジへの浸漬工程(工程(B))を考慮して溶媒
を選択することができる。すなわち、結晶スポンジの種類と結晶スポンジを浸漬する溶媒
組成の組合せによっては、結晶スポンジにダメージを与えたり、結晶を溶解してしまった
りすることで、結晶スポンジ法としての機能を発揮できない恐れがあるため、解析対象化
合物のイオンペア形成を行う溶媒系の選定には、この点を考慮することが望ましい。
【0021】
解析対象化合物とカウンターイオン化合物との混合に当たっては、解析対象化合物およ
びカウンターイオン化合物はイオンペアを形成できる濃度であれば任意の濃度で溶媒に添
加することができるが、両者が等モル比濃度となるように溶媒に添加することが好適であ
る。また、イオンペア形成は、後記の工程(B)における結晶スポンジへの浸漬と同時に
することもできる。すなわち、工程(A)と工程(B)を同時に実施する場合は、解析対
象化合物とカウンターイオン化合物は別々に溶媒に溶解しておき、結晶スポンジに対して
連続的に添加するか、あるいは両者を同時に添加して行うことができる。
【0022】
工程(B)では、工程(A)でイオンペアを形成した解析対象化合物を結晶スポンジに
浸漬させて結晶構造解析用試料を調製する。ここで結晶スポンジとは、三次元的に規則正
しい細孔構造を有する単結晶であり、例えば、金属有機構造体(MOF)、共有結合性有
機構造体(COF)、ゼオライトのような無機化合物などから得ることができるが、細孔
内に化合物をゲストとして取り込む性質を有する単結晶であれば、その由来について限定
されるものではない。金属有機構造体から構成される結晶スポンジとしては、配位性部位
を2つ以上有する配位子と中心金属としての金属イオンとを含む三次元ネットワーク構造
を有する高分子金属錯体が挙げられる。ここで、「三次元ネットワーク構造」とは、配位
子(配位性部位を2つ以上有する配位子およびその他の単座配位子)と金属イオンが結合
して形成された構造単位が、三次元的に繰り返されてなる網状の構造をいう。
【0023】
結晶スポンジとして使用可能な金属有機構造体の単結晶は、例えば、Nature 2013, 495
, 461-466、Chem. Commun. 2015, 51, 11252-11255、Science 2016, 353, 808-811、Chem
. Commun. 2016, 52, 7013-7015、Chem. Asian J. 2017, 12, 208-211、J. Am. Chem. So
c. 2017, 139, 11341-11344、特許第5969616号などに記載されている。単結晶の調製しや
すさなどの汎用性を考慮するとNature 2013, 495, 461-466、Chem. Commun. 2015, 51, 1
1252-11255などに記載されている[(ZnX(tpt)・(solvent)
タイプの結晶スポンジが好ましく(ここで、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素など
のハロゲン原子を表し、tptは2,4,6-トリ(4-ピリジル)-1,3,5-トリ
アジンを表し、solventは細孔などに内包された溶媒を表し、aは0以上の任意の
数を表し、nは任意の正の整数を表す。以下同様。)、[(ZnCl(tpt)
・(solvent)がより好ましい。
【0024】
結晶構造解析用試料を調製するためにイオンペア形成した解析対象化合物を結晶スポン
ジに浸漬させてゲストとして細孔内に取り込ませる方法は、解析対象化合物がゲストとし
て細孔内に取り込まれる限り、特に限定されるものではない。例えば、IUCrJ 2016, 3, 1
39-151、Chem. Eur. J. 2017, 23, 15035-15040、CrystEngComm, 2017, 19, 4528-4534、
Org. Lett. 2018, 20, 3536-3540、Science 2016, 353, 808-811、Chem. Commun. 2015,
51, 11252-11255などに記載の方法によって解析対象化合物をゲストとして細孔内に取り
込ませることができる。例えば、0~120℃、0.5時間~14日の条件で解析対象化
合物を結晶スポンジに浸漬させて、結晶スポンジの三次元ネットワーク構造内部の空隙に
内包させることができる。
【0025】
本発明の別の態様によれば、前記の本発明の結晶構造解析用試料の調製方法を実施して
得られた結晶構造解析用試料の構造解析を行う工程を含んでなる、解析対象化合物の構造
決定方法が提供される。結晶構造解析用試料の構造解析には、X線回折、中性子線回折お
よび電子線回折のいずれの方法も使用することができる。また、測定データの解析、すな
わち、解析対象化合物の構造解析は公知の方法に従って実施することができ、例えば、国
際公開第2014/038220号やIUCrJ 2016, 3, 139-151の記載に従って実施するこ
とができる。
【0026】
本発明の方法によれば、解析対象化合物の特性によりその化合物そのままの状態では結
晶スポンジ法による結晶構造解析が困難なものについても構造決定を可能にする点で有利
である。また、イオンペアの形成と結晶スポンジへの浸漬を同時に行うことができるため
、簡易な手法で迅速に作業が可能な点でも有利である。
【実施例0027】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定される
ものではない。
【0028】
(結晶スポンジ)
本実施例では、非特許文献1に記載の方法に従って調製した[(ZnCl(tp
t)・(n-hexane)タイプの結晶スポンジを用いた。
【0029】
(単結晶X線構造解析)
本実施例における単結晶X線構造解析は、単結晶X線回折装置Synergy-R(リ
ガク社)を用いて行った。線源はCu Kα(λ=1.5418Å)、測定温度は100
Kでデータを取得した。回折データの解析は非特許文献1に記載の方法に従って実施した
【0030】
例1:スポンジ結晶法によるX線構造解析(1)
例1では、塩基性化合物および酸性化合物について、結晶スポンジ法による結晶構造解
析が可能か検討した。
【0031】
(1)解析対象化合物
例1における解析対象化合物は、表1に示す通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
(2)実験手順
ア 比較例1、3~5
比較例1、3~5では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV底型
1.2mLバイアルに添加した。解析対象化合物を1mg/mLとなるようにジメトキシ
エタンに溶解し、5μLを上述の結晶スポンジが入ったバイアルに添加した(解析対象化
合物の量として5μg)。バイアルに蓋をして密封し、50℃で1日インキュベートした
。1日後、溶液中から結晶スポンジを取り出し、不活性オイルでコーティングした後、単
結晶X線回折装置で測定した。
【0034】
イ 比較例2
比較例2では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV底型1.2m
Lバイアルに添加した。解析対象化合物を1mg/mLとなるようにジメトキシエタンに
溶解し、1μLを上述の結晶スポンジが入ったバイアルに添加した(解析対象化合物の量
として1μg)。バイアルに蓋をして密封した後、蓋に注射針を刺して4℃で5日インキ
ュベートし、溶媒を緩やかに揮発させた。5日後、結晶スポンジを取り出し、不活性オイ
ルでコーティングした後、単結晶X線回折装置で測定した。
【0035】
ウ 比較例6
比較例6では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV底型1.2m
Lバイアルに添加した。解析対象化合物を1mg/mLとなるようにジメトキシエタンに
溶解し、5μLを上述の結晶スポンジが入ったバイアルに添加した(解析対象化合物の量
として5μg)。バイアルに蓋をして密封し、50℃で2日インキュベートした。2日後
、溶液中から結晶スポンジを取り出し、不活性オイルでコーティングした後、単結晶X線
回折装置で測定した。
【0036】
エ 比較例7
比較例7では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV底型1.2m
Lバイアルに添加した。解析対象化合物を1mg/mLとなるようにジメトキシエタンに
溶解し、5μLを上述の結晶スポンジが入ったバイアルに添加した(解析対象化合物の量
として5μg)。バイアルに蓋をして密封した後、蓋に注射針を刺して50℃で1日イン
キュベートし、溶媒を緩やかに揮発させた。1日後、結晶スポンジを取り出し、不活性オ
イルでコーティングした後、単結晶X線回折装置で測定した。
【0037】
(3)結果
比較例1、6および7の解析対象化合物のX線結晶構造解析の結果は、それぞれ図1
2および3に示す通りであり、解析対象化合物の結晶構造を観測することはできなかった
図1および3の破線で囲まれた部位に示すように、比較例1および7では結晶スポンジ
のフレームワークの分解物がゲストとして包接されている様子が観測された。また、図2
には結晶スポンジのフレームワークのみが観測されており、比較例6では解析対象化合物
が結晶スポンジの細孔内に整列しなかったと考えられる。また、比較例2(非特許文献1
に記載されるように比較例1の結晶スポンジへの浸漬における温度や時間を緩やかな条件
に変更)並びに比較例3および4の各解析対象化合物のX線結晶構造解析の結果は、比較
例1と同様に、いずれの解析対象化合物の結晶構造を観測することはできなかった(デー
タ省略)。比較例5はインキュベートの1日後に確認したところ、結晶スポンジが溶液中
に溶解してしまい、結晶として存在しておらずX線解析に供することができなかった。こ
れらの結果は、以下の理論に拘束されるものではないが、解析対象の塩基性化合物または
酸性化合物の反応性(求核性や配位性など)により結晶スポンジを構成するフレームワー
クが破壊されたことによるか、あるいは解析対象化合物と結晶スポンジとの相互作用の不
適合によるものと考えられた。
【0038】
非特許文献1には、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)
イプの結晶スポンジは、窒素を含む化合物の分析に適すると記載されているが、比較例1
~4の結果からは、実際には解析対象化合物の反応性(求核性や配位性など)により結晶
スポンジ法によって結晶構造が観測できない塩基性化合物の例が多数あることが判明した
。また、比較例5~7の結果からは、酸性化合物についてもその反応性により結晶スポン
ジ法による結晶構造解析が困難な例があり、さらに、結晶スポンジとの相互作用の不適合
により結晶構造解析が困難な例があることが判明した。
【0039】
例2:イオンペア状態の化合物のX線構造解析(2)
例2では、解析対象化合物をカウンターイオン化合物とイオンペアを形成させることで
、結晶スポンジ法による結晶構造解析が可能か検討した。
【0040】
(1)イオンペア
例2においてイオンペアを形成する解析対象化合物およびカウンターイオン化合物は、
表2に示す通りである。
【0041】
【表2】
【0042】
(2)実験手順
ア 実施例1、2および5
実施例1、2および5では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV
底型1.2mLバイアルに添加した。解析対象化合物とカウンターイオンとを表2に示す
濃度にてジメトキシエタン中で両者を混合溶解し、5μLを上述の結晶スポンジが入った
バイアルに添加した。バイアルに蓋をして密封し、50℃で2日インキュベートした。2
日後、溶液中から結晶スポンジを取り出し、不活性オイルでコーティングした後、単結晶
X線回折装置で測定した。
【0043】
イ 実施例3および4
実施例3および4では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV底型
1.2mLバイアルに添加した。解析対象化合物とカウンターイオンとを表2に示す濃度
にてジメトキシエタン中で両者を混合溶解し、5μLを上述の結晶スポンジが入ったバイ
アルに添加した。バイアルに蓋をして密封した後、蓋に注射針を刺して50℃で1日イン
キュベートし、溶媒を緩やかに揮発させた。1日後、結晶スポンジを取り出し、不活性オ
イルでコーティングした後、単結晶X線回折装置で測定した。
【0044】
(3)結果
各実施例の結晶データおよびX線結晶構造(非対称単位)は、それぞれ表3~7および
図4、6、8、10、12(結晶構造の拡大図は図5、7、9、11、13)に示す通り
であった。いずれの実施例においても、解析対象の塩基性化合物およびカウンターイオン
とした添加した酸性化合物の結晶構造を観測することができた。塩基性化合物と酸性化合
物がイオンペアとして近接して存在しており、イオンペアを形成した状態で結晶スポンジ
の細孔内に取り込まれていると考えられた。塩基性化合物の反応性がマスクされるか、あ
るいは酸性化合物の反応性がマスクされることによって、結晶スポンジのフレームワーク
の分解を防ぎ、解析対象化合物の結晶構造を観測することができたと推察される。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
例3:鏡像異性体の構造決定(光学分割(鏡像異性体)(実施例6)および構造解析(実
施例7、8))
例3では、鏡像異性体を有する解析対象化合物について、表9のイオンペアを形成させ
ることで、結晶スポンジ法により各鏡像異性体の結晶構造解析が可能か検討した。
【0051】
(1)方法
ア 光学分割
rac-trans-2-(フェネチルアミノ)シクロペンタン-1-オールを表8の
条件で各鏡像異性体に光学分割した。
【0052】
【表8】
【0053】
イ 構造決定
結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV底型1.2mLバイアルに添
加した。図14の前半ピーク(ピーク1)の化合物が1mg/mL、トリフルオロメタン
スルホン酸が0.7mg/mLになるようにジメトキシエタン中で両者を混合溶解し、5
μLを上述の結晶スポンジが入ったバイアルに添加した(ピーク1化合物として5μg、
トリフルオロメタンスルホン酸として3.5μg)。バイアルに蓋をして密封し、50℃
で2日インキュベートした。2日後、溶液中から結晶スポンジを取り出し、不活性オイル
でコーティングした後、単結晶X線回折装置で測定した。図14の後半ピーク(ピーク2
)の化合物についても、ピーク1の化合物と同様の条件下で測定した。
【0054】
【表9】
【0055】
(2)結果
光学分割の結果は、図14のクロマトグラムに示される通りであった。
【0056】
ピーク1およびピーク2の化合物の結晶データおよびX線結晶構造(非対称単位)は、
それぞれ表10、11および図15、17(結晶構造の拡大図は図16、18)に示す通
りであった。いずれの化合物についても結晶構造を観測することができた。解析対象化合
物とカウンターイオンであるトリフルオロメタンスルホン酸とがイオンペアとして近接し
て存在しており、イオンペアを形成した状態で結晶スポンジの細孔内に取り込まれている
と考えられた。塩基性化合物の反応性がマスクされるか、あるいは酸性化合物の反応性が
マスクされることによって、結晶スポンジのフレームワークの分解を防ぎ、解析対象化合
物の結晶構造を観測することができたと推察される。
【0057】
観測結果から、ピーク1化合物は(1S,2S)-2-(フェネチルアミノ)シクロペ
ンタン-1-オール、ピーク2化合物は(1R,2R)-2-(フェネチルアミノ)シク
ロペンタン-1-オールと構造決定することができた。
【0058】
【表10】
【0059】
【表11】
【0060】
例4:鏡像異性体の構造決定(光学分割(鏡像異性体)(実施例9)および構造解析(実
施例10、11))
例4では、鏡像異性体を有する解析対象化合物について、表12のイオンペアを形成さ
せることで、結晶スポンジ法により各鏡像異性体の結晶構造解析が可能か検討した。
【0061】
(1)方法
ア 光学分割
公知の方法(国際公開第2015/194508号)で得たrac-trans-2-
(フェネチルアミノ)シクロヘプタン-1-オールを例3の表8の条件で各鏡像異性体に
光学分割した。
【0062】
イ 構造決定
結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV底型1.2mLバイアルに添
加した。図19の前半ピーク(ピーク3)の化合物が1mg/mL、トリフルオロメタン
スルホン酸が0.7mg/mLになるようにジメトキシエタン中で両者を混合溶解し、5
μLを上述の結晶スポンジが入ったバイアルに添加した(ピーク3化合物として5μg、
トリフルオロメタンスルホン酸として3.5μg)。バイアルに蓋をして密封し、50℃
で2日インキュベートした。2日後、溶液中から結晶スポンジを取り出し、不活性オイル
でコーティングした後、単結晶X線回折装置で測定した。図19の後半ピーク(ピーク4
)の化合物についても、ピーク3の化合物と同様の条件下で測定した。
【0063】
【表12】
【0064】
(2)結果
光学分割の結果は、図19のクロマトグラムに示される通りであった。
【0065】
ピーク3およびピーク4の化合物の結晶データおよびX線結晶構造(非対称単位)は、
それぞれ表13、14および図20、22(結晶構造の拡大図は図21、23)に示す通
りであった。いずれの化合物についても結晶構造を観測することができた。解析対象化合
物とトリフルオロメタンスルホン酸がイオンペアとして近接して存在しており、イオンペ
アを形成した状態で結晶スポンジの細孔内に取り込まれていると考えられた。塩基性化合
物の反応性がマスクされるか、あるいは酸性化合物の反応性がマスクされることによって
、結晶スポンジのフレームワークの分解を防ぎ、解析対象化合物の結晶構造を観測するこ
とができたと推察される。
【0066】
観測結果から、ピーク3化合物は(1S,2S)-2-(フェネチルアミノ)シクロヘ
プタン-1-オール、ピーク4化合物は(1R,2R)-2-(フェネチルアミノ)シク
ロヘプタン-1-オールと構造決定することができた。
【0067】
【表13】
【0068】
【表14】
【0069】
例5:スポンジ結晶法によるX線構造解析(2)
例5では、塩基性化合物について、結晶スポンジ法による結晶構造解析が可能か検討し
た。
【0070】
(1)解析対象化合物
例5における解析対象化合物は、表15に示す通りである。
【0071】
【表15】
【0072】
(2)実験手順
比較例8~11では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV底型1
.2mLバイアルに添加した。解析対象化合物を1mg/mLとなるようにジメトキシエ
タンに溶解し、5μLを上述の結晶スポンジが入ったバイアルに添加した(解析対象化合
物の量として5μg)。バイアルに蓋をして密封した後、蓋に注射針を刺して50℃で1
日インキュベートし、溶媒を緩やかに揮発させた。1日後、結晶スポンジを取り出し、不
活性オイルでコーティングした後、単結晶X線回折装置で測定した。
【0073】
(3)結果
比較例8の解析対象化合物のX線結晶構造解析の結果は、図24に示す通りであり、解
析対象化合物の結晶構造を観測することはできなかった。図24の破線で囲まれた部位に
示すように、比較例8では結晶スポンジのフレームワークの分解物がゲストとして包接さ
れている様子が観測された。また、比較例9、10、11では結晶スポンジがダメージを
受けて結晶性が完全に失われてしまい、回折データを取得することができなかった。これ
らの結果は、以下の理論に拘束されるものではないが、解析対象の塩基性化合物の反応性
(求核性や配位性など)により結晶スポンジを構成するフレームワークが破壊されたこと
によるものと考えられた。また、第三級アミン(比較例8)、グアニジン類(比較例9、
10)およびアミジン(実施例11)などは求核性が比較的低いにも関わらず、結晶スポ
ンジへのダメージが大きいために構造解析ができない場合があることも判明した。
【0074】
例6:イオンペア状態の化合物のX線構造解析(2)
例6では、解析対象化合物をカウンターイオン化合物とイオンペアを形成させることで
、結晶スポンジ法による結晶構造解析が可能か検討した。
【0075】
(1)イオンペア
例6においてイオンペアを形成する解析対象化合物およびカウンターイオン化合物は、
表16に示す通りである。
【0076】
【表16】
【0077】
(2)実験手順
ア 実施例12および15
実施例12および15では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV
底型1.2mLバイアルに添加した。解析対象化合物とカウンターイオンとを表16に示
す濃度にてジメトキシエタン中で両者を混合溶解し、5μLを上述の結晶スポンジが入っ
たバイアルに添加した。バイアルに蓋をして密封した後、蓋に注射針を刺して50℃で1
日インキュベートし、溶媒を緩やかに揮発させた。1日後、結晶スポンジを取り出し、不
活性オイルでコーティングした後、単結晶X線回折装置で測定した。
【0078】
イ 実施例13および14
実施例13および14では、結晶スポンジ1粒をn-ヘキサン(45μL)とともにV
底型1.2mLバイアルに添加した。解析対象化合物とカウンターイオンとを表16に示
す濃度にてジメトキシエタン中で両者を混合溶解し、5μLを上述の結晶スポンジが入っ
たバイアルに添加した。バイアルに蓋をして密封し、50℃で3日(実施例13)または
4日(実施例14)インキュベートした。その後、溶液中から結晶スポンジを取り出し、
不活性オイルでコーティングした後、単結晶X線回折装置で測定した。
【0079】
(3)結果
各実施例の結晶データおよびX線結晶構造(非対称単位)は、それぞれ表17~20お
よび図25、27、29、31(結晶構造の拡大図は図26、28、30、32)に示す
通りであった。いずれの実施例においても、解析対象の塩基性化合物およびカウンターイ
オンとした添加した酸性化合物の結晶構造を観測することができた。塩基性化合物と酸性
化合物がイオンペアとして近接して存在しており、イオンペアを形成した状態で結晶スポ
ンジの細孔内に取り込まれていると考えられた。塩基性化合物の反応性がマスクされるこ
とによって、結晶スポンジのフレームワークの分解を防ぎ、解析対象化合物の結晶構造を
観測することができたと推察される。
【0080】
【表17】
【0081】
【表18】
【0082】
【表19】
【0083】
【表20】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32