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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188163
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】がん治療用に操作されたT細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20221213BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20221213BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221213BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20221213BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20221213BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20221213BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20221213BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20221213BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20221213BHJP
   C07K 14/725 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/867 Z
C12N15/861 Z
C12N15/86 Z
C07K19/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K48/00
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/17 Z
C12N15/13
C12N5/10
C12N5/0783
C07K16/28
C07K14/705
C07K14/725
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022158356
(22)【出願日】2022-09-30
(62)【分割の表示】P 2019533579の分割
【原出願日】2017-12-21
(31)【優先権主張番号】62/437,524
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519032826
【氏名又は名称】ティーシーアール2 セラピューティクス インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】ゲッツ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】パテル,エクタ
(72)【発明者】
【氏名】ボイエルレ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ホフマイスター,ロバート
(57)【要約】      (修正有)
【課題】養子細胞療法の安全性及び有効性を向上させ、かつPD-L1媒介T細胞阻害による不利益を克服することが可能な、操作されたT細胞を具備する組成物を提供する。
【解決手段】T細胞操作用の融合タンパク質及びそれらの組み合わせ、T細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)、PD-1と共刺激ドメインとを含む融合タンパク質、1つ以上のTFPを発現するように操作されたT細胞、PD-1と共刺激ドメインとを含む融合タンパク質、ならびにそれらを疾患治療の目的に使用する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) TCRサブユニットを含む第1の融合タンパク質をコードする第1の組み換え
核酸分子であって、前記TCRサブユニットが、
(i) TCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、
(ii) CD3サブユニットの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを
備えるTCR細胞内ドメインと、
(iii) 第1の標的結合ドメインであって、前記TCRサブユニット及び前記第
1の標的結合ドメインが作動可能に連結され、且つ前記第1の融合タンパク質がT細胞内
で発現したときにTCR内に組み込まれる、前記第1の標的結合ドメインと、
を含む前記第1の組み換え核酸分子と、
(b) 第2の標的結合ドメインを有する第2の融合タンパク質をコードする第2の組
み換え核酸分子であって、前記第2の標的結合ドメインがそのC末端を介して共刺激ポリ
ペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されているPD-1ポリペプチドを
含み、前記PD-1ポリペプチドが前記細胞外ドメインとPD-1の膜貫通ドメインとを
含む、前記第2の組み換え核酸分子と、
を具備する組成物。
【請求項2】
前記第1の標的結合ドメインが、第1のヒトまたはヒト化抗体ドメインである、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
(a) TCRサブユニットを含む第1のT細胞受容体(TCR)融合タンパク質(T
FP)をコードする第1の組み換え核酸分子であって、前記TCRサブユニットが、
(i) TCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、
(ii) CD3サブユニットの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを
備えるTCR細胞内ドメインと、
(iii) 第1の抗原結合ドメインを備える第1のヒトまたはヒト化抗体ドメイン
と、任意に第2の抗原結合ドメインとを含む第2のヒトまたはヒト化抗体ドメインを有し
、前記TCRサブユニット、前記第1の抗体ドメイン及び前記第2の抗体ドメインが作動
可能に連結され、且つ前記第1のTFPがT細胞内に発現したときにTCR内に組み込ま
れる、前記第1の組み換え核酸分子と、
(b) 第2の標的結合ドメインを有する第2の融合タンパク質をコードする第2の組
み換え核酸分子であって、前記第2の標的結合ドメインがそのC末端を介して共刺激ポリ
ペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されているPD-1ポリペプチドを
含み、前記PD-1ポリペプチドが前記細胞外ドメインとPD-1の膜貫通ドメインとを
含む、前記第2の組み換え核酸分子と、
を具備する組成物。
【請求項4】
前記抗体ドメインが、ROR-1、BCMA、CD19、CD20、CD22、メソセ
リン、MAGE A3、EGFRvIII、MUC16、NKG2D、IL-13Rα2
、L1CAM、及びNY-ESO-1、及びそれらの組み合わせを含むリストから選択さ
れる腫瘍関連抗原に特異的に結合し得る、請求項2または請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記共刺激ポリペプチドが、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、I
COS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、C
D40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NK
p80、CD160、CD226、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを含
む群から選択される請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記第1の組み換え核酸分子が単離されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項7】
前記第2の組み換え核酸分子が単離されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物の第1及び第2の核酸分子を含むウイルス
ベクターを具備する組成物。
【請求項9】
前記第1の組み換え核酸分子及び前記第2の組み換え核酸分子が、単一のオペロン内に
含有される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記第1の組み換え核酸分子及び前記第2の組み換え核酸分子が、別々に転写された2
つのオペロン内に含有される、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記オペロンがE1aプロモーターを具備する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記オペロンがそれぞれE1aプロモーターを具備する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記ウイルスベクターが、DNA、RNA、プラスミド、レンチウイルスベクター、ア
デノウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)ベクター、またはレトロウイルス
ベクターである、請求項8~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか一項に記載の第1の組み換え核酸分子を含むウイルスベクター
を具備する組成物。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか一項に記載の第2の組み換え核酸分子を含むウイルスベクター
を具備する組成物。
【請求項16】
前記ウイルスベクターが単離されている、請求項8~15のいずれか一項に記載の組成
物。
【請求項17】
請求項14及び/または15に記載のウイルスベクターの混合物を具備する組成物。
【請求項18】
請求項1~5、8~15のいずれか一項に記載の組成物を含む形質導入T細胞を具備す
る、組成物。
【請求項19】
形質導入T細胞を具備する組成物であって、前記形質導入T細胞が、請求項14に記載
のウイルスベクターと請求項15に記載のウイルスベクターとを具備する、前記組成物。
【請求項20】
前記第1の融合タンパク質及び前記第2の融合タンパク質がそれぞれ前記T細胞の表面
上で検出可能である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
第1のポリペプチドを含むT細胞を具備する組成物であって、前記第1のポリペプチド
が、
(a) TCRサブユニットであって、
(i) TCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、
(ii) CD3εまたはCD3γの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメイ
ンを備えるTCR細胞内ドメインと、
(iii) 第1の標的結合ドメインであって、前記TCRサブユニット及び前記第
1の標的結合ドメインが作動可能に連結され、且つ前記第1の融合タンパク質が前記T細
胞中のTCR内に組み込まれる、前記第1の標的結合ドメインと、
を含む前記TCRサブユニットと、
(b) 第2の標的結合ドメインを有する第2の融合タンパク質であって、前記第2の
標的結合ドメインが、そのC末端を介して共刺激ポリペプチドの細胞内ドメインのN末端
に作動可能に連結されているPD-1ポリペプチドを含み、前記PD-1ポリペプチドが
前記細胞外ドメインと前記PD-1の膜貫通ドメインとを含む、前記第2の融合タンパク
質と、
を具備する組成物。
【請求項22】
前記第1の標的結合ドメインが、CD16、BCMA、MSLN、NKG2D、ROR
1、CD19、CD20、CD22、及び前立腺特異的がん抗原(PSCA)を含む群か
ら選択される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記共刺激ポリペプチドが、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、I
COS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、C
D40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NK
p80、CD160、CD226、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを含
む群から選択される、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
前記第2の融合タンパク質の共刺激ポリペプチドがCD28である、請求項23に記載
の組成物。
【請求項25】
前記コードされた第1の抗原結合ドメインが、第1のリンカー配列を介して前記第1の
TFPのTCR細胞外ドメインに連接され、且つ前記コードされた第2の抗原結合ドメイ
ンが、第2のリンカー配列を介して前記第1のTFPのTCR細胞外ドメインに連接され
る、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記第1のリンカー配列及び前記第2のリンカー配列が(GS)(式中、n=1~
4)を具備する、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記第1のTFPのTCRサブユニットがTCR細胞外ドメインを具備する、請求項2
5または26に記載の組成物。
【請求項28】
前記第1のTFPのTCRサブユニットが、TCR膜貫通ドメインを具備する、請求項
25~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記第1のTFPのTCRサブユニットが、TCR細胞内ドメインを具備する、請求項
25~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
前記第1のTFPのTCRサブユニットが、(i)TCR細胞外ドメインと(ii)T
CR膜貫通ドメインと(iii)TCR細胞内ドメインとを含み、(i)、(ii)及び
(iii)のうちの少なくとも2つが、前記同じTCRサブユニットに由来する、請求項
25~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記第1のTFPのTCRサブユニットに、CD3ε、CD3γもしくはCD3δ、ま
たは少なくとも1つの修飾を施されたアミノ酸配列の細胞内シグナル伝達ドメインから選
択される刺激ドメインを備える、TCR細胞内ドメインが含まれる、請求項25~30の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記第1のTFPのTCRサブユニットに刺激ドメインを備える細胞内ドメインが含ま
れ、前記刺激ドメインが、4-1BBの機能的シグナル伝達ドメイン及び/またはCD3
ζの機能的シグナル伝達ドメイン、もしくは少なくとも1つの修飾を施されたアミノ酸配
列の機能的シグナル伝達ドメインから選択される、請求項25~31のいずれか一項に記
載の組成物。
【請求項33】
前記第1のヒトまたはヒト化抗体ドメイン、前記第2のヒトまたはヒト化抗体ドメイン
または両方が抗体フラグメントを具備する、請求項1~32のいずれか一項に記載の組成
物。
【請求項34】
前記第1のヒトまたはヒト化抗体ドメイン、前記第2のヒトまたはヒト化抗体ドメイン
、または両方が、scFvまたはVドメインを具備する、請求項1~33のいずれか一
項に記載の組成物。
【請求項35】
前記コードされた第1のTFPにTCRサブユニットの細胞外ドメインが含まれ、前記
細胞外ドメインに、TCRα鎖、TCRβ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γT
CRサブユニット、CD3δTCRサブユニットからなる群から選択されるタンパク質、
その機能的フラグメント、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下
の修飾を施されたアミノ酸配列の細胞外ドメインまたはその一部が含まれる、請求項1~
34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記コードされた第1のTFPに膜貫通ドメインが含まれ、前記膜貫通ドメインに、T
CRα鎖、TCRβ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、C
D3δTCRサブユニットからなる群から選択されるタンパク質、その機能的フラグメン
ト、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミ
ノ酸配列の膜貫通ドメインが含まれる、請求項1~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記コードされた第1のTFPに膜貫通ドメインが含まれ、前記膜貫通ドメインに、T
CRα鎖、TCRβ鎖、TCRζ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブ
ユニット、CD3δTCRサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、
CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、
CD134、CD137、CD154からなる群から選択されるタンパク質、その機能的
フラグメント、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施
されたアミノ酸配列の膜貫通ドメインが含まれる、請求項1~36のいずれか一項に記載
の組成物。
【請求項38】
前記第1及び/または第2の核酸分子が、共刺激ドメインをコードする、請求項1~3
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記共刺激ドメインが、OX40、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-
1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)及び4-1BB(C
D137)からなる群から選択されるタンパク質ならびにそのアミノ酸配列において少な
くとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ酸配列から得られる、機能的シグナル
伝達ドメインである、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
前記第1及び/または第2の核酸分子が、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする、
請求項1~39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
前記第1及び/または第2の核酸分子がリーダー配列をコードする、請求項1~40の
いずれか一項に記載の組成物。
【請求項42】
前記少なくとも1つ但し20以下の修飾に、細胞シグナル伝達を媒介するアミノ酸の修
飾、または第1のTFPに結合するリガンドに応答してリン酸化されるアミノ酸の修飾が
包含される、請求項35~41のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項43】
前記第1及び/または第2の核酸分子がRNAである、請求項1~42のいずれか一項
に記載の組成物。
【請求項44】
前記第1のTFPが、CD3ζTCRサブユニット、CD3εTCRサブユニット、C
D3γTCRサブユニット、CD3δTCRサブユニット、TCRζ鎖、Fcε受容体1
鎖、Fcε受容体2鎖、Fcγ受容体1鎖、Fcγ受容体2a鎖、Fcγ受容体2b1鎖
、Fcγ受容体2b2鎖、Fcγ受容体3a鎖、Fcγ受容体3b鎖、Fcβ受容体1鎖
、TYROBP(DAP12)、CD5、CD16a、CD16b、CD22、CD23
、CD32、CD64、CD79a、CD79b、CD89、CD278、CD66dか
らなる群から選択されるタンパク質、その機能的フラグメント、及びそのアミノ酸配列に
おいて少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ酸配列の免疫受容体チロシ
ン活性化モチーフ(ITAM)またはその一部を含む、TCRサブユニットのITAMを
具備する、請求項1~43のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項45】
前記ITAMが、CD3γ、CD3δ、またはCD3εのITAMを置換する、請求項
44に記載の組成物。
【請求項46】
前記ITAMが、CD3ζTCRサブユニット、CD3εTCRサブユニット、CD3
γTCRサブユニット、及びCD3δTCRサブユニットからなる群から選択され、且つ
CD3ζTCRサブユニット、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニッ
ト、及びCD3δTCRサブユニットからなる群から選択される別のITAMを置換する
、請求項44に記載の組成物。
【請求項47】
請求項1~46のいずれか一項に記載の組成物の第1及び第2の核酸分子を介してコー
ドされる複数のポリペプチド分子。
【請求項48】
前記ベクターが、in vitroで転写されたベクターである、請求項8~17のい
ずれか一項に記載の組成物。
【請求項49】
前記ベクターが、ポリ(A)尾部をコードする配列を更に含む、請求項8~17または
請求項48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項50】
前記ベクターが、3’UTRをコードする配列を更に含む、請求項6~14または48
~49のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項51】
請求項1~50のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月21日に出願された米国特許仮出願第62/437,52
4号の利益を主張するものであり、該文献はその全体が本明細書において参照により援用
されている。
【背景技術】
【0002】
後期固形腫瘍の患者のほとんどは、標準的な療法では治療不可能である。その上、従来
の治療選択肢には、深刻な副作用が伴うことがしばしばであった。がん性細胞を拒絶する
ために患者の免疫系を関与させるための、がん免疫療法と総称される、多数の試みが為さ
れてきた。しかしながら、幾多の障害によって、臨床的有効性の達成は極めて困難なもの
となっている。これまでに同定されたいわゆる腫瘍抗原は数百種にも及ぶが、多くの場合
は自己由来であることから、がん免疫療法を健常組織に対して指向してしまう可能性もあ
れば、あるいは免疫原性が低度であることもある。更になお、がん細胞は、複数の機序を
用いて、がん免疫療法による免疫攻撃の開始及び伝播を不可視または敵視する。
【0003】
養子T細胞療法(ACT)は、進行期の転移性がんでさえ治療の対象とする強力なアプ
ローチである(Rosenberg,Nat Rev Clin Oncol 8(10
)(2011)。ACTでは、抗原特異的T細胞を、単離または操作し、且つin vi
troで増殖させた後、患者に再注入する(Gattinoni et al.,Nat
Rev Immunol 6(5)(2006)。臨床試験では、全身照射及びACT
の併用によって、一部のがん患者において比類なき奏効率が達成されてきた反面、この治
療は、患者の大多数には奏効していない(Dudley et al.,J Clin
Oncol 26(32)(2008);Rosenberg et al.,Clin
Cancer Res 17(13)(2011)。全身照射では減弱されない腫瘍誘
発性の免疫抑制は、この治療抵抗性に関与しているものとされてきた(Leen et
al.,Annu Rev Immunol 25(2007)。つい最近になってから
、阻害性受容体が活性化T細胞に対して上方制御され、且つそれらの各リガンドが腫瘍環
境内に発現した場合、T細胞療法の不成功に寄与することが、明らかにされてきた(Ab
ate-Daga et al.,Blood 122(8)(2013)。最近の研究
によって、腫瘍内の腫瘍抗原特異的T細胞上に発現するPD-1が同定されてきたことを
鑑みれば、阻害性受容体のなかでもとりわけ中心的な役割を果たしているのが、プログラ
ム死受容体-1(PD-1)である(Gros et al.,J Clin Inve
st(2014))。PD-1とそのリガンドPD-L1との相互作用によって、TCR
シグナル伝達及びT細胞活性化が抑制され、ひいては標的認識時の有効な活性化が妨げら
れる(Gros et al.,J Clin Invest(2014);Yokos
uka et al.,J Exp Med 209(6)(2012);Ding e
t al.,Cancer Res(2014);Karyampudi et al.
,Cancer Res(2014))。これらの機序の臨床的重要性は、抗体ベースの
PD-1遮断とACTまたは遺伝子修飾T細胞とを併用し結果として抗腫瘍活性を著しく
向上させる、療法研究によって強調されている(John et al.,Clin C
ancer Res 19(20)(2013);Goding et al.,J I
mmunol 190(9)(2013)。PD-1またはPD-L1遮断抗体の全身的
適用は、任意の反応性のT細胞を標的とする可能性があり、ひいては全身的副作用を誘発
するという欠点を有する(Topalian et al.,N Engl J Med
366(26)(2012);Brahmer et al.,N Engl J M
ed 366(26)(2012))。
【0004】
PD-L1媒介T細胞阻害を鑑み、ACTの安全性及び有効性を向上させ、且つ上記の
不利益を克服することが可能な、改良型の手段を提供することが、依然として必要とされ
ている。
PD-1融合タンパク質とこのニーズに対応するように設計されている修飾T細胞受容体
とを具備する操作されたT細胞が、本明細書中に記載されている。
【発明の概要】
【0005】
T細胞操作用の融合タンパク質及びそれらの組み合わせ、T細胞受容体(TCR)融合
タンパク質(TFP)、PD-1と共刺激ドメインとを含む融合タンパク質、1つ以上の
TFPを発現するように操作されたT細胞、PD-1と共刺激ドメインとを含む融合タン
パク質、ならびにそれらを疾患治療の目的に使用する方法が、本明細書中に提供されてい
る。
【0006】
一態様では、T細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)をコードする単離され
た組み換え核酸分子が、本明細書中に提供されている。このTFPには、TCRサブユニ
ットと、ヒトまたはヒト化抗体ドメインとが含まれ、本ヒトまたはヒト化抗体ドメインに
は、PD-1ポリペプチドまたはそのフラグメントが含まれる。
【0007】
一態様では、TCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、CD3サブユニットの細胞内
シグナル伝達ドメインからの刺激ドメインを備えるTCR細胞内ドメインと、第1の標的
結合ドメインと、を具備するTCRサブユニットにおいて、本TCRサブユニット及び第
1の標的結合ドメインが作動可能に連結され、第1の融合タンパク質が、T細胞中で発現
した際にTCRに組み込まれ、第2の単離された組み換え核酸分子が、第2の標的結合ド
メインを有する第2の融合タンパク質をコードし、第2の標的結合ドメインが、そのC末
端を介して共刺激ポリペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されているP
D-1ポリペプチドを含み、PD-1ポリペプチドが、細胞外ドメインとPD-1の膜貫
通ドメインとを含む、本TCRサブユニットを具備する第1の融合タンパク質をコードす
る第1の単離された組み換え核酸分子を具備する組成物が、本明細書中に提供されている
。いくつかの実施形態では、第1の標的結合ドメインが、ヒトまたはヒト化抗体ドメイン
である。
【0008】
一態様では、第1のT細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)をコードする第
1の単離された組み換え核酸分子であって、本TFPが、TCR細胞外ドメインの少なく
とも一部と、CD3サブユニットの細胞内シグナル伝達ドメインからの刺激ドメインを備
えるTCR細胞内ドメインと、第1の抗原結合ドメインを備える第1のヒトまたはヒト化
抗体ドメイン、及び任意に、第2の抗原結合ドメインを備える第2のヒトまたはヒト化抗
体ドメインを有するTCRサブユニットを具備し、TCRサブユニット、第1の抗体ドメ
イン及び第2の抗体ドメインが作動可能に連結され、且つ第1のTFPが、T細胞内に発
現したときにTCR内に組み込まれ、第1の単離された組み換え核酸分子と、第2の標的
結合ドメインを有する第2の融合タンパク質をコードする第2の単離された組み換え核酸
分子であって、この第2の標的結合ドメインがそのC末端を介して共刺激ポリペプチドの
細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されているPD-1ポリペプチドを含み、PD
-1ポリペプチドが細胞外ドメインとPD-1の膜貫通ドメインとを含む、第2の単離さ
れた組み換え核酸分子と、を具備する組成物が、本明細書中に提供されている。いくつか
の実施形態では、抗体ドメインは、ROR-1、BCMA、CD19、CD20、CD2
2、メソセリン、MAGE A3、EGFRvIII、MUC16、NKG2D、Il-
13Rα2、L1CAM及びNY-ESO-1、ならびにそれらの組み合わせからなる群
から選択される腫瘍関連抗原に特異的に結合し得る。いくつかの実施形態において、共刺
激ポリペプチドは、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、ICOS(C
D278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、CD40、B
AFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、C
D160、CD226、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIからなる群から
選択される。
【0009】
一態様では、本明細書に記載の第1及び第2の核酸分子を含むウイルスベクターが、本
明細書中に提供されている。いくつかの実施形態では、第1の単離された組み換え核酸分
子、及び第2の単離された組み換え核酸分子が、単一のオペロン内に収容されている。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1の単離された組み換え核酸分子、及び第2の単離された
組み換え核酸分子が、別々に転写された2つのオペロン内に収容されている。
【0011】
いくつかの実施形態では、オペロンは、E1aプロモーターを含む。いくつかの実施形
態では、オペロンがそれぞれ、E1aプロモーターを含む。いくつかの実施形態では、ウ
イルスベクターが、DNA、RNA、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイ
ルスベクター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)ベクター、またはレトロウイルスベクター
である。
【0012】
一態様では、本明細書中に記載の第1の単離された組み換え核酸分子を含むウイルスベ
クターが、本明細書中に提供されている。
【0013】
一態様では、本明細書中に記載の第2の単離された組み換え核酸分子を含むウイルスベ
クターが、本明細書中に提供されている。
【0014】
一態様では、本明細書中に記載のウイルスベクターを含む混合物が、本明細書中に提供
されている。
【0015】
一態様では、本明細書に記載の組成物もしくは本明細書に記載のウイルスベクター、ま
たは本明細書に記載の混合物を含む形質導入T細胞が、本明細書中に提供されている。
【0016】
一態様では、本明細書に記載の1つ以上のウイルスベクターを含む形質導入T細胞が、
本明細書中に提供されている。いくつかの実施形態では、第1の融合タンパク質及び第2
の融合タンパク質がそれぞれT細胞の表面上で検出可能である。
【0017】
一態様では、複数のポリペプチドを具備する単離されたT細胞であって、第1のポリペ
プチドはTCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、CD3εまたはCD3γの細胞内シ
グナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを備えるTCR細胞内ドメインと、第1の標的結
合ドメインを具備するTCRサブユニットを具備し、TCRサブユニット及び第1の標的
結合ドメインが作動可能に連結され且つ第1の融合タンパク質がT細胞内のTCRに組み
込まれ、第2の融合タンパク質は第2の標的結合ドメインを有し、第2の標的結合ドメイ
ンがそのC末端を介して共刺激ポリペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結
されているPD-1ポリペプチドを含み、このPD-1ポリペプチドが細胞外ドメインと
PD-1の膜貫通ドメインとを具備する、単離されたT細胞が、本明細書中に提供されて
いる。
【0018】
いくつかの実施形態において、第1の標的結合ドメインは、CD16、BCMA、MS
LN、NKG2D、ROR1、CD19、CD20、CD22、及び前立腺特異的がん抗
原(PSCA)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、共刺激ポリペ
プチドは、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、ICOS(CD278
)、4-1BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、CD40、BAFFR
、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160
、CD226、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIからなる群から選択され
る。いくつかの実施形態において、第2の融合タンパク質の共刺激ポリペプチドは、CD
28である。
【0019】
いくつかの実施形態では、コードされた第1の抗原結合ドメインが、第1のリンカー配
列を介して第1のTFPのTCR細胞外ドメインに連接され、且つコードされた第2の抗
原結合ドメインが、第2のリンカー配列を介して第1のTFPのTCR細胞外ドメインに
連接される。いくつかの実施形態では、第1のリンカー配列、及び第2のリンカー配列が
、(G4S)n(式中、n=1~4)を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、第1のTFPのTCRサブユニットが、TCR細胞外ドメイ
ンを含む。いくつかの実施形態では、第1のTFPのTCRサブユニットが、TCR膜貫
通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、第1のTFPのTCRサブユニットが、T
CR細胞内ドメインを含む。いくつかの実施形態では、第1のTFPのTCRサブユニッ
トが、(i)TCR細胞外ドメインと(ii)TCR膜貫通ドメインと(iii)TCR
細胞内ドメインとを含み、(i)、(ii)及び(iii)のうちの少なくとも2つが、
同じTCRサブユニットに由来する。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1のTFPのTCRサブユニットに、CD3ε、CD3γ
もしくはCD3δ、または少なくとも1つの修飾を施されたアミノ酸配列の細胞内シグナ
ル伝達ドメインから選択される刺激ドメインを備える、TCR細胞内ドメインが含まれる
。いくつかの実施形態では、第1のTFPのTCRサブユニットに刺激ドメインを備える
細胞内ドメインが含まれ、この刺激ドメインが、4-1BBの機能的シグナル伝達ドメイ
ン及び/またはCD3ζの機能的シグナル伝達ドメイン、もしくは少なくとも1つの修飾
を施されたアミノ酸配列の機能的シグナル伝達ドメインから選択される。
【0022】
いくつかの実施形態では、第1のヒトまたはヒト化抗体ドメイン、第2のヒトもしくは
ヒト化抗体ドメイン、または両方が、抗体フラグメントを含む。いくつかの実施形態では
、第1のヒトまたはヒト化抗体ドメイン、第2のヒトもしくはヒト化抗体ドメイン、また
はその両方に、scFvドメインまたはVHドメインが含まれる。いくつかの実施形態で
は、コードされた第1のTFPにTCRサブユニットの細胞外ドメインが含まれ、この細
胞外ドメインには、TCRα鎖、TCRβ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γT
CRサブユニット、CD3δTCRサブユニットからなる群から選択されるタンパク質、
その機能的フラグメント、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下
の修飾を施されたアミノ酸配列の細胞外ドメインまたはその一部が含まれる。
【0023】
いくつかの実施形態では、コードされた第1のTFPに膜貫通ドメインが含まれ、膜貫
通ドメインに、TCRα鎖、TCRβ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCR
サブユニット、CD3δTCRサブユニットからなる群から選択されるタンパク質、その
機能的フラグメント、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修
飾を施されたアミノ酸配列の膜貫通ドメインが含まれる。いくつかの実施形態では、コー
ドされた第1のTFPに膜貫通ドメインが含まれ、この膜貫通ドメインに、TCRα鎖、
TCRβ鎖、TCRζ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、
CD3δTCRサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、
CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134
、CD137、CD154からなる群から選択されるタンパク質、その機能的フラグメン
ト、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミ
ノ酸配列の膜貫通ドメインが含まれる。
【0024】
いくつかの実施形態では、単離された核酸分子が、共刺激ドメインをコードする配列を
更に含む。いくつかの実施形態では、共刺激ドメインが、OX40、CD2、CD27、
CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(C
D278)及び4-1BB(CD137)からなる群から選択されるタンパク質ならびに
そのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ酸配列
から得られる、機能的シグナル伝達ドメインである。
【0025】
いくつかの実施形態では、単離された核酸分子が、細胞内シグナル伝達ドメインをコー
ドする配列を更に含む。いくつかの実施形態では、単離された核酸分子が更にリーダー配
列を含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つ但し20以下の修飾に、細胞シグナル伝達を
媒介するアミノ酸の修飾、または第1のTFPに結合するリガンドに応答してリン酸化さ
れるアミノ酸の修飾が包含される。
【0027】
いくつかの実施形態では、単離された核酸分子は、mRNAである。
【0028】
いくつかの実施形態において、第1のTFPは、CD3ζTCRサブユニット、CD3
εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、CD3δTCRサブユニット、T
CRζ鎖、Fcε受容体1鎖、Fcε受容体2鎖、Fcγ受容体1鎖、Fcγ受容体2a
鎖、Fcγ受容体2b1鎖、Fcγ受容体2b2鎖、Fcγ受容体3a鎖、Fcγ受容体
3b鎖、Fcβ受容体1鎖、TYROBP(DAP12)、CD5、CD16a、CD1
6b、CD22、CD23、CD32、CD64、CD79a、CD79b、CD89、
CD278、CD66dからなる群から選択されるタンパク質、その機能的フラグメント
、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ
酸配列のITAMまたはその一部を含む、TCRサブユニットの免疫受容体チロシン活性
化モチーフ(ITAM)を含む。いくつかの実施形態において、ITAMは、CD3γ、
CD3δ、またはCD3εのITAMを置換する。いくつかの実施形態において、ITA
Mは、CD3ζTCRサブユニット、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブ
ユニット、及びCD3δTCRサブユニットからなる群から選択され、且つCD3ζTC
Rサブユニット、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、及びCD
3δTCRサブユニットからなる群から選択される別のITAMを置換する。
【0029】
いくつかの実施形態において、核酸は、ヌクレオチド類似体を含む。いくつかの実施形
態において、ヌクレオチド類似体は、2’-O-メチル、2’-O-メトキシエチル(2
’-O-MOE)、2’-O-アミノプロピル、2’-デオキシ、T-デオキシ-2’-
フルオロ、2’-O-アミノプロピル(2’-O-AP)、2’-O-ジメチルアミノエ
チル(2’-O-DMAOE)、2’-O-ジメチルアミノプロピル(2’-O-DMA
P)、T-O-ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’-O-DMAEOE)、修飾2
’-O-N-メチルアセトアミド(2’-O-NMA)、ロックド核酸(LNA)、エチ
レン核酸(ENA)、ペプチド核酸(PNA)、1’,5’-アンヒドロヘキシトール核
酸(HNA)、モルホリノ、メチルホスホネートヌクレオチド、チオールホスホネートヌ
クレオチド、及び2’-フルオロN3-P5’-ホスホルアミダイトからなる群から選択
される。
【0030】
いくつかの実施形態では、単離された核酸分子が、リーダー配列を更に含む。
【0031】
一態様では、本明細書に記載の核酸分子を介してコードされる複数の単離されたポリペ
プチド分子が、本明細書中に提供されている。いくつかの実施形態において、ベクターは
、in vitro転写されたベクターである。いくつかの実施形態では、ベクター中の
核酸配列を介して、更にポリ(A)尾部がコードされる。いくつかの実施形態では、ベク
ター中の核酸配列を介して、更に3’UTRがコードされる。
【0032】
一態様において、本明細書に記載のベクター、本明細書に記載の混合物、または本明細
書に記載のT細胞を含む、複数の核酸を具備する医薬組成物が、本明細書中に提供されて
いる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
一態様では、養子T細胞療法用のT細胞を操作する目的に用いるための融合タンパク質
の組み合わせが、本明細書中に記載されている。本明細書中に開示されている操作された
T細胞は、標的細胞に結合することができるポリペプチド、すなわち、腫瘍関連抗原など
の抗原によって特徴付けられる細胞に対し特異的に結合できる細胞を有する修飾T細胞受
容体(TCR)を発現させることを含む。そのような修飾T細胞受容体については、例え
ば、同時係属中の非暫定的国際特許出願第PCT/US2016/033146号(20
16年5月18日出願)に詳述されており、該文献は、本明細書において参照により援用
されている。
【0034】
本明細書中に開示されている操作されたT細胞はまた、そのC末端を介して共刺激ポリ
ペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されたPD-1の細胞外ドメインと
膜貫通ドメインとを具備するPD-1融合タンパク質を含む。共刺激ポリペプチドの好適
な例については、後述する。一実施形態において、共刺激ポリペプチドはCD28ポリペ
プチドであり、それにより、「PD1CD28融合タンパク質」または「PD1CD28
スイッチ受容体」を提供する。融合タンパク質の他の例としては、限定されるものではな
いが、PD141BBスイッチ受容体、またはPD1Xスイッチ受容体(ここで、Xは、
DAP10、DAP12、CD30、LIGHT、OX40、CD2、CD27、CDS
、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、またはICOS(CD278)
である)が挙げられる。
【0035】
一実施形態において、修飾TCRを発現するT細胞は、腫瘍関連抗原(本明細書中で「
TAA」とも呼称される)を発現する腫瘍細胞に結合し得る。その例としては、限定され
るものではないが、メソセリン(MSLN)、B細胞成熟MUC16抗原(BCMA)、
CD19、CD20、CD22、前立腺特異的がん抗原(PSCA)、5T4、8H9、
αvβθインテグリン、αvβ6インテグリン、αフェトプロテイン(AFP)、B7-
H6、CA-125炭酸脱水酵素9(CA9)、CD19、CD20、CD22、CD3
0、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD52、CD
123、CD171、がん胎児性抗原(CEA)、EpCAM(上皮細胞接着分子、E-
カドヘリン、EMA(上皮膜抗原)、EGFRvIII、上皮細胞糖タンパク質-2(E
GP-2)、上皮細胞糖タンパク質-40(EGP-40)、ErbB1/EGFR、E
rbB2/HER2/neu/EGFR2、ErbB3/HER3、ErbB4、上皮性
腫瘍抗原(ETA)、葉酸結合タンパク質(FBP)、胎児アセチルコリン受容体(Ac
hR)、葉酸受容体-α、G250/CAIX、ガングリオシド2(GD2)、ガングリ
オシド3(GD3)、高分子量メラノーマ関連抗原(HMW-MAA)、IL-13受容
体α2(IL-13Rα2)、キナーゼインサートドメイン受容体(KDR)、k軽鎖、
ルイスY(LeY)、L1細胞接着分子、メラノーマ関連抗原(MAGE-A1)、メソ
テリン、ムチン-1(MUC1)、ムチン-16(MUC16)、ムチン-18(MUC
-18)、ナチュラルキラーグループ2メンバーD(NKG2D)リガンド、神経細胞接
着分子(NCAM)、NY-ESO-1、がん胎児性抗原(h5T4)、前立腺幹細胞抗
原(PSCA)、前立腺-特異的膜抗原(PSMA)、受容体-チロシンキナーゼ様オー
ファン受容体1(ROR1)、mAb IgEを介して標的化されるTAA、腫瘍関連糖
タンパク質-72(TAG-72)、チロシナーゼ、及び血管内皮増殖因子(VEGF)
受容体が挙げられる。そのようなT細胞には、腫瘍関連抗原に特異的に結合できるscF
vドメインまたはVHドメインを具備する修飾T細胞受容体が含まれるであろう。
【0036】
別の実施形態において、TCRには、標的抗原に特異的なscFvドメインまたはVH
ドメインが含まれる代わりに、CD16ポリペプチドまたはそのFc結合フラグメントが
含まれる。そのようなTCRを発現するように操作されたT細胞は、そのCD16残基が
IgG1フォーマット抗体に結合できることから、前記抗原に対する抗体と組み合わせた
際に表面抗原発現を有する多数の異なる種類の腫瘍細胞を標的とするうえで有用である。
【0037】
別の実施形態において、TCRには、細胞表面抗原または腫瘍関連抗原に特異的な2つ
以上のscFvドメインまたはVドメインを有するTFPが含まれる。そのようなTF
Pは「二重特異性」TFPと呼称されるもので、操作済みTCRを発現するT細胞が、2
種類以上のがん細胞、または単一がん細胞上の2種類以上の腫瘍関連抗原に結合するのを
可能にしている。
【0038】
別の実施形態において、TCRは、NKG2Dポリペプチドまたはそのフラグメントを
含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、TFPに、T細胞受容体のα鎖もしくはβ鎖、CD3δ、C
D3εもしくはCD3γからなる群より選択されるタンパク質、またはその機能的フラグ
メント、あるいは少なくとも1個、2個もしくは3個但し20個、10個もしくは5個以
下の修飾を施されたアミノ酸配列の細胞外ドメインまたはその一部を含むTCRサブユニ
ットの細胞外ドメインが含まれる。他の実施形態では、コードされたTFPに膜貫通ドメ
インが含まれ、この膜貫通ドメインに、TCRのα鎖、β鎖、もしくはTCRサブユニッ
トCD3ε、CD3γ、及びCD3δからなる群から選択されるタンパク質、またはその
機能的フラグメント、あるいは少なくとも1個、2個もしくは3個但し20個、10個も
しくは5個以下の修飾を施されたアミノ酸配列の膜貫通ドメインが含まれる。
【0040】
いくつかの実施形態では、コードされたTFPに膜貫通ドメインが含まれ、この膜貫通
ドメインに、TCRのα鎖、β鎖もしくはζ鎖、またはCD3ε、CD3γ、及びCD3
δ CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD
28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及びCD1
54からなる群から選択されるタンパク質、またはその機能的フラグメント、あるいは少
なくとも1個、2個もしくは3個但し20個、10個もしくは5個以下の修飾を施された
アミノ酸配列の膜貫通ドメインが含まれる。
【0041】
いくつかの実施形態では、コードされた抗腫瘍抗原結合ドメイン、CD16ドメイン、
またはNKG2Dドメインが、リンカー配列を介してTCR細胞外ドメインに連接されて
いる。いくつかの実例において、コードされたリンカー配列は(G4S)n(式中、n=
1~4)を含む。いくつかの実例において、コードされたリンカー配列は、長いリンカー
(LL)配列を含む。いくつかの実例において、コードされた長いリンカー配列は、(G
4S)n(式中、n=2~4)を含む。いくつかの実例において、コードされたリンカー
配列は、短いリンカー(SL)配列を含む。いくつかの実例において、コードされた短い
リンカー配列は、(G4S)n(式中、n=1~3)を含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、単離された核酸分子が、共刺激ドメインをコードする配列を
更に含む。いくつかの実例において、共刺激ドメインは、OX40、CD2、CD27、
CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(C
D278)、及び4-1BB(CD137)からなる群から選択されるタンパク質または
少なくとも1個、2個もしくは3個但し20個、10個もしくは5個以下の修飾を施され
たアミノ酸配列から得られる、機能的シグナル伝達ドメインである。
【0043】
いくつかの実施形態では、単離された核酸分子が、リーダー配列を更に含む。
【0044】
また、前述の核酸分子のいずれかを介してコードされる単離されたポリペプチド分子が
、本明細書中に提供されている。
【0045】
いくつかの実施形態では、コードされた抗腫瘍抗原結合ドメイン、CD16ドメインも
しくはNKG2Dドメイン、またはそのフラグメントが、リンカー配列を介してTCR細
胞外ドメインに連接されている。いくつかの実例において、コードされたリンカー配列は
、(GS)(式中、n=1~4)を含む。いくつかの実例において、コードされたリ
ンカー配列は、長いリンカー(LL)配列を含む。いくつかの実例において、コードされ
た長いリンカー配列は、(GS)(式中、n=2~4)を含む。いくつかの実例にお
いて、コードされたリンカー配列は、短いリンカー(SL)配列を含む。いくつかの実例
において、コードされた短いリンカー配列は、(GS)(式中、n=1~3)を含む
【0046】
いくつかの実施形態では、単離された核酸分子が、共刺激ドメイン及び/またはDNA
Xのようなアダプター分子をコードする配列を更に含む。いくつかの実例において、共刺
激ドメインは、MHCクラス1分子、BTLA、及びToll様受容体、ならびにDAP
10、DAP12、CD30、LIGHT、OX40、GITR、CD2、CD27、C
D7、CD28、CDS、ICAM-1、リンパ球機能的関連抗原-1(LFA-1、別
称:CD11a/CD18)、NKG2C、ICOS、BAFFR、HVEM、NKG2
C、SLAMF7、NKp80、CD160、B7-H3、4-1BB(CD137)、
及びCD83と特異的に結合するリガンドからなる群から選択されるタンパク質または少
なくとも1個、2個もしくは3個但し20個、10個もしくは5個以下の修飾を施された
アミノ酸配列から得られる、機能的シグナル伝達ドメインである。
【0047】
いくつかの実施形態では、単離された核酸分子が、リーダー配列を更に含む。
【0048】
また、前述の核酸分子のいずれかを介してコードされる単離されたポリペプチド分子が
、本明細書中に提供されている。
【0049】
いくつかの実施形態において、単離TFP分子に、T細胞受容体のα鎖もしくはβ鎖、
CD3δ、CD3ε、もしくはCD3γからなる群より選択されるタンパク質または少な
くとも1個、2個もしくは3個但し20個、10個もしくは5個以下の修飾を施されたア
ミノ酸配列の細胞外ドメインまたはその一部が含まれる、TCR細胞外ドメインを具備す
る。
【0050】
いくつかの実施形態では、抗腫瘍抗原結合ドメイン、CD16ドメインもしくはNKG
2Dドメイン、またはそのフラグメントが、リンカー配列を介してTCR細胞外ドメイン
に連接されている。いくつかの実例において、リンカー領域は、(GS)(式中、n
=1~4)を含む。いくつかの実例において、リンカー配列は、長いリンカー(LL)配
列を含む。いくつかの実例において、長いリンカー配列は、(GS)(式中、n=2
~4)を含む。いくつかの実例において、リンカー配列は、短いリンカー(SL)配列を
含む。いくつかの実例において、短いリンカー配列は、(GS)(式中、n=1~3
)を含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、単離TFP分子は、共刺激ドメインをコードする配列を
更に含む。他の実施形態において、単離TFP分子は、細胞内シグナル伝達ドメインをコ
ードする配列を更に含む。更に他の実施形態において、単離TFP分子は、リーダー配列
を更に含む。
【0052】
また、前述のTFP分子のいずれかをコードする核酸分子を含むベクターが、本明細書
中に提供されている。いくつかの実施形態では、ベクターが、DNA、RNA、プラスミ
ド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはレトロウイルスベクター
からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ベクターが、プロモーターを更に
含む。いくつかの実施形態において、ベクターは、in vitro転写されたベクター
である。いくつかの実施形態では、ベクター中の核酸配列は、ポリ(A)尾部を更に含む
。いくつかの実施形態では、ベクター中の核酸配列によって、3’UTRを更に含む。
【0053】
また、記載されているベクターのうちのいずれかを含む細胞も、本明細書中に提供され
ている。いくつかの実施形態では、細胞は、ヒトT細胞である。いくつかの実施形態では
、細胞は、CD8+またはCD4+T細胞である。他の実施形態において、細胞は、細胞
内シグナル伝達ドメインからの陽性シグナルを含む第2のポリペプチドと会合した、阻害
性分子の少なくとも一部を含む第1のポリペプチドを含む阻害性分子をコードする核酸を
更に含む。いくつかの実例において、阻害性分子は、PD-1の少なくとも一部を含む第
1のポリペプチド、ならびに共刺激ドメインと一次シグナル伝達ドメインとを含む第2の
ポリペプチドを、具備する。
【0054】
別の態様において、抗腫瘍抗原結合ドメイン、CD16ドメインまたはNKG2Dドメ
インタンパク質もしくはそのフラグメント、TCR細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及
び細胞内シグナル伝達ドメインを具備し、内在性TCR複合体及び/または少なくとも1
つの内在性TCRポリペプチドと機能的に相互作用し得る、単離されたTFP分子が、本
明細書中に提供されている。
【0055】
別の態様において、抗腫瘍抗原結合ドメイン、CD16ドメインまたはNKG2Dドメ
インタンパク質もしくはそのフラグメント、TCR細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及
び細胞内シグナル伝達ドメインを具備し、内在性TCR複合体に機能的にインテグレート
し得る、単離されたTFP分子が、本明細書中に提供されている。
【0056】
別の態様では、TFP分子が、腫瘍関連抗原ポリペプチドまたはそのフラグメントと、
TCR細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内ドメインとを具備し、本TFP分子
が、ヒトCD8+もしくはCD4+T細胞の表面内、表面及び/または表面上で内在性T
CR複合体及び/または少なくとも1つの内在性TCRポリペプチドと機能的に相互作用
し得るものである、少なくとも2つのTFP分子または1つのTFP分子及びPD-1融
合タンパク質を具備する、ヒトCD8+またはCD4+T細胞(例えば、細胞母集団)が
、本明細書中に提供されている。一実施形態において、1つ以上のTFP分子、及びPD
-1融合タンパク質は、同じ細胞内に存在する。別の実施形態において、1つ以上のTF
P分子、及びPD-1融合タンパク質は、同じ細胞母集団内に存在する。
【0057】
別の態様において、i)抗腫瘍抗原結合ドメイン、CD16ドメインもしくはNKG2
Dドメインポリペプチド、またはそのフラグメントと、TCR細胞外ドメインと、膜貫通
ドメインと、細胞内ドメインとを含むTFP分子、ならびにii)少なくとも1つの内在
性TCR複合体を具備するタンパク質複合体が、本明細書中に提供されている。
【0058】
いくつかの実施形態では、TCRに、T細胞受容体のα鎖もしくはβ鎖、CD3δ、C
D3ε、もしくはCD3γからなる群より選択されるタンパク質の細胞外ドメインまたは
その一部が含まれる。いくつかの実施形態では、抗腫瘍抗原結合ドメイン、CD16ドメ
インもしくはNKG2Dドメインポリペプチドまたはそのフラグメントが、リンカー配列
を介してTCR細胞外ドメインに連接されている。いくつかの実例において、リンカー領
域は、(GS)(式中、n=1~4)を含む。いくつかの実例において、リンカー配
列は、長いリンカー(LL)配列を含む。いくつかの実例において、長いリンカー配列は
、(GS)(式中、n=2~4)を含む。いくつかの実例において、リンカー配列は
、短いリンカー(SL)配列を含む。いくつかの実例において、短いリンカー配列は、(
S)(式中、n=1~3)を含む。
【0059】
別の態様では、母集団のT細胞が、個々にまたは集合的に少なくとも2つのTFP分子
を含み、TFP分子が、抗腫瘍抗原結合ドメイン、CD16ドメイン、またはNKG2D
ドメインポリペプチドもしくはそのフラグメント、TCR細胞外ドメイン、膜貫通ドメイ
ン、ならびに細胞内ドメインを具備し、本TFP分子が、ヒトCD8+もしくはCD4+
T細胞の表面内、表面及び/または表面上で内在性TCR複合体及び/または少なくとも
1つの内在性TCRポリペプチドと機能的に相互作用し得る、ヒトCD8+もしくはCD
4+T細胞の母集団が、本明細書中に提供されている。
【0060】
別の態様では、母集団のT細胞が、個々にまたは集合的に、本明細書中に提供されてい
る単離された核酸分子を介してコードされる少なくとも2つのTFP分子を含む、ヒトC
D8+またはCD4+T細胞の母集団が、本明細書中に提供されている。
【0061】
別の態様では、記載のベクターまたはベクターの組み合わせのいずれかを用いてT細胞
を形質導入することを含む、細胞を作製する方法が、本明細書中に提供されている。一実
施形態では、T細胞を、本明細書に記載のTFPとPD-1融合タンパク質とを含む単一
のベクターで形質導入する。別の実施形態では、T細胞を、本明細書中に提供されている
TFPを発現する少なくとも1つのベクターと、本明細書中に提供されているPD-1融
合タンパク質を発現する少なくとも1つのベクターとを含む、2つ以上のベクターで形質
導入する。
【0062】
別の態様では、in vitro転写RNAまたは合成RNAを細胞に導入することを
含む、RNA操作済み細胞母集団を生成する方法であって、RNAが記載のTFP分子及
び/またはPD-1融合タンパク質のいずれかをコードする核酸を含む方法が、本明細書
中に提供されている。
【0063】
別の態様において、記載のTFP分子及びPD-1融合タンパク質/スイッチ受容体の
いずれかを発現する有効量の細胞を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物における抗
腫瘍免疫を提供する方法が、本明細書中に提供されている。いくつかの実施形態では、細
胞は、自己由来T細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、同種異系T細胞である
。いくつかの実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0064】
いくつかの実施形態では、哺乳動物が増殖性疾患を有する。増殖性疾患は、血液がんま
たは固形腫瘍のような、がんであり得る。一実施形態において、腫瘍細胞、または腫瘍微
小環境内の細胞は、PD-L1またはPD-L2を発現する。一実施形態において、哺乳
動物は少なくとも1種の抗がん療法剤に対し耐性を有する。
【0065】
それゆえ、別の態様では、本明細書中に開示されているPD-1融合タンパク質とTF
Pとを含む操作されたT細胞は、がん細胞が、PD-1のリガンド、すなわちPD-L1
もしくはPD-L2を発現する、がんもしくは悪性腫瘍、または前癌状態のような増殖性
疾患の治療に有用である。例としては、限定されるものではないが、肺癌(Dong e
t al.,Nat Med.8(8)(2002),793-800)、卵巣癌(Do
ng et al.,Nat Med.8(8)(2002),793-800)、黒色
腫(Dong et al.,Nat Med.8(8)(2002),793-800
)、結腸癌(Dong et al.,Nat Med.8(8)(2002),793
-800)、胃癌(Chen et al.,World J Gastroenter
ol.9(6)(2003)、1370-1373)、腎細胞癌(Thompson e
t al.,104(10)(2005)、2084-91)、食道癌(Ohigash
i et al.,11(8)(2005)、2947-2953)、神経膠腫(Win
tterle et al.,Cancer Res.63(21)(2003)、74
62-7467)、尿路上皮癌(Nakanishi et al.,Cancer I
mmunol Immunother.56(8)(2007)、1173-1182)
、網膜芽細胞腫(Usui et al.,Invest Ophthalmol Vi
s Sci.47(10)(2006)、4607-4613)、乳癌(Ghebeh
et al.,Neoplasia 8(3)(2006)、190-198)、非ホジ
キンリンパ腫(Xerri et al.,Hum Pathol.39(7)(200
8)、1050-1058)、膵癌(Geng et al.,J Cancer Re
s Clin Oncol.134(9)(2008)、1021-1027)、ホジキ
ンリンパ腫(Yamamoto et al.,Blood 111(6)(2008)
、3220-3224)、骨髄腫(Liu et al.,Blood 110(1)(
2007)、296-304)、肝細胞癌(Gao et al.,Clin Canc
er Res.15(3)(2009)、971-979)、白血病(Kozako e
t al.,Leukemia 23(2)(2009)、375-382)、子宮頸癌
(Karim et al.,Clin Cancer Res.15(20)(200
9)、6341-6347)、胆管癌(Ye et al.,J Surg Oncol
.100(6)(2009)、500-504)、口腔癌(Malaspina et
al.,Cancer Immunol Immunother.60(7)(2011
)、965-974)、頭頸部癌(Badoual et al.,Cancer Re
s.73(1)(2013)、128~138)、及び中皮腫(Mansfield e
t al.,J Thorac Oncol.9(7)(2014)、1036~104
0)のような、がんが挙げられる。
【0066】
いくつかの実施形態では、記載されたTFP分子のいずれかを発現する細胞を、TFP
分子を発現する細胞の投与に関連する1つ以上の副作用を改善させる薬剤と併用投与する
。いくつかの実施形態では、記載のTFP分子のいずれかを発現する細胞を、PD-1関
連の疾患を治療する薬剤と併用投与する。
【0067】
また、医薬品として用いるための、記載の単離核酸分子の任意のもの、記載の単離ポリ
ペプチド分子の任意のもの、記載の単離TFPの任意のもの、記載のタンパク質複合体の
任意のもの、記載のベクターの任意のもの、または記載の細胞の任意のものが、本明細書
中に提供されている。
【0068】
定義
別途規定されていない限り、本明細書中に用いられている全ての技術用語及び科学用語
は、本発明の属する分野の当業者に遍く理解されているのと意味が同じである。
【0069】
「a」及び「an」という用語は、当該項目の文法上の目的語のうちの1つまたは2つ
以上(すなわち少なくとも1つ)を指す。例として、「1つの要素」は1つの要素または
2つ以上の要素を意味する。
【0070】
本明細書において、「約」は、当業者に知られているかまたは知られ得る状況に応じて
、±1%未満または1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、
11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、
25%、30%もしくは30%超)を意味し得る。
【0071】
本明細書中に用いられている「対象(複数可)」または「個体」としては、限定される
ものではないが、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(飼育動物、農業動物もしくは野生動物など
)のような哺乳動物類、ならびに鳥類、及び水産動物類を挙げることができる。「患者」
は、疾患、障害もしくは病態に罹患しているかまたはそれらを発症するリスクに曝されて
いる対象、あるいはさもなければ本明細書中に提供されている組成物及び方法を必要とし
ている対象である。
【0072】
本明細書において、「治療すること」または「治療」とは、疾患もしくは病態の治療ま
たは改善が成功する兆候を指す。治療することには、例えば、疾患もしくは病態の1つ以
上の症状の重篤度を軽減、遅延もしくは緩和することが含まれる場合もあれば、あるいは
患者が体験する疾患、欠陥、障害もしくは有害状態などの症状の頻度を低減することが含
まれる場合もある。本明細書において、「治療または予防する」とは、疾患もしくは病態
における或るレベルの治療または改善に帰結し、病態を完全に防止をすること含むがこれ
に限定されない、当該の目的を目指したある範囲の結果を想到する方法を指すために、本
明細書中に時々用いられている。
【0073】
本明細書において、「予防する」とは、患者における腫瘍形成のような疾患または病態
の予防を指す。例えば、腫瘍または他の形態のがんを発症するリスクに曝されている個体
を本発明の方法で治療し、後になって腫瘍もしくは他の形態のがんを発症せずに済んだ場
合、その個体において疾患が少なくとも一定期間にわたって予防されたことになる。
【0074】
本明細書において、「治療有効量」とは、本組成物の投与先となる個体に対し有益な効
果をもたらすかあるいはさもなければ有害な非有益事象を低減するうえで十分な組成物ま
たはその活性成分の量である。本明細書において「治療有効量」とは、そのような投与が
所与の期間にわたって1回以上行われる場合に、投与により所望されるまたは望ましい(
例えば、有益な)1つ以上の効果をもたらす用量を意味する。正確な用量は治療目的に応
じて異なってくるものであり、当業者が公知の技法を用いて確証するであろう(例えば、
Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(vo
ls.1-3,1992);Lloyd,The Art,Science and T
echnology of Pharmaceutical Compounding(
1999)及びPickar,Dosage Calculations(1999)を
参照)。
【0075】
本明細書において、「融合タンパク質」という用語は、異なる起源由来のポリペプチド
部分からなるタンパク質に関する。したがって、この用語はまた、キメラタンパク質とし
て理解される場合もある。本明細書中に記載されているPD-1融合タンパク質との関連
において、「融合タンパク質」という用語は、「スイッチ受容体」という用語と同義に用
いられる。融合タンパク質は通常、もともと別々のタンパク質をコードした2つ以上の遺
伝子(または好ましくはcDNA)の結合によって作出されたタンパク質である。この融
合遺伝子(または融合cDNA)が翻訳されると、結果として、好ましくは、各々の原タ
ンパク質に由来する機能的特性を有する単一のポリペプチドが生成される。組み換え融合
タンパク質は、生物学的研究または治療において用いられる組み換えDNA技術を介して
人工的に作出される。本発明の融合タンパク質の産生に関する更なる詳細は、本明細書に
おいて後述する。
【0076】
本発明との関連において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という
用語は、同義に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。この用語はまた、1つ以上の
アミノ酸残基が人工化学模倣物または対応する天然に存在するアミノ酸であるアミノ酸ポ
リマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーにも適用される。したがって、本発明
との関連において、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド(アミド)結合を介して連
結されたアミノ酸モノマー鎖を含むかまたはそのアミノ酸モノマー鎖からなる分子に関す
る。ペプチド結合は、或るアミノ酸のカルボキシル基が別のアミノ酸のアミノ基と反応し
たときに形成される、共有化学結合である。本明細書において、「ポリペプチド」は、規
定の長さを有する分子に限定されない。それゆえ、本明細書において、「ポリペプチド」
という用語は、アミノ酸残基が共有ペプチド結合を介して連結されている、アミノ酸鎖を
包含するペプチド、オリゴペプチド、タンパク質またはポリペプチドに関する。一方、本
明細書において「ポリペプチド」という用語はまた、アミノ酸(複数可)及び/またはペ
プチド結合(複数可)が機能的類似体で置換されている、そのようなタンパク質/ポリペ
プチドのペプチド模倣物も包含する。また、ポリペプチドという用語は、ポリペプチドの
修飾、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などを指し、それらを除外しようとし
ないものである。そのような修飾は、当該技術分野において綿密に記載されている。
【0077】
本明細書において、「T細胞受容体(TCR)融合タンパク質」または「TFP」には
、一般的に、i)標的細胞上の表面抗原に結合する機能を有し、且つii)典型的にはT
細胞の表面内または表面上の同じ場所にあるときに、無傷のTCR複合体の他のポリペプ
チド成分と相互作用する機能を有する、TCRを含む種々のポリペプチドから誘導された
組み換えポリペプチドが包含される。
【0078】
本明細書において、「PD-1」という用語は、T細胞及びプロB細胞上に発現する阻
害性細胞表面受容体であるCD279(分化群279)としても公知であり、免疫寛容中
にT細胞機能の調節に関与する、プログラム細胞死タンパク質1を指す。リガンドが結合
した際、PD-1は、T細胞エフェクター機能を抗原特異的に阻害し、他の因子と関連し
て、考え得る細胞死誘発因子として機能する。ヒトにおいて、PD-1は、PDCD1遺
伝子を介してコードされる。PD-1は、PD-L1及びPD-L2という2つのリガン
ドに結合することで知られている。PD-1及びそのリガンドは、T細胞の活性化を妨げ
、自己免疫を低下させ、自己寛容を促進することによって、免疫系の下方制御において重
要な役割を果たす。PD-1の阻害効果は、リンパ節内の抗原特異的T細胞においてアポ
トーシス(プログラム細胞死)を促進すると同時に、調節性T細胞(サプレッサーT細胞
)においてアポトーシスを低減するという二重機序を介して達成される。
【0079】
ヒト及びネズミの、アミノ酸配列及び核酸配列は、GenBank、UniProt及
びSwiss-Protなどの公共データベースに見出すことができる。例えば、ヒトP
D-1配列は、UniProt受託番号Q02242に対応し、且つ配列:MQIPQA
PWPVVWAVLQLGWRPGWFLDSPDRPWNPPTFSPALLVVTE
GDNATFTCSFSNTSESFVLNWYRMSPSNQTDKLAAFPEDR
SQPGQDCRFRVTQLPNGRDFHMSVVRARRNDSGTYLCGAI
SLAPKAQIKESLRAELRVTERRAEVPTAHPSPSPRPAGQF
QTLVVGVVGGLLGSLVLLVWVLAVICSRAARGTIGARRTG
QPLKEDPSAVPVFSVDYGELDFQWREKTPEPPVPCVPEQT
EYATIVFPSGMGTSSPARRGSADGPRSAQPLRPEDGHCSW
PL(配列番号14)を有する。
【0080】
本明細書中に用いられている「PD-1融合タンパク質」または「PD-1」スイッチ
受容体という用語は、PD-L1またはPD-L2に結合することによって阻害シグナル
を受信し、融合タンパク質の共刺激ドメインを介してシグナルを活性化シグナルに変換す
る(すなわち「スイッチする」)、記載のPD-1融合タンパク質を指す。
【0081】
「抗腫瘍効果」という用語は、例えば、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移数の
減少、平均余命の増大、腫瘍細胞増殖の低減、腫瘍細胞生存率の低下、またはがん性病態
に関連する様々な生理学的症状の改善などを含むがこれらに限定されない様々な手段によ
って顕現化され得る生物学的効果を指す。「抗腫瘍効果」はまた、本発明のペプチド、ポ
リヌクレオチド、細胞及び抗体が初期段階で腫瘍の発生を防止する能力によっても顕現化
される場合がある。
【0082】
「自己由来」という用語は、後になってから再導入されるべき個体と同一の個体に由来
する、任意の材料を指す。一実施形態において、本明細書中に開示されているTFP T
細胞及びPD-1スイッチ細胞は、T細胞のレシピエントにとって自己由来である。
【0083】
「同種異系」または「同種他家由来」という用語は、材料が導入された個体と同じ種の
別の動物に由来するか、またはその個体とは別の患者に由来する任意の材料を指す。1つ
以上の遺伝子座に位置する遺伝子が同一遺伝子ではないときに、2つ以上の個体は互いに
同種異系であると言われる。いくつかの態様では、同一種の個体に由来する同種異系材料
が、遺伝的には異なるが、抗原的に十分に相互作用し得る。一実施形態において、本明細
書中に開示されているTFP T細胞及びPD-1スイッチ細胞は、T細胞のレシピエン
トにとって同種異系である。
【0084】
「異種間」または「異種由来」という用語は、異なる種の動物に由来する移植片を指す
【0085】
「がん」という用語は、異常細胞の増殖が急速且つ無制御であることを特徴とする疾患
を指す。がん細胞は局所的な場合もあれば、あるいは血流及びリンパ系を通って身体の他
の部分にまで及ぶ可能性もある。本明細書中に記載の多様ながんの例としては、限定され
るものではないが、前立腺癌、乳癌、黒色腫、肉腫、結腸直腸癌、膵臓癌、子宮癌、卵巣
癌、腹部癌、胃癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、胆管癌、扁平上皮癌、中皮腫、
副腎皮質癌、食道癌、頭頸部癌、肝臓癌、鼻咽頭癌、神経上皮癌、腺様嚢胞癌、胸腺腫、
慢性リンパ性白血病、神経膠腫、多形性膠芽腫、神経芽細胞腫、乳頭状腎細胞癌、マント
ル細胞リンパ腫、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病などが挙げられる。
【0086】
「保存的配列修飾」という用語は、アミノ酸配列を含有する抗体または抗体フラグメン
トの結合特性に顕著な影響を及ぼしたりまたはその結合特性を改変したりすることのない
、アミノ酸修飾を指す。そのような保存的修飾には、アミノ酸置換、付加及び欠失が包含
される。修飾は、部位特異的突然変異誘発及びPCR媒介突然変異誘発のような、当該技
術分野において公知の標準的な技法により、本発明の抗体または抗体フラグメントに導入
することが可能である。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミ
ノ酸残基で置換されているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは
、当該技術分野において定義されてきた。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有する
アミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例
えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グ
リシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリ
プトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イ
ソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸
(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば
チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が包含される。それゆえ、
本発明のTFP内の1つ以上のアミノ酸残基を同じ側鎖ファミリー由来の他のアミノ酸残
基で置換してもよいし、改変されたTFPを本明細書に記載の機能的アッセイを用いて試
験してもよい。
【0087】
「刺激」という用語は、刺激ドメインまたは刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体
)とその同族リガンドとの結合を介して誘導され、それにより、TCR/CD3複合体を
介したシグナル伝達を含むがこれに限定されないシグナル伝達事象を媒介することによっ
て誘導される、一次応答を指す。或る分子の発現の改変、及び/または細胞骨格構造の再
編成などは、刺激により媒介される場合がある。
【0088】
「刺激分子」または「刺激ドメイン」という用語は、一次細胞質シグナル伝達配列(複
数可)を提供するT細胞によって発現し、T細胞シグナル伝達経路の少なくともいくつか
の態様に対して刺激的な方法でTCR複合体の一次活性化を調節する、分子またはその一
部を指す。一態様において、一次シグナルは、例えば、TCR/CD3複合体とペプチド
を担持したMHC分子との結合を介して開始され、これにより、T細胞応答が媒介される
(増殖、活性化、分化などを含むがこれらに限定されない)に至る。刺激的に作用する一
次細胞質シグナル伝達配列(別称:「一次シグナル伝達ドメイン」)には、免疫受容体チ
ロシンベースの活性化モチーフ(略称「ITAM」)として知られるシグナル伝達モチー
フが含まれる場合がある。本発明において特に有用な一次細胞質シグナル伝達配列を含有
するITAMの例としては、限定されるものではないが、TCRζ、FcRγ、FcRβ
、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD2
78(別称:「ICOS」)、及びCD66dに由来するITAMが挙げられる。
【0089】
「抗原提示細胞」または「APC」という用語は、その表面上に、主要組織適合遺伝子
複合体(MHC)と複合体を形成した外来抗原を表示する補助細胞(例えば、B細胞、樹
状細胞など)などの免疫系細胞を指す。これらの複合体は、T細胞受容体(TCR)を用
いることで、T細胞に認識できる。APCによって抗原が処理されてT細胞に対し提示さ
れる。
【0090】
「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語が本明細書中に用いられている場合、分子
の細胞内部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、TFP発現T細胞のようなTFP
含有細胞の免疫エフェクター機能を促進するシグナルを生成する。TFP発現T細胞など
における免疫エフェクター機能の例としては、細胞溶解活性及びTヘルパー細胞活性(例
えば、サイトカインの分泌)が挙げられる。或る実施形態において、細胞内シグナル伝達
ドメインは、一次細胞内シグナル伝達ドメインを含む場合がある。例示的な一次細胞内シ
グナル伝達ドメインとしては、一次刺激または抗原依存性刺激に関与する分子に由来する
ドメインが挙げられる。或る実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激
細胞内ドメインを含む場合がある。例示的な共刺激細胞内シグナル伝達ドメインとしては
、共刺激シグナルに関与する分子、または抗原非依存性刺激に由来するドメインが挙げら
れる。
【0091】
一次細胞内シグナル伝達ドメインは、ITAM(「免疫受容体チロシン活性化モチーフ
」)を含む場合がある。一次細胞質シグナル伝達配列を含むITAMの例としては、限定
されるものではないが、CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε
、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66d DAP10、及びDA
P12に由来するITAMが挙げられる。
【0092】
「共刺激分子」という用語は、共刺激リガンドと特異的に結合することにより、限定さ
れるものではないが増殖などのT細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上の同族結合
パートナーを指す。共刺激分子は、効率的な免疫応答に必要とされるのは、抗原受容体及
びそれらのリガンド以外の細胞表面分子である。共刺激分子としては、限定されるもので
はないが、MHCクラス1分子BTLA、及びTollリガンド受容体、ならびにDAP
10、DAP12、CD30、LIGHT、OX40、GITR、CD2、CD27、C
D7、CD28、CDS、ICAM-1、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1、別称
:CD11a/CD18)、NKG2C、ICOS、BAFFR、HVEM、NKG2C
、SLAMF7、NKp80、CD160、B7-H3、4-1BB(CD137)、及
びCD83と特異的に結合するリガンドが挙げられる。共刺激細胞内シグナル伝達ドメイ
ンは、共刺激分子の細胞内部分であり得る。共刺激分子は、以下のタンパク質ファミリー
:TNF受容体タンパク質、免疫グロブリン様タンパク質、サイトカイン受容体、インテ
グリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)、及び活性化NK細胞
受容体に代表され得る。細胞内シグナル伝達ドメインには、その誘導元分子の細胞内部分
全体もしくは天然細胞内シグナル伝達ドメイン全体、またはその機能的フラグメントが含
まれる場合がある。「4-1BB」という用語は、GenBank登録番号AAA624
78.2として提供されるアミノ酸配列、またはマウス、齧歯類、サル、類人猿などの非
ヒト種由来の同等の残基を有するTNFRスーパーファミリーのメンバーを指し、「4-
1BB共刺激ドメイン」は、GenBank登録番号AAA62478.2のアミノ酸残
基214~255、または非ヒト種、例えばマウス、齧歯類、サル、類人猿などに由来す
る同等の残基として定義される。
【0093】
「コードする」という用語は、定義済みヌクレオチド配列(例えば、rRNA、tRN
A及びmRNA)または定義済みアミノ酸配列のいずれかを有する生物学的プロセス及び
それから得られた生物学的特性において他のポリマー及び高分子を合成するための鋳型と
しての役割を果たす、遺伝子、cDNAまたはmRNAなどの、ポリヌクレオチド内のヌ
クレオチドの具体的な配列の固有の特性を指す。それゆえ、遺伝子、cDNA、またはR
NAは、その遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が細胞または他の生物系において
タンパク質を産生する場合にタンパク質をコードする。mRNA配列と同一であり通常な
ら配列表中に提供されるヌクレオチド配列であるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転
写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方は、タンパク質もしくはその遺伝子ま
たはcDNAの他の産物をコードするものと呼称される場合がある。
【0094】
別途指定されていない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、相
互の縮重バージョンであり同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列が包含
される。また、タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列という語句は、或
るバージョンにおいてタンパク質をコードするヌクレオチド配列に1つ以上のイントロン
が含有され得る限り、イントロンを含む場合がある。
【0095】
「有効量」または「治療有効量」という用語は、本明細書中で同義に用いられており、
特定の生物学的または治療的結果を達成するのに有効な本明細書に記載の化合物、製剤、
材料または組成物の量を指す。
【0096】
「内在性」という用語は、生物、細胞、組織もしくは系に由来するか、またはその内部
で産生される任意の物質を指す。
【0097】
「外在性」という用語は、生物、細胞、組織もしくは系に由来するか、またはその外部
で産生される任意の物質を指す。
【0098】
「発現」という用語は、プロモーターを介して駆動される特定のヌクレオチド配列の転
写及び/または翻訳を指す。
【0099】
「トランスファーベクター」という用語は、単離された核酸を含み、この単離された核
酸を、細胞内部に送達する目的に使用することができる物質の組成物を指す。直鎖状ポリ
ヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミド
、及びウイルスを含むがこれらに限定されない多数のベクターが当該技術分野において公
知である。それゆえ、「トランスファーベクター」という用語は、自律複製プラスミドま
たはウイルスを含む。この用語はまた、例えばポリリシン化合物、リポソームなどのよう
な、細胞内への核酸の移動を促進する非プラスミド及び非ウイルス化合物を更に含むもの
と解釈すべきである。ウイルス導入ベクターの例としては、限定されるものではないが、
アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レン
チウイルスベクターなどが挙げられる。
【0100】
「発現ベクター」という用語は、発現させるヌクレオチド配列に作動可能に連結された
発現制御配列を含む組み換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現に十分なシス
作用要素は発現ベクターに含まれており、他の発現のための要素は、宿主細胞を介して供
給される場合もあればあるいはin vitro発現系において供給される場合もある。
発現ベクターには、組み換えポリヌクレオチドを組み込んだコスミド、プラスミド類(例
えば、裸プラスミド、またはリポソーム内に収容されたプラスミド)、ならびにウイルス
類(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス
)をはじめとする、当該技術分野において公知の全ての発現ベクターが包含される。
【0101】
「レンチウイルス」という用語は、レトロウイルス科の属を指す。レンチウイルスは、
レトロウイルスの中でも、非分裂細胞に感染し得るという点で独特であり、かなりの量の
遺伝情報を宿主細胞のDNA内に送達できるので、遺伝子送達ベクターの最も効率的な方
法の1つとなっている。HIV、SIV、及びFIVはいずれもレンチウイルスの例であ
る。
【0102】
「レンチウイルスベクター」という用語は、レンチウイルスゲノムの少なくとも一部に
由来するベクター(特に、Milone et al.,Mol.Ther.17(8)
:1453-1464(2009)に提供されているような自己不活性化レンチウイルス
ベクターなど)を指す。診療所で使用可能なレンチウイルスベクターの他の例としては、
限定されるものではないが、例えば、Oxford BioMedica製のLENTI
VECTOR(商標)遺伝子送達技術、Lentigen製のLENTIMAX(商標)
ベクター系などが挙げられる。また、非臨床型レンチウイルスベクターも利用可能であり
、当業者に公知である。
【0103】
「相同」または「同一性」という用語は、2つのポリマー分子間(例えば、2つのDN
A分子間もしくは2つのRNA分子間など、2つの核酸分子間)、または2つのポリペプ
チド分子間の、サブユニット配列同一性を指す。2つの分子の両方におけるサブユニット
位置が、同じ単量体サブユニットに占有されているとき(例えば、2つのDNA分子の各
々の位置がアデニンに占有されている場合)、それらの分子はその位置にて相同または同
一である。2つの配列間の相同性は、一致位置または相同位置の数値の直接的関数である
。例えば、2つの配列中の位置の半分(例えば、ポリマーの長さ10サブユニット中の5
つの位置)が相同である場合、2つの配列は50%相同であり、位置の90%(例えば1
0中9)が一致または相同である場合、2つの配列は90%相同である。
【0104】
「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、ネズミ)抗体は、キメラ免疫グロブリン、免疫グロ
ブリン鎖またはそれらのフラグメント(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)
または抗体の他の抗原結合部分配列)であり、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配
列を含む。大部分において、ヒト化抗体及びその抗体フラグメントは、レシピエントの相
補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望される特異性、親和性及び能力を有するマウ
ス、ラットまたはウサギなどの非ヒト種のCDR由来の残基(ドナー抗体)で置換されて
いる、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体または抗体フラグメント)である。いくつ
かの実例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応
する非ヒト残基で置換されている。更になお、ヒト化抗体/抗体フラグメントは、レシピ
エント抗体内にも見出されないし移入済みCDRまたはフレームワーク配列内にも見出さ
れない残基を含む場合がある。これらの修飾を施すことによって、抗体または抗体フラグ
メントの性能を更に洗練して最適化することが可能である。概して、ヒト化抗体またはそ
の抗体フラグメントには、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全
部が含まれており、このドメインでは、CDR領域の全部または実質的に全部が、非ヒト
免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全部またはかなりの部分が、ヒト免疫
グロブリン配列のFR領域である。また、ヒト化抗体または抗体フラグメントには、典型
的にはヒト免疫グロブリン由来の免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部が含
まれる場合がある。更なる詳細については、Jones et al.,Nature,
321:522-525,1986;Reichmann et al.,Nature
,332:323-329,1988;Presta,Curr.Op.Struct.
Biol.,2:593-596,1992を参照のこと。
【0105】
「ヒト」または「完全にヒト」とは、全分子がヒト源であるか、あるいはヒト型の抗体
もしくは免疫グロブリンと同一のアミノ酸配列からなる、抗体または抗体フラグメントの
ような免疫グロブリンを指す。
【0106】
「単離された」という用語は、天然の状態に改変を施されたものまたは天然の状態から
取り除かれたものであることを意味する。例えば、生存している動物内に天然に存在する
核酸またはペプチドは「単離されていない」のに対し、同じ核酸またはペプチドであって
も、その天然状態の共存物質から部分的または完全に分離されるなら「単離されている」
ことになる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在する場
合もあれば、あるいは例えば宿主細胞のような非天然環境に存在する場合もある。
【0107】
本発明との関連において、一般的に存在する核酸塩基については、以下の略語が用いら
れる。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し
、「T」はチミジンを指し、且つ「U」はウリジンを指す。
【0108】
「作動可能に連結された」または「転写制御」という用語は、調節配列と異種核酸配列
との間の機能的連結を指し、この連結の結果、後者が発現する。例えば、第1の核酸配列
が第2の核酸配列と機能的な関係に置かれたときは、第1の核酸配列は第2の核酸配列と
作動可能に連結されていることになる。例えば、プロモーターがコード配列の転写または
発現に影響を及ぼす場合、そのプロモーターはコード配列に対し作動可能に連結されてい
ることになる。作動可能に連結されたDNA配列は互いに隣接する場合があり、例えば2
つのタンパク質コード領域を連結するのに必要な場合、同一のリーディングフレーム内に
ある。
【0109】
免疫原性組成物の「非経口」投与という用語には、例えば、皮下注射(s.c.)、静
脈内注射(i.v.)、筋肉内注射(i.m.)、胸骨内注射、腫瘍内または注入技法が
包含される。
【0110】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖のいずれかの
形態の、デオキシリボ核酸(DNA)もしくはリボ核酸(RNA)及びそれらのポリマー
を指す。別途限定されていない限り、この用語には、基準核酸と同様の結合特性を有し、
且つ天然に存在するヌクレオチドと同様に代謝される天然ヌクレオチドの公知の類似体を
含む核酸が包含される。別途指示されていない限り、特定の核酸配列はまた、その保存的
に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、及
び相補的配列、ならびに明示的に指示されている配列も、暗黙的に包含する。具体的には
、選択された1つ以上の(または全ての)コドンの3位が混合塩基及び/またはデオキシ
イノシン残基で置換された配列を生成することによって、縮重コドン置換を達成すること
が可能である(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19
:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.2
60:2605-2608(1985);及びRossolini et al.,Mo
l.Cell.Probes 8:91-98(1994))。
【0111】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、同義に用いられ
ており、ペプチド結合を介して共有結合されたアミノ酸残基を含む化合物を指す。タンパ
ク質またはペプチドが少なくとも2つのアミノ酸を含有することは必須とされているが、
タンパク質またはペプチドの配列を含み得るアミノ酸の最大数に対し制限は課されていな
い。ポリペプチドは、ペプチド結合を介して相互に結合された2つ以上のアミノ酸を含む
任意のペプチドまたはタンパク質を具備する。本明細書において、この用語は、例えば当
該技術分野においてペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーとも通称されている短鎖と
、当該技術分野においてタンパク質と通称されている長鎖との両方を指し、それらの種類
は多岐にわたっている。「ポリペプチド」としては、数ある中でも、例えば、生物学的に
活性なフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテ
ロ二量体、ポリペプチドの改変体、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質
が挙げられる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組み換えペプチド、またはそれらの組
み合わせが包含される。
【0112】
「プロモーター」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始するのに必
要とされる、細胞の転写機構に認識されるDNA配列、または導入された合成機構を指す
【0113】
「プロモーター/調節配列」という用語は、プロモーター/調節配列に作動可能に連結
された遺伝子産物の発現に必要とされる核酸配列を指す。いくつかの実例において、この
配列はコアプロモーター配列である場合もあれば、他の実例において、この配列はまた、
エンハンサー配列及び遺伝子産物の発現に必要とされる他の調節要素を含む場合もある。
プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的様式で遺伝子産物を発現するプロモータ
ー/調節配列であり得る。
【0114】
「構成的」プロモーターという用語は、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレ
オチドと作動可能に連結されているときに、細胞のほとんどまたは全ての生理学的条件下
で遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列を指す。
【0115】
「誘導性」プロモーターという用語は、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレ
オチドと作動可能に連結されているときに、プロモーターに対応する誘発因子が細胞内に
存在する場合に限り、実質的に細胞内に遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列を指す
【0116】
「組織特異的」プロモーターという用語は、遺伝子によってコードされるかまたはそれ
によって特定されるポリヌクレオチドと作動可能に連結されているときに、その細胞が実
質的にプロモーターに対応する組織型の細胞である場合に限り、遺伝子産物を細胞内で産
生させるヌクレオチド配列を指す。
【0117】
scFvとの関連において用いられる「リンカー」及び「可動性ポリペプチドリンカー
」という用語は、可変重鎖領域と可変軽鎖領域とを一体的に連結する目的に単独でもしく
は組み合わせて使用されるグリシン及び/またはセリン残基などのアミノ酸からなるペプ
チドリンカーを指す。一実施形態において、可動性ポリペプチドリンカーは、Gly/S
erリンカーであり、且つアミノ酸配列(Gly-Gly-Gly-Ser)n(式中、
nは1つ以上の正の整数である)を含む。例えば、n=1、n=2、n=3、n=4、n
=5、n=6、n=7、n=8、n=9、及びn=10である。一実施形態において、可
動性ポリペプチドリンカーとしては、限定されるものではないが、(GlySer)
または(GlySer)が挙げられる。別の実施形態において、リンカーは、(Gl
Ser)、(GlySer)または(GlySer)の複数の繰り返しを含む。ま
た、WO第2012/138475号(本明細書において参照により援用されている)に
記載のリンカーも、本発明の範囲内に含まれる。いくつかの実例において、リンカー配列
は、長いリンカー(LL)配列を含む。いくつかの実例において、長いリンカー配列は、
(GS)(式中、n=2~4)を含む。いくつかの実例において、リンカー配列は、
短いリンカー(SL)配列を含む。いくつかの実例において、短いリンカー配列は、(G
S)(式中、n=1~3)を含む。
【0118】
本明細書において、5’キャップ(別称:RNAキャップ、RNA 7-メチルグアノ
シンキャップまたはRNA m7Gキャップ)は、転写開始直後に真核生物メッセンジャ
ーRNAの「前面」または5’末端に付加された修飾グアニンヌクレオチドである。5’
キャップは、第1の転写ヌクレオチドに連結されている末端基からなり、その5’キャッ
プの存在は、リボソームに認識され、且つRNaseから保護されるようにするうえで重
大な意味を持つ。キャップ付加は、転写と連動して共転写的に起こり、各々が相互的に影
響を及ぼし合う。転写開始の直後に、合成の対象となるmRNAの5’末端が、RNAポ
リメラーゼと会合したキャップ合成複合体を介して結合される。この酵素複合体は、mR
NAキャッピングに必要な化学反応を触媒する。合成は複数ステップからなる生化学反応
として進行する。キャッピング残基は、その安定性または翻訳効率のようなmRNAの機
能性を調節するように修飾できる。
【0119】
本明細書において、「in vitroで転写されたRNA」とは、in vitro
で合成されたRNA、好ましくはmRNAを指す。概して、in vitro転写RNA
は、in vitro転写ベクターから生成される。in vitro転写ベクターは、
in vitro転写RNAを生成する目的に使用される鋳型を含む。
【0120】
本明細書において、「ポリ(A)」は、ポリアデニル化によってmRNAに付着された
一連のアデノシンである。一過性発現のための構築物の好ましい実施形態において、ポリ
Aは、50~5000、好ましくは64超、より好ましくは100超、最も好ましくは3
00超または400超である。局在化、安定性または翻訳効率などのmRNAの機能性が
調節されるように、ポリ(A)配列を化学的または酵素的に修飾する場合がある。
【0121】
本明細書において、「ポリアデニル化」とは、メッセンジャーRNA分子へのポリアデ
ニル残基またはその修飾改変体の共有結合を指す。真核生物において、ほとんどのメッセ
ンジャーRNA(mRNA)分子は3’末端でポリアデニル化されている。3’ポリ(A
)尾部は、酵素、ポリアデニレートポリメラーゼの作用を介したプレmRNAに付加され
たアデニンヌクレオチド(しばしば数百)の長い配列である。高等真核生物では、ポリ(
A)尾部は特定の配列、ポリアデニル化シグナルを含む転写物に付加される。ポリ(A)
尾部、及びそのポリ(A)尾部に結合されたタンパク質は、mRNAがエキソヌクレアー
ゼで分解されないように保護する助けをする。また、ポリアデニル化は、転写終結、mR
NAの核外輸送、及び翻訳にとって重要である。ポリアデニル化は、DNAがRNAに転
写された直後に核内で起こるが、後になってから更に細胞質内でも起こる場合もある。転
写の終了後、mRNA鎖は、RNAポリメラーゼと会合されたエンドヌクレアーゼ複合体
の作用によって開裂する。開裂部位は通常、その開裂部位の付近に塩基配列AAUAAA
が存在することを特徴とする。mRNAが開裂された後、アデノシン残基が開裂部位の遊
離3’末端に付加される。
【0122】
本明細書において、「一過性」とは、非組み込み導入遺伝子がゲノム内に組み込まれた
かあるいは宿主細胞内の安定なプラスミドレプリコン内部に収容された場合に、発現の期
間が遺伝子の発現に必要な期間よりも短く、非組み込み型導入遺伝子が数時間、数日間ま
たは数週間だけ発現することを指す。
【0123】
「シグナル伝達経路」という用語は、細胞の或る部分から別の部分へのシグナルの伝達
において役割を果たす様々なシグナル伝達分子間の生化学的関係を指す。「細胞表面受容
体」という語句には、細胞膜を横断してシグナルを受信しシグナルを伝達できる分子、及
び分子複合体が包含される。
【0124】
「対象」という用語は、免疫応答を誘発できる生物(哺乳動物、ヒトなど)を包含する
ことを意味する。
【0125】
「実質的に精製された」細胞という用語は、他の細胞型を本質的に含まない細胞を指す
。また、実質的に精製された細胞は、その天然に存在する状態で通常関連している他の細
胞型から分離された細胞も指す。いくつかの実例において、実質的に精製された細胞の母
集団は、均質な細胞母集団を指す。他の実例において、この用語は、単に、それらの天然
の状態で天然に会合している細胞から分離された細胞を指す。いくつかの態様では細胞を
in vitroで培養し、他の態様では細胞をin vitroで培養しない。
【0126】
本明細書中に用いられている「治療的」という用語は、治療を意味する。病状を軽減、
抑制、寛解、または根絶することにより、治療効果が得られる。
【0127】
本明細書中に用いられている「予防」という用語は、疾患もしくは病状の予防、または
予防的治療を意味する。
【0128】
本発明との関連において、「PD-1リガンド」、「PD-L1」、及び「PD-L2
」は、PD-1が結合親和性を有するタンパク質を指す。いくつかの実施形態において、
PD-1タンパク質もしくはその結合フラグメント(PD-1タンパク質の細胞外ドメイ
ンなど)は、ヒトPD-1の天然リガンド、すなわちヒトPD-L1(CD274、Un
iProt受託番号Q9NZQ7としても知られる)に結合する能力、及び/または天然
のPD-1タンパク質と比べて親和性が同じ(すなわち同等)であるか、増強もしくは低
減(すなわち減弱)されたヒトPD-L2(CD273、UniProt受託番号Q9B
Q51としても知られる)に結合する能力により特徴付けられる。
【0129】
或る態様において、本発明のPD-1リガンドは、肺癌、卵巣癌、黒色腫、結腸癌、胃
癌、腎細胞癌、食道癌、神経膠腫、尿路上皮癌、網膜芽細胞腫、乳癌、非ホジキンリンパ
腫、膵臓癌、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、肝細胞癌、白血病、子宮頸癌、胆管癌、口腔癌
、頭頸部癌、または中皮腫を含むがこれらに限定されないがんに由来する。
【0130】
「トランスフェクトされた」、「形質転換された」または「形質導入された」という用
語は、外在性核酸が宿主細胞内に移入または導入されるプロセスを指す。「トランスフェ
クトされた」、「形質転換された」または「形質導入された」細胞とは、外在性核酸でト
ランスフェクト、形質転換または形質導入された細胞を言う。細胞には、初代対象細胞及
びその子孫が包含される。
【0131】
「特異的に結合する」という用語は、試料中に存在する同族結合パートナー(例えば、
PD-1リガンド)を認識して結合するが、試料中の他の分子を必ずしも且つ実質的に認
識したり結合したりしない抗体、抗体フラグメントまたは特異的リガンドを指す。
【0132】
範囲:本開示全体を通じて、本発明の様々な態様を範囲形態で提示し得る。当然のこと
ながら、範囲形式での説明は、あくまで便宜上及び簡略化を目的としたものであり、本発
明の範囲に対する非柔軟な限定として解釈すべきではない。したがって、範囲の記載を、
考え得る全ての部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものと見
なすべきである。例えば、1~6のような範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~
4、2~6、3~3のような部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば、1、2
、2.7、3、4、5、5.3、及び6を具体的に開示したものと見なすべきである。別
の例として、95~99%の同一性のような範囲は、95%、96%、97%、98%ま
たは99%の同一性を有する任意の範囲を含み、96~99%、96~98%、96~9
7%、97~99%、97~98%及び98~99%の同一性のような部分範囲を含む。
これは範囲の幅とは関係なしに適用される。
【0133】
記載
T細胞受容体(TCR)融合タンパク質を用いた、がんなどの疾患の治療に有用な物質
及び方法の組成物が、本明細書中に提供されている。本明細書において、「T細胞受容体
(TCR)融合タンパク質」または「TFP」には、一般的に、i)標的細胞上の腫瘍関
連抗原などの表面抗原に結合する機能を有し、且つii)典型的にはT細胞の表面内また
は表面上の同じ場所にあるときに、無傷のTCR複合体の他のポリペプチド成分と相互作
用する機能を有する、TCRを含む種々のポリペプチドから誘導された組み換えポリペプ
チドが包含される。本明細書中に提供されているように、TFPはキメラ抗原受容体と比
べて実質的な利益を提供する。「キメラ抗原受容体」または代替的に「CAR」という用
語は、scFvの形態の細胞外抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、以下に定義され
るような刺激分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインを含む、細胞質シグナル伝達ド
メイン(本明細書では「細胞内シグナル伝達ドメイン」とも呼ばれる)を含む組み換えポ
リペプチドを指す。概して、CARの中央細胞内シグナル伝達ドメインは、通常TCR複
合体に関連して見出されるCD3ζ鎖に由来する。CD3ζシグナル伝達ドメインは、4
-1BB(すなわち、CD137)、CD27及び/またはCD28などの少なくとも1
つの共刺激分子に由来する1つ以上の機能的シグナル伝達ドメインと融合し得る。
【0134】
T細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)
本発明には、TFP及びPD-1融合タンパク質をコードする組み換えDNA構築物を
包含される。このTFPには、1つ以上の腫瘍関連抗原(「TAA」)、例えばヒトTA
Aに特異的に結合する抗体フラグメントが含まれており、抗体フラグメントの配列は、T
CRサブユニットまたはその一部をコードする核酸配列と連続しており、その酸配列と同
じリーディングフレーム内にある。本明細書中に提供されているTFPは、機能的TCR
複合体を形成するために、1つ以上の内在性(または代替的に、1つ以上の外在性、また
は内在性及び外在性の組み合わせ)TCRサブユニットと会合し得る。別の態様において
、TFPには、IgG1またはIgG4抗体のTc領域に特異的に結合するCD16フラ
グメントが含まれる。
【0135】
一態様において、本発明のTFPには、抗原結合ドメインとも呼ばれる標的特異的結合
要素が含まれる。残基の選択は、標的細胞の表面を画定する標的抗原の種類及び数に依存
する。例えば、特定の病状に関連する標的細胞上の細胞表面マーカーとして作用する標的
抗原が認識されるように、抗原結合ドメインを選択してもよい。それゆえ、本発明のTF
Pにおいて、抗原結合ドメインに対する標的抗原として作用し得る細胞表面マーカーの例
としては、ウイルス、細菌及び寄生虫感染症に関連するもの、自己免疫疾患、ならびにが
ん性疾患(例えば悪性疾患)が挙げられる。
【0136】
一態様では、所望の抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインをTFPに操作すること
によって、TFP媒介T細胞応答を目的の抗原に指向させる場合がある。
【0137】
一実施形態において、本発明のTFP構築物にはDNAX発現カセットが更に含まれる
【0138】
抗原結合ドメインは、限定されるものではないがモノクローナル抗体、ポリクローナル
抗体、組み換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、及びそれらの機能的フラグメントなどの抗
原に結合する任意のドメインであり得る。例えば、限定されるものではないが、ラクダ科
動物由来ナノボディの重鎖可変ドメイン(V)、軽鎖可変ドメイン(V)及び可変ド
メイン(VHH)などの単一ドメイン抗体が挙げられるほか、組み換えフィブロネクチン
ドメイン、アンチカリン、DARPIN及びこれらに類するものなどの、当該技術分野に
おいて抗原結合ドメインとして機能することが公知である代替スキャフォルドも挙げられ
る。同様に、標的抗原を特異的に認識して結合する天然または合成のリガンドを、TFP
用の抗原結合ドメインとして使用してもよい。いくつかの実例では、抗原結合ドメインが
、最終的にTFPが用いられる種と同じ種に由来することが有益である。例えば、TFP
の抗原結合ドメインをヒトにおいて使用するためには、このTFPの抗原結合ドメインに
、抗体または抗体フラグメントの抗原結合ドメイン用のヒトまたはヒト化残基が含まれる
ことが有益であり得る。
【0139】
それゆえ、一態様では、抗原結合ドメインに、ヒト化もしくはヒト抗体もしくは抗体フ
ラグメント、またはネズミ抗体もしくは抗体フラグメントが含まれる。一実施形態におい
て、ヒト化もしくはヒト抗TAA結合ドメインは、本明細書中に記載のヒト化もしくはヒ
ト抗TAA結合ドメインの1つ以上の(例えば、3つ全ての)軽鎖相補性決定領域1(L
C CDR1)、軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、及び軽鎖相補性決定領域3
(LC CDR3)、ならびに/または本明細書中に記載のヒト化もしくはヒト抗TAA
結合ドメインの1つ以上の(例えば、3つ全ての)重鎖相補性決定領域1(HC CDR
1)、重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、及び重鎖相補性決定領域3(HC C
DR3)、1つ以上の、例えば3つ全てのLC CDR、及び1つ以上の、例えば3つ全
てのHC CDRを含むヒト化もしくはヒト抗TAA結合ドメインなどを含む。一実施形
態では、ヒト化もしくはヒト抗TAA結合ドメインに、本明細書中に記載のヒト化もしく
はヒト抗TAA結合ドメインの1つ以上の(例えば、3つ全ての)重鎖相補性決定領域1
(HC CDR1)、重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、及び重鎖相補性決定領
域3(HC CDR3)が含まれる。例えば、ヒト化もしくはヒト抗腫瘍関連の抗原結合
ドメインは2つの可変重鎖領域を有し、各可変重鎖領域には、本明細書中に記載のHC
CDR1、HC CDR2、及びHC CDR3が含まれる。一実施形態では、ヒト化も
しくはヒト抗腫瘍関連の抗原結合ドメインに、本明細書に記載のヒト化もしくはヒト軽鎖
可変領域及び/または本明細書に記載のヒト化もしくはヒト重鎖可変領域が含まれる。一
実施形態では、ヒト化もしくはヒト抗腫瘍関連の抗原結合ドメインに、本明細書に記載の
ヒト化重鎖可変領域、例えば本明細書に記載の少なくとも2つのヒト化またはヒト重鎖可
変領域が含まれる。一実施形態において、抗腫瘍関連の抗原結合ドメインは、本明細書中
に提供されているアミノ酸配列の軽鎖と重鎖とを含むscFvである。或る実施形態にお
いて、抗腫瘍関連の抗原結合ドメイン(例えば、scFvまたはVH nb)は、本明
細書中に提供されている軽鎖可変領域のアミノ酸配列の修飾(例えば、置換)数が少なく
とも1個、2個もしくは3個、但し30個、20個または10個以下であるアミノ酸配列
が含まれる軽鎖可変領域、または本明細書中に提供されているアミノ酸配列に対し95~
99%の同一性を有する配列、及び/または本明細書中に提供されている重鎖可変領域の
アミノ酸配列の修飾(例えば、置換)数が少なくとも1個、2個もしくは3個、但し30
個、20個または10個以下であるアミノ酸配列が含まれる重鎖可変領域、または本明細
書で提供されるアミノ酸配列に対して95~99%の同一性を有する配列を含む。一実施
形態において、ヒト化もしくはヒト抗腫瘍関連の抗原結合ドメインはscFvであり、且
つ本明細書に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域は、本明細書に記載のリンカーなど
のリンカーを介して、本明細書に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域に付着されてい
る。一実施形態において、ヒト化抗腫瘍関連の抗原結合ドメインは、(Gly-Ser
リンカー(式中、nは、1、2、3、4、5、または6、好ましくは3または4であ
る)を具備する。scFvの軽鎖可変領域及び重鎖可変領域は、例えば、軽鎖可変領域-
リンカー-重鎖可変領域、または重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の配向のいずれ
かであり得る。いくつかの実例において、リンカー配列には、長いリンカー(LL)配列
が含まれる。いくつかの実例において、長いリンカー配列は、(GS)(式中、n=
2~4)を含む。いくつかの実例において、リンカー配列には、短いリンカー(SL)配
列が含まれる。いくつかの実例において、短いリンカー配列は、(GS)(式中、n
=1~3)を含む。
【0140】
細胞外ドメイン
細胞外ドメインは、天然源または組み換え源のいずれかに由来し得る。ドメインは、天
然源である場合、任意のタンパク質、特に膜結合型または膜貫通型タンパク質に由来し得
る。一態様において、細胞外ドメインは、膜貫通ドメインと会合し得る。本発明において
特に有用な細胞外ドメインには、例えば、T細胞受容体のα鎖、β鎖もしくはζ鎖、また
はCD3ε、CD3γもしくはCD3δの少なくとも細胞外領域(複数可)が含まれる場
合があり、あるいは代替の実施形態では、CD28、CD45、CD4、CD5、CD8
、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、
CD134、CD137、CD154の少なくとも細胞外領域(複数可)が含まれる場合
がある。
【0141】
膜貫通ドメイン
概して、TFP配列には、単一のゲノム配列によってコードされる細胞外ドメイン及び
膜貫通ドメインが含まれる。代替実施形態において、TFPは、TFPの細胞外ドメイン
に対して異種の膜貫通ドメインを含むように設計することが可能である。膜貫通ドメイン
には、膜貫通領域に隣接する1つ以上の追加のアミノ酸、例えば、膜貫通タンパク質(t
ransmembrane)の誘導元となったタンパク質の細胞外領域と会合した1つ以
上のアミノ酸(例えば、細胞外領域の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個
、9個、10個もしくは最高15個のアミノ酸)、及び/または膜貫通タンパク質の誘導
元となるタンパク質の細胞内領域と会合した1つ以上の更なるアミノ酸(例えば、細胞内
領域の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個もしくは最高1
5個のアミノ酸)が含まれる場合がある。一態様において、膜貫通ドメインは、使用され
ているTFPの他のドメインのうちの1つと関連するものである。いくつかの実例では、
膜貫通ドメインをアミノ酸置換によって選択または修飾することにより、そのようなドメ
インが同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合するのを回避し、例え
ば、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えることを可能にしている。
一態様において、膜貫通ドメインは、TFP-T細胞表面上の他のTFPとホモ二量体化
する機能を有する。異なる態様では、同じTFP内に存在する天然の結合パートナーの結
合ドメインとの相互作用が最小限に抑えられるように、膜貫通ドメインのアミノ酸配列を
修飾または置換する場合がある。
【0142】
膜貫通ドメインは、天然源または組み換え源のいずれかに由来し得る。ドメインは、天
然源である場合、任意の膜結合型または膜貫通型タンパク質に由来し得る。一態様におい
て、膜貫通ドメインは、TFPが標的に結合した際にいつでも、細胞内ドメイン(複数可
)にシグナル伝達できる。本発明において特に有用な膜貫通ドメインには、例えば、T細
胞受容体のα鎖、β鎖もしくはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、
CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD
86、CD134、CD137、CD154の少なくとも膜貫通領域(複数可)が含まれ
る場合がある。
【0143】
いくつかの実例において、膜貫通ドメインは、ヒトタンパク質由来のヒンジなどのヒン
ジを介してTFPの細胞外領域、例えばTFPの抗原結合ドメインに付着し得る。例えば
、一実施形態において、ヒンジは、IgG4ヒンジまたはCD8aヒンジなどのヒト免疫
グロブリン(Ig)ヒンジであり得る。
【0144】
リンカー
任意に、長さが2~10アミノ酸の間の短いオリゴまたはポリペプチドリンカーを介し
て、膜貫通ドメインとTFPの細胞質領域との間の結合を形成することが可能である。特
に好適なリンカーはグリシン-セリンダブレットによって提供される。例えば、一態様に
おいて、リンカーは、アミノ酸配列GGGGSGGGGSGGGGSLE(配列番号1)
を含む。いくつかの実施形態では、リンカーは、ヌクレオチド配列AAAIEVMYPP
PYLGGGGSGGGGSGGGGSLE(配列番号3)によってコードされる。
【0145】
細胞質ドメイン
TFPにCD3γ、δまたはεポリペプチドが含まれていて、TCRα及びTCRβサ
ブユニットが一般にシグナル伝達ドメインを欠いているときは、TFPの細胞質ドメイン
に細胞内シグナル伝達ドメインが含まれる場合がある。細胞内シグナル伝達ドメインは、
概して、TFPが導入された免疫細胞の少なくとも1つの正常エフェクター機能の活性化
に関与している。「エフェクター機能」という用語は、細胞の特殊機能を指す。T細胞の
エフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性である場合もあれば、またはサイトカインの
分泌を含むヘルパー活性である場合もある。それゆえ、「細胞内シグナル伝達ドメイン」
という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に特殊機能を果たすように指示
するタンパク質の部分を指す。通常は細胞内シグナル伝達ドメイン全体を使用できるが、
多くの事例では、鎖全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの切断型部
分が使用される限りにおいて、そのような切断型部分は、エフェクター機能シグナルを伝
達する限り、無傷の鎖の代わりに使用される場合がある。それゆえ、細胞内シグナル伝達
ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル
伝達ドメインの任意の切断部分を含むことを意味する。
【0146】
本発明のTFPにおいて用いられる細胞内シグナル伝達ドメインの例としては、抗原受
容体の結合後にシグナル伝達を開始するように協調して作用するT細胞受容体(TCR)
の細胞質配列及び共受容体、これらの配列の任意の誘導体または改変体、ならびに同じ機
能的能力を有する任意の組み換え配列が挙げられる。
【0147】
公知となっているように、TCRを介して生成されたシグナルだけではナイーブT細胞
を完全に活性化するのには十分でないことから、二次的シグナル及び/または共刺激シグ
ナルが要求される。それゆえ、ナイーブT細胞活性化は、2つの別個のクラスの細胞質シ
グナル伝達配列によって媒介されると言える。TCRを介して抗原依存性の一次活性化を
開始するクラス(一次細胞内シグナル伝達ドメイン)、及び二次シグナルまたは共刺激シ
グナルを供給するために抗原非依存的に作用するクラス(二次細胞質ドメイン、例えば共
刺激ドメイン)、である。
【0148】
一次シグナル伝達ドメインは、刺激的にまたは阻害的にTCR複合体の一次活性化を調
節する。刺激的に作用する一次細胞内シグナル伝達ドメインには、免疫受容体チロシンベ
ースの活性化モチーフ(「ITAM」)として知られるシグナル伝達モチーフが含まれる
場合がある。
【0149】
本発明において特に有用な一次細胞内シグナル伝達ドメインが含まれるITAMの例と
しては、CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD
22、CD79a、CD79b、及びCD66dのITAMが挙げられる。一実施形態に
おいて、本発明のTFPには、細胞内シグナル伝達ドメイン、例えばCD3-εの一次シ
グナル伝達ドメインが含まれる。一実施形態では、一次シグナル伝達ドメインに、天然の
ITAMドメインと比べて活性に改変が見られた(例えば増加または低減した)突然変異
ITAMドメインなどの、修飾ITAMドメインが含まれる。一実施形態において、一次
シグナル伝達ドメインには、修飾ITAM含有一次細胞内シグナル伝達ドメイン、例えば
最適化及び/または切断型ITAM含有一次細胞内シグナル伝達ドメインが含まれる。或
る実施形態において、一次シグナル伝達ドメインには、1つ、2つ、3つ、4つまたはそ
れ以上のITAMモチーフが含まれる。
【0150】
TFPの細胞内シグナル伝達ドメインは、それ自体でCD3ζシグナル伝達ドメインを
含む場合もあれば、または本発明のTFPとの関連において有用な他の任意の所望される
細胞内シグナル伝達ドメイン(複数可)と組み合わせられる場合もある。例えば、TFP
の細胞内シグナル伝達ドメインには、CD3ε鎖部分、及び共刺激シグナル伝達ドメイン
が含まれる場合がある。共刺激シグナル伝達ドメインは、共刺激分子の細胞内ドメインを
含むTFPの部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要と
される、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子の例
としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、DAP10、D
AP12、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LF
A-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83と特異
的に結合するリガンド、ならびにそれらに類するものが挙げられる。例えば、CD27の
共刺激は、in vitroでのヒトTFP-T細胞の増殖、エフェクター機能及び生存
を増強し、in vivoでヒトT細胞の持続性及び抗腫瘍活性を増強することが実証さ
れてきた(Song et al.Blood.2012;119(3):696-70
6)。
【0151】
本発明のTFPの細胞質部分内の細胞内シグナル伝達配列は、無作為的な順序でまたは
指定の順序で相互に連結させることができる。任意に、例えば長さが2~10アミノ酸(
例えば、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10アミノ酸)の短いオリゴリンカー
またはポリペプチドリンカーは、細胞内シグナル伝達配列間の連鎖を形成し得る。
【0152】
一実施形態では、グリシン-セリンダブレットを好適なリンカーとして使用する場合が
ある。一実施形態では、アラニン、グリシンのような単一のアミノ酸を好適なリンカーと
して使用する場合がある。
【0153】
一態様において、本明細書に記載のTFP発現細胞には、第2のTFP、例えば細胞表
面標的(例えばCD123)への抗原結合ドメインを含む第2のTFPが更に含まれる場
合がある。本明細書中に開示されているPD-1 TFPと組み合わせることができる抗
原結合ドメインを含むTFPは、例えば同時係属中の国際出願(PCT出願)第PCT
US2016/033146号に記載されており、該文献は、本明細書において参照によ
り援用されている。
【0154】
別の態様において、本明細書に記載のTFP発現細胞または第2のTFP発現細胞は、
別の薬剤、例えばTFP発現細胞の活性を増強する薬剤を更に発現し得る。例えば、一実
施形態において、薬剤は、阻害性分子を阻害する薬剤であり得る。PD-1のような阻害
性分子は、いくつかの実施形態において、TFP発現細胞の免疫エフェクター応答開始能
力を低下させてしまう可能性がある。阻害性分子の例としては、PD-1、PD-L1、
CTLA-4(また、CTLA4またはCD152)、TIM3、LAG3、VISTA
、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4、及びTGFRβが挙げられ
る。一実施形態において、阻害性分子を阻害する薬剤には、細胞に陽性シグナルを供給す
る第2のポリペプチド(例えば、本明細書に記載の細胞内シグナル伝達ドメイン)と会合
した第1のポリペプチド(例えば、阻害性分子)が含まれる。一実施形態において、薬剤
は、PD-1、PD-L1、CTLA-4、TIM3、LAG3、VISTA、BTLA
、TIGIT、LAIR1、PD-10、2B4及びTGFRβなどのような阻害性分子
の第1のポリペプチド、またはそれらのいずれかのフラグメント(例えば、これらのいず
れかの細胞外ドメインの少なくとも一部)、ならびに本明細書に記載の細胞内シグナル伝
達ドメインである第2のポリペプチド(例えば、本明細書に記載の4-1BB、CD27
もしくはCD28などの共刺激ドメインを含む)、及び/または一次シグナル伝達ドメイ
ン(例えば、本明細書に記載のCD3ζシグナル伝達ドメイン)を含む。一実施形態にお
いて、薬剤は、PD-1の第1のポリペプチドまたはそのフラグメント(例えば、PD-
1の細胞外ドメインの少なくとも一部)、及び本明細書に記載の細胞内シグナル伝達ドメ
インの第2のポリペプチド(例えば、本明細書記載のCD28シグナル伝達ドメイン)及
び/または本明細書に記載のCD3ζシグナル伝達ドメイン)を含む。PD-1は、CD
28、CTLA-4、ICOS及びBTLAも含むCD28ファミリーの受容体の阻害因
子メンバーである。PD-1は、活性化B細胞、T細胞及び骨髄性細胞上に発現する(A
gata et al.1996 Int. Immunol 8:765-75)。P
D-1、PD-L1、及びPD-L2に対する2つのリガンドは、PD-1に結合した際
にT細胞活性化を下方制御することが明らかにされてきた(Freeman et al
.2000 J Exp Med 192:1027-34;Latchman et
al.2001 Nat Immunol 2:261-8;Carter et al
.2002 Eur J Immunol 32:634-43)。ヒトのがんにはPD
-L1が豊富に存在する(Dong et al.2003 J Mol Med 81
:281-7;Blank et al.2005 Cancer Immunol.I
mmunother 54:307-314;Konishi et al.2004
Clin Cancer Res 10:5094)。PD-1とPD-L1との局所的
な相互作用を阻害することによって免疫抑制が逆転される場合がある。
【0155】
一実施形態において、薬剤には、阻害性分子の細胞外ドメイン(ECD)が含まれる。
例えば、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)が、膜貫通ドメインに融合する場合
もあれば、任意に、41BB及びCD3ζ(本明細書中でPD-1スイッチとも呼ばれる
)のような細胞内シグナル伝達ドメインに融合する場合もある。一実施形態では、PD-
1スイッチを本明細書に記載の抗TAA TFPと併用した場合にT細胞の持続性が向上
する。一実施形態において、TFPは、TAAの細胞外ドメインを含むTAA TFPで
ある。
【0156】
別の態様では、TFP-T細胞などのTFP発現T細胞の母集団が、本明細書中に開示
されている。いくつかの実施形態では、TFP発現T細胞の母集団に、種々のTFPを発
現する細胞の混合物が含まれる。例えば、一実施形態において、TFP-T細胞の母集団
には、PD-1融合タンパク質を発現する細胞と、腫瘍細胞関連抗原に特異的なscFv
を有するTFPとが含まれる場合がある。別の例として、TFP発現細胞の母集団には、
例えば本明細書に記載のように、PD-1ポリペプチドまたはそのフラグメントを含む融
合タンパク質を発現する第1の細胞と、腫瘍関連抗原に対する抗原結合ドメインを含むT
FPを発現する第2の細胞とが含まれる場合がある。
【0157】
別の態様において、本発明は、母集団中の少なくとも1つの細胞が、本明細書に記載の
PD-1リガンド結合ドメインを有する融合タンパク質を発現し、少なくとも1つの細胞
が、抗TAA TFPを発現し、且つ第3の細胞が、TFP発現細胞の活性を増強する薬
剤などの別の薬剤を発現する、細胞母集団を提供する。例えば、一実施形態において、薬
剤は、阻害性分子を阻害する薬剤であり得る。阻害性分子は、例えばいくつかの実施形態
において、TFP発現細胞の免疫エフェクター応答開始能力を低下させてしまう可能性が
ある。阻害性分子の例としては、PD-1、PD-L1、CTLA-4、TIM3、LA
G3、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4、及びTG
FRβが挙げられる。一実施形態において、阻害性分子を阻害する薬剤には、細胞に陽性
シグナルを供給する第2のポリペプチド(例えば、本明細書に記載の細胞内シグナル伝達
ドメイン)と会合した第1のポリペプチド(例えば、阻害性分子)が含まれる。
【0158】
別の実施形態では、TFP構築物の1つ以上のドメイン(例えば、細胞外、膜貫通、及
び細胞内シグナル伝達ドメイン)またはT細胞ゲノム(例えば、PD1をコードする遺伝
子などの1つ以上の内在性遺伝子)を、クラスター化された規則的に散在した短いパリン
ドロームリピート(CRISPR(登録商標)、例えば、米国特許第8,697,359
号を参照)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN、例えば米国
特許第9,393,257号を参照)、メガヌクレアーゼ(12~40塩基対の二本鎖D
NA配列を含む大きな認識部位を有する天然に存在するエンドデオキシリボヌクレアーゼ
)、またはジンクフィンガーヌクレアーゼ法(ZFN、例えば、Urnov et al
.,Nat.Rev.Genetics(2010)v11,636-646を参照)の
ような遺伝子編集技法を用いて操作、改変または欠失させる。このようにして、キメラ構
築物は、立体構造またはシグナル伝達能力のような各サブユニットの望ましい特徴が兼備
されるように操作できる。また、Sander & Joung,Nat.Biotec
h.(2014) v32,347-55、及びJune et al.,2009 N
ature Reviews Immunol.9.10:704-716を参照のこと
。これらの各文献は本明細書において参照により援用されている。いくつかの実施形態で
は、TFPサブユニットまたはPD-1スイッチの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、ま
たは細胞質ドメインのうちの1つ以上は、2つ以上の天然TCRサブユニットドメインの
態様を有する(すなわち、キメラである)ように操作される。
【0159】
TFPをコードするin vitro転写RNAを産生する方法が、本明細書中に開示
されている。本発明はまた、直接的に細胞にトランスフェクトできるTFPをコードする
RNA構築物を含む。トランスフェクションに用いられるmRNAを生成する方法は、特
別に設計されたプライマーを用いた鋳型のin vitro転写(IVT)、その後のポ
リA付加を含み、3’及び5’非翻訳配列(「UTR」)、5’キャップ及び/または内
部リボソーム進入部位(IRES)、発現すべき核酸、ならびに典型的には50~200
0塩基長であるポリA尾部を含む構築物を産生する。そのようにして産生されたRNAは
、様々な種類の細胞を効率的にトランスフェクトできる。一態様において、鋳型はTFP
の配列を含む。
【0160】
一態様において、PD-1融合タンパク質、及び/または抗TAA TFPは、メッセ
ンジャーRNA(mRNA)によってコードされる。一態様において、PD-1融合タン
パク質及び/または抗TAA TFPをコードするmRNAは、TFP-T細胞産生用に
T細胞に導入される。一実施形態において、in vitroで転写されたRNA TF
Pは一過性トランスフェクションの一形態として細胞に導入することが可能である。ポリ
メラーゼ連鎖反応(PCR)生成鋳型を用いたin vitro転写によって、RNAが
産生される。任意の起源由来の目的DNAは、適切なプライマー及びRNAポリメラーゼ
を使用して、in vitro mRNA合成用のPCRにより、直接的に鋳型に変換で
きる。DNA源は、例えば、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ファージDNA、cDN
A、合成DNA配列または他の任意の適切なDNA源であり得る。in vitro転写
用の所望される鋳型は、本発明のTFPである。一実施形態において、PCR用に使用さ
れるDNAは、オープンリーディングフレームを含む。DNAは、生物のゲノム由来の天
然に存在するDNA配列に由来する場合がある。一実施形態において、核酸は、5’及び
/または3’非翻訳領域(UTR)の一部または全部を含む場合がある。核酸は、エクソ
ンとイントロンとを含む場合がある。一実施形態において、PCR用に使用されるDNA
は、ヒト核酸配列である。別の実施形態において、PCR用に使用されるDNAは、5’
UTRと3’UTRとを含むヒト核酸配列である。代替的に、DNAは、天然に存在する
生物において通常は発現しない人工的なDNA配列であり得る。例示的な人工DNA配列
は、融合タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを形成する、ともにライ
ゲートされている遺伝子の部分を含むものである。ともにライゲートされているDNAの
部分は、単一の生物または2つ以上の生物に由来し得る。
【0161】
PCRを使用して、トランスフェクションに用いられるmRNAのin vitro転
写用の鋳型を生成する。PCRを実施するための方法は、当該技術分野において周知であ
る。PCRに用いられるプライマーは、PCR用の鋳型として使用されるDNAの領域に
対し実質的に相補的な領域を有するように設計されている。本明細書中に使用される「実
質的に相補的」とは、プライマー配列中の塩基の大部分もしくは全部が相補的であるか、
あるいは1つ以上の塩基が非相補的であるかまたはミスマッチであるヌクレオチドの配列
を指す。PCR用に使用されるアニーリング条件下で、実質的に相補的な配列を意図され
たDNA標的とアニーリングまたはハイブリダイズしてもよい。プライマーは、DNA鋳
型の任意の部分に対し実質的に相補的となるように設計できる。例えば、プライマーは、
5’UTRと3’UTRとを含む、細胞内で通常転写される核酸の部分(オープンリーデ
ィングフレーム)が増幅されるように設計できる。また、関心対象の特定のドメインをコ
ードする核酸の一部が増幅されるように、プライマーを設計してもよい。一実施形態では
、5’UTR及び3’UTRの全部または一部を含む、ヒトcDNAのコード領域が増幅
されるように、プライマーを設計する。当該技術分野において周知の合成方法により、P
CRに有用なプライマーを作製できる。「フォワードプライマー」は、増幅の対象となる
DNA配列の上流にあるDNA鋳型上のヌクレオチドに対し実質的に相補的なヌクレオチ
ドの領域を含むプライマーである。「上流」が本明細書中に用いられている場合、コード
鎖を基準とした増幅対象DNA配列に対し5位にあることを指す。「リバースプライマー
」とは、増幅対象DNA配列の下流にある二本鎖DNA鋳型に対し実質的に相補的なヌク
レオチドの領域を含むプライマーである。「下流」が本明細書中に用いられている場合、
コード鎖を基準とした増幅対象DNA配列に対して3’位にあることを指す。
【0162】
本明細書中に開示されている方法では、PCRに有用な任意のDNAポリメラーゼを使
用できる。試薬及びポリメラーゼは多くの供給元から市販されている。
【0163】
また、安定性及び/または翻訳効率を促進できる化学構造を使用してもよい。RNAは
好ましくは5’UTRと3’UTRとを有する。一実施形態において、5’UTRは、1
~3,000ヌクレオチド長である。コード領域に付加される5’UTR配列及び3’U
TR配列の長さは、UTRの異なる領域にアニーリングするPCRのプライマーの設計を
含むがこれらに限定されない異なる方法により、改変することができる。このアプローチ
を用いて、当業者は、転写されたRNAのトランスフェクション後に最適な翻訳効率を達
成するのに必要とされる5’UTR長及び3’UTR長を修正することができる。
【0164】
5’UTR及び3’UTRは、天然に存在し得る、目的の核酸に対して内在性の5’U
TR及び3’UTRであり得る。代替的に、目的の核酸に対して内在性ではないUTR配
列は、フォワードプライマー及びリバースプライマー内にUTR配列を組み込むことによ
って、あるいは鋳型の他の任意の修飾によって付加できる。目的の核酸に対して内在性で
はないUTR配列を使用することは、RNAの安定性及び/または翻訳効率を改変するう
えで有用であり得る。例えば、3’UTR配列中のAUに富む要素は、mRNAの安定性
を低下させる可能性があることが公知である。ゆえに、当該技術分野において周知のUT
Rの特性に基づき、転写RNAの安定性が増強されるように、3’UTRを選択または設
計することができる。
【0165】
一実施形態において、5’UTRには内在性核酸のコザック配列が含まれる場合がある
。代替的に、目的の核酸に対して内在性ではない5’UTRが上記のようにPCRにより
付加されている場合、5’UTR配列を付加することによって、コンセンサスコザック配
列を再設計できる。コザック配列は、いくつかのRNA転写物の翻訳効率を増強し得るが
、効率的な翻訳を可能にするうえで必ずしも全てのRNAに必要とされるとは思われない
。多くのmRNAにコザック配列が必要とされることは、当該技術分野において公知であ
る。他の実施形態において、5’UTRは、そのRNAゲノムが細胞内で安定であるRN
Aウイルスの5’UTRであり得る。他の実施形態において、3’または5’UTR内で
様々なヌクレオチド類似体を用いて、mRNAのエキソヌクレアーゼ分解を妨げる場合が
ある。
【0166】
遺伝子をクローニングする必要なしにDNA鋳型からRNAを合成できるようにするに
は、転写の対象となる配列の上流にあるDNA鋳型に、転写プロモーターを付着させる必
要がある。RNAポリメラーゼのプロモーターとして機能する配列がフォワードプライマ
ーの5’末端に付加されると、RNAポリメラーゼプロモーターは転写の対象となるオー
プンリーディングフレームの上流にあるPCR産物に組み込まれるようになる。好ましい
一実施形態において、プロモーターは、本明細書の他の箇所に記載されているような、T
7ポリメラーゼプロモーターである。他の有用なプロモーターとしては、限定されるもの
ではないが、T3及びSP6 RNAポリメラーゼプロモーターが挙げられる。T7、T
3及びSP6プロモーターに対するコンセンサスヌクレオチド配列は、当該技術分野にお
いて公知である。
【0167】
一実施形態において、mRNAは、5’末端及び3’ポリ(A)尾部の両方にキャップ
を有し、細胞内のリボソーム結合、翻訳の開始及び安定性mRNAを決定する。RNAポ
リメラーゼは、プラスミドDNAのような環状DNA鋳型上に、真核細胞内での発現には
好適でない長いコンカテマー産物を生成する。3’UTRの末端にて線状化されたプラス
ミドDNAが転写されると、結果として、転写後にポリアデニル化された場合でも、真核
生物トランスフェクションに有効ではない通常サイズのmRNAを生ずる。
【0168】
直鎖状DNA鋳型上では、ファージT7 RNAポリメラーゼは、鋳型の最終塩基を超
えて転写産物の3’末端を伸長できる(Schenborn and Mierendo
rf,Nuc Acids Res.,13:6223-36(1985);Nache
va and Berzal-Herranz,Eur.J.Biochem.,270
:1485-65(2003)。
【0169】
分子クローニングは、ポリA/TストレッチをDNA鋳型に組み込む従来の方法である
が、ポリA/T配列がプラスミドDNA内に組み込まれた際、プラスミドが不安定になる
可能性があり、それが原因で、細菌細胞から得られたプラスミドDNA鋳型が欠失及び他
の異常で非常に汚染されることもしばしばである。そのせいで、クローニング手順が、面
倒で多大な時間がかかるようになるだけでなく、信頼性の問題が浮上することも多々ある
。この理由から、クローン化することなくポリA/T 3’ストレッチを有するDNA鋳
型の構築を可能にする方法が、極めて所望される。
【0170】
PCR中に、100T尾部(サイズは50~5000Tであり得る)のようなポリT尾
部を含むリバースプライマーを使用することによって、あるいは、PCR後に、DNAラ
イゲーションまたはin vitro組み換えを含むがこれらに限定されない任意の他の
方法で、転写されたDNA鋳型のポリA/Tセグメントを生成することが可能である。ま
た、ポリ(A)尾部によりRNAを安定化させ、RNAの分解を低減させる。ポリ(A)
尾部の長さは、転写RNAの安定性と正に相関するのが、一般的である。一実施形態にお
いて、ポリ(A)尾部は、100~5000アデノシンである。
【0171】
RNAのポリ(A)尾部は、in vitro転写後に、E.coliポリAポリメラ
ーゼ(E-PAP)のようなポリ(A)ポリメラーゼを使用して更に伸長させることが可
能である。一実施形態では、ポリ(A)尾部の長さを100ヌクレオチドから300~4
00ヌクレオチドに増大すると、RNAの翻訳効率が約2倍増加する。加えて、3’末端
に異なる化学基を付着させることで、mRNA安定性を増強することが可能である。その
ような付着には、修飾/人工ヌクレオチド、アプタマー及び他の化合物が含まれる場合が
ある。例えば、ポリ(A)ポリメラーゼを用い、ATP類似体をポリ(A)尾部に組み込
むことができる。ATP類似体は、RNAの安定性を更に増強し得る。
【0172】
また、5’キャップを付けるとRNA分子が安定化される。好ましい実施形態では、本
明細書中に開示されている方法により産生されたRNAが、5’キャップを具備する。5
’キャップは、当該技術分野において公知の、且つ本明細書中に記載の技法を用いて提供
される(Cougot,et al.,Trends in Biochem.Sci.
,29:436-444(2001);Stepinski,et al.,RNA,7
:1468-95(2001);Elango,et al.,Biochim.Bio
phys.Res.Commun.,330:958-966(2005))。
【0173】
また、本明細書中に開示されている方法により産生されるRNAには、内部リボソーム
進入部位(IRES)配列が含まれる場合がある。IRES配列は、mRNAへのキャッ
プ非依存性リボソーム結合を開始し、翻訳の開始を容易にする任意のウイルス、染色体ま
たは人工的に設計された配列であり得る。細胞エレクトロポレーションに好適な任意の溶
質で、細胞透過性ならびに生存能力を促進する因子を含有し得るもの、例えば、糖、ペプ
チド、脂質、タンパク質、抗酸化剤及び界面活性剤などを含めることができる。
【0174】
RNAは、いくつかの異なる方法、例えば市販の方法のいずれかを用いて標的細胞に導
入できる。これらの方法としては、限定されるものではないが、エレクトロポレーション
(Amaxa Nucleofector-II(Amaxa Biosystems、
Cologne、Germany))、(ECM 830(BTX)(Harvard
Instrruments、Boston、Mass)もしくはGene Pulser
II、(BioRad, Denver、Colo)、マルチポレーター(Eppen
dort, Hamburg Germany)、リポフェクションを用いたカチオン性
リポソーム媒介トランスフェクション、ポリマーカプセル化、ペプチド媒介トランスフェ
クション、または「遺伝子銃」などのバイオリスティック粒子送達システムが挙げられる
(例えば、Nishikawa, et al. Hum Gene Ther.,12
(8):861-70(2001)を参照のこと)。
【0175】
TFPまたはPD-1融合タンパク質をコードする核酸構築物
本発明はまた、本明細書に記載の1つ以上のTFP構築物及び/またはPD-1融合タ
ンパク質をコードする核酸分子を提供する。一態様において、核酸分子は、メッセンジャ
ーRNA転写物として提供される。一態様において、核酸分子は、DNA構築物として提
供される。
【0176】
所望される分子をコードする核酸配列は、例えば、遺伝子を発現する細胞からライブラ
リーをスクリーニングすること、その遺伝子を含むことが知られているベクターから遺伝
子を誘導すること、または標準的な技法を用いてその遺伝子を含む細胞及び組織から直接
的に単離することなどの、当該技術分野において公知の組み換え方法を使用して得ること
ができる。代替的に、目的の遺伝子をクローン化せずに、寧ろ合成的に生成してもよい。
【0177】
また、本発明には、本発明のDNAが挿入されているベクターも提供されている。レン
チウイルスのようなレトロウイルス由来のベクターは、導入遺伝子が長期間安定して組み
込まれ且つ娘細胞に増殖することを可能にすることから、長期間の遺伝子導入を達成する
うえで好適なツールとされている。レンチウイルスベクターは、肝細胞のような非増殖細
胞を形質導入できるという点で、ネズミ白血病ウイルスのようなオンコレトロウイルスに
由来するベクターよりも更に有利であり、また、免疫原性が低いという更なる利点も有す
る。
【0178】
別の実施形態において、本発明の所望されるTFPまたはスイッチをコードする核酸を
含むベクターは、アデノウイルスベクター(A5/35)である。別の実施形態では、T
FPをコードする核酸の発現を達成する目的に、スリーピングビューティ、クリスパー、
CAS9、及びジンクフィンガーヌクレアーゼのようなトランスポゾンが使用される場合
がある(本明細書において参照により援用されているJune et al.2009
Nature Reviews Immunol.9.10:704-716を参照)。
【0179】
また、本発明の発現構築物は、標準的な遺伝子送達プロトコルを使用して、核酸免疫化
及び遺伝子治療に使用される場合がある。遺伝子送達のための方法は、当該技術分野にお
いて公知である(例えば、米国特許第5,399,346号、同第5,580,859号
、同第5,589,466号を参照のこと。これらの文献はその全体が本明細書において
参照により援用されている)。別の実施形態において、本発明は遺伝子治療ベクターを提
供する。
【0180】
核酸をクローニングできるベクターには、多くの種類がある。例えば、核酸をクローニ
ングできるベクターとしては、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイル
ス及びコスミドが挙げられるがこれらに限定されない。特に関心対象とされるベクターと
しては、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、及び配列決定ベクターが
挙げられる。
【0181】
更に、発現ベクターがウイルスベクターの形態で細胞に提供される場合もある。ウイル
スベクター技術は当該技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et
al.,2012,Molecular Cloning: A Laboratory
Manual,volumes 1-4,Cold Spring Harbor P
ress,NY)、ならびに他のウイルス学及び分子生物学のマニュアルに記載されてい
る。ベクターとして有用なウイルスとしては、限定されるものではないが、レトロウイル
ス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、及びレンチウイルスが挙
げられる。概して、好適なベクターには、少なくとも1つの生物において機能する複製起
点、プロモーター配列、便宜的な制限エンドヌクレアーゼ部位、及び1つ以上の選択可能
マーカーが含まれる(例えば、WO01/96584、WO01/29058、及び米国
特許第6,326,193号)。
【0182】
哺乳動物細胞への遺伝子導入用に、幾多のウイルスベースのシステムが開発されてきた
。例えば、レトロウイルスは遺伝子送達システム用の便利なプラットフォームを提供する
。選択された遺伝子をベクター内に挿入し、当該技術分野において公知の技法を用いてレ
トロウイルス粒子中にパッケージングすることができる。次いで、組み換えウイルスを単
離し、in vivoまたはex vivoのいずれかで対象の細胞に送達することがで
きる。当該技術分野において公知のレトロウイルス系は、多岐にわたっている。いくつか
の実施形態では、アデノウイルスベクターが使用されている。当該技術分野において公知
のアデノウイルスベクターは、幾多にも及んでいる。一実施形態では、レンチウイルスベ
クターが使用されている。
【0183】
追加のプロモーター要素、例えばエンハンサーは、転写開始の頻度を調節する。典型的
には、これらは開始部位の上流30~110bpの領域に位置するが、多数のプロモータ
ーが同様に開始部位の下流に機能要素を含むことが明らかにされている。プロモーター要
素間の間隔は柔軟性のあることが多く、そのため、要素どうしが互いに反転または移動し
たとしても、プロモーター機能は保持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターで
は、プロモーター要素間の間隔は、活性が低下し始める前に、50bp離れて増加できる
。プロモーターに応じて、個々の要素が協調的にまたは独立に転写を活性化するように機
能できるように思われる。
【0184】
哺乳動物T細胞においてTFP導入遺伝子を発現し得るプロモーターの例は、EF1a
プロモーターである。天然EF1aプロモーターによって、伸長因子-1複合体のαサブ
ユニットの発現が駆動され、このαサブユニットはアミノアシルtRNAをリボソームに
酵素的に送達することに関与する。EF1aプロモーターは哺乳動物発現プラスミドにお
いて広く用いられており、レンチウイルスベクターにクローン化された導入遺伝子からT
FPの発現を駆動するのに有効であることが明らかにされてきた(例えば、Milone
et al.,Mol.Ther.17(8):1453-1464(2009)を参
照)。もう1つのプロモーター例は、即時型サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ
ー配列である。このプロモーター配列は、このプロモーター配列に作動可能に連結された
任意のポリヌクレオチド配列が高レベルに発現するように駆動し得る、強力な構成的プロ
モーター配列である。しかしながら、他の構成的プロモーター配列もまた使用可能である
。例えば、限定されるものではないが、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモー
ター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反
復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモータ
ー、エプスタイン-バーウイルス即時型初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモー
ターが挙げられるほか、限定されるものではないが、アクチンプロモーター、ミオシンプ
ロモーター、伸長因子-1aプロモーター、ヘモグロビンプロモーター及びクレアチンキ
ナーゼプロモーターなどのヒト遺伝子プロモーターも挙げられる。更に、本発明は、構成
的プロモーターの使用に限定すべきではない。また、誘導性プロモーターも本発明の一部
として企図される。誘導性プロモーターを使用することによって、そのような発現が所望
される場合に、作動可能に連結されているポリヌクレオチド配列の発現をオンにすること
ができ、また発現が所望されない場合に、発現をオフにすることが可能な分子スイッチが
提供される。誘導性プロモーターの例としては、限定されるものではないが、メタロチオ
ネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、
及びテトラサイクリン調節プロモーターが挙げられる。
【0185】
TFPポリペプチドまたはその一部の発現を評価するため、細胞に導入される発現ベク
ターはまた、ウイルスベクターを通してトランスフェクトされるかまたは感染することが
要求される細胞の母集団からの発現細胞の同定及び選択を促進するための、選択マーカー
遺伝子もしくはレポーター遺伝子のいずれか、またはその両方を具備し得る。他の態様で
は、選択可能マーカーは、別のDNA片上に担持され、且つ同時トランスフェクション手
順において使用できる。選択可能マーカー及びレポーター遺伝子の両方は、適切な調節配
列に隣接することによって、宿主細胞において発現を可能にし得る。有用な選択可能マー
カーには、例えば、neo及びそれらに類するものの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0186】
レポーター遺伝子は、潜在的にトランスフェクトされた細胞を同定し、調節配列の機能
性を評価する目的に使用される。概して、レポーター遺伝子とは、レシピエント生物もし
くは組織内に存在しない遺伝子、または受容体生物もしくは組織によって発現しない遺伝
子において、酵素活性等のいくつかの容易に検出可能な特性によって発現が顕現化される
ポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAがレシピエ
ント細胞に導入された後の好適な時点でアッセイされる。好適なレポーター遺伝子には、
ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラ
ーゼ、分泌型アルカリホスファターゼ、または緑色蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺
伝子が包含される場合がある(例えば、Ui-Tei et al.,2000 FEB
S Letters 479:79-82)。好適な発現系は周知であり、公知の技法を
使用して調製可能であるかまたは商業的に入手可能である。一般に、レポーター遺伝子の
最高レベルの発現を示す最小5’隣接領域を有する構築物が、プロモーターとして同定さ
れる。そのようなプロモーター領域はレポーター遺伝子に連結されている可能性があり、
プロモーター駆動転写の調節能力について薬剤を評価する目的に使用される。
【0187】
遺伝子を細胞内に導入して発現させる方法は、当該技術分野において公知である。発現
ベクターとの関連において、ベクターは、当該技術分野における任意の方法により、宿主
細胞、例えば哺乳動物、細菌、酵母、または昆虫細胞内に容易に導入することが可能であ
る。例えば、発現ベクターは、物理的、化学的、または生物学的手段によって宿主細胞に
移入できる。
【0188】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法としては、リン酸カルシウム
沈殿、リポフェクション、粒子衝撃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーショ
ン、及びそれらに類するものが挙げられる。ベクター及び/または外在性核酸を含む細胞
を産生するための方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Sambrook
et al.,2012,Molecular Cloning:A Laborat
ory Manual,volumes 1-4,Cold Spring Harbo
r Press,NY)。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための1つの方法は、
リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0189】
目的ポリヌクレオチドを宿主細胞内に導入するための生物学的方法は、DNA及びRN
Aベクターを使用することを含む。ウイルスベクター、及びとりわけレトロウイルスベク
ターは、哺乳動物、例えばヒト細胞内に遺伝子を挿入する目的に最も広く使用される方法
となってきた。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘル
ペスウイルスI、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスなどに由来し得る(例えば、米
国特許第5,350,674号及び同第5,585,362号を参照)。
【0190】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段としては、高分子複合体、ナ
ノカプセル、ミクロスフェア、ビーズのようなコロイド分散系、ならびに脂質系(水中油
型エマルジョン、ミセル、混合ミセル及びリポソームを含む)が挙げられる。人工膜小胞
などのリポソームは、in vitro及びin vivo送達媒体として用いられる例
示的なコロイド系である。それ以外にも、最先端の核酸標的化送達方法としては、例えば
、標的化ナノ粒子を用いたポリヌクレオチドの送達、または他の好適なサブミクロンサイ
ズ送達系などが、利用可能である。
【0191】
非ウイルス送達系が利用されている事例において、例示的な送達媒体はリポソームであ
る。核酸を宿主細胞内に(in vitro、ex vivoまたはin vivoで)
導入するために、脂質製剤の使用が想到されている。別の態様において、核酸は脂質と会
合している可能性がある。脂質と会合した核酸は、リポソームの水性内部に封入され、リ
ポソームの脂質二重層内に散在し、連結分子を介してリポソームに付着している。この連
結分子は、リポソームとオリゴヌクレオチドの両方に会合しているか、リポソームに捕捉
されているか、リポソームと複合体を形成しているか、脂質を含む溶液中に分散されてい
るか、脂質と混合しているか、脂質と結合しているか、脂質中に懸濁液として含有されて
いるか、ミセルを含有するか、またはミセルと複合体を形成しているか、あるいは脂質と
会合している。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクター関連の組成物は、溶液中の
如何なる特定の構造にも限定されず、例えば、ミセルとして存在する場合もあれば、また
は「崩壊」構造を有する二層構造中に存在する場合もあり、また、単に溶液中に散在して
、大きさまたは形状が一様でない凝集体を形成する可能性もあり得る。脂質類は、天然に
存在する脂質または合成脂質であり得る脂肪物質である。例えば、脂質類には、細胞質に
おいて天然に存在する脂肪滴、脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、アルデ
ヒドなどの長鎖脂肪族炭化水素及びその誘導体を含有する化合物のクラスが包含される。
【0192】
使用に好適な脂質は、商業的供給源から入手できる。例えば、ジミリスチルホスファチ
ジルコリン(「DMPC」)は、Sigma,St.Louis,Mo.から入手可能で
あり、ジセチルホスフェート(「DCP」)は、K&K Laboratories(P
lainview,NY)から入手可能であり、コレステロール(「Choi」)はCa
lbiochem-Behringから入手可能であり、ジミリスチルホスファチジルグ
リセロール(「DMPG」)及び他の脂質は、Avanti Polar Lipids
,Inc.(Birmingham,Ala)から入手可能である。クロロホルムまたは
クロロホルム/メタノール中の脂質ストック液は、約-20℃で貯蔵できる。クロロホル
ムはメタノールよりも容易に蒸発するため、クロロホルムは唯一の溶媒として使用される
。「リポソーム」とは、封入された脂質二重層または凝集体の生成によって形成される、
様々な単一及び多重層の脂質ビヒクルを包含する総称である。リポソームは、リン脂質二
重層膜と内部水性媒体とを有する小胞構造を具備するものとして特徴付けることができる
。多層リポソームは、水性媒体を介して分離された複数の脂質層を有し、リン脂質が過剰
の水溶液中に懸濁されると、自然発生的に形成される。脂質成分が自己転位を経た後、閉
じた構造が形成され、脂質二重層どうしの間に水及び溶存溶質が閉じ込められる(Gho
sh et al.,1991 Glycobiology 5:505-10)。一方
、溶液中では、通常の小胞構造とは異なる構造を有する組成物も包含される。例えば、脂
質はミセル構造を取る場合もあれば、または単に脂質分子からなる不均一な凝集体として
存在す場合もある。また、リポフェクタミン-核酸複合体が、想到される。
【0193】
外在性核酸を宿主細胞に導入するか、さもなければ細胞を本発明の阻害剤に曝露するた
めに使用される方法とは関係なしに、宿主細胞中の組み換えDNA配列の存在を確認する
ため、様々なアッセイを実施することができる。そのようなアッセイとしては、例えば、
サザン及びノーザンブロッティング、RT-PCR及びPCRなどの当業者に周知の「分
子生物学的」アッセイ、例えば免疫学的手段(ELISA及びウエスタンブロット)によ
る特定のペプチドの存在もしくは非存在の検出などの「生化学的」アッセイ、または本発
明の範囲内に含まれる薬剤を同定するための本明細書に記載のアッセイが挙げられる。
【0194】
本発明は更に、TFPをコードする核酸分子を含むベクターを提供する。一態様では、
TFPベクターを、T細胞などの細胞に直接的に形質導入する場合がある。一態様におい
て、ベクターは、クローニングベクターまたは発現ベクターであり、例えば、限定されな
いが、1種以上のプラスミド(発現プラスミド、クローニングベクター、ミニサークル、
ミニベクター、二重微小染色体など)、レトロウイルス及びレンチウイルスベクター構築
物をはじめとするベクターが挙げられる。一態様において、ベクターは、哺乳動物のT細
胞においてTFP構築物を発現し得る。一態様において、哺乳動物のT細胞は、ヒトT細
胞である。
【0195】
T細胞源
増殖及び遺伝的修飾に先立って、対象からT細胞源を採取する。「対象」という用語は
、免疫応答を誘発できる生物(例えば、哺乳動物)を包含することを意味する。対象の例
には、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、及びそれらのトランスジェニック種が挙げら
れる。T細胞の供給元としては、末梢血単核球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織
、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍など、幾多の起源を挙げること
ができる。本発明の或る態様では、当該技術分野において利用可能な任意の数のT細胞株
を使用する場合がある。本発明の或る態様では、Ficoll(登録商標)分離溶液のよ
うな、当業者に公知の任意の数の技法を使用して、対象から採取された血液の単位からT
細胞を得る場合がある。好ましい一態様では、アフェレーシスによって、個体の循環血液
由来の細胞を得る。アフェレーシス生成物には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有
核白血球、赤血球及び血小板をはじめとするリンパ球が含有されるのが、一般的である。
一態様では、アフェレーシスによって採取された細胞を洗浄し、血漿画分を除去してから
、後続の処理ステップ用に細胞を適切な緩衝液または培地に収容する場合がある。本発明
の一態様では、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄する。代替態様において、洗浄
液は、カルシウムを欠き、且つマグネシウムを欠く場合もあれば、あるいは全部ではない
にしても多くの二価陽イオンを欠く場合もある。初期活性化ステップでは、カルシウムの
不在下にて、活性化が増強される可能性がある。当業者に容易に理解されるように、洗浄
ステップは、製造業者の指示書に従い、例えば、半自動「フロースルー」遠心分離機(例
えば、Cobe 2991cell processor、Baxter CytoMa
te(商標)、またはHaemonetics(登録商標)Cell Saver(登録
商標)5)を使用するなどの、当業者に公知の方法によって達成できる。洗浄後、細胞を
、例えば、Ca不含、Mg不含PBS、Plasma-Lyte(登録商標)A、または
緩衝液含有もしくは不含の他の生理食塩水などのような様々な生体適合性緩衝液中に再懸
濁させてもよい。代替的に、アフェレーシス試料の望ましくない成分を除去し、細胞を直
接的に培地に再懸濁させてもよい。
【0196】
一態様では、例えば、PERCOLL(商標)勾配を通した遠心分離、または向流遠心
エルトリエーションにより、赤血球を溶解させて単球を枯渇させることによって、末梢血
リンパ球からT細胞を単離する。CD3+、CD28+、CD4+、CD8+、CD45
RA+、及びCD45RO+T細胞などのT細胞の特定の亜母集団は、陽性または陰性選
択技法によって更に単離できる。例えば、一態様では、T細胞を、DYNABEADS(
登録商標)M-450 CD3/CD28 Tのような抗CD3/抗CD28(例えば、
3×28)共役ビーズと共に、所望されるT細胞の陽性選択に十分な期間にわたってイン
キュベートすることによって、単離させる。一態様において期間は約30分である。更な
る態様において、時間は30分~36時間以上の範囲で、その間の全ての整数値である。
更なる態様において、時間は少なくとも1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、また
は6時間である。更に別の好ましい態様では、時間が10~24時間である。一態様にお
いて、インキュベーション時間は24時間である。腫瘍組織または免疫不全状態の個体か
ら腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を単離する場合などのように他の細胞型と比較してT細胞
がほとんど存在しない任意の状況では、T細胞が単離されるように使用インキュベーショ
ン時間を延長する場合がある。更に、使用インキュベーション時間を延長することで、C
D8+T細胞の捕捉効率を増強することが可能になる。それゆえ、T細胞をCD3/CD
28ビーズに結合させる時間を単に短くもしくは長くすることより、及び/または(本明
細書中に更に記載されるように)ビーズのT細胞に対する比率を増加もしくは減少させる
ことによって、培養開始時もしくはプロセス中の他の時点で、T細胞の亜母集団を優先的
に選択対象もしくは選択対象外にできる。加えて、ビーズもしくは他の表面上の抗CD3
及び/または抗CD28抗体の比率を増加もしくは低下させることによって、培養開始時
もしくは他の所望の時点でT細胞の亜母集団を優先的に選択対象もしくは選択対象外にで
きる。本発明との関連において、複数ラウンドの選択も使用することができることが、当
業者に認識されるであろう。或る態様では、選択手順を実行して活性化及び増殖プロセス
において「選択対象外にされた」細胞を使用することが、望ましい場合もある。また、「
選択対象外にされた」細胞を、更なる選択ラウンドに供してもよい。
【0197】
陰性選択された細胞に特有の表面マーカーに対する抗体の組み合わせによって、陰性選
択によるT細胞母集団の富化を達成できる。負の磁気免疫接着もしくはフローサイトメト
リーにおいて、陰性選択された細胞上に存在する細胞表面マーカー用にモノクローナル抗
体のカクテルを用い、細胞を選別及び/または選択するのも、1つの方法である。例えば
、陰性選択によってCD4+細胞を富化するために、モノクローナル抗体カクテルは、典
型的にはCD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、及びCD8に対す
る抗体を含む。或る態様では、典型的にはCD4+、CD25+、CD62Lhi、GI
TR+、及びFoxP3+を発現する調節性T細胞を富化することが望ましい場合もあれ
ば、または調節性T細胞を積極的に選択することが望ましい場合もある。代替的に、或る
態様において、T調節細胞は、抗C25共役ビーズまたは他の類似の選択方法によって枯
渇される。
【0198】
一実施形態において、IFN-γ、TNF-α、IL-17A、IL-2、IL-3、
IL-4、GM-CSF、IL-10、IL-13、IL-12グランザイムB、及びパ
ーフォリン、または他の適切な分子、例えば他のサイトカインのうちの1つ以上を発現す
るT細胞母集団を選択できる。例えば、PCT公報第WO2013/126712に記載
されている方法により、細胞発現に対するスクリーニング方法を特定することができる。
【0199】
陽性選択または陰性選択によって、所望される細胞母集団を単離する目的で、細胞及び
表面(例えば、ビーズなどの粒子)の濃度を変動させる場合がある。或る態様では、確実
に細胞とビーズとの接触を最大限にするため、ビーズと細胞とがともに混合される体積を
顕著に減少させる(例えば、細胞の濃度を増加させる)ことが望ましい場合もある。例え
ば、一態様では、20億細胞/mLの濃度が使用されている。一態様では、10億細胞/
mLの濃度が使用されている。更なる態様では、1億細胞/mL超が使用されている。更
なる態様では、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、350
0万、4000万、4500万、または5000万細胞/mLの細胞濃度が使用されてい
る。もう1つの態様では、7500万、8000万、8500万、9000万、9500
万、または1億細胞/mL超の細胞濃度が使用されている。更なる態様では、1億250
0万または1億5000万細胞/mLの濃度が使用される場合がある。高濃度を用いると
、結果として、細胞の収量、細胞の活性化、及び細胞の増殖を増強することが可能となる
。更に、CD28陰性T細胞のような目的の標的抗原を弱く発現し得る細胞、あるいは(
白血病性血液、腫瘍組織などのような)多くの腫瘍細胞が存在する試料由来の細胞を、高
濃度を用いることによって、より効率的に捕捉することも可能になる。そのような細胞母
集団は、治療的価値を有する場合があるので、入手することが望ましいであろう。例えば
、高濃度の細胞を用いると、通常CD28を弱く発現するCD8+T細胞を、より効率的
に選択できる。
【0200】
関連する態様では、低濃度の細胞を使用することが所望される場合がある。T細胞と表
面(例えばビーズのような粒子)との混合物を著しく希釈すると、粒子と細胞との間の相
互作用が最小限に抑えられる。これにより、粒子に結合する高量の所望される抗原を発現
する細胞が、選択される。例えば、CD4+T細胞は、より高レベルのCD28を発現し
、希釈濃度にてCD8+T細胞よりも効率的に捕捉される。一態様において、使用した細
胞の濃度は5×10/mLである。他の態様において、使用される濃度は約1×10
/mL~1×10/mL、及びその間の任意の整数値であり得る。他の態様では、2~
10℃または室温のいずれかで、様々な速度にて様々な時間にわたって細胞を回転子上で
インキュベートする場合がある。
【0201】
洗浄ステップ後に、刺激用T細胞を凍結してもよい。理論に束縛されるものではないが
、凍結ステップ及びその後の解凍ステップで、細胞母集団中の顆粒球及び或る程度は単球
を除去することによって、生成物を均一化する。血漿及び血小板を除去する洗浄ステップ
後に、細胞を凍結溶液中に懸濁させてもよい。多くの凍結溶液及びパラメータが、当該技
術分野において公知であり、この関連において有用となるであろうが、1つの方法は、2
0%ジメチルスルホキシド(DMSO)と8%ヒト血清アルブミンとを含有するPBS、
または10%デキストラン40と5%デキストロースとを含有する培地、20%ヒト血清
アルブミン及び7.5%DMSO、または31.25%Plasma-Lyte(登録商
標)-A、31.25%デキストロース5%、0.45%NaCl、10%デキストラン
40及び5%デキストロース、20%ヒト血清アルブミン、及び7.5%DMSO、例え
ばHespan(登録商標)及びPlasma-Lyte-Aを含有する他の好適な細胞
凍結培地を使用し、次いで細胞を毎分1の速度で-80℃に凍結して、液体窒素貯蔵タン
クの気相で貯蔵することを含む。-20℃または液体窒素中での即時の無制御凍結だけで
なく、制御凍結の他の方法も使用できる。或る態様において、本発明の方法を用いて活性
化する前に、凍結保存した細胞を本明細書に記載のように解凍及び洗浄し、室温で1時間
静置する。
【0202】
また、本明細書中に記載されているような増殖細胞が必要になり得る前に、或る期間に
対象から採取された血液試料またはアフェレーシス産物を収集することが、本発明との関
連において想到される。したがって、増殖の対象となる細胞源を、必要な任意の時点で採
取してもよいし、所望される細胞、例えばT細胞を単離し、任意の数の疾患または病態の
ためのT細胞療法におけるその後の使用に備えて凍結してもよい。そうすることで、本明
細書に記載されているようなT細胞療法による恩恵が得られるであろう。一態様において
、血液試料またはアフェレーシスは、概ね健常な対象から採取される。或る態様において
、血液試料またはアフェレーシスは、疾患を発症するリスクに曝されているがまだ疾患を
発症していない概ね健常な対象から採取され、且つ目的の細胞はその後の使用に備えて単
離され凍結される。或る態様では、T細胞を増殖させ、凍結しておき、その後に使用する
場合がある。或る態様では、本明細書に記載の特定の疾患が診断された直後、但し任意の
処置に先立って、患者から試料を採取する。更なる態様では、対象から採取された血液試
料またはアフェレーシスから細胞を単離した後、限定されるものではないが、ナタリズマ
ブ、エファリズマブ、抗ウイルス薬、化学療法、放射線療法、免疫抑制薬、例えば、シク
ロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸及びタクロリムスな
どの薬剤、抗体、またはアレムツズマブ、抗CD3抗体、シクロホスファミド、フルダラ
ビン、シクロスポリン、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、ロミデプシン、
及び放射線照射による治療をはじめとする任意の数の関連する治療を行う。
【0203】
本発明の更なる態様では、対象に機能的T細胞を残す処置後に、T細胞を患者から直接
的に採取する。これに関しては、或る種のがん治療(とりわけ、免疫系を損傷させる薬物
を用いた治療)後、患者が治療により正常に回復しつつある期間中の治療直後に、得られ
たT細胞の品質をex vivo増殖能力に合わせて最適化または向上させることが可能
であることが観察されてきた。同様に、本明細書に記載の方法を用いたex vivo操
作後、これらの細胞は、生着の増強及びin vivo増殖に適した好ましい状態となり
得る。それゆえ、この回復段階の間に、T細胞、樹状細胞、または他の造血系統の細胞を
はじめとする血液細胞を採取することが、本発明との関連において想到される。更に、或
る態様では、モビリゼーション(例えば、GM-CSFを用いたモビリゼーション)及び
条件付けレジメンを用いて、とりわけ治療後の定義済み時間枠中に、対象において特定の
細胞型の再増殖、再循環、再生、及び/または増殖に有利に働く状態を生じさせ得る。例
証的な細胞型には、T細胞、B細胞、樹状細胞、及び免疫系の他の細胞が含まれる。
【0204】
T細胞の活性化及び増殖
T細胞は概して、例えば、米国特許第6,352,694号、同第6,534,055
号、同第6,905,680号、同第6,692,964号、同第5,858,358号
、同第6,887,466号、同第6,905,681号、同第7,144,575号、
同第7,067,318号、同第7,172,869号、同第7,232,566号、同
第7,175,843号、同第5,883,223号、同第6,905,874号、同第
6,797,514号、同第6,867,041号、及び同第7,572,631号に記
述されているような方法を用いて活性化し、且つ膨張させることができる。
【0205】
本発明のT細胞は、CD3/TCR複合体関連シグナルを刺激する薬剤と、T細胞の表
面上の共刺激分子を刺激するリガンドと、を付着させた表面への接触によって増殖させる
ことが可能であるのが一般的である。とりわけ、T細胞母集団は、本明細書に記載される
ようにして、例えば、抗CD3抗体、またはその抗原結合フラグメント、または表面に固
定化された抗CD2抗体との接触によって、またはカルシウムイオノフォアと共にプロテ
インキナーゼC活性化因子(例えば、ブリオスタチン)と接触させることによって、刺激
できる。T細胞の表面上の補助分子を共刺激する目的に、補助分子を結合するリガンドが
用いられる。例えば、T細胞の増殖を刺激するのに適した条件下で、T細胞母集団を抗C
D3抗体及び抗CD28抗体に接触させる場合がある。CD4+T細胞またはCD8+T
細胞のいずれかの増殖を刺激させるには、抗CD3抗体及び抗CD28抗体(抗CD28
抗体の例として挙げられるのは9.3、B-T3、XR-CD28(Diaclone,
Besancon,France)である)を、当該技術分野において一般に知られてい
る他の方法と同様に使用できる(Berg et al.,Transplant Pr
oc.30(8):3975-3977,1998;Haanen et al.,J.
Exp.Med.190(9):13191328,1999;Garland et
al.,J.Immunol.Meth.227(1-2):53-63,1999)。
【0206】
T細胞を様々な刺激時間に曝露させた場合、それぞれ異なる特徴を呈し得る。例えば、
典型的な血液または付着末梢血単核球細胞産物は、細胞傷害性または抑制性T細胞母集団
(TC、CD8+)よりも大きいヘルパーT細胞母集団(TH、CD4+)を有する。C
D3及びCD28受容体を刺激することによりT細胞をex vivo増殖させた場合、
約8~9日前には主としてTH細胞からなるT細胞母集団を産生する一方、約8~9日後
にはT細胞母集団におけるTC細胞母集団の占有率が増大する。したがって、治療の目的
に応じて、主にTH細胞を含むT細胞母集団を対象に注入することが有利であり得る。同
様に、TC細胞の抗原特異的サブセットが単離されている場合、このサブセットをより高
度な程度まで増殖することが有益であり得る。
【0207】
更に、CD4及びCD8マーカーのほか、他の表現型マーカーも大きく変動するが、大
部分は細胞増殖プロセスの過程で再現可能に変動する。それゆえ、そのような再現性は、
活性化T細胞産物を特定の目的に合わせて調整する能力を実現するものである。
【0208】
一旦抗TAA TFP及び/またはPD-1融合タンパク質が構築されると、限定され
ないが、抗原刺激後にT細胞を増殖させる機能、再刺激なしにT細胞の増殖を持続させる
機能、ならびに適切なin vitro及び動物モデルにおける抗がん作用に関し、種々
のアッセイを使用して、分子の活性を評価できる。抗TAA TFP及び/またはPD-
1融合タンパク質の効果を評価するためのアッセイについて、以下に更に詳述する。
【0209】
一次T細胞におけるTFP発現のウエスタンブロット分析は、単量体及び二量体の存在
を検出する目的に使用できる(例えば、Milone et al.,Molecula
r Therapy 17(8):1453-1464(2009)を参照)。ごく簡単
に説明すると、TFPを発現するT細胞(CD4T細胞及びCD8T細胞の1:1混
合物)を10日間以上in vitroで増殖させた後、溶解させ、還元条件下でSDS
-PAGEにかける。TCR鎖に対する抗体を用いたウエスタンブロッティングによって
、TFPが検出される。同じT細胞サブセットを非還元条件下でのSDS-PAGE分析
に用いて、共有結合二量体形成の評価を可能にする。
【0210】
抗原刺激後のTFPT細胞のin vitro増殖を、フローサイトメトリーにより
測定することができる。例えば、CD4及びCD8T細胞の混合物を、αCD3/α
CD28及びAPCで刺激し、続いて分析対象プロモーターの制御下でGFPを発現する
レンチウイルスベクターで形質導入する。例示的なプロモーターとしては、CMV IE
遺伝子、EF-1α、ユビキチンC、またはホスホグリセロキナーゼ(PGK)プロモー
ターが挙げられる。CD4+及び/またはCD8+T細胞サブセットにおける培養6日目
に、フローサイトメトリーにより、GFP蛍光を評価する(例えば、Milone et
al.,Molecular Therapy 17(8):1453-1464(2
009)を参照)。代替的に、CD4+及びCD8+T細胞の混合物を、0日目にαCD
3/αCD28被覆磁気ビーズで刺激し、1日目に2Aリボソームスキッピング配列を用
い、TFPのみを発現するバイシストロンレンチウイルスベクターとeGFPとを併用し
て、TFPを形質導入する。洗浄後、抗CD3抗体及び抗CD28抗体(K562-BB
L-3/28)の存在下にて、培養物を、PD-1+K562細胞(K562-PD-1
)、野生型K562細胞(K562野生型)、またはK562細胞のいずれか、hCD3
2及び4-1BBLを発現する細胞で再刺激する。1日おきに外在性IL-2を100I
U/mLにて培養物に加える。ビーズベースの計数を用いて、フローサイトメトリーによ
りGFP+T細胞を計数する(例えば、Milone et al.,Molecula
r Therapy 17(8):1453-1464(2009)を参照)。
【0211】
また、再刺激の不在下で、TFP+T細胞増殖の持続に関する測定を行うことができる
(例えば、Milone et al.,Molecular Therapy 17(
8):1453-1464(2009)を参照)。概略説明すると、0日目にαCD3/
αCD28被覆磁気ビーズで刺激し、1日目に指示されたTFPを形質導入した後、培養
8日目にCoulter Multisizer(商標)III粒子カウンターを用いて
平均T細胞体積(fl)を測定する。
【0212】
また、TFP-T活性を測定するための動物モデルを使用してもよい。例えば、免疫不
全マウスにおけるがんを治療するための、ヒトTAA特異的TFP+T細胞及び/または
PD-1融合タンパク質+T細胞(例えば、PD1CD28+T細胞)を用いた異種移植
片モデルである(例えば、Milone et al.,Molecular Ther
apy 17(8):1453-1464(2009)を参照)。ごく簡単に説明すると
、がんが確立された後、マウスを治療群に関して無作為化する。がんを有するNOD/S
CID/γ-/-マウスに対し、異なる数の操作済みT細胞を1:1の比で同時注入する
。T細胞注射後の様々な時点で、マウス由来の脾臓DNA中の各ベクターのコピー数を評
価する。毎週間隔で、動物のがんに関する評価を行う。αTAA-ζTFP+T細胞また
は偽形質導入T細胞を注射したマウスにおける、末梢血TAA+及び/またはPD-1+
がん細胞数を測定する。ログランク検定を用い、群を対象とした生存曲線を比較する。そ
れ以外にも、また、NOD/SCID/γ-/-マウスにおいてT細胞注射後4週間を経
過した絶対末梢血CD4+及びCD8+T細胞数を分析してもよい。マウスにがん細胞を
注射し、3週間後には、eGFPに連結されたTFPをコードするバイシストロン性レン
チウイルスベクターを介してTFPを発現するように操作されたT細胞を注射する。注射
に先立って、T細胞を偽形質導入細胞と混合することにより、45~50%の入力GFP
+T細胞に正規化し、フローサイトメトリーにより確証する。1週間間隔で、動物のがん
に関する評価を行う。ログランク検定を用い、TFP+T細胞群を対象とした生存曲線を
比較する。
【0213】
用量依存的TFP治療反応を評価してもよい(例えば、Milone et al.,
Molecular Therapy 17(8):1453-1464(2009)を
参照)。例えば、21日目にTFP T細胞を注射されたマウス、同数の偽形質導入T細
胞を注射されたマウス、またはT細胞を注射されなかったマウスにおけるがんの確立後3
5~70日経過してから末梢血を採取する。各群からのマウスを、末梢血TAA+及び/
またはPD-1+がん細胞数を算定する目的に無作為に採血し、次いで35日及び49日
に殺傷する。57日目及び70日目に、残りの動物を評価する。
【0214】
細胞増殖及びサイトカイン産生の評価は、例えば、Milone et al.,Mo
lecular Therapy 17(8):1453-1464(2009)に前述
されている。概略説明すると、マイクロタイタープレートで、洗浄済みT細胞を、PD-
1またはCD32及びCD137を発現する細胞(KT32-BBL)と2:1の最終T
細胞:PD-1を発現する細胞比で混合することによって、TFP媒介増殖の評価を行う
。PD-1細胞を発現する細胞に対し、使用に先立ってガンマ線を照射する。抗CD3(
クローンOKT3)及び抗CD28(クローン9.3)モノクローナル抗体は、KT32
-BBL細胞含有の培養物に加えることで、T細胞増殖を刺激するための陽性対照として
の機能を果たす。これらのシグナルによって、ex vivoでの長期的なCD8+T細
胞増殖が支持されるからである。T細胞は、CountBright(商標)蛍光ビーズ
(Invitrogen)及び製造業者によって記載されているように、フローサイトメ
トリーを使用して培養物中で計数される。TFP+T細胞は、eGFP-2Aを介して連
結したTFP発現レンチウイルスベクターで操作されたT細胞を用いた、GFP発現によ
って同定される。GFPを発現しないTFP+T細胞については、ビオチン化組み換えP
D-1タンパク質及び二次アビジン-PE共役体を用いて、TFP+T細胞を検出した。
また、特異的モノクローナル抗体(BD Biosciences)を用いることで、T
細胞上のCD4+及びCD8+の発現も同時的に検出される。メーカーの指示書に従い、
ヒトTH1/TH2サイトカインサイトメトリービーズアレイキット(BD Biosc
iences)を使用して、再刺激の24時間後に採取された上清に対してサイトカイン
測定を行う。FACScalibur(登録商標)フローサイトメーターを用いて蛍光を
評価し、メーカーの指示書に従ってデータを分析する。
【0215】
細胞傷害性は、標準的な51Cr放出アッセイによって評価できる(例えば、Milo
ne et al.,Molecular Therapy 17(8):1453-1
464(2009)を参照)。概要説明すると、標的細胞に、頻繁に撹拌しながら37℃
で2時間、51Cr(NaCrOとして、New England Nuclear)
を充填し、完全RPMI培地で2回洗浄して、マイクロタイタープレートに播種した。エ
フェクターT細胞を、様々な比率のエフェクター細胞:標的細胞(E:T)にて、完全R
PMI中のウェル内の標的細胞と混合する。また、培地のみ(自発的放出、SR)または
1%Triton(登録商標)-X100洗剤溶液(全放出、TR)を含有する追加的な
ウェルも調製する。37℃にて4時間インキュベートした後、各ウェルから上清を回収す
る。その後、放出された51Crを、ガンマ粒子カウンターを用いて測定する(Pack
ard Instrument Co.,Waltham,Mass.)。各条件を少な
くとも3回連続して行う。溶解率は、式:溶解率(%)=(ER-SR)/(TR-SR
)を用いて計算する。式中、ERは、各実験条件ごとの平均51Cr放出量を表す。
【0216】
また、細胞傷害性を、ラクトースデヒドロゲナーゼ(LDH)アッセイで測定してもよ
い。LDH比色アッセイキットは、例えば、Thermo Scientific(商標
)またはPierce(商標)から入手可能である。本キットを様々な細胞型に使用して
、化合物によって媒介される細胞傷害性を測定することも、また細胞媒介性細胞傷害性を
アッセイすることも可能である。乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、多様な細胞型に存
在する細胞質ゾル酵素である。原形質膜が損傷した場合、LDHが細胞培養液中に放出さ
れる。培地中の細胞外LDHは、共役酵素反応によって定量できる。この共役酵素反応に
おいて、LDHは、乳酸からNAD+を経由してピルビン酸に変換してからNADHに還
元するのを触媒する。次いで、ジアホラーゼは、NADHを用いてテトラゾリウム塩(I
NT)を490nmにて測定可能な赤色のホルマザン生成物に還元する。ホルマザン形成
のレベルは、培地中に放出されたLDHの量に正比例する。これは、細胞傷害性の指標で
ある。培養細胞を、エフェクター細胞(例えば、本明細書に開示されている操作されたT
細胞)と共にインキュベートすることで、細胞傷害性を誘発させ、その後にLDHを放出
させる。培地中に放出されたLDHを新しいプレートに移し、キットに付属している反応
混合物と混合させた。室温で30分間インキュベートした後、反応停止液を加えて反応を
停止させる。プレート読み取り分光光度計を使用して、490nm及び680nmでの吸
光度を測定し、LDH活性を算定する。
【0217】
細胞傷害性はまた、以下の実施例に記載されているような、測定されたFACS及びR
TCAであり得る。
【0218】
画像処理技術を用いて、担がん動物モデルにおけるTFPの特異的なトラフィッキング
及び増殖を評価できる。そのようなアッセイは、例えば、Barrett et al.
,Human Gene Therapy 22:1575-1586(2011)に記
載されている。概略説明すると、がん細胞をNOD/SCID/γc-/-(NSG)マ
ウスに静脈内注射し、続いて7日後にTFP構築物を用いたエレクトロポレーションの4
時間後にT細胞を注射した。T細胞をレンチウイルス構築物で安定にトランスフェクトし
、ホタルルシフェラーゼを発現させ、生物発光用にマウスを撮像する。代替的に、がん異
種移植モデルにおけるTFP+T細胞の単回注射の治療効果及び特異性を測定するには、
以下のような方法があり得る:NSGマウスに、ホタルルシフェラーゼを安定的に発現す
るように形質導入されたがん細胞を注射し、続いて7日後にPD-1 TFPでエレクト
ロポレーションされたT細胞を単尾静脈注射する。動物を注射後の様々な時点で撮像する
。例えば、5日目(処置の2日前)及び8日目(TFP+PBLの24時間後)の代表的
マウスにおける、ホタルルシフェラーゼ陽性がんの光子密度ヒートマップを作成できる。
【0219】
また、他のアッセイ(本明細書の実施例の節に記載されているアッセイ、及び当該技術
分野において公知のアッセイなど)も、本発明のPD-1 TFP構築物を評価する目的
に使用できる。
【0220】
併用療法
本明細書中に記載されているTFP発現細胞及び/またはPD-1融合タンパク質発現
細胞(例えば、PD1CD28発現細胞)を、他の公知の薬剤及び治療剤と併用すること
ができる。本明細書中に用いられている「併用」投与とは、対象が障害に罹患している間
に、2種(もしくはそれ以上)の異なる治療薬を対象に施すこと、例えば、対象の障害が
診断された後、その障害が治癒または排除される前、あるいは他の理由で治療が中断され
る前に、2種以上の治療を施すことを意味する。いくつかの実施形態では、或る治療薬が
依然として送達されている途中に、第2の送達が開始された場合、投与に関して重複が存
在する。これは、本明細書において、「同時送達」または「並行送達」と呼称されること
がある。他の実施形態では、一方の治療薬の送達が終了した後で、他方の治療薬の送達が
開始される。いずれかの症例のいくつかの実施形態では、併用投与によってより有効とな
る。例えば、第2の治療薬の方がより有効であり、例えば、第2の治療薬を減量したとし
ても同等の効果が認められる。すなわち、第2の治療薬が症状を軽減する度合いの方が、
第1の治療薬の不在下で第2の治療薬を投与した場合に認められる度合いよりも大きく、
あるいは第1の治療薬で類似の状況が見られた場合に認められる度合いよりも大きい。い
くつかの実施形態では、症状軽減、または障害に関連する他のパラメータが、一方の治療
薬が他方の治療薬の非存在下で送達された場合に観察されるよりも優れるように、送達が
為される。2つの治療薬の効果は、幾分かは相加的である場合もあれば、全体的に相加的
である場合もあれば、または相加的より優れる場合もある。第2の治療薬が送達された際
に、第1の治療薬を送達した効果を依然として検出することが可能となるように、送達が
為され得る。
【0221】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの追加的な療法剤は、上記のPD-1融
合タンパク質、例えばPD1CD28融合タンパク質を含む。一実施形態において、PD
-1融合タンパク質は、TFPと同じT細胞母集団において発現させることが可能なため
、患者に対し同時的に投与される。いくつかの実施形態では、PD-1融合タンパク質を
、第2のT細胞母集団において発現させる。TFPを具備するT細胞母集団、及びPD-
1融合タンパク質を具備するT細胞母集団は、同時投与または連続投与される場合がある
。いくつかの実施形態では、細胞ベースの治療薬(例えば、ヒトT細胞治療薬)の組み合
わせが同時投与される。いくつかの実施形態では、細胞ベースの治療薬(例えば、ヒトT
細胞治療薬)と非細胞ベースの治療薬(例えば、小分子化学療法薬、または抗体治療薬)
との組み合わせが逐次投与される。
【0222】
いくつかの実施形態では、「少なくとも1つの追加的な療法剤」に、第2の腫瘍関連抗
原を標的とする第2のTFP発現細胞母集団が含まれる。また、同じもしくは異なる標的
抗原に結合するか、または同じ標的抗原上の同じもしくは異なるエピトープに結合する、
複数のTFPを発現するT細胞も提供されている。また、T細胞の第1のサブセットが第
1のTFPを発現し、T細胞の第2のサブセットが第2のTFPを発現する、T細胞の母
集団も提供されている。一実施形態において、追加的な療法剤は、IL-12を発現する
TFP発現細胞である。
【0223】
本明細書に記載されているTFP発現細胞及び少なくとも1つの追加的な療法剤は、同
じもしくは別々の組成物にて同時投与、または逐次投与できる。逐次投与の場合、最初に
本明細書に記載のTFP発現細胞を投与することもできるし、2回目に追加的な薬剤を投
与することもできるし、あるいは投与順序を逆にすることもできる。
【0224】
更なる態様では、本明細書に記載のTFP発現細胞を、外科手術、化学療法、放射線療
法、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキセート、ミコフェノール酸塩、及びタ
クロリムス(FK506)などの免疫抑制剤、またはアレムツズマブ、抗CD3抗体もし
くは他の抗体療法、シクロホスファミド、フルダラビン、シクロスポリン、ラパマイシン
、ミコフェノール酸、ステロイド、ロミデプシン(FR901228)、サイトカイン、
及び照射のような他の免疫破壊剤と組み合わせて治療レジメンに使用できる。また、本明
細書に記載のTFP発現細胞は、ペプチドワクチン(Izumoto et al.20
08 J Neurosurg 108:963-971に記載のものなど)との併用も
可能である。
【0225】
いくつかの実施形態では、TFP発現細胞の投与に関連する副作用を軽減または改善す
る薬剤を、対象に投与する場合がある。TFP発現細胞の投与に関連する副作用としては
、限定されるものではないが、サイトカイン放出症候群(CRS)、及び血球貪食性リン
パ組織球症(HLH)が挙げられ、このHLHは、マクロファージ活性化症候群(MAS
)とも呼ばれる。CRSの症状には、高熱、悪心、一過性低血圧、低酸素、及びそれらに
類するものが包含される。したがって、本明細書中に記載されている方法には、本明細書
に記載のTFP発現細胞を対象に投与し、更に薬剤を投与することによって、TFP発現
細胞で処置した結果として生ずる高レベルの可溶性因子に対処することを含めてもよい。
一実施形態では、対象における高レベルの可溶性因子は、IFN-γ、TNFα、IL-
2及びIL-6のうちの1つ以上である。ゆえに、この副作用を治療する目的に投与され
る薬剤は、これらの可溶性因子のうちの1つ以上を中和する薬剤であり得る。そのような
薬剤としては、限定されるものではないが、ステロイド、TNFαの阻害剤、及びIL-
6の阻害剤が挙げられる。TNFα阻害剤の例は、エタネルセプトである。IL-6阻害
剤の例は、トシリズマブ(toc)である。
【0226】
いくつかの実施形態において、TFP発現細胞の活性を増強する薬剤を、対象に投与す
る場合がある。例えば、一実施形態において、薬剤は、阻害性分子を阻害する薬剤であり
得る。プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)のような阻害性分子は、いくつかの実
施形態において、TFP発現細胞が免疫エフェクター応答を開始する能力を低下させ得る
。阻害性分子の例としては、限定されるものではないが、PD-1、PD-L1、CTL
A-4、TIM3、LAG3、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD1
60、2B4及びTGFRβが挙げられる。
【0227】
DNA、RNAまたはタンパク質レベルでの阻害などによる阻害性分子の阻害によって
、TFP発現細胞の性能を最適化することが可能である。実施形態において、阻害性核酸
(例えば、siRNAまたはshRNAなどのdsRNA)は、TFP発現細胞における
阻害性分子の発現を阻害する目的に使用される場合がある。或る実施形態において、阻害
剤は、shRNAである。或る実施形態では、TFP発現細胞の内部で阻害性分子が阻害
される。これらの実施形態において、阻害性分子の発現を阻害するdsRNA分子は、T
FPの成分、例えば全ての成分をコードする核酸に連結されている。一実施形態において
、阻害シグナルの阻害剤は、例えば、阻害性分子に結合する抗体または抗体フラグメント
であり得る。例えば、薬剤は、PD-1、PD-L1、PD-L2またはCTLA-4に
結合する抗体または抗体フラグメント(例えば、イピリムマブ(別称:MDX-010及
びMDX-101、商標名:Yervoy(商標)Bristol-Myers Squ
ibb)、ならびにトレメリムマブ(Pfizerから入手可能なIgG2モノクローナ
ル抗体、旧称:チシリムマブ(CP-675,206))であり得る。或る実施形態にお
いて、薬剤は、TIM3に結合する抗体または抗体フラグメントである。或る実施形態に
おいて、薬剤は、LAG3に結合する抗体または抗体フラグメントである。
【0228】
いくつかの実施形態において、TFP発現細胞の活性を増強する薬剤は、例えば、第1
のドメインが阻害性分子またはそのフラグメントであり、且つ第2のドメインが陽性シグ
ナル関連のポリペプチド(本明細書に記載の細胞内シグナル伝達ドメインを含むポリペプ
チドなど)である、第1ドメインと第2ドメインとを具備する融合タンパク質であり得る
。いくつかの実施形態では、陽性シグナルと関連するポリペプチドに、CD28、CD2
7、ICOSの共刺激ドメイン、例えば、CD28、CD27及び/またはICOSの細
胞内シグナル伝達ドメイン、及び/または例えば本明細書に記載のCD3ζなどの一次シ
グナル伝達ドメインが含まれる場合がある。一実施形態では、TFPを発現した細胞と同
じ細胞によって、融合タンパク質が発現する。別の実施形態において、融合タンパク質は
、抗TAA TFPを発現しないT細胞等の細胞を介して発現する。
【0229】
医薬組成物
本発明の医薬組成物には、本明細書に記載の複数のTFP発現細胞などのTFP発現細
胞と、PD-1融合タンパク質発現細胞などのPD-1融合タンパク質(例えばPD1C
D28スイッチ)発現細胞とが組み合わせて含まれる場合もあれば、1種以上の医薬的も
しくは生理学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤が含まれる場合もある。そのよ
うな組成物には、中性緩衝食塩水のような緩衝剤、リン酸緩衝食塩水など、グルコース、
マンノース、スクロースまたはデキストランなどの炭水化物、マンニトール、タンパク質
、グリシンなどのポリペプチドまたはアミノ酸、酸化防止剤、EDTAまたはグルタチオ
ンなどのキレート剤、補助剤(水酸化アルミニウムなど)及び防腐剤が含まれる場合があ
る。本発明の組成物は、一態様において、静脈内投与用に製剤化されている。
【0230】
本発明の医薬組成物は、治療対象(または予防対象)の疾患に適した方法で投与され得
る。投薬量及び投薬頻度は、患者の病態、ならびに患者の疾患の種類及び重篤度などの要
因に応じて特定される一方、適切な投薬量は臨床試験によって算定することが可能である
【0231】
一実施形態において、医薬組成物は、汚染物質を実質的に含まない。例えば、エンドト
キシン、マイコプラズマ、複製コンピテントレンチウイルス(RCL)、p24、VSV
-G核酸、HIV gag、残留抗CD3/抗CD28コートビーズ、マウス抗体、プー
ルされたヒト血清、ウシ血清アルブミン、ウシ血清、培地成分、ベクターパッケージング
細胞またはプラスミド成分、細菌及び真菌からなる群から選択される検出可能なレベルの
汚染物質は存在しない。一実施形態において、細菌は、Alcaligenes fae
calis、Candida albicans、Escherichia coli、
Haemophilus influenza、Neisseria meningit
ides、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococc
us aureus、Streptococcus pneumonia、及びA群St
reptococcus pyogenesからなる群から選択される細菌のうちの少な
くとも1種である。
【0232】
「免疫学的有効量」、「抗腫瘍有効量」、「腫瘍阻害有効量」、または「治療量」が指
示されている場合、投与対象となる本発明の組成物の正確な量を、医師が患者(対象)の
年齢、体重、腫瘍の大きさ、感染または転移の程度、及び病態における個人差を考慮して
判定する場合がある。概説すると、本明細書に記載のT細胞を含む医薬組成物は、10
~10細胞/kg体重の投与量(いくつかの実例において、10~10細胞/kg
体重の範囲内の全ての整数値を含む)で投与できる。また、これらの投与量のT細胞組成
物を、複数回投与できる。免疫療法において遍く知られている注入技法を用い、細胞を投
与できる(例えば、Rosenberg et al.,New Eng.J.of M
ed.319:1676,1988を参照)。
【0233】
或る態様において、活性化T細胞を対象に投与し、引き続き、血液を再採血し(または
アフェレーシスを行い)、本発明に従い、このアフェレーシスによるT細胞を活性化して
、これらの活性化及び増殖済みT細胞を患者に再注入することが望ましい場合がある。こ
のプロセスは2~3週間ごとに複数回遂行できる。或る態様において、T細胞は、10c
c~400ccの採血により活性化することが可能である。或る態様において、T細胞は
、20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90cc
、または100ccの採血により活性化することが可能である。
【0234】
本組成物の投与は、エアロゾル吸入、注射、摂取、輸血、インプランテーションまたは
移植によることを含む任意の好都合な方法で遂行できる。本明細書に記載の組成物は、患
者に対し、経動脈的に、皮下的に、皮内的に、腫瘍内的に、結節内的に、骨髄内的に、筋
肉内的に、静脈内(i.v.)注射により、または腹腔内に投与できる。一態様では、本
発明のT細胞組成物を、患者に対し、皮内注射または皮下注射で投与する。一態様では、
本発明のT細胞組成物を、静脈内注射で投与する。T細胞の組成物は、腫瘍、リンパ節、
または感染部位に直接的に注射することが可能である。
【0235】
特定の例示的な態様では、対象に対し白血球除去療法を施す場合がある。この白血球除
去療法では、白血球をex vivoで収集、富化、または枯渇させ、T細胞などの目的
の細胞の選択及び/または単離を行う。これらのT細胞単離物は、当該技術分野において
公知の方法により増殖させることが可能であり、本発明の1つ以上のTFP構築物を導入
し、それにより、本発明のTFP発現T細胞を作製できる。続いて、それを必要とする対
象に、高用量化学療法による標準治療を施し、続いて、末梢血幹細胞移植を施してもよい
。或る態様では、移植後または移植と同時に、対象に対し、本発明の増殖済みTFP T
細胞を注入する。追加的な態様では、手術の前後に、増殖した細胞を投与する。
【0236】
患者に対し投与すべき上記治療薬の投薬量は、治療対象となる病態の正確な性質、及び
治療薬の服用者に応じて異なる場合がある。ヒトに対し投与される投薬量の増減は、当該
技術分野において認められている慣例に従って実施できる。例えば、アレムツズマブの用
量は、成人患者では概ね1~約100mgの範囲内であり、通常1~30日間の期間にわ
たって毎日投与される。好ましい1日量は、1日当たり1~10mgであるが、いくつか
の実例では、1日当たり40mgまで用量を漸増させて用いる場合もある(米国特許第6
,120,766号に記載)。
【0237】
一実施形態では、抗TAA TFP、及び/またはPD-1融合タンパク質を、例えば
in vitro転写を用いてT細胞に導入し、対象(例えばヒト)に対し本発明のTF
P T細胞を初期投与し、以後、本発明のTFP T細胞を1回以上投与する。以後の1
回以上の投与が為されるのは、15日間未満、例えば、前回の投与の14日後、13日後
、12日後、11日後、10日後、9日後、8日後、7日後、6日後、5日後、4日後、
3日後または2日後である。一実施形態では、対象(例えば、ヒト)に対し、本発明のT
FP T細胞の1回を超える投与を週に1回実施する。例えば、本発明のTFP T細胞
を2回、3回または4回の投与を週に1回実施する。一実施形態では、対象(例えば、ヒ
ト対象)に対し、1週間に2回以上TFP T細胞の投与(例えば、1週間に2回、3回
または4回の投与)(本明細書中ではサイクルとも呼ぶ)を施し、直後の1週間はTFP
T細胞を全く投与せず、次いで、対象に対し、TFP T細胞を1回以上更に投与(例
えば、1週間に1回より多くTFP T細胞を投与)する。別の実施形態において、対象
(例えば、ヒト対象)は、1サイクルを超えるTFP T細胞を投与される。各サイクル
間の期間は、10日未満、9日未満、8日未満、7日未満、6日未満、5日未満、4日未
満、または3日未満である。一実施形態では、週3回の投与の場合、TFP T細胞を1
日おきに投与する。一実施形態において、本発明のTFP T細胞を、少なくとも2週、
3週、4週、5週、6週、7週、8週以上にわたって投与する。
【0238】
一態様では、PD-1 TFP T細胞を、レンチウイルスなどのレンチウイルスウイ
ルスベクターを用いて作製する。そのようにして作製されたTFP-T細胞は、安定して
TFPを発現させることになる。
【0239】
一態様において、TFP T細胞は、形質導入後の4日間、5日間、6日間、7日間、
8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間にわた
ってTFPベクターを過渡的に発現する。TFPの一過性発現は、RNA TFPベクタ
ー送達によって為され得る。一態様では、エレクトロポレーションにより、TFP RN
AをT細胞に形質導入する。
【0240】
一過性に発現するTFP T細胞を用いて(特にネズミscFv保有TFP T細胞を
用いて)治療される患者に起こり得る可能性のある問題は、多数回にわたる治療後のアナ
フィラキシーである。
【0241】
この理論に束縛されるものではないが、そのようなアナフィラキシー応答は、体液性抗
TFP応答、すなわち抗IgEアイソタイプを有する抗TFP抗体を生じている患者によ
り引き起こされる可能性があると考えられる。抗原に対する曝露が10~14日間にわた
って中断された場合、患者の抗体産生細胞が、IgGアイソタイプ(アナフィラキシーを
誘発しない)クラスからIgEアイソタイプに切り替えられると考えられる。
【0242】
一過性のTFP療法過程にて抗TFP抗体応答を生ずる(例えば、RNA形質導入によ
って生ずる)ような高度なリスクに患者が曝されている場合、TFP T細胞注入の中断
を10~14日間を超えて持続させてはならない。
【実施例0243】
本発明については、以下の実験例を参照して、更に詳細に説明する。これらの実施例は
、もっぱら例証の目的に提供されたものであり、別途指定されていない限り、限定を意図
したものではない。それゆえ、本発明は、如何なる様式においても下記実施例に限定され
るものと解釈すべきではなく、寧ろ本明細書中に提供されている教示の結果として明らか
になるありとあらゆるバリエーションを包含するものと解釈すべきである。これ以上説明
しなくても、当業者であれば、先行する説明及び下記の例示的な実施例を用い、本発明の
化合物の製造及び利用によって、特許請求の範囲に記載されている方法を実施できるもの
と考えられる。下記実施例は、本発明の様々な態様を具体的に指摘したものであって、如
何なる様式においても本開示の残りの部分を限定するものと解釈すべきではない。
【0244】
材料及び方法
実施例1:細胞株及び細胞培養条件
別途注記のない限り、いずれの細胞株も、American Type Cultur
e Collection(ATCC)から購入されたものである。本明細書中に開示さ
れている方法において使用するのに適切な細胞株の代表例は、下掲の通りである。下記の
腫瘍細胞株は、IFNγ曝露の非存在下で低レベルのPD-L1を発現する。ゆえに、レ
ンチウイルスを介してPD-L1をこれらの細胞株に形質導入することによっても同様に
、PD-L1の高安定発現バージョンを産生することが可能である。腫瘍関連抗原または
対照抗原をこれらの細胞株に形質導入することによって、本明細書中に開示されている融
合タンパク質を試験することができる。それら融合タンパク質の例としては、限定される
ものではないが、メソセリン(MSLN)、BCMA、CD19、CD20、CD22、
前立腺特異的がん抗原(PSCA)、及びROR-1が挙げられる。本明細書中に開示さ
れている併用療法用の標的として使用できる表面発現腫瘍関連抗原はいずれも、置換可能
である。
【0245】
いくつかの実施形態では、ヒト中皮腫細胞株を使用することができる。例としては、限
定されるものではないが、MSTO-211及びOVCAR3が挙げられる。また、細胞
上でのメソセリンの自然発現率が低い場合、これらの細胞株にヒトメソセリンを形質導入
することによって、メソセリンの表面発現を増加させることも可能である。レンチウイル
スを介してホタルルシフェラーゼを系列内に形質導入することによって、MSTO-21
1ffluc及びOVCAR3fflucが産生される。
【0246】
Nalm6は、CD19を高発現するB細胞白血病前駆細胞株である(German
DSMZ Cell Collectionカタログ番号:ACC128)。レンチウイ
ルスを介してクリックビートルレッド(「CBG」)またはホタルルシフェラーゼをNa
lm6内に形質導入すると、Nalm6-CBGまたはNALM-6fflucが産生さ
れる。
【0247】
K562は、慢性骨髄性白血病細胞株である(ATCC;カタログ番号:CCL-24
3)。一実施形態では、レンチウイルスを介してCD19をK562内に形質導入すると
、K562-CD19が産生される。他の標的は、適宜に形質導入できる。
【0248】
他の例示的な腫瘍細胞株、例えば、Raji(ATCC(登録商標)CCL86(商標
))、daudi(ATCC(登録商標)CCL213(商標))、及びNCI-60パ
ネル内に見つかる腫瘍細胞株が使用される場合がある。その上、他の不死化実験用細胞株
、例えば、HeLa、HEK-293などは、本明細書中に開示されている融合タンパク
質を試験するための目的タンパク質を発現するように操作される場合がある。
【0249】
腫瘍細胞及びT細胞は、10%熱不活性化FCS、100U/mLペニシリン、100
mg/mL硫酸ストレプトマイシン、及び1%L-グルタミンを添加したRPMI 16
40培地(Gibco、カタログ番号11875-085)中で培養する。
【0250】
融合タンパク質の生成:T細胞受容体融合タンパク質(TFP)
本明細書中に開示されているように、PD1CD28スイッチ受容体と併用するための
TFPの生成については、例えば、同時係属中の非暫定的国際特許出願第PCT/US2
016/033146号(2016年5月18日出願)、ならびに同時係属中の米国特許
仮出願第62/405,551号(2016年10月7日出願)、同第62/357,1
85号(2016年6月30日出願)、同第62/370,189号(2016年8月2
日出願)、同第62/425,697号(2016年11月23日出願)、同第62/4
25,407号(2016年11月22日出願)、同第62/425,535号(201
6年11月22日出願)、及び同第62/425,884号(2016年11月23日出
願)に記載されている。これらの各文献は、本明細書において参照により援用されている
【0251】
実施例2:融合タンパク質の生成:PD1CD28スイッチ受容体
PD-1-cDNA(Origene)由来の切断型細胞外PD-1(アミノ酸1~1
55)をCD28の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインと融合させることによって、PD
1CD28スイッチ受容体が構築される(アミノ酸141-220)。また、PD1CD
28スイッチ受容体の変異型(PD1CD28m)も構築される。このCD28シグナル
伝達の無効化については、Liu et al.,(2016)Cancer Res.
76(6)に記載されているほか、同時係属中の非暫定的国際特許出願第PCT/EP2
016/064195号(2016年6月20日出願)にも更に記載されており、これら
の各文献は本明細書において参照により援用されている。
【0252】
実施例3:レンチウイルスの産生
下記手順または軽微な変更を加えた手順に従い、適切な構築物をコードするレンチウイ
ルスを調製する。5×10HEK-293FT細胞を100mm皿に播種し、一晩で7
0~90%コンフルエンシーに達するようにした。指示されたDNAプラスミド2.5μ
g及びLentivirus Packaging Mix(ALSTEM、カタログ番
号VP100)20μLを、血清を含まない0.5 mLのDMEMまたはOpti-M
EM(登録商標)I培地で希釈し、穏やかに混合する。別個のチューブで、NanoFe
ct(登録商標)トランスフェクション試薬(ALSTEM、カタログ番号NF100)
30μLを、血清不含のDMEMまたはOpti-MEM I培地0.5mL中で希釈し
、穏やかに混合する。次いで、NanoFect/DMEM及びDNA/DMEM溶液を
混合し、10~15秒間ボルテックスした後、DMEM-プラスミド-NanoFect
混合物を室温で15分間インキュベートする。前のステップからの完全なトランスフェク
ション複合体を細胞のプレートに滴下して加え、このプレートでトランスフェクション複
合体を揺すって均一に分散させる。次いで、プレートを加湿5%COインキュベーター
内で、37℃で一晩インキュベートする。翌日、上清を新鮮な培地10mLと交換し、V
iralBoost(商標)20μLを補給する(500×、ALSTEM、カタロログ
番号VB100)。その後、プレートを37℃で更に24時間インキュベートする。続い
て、レンチウイルス含有の上清を、50mLの無菌キャップ付きコニカル遠心チューブ内
に採取して氷上に置く。4℃で15分間3000rpmで遠心分離した後、清澄な上清を
低タンパク質結合0.45μm滅菌フィルターで濾過し、続いて4℃で1.5時間、25
,000rpm(Beckmann、L8-70M)で超遠心分離することによってウイ
ルスを単離させる。ペレットを取り出し、DMEM培地中に再懸濁させてから、Lent
i-X qRT-PCR滴定キットを使用して定量的RT-PCRによりレンチウイルス
濃度/力価を確立する(Clontech;カタロログ番号631235)。プラスミド
DNAが残留している場合、DNaseIで処理することによって除去する。ウイルスス
トック調製物を、感染の目的に直ちに使用するか、または等分して、今後の使用に備えて
-80℃で貯蔵する。
【0253】
実施例4:PBMC単離株
全血またはバフィーコートから末梢血単核球(PBMC)を調製する。全血を10mL
のヘパリンバキュテナーで採取し、直ちに処理するかまたは4℃で一晩保存する。全抗凝
固血液約10mLを、Ca2+/Mg2+不含PBS(pH7.4)を入れた50mLコ
ニカル遠心管中で総容量20mLになるように滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)緩衝液と
混合する。次いで、この血液/PBS混合物20mLをFicoll-Paque(登録
商標)PLUS(GE Healthcare、17-1440-03)15mLの表面
上に静かに重層した後、室温で40gにて30~40分間ブレーキなしで遠心分離する。
【0254】
バフィーコートを、Research Blood Component(Bosto
n,MA)などから購入する。LeucoSep(登録商標)チューブ(Greiner
bio-one)を15mLのFicoll-Paque(登録商標)(GE Hea
lth Care)を加えて調製し、1000gで1分間遠心分離する。バフィーコート
をPBS(pH7.4、Ca2+またはMg2+不含)で1:3に希釈する。希釈したバ
フィーコートをLeucoSepチューブに移し、ブレーキをかけずに1000gで15
分間遠心する。希釈した血漿/Ficoll(登録商標)界面に見られるPBMCを含む
細胞の層を、Ficollによる汚染が最小限に抑えられるように注意深く除去する。次
いで、残留フィコール、血小板、及び血漿タンパク質を、室温で200gで10分間遠心
分離することにより、PBMCを40mLのPBSで3回洗浄して除去する。次いで、細
胞を血球計で計数する。洗浄されたPBMCを、5%AB血清及び1.25μg/mLの
アムホテリシンB(Gemini Bioproducts、Woodland、CA)
、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシン)のCAR-T
培地(AIM V-AlbuMAX(登録商標)(BSA)(Life Technol
ogies)混液で1回洗浄する。代替的に、洗浄されたPBMCを断熱バイアルに移し
、-80℃で24時間凍結した後、その後の使用に備えて液体窒素に保存する。
【0255】
実施例5:T細胞の活性化
全血またはバフィーコートのいずれかから調製したPBMCを、抗ヒトCD28及びC
D3抗体共役磁気ビーズで24時間刺激した後、ウイルスによる形質導入を行う。新たに
単離したPBMCを、5%AB血清及び1.25μg/mLのアムホテリシンB(Gem
ini Bioproducts)、100U/mLのペニシリン及び100μg/mL
のストレプトマイシン)を含有するが、但しhuIL-2不含のCAR-T培地(AIM
V-AlbuMAX(BSA)(Life Technologies)中で1回洗浄
した後、300IU/mLのヒトIL-2(1000×ストック;Invitrogen
)含有のCAR-T培地中に、最終濃度1×10細胞/mLにて再懸濁させる。PBM
Cが事前に凍結されていた場合は、解凍してから、10%FBS、100U/mLペニシ
リン、100μg/mLストレプトマイシンの存在下、1×10細胞/mLの濃度にて
予備加温した(37℃)DMEM培地(Life Technologies)9mL中
に1×10細胞/mL中に再懸濁させた後、CAR-T培地で1回洗浄し、CAR-T
培地中に1×10細胞/mLにて再懸濁させ、前述のIL-2を加える。
【0256】
活性化に先立って、抗ヒトCD28及びCD3抗体共役磁気ビーズ(Invitrog
en,Life Technologiesなどから入手可能なもの)1mLを、無菌1
×PBS(pH7.4)で3回洗浄し、磁気ラックを使用して溶液からビーズを単離させ
た後、300IU/mLのヒトIL-2含有のCAR-T培地中に再懸濁させて、最終濃
度4×10ビーズ/mLにする。次いで、25μL(1×10ビーズ)のビーズを1
mLのPBMCに移し、ビーズと細胞が1:1の比率になるようにPBMC及びビーズを
混合する。次いで、所望の数のアリコートを、12ウェルの低付着性または未処理細胞培
養プレートの単一ウェルに分配し、37℃にて5%COで24時間インキュベートした
後、ウイルスによる形質導入を行う。
【0257】
実施例6:T細胞の形質導入/トランスフェクション及び増殖
PBMCが活性化された後、細胞を37℃にて5%COで48時間インキュベートす
る。レンチウイルスを氷上で解凍し、培地1mL当たり2μLのTransPlus(商
標)(Alstem)(最終希釈率1:500)と共に、1×10細胞の各ウェルに加
える。細胞を更に24時間インキュベートした後、ウイルスの添加を繰り返す。代替的に
、レンチウイルスを氷上で解凍し、5μg/mLのポリブレン(Sigma)の存在下、
各々のウイルスを5MOIまたは50MOIで加える。室温にて細胞を100gで100
分間かけて回転培養する。その後、300IU/mLのヒトIL-2を引き続き存在させ
て、細胞を6~14日間増殖させる(総インキュベーション時間は、最終的なTFP-T
細胞の所要数に依存する)。細胞濃度を2~3日ごとに分析し、その時点で培地を加えて
、細胞懸濁液を1×10細胞/mLに維持する。
【0258】
いくつかの実例では、活性化されたPBMCを、in vitro転写(IVT)mR
NAでエレクトロポレーションする。一実施形態では、ヒトPBMCを、300IU/m
lの組み換えヒトIL-2(R&D Systems)の存在下、DynaBeads(
登録商標)(ThermoFisher)で1:1の比率にて3日間刺激する(他の刺激
試薬、例えばMolteni Pharmaceuticals製のTransAct(
登録商標)T Cell Reagentなどを使用してもよい)。エレクトロポレーシ
ョンに先立って、ビーズを除去する。細胞を洗浄して、2.5×10細胞/mLの濃度
でOPTI-MEM培地(ThermoFisher)中に再懸濁させる。細胞懸濁液(
5×10細胞)200μLを、2mmギャップのElectroporation C
uvettes Plus(商標)(Harvard Apparatus BTX)に
移し、氷上で予備冷却する。10μgのIVT TFP mRNAを細胞懸濁液に加えて
、次いで、ECM830 Electro Square Wave Porator(
Harvard Apparatus BTX)を使用して、mRNA/細胞混合物を2
00Vにて20ミリ秒間エレクトロポレーションする。エレクトロポレーションの直後に
、細胞を新鮮な細胞培養培地(AIM V AlbuMAX(BSA)無血清培地+5%
ヒトAB血清+300IU/ml IL-2)に移して、37℃でインキュベートする。
【0259】
実施例7:細胞染色によるTFP発現の検出
レンチウイルスによる形質導入またはmRNAのエレクトロポレーションに続いて、T
FP及びPD1CD28スイッチ受容体の発現を、フローサイトメトリーにより確証する
。T細胞受容体に対するTFPの取り込みは、適切な抗標的抗体を使用することにより、
検出することが可能である(例えば、CD19特異的TFPの発現は、抗CD19 sc
Fv抗体または抗マウスFab血清を用いた検出が可能である)。一方、PD1CD28
スイッチ受容体の検出は、ヒトPD-1検出用の抗PD-1抗体またはPD-L1-Fc
を用いた検出が可能である。T細胞を、染色緩衝液(PBS、4%BSA)3mL中で3
回洗浄し、1ウェル当たり1×10細胞にてPBS中に再懸濁させる。死細胞を排除す
るため、細胞をLIVE/DEAD(登録商標)Fixable Aqua Dead
Cell Stain(Invitrogen)と共に、氷上で30分間インキュベート
する。細胞をPBSで2回洗浄し、染色緩衝液50μL中に再懸濁させる。Fc受容体を
遮断するため、1:100に希釈された正常ヤギIgG(BD Bioscience)
1μLを各チューブに加えて、氷中で10分間インキュベートする。FACS緩衝液1.
0mLを各チューブに加え、十分に混合して、細胞を300gにて5分間遠心分離させて
ペレット化する。scFv TFPの表面発現が、Zenon(登録商標)R-Phyc
oerythrin標識ヒト抗腫瘍抗原IgG1 Fcまたは腫瘍抗原-Fcによって検
出される。抗体または可溶性腫瘍抗原1μgを各々の試料に加えて、氷上で30分間イン
キュベートする。次いで、細胞を2回洗浄し、BD bioscience製の抗CD3
APC(クローン、UCHT1)、抗CD4-Pacific blue(クローンR
PA-T4)、抗CD8 APCCy7(クローンSK1)を用いて、T細胞の表面マー
カーを染色する。LSRFortessa(登録商標)X20(BD Bioscien
ces)を用いてフローサイトメトリーを実行し、FACSDiva(商標)ソフトウェ
アを用いてデータを取得し、FlowJo(登録商標)で分析する(Treestar,
Inc.Ashland,OR)。
【0260】
一実施形態では、T細胞を、抗BCMA TFP及びPD1CD28スイッチ受容体で
形質導入する。別の実施形態では、T細胞を、抗MSLN TFP及びPD1CD28ス
イッチ受容体で形質導入する。他の標的抗原に対する抗体を有するTFPは、PD1CD
28スイッチ受容体と正常に組み合わせることが可能である。標的抗原の例としては、限
定されるものではないが、標的抗原、例えばBCMA(ゼノン(登録商標)R-フィコエ
リスリン標識hBCMA IgG)、及びPD-1(標識組み換えヒトPD-L1または
抗PD-1)が挙げられる。例示的な結果に、CD8に対し染色された活性化PBMC細
胞(抗CD8 APCCy7)の表面発現分析を示す。
【0261】
実施例8:フローサイトメトリーによる細胞毒性アッセイ
PD-1リガンド(すなわち、PD-L1及び/またはPD-L2)ならびに標的腫瘍
抗原(例えば、BCMA、CD19、MSLNなど)に対して陽性または陰性の標的細胞
を、蛍光色素カルボキシフルオセイン二酢酸サクシニミジルエステル(CFSE)で標識
する。これらの標的細胞を、エフェクターT細胞と混合させる。このエフェクターT細胞
は、形質導入されていないか、PD1CD28スイッチ受容体単独で形質導入されている
か、腫瘍関連抗原に特異的なTFP(例えばCD19に特異的なTFP)であるか、変異
型PD1CD28スイッチ受容体で形質導入されているか、またはTFPで形質導入され
且つPD1CD28スイッチ受容体または変異型PD1CD28mスイッチ受容体の一方
と組み合わせられているか、のいずれかである。指示されたインキュベーション期間の後
、フローサイトメトリーによって各エフェクター/標的細胞培養物に対して、死滅から生
存までのCFSE標識標的細胞と陰性対照標的細胞との割合が決定される。各T細胞の陽
性標的細胞培養物中の標的細胞の生存率を、標的細胞のみを含有するウェルを基準とした
相対値として計算する。
【0262】
フローサイトメトリーを用い、エフェクター細胞及び標的細胞の共インキュベーション
後に、エフェクターT細胞含有または不含の標的細胞中の生存標的細胞の数を比較するこ
とにより、エフェクターT細胞の細胞傷害活性を測定する。抗腫瘍抗原TFP細胞と組み
合わせたPD-1スイッチ受容体を用いた実験において、標的細胞は、腫瘍抗原陽性細胞
である。一方、陰性対照として使用される細胞は、腫瘍抗原陰性細胞またはPD-L1/
PD-L2陰性細胞である。
【0263】
一実施形態において、標的細胞は細胞表面にCD19を発現し、併用療法は抗CD19
-TFP及びPD1CD28スイッチ受容体を含む。例示的な方法は以下の通りである。
標的細胞を1回洗浄し、1×10細胞/mLでPBS中に再懸濁させる。蛍光色素カル
ボキシフルオセイン二酢酸サクシニミジルエステル(CFSE)(ThermoFish
er(登録商標))を0.03μMの濃度で細胞懸濁液に加え、細胞を室温で20分間イ
ンキュベートする。完全細胞培養培地(RPMI-1640+10%HI-FBS)を、
反応体積の5倍の体積で細胞懸濁液中に加え、細胞を室温で更に2分間インキュベートし
て、標識化反応を停止させる。細胞を遠心分離によりペレット化し、細胞傷害性培地(フ
ェノールレッドフリーRPMI 1640(Invitrogen)+5%AB血清(G
emini Bioproducts)中に2×10細胞/mLにて再懸濁させる。C
FSE標識標的細胞懸濁液50μl(10,000細胞に相当)を、96ウェルU底プレ
ート(Corning)の各ウェルに加える。
【0264】
TFP構築物(例えば、抗CD19 TFP構築物)及びPD1CD28融合構築物(
すなわち、両方の構築物を同時発現させる)で形質導入したエフェクターT細胞を、陰性
対照としての非形質導入T細胞と共に、洗浄してから、細胞傷害性培地中に2×10
胞/mLまたは1×10細胞/mLにて懸濁させる。エフェクターT細胞懸濁液50μ
l(100,000または50,000細胞に相当)を、総容量100μLにてエフェク
ターとターゲットとの比率がそれぞれ10対1または5対1になるように、Nalm6及
びNalm6-PDL1細胞などの播種済み標的細胞に加える。次いで、培養液を混合し
、遠心して、37℃にて5%COで8時間インキュベートする。このインキュベーショ
ンの直後に、7AAD(7-アミノアクチノマイシンD)(BioLegend)をメー
カーの推奨事項に従って培養細胞に加え、BD LSRFortessa(商標)X-2
0(BD Biosciences)を使用してフローサイトメトリーを行う。Flow
Jo(登録商標)ソフトウェア(TreeStar,Inc.)を使用して、フローサイ
トメトリーデータの分析を行う。
【0265】
腫瘍抗原(例えばCD19)を発現する標的細胞の生存率を計算するには、試料中の生
存標的細胞(CFSE+7-AAD-)の数をエフェクターT細胞及び標的細胞で除算、
あるいは試料中の生存(CFSE+7-AAD-)細胞の数を標的細胞単独で除算する。
エフェクター細胞に対する細胞傷害性は、標的細胞に対する致死率=100%-細胞に対
する生存率として計算される。
【0266】
形質導入されていないT細胞、または非腫瘍抗原特異的TFP対照で形質導入されてい
るT細胞と比較したときの、腫瘍抗原発現細胞(例えば、CD19を発現するNalm6
細胞及び/またはNalm6-PDL1細胞)に対する細胞傷害性を、PD1CD28ス
イッチ受容体及び腫瘍抗原特異的TFP構築物(例えば、抗CD19-TFP構築物)で
形質導入されたT細胞によって、デモンストレーションする。
【0267】
例えば、CD19を発現するNalm6-PDL1細胞に対して最高の細胞傷害性を、
CD19及びPD1CD28スイッチ受容体に特異的なTFPをコードするmRNAでエ
レクトロポレーションされたT細胞によって、デモンストレーションする。CD19陽性
Nalm6細胞に見られる殺傷量は少なめであり、対照または本明細書に開示されている
併用療法のいずれにもCD19陰性Nalm6細胞(PD-L1陰性)細胞の顕著な殺傷
は見られないと考えられる一方、CD19/PD-L1(またはPD-L2)発現細胞の
CD19特異的殺傷(例えばPD-1-CD3εまたはPD-1-CD3γTFPのいず
れかで形質導入されたT細胞によるもの)は観察される可能性がある。
【0268】
実施例9:リアルタイム細胞毒性アッセイによる、細胞毒性の判別方法
実施例1にデモンストレーションされているのと同様、抗腫瘍抗原TFP+PD1CD
28スイッチ受容体で形質導入されたT細胞によってもまた、細胞毒性が秀逸であること
をリアルタイム細胞毒性アッセイ(RTCA)フォーマットにてデモンストレーションで
きる。RTCAアッセイは、専用の96ウェルプレートの各ウェルにおける接着性標的細
胞単層の電気インピーダンスをリアルタイムで測定し、最終的な読み出し値を細胞指数と
呼ばれる値として提示する。細胞指数の変化は、同時インキュベートされたT細胞エフェ
クターによって標的細胞が死滅した結果として、標的細胞単層が破壊されたことが示す。
それゆえ、エフェクターT細胞の細胞傷害性を、標的細胞単独のウェルの細胞指数の変化
と比較した、標的細胞及びエフェクターT細胞の両方を含むウェルの細胞指数の変化とし
て評価することができる。
【0269】
10%FBS及び1%抗生物質-抗真菌剤(Life Technologies)が
補充されたDMEM中で、接着性標的細胞を培養する。RTCAを調製するために、例え
ばDMEM培地50μLをEプレートの適切なウェルに加える(ACEA Biosci
ences,Inc,カタログ番号:JL-10-156010-1A)。次いで、プレ
ートをRTCA MP装置(ACEA Biosciences,Inc.)に入れ、製
造元のマニュアルに記載されているように適切なプレートレイアウト及びアッセイスケジ
ュールをRTCA 2.0ソフトウェアに入力する。100回の測定に対して15分ごと
に、ベースライン測定を行う。次いで、100μL容量中の1×10標的細胞を各アッ
セイウェルに加えて、細胞を15分間沈降させる。プレートをリーダーに戻し、読み取り
を再開する。
【0270】
翌日、エフェクターT細胞を洗浄し、細胞傷害性培地(5%AB血清が補充されたフェ
ノールレッドフリーRPMI1640(Invitrogen)(Gemini Bio
products;100-318))中に再懸濁させる。次いで、器具からプレートを
取り出し、細胞傷害性培地(フェノールレッドフリーRPMI1640+5%AB血清)
中に懸濁させたエフェクターT細胞を、エフェクター対標的の比がそれぞれ10対1また
は5対1に達するように、100,000細胞または50,000細胞にて各ウェルに加
える。その後、プレートを器具に戻し、100回の測定に対して2分ごとに測定を遂行し
てから、1,000回の測定に対して15分ごとに測定を遂行する。
【0271】
いくつかの実施形態において、標的細胞の表面上に発現した腫瘍抗原は、例えばMSL
Nである。RTCAアッセイでは、細胞指数の時間依存的減少によって実証されるように
、エフェクター細胞の添加後、細胞単独または対照CAR構築物で形質導入したT細胞と
同時インキュベートされた細胞と比較して、PD1CD28スイッチ受容体+抗MSLN
TFPで形質導入されたT細胞による、PD-L1及びMSLN発現細胞の死滅が観察
され得る。例えば、MSLN陽性のPD-L1発現標的細胞の死滅が本質的に完了するの
は、抗MSLN-CD3εTFPで形質導入されたT細胞を加えてから4時間以内であり
得る。他のCD3とTCR構築物とを含むいくつかのTFP構築物が形質導入されたT細
胞では、殺傷がほとんどまたは全く観察されない可能性がある。抗MSLN TFP-+
PD1CD28スイッチ受容体で形質導入されたT細胞の方が、TFPまたはスイッチ受
容体のみのいずれかで形質導入されたT細胞よりも、MSLN/PD-L1発現標的細胞
に対する細胞傷害性が大きい。その事例において、MSLN陽性細胞、及びPD-L1陰
性細胞に対する細胞傷害性は、TFPのみに依存することから低下することになる。
【0272】
抗MSLN TFP構築物は、リンカー:GGGGSGGGGSGGGGSLE(配列
番号1)をコードするDNA配列を介してCD3εDNAフラグメントに連結されたMS
LN scFv DNAフラグメントをXbaI及びEcoRI部位にて(SBIから)
p526ベクターにクローニングすることによって操作される。
【0273】
RTCAに対する標的細胞は、例えばMSLN陽性/PD-L1陽性細胞であり、以下
の対照細胞母集団:MSLN-/PD-L1+細胞、MSLN+/PD-L1-細胞、及
びMSLN-/PD-L1-細胞をいずれも陰性対照として使用する。10%FBS及び
1%抗生物質-抗真菌剤(Life Technologies)が補充されたDMEM
中で、接着性標的細胞を培養する。
【0274】
次いで、細胞傷害性を示す正規化細胞指数を算定する。活性化PBMCは未処理である
か、形質導入されていないか、あるいは空のベクターで形質導入されているか、抗MSL
N-TFP単独で形質導入されているか、PD1CD28スイッチ受容体単独、または抗
MSLN TFP+PD1CD28スイッチ受容体の組み合わせ、抗MSLN TFP単
独、PD1CD28スイッチ受容体単独で形質導入されている。標的細胞はPD-L1陽
性であり、PD-L1陰性細胞は陰性対照として使用される。
【0275】
標的MSLN陽性細胞の方が、単独形質導入細胞または陰性対照と比べて、組み合わせ
形質導入T細胞を介して殺傷される効率が高い。対照的に、MSLN陰性細胞は、いずれ
の構築物を介しても殺傷される効率が低い。
【0276】
実施例10:in vivo固形腫瘍異種移植マウスモデルにおけるヒトTFP T細
胞の治療
皮下固形腫瘍または播種性もしくは皮下血液腫瘍を担持する免疫不全マウスモデルにお
いて、腫瘍抗原発現ヒトがん細胞株を使用することで、本明細書中に開示されている併用
療法による治療の有効性を試験することができる。ヒトTFP T細胞及びPD-1融合
受容体での処置に応答した腫瘍収縮は、腫瘍サイズのキャリパー測定によって、またはf
fluc発現腫瘍細胞によって放出されるルシフェラーゼタンパク質(ffluc)シグ
ナルの強度を追跡することによって評価できる。
【0277】
原発性ヒト固形腫瘍細胞を、in vitroで培養する必要なしに、免疫不全状態の
マウスにおいて増殖させる場合もある。例示的な固形がん細胞としては、The Can
cer Genome Atlas(TCGA)及び/またはBroad Cancer
Cell Line Encyclopediaに提供されるような固形腫瘍細胞株が
挙げられる(CCLE,Barretina et al.,Nature 483:6
03(2012)を参照)。例示的な固形がん細胞としては、肺癌、卵巣癌、黒色腫、結
腸癌、胃癌、腎細胞癌、食道癌、神経膠腫、尿路上皮癌、網膜芽細胞腫、乳癌、非ホジキ
ンリンパ腫、膵臓癌、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、肝細胞癌、白血病、子宮頸癌、胆管癌
、口腔癌、頭頸部癌、または中皮腫から単離された原発腫瘍細胞が挙げられる。これらの
マウスを使用して、ヒト腫瘍異種移植片モデルにおいて操作されたT細胞受容体及びPD
1CD28スイッチ受容体を発現するT細胞の有効性を、試験することができる。1×1
~1×10の原発性細胞(ECマトリックス材料中のコラゲナーゼ処理したバルク
腫瘍懸濁液)もしくは腫瘍フラグメント(ECマトリックス材料中の原発性腫瘍フラグメ
ント)を皮下に移植または注射した後に、腫瘍を200~500mmまで増殖させてか
ら、治療を開始する。
【0278】
実施例11:ELISAを用いたIL-2及びIFN-γの分泌
同族抗原を有する細胞の認識に関連するエフェクターT細胞活性化及び増殖のもう1つ
の尺度が、インターロイキン-2(IL-2)及びインターフェロン-γ(IFN-γ)
などのエフェクターサイトカインの産生である。
【0279】
ヒトIL-2(カタログ番号EH2IL2、Thermo Scientific(登
録商標))及びIFN-γカタログ番号KHC4012、Invitrogenに関する
ELISAアッセイを、製品添付文書に記載されているようにして実施する。一実施例で
は、2連の再構成済み標準物質または試料50μLを96ウェルプレートの各ウェルに加
え、続いて50μLのビオチン化抗体試薬を加える。プレートを数回軽く叩いて、試料を
混合する。次いで、標準希釈液50μLを、標準物質または試料を含有しない全てのウェ
ルに加え、プレートを接着プレートカバーで慎重に密封した後、室温(20~25℃)で
3時間インキュベートする。続いて、プレートカバーを取り外し、プレートの内容物を空
にしてから、各ウェルを洗浄用緩衝液で満たす。この洗浄手順を合計3回繰り返し、プレ
ートをペーパータオルまたは他の吸収性材料で拭う。調製したストレプトアビジン-HR
P溶液100μLを各ウェルに加え、新しいプレートカバーを取り付けてから室温で30
分間インキュベートする。再びプレートカバーを取り外し、プレートの内容物を捨て、T
MB基質溶液100μLを各ウェルに加える。反応液を室温で30分間、暗所で発色させ
た後、停止液100μLを各ウェルに加える。プレートを評価する。反応停止後30分以
内に、450nm及び550nmに設定されたELISAプレートリーダーで、吸光度を
測定する。550nm値を450nm値から差し引き、未知試料中のIL-2量をIL-
2標準曲線から得られた値について計算を行う。
【0280】
代替的に、ヒトサイトカイン磁気緩衝剤試薬キット(Invitrogen,LHB0
001M)、ヒトIL-2磁気ビーズキット(Invitrogen,LHC0021M
)、及びヒトIFN-γ磁気ビーズキット(Invitrogen,LHC4031M)
とを併用して、2-Plexアッセイを実施する。概略説明すると、25μLのヒトIL
-2及びIFN-γ抗体ビーズを96ウェルプレートの各ウェルに加える。洗浄の際に用
いられるガイドラインは、以下の通りである:洗浄液200μL1倍で2回洗浄し、プレ
ートをMagnetic 96-well plate Separator(Invi
trogen,A14179)と接触させて置き、ビーズを1分間沈降させ、液体をデカ
ントする。次いで、インキュベーション緩衝液50μLを、再構成標準物質100μL含
有のプレートの各ウェルに二連で加えるか、あるいは試料(細胞毒性アッセイから採取さ
れた上清)50μL、及びアッセイ希釈剤50μLを三連で加えて、総容量を150μL
とする。室温にて、軌道半径3mmの軌道シェーカーを用い、600rpmで、試料を暗
所で2時間かけて混合する。同じ洗浄ガイドラインに従ってプレートを洗浄し、100μ
LのヒトIL-2及びIFN-γビオチン化検出抗体を、各ウェルに加える。室温にて、
軌道半径3mmの軌道シェーカーを用い、600rpmで、試料を暗所で1時間かけて混
合する。同じ洗浄ガイドラインに従ってプレートを洗浄し、100μLのストレプトアビ
ジン-R-フィコエリスリンを、各ウェルに加える。室温にて、軌道半径3mmの軌道シ
ェーカーを用い、600rpmで、試料を暗所で30分かけて混合する。同じ洗浄ガイド
ラインを用いてプレートを3回洗浄し、デカントした後、液体試料を1倍の洗浄液150
μL中に再懸濁させる。軌道半径3mmの軌道シェーカーを用い、600rpmで、試料
を暗所で3分かけて混合し、4℃で一晩保存する。その後、同じ洗浄ガイドラインに従っ
てプレートを洗浄し、試料を1倍の洗浄液150μL中に再懸濁させる。
【0281】
MAGPIXシステム(Luminex)及びxPONENTソフトウェアを使用して
、プレートを読み取る。MILLIPLEX Analystソフトウェアを使用してデ
ータの分析を実施することにより、標準曲線及びサイトカイン濃度を得る。
【0282】
腫瘍抗原を、内因的に発現する細胞または腫瘍抗原形質導入細胞のいずれかと共培養し
た場合、腫瘍抗原特異的TFP及びPD1CD28スイッチ受容体単独で形質導入された
T細胞の方が、形質導入されていないT細胞または対照の単独形質導入T細胞(すなわち
、TFPまたはスイッチ受容体のいずれかを単独で形質導入したT細胞)と比較して、I
L-2及びIFN-γの両方をより高レベルにて産生することが可能である。対照的に、
腫瘍抗原陰性細胞または非形質導入細胞との共培養の場合、TFP形質導入T細胞からサ
イトカインがほとんど放出されない場合もあれば、または全く放出されない場合もある。
【0283】
抗腫瘍抗原CD3ε及び抗腫瘍抗原CD3γは、IL-2及びIFN-γレベルが最高
度のTFP構築物を産生し得る。一方、抗腫瘍抗原-CD3εまたは抗腫瘍抗原-CD3
γTFP(例えば、抗CD19-CD3εまたは抗CD19-CD3γTFP)、及びP
D1CD28スイッチ受容体で形質導入されたT細胞によるサイトカイン産生は、PD-
L1陰性標的細胞を殺傷する能力が、TFPのみを発現するT細胞に匹敵し得る。
【0284】
50MOIのレンチウイルスを、2日間連続で活性化PBMCに形質導入して、増殖さ
せる。形質導入後8日目に、PBMCの共培養物を標的細胞(PD-L1及び抗腫瘍抗原
(CD19など)を発現するK562細胞、「K562-19-PD-L1」、またはP
D-L1陰性K562-19)もしくはCD19陰性K562-PD-L1)とE:Tを
1:1の比(各細胞型0.2×10)にて、細胞傷害性培地(フェノールレッドフリー
RPMI1640(Invitrogen)+5%AB血清(Gemini Biopr
oducts;100-318)中にセットアップした。別の腫瘍関連抗原(例えばBC
MA)を過剰発現するPD-L1発現K562細胞を、陰性対照として使用してもよい。
24時間後、上記のようにして、ELISAにより、細胞のIFN-γ及びIL-2発現
の分析を行う。一例では、PD1CD28融合タンパク質及びCD19 TFP構築物を
発現するT細胞は、K562-19-D-L1と共培養することによって、IFN-γ及
びIL-2産生の両方によって証明されるように、活性化される。PD-1発現細胞がT
細胞を特異的に活性化する能力を更にデモンストレーションする。
【0285】
実施例12:in vivoマウス有効性試験
抗腫瘍抗原TFP、例えば抗MSLN TFPで形質導入されたエフェクターT細胞が
in vivoで抗腫瘍応答を達成する能力を評価するため、1)抗MSLN TFP+
PD1CD28スイッチ受容体、2)抗MSLN TFP単独、もしくは3)PD1CD
28スイッチ受容体単独のいずれかで形質導入されたエフェクターT細胞、または4)形
質導入されていないエフェクターT細胞を、以前にPD-L1+またはPD-L1-ヒト
がん細胞株を接種したNOD/SCID/IL-2Rγ-/-(NSG-JAX)マウス
に対し、養子的に導入する。
【0286】
試験開始前少なくとも6週齢の雌NOD/SCID/IL-2Rγ-/-(NSG-J
AX)マウスをJackson Laboratoryから入手し、実験的に使用する前
の3日間にわたって順応させる。接種用のヒトがん細胞株を対数増殖期培養で維持し、続
いて回収し、トリパンブルーで計数して、生存細胞数を算定する。腫瘍攻撃の日に、細胞
を300gで5分間遠心分離し、0.5~1×10細胞/100μLのいずれかで予備
加温した滅菌PBS中に再懸濁させる。養子免疫伝達用のT細胞(非形質導入、TFP単
独で形質導入されているか、PD1CD28スイッチ単独で形質導入されているか、また
はTFP及びPD1CD28スイッチ受容体の両方で同時形質導入されているか、のいず
れか)を調製する。研究の0日目に、実験群あたり10匹の動物を、静脈内投与により、
0.5~1×10個のがん細胞に曝露させる。3日後、100μLの滅菌PBS中に溶
解した5×10個のエフェクターT細胞母集団を、各動物に静脈内移入する。動物に関
する詳細な臨床観察を、動物が安楽死するまで毎日記録する。全ての動物を対象に、動物
が死亡または安楽死するまで、毎週体重測定を行う。被験物質及び対照物質を養子移入さ
れた全ての動物を、その35日後に安楽死させる。研究中に瀕死の状態にあることが認め
られた動物については、研究責任者が獣医師と協議のうえ自己の裁量で安楽死させること
とする。
【0287】
予期される結果の要約を、表1に示す。組み合わせまたは抗腫瘍抗原TFP構築物+P
D1CD28スイッチ受容体で形質導入されたT細胞を養子免疫伝達した方が、非形質導
入T細胞または単独形質導入T細胞と比較して、PD-L1+またはPD-L2+担癌マ
ウスの生存が長期間に及ぶ場合がる。総合すると、これらのデータが示すように、PD1
CD28スイッチ受容体及び抗腫瘍抗原TFPを含む併用療法は、in vitro及び
in vivoの両方で秀逸な抗原特異的殺傷をデモンストレーションするキメラ受容体
を操作するための代替プラットフォームに匹敵する。
【0288】
【表1】
【0289】
実施例13:PD-1スイッチ受容体とTFPとを含む併用療法
いくつかの実施形態では、併用療法は、追加的な抗体を含む。一実施形態では、PD-
1スイッチ受容体を、CD16ポリペプチドと標的細胞の表面上の腫瘍抗原に対するIg
G1抗体とを含むTFPと併用して投与する。例えば、T細胞は、CD16-CD3εT
FP+PD1CD28スイッチ受容体で形質導入される。次いで、対象は、これらのT細
胞を投与され、リツキシマブのようなIgG抗腫瘍抗体も投与される。
いくつかの実施形態において、併用療法におけるTFPは、二重特異性TFPである。
そのようなTFPには2つのscFvポリペプチドが含まれており、これらのscFvポ
リペプチドは、単一TCRサブユニットに直列に付着して発現するか、またはそれぞれ異
なるサブユニット上に発現する。例えば、TFPには、抗CD19 scFv-CD3ε
構築物及び抗BCMA scFv-CD3γ構築物が含まれる場合がある。他の抗原結合
対、例えば、CD20、CD22、ROR1、MSLN、BCMA、CD19などに対す
る抗体を含む抗原結合対を使用してもよい。二重特異性TFPは、上記のようにPD-1
スイッチ受容体と併用投与される。
【0290】
本発明の好ましい実施形態については、本明細書において図示及び記載してきたが、そのような実施形態がほんの一例としてのみ提供されていることが、当業者には明らかであろう。この時点で、当業者は、本発明から逸脱することなしに、多数の変形形態、変更形態、及び代替形態を想起するであろう。当然のことながら、本発明を実施する際には、本明細書中に記載されている本発明の実施形態に対する種々の代替物を使用できる。下記特許請求の範囲によって、本発明の範囲が規定され、これらの特許請求の範囲内にある方法及び構造、ならびにそれらの均等物が網羅されることが、意図されている。
本願は以下の発明を包含する。
[項目1] (a) TCRサブユニットを含む第1の融合タンパク質をコードする第1の組み換え核酸分子であって、前記TCRサブユニットが、
(i) TCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、
(ii) CD3サブユニットの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを備えるTCR細胞内ドメインと、
(iii) 第1の標的結合ドメインであって、前記TCRサブユニット及び前記第1の標的結合ドメインが作動可能に連結され、且つ前記第1の融合タンパク質がT細胞内で発現したときにTCR内に組み込まれる、前記第1の標的結合ドメインと、
を含む前記第1の組み換え核酸分子と、
(b) 第2の標的結合ドメインを有する第2の融合タンパク質をコードする第2の組み換え核酸分子であって、前記第2の標的結合ドメインがそのC末端を介して共刺激ポリペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されているPD-1ポリペプチドを含み、前記PD-1ポリペプチドが前記細胞外ドメインとPD-1の膜貫通ドメインとを含む、前記第2の組み換え核酸分子と、
を具備する組成物。
[項目2] 前記第1の標的結合ドメインが、第1のヒトまたはヒト化抗体ドメインである、項目1に記載の組成物。
[項目3] (a) TCRサブユニットを含む第1のT細胞受容体(TCR)融合タンパク質(TFP)をコードする第1の組み換え核酸分子であって、前記TCRサブユニットが、
(i) TCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、
(ii) CD3サブユニットの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを備えるTCR細胞内ドメインと、
(iii) 第1の抗原結合ドメインを備える第1のヒトまたはヒト化抗体ドメインと、任意に第2の抗原結合ドメインとを含む第2のヒトまたはヒト化抗体ドメインを有し、前記TCRサブユニット、前記第1の抗体ドメイン及び前記第2の抗体ドメインが作動可能に連結され、且つ前記第1のTFPがT細胞内に発現したときにTCR内に組み込まれる、前記第1の組み換え核酸分子と、
(b) 第2の標的結合ドメインを有する第2の融合タンパク質をコードする第2の組み換え核酸分子であって、前記第2の標的結合ドメインがそのC末端を介して共刺激ポリペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されているPD-1ポリペプチドを
含み、前記PD-1ポリペプチドが前記細胞外ドメインとPD-1の膜貫通ドメインとを含む、前記第2の組み換え核酸分子と、
を具備する組成物。
[項目4] 前記抗体ドメインが、ROR-1、BCMA、CD19、CD20、CD22、メソセリン、MAGE A3、EGFRvIII、MUC16、NKG2D、IL-13Rα2、L1CAM、及びNY-ESO-1、及びそれらの組み合わせを含むリストから選択される腫瘍関連抗原に特異的に結合し得る、項目2または項目3に記載の組成物。
[項目5] 前記共刺激ポリペプチドが、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、CD226、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを含む群から選択される項目1~4のいずれか一項に記載の組成物。
[項目6] 前記第1の組み換え核酸分子が単離されている、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[項目7] 前記第2の組み換え核酸分子が単離されている、項目1~6のいずれか一項に記載の組成物。
[項目8] 項目1~5のいずれか一項に記載の組成物の第1及び第2の核酸分子を含むウイルスベクターを具備する組成物。
[項目9] 前記第1の組み換え核酸分子及び前記第2の組み換え核酸分子が、単一のオペロン内に含有される、項目8に記載の組成物。
[項目10 前記第1の組み換え核酸分子及び前記第2の組み換え核酸分子が、別々に転写された2つのオペロン内に含有される、項目8に記載の組成物。
[項目11] 前記オペロンがE1aプロモーターを具備する、項目10に記載の組成物。
[項目12] 前記オペロンがそれぞれE1aプロモーターを具備する、項目11に記載の組成物。
[項目13] 前記ウイルスベクターが、DNA、RNA、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)ベクター、またはレトロウイルスベクターである、項目8~12のいずれか一項に記載の組成物。
[項目14] 項目1~5のいずれか一項に記載の第1の組み換え核酸分子を含むウイルスベクターを具備する組成物。
[項目15] 項目1~5のいずれか一項に記載の第2の組み換え核酸分子を含むウイルスベクターを具備する組成物。
[項目16] 前記ウイルスベクターが単離されている、項目8~15のいずれか一項に記載の組成物。
[項目17] 項目14及び/または15に記載のウイルスベクターの混合物を具備する組成物。
[項目18] 項目1~5、8~15のいずれか一項に記載の組成物を含む形質導入T細胞を具備する、組成物。
[項目19] 形質導入T細胞を具備する組成物であって、前記形質導入T細胞が、項目14に記載のウイルスベクターと項目15に記載のウイルスベクターとを具備する、前記組成物。
[項目20] 前記第1の融合タンパク質及び前記第2の融合タンパク質がそれぞれ前記T細胞の表面上で検出可能である、項目19に記載の組成物。
[項目21] 第1のポリペプチドを含むT細胞を具備する組成物であって、前記第1のポリペプチドが、
(a) TCRサブユニットであって、
(i) TCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、
(ii) CD3εまたはCD3γの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメイ
ンを備えるTCR細胞内ドメインと、
(iii) 第1の標的結合ドメインであって、前記TCRサブユニット及び前記第1の標的結合ドメインが作動可能に連結され、且つ前記第1の融合タンパク質が前記T細胞中のTCR内に組み込まれる、前記第1の標的結合ドメインと、
を含む前記TCRサブユニットと、
(b) 第2の標的結合ドメインを有する第2の融合タンパク質であって、前記第2の標的結合ドメインが、そのC末端を介して共刺激ポリペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されているPD-1ポリペプチドを含み、前記PD-1ポリペプチドが前記細胞外ドメインと前記PD-1の膜貫通ドメインとを含む、前記第2の融合タンパク質と、
を具備する組成物。
[項目22] 前記第1の標的結合ドメインが、CD16、BCMA、MSLN、NKG2D、ROR1、CD19、CD20、CD22、及び前立腺特異的がん抗原(PSCA)を含む群から選択される、項目21に記載の組成物。
[項目23] 前記共刺激ポリペプチドが、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、CD226、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを含む群から選択される、項目21または22に記載の組成物。
[項目24] 前記第2の融合タンパク質の共刺激ポリペプチドがCD28である、項目23に記載の組成物。
[項目25] 前記コードされた第1の抗原結合ドメインが、第1のリンカー配列を介して前記第1のTFPのTCR細胞外ドメインに連接され、且つ前記コードされた第2の抗原結合ドメインが、第2のリンカー配列を介して前記第1のTFPのTCR細胞外ドメインに連接される、項目1~24のいずれか一項に記載の組成物。
[項目26] 前記第1のリンカー配列及び前記第2のリンカー配列が(GS)(式中、n=1~4)を具備する、項目25に記載の組成物。
[項目27] 前記第1のTFPのTCRサブユニットがTCR細胞外ドメインを具備する、項目25または26に記載の組成物。
[項目28] 前記第1のTFPのTCRサブユニットが、TCR膜貫通ドメインを具備する、項目25~27のいずれか一項に記載の組成物。
[項目29] 前記第1のTFPのTCRサブユニットが、TCR細胞内ドメインを具備する、項目25~28のいずれか一項に記載の組成物。
[項目30] 前記第1のTFPのTCRサブユニットが、(i)TCR細胞外ドメインと(ii)TCR膜貫通ドメインと(iii)TCR細胞内ドメインとを含み、(i)、(ii)及び(iii)のうちの少なくとも2つが、前記同じTCRサブユニットに由来する、項目25~29のいずれか一項に記載の組成物。
[項目31] 前記第1のTFPのTCRサブユニットに、CD3ε、CD3γもしくはCD3δ、または少なくとも1つの修飾を施されたアミノ酸配列の細胞内シグナル伝達ドメインから選択される刺激ドメインを備える、TCR細胞内ドメインが含まれる、項目25~30のいずれか一項に記載の組成物。
[項目32] 前記第1のTFPのTCRサブユニットに刺激ドメインを備える細胞内ドメインが含まれ、前記刺激ドメインが、4-1BBの機能的シグナル伝達ドメイン及び/またはCD3ζの機能的シグナル伝達ドメイン、もしくは少なくとも1つの修飾を施されたアミノ酸配列の機能的シグナル伝達ドメインから選択される、項目25~31のいずれか一項に記載の組成物。
[項目33] 前記第1のヒトまたはヒト化抗体ドメイン、前記第2のヒトまたはヒト化抗体ドメインまたは両方が抗体フラグメントを具備する、項目1~32のいずれか一項に記載の組成物。
[項目34] 前記第1のヒトまたはヒト化抗体ドメイン、前記第2のヒトまたはヒト化
抗体ドメイン、または両方が、scFvまたはVドメインを具備する、項目1~33のいずれか一項に記載の組成物。
[項目35] 前記コードされた第1のTFPにTCRサブユニットの細胞外ドメインが含まれ、前記細胞外ドメインに、TCRα鎖、TCRβ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、CD3δTCRサブユニットからなる群から選択されるタンパク質、その機能的フラグメント、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ酸配列の細胞外ドメインまたはその一部が含まれる、項目1~34のいずれか一項に記載の組成物。
[項目36] 前記コードされた第1のTFPに膜貫通ドメインが含まれ、前記膜貫通ドメインに、TCRα鎖、TCRβ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、CD3δTCRサブユニットからなる群から選択されるタンパク質、その機能的フラグメント、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ酸配列の膜貫通ドメインが含まれる、項目1~35のいずれか一項に記載の組成物。
[項目37] 前記コードされた第1のTFPに膜貫通ドメインが含まれ、前記膜貫通ドメインに、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRζ鎖、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、CD3δTCRサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154からなる群から選択されるタンパク質、その機能的フラグメント、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ酸配列の膜貫通ドメインが含まれる、項目1~36のいずれか一項に記載の組成物。
[項目38] 前記第1及び/または第2の核酸分子が、共刺激ドメインをコードする、項目1~37のいずれか一項に記載の組成物。
[項目39] 前記共刺激ドメインが、OX40、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)及び4-1BB(CD137)からなる群から選択されるタンパク質ならびにそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ酸配列から得られる、機能的シグナル伝達ドメインである、項目38に記載の組成物。
[項目40] 前記第1及び/または第2の核酸分子が、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする、項目1~39のいずれか一項に記載の組成物。
[項目41] 前記第1及び/または第2の核酸分子がリーダー配列をコードする、項目1~40のいずれか一項に記載の組成物。
[項目42] 前記少なくとも1つ但し20以下の修飾に、細胞シグナル伝達を媒介するアミノ酸の修飾、または第1のTFPに結合するリガンドに応答してリン酸化されるアミノ酸の修飾が包含される、項目35~41のいずれか一項に記載の組成物。
[項目43] 前記第1及び/または第2の核酸分子がRNAである、項目1~42のいずれか一項に記載の組成物。
[項目44] 前記第1のTFPが、CD3ζTCRサブユニット、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、CD3δTCRサブユニット、TCRζ鎖、Fcε受容体1鎖、Fcε受容体2鎖、Fcγ受容体1鎖、Fcγ受容体2a鎖、Fcγ受容体2b1鎖、Fcγ受容体2b2鎖、Fcγ受容体3a鎖、Fcγ受容体3b鎖、Fcβ受容体1鎖、TYROBP(DAP12)、CD5、CD16a、CD16b、CD22、CD23、CD32、CD64、CD79a、CD79b、CD89、CD278、CD66dからなる群から選択されるタンパク質、その機能的フラグメント、及びそのアミノ酸配列において少なくとも1個但し20個以下の修飾を施されたアミノ酸配列の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)またはその一部を含む、TCRサブユニットのITAMを具備する、項目1~43のいずれか一項に記載の組成物。
[項目45] 前記ITAMが、CD3γ、CD3δ、またはCD3εのITAMを置換する、項目44に記載の組成物。
[項目46] 前記ITAMが、CD3ζTCRサブユニット、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、及びCD3δTCRサブユニットからなる群から選択され、且つCD3ζTCRサブユニット、CD3εTCRサブユニット、CD3γTCRサブユニット、及びCD3δTCRサブユニットからなる群から選択される別のITAMを置換する、項目44に記載の組成物。
[項目47] 項目1~46のいずれか一項に記載の組成物の第1及び第2の核酸分子を介してコードされる複数のポリペプチド分子。
[項目48] 前記ベクターが、in vitroで転写されたベクターである、項目8~17のいずれか一項に記載の組成物。
[項目49] 前記ベクターが、ポリ(A)尾部をコードする配列を更に含む、項目8~17または項目48のいずれか一項に記載の組成物。
[項目50] 前記ベクターが、3’UTRをコードする配列を更に含む、項目6~14または48~49のいずれか一項に記載の組成物。
[項目51] 項目1~50のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬組成物。
【0291】
【表2】
【0292】
【表3】
【0293】
【表4】
【配列表】
2022188163000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-10-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) TCRサブユニットを含む第1の融合タンパク質をコードする第1の組み換え核酸分子であって、前記TCRサブユニットが、
(i) TCR細胞外ドメインの少なくとも一部と、
(ii) CD3サブユニットの細胞内シグナル伝達ドメイン由来の刺激ドメインを備えるTCR細胞内ドメインと、
(iii) 第1の標的結合ドメインであって、前記TCRサブユニット及び前記第1の標的結合ドメインが作動可能に連結され、且つ前記第1の融合タンパク質がT細胞内で発現したときにTCR内に組み込まれる、前記第1の標的結合ドメインと、
を含む前記第1の組み換え核酸分子と、
(b) 第2の標的結合ドメインを有する第2の融合タンパク質をコードする第2の組み換え核酸分子であって、前記第2の標的結合ドメインがそのC末端を介して共刺激ポリペプチドの細胞内ドメインのN末端に作動可能に連結されているPD-1ポリペプチドを含み、前記PD-1ポリペプチドが前記細胞外ドメインとPD-1の膜貫通ドメインとを含む、前記第2の組み換え核酸分子と、
を具備する組成物。
【外国語明細書】