(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188177
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】フィルム外装電池、組電池および前記フィルム外装電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/166 20210101AFI20221213BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20221213BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M50/166
H01M50/103
H01M50/15
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159887
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2019546663の分割
【原出願日】2018-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017195805
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 登
(72)【発明者】
【氏名】井上 和彦
(72)【発明者】
【氏名】志村 健一
(72)【発明者】
【氏名】乙幡 牧宏
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電池要素の封止性能に悪影響を与えることなく、フットプリントがより小さいフィルム外装電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】フィルム外装電池1は、正極および負極を含む電池要素10、電解質、およびこれらを封止するフィルムからなる外装体を有する。前記外装体は、(a)第1の底壁21aと、第1の底壁の外周端の全周から立ち上がる第1の側壁21bと、を有する第1の部分21と、(b)第2の底壁22aと、第2の底面の外周端の少なくとも一部から立ち上がる第2の側壁22bと、を有する第2の部分22と、(c)電池要素を第1の底壁と第2の底壁との間に位置させて前記第1の部分と前記第2の部分とを向かい合わせた状態で、第1の部分と第2の部分の外周部同士が接合された接合部であって、前記第1の側壁と前記第2の側壁とが接合され且つ前記電池要素の厚さの範囲外に位置している側壁接合部を含む接合部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの正極および少なくとも1つの負極を含む電池要素と、
前記電池要素を電解質とともに封止する、フィルムからなる外装体と、
を有し、
前記外装体は、
(a)第1の底壁と、前記第1の底壁の外周端の全周にわたって前記外周端から立ち上がる第1の側壁と、を有する第1の部分と、
(b)第2の底壁と、前記第2の底面の外周端の少なくとも一部において前記外周端から立ち上がる第2の側壁と、を有する第2の部分と、
(c)前記電池要素を前記第1の底壁と前記第2の底壁との間に位置させて前記第1の部分と前記第2の部分とを向かい合わせた状態で、前記第1の部分と前記第2の部分の外周部同士が接合された接合部であって、前記第1の側壁と前記第2の側壁とが接合され且つ前記電池要素の厚さの範囲外に位置している側壁接合部を含む接合部と
を有するフィルム外装電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池要素をフィルムからなる外装体内に封入したフィルム外装電池、複数のフィルム外装電池を積み重ねた組電池、およびフィルム外装電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムを用いたフィルム外装電池としては、金属層と熱融着性樹脂層とを積層したラミネートフィルムで電池要素を封止したフィルム外装電池が知られている。電池要素の封止は、ラミネートフィルムで電池要素を包囲し、電池要素に接続された正極および負極のリード端子をラミネートフィルムから引き出した状態でラミネートフィルムの外周部において、向かい合ったラミネートフィルムの面同士を熱融着等により接合することによって行われる。
【0003】
この種のフィルム外装電池では、通常、フィルムによる電池の包囲は、2枚のフィルムで電池要素をその厚み方向両側から挟むことによって行う。そのため、フィルムの面同士を接合することによって形成される接合部は、電池要素の厚み方向に垂直な面方向に広がりを有して形成される。その結果、フィルム外装電池のフットプリント(フィルム外装電池を電池要素の厚さ方向から投影したときのフィルム外装電池の占有面積)は、接合部の分だけ増加する。フットプリントの増加は、フィルム外装電池の体積エネルギー密度の低下を招く。
【0004】
そこで、特許文献1(特開2003-223874号公報)には、第1および第2の外装フィルムで電池要素を被覆するフィルム外装電池において、第1の外装フィルムは、電池要素を収納する凹部と、凹部の周囲を凹部の方向に折り曲げた第1の折り曲げ部とを有し、第2の外装フィルムは、第1の折り曲げ部に整合する第2の折り曲げ部を有し、第1および第2の折り曲げ部が接合されたフィルム外装電池が開示されている。
【0005】
このように第1の折り曲げ部および第2の折り曲げ部をそれぞれ第1の外装フィルムおよび第2の外装フィルムに形成し、これらを接合することで、フィルム外装電池のフットプリントの増加を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特許文献1:特開2003-223874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたフィルム外装電池では、第1の折り曲げ部は、凹部の周囲を凹部の方向に折り曲げることによって形成されるので、第1の外装フィルムは第1の折り曲げ部において180度近い角度で折り曲げられることになる。このような急激な折り曲げによって、ラミネートフィルムの金属層が損傷する可能性がある。ラミネートフィルムの金属層が損傷すると、電池要素の封止性が低下し、場合によっては電解液が漏出してしまうおそれがある。
【0008】
また、特許文献1に記載されたフィルム外装電池では、正極および負極のリード端子が電池要素の厚み方向に垂直な方向に引き出されており、リード端子がフィルム外装電池のフットプリントに与える影響は考慮されておらず、結局はリード端子の分だけフットプリントが大きくなってしまっている。
【0009】
本発明は、電池要素の封止性能に悪影響を与えることなく、フットプリントがより小さいフィルム外装電池およびその製造方法、複数のフィルム外装電池を積み重ねた組電池および電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフィルム外装電池は、
少なくとも1つの正極および少なくとも1つの負極を含む電池要素と、
前記電池要素を電解質とともに封止する、フィルムからなる外装体と、
を有し、
前記外装体は、
(a)第1の底壁と、前記第1の底壁の外周端の全周にわたって前記外周端から立ち上がる第1の側壁と、を有する第1の部分と、
(b)第2の底壁と、前記第2の底面の外周端の少なくとも一部において前記外周端から立ち上がる第2の側壁と、を有する第2の部分と、
(c)前記電池要素を前記第1の底壁と前記第2の底壁との間に位置させて前記第1の部分と前記第2の部分とを向かい合わせた状態で、前記第1の部分と前記第2の部分の外周部同士が接合された接合部であって、前記第1の側壁と前記第2の側壁とが接合され且つ前記電池要素の厚さの範囲外に位置している側壁接合部を含む接合部と
を有する。
【0011】
また本発明の組電池は、前記フィルム外装電池の複数個が積み重ねられ、直列および/または並列接続されている。
【0012】
(本明細書で用いる用語の定義)
「電池要素の厚さ」は、電池要素が外装体の底壁と接触している面に垂直な方向での電池要素の寸法を意味する。
【0013】
「フットプリント」は、フィルム外装電池を電池要素の厚さ方向から投影したときのフィルム外装電池の占有面積を意味する。
【0014】
外装体の「底壁」は、電池要素を上下から挟む外装体の平坦部を意味する。
【0015】
外装体の「側壁」は、底壁の外周端から立ち上がって形成された外装体の部分を意味し、その立ち上がった部分からさらに角度を付けて延びた部分は、側壁に含まれない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電池要素の封止性能に悪影響を与えることなく、フットプリントがより小さいフィルム外装電池およびその製造方法、このフィルム外装電池を積み重ねた組電池および電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態によるフィルム外装電池の分解斜視図である。
【
図3A】電池要素からの正極端子および負極端子の引き出し位置の変更例を示す斜視図である。
【
図3B】電池要素からの正極端子および負極端子の引き出し位置の変更例を示す斜視図である。
【
図3C】電池要素からの正極端子および負極端子の引き出し位置の変更例を示す斜視図である。
【
図3D】電池要素からの正極端子および負極端子の引き出し位置の変更例を示す斜視図である。
【
図3E1】
図3Aに示す電池要素を有するフィルム外装電池の斜視図である。
【
図3E2】
図3Bに示す電池要素を有するフィルム外装電池の斜視図である。
【
図3E3】
図3Cに示す電池要素を有するフィルム外装電池の斜視図である。
【
図3E4】
図3Dに示す電池要素を有するフィルム外装電池の斜視図である。
【
図4】
図1に示すフィルム外装電池を端子の位置で切断した模式的断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における外装体の構造の変更例を示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態における外装体の構造の変更例を示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態の組電池および電池モジュールを示す模式的断面図である。
【
図8A】本発明の一実施形態の組電池および電池モジュールを示す模式的断面図である。
【
図8B】本発明の一実施形態の電池モジュールの外観を示す斜視図である。
【
図9】本発明の一実施形態の組電池の接続の例を示す模式的断面図である。
【
図10】二次電池を備えた電気自動車の一例を示す模式図である。
【
図11】二次電池を備えた蓄電装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照すると、電池要素10と、電池要素10を電解質とともに内包する、フィルムからなる外装体と、を有する、本発明の一実施形態によるフィルム外装電池1の分解斜視図が示されている。外装体は、電池要素10をその厚さ方向両側から挟んで包囲し、外周部が互いに接合されることで電池要素10および電解質を封止する第1の部分21および第2の部分22を有する。電池要素10には、正極端子31および負極端子32がそれぞれ外装体から一部を突出させて接続されている。
【0019】
電池要素10は、
図2に示すように、複数の正極11と複数の負極12とが交互に位置するように対向配置された構成を有する(
図2は、構造を簡単に示すために、正極端子31および負極端子32が互いに反対方向に引き出されているように示している。)。正極1と負極12との間には、正極11と負極12との間でのイオン伝導を確保しつつ正極11と負極12との短絡を防止するセパレータを有する。ただし、正極11および負極12の少なくとも一方の最表層にセパレータ13の代替となり得る絶縁層を有している場合は、セパレータ13を不要とすることもできる。
【0020】
正極11および負極12はそれぞれ、例えば金属箔で形成された集電体と、集電体の片面または両面に形成された活物質層と、を有している。活物質層は、例えば平面視矩形状に形成されており、集電体は、活物質層が形成された領域から延びる延長部を有する形状を有する。
【0021】
各正極11の延長部は、一つに集められて溶接されることによって正極タブ10aを形成し、この正極タブ10aが正極端子31と電気的に接続される。各負極12の延長部も同様に、一つに集められて溶接されることによって負極タブ10bを形成し、この負極タブ10bが負極端子32と電気的に接続される。
【0022】
図示したような平面的な積層構造を有する電池要素10は、曲率半径の小さい部分(巻回構造の巻き芯に近い領域)がないため、巻回構造を持つ電池要素に比べて、充放電に伴う電極の体積変化に対する影響を受けにくいという利点がある。すなわち、体積膨張を起こしやすい活物質を用いた電池要素に有効である。
【0023】
なお、
図1に示した形態では、電池要素10の同じ辺から正極端子31および負極端子32が引き出されているが、正極端子31および負極端子32の引き出し位置は任意であってよい。
【0024】
例えば、
図3Aに示すように、電池要素10の互いに向かい合う辺から正極端子31および負極端子32が引き出されていてもよい。この場合、例えば
図3Bに示すように、厚さ方向から投影した電池要素10の中心点を対称点としたときに点対称とならない位置から正極端子31および負極端子32を引き出すこともできる。正極端子31および負極端子32をこのように正極端子31および負極端子32を非対称に配置することによって、フィルム外装電池1の正極端子31と負極端子32とを間違えて他の機器や他の電池と接続しようとしても、端子引き出し位置が変わることにより他の機器や電池と接続できなくなる。その結果、他の機器や電池との間での短絡を防止することができる。また、正極端子31および負極端子32は、
図3Cに示すように、電池要素10の隣り合う2辺から引き出すこともできる。さらには、
図3Dに示すように、電池要素10の互いに向かい合う2辺から正極端子31を引き出し、かつ、残りの向かい合う2辺から負極端子32を引き出す、というように、正極端子31および負極端子32の少なくとも一方が複数であってもよい。いずれの場合でも、正極タブ10aおよび負極タブ10bは、正極端子31および負極端子32が引き出される方向に対応した位置に形成することができる。
【0025】
【0026】
また、図示した形態では、複数の正極11および複数の負極12を有する積層構造の電池要素10を示した。しかし、巻回構造を有する電池要素においては、正極11の数および負極12の数はそれぞれ1つずつであってもよい。
【0027】
再び
図1を参照すると、外装体を構成する第1の部分21および第2の部分22は、互いに別のフィルムで構成することができる。第1の部分21は、第1の底壁21aと、第1の底壁21aの外周端の全周にわたって第1の底壁21aの外周端から立ち上がる第1の側壁21bと、を有する。第2の部分22は、第2の底壁22aと、第2の底壁22aの外周端の少なくとも一部において第2の底壁22aの外周端から立ち上がる第2の側壁22bと、を有する。例えば、
図1に示す形態では、第2の側壁22bは、第2の底壁22aの外周端の全周にわたって第2の底壁22aの外周端から立ち上がっている。
【0028】
第1の側壁21bおよび第2の側壁22bの立ち上がり角度(底壁21a、底壁22aに対する角度)は、好ましくは30°以上、より好ましくは45°以上、さらに好ましくは60°以上である。また、立ち上がり確度は、90°では、加工が難しいことに加えて、後述するようなフィルム外装電池の積み重ねが難しくなるので、90°未満が好ましい。第1の側壁21bおよび第2の側壁22bの立ち上がり角度は、同じ角度であってよいが、例えば第1の側壁21の立ち上がり角度を、より大きくしてもよい。本実施形態では、フィルムが90°を超えた折り曲げが無いので、ラミネートフィルム内の金属層の損傷が防止され、封止特性に優れた外装体を提供することができる。
【0029】
第1の底壁21aおよび第2の底壁22aの大きさは、電池要素10が収納できるように、電池要素10の大きさと同じ、もしくは一回り程度(例えば縦横の辺で1~5mm程度、好ましくは1~3mm程度)大きい。また、第1の底壁21aと第2の底壁22aの大きさを変えてもよく、例えば第1の底壁21aより第2の底壁22aをわずかに(例えば縦横の辺で1~6mm程度)大きくすると、後述するようなフィルム外装電池の積み重ねが容易になる場合がある。
【0030】
電池要素10は、第1の底壁21aと第1の側壁21bとで構成される凹部内に収納され、第1の部分21および第2の部分22は、電池要素10が第1の底壁21aと第2の底壁22aとの間に位置するように向かい合わせられる。ここで、第1の部分21と第2の部分22とを向かい合わせる際の第2の部分22の向きは、第1の部分21の凹部内に収納された電池要素10に対して、第2の側壁22bが第2の底壁よりも離れて位置する向きである。
【0031】
向かい合わせられた第1の部分21および第2の部分22は、互いに向かい合った外周部同士が、第1の部分21および第2の部分22の全周にわたって接合され、これによって、外装体に接合部が形成される(
図1を含め、添付した各図では、接合部を網掛けで示している。)。
図4に示すように、この接合部は、第1の側壁21bと第2の側壁22bとが向かい合う領域においてこれら側壁同士が接合された側壁接合部23を含んでいる。上述したように第1の部分21と第2の部分22とを向かい合わせることによって、側壁接合部23は、電池要素10の厚さT方向において、電池要素10の厚さTの範囲外に位置している。
【0032】
このように、電池要素10の厚さTの範囲外に位置する側壁接合部23が形成されるように、第1の部分21および第2の部分22を構成し、両者を接合することで、フィルム外装電池1のフットプリントを小さくすることができる。
【0033】
正極端子31および負極端子32は、この例ではその両方が、側壁接合部23を通って、外装体の外側に引き出される。外装体の外側において、正極端子31および負極端子32が向けられる方向は任意であり、フットプリントをより小さくする観点や実装の容易さの観点等から適宜決めることができる。例えば、正極端子31および負極端子32が、第1の側壁21bおよび第2の側壁22bの立ち上がる方向を向くようにしてもよいし、これよりも上方(厚み方向)を向くようにしてもよいし、第1の側壁21bおよび第2の側壁22bの立ち上がる方向よりも横方向を向くようにしてもよい。フットプリントをより小さくするためには、正極端子31および負極端子32は、少なくとも完全に横方向(電池要素10の厚み方向に垂直な平面と平行)には向いていない方が好ましいが、異なる観点からそのようにすることも可能である。
【0034】
外装体を構成するフィルムは、例えば、接合部に熱融着性樹脂フィルムを設けた金属薄膜、または金属薄膜と熱融着性樹脂フィルムの少なくとも二層からなるラミネートフィルムを用いることができる。金属薄膜は、内部への水分浸入を防ぐことができる公知の材料を使用できる。材料としては、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅などの薄膜が挙げられる。
【0035】
熱融着性樹脂フィルムは、熱融着性によって外装体を密閉することができる公知の材料を使用できる。材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどの樹脂が挙げられる。
【0036】
本実施形態において、ラミネートフィルムの熱融着樹脂フィルムは、接合部において、第1の部分21と第2の部分22が向かい合う側に存在するように設けられる。
図1の例では、第1の部分21では、少なくとも側壁21bの内側(凹部内側)、第2の部分22では、少なくとも側壁22bの外側(凹部外側)に設けられる。
【0037】
ラミネートフィルムのシートから第1の部分21、第2の部分22の形状を加工する方法は特に限定されないが、一般に、絞り加工(深絞り加工を含む)と呼ばれるプレス加工が用いられる。
【0038】
本実施形態の変形例を次に示す。
図1の例では、外装体を構成する第1の部分21および第2の部分22は、加工された別のフィルム(切り離された2枚のフィルム)であるが、第1の部分21と第2の部分22が一体のフィルムとなっていてもよい。
図5にその1例を示す。
【0039】
図5において、一枚のラミネートフィルムから、フィルム左側部分において、第1の部分21として、第1の底壁21aと、その外周端から立ち上がる第1の側壁21bが形成されている。一方、フィルム右側部分において、第2の部分22として、第2の底壁22aと、その外周端から立ち上がる第2の側壁22bが形成されている。第1の底壁21a上に電池要素(図示していない)をおき、第1の部分21と第2の部分22の境界から矢印のように折り曲げることで、電池要素を内包することができ、
図1の例と同様の構成を形成することができる。
【0040】
本実施形態の最も好ましい構成は、
図1や
図5で示されるように、第2の底壁22aの外周端の全周に渡って第2の側壁22bが立ち上がった構成である。しかし、第2の部分22において、第2の側壁22bが一部にのみ形成された構成でも、正極および負極端子に基づくフットプリント増大を抑制することが可能であり、
図1や
図5で示した構成と同様に、後述する組電池、電池モジュールを構成するのに適している。
【0041】
具体的に
図6により説明する。第1の部分21は、第1の底壁21aと、その外周端から立ち上がる第1の側壁21bとを備えている。但し、側壁21bの一部(この例では3辺)は、側壁からさらに外側に延びる延長壁21cを有している。延長壁21cは、側壁には含まれない。
【0042】
第2の部分22は、第2の底壁22aと、その外周端の一部(この例では1辺の一部)においてのみ、第2の側壁22bが形成されている。そして、第1の部分と第2の部分で外装体を構成するとき、第1の部分の延長壁21cが第2の部分の第2の底壁22aの外周と融着され、また第1の部分の第1の側壁21bと第2の部分の第2の側壁22bが融着される。電池要素10から引き出された正極端子31および負極端子32は、少なくとも一方、好ましくは両方が、第1の側壁21bと第2の側壁22bによって形成される側壁接合部から引き出される。このため、正極端子31および/または負極端子32に基づくフットプリント増大を抑制できる。
【0043】
[フィルム外装電池の製造方法]
本実施形態によるフィルム外装電池を製造するには、まず予め、ラミネートフィルムから絞り加工(深絞りを含む)等によって、外装体を構成する第1の部分と第2の部分を準備する。これとは別に製造された電池要素を、外装体の第1の底壁と第2の底壁にとの間に位置するように収容し、一部の開口を残して周囲を熱融着する。例えば
図1の例では、側壁の一部を残して、第1の側壁21aと第2の側壁22aを熱融着する。この際、3辺の熱融着を先に実施して外装体を袋状に形成し、残りの1辺から電池要素を収容してもよい。
【0044】
次に、開口から電解液を注入して、電極に電解液を含浸させる。その後、外装体の開口部を熱融着して封止し、フィルム外装電池を完成する。このような製造方法によると、熱融着後のフィルムの曲げ加工がないので、ラミネートフィルム中の金属層の破損が抑制され、また電池組み立て前に、ラミネートフィルムの状態の検査も容易に行うことができる。
【0045】
[組電池、電池モジュール]
本実施形態のフィルム外装電池は、種々の形態で使用することができるが、フィルム外装電池(単電池)を複数個組み合わせて組電池とし、必要により筐体に収納してモジュール化すると、コンパクトな電池モジュールを構成できる。
【0046】
図7に、フィルム外装電池(単電池)を組み合わせた組電池、および組電池を筐体に収納した電池モジュール41の一例を示す。この電池モジュール41は、フィルム外装電池1(1-1~1-6)を縦に6個積み重ね、モジュール筐体42に収納した例である。フィルム外装電池1の第1および第2の側壁(21bおよび22b)は、それぞれ、第1および第2の底壁(21aおよび22a)から立ち上がっているため、フィルム外装電池1を縦に積み重ねると、フィルム外装電池1-1の第2の底壁22aの上に、フィルム外装電池1-2の第1の底壁21aが乗り、順次同様にしてフィルム外装電池1-1から1-6を積み上げることができる。
【0047】
正極端子31および負極端子32は、第1および第2の側壁(21bおよび22b)の方向に延びているため(
図4参照)、フィルム外装電池を積み重ねると、
図7に示すように、端子同士(例えば、正極端子31同士および負極端子32同士)が近接または接触する。従って、電池モジュールの体積や底面積を特に増大させることなく端子同士の接続を容易に実施することができる。また、一般に、電池モジュール最上部のフィルム外装電池1-6の上部に隙間が生じるが、この部分には、フィルム外装電池群のがたつきを抑えるセル押さえバネ43を設置したり、その他例えば厚み計、圧力計等の電池状態を観察する計測装置や、保護回路等の電子回路を設置してもよい。
【0048】
また、
図8Aおよび
図8Bに示すように、最上部の電池(この図ではフィルム外装電池1-6)の正極端子31および負極端子32を、モジュール筐体42の外側、例えば
図8Bに示すようにモジュール筐体42の上面に引き出すようにしてもよい。この構成では、最上部フィルム外装電池の上部隙間を減少することができ、またモジュール筐体42の外に引き出された正極端子31および負極端子32は、他の機器との接続等のために便利に使用することができる。
【0049】
組電池において、単電池としてのフィルム外装電池を直列、並列またはその両方を組み合わせた接続とすることができる。直列および/または並列接続することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。組電池が備えるフィルム外装電池の個数については、電池容量や出力に応じて適宜設定することができる。
【0050】
例えば、
図1に示すフィルム外装電池を、
図7のように積み重ねて、近接または接触する正極端子31同士および負極端子32同士を接続すると、並列接続することができる。また、例えば、
図3Aに示すような対辺から正極端子および負極端子が引き出されたフィルム外装電池を用いて、
図9に示すように複数のフィルム外装電池1(図では1-1~1-3の3個を示した)を、正極と負極が交互になるように積み重ね、且つ絶縁体44を用いて、正極と負極の接続と絶縁が交互になるように組み合わせると、直列接続が可能になる。
図9のように、電池1-1の正極31と電池1-2の負極32の間を絶縁体44により絶縁し、電池1-1の負極32と電池1-2の正極31の間を接続し、電池1-2の負極32と電池1-3の正極31を接続し、電池1-2の正極31と電池1-3の負極32を絶縁体44で絶縁すると、電池1-1から電池1-3まで直列接続することができる。尚、
図1に示すフィルム外装電池を用いる場合でも、正極端子と負極端子が入れ替わった電池を交互に重ね、絶縁体を用いて、接続と絶縁を交互に行うことで直列接続が可能である。
【0051】
[電池の構成部材、電池要素]
本発明は、フィルム外装が可能な電池であれば、すべてのものに適用可能であるが、例えばリチウムイオン二次電池のような二次電池に好適に適用することができる。以下に、リチウムイオン二次電池について説明する。電池要素は、前述のとおり、正極、負極、セパレータ、および必要により絶縁層を有する。これらの部材および電解液の代表的例を次に説明する。
【0052】
[1]負極
負極は、例えば、負極活物質が負極用結着剤によって負極集電体に結着され、負極活物質が負極活物質層として負極集電体上に積層された構造を有する。本実施形態における負極活物質は、充放電に伴いリチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出が可能な材料であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。通常は、正極の場合と同様に、負極も集電体上に負極活物質層を設けて構成されたものを用いる。なお、正極と同様に、負極も適宜その他の層を備えていてもよい。
【0053】
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料であれば他に制限は無く、公知の負極活物質を任意に用いることができる。例えば、コークス、アセチレンブラック、メゾフェーズマイクロビーズ、グラファイト等の炭素質材料;リチウム金属;リチウム-シリコン、リチウム-スズ等のリチウム合金、チタン酸リチウムなどを使用することが好ましい。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素質材料を使用するのが最も好ましい。なお、負極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0054】
さらに、負極活物質の粒径は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、初期効率、レ-ト特性、サイクル特性等の電池特性が優れる点で、通常1μm以上、好ましくは15μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは30μm以下程度である。また、例えば、上記の炭素質材料をピッチ等の有機物で被覆した後で焼成したもの、CVD法等を用いて表面に上記炭素質材料よりも非晶質の炭素を形成したものなども、炭素質材料として好適に使用することができる。ここで、被覆に用いる有機物としては、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ;乾留液化油等の石炭系重質油;常圧残油、減圧残油等の直留系重質油;原油、ナフサ等の熱分解時に副生する分解系重質油(例えばエチレンヘビーエンド)等の石油系重質油が挙げられる。また、これらの重質油を200~400℃で蒸留して得られた固体状残渣物を、1~100μmに粉砕したものも使用することができる。さらに塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂なども使用することができる。
【0055】
本発明の一形態において、負極は、金属および/または金属酸化物ならびに炭素を負極活物質として含む。金属としては、例えば、Li、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、またはこれらの2種以上の合金等が挙げられる。また、これらの金属又は合金は2種以上混合して用いてもよい。また、これらの金属又は合金は1種以上の非金属元素を含んでもよい。
【0056】
金属酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物等が挙げられる。本実施形態では、負極活物質として酸化スズもしくは酸化シリコンを含むことが好ましく、酸化シリコンを含むことがより好ましい。これは、酸化シリコンが、比較的安定で他の化合物との反応を引き起こしにくいからである。また、金属酸化物に、窒素、ホウ素および硫黄の中から選ばれる一種または二種以上の元素を、例えば0.1~5質量%添加することもできる。こうすることで、金属酸化物の電気伝導性を向上させることができる。また、金属や金属酸化物を、たとえば蒸着などの方法で、炭素等の導電物質を用いて被覆することでも、同様に電気伝導度を向上させることができる。
【0057】
炭素としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物等が挙げられる。ここで、結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。
【0058】
金属および金属酸化物は、リチウムの受容能力が炭素に比べて遥かに大きいことが特徴である。したがって、負極活物質として金属および金属酸化物を多く使用することで電池のエネルギー密度を改善することができる。高エネルギー密度を達成するため、負極活物質中の金属および/または金属酸化物の含有比率が高い方が好ましい。金属および/または金属酸化物は、多いほど負極全体としての容量が増加するので好ましい。金属および/または金属酸化物は、負極活物質の0.01質量%以上の量で負極に含まれることが好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。しかしながら、金属および/または金属酸化物は、炭素にくらべてリチウムを吸蔵・放出した際の体積変化が大きくなり、電気的な接合が失われる場合があることから、99質量%以下、好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。上述した通り、負極活物質は、負極中の充放電に伴いリチウムイオンを可逆的に受容、放出可能な材料であり、それ以外の結着剤などは含まない。
【0059】
負極活物質層は、例えば、上述の負極活物質をロール成形してシート電極としたり、圧縮成型によりペレット電極としたりすることも可能であるが、通常は、上述の負極活物質と、結着剤(バインダ)と、必要に応じて各種の助剤等とを、溶媒でスラリー化してなる塗布液を、集電体に塗布し、乾燥することにより製造することができる。
【0060】
負極用結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。前記のもの以外にも、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。SBR系エマルジョンのような水系の結着剤を用いる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を用いることもできる。使用する負極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、負極活物質100質量部に対して、0.5~20質量部が好ましい。上記の負極用結着剤は、混合して用いることもできる。
【0061】
負極集電体の材質としては、公知のものを任意に用いることができるが、電気化学的な安定性から、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、アルミニウム、クロム、銀およびそれらの合金等の金属材料が好ましく用いられる。中でも加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。また、負極集電体も、予め粗面化処理しておくのが好ましい。さらに、集電体の形状も任意であり、箔状、平板状、メッシュ状等が挙げられる。また、エキスパンドメタルやパンチングメタルのような穴あきタイプの集電体を使用することもできる。
【0062】
負極の作製方法としては、例えば、負極集電体上に、負極活物質と負極用結着剤を含む負極活物質層を形成することで作製することができる。負極活物質層の形成方法としては、例えば、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法などが挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を形成して、負極集電体としてもよい。
【0063】
負極活物質を含む塗工層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、鱗片状、煤状、繊維状の炭素質微粒子等、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相法炭素繊維(昭和電工製VGCF(登録商標))等が挙げられる。
【0064】
[2]正極
正極とは、電池内における高電位側の電極のことをいい、一例として、充放電に伴いリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出可能な正極活物質を含み、正極活物質が正極結着剤により一体化された正極活物質層として集電体上に積層された構造を有する。本発明の一形態において、正極は、単位面積当たりの充電容量を3mAh/cm2以上有し、好ましくは3.5mAh/cm2以上有する。また、安全性の観点などから単位面積当たりの正極の充電容量が、15mAh/cm2以下であることが好ましい。ここで、単位面積当たり充電容量とは、活物質の理論容量から計算される。すなわち、単位面積当たりの正極の充電容量は、(正極に用いられる正極活物質の理論容量)/(正極の面積)によって計算される。なお、正極の面積とは、正極両面ではなく片面の面積のことを言う。
【0065】
本実施形態における正極活物質としては、リチウムを吸蔵放出し得る材料であれば特に限定されず、いくつかの観点から選ぶことができる。高エネルギー密度化の観点からは、高容量の化合物であることが好ましい。高容量の化合物としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)のNiの一部を他の金属元素で置換したリチウムニッケル複合酸化物が挙げられ、下式(A)で表される層状リチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0066】
LiyNi(1-x)MxO2 (A)
(但し、0≦x<1、0<y≦1.2、MはCo、Al、Mn、Fe、Ti及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)
【0067】
高容量の観点では、Niの含有量が高いこと、即ち式(A)において、xが0.5未満が好ましく、さらに0.4以下が好ましい。このような化合物としては、例えば、LiαNiβCoγMnδO2(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)、LiαNiβCoγAlδO2(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6好ましくはβ≧0.7、γ≦0.2)などが挙げられ、特に、LiNiβCoγMnδO2(0.75≦β≦0.85、0.05≦γ≦0.15、0.10≦δ≦0.20)が挙げられる。より具体的には、例えば、LiNi0.8Co0.05Mn0.15O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.8Co0.1Al0.1O2等を好ましく用いることができる。
【0068】
また、熱安定性の観点では、Niの含有量が0.5を超えないこと、即ち、式(A)において、xが0.5以上とすることもできる。また特定の遷移金属が半数を超えないことも好ましい。このような化合物としては、LiαNiβCoγMnδO2(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、0.2≦β≦0.5、0.1≦γ≦0.4、0.1≦δ≦0.4)が挙げられる。より具体的には、LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2(NCM433と略記)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523と略記)、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2(NCM532と略記)など(但し、これらの化合物においてそれぞれの遷移金属の含有量が10%程度変動したものも含む)を挙げることができる。
【0069】
また、式(A)で表される化合物を2種以上混合して使用してもよく、例えば、NCM532またはNCM523とNCM433とを9:1~1:9の範囲(典型的な例として、2:1)で混合して使用することも好ましい。さらに、式(A)においてNiの含有量が高い材料(xが0.4以下)と、Niの含有量が0.5を超えない材料(xが0.5以上、例えばNCM433)とを混合することで、高容量で熱安定性の高い電池を構成することもできる。
【0070】
上記以外にも正極活物質として、例えば、LiMnO2、LixMn2O4(0<x<2)、Li2MnO3、LixMn1.5Ni0.5O4(0<x<2)等の層状構造またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO2またはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;及びLiFePO4などのオリビン構造を有するもの等が挙げられる。さらに、これらの金属酸化物をAl、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等により一部置換した材料も使用することができる。上記に記載した正極活物質はいずれも、1種を単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0071】
正極活物質層は、負極活物質層の場合と同様、例えば、上述の正極活物質をロール成型してシート電極としたり、圧縮成型によりペレット電極としたりすることも可能であるが、通常は、上述の正極活物質と、結着剤(バインダ)と、必要に応じて各種の助剤等とを、溶媒でスラリー化してなる塗布液を、集電体に塗布し、乾燥することにより製造することができる。
【0072】
正極用結着剤としては、負極用結着剤と同様のものを用いることができる。中でも、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンが好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質100質量部に対して、2~10質量部が好ましい。
【0073】
正極活物質を含む塗工層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、鱗片状、煤状、線維状の炭素質微粒子等、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相法炭素繊維(例えば、昭和電工製VGCF)等が挙げられる。
【0074】
正極集電体としては、負極集電体と同様のものを用いることができる。特に正極としては、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄・ニッケル・クロム・モリブデン系のステンレスを用いた集電体が好ましい。
【0075】
正極活物質を含む正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子が挙げられる。
【0076】
[3]絶縁層
絶縁層は、多孔性であり、非導電性粒子がバインダにより結着された構造を有する。非導電性粒子としては、例えば各種の無機粒子、有機粒子やその他の粒子を使用することができる。中でも、無機酸化物粒子または有機粒子が好ましく、特に、粒子の熱安定性の高さから、無機酸化物粒子を使用することがより好ましい。
【0077】
無機粒子としては、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、BaTiO2、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の無機酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化硼素等の無機窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子等が用いられる。これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等されていてもよく、また単独でも2種以上の組合せからなるものでもよい。これらの中でも電解液中での安定性と電位安定性の観点から無機酸化物粒子が好ましい。
【0078】
非導電性粒子の形状は、特に限定はされず、球状、針状、棒状、紡錘状、板状等であってもよい。非導電性粒子が球状である場合、非導電性粒子の平均粒子径は、好ましくは0.005~10μm、より好ましくは0.1~5μm、特に好ましくは0.3~2μmの範囲にある。
【0079】
絶縁層を形成する際の絶縁層用スラリーに含まれる溶媒が非水系の溶媒の場合には、非水系の溶媒に分散または溶解するポリマーをバインダとして用いることができる。非水系溶媒に分散または溶解するポリマーとしてはポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリ3フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリパーフルオロアルコキシフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられるがこれらに限定されない。この他にも活物質層の結着に用いるバインダを使用することができる。
【0080】
絶縁層用スラリーに含まれる溶媒が水系の溶媒(バインダの分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた溶液)の場合には、水系の溶媒に分散または溶解するポリマーをバインダとして用いることができる。水系溶媒に分散または溶解するポリマーとしては、例えば、アクリル系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート等のモノマーを1種類で重合した単独重合体が好ましく用いられる。また、アクリル系樹脂は、2種以上の上記モノマーを重合した共重合体であってもよい。さらに、上記単独重合体及び共重合体の2種類以上を混合したものであってもよい。上述したアクリル系樹脂のほかに、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。これらポリマーは、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。バインダの形態は特に制限されず、粒子状(粉末状)のものをそのまま用いてもよく、溶液状あるいはエマルション状に調製したものを用いてもよい。二種以上のバインダを、それぞれ異なる形態で用いてもよい。
【0081】
絶縁層は、上述した非導電性フィラーおよびバインダ以外の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、絶縁層用スラリーの増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。特に水系溶媒を使用する場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)等の増粘剤が好ましく用いられる。
【0082】
特に限定するものではないが、絶縁層全体に占める非導電性フィラーの割合はおよそ70質量%以上(例えば70質量%~99質量%)が適当であり、好ましくは80質量%以上(例えば80質量%~99質量%)であり、特に好ましくはおよそ90質量%~95質量%である。
【0083】
また、絶縁層中のバインダの割合はおよそ1~30質量%以下が適当であり、好ましくは5~20質量%以下である。また、無機フィラー及びバインダ以外の絶縁層形成成分、例えば増粘剤を含有する場合は、該増粘剤の含有割合をおよそ10質量%以下とすることが好ましく、およそ7質量%以下することが好ましい。上記バインダの割合が少なすぎると、絶縁層自体の強度(保形性)、及び活物質層との密着性が低下して、ヒビや剥落等の不具合が生じうる。上記バインダの割合が多すぎると、絶縁層の粒子間の隙間が不足し、絶縁層のイオン透過性が低下する場合がある。
【0084】
絶縁層の空孔率(空隙率)(見かけ体積に対する空孔体積の割合)は、イオンの電導性を維持するために、好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上確保することが必要である。しかしながら、空孔率が高すぎると絶縁層の摩擦や衝撃などによる脱落や亀裂が生じることから、80%以下が好ましく、70%以下であれば更に好ましい。
【0085】
なお、空孔率は、絶縁層を構成する材料の比率と真比重および塗工厚みから計算することができる。
【0086】
絶縁層の厚みは、1μm以上30μm以下であることが好ましく、2μm以上15μm以下であることがより好ましい。
【0087】
[4]電解液
電解液は、特に限定されないが、電池の動作電位において安定な非水電解液が好ましい。非水電解液の具体例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、t-ジフルオロエチレンカーボネート(t-DFEC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等の環状カーボネート類;アリルメチルカーボネート(AMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;プロピレンカーボネート誘導体;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;γ―ブチロラクトン(GBL)等の環状エステル類、などの非プロトン性有機溶媒が挙げられる。非水電解液は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。また、スルホラン、フッ素化スルホラン、プロパンスルトン、プロペンスルトン等の含硫黄環状化合物を用いることが出来る。
【0088】
電解液中に含まれる支持塩の具体例としては、特にこれらに制限されるものではないが、LiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)2、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩が挙げられる。支持塩は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
電解液は、さらに添加剤を含むことができる。添加剤としては特に限定されるものではないが、ハロゲン化環状カーボネート、不飽和環状カーボネート、酸無水物、及び、環状または鎖状ジスルホン酸エステル等が挙げられる。これらの化合物を添加することにより、サイクル特性等の電池特性を改善することができる。これは、これらの添加剤がリチウムイオン二次電池の充放電時に分解して電極活物質の表面に皮膜を形成し、電解液や支持塩の分解を抑制するためと推定される。
【0090】
[5]セパレータ
電池要素10が正極11と負極12との間にセパレータ13を有する場合、セパレータ13としては特に制限されず、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素系樹脂、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、セルロース等の多孔質フィルムや不織布、また、これらを基材としてシリカやアルミナ、ガラスなどの無機物を、付着もしくは接合したものや、単独で不織布や布として加工したものを用いることができる。セパレータ13の厚みは任意であってよい。ただし、高エネルギー密度の観点からは薄いほうが好ましく、例えば、10~30μmとすることができる。
【0091】
[電池の使用形態]
また、本発明のフィルム外装電池、本発明のフィルム外装電池を組み合わせた組電池および電池モジュールは、さらに、直列および/または並列に接続してもよい。電池の直列数および並列数はそれぞれ、目的とする電圧および容量に応じて適宜選択することができる。
【0092】
[車両]
上述したフィルム外装電池、組電池および電池モジュールは、車両に用いることができる。電池、組電池および電池モジュールを利用できる車両としては、ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バス等の商用車、軽自動車等)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)が挙げられる。なお、本実施形態に係る車両は自動車に限定されるわけではなく、他の車両、例えば電車、船舶、潜水艦、人工衛星等の、地上だけでなく地上以外でのあらゆる移動体の各種電源として用いることもできる。このような車両の一例として、
図10に電気自動車の模式図を示す。
図10に示す電気自動車200は、上述した電池を複数、直列および並列に接続し、必要とされる電圧および容量を満たすように構成された組電池210を有する。
【0093】
[蓄電装置]
上述した電池、組電池および電池モジュールは、蓄電装置に用いることができる。二次電池または組電池を利用した蓄電装置としては、例えば、一般家庭に供給される商用電源と家電製品等の負荷との間に接続され、停電時等のバックアップ電源や補助電源として使用されるものや、太陽光発電等の、再生可能エネルギーによる時間変動の大きい電力出力を安定化するための、大規模電力貯蔵用としても使用されるものが挙げられる。このような蓄電装置の一例を、
図11に模式的に示す。
図11に示す蓄電装置300は、上述した電池、組電池および電池モジュールを複数、直列および並列に接続し、必要とされる電圧および容量を満たすように構成された組電池310を有する。
【0094】
[その他]
さらに、上述した電池またはその組電池は、携帯電話、ノートパソコンなどのモバイル機器の電源などとしてもとして利用できる。
【実施例0095】
次に、フィルム外装電池の具体的例を示す。本実施形態はこれに限定されるものではなく、本明細書の開示と技術常識に従って、当業者は材料や寸法の変更、およびその他の変更を行うことができる。
【0096】
<フィルム外装電池の製造>
正極、負極およびセパレータを積層して、厚さ約8mmの電池要素を作製する。電池要素の1辺から引き出された正極端子および負極端子の長さは、約25mmである。
【0097】
ポリエチレンテレフタレート/ナイロン/アルミニウム/ポリプロピレンの四層構造を持つアルミラミネートフィルムを用いて、ポリプロピレン側が凹状となるようにして、第1の底壁21aが電池要素よりも一回り大きいサイズとなるようにして、矩形状の第1の底壁21aの4辺から第1の側壁21bが、約60°の角度で約17mm立ち上がる形状に、深絞り加工を施して、外装体の第1の部分21を形成する。
【0098】
同様に、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン/アルミニウム/ポリプロピレンの四層構造を持つアルミラミネートフィルムを用いて、今度はポリエチレンテレフタレート側が凹状となるようにして、第2の底壁22aが第1の底壁21aより一回り(例えば縦横3~5mm程度)大きいサイズとなるようにして、矩形状の第2の底壁22aの4辺から第2の側壁22bが、約60°の角度で約8mm立ち上がる形状に、深絞り加工を施して、外装体の第2の部分22を形成する。
【0099】
第1の部分21の凹部の第1の底壁21a上に電池要素10を載せ、次いで第2の部分22を、凹部が上になるようにして、第2の底壁22aを電池要素10の上に載せる。このとき、第1の側壁21bと第2の側壁22bの上端の高さがほぼ一致する。
【0100】
治具を用いて、第1の側壁21bと第2の側壁22bを合わせて保持しながら、3辺を幅約8mmで熱融着する。未融着の1辺から電解液を注入した後、残りの1辺を熱融着してフィルム外装電池1を完成する。
【0101】
このフィルム外装電池を積み重ね、正極端子および負極端子を直列および/または並列接続して組電池を作製する。さらに筐体に収納し、必要によりセル押さえバネを設け、また必要により計測装置、電子回路と組み合わせて電池モジュールを作製する。
本発明による二次電池(フィルム外装電池、組電池および電池モジュール)は、例えば、電源を必要とするあらゆる産業分野、ならびに電気的エネルギーの輸送、貯蔵および供給に関する産業分野において利用することができる。具体的には、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器の電源;電気自動車、ハイブリットカー、電動バイク、電動アシスト自転車等を含む電動車両、電車、衛星、潜水艦等の移動・輸送用媒体の言々;UPS等のバックアップ電源;太陽光発電、風力発電等で発電した電力を蓄える蓄電設備;等に、利用することができる。