(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188187
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ファインバブル供給装置及びファインバブル分析システム
(51)【国際特許分類】
B01F 35/75 20220101AFI20221213BHJP
B01F 23/2373 20220101ALI20221213BHJP
G01N 15/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B01F35/75
B01F23/2373
G01N15/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160244
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2020508306の分割
【原出願日】2019-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2018052148
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】301037213
【氏名又は名称】独立行政法人製品評価技術基盤機構
(71)【出願人】
【識別番号】512243775
【氏名又は名称】一般社団法人ファインバブル産業会
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】大内 静香
(72)【発明者】
【氏名】田中 充
(72)【発明者】
【氏名】島岡 治夫
(57)【要約】
【課題】液体中で不安定なファインバブルをより安定して供給することができるファインバブル供給装置及びファインバブル分析システムを提供する。
【解決手段】ファインバブル発生装置11が、ファインバブル10を発生させる。滞留容器12は、内部に液体13が収容されるとともに、ファインバブル10の導入管14及び導出管15が接続される。ファインバブル発生装置11から発生するファインバブル10は、導入管14を介して滞留容器12内の液体13中に導入されることにより液体13中に滞留し、当該液体13中に滞留するファインバブル10が、導出管15を介して供給先(ファインバブル特性評価装置2)に導出される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファインバブルを発生させるファインバブル発生装置と、
内部に液体が収容されるとともに、ファインバブルの導入管及び導出管が接続された滞留容器とを備え、
前記ファインバブル発生装置から発生するファインバブルが、前記導入管を介して前記滞留容器内の液体中に導入されることにより当該液体中に滞留し、当該液体中に滞留するファインバブルが、前記導出管を介して供給先に導出されることを特徴とするファインバブル供給装置。
【請求項2】
前記導出管は、前記滞留容器内の液体中に配置された下向きに開口する導出口から、当該液体中に滞留するファインバブルを導出させることを特徴とする請求項1に記載のファインバブル供給装置。
【請求項3】
前記導出管は、レイノルズ数が2300以下となるように、内径、及び、内部における液体の流速が設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のファインバブル供給装置。
【請求項4】
前記導出管は、レイノルズ数が1250以下となるように、内径、及び、内部における液体の流速が設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のファインバブル供給装置。
【請求項5】
前記導出管は、その内面の電位がマイナス電位となる材料により形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のファインバブル供給装置。
【請求項6】
前記導出管の内径が2mm以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のファインバブル供給装置。
【請求項7】
前記導出管の曲率が、100mm以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のファインバブル供給装置。
【請求項8】
前記導出管の表面粗さが、0.4μm以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のファインバブル供給装置。
【請求項9】
前記導入管は、水平方向に延びており、その導入口が前記導出口よりも下方において前記滞留容器内に配置されされていること特徴とする請求項2に記載のファインバブル供給装置。
【請求項10】
前記導入口と前記導出口とを結ぶ直線は、水平方向に対して30~60°傾斜していることを特徴とする請求項9に記載のファインバブル供給装置。
【請求項11】
前記導入口と前記導出口とを結ぶ直線は、10~20cmであることを特徴とする請求項9又は10に記載のファインバブル供給装置。
【請求項12】
前記滞留容器は、ファインバブルを滞留時間だけ滞留させることにより、ファインバブルの分散状態を前記滞留容器内でより均質化するためのバッファとして機能することを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載のファインバブル供給装置。
【請求項13】
前記滞留容器には、前記滞留容器内に滞留するファインバブルを攪拌させることで、ファインバブルの分散状態を前記滞留容器内でより均質化する攪拌装置が設けられていること特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載のファインバブル供給装置。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のファインバブル供給装置と、
前記ファインバブル供給装置から供給されるファインバブルの特性を評価するファインバブル特性評価装置とを備えることを特徴とするファインバブル分析システム。
【請求項15】
前記ファインバブル特性評価装置よりも下流側に設けられたポンプをさらに備え、
前記滞留容器内に滞留するファインバブルは、前記ポンプの駆動により、前記導出管を介して前記ファインバブル特性評価装置へと吸引されることを特徴とする請求項14に記載のファインバブル分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインバブルを発生させて供給先へと供給するファインバブル供給装置、及び、これを用いたファインバブル分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロバブルやウルトラファインバブルといったファインバブルの研究及び利用が活発に行われている。ファインバブルは、気泡径が100μm以下の微細気泡であり、ファインバブルのうち、気泡径が1μm以上のものはマイクロバブル、気泡径が1μm未満のものはウルトラファインバブルと呼ばれている。ウルトラファインバブルは、液体中での滞留時間が長いという特性を有しており、数か月にわたって液体中に滞留することが知られている。
【0003】
ファインバブルには、洗浄効果や殺菌効果といった様々な効果が期待されている。例えば、工場やプラント、公衆トイレなどで、ファインバブルを用いて各種設備の洗浄を行えば、洗剤の使用量を削減することができる。そのため、ファインバブルを用いた洗浄方法は、環境に優しい新たな洗浄方法として注目されている。
【0004】
上記のようなファインバブルの特性と効果の関係は、ファインバブルの気泡径(サイズ)や濃度(気泡量)に依存している。そこで、レーザ回折・散乱式の粒子径分布測定装置などを用いて、ファインバブルの気泡径分布(粒子径分布)を測定する技術が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ウルトラファインバブルと比べて液体中での滞留時間が短いマイクロバブルなどのように、気泡径が比較的大きいファインバブルの特性を評価するときには、液体中でファインバブルが不安定であるため、精度よく特性を評価することが困難な場合がある。具体的には、気泡径が比較的大きいファインバブルは、液体中での気泡径や濃度が時々刻々と変化しやすく、短時間で消滅する場合もある。
【0007】
このような問題は、マイクロバブルに限らず、例えば気泡径が1μmに近いウルトラファインバブルにおいても生じ得る。また、ファインバブルの生成条件によっては、気泡径がさらに小さいウルトラファインバブルにおいても生じる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、液体中で不安定なファインバブルをより安定して、あるいは、より均質に分散された状態で供給することができるファインバブル供給装置及びファインバブル分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るファインバブル供給装置は、ファインバブル発生装置と、滞留容器とを備える。前記ファインバブル発生装置は、ファインバブルを発生させる。前記滞留容器は、内部に液体が収容されるとともに、ファインバブルの導入管及び導出管が接続される。前記ファインバブル発生装置から発生するファインバブルは、前記導入管を介して前記滞留容器内の液体中に導入されることにより当該液体中に滞留し、当該液体中に滞留するファインバブルが、前記導出管を介して供給先に導出される。
【0010】
このような構成によれば、ファインバブル発生装置から発生するファインバブルが、滞留容器内の液体中で滞留し、その後に滞留容器から供給先へと供給される。これにより、滞留容器内での滞留時間などの条件を一定に維持しつつ、ファインバブルを供給先に供給することができるため、液体中で不安定なファインバブルをより安定して、あるいは、より均質に分散された状態で供給することができる。
【0011】
前記導出管は、前記滞留容器内の液体中に配置された下向きに開口する導出口から、当該液体中に滞留するファインバブルを導出させてもよい。この場合、前記導入管は、前記導出口よりも低い位置に配置された導入口から、前記滞留容器内の液体中にファインバブルを導入させてもよい。
【0012】
このような構成によれば、滞留容器内の液体中に配置された導出口が下向きに開口しているため、液体中に滞留するファインバブルが、浮力によって導出口から円滑に導出される。また、導出口よりも低い位置に配置された導入口から、滞留容器内の液体中にファインバブルが導入されるため、液体中で浮力によって浮上するファインバブルが、導入口から導出口へと安定して導かれる。したがって、液体中で不安定なファインバブルをさらに安定して供給することができる。
【0013】
前記導出管は、レイノルズ数が2300以下となるように、内径、及び、内部における液体の流速が設定されていることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、導出管内において乱流が生じるのを防止し、その結果、ファインバブルの気泡径や濃度が変化するのを防止することができる。したがって、さらに安定してファインバブルを供給することができる。
【0015】
前記導出管は、レイノルズ数が1250以下となるように、内径、及び、内部における液体の流速が設定されていることが好ましい。
【0016】
前記導出管は、その内面の電位がマイナス電位となる材料により形成されていることが好ましい。
【0017】
このような構成によれば、表面電位がマイナス電位であるファインバブルが、導出管の内面に付着するのを防止することができる。これにより、ファインバブルが導出管内を円滑に流れるため、さらに安定してファインバブルを供給することができる。
【0018】
前記導出管の内径が2mm以上であることが好ましい。
【0019】
前記導出管の曲率が、100mm以上であることが好ましい。
【0020】
前記導出管の表面粗さが、0.4μm以下であることが好ましい。
【0021】
前記導入管は、水平方向に延びており、その導入口が前記導出口よりも下方において前記滞留容器内に配置されていることが好ましい。
【0022】
前記導入口と前記導出口とを結ぶ直線は、水平方向に対して30~60°傾斜していることが好ましい。
【0023】
前記導入口と前記導出口とを結ぶ直線は、10~20cmであることが好ましい。
【0024】
前記滞留容器は、ファインバブルを滞留時間だけ滞留させることにより、ファインバブルの分散状態を前記滞留容器内でより均質化するためのバッファとして機能することが好ましい。
【0025】
前記滞留容器には、前記滞留容器内に滞留するファインバブルを攪拌させることで、ファインバブルの分散状態を前記滞留容器内でより均質化する攪拌装置が設けられていることが好ましい。
【0026】
本発明に係るファインバブル分析システムは、前記ファインバブル供給装置と、前記ファインバブル供給装置から供給されるファインバブルの特性を評価するファインバブル特性評価装置とを備える。
【0027】
このような構成によれば、ファインバブル供給装置からファインバブル特性評価装置に安定してファインバブルを供給することができるため、ファインバブルの特性をファインバブル特性評価装置で精度よく評価することができる。
【0028】
前記ファインバブル分析システムは、前記ファインバブル特性評価装置よりも下流側に設けられたポンプをさらに備えていてもよい。この場合、前記滞留容器内に滞留するファインバブルは、前記ポンプの駆動により、前記導出管を介して前記ファインバブル特性評価装置へと吸引されてもよい。
【0029】
このような構成によれば、ファインバブル特性評価装置よりも下流側に設けられたポンプの駆動により、ファインバブル特性評価装置にファインバブルを吸引し、そのファインバブルの特性を評価することができる。ファインバブル特性評価装置よりも上流側にポンプが設けられている場合には、ポンプの駆動により、ファインバブル特性評価装置に供給されるファインバブルの状態が変化してしまうが、ポンプがファインバブル特性評価装置よりも下流側に設けられた本発明の構成によれば、ポンプの駆動によるファインバブルの状態の変化が、ファインバブル特性評価装置の評価結果に影響を与えるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、滞留容器内での滞留時間などの条件を一定に維持しつつ、ファインバブルを供給先に供給することができるため、液体中で不安定なファインバブルをより安定して、あるいは、より均質に分散された状態で供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態に係るファインバブル分析システムの構成例を示した模式図である。
【
図2】ファインバブル分析システムを用いてレーザ回折・散乱法によりファインバブル(マイクロバブル)の気泡径分布を測定した結果を示す図である。
【
図3】ファインバブル分析システムを用いて動的画像解析法によりファインバブル(マイクロバブル)の気泡径分布を測定した結果を示す図である。
【
図4】ファインバブル分析システムを用いて光遮蔽式(パーティクルカウンタ)によりファインバブル(マイクロバブル)の気泡径分布を測定した結果を示す図である。
【
図5】導入口と導出口との位置関係を変化させたときの測定結果を示した図である。
【
図6】ポンプにより導出管内に導入する液体の流量を変化させたときの測定結果を示した図である。
【
図7】導入管及び導出管の各内面の材料を変更したときの測定結果を示した図である。
【
図8】本発明の変形例に係るファインバブル分析システムの構成例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
1.ファインバブル分析システムの構成
図1は、本発明の一実施形態に係るファインバブル分析システムの構成例を示した模式図である。このファインバブル分析システムは、ファインバブル供給装置1、ファインバブル特性評価装置2及びポンプ3を備えている。
【0033】
ファインバブル供給装置1は、ファインバブルを供給先に供給するための装置である。本実施形態では、ファインバブルの供給先がファインバブル特性評価装置2であり、ファインバブル供給装置1からファインバブル特性評価装置2にファインバブルが供給されることにより、そのファインバブルの特性がファインバブル特性評価装置2において評価される。
【0034】
ファインバブル供給装置1には、ファインバブル発生装置11及び滞留容器12が備えられている。ファインバブル発生装置11は、ファインバブルを発生させるための装置であり、ファインバブル発生装置11から発生するファインバブルが滞留容器12内に導入される。
【0035】
本実施形態では、ファインバブル発生装置11が、ファインバブルを分散した状態で含む液体(ファインバブル含有媒体)を生成し、そのファインバブル含有媒体が滞留容器12内に導入される。あるいは、ファインバブル発生装置11は、滞留容器12内に収容されている液体の中においてファインバブルを発生させる装置であってもよい。ファインバブル含有媒体は、例えば水の他、アルコール又は油といった任意の液体を原液とする媒体であり、例えば気泡径が100μm未満の微細気泡からなるファインバブルを含んでいる。
【0036】
具体的には、気泡径が1μm未満のウルトラファインバブル、及び、気泡径が1μm以上のマイクロバブルの少なくとも一方が、気体粒子として原液に含有されている。気体粒子を構成する気体は、空気であってもよいし、例えば窒素、オゾン又は炭酸ガスといった空気以外の気体であってもよい。
【0037】
滞留容器12の上部には、開口121が形成され、滞留容器12内が大気開放されている。滞留容器12内には、予め液体(媒体)13が収容されており、その液体13中にファインバブル発生装置11からのファインバブル含有媒体が導入される。滞留容器12の上部に排水口(図示せず)を形成し、増量した液体13を当該排水口から排水してもよい。あるいは、滞留容器12の上部に循環口(図示せず)を形成し、当該循環口からファインバブル発生装置11に液体13を循環させてもよい。
【0038】
滞留容器12には、ファインバブル発生装置11からのファインバブル含有媒体を導入させるための導入管14が接続されている。導入管14の一端部に形成された導入口141を介して、滞留容器12内の液体13中に導入されたファインバブル10は、液体13中に分散して滞留することとなるが、例えばファインバブル10がマイクロバブルの場合には、ウルトラファインバブルと比べて液体13中での滞留時間が短くなる。
【0039】
また、滞留容器12には、滞留容器12内の液体13を導出させるための導出管15が接続されている。滞留容器12内の液体13は、導出管15を介してファインバブル特性評価装置2に供給される。導出管15におけるファインバブル特性評価装置2よりも下流側には、ポンプ3が接続されている。このポンプ3を駆動させることにより、滞留容器12内の液体13の一部が、導出管15の一端部に形成された導出口151を介して導出され、液体13中に滞留するファインバブル10がファインバブル特性評価装置2へと吸引される。
【0040】
このように、本実施形態では、ファインバブル発生装置11から発生するファインバブル10が、導入管14を介して滞留容器12内の液体13中に導入されることにより液体13中に滞留し、当該液体13中に滞留するファインバブル10が、導出管15を介してファインバブル特性評価装置2に導出される。これにより、滞留容器12内での滞留時間などの条件を一定に維持しつつ、ファインバブル10をファインバブル特性評価装置2に供給することができるため、液体13中で不安定なファインバブル10(例えばマイクロバブル)をより安定して供給することができる。
【0041】
すなわち、滞留容器12は、連続的にファインバブルを滞留容器12内に発生させて、ファインバブルを滞留時間だけ滞留させることにより、ファインバブルの分散を滞留容器12内で循環させて、ファインバブルの分散状態を滞留容器12内でより均質化するためのバッファとして機能する。滞留容器12は、推薦される一定の条件下でのファインバブル発生装置11の評価を行うために設けられている。また、滞留容器12は、ファインバブル10の実際の使用状況における、ファインバブル10の液体中における分散状態を判断するために使用される。
【0042】
ファインバブル特性評価装置2は、例えば粒子径分布測定装置であり、ファインバブル10の粒子径分布(気泡径分布)を特性として評価する。このファインバブル特性評価装置2には、測定セル21、光源22及び検出器23などが備えられている。測定セル21は、フローセルにより構成されており、導出管15を介して供給されるファインバブル10が測定セル21を通過するようになっている。
【0043】
光源22は、例えばレーザ光源により構成されており、当該光源22から照射されたレーザ光が測定セル21に照射される。このとき、光源22からのレーザ光は、測定セル21内のファインバブル10の粒子群で回折又は散乱した後、検出器23により受光される。検出器23は、例えばフォトダイオードアレイにより構成されている。
【0044】
本実施形態における検出器23は、互いに異なる半径を有するリング状又は半リング状の検出面が形成された複数の前方センサ(図示せず)を、光源22から出射されるレーザ光の光軸を中心として同心円状に配置することにより構成されたリングディテクタであり、各前方センサには、それぞれの位置に応じた回折・散乱角度の光が入射する。したがって、検出器23の各前方センサの検出信号は、各回折・散乱角度の光の強度を表すことになる。
【0045】
検出器23の各前方センサの検出信号は、A/D変換器(図示せず)によりアナログ信号からデジタル信号に変換され、その検出信号に基づいて、ファインバブル10の気泡径分布が演算される。この演算の手法は周知であるため、詳細な説明を省略する。なお、検出器23には、測定セル21の前方(光源22とは反対側)に設けられた前方センサに限らず、測定セル21の側方に設けられた側方センサ、及び、測定セル21の後方(光源22側)に設けられた後方センサの少なくとも一方が含まれていてもよい。
【0046】
本実施形態では、上述の通り、ファインバブル供給装置1からファインバブル特性評価装置2に安定して、あるいは、分散を均質化させてファインバブル10を供給することができる。そのため、ファインバブル10の特性をファインバブル特性評価装置2で精度よく評価することができる。
【0047】
特に、本実施形態では、ファインバブル特性評価装置2よりも下流側に設けられたポンプ3の駆動により、ファインバブル特性評価装置2にファインバブル10を吸引し、そのファインバブル10の特性を評価することができる。ファインバブル特性評価装置2よりも上流側にポンプ3が設けられている場合には、ポンプ3の駆動により、ファインバブル特性評価装置2に供給されるファインバブル10の状態が変化してしまうが、ポンプ3がファインバブル特性評価装置2よりも下流側に設けられた本実施形態の構成によれば、ポンプ3の駆動によるファインバブルの状態の変化が、ファインバブル特性評価装置2の評価結果に影響を与えるのを防止することができる。
【0048】
ファインバブル特性評価装置2は、導出管15の長さを短くすることによりファインバブル供給装置1(すなわち、滞留容器12)の近傍に配置されている。従って、短時間で滞留容器12からファインバブル特性評価装置2にファインバブルを供給することができるので、ファインバブルの消滅、又は、分散性の低下の影響をできる限り避けつつ、ファインバブルを評価することができる。
【0049】
2.気泡径分布の測定結果
図2は、ファインバブル分析システムを用いてレーザ回折・散乱法によりファインバブル10(マイクロバブル)の気泡径分布を測定した結果を示す図である。この
図2では、導出口151にファインバブル含有媒体が導入されてから、測定セル21に到達するまでの時間が5秒、10秒、15秒のときのそれぞれの気泡径分布の測定結果が示されている。
【0050】
図3は、ファインバブル分析システムを用いて動的画像解析法によりファインバブル10(マイクロバブル)の気泡径分布を測定した結果を示す図である。この
図3では、導入口151にファインバブル含有媒体が導入されてから、測定セル21に到達するまでの時間が5秒、10秒、15秒のときのそれぞれの気泡径分布の測定結果が示されている。このように、ファインバブル特性評価装置2は、レーザ回折・散乱法ではなく、動的画像解析法によりファインバブル10の気泡径分布を測定するような構成であってもよい。
【0051】
図4は、ファインバブル分析システムを用いて光遮蔽式(パーティクルカウンタ)によりファインバブル10(マイクロバブル)の気泡径分布を測定した結果を示す図である。この
図4では、導入口151にファインバブル含有媒体が導入されてから、測定セル21に到達するまでの時間が5秒、10秒、15秒のときのそれぞれの気泡径分布の測定結果が示されている。このように、ファインバブル特性評価装置2は、レーザ回折・散乱法ではなく、動的画像解析法や光遮蔽式などによりファインバブル10の気泡径分布を測定するような構成であってもよい。
【0052】
図2~
図4に示した測定結果の通り、ファインバブル10の気泡径分布は、導出口151にファインバブル含有媒体が導入されてから測定セル21に到達するまでの時間に応じて変化し、到達時間が長いほど全体の気泡量が減少する。このような液体13中で不安定なファインバブル10であっても、滞留容器12を備えたファインバブル分析システムを用いた場合には、滞留容器12内での滞留時間などの条件を一定に維持しつつ、ファインバブル10をファインバブル特性評価装置2に供給し、安定して精度よく気泡径分布を測定することができる。測定セル21に到達するまでの時間が短い方が、ファインバブル特性評価装置2に供給するファインバブルの濃度や個数が多いため好ましい。
【0053】
3.導入口及び導出口の配置
図1に示すように、導出管15の導出口151は、滞留容器12内の液体13中に配置されており、その開口方向が下向きになっている。すなわち、導出口151が形成された導出管15の一端部は上下方向に延びており、その下端面が水平方向に延びるように配置されることにより、導出口151が下向きに開口している。
【0054】
一方、導入管14の導入口141は、導出口151よりも低い位置に配置されている。より具体的には、導入管14は水平方向に延びており、その一端部が導出口151よりも下方において滞留容器12内の液体13中に配置されている。この導入管14の一端部に形成された導入口141は、水平方向に沿って導出口151側に開口している。
【0055】
導入口141と導出口151とを結ぶ直線Lは、水平方向に対して傾斜している。水平方向に対する直線Lの傾斜角度は、30~60°であることが好ましく、例えば45°に設定されている。また、直線Lの長さは、10~20cmであることが好ましく、例えば15cmに設定されている。
【0056】
図5は、導入口141と導出口151との位置関係を変化させたときの測定結果を示した図である。
図5に示すように、導出口151を導入口141の近傍に配置した場合(A)には、ファインバブル特性評価装置2に供給されるファインバブル10の濃度が高いが、導出口151を導入口141に対して斜め上方45°の位置に15cm離して配置した場合(B)には、ファインバブル特性評価装置2に供給されるファインバブル10の濃度が1/2~1/3程度まで減少する。
【0057】
このように、導入口141と導出口151との位置関係を適切に設定すれば、好適な濃度のファインバブル10をファインバブル特性評価装置2に安定して供給することができる。特に、滞留容器12内の液体13中に配置された導出口151が下向きに開口していれば、液体13中に滞留するファインバブル10が、浮力によって導出口151から円滑に導出される。また、導出口151よりも低い位置に配置された導入口141から、滞留容器12内の液体13中にファインバブル10が導入されれば、液体13中で浮力によって浮上するファインバブル10が、導入口141から導出口151へと安定して導かれる。したがって、液体13中で不安定なファインバブル10をさらに安定して供給することができる。ただし、導入口141と導出口151との位置関係は、上記のような位置関係に限られるものではなく、例えば導入口141は水平方向とは異なる方向に沿って開口していてもよい。
【0058】
4.導出管内のレイノルズ数
本実施形態において、導出管15は、レイノルズ数が2300以下となるように、内径、及び、内部における液体の流速が設定されている。具体的には、下記表に示すような値で導出管15を設計することができる。
【表1】
【0059】
ここで、液体の流速をV(mm/s)、管の内径をd(mm)、液体の動粘度をν(mm2/s)とした場合、レイノルズ数Reは下記式(1)で表される。
Re=Vd/ν ・・・(1)
【0060】
導出管15の内径dを4mm、内部を流れる液体の動粘度νを0.893mm2/sとした場合、上記表に示すように、液体の流速Vが33mm/sであればレイノルズ数Reが149となり、液体の流速Vが220mm/sであればレイノルズ数Reが986となり、液体の流速Vが280mm/sであればレイノルズ数Reが1254となり、液体の流速Vが480mm/sであればレイノルズ数Reが2151となる。
【0061】
これらの設計値は、いずれもレイノルズ数Reを2300以下とするための条件を満たしている。レイノルズ数Reが2300以下であれば、導出管15内において乱流が生じるのを防止し、その結果、ファインバブル10の気泡径や濃度が変化するのを防止することができる。したがって、さらに安定してファインバブル10を供給することができる。
【0062】
図6は、ポンプ3により導出管15内に導入する液体の流量Qを変化させたときの測定結果を示した図である。
図6に示すように、液体の流量Qが166ml/min(液体の流速Vが220mm/s)のときと比べて、液体の流量Qが211ml/min(液体の流速Vが280mm/s)のときや、液体の流量Qが362ml/min(液体の流速Vが480mm/s)のときは、ファインバブル10の気泡径が大きくなり、気泡量も減少している。
【0063】
このような測定結果から、導出管15は、より好ましくはレイノルズ数Reが1250以下、さらに好ましくは1150以下となるように、内径、及び、内部における液体の流速が設定されることが好ましい。
【0064】
5.導出管の内面
本実施形態において、導出管15は、その内面の電位がマイナス電位となる材料により形成されている。具体的には、フッ素樹脂などにより導出管15の内面が形成されていることが好ましい。
【0065】
図7は、導出管15の内面の材料を変更したときの測定結果を示した図である。
図7に示すように、表面電位がプラスとなるナイロン(ポリアミド)で導出管15の内面を形成した場合には、表面電位がマイナスとなるフッ素樹脂(PFA)で導出管15の内面を形成した場合と比べて、ファインバブル10の気泡量が減少している。
【0066】
このような測定結果から、導出管15は、その内面の電位がマイナス電位となる材料により形成されていることが好ましい。導出管15の内面の電位がマイナス電位であれば、表面電位がマイナス電位であるファインバブル10が、導出管15の内面に付着するのを防止することができる。これにより、ファインバブル10が導出管15内を円滑に流れるため、さらに安定してファインバブル10を供給することができる。
【0067】
6.導出管のその他の条件
導出管15の内径は大きいほうが好ましく、特に限定されないが、例えば、2mm以上に設定され得る。2mm未満の場合に、導出管15の内表面の相互作用により、ファインバブルの特性に影響を与えてしまう可能性があるからである。導出管15の長さは、上述した通り、短い方が好ましい。導出管15の曲率は、特に限定されないが、100mm以上が好ましい。100mm未満の場合に、導出管15の内部に渦流が発生し、ファインバブルの特性に影響を与えてしまう可能性があるからである。導出管15の表面粗さは、特に限定されないが、0.4μm以下が好ましい。0.4μmよりも大きいと、導出管15の内表面の相互作用により、ファインバブルの吸着が生じ、ファインバブルが消滅する可能性があるからである。
【0068】
7.変形例
図8は、本発明の変形例を示す模式図である。この変形例では、滞留容器12に撹拌機30が設けられている。
図1の滞留容器12においても、連続的にファインバブルを液体内に導入することにより、滞留容器12内においてファインバブルの分散を均質化できる。しかし、撹拌機30を設けて、ファインバブルを含む液体を攪拌することによって、滞留容器12内においてファインバブルの分散をさらに良好に均質化することができる。従って、ファインバブル特性評価装置2に供給するファインバブルの分散をさらに良好に均質化できるので、ファインバブル特性評価装置2においてファインバルをより正確に評価することができる。撹拌機30は、特に限定されないが、例えば、磁気撹拌機が採用され得る。
【0069】
以上の実施形態では、ファインバブル特性評価装置2が、粒子径分布測定装置である場合について説明した。しかしながら、本発明に係るファインバブル分析システムは、粒子径分布測定装置以外のファインバブル特性評価装置にファインバブル10を供給するような構成にも適用可能である。
【0070】
また、ファインバブル10の供給先は、ファインバブル特性評価装置2に限られるものではない。すなわち、本発明に係るファインバブル供給装置は、ファインバブル特性評価装置2に限らず、任意の供給先にファインバブルを供給することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ファインバブル供給装置
2 ファインバブル特性評価装置
3 ポンプ
10 ファインバブル
11 ファインバブル発生装置
12 滞留容器
13 液体
14 導入管
15 導出管
21 測定セル
22 光源
23 検出器
121 開口
141 導入口
151 導出口