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特開2022-188202細胞並びにその使用方法及び製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188202
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】細胞並びにその使用方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0781 20100101AFI20221213BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20221213BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20221213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20221213BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20221213BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20221213BHJP
   A61K 38/43 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C12N5/0781
A61K35/12
A61P31/12
A61P43/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P25/28
A61P25/00
A61P35/02
A61K35/17 Z
C12N5/10 ZNA
C12N5/0735
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61K39/395 S
A61K38/43
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160907
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2019552206の分割
【原出願日】2018-03-20
(31)【優先権主張番号】62/473,564
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バッタチャリヤ,ディープタ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,イーナン
(72)【発明者】
【氏名】キャラハン,デリック
(72)【発明者】
【氏名】ピッザート,ハナー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】宿主内の免疫拒絶反応を回避するための遺伝子操作幹細胞、形質細胞、B細胞、並びにそれらの作製方法及び使用方法を提供する。
【解決手段】本開示の態様は、治療剤(広範に中和する抗体、タンパク質、又は酵素など)を生成する移植可能な形質細胞へとヒト胚性幹細胞(ES細胞)を分化させる方法を含む。いくつかの実施形態において、本方法は、前駆細胞(例えば、造血前駆細胞)を生成すること及び前駆細胞をB細胞に分化させることを含む。前駆細胞をB細胞に分化させることは、誘導性プロモーターによって促進されるB系統促進遺伝因子を発現すること、Bリンパ球産生を促進するのに十分な期間、(i)Flt3L、SCF、及びIL-7からなる群の1以上から選択されるサイトカイン、並びに(ii)MS5間質細胞、と前駆細胞を共培養すること、又は刺激で前駆細胞を活性化しB細胞分化をもたらすこと、を含む。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書または図面に実質的に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる2017年3月20日出願の米国仮出願第62/473,564号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府支援の研究又は開発に関する陳述
適用なし
【0003】
参照によって組み込まれる材料
本開示の一部である配列表は、本発明のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列を含むコンピュータ読み取り可能な形態を含む。配列表の主題は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
発明の分野
本開示は、概して、細胞療法に関する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
壊滅的な感染症に対するワクチンは、人類の最大の医学的ブレークスルーのいくつかを象徴する。ワクチンの基本原理は、生の感染が誘発し得る全身ダメージを与えることなく、天然の病原体を模倣する弱毒化又は不活性化したベクターを用いる免疫の確立である。そのため、これまでに成功した全ワクチンの前提条件は、ヒト免疫系が、天然の生の感染に直面したとき、最終的に適応免疫をもたらすことが本質的に可能でなければならないということである。ポリオのような場合では、適応免疫が天然ウイルスを制御できる前にもたらされるダメージは受け入れられない。それにもかかわらず、持続的な免疫が最終的に達成され、その後の感染を防ぐ。
【0006】
現在、しかしながら、世界中で最も問題である感染症の多くは、ヒトの免疫システムによって効果的に制御できず、再感染に対する持続的な免疫を誘発しない。例えば、その可変性により、HIVは、抗ウイルス薬の助けを借りずに取り除くことができず非効率的に制御される、慢性感染を確立する。デング熱ウイルス感染は、同じ血清型による再感染に対する持続免疫をもたらすが、実際には、個人が完全に未感作である場合よりも、異なるデング血清型で再感染された場合はるかに深刻な疾患を引き起こす。同様に、インフルエンザ株は、連続的にそれ自体を遺伝的に変え、そのため、所与の株に対する免疫は、時間及び空間で循環する全てのその後のインフルエンザウイルスに対する完全な保護をめったに提供しない。マラリアによる自然感染は、同じ個人が生涯にわたって何度も再感染し得るので、必ずしも、持続免疫につながらない。これらのような病原体は、免疫系が、実際の感染に直面したときに広範かつ効果的な免疫をもたらすことが本質的に不可能である場合に、天然の病原体を模倣するように設計されたワクチンが、どのように免疫を誘発できるのかという難問を提起し得る。構造誘導型連続免疫化、遺伝子治療、及び細胞ベースの治療などの革新的な代替戦略は、後者のアプローチはほとんど開発されていないが、全て提案されている。
【0007】
また、細胞治療の分野は、免疫拒絶反応を回避する免疫抑制技術又は細胞技術の進歩を必要とする。免疫監視の理解及び遺伝子操作の進歩は、細胞が免疫拒絶反応を回避するように調整するための細胞改変の操作を可能にしている。
【発明の概要】
【0008】
本開示の様々な態様の中で、宿主内の免疫拒絶反応を回避するための形質細胞、遺伝子操作幹細胞の生成、形質細胞及び遺伝子改変幹細胞の作製方法、並びにそれらの使用が提供される。
【0009】
本開示の態様は、治療剤(広範に中和する抗体、タンパク質、又は酵素など)を生成する移植可能な形質細胞へとヒト胚性幹細胞(ES細胞)を分化させる方法を含む。いくつかの実施形態において、本方法は、前駆細胞(例えば、造血前駆細胞)を生成すること及び前駆細胞をB細胞に分化させることを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、前駆細胞をB細胞に分化させることは、誘導性プロモーター(必要に応じて、PAX5、EBF1、FOXO1A、BCL11A、TCF3、IKZF1、IRF4、IRF8、又はSPI1)によって促進されるB系統促進遺伝因子を発現すること、Bリンパ球産生を促進するのに十分な期間(必要に応じて、約20日間)、(i)Flt3L、SCF、及びIL-7からなる群の1以上から選択されるサイトカイン、並びに(ii)MS5間質細胞、と前駆細胞を共培養すること、又は刺激で前駆細胞を活性化しB細胞分化をもたらすこと、を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、遺伝因子は必要に応じて、PAX5、EBF1、FOXO1A、BCL11A、TCF3、IKZF1、IRF4、IRF8、又はSPI1からなる群の以上から選択される。
【0012】
いくつかの実施形態において、刺激は、ドキシサイクリン又はテトラサイクリンから選択される。
【0013】
いくつかの実施形態において、造血前駆細胞は、造血内皮細胞であり;造血前駆細胞は、構成的に発現されるrTTA-T2A-GFP;リボソームスキッピング2A配列によってレポーターに連結された刺激誘導性転写活性化因子;で形質導入され(レンチウイルスベクターで必要に応じて形質導入される);又は遺伝因子は誘導性プロモーターによって促進されるPAX5、EBF1、FOXO1A、BCL11A、TCF3、IKZF1、IRF4、IRF8、又はSPI1からなる群の1以上から選択され、形質導入細胞を生じ、形質導入細胞は、構成的にrTTA及びGFPを発現するが、刺激(例えば、ドキシサイクリン)処理時にのみ遺伝因子を発現する。
【0014】
いくつかの実施形態において、改変RNAを使用して、因子が分化及び系統関与に必要とされる場合にのみそれらを一過的に導入する。
【0015】
いくつかの実施形態において、ヒトES細胞は、病原体特異的抗体遺伝子コードカセットでヌクレオフェクトされる。
【0016】
いくつかの実施形態において、病原体特異的抗体カセットは、flu抗体、HIV抗体、又はフラビウイルス抗体からなる群の1以上から選択されるVDJ及びVJ配列を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、VDJ及びVJ配列を含む特異的抗体カセットは、FI6、VRC07、10E8、N6、3BNC117、EDE1、及びC10からなる群の1以上から選択される。
【0018】
いくつかの実施形態において、Cas9、ガイドRNA(gRNA)、ZFN、又はTALENは、内因性免疫グロブリン重鎖及びκ軽鎖遺伝子座を標的化するために使用される。
【0019】
本開示の別の態様は、グルコース取り込みが上昇した長命形質細胞を作製する方法であって、ヒトES細胞由来のB細胞にIFNγ又はIL-4を投与することを含む、方法を提供する。
【0020】
いくつかの実施形態において、長命形質細胞は、抗体分泌が上昇し、呼吸のためのミトコンドリアのピルビン酸が上昇している。
【0021】
本開示のさらに別の態様は、長命形質細胞を作製する方法であって、初代扁桃ナイーブB細胞を提供すること、又は初代扁桃ナイーブB細胞へIL-4又はIFNγを導入することを含む、方法を提供する。
【0022】
本開示のさらに別の態様は、長命形質細胞を作製する方法であって、CD40L及びBAFFを発現するように操作された3T3線維芽細胞を提供すること、又はIL-21の存在下で細胞を培養することを含む、方法を提供する。
【0023】
本開示のさらに別の態様は、ウイルスを有する対象を治療する方法であって、治療有効量の形質細胞を対象に投与することを含む、方法を提供し、ここで形質細胞はウイルスを広範に中和する抗体からの配列を発現する。
【0024】
本開示のさらに別の態様は、酵素補充療法を必要とする対象を治療する方法であって、酵素を分泌するように操作した形質細胞の投与を含む、方法を提供する。
【0025】
いくつかの実施形態において、形質細胞は、遺伝子置換又はΑβ遺伝子の下流のIRESノックインを介して酵素を分泌するように操作される。
【0026】
本開示のさらに別の態様は、B細胞又は前述の方法によって作製される形質細胞を提供する。
【0027】
本開示のさらに別の態様は、自己免疫疾患又は癌を治療する方法であって、リツキサン又はエクリジマブ(eculizimab)などの免疫療法剤を発現する形質細胞を含む、方法を提供する。
【0028】
本開示のさらに別の態様は、神経変性疾患を治療する方法であって、免疫療法剤を発現する治療有効量の形質細胞を対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0029】
いくつかの実施形態において、神経変性疾患はアルツハイマー病であるか、又は免疫療法剤はアデュカヌマブである。
【0030】
本開示のさらに別の態様は、(i)野生型幹細胞に対して発現が調節された1以上のHLA-I及びHLA-II、又は(ii)補体固定の回避、NK細胞認識の回避、若しくは食作用の回避をもたらす遺伝子をコードする構築物、を含む遺伝子操作幹細胞を提供する。
【0031】
いくつかの実施形態において、遺伝子操作幹細胞は、野生型幹細胞に対して発現が調節された1以上の免疫回避因子を含む。いくつかの実施形態において、発現が調節された免疫回避因子は、発現が増加された免疫回避因子を含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、免疫回避因子は、細胞の少なくとも1つの対立遺伝子のセーフハーバー遺伝子座に挿入される。いくつかの実施形態において、セーフハーバー遺伝子座は、AAVS遺伝子座を含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、免疫回避因子は、免疫拒絶反応を阻害するか、又は免疫回避を促進する。
【0034】
いくつかの実施形態において、免疫回避因子は、HLA-E、HLA-G、CD46/Crry、CD47、又はCD55からなる群から選択される。
【0035】
いくつかの実施形態において、幹細胞は、胚性幹細胞である。いくつかの実施形態において、幹細胞は、多能性幹細胞である。いくつかの実施形態において、幹細胞は、低免疫原性である。いくつかの実施形態において、幹細胞は、ヒト幹細胞である。
【0036】
いくつかの実施形態において、遺伝子操作幹細胞は、β2ミクログロブリン、TAP1、CD74、CIITA、及びNKG2Dのリガンドからなる群の1以上から選択されるコード遺伝子における遺伝子改変を含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、NKG2Dのリガンドは必要に応じて、MICA、MICB、Raet1e、Raet1g、Raet1l、Ulbp1、Ulbp2、及びUlbp3からなる群の1以上から選択される。
【0038】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変は、不活性化変異を含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、遺伝子操作幹細胞は、発現が増強されたHLA-E及びHLA-Gの1以上を含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、遺伝子操作幹細胞は、野生型幹細胞に対して発現が増強されたHLA-E及びHLA-Gの1以上を含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、(i)β2ミクログロブリン及びTAP1をコードする遺伝子が、HLA-I発現を排除し同種CD8+T細胞による直接認識を防止するように遺伝子改変されるか、(ii)CD74をコードする遺伝子が、HLA-II発現を排除するように遺伝子改変されるか、(iii)NKG2Dリガンドをコードする遺伝子が、ナチュラルキラー細胞認識を回避するように遺伝子改変されるか、又は(iv)幹細胞が低下された免疫原性を示す。
【0042】
いくつかの実施形態において、(i)HLA-E単鎖三量体、HLA-G単鎖三量体、K-b単鎖三量体、CD46/Crry、CD55、及びCD47からなる群から選択される少なくとも1つの免疫回避遺伝子;(ii)NKG2A+NK細胞、ILT2/KIR2DL4+NK細胞、Ly49C+NK細胞、補体/C3b及びC4b、補体/C3転換酵素、補体/C9、及び食作用からなる群から選択される経路又は細胞型を阻害する少なくとも1つの免疫回避遺伝子;又は(iii)必要に応じて、少なくとも1つの自殺遺伝子。
【0043】
いくつかの実施形態において、(i)免疫回避遺伝子又は免疫回避因子は、サイレンシングから保護されるセーフハーバー遺伝子座に送達され、この免疫回避因子は、HLA-E単鎖三量体、HLA-G単鎖三量体、K-b単鎖三量体、CD46/Crry、CD55、及びCD47からなる群の1以上から選択され;(ii)自殺遺伝子は、iCasp9、HSVチミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、及び大腸菌ニトロレダクターゼからなる群のうちの1以上から選択され、又は(iii)自殺遺伝子は、AP1903、ガンシクロビル、5-フルオロシトシン、及びCB1954からなる群から選択される誘導薬剤を有する自殺遺伝子から選択される。
【0044】
本開示のさらに別の態様は、CD8T細胞、CD4T細胞、及びNK細胞からなる群から選択される1以上の免疫細胞による認識を回避するコード遺伝子における遺伝子改変を含む遺伝子操作幹細胞を提供する。
【0045】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変は、β2ミクログロブリン、TAP1、CD74、CIITA、及びNKG2Dのリガンドからなる群の1以上から選択されるコード遺伝子に存在し、NKG2Dのリガンドは必要に応じて、MICA、MICB、Raet1e、Raet1g、Raet1l、Ulbp1、Ulbp2、及びUlbp3からなる群の1以上から選択される。
【0046】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変は、不活性化変異を含む。
【0047】
本開示のさらに別の態様は、野生型ヒト幹細胞に対して発現が調節された1以上の免疫回避因子を含む遺伝子操作幹細胞を提供する。
【0048】
いくつかの実施形態において、発現が調節された免疫回避因子は、発現が増加された免疫回避因子を含む。
【0049】
いくつかの実施形態において、免疫回避因子は、細胞の少なくとも1つの対立遺伝子のセーフハーバー遺伝子座に挿入される。
【0050】
いくつかの実施形態において、セーフハーバー遺伝子座は、AAVS遺伝子座を含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、免疫回避因子は、免疫拒絶反応を阻害するか、又は免疫回避を促進する。
【0052】
いくつかの実施形態において、幹細胞は、胚性幹細胞である。いくつかの実施形態において、幹細胞は、多能性幹細胞である。いくつかの実施形態において、幹細胞は低免疫原性である。いくつかの実施形態において、幹細胞は、ヒト幹細胞である。
【0053】
いくつかの実施形態において、免疫回避因子は、HLA-E、HLA-G、CD46/Crry、CD47、及びCD55からなる群の1以上から選択される。
【0054】
いくつかの実施形態において、遺伝子操作幹細胞は、野生型幹細胞に対して発現が調節された1以上のHLA-I及びHLA-IIを含む。
【0055】
本開示のさらに別の態様は、遺伝子操作幹細胞を作製する方法であって、セーフハーバー遺伝子座に構築物を送達すること、及び補体固定、NK細胞認識、又は食作用の回避をもたらすコード遺伝子を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、補体固定の回避をもたらす遺伝子は、CD46/Crry、CD55、及びCD59からなる群の1以上から選択される。いくつかの実施形態において、NK細胞認識の回避をもたらす遺伝子は、HLA-E及びHLA-Gからなる群の1以上から選択される。いくつかの実施形態において、食作用の回避をもたらす遺伝子はCD47である。
【0056】
本開示のさらに別の態様は、遺伝子操作幹細胞又は遺伝子操作幹細胞で、それを必要とする対象を治療する方法を提供する。
【0057】
いくつかの実施形態において、幹細胞が対象に移植され;対象の組織が自己免疫疾患によって破壊され;自己免疫疾患によって破壊される対象の組織が再生され;膵臓細胞又はオリゴデンドロサイトが再生され;対象はI型糖尿病、多発性硬化症、病原体又は感染症を有し;体液性免疫が生じ;又は、抗体媒介性免疫が生じる。
【0058】
いくつかの実施形態において、遺伝子編集を用いて、HLA-IIの発現に必要な転写因子であるCD74又はCIITAを除去し、ここで遺伝子操作幹細胞は造血能を保持し、誘導体単球はHLA-IIの検出可能な発現を欠いていた。
【0059】
いくつかの実施形態において、宿主免疫抑制は存在しない。
【0060】
他の目的及び特徴は、一部は明らかであり、一部を以下で指摘する。
【0061】
当業者なら、以下に記載の図面が、単なる例示目的のためのものであることを理解する。図面は、決して本教示の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1A-B】hES細胞からの二次造血前駆体の作製を示す。(A)hES細胞分化プロトコルの概略図。(B)分化の例。H1 hES細胞を、中胚葉に分化させた後、8日間で二次造血内皮に分化させた。これらの細胞を、関与するCD7+CD5+CD4-CD8-「DN」T細胞を作製するために、さらに3週間、OP9-DLL4細胞と共培養した。
図2A-B】ドキシサイクリン誘導性Pax5発現が、hES由来前駆細胞からのB細胞の分化を促進することを示す。(A)造血内皮細胞を形質導入するために使用されるレンチウイルスベクターの概略図。(B)MS5間質細胞との共培養の25日後の、ドキシサイクリン処理レンチウイルス形質導入細胞のB細胞分化を示す代表的なデータ。
図3A-C】内因性免疫グロブリン遺伝子座へのインフルエンザ特異的抗体遺伝子の標的化を示す。(A)IgH標的化戦略の概略図。(B)ゼオシン耐性クローン又はK562細胞株陽性対照形質転換体からのゲノムDNAのPCRスクリーニング。同様の戦略をIgκ標的化のために行った。(C)Creリコンビナーゼのトランスフェクション後の、薬剤耐性カセットについての、インフルエンザ抗体遺伝子を保有するゲノムDNA hESクローンのPCRスクリーニング。
図4】IFNγが、インビトロ形質細胞分化中のグルコース取り込みを促進することを示す。ナイーブB細胞を、示されたサイトカインの存在下又は非存在下で、CD40L及びBAFFを発現するNIH 3T3細胞上で3日間培養した。次いで、細胞を、50μΜの蛍光グルコース類似体2NBDGと30分間インキュベートし、フローサイトメトリーにより分析した。
図5A-B】小骨における初代ヒト骨髄形質細胞の生着及び持続性を示す。1~5×10個のCD138濃縮ヒト骨髄形質細胞を、NSGマウスで予め形成されたヒト小骨に注入した。7日目及び28日目に血清ELISA(A)並びに28日目にフローサイトメトリー分析(B)を行った。(A)の検出の下限は3pg/mlであった。
図6A-E】HLA欠損hES細胞株の作製を示す。(A)ゲノム編集ワークフローの概略図。HLA発現に必須の遺伝子に標的化されるCas9及び3種類のgRNAを、H1 hES細胞にヌクレオフェクトした。サブクローニング及びMiSeq分析の2ラウンドにより、クローン変異細胞株が得られる。(B)標的化遺伝子のMiSeq分析の例。フレームシフト変異を6つの対立遺伝子の5つに導入した。(C)野生型又はHLA-KO hES細胞を、IFNγで処理する場合、又は処理しない場合で、HLA-I発現について染色した。HLA-I発現は、β2m欠損細胞及びTAP1欠損細胞にはなかった。(D)HLA-KO hES細胞又は対照由来の単球及び樹状細胞を、CFSEで標識した同種T細胞と混合した。CFSE希釈を、4日後に定量化した。(E)単球及び樹状細胞は、HLA-KO hES細胞又は対照のhES細胞に由来し、HLA-II発現をフローサイトメトリーによって測定した。
図7A-B】AAVS遺伝子座に送達される免疫回避遺伝子を示す。(A)ヒト(上)又はマウス(下)の免疫認識を回避するためのAAVS標的化構築物の概略図。(B)AAVS構築物を、HLA-KO hES細胞にトランスフェクトし、ピューロマイシン又はネオマイシン耐性について選択した。免疫回避遺伝子の発現を、フローサイトメトリーによって定量化した。
図8A-C】AAVS構築物が免疫回避を媒介することを示す。(A)CHO細胞を、図7中の構築物1(配列番号1)又は2(配列番号2)でトランスフェクトし、フローサイトメトリーによって分析した。(B)図7からの構築物1(上の列)又は構築物2(下の列)で安定にトランスフェクトしたCHO細胞を、補体沈着について試験した。(C)図7中の構築物1でトランスフェクトした721.221細胞を、初代ヒトNK細胞と培養した。NK細胞の脱顆粒を、CD107a発現の関数として測定した。
図9A-B】ヒト化マウスにおけるHLA-KO移植片の生存率を示す。(A)臍帯血CD34+細胞による無条件NSG-W41マウスにおける堅牢な生着。臍帯血からの10個のCD34+細胞の移植後20週目の脾臓キメラ化の例。(B)野生型hES細胞ではなく、HLA-KOが、ヒト化NSG-W41マウスにおいて奇形腫を形成する。
図10】幹細胞ベースの療法が可変ウイルスに対する免疫を生じさせることができることを示す、永続的な抗体媒介性免疫を提供する普遍的に移植可能な細胞を操作するための細胞ベースの療法及び戦略の開発を例示している。
図11A-B】HLA-KO細胞におけるMICA及びMICBの欠失の成功を実証する。(A)MICA及びMICBを標的とする2つの別々のgRNAをトランスフェクトし、クローンを、フレームシフト変異について配列決定した。クローンB05、H10、及びF01は、一方の対立遺伝子中のMICA及びMICBにフレームシフト変異を保有する。(B)gRNAでのMICA-MICB融合対立遺伝子の標的化。他の染色体上で、クローンB05、H10、及びF01中のMICAとMICBの間に、介在配列の欠失によって生じるインフレーム融合が観察された。この融合対立遺伝子をgRNAで再標的化し、フレームシフト変異を保有する5個のクローンを単離した。
【発明を実施するための形態】
【0063】
発明の詳細な説明
本開示は、(1)移植可能な抗体又は酵素を分泌する形質細胞へのヒト多能性幹細胞の分化、並びに(2)NKG2Dのリガンドをコードする遺伝子における変異(例えば、CRISPR/Cas9を用いる)(ナチュラルキラー細胞の認識を回避し、移植のための実質的に非免疫原性又は最小限の免疫原性のヒト多能性幹細胞をもたらす)及び補体沈着を防ぐ遺伝子の発現、がヒト多能性幹細胞から免疫原性の主要な決定因子を排除できるという発見に少なくとも部分的に基づく。まとめると、これらは、自己免疫疾患、神経変性疾患、癌、及び感染症に対する拡張可能な既製の療法、並びに免疫拒絶反応を回避するように変更された細胞を用いるES細胞ベースの治療の一般的な適用を可能にする。
【0064】
本明細書に記載するように、免疫系のいくつかの治療群の認識を回避するようにヒト多能性幹細胞を改変するために使用される方法及び標的が開発されている。本開示は、宿主免疫抑制なしに再生医療のための既製の療法並びにそのような方法により作製される細胞の供給源として使用できる最小限の免疫原性ドナー多能性幹細胞株を作製するための方法を提供する。
【0065】
本開示の一態様は、免疫拒絶反応を回避するように改変された細胞の拡張可能な投入を提供する。商業的に実現可能な細胞ベース療法は、治療のコストを低減するためかつ製造を標準化するための、並びに細胞療法を作るために使用される細胞の同種供給源として機能できる細胞の拡張可能な投入を必要とし得る。
【0066】
本明細書に記載されるのは、感染症のための拡張可能な細胞療法のための個々の工程の開発である。これらの工程は、感染性病原体に対する防御を提供するために統合された手法にアセンブルされ、かつ他の細胞療法の適用で使用できる。
【0067】
最小限の免疫原性又は実質的に非免疫原性のヒト胚性幹細胞
最小限の免疫原性の「ユニバーサルな」ドナーhES細胞株の作製は、再生医療の多くの分野の目標であった。数十年の移植の研究は、生着に対する免疫学的障壁が相当あることを明らかにし、本当に「ユニバーサルな」株を達成するための最善の方法は完全には明らかにされなかった。
【0068】
本明細書に記載されるのは、移植のための実質的に又は最小限の免疫原性のhES細胞、特に、感染症のための幹細胞ベースの免疫療法である。移植のためのそのような株の作製は、拡張可能な既製の細胞療法を可能にする。これは、民間企業によって開発されているほとんどの幹細胞ベースの療法に望まれている。そのような株はまた、I型糖尿病における膵臓β細胞及び多発性硬化症におけるオリゴデンドロサイトなどの、自己免疫によって破壊された組織のための再生医療を促進できる。
【0069】
本明細書に記載するように、免疫原性のいくつかの主要な決定因子の除去である。
【0070】
疾患治療のための適用
本開示は、既製の療法の拡張可能な供給源の生成を提供し、その適用は、免疫療法、膵臓β細胞の交換、又は多発性硬化症のためのオリゴデンドロサイトの回復に及ぶ。
【0071】
異なる種類の抗体は、最初の暴露以来変異したウイルスに対して、以前に遭遇したウイルスに対する長期的な免疫を媒介する。本明細書に記載されるのは、これらの異なる抗体をもたらし、かつそれらが病原体に対して保護する方法を定義する、シグナルの特定である。
【0072】
本明細書に記載されるのは、グローバルに関連する病原体に対する永続的免疫を提供するための組成物及び方法である。感染症は、全死亡のほぼ1/3に関与し、そのため、世界的な死亡の主要原因である。ほとんどの解決の難しい感染症の多くは、これらの病気を引き起こす微生物の数十年に及ぶ研究にもかかわらず、ワクチン接種に対して抵抗性があると判明している。そのため、成功するワクチンを開発する場合には、新たな手法が必要とされる。HIVに対するワクチンを開発する努力は、有用な例として役立つ。
【0073】
HIV血清陽性集団の小集団は、臨床的なHIV単離物の90%超を中和できる非常に強力な抗体を作る。同様の稀ではあるが広範な中和抗体がインフルエンザ及びデング熱ウイルスに対し発見された。しかし、これらの抗体の多くは、非常に多数の体細胞変異を有し、構造的に珍しい。そのため、一般集団においてこれらの種類の応答を生じさせる方法は明らかではない。
【0074】
いくつかの創造的な可能性が提案され、実験的に検討されている。まず、HIV糖タンパク質免疫原の構造に基づく設計及び連続ワクチン接種が提案されており、抗体応答は、広範な中和特性に向けて導かれ得る。いくつかの研究は、免疫グロブリンノックインマウス又はより多様なレパートリーを保有する動物のいずれかを使用するこの手法の実現可能性を示している。しかし、これらの研究は、マウスモデルのまだ初期段階にあり、この戦略がヒト用ワクチンにつながるかどうか現時点で不明である。実際に、HIVエピトープの構造設計に当てられた同様の資源が、他の問題のある病原体に利用可能であるかどうかは不明である。第2の手法では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが、異種発現のための広範な中和抗体遺伝子を筋肉内に送達するために使用される。マウスモデルと霊長類モデルの両方が、臨床試験につながる有望な結果を示した。ほとんど安全ではあるが、以前の研究によって明らかにされた主な問題点は、ベクターが免疫をもたらす部位に送達されない限り、異種遺伝子発現の期間が非常に一過的であり得ることである。これは、ヒトにおける広範な既存の免疫及びAAVに対するCD8T細胞応答によるものと思われる。第3の手法では、レンチウイルスベースの遺伝子治療を用いて、造血幹細胞(HSC)が広範な中和抗体を発現するようにそれらを改変する。自家移植の際に、HSC由来の遺伝子改変B細胞及び形質細胞を形成して、これらの中和抗体を分泌できる。この最後の手法は、実用的な実現可能性についての懸念のため、あまり注目されていない。造血幹細胞移植は、自家移植の場合でさえ、効率的な生着を達成するために細胞減少調節を必要としている。また、宿主ゲノム中のレンチウイルスベクターのランダムな組み込みは、白血病を誘発することが示されている。最後に、この手法は拡張可能ではなく、コストが高額になる。本明細書で説明したように、これらの問題は、拡張可能な最小限の免疫原性投入を用いて病原体特異的B細胞を生じることによる後者の手法において対処される。
【0075】
組織再生
ヒト組織を再生するために使用できる、安価で簡単に操作できる幹細胞が必要である。本明細書には、最小限に免疫原性であり「ユニバーサルな」ドナーとみなされる幹細胞株(例えば、遺伝子操作された)が記載される。これらの細胞は、再生医療のための既製の治療の供給源として、宿主免疫抑制なしに使用できる。
【0076】
形質細胞及び血清抗体
多能性幹細胞を用いる抗体媒介性免疫の作製が、本明細書に記載される。このトピックについての先行論文は存在せず、又は多能性幹細胞を用いて抗体媒介性免疫を追求する他の場所での他の進行中の研究プロジェクトはないと考えられている。
【0077】
本明細書に記載されるのは、体液性免疫を作るために、ヒト多能性幹細胞を使用する新規な方法である(例えば、実施例1参照)。
【0078】
体液性免疫を達成するための構成要素の手順は、広く受け入れられている。病原体に対する防御における血清抗体の効力は、一世紀を超えて知られている(例えば、Behring、1965参照)。長命形質細胞の存在及び血清抗体を維持するためのそれらの役割は、この分野で広く受け入れられている(例えば、Slifkaら、1998参照)。
【0079】
hES細胞からの二次造血前駆体(DHP)の作製はよく知られている。例えば、Kennedyら、2012を参照されたい。したがって、特に本明細書で言及されない限り、本開示のプロセスは、そのようなプロセスに従って行われ得る。本明細書に記載されるように、二次造血前駆体(DHP)は、Kennedyら、Cell Reports,2012;及びSturgeonら、Nat Biotech,2014によって記載されるような方法を用いて、ESから最初に分化される。
【0080】
DHPからB細胞への分化は、当技術分野で公知の任意の方法によってPAX5を活性化することによって達成できる。例えば、PAX5は、遺伝子形質導入又は小分子による活性化によって活性化できる。実施例1に示すように、PAX5は、レンチウイルスベクターを用いて標的細胞にPAX5を形質導入することにより活性化された。また、アクセサリー間質細胞(例えば、3T3線維芽細胞)は、レトロウイルス形質導入(例えば、BAFF及びCD40L)によって、これらの因子のサブセットを発現するように操作できる。ヒト胚性幹細胞(ES細胞)は、本明細書に記載されるように、形質細胞に分化させることができる。例として、ES細胞は、H1ヒト胚性幹細胞であり得る。
【0081】
前駆細胞は、幹細胞のように、特定の種類の細胞に分化する傾向があるが、すでに幹細胞よりも特異的であり、その「標的」細胞への分化を推し進められる生物細胞である。例えば、前駆細胞は、造血性前駆細胞(例えば、造血性内皮細胞)又は造血前駆細胞であり得る。
【0082】
本明細書に記載されるように、二次造血前駆(DHP)細胞は、転写因子又はサイトカイン及びB系統促進活性化タンパク質又は遺伝因子の異所性発現を用いて、B細胞に分化させることができる。これらのサイトカインは、1~100ng/μlの範囲のIL-7、Flt3L、及びSCFを含む。本明細書に記載の他のサイトカインは、IFNγ又はIL-4である。B系統促進活性化タンパク質(B系統促進転写因子又は遺伝因子とも呼ばれる)は、PAX5、EBF1、FOXO1A、BCL11A、TCF3、IKZF1、IRF4、IRF8、及びSPI1を含む。遺伝因子は、レンチウイルスベクター、改変RNA、又はプラスミドのトランスフェクションによって誘導的に発現されてよい。
【0083】
形質細胞の適用
本明細書に記載されるように、形質細胞は、感染症のための予防として使用できる。例えば、hES細胞の内因性遺伝子座にノックインされたインフルエンザ抗体遺伝子が記載された(例えば、実施例1、図3参照)。これらの抗体は、インフルエンザウイルスの保存された部分に結合し、ほぼ全てのflu株を中和する(例えば、実施例1参照)。別の例として、形質細胞は、HIVなどの進行中の慢性感染症の治療に使用できる(例えば、実施例1参照)。別の例として、形質細胞は、ハーラー症候群などの酵素欠損症(例えば、実施例1参照)又は第IX因子欠損症に関連する疾患のための酵素補充療法に使用できる。別の例として、形質細胞は、癌の治療に使用できる(例えば、実施例1参照)。別の例として、形質細胞は、自己免疫疾患の治療に使用できる(例えば、実施例1参照)。別の例として、形質細胞は、アルツハイマー病の治療に使用できる(例えば、実施例1参照)。別の例として、抗体を発現する形質細胞は、(例えば、免疫療法剤での)抗体療法を必要とする対象の治療に使用できる。例えば、免疫療法剤は、抗体であり得る。一例として、免疫療法剤は、リツキサン、エクリジマブ、又はアデュカヌマブであり得る。
【0084】
本明細書に記載するように、組成物及び方法は、神経変性疾患又は障害を治療するために用いることができる。例えば、神経変性疾患又は障害は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アレキサンダー病、アルパーズ病、アルパーズ・フッテンロッヒャー症候群(Alpers-Huttenlocher syndrome)、アルファメチルアシルCoAラセマーゼ欠損群、アンダーマン症候群、アーツ症候群、失調性ニューロパチースペクトル、運動失調(例えば、動眼失行、常染色体優性小脳性運動失調、難聴、及びナルコレプシー)、シャルル・サグネの常染色体劣性痙性失調症、バッテン病、ベータプロペラタンパク質関連神経変性、脳・眼・顔・骨格症候群(COFS)、大脳皮質基底核変性症、CLN1病、CLN10病、CLN2病、CLN3病、CLN4病、CLN6病、CLN7病、CLN8病、認知機能障害、無汗症の疼痛に対する先天性無感覚、認知症、ニューロセルピン封入体を有する家族性脳症、家族性英国認知症、家族性デンマーク認知症、脂肪酸ヒドロキシラーゼ関連神経変性、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病(Gerstmann-Straussler-Scheinker Disease)、GM2-ガングリオシドーシス(例えば、ABバリアント)、HMSNタイプ7(例えば、網膜色素変性症を有する)、ハンチントン病、乳児神経軸索ジストロフィー、乳児期発症型遺伝性痙性麻痺、ハンチントン病(HD)、乳児期発症型脊髄小脳失調症、若年性原発性側索硬化症、ケネディ病、クールー病、リー病、マリネスコ・シェーングレン症候群、軽度認知障害(MCI)、ミトコンドリア膜タンパク質関連神経変性、運動ニューロン疾患、モノマー性筋萎縮症(Monomelic Amyotrophy)、運動ニューロン疾患(MND)、多系統萎縮症、多系統萎縮症起立性低血圧(シャイ・ドレーガー症候群)、多発性硬化症、多系統萎縮症、ダウン症候群(NDS)における神経変性、老化の神経変性、脳鉄蓄積を伴う神経変性、視神経脊髄炎、パントテン酸キナーゼ関連神経変性、眼球クローヌス/ミオクローヌス症候群、プリオン病、進行性多巣性白質脳症、パーキンソン病(PD)、PD関連障害、硬化性白質脳症を伴う多発嚢胞性脂肪膜性骨異形成症、プリオン病、進行性外眼筋麻痺、リボフラビントランスポーター欠損症の神経細胞障害、サンドホフ病、脊髄性筋萎縮症(SMA)、脊髄小脳失調(SCA)、線条体黒質変性症、伝達性海綿状脳症(プリオン病)、又はワーラー様変性であり得る。
【0085】
本明細書で説明するように、組成物及び方法は、癌を治療するために使用できる。例えば、癌は、急性リンパ性白血病(ALL);急性骨髄性白血病(AML);副腎皮質癌;エイズ関連癌;カポジ肉腫(軟部組織肉腫);エイズ関連リンパ腫(リンパ腫);原発性CNSリンパ腫(リンパ腫);肛門癌;虫垂癌;消化管カルチノイド腫瘍;星状細胞腫;非定型奇形腫/ラブドイド腫瘍、小児中枢神経系(脳癌);皮膚の基底細胞癌;胆管癌;膀胱癌;骨肉腫(ユーイング肉腫及び骨肉腫及び悪性線維性組織球腫を含む);脳腫瘍;乳癌;気管支腫瘍;バーキットリンパ腫;カルチノイド腫瘍(胃腸);小児カルチノイド腫瘍;心臓Cardiac((心臓(Heart))腫瘍;中枢神経系の癌;非定型奇形腫/ラブドイド腫瘍、小児(脳癌);胚芽腫、小児(脳癌);胚細胞腫瘍、小児(脳癌);原発性CNSリンパ腫;子宮頸癌;胆管細胞癌;胆管癌脊索腫;慢性リンパ性白血病(CLL);慢性骨髄性白血病(CML);慢性骨髄増殖性腫瘍;大腸癌;頭蓋咽頭腫(脳癌);皮膚T細胞;非浸潤性乳管癌(DCIS);胚芽腫、中枢神経系、小児(脳癌);子宮内膜癌(子宮癌);上衣細胞腫、小児(脳癌);食道癌;感覚神経芽腫;ユーイング肉腫(骨癌);頭蓋外胚細胞腫瘍;性腺外胚細胞腫瘍;眼癌;眼内メラノーマ;眼内メラノーマ;網膜芽細胞腫;卵管癌;骨の線維性組織球腫、悪性、又は骨肉腫;胆嚢癌;胃(Gastric)((胃(Stomach))癌;消化管カルチノイド腫瘍;消化管間質腫瘍(GIST)(軟部組織肉腫);胚細胞腫瘍;中枢神経系胚細胞腫瘍(脳癌);小児頭蓋外胚細胞腫瘍;性腺外胚細胞腫瘍;卵巣胚細胞腫瘍;精巣癌;妊娠絨毛性疾患;有毛細胞白血病;頭頸部癌;心臓腫瘍;肝細胞(肝臓)癌;組織球症、ランゲルハンス細胞;ホジキンリンパ腫;下咽頭癌(頭頸部癌);眼内メラノーマ;膵島細胞腫瘍;膵臓神経内分泌腫瘍;カポジ肉腫(軟部組織肉腫);腎臓(腎細胞)癌;ランゲルハンス細胞組織球症;喉頭癌(頭頸部癌);白血病;口唇及び口腔の癌(頭頸部癌);肝臓癌;肺癌(非小細胞及び小細胞);リンパ腫;男性の乳癌;骨又は骨肉腫の悪性線維性組織球腫;メラノーマ;眼内(目);メルケル細胞癌(皮膚癌);中皮腫、悪性;転移性癌;原発不明の転移性扁平上皮頸部癌(頭頸部癌);NUT遺伝子関連正中管癌(Midline Tract Carcinoma);口癌(頭頸部癌);多発性内分泌腫瘍症候群;多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍;菌状息肉腫(リンパ腫);骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍;骨髄性白血病、慢性(CML);骨髄性白血病、急性(AML);骨髄増殖性腫瘍;鼻腔及び副鼻腔癌(頭頸部癌);鼻咽頭癌(頭頸部癌);神経芽細胞腫;非ホジキンリンパ腫;非小細胞肺癌;口腔癌、口唇又は口腔の癌;中咽頭癌(頭頸部癌);骨肉腫及び骨の悪性線維性組織球腫;卵巣癌膵臓癌;膵神経内分泌腫瘍(島細胞腫瘍);乳頭腫症;傍神経節腫;副鼻腔及び鼻腔癌(頭頸部癌);副甲状腺癌;陰茎癌;咽頭癌(頭頸部癌);褐色細胞腫;下垂体腫瘍;形質細胞新生物/多発性骨髄腫;胸膜肺芽;乳癌;原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫;原発性腹膜癌;前立腺癌;直腸癌;再発癌腎細胞(腎臓)癌;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫、小児(軟部組織肉腫);唾液腺癌(頭頸部癌);肉腫;小児横紋筋肉腫(軟部組織肉腫);小児血管腫瘍(軟部組織肉腫);ユーイング肉腫(骨癌);カポジ肉腫(軟部組織肉腫);骨肉腫(骨癌);子宮肉腫;セザリー症候群(リンパ腫);皮膚癌;小細胞肺癌;小腸癌;軟部組織肉腫;皮膚の扁平上皮癌;原発不明の扁平頸部癌、転移性(頭頸部癌);胃(Stomach(胃(Gastric))癌;T細胞リンパ腫、皮膚;リンパ腫;菌状息肉腫及びセザリー症候群;精巣癌;喉の癌(頭頸部癌);鼻咽頭癌;中咽頭癌;下咽頭癌;胸腺腫及び胸腺癌;甲状腺癌;甲状腺腫瘍;腎盂及び尿管の移行上皮癌(腎(腎細胞)癌);尿管及び腎盂;移行上皮癌(腎(腎細胞)癌);尿道癌;子宮癌、子宮内膜;子宮肉腫;膣癌;血管腫瘍(軟部組織肉腫);外陰癌;又はウィルムス腫瘍であり得る。
【0086】
本明細書で説明するように、組成物及び方法は、自己免疫疾患又は障害を治療するために用いることができる。例えば、自己免疫疾患又は障害は、アカラシア;アジソン病;成人スティル病;無ガンマグロブリン血症;円形脱毛症;アミロイドーシス;強直性脊椎炎;抗GBM/抗TBM腎炎;抗リン脂質抗体症候群;自己免疫性血管性浮腫;自己免疫性自律神経障害;自己免疫性脳脊髄炎;自己免疫性肝炎;自己免疫性内耳疾患(AIED);自己免疫性心筋炎;自己免疫性卵巣炎;自己免疫性睾丸炎;自己免疫性膵炎;自己免疫性網膜症;自己免疫性蕁麻疹;軸索及び神経ニューロパシー(AMAN);バロー病;ベーチェット病;良性粘膜類天疱瘡;水疱性類天疱瘡;キャッスルマン病(CD);セリアック病;シャーガス病;慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP);慢性再発性多病巣性骨髄炎(CRMO);チャーグ・ストラウス症候群(CSS)又は好酸球性肉芽(EGPA);瘢痕性類天疱瘡;コーガン症候群;寒冷凝集素疾患;先天性心ブロック;コクサッキー心筋炎;CREST症候群;クローン病;疱疹状皮膚炎;皮膚筋炎;デビック病(視神経脊髄炎);円盤状ループス;ドレスラー症候群;子宮内膜症;好酸球性食道炎(EoE);好酸球性筋膜炎;結節性紅斑;本態性混合型クリオグロブリン血症;エバンス症候群;線維筋痛症;繊維性肺胞炎;巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎);巨細胞性心筋炎;糸球体腎炎;グッドパスチャー症候群;多発血管炎を伴う肉芽腫症;バセドウ病;ギランバレー症候群;橋本甲状腺炎;溶血性貧血;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HSP);ヘルペス妊娠又は妊娠性類天疱瘡(PG);化膿性汗腺炎(HS)(反対型ざ瘡);低ガンマグロブリン血症;IgA腎症;IgG4関連硬化性疾患;免疫性血小板減少性紫斑病(ITP);封入体筋炎(IBM);間質性膀胱炎(IC);若年性関節炎;若年性糖尿病(1型糖尿病);若年性筋炎(JM);川崎病;ランバート・イートン症候群;白血球破砕性血管炎;扁平苔癬;硬化性苔癬;木質結膜炎;線形IgA疾患(LAD);ループス;慢性のライム病;メニエール病;顕微鏡的多発血管炎(MPA);混合性結合組織病(MCTD);モーレン潰瘍;ミュシャ・ハーバーマン病;多巣性運動ニューロパチー(MMN)又はMMNCB;多発性硬化症;重症筋無力症;筋炎;ナルコレプシー;新生児ループス;視神経脊髄炎;好中球減少症;眼瘢痕性類天疱瘡;視神経炎;回帰性リウマチ(PR);PANDAS;傍腫瘍性神経症候群(PCD);発作性夜間血色素尿症(PNH);パリーロンバーグ症候群;扁平部炎(末梢ブドウ膜炎);パーソネージ・ターナー症候群;天疱瘡;末梢神経障害;静脈周囲脳脊髄炎;悪性貧血(PA);POEMS症候群;結節性多発動脈炎;多腺性症候群I型、II型、III型;リウマチ性多発筋痛;多発性筋炎;心筋梗塞後症候群;心膜切開後症候群;原発性胆汁性肝硬変;原発性硬化性胆管炎;プロゲステロン性皮膚炎;乾癬;乾癬性関節炎;赤芽球癆(PRCA);壊疽性膿皮症;レイノー現象;反応性関節炎;反射性交感神経性ジストロフィー;再発性多発軟骨炎;下肢静止不能症候群(RLS);後腹膜線維症;リウマチ熱;関節リウマチ;サルコイドーシス;シュミット症候群;強膜炎;強皮症;シェーグレン症候群;精子&精巣自己免疫;スティッフパーソン症候群(SPS);亜急性細菌性心内膜炎(SBE);スザック症候群;交感性眼炎(SO);高安動脈炎;側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎;血小板減少性紫斑病(TTP);トロサ・ハント症候群(THS);横断性脊髄炎;1型糖尿病;潰瘍性大腸炎(UC);分化結合組織病(UCTD);ブドウ膜炎;血管炎;白斑;フォークト・小柳・原田病;又はウェゲナー肉芽腫症(又は多発血管炎性肉芽腫症(GPA))であり得る。
【0087】
本明細書に記載されるように、抗体を発現する形質細胞を作製できる。例えば、形質細胞は、病原体特異的な、抗体遺伝子をコードするカセットでヌクレオフェクトされたヒトES細胞から作製できる。
【0088】
本明細書に記載されるように、形質細胞は、ウイルスに特異的な抗体を発現できる。例えば、ウイルスは、インフルエンザ、HIV、マラリア、又はフラビウイルス(例えば、デング熱、ジカ、西ナイルウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス、細胞融合剤ウイルス(CFAV)、パームクリークウイルス(Palm Creek virus(PCV))、パラマッタ川ウイルス(PaRV))であり得る。例えば、形質細胞は、FI6、VRC07、10E8、N6、3BNC117、EDE1、又はC10に特異的な抗体を発現できる。
【0089】
免疫操作手法であるゲノム編集による遺伝子組み換え幹細胞
本明細書に記載されるように、遺伝子操作された多能性幹細胞株を、細胞が免疫系のいくつかの治療群による認識を回避するように改変した。そのような遺伝子における変更は典型的には、遺伝子及び標的のグループにて予め形成され、そのうちのいくつかは先行技術に記載されている。従来技術の改変に加えられる、本発明の重要な新規特徴は、当業者には容易に明らかであろう。
【0090】
本発明の新規改変を含有する細胞は、単独で、又は前述のものとの組み合わせで、CD8T細胞、CD4T細胞、NK細胞、補体、又は貪食細胞による認識を回避できる。さらに、細胞は、誘導性自殺遺伝子及び薬剤耐性カセットを含有してよい。これは、副作用の場合に移植片の選択的除去を、及びクローン細胞株を特定するための培養中での容易な薬剤選択を可能にする。まとめると、プロセスは、移植のために免疫原性が大幅に低下したヒト多能性幹細胞の作製を可能にする。
【0091】
本明細書に記載するように、特異的免疫受容体を破壊すること、及びヒト幹細胞中に特異的な導入遺伝子を導入すること(すなわち、遺伝子欠失及び/又は導入遺伝子(cDNA)挿入により改変される)は、ユニバーサルドナー多能性幹細胞を生じ得ることが発見された。
【0092】
本明細書に提供されるのは、(i)β2ミクログロブリン及びTAP1コード遺伝子が、HLA-I発現を排除しかつ同種CD8+T細胞による直接認識を防止するように遺伝子改変されるか、(ii)HLA-II発現が排除され、ひいてはCD4+T細胞による直接認識を回避するか、又は(iii)NKG2Dリガンドコード遺伝子が、ナチュラルキラー(NK)細胞認識を回避するように遺伝子改変される、遺伝子操作された幹細胞である。
【0093】
また、本明細書に提供されるのは、幹細胞、並びに以下の免疫細胞:(i)CD8T細胞(すなわち、β2ミクログロブリン及びTAP1コード遺伝子中の遺伝子改変によるMHCクラスI発現の欠如に起因する)、(ii)CD4T細胞(すなわち、CD74及びCIITAコード遺伝子中の遺伝子改変によるMHCクラスII発現の欠如に起因する)、及び/又は(iii)NK細胞(すなわち、NKG2D(例えば、MICA、MICB、Raet1e、Raet1g、Raet1l、Ulbp1、Ulbp2、及びUlbp3)のリガンドをコードする遺伝子中の遺伝子改変に起因する)、による認識を回避する幹細胞株を作製する方法である。
【0094】
また、本明細書に提供されるのは、遺伝子操作幹細胞を作製するための方法であって、示される目的のために、以下の遺伝子(又は免疫回避因子):(i)補体固定の回避をもたらすCD46/Crry、CD55、及びCD59;(ii)HLA-E及びHLA-G単鎖三量体;NK細胞認識の回避をもたらす(マウスで示される)K-b単鎖三量体;(iii)貪食マクロファージの回避をもたらすCD47;(iv)誘導性自殺遺伝子をもたらすicasp9及びHSVチミジンキナーゼ(それぞれAP1903及びガンシクロビルによる死);並びに/又は(v)薬剤耐性をもたらすピューロマイシン及びネオマイシン耐性カセット、を発現させるために、ES細胞中のAAVS遺伝子座に構築物を送達することを含む方法である。
【0095】
また、提供されるのは、遺伝子操作された多能性幹細胞で対象を治療する方法であり、対象は、I型糖尿病又は多発性硬化症などの自己免疫疾患を有するか、又は患者は、感染症(例えば、組織を破壊する感染症)を有し;対象は組織を損傷しており、損傷組織は、遺伝子操作幹細胞(例えば、膵臓細胞、オリゴデンドロサイト)によって再生される。
【0096】
β2ミクログロブリン及びTAP1コード遺伝子への遺伝子改変
本開示は、β2ミクログロブリン及びTAP1コード遺伝子における遺伝子改変を提供する。これは、HLA-I発現を排除し、同種CD8+T細胞による直接認識を防ぐ。本明細書に記載するように、遺伝子改変は不活性化変異であり得る。
【0097】
本開示はさらに、CD74及びCIITAコード遺伝子中の変異を提供する。これは、HLA-II発現を排除し、CD4+T細胞による直接認識を回避する。以前の研究は、HLA-I及びHLA-IIの発現を別々に防ぐための遺伝子の変異について記載している。しかし、本明細書に記載されるように(例えば、実施例2、図6参照)、2つの追加の遺伝子が標的化されると特定された。例えば、HLA-I発現の防止のために、TAP1変異の使用が記載される。どちらの遺伝子欠失もそれ自体はHLA-I発現を完全に消失させるのに十分ではないので、β2Μに加えてTAP1の欠失が重要であることが示された。先行研究は、TAP1欠損細胞に対するCD8+T細胞の残存反応性を実証し、β2M欠損移植片は、血清β2Μの取得を通してβ2Mが十分な宿主中でHLA-I発現を再発現できる。別の例として、HLA-II発現を防止するために、変異CD74について説明する。いくつかの細胞型はCIITAから独立してHLA-IIを発現できるので、CIITAに加えてCD74を欠失させることは重要であることが示された。HLA-I及びIIを消失させるための主要な変異に依存して、これらの追加の遺伝子を除去して、漏れのあるHLA発現を防止できる。
【0098】
本明細書に記載されるように、不活性化変異は、HLA-I又はHLA-IIの発現の低下又は除去をもたらす遺伝子中の任意の変異であり得る(例えば、図6参照)。不活性化変異は、リーディングフレームを変更し機能性タンパク質の翻訳を妨げる、ヌクレオチドの挿入又は欠失を含んでよい。例えば、TAP1遺伝子の一方の対立遺伝子における2塩基対の欠失及びTAP1遺伝子の他の対立遺伝子における1塩基対の挿入は、翻訳の早期終結及びHLA-I発現の欠如をもたらした(例えば、図6参照)。
【0099】
本開示はさらに、これらのHLA欠損細胞が、同種ヒト免疫系で再構成された異種キメラマウスにおいて奇形腫を生成することを示す。本明細書で示されるように、この細胞はHLA-I及びHLA-IIの発現を欠くことが実証されている。さらに、これらの細胞由来の単球は、同種T細胞の増殖を刺激できないことが示された。本明細書においてさらに実証されるように、改変細胞は、ヒト免疫系で再構成されたマウスによる拒絶反応を回避することが示された。AAVS標的化構築物は、全ての意図された遺伝子を正しく発現し、ナチュラルキラー細胞の認識及び補体沈着に対する耐性を付与することも本明細書において実証された。
【0100】
現在、以前の手法のいずれも、HLA-I及びHLA-IIの破壊を組み合わせなかったと考えられている。また、以前の手法で標的とされた遺伝子は、HLA-I及びHLA-II発現の完全な喪失を媒介するのに不十分であると考えられる。
【0101】
食作用及びNK細胞活性化の防止
本開示はさらに、ナチュラルキラー(NK)細胞認識を回避するように、NKG2Dのリガンドをコードする遺伝子中に生成される変異を提供する。NK細胞は、多くの異なる認識様式を有し、NKG2Dは全てのNK細胞上で発現することが知られている唯一の活性化受容体である。NKG2Dリガンドの消失はこのように、従来技術で説明される他の代替戦略とは対照的に、全てのNK細胞による反応性を消失させる。
【0102】
本開示はさらに、ヒトES細胞中のAAVS遺伝子座へ送達される構築物の設計及び検証を提供する。これらの構築物は、NK細胞認識(HLA-E及びHLA-G単鎖三量体)、及び食作用(CD47及びHLA-G単鎖三量体)の回避をもたらす遺伝子をコードする。これらの遺伝子の発現は実質的に、NK細胞の活性化を低下させる(例えば、実施例2参照)。これらの構築物は同時に、誘導性自殺遺伝子(例えば、icasp9及びHSVチミジンキナーゼ)及び薬剤耐性カセット(例えば、ピューロマイシン及びネオマイシン耐性)をコードする。これは、副作用の場合における移植片の選択的除去、及びクローン細胞株を特定するための培養中の容易な薬剤選択を可能にする。まとめると、このプロセスは、移植のために免疫原性を大幅に低下させたヒト多能性幹細胞の作製を可能にする。
【0103】
補体沈着の防止
本開示はさらに、ヒトES細胞中のAAVS遺伝子座に送達される構築物の設計及び検証を提供する。これらの構築物は、補体固定(例えば、CD46/Crry、CD55、及びCD59)の回避をもたらす遺伝子をコードする。細胞上での古典的及び代替的補体沈着を防止するためのCD46/Crry、CD55、及びCD59発現の使用が、本明細書に記載される(例えば、実施例2参照)。古典的及び代替的補体沈着の防止は、抗体依存的免疫拒絶の防止に重要であると考えられている。
【0104】
分子操作
以下の定義及び方法は、本発明をより良く定義するため及び、本発明の実施において当業者を導くために提供される。特に断りのない限り、用語は、従来の用法に従って、関連技術分野の当業者によって理解されるべきである。
【0105】
本明細書で使用する用語「異種DNA配列」、「外因性DNAセグメント」又は「異種核酸」はそれぞれ、特定の宿主細胞にとって外因性の供給源に由来する配列か、又は同じ供給源に由来する場合は、その元の形態から改変される配列を指す。そのため、宿主細胞中の異種遺伝子は、特定の宿主細胞に対して内因性であるが、例えば、DNAシャッフリングの使用を介して改変された、遺伝子を含む。この用語はまた、天然に存在するDNA配列の、非天然の複数のコピーを含む。そのため、この用語は、細胞に対して外因性又は異種であるDNAセグメント、又は細胞に対して同種であるが、そのエレメントが通常見られない宿主細胞核酸内の位置にあるDNAセグメントを指す。外因性DNAセグメントは発現されて外因性ポリペプチドを生じる。「相同」なDNA配列は、それが導入される宿主細胞と天然に関連するDNA配列である。
【0106】
発現ベクター、発現構築物、プラスミド、又は組み換えDNA構築物は一般的に、例えば、宿主細胞において特定の核酸の転写又は翻訳を可能にする一連の特定の核酸エレメントを用いて、組み換え手段又は直接化学合成によることを含む、ヒトの介入によって作製された核酸を指すと理解される。発現ベクターは、プラスミド、ウイルス、又は核酸フラグメントの一部であり得る。典型的には、発現ベクターは、プロモーターに作動可能に連結された転写される予定の核酸を含んでよい。
【0107】
「プロモーター」は一般的に、核酸の転写を指示する核酸制御配列として理解される。誘導性プロモーターは一般的に、特定の刺激又は活性化剤に応答して作動可能に連結された遺伝子の転写を媒介するプロモーターと理解される(例えば、ドキシサイクリン誘導性プロモーター又はテトラサイクリン誘導性プロモーター)。プロモーターは、転写の開始部位付近に必要な核酸配列、ポリメラーゼII型プロモーターの場合の、TATAエレメントなど、を含んでよい。プロモーターは必要に応じて、遠位エンハンサー又はリプレッサーエレメントを含んでよく、それらは転写の開始部位から数千塩基対ほどに位置し得る。
【0108】
本明細書で使用する「転写可能核酸分子」は、RNA分子に転写され得る任意の核酸分子を指す。転写可能な核酸分子が機能的mRNA分子に転写され、それが翻訳され、ひいては、タンパク質産物として発現されるように細胞中に構築物を導入するための方法が知られている。構築物はまた、目的の特定のRNA分子の翻訳を阻害するために、アンチセンスRNA分子を発現できるように構成され得る。本開示の実施のために、構築物及び宿主細胞を調製し使用するための従来の組成物並びに方法は、当業者に周知である(Sambrook及びRussel(2006)分子クローニングからの要約プロトコル:実験室マニュアル(Condensed Protocols from Molecular Cloning:a Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory Press,ISBN-10:0879697717;Ausubelら(2002)分子生物学のショートプロトコル、(Short Protocols in Molecular Biology,第5版,最新プロトコル,ISBN-10:0471250929;Sambrook及びRussel(2001)分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:a Laboratory Manual),第3版,Cold Spring harbor Laboratory Press,ISBN-10:0879695773;Elhai,J.及びWolk,C.P.1988.酵素学における方法(Methods in Enzymology)167,747-754)。
【0109】
「転写開始部位」又は「開始部位」は、転写配列の一部である最初のヌクレオチドを取り囲む位置であり、それは位置+1としても定義される。この部位に関して、遺伝子の全ての他の配列及びその制御領域が番号付けされ得る。下流の配列(すなわち、3’方向でのさらなるタンパク質コード配列)は正と命名でき、上流配列(5’方向での制御領域のほとんど)は負と命名される。
【0110】
「作動可能に連結された」又は「機能的に連結された」は好ましくは、一方の機能が他方によって影響されるような、単一核酸断片上の核酸配列の結合を指す。例えば、調節DNA配列がコードDNA配列の発現に影響を与える(すなわち、コード配列又は機能的RNAがプロモーターの転写制御下にある)ように2つの配列が位置する場合に、調節DNA配列は、RNA又はポリペプチドをコードするDNA配列「に作動可能に連結された」又は「と結合した」と言われる。コード配列は、センス方向又はアンチセンス方向で調節配列に作動可能に連結されてよい。2つの核酸分子は、単一の連続した核酸分子の一部であってもよく、隣接していてもよい。例えば、プロモーターが細胞中で目的の遺伝子の転写を調節又は媒介する場合に、そのプロモーターは目的の遺伝子に作動可能に連結される。
【0111】
「構築物」は一般的に、1以上の核酸分子が作動可能に連結された核酸分子を含む、ゲノム組み込み又は自己複製可能な任意の供給源に由来する、プラスミド、コスミド、ウイルス、自己複製核酸分子、ファージ、又は直鎖状若しくは環状の、一本鎖若しくは二本鎖のDNA核酸分子又は一本鎖若しくは二本鎖のRNA核酸分子などの任意の組み換え核酸分子として理解される。
【0112】
本開示の構築物は、3’転写終結核酸分子に作動可能連結された転写可能核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含有してよい。加えて、構築物は、例えば、3’非翻訳領域(3’UTR)からの追加の調節核酸分子を含んでよいが、これに限定されない。構築物は、翻訳開始に重要な役割を果たすことができかつ発現構築物の遺伝的構成要素でもあり得るmRNA核酸分子の5’非翻訳領域(5’UTR)を含んでよいが、これに限定されない。これらの追加の上流及び下流の調節核酸分子は、プロモーター構築物上に存在する他の要素に対して天然又は異種である供給源に由来し得る。
【0113】
用語「形質転換」は、遺伝的に安定な遺伝形質をもたらす、宿主細胞のゲノム中への核酸断片の移送を指す。形質転換核酸断片を含有する宿主細胞は、「トランスジェニック」細胞と呼ばれ、トランスジェニック細胞を含む生物は、「トランスジェニック生物」と呼ばれる。
【0114】
「形質転換された」、「トランスジェニック」、及び「組み換え」は、その中に異種核酸分子が導入される細菌、シアノバクテリア、動物又は植物などの宿主細胞又は生物を指す。核酸分子は、一般的に当技術分野で知られ開示されているように、安定にゲノム中に統合できる(Sambrook 1989;Innis 1995;Gelfand 1995;Innis & Gelfand 1999)。公知のPCRの方法は、対のプライマー、ネステッドプライマー、単一特異的プライマー、縮重プライマー、遺伝子特異的プライマー、ベクター特異的プライマー、及び部分的ミスマッチプライマーなどを用いる方法を含むが、これらに限定されない。用語「非形質転換」は、形質転換プロセスを介していない正常細胞を指す。
【0115】
「野生型」は、任意の既知の変異なしに天然に見出されるウイルス又は生物を指す。
【0116】
上記の必要なパーセント同一性を有しかつ必要な発現タンパク質の活性を保持するバリアントヌクレオチド及びそれらがコードするポリペプチドの設計、作製、並びに試験は、当業者の範囲内である。例えば、変異体の定方向進化及び迅速な単離は、Linkら(2007)Nature Reviews 5(9),680-688;Sangerら(1991)Gene 97(1),119-123;Ghadessyら(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98(8)4552-4557を含むが、これらに限定されない参考文献に記載される方法に従ってよい。そのため、当業者は、例えば、本明細書に記載の参照配列に対して少なくとも95~99%の同一性を有する多数のヌクレオチド及び/又はポリペプチド変異体を作製し、当技術分野で日常的な方法に従って所望の発現型についてそのようにスクリーニングできる。
【0117】
ヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列同一性パーセント(%)は、2つの配列を整列した時に参照配列と比較して、候補配列中のヌクレオチド又はアミノ酸残基と同一であるヌクレオチド又はアミノ酸残基のパーセンテージとして理解される。パーセント同一性を決定するために、配列が整列され、必要に応じて、最大パーセント配列同一性を達成するためにギャップが導入される。パーセント同一性を決定するための配列アラインメント手順は、当業者によく知られている。多くの場合、BLAST、BLAST2、ALIGN2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウエアが、配列を整列するために使用される。当業者は、比較される配列の全長に対して最大のアラインメントを達成するのに必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定できる。配列が整列されると、所与の配列Bとの、又は所与の配列Bに対する所与の配列A(これは、所与の配列Bとの、若しくは所与の配列Bに対する特定のパーセント配列同一性を有するか、又は含む所与の配列Aとして代替的に表現できる)の%配列同一性を、パーセント配列同一性=X/Y100(式中、Xは、A及びBの配列アラインメントプログラムの又はアルゴリズムのアラインメントにより同一の一致としてスコア化された残基の数であり、YはB中の残基の総数である)として計算できる。配列Aの長さが配列Bの長さと等しくない場合は、Bに対するAのパーセント配列同一性は、Aに対するBのパーセント配列同一性と等しくない。
【0118】
一般的に、必要な活性が保持される限り、保存的置換を任意の位置で行うことができる。いわゆる保存的交換が実行されてよく、そこでは交換されるアミノ酸が元のアミノ酸と類似の性質を有し、例えば、AspによるGlu、AsnによるGln、IleによるVal、IleによるLeu、及びThrによるSerの交換である。例えば、類似の特性を有するアミノ酸は、脂肪族アミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン);ヒドロキシル又は硫黄/セレン含有アミノ酸(例えば、セリン、システイン、セレノシステイン、スレオニン、メチオニン);環状アミノ酸(例えば、プロリン);芳香族アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン);塩基性アミノ酸(例えば、ヒスチジン、リジン、アルギニン);又は酸性アミノ酸及びそれらのアミド(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン)であり得る。欠失は、直接結合によるアミノ酸の置換である。欠失の位置は、ポリペプチドの末端及び個々のタンパク質ドメイン間の連結を含む。挿入は、ポリペプチド鎖中へのアミノ酸の導入、1以上のアミノ酸によって正式に置換される直接結合である。アミノ酸配列は、例えば、活性が改善されるか又は調節が変更されたポリペプチドを生成できる当技術分野で知られるコンピュータシミュレーションプログラムの助けを借りて調節できる。この人工的に作製されたポリペプチド配列に基づき、そのような調節ポリペプチドをコードする対応する核酸分子を、所望の宿主細胞の特異的なコドン出現頻度を用いてインビトロで合成できる。
【0119】
宿主細胞は、当技術分野で公知の標準的な様々な技術を用いて形質転換できる(例えば、Sambrook及びRussel(2006)分子クローニングからの要約プロトコル:実験室マニュアル(Condensed Protocols from Molecular Cloning:a Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory Press,ISBN-10:0879697717;Ausubelら(2002)分子生物学のショートプロトコル、(Short Protocols in Molecular Biology,第5版,最新プロトコル,ISBN-10:0471250929;Sambrook及びRussel(2001)分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:a Laboratory Manual),第3版,Cold Spring harbor Laboratory Press,ISBN-10:0879695773;Elhai,J.及びWolk,C.P.1988.酵素学における方法(Methods in Enzymology)167,747-754)参照)。そのような技術は、ウイルス感染、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、マイクロプロジェクタイル媒介送達、受容体媒介性取り込み、細胞融合、及びエレクトロポレーションなどを含むが、これらに限定されない。トランスフェクト細胞を選択し増殖して、宿主細胞ゲノムに安定に組み込まれた発現ベクターを含む組み換え宿主細胞を提供できる。
【0120】
【表1】
【0121】
宿主細胞に導入され得る例示的な核酸は、例えば、別の種からのDNA配列若しくは遺伝子、又はさらには、同じ種において共に派生するか存在するが、遺伝子操作法によって受容細胞に組み込まれる遺伝子若しくは配列を含む。用語「外因性の」はまた、通常は形質転換細胞中に存在しないか、又は形質転換DNAセグメント若しくは遺伝子に見られるような形態、構造などでおそらく単に存在しない遺伝子、又は通常存在し及び例えば、過剰発現させるために、天然の発現パターンとは異なる方法で発現することが望まれる遺伝子を指すと意図される。そのため、用語「外因性の」遺伝子又はDNAは、類似の遺伝子がすでにそのような細胞中に存在し得るか否かにかかわらず、レシピエント細胞中に導入される任意の遺伝子又はDNAセグメントを指すと意図される。外来DNAに含まれるDNAの種類は、遺伝子のアンチセンスメッセージを含有するDNA配列、又は遺伝子の合成若しくは改変バージョンをコードするDNA配列などの、既に細胞中に存在するDNA、生物の同じ種類の別の個体からのDNA、異なる生物からのDNA、又は外部で作製されたDNAを含んでよい。
【0122】
本明細書に記載の手法に従って開発される宿主株は、当技術分野で公知のいくつかの手段によって評価できる(例えば、Studier(2005)Protein Expr Purif.41(1),207-234;Gellissen編集(2005)組み換えタンパク質の生成:新規微生物及び真核生物発現系(Production of Recombinant Proteins:Novel Microbial and Eukaryotic Expression Systems),Wiley-VCH,ISBN-10:3527310363;Baneyx(2004)タンパク質発現技術(Protein Expression Technologies),Taylor & Francis,ISBN-10:0954523253参照)。
【0123】
遺伝子のダウンレギュレーション又はサイレンシングの方法は、当技術分野で公知である。例えば、発現されるタンパク質の活性は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、タンパク質アプタマー、ヌクレオチドアプタマー、及びRNA干渉(RNAi)(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、及びマイクロRNA(miRNA)(例えば、ハンマーヘッドリボザイム及び低分子ヘアピン型RNAについて記載しているFanning及びSymonds(2006)Handb Exp Pharmacol.173,289-303G;標的化デオキシリボヌクレオチド配列について記載しているHelene,C,ら(1992)Ann.N.Y.Acad.Sci.660,27-36;Maher(1992)Bioassays 14(12):807-15;アプタマーについて記載しているLeeら(2006) Curr Opin Chem Biol.10,1-8;RNAiについて記載しているReynoldsら(2004) Nature Biotechnology 22(3),326-330;RNAiについて記載しているPushparaj及びMelendez (2006) Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology 33(5-6),504-510;RNAiについて記載しているDillonら(2005) Annual Review of Physiology 67,147-173;RNAiについて記載しているDykxhoorn及びLieberman (2005)Annual Review of Medicine 56,401-423)を使用してダウンレギュレート又は除去できる。RNAi分子は、様々な供給元(例えば、Ambion,TX;Sigma Aldrich,MO;Invitrogen)から市販されている。様々なアルゴリズムを用いるいくつかのsiRNA分子設計プログラムは、当技術分野で公知である(例えば、Cenixアルゴリズム,Ambion;BLOCK-iT(商標) RNAiデザイナー,Invitrogen;siRNAホワイトヘッド研究所設計ツール、バイオインフォマティクス&リサーチコンピューティング)。最適なsiRNA配列の定義における有力な特徴は、siRNAの末端のG/C含量、siRNAの特定の内部ドメインのTm、siRNAの長さ、CDS(コード領域)内の標的配列の位置、及び3’オーバーハングのヌクレオチド含量を含む。
【0124】
製剤
本明細書に記載の薬剤及び組成物は、例えば、レミントンの薬学(A.R.Gennaro,編)、第21版、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるISBN:0781746736(2005)に記載の1以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤を使用して、任意の従来の方法により製剤化できる。そのような製剤は、対象への適切な投与のための形態を提供するように適切な量の担体と共に、精製形態であり得る、治療有効量の本明細書に記載の生物学的活性剤を含有する。
【0125】
用語「製剤」は、ヒトなどの対象への投与に適した形態で薬剤を調製することを指す。そのため、「製剤」は、希釈剤又は担体を含む、薬学的に許容される賦形剤を含んでよい。
【0126】
本明細書で使用する用語「薬学的に許容される」は、許容できない薬理活性の損失又は許容できない有害な副作用を生じさせない物質又は成分と説明できる。薬学的に許容される成分の例は、米国薬局方(USP 29)及び国民医薬品(NF 24)、米国薬局方事務局、ロックビル、メリーランド州、2005(「USP/NF」)、又はより最新版の中のモノグラフを有するもの、及びFDAの継続的に更新される不活性成分を検索するオンラインデータベースにリストされた成分であり得る。USP/NFに記載されていない他の有用な成分なども使用され得る。
【0127】
本明細書で使用する用語「薬学的に許容される賦形剤」は、任意の及び全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤、又は吸収遅延剤を含んでよい。薬学的に活性のある物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で周知である(一般的に、レミントンの薬学(A.R.Gennaro編)、第21版、ISBN:0781746736(2005)参照)。任意の従来の媒体又は薬剤が活性成分と不適合である場合を除き、治療組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性成分も組成物に組み込むことができる。
【0128】
「安定な」製剤又は組成物は、少なくとも約1日、少なくとも約1週間、少なくとも約1ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約1年、又は少なくとも約2年などの商業上合理的な期間中、約0℃~約60℃などの都合の良い温度での貯蔵を可能にするのに十分な安定性を有する組成物を指してよい。
【0129】
製剤は、投与様式に適合しなければならない。本開示で使用する薬剤は、非経口、肺、経口、局所、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、眼、口腔、及び直腸を含むが、これらに限定されないいくつかの経路を用いる対象への投与のための公知の方法により製剤化できる。個々の薬剤はまた、1以上の追加の薬剤と組み合わせるか、又は他の生物学的活性若しくは生物学的に不活性な薬剤と共に投与され得る。そのような生物学的に活性のある薬剤又は不活性な薬剤は、薬剤(複数可)と流体連通又は機械的連通するか、又はイオン結合、共有結合、ファンデルワールス、疎水性、親水性又は他の物理的力によって薬剤(複数可)に結合され得る。
【0130】
制御放出(又は徐放性)製剤は、薬剤(複数可)の活性を延長し投与頻度を減少させるように処方できる。制御放出製剤は、作用の開始時間又は薬剤の血中レベルなどの他の特性を達成するために使用され、その結果、副作用の発生に影響を与えることができる。制御放出製剤は、所望の治療効果をもたらす製剤(複数可)の量を最初に放出し、かつ長期間にわたって治療効果のレベルを維持するための他の量の薬剤を徐々にかつ継続的に放出するように設計され得る。体内で薬剤のほぼ一定のレベルを維持するために、薬剤は、身体から代謝又は排出される薬剤の量を置き換える速度で剤形から放出され得る。薬剤の制御放出は、様々な誘導因子、例えば、pHの変化、温度変化、酵素、水、又は他の生理学的条件若しくは分子によって刺激され得る。
【0131】
本明細書に記載の薬剤又は組成物はまた、さらに以下で説明するように他の治療様式と組み合わせて使用できる。そのため、本明細書に記載の治療法に加えて、疾患、障害、又は病態の治療に有効であることが知られている他の療法を対象に提供することもできる。
【0132】
治療方法
また提供されるのは、ナチュラルキラー細胞の認識を回避しながら多能性幹細胞で疾患(例えば、病原体、感染症)を治療するために、それを必要とする対象における疾患(例えば、自己免疫疾患、自己免疫疾患によって破壊された組織、病原体、癌、酵素欠損症、又は神経変性疾患)を細胞ベースの療法(例えば、遺伝子操作幹細胞の分化した子孫)及び治療有効量の細胞ベースの治療剤の投与で治療するプロセスである。
【0133】
さらに、本発明の方法を用いて免疫拒絶反応を回避するように改変されたES細胞を用いて、患者の治療に使用するために現在開発されている任意の他の細胞型を作製できる。そのような分化した細胞は、免疫抑制剤を減らして又は免疫抑制剤を必要とせずに、そのような細胞を必要とする患者に投与される。
【0134】
本明細書に記載の方法は一般的に、それを必要とする対象に対して行われる。本明細書に記載の治療方法を必要とする対象は、組織損傷、病原体、若しくは感染症を発症するリスクを有する対象、そのリスクを有すると診断された対象、リスクを有することが疑われる対象、又はリスクがある対象であり得る。治療の必要性の決定は典型的には、病歴及び問題となっている疾患又は病態と一致する身体検査によって評価される。本明細書に記載の方法により治療可能な様々な病態の診断は、当業者の範囲内である。対象は、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、マウス、ラット、サル、ハムスター、モルモット、及び鶏、並びにヒトなどの哺乳動物を含む、動物対象であり得る。例えば、対象はヒト対象であり得る。
【0135】
一般的に、遺伝子操作幹細胞(例えば、遺伝子操作多能性幹細胞)の安全かつ有効な量は、例えば、望ましくない副作用を最小限に抑えながら対象において所望の治療効果を引き起こす量である。様々な実施形態において、本明細書に記載の遺伝子操作幹細胞に由来する有効量の形質細胞は実質的に、組織損傷、病原体、若しくは感染症を阻害するか、組織損傷、病原体、若しくは感染症の進行を遅らせるか、又は組織損傷、病原体、若しくは感染症の発症を制限できる。
【0136】
本明細書に記載の方法によれば、投与は、非経口、肺、経口、局所、皮内、小骨、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、眼、口腔、又は直腸投与であり得る。
【0137】
本明細書に記載の治療で使用される場合、遺伝子操作幹細胞(例えば、遺伝子操作多能性幹細胞)に由来する治療有効量の形質細胞は、純粋な形態で使用でき又は、そのような形態が存在する場合、薬学的に許容される賦形剤の存在下又は非存在下で、薬学的に許容される塩形態中で使用できる。例えば、本開示の化合物は、実質的に、組織損傷、病原体、若しくは感染症を阻害するか、組織損傷、病原体、若しくは感染症の進行を遅らせるか、又は組織損傷、病原体、若しくは感染症の発症を制限するのに十分な量で、任意の医療処置に適用可能な妥当な利益/リスク比にて投与できる。遺伝子操作幹細胞は、免疫系のいくつかの治療群の認識を回避する最小限の免疫原性であり得る。
【0138】
単一剤形を生成するために薬学的に許容される担体と組み合わせることができる本明細書に記載の組成物の量は、治療される宿主及び特定の投与様式に依存して変化する。必要な治療有効量はいくつかの個々の用量の投与により達成され得るので、各剤形の個々の用量に含有される薬剤の単位含量それ自体が治療有効量を構成する必要はないことは、当業者に理解される。
【0139】
本明細書に記載の組成物の毒性及び治療有効性は、細胞培養又は実験動物においてLD50(集団の50%に致死的な用量)及びED50(集団の50%における治療有効用量)を決定するための標準的な薬学的手順によって決定できる。毒性と治療効果の間の用量比は、LD50/ED50の比として表すことができる治療指数であり、より大きな治療指数は、当技術分野で一般的に最適であると理解されている。
【0140】
任意の特定の対象のための特定の治療有効用量レベルは、治療される障害及び障害の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物;対象の年齢、体重、一般的健康状態、性別及び食事;投与の時間;投与経路;使用される組成物の排出速度;治療期間;及び使用される特定の化合物と組み合わせて又はそれと同時に使用される薬剤などを含む様々な要因に依存する(例えば、Koda-Kimbleら(2004)Applied Therapeutics:The Clinical Use of Drugs,Lippincott Williams & Wilkins,ISBN 0781748453;Winter(2003) Basic Clinical Pharmacokinetics,第4版,Lippincott Williams & Wilkins,ISBN 0781741475;Sharqel(2004) Applied Biopharmaceutics & Pharmacokinetics,McGraw-Hill/appleton & Lange,ISBN 0071375503参照)。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるものより低いレベルで組成物の用量を開始すること、及び所望の効果が達成されるまで徐々に投与量を増加させることは、十分に当業者の範囲内である。所望であれば、効果的な毎日の用量を、投与の目的のために複数の用量に分割してもよい。その結果、単一用量組成物は、日用量を構成するために、そのような量又はその約数を含有し得る。しかしながら、本開示の化合物及び組成物の1日の総用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されると理解される。
【0141】
再び、本明細書に記載の状態、疾患、障害、及び病態の各々、並びに他のものは、本明細書に記載の組成物及び方法から利益を得ることができる。一般に、状態、疾患、障害、又は病態を治療することは、状態、疾患、障害、若しくは病態に罹患しているか、又はかかりやすい可能性があるが、まだその臨床症状若しくは亜臨床症状を経験又は呈していない哺乳動物における臨床症状の出現を予防すること又は遅延させることを含む。治療はまた、状態、疾患、障害、又は病態を阻害すること、例えば、疾患又はその少なくとも1つの臨床症状若しくは亜臨床症状の発症を阻止する又は低減することを含んでよい。さらに、治療は、疾患を軽減すること、例えば、状態、疾患、障害、若しくは病態又はその臨床症状若しくは亜臨床症状の少なくとも1つの退行を引き起こすことを含んでよい。治療される対象への利益は、統計的に有意であるか、又は対象若しくは医師に少なくとも知覚されるかのいずれかであり得る。
【0142】
遺伝子操作幹細胞由来の子孫の投与は、単一の事象として、又は治療の期間にわたって生じ得る。例えば、遺伝子操作幹細胞の子孫を、毎日、毎週、隔週、又は毎月投与できる。急性の病態の治療については、治療の期間は、通常、少なくとも数日である。特定の病態は、治療は数日~数週間延長し得る。例えば、治療は、1週間、2週間、又は3週間にわたって延長し得る。より慢性の疾患については、治療は、数週間~数ヶ月、又はさらに1年若しくはそれ以上延長し得る。
【0143】
本明細書に記載の方法に従う治療は、組織損傷、病原体、若しくは感染症に対する従来の治療法の前に、それと同時に、又はその後に行うことができる。
【0144】
遺伝子操作幹細胞の子孫は、抗生物質、抗炎症剤、又は別の薬剤などの別の薬剤と同時に又は連続して投与できる。例えば、遺伝子操作幹細胞の子孫は、抗生物質又は抗炎症剤などの別の薬剤と同時に投与できる。同時投与は、それぞれが遺伝子操作幹細胞の子孫、抗生物質、抗炎症剤、又は別の薬剤の1以上を含有する別々の組成物の投与を介して生じ得る。同時投与は、遺伝子操作幹細胞からの子孫、抗生物質、抗炎症剤、又は別の薬剤の2以上を含有する1つの組成物の投与を介して生じ得る。遺伝子操作幹細胞の分化した子孫は、抗生物質、抗炎症剤、又は別の薬剤と連続して投与できる。例えば、遺伝子操作幹細胞に由来する細胞は、抗生物質、抗炎症剤、若しくは別の薬剤の投与の前又は後に投与できる。
【0145】
投与
本明細書に記載の薬剤及び組成物は、当技術分野で公知の様々な手段で本明細書に記載の方法に従って投与できる。薬剤及び組成物は、外因性の物質又は内因性物質のいずれかとして治療的に使用できる。外因性の薬剤は、体外で生成又は製造され、身体に投与されるものである。内因性剤は、体内の他の臓器の内部への又は他の臓器への送達用のいくつかの種類の(生物学的又は他の)装置によって体内で生成又は製造されるものである。
【0146】
上述したように、投与は、非経口、肺、経口、局所、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、眼内、小骨、口腔、又は直腸投与であり得る。
【0147】
本明細書に記載の薬剤及び組成物は、当技術分野で周知の様々な方法で投与できる。投与は、様々な割合で所望の放出プロファイルを提供するために、例えば、経口摂取、直接注入(例えば、全身又は定位固定)、目的の因子を分泌するように操作された細胞の移植、薬剤放出生体材料、ポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、浸透圧システム、多層コーティング、微粒子、移植可能なマトリックス装置、ミニ浸透圧ポンプ、移植可能なポンプ、注射可能なゲル及びヒドロゲル、リポソーム、ミセル(例えば、最大で30μm)、ナノスフェア(例えば、1μm未満)、ミクロスフェア(例えば、1~100μm)、貯蔵装置、上記のいずれかの組み合わせ、又は他の適切な送達ビヒクルを含む方法を含んでよい。薬剤又は組成物の制御放出送達の他の方法は、当業者に知られており、本開示の範囲内にある。
【0148】
送達システムは、例えば、特定の臓器若しくは腫瘍にインスリン又は化学療法剤を送達するために使用されるものと同様の方法で薬剤又は組成物を投与するために使用できる、注入ポンプを含んでよい。典型的には、このようなシステムを使用して、薬剤又は組成物は、制御される期間にわたり選択部位で薬剤を放出する、生分解性で生体適合性のポリマーインプラントと組み合わせて投与できる。ポリマー材料の例は、ポリ無水物、ポリオルトエステル類、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレン酢酸ビニル、及びコポリマー並びにそれらの組み合わせを含む。加えて、制御放出システムは、治療標的の近傍に配置でき、そのため、全身用量の一部のみを必要とする。
【0149】
薬剤は、カプセル化され、様々なキャリア送達システムで投与できる。キャリア送達システムの例は、マイクロスフェア、ヒドロゲル、高分子インプラント、スマートポリマー担体、及びリポソームを含む(一般に、Uchegbu及びSchatzlein編(2006) Polymers in Drug Delivery,CRC,ISBN-10:0849325331参照)。分子又は生体分子薬剤送達用の担体ベースのシステムは、細胞内送達を提供し、生体分子/薬剤放出速度を調節し、その作用部位に到達する生体分子の割合を増加させ、その作用部位への薬剤の輸送を向上させ、他の薬剤又は賦形剤との共局在沈着を可能にし、インビボでの薬剤の安定性を向上させ、クリアランスを減らすことによってその作用部位での薬剤の滞留時間を延長し、非標的組織への薬剤の非特異的送達を減少させ、薬剤によって引き起こされる炎症を減少させ、薬剤の高い初期用量による毒性を減少させ、薬剤の免疫原性を変更し、投与頻度を減少させ、生成物の味を改善し、又は生成物の貯蔵寿命を向上させることができる。
【0150】
キット
また、提供されるのは、キットである。そのようなキットは、本明細書に記載の薬剤又は組成物、特定の実施形態において、投与のための説明書を含んでよい。そのようなキットは、本明細書に記載の方法の実行を容易にすることができる。キットとして供給される場合、組成物又は組成物を作製するための異なる成分は、別々の容器に包装され、使用直前に混合できる。成分は、前駆細胞、ユニバーサル多能性幹細胞の子孫、及びIL-4、IFNγ、BMP4、bFGF、VEGF、IL-6、IGF1、IL-11、SCF、又はEPOなどのインビトロで治療用細胞を作製するのに使用される試薬を含むが、これらに限定されない。成分のそのような別々の包装は、所望であれば、組成物を含有する1以上の単位剤形を含有し得るパック又はディスペンサー装置で提供できる。パックは、例えば、金属又はブリスターパックなどのプラスチックホイルを含み得る。成分のそのような別々の包装はまた、特定の場合において、成分の活性を失うことなく長期保存を可能にし得る。
【0151】
キットはまた、別々に包装された凍結乾燥有効成分に添加される、例えば、滅菌水又は生理食塩水などの別々の容器に試薬を含んでもよい。例えば、密閉ガラスアンプルは、凍結乾燥成分を含有してよく、滅菌水、滅菌生理食塩水又は窒素などの中性非反応性ガス下で包装された無菌の各々を別々のアンプル中に含有してよい。アンプルは、ガラス、ポリカーボネートなどの有機ポリマー、ポリスチレン、セラミック、金属、又は試薬を保持するために典型的に使用される任意の他の材料などの任意の適切な材料からなり得る。適切な容器の他の例は、アンプルと同様の物質から製造され得るボトル、及びアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた内部からなり得る包装材料を含む。他の容器は、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、及びシリンジなどを含む。容器は、皮下注射針によって貫通され得るストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有していてよい。他の容器は、除去時に成分を混合するのを可能にする、容易に除去可能な膜によって分離された2つの区画を有し得る。除去可能な膜は、ガラス、プラスチック、及びゴムなどであり得る。
【0152】
特定の実施形態において、キットは、説明書と共に供給できる。説明書は、紙又は他の基板上に印刷され得、かつ/又は、フロッピーディスク、ミニCD-ROM、CD-ROM、DVD-ROM、ジップディスク、ビデオテープ、及びオーディオテープなどの電子可読媒体として供給され得る。詳細な説明書は、物理的にキットに付随していなくてよく、代わりに、ユーザは、キットの製造業者又は販売業者によって指定されたインターネットウェブサイトに導かれ得る。
【0153】
分子生物学プロトコルを利用する本明細書に記載の組成物及び方法は、当技術分野で公知の標準的な様々な技術に従い得る(例えば、Sambrook及びRussel(2006)分子クローニングの要約プロトコル:実験室マニュアル(Condensed Protocols from Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory Press,ISBN-10:0879697717;Ausubelら(2002) 分子生物学の簡略プロトコル(Short Protocols in Molecular Biology),第5版,Current Protocols,ISBN-10:0471250929;Sambrook及びRussel(2001)分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: a Laboratory Manual),第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,ISBN-10: 0879695773;Elhai,J.及びWolk,C.P.1988.Methods in Enzymology 167,747-754;Studier(2005) Protein Expr Purif.41(1),207-234;Gellissen編(2005)組み換えタンパク質の生成:新規微生物及び真核生物発現系(Production of Recombinant Proteins:Novel Microbial and Eukaryotic Expression Systems),Wiley-VCH,ISBN-10:3527310363;Baneyx(2004)Protein Expression Technologies,Taylor & Francis,ISBN-10:0954523253参照)。
【0154】
本明細書に記載の定義及び方法は、本開示をより良く定義するため、及び本開示の実施において当業者を導くために提供される。特に断りのない限り、用語は、関連技術分野の当業者によって従来の用法に従って理解されるべきである。
【0155】
いくつかの実施形態において、本開示の特定の実施形態を説明及び請求するために使用される成分の量を表す数字、分子量などの特性、及び反応条件などは、場合によって、用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。いくつかの実施形態において、使用される用語「約」は、値が、その値を決定するために使用される装置又は方法についての平均の標準偏差を含むことを示すために使用される。いくつかの実施形態において、記載された説明書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、特定の実施形態によって得られることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。いくつかの実施形態において、数値パラメータは、報告された有効数字の数に照らして、通常の丸め技法を適用することによって解釈されるべきである。広範な範囲の本開示のいくつかの実施形態を記載する数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値は、実用的なほど正確に報告される。本開示のいくつかの実施形態で提示される数値は、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必ず生じる特定の誤差を含有し得る。値の範囲の列挙は、本明細書では、単に範囲内に入る各々別々の値を個々に指す速記方法として役立つことを意図している。本明細書において特に示されない限り、各個々の値は、それが個々に本明細書に列挙されるように、本明細書に組み込まれる。
【0156】
いくつかの実施形態において、特定の実施形態を説明する文脈において(特に、以下の請求項の特定の文脈において)使用される用語「1つ(a)」及び「1つ(an)」及び「その」並びに同様の参照は、具体的に、特に断りのない限り、単数と複数の両方を包含すると解釈できる。いくつかの実施形態において、代替物のみを指すことを明示的に示すか、又は代替物が相互に排他的でない限り、特許請求の範囲を含む本明細書で使用される用語「又は」は、「及び/又は」を指すために使用される。
【0157】
用語は「含む(comprise)」、「有する」及び「含む(include)」は、オープンエンドの連結動詞である。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」及び「含む(including)」などのこれらの動詞の1以上の任意の形態又は時制も、オープンエンドである。例えば、1以上の工程を「含む(comprises)」、「有する(has)」又は「含む(includes)」任意の方法は、それらの1以上の工程のみを所有することに限定されるものではなく、他の未記載の工程も包含できる。同様に、1以上の特徴を「含む(comprise)」、「有する(has)」又は「含む(include)」任意の組成物又は装置は、それらの1以上の特徴のみを所有することに限定されるものではなく、他の未記載の特徴を包含できる。
【0158】
特に本明細書に示されないか又は特に明らかに文脈と矛盾しない限り、本明細書に記載の全ての方法は、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書に特定の実施形態に関して提供される任意の及び全ての例、又は例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本開示をより良く理解することを意図しており、特に請求される本開示の範囲を限定するものではない。本明細書中の言語は、本開示の実施に不可欠な任意の非請求要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0159】
本明細書に開示される本開示の代替要素又は実施形態のグループ分けは、制限として解釈されるべきではない。各グループのメンバーは、グループの他のメンバー又は本明細書に見られる他の要素を指し、それらを個別に、又はそれらの任意の組み合わせで請求できる。グループの1以上のメンバーは、利便性又は特許性の理由のためにグループの中に含まれるか、又はグループから除去できる。任意のそのような包含又は除去が生じる場合、明細書は、本明細書では、改変され、ひいては、添付の特許請求の範囲で使用される全てのマーカッシュグループの記載を満たすようにグループを含有するものとみなされる。
【0160】
本出願で引用した全ての刊行物、特許、特許出願、及び他の参考文献は、各個々の刊行物、特許、特許出願又は他の参考文献が、全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されるのと同程度に、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。参考文献の引用は、本明細書では、そのようなものが本開示の先行技術であることを認めるものと解釈してはならない。
【0161】
詳細に本開示を説明してきたが、添付の特許請求の範囲で定義される本開示の範囲を逸脱することなく、修正、変更、及び同等の実施形態が可能であることは明らかである。さらに、本開示における全ての実施例は、非限定的な例として提供されることが理解されるべきである。
【0162】
実施例
以下の非限定的な例は、本開示をさらに例示するために提供される。以下の実施例に開示される技術は、本発明者らが本開示の実施において十分に機能することを見出した手法を表し、ひいては、その実施のための形態の例を構成すると考えることができることは、当業者によって理解されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示される特定の実施形態において多くの変更が行われ、さらに、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく同様又は類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【0163】
実施例1:広範な中和抗体を生成する移植可能な形質細胞へのヒトES細胞の分化
以下の実施例は、広範な中和抗体を生成する移植可能な形質細胞へのヒトES細胞の分化を説明する。
【0164】
骨髄長命形質細胞は感染又はワクチン接種後に血清抗体を維持する
最も臨床的に使用されるワクチンは、中和抗体の生成及び維持に依存する。その結果、ワクチン接種後の保護の主要な相関は、免疫化によって誘発される形質細胞由来の抗体の量、親和性、エピトープ特異性、及び持続時間である。形質細胞は、毎秒数千個の抗体分子を分泌しそのトランスクリプトームのほぼ70%を抗体合成に費やす最終的に分化したBリンパ球である。T細胞依存性抗体応答の最初の数日の間、形質細胞は数日間のみ生存しその後アポトーシスを受ける。徐々により高い親和性の抗体を発現する他の形質細胞は、その後、胚中心反応から作製される。これらの親和性成熟形質細胞は、最高で数十年存続し、主に骨髄に存在し得る。これらの長命形質細胞は、抗原の存在に関わらず、かつ細胞分裂せずに抗体を構成的に分泌し、体液性免疫の主要な決定因子である。それらの多産の抗体分泌速度のために、わずか約3つの抗原特異的長命形質細胞由来の抗体に対応する免疫血清のたった1μlが、特に致死的な西ナイルウイルス感染からナイーブマウスを保護するのに十分であることが示された。本明細書に記載のデータは、これらの細胞が中和抗体を発現する場合の、それらの保護効力を実証する。
【0165】
hES細胞から二次造血前駆体を作製する方法
抗原特異的な移植可能長命形質細胞の拡張可能な供給源を開発するために、H1ヒト胚性幹細胞を利用した。これらは、最もよく特徴付けられたヒトES細胞であり、最小の系統バイアスを有し、かつ容易に造血細胞を作製する。造血は、少なくとも2つの別々の波:一次及び二次で生じる。一次造血は、赤血球及び骨髄系統の制限されたセットを作製する。これとは対照的に、二次造血は最終的に、リンパ球を含む成人型の血液細胞を生じさせる。そのため、hES細胞の機能の主要な治療目標は、二次造血前駆体を作製することであった。H1 hES細胞を使用する、二次造血細胞前駆体である二次造血内皮を再生可能に作製する方法は、Sturgeonら,Nat Biotech,2014に記載されるように最適化された。方法は、プロセスの2日目に標準Wntシグナル伝達活性化の重要な工程を含む、胚葉誘導中のシグナルの連続操作を用いる(例えば、図1A参照)。これは最終的に、本来はこの可能性を欠く多能性株によってでさえ、T細胞の作製を可能にする(例えば、図1B参照)。重要なことに、これらの分化は定義された無血清条件下で行われ、それにより再現性を最大限にし容易なトラブル解決作業を可能にする。
【0166】
二次造血前駆細胞からB細胞を得るための手法の開発
二次造血前駆体を作製して、これらの前駆体をB細胞に分化させる方法を調査した。ヒトES細胞からの堅牢なB細胞分化を報告した研究は現在までほとんどなく、これらの手法は、成熟B細胞を作製できなかったか、又は1種の特定のiPS株でのみ実行できたかのいずれかであった。これらの手法のいずれも、定義された条件を使用しておらず、現在試験されるhES細胞株のいずれかにこれらの手法を適応することは成功していない。したがって、造血内皮の組み合わせを作製し(例えば、図1参照)、その後に、B系統促進転写因子PAX5の発現を行った。二次造血内皮細胞を、構成的に発現されるrTTA-T2A-GFP、すなわちリボソームスキッピング2A配列によりレポーターに連結されたドキシサイクリン誘導性転写活性化因子、及びドキシサイクリン誘導性プロモーターにより促進されるPAX5をコードするレンチウイルスベクターで形質導入した(例えば、図2A参照)。形質導入細胞はしたがって、rTTA及びGFPを構成的に発現するが、PAX5をドキシサイクリン処理時にのみ発現する。20日間のFlt3L、SCF、IL7、及びMS5間質細胞との共培養後に、B細胞がドキシサイクリン処理時にのみ観察された(例えば、図2B参照)。そのため、定義された転写因子発現は、さもなければ扱いにくい前駆細胞によるBリンパ球生成を促進できる。
【0167】
hES細胞の内因性遺伝子座中へのインフルエンザ特異的抗体遺伝子のCRISPR/Cas9媒介導入
hES細胞からB細胞を作製する以前の試みは、表面抗原受容体発現のない未熟リンパ球をもたらした。この問題に対処するために、及び発達するB細胞に病原体特異性を提供するために、広範な中和インフルエンザ特異的抗体であるFI6からのVDJ及びVJ配列を含有する標的化カセット、並びにゼオシン及びハイグロマイシン耐性カセットをそれぞれ作製した(例えば、図3A参照)。これらの標的化カセットを、Cas9及び内因性免疫グロブリン重鎖及びκ軽鎖遺伝子座を標的化するためのガイドRNA(gRNA)と共に、H1 hES細胞にヌクレオフェクトした(ZFN又はTALENも使用できる)。細胞を、ゼオシン及びブラストサイジン耐性について選択し、適切な標的化を確認するためにPCR分析を行った(例えば、図3B参照)。これらの細胞を次いで、Creリコンビナーゼをコードする構築物でトランスフェクトし、薬剤耐性カセットを欠くサブクローンを単離した(例えば、FI6遺伝子でのIgH及びIgκ標的化並びに薬剤耐性カセットの除去のPCR確認を示す図3C参照)。
【0168】
B細胞から長命形質細胞を作製する方法
インビボで、B細胞からの短命ではなく長命の形質細胞の形成を促進する手がかりが最近特定された。長命形質細胞は、それらの短命対応物よりもはるかに多くのブドウ糖を運び込むことが示された。この増強されたグルコース取り込みは、抗体分泌及び呼吸のためのミトコンドリアのピルビン酸の上昇を促進し、長期的な形質細胞永続性に必要とされる。現在、グルコースの取り込みの増強は、長命形質細胞と短命形質細胞の有望な分離を可能にする唯一の既知の特性であると考えられている。外因性因子のインビトロでのスクリーニングを通して、IFNγ及びIL-4がグルコース取り込みを促進することが発見された(例えば、図4参照)。
【0169】
形質細胞の寿命を評価するための異種移植モデル
上記の研究に加えて、いくつかのプロトコルが、インビトロでのヒト形質細胞の長期生存を可能にする方法を報告している。しかしヒト形質細胞用の異種移植モデルの欠如が、インビボでの生存の分析を妨げている。この問題に対処するために、ヒト骨髄からの付着性線維芽細胞/間葉系幹細胞を免疫不全NOD-SCID IL2rγ-/-(NSG)マウスに皮下移植するシステムが開発された。骨に似た小骨が移植後約8週間目に形成され、完全なヒト微小環境を提供する。これらの小骨は、正常ヒト造血及び初代骨髄性悪性腫瘍を堅牢に支持し、そのうちのいくつかは、以前に異種移植片中で増殖したことがなかった。これらの小骨も正常な血漿細胞の生存を支持するか否かを試験するために、1~5×10個の初代ヒト骨骨髄CD138形質細胞を小骨に直接注入した。血清ヒトIgGが移植後2及び4週目に観察され、これらの時点間で抗体濃度は低下しなかった(例えば、図5A参照)。4週目に、形質細胞のフローサイトメトリー分析(例えば、図5B参照)及びELISPOT分析(データ示さず)のために小骨を採取した。抗体分泌細胞が、全ての注入小骨で観察された。これらのデータは、ヒトの小骨が、正常な長命形質細胞の生存及び機能を支持することを実証する。これは、その種のそのような最初のシステムであると考えられる。
【0170】
hES細胞からの病原体特異的B細胞の作製
定義された転写因子発現を用いて、図2図3でのようにFI6ノックインhES細胞からのB細胞発達を促進する。ゲノム統合レンチウイルスの使用は、解決の難しい翻訳戦略を提供し得る。因子が分化及び系統の関与に必要とされる時にのみ、それらを一過的に導入するために、改変RNAなどのそのような非組み込み手法を使用できる。これを支持して、PAX5発現は、EBF1と共に正のフィードバックループを媒介してB系統の関与を維持する。そのため、外因性PAX5の一過的発現は、内因性PAX5発現の安定維持を誘発し得る。その間に外因性PAX5発現がB細胞関与を促進するウィンドウを定義するために、ドキシサイクリンを、MS5細胞との共培養のD1~7、D8~14、又はD15~21にのみ投与する。同様の実験を、EBF1をコードするレンチウイルスを用いて実行する。CD19B細胞をフローサイトメトリーにより特定し、インフルエンザ特異的IgMの発現を、ヘマグルチニンテトラマー試薬を用いて、又は当技術分野で公知の方法及び試薬を用いて確認する。
【0171】
Pax5発現は、現在のシステムでB系統の関与を促進するが、B-1a細胞の優先的発達が生じ得る。これらのCD5発現B-1a細胞は、初期胎児前駆体に由来し、成体幹細胞には由来しない。B-1a細胞は、長命形質細胞を作製する能力を有することが示されていない。主としてB-1a細胞の分化がPAX5培養で観察される場合、ノッチシグナルを用いて、二次造血に向かう造血内皮細胞のさらなる分化を行うことができる。上記のように、造血内皮は、ノッチリガンドデルタ様4(DL4)を発現するOP9細胞と共培養されると、T細胞を生じさせる。ノッチリガンドは、二段階でT細胞の発達を促進する。まず、ノッチシグナルは二次造血を促進するのに不可欠である。第2に、ノッチシグナルは、造血前駆細胞からのT細胞関与を促進する。二次造血に必要とされるノッチシグナル伝達のウィンドウを定義するために、造血内皮をドキシサイクリン誘導性PAX5レンチウイルスベクターで形質導入し、次いで1~10日間、OP9-DL4細胞上で共培養する。ノッチシグナル伝達のこの過渡期間はHSC様細胞を促進することが示されており、HSC様細胞から従来のB-2及びB-1b細胞が得られる。形質導入細胞を、FACSにより精製し、ドキシサイクリンの存在下で20日間、B細胞分化のためにMS5細胞に移す。B-1a頻度を定量化するために、B細胞をCD5発現について調べる。
【0172】
成熟ヒトB細胞からの長命形質細胞の作製
上記のような成熟B細胞の作製に加えて、初代扁桃ナイーブB細胞を用いて、本発明の方法を用いる長命形質細胞への分化を最適化する。CD20CD27B細胞を、ヒトCD40L及びBAFFを発現するNIH 3T3細胞上で選別する。IL-4又はIFNγのいずれかを、1~100ng/mlの濃度で培養物に添加する。6日目に、CD38CD27形質芽球/形質細胞を、図5でのようにNSGマウスにおいて静脈内注射するか、又は小骨に直接注射する。血清ヒトIgGを隔週で試料採取する。血清抗体を8~16週にわたって維持する場合、動物を屠殺し、図5でのようにフローサイトメトリー分析及びELISPOT分析のために小骨を収集する。
【0173】
増強されたグルコース取り込みにもかかわらず、インビトロ由来の形質細胞は、インビボでの移植時に存続し得ない可能性がある。上で概説したインビトロ培養手法と平行して、他者によって報告された培養方法を使用する。形質細胞をインビトロで数ヶ月間維持できるトランスウェル培養法が利用可能である。この手法では、線維芽L細胞を、CD40Lを発現するように操作し、細胞をIL-21の存在下で培養する。後日、形質細胞を、トランスウェルフィルターを介して間質細胞から分離する。定期的な培地交換により、これらの細胞は静止状態を達成し、数ヶ月間維持できる。この分化システムを用いて、インビボでの長期維持のために形質細胞を小骨に移植する。
【0174】
感染症(例えば、インフルエンザ)の治療
hES細胞を、長命形質細胞に分化させ、動物モデルにおいてこの方法を検証するために、ヒトの小骨を保有するNOD-SCID-IL2rg(NSG)マウスに移植する。これらの小骨は、ヒト骨髄からの間葉系細胞をマウスに移植した後に形成される(上記のように)。1週間以上(flu特異的抗体濃度の上昇を可能にするのに十分な時間)の後、これらのマウスを、NSGマウスにとって通常は致死であるfluの用量で感染させる。マウスの生存及びインフルエンザウイルスの負荷を次いで測定する。
【0175】
ヒトでの治療的使用のために、免疫拒絶反応を避けることができる長命形質細胞に改変されたhES細胞を、ワクチンとして予防的に投与する。
【0176】
慢性感染症の治療
小骨を形成するために、若いNSGマウスを、臍帯血CD34+細胞(静脈内)及び間葉細胞(上記の)で同時に再構成する。T細胞再構成後、マウスに、ヒトCD4+T細胞を攻撃するためにHIVを次いで感染させ、その後広範な中和HIV特異的形質細胞を移植する。継続的な感染がどの程度抑制されるかを調べるために、HIV力価及び抗体を測定する。Halper-Strombergら 2014 Cell 158(5)989-999に記載されているように、マウスモデルを利用できる。ユニバーサル細胞が発達したら、これをヒト以外の霊長類及びSIVで試験する。
【0177】
治療的使用のために、本発明の細胞を、ウイルスが活性状態であるか又は休止状態であるか否かにかかわらず、慢性感染症を有する患者に投与する。
【0178】
酵素補充療法
α-L-イズロニダーゼを欠くハーラー症候群のマウスモデル(Clarkら 1997 Science 6(4)503-11)を使用する。全身酵素補充は、ハーラー症候群のための治療である。マウスモデルをNSGに交配して、形成された小骨(上記のように)、及び抗体の代わりにα-L-イズロニダーゼを分泌するように操作された形質細胞(遺伝子置換又はΑβ遺伝子の下流のIRESノックインを通して)を移植する。酵素濃度及び脳の神経病理(例えば、リソソーム膨張(distension))を測定する。
【0179】
癌の治療
NSG/小骨マウス(上記の)に、原発性非ホジキンリンパ腫を移植し、次いでリツキサンを発現する形質細胞を投与する(Chaoら 2010 Cell 142(5)699-713)。腫瘍の負荷を、組織学的に及びフローサイトメトリーによって定量化する。自殺遺伝子が内蔵される場合は、残存疾患がなくなったときにいつでも、形質細胞を除去できる。
【0180】
自己免疫疾患の治療
NSG/小骨マウスに、ソリリス/エクリジマブを発現する形質細胞を移植する。これらのマウスを、抗Gq1b抗体で処置し、運動機能及び麻痺を測定する。自己免疫疾患のこのマウスモデルはHalsteadら 2008 131(Pt5)1197-208)に記載されている。
【0181】
治療用抗体を用いる治療
本開示の細胞及び方法は、治療用抗体を必要とする対象の治療で使用できる。例として、治療用抗体は、本明細書に記載するように、改変ES細胞上で過剰発現させることができる。例えば、アルツハイマー病の治療は、Αβプラークの蓄積を避けるためにアデュカヌマブなどの治療用抗体を発現するように本発明の改変ES細胞を操作することによって達成できる。
【0182】
材料及び方法
本明細書に記載のこれらの研究は、改変及び分化のためのオス由来の株のH1(WA01、NIH登録番号0043)細胞を使用する。しかしながら、全てのマウス実験は、オスとメスの両方を利用し、実験に変数として含まれる。さらに、ドナー異種移植片は、オスとメスの両方に由来する。Y染色体PCRを行って匿名のドナーの性別を決定し、再度、これらのデータを分析に変数として含める。
【0183】
手順の説明:研究の大部分を、hES細胞分化及び遺伝子改変のためにインビトロで行う。適度な数の免疫不全NOD-SCID/IL2rγC欠損(NSG)マウスを、小骨及び形質細胞、及び奇形腫のレシピエントとして使用する。より少ない数の野生型C57BI6マウスを、奇形腫のレシピエントとして使用する。レシピエントは、8週齢で、両方の性である。
【0184】
マウスでのこれらの研究は、細胞ベースのワクチンの臨床開発への事前準備である。マウスでの研究は、過去にそのような適用に非常に関連性があることを証明し、マウスの免疫の細胞的、分子的、及び遺伝的態様について多くのことが知られている。マウスでの研究は、潜在的な利点を考えると、比較的低コストで効率的に行うことができる。
【0185】
痛み又は不快感を軽減するための手順:マウスの痛み及び不快感のレベルが最小であることを確実にするために、全力を尽くす。マウスを、後眼窩注射前に、吸入イソフルオラン(isofluorane)で麻酔する。直径20mmの奇形腫を有する動物を屠殺する。有する3匹のマウスを屠殺し、センチネルケージを動物施設で日常的に使用する。
【0186】
動物を、米国獣医師会の安楽死に関する委員会の勧告に従い、COの吸入によって安楽死させる。
【0187】
実施例2:免疫原性を低下させるためのヒトES細胞の遺伝子改変
以下の実施例で、免疫原性を低下させるためのヒトES細胞の遺伝子改変を説明する。
【0188】
ユニバーサルドナーhES細胞は、多くの分野の目標であるが、免疫学的障壁がかなりある。ヒト多能性幹細胞は無限に成長し、したがって形質細胞療法のための拡張可能性の一態様に対処する。しかしながら、幹細胞株が自己でない限り、免疫抑制が移植片拒絶反応を防ぐために必ず必要とされる。これはほぼ確実に、そのような療法を直ちに生命を脅かす障害に制限する。自己iPS療法は、免疫拒絶をおそらく受けないが、一般集団に拡大できない。これらの問題に対処するために、「ユニバーサルな」ドナー細胞株の作製を本明細書に提案する。これらの株は、その免疫原性を遺伝子的に剥奪されており、それによって単一株由来の細胞及び組織を任意のレシピエントに移植することを可能にする。HLA発現の除去は、そのようなユニバーサルドナー株の要件であることが示されているが、マウス同種移植の研究は、これだけでは拒絶反応を防ぐには不十分であることを実証している。その後の研究は、移植片拒絶の他のメディエーターとしての抗体、補体、NK細胞、及び食細胞を示唆した。HLA欠損株から始めて、拒絶反応のこれらの他の免疫メディエーターのそれぞれに対するhES細胞の反応性を確認した。
【0189】
材料及び方法は、特に断りのない限り、上記のとおりである。
【0190】
HLA欠損hESC株の作製
堅牢なワークフローを最適化して、ヒトES細胞における標的変異を作製した。Cas9発現構築物及び最大3つの異なるgRNAコードベクターを、H1ヒトES細胞に同時トランスフェクトした。個々のコロニーを手で採取し、標的遺伝子のMiseq分析に供し、非相同末端結合エラーによって導入されたフレームシフト変異を有するクローンを特定した。候補クローンを次いで蛍光活性化細胞選別(FACS)により正確に1細胞/ウェルで播種し、Miseq分析を再び行って変異及びモザイク現象の欠如を確認した(例えば、図6A参照)。次に、クローンを増殖させ、核型を決定し、造血系統に向かうそれらの分化能を確認した。CRISPR/Cas9ベースの標的化変異により、HLA発現を欠く、核型が正常なヒトhES細胞株を作製した。β2mとTAP1の両方の対立遺伝子及びCD74の1つの対立遺伝子に不活性化変異を有する1つのクローンを、標的領域のMiseq分析によって特定した(例えば、図6B参照)。このクローンでは、インターフェロンγ(IFNγ)誘導性HLA-I発現が完全になくなり(例えば、図6C参照)、正常な核型が確認された。このHLA-I欠損株由来の単球は、同種の初代CD8T細胞増殖を刺激できなかった(例えば、HLA欠損hES細胞子孫はT細胞を刺激しないことを示す図6D参照)。このHLA-I欠損株をその後、CD74の残りの対立遺伝子及びHLA-IIの発現に必要な転写因子であるCIITAの両方の対立遺伝子を除去するために、CRISPRを用いて再標的化した。このクローンもまた、正常な核型を保有することが確認された。その後の分析により、各遺伝子改変後に、細胞が造血能を保持していること、かつ派生単球がHLA-IIの検出可能な発現を欠いていたことが確認された(例えば、HLA-IIはCIITA/CD74欠損細胞により発現されないことを示す図6E参照)。
【0191】
AAVS標的化免疫回避カセットの作製
HLA-I発現の消失は、細胞をNK細胞溶解に感受性にさせると考えられている。活性化受容体NKG2Dのリガンドを消失させた(下記参照)。しかしながら、NKG2D遮断は、NK細胞媒介特異的溶解の約50%のみを除去する。そのため、さらにNK細胞反応性を除去するために、例えば、単鎖三量体を形成するためにペプチド及びβ2mに共有結合されたHLA-E及びHLA-Gの発現を介する、追加の工程を行う。これらの三量体は、内因性HLAとペプチド又はβ2mを交換せず、NKG2A及びILT2発現NK細胞を阻害する。抗体結合、補体沈着及びマクロファージ食作用を含む免疫応答の他の態様も、拒絶反応に寄与し得る。これらの免疫機構のそれぞれに対処しそれらを回避するために、ヒトAAVS遺伝子座を標的化するマルチシストロンベクターのセットを構築した(例えば、図7A、表1参照)。この遺伝子座は、サイレンシングから保護される「セーフハーバー」と考えられている。フローサイトメトリー分析により、HLA欠損hES細胞中の発現が確認された(例えば、図7B参照)。免疫回避及び自殺遺伝子及び標的の概要は、表1で見られ得る。
【0192】
【表2】
【0193】
標的化構築物を、CHO細胞へのトランスフェクション及びフローサイトメトリーによる免疫回避遺伝子の発現の評価を通じて検証した。結果は、ヒトCD55及びHLA-E単鎖三量体が緊密な共発現を示すこと(例えば、図8A参照)を示し、図7での2A配列及び構築物1(配列番号1)の機能を裏付ける。挿入遺伝子産物の正しい機能を確認するために、ネオマイシン選択を介して安定なhCD55発現CHO株を特定した。これらの細胞を次いで、抗CHO抗体で染色し、ヒトC7欠損血清とインキュベートし、最後にC3c、C3d、及びC4c沈着について染色した。hCD55及びhCD46の発現は補体沈着を消失させ、一方で培養物中の残留hCD55細胞は堅牢な補体沈着を示した(例えば、図8B参照)。これらのデータは、hCD55導入遺伝子の機能を確認する。HLA-E単鎖三量体が正しく機能することを確認するために、NK細胞感受性標的細胞株である721.221細胞にて安定な細胞株を作製した。初代PBMCとの未改変721.221細胞のインキュベートは、細胞表面CD107a染色によって測定されるように、堅牢なNK細胞の脱顆粒をもたらした。しかしながら、HLA-E発現721.221細胞との共インキュベーションは、NKG2A+NK細胞の脱顆粒を特異的に阻害した(例えば、図8C参照)。
【0194】
NKG2Dリガンド欠損hES細胞の作製
HLA-Iが存在しないと、標的細胞をNK細胞媒介性細胞溶解に対して感受性にさせることができるので、NKG2Dリガンドを、CRISPR/Cas9を通じて標的化する。これらのうち、RNA配列分析により、MICA及びMICBのみが長命形質細胞で発現されることが実証される。約400個のヌクレオフェクトクローンの予備的な配列決定は、MICAとMICBの間にインフレーム融合を作る、MICA及びMICBの2つの対立遺伝子中のフレームシフト変異及び他の染色体における大きな欠失を保有する1つの株を明らかにした。(図11A)。MICA及びMICBの全4つの対立遺伝子中にフレームシフト変異を有するクローンを作製するために、このMICA/B融合物をCRISPR/Cas9で再標的化した(図11B)。このクローンを、正常な核型について検証した。HLA、MICA/B欠損hES細胞を、以後、HM-KO hESと呼ぶ。
【0195】
HLA/MICA+MICB KO(HM-KO)hES細胞における安定なAAVS免疫回避形質転換体の作製
HM-KO hES細胞から始めて、2つのセットのヌクレオフェクションを行った。1つのヌクレオフェクションは、図7Aに示されるヒト免疫回避カセットを用いて行い、別々のヌクレオフェクションは、マウス免疫回避カセットを用いて行った(mAAVS)。これらの構築物を、Cas9発現構築物及びAAVS遺伝子座を標的化するgRNAで同時トランスフェクトした。細胞を、ネオマイシン及びピューロマイシン耐性について選択し、遺伝子の発現をフローサイトメトリーによって確認した(例えば、図7B参照)。
【0196】
インビボでの奇形腫形成試験
インビボでのヒト免疫回避を試験するために、ヒト化NSG W41マウスを作製した。約2×10個の臍帯血CD34+細胞(セントルイス臍帯血バンクから取得した)を無条件NSG-W41マウスに移植した(例えば、図9A参照)。マウスから採血してヒトの再構成を確認し、改変hESCの各バージョンの100万個の細胞をマトリゲルに包埋し、ヒト化NSG-W41のマウスに皮下移植した。奇形腫の成長を12週間又は腫瘍が20mmの塊に達するまで監視し、その時点でマウスを安楽死させた。HLA欠損細胞を接種したヒト化マウスは奇形腫を形成したが、未改変hES細胞は形成しなかった(例えば、HLA-KO hES細胞はヒト化マウスによる拒絶反応を回避することを示す図9B参照)。ある実験において、マウスをAP1903で処置してiCasp9を活性化し奇形腫の退縮を開始させる。免疫応答のいくつかの態様は、ヒト化NSG-W41マウスでは機能しない。例えば、NK細胞は、このシステムではほとんど形成せず、抗体応答は最小である。したがって、mAAVS構築物を安定に発現するHM-KO細胞を用いて、C57BI6マウスにおける奇形腫アッセイを行う。拒絶反応は、この異種設定で遅延されると予想される。
【0197】
改変hES細胞は免疫認識を回避し、そのためヒト化NSG-W41マウスにおいて奇形腫を形成することが予想される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2022-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
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