(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188215
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】密閉型冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍・冷蔵装置
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
F04B39/00 103E
F04B39/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161622
(22)【出願日】2022-10-06
(62)【分割の表示】P 2021561438の分割
【原出願日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019212592
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505252724
【氏名又は名称】パナソニック アプライアンシズ リフリジレーション デヴァイシズ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 淳太
(72)【発明者】
【氏名】林 寛人
(72)【発明者】
【氏名】権藤 政信
(57)【要約】
【課題】 より粘度の低い潤滑油を用い、軸受部により軸支される軸部の摺動面積を減少させても、高効率化が可能であるとともに、信頼性を良好なものとすることが可能な密閉型冷媒圧縮機を提供する。
【解決手段】 潤滑油は、40℃での動粘度が1mm
2 /S~7mm
2 /Sであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であるとともに、高分子量成分を0.5質量%以上含有する。当該高分子量成分は、その質量分子量が500以上である。圧縮要素の軸部であるクランクシャフトでは、主軸の摺動面が非摺動外周面を介して第一摺動面および第二摺動面に分割されている。これら摺動面のうち軸方向長さが最少である摺動面の当該軸方向長さを単一摺動長さLとしたときに、当該単一摺動長さLと主軸の外径Dとの比率L/Dが2.0以下である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を貯留する密閉容器と、当該密閉容器内に収容される電動要素および当該電動要素により駆動され冷媒を圧縮する圧縮要素と、を備え、
前記潤滑油は、40℃での動粘度が1mm2 /S~7mm2 /Sであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であるとともに、高分子量成分を0.5質量%以上含有するものであり、
前記高分子量成分は、その質量分子量が500以上であり、
前記圧縮要素は、
軸部として、主軸および偏心軸を有するクランクシャフトと、
前記軸部を軸支する軸受部として、前記主軸を軸支する主軸受および前記偏心軸を軸支する偏心軸受と、を備え、
前記主軸における前記主軸受との摺動面は、前記軸受部の内周面に接しないように凹んだ非摺動外周面を介して第一摺動面および第二摺動面に分割されており、
前記第一摺動面および前記第二摺動面のうち、軸方向長さが最少である摺動面の当該軸方向長さを単一摺動長さLとしたときに、
当該単一摺動長さLと前記主軸の外径Dとの比率L/Dが2.0以下であることを特徴とする、
密閉型冷媒圧縮機。
【請求項2】
前記比率L/Dは0.4以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項3】
前記潤滑油は油性剤を含有することを特徴とする
請求項1または2に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項4】
前記油性剤がエステル系化合物であることを特徴とする、
請求項3に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項5】
前記潤滑油は、その留出温度300℃での蒸留分率が0.1%以上で終点が440℃以上であることを特徴とする、
請求項1または4のいずれか1項に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項6】
前記潤滑油は、硫黄元素重量に換算したときに100ppm以上の摺動性改質剤を含有することを特徴とする、
請求項1から5のいずれか1項に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項7】
前記潤滑油は、リン系の極圧添加剤を含有することを特徴とする、
請求項1から6のいずれか1項に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項8】
前記潤滑油は、鉱油、アルキルベンゼン油、およびエステル油からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、
請求項1から7のいずれか1項に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項9】
前記電動要素は、複数の運転周波数でインバータ駆動されることを特徴とする、
請求項1から8のいずれか1項に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の密閉型冷媒圧縮機と、放熱器と、減圧装置と、吸熱器とを含み、これらを配管によって環状に連結した冷媒回路を備えることを特徴とする、
冷凍・冷蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫、エアーコンディショナー等に使用される密閉型の冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍・冷蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から化石燃料の使用を少なくする高効率の密閉型冷媒圧縮機の開発が進められている。例えば、高効率化を図るために、密閉型冷媒圧縮機が備える摺動部材において、その摺動面に種々の被膜を形成するとともに、より低粘度の潤滑油を用いることが提案されている。
【0003】
密閉型冷媒圧縮機は、密閉容器内に潤滑油が貯留されるとともに、電動要素および圧縮要素が収容されている。圧縮要素は、摺動部材として、例えば、クランクシャフト、ピストン、連結手段のコンロッド等を備えており、クランクシャフトの主軸および主軸受、ピストンおよびボアー、ピストンピンおよびコンロッド、クランクシャフトの偏心軸およびコンロッド等は、いずれも互いに摺動部を形成している。
【0004】
潤滑油としてより低粘度のものを用いる密閉型冷媒圧縮機としては、例えば、特許文献1に開示される往復圧縮機が挙げられる。この往復圧縮機で用いられる潤滑油としては、その粘度が、40℃の動粘度で3mm2 /S~10mm2 /Sの範囲内のものが挙げられている。
【0005】
潤滑油が低粘度であると油膜が形成されにくくなるが、特許文献1に開示される往復圧縮機(密閉型冷媒圧縮機)では、摺動部を構成する摺動部材の表面に対して特殊な処理を施すことによって、油膜を形成しやすくしている。
【0006】
具体的には、摺動部材のうちピストンおよびコンロッドを鉄系焼結材とした上で、これらにスチーム処理を施すとともに、ピストンの表面については切削によりスチーム層を除去し、コンロッドはスチーム処理後に窒化処理を施している。これにより、低粘度の潤滑油を用いて油膜が薄い状態であっても、ピストンおよびコンロッドにおける摩耗または焼付きの防止を図っている。
【0007】
また、特許文献2に開示される密閉型圧縮機(密閉型冷媒圧縮機)では、クランクシャフトの主軸および主軸受の寸法を規定することで、振動の低減を図っている。具体的には、クランクシャフトの主軸および主軸受の軸支部位の軸受の長さ(軸受長)をLとし、クランクシャフトの直径(軸径)をDとしたときに、軸受長/軸径(特許文献2では「α」と記載)を2.5未満(L/D<2.5)としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5222244号公報
【特許文献2】特開2017-014992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、密閉型冷媒圧縮機が備えるクランクシャフトは、電動要素により駆動される圧縮要素の軸部を構成しており、この軸部は軸受部により回転可能に軸支されている。密閉型冷媒圧縮機を高効率化する観点では、軸部および軸受部(軸支部位)の摺動面積を減少させることが想定される。しかしながら、この摺動面積が小さくなりすぎた場合、逆に効率が悪化する。
【0010】
前述した特許文献1に開示される往復圧縮機(密閉型冷媒圧縮機)では、40℃の動粘度で3mm2 /S~10mm2 /Sの範囲内という低粘度の潤滑油を用いているが、耐摩耗性を向上させる対象はピストンおよびコンロッドである。したがって、特許文献1では、クランクシャフトのように軸受部による軸支がなされる構成に関しては、低粘度の潤滑油を用いた場合への対策は検討されていない。また、特許文献1では、高効率化のためにクランクシャフトのような軸支部位の摺動面積を減少させることも検討されていない。
【0011】
一方、前述した特許文献2に開示される密閉型圧縮機では、前記の通り、軸受長/軸径を2.5未満(L/D<2.5)とすることで、振動の低減を図っている。ただし、特許文献2では、軸受長/軸径が2.0以下(L/D≦2.0)となる場合には、軸受内損失が増加することが記載されている。すなわち、特許文献2では、L/D≦2.0であれば摺動面積が小さくなりすぎるため、軸受内損失が増加し、密閉型圧縮機の効率が悪化することを開示している。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、より粘度の低い潤滑油を用い、軸受部により軸支される軸部の摺動面積を減少させても、高効率化が可能であるとともに、信頼性を良好なものとすることが可能な密閉型冷媒圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る密閉型冷媒圧縮機は、前記の課題を解決するために、潤滑油を貯留する密閉容器と、当該密閉容器内に収容される電動要素および当該電動要素により駆動され冷媒を圧縮する圧縮要素と、を備え、前記潤滑油は、40℃での動粘度が1mm2 /S~7mm2 /Sであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であるとともに、高分子量成分を0.5質量%以上含有するものであり、前記高分子量成分は、その質量分子量が500以上であり、前記圧縮要素は、軸部として、主軸および偏心軸を有するクランクシャフトと、前記軸部を軸支する軸受部として、前記主軸を軸支する主軸受および前記偏心軸を軸支する偏心軸受と、を備え、前記主軸における前記主軸受との摺動面は、単一面であるか複数の面に分割されており、前記摺動面が単一面である場合には、当該摺動面の軸方向長さを単一摺動長さLとしたとき、または、前記摺動面が複数の面に分割されている場合には、軸方向長さが最少である摺動面の当該軸方向長さを単一摺動長さLとしたときに、当該単一摺動長さLと前記主軸の外径Dとの比率L/Dが2.0以下である構成である。
【0014】
前記構成によれば、クランクシャフトにおいて、主軸の摺動面が単一面であっても複数面であっても、単一摺動長さLと外径Dとの比率L/Dが2.0以下であるとともに、用いられる潤滑油がより低粘度であっても、当該潤滑油の平均分子量が所定範囲内であり、かつ、当該潤滑油が相対的に分子量の大きい高分子量成分を0.5質量%以上含有している。これにより、比率L/Dが2.0以下となるように摺動面積を減少させても、高分子量成分により低粘度の潤滑油でも好適な油膜を形成することが可能となる。その結果、より粘度の低い潤滑油を用いるとともに摺動面積を減少させた軸受部を用いても、当該軸受部により軸支される軸部の摩擦係数を低減することが可能になる。これにより、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化を好適に実現することができるので、高効率化が可能であるとともに信頼性も良好にすることが可能な密閉型冷媒圧縮機を得ることができる。
【0015】
また、本発明に係る冷凍・冷蔵装置は、前記構成の密閉型冷媒圧縮機と、放熱器と、減圧装置と、吸熱器とを含み、これらを配管によって環状に連結した冷媒回路を備える構成である。
【0016】
前記構成によれば、密閉型冷媒圧縮機が、低粘度の潤滑油を用いて摺動面積を減少させたものであり、かつ、良好な軸部の信頼性を有するものである。冷凍・冷蔵装置が、このように高効率かつ良好な信頼性を有する密閉型冷媒圧縮機を備えることによって、その消費電力を低減することができるとともに、信頼性も高いものとすることができる。
【0017】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、および利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、以上の構成により、より粘度の低い潤滑油を用い、軸受部により軸支される軸部の摺動面積を低減させても、高効率化が可能であるとともに、信頼性を良好なものとすることが可能な密閉型冷媒圧縮機を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係る密閉型冷媒圧縮機の構成の一例を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す密閉型冷媒圧縮機が備えるクランクシャフトの構成の一例を示す模式的側面図である。
【
図3】
図3Aは、
図2に示すクランクシャフトにおいて、摺動面が単一面である場合の構成の一例を示す模式図であり、
図3B,
図3Cは、
図2に示すクランクシャフトにおいて、摺動面が複数の面に分割されている場合の構成の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す密閉型冷媒圧縮機を備える冷凍・冷蔵装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5Aは、
図1に示す密閉型冷媒圧縮機に用いられる潤滑油の分子量分布の一例を示すグラフであり、
図5Bは、従来の潤滑油の分子量分布の一例を示すグラフであり、
図5Cは、本開示に係る潤滑油に添加される高分子量成分の分子量分布の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、
図5Aに示す潤滑油を用いた、
図1に示す密閉型冷媒圧縮機におけるL/Dとクランクシャフトの摩擦係数との関係の一例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、
図5Aに示す潤滑油が含有する高分子量成分の含有量と
図1に示す密閉型冷媒圧縮機の成績係数の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示に係る密閉型冷媒圧縮機は、潤滑油を貯留する密閉容器と、当該密閉容器内に収容される電動要素および当該電動要素により駆動され冷媒を圧縮する圧縮要素と、を備え、前記潤滑油は、40℃での動粘度が1mm2 /S~7mm2 /Sであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であるとともに、高分子量成分を0.5質量%以上含有するものであり、前記高分子量成分は、その質量分子量が500以上であり、前記圧縮要素は、軸部として、主軸および偏心軸を有するクランクシャフトと、前記軸部を軸支する軸受部として、前記主軸を軸支する主軸受および前記偏心軸を軸支する偏心軸受と、を備え、前記主軸における前記主軸受との摺動面は、単一面であるか複数の面に分割されており、前記摺動面が単一面である場合には、当該摺動面の軸方向長さを単一摺動長さLとしたとき、または、前記摺動面が複数の面に分割されている場合には、軸方向長さが最少である摺動面の当該軸方向長さを単一摺動長さLとしたときに、当該単一摺動長さLと前記主軸の外径Dとの比率L/Dが2.0以下である構成である。
【0021】
前記構成によれば、クランクシャフトにおいて、主軸の摺動面が単一面であっても複数面であっても、単一摺動長さLと外径Dとの比率L/Dが2.0以下であるとともに、用いられる潤滑油がより低粘度であっても、当該潤滑油の平均分子量が所定範囲内であり、かつ、当該潤滑油が相対的に分子量の大きい高分子量成分を0.5質量%以上含有している。これにより、比率L/Dが2.0以下となるように摺動面積を減少させても、高分子量成分により低粘度の潤滑油でも好適な油膜を形成することが可能となる。その結果、より粘度の低い潤滑油を用いるとともに摺動面積を減少させた軸受部を用いても、当該軸受部により軸支される軸部の摩擦係数を低減することが可能になる。これにより、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化を好適に実現することができるので、高効率化が可能であるとともに信頼性も良好にすることが可能な密閉型冷媒圧縮機を得ることができる。
【0022】
前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記比率L/Dは0.4以上である構成であってもよい。
【0023】
前記構成によれば、比率L/Dが0.4以上であれば、摺動面積を過剰に減少させるおそれを回避または抑制することができる。そのため、摺動面積を減少させた状態であっても、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油が形成した油膜により、軸部の摩擦係数を良好に低減することができる。これにより、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0024】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記潤滑油は油性剤を含有する構成であってもよい。
【0025】
前記構成によれば、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油がさらに油性剤を含有している。そのため、この油性剤により潤滑油による油膜をより一層形成させやすくすることができる。これにより、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0026】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記油性剤がエステル系化合物である構成であってもよい。
【0027】
前記構成によれば、潤滑油が含有する油性剤がエステル系化合物であるため、油性剤がエステル結合を有することになる。そのため、このエステル結合に由来する極性により油性剤による油膜の形成能力を向上することができる。これにより、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0028】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記潤滑油は、その留出温度300℃での蒸留分率が0.1%以上で終点が440℃以上である構成であってもよい。
【0029】
前記構成によれば、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油には、留出温度が高い成分が存在することになる。そのため、摺動面積を減少させることで摺動部の温度が上昇しても、潤滑油の蒸発を有効に回避または抑制することができるので、当該潤滑油による油膜をより安定的に形成することができる。これにより、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0030】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記潤滑油は、硫黄元素重量に換算したときに100ppm以上の摺動性改質剤を含有する構成であってもよい。
【0031】
前記構成によれば、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油に対して、好適な量の硫黄系の摺動性改質剤を好適な量で添加している。この摺動性改質剤によって摺動面の耐摩耗性を良好なものとすることができるので、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化を促進することが可能となる。そのため、摺動面積を減少させた状態であっても、摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0032】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記潤滑油は、リン系の極圧添加剤を含有する構成であってもよい。
【0033】
前記構成によれば、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油に対して、リン系の極圧添加剤を添加している。この極圧添加剤によって摺動面の耐摩耗性を良好なものとすることができるので、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化を促進することが可能となる。そのため、摺動面積を減少させた状態であっても、摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0034】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記潤滑油は、鉱油、アルキルベンゼン油、およびエステル油からなる群から選択される少なくとも1種である構成であってもよい。
【0035】
前記構成によれば、潤滑油そのものは特に限定されないものの、当該潤滑油として、鉱油、アルキルベンゼン油、エステル油の少なくともいずれかを用いることになる。これにより、潤滑油を低粘度化して高分子量成分を含有させたときに、摺動面積を減少させた状態であっても、軸部の摩擦係数を低減させやすくすることができる。
【0036】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記電動要素は、複数の運転周波数でインバータ駆動される構成であってもよい。
【0037】
前記構成によれば、インバータ駆動における低速運転時または高速運転時においても、摺動部では、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油によって好適な油膜が形成される。摺動面積を減少させた状態であっても、軸部の摩擦係数を良好に低減することができる。これにより、クランクシャフトの摺動部では、運転速度に関わらず低摩擦係数化および耐摩耗性を良好なものにできるので、密閉型冷媒圧縮機の効率化および信頼性をより良好なものとすることができる。
【0038】
本開示に係る冷凍・冷蔵装置は、前記構成の密閉型冷媒圧縮機と、放熱器と、減圧装置と、吸熱器とを含み、これらを配管によって環状に連結した冷媒回路を備える構成であればよい。
【0039】
前記構成によれば、密閉型冷媒圧縮機が、低粘度の潤滑油を用いて摺動面積を減少させたものであり、かつ、良好な軸部の信頼性を有するものである。冷凍・冷蔵装置が、このように高効率かつ良好な信頼性を有する密閉型冷媒圧縮機を備えることによって、その消費電力を低減することができるとともに、信頼性も高いものとすることができる。
【0040】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0041】
(実施の形態1)
[冷媒圧縮機の構成]
まず、本開示の実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機の代表的な構成例について、
図1および
図2を参照して具体的に説明する。
図1は、本開示の実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機100(以下、基本的には冷媒圧縮機100と略す。)の構成の一例を示す模式的断面図である。
図2は、冷媒圧縮機100が備える軸部であるクランクシャフト108の構成の一例を示す模式的側面図である。
【0042】
図1に示すように、冷媒圧縮機100は、密閉容器101内に冷媒として、例えばR600aを充填するとともに、底部には、潤滑油103として鉱油を貯留している。本開示では、潤滑油103として、後述するように、40℃での動粘度が1mm
2 /S~7mm
2 /Sであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であるとともに、高分子量成分を0.5質量%以上含有するものを用いている。この高分子量成分は、その質量分子量が500以上である。なお、本実施の形態1では、より具体的な潤滑油103として低粘度の鉱油が用いられるが、これに限定されない。例えば、後述するように、鉱油以外の油状物質が用いられてもよいし、油性剤または極圧添加剤等を含有してもよい。
【0043】
また、密閉容器101内には、電動要素106および圧縮要素107が収容されている。電動要素106は、固定子104および回転子105から構成される。圧縮要素107は、電動要素106によって駆動される往復式の構成であり、クランクシャフト108、シリンダーブロック112、ピストン120等を備えている。
【0044】
クランクシャフト108は、
図2にも示すように、回転子105を圧入固定した主軸109と、この主軸109に対して偏心して形成された偏心軸110とから構成される。本実施の形態1では、クランクシャフト108の主軸109の外周面は、第一摺動面111a、第二摺動面111b、および非摺動外周面111cを含んでいる。また、クランクシャフト108の下端には、図示しない給油ポンプが設けられている。
【0045】
シリンダーブロック112は、本実施の形態1では、例えば、鋳鉄で構成され、略円筒形のボアー113を形成するとともに、クランクシャフト108の主軸109を軸支する主軸受114を備えている。主軸受114の内周面は、主軸109の外周面のうち第一摺動面111aおよび第二摺動面111bに摺動可能に接しているが、非摺動外周面111cには接している。
【0046】
なお、
図1に示すように、クランクシャフト108のうち偏心軸110は冷媒圧縮機100の上側に位置し、主軸109は冷媒圧縮機100の下側に位置する。それゆえ、クランクシャフト108の位置を説明する場合にも、この上下の位置関係(方向)を利用する。例えば、偏心軸110の上端は密閉容器101の内側上面に向かっており、偏心軸110の下端は主軸109につながっている。主軸109の上端は偏心軸110につながっており、主軸109の下端は密閉容器101の内側下面に向かっており、主軸109の下端部は、潤滑油103に浸漬している。
【0047】
本開示においては、「摺動面」とは、軸部の外周面のうち軸受部の内周面と摺動可能に接する面のことを意味する。非摺動外周面111cは、主軸109の外周面の一部を構成するが、第一摺動面111aおよび第二摺動面111bとは異なり、軸受部の内周面に接しないように、摺動面(第一摺動面111aおよび第二摺動面111b)から凹んだ(あるいは窪んだ)面となっている。言い換えると、主軸109における摺動面となる部位の直径または半径は、非摺動外周面111cとなる部位の直径または半径よりも大きいものとなっている。
【0048】
ボアー113には、ピストン120が往復可能に挿入されており、これにより、圧縮室121が形成される。ピストンピン115は、例えば略円筒形状を有し、偏心軸110と平行に配置されている。ピストンピン115は、ピストン120に形成されたピストンピン孔に回転不能に係止されている。
【0049】
連結手段117は、例えばアルミ鋳造品で構成され、偏心軸110を軸支する偏心軸受119を備え、ピストンピン115を介して偏心軸110とピストン120とを連結している。連結手段117はコンロッドとも称する。ボアー113の端面はバルブプレート122で封止されている。
【0050】
なお、本開示においては、クランクシャフト108が備える主軸109および偏心軸110は、まとめて「軸部」と称する。また、主軸109を軸支するシリンダーブロック112の主軸受114と、偏心軸110を軸支する連結手段117の偏心軸受119とは、まとめて「軸受部」と称する。
【0051】
シリンダーヘッド123は、図示しない高圧室を形成し、バルブプレート122におけるボアー113の反対側に固定されている。図示しないサクションチューブは、密閉容器101に固定されているとともに、冷凍サイクルの低圧側(図示せず)に接続され、冷媒ガスを密閉容器101内に導く。サクションマフラー124は、バルブプレート122とシリンダーヘッド123とに挟持されている。
【0052】
ここで、クランクシャフト108の主軸109および主軸受114、ピストン120およびボアー113、ピストンピン115および連結手段117のコンロッド、クランクシャフト108の偏心軸110および連結手段117の偏心軸受119等は、いずれも互いに摺動部を形成する。
【0053】
このような構成の冷媒圧縮機100においては、まず、図示しない商用電源から供給される電力が電動要素106に供給されるので、電動要素106の回転子105を回転させる。回転子105はクランクシャフト108を回転させ、偏心軸110の偏心運動が連結手段117からピストンピン115を介してピストン120を駆動する。ピストン120はボアー113内を往復運動し、サクションチューブを通して密閉容器101内に導かれた冷媒ガスをサクションマフラー124から吸入し、圧縮室121内で圧縮する。
【0054】
なお、冷媒圧縮機100の具体的な駆動方法は特に限定されない。例えば、冷媒圧縮機100は単純なオンオフ制御で駆動されてもよいが、複数の運転周波数でインバータ駆動されてもよい。インバータ駆動では、冷媒圧縮機100の動作制御を好適化するために、各摺動部に給油量が少なくなるような低速運転時、あるいは、電動要素106の回転数が増加する高速運転時が発生する。
【0055】
本開示に係る冷媒圧縮機100においては、後述するように、クランクシャフト108において軸部および軸受部(軸支部位)の摺動面積を減少させているが、後述するように、潤滑油103が高分子量成分を含有する低粘度のものである。これにより、軸部の摩擦係数を良好に低減することができるので、クランクシャフト108の摺動部(例えば主軸109)では、運転速度に関わらず低摩擦係数化および耐摩耗性を良好なものにできるので、密閉型冷媒圧縮機の効率化および信頼性をより良好なものとすることができる。
【0056】
冷媒圧縮機100が備える複数の摺動部のうち、クランクシャフト108の主軸109は、主軸受114に対して回転可能に嵌合されて摺動部を構成している。それゆえ、説明の便宜上、主軸109および主軸受114により構成される摺動部を「主軸摺動部」と称する。同様に、クランクシャフト108の偏心軸110は、偏心軸受119に対して回転可能に嵌合されて摺動部を構成している。それゆえ、説明の便宜上、偏心軸110および偏心軸受119により構成される摺動部を「偏心軸摺動部」と称する。また、「主軸摺動部」および「偏心軸摺動部」をまとめて「軸部摺動部」と称する。
【0057】
クランクシャフト108の回転に伴って、給油ポンプから潤滑油103が各摺動部に給油される。これにより各摺動部は潤滑される。なお、潤滑油103は、ピストン120およびボアー113の間においてシールもつかさどる。本開示においては、後述するように、潤滑油103が高分子量成分を含有する低粘度のものであるが、このような潤滑油103は、各摺動部を良好に潤滑できるとともに、ピストン120およびボアー113の間を良好にシールすることもできる。
【0058】
[軸部摺動部の構成]
次に、本開示に係る軸部摺動部の具体的な構成の一例について、
図3A~
図3Cを参照して具体的に説明する。
図3Aは、
図2に示すクランクシャフト108において、摺動面が単一面である場合の構成の一例を示す模式図であり、
図3Bおよび
図3Cは、
図2に示すクランクシャフト108において、摺動面が複数の面に分割されている場合の構成の一例を示す模式図である。
【0059】
図2に示す例では、軸部であるクランクシャフト108の主軸109は、第一摺動面111aおよび第二摺動面111bを有する構成であるので、主軸109の摺動面が複数の面に分割されている、ということができる。
図2に示す主軸109の構成すなわち摺動面が2つの面に分割されている構成は、
図3Bに示す模式図に対応する。本開示に係る軸部はこれに限定されず、単一面であってもよい。例えば、
図3Aに示すように、主軸109の外周面は複数の摺動面に分割されておらず、単一摺動面111のみを有する構成であってもよい。
【0060】
摺動面を複数に分割する具体的な構成は特に限定されないが、代表的には、複数の摺動面の間に、摺動面よりも中心軸側に凹んだ(窪んだ)凹部を形成すればよい。この凹部は、
図2および
図3Bに示すように、非摺動外周面111cを構成する。凹部の具体的な形状も特に限定されず、例えばその深さは主軸109の剛性、強度等に影響が生じなければどのような深さであってもよい。同様に、凹部の幅(すなわち、複数の摺動面同士の間隔)も特に限定されず、摺動面の広さ(摺動面積)を狭くする(低下または減少させる)程度に応じて適宜設定することができる。
【0061】
摺動面を複数に分割する場合、具体的な摺動面の数は特に限定されない。
図2および
図3Bに示すように、第一摺動面111aおよび第二摺動面111bの合計2つの面に分割されてもよいし、
図3Cに示すように、第一摺動面111d、第二摺動面111e、および第三摺動面111fの合計3つの面に分割されてもよいし、4つ以上の面に分割されてもよい。
図3Cに示す構成では、第一摺動面111dと第二摺動面111eとの間に、非摺動外周面111cと同様の凹部である第一非摺動外周面111gが位置し、第二摺動面111eと第三摺動面111fとの間に、同様の凹部である第二非摺動外周面111hが位置する。
【0062】
ここで、本開示に係る軸部においては、摺動面となる部位の外径(直径)に対する当該摺動面の軸方向長さの比率を所定値以下とすることで、耐摩耗性に実質的に影響を及ぼすことなく摺動面積を小さくすることができる。具体的には、摺動面が単一面である場合(例えば、
図3A参照)には、当該摺動面の軸方向長さを単一摺動長さLとし、摺動面が複数の面に分割されている場合(例えば、
図3Bまたは
図3C)には、軸方向長さが最少である摺動面の当該軸方向長さを単一摺動長さLとする。そして、軸部における摺動面となる部位の外径(直径)を外径Dとしたときに、当該単一摺動長さLと軸部の外径Dとの比率L/Dが2.0以下となるように、軸部が設計される。
【0063】
図3Aでは、外径Dおよび単一摺動長さLを説明する便宜上、外径Dに対して単一摺動面111の長さL(単一摺動長さL)を大きく図示しており、この
図3Aの通りであれば、比率L/Dは2.0を超える。しかしながら、実際には、例えば、単一摺動面111から見て主軸109の上部(偏心軸110側)あるいは下部(潤滑油103側)に凹部(非摺動外周面)を形成することで、比率L/Dを2.0以下(L/D≦2.0)に設定することができる。
【0064】
図3Bでは、摺動面は、第一摺動面111aおよび第二摺動面111bに分割されている。このうち
図3Bに示す例では、上側の第一摺動面111aの軸方向長さLaが、下側の第二摺動面111bの軸方向長さLbよりも小さい(La<Lb)。この場合、第一摺動面111aが「長さが最少の摺動面」となるので、その長さLaが単一摺動長さLに該当する(L=La)。この例では、第一摺動面111aにおいてLa/Dが2.0以下であればよい(La/D≦2.0)。
【0065】
なお、
図3Bにおいても、
図3Aと同様に、外径Dおよび第一摺動面111aの長さLaを説明の便宜上、外径Dに対して長さLaを大きく図示している。この場合も、非摺動外周面111cの軸方向長さを大きくしたり、第一摺動面111aの上側に図示しない非摺動外周面(凹部)を設けたりすることで、比率L/Dを2.0以下に設定することができる。
【0066】
図3Cでは、摺動面は、第一摺動面111d、第二摺動面111e、および第三摺動面111fに分割されている。このうち
図3Cに示す例では、中央部の第二摺動面111eの長さLeが、上側の第一摺動面111dの軸方向長さLdよりも小さく、長さLdは、下側の第三摺動面111fの長さLfよりも小さくなっている(Le<Ld<Lf)。この場合、第二摺動面111eが「長さが最少の摺動面」となるので、その長さLeが単一摺動長さLに該当する(L=Le)。この例では、第二摺動面111eにおいてLe/Dが2.0以下であればよい(Le/D≦2.0)。
【0067】
本開示においては、比率L/Dの下限値は特に限定されないが、後述する実施例(実施例2および比較例3、並びに
図6参照)に示すように、好ましい下限値の一例としては、0.4以上を挙げることができる。したがって、本開示における比率L/Dの好ましい範囲としては、0.4~2.0の範囲内を挙げることができる。
【0068】
比率L/Dが2.0を超える場合には、基本的には摺動面積が広くなり過ぎる。そのため、潤滑油103として、後述する高分子量成分を含有する低粘度のものを用いた場合であっても、冷媒圧縮機100において十分な高効率化が得られなくなる。一方、比率L/Dが0.4未満であれば、軸部の諸条件にもよるが、摺動面積が狭くなり過ぎる可能性がある。この場合、潤滑油103による摩擦係数の低減効果が十分に得られないおそれがある。
【0069】
例えば、後述する実施例では、比率L/Dが0.5~0.7の範囲内で摩擦係数が極小となっており、比率L/Dが0.4未満であっても比率L/Dが約1.0~1.2の範囲内と同程度の摩擦係数となっている(
図6参照)。言い換えると、比率L/Dが0.4未満となるように摺動面積をより狭くすると、比率L/Dが約1.0~1.2の範囲内と同程度に摩擦係数が上昇することになる。摩擦係数の極小値を考慮すれば、比率L/Dが0.4以上を、摺動面積を狭くする効果と摩擦係数を低減する効果とを良好に実現できる「閾値」に設定することが可能である。
【0070】
なお、前記の通り、軸部の諸条件(例えばクランクシャフト108の具体的な形状、材質、クランクシャフト108を含む圧縮要素107の具体的構成等)によっては、比率L/Dと摩擦係数との関係において、比率L/Dが0.5~0.7の範囲よりも摩擦係数の極小値が小さくなる側にシフトする可能性がある。この場合には、比率L/Dの下限値は0.4未満に設定することもできる。
【0071】
一方、比率L/Dの上限値に関しては、本開示においては、軸部の諸条件によらず2.0以下に設定される。特許文献2によれば、比率L/Dを2.0~2.5の範囲内とすることで、振動の低減効果と軸受内損失の抑制効果の両立を図ることができる、とされている。しかしながら、後述する実施例では、比率L/Dが2.0を超える時点から摩擦係数の上昇率が増加する傾向にある(
図6参照)。この傾向は、摺動面積が広くなり過ぎると、本開示における潤滑油103(高分子量成分を含有する低粘度のもの)による摩擦係数を低減する効果が十分に発揮できない(言い換えれば、従来よりも摺動面積が狭いときに十分に効果を発揮できる)と判断することができる。
【0072】
このように、本開示においては、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油103を用いたときには、クランクシャフト108の比率L/Dの上限は2.0以下であればよく、下限は特に限定されないものの、好ましい一例として0.4以上を挙げることができる。諸条件にもよるが、比率L/Dが0.4以上であるということは、摺動面積を過剰に減少させるおそれを回避または抑制することができる。
【0073】
そのため、摺動面積を減少させた状態であっても、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油103が形成した油膜により、軸部の摩擦係数の急激な上昇を良好に抑制することができる。これにより、クランクシャフト108の摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができるため、冷媒圧縮機100の高効率化および耐摩耗性を好適に実現することができる。
【0074】
なお、
図3A~
図3Cに示す例では、軸部としては、クランクシャフト108の主軸109について、比率L/Dを説明しているが、本開示はこれに限定されず、偏心軸110においても同様である。つまり、偏心軸110における偏心軸受119との摺動面が単一面である場合には、当該摺動面の軸方向長さを単一摺動長さLとしたとき、または、偏心軸110における摺動面が複数の面に分割されている場合には、軸方向長さが最少である摺動面の当該軸方向長さを単一摺動長さLとしたときに、当該単一摺動長さLと偏心軸110の外径Dとの比率L/Dが2.0以下であればよい。
【0075】
したがって、本開示に係る冷媒圧縮機100においては、軸部である主軸109および偏心軸110の少なくとも一方において、比率L/Dが2.0以下であればよく、主軸109および偏心軸110の少なくとも一方が満たしていればよい。
【0076】
[潤滑油の構成]
次に、密閉容器101内に貯留されている潤滑油103のより具体的な構成について具体的に説明する。
【0077】
本開示に係る冷媒圧縮機100に用いられる潤滑油103としては、40℃での動粘度が1mm2 /S~7mm2 /Sの範囲内となる低粘度のものであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であり、さらに、相対的に分子量が大きい成分、すなわち、その質量分子量が500以上である高分子量成分を0.5質量%以上含有するものである。当該潤滑油103の具体的な材質は特に限定されず、代表的には、例えば、鉱油、アルキルベンゼン油、およびポリアルキレングリコール油からなる群から選択される少なくとも1種の油状物質を好適に用いることができる。
【0078】
本開示で用いられる潤滑油103は、もともと高分子量成分を含有するものであってもよいし、高分子量成分に該当する油状物質を0.5質量%以上となるように添加する構成であってもよい。前者の例としては、例えば鉱油を挙げることができる。未精製または粗精製の原料鉱油を精製して潤滑油103を調製(製造)する際に、0.5質量%以上の高分子量成分が残留するように原料油の精製条件または精製手法を調節すればよい。後者の例としては、例えば、鉱油、アルキルベンゼン油、またはポリアルキレングリコール油を潤滑油103の「主成分」とし、この主成分に対して「添加成分」として高分子量成分となる油状物質を添加したものを挙げることができる。
【0079】
本開示で用いられる潤滑油103の平均質量分子量は、前記の通り150~400の範囲内であればよい。潤滑油103の平均質量分子量がこの範囲内であれば、前述した40℃での動粘度の範囲を良好に実現できるとともに、高分子量成分を0.5質量%以上含有したときに、比率L/Dが2.0以下となるように摺動面積を減少させても好適な油膜を形成することが可能となる。また、潤滑油103の平均質量分子量は200~300の範囲内であってもよい。潤滑油103の平均質量分子量がこの範囲内であれば、諸条件にもよるが、比率L/Dが2.0以下となるように摺動面積を減少させたときに、好適な油膜をより形成しやすくなる。
【0080】
潤滑油103が、主成分に対して高分子量成分を添加した構成であるときに、高分子量成分の具体的な材質または種類は特に限定されず、質量分子量が500以上となる油状物質であればよい。例えば、主成分が鉱油であるときに、高分子量成分として同じく鉱油を用いてもよいし、アルキルベンゼン油を用いてもよいし、ポリアルキレングリコール油を用いてもよいし、他の油状物質を用いてもよい。
【0081】
潤滑油の平均質量分子量および高分子量成分の質量分子量の測定方法は特に限定されないが、本開示においては、後述する実施例で用いているGPC(Gel Permeation Chromatography)法による標準ポリスチレン換算を挙げることができる。すなわち潤滑油の平均質量分子量(重量平均分子量)はGPC法によるポリスチレン換算重量(質量)平均分子量として測定されればよい。また、高分子量成分の質量分子量が500以上であることは、GPC法により微分モル質量分布と質量分子量との関係を示す分子量分布グラフを測定し、質量分子量が500以上のピークが存在するか否かで判断すればよい。
【0082】
本開示で用いられる潤滑油103における高分子量成分の含有量は、その下限が0.5質量%であればよく、その上限については、少なくとも潤滑油103としての機能もしくは作用効果に影響を及ぼさない限り特に限定されない。後述する実施例(実施例3および
図7参照)によれば、潤滑油103が高分子量成分を含有しない場合(0質量%)と比較して、潤滑油103が高分子量成分を少なくとも0.5質量%するだけでも、冷媒圧縮機100の成績係数(COP:Coefficient of Performance)が向上している。
【0083】
また、後述する実施例(実施例3および
図7参照)によれば、高分子量成分の含有量の上限の好ましい一例としては7.0質量%以下を挙げることができ、より好ましくは6.0質量%以下を挙げることができ、さらに好ましくは5.0質量%を挙げることができる。潤滑油103が高分子量成分を含有しない場合(0質量%)と比較して、高分子量成分が7.0質量%を超えても成績係数が向上しているが、7.0質量%を超えると高分子量成分の含有量に見合った成績係数の向上効果が得られない可能性があるので、本開示では、高分子量成分の含有量の上限は7.0質量%以下を挙げることができる。
【0084】
また、後述する実施例によれば、高分子量成分の含有量が6.0質量%を超えた範囲での成績係数と、6.0質量%以下の範囲での成績係数とを比較すると、6.0質量%以下の範囲の方が良好な成績係数を示している。そのため、本開示では、高分子量成分の含有量の好ましい上限としては6.0質量%以下を挙げることができる。さらに、後述する実施例によれば、高分子量成分の含有量が。2.0~2.5質量%付近で成績係数が極大値を示し、5.0質量%付近でも、含有量の下限値0.5質量%と同程度の成績係数を示している。そのため、本開示では、高分子量成分の含有量のより好ましい上限は5.0質量%以下を挙げることができる。
【0085】
したがって、本開示における高分子量成分の含有量の好ましい範囲としては、0.5質量%~7.0質量%の範囲内を挙げることができ、より好ましい範囲としては、0.5質量%~6.0質量%の範囲内を挙げることができ、さらに好ましい範囲としては、0.5質量%~5.0質量%の範囲内を挙げることができる。なお、冷媒圧縮機100または潤滑対象である軸部の諸条件によっては、成績係数の極大値は、高分子量成分の含有量が少なくなったり多くなったりする側にシフトする可能性がある。この場合には、高分子量成分の含有量の上限値は7.0質量%を超えた値、もしくは、0.5質量%未満の値に設定することもできる。
【0086】
なお、潤滑油103における高分子量成分の含有量が前記の範囲内であれば、基本的には潤滑油103の平均質量分子量が150~400の範囲内に入ると判断される。すなわち、潤滑油103に含有される高分子量成分の比率が前記の範囲内であれば、潤滑油103全体で見たときに、高分子量成分が平均質量分子量の増大に与える影響はほとんどない(潤滑油103の平均質量分子量が400を超えない)とみなすことができる。したがって、潤滑油103における高分子量成分の含有量の上限は、潤滑油103の機能に影響を与えず、かつ、平均質量分子量を過剰に増大させない範囲で設定することも可能である。
【0087】
本開示において潤滑油103が高分子量成分を含有することで冷媒圧縮機100の成績係数が向上する理由としては、後述する実施例の結果から、潤滑油103が低粘度(40℃での動粘度が1mm2 /S~7mm2 /Sの範囲内)であっても、高分子量成分により摺動部において良好な油膜の形成に寄与しているためであると考えられる。すなわち、クランクシャフト108が摺動する際に摺動部に生じる潤滑油103の全体の流れに伴うことなく、摺動部を構成する主軸109の外周面(摺動面)および主軸受114の内周面(摺動面)に高分子量成分が存在することができ、これにより潤滑油103による油膜が良好に形成されると考えられる。
【0088】
本開示においては、潤滑油103として用いられる油状物質は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。ここでいう2種類以上の油状物質の組合せとは、例えば、鉱油に該当する異なる油状物質を2種類以上組み合わせる場合だけでなく、例えば、鉱油に該当する油状物質を1種類以上、アルキルベンゼン油に該当する油状物質を1種類以上(もしくはポリアルキレングリコール油に該当する油状物質を1種類以上)組み合わせる場合も含む。
【0089】
また、潤滑油103が、主成分に添加成分としての高分子量成分を添加したものである場合には、例えば、主成分として1種類の油状物質を用い、高分子量成分として主成分とは異なる油状物質を1種類用いてもよい。あるいは、主成分として2種類以上の油状物質を用い、高分子量成分として1種類の油状物質を用いてもよいし、主成分として1種類の油状物質を用い、高分子量成分として2種類以上の油状物質を用いてもよい。もしくは、主成分に高分子量成分を添加した油状物質の混合物を2種類以上さらに混合してもよい。
【0090】
本開示においては、油状物質そのものは特に限定されないものの、当該油状物質として、鉱油、アルキルベンゼン油、エステル油の少なくともいずれかを、主成分または高分子量成分(もしくはその両方)に用いればよい。これにより得られる潤滑油103は、摺動面積を減少させた状態であっても、軸部の摩擦係数を低減させる効果を良好に実現することができる。
【0091】
本開示で用いられる潤滑油103(油状物質または潤滑油組成物)の物性は、前述した40℃での動粘度を除いて特に限定されないが、好ましい物性の一例としては、当該潤滑油103の留出温度300℃での蒸留分率が0.1%以上で終点が440℃以上という蒸留特性を挙げることができる。この蒸留特性の測定方法は特に限定されないが、本開示では、JIS K2254:1998 石油製品-蒸留試験方法、あるいは、JIS K2601:1998 原油試験方法に準じて測定する方法を用いている。
【0092】
軸部および軸受部で構成される摺動部では、摺動時の摺動面同士の摩擦により発熱が生じるが、摩擦の初期には、閃光温度と称される瞬間的な高温が生じることが知られている。軸部の外周面および軸受部の内周面は、良好な摺動性を実現するために円滑な摺動面として構成される。ただし、摺動面が巨視的には円滑面であるとしても、微視的には微細な突出部が存在する。摺動時には、一方の摺動面の微細な突出部が、他方の摺動面に対して凝着したり破断したりすることが繰り返される。微細な突出部の破断に際して放出される熱エネルギーが集中すると瞬間的な高温が発生し、この瞬間的な高温を閃光温度と称する。
【0093】
例えば、参考文献1:特開2006-097096号公報には、浸炭または浸炭窒化された軸受鋼部品が開示されており、この参考文献1によれば、一般的には、閃光温度が約140℃を超えると焼付きが発生すると記載されている。摺動部における閃光温度は数百度に達することも知られているが、本開示では、高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油103を用いる場合、摺動部における閃光温度が300℃以上になる条件が重要になると判断された。
【0094】
それゆえ、本開示で用いられる潤滑油103(油状物質または潤滑油組成物)においては、その蒸留特性が、留出温度300℃での蒸留分率(体積分率)が0.1%以上で終点が440℃以上とすることが好ましい。潤滑油103の蒸留特性がこの条件を満たすことにより、摺動部において300℃以上の閃光温度が生じるとしても、潤滑油103による油膜の蒸発等を有効に抑制または防止することができる。そのため、潤滑油103が高分子量成分を含有する低粘度のものであり、かつ、摺動面積を減少させることで摺動部の温度が上昇しても、潤滑油103による油膜をより安定的に形成することが可能となる。
【0095】
本開示で用いられる潤滑油103は、高分子量成分を含有する低粘度の油状物質であればよいが、この油状物質に対して種々の添加剤を添加してもよい。言い換えれば、本開示で用いられる潤滑油103は、油状物質以外の成分を含有する潤滑油組成物であってもよい。なお、前記の通り、潤滑油103として用いられる油状物質は、1種類のみであってもよいし2種類以上であってもよいが、油状物質を2種類以上用いる場合も「潤滑油組成物」と定義してもよい。あるいは油状物質を2種類以上用いる場合には「混合油」と定義し、油状物質以外の成分を含有する場合には「潤滑油組成物」と定義してもよい。
【0096】
本開示で用いられる潤滑油103が、油状物質以外の成分(他の成分)を含有する潤滑油組成物である場合、具体的な他の成分は特に限定されないが、代表的には、潤滑油103の分野で公知の添加剤を挙げることができる。特に、本開示においては、潤滑油103は油性剤を含有することが好ましい。油性剤を潤滑油103に添加することにより、摺動部の摺動面に潤滑油103による油膜が形成されやすくなる。これにより、摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0097】
油性剤の具体的な種類は特に限定されないが、代表的には、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル類(エステル系化合物)、エーテル類、アミン類、アミド類、金属せっけん等を挙げることができる。これら油性剤は1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。油性剤の添加量は特に限定されないが、例えば、0.01~1重量%の範囲内を挙げることができる。
【0098】
本開示においては、より好ましい油性剤として、エステル系化合物を挙げることができる。エステル系化合物は、アルコールとカルボン酸とを反応させたエステル構造を有する化合物であればよい。アルコールは1価であってもよいし2価以上の多価アルコールであってもよい。同様に、カルボン酸もモノカルボン酸であってもよいしジカルボン酸であってもよいしトリカルボン酸であってもよい(4つ以上のカルボキシ基を有してもよい)。一般的には、市販のエステル系油性剤を好適に用いることができる。
【0099】
本開示で用いられる潤滑油103は、前記の通り高分子量成分を含有する低粘度のものであるが、このような潤滑油103が油性剤を含有する潤滑油組成物であれば、油膜の形成能力をより向上することができる。前述したように、本開示で用いられる潤滑油103は、高分子量成分を含有するため、摺動部を形成する主軸109および主軸受114の摺動面に高分子量成分が存在し、これにより良好な油膜の形成が可能になると考えられる。さらに、潤滑油103が油性剤を含有することで、この油性剤が主軸109および主軸受114の摺動面に吸着し、これにより潤滑油103(潤滑油組成物)による油膜の形成をさらに容易にしていると考えられる。
【0100】
特に油性剤がエステル系化合物であれば、当該油性剤はエステル結合を有することになる。そのため、このエステル結合に由来する極性により、潤滑油103(潤滑油組成物)による油膜を摺動部により密着させやすくする(油膜の密着性を向上する)ことができる。これにより、潤滑油103の油膜の形成能力をさらに向上することができるため、摩擦係数をより一層低減することができ、摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0101】
本開示で用いられる潤滑油103は、添加剤として、前述した油性剤以外に硫黄系の摺動性改質剤を含有してもよい。硫黄系の摺動性改質剤としては、軸部に用いられる材料(軸部材料)と硫黄とが反応可能なものを挙げることができる。したがって、摺動性改質剤は、硫黄そのものであってもよいし、硫黄を含有し軸部材料と反応可能な硫黄化合物であってもよい。
【0102】
本開示では、軸部の材料として鉄系材料が用いられるので、摺動性改質剤として使用可能な硫黄化合物としては、硫化オレフィン、サルファイド系化合物(例えば、ジベンジル(ジ)サルファイド(DBDS)等)、キザンテート、チアジアゾール、チオカーボネート、硫化油脂、硫化エステル、ジチオカーバメート、硫化テルペン等を挙げることができる。
【0103】
潤滑油103における硫黄系の摺動性改質剤の含有量は特に限定されないが、好ましくは、硫黄元素重量に換算したときに100ppm以上となるように、摺動性改質剤を潤滑油103に添加すればよい。なお、摺動性改質剤の添加量の上限は特に限定されず、潤滑油103(潤滑油組成物)の物性に影響を与えない程度(例えば1000ppm以下)であればよい。
【0104】
本開示で用いられる潤滑油103は、前記の通り高分子量成分を含有する低粘度のものであるが、このような潤滑油103が、油性剤に加えて摺動性改質剤を含有する潤滑油組成物であれば、摺動性改質剤により摺動面の耐摩耗性を良好なものとすることができる。そのため、摺動面積を減少させた状態であっても、摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0105】
本開示で用いられる潤滑油103は、添加剤として、前述した油性剤および摺動性改質剤に加えて、公知の極圧添加剤を添加してもよい。具体的な極圧添加剤としては、公知のものを好適に用いることができ、特に限定されないが、例えば、リン酸エステル等のリン系化合物、塩素系炭化水素またはフッ素系炭化水素等のハロゲン化化合物等を挙げることができる。これら極圧添加剤は、1種類のみを潤滑油組成物(潤滑油103)に添加してもよいし2種類以上を適宜組み合わせて添加してもよい。
【0106】
これら極圧添加剤の中でも、リン系化合物を好ましく用いることができる。代表的なリン系化合物としては、トリクレジルホスフェイト(TCP)、トリブチルホスフェイト(TBP)、トリフェニルホスフェイト(TPP)を挙げることができ、中でもTCPをより好ましく用いることができる。潤滑油103に対して、硫黄系の摺動性改質剤に加えてリン系の極圧添加剤を添加することで、軸部摺動部において良好な摩耗低減等を実現することができる。
【0107】
極圧添加剤の潤滑油組成物に対する添加量は特に限定されないが、例えば、潤滑油103の主成分が鉱油またはアルキルベンゼン油のような低極性物質である場合には、好適な添加量として、0.5~8.0重量%の範囲内を挙げることができ、1~3重量%をより好ましい範囲内として挙げることができる。
【0108】
本開示で用いられる潤滑油103は、前記の通り高分子量成分を含有する低粘度のものであるが、このような潤滑油103が、油性剤に加えて極圧添加剤を含有する潤滑油組成物であれば、極圧添加剤により摺動面の耐摩耗性を良好なものとすることができる。特に、摺動性改質剤および極圧添加剤の双方を含有していれば、その相乗効果により、摺動面における摩耗をさらに良好に低減することができる。そのため、摺動面積を減少させた状態であっても、摺動部の低摩擦化をより好適に実現することができる。
【0109】
加えて、本開示に係る冷媒圧縮機100においては、潤滑油103に対して、油性剤、摺動性改質剤および極圧添加剤以外に、公知の種々の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、潤滑油103の分野で公知の様々なものを好適に用いることができるが、代表的には、酸化防止剤、酸捕捉剤、金属不活性剤、消泡剤、腐食防止剤、または分散剤等を挙げることができる。
【0110】
言い換えれば、本開示で用いられる冷媒圧縮機100に用いられる潤滑油103は、高分子量成分を含有する低粘度の油状物質(1種類であってもよいし2種類以上の混合油であってもよい)であればよく、好ましくは、油状物質に油性剤が添加された(油状物質および油性剤から構成される)潤滑油組成物であればよく、他の好ましい一例としては、潤滑油組成物が、摺動性改質剤または極圧添加剤、もしくはその両方を添加剤として含有するものであってもよい。
【0111】
このように、本開示に係る冷媒圧縮機100においては、(1)潤滑油103として、40℃での動粘度が1mm2 /S~7mm2 /Sであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であるとともに、その質量分子量が500以上である高分子量成分を0.5質量%以上含有するものを用いるという条件と、(2)単一摺動長さLと軸部の外径Dとの比率L/Dが2.0以下であるという条件とを満たしている。(2)の条件は、軸部の摺動面が単一面であっても複数面であっても比率L/Dが2.0以下であればよい。また、好ましい一例としては、(1)および(2)の条件に加えて、(3)潤滑油103が油性剤(特にエステル系)を含有するという条件を満たしてもよい。
【0112】
これにより、潤滑油103を低粘度化するとともに、比率L/Dが2.0以下となるように摺動面積を減少させても、質量分子量が500以上の高分子量成分によって、軸部と軸受部との摺動部において良好な潤滑油103の油膜が形成できる。そのため、摺動部の摩擦係数を下げることができるとともに、摺動部の摩耗も良好に抑制することができる。それゆえ、軸受部により軸支される軸部の信頼性を良好なものとすることが可能となる。その結果、冷媒圧縮機100の高効率化および信頼性をより一層良好なものとすることができる。
【0113】
なお、本開示に係る冷媒圧縮機100は、前記の通り、複数の運転周波数でインバータ駆動されるものであってもよい。インバータ駆動では、電動要素106が低回転数で運転される場合(低速運転)と高回転数で運転される場合(高速運転)とが発生するが、低回転数での運転では、軸部摺動部に対する潤滑油103の供給量が低下する。本開示では、軸部摺動部の摺動面積が小さくなっているが、潤滑油103の供給量が低下しても高効率化並びに良好な耐摩耗性を実現することができる。
【0114】
また、低回転数から高回転数に移行するとき(電動要素106の回転数が増加するとき)であっても、良好な耐摩耗性を実現することができる。それゆえ、インバータ駆動における低速運転時または高速運転時においても、軸部摺動部においては、質量分子量が500以上の成分並びにエステル系の油性剤に由来する油膜が形成できる。その結果、冷媒圧縮機100の信頼性を向上できるとともに、運転効率もより良好なものとすることができる。
【0115】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、前記実施の形態1で説明した冷媒圧縮機100を備える冷凍・冷蔵装置の一例について、
図4を参照して具体的に説明する。
図4は、前記実施の形態1に係る冷媒圧縮機100を備える冷凍・冷蔵装置の概略構成を模式的に示している。そのため、本実施の形態2では、冷凍・冷蔵装置の基本構成の概略についてのみ説明する。
【0116】
図4に示すように、本実施の形態2に係る冷凍・冷蔵装置は、本体275、区画壁278、および冷媒回路270等を備えている。本体275は、断熱性の箱体および扉体等により構成されており、箱体はその一面が開口した構成であり、扉体は箱体の開口を開閉する構成である。本体275の内部は、区画壁278により物品の貯蔵空間276と機械室277とに区画される。貯蔵空間276内には、図示しない送風機が設けられている。なお、本体275の内部は、貯蔵空間276および機械室277以外の空間等に区画されてもよい。
【0117】
冷媒回路270は、貯蔵空間276内を冷却する構成であり、例えば、前記実施の形態1で説明した冷媒圧縮機100と、放熱器272と、減圧装置273と、吸熱器274とを備え、これらが環状に配管で接続された構成となっている。吸熱器274は、貯蔵空間276内に配置されている。吸熱器274の冷却熱は、
図4の破線の矢印で示すように、図示しない送風機によって貯蔵空間276内を循環するように撹拌される。これにより貯蔵空間276内は冷却される。
【0118】
冷媒回路270が備える冷媒圧縮機100は、前記実施の形態1で説明したように、(1)潤滑油103として、40℃での動粘度が1mm2 /S~7mm2 /Sであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であるとともに、その質量分子量が500以上である高分子量成分を0.5質量%以上含有するものを用いるという条件と、(2)単一摺動長さLと軸部の外径Dとの比率L/Dが2.0以下であるという条件とを満たしており、好ましくは(3)エステル系の油性剤を用いるという条件を満たしている。これにより、冷媒圧縮機100の高効率化を図ることができるとともに、その信頼性をより一層良好なものとすることができる。
【0119】
このように、本実施の形態2に係る冷凍・冷蔵装置は、前記実施の形態1に係る冷媒圧縮機100を搭載している。この冷媒圧縮機100では、低粘度の潤滑油103を用いて軸部摺動部の摺動面積を減少(低減)させたものであり、かつ、良好な軸部の信頼性を有するものである。冷凍・冷蔵装置が、このように高効率かつ良好な信頼性を有する密閉型冷媒圧縮機を備えることによって、その消費電力を低減することができるとともに、信頼性も高いものとすることができる。
【実施例0120】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0121】
(潤滑油および冷媒圧縮機)
以下の実施例では、質量分子量が500以上である高分子量成分を含有する低粘度の潤滑油103(本実施例の潤滑油103)として、40℃での動粘度が2.7mm2 /Sであり、実施例3を除いて高分子量成分の含有量が2.0質量%である鉱油を用いた。なお、本実施例の潤滑油103では、主成分および高分子量成分のいずれも鉱油である。
【0122】
また、以下の実施例および比較例では、冷媒圧縮機100として、レシプロコンプレッサー:TKD91E(製品名、パナソニック株式会社製)を用いた。
【0123】
(実施例1)
本実施例の潤滑油103の分子量分布をGPC法により測定した。その結果を
図5Aに示す。なお、
図5Aの分子量分布グラフでは、縦軸が微分モル質量分布(dW/dlogM)であり横軸が質量分子量である。また、GPC法の条件は、検出器として示差屈折率検出器RIを、カラムとして直径6.0mm×長さ15cmのものを、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を、標準試料として単分散ポリスチレンを用い、流速0.45mL/分、カラム温度40℃とした。
【0124】
(比較例1)
従来の潤滑油(JXTGエネルギー株式会社製、商品名FREOL S3)の分子量分布を実施例1と同様にしてGPC法により測定した。その結果を
図5Bに示す。なお、
図5Bの分子量分布グラフでも、
図5Aと同様に、縦軸が微分モル質量分布(dW/dlogM)であり横軸が質量分子量である。
【0125】
(比較例2)
本実施例の潤滑油103に含有される高分子量成分のみについて、その分子量分布を実施例1と同様にしてGPC法により測定した。その結果を
図5Cに示す。なお、
図5Cの分子量分布グラフでも、
図5Aと同様に、縦軸が微分モル質量分布(dW/dlogM)であり横軸が質量分子量である。
【0126】
(実施例2)
冷媒圧縮機100において本実施例の潤滑油103(実施例1参照)を用いるとともに、クランクシャフト108の比率L/Dを0.3~2.5の範囲内で変化させて、摺動部の摩擦係数を評価した。その結果を
図6において実線で示す。なお、
図6のグラフでは、縦軸が摩擦係数であり横軸が比率L/Dである。また、クランクシャフト108の摺動部における摩擦係数は、ロードセルによる摩擦力測定法にて測定した。
【0127】
(比較例3)
冷媒圧縮機100において従来の潤滑油(比較例1参照)を用いるとともに、クランクシャフト108の比率L/Dを0.3~2.5の範囲内で変化させて、摺動部の摩擦係数を評価した。その結果を
図6において破線で示す。
【0128】
(実施例3)
本実施例の潤滑油103において、高分子量成分の含有量を0質量%~約8質量%の範囲内で変化させて、冷媒圧縮機100の成績係数を評価した。その結果を
図7に示す。なお、
図7のグラフでは、縦軸が成績係数であり、横軸が高分子量成分の含有量である。また、成績係数(COP)は、消費エネルギー(入力)に対する冷凍能力の比(冷凍能力/入力)である。
【0129】
(実施例および比較例の対比)
図5A~
図5Cの対比から明らかなように、本実施例の潤滑油103は、
図5Aのブロック矢印に示すように、
図5Cに対応する高分子量成分を0.5質量%以下で含有しているが、従来の潤滑油には高分子量成分は含有されていない。
【0130】
本実施例の潤滑油103を用いた冷媒圧縮機100では、
図6において実線で示すように、比率L/Dが2.0以下の範囲内で良好な摩擦係数を実現することができる。一方、従来の潤滑油を用いた冷媒圧縮機100では、
図6において破線で示すように、本実施例の潤滑油103を用いた場合よりも、比率L/Dの変化に関わらず全体的に摩擦係数が高くなっている。言い換えれば、本実施例の潤滑油103を用いた冷媒圧縮機100では、従来の潤滑油よりも摩擦係数を低減することができ、特に比率L/Dが2.0以下となる条件(摺動面積を減少させた条件)下では、摺動部の摩擦係数を低減することができることがわかる。
【0131】
また、本実施例の潤滑油103を用いた冷媒圧縮機100では、
図7に示すように、潤滑油103に高分子量成分を少なくとも0.5質量%以上含有させることで、成績係数を良好に低減できることがわかる。
【0132】
このように、本開示に係る密閉型冷媒圧縮機は、潤滑油を貯留する密閉容器と、当該密閉容器内に収容される電動要素および当該電動要素により駆動され冷媒を圧縮する圧縮要素と、を備え、前記潤滑油は、40℃での動粘度が1mm2 /S~7mm2 /Sであり、かつ、その平均質量分子量が150~400であるとともに、高分子量成分を0.5質量%以上含有するものであり、前記高分子量成分は、その質量分子量が500以上であり、前記圧縮要素は、軸部として、主軸および偏心軸を有するクランクシャフトと、前記軸部を軸支する軸受部として、前記主軸を軸支する主軸受および前記偏心軸を軸支する偏心軸受と、を備え、前記主軸における前記主軸受との摺動面は、単一面であるか複数の面に分割されており、前記摺動面が単一面である場合には、当該摺動面の軸方向長さを単一摺動長さLとしたとき、または、前記摺動面が複数の面に分割されている場合には、軸方向長さが最少である摺動面の当該軸方向長さを単一摺動長さLとしたときに、当該単一摺動長さLと前記主軸の外径Dとの比率L/Dが2.0以下である構成である。
【0133】
このような構成によれば、クランクシャフトにおいて、主軸の摺動面が単一面であっても複数面であっても、単一摺動長さLと外径Dとの比率L/Dが2.0以下であるとともに、用いられる潤滑油がより低粘度であっても、当該潤滑油の平均分子量が所定範囲内であり、かつ、当該潤滑油が相対的に分子量の大きい高分子量成分を0.5質量%以上含有している。これにより、比率L/Dが2.0以下となるように摺動面積を減少させても、高分子量成分により低粘度の潤滑油でも好適な油膜を形成することが可能となる。その結果、より粘度の低い潤滑油を用いるとともに摺動面積を減少させた軸受部を用いても、当該軸受部により軸支される軸部の摩擦係数を低減することが可能になる。これにより、クランクシャフトの摺動部の低摩擦化を好適に実現することができるので、高効率化が可能であるとともに信頼性も良好にすることが可能な密閉型冷媒圧縮機を得ることができる。
【0134】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【0135】
また、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以上のように、本発明によれば、低粘度の潤滑油を用いながら信頼性に優れた高効率な冷媒圧縮機と、この冷媒圧縮機を用いた冷凍・冷蔵装置を提供することが可能となる。そのため、本発明は、冷凍サイクルを用いた各種機器に幅広く適用することができる。