(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188229
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】中間中胚葉細胞から腎前駆細胞への分化誘導方法、および多能性幹細胞から腎前駆細胞への分化誘導方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20221213BHJP
A61K 35/22 20150101ALI20221213BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/22
A61P13/12
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162223
(22)【出願日】2022-10-07
(62)【分割の表示】P 2019520293の分割
【原出願日】2018-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2017104021
(32)【優先日】2017-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム・技術開発個別課題」「慢性腎臓病に対する再生医療開発に向けたヒトiPS細胞から機能的な腎細胞と腎組織の作製」委託研究開発、および、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム・iPS細胞研究中核拠点」「再生医療用iPS細胞ストック開発拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】笠原 朋子
(72)【発明者】
【氏名】長船 健二
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多能性幹細胞から誘導した中間中胚葉細胞をさらに腎前駆細胞へ分化誘導する方法を提供する。
【解決手段】多能性幹細胞から腎前駆細胞を製造する方法は、以下の工程、(i)多能性幹細胞を、FGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;(ii)FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;(iii)FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程;(iv)FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK(Rho-kinase)阻害剤を含む培地で培養する工程;(v)レチノイン酸またはその誘導体およびFGF9を含む培地で培養する工程;および(vi)GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養し、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を誘導する工程、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間中胚葉細胞をGSK(グリコーゲン合成酵素キナーゼ)-3β阻害剤およびFGF(線維芽細胞増殖因子)9を含む培地で接着培養し、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を誘導する工程を含む、腎前駆細胞の製造方法。
【請求項2】
前記腎前駆細胞がSIX2陽性細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中間中胚葉細胞がOSR1陽性細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
GSK-3β阻害剤がCHIR99021である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記培地はさらにROCK阻害剤を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記接着培養は細胞外基質でコートされた培養容器を用いて行われる、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記細胞外基質はラミニン511のE8フラグメントである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記中間中胚葉細胞が、多能性幹細胞から誘導された中間中胚葉細胞である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記中間中胚葉細胞が、以下の工程(i)~(v)を含む方法で製造された中間中胚葉細胞である、請求項8に記載の方法。
(i)多能性幹細胞を、FGF2、BMP(骨形成タンパク質)4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を含む培地で培養する工程;および
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体およびFGF9を含む培地で培養する工程。
【請求項10】
工程(v)の培地はさらにBMP阻害剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記iPS細胞がヒトiPS細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
多能性幹細胞から腎前駆細胞を製造する方法であって、以下の工程(i)~(vi)を含む、方法。
(i)多能性幹細胞を、FGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7お
よびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK(Rho-kinase)阻害剤を含む培地で培養する工程;
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体およびFGF9を含む培地で培養する工程;および
(vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養し、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を誘導する工程。
【請求項14】
工程(v)の培地はさらにBMP阻害剤を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記腎前駆細胞がSIX2陽性細胞である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(v)で得られた細胞がOSR1陽性細胞である、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記GSK-3β阻害剤がCHIR99021である、請求項13~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記工程(vi)の培地はさらにROCK阻害剤を含む、請求項13~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記培養は細胞外基質でコートされた培養容器を用いて行われる、請求項13~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記細胞外基質はラミニン511のE8フラグメントである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項13~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記iPS細胞がヒトiPS細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれかに記載の方法で製造された、腎前駆細胞。
【請求項24】
請求項1~22のいずれかに記載の方法で製造された腎前駆細胞を用いて得られる、腎臓オルガノイド。
【請求項25】
請求項1~22のいずれかに記載の方法で製造された腎前駆細胞またはそれを用いて得られる腎臓オルガノイドを含む、医薬組成物。
【請求項26】
請求項1~22のいずれかに記載の方法で製造された腎前駆細胞またはそれを用いて得られる腎臓オルガノイドを含む、腎疾患治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を分化誘導する方法に関する。本発明はまた、多能性幹細胞から腎前駆細胞を分化誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、本邦において慢性腎臓病(CKD)の患者数は、約1,300万人と推計されており、新たな国民病と呼ばれている。慢性腎臓病に対する根治的治療法は少なく、その進行によって透析療法を必要とする末期慢性腎不全患者は30万人以上であり、医学的のみならず医療経済的にも大きな問題となっている。末期慢性腎不全を含む慢性腎臓病の根治療法として腎移植が挙げられるが、深刻なドナー臓器不足のため需要に対し供給が全く追いついていない状態である。
【0003】
腎臓は、胎生初期の組織である中間中胚葉に由来し、脊椎動物では中間中胚葉から前腎、中腎、後腎の3つの腎臓が形成され、哺乳類では後腎が成体の腎臓となる。後腎は、間葉
と呼ばれる成体腎のネフロンと間質に将来分化する組織と尿管芽と呼ばれる成体腎の集合管から下部の腎盂、尿管、膀胱の一部に将来分化する組織の2つの組織の相互作用で発生
する。さらに、後腎間葉の中にネフロンを構成する糸球体と数種類の尿細管上皮細胞に分化する多分化能を有するネフロン前駆細胞の存在が示されている(非特許文献1,2)。
【0004】
ヒト人工多能性幹(iPS)細胞やヒト胚性幹(ES)細胞からネフロン前駆細胞を高効率に
分化誘導する方法が確立されれば、将来的に三次元の腎臓の再構築による腎移植のドナー不足の解決や糸球体や尿細管細胞の供給源として細胞療法に使用することが期待される。さらに、糸球体や尿細管細胞やそれらを含む腎組織を用いた薬剤腎毒性評価系や疾患特異的iPS細胞から作製される腎細胞と腎組織を用いた疾患モデル作製や治療薬開発などの研
究への発展が期待される。
【0005】
ヒトiPS細胞やヒトES細胞からネフロン前駆細胞を分化誘導する方法が数報報告されてい
るが(非特許文献3~6)、胚様体(embryoidbody;EB)を用いているため分化誘導効率が低
いことや(非特許文献3)、発生の各段階を正確に再現しているかどうかが不明であること
が問題であった(非特許文献4~6)。
また、本発明者らのグループは、中間中胚葉細胞を、TGFβシグナル刺激剤およびBMP阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞の製造方法について開示しているが(特許文献1)、より効率よく腎前駆細胞を分化誘導できる方法が
求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】OsafuneK.,etal.,Development2006;133:151-61.
【非特許文献2】KobayashiA.,etal.,CellStemCell2008;3:169-81.
【非特許文献3】TaguchiA.,etal.,CellStemCell.2014;14:53-67.
【非特許文献4】TakasatoM.,etal.,NatCellBiol.2014;16:118-26.
【非特許文献5】TakasatoM.,etal.,Nature.2015;526:564-568.
【非特許文献6】MorizaneR.,etal.,Nat.Biotechnol.2015;33:1193-1200.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を効率よく分化誘導する方法を提供することにある。より具体的には、多能性幹細胞から誘導した中間中胚葉細胞をさらに腎前駆細胞へ分化誘導する工程を含む、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を分化誘導する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で接着培養を行うことにより、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を分化誘導できることを見出した。本発明はそのような知見を基にして完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する:
[1]中間中胚葉細胞をGSK(グリコーゲン合成酵素キナーゼ)-3β阻害剤およびFGF(線維芽細胞増殖因子)9を含む培地で接着培養し、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を誘導する工程を含む、腎前駆細胞の製造方法。
[2]前記腎前駆細胞がSIX2陽性細胞である、[1]に記載の方法。
[3]前記中間中胚葉細胞がOSR1陽性細胞である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]GSK-3β阻害剤がCHIR99021である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記培地はさらにROCK阻害剤を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記接着培養は細胞外基質でコートされた培養容器を用いて行われる、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記細胞外基質はラミニン511のE8フラグメントである、[6]に記載の方法。
[8]前記中間中胚葉細胞が、多能性幹細胞から誘導された中間中胚葉細胞である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記中間中胚葉細胞が、以下の工程(i)~(v)を含む方法で製造された中間中胚葉細胞である、[8]に記載の方法。
(i)多能性幹細胞を、FGF2、BMP(骨形成タンパク質)4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を含む培地で培養する工程;および
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体およびFGF9を含む培地で培養する工程。
[10]工程(v)の培地はさらにBMP阻害剤を含む、[9]に記載の方法。
[11]前記多能性幹細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、[8]または[10]のいずれかに記載の方法。
[12]前記iPS細胞がヒトiPS細胞である、[11]に記載の方法。
[13]多能性幹細胞から腎前駆細胞を製造する方法であって、以下の工程(i)~(vi)を含む、方法。
(i)多能性幹細胞を、FGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK(Rho-kinase)阻害剤を含む培地で培養する工程;
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体およびFGF9を含む培地で培養する工程;および
(vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養し、中間中胚葉細胞から腎前駆細胞を誘導する工程。
[14]工程(v)の培地はさらにBMP阻害剤を含む、[13]に記載の方法。
[15]前記腎前駆細胞がSIX2陽性細胞である、[13]または[14]に記載の方法。
[16]前記工程(v)で得られた細胞がOSR1陽性細胞である、[13]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]前記GSK-3β阻害剤がCHIR99021である、[13]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18]前記工程(vi)の培地はさらにROCK阻害剤を含む、[13]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]前記培養は細胞外基質でコートされた培養容器を用いて行われる、[13]~[18]のいずれかに記載の方法。
[20]前記細胞外基質はラミニン511のE8フラグメントである、[19]に記載の方法。
[21]前記多能性幹細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、[13]~[20]のいずれかに記載の方法。
[22]前記iPS細胞がヒトiPS細胞である、[21]に記載の方法。
[23][1]~[22]のいずれかに記載の方法で製造された、腎前駆細胞。
[24][1]~[22]のいずれかに記載の方法で製造された腎前駆細胞を用いて得られる、腎臓オルガノイド。
[25][1]~[22]のいずれかに記載の方法で製造された腎前駆細胞またはそれを用いて得られる腎臓オルガノイドを含む、医薬組成物。
[26][1]~[22]のいずれかに記載の方法で製造された腎前駆細胞またはそれを用いて得られる腎臓オルガノイドを含む、腎疾患治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、接着培養で培養が行えるため、80%以上の高効率でヒトiPS細胞から腎前駆細胞への分化誘導を可能である。さらに、後腎間葉ネフロン前駆細胞を派生させる後方胚盤葉上層、後期体節中胚葉細胞、後方中間中胚葉細胞の各発生分化段階を正確に再現した方法であるため、各段階での細胞の解析も可能である。
後腎は成体腎を形成する胎児腎組織の一つであり、腎臓再生において必須のコンポーネントである。また、後腎ネフロン前駆細胞やそこから派生する糸球体、尿細管に発生する腎疾患は多いため、腎疾患モデル作製においても本発明の方法は有用である。従って、本発明の方法は、腎疾患に対する治療方法や治療薬探索の観点においても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ヒトiPS細胞から分化誘導された後期後方エピブラスト、中胚葉系譜後期原始線条、後腎系譜後期原始線条、後期後方中間中胚葉、およびネフロン前駆細胞(腎前駆細胞)を示す免疫細胞染色の結果を示す図(写真)。後期後方中間中胚葉、およびネフロン前駆細胞については、マーカー陽性細胞の割合もFACSで示した。
【
図2】ヒトiPS細胞由来腎前駆細胞をマウス胎仔腎と共培養して得られた腎臓オルガノイドの染色結果を示す写真。図中、Podocalyxinは糸球体のマーカーを、LTLは近位尿細管のマーカーを、CDH1は遠位尿細管のマーカーを、CDH6は近位尿細管のマーカーを、Nephrinは糸球体のマーカーを示し、またスケールバーは、50μmを示す。
【
図3】ヒトiPS細胞由来腎前駆細胞を培養して得られた腎臓オルガノイドの明視野像および免疫染色像を示す写真。図中、Podocalyxinは糸球体のマーカーを、LTLは近位尿細管のマーカーを、CDH1およびBRN1は遠位尿細管とヘンレのループのマーカーを示す。Dolicosbiflorusagglutinin(DBA)は遠位尿細管マーカーである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を以下に詳細に説明する。
【0014】
<中間中胚葉細胞から腎前駆細胞への分化誘導>
本発明は、中間中胚葉細胞をGSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養する工程(腎前駆細胞分化誘導工程ともいう)を含む、腎前駆細胞を製造する方法を提供する。
【0015】
本発明において、中間中胚葉細胞とは、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養することによって腎前駆細胞へ誘導される任意の細胞を意味する。中間中胚葉細胞を取得する方法としては、例えば、マウスおよびヒトの多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導方法が公知である(BiochemBiophysResCommun.393:877-82(2010)、NatCommun
.4:1367(2013)、WO2012/011610および特許文献1)。中間中胚葉細胞を特徴づけるマーカーとしてOSR1が知られており、本発明の方法で使用される中間中胚葉細胞の例として、OSR1陽性の中間中胚葉細胞が挙げられる。例えば、OSR1プロモーター制御下に導入されたレポーター遺伝子(例えば、GFP)を有する多能性幹細胞(例えば、後記実施例記載のOSR1-GFPレポーターヒトiPS細胞)を培養し、当該レポーター遺伝子の発現を指標に当該分野で公知の方法(例えば、細胞ソーターを用いる方法)によって、OSR1陽性の中間中胚葉細胞を単離することができる。また、定量的RT-PCR(NatCommun4,1367,(2013))等の遺伝子発現を分析する方法によって、中間中胚葉細胞におけるOSR1の発現を確認することもできる。本発明において、OSR1陽性の中間中胚葉細胞には、OSR1タンパク質を発現している細胞、およびOSR1プロモーター制御下にある遺伝子によってコードされるタンパク質を発現する細胞が包含される。本発明において、OSR1には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_145260.2、マウスの場合、NM_011859.3に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。好ましくは、本発明の方法で使用される中間中胚葉細胞は、SIX2が陰性であり、OSR1、HOX11、WT1が陽性である細胞である。
【0016】
本発明において、腎前駆細胞は、ネフロン前駆細胞と同等の細胞として取り扱われ、invitroで腎臓の糸球体様構造や尿細管様構造などの器官構造へ分化し得る細胞であり、器官構造への分化能は、例えば、OsafuneK,etal.(2006),Development133:151-61に記載の方法によって評価し得る。腎前駆細胞としての状態を維持するための特徴的な因子としてSIX2が知られており(CellStemCell3:169-181(2008))、本発明の方法で誘導される腎前駆細胞の例として、SIX2陽性の腎前駆細胞が挙げられる。例えば、SIX2プロモーター制御下に導入されたレポーター遺伝子(例えば、tdTomato)を有する多能性幹細胞(例えば、後記実施例記載のOSR1-GFP/SIX2-tdTomatoレポーターヒトiPS細胞)を培養し、当該レポーター遺伝子の発現を指標に当該分野で公知の方法(例えば、細胞ソーターを用いる方法)によって、SIX2陽性の腎前駆細胞を単離することができる。また、定量的
RT-PCR(NatCommun4,1367,(2013))等の遺伝子発現を分析する方法によって、腎前駆細胞におけるSIX2の発現を確認することもできる。本発明において、SIX2陽性の腎前駆細胞には、SIX2タンパク質を発現している細胞、およびSIX2プロモーター制御下にある遺伝子にコードされるタンパク質を発現する細胞が包含される。本発明において、SIX2には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_016932.4、マウスの場合、NM_011380.2に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。好ましくは、本発明の方法で誘導される腎前駆細胞は、OSR1が陽性であり、かつHOX11、WT1、SIX2およびSALL1が陽性である細胞である。
【0017】
本発明において、中間中胚葉細胞または腎前駆細胞は、他の細胞種が含まれる細胞集団として提供されてもよく、純化された集団であってもよい。好ましくは、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%、20%、28%または30%以上当該細胞が含まれた細胞集団である。純化は上記マーカーを指標にFACSなどの方法にて行うことができる。
【0018】
本発明において、接着培養とは細胞が培養基材に接着した状態で培養されることを意味し、例えば、コーティング処理された培養皿にて培養することを意味する。コーティング剤としては、細胞外基質が好ましく、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリンおよびラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BDMatrigel(商標)などの細胞からの調製物であってもよい。細胞外基質は好ましくは、ラミニンまたはその断片である。本発明においてラミニンとは、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造を有するタンパク質であ
り、サブユニット鎖の組成が異なるアイソフォームが存在する細胞外マトリックスタンパク質である。ラミニンは、5種のα鎖、4種のβ鎖および3種のγ鎖のヘテロ三量体の組合
せで約15種類のアイソフォームを有する。特に限定されないが、例えば、α鎖は、α1、α2、α3、α4またはα5であり、β鎖は、β1、β2、β3またはβ4であり、ならびにγ鎖は、γ1、γ2またはγ3が例示される。ラミニンは、より好ましくは、α5、β1およびγ1からなるラミニン511である(NatBiotechnol28,611-615(2010))。
ラミニンは断片であってもよく、インテグリン結合活性を有している断片であれば、特に限定されないが、例えば、エラスターゼにて消化して得られる断片であるE8フラグメント(ラミニン511E8)(EMBOJ.,3:1463-1468,1984、J.CellBiol.,105:589-598,1987、WO2011/043405)であってもよい。ラミニン511E8は市販されており、例えばニッピ株式会社等から購入可能である。
【0019】
腎前駆細胞分化誘導工程に使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へGSK-3β阻害剤およびFGF9を添加して調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium199培地、Eagle’sMinimumEssentialMedium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’sModifiedEagle’sMedium(DMEM)培地、Ham’sF12(F12)培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOutSerumReplacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(In
vitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、およびこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有しうる。ReproFF2(リプロセル)など、あらかじめ幹細胞培養用に最適化された培地を使用してもよい。また、腎前駆細胞分化誘導工程に使用される培地には後述のY-27632などのROCK阻害剤が含まれてもよい。
【0020】
腎前駆細胞分化誘導工程において使用されるGSK-3β阻害剤は、GSK-3βの機能、例えば、キナーゼ活性を阻害できるものである限り特に限定されず、例えば、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK-3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニル-α-ブロモメチルケトン化合物であるGSK-3β阻害剤VII(α,4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチド阻害剤;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)および高い選択性を有するCHIR99021(Nature(2008)
453:519-523)が挙げられる。これらの化合物は、例えば、Stemgent社、Calbiochem社、Biomol社等から入手可能であり、また自ら作製してもよい。本工程で用いる好ましいGSK-3β阻害剤としては、CHIR99021が挙げられる。本工程で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、0.5μMから3μMであり、特に好ましくは0.5μMから1.5μMである。
【0021】
腎前駆細胞分化誘導工程において使用されるFGF9はヒトFGF9が好ましく、ヒトFGF9としては、例えば、NCBI(NationalCenterforBiotechnologyInformation)の
アクセッション番号:NP_002001.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。F
GF9は分化誘導活性を有する限りその断片及び機能的改変体が包含される。FGF9は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるFGF9の濃度は、例えば、1ng/mlから500ng/ml、1ng/mlから100ng/ml、5ng/mlから50ng/ml、または5ng/mlから25ng/mlである。
【0022】
腎前駆細胞分化誘導工程の培養日数は、長期間培養することで腎前駆細胞の製造効率に特に影響がないため上限はないが、例えば、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上が挙げられる。腎前駆細胞分化誘導工程において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、C
O2濃度は、好ましくは約2~5%である。
【0023】
本発明の1つの実施形態において、中間中胚葉細胞は、多能性幹細胞から誘導された中間中胚葉細胞である。この場合、誘導された中間中胚葉細胞を一旦単離し、単離された中間中胚葉細胞を本発明の培養工程によって腎前駆細胞へ誘導しても良い。または、多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を誘導し、中間中胚葉細胞を単離せずにそのまま本発明の培養工程に供することによって腎前駆細胞へ誘導しても良い。
【0024】
中間中胚葉細胞を単離する場合、内在性のOSR1プロモーターによって発現が制御されるレポーター遺伝子を有する多能性幹細胞を使用してもよい。多能性幹細胞のOSR1プロモーター制御下にレポーター遺伝子を導入する方法としては、例えば、BACベクター等を用いた相同組換えが挙げられ、WO2012/011610等に記載されている。また、誘導された腎前駆細胞を単離するために、SIX2プロモーターによって発現が制御されるレポーター遺伝子を有する多能性幹細胞を使用してもよく、前記と同様の方法を使
用して作製することができる。使用されるレポーター遺伝子としては、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、tdTomato、細胞表面タンパク質などの公知のレポータータンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。これらの多能性幹細胞から誘導された中間中胚葉細胞または腎前駆細胞は、当該レポータータンパク質の発現を指標として細胞ソーターを用いる方法、当該細胞表面タンパク質に対する抗体を使用して、磁気ビーズを用いて磁性により細胞を選別する方法(例えば、MACS)、当該抗体等が固定化された担体(例えば、細胞濃縮カラム)を用いる方法等、当該分野で公知の方法を用いて単離され得る。
【0025】
本発明において多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、本発明で使用される中間中胚葉細胞に誘導される任意の細胞が包含される。多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、製造工程において胚、卵子等の破壊をしないで入手可能であるという観点から、iPS細胞であり、より好ましくはヒトiPS細胞である。
【0026】
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入することによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等の遺伝子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、HuangfuD,etal.(2008),Nat.Biotechnol.,26:795-797、ShiY,etal.(2008),CellStemCell,2:525-528、EminliS,etal.(2008),StemCells.26:2467-2474、HuangfuD,etal.(2008),Nat.Biotechnol.26:1269-1275、ShiY,etal.(2008),CellStemCell,3,568-574、ZhaoY,etal.(2008),CellStemCell,3:475-479、MarsonA,(2008),CellStemCell,3,132-135、FengB,etal.(2009),Nat.CellBiol.11:197-203、R.L.Judsonetal.,(2009),Nat.Biotechnol.,27:459-461、LyssiotisCA,etal.(2009),ProcNatlAcadSciUSA.106:8912-8917、KimJB,etal.(2009),Nature.461:649-643、IchidaJK,etal.(2009),CellStemCell.5:491-5
03、HengJC,etal.(
2010),CellStemCell.6:167-74、HanJ,etal.(2010),Nature.463:1096-100、MaliP,etal.(2010),StemCells.28:713-720、MaekawaM,etal.(2011),Nature.474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0027】
体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0028】
また、iPS細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一または実質的に同一である体細胞を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座またはHLA-Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。
【0029】
<多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導>
本発明において、多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導に際して、以下の工程を含む方法を用いることができる。
(i)多能性幹細胞を、FGF2、BMP(骨形成タンパク質)4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を含む培地で培養する工程;および
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体およびFGF9を含む培地で培養する工程。
【0030】
以下に各工程についてさらに説明する。
【0031】
(i)多能性幹細胞を、FGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を含む培地で培養する工程
この工程では、多能性幹細胞から後期後方エピブラストが誘導される。後期後方エピブラストは、CDX1、OCT4、NANOG、E-CDH(CDH1)の少なくとも1つ以上のマーカーが陽性である細胞として特徴づけられ、好ましくはこれらすべてのマーカーが陽性である細胞として特徴づけられる。後期後方エピブラストはさらに、EOMESおよびBRACHYURYが陰性であることが好ましい。
【0032】
工程(i)では、多能性幹細胞を当該分野で公知の任意の方法で分離し、好ましくは接着培養により培養する。
多能性幹細胞の分離の方法としては、例えば、力学的分離や、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax
(TM)(InnovativeCellTechnologies,Inc)が挙げられる)またはコラゲナーゼ活性のみを有する分離溶液を用いた分離が挙げられる。好ましくは、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液を用いて解離し、力学的に細かく単一細胞へ分散する方法である。工程(i)で用いるヒト多能性幹細胞としては、使用したディッシュに対して70%~80%コンフルエントになるまで培養されたコロニーを用いることが好ましい。
【0033】
工程(i)において使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へFGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤およびレチノイン酸またはその誘導体を添加して調製することができる。基礎培地としては、上述したような基礎培地を使用することができ、血清が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、血清代替物、脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などを含有してもよい。
【0034】
工程(i)において使用されるGSK-3β阻害剤は、前述の腎前駆細胞分化誘導工程において例示したGSK-3β阻害剤を使用することができ、好ましいGSK-3β阻害剤としては、CHIR99021が挙げられる。工程(i)で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、0.5μMから3μMであり、特に好ましくは0.5μMから1.5μMである。
【0035】
工程(i)で使用されるFGF2(塩基性FGF:bFGF)はヒトFGF2が好ましく、ヒトFGF2としては、例えば、NCBI(NationalCenterforBiotechnologyInformation)のアクセッション番号:ABO43041.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられ
る。FGF2は分化誘導活性を有する限りその断片及び機能的改変体が包含されるFGF2は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるFGF2の濃度は、1ng/mlから1000ng/ml、好ましくは、10ng/mlから500ng/ml、より好ましくは、50ng/mlから250ng/mlである。
【0036】
工程(i)で使用されるBMP4はヒトBMP4が好ましく、ヒトBMP4としては、例えば、NCBI(NationalCenterforBiotechnologyInformation)のアクセッション番号
:AAH20546.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。BMP4は分化誘導活性を有する限りその断片及び機能的改変体が包含されるBMP4は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるBMP4の濃度は、0.1ng/mlから100ng/ml、好ましくは、0.5ng/mlから50ng/ml、より好ましくは、0.5ng/mlから5ng/mlである。
【0037】
工程(i)において使用されるレチノイン酸は、レチノイン酸そのものでもよいし、天然のレチノイン酸が有する分化誘導機能を保持するレチノイン酸誘導体でもよい。レチノイン酸誘導体として、例えば、3-デヒドロレチノイン酸、4-[[(5,6,7,8-tetrahydro-5,5,8,8-tetramethyl-2-naphthalenyl)carbonyl]amino]-Benzoicacid(AM580)(TamuraK,etal.,CellDiffer.Dev.32:17-26(1990))、4-[(1E)-2-(5,6,7,8-tetrahydro-5,5,8,8-tetramethyl-2-naphthalenyl)-1-propen-1-yl]-Benzoicacid(TTNPB)(StricklandS,etal.,CancerRes.43:5268-5272(1983))、およびTanenaga,K.etal.,CancerRes.40:914-919(1980)に
記載されている化合物、パルミチン酸レチノール、レチノール、レチナール、3-デヒドロレチノール、3-デヒドロレチナール等が挙げられる。
工程(i)で用いるレチノイン酸またはその誘導体の濃度は、例えば、1nMから100nM、好ましくは、5nMから50nM、より好ましくは、5nMから25nMである。
【0038】
工程(i)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(i)の培養時間は後期後方エピブラストが分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~2日の培養であり、好ましくは1日である。
【0039】
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を含む培地で培養する工程
この工程では、後期後方エピブラストから中胚葉系譜原始線条が誘導される。中胚葉系譜原始線条は、CDX1およびBRACHYURYが陽性である細胞として特徴づけられる。中胚葉系譜原始線条はさらに、OCT4、NANOGおよびE-CDHが陰性であることが好ましい。
【0040】
工程(ii)では、前述の工程(i)で得られた細胞集団を単離し、別途用意したコーティング処理された培養皿にて接着培養してもよいし、工程(i)で接着培養により得られた細胞をそのまま培地の交換により培養を続けてもよい。
【0041】
工程(ii)において使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へFGF2、GSK-3β阻害剤およびBMP7を添加して調製することができる。基礎培地としては、上述したような基礎培地を使用することができ、血清が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、血清代替物、脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などを含有してもよい。
【0042】
工程(ii)で使用されるFGF2は工程(i)で説明したものと同様であり、その好ましい濃度範囲も同様である。
【0043】
工程(ii)において使用されるGSK-3β阻害剤は、前述の工程(i)において例示したGSK-3β阻害剤を使用することができ、好ましいGSK-3β阻害剤としては、CHIR99021が挙げられる。工程(ii)で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから7.5μMであり、特に好ましくは2から5μMである。工程(ii)で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は工程(i)における濃度より増加させることが好ましい。
【0044】
工程(ii)で使用されるBMP7はヒトBMP7が好ましく、ヒトBMP7としては、例えば、NCBI(NationalCenterforBiotechnologyInformation)のアクセッション番
号:NM_001719.2のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。BMP7は分化誘導
活性を有する限りその断片及び機能的改変体が包含されるBMP7は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるBMP7の濃度は、0.1ng/mlから100ng/ml、好ましくは、0.5ng/mlから50ng/ml、より好ましくは、0.5ng/mlから5ng/mlである。
【0045】
工程(ii)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましく
は約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(ii)の培養時間は中胚葉系譜原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば、10時間~2日、または1~2日の培養であり、好ましくは0.5~1日である。
【0046】
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程
この工程では、中胚葉系譜原始線条から中胚葉系譜後期原始線条が誘導される。中胚葉系譜後期原始線条は、CDX2およびBRACHYURYが陽性である細胞として特徴づけられる。
【0047】
工程(iii)では、前述の工程(ii)で得られた細胞集団を単離し、別途用意したコーティング処理された培養皿にて接着培養してもよいし、工程(ii)で接着培養により得られた細胞をそのまま培地の交換により培養を続けてもよい。
【0048】
工程(iii)において使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へFGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7およびTGFβ阻害剤を添加して調製することができる。基礎培地としては、上述したような基礎培地を使用することができ、血清が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、血清代替物、脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などを含有してもよい。
【0049】
工程(iii)において使用されるFGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7は工程(ii)と同様であり、その好ましい濃度範囲も同様であるが、GSK-3β阻害剤の濃度範囲は0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから7.5μMであり、特に好ましくは2から5μMである。
【0050】
工程(iii)において使用されるTGFβ阻害剤は、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、またはALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質が挙げられ、例えば、Lefty-1(NCBIAccessionNo.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemannetal.,Mol.Cancer,2003,2:20)、SB505124(GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208(Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276(LillyResearchLaboratories)、A83-01(WO2009146408)および
これらの誘導体などが例示される。TGFβ阻害剤は、好ましくは、A83-01であり得る。
培養液中におけるTGFβ阻害剤の濃度は、ALKを阻害する濃度であれば特に限定されな
いが、0.5μMから100μM、好ましくは、1μMから50μM、さらに好ましくは、5μMから25μMである。
【0051】
工程(iii)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(iii)の培養時間は中胚葉系譜後期原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~3日の培養であり、好ましくは1.5~2日である。
【0052】
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を含む培地で培養する工程
この工程では、中胚葉系譜後期原始線条から後腎系譜後期原始線条が誘導される。後腎系譜後期原始線条は、HOX11およびBRACHYURYが陽性である細胞として特徴づけられる。
【0053】
工程(iv)では、前述の工程(iii)で得られた細胞集団を単離し、別途用意したコーティング処理された培養皿にて接着培養してもよいし、工程(iii)で接着培養により得られた細胞をそのまま培地の交換により培養を続けてもよい。
【0054】
工程(iv)において使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へFGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7、アクチビンおよびROCK阻害剤を添加して調製することができる。基礎培地としては、上述したような基礎培地を使用することができ、血清が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、血清代替物、脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などを含有してもよい。
【0055】
工程(iv)において使用されるFGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7は工程(ii)と同様であり、その好ましい濃度範囲も同様であるが、GSK-3β阻害剤の濃度範囲は0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから7.5μMであり、特に好ましくは2から5μMである。
【0056】
工程(iv)において使用されるアクチビンには、ヒトおよび他の動物由来のアクチビンならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、R&Dsystems社等の市販されているものを使用することができる。工程(iv)で用いるアクチビンの濃度は、1ng/mlから100ng/ml、好ましくは、5ng/mlから50ng/ml、より好ましくは、5ng/mlから25ng/mlである。
【0057】
工程(iv)において使用されるROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されず、例えば、Y-27632(例、Ishizakietal.,Mol.Pharmacol.57,976-983(2000);Narumiyaetal.,MethodsEnzymol.325,273-284(2000)参照)、Fasudil/HA1077(例、Uenataetal.,Nature389:990-994(1997)参照)、H-1152(例、Sasakietal.,Pharmacol.Ther.93:225-232(2002)参照)、Wf-536(例、Nakajimaetal.,CancerChemotherPharmacol.52(4):319-324(2003)参照)およびそれらの誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、およびそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の公知の低分子化合物も使用できる(例えば、米国特許出願公開第2005/0209261号、同第2005/0192304号、同第2004/0014755号、同第2004/0002508号、同第2004/0002507号、同第2003/0125344号、同第2003/0087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。本発明では、1種または2種以上のROCK阻害剤が使用され得る。好ましいROCK阻害剤としてはY-27632が挙げられる。工程(iv)において使用されるROCK阻害剤の濃度は、使用するROCK阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.1μMから100μM、好ましくは、1μMから75μM、さらに好ましくは、5μMから50μMである。
【0058】
工程(iv)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(iv)の培養時間は後腎系譜後期原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~5日の培養であり、好ましくは3日
である。
【0059】
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸またはその誘導体およびFGF9を含む培地で培養する工程
この工程では、後腎系譜後期原始線条から後期後方中間中胚葉が誘導される。中間中胚葉は、OSR1、HOX11およびWT1が陽性である細胞として特徴づけられる。
【0060】
工程(v)では、前述の工程(iv)で得られた細胞集団を単離し、別途用意したコーティング処理された培養皿にて接着培養してもよいし、工程(iv)で接着培養により得られた細胞をそのまま培地の交換により培養を続けてもよい。
【0061】
工程(v)において使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へレチノイン酸またはその誘導体およびFGF9を添加して調製することができる。基礎培地としては、上述したような基礎培地を使用することができ、血清が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、血清代替物、脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などを含有してもよい。
【0062】
工程(v)において使用されるレチノイン酸またはその誘導体およびFGF9はそれぞれ工程(i)および腎前駆細胞誘導工程で説明したとおりであり、その好ましい濃度範囲も同様である。
【0063】
工程(v)において使用される培地は、さらに、BMP阻害剤を含んでもよい。
BMP阻害剤としては、Chordin、Noggin、Follistatin、などのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin(すなわち、6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo[1,5-a]pyrimidine)、その誘導体(P.B.Yuetal.(2007),Circulation,116:II_60;P.B.Yuetal.(2008),Nat.Chem.Biol.,4:33-41;J.Haoetal.(2008),PLoSONE,3(8):e2904)およびLDN193189(すなわち、4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。
BMP阻害剤としてより好ましくはNOGGINであり、その濃度は、例えば、1~100ng/mlとすることができる。
【0064】
工程(v)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(v)培養時間は後期後方中間中胚葉が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~3日の培養であり、好ましくは2日である。
【0065】
工程(v)で得られた中間中胚葉細胞を、腎前駆細胞誘導工程で説明したように、GSK-3β阻害剤およびFGF9を含む培地で培養することにより腎前駆細胞を誘導することができる。
【0066】
本発明はまた、上述した方法により得られた腎前駆細胞を用いて得られる腎臓オルガノイドを提供する。iPS細胞からの腎臓オルガノイドは例えば、Nature,526,564-568(2015)で
報告されている。本発明においては、例えば、上記方法で得られた腎前駆細胞を培養して細胞塊を作製し、それを、3T3-Wnt4細胞などのフィーダー細胞、マウス胎仔脊髄細胞、またはマウス胎仔腎細胞と共培養すること、またはCHIR99021などのGSK-3β阻害剤を
含む基礎培地を使用した半気相培養(参考文献Nature,526,564-568(2015))によって得ることができる。培地は、GSK-3β阻害剤に加えて、FGF9やFGF2を含む
ことができる。
【0067】
本発明は、上述した方法により得られた腎前駆細胞またはそれを用いて得られる腎臓オルガノイドを含む医薬組成物、該腎前駆細胞またはそれを用いて得られる腎臓オルガノイドを含む腎疾患治療剤、該腎前駆細胞またはそれを用いて得られる腎臓オルガノイドの治療有効量を投与する工程を包含する腎疾患を治療する方法をそれぞれ提供する。治療を必要とする患者への治療剤の投与方法としては、例えば、得られた腎前駆細胞をシート化して、患者の腎臓に貼付する方法、得られた腎前駆細胞を生理食塩水等に懸濁させた細胞懸濁液、あるいは三次元培養(例えば、DevCell.Sep11,2012;23(3):637-651)し、得られた細胞塊を患者の腎臓に直接移植する方法、マトリゲル等から構成されたスキャフォールド上で三次元培養し、得られた腎前駆細胞塊を移植する方法などが挙げられる。移植部位は、腎臓内であれば特に限定されないが、好ましくは、腎被膜下である。腎疾患としては、急性腎障害、慢性腎不全、慢性腎不全にまで至らない慢性腎臓病が例示される。
本発明において、腎疾患治療剤に含まれる腎前駆細胞の細胞数は、移植片が投与後に生着できれば特に限定されなく、患部の大きさや体躯の大きさに合わせて適宜増減して調製されてもよい。
【実施例0068】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の態様には限定されない。
【0069】
<1>iPS細胞から腎前駆細胞への分化誘導
以下のプロトコールにてiPS細胞から腎前駆細胞を分化誘導した。なお、iPS細胞は201B7
由来のOSR1-GFP/SIX2-tdTomatoレポーターヒトiPS細胞を使用した。
【0070】
1.未分化iPS細胞をaccutase処理にて単細胞化した後に10μMのY27632を添加したReproFF2培地(リプロセル)に懸濁し、Matrigel(BDBiosciences)でコーティングしたwellに1.0×104/well~5.0×104/wellの密度で播種し24時間37℃でインキュベート。
2.24時間後(day1)にvitaminAfreeB27supplement(ThermoFisherScientificInc.)を
添加したDMEM/F12Glutamax(ThermoFisherScientificInc.)を基礎培地とし、1μMCHIR99021,10nMRetinoicacid,1ng/mlBMP4,100ng/mlFGF2を添加した培地で培地交換。(後期後方
エピブラストの作製・・・1)
3.Day2に同基礎培地に3μMCHIR99021,1ng/mlBMP7,100ng/mlFGF2を添加した培地に培地
交換(中胚葉系譜原始線条の作製・・・2)
4.Day3,Day4に同基礎培地に3μMCHIR99021,1ng/mlBMP7,100ng/mlFGF2,10μMA83-01を添加した培地に培地交換(中胚葉系譜後期原始線条の作製・・・3)
5.Day5,Day6,Day7に同基礎培地に3μMCHIR99021,1ng/mlBMP7,100ng/mlFGF2,10ng/mlACTIVIN,30μMY27632を添加した培地に培地交換(後腎系譜後期原始線条の作製・・・4)
6.Day8,Day9に同基礎培地に100ng/mlFGF9,100nMRetinoicacidを添加した培地に培地交
換(後期後方中間中胚葉の作製・・・5)
7.Day10,Day11,Day12に同基礎培地に10ng/mlFGF9,1μMCHIR99021を添加した培地に培地交換(腎前駆細胞の作製・・・6)
【0071】
各段階で分化誘導が進行していることは表1に記載のマーカーの発現により確認した。
陰性マーカーは発現していないことを確認した。
図1に、各段階の細胞のマーカー染色結果を示す。後期後方中間中胚葉および腎前駆細胞については、80%以上のマーカー陽性細胞を得ることができた。なお、上記5の工程における培地を、200ng/mlFGF9,100nMRetinoicacid,25ng/mlNOGGINとした時も同様の結果が得られた。
【0072】
【0073】
以上の結果から、iPS細胞から腎前駆細胞を分化誘導することができた。分化誘導効率は80%以上と顕著に高効率で腎前駆細胞を得ることができた。
【0074】
<2>マウス胎仔腎細胞との共培養による腎前駆細胞からの腎臓オルガノイドの作製
<1>で得られた腎前駆細胞を1.0×10
5の大きさの細胞塊とし、1μMCHIR99021および10ng/mlFGF9を添加した基礎培地で1日間培養した。そこに、E11.5のマウス胎仔脊髄
と半気相培養で共培養した。その結果、
図2に示すように、糸球体や尿細管が確認でき、腎臓オルガノイドの作製に成功した。
【0075】
<3>腎前駆細胞単独培養による腎臓オルガノイドの作製
<1>で得られた腎前駆細胞を1.0×10
5の大きさの細胞塊とし、1μMCHIR99021および200ng/mlFGF9を添加した基礎培地で1~2日間培養した。その細胞塊を5μMCHIR99021
および200ng/mlFGF2を添加した基礎培地で2日間半気相培養し、さらに、基礎培地のみで
8日間半気相培養を行った。その結果、
図3に示すように、糸球体や尿細管が確認でき、腎臓オルガノイドの作製に成功した。また、BRN1(+)CDH1(+)DBA(-)ヘンレのループを観察できた。