(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188291
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】乳酸菌用培地
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20221213BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168178
(22)【出願日】2022-10-20
(62)【分割の表示】P 2018148677の分割
【原出願日】2018-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 真澄
(72)【発明者】
【氏名】寺井 智彦
(72)【発明者】
【氏名】奥村 剛一
(72)【発明者】
【氏名】久代 明
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 幸司
(57)【要約】
【課題】食品素材で構成された乳酸菌用の培地であって、乳酸菌の培養による到達菌数が十分となる培地およびそれを利用した技術を提供する。
【解決手段】大豆ペプチドおよび酵母エキスを含有する乳酸菌用培地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆ペプチド、酵母エキス、発酵大麦エキス、乳化剤、糖類を含有する乳酸菌用培地で培養した乳酸菌菌体を、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンを含有する分散媒に分散し、当該分散媒のpHを7.5以上に調整した後、凍結乾燥することを特徴とする乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項2】
乳酸菌がラクトバチルス属である請求項1に記載の乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌用培地が、大豆ペプチドを0.1~20質量%、酵母エキスを0.1~20質量%、発酵大麦エキスを0.1~50質量%、乳化剤を0.001~5質量%、糖類を0.1~20質量%含有するものである請求項1または2記載の乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項4】
分散媒が、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンをそれぞれ3~40質量%、3~20質量%、0.1~5%質量および3~20質量%含有するものである請求項1~3の何れか1項に記載の乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項5】
乳酸菌用培地に用いられる糖類が乳糖であり、発酵大麦エキスが大麦焼酎蒸留残液であり、大豆ペプチドが大豆ペプトンであり、酵母エキスがビール酵母エキスであり、乳化剤がモノオレイン酸デカグリセリンである請求項1~4の何れか1項に記載の乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項6】
ラクトバチルス属乳酸菌が、ラクトバチルス・クリスパータスおよび/またはラクトバチルス・カゼイである請求項1~5の何れか1項に記載乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌の培養に好適な乳酸菌用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで乳酸菌の培養に用いられる培地としては、主にMRS(deMan、Rogosa、Sharpe)培地が、すべての乳酸菌の発育を促すため、広く用いられている。
【0003】
このMRS培地で乳酸菌を培養し、菌数を測定したり、物性を測定するには問題はないが、MRS培地には、食品素材として使用できない試薬が含まれているため、培養した乳酸菌を直接食品用途に用いることができなかった。
【0004】
これまで、乳酸菌用の培地で、食品素材で構成されたものとしては、大麦焼酎蒸留残液からなる培養基材に糖類、乳化剤を添加した培地が報告されている(特許文献1)が、この培地では乳酸菌の培養による到達菌数が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、食品素材で構成された乳酸菌用の培地であって、乳酸菌の培養による到達菌数が十分となる培地およびそれを利用した技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、大豆ペプチドおよび酵母エキスを含有する培地が、乳酸菌の培養による到達菌数が十分となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、大豆ペプチドおよび酵母エキスを含有する乳酸菌用培地である。
【0009】
また、本発明は、乳酸菌を、上記乳酸菌用培地で培養することを特徴とする乳酸菌の培養方法である。
【0010】
更に、本発明は、乳酸菌を、上記乳酸菌用培地で培養して得られることを特徴とする乳酸菌培養物である。
【0011】
また更に、本発明は、乳酸菌と、上記の乳酸菌用培地を含有することを特徴とする組成物である。
【0012】
更にまた、本発明は、上記乳酸菌用培地を用いて培養した乳酸菌菌体を分散媒に分散した後、凍結乾燥を行うことを特徴とする乳酸菌凍結乾燥菌体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の乳酸菌用培地は、すべての乳酸菌の発育を促し、培養後の到達菌数が高いものとすることができる
【0014】
しかも、本発明の乳酸菌用培地は、食品素材で構成されているため、培養後、そのまま各種飲食品に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の乳酸菌用培地(以下、「本発明培地」という)は、大豆ペプチドおよび酵母エキスを含有するものである。
【0016】
上記大豆ペプチドは、大豆由来のペプチドであれば特に限定されないが、例えば、大豆を常法に従って酵素、酸等で加水分解してペプチドとしたもの等が挙げられる。この大豆ペプチドの分子量も特に限定されないが、例えば、10000以下程度である。なお、大豆ペプチドの分子量の測定はゲルろ過分析法を用いればよい。また、これら大豆ペプチドは1種または2種以上を用いることができる。これらの大豆ペプチドの中でも、大豆をプロテアーゼ等の酵素で加水分解した大豆ペプトンが好ましい。このような大豆ペプトンとしては、Bacterio-N SS-(B)K(登録商標、マルハニチロ(株))、大豆ペプトン(オルガノフードテック(株))等が市販されている。
【0017】
本発明培地における大豆ペプチドの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1~20質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは0.5~10%、特に好ましくは0.5~5%である。
【0018】
上記酵母エキスは、酵母由来のエキスであれば特に限定されないが、例えば、酵母の自己消化液、酵母の抽出液等が挙げられる。酵母の抽出液を得る方法は特に限定されず、例えば、熱水、アルコール等の溶媒で抽出する方法等が挙げられる。酵母エキスは、酵母の自己消化液、酵母の抽出液そのもの、あるいはこれらの濃縮液または粉末等でもよい。酵母の種類は特に限定されず、例えば、ビール酵母、パン酵母、ワイン酵母等が挙げられるが、ビール酵母が好ましい。また、これら酵母エキスは1種または2種以上を用いることができる。これら酵母エキスの中でもビール酵母エキスが好ましい。このようなビール酵母エキスとしては、ミーストP1G(登録商標、アサヒビール食品(株))、ミーストP2G(登録商標、アサヒビール食品(株))、酵母エキス B2(オリエンタル酵母工業(株))等が市販されている。
【0019】
本発明培地における酵母エキスの含有量は、特に限定されないが、例えば、酵母エキス粉末として0.1~20%、好ましくは0.5~10%である。
【0020】
本発明培地には、更に発酵大麦エキス、乳化剤および糖類からなる群から選ばれる1種以上、好ましくは全てを含有させてもよい。
【0021】
上記発酵大麦エキスは、発酵大麦由来のエキスであれば、特に限定されないが、例えば、大麦を発酵させて焼酎等の酒類を製造する際に得られる、酒類の蒸留後の残液等が挙げられ、具体的には、大麦焼酎蒸留残液等が挙げられる。また、これら発酵大麦エキスは1種または2種以上を用いることができる。これらの発酵大麦エキスの中でも大麦焼酎蒸留残液が好ましい。このような大麦焼酎蒸留残液としては、バーレックス(登録商標、三和酒類(株))、バーレックスS(登録商標、三和酒類(株))等が市販されている。
【0022】
本発明培地における発酵大麦エキスの含有量は、特に限定されないが、例えば、エキス(液体)として0.1~50%、好ましくは1.0~25%である。
【0023】
上記乳化剤は、特に限定されないが、例えば、モノオレイン酸デカグリセリン、モノステアリン酸デカグリセリン等のポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。また、これら乳化剤は1種または2種以上を用いることができる。これら乳化剤の中でもポリグリセリン脂肪酸エステルのうち親水性のポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、特にモノオレイン酸デカグリセリンが好ましい。このモノオレイン酸デカグリセリンとしては、サンソフトQ-17S(登録商標、太陽化学(株))、NIKKOL DECAGLYN 1-OV(日光ケミカルズ(株))等が市販されている。
【0024】
本発明培地における乳化剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.001~5%、好ましくは0.01~0.5%である。
【0025】
上記糖類は、乳酸菌が資化できるものであれば特に限定されないが、例えば、乳糖、グルコース、果糖、ショ糖等が挙げられる。また、これら糖類は1種または2種以上を用いることができる。これら糖類の中でもグルコースおよび/又は乳糖が好ましく、乳糖がより好ましい。乳糖としては乳糖GranuLac200(メグレジャパン(株))、MeggletoseB200(メグレジャパン(株))等が市販されている。グルコースとしては無水結晶ぶどう糖(サンエイ糖化(株))等が市販されている。
【0026】
本発明培地における糖類の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1~20%、好ましくは0.5~5%である。
【0027】
更に、本発明培地には、ミネラル分や乳酸菌の増殖を阻害しない成分であって操作性をよくする成分(消泡剤等)等を含有させてもよい。
【0028】
本発明培地の好ましい態様としては、次のものが挙げられる。
大豆ペプチド 0.1~20%、好ましくは0.5~5%
酵母エキス 0.1~20%、好ましくは0.5~10%
発酵大麦エキス 0.1~50%、好ましくは1.0~25%
乳化剤 0.001~5%、好ましくは0.01~0.5%
糖類 0.1~20%、好ましくは0.5~5%
水 残量
【0029】
本発明培地の最も好ましい態様としては、以下の組成であり、この組成の培地をSMB培地という。
大豆ペプトン 2%
酵母エキス 2%
発酵大麦エキス 6%
モノオレイン酸デカグリセリン 0.1%
乳糖 2%
水 残量
【0030】
本発明培地は、上記成分を水、乳等の培地基材に、溶解させ、pH調整、殺菌等をすることにより調製することができる。pH調整方法としては水酸化ナトリウム等を添加すればよく、好ましいpHとしては6.0~7.2、より好ましいpHとしては6.2~7.0が挙げられる。なお、本発明に糖類を含有させる場合には、糖類以外を上記基材に溶解させ、殺菌後、糖類を溶解させることが好ましい。
【0031】
なお、本発明培地は、培地基材以外の成分を一つに封入し、培地キットとすることもできる。そして、使用時に、この培地キットを適宜基材に溶解させればよい。
【0032】
以上説明した本発明培地は、乳酸菌の培養に用いることができる。本発明培地を用いた乳酸菌の培養条件は特に限定されず、通常の乳酸菌の培養条件を適用することができる。本発明培地で培養できる乳酸菌の種類は特に限定されず、ラクトバチルス属、エンテロコッカス属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、ビフィドバクテリウム属の乳酸菌等が挙げられる。これらの乳酸菌の中でもラクトバチルス属の乳酸菌が好ましく、ラクトバチルス属の乳酸菌の中でもラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus
crispatus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus
acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus
casei)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus
delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus
helveticus)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus
delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus
plantarum)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus
gasseri)、ラクトバチルス・アシジピスシス(Lactobacillus
acidipiscis)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus
brevis)、ラクトバチルス・コリニフォルミス(Lactobacillus
coryniformis)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー(Lactobacillus
delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス・ケフィーリ(Lactobacillus kefiri)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィラノファシエンス(Lactobacillus
kefiranofaciens subsp. kefiranofaciens)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィリグラナム(Lactobacillus kefranofaciens subsp. kefirgranum)、ラクトバチルス・ノデンシス(Lactobacillus
nodensis)、ラクトバチルス・パラブレビス(Lactobacillus
parabrevis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus
paracasei)、ラクトバチルス・パラケフィーリ(Lactobacillus
parakefiri)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus
pentosus)、ラクトバチルス・ぺロレンス(Lactobacillus perolens)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus
rhamnosus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus
salivarius)、ラクトバチルス・ツセッティ(Lactobacillus tucceti)、ラクトバチルス・クルバタス(Lactobacillus
curvatus)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus
johnsonii)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus
fermentum)、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus
mali)がより好ましい。これら乳酸菌の1種以上を培養することができる。これらの中でもラクトバチルス・クリスパータス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ガセリが好ましく、ラクトバチルス・クリスパータスがより好ましく、ラクトバチルス・クリスパータス YIT 12319(FERM BP-11500、受託日:2011年4月28日、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室))が特に好ましい。
【0033】
本発明培地で乳酸菌を培養することにより、乳酸菌培養物が得られる。培養温度は乳酸菌によって適宜設定すればよいが、30~37℃が好ましい。本発明培地は、食品素材で構成されているため、この乳酸菌培養物は、そのままあるいは、濃縮、希釈、乾燥等をさせて、従来の飲食品等に配合することができる。また、乳酸菌と、本発明培地を含有する組成物も、同様にして、従来の飲食品等に配合することができる。
【0034】
上記組成物を配合することのできる飲食品としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工食品、パン、菓子、バター、ヨーグルトや発酵乳、清涼飲料、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料等が挙げられる。また、飲食品の形態としては、通常用いられる飲食品の形態、例えば、粉末、顆粒等の固体状、ペースト状、液状等が挙げられる。また、微生物乾燥菌体を、錠剤、散剤、チュアブル剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、丸剤、ガム等 に加工してもよい。なお、口腔用組成物として、洗口剤、練歯磨、粉歯磨、水歯磨、口腔用軟膏剤、ゲル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、グミゼリー、トローチ、タブレット、カプセル、キャンディー、チューインガムなどに、またペットフード等に使用することも可能である。
【0035】
本発明培地は、乳酸菌凍結乾燥菌体の製造に利用することが可能である。乳酸菌凍結乾燥菌体を製造する方法は特に限定されず、公知の乳酸菌凍結乾燥菌体を製造する方法を適宜用いることが可能であるが、好ましくは、本発明培地を用いて培養した乳酸菌菌体を分散媒に分散した後、凍結乾燥を行う方法である。
【0036】
上記乳酸菌菌体を分散させる分散媒は乳酸菌の種類に合わせて適宜選択すればよいが、例えば、保護剤および抗酸化剤を含有する水溶液を用いることが好ましい。乳酸菌菌体を分散媒に分散させる方法は特に限定されず、分散媒に乳酸菌菌体を添加し、撹拌等をすればよい。また、分散媒に分散させる乳酸菌菌体の量は特に限定されないが、例えば、0.01~20%程度である。なお、分散させる乳酸菌は基本的に生菌体だが、死菌体が含まれていてもよい。
【0037】
分散媒に用いられる保護剤は、特に限定されず、例えば、グルタミン酸や、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム等のグルタミン酸の塩、トレハロース、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類、グリセロール、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、脱脂粉乳、馬鈴薯デンプン等が挙げられる。これら保護剤は1種または2種以上を用いることができるが、トレハロース、脱脂粉乳および馬鈴薯デンプンを用いることが好ましい。分散媒における保護剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、1~40%が好ましく、3~40%がより好ましく、3~30%が特に好ましい。
【0038】
分散媒に用いられる抗酸化剤は、特に限定されず、例えば、アスコルビン酸や、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム等のアスコルビン酸の塩、ビタミンE、カテキン、グルタチオン、アスタキサンチン等が挙げられる。これら抗酸化剤は1種または2種以上を用いることができるが、アスコルビン酸が好ましい。分散媒における抗酸化剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01~10%が好ましく、0.05~5%がより好ましい。
【0039】
分散媒としては、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンからなる群から選ばれる1種以上を含有する水溶液が好ましく、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンを含有する水溶液がより好ましく、脱脂粉乳、トレハロース、アスコルビン酸および馬鈴薯デンプンをそれぞれ3~40%、3~20%、0.1~5%、3~20%含有する水溶液が特に好ましい。なお、溶解してもpHに影響を与えない分散媒(馬鈴薯デンプン等)については、後述する乳酸菌菌体の分散媒懸濁液のpH調整後に当該分散媒を添加することもできる。
【0040】
上記のようにして乳酸菌菌体を分散媒に分散した後は、当該分散媒のpHをアルカリ側に調整することが好ましく、pHを7.5以上に調整することがより好ましく、pHを7.5~10.5に調整することがさらに好ましく、pHを8.0~10.0に調整することが最も好ましい。pHの調整は水酸化ナトリウム等のアルカリ物質を用いて行えばよい。
【0041】
分散媒のpHを調整した後は、凍結乾燥させる。凍結乾燥の条件は、特に限定されないが、例えば、-35℃~-45℃で6~48時間の凍結処理を行った後、12℃~35℃で40~90時間の乾燥処理を行う条件等を挙げることができる。なお、凍結乾燥機の例としては、TF20-80TANNS((株)宝製作所製)等を挙げることができる。
【0042】
斯くして得られる乳酸菌凍結乾燥菌体は、保存後も高い菌数を維持することができる。具体的には、乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生菌数が、乳酸菌菌体を分散媒に分散し、当該分散媒のpHを7.0に調整した後、凍結乾燥して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生菌数を100%とした時の120%以上である。なお、当然ながら、上記分散媒のpHを7.0に調整して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体の製造には、分散媒のpHを7.5~10.5に調整して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体の製造に用いたのと、分散媒のpH以外は同じ条件、菌株を用いる。また、乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生残率(%)が、乳酸菌菌体を分散媒に分散し、当該分散媒のpHを7.0に調整した後、凍結乾燥して得られる乳酸菌凍結乾燥菌体を37℃で8週間保存後の生残率を100%とした時の110%以上であることがさらに好ましい。なお、生残率は(保存期間後の生菌数/保存0日の生菌数)×100として計算される。
【0043】
上記の乳酸菌凍結乾燥菌体は、そのまま、あるいは通常食品に添加される他の食品素材と混合することにより、食品や飲料に利用することができる。例えば、食品としては、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工食品、パン、菓子、バター、ヨーグルトや発酵乳等が挙げられる。飲料としては、清涼飲料、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料等が挙げられる。また、飲食品の形態としては、通常用いられる飲食品の形態、例えば、粉末、顆粒等の固体状、ペースト状、液状等が挙げられる。また、微生物乾燥菌体を、錠剤、散剤、チュアブル剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、丸剤、ガム等に加工してもよい。なお、口腔用組成物として、洗口剤、練歯磨、粉歯磨、水歯磨、口腔用軟膏剤、ゲル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、グミゼリー、トローチ、タブレット、カプセル、キャンディー、チューインガムなどに、またペットフード等に使用することも可能である。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
実 施 例 1
培地の調製および乳酸菌の培養:
以下の表1に記載の成分を水に混合、溶解させ、次いで、pHを水酸化ナトリウムで6.2~6.7に調整した後、殺菌して、培地を調製した。これらの培地にラクトバチルス・クリスパータスYIT 12319(FERM BP-11500、受託日:2011年4月28日、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室 )、以下、「LcY」ということもある)を0.25%接種し、37℃で12時間培養した。培養後の生菌数(cfu/ml)およびpHを、それぞれ測定した結果も表1に示した。なお、生菌数の測定は、スパイラルプレーター(EDDY JET、IUL Instruments)で行った。
【0046】
【0047】
この結果より、培地1~4に比べて、大豆ペプチドと酵母エキスの両方を含む本発明の培地5および6は、培養後の生菌数が高くなることが分かった。
【0048】
実 施 例 2
培地の調製および乳酸菌の培養:
以下の表2に記載の成分を用いる以外は、実施例1と同様にして培地を調製した(この培地を「SMB培地」という)。この培地で表3に記載の乳酸菌を0.25%接種し、37℃で12時間または24時間培養した。また、比較としてMRS培地(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー)を用い、乳酸菌を37℃で12時間または24時間培養した。培養後の生菌数を実施例1と同様にして測定した結果を表3に示した。
【0049】
【0050】
【0051】
この結果より、SMB培地は、合成培地であるMRS培地と同等あるいは同等以上の生菌数が得られることが分かった。
【0052】
実 施 例 3
培地の調製および乳酸菌の培養:
実施例2と同様のSMB培地にB.breve YIT 12272※11またはB.bifidum YIT 10347※12を1%接種し、嫌気条件下、37℃で12時間または24時間培養した。また、比較としてMRS培地(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー)を用い、乳酸菌を嫌気条件下、37℃で12時間または24時間培養した。培養後の生菌数を実施例1と同様にして測定した結果、B.breve YIT 12272およびB.bifidum YIT 10347もSMB培地に生育することを確認した。
※11:FERM BP-11320、受託日:2010年2月16日、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室 )
※12:FERM BP-10613、受託日:2005年6月23日、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室 )
【0053】
実 施 例 4
乳酸菌凍結乾燥菌体の製造:
(1)分散媒懸濁液の調製
SMB培地で前培養したLcYの培養液を、SMB培地2Lに0.1%ずつ接種後、37℃で12時間(定常期に達するまで)静置培養した。次いで、培養液をそれぞれ遠心(4℃、4500×g、7分間)し、菌体を生理食塩水で1回洗浄後、LcYの菌体を分散媒(脱脂粉乳20%、トレハロース10%、アスコルビン酸1%を含有する水溶液)に添加・混合した(pH5.1)。pHを調整しない系では、さらに馬鈴薯デンプンを10%添加・混合し、分散媒懸濁液を得た。一方、分散媒のpHを調整する系では5N水酸化ナトリウムにてpH7.0および9.0にpHを調整した後、馬鈴薯デンプンを10%添加・混合し、分散媒懸濁液を得た。
【0054】
(2)凍結乾燥および粉砕
(1)で得た分散媒懸濁液を凍結乾燥器(TF20-80TANN:(株)宝製作所製)にてマイナス40℃で2日間凍結後、棚温20℃で2日間凍結乾燥を行った。この凍結乾燥物を粉砕し、LcY凍結乾燥菌体を得た。
【0055】
(3)保存試験
(2)で得たLcY凍結乾燥菌体を、チャック付きラミネート袋(ラミジップ:生産日本社製)に分包し、空気をよくぬきチャックを閉めた。その後、37℃にて表3に記載の期間保存し、保存前、保存後の生菌数を測定した。生菌数の測定は、スパイラルプレーター(EDDY JET、IUL Instruments)で行った。また、以下の式で生残率を算出した。さらに、pH無調整の生菌数を100%とした時に、pH7.0または9.0の生菌数との生菌数の比がいくつになるかを以下の式で算出した。それらの結果も表4に示した。
【0056】
【0057】
【0058】
この結果より、凍結乾燥前の分散媒のpHを高くすると生菌数や生残率が高くなることが分かった。なお、乳酸菌凍結乾燥菌体の37℃で8週間保存後の生菌数は、pH7.0に調整したものを100%とすると、pH9.0に調整したものは20290%であった。
【0059】
実 施 例 5
乳酸菌凍結乾燥菌体の製造:
実施例4において、静置培養を37℃で12時間行うのに代えて、30℃で22時間行う以外は同様にしてLcY凍結乾燥菌体を得た。これらについて実施例4と同様にして生菌数を測定し、生残率を算出した。また、pH7.0の生菌数を100%とした時に、pH9.0の生菌数との生菌数の比がいくつになるかを以下の式で算出した。その結果を表5に示した。
【0060】
【0061】
【0062】
この結果より、培養条件を代えても、凍結乾燥前の分散媒のpHを高くすると生菌数や生残率が高くなることが分かった。
【0063】
実 施 例 6
タンクでの培養:
200Lあるいは1000L容量のステンレスタンクに、SMB培地を160Lあるいは900L入れ、これに前培養したLcYを0.1%接種し、好気条件下、37℃で12時間培養したところ、従来のMRS培地等の培地と比べて同等以上の生菌数が得られた。