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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188310
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】試料支持体
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221214BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N27/62 G
H01J49/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019210597
(22)【出願日】2019-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】田代 晃
(72)【発明者】
【氏名】小谷 政弘
(72)【発明者】
【氏名】大村 孝幸
【テーマコード(参考)】
2G041
5C038
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA03
2G041EA12
2G041GA06
2G041GA30
2G041JA06
5C038EF21
5C038EF31
5C038EF33
(57)【要約】
【課題】イメージング質量分析における位置合わせを容易且つ精度良く行うことができる試料支持体を提供する。
【解決手段】試料支持体1Aは、試料Sのイオン化に用いられる。試料支持体1Aは、第1表面2aと第1表面2aとは反対側の第2表面2bとを有し、第1表面2a及び第2表面2bに開口する複数の貫通孔2cが形成された測定領域R1を有する基板2と、基板2の第1表面2a上に設けられ、基板2の厚さ方向Dから見た場合に測定領域R1を包囲するように形成されたフレーム3と、フレーム3の基板2とは反対側の外面3g上に設けられたマーカー6と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイオン化に用いられる試料支持体であって、
第1表面と前記第1表面とは反対側の第2表面とを有し、前記第1表面及び前記第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された測定領域を有する基板と、
前記基板の前記第1表面上に設けられ、前記基板の厚さ方向から見た場合に前記測定領域を包囲するように形成されたフレームと、
前記フレームの前記基板とは反対側の面上に設けられたマーカーと、を備える試料支持体。
【請求項2】
前記フレームの前記基板とは反対側の面上に貼り付けられ、前記厚さ方向から見て前記フレームと重ならない部分を有する導電性テープを更に備え、
前記マーカーは、前記厚さ方向から見て前記フレームと重ならない第1部分と、前記フレームと前記導電性テープとの間に設けられた第2部分と、を有する、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記第2部分は、前記厚さ方向から見て前記フレームと前記導電性テープとが重なる領域の一部に設けられている、請求項2に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記フレームの前記基板とは反対側の面上に貼り付けられ、前記厚さ方向から見て前記フレームと重ならない部分を有する導電性テープを更に備え、
前記マーカーは、前記フレームと前記導電性テープとの間には設けられておらず、前記導電性テープの前記フレームとは反対側の面上に設けられた部分を有する、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記フレームの前記基板とは反対側の面上に貼り付けられ、前記厚さ方向から見て前記フレームと重ならない部分を有する導電性テープを更に備え、
前記導電性テープには、前記厚さ方向に貫通する開口部が形成されており、
前記マーカーは、前記フレームの前記基板とは反対側の面上において、前記厚さ方向から見て前記開口部内に設けられている、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項6】
前記マーカーは、前記フレームの前記基板とは反対側の面上に設けられた導電性テープの一部である、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項7】
前記マーカーは、前記導電性テープの一部に印刷又は刻印されている、請求項6に記載の試料支持体。
【請求項8】
前記厚さ方向から見て同一直線上に並ばない少なくとも3箇所に設けられた複数の前記マーカーを備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項9】
前記3箇所に設けられた前記マーカー間の前記厚さ方向に交差する平面上における間隔は、前記測定領域を含む最小の正方形領域の一辺の長さの1/3以上である、請求項8に記載の試料支持体。
【請求項10】
前記複数の前記マーカーは、4つ以上の前記マーカーを有する、請求項8又は9に記載の試料支持体。
【請求項11】
前記マーカーは、角部を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項12】
前記試料支持体は、前記厚さ方向から見て、第1方向に延びる辺と前記第1方向に直交する第2方向に延びる辺とを有する略矩形状に形成されており、
前記マーカーは、前記第1方向に沿った第1辺と前記第2方向に沿った第2辺とを有し、
前記角部は、前記第1辺と前記第2辺とによって形成されている、請求項11に記載の試料支持体。
【請求項13】
前記マーカーは、白色の部材である、請求項1~12のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項14】
前記基板は、前記測定領域とは別に、前記測定領域に設けられた前記複数の貫通孔と同様の複数の貫通孔が形成されたキャリブレーション用の領域を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項15】
前記基板の前記第1表面上において前記貫通孔を塞がないように設けられた導電層を更に備える、請求項1~14のいずれか一項に記載の試料支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料(例えば生体試料)のイメージング質量分析に用いられる試料支持体が知られている(例えば、特許文献1参照)。試料支持体は、第1表面及び第1表面とは反対側の第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された測定領域を有する基板を備えている。試料支持体を用いたイメージング質量分析では、基板の第2表面が試料に対向するように試料上に試料支持体が配置される。これにより、試料支持体の下方(第2表面側)に配置された試料の成分が、毛細管現象によって、基板の第2表面側から貫通孔を介して第1表面側に向けて上昇する。続いて、例えばレーザ光等のエネルギー線が基板の第1表面側に照射されることにより、基板の第1表面側に移動した試料の成分がイオン化される。そして、各位置のイオン化された試料の成分を測定することにより、各位置の試料の分子分布(二次元分布)を画像化すること(イメージング質量分析)が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6093492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したイメージング質量分析では、以下のような処理が行われる。まず、試料上に試料支持体が配置された状態で、試料支持体の第1表面側から、測定領域の全体とその周辺領域とを撮像したスキャナ画像が取得される。スキャナ画像から、測定領域内の試料領域(毛細管現象によって試料の成分が第1表面側に吸い上げられた領域であり、エネルギー線を照射すべき領域)が把握される。また、基板の第1表面側にエネルギー線を照射するための前処理として、質量分析装置は、エネルギー線の照射範囲(すなわち、試料領域を含む範囲)を認識する処理を実行する。質量分析装置は、エネルギー線を照射する照射部と、照射部の動作を制御する制御部と、エネルギー線の照射位置を含む領域を撮像したカメラ画像を取得するための小型のカメラ(例えばCCDカメラ等)と、を備えている。制御部は、エネルギー線の照射位置を示す制御用の座標を保持している。試料支持体上の少なくとも3つ以上の複数のポイントについて、スキャナ画像において設定された座標と制御用の座標との対応付け(位置合わせ)が行われる。このような位置合わせを行うことにより、質量分析装置において、スキャナ画像の座標系を用いてエネルギー線の照射位置を設定することが可能となる。すなわち、スキャナ画像において把握された試料領域をエネルギー線の照射範囲として設定することが可能となる。
【0005】
上述した位置合わせを適切に行うためには、スキャナ画像及びカメラ画像の両方において正確に特定できるポイント(目印等)が必要となる。ここで、特許文献1に記載された試料支持体の測定領域は、測定領域を包囲するように基板の第1表面上に取り付けられるフレームによって規定されている。そこで、測定領域の縁部におけるフレームの角部を上記ポイントとして用いることが考えられる。しかし、基板の厚さ方向から見た場合、測定領域の縁部には、基板とフレームとを接合するための接着剤の一部がはみ出している場合があり、フレームの角部を精度良く特定することが困難な場合がある。また、測定領域は、角部がない形状(例えば円形状)に形成される場合もあり、この場合には測定領域の縁部を上記ポイントとして用いることができない。他の方法として、試料支持体の外側の角部(フレームの外側の角部)を上記ポイントとして用いることも考えられるが、この場合、位置合わせに用いるポイントが測定領域から離れた位置にあることにより、位置合わせの精度が低くなるおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、イメージング質量分析における位置合わせを容易且つ精度良く行うことができる試料支持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る試料支持体は、試料のイオン化に用いられる試料支持体であって、第1表面と第1表面とは反対側の第2表面とを有し、第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された測定領域を有する基板と、基板の第1表面上に設けられ、基板の厚さ方向から見た場合に測定領域を包囲するように形成されたフレームと、フレームの基板とは反対側の面上に設けられたマーカーと、を備える。
【0008】
上記試料支持体では、基板には、第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された測定領域が設けられている。このため、例えば生体試料等の試料上に、基板の第2表面が試料に対向するように試料支持体を配置することにより、毛細管現象を利用して、第2表面側から貫通孔を介して第1表面側に向けて試料の成分を移動させることができる。そして、例えばレーザ光等のエネルギー線を第1表面に対して照射することにより、試料の成分をイオン化することができる。従って、上記試料支持体を用いることにより、試料のイメージング質量分析を容易に行うことができる。
【0009】
ところで、上記イメージング質量分析を行う際には、試料上に試料支持体が配置された状態で、試料支持体の第1表面側から、測定領域の全体とその周辺領域とを撮像したスキャナ画像が取得される。また、基板の第1表面側にエネルギー線を照射するための前処理として、共通のポイントにおいて、スキャナ画像において設定された座標と質量分析装置が認識している座標とが取得され、両者の対応関係が把握される。上記試料支持体では、フレームが、基板の第1表面上において、測定領域を包囲するように設けられている。そして、フレームの基板とは反対側の面上に、マーカーが設けられている。従って、上記試料支持体によれば、上記マーカーを利用することにより、上記位置合わせを容易且つ精度良く行うことができる。
【0010】
上記試料支持体は、フレームの基板とは反対側の面上に貼り付けられ、厚さ方向から見てフレームと重ならない部分を有する導電性テープを更に備えてもよく、マーカーは、厚さ方向から見てフレームと重ならない第1部分と、フレームと導電性テープとの間に設けられた第2部分と、を有してもよい。上記構成では、基板の第1表面上に、フレーム、マーカー、及び導電性テープがこの順に配置される。すなわち、マーカーと導電性テープとが重なる領域においては、マーカーが導電性テープよりも基板側に配置される。上記構成によれば、マーカーのうちフレームと重ならない第1部分(すなわち、外部に露出している部分)を利用することにより、上記位置合わせを実施することができる。また、マーカーが絶縁物によって形成される場合、上記構成によればマーカーの一部(すなわち第2部分)を導電性テープで覆い隠すことができるため、厚さ方向から見た試料支持体の表面において、絶縁物が露出する面積を極力少なくすることができる。すなわち、導電性テープの形状及び配置により、位置合わせに必要十分なマーカー6の部分(すなわち、第1部分)を確保しつつ、絶縁物が露出する面積を低減することができる。これにより、イメージング質量分析時(すなわち、試料支持体に電圧を印加する際)に、電位の乱れが発生することを抑制することができる。
【0011】
第2部分は、厚さ方向から見てフレームと導電性テープとが重なる領域の一部に設けられていてもよい。上記構成では、マーカーの第2部分は、フレームと導電性テープとの間の領域全体に設けられていない。すなわち、フレームと導電性テープとがマーカーを介さずに接触する領域が確保されている。これにより、マーカーが絶縁物によって形成される場合であっても、導電性テープ及びフレーム(或いは、フレーム表面に設けられた導電層)を介して、試料支持体に電圧を適切に印加することができる。
【0012】
上記試料支持体は、フレームの基板とは反対側の面上に貼り付けられ、厚さ方向から見てフレームと重ならない部分を有する導電性テープを更に備えてもよく、マーカーは、フレームと導電性テープとの間には設けられておらず、導電性テープのフレームとは反対側の面上に設けられた部分を有してもよい。上記構成では、基板の第1表面上に、フレーム、導電性テープ、及びマーカーがこの順に配置される。すなわち、マーカーと導電性テープとが重なる領域においては、導電性テープがマーカーよりも基板側に配置される。この場合、フレームと導電性テープとの間にマーカーが配置されないことにより、フレームと導電性テープとの間の電気的接続をより確実に確保することができる。
【0013】
上記試料支持体は、フレームの基板とは反対側の面上に貼り付けられ、厚さ方向から見てフレームと重ならない部分を有する導電性テープを更に備えてもよく、導電性テープには、厚さ方向に貫通する開口部が形成されていてもよく、マーカーは、フレームの基板とは反対側の面上において、厚さ方向から見て開口部内に設けられていてもよい。上記構成によれば、導電性テープに形成された開口部により、マーカーの位置を規定することができる。また、フレーム上で導電性テープとマーカーとが互いに重ならないように、両者を収まりよく配置することができる。
【0014】
マーカーは、フレームの基板とは反対側の面上に設けられた導電性テープの一部であってもよい。上記構成によれば、導電性テープの一部をマーカーとして利用することにより、導電性テープと異なる部材をマーカーとして設ける必要がない。これにより、試料支持体の部品点数を削減することができる。
【0015】
マーカーは、導電性テープの一部に印刷又は刻印されていてもよい。上記構成によれば、導電性テープに対する印刷又は刻印により、上記マーカーを容易に形成することができる。
【0016】
上記試料支持体は、厚さ方向から見て同一直線上に並ばない少なくとも3箇所に設けられた複数のマーカーを備えてもよい。上記構成によれば、同一直線上に並ばない少なくとも3箇所のマーカーを利用した位置合わせを実施することにより、二次元直交座標において、スキャナ画像に設定された座標系と質量分析装置の座標系との対応関係を確実に把握することが可能となる。
【0017】
3箇所に設けられたマーカー間の厚さ方向に交差する平面上における間隔は、測定領域を含む最小の正方形領域の一辺の長さの1/3以上であってもよい。上記構成によれば、隣接するマーカー間の間隔を測定領域の大きさに対して一定以上確保することにより、上記位置合わせの精度を向上させることができる。
【0018】
複数のマーカーは、4つ以上のマーカーを有してもよい。上記構成によれば、4つ以上のマーカーのうちから任意の3つのマーカー(例えば、画像において視認しやすいマーカー)を選択して、上記位置合わせを精度良く行うことができる。
【0019】
マーカーは、角部を有してもよい。上記構成によれば、上述したスキャナ画像及びカメラ画像等において位置を特定し易い角部を位置合わせのためのポイントとして用いることにより、上記位置合わせをより一層容易且つ精度良く実施することができる。
【0020】
試料支持体は、厚さ方向から見て、第1方向に延びる辺と第1方向に直交する第2方向に延びる辺とを有する略矩形状に形成されていてもよく、マーカーは、第1方向に沿った第1辺と第2方向に沿った第2辺とを有してもよく、角部は、第1辺と第2辺とによって形成されていてもよい。上記構成によれば、マーカーの角部は、試料支持体の外形に応じて定まった形状を有しているため、上述したスキャナ画像及びカメラ画像等において、マーカーの角部の位置をより一層容易且つ精度良く特定することができる。
【0021】
マーカーは、白色の部材であってもよい。上記構成によれば、上述したスキャナ画像及びカメラ画像等におけるマーカーの視認性を向上させることができる。
【0022】
基板は、測定領域とは別に、測定領域に設けられた複数の貫通孔と同様の複数の貫通孔が形成されたキャリブレーション用の領域を有してもよい。上記構成によれば、測定領域を用いた質量分析を実施する前に、キャリブレーション用の領域を用いた質量校正(マスキャリブレーション)を実施することが可能となる。これにより、試料支持体を用いた質量分析結果の精度を向上させることができる。
【0023】
基板の第1表面上において貫通孔を塞がないように設けられた導電層を更に備えてもよい。上記構成によれば、絶縁性の基板を用いる場合であっても、イオン化された試料の成分を質量分析装置の検出器へと移動させるための電圧を、導電層を介して基板の第1表面上に適切に印加することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、イメージング質量分析における位置合わせを容易且つ精度良く行うことができる試料支持体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、第1実施形態の試料支持体の平面図である。
図2図2は、図1に示されるII-II線に沿った試料支持体の概略断面図である。
図3図3は、図1に示されるIII-III線に沿った試料支持体の概略断面図である。
図4図4は、図1に示される試料支持体の基板の拡大像を示す図である。
図5図5は、図1に示されるV-V線に沿った試料支持体の概略断面図である。
図6図6(A)~図6(C)は、図1に示される試料支持体を用いた質量分析方法の工程を示す図である。
図7図7は、スキャナ画像の一例を示す図である。
図8図8は、図1に示される試料支持体を用いた質量分析方法の工程を示す図である。
図9図9は、カメラ画像の一例を示す図である。
図10図10は、第2実施形態の試料支持体の平面図である。
図11図11は、図10に示されるXI-XI線に沿った試料支持体の概略断面図である。
図12図12は、第3実施形態の試料支持体の平面図である。
図13図13は、第4実施形態の試料支持体の平面図である。
図14図14は、第5実施形態の試料支持体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。各図において同一又は相当の部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。なお、図面においては、一部、実施形態に係る特徴部分を分かり易く説明するために誇張している部分があり、実際の寸法とは異なっている場合がある。また、以下の説明において「上」、「下」等の語は図面に示される状態に基づく便宜的なものである。
【0027】
[第1実施形態]
図1図5を参照して、第1実施形態に係る試料支持体1Aについて説明する。試料支持体1Aは、例えば薄膜状の生体試料等の試料をイオン化するために用いられるイオン化支援基板である。図1図3に示されるように、試料支持体1Aは、基板2と、フレーム3と、導電性テープ4と、導電層5と、マーカー6と、を備えている。図1に示されるように、試料支持体1Aは、平面視において略矩形状を有している。本実施形態では、試料支持体1Aの長辺に沿った方向をX軸方向(第1方向)と表し、試料支持体1Aの短辺に沿った方向をY軸方向(第2方向)と表し、X軸方向及びY軸方向に直交する方向(すなわち、試料支持体1Aの厚さ方向)をZ軸方向と表す。本実施形態では一例として、試料支持体1AのX軸方向の長さは3cm程度であり、Y軸方向の長さは2cm程度である。
【0028】
基板2は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、を有している。図3に示されるように、基板2には、複数の貫通孔2cが一様に(均一な分布で)形成されている。各貫通孔2cは、基板2の厚さ方向D(第1表面2a及び第2表面2bが互いに対向する方向であり、Z軸方向と一致する方向)に沿って延在しており、第1表面2a及び第2表面2bに開口している。
【0029】
図1に示されるように、基板2は、例えば、絶縁性材料によって矩形板状に形成されている。厚さ方向Dから見た場合における基板2の一辺の長さは、例えば数cm程度である。基板2の厚さは、例えば1μm~50μm程度である。厚さ方向Dから見た場合における貫通孔2cの形状は、例えば略円形である。貫通孔2cの幅は、例えば1nm~700nm程度である。
【0030】
貫通孔2cの幅は、以下のようにして取得される値である。まず、基板2の第1表面2a及び第2表面2bのそれぞれの画像を取得する。図4は、基板2の第1表面2aの一部のSEM画像の一例を示している。当該SEM画像において、黒色の部分は貫通孔2cであり、白色の部分は貫通孔2c間の隔壁部である。続いて、取得した第1表面2aの画像に対して例えば二値化処理を施すことで、測定領域R1内の複数の第1開口(貫通孔2cの第1表面2a側の開口)に対応する複数の画素群を抽出し、1画素当たりの大きさに基づいて、第1開口の平均面積を有する円の直径を取得する。同様に、取得した第2表面2bの画像に対して例えば二値化処理を施すことで、測定領域R1内の複数の第2開口(貫通孔2cの第2表面2b側の開口)に対応する複数の画素群を抽出し、1画素当たりの大きさに基づいて、第2開口の平均面積を有する円の直径を取得する。そして、第1表面2aについて取得した円の直径と第2表面2bについて取得した円の直径との平均値を貫通孔2cの幅として取得する。
【0031】
図4に示されるように、基板2には、略一定の幅を有する複数の貫通孔2cが一様に形成されている。図4に示される基板2は、Al(アルミニウム)を陽極酸化することにより形成されたアルミナポーラス皮膜である。例えば、Al基板に対して陽極酸化処理が施されることにより、Al基板の表面部分が酸化されると共に、Al基板の表面部分に複数の細孔(貫通孔2cになる予定の部分)が形成される。続いて、酸化された表面部分(陽極酸化皮膜)がAl基板から剥離され、剥離された陽極酸化皮膜に対して上記細孔を拡幅するポアワイドニング処理が施されることにより、上述した基板2が得られる。なお、基板2は、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)等のAl以外のバルブ金属を陽極酸化することにより形成されてもよいし、Si(シリコン)を陽極酸化することにより形成されてもよい。
【0032】
フレーム3は、基板2の第1表面2aに設けられており、第1表面2a側において基板2を支持している。図3に示されるように、フレーム3は、接着層7によって基板2の第1表面2aに接合されている。接着層7の材料は、例えば放出ガスの少ない接着材料(例えば、低融点ガラス、真空用接着剤等)であることが好ましい。本実施形態では、厚さ方向Dから見た場合に、フレーム3は、基板2よりも大きい矩形板状に形成されている。
【0033】
フレーム3の略中央部には、フレーム3の厚さ方向(すなわち、厚さ方向D)に貫通する開口部3aが形成されている。フレーム3の一の隅部と開口部3aとの間には、フレーム3の厚さ方向に貫通する開口部3bが形成されている。フレーム3のX軸方向における縁部3c(すなわち、Y軸方向に沿った縁部)の中央部には、X軸方向の内側に向かって窪んだ凹部3dが設けられている。
【0034】
開口部3aは、略円形状に形成されている。本実施形態では、開口部3aは、円の一部(一方向において互いに対向する部分)を弓型に切り欠いた形状を有している。具体的には、開口部3aは、Y軸方向における両側の縁部がX軸方向に平行となるように円の一部を弓型に切り欠いた形状を有している。一例として、開口部3aのY軸方向の幅は、1.5cm程度である。基板2のうち開口部3aに対応する部分(すなわち、厚さ方向Dから見た場合に開口部3aと重なる部分)は、試料の測定(イオン化)を行うための測定領域R1として機能する。すなわち、フレーム3に設けられた開口部3aによって、測定領域R1が規定されている。言い換えれば、フレーム3は、厚さ方向Dから見た場合に基板2の測定領域R1を包囲するように形成されている。
【0035】
開口部3bは、開口部3aよりも小さい円形状に形成されている。一例として、開口部3bの直径は、1mm程度である。基板2のうち開口部3bに対応する部分(すなわち、厚さ方向Dから見た場合に開口部3bと重なる部分)は、キャリブレーション用のキャリブレーション領域R2として機能する。キャリブレーション領域R2は、質量校正(マスキャリブレーション)のための領域として用いられ得る。例えば、試料の測定(後述する質量分析方法)を開始する前に、キャリブレーション領域R2に質量校正用の試料(例えばペプチド等)を配置して測定を実施することにより、マススペクトルの補正を行うことが可能となる。このようなマススペクトルの補正を測定対象試料の測定前に行うことにより、当該測定対象試料を測定した際に当該測定対象試料の正確なマススペクトルを得ることが可能となる。
【0036】
上述したように、基板2には複数の貫通孔2cが一様に形成されているため、測定領域R1及びキャリブレーション領域R2のいずれも、複数の貫通孔2cを含む領域である。測定領域R1における貫通孔2cの開口率(厚さ方向Dから見た場合に測定領域R1に対して貫通孔2cが占める割合)は、実用上は10~80%であり、特に60~80%であることが好ましい。複数の貫通孔2cの大きさは互いに不揃いであってもよいし、部分的に複数の貫通孔2c同士が互いに連結していてもよい。キャリブレーション領域R2についても測定領域R1と同様である。
【0037】
フレーム3は、例えば、金属またはセラミックス等である。試料支持体1Aの外形は、主にフレーム3によって規定されている。すなわち、フレーム3のX軸方向の長さは3cm程度であり、フレーム3のY軸方向の長さは2cm程度である。フレーム3の厚さは、例えば3mm以下である。一例として、フレーム3の厚さは0.2mmである。
【0038】
本実施形態では、図1に示されるように、厚さ方向Dから見た場合に、基板2は、フレーム3のX軸方向に沿った一対の縁部3eの間に収まると共に、フレーム3の一対の凹部3dの各々の底部3fの間に収まっている。すなわち、厚さ方向Dから見た場合に、基板2のうち測定領域R1及びキャリブレーション領域R2のみが外部に露出している。つまり、基板2のうち測定領域R1及びキャリブレーション領域R2以外の部分は、接着層7によってフレーム3に接合されている。このように基板2がフレーム3に接合されて支持されることにより、試料支持体1Aのハンドリングを容易化できると共に、温度変化等に起因する基板2の変形が抑制される。
【0039】
導電性テープ4は、試料支持体1Aを用いた測定を行う際に、試料支持体1Aを固定するための部材である。本実施形態では、導電性テープ4は、試料支持体1Aをスライドグラス8の載置面8a(図6参照)に固定するために用いられる。ただし、試料支持体1Aが固定される部材はスライドグラス8に限られない。導電性テープ4は、導電性材料によって形成されている。導電性テープ4は、例えば、アルミテープ、カーボンテープ等である。導電性テープ4の厚さは、例えば100μmである。
【0040】
導電性テープ4は、フレーム3の外面3g(基板2とは反対側の面)上に貼り付けられている。本実施形態では、導電性テープ4は、フレーム3のX軸方向における両側に設けられている。具体的には、導電性テープ4は、フレーム3のX軸方向における一方側(図1の図示左側)に設けられた導電性テープ41と、フレーム3のX軸方向における他方側(図1の図示右側)に設けられた導電性テープ42と、を有している。
【0041】
導電性テープ41は、フレーム3のX軸方向における中央部よりも一方側(図1の図示左側)において、測定領域R1及びキャリブレーション領域R2を覆わないように設けられている。導電性テープ41には、キャリブレーション領域R2を露出させるための円形状の開口部4aが設けられている。図1に示されるように、本実施形態では、導電性テープ41の縁部は、フレーム3の縁部3c,3e、フレーム3の開口部3aの縁部、及びフレーム3の開口部3bの縁部から若干離間している。一方、導電性テープ41は、厚さ方向Dから見た場合に、フレーム3の凹部3dによって形成された空間と重なる位置にも設けられている。すなわち、導電性テープ41は、厚さ方向Dから見てフレーム3と重ならない部分4b(すなわち、凹部3dによって形成された空間と重なる部分)を有する。
【0042】
導電性テープ42は、フレーム3のX軸方向における中央部よりも他方側(図1の図示右側)において、測定領域R1を覆わないように設けられている。図1に示されるように、本実施形態では、導電性テープ42の縁部は、フレーム3の縁部3c,3e、及びフレーム3の開口部3aの縁部から若干離間している。一方、導電性テープ42は、厚さ方向Dから見た場合に、フレーム3の凹部3dと重なる位置にも設けられている。すなわち、導電性テープ42は、厚さ方向Dから見てフレーム3と重ならない部分4b(すなわち、凹部3dによって形成された空間と重なる部分)を有する。
【0043】
導電性テープ41,42それぞれの部分4bがスライドグラス8の載置面8aに貼り付けられることにより、試料支持体1Aがスライドグラス8に固定される(図6参照)。
【0044】
導電層5は、基板2の第1表面2aに設けられている。図2においては、導電層5が形成される部分を太線で示している(図5及び図11についても同様)。図3に示されるように、導電層5は、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口部3aに対応する領域(すなわち、測定領域R1)、開口部3aの内面、及び開口部3aの周縁部のフレーム3の外面3gに一続きに(一体的に)形成されている。導電層5は、測定領域R1において、基板2の第1表面2aのうち貫通孔2cが形成されていない部分を覆っている。つまり、導電層5は、各貫通孔2cを塞がないように設けられている。従って、測定領域R1においては、各貫通孔2cが開口部3aに露出している。また、導電層5は、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口部3bに対応する領域(すなわち、キャリブレーション領域R2)、開口部3bの内面、及び開口部3bの周縁部のフレーム3の外面3gにも一続きに(一体的に)形成されている。導電層5は、キャリブレーション領域R2において、基板2の第1表面2aのうち貫通孔2cが形成されていない部分を覆っている。つまり、導電層5は、各貫通孔2cを塞がないように設けられている。従って、キャリブレーション領域R2においても、測定領域R1と同様に、各貫通孔2cが開口部3bに露出している。
【0045】
導電層5は、導電性材料によって形成されている。導電層5は、例えば、Pt(白金)又はAu(金)によって形成されている。導電層5の材料としては、以下に述べる理由により、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。
【0046】
例えば、タンパク質等の試料と親和性が高いCu(銅)等の金属によって導電層5が形成されていると、後述する試料(生体試料)のイオン化の過程において、試料分子にCu原子が付着した状態で試料がイオン化され、Cu原子が付着した分だけ、後述する質量分析法において検出結果がずれるおそれがある。したがって、導電層5の材料としては、試料との親和性が低い金属が用いられることが好ましい。
【0047】
一方、導電性の高い金属ほど一定の電圧を容易に且つ安定して印加し易くなる。そのため、導電性が高い金属によって導電層5が形成されていると、測定領域R1において基板2の第1表面2aに均一に電圧を印加することが可能となる。また、導電性の高い金属ほど熱伝導性も高い傾向にある。そのため、導電性が高い金属によって導電層5が形成されていると、基板2に照射されたレーザ光(エネルギー線)のエネルギーを、導電層5を介して試料に効率的に伝えることが可能となる。したがって、導電層5の材料としては、導電性の高い金属が用いられることが好ましい。
【0048】
以上の観点から、導電層5の材料としては、例えば、Pt、Au等が用いられることが好ましい。導電層5は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層5の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
【0049】
マーカー6は、フレーム3の外面3g上に設けられている。図1及び図5に示されるように、マーカー6は、厚さ方向Dから見てフレーム3と重ならない第1部分61と、フレーム3と導電性テープ4との間に設けられた第2部分62と、を有している。つまり、基板2の第1表面2a上に、フレーム3、マーカー6、及び導電性テープ4がこの順に配置されている。すなわち、マーカー6と導電性テープ4とが重なる領域においては、マーカー6が導電性テープ4よりも基板2側に配置されている。
【0050】
マーカー6の材料は、後述するスキャナ画像(スキャナ装置による取り込み画像)及びカメラ画像(質量分析装置10(図8参照)が備えるカメラ16(図8参照)により撮像される画像)において視認性に優れた材料であることが好ましい。マーカー6は、好ましくは、光を乱反射する構造を有している。例えば、マーカー6は、白色(例えば蛍光白色)の部材である。白色は、光を散乱し易い性質を有している。このため、白色のマーカー6を利用することにより、スキャナ画像及びカメラ画像において、マーカー6を他の部分と区別して視認することが容易となる。マーカー6は、例えば、インク、修正液等の液状部材であってもよいし、シール、ラベル等の貼付部材であってもよい。前者の場合、マーカー6は、フレーム3の外面3g上(本実施形態では、外面3gに設けられた導電層5上。以下同じ。)に塗布及び乾燥させられることによって形成される。後者の場合、マーカー6は、フレーム3の外面3g上に貼り付けられることによって形成される。マーカー6の厚さは、例えば75μmである。
【0051】
図1に示されるように、試料支持体1Aは、厚さ方向Dから見て同一直線上に並ばない少なくとも3箇所に設けられた複数(本実施形態では3つ)のマーカー6を備えている。3つのマーカー6は、測定領域R1の周縁部(近傍)に配置されている。本実施形態では、図1の図示上において、測定領域R1の上部右側、下部左側、及び下部右側のそれぞれにマーカー6が設けられている。一例として、各マーカー6は、厚さ方向Dから見て矩形状を有している。より具体的には、マーカー6は、X軸方向に沿った第1辺6aとY軸方向に沿った第2辺6bとを有しており、第1辺6aと第2辺6bとによって形成された角部6cを有している。すなわち、マーカー6は、略直角に形成された角部6cを有している。本実施形態では、各マーカー6の第1部分61の角部6cのうち測定領域R1に近い方の角部6c(すなわち、Y軸方向における内側に位置する角部6c)が、後述する位置合わせのためのポイントとして用いられる。
【0052】
3箇所に設けられたマーカー6間のXY平面(厚さ方向Dに交差する平面)上における間隔は、測定領域R1を含む最小の正方形領域の一辺の長さの1/3以上である。本実施形態において、マーカー6間の間隔とは、各マーカー6の角部6c間の間隔である。また、測定領域R1を含む最小の正方形領域の一辺の長さは、略円形状の測定領域R1の直径d1(測定領域R1のX軸方向の長さ)である。従って、本実施形態では、マーカー6間の最小の間隔である測定領域R1の下部左側のマーカー6の角部6cと下部右側のマーカー6の角部6cとの距離d2について、「d2≧d1/3」の関係が成立している。
【0053】
[試料支持体1Aを用いた質量分析方法]
次に、図6図9を参照して、試料支持体1Aを用いた質量分析方法(イオン化方法を含む)について説明する。なお、図6及び図8においては、貫通孔2c及び導電層5の図示を省略している。
【0054】
まず、図6(A)に示されるように、試料Sが用意される。具体的には、試料Sがスライドグラス8(載置部)の載置面8aに載置される。スライドグラス8は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板であり、透明導電膜の表面が載置面8aとなっている。なお、試料Sが載置される載置部はスライドグラス8に限定されず、導電性を確保し得る部材(例えば、ステンレス等の金属材料等からなる基板等)を載置部として用いることができる。ここで、試料Sは、例えば生体試料(含水試料)である。試料Sは、例えばマウスの肝臓切片等である。試料Sの成分S1(図6(C)参照)の移動をスムーズにするために、成分S1の粘性を低くするための溶液(例えばアセトニトリル混合液、アセトン等)が、試料Sに添加されてもよい。
【0055】
続いて、図6(B)に示されるように、基板2の第2表面2bが試料Sに対向するように、試料S上に試料支持体1Aが配置される。試料支持体1Aの導電性テープ4の部分4bが載置面8aに貼り付けられることにより、試料支持体1Aがスライドグラス8に固定される。
【0056】
続いて、図6(C)に示されるように、試料Sの成分S1は、毛細管現象によって、基板2の第2表面2b側から貫通孔2c(図3参照)を介して基板2の第1表面2a側に向けて移動する。そして、基板2の第1表面2a側に移動した成分S1は、表面張力によって第1表面2a側に留まる。この状態において、スライドグラス8上に固定された試料支持体1Aは、質量分析装置10(図8参照)に挿入される前に、図示しないスキャナー装置によって撮像される。以下、上述のように一体的に固定されたスライドグラス8、試料S、及び試料支持体1Aのことを測定プレートMPという。
【0057】
図7は、スキャナー装置によって撮像されたスキャナ画像P1の一例を示す図である。スキャナ画像P1は、例えば、縦20mm×横25mm程度の大きさの画像である。スキャナ画像P1は、少なくとも測定領域R1と各マーカー6とを撮像範囲に含む画像である。上述したように、マーカー6は、スキャナ画像P1において視認性に優れているため、図7に示されるように、スキャナ画像P1において、マーカー6と他の部分とを識別することができる。すなわち、スキャナ画像P1において、マーカー6の角部6cの位置を容易に特定することができる。また、スキャナ画像P1においては、測定領域R1のうち試料Sが配置された領域(すなわち、第1表面2a側に移動した試料Sの成分S1が存在する領域)である試料領域Rsを特定することも可能となっている。例えば、試料Sを特定し易くなるようにスキャナ画像P1の撮像条件等を設定することにより、スキャナ画像において試料領域Rsを特定することができる。
【0058】
続いて、図8に示されるように、スキャナ画像P1が取得された後、測定プレートMPが、質量分析装置10の支持部12上に載置される。
【0059】
質量分析装置10は、支持部12と、試料ステージ18と、カメラ16と、照射部13と、電圧印加部14と、イオン検出部15と、制御部17と、を備えている。測定プレートMPは、支持部12上に載置される。支持部12は、試料ステージ18上に載置される。照射部13は、試料支持体1Aの第1表面2aに対してレーザ光L等のエネルギー線を照射する。電圧印加部14は、試料支持体1Aの第1表面2aに対して電圧を印加する。イオン検出部15は、イオン化された試料Sの成分(試料イオンS2)を検出する。カメラ16は、照射部13によるレーザ光Lの照射位置を含むカメラ画像を取得する装置である。カメラ16は、例えば、照射部13に付随する小型のCCDカメラである。
【0060】
図9は、カメラ16によって撮像されたカメラ画像P2の一例を示す図である。カメラ画像P2は、例えば、縦1.5mm×横1.5mm程度の大きさの画像である。すなわち、カメラ16の撮像範囲(視野)は、スキャナー装置の撮像範囲よりも非常に小さい。これは、照射部13によるレーザ光Lの照射位置を精度良く設定するためである。
【0061】
制御部17は、試料ステージ18、カメラ16、照射部13、電圧印加部14、イオン検出部15の動作を制御する。制御部17は、例えば、プロセッサ(例えば、CPU等)、及びメモリ(例えば、ROM、RAM等)等を備えるコンピュータ装置である。
【0062】
まず、制御部17は、照射部13のレーザ照射範囲(すなわち、試料領域Rs)を認識するために、スキャナ画像P1において設定されている座標系(以下「第1座標系」という。)と制御部17が認識している制御用の座標系(以下「第2座標系」という。)との対応関係を把握するための処理(位置合わせ)を実行する。このために、まず、制御部17は、スキャナ画像P1における3つのマーカー6の角部6cの二次元の座標X1、X2、X3(第1座標系における座標)を取得する。座標X1~X3は、例えば、スキャナ画像P1を解析することにより得られる。また、制御部17は、各マーカー6の角部6cにレーザ照射位置を合わせる処理を順次行う。制御部17は、例えば、試料ステージ18を移動させ、カメラ16によってレーザ照射位置を観察することにより、各マーカー6の角部6cの二次元の座標Y1、Y2、Y3(第2座標系における座標)が取得される。これにより、第1座標系と第2座標系との間で、異なる3点についての座標の対応関係(すなわち、「X1⇔Y1」、「X2⇔Y2」、「X3⇔Y3」)が得られる。制御部17は、当該対応関係に基づいて所定の演算を行うことにより、第1座標系における任意の座標を第2座標系における座標に変換するための変換式を導出する。そして、制御部17は、スキャナ画像P1に示される試料領域Rsの範囲(第1座標系により示される範囲)を上記変換式を用いて第2座標系における範囲に変換することにより、当該変換後の範囲をレーザ照射範囲(第2座標系により示される範囲)として取得することができる。以上により、質量分析測定の前準備が完了する。
【0063】
続いて、図8に示されるように、電圧印加部14によって、スライドグラス8の載置面8a及び導電性テープ4を介して試料支持体1Aの導電層5(図2参照)に電圧が印加される。続いて、制御部17が、第2座標系によって認識されたレーザ照射範囲に基づいて、照射部13を動作させる。具体的には、制御部17は、レーザ照射範囲内の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されるように照射部13を動作させる。
【0064】
一例として、制御部17は、試料ステージ18を移動させると共に、照射部13によるレーザ光Lの照射動作(照射タイミング等)を制御する。すなわち、制御部17は、試料ステージ18が所定間隔移動したことを確認した後に、照射部13にレーザ光Lの照射を実行させる。例えば、制御部17は、レーザ照射範囲内をラスタスキャンするように試料ステージ18の移動(走査)と照射部13によるレーザ光Lの照射とを繰り返す。なお、第1表面2aに対する照射位置の変更は、試料ステージ18ではなく照射部13を移動させることによって行われてもよいし、試料ステージ18及び照射部13の両方を移動させることによって行われてもよい。
【0065】
このように、導電層5に電圧が印加されつつレーザ照射範囲内の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されることにより、第1表面2a側に移動した成分S1がイオン化され、試料イオンS2(イオン化された成分S1)が放出される。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層5から、基板2の第1表面2a側に移動した成分S1にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した成分S1が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンS2となる。以上の各工程が、試料支持体1Aを用いた試料Sのイオン化方法(ここでは一例として、質量分析方法の一部としてのレーザ脱離イオン化法)に相当する。
【0066】
放出された試料イオンS2は、試料支持体1Aとイオン検出部15との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンS2は、電圧が印加された導電層5とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部15によって試料イオンS2が検出される。
【0067】
イオン検出部15による試料イオンS2の検出結果は、レーザ光Lの照射位置に関連付けられる。具体的には、イオン検出部15は、レーザ照射範囲内の各位置について個別に試料イオンS2を検出する。各位置について個別に検出された試料イオンS2のデータ(検出結果)には、各位置を示す識別番号(例えば、上述した第2座標系における座標等)が付与される。これにより、試料Sの質量分布を示す分布画像(MSマッピングデータ)が取得される。さらに、試料Sを構成する分子の二次元分布を画像化することができる。なお、ここでの質量分析装置10は、飛行時間型質量分析法(TOF-MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する質量分析装置である。
【0068】
[作用効果]
以上述べたように、試料支持体1Aでは、基板2には、第1表面2a及び第2表面2bに開口する複数の貫通孔2cが形成された測定領域R1が設けられている。このため、例えば生体試料等の試料S上に、基板2の第2表面2bが試料Sに対向するように試料支持体1Aを配置することにより、毛細管現象を利用して、第2表面2b側から貫通孔2cを介して第1表面2a側に向けて試料Sの成分S1を移動させることができる。そして、レーザ光Lを第1表面2aに対して照射することにより、試料Sの成分S1をイオン化することができる。従って、試料支持体1Aを用いることにより、試料Sのイメージング質量分析を容易に行うことができる。
【0069】
上記イメージング質量分析を行う際には、試料S上に試料支持体1Aが配置された状態で、試料支持体1Aの第1表面2a側から、測定領域R1の全体とその周辺領域とを撮像したスキャナ画像P1(図7参照)が取得される。また、基板2の第1表面2a側にレーザ光Lを照射するための前処理として、共通のポイント(本実施形態では、マーカー6の角部6c)において、スキャナ画像P1において設定された座標と質量分析装置10が認識している座標(レーザ光Lの照射位置)とが取得され、両者の対応関係が把握される。試料支持体1Aでは、フレーム3が、基板2の第1表面2a上において、測定領域R1を包囲するように設けられている。そして、フレーム3の外面3g上に、上述したマーカー6が設けられている。従って、試料支持体1Aによれば、マーカー6を利用することにより、上記位置合わせを容易且つ精度良く行うことができる。
【0070】
また、試料支持体1Aは、フレーム3の外面3g上に貼り付けられ、厚さ方向Dから見てフレーム3と重ならない部分4bを有する導電性テープ4を備えている。そして、マーカー6は、厚さ方向Dから見てフレーム3と重ならない第1部分61と、フレーム3と導電性テープ4との間に設けられた第2部分62と、を有する。上記構成では、基板2の第1表面2a上に、フレーム3、マーカー6、及び導電性テープ4がこの順に配置される。すなわち、マーカー6と導電性テープ4とが重なる領域においては、マーカー6が導電性テープ4よりも基板2側に配置される。上記構成によれば、マーカー6のうちフレーム3と重ならない第1部分61(すなわち、外部に露出している部分)を利用することにより、上記位置合わせを実施することができる。また、マーカー6が絶縁物によって形成される場合、上記構成によればマーカー6の一部(すなわち第2部分62)を導電性テープ4で覆い隠すことができるため、厚さ方向Dから見た試料支持体1Aの表面において、絶縁物が露出する面積を極力少なくすることができる。すなわち、導電性テープ4の形状及び配置により、位置合わせに必要十分なマーカー6の部分(すなわち、第1部分61)を確保しつつ、絶縁物が露出する面積を低減することができる。これにより、イメージング質量分析時(すなわち、試料支持体1Aに電圧を印加する際)に、電位の乱れが発生することを抑制することができる。また、マーカー6の第2部分62をフレーム3と導電性テープ4とで挟み込むことにより、マーカー6が試料支持体1Aから剥離してしまうことを抑制することもできる。
【0071】
また、マーカー6の第2部分62は、厚さ方向Dから見てフレーム3と導電性テープ4とが重なる領域の一部に設けられている。上記構成では、マーカー6の第2部分62は、フレーム3と導電性テープ4との間の領域全体に設けられていない。すなわち、フレーム3と導電性テープ4とがマーカー6を介さずに接触する領域(本実施形態では、フレーム3と導電性テープ4とが導電層5を介して接触する領域)が確保されている。これにより、マーカー6が絶縁物によって形成される場合であっても、導電性テープ4及びフレーム3(或いは、導電層5)を介して、試料支持体1Aに電圧を適切に印加することができる。本実施形態では、導電性テープ4とフレーム3の外面3g上の導電層5とが電気的に接触していることにより、スライドグラス8から導電性テープ4を介して導電層5へと電圧が印加される。
【0072】
また、試料支持体1Aは、厚さ方向Dから見て同一直線上に並ばない少なくとも3箇所に設けられた複数のマーカー6を備えている。上記構成によれば、同一直線上に並ばない少なくとも3箇所のマーカー6を利用した位置合わせを実施することにより、二次元直交座標において、スキャナ画像P1に設定された座標系と質量分析装置10の座標系との対応関係を確実に把握することが可能となる。
【0073】
また、3箇所に設けられたマーカー6間の厚さ方向Dに交差するXY平面上における間隔(距離d2)は、測定領域R1を含む最小の正方形領域の一辺の長さ(直径d1)の1/3以上である。上記構成によれば、隣接するマーカー6間の間隔を測定領域R1の大きさに対して一定以上確保することにより、上記位置合わせの精度を向上させることができる。
【0074】
また、マーカー6は、角部6cを有している。上記構成によれば、上述したスキャナ画像P1及びカメラ画像P2等において位置を特定し易い角部6cを位置合わせのためのポイントとして用いることにより、上記位置合わせをより一層容易且つ精度良く実施することができる。
【0075】
また、試料支持体1Aは、厚さ方向Dから見て、X軸方向に延びる辺とY軸方向に延びる辺とを有する略矩形状に形成されている。マーカー6は、X軸方向に沿った第1辺6aとY軸方向に沿った第2辺6bとを有している。そして、角部6cは、第1辺6aと第2辺6bとによって形成されている。上記構成によれば、マーカー6の角部6cは、試料支持体1Aの外形に応じて定まった形状を有しているため、上述したスキャナ画像P1及びカメラ画像P2等において、マーカー6の角部6cの位置をより一層容易且つ精度良く特定することができる。
【0076】
また、マーカー6は、白色の部材である。上記構成によれば、上述したスキャナ画像P1及びカメラ画像P2等におけるマーカー6の視認性を向上させることができる。
【0077】
また、基板2は、測定領域R1とは別に、測定領域R1に設けられた複数の貫通孔2cと同様の複数の貫通孔2cが形成されたキャリブレーション領域R2を有している。上記構成によれば、測定領域R1を用いた質量分析を実施する前に、キャリブレーション領域R2を用いた質量校正(マスキャリブレーション)を実施することが可能となる。これにより、試料支持体1Aを用いた質量分析結果の精度を向上させることができる。
【0078】
また、試料支持体1Aは、基板2の第1表面2a上において貫通孔2cを塞がないように設けられた導電層5を備えている。上記構成によれば、本実施形態のように絶縁性の基板2(アルミナポーラス皮膜)を用いる場合であっても、イオン化された試料Sの成分S1を質量分析装置10のイオン検出部15へと移動させるための電圧を、導電層5を介して基板2の第1表面2a上に適切に印加することが可能となる。
【0079】
[第2実施形態]
図10及び図11を参照して、第2実施形態に係る試料支持体1Bについて説明する。試料支持体1Bは、マーカー6がフレーム3と導電性テープ4との間には設けられておらず、マーカー6が導電性テープ4の外面4c(フレーム3とは反対側の面)上に設けられた部分を有している点において、試料支持体1Aと相違している。試料支持体1Bの他の構成は、試料支持体1Aと同様である。試料支持体1Bでは、基板2の第1表面2a上に、フレーム3、導電性テープ4、及びマーカー6がこの順に配置されている。すなわち、マーカー6と導電性テープ4とが重なる領域においては、導電性テープ4がマーカー6よりも基板2側に配置されている。この場合、フレーム3と導電性テープ4との間にマーカー6が配置されないことにより、フレーム3と導電性テープ4との間の電気的接続をより確実に確保することができる。
【0080】
[第3実施形態]
図12を参照して、第3実施形態に係る試料支持体1Cについて説明する。試料支持体1Cは、4つ以上(本実施形態では6つ)のマーカー6を備える点において、試料支持体1Bと相違している。試料支持体1Cの他の構成は、試料支持体1Bと同様である。具体的には、試料支持体1Cでは、6つの同形状(矩形状)のマーカー6が、測定領域R1の周囲において、略均等な間隔で配置されている。より具体的には、試料支持体1Cは、試料支持体1Bが備える測定領域R1の上部右側、下部左側、及び下部右側のマーカー6に加えて、測定領域R1の上部左側のマーカー6Aと、Y軸方向における中央部において測定領域R1を挟んでX軸方向に対向する一対のマーカー6Bと、を備えている。このように、試料支持体1Cには、4つ以上のマーカー6が設けられてもよい。この場合、4つ以上のマーカー6のうちから任意の3つのマーカー6(例えば、スキャナ画像P1及びカメラ画像P2において視認(特定)し易いマーカー)を選択し、選択されたマーカー6を用いて上述した位置合わせを精度良く行うことができる。また、上述した位置合わせは、なるべく試料領域Rs(図7参照)から近いポイントを用いて行われることが精度の観点から好ましい。試料支持体1Cのように測定領域R1の周囲に4つ以上のマーカー6を略等間隔に分布させることにより、試料領域Rsの位置に応じて適切なマーカー6(すなわち、試料領域Rsからなるべく近い位置にあるマーカー6)を選択して、精度良く位置合わせを行うことが可能となる。
【0081】
なお、マーカー6Bは、その全体が導電性テープ4上に配置されている。このように、試料支持体には、導電性テープ4上に全体が配置されるマーカー6が設けられてもよい。また、試料支持体1Cの6つのマーカー6のうち一対のマーカー6B以外のマーカー6は、試料支持体1Aにおけるマーカー6と同様の構成(すなわち、マーカー6と導電性テープ4とが重なる部分において、マーカー6が基板2側に配置される構成)を備えていてもよい。
【0082】
[第4実施形態]
図13を参照して、第4実施形態に係る試料支持体1Dについて説明する。試料支持体1Dは、導電性テープ4の代わりに導電性テープ4Aを備えると共に、マーカー6の代わりにマーカー6Cを備える点において、試料支持体1Aと相違している。試料支持体1Dの他の構成は、試料支持体1Aと同様である。導電性テープ4Aは、フレーム3のX軸方向における一方側(図13の図示左側)に設けられた導電性テープ41Aと、フレーム3のX軸方向における他方側(図13の図示右側)に設けられた導電性テープ42Aと、を有している。導電性テープ41A,42Aは、厚さ方向Dに貫通する開口部4dを有する点で、導電性テープ41,42と相違している。導電性テープ41A,42Aの他の構成は、導電性テープ41,42と同様である。本実施形態では、導電性テープ41Aには、測定領域R1の下部左側に開口部4dが設けられている。また、導電性テープ41Bには、測定領域R1の上部右側及び下部右側のそれぞれに開口部4dが設けられている。一例として、開口部4dの形状は、矩形状である。
【0083】
マーカー6Cは、フレーム3の外面3g(図3等参照)上において、厚さ方向Dから見て開口部4d内に設けられている。マーカー6Cは、開口部4dよりも小さい矩形状に形成されている。マーカー6Cの縁部は、開口部4dの縁部から若干離間している。すなわち、厚さ方向Dから見て、マーカー6Cの縁部と開口部4dの縁部との間に隙間が形成されている。
【0084】
試料支持体1Dによれば、導電性テープ4Aに形成された開口部4dにより、マーカー6Cの位置を規定することができる。また、フレーム3上で導電性テープ4Aとマーカー6Cとが互いに重ならないように、両者を収まりよく配置することができる。
【0085】
[第5実施形態]
図14を参照して、第5実施形態に係る試料支持体1Eについて説明する。試料支持体1Eは、導電性テープ4の代わりに導電性テープ4Bを備えると共に、マーカー6の代わりにマーカー6Dを備える点において、試料支持体1Aと相違している。試料支持体1Eの他の構成は、試料支持体1Aと同様である。具体的には、マーカー6Dは、フレーム3の外面3g上に設けられた導電性テープ4Bの一部とされている。例えば、マーカー6Dは、導電性テープ4Bの一部に印刷又は刻印されている。本実施形態では一例として、左側の導電性テープ41Bのうち測定領域R1の下部左側の領域に、「×」の印の印刷又は刻印が施されている。また、右側の導電性テープ42Bのうち測定領域R1の上部右側及び下部右側の領域においても、同様に「×」の印の印刷又は刻印が施されている。これらの印の各々が、マーカー6Dとして機能する。例えば、本実施形態の場合、「×」の中央部分(2つの線分が交差する点)を位置合わせのためのポイントとして用いることができる。
【0086】
試料支持体1Eによれば、導電性テープ4Bの一部をマーカー6Bとして利用することにより、導電性テープ4Bと異なる部材をマーカーとして設ける必要がない。これにより、試料支持体1Eの部品点数を削減することができる。また、導電性テープ4Bの一部としてのマーカー6Bは、導電性テープ4Bに対する印刷又は刻印によって容易に形成することができる。
【0087】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。
【0088】
例えば、上記実施形態では、フレーム3に設けられた1つの開口部3aによって1つの測定領域R1が規定されていたが、試料支持体には複数の測定領域R1が設けられてもよい。
【0089】
また、基板2に設けられる導電層5は、少なくとも第1表面2aに設けられていればよい。従って、導電層5は、第1表面2aに加えて、例えば、第2表面2bにも設けられてもよいし、各貫通孔2cの内面の全体又は一部にも設けられてもよい。
【0090】
また、基板2は、導電性を有していてもよい。例えば、基板2は、半導体等の導電性材料によって形成されていてもよい。この場合、基板2の第1表面2a側に電圧を印加するための導電層5は省略されてもよい。ただし、基板2が導電性を有する場合であっても、基板2の第1表面2a側に好適に電圧を印加するために、導電層5が設けられてもよい。
【0091】
また、試料支持体を用いた質量分析方法において、電圧印加部14によって電圧が印加される対象は、載置面8aに限られない。例えば、電圧は、フレーム3又は導電層5に直接印加されてもよい。
【0092】
また、試料支持体を用いた質量分析方法において、照射部13は、測定領域R1に対してレーザ光Lを一括で照射してもよい。つまり、質量分析装置10は、投影型質量分析装置であってもよい。また、上述したイオン化方法は、イオンモビリティ測定等の他の測定・実験にも利用することができる。
【0093】
また、試料支持体の用途は、レーザ光Lの照射による試料のイオン化に限定されない。試料支持体は、レーザ光、イオンビーム、電子線等のエネルギー線の照射による試料のイオン化に用いることができる。上述したイオン化方法及び質量分析方法では、エネルギー線の照射によって試料をイオン化することができる。
【符号の説明】
【0094】
1A,1B,1C,1D,1E…試料支持体、2…基板、2a…第1表面、2b…第2表面、2c…貫通孔、3…フレーム、4d…開口部、4,4A,4B,41,41A,41B,42,42A,42B…導電性テープ、4b…部分、5…導電層、6,6A,6B,6C,6D…マーカー、6a…第1辺、6b…第2辺、6c…角部、61…第1部分、62…第2部分、D…厚さ方向、R1…測定領域、R2…キャリブレーション領域、S…試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14