(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188315
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】超音波装置、便器、器物、および蓋
(51)【国際特許分類】
A61L 2/025 20060101AFI20221214BHJP
A01M 1/00 20060101ALI20221214BHJP
E03D 9/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
A61L2/025
A01M1/00 E
E03D9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019217825
(22)【出願日】2019-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】517182918
【氏名又は名称】ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002815
【氏名又は名称】IPTech弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 新
【テーマコード(参考)】
2B121
2D038
4C058
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121DA59
2B121EA01
2B121EA30
2B121FA15
2D038ZA00
4C058AA02
4C058BB06
4C058DD13
4C058DD14
4C058KK07
(57)【要約】
【課題】人体または対象物に悪影響を及ぼすことなく当該対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させる。
【解決手段】本発明の一態様は、対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させる超音波装置である。超音波装置は、超音波振動子と、超音波振動子に、標的が付着した対象物の表面に向けて超音波を放射させるコントローラとを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させる超音波装置であって、
超音波振動子と、
前記超音波振動子に、前記標的が付着した対象物の表面に向けて超音波を放射させるコントローラと
を具備する、超音波装置。
【請求項2】
前記標的は、ウィルス、細菌、カビ、寄生虫および害虫の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の超音波装置。
【請求項3】
前記コントローラは、トリガイベントを検出し、前記トリガイベントの検出後に前記超音波振動子に前記対象物の表面に向けて超音波を放射させる、請求項1または請求項2に記載の超音波装置。
【請求項4】
前記超音波装置は、便蓋および便鉢を備えた便器のうち前記便蓋の裏側に設置され、
前記コントローラは、前記便蓋が閉じられた状態にあるときに前記超音波振動子に前記便鉢の内側の表面に向けて超音波を放射させる、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項5】
前記超音波装置は、建物の区画内に設置され、
前記コントローラは、前記超音波振動子に前記区画内に存在する対象物の表面に向けて超音波を放射させる、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項6】
前記区画は、物品を内部空間に収容可能なクローゼットであって、
前記コントローラは、前記超音波振動子に、前記物品の表面に向けて超音波を放射させる、
請求項5に記載の超音波装置。
【請求項7】
前記区画は、物品を内部空間に収容可能な浴室であって、
前記コントローラは、前記超音波振動子に、前記物品、前記浴室の壁、前記浴室の床、前記浴室の天井、および前記浴室の扉の少なくとも1つの表面に向けて超音波を放射させる、
請求項5に記載の超音波装置。
【請求項8】
前記区画は、飲食物を取り扱う場であって、
前記コントローラは、前記超音波振動子に、前記飲食物の表面、および前記飲食物に接触する物品の表面のうち少なくとも1つに向けて超音波を放射させる、
請求項5に記載の超音波装置。
【請求項9】
前記超音波装置は、器物の筐体の提供する内部空間に設置され、
前記コントローラは、前記超音波振動子に、前記内部空間に収容されている物品の表面、および前記筐体のうち前記内部空間に接する側の表面のうち少なくとも1つに向けて超音波を放射させる、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の超音波装置。
【請求項10】
前記器物は、電気製品、家具、設備、または道具のいずれかである、請求項9に記載の超音波装置。
【請求項11】
前記超音波装置を移動させるための移動機構をさらに具備し、
前記コントローラは、前記移動機構に、前記超音波振動子が前記対象物の表面に到達する超音波を放射可能な位置に前記超音波装置を移動させる、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項12】
便蓋と、
便鉢と、
前記便蓋の裏側に設置され、前記便鉢の内側の表面に付着した標的を死滅または失活させる超音波装置と
を具備し、
前記超音波装置は、
超音波振動子と、
前記便蓋が閉じられた状態にあるときに前記超音波振動子に前記標的が付着した便鉢の内側の表面に向けて超音波を放射させるコントローラと
を備える、
便器。
【請求項13】
物品を収容可能な内部空間を提供する筐体と、
前記筐体のうち前記内部空間に接する側に設置され、前記筐体の前記内部空間に存在する対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させる超音波装置と
を具備し、
前記超音波装置は、
超音波振動子と、
前記超音波振動子に、前記標的が付着した対象物の表面に向けて超音波を放射させるコントローラと
を備える、
器物。
【請求項14】
開口を塞ぐ蓋部材と、
前記蓋部材のうち当該蓋部材が前記開口を塞いでいる時に当該開口に対向する側に設置され、前記開口の向こうに存在する対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させる超音波装置と
を具備し、
前記超音波装置は、
超音波振動子と、
前記超音波振動子に、前記標的が付着した対象物の表面に向けて前記開口を通過する超音波を放射させるコントローラと
を備える、
蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波装置、便器、器物、および蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬剤または紫外線を用いて、菌または虫を失活または死滅させる技術が知られている。
特許文献1には、タンクに貯留された殺菌成分を含む液体を超音波で振動させて霧化し、外部に放出する噴霧装置が提案されている。
特許文献2には、殺虫液を超音波霧化装置により蒸散させる蒸散方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-187874号公報
【特許文献2】特開2007-82553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の噴霧装置は、殺菌成分を含む液体を用いて菌を死滅させる。特許文献2に記載の蒸散方法は、殺虫液を用いて虫を死滅させる。
【0005】
しかしながら、殺菌成分を含む液体、および殺虫液は、その成分次第で人体に有害な影響を及ぼしたり、繊維またはプラスチックを着色または破壊したりする。故に、特許文献1に記載の噴霧装置および特許文献2に記載の蒸散方法は、人間が口にする物、人間の肌に触れる物、繊維製品、およびプラスチック製品に付着した菌または虫を駆除する用途には適さない可能性がある。
【0006】
紫外線は繊維またはプラスチックを着色または破壊するので、紫外線を用いた菌または虫の駆除技術は、繊維製品およびプラスチック製品に付着した菌または虫を駆除する用途には適さない可能性がある。
本開示の目的は、人体または対象物に悪影響を及ぼすことなく当該対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させる超音波装置である。超音波装置は、超音波振動子と、超音波振動子に、標的が付着した対象物の表面に向けて超音波を放射させるコントローラとを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、人体または対象物に悪影響を及ぼすことなく当該対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】本実施形態の駆除処理の全体フローを示す図である。
【
図4】第1の実施例に係る超音波装置を便蓋に取り付けた便器を示す。
【
図5】第1の実施例におけるトリガイベントの検出の説明図である。
【
図6】第1の実施例における超音波の放射の説明図である。
【
図7】第2の実施例に係る超音波装置を扉に設置されたクローゼットを示す。
【
図8】第3の実施例に係る超音波装置を天井に設置された浴室を示す。
【
図9】第4の実施例に係る超音波装置を設置された食品工場を示す。
【
図10】第5の実施例に係る超音波装置を扉に設置された食洗器を示す。
【
図11】変形例1に係る超音波装置の外観を示す図である。
【
図12】変形例1に係る超音波装置の構成図である。
【
図13】変形例2の駆除処理の全体フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
(1)超音波装置の構成
超音波装置の構成を説明する。
図1は、本実施形態の超音波装置の構成図である。
【0012】
超音波装置1は対象物の表面に向けて超音波を放射することにより、当該表面に付着した標的を死滅または失活させるように構成される。
【0013】
超音波装置は、以下のいずれかに設置され得る。
・建物の区画の提供する内部空間
・器物の筐体の提供する内部空間
・器物の筐体
【0014】
区画は、人の体内に入る物、人の体内に入る物に触れる物、人体に触れる物、人体に触れる物に触れる物、および汚物に触れる物、の少なくとも1つを内部空間に収容可能な場に該当し得る。具体的には、区画は、例えば、飲食物を取り扱う(例えば、生産、加工、運搬、貯蔵、梱包、販売、提供、など)場、キッチン、クローゼット、浴室、更衣室、トイレ、などであり得る。
【0015】
器物は、電気製品、家具、設備、または道具のいずれかに該当し得る。具体的には、器物は、便器、クローゼット型ホームクリーニング機、洗濯機、食洗器、ディスポーザー、冷蔵庫、電子レンジ、オーブン、炊飯器、電気ポット、コーヒーメーカー、ミキサ、ジューサ、超音波洗浄機、箪笥、棚、ごみ箱、排水溝、蓋、飲食物を運搬する車両、などであり得る。
【0016】
対象物は、以下の少なくも1つを含み得る。
・建物の区画の内部空間を区切る要素(例えば、天井、床、壁、または扉)
・建物の区画の内部空間に収容される物品
・器物の筐体のうち内部空間に接する側(内側)
・器物の内部空間に収容される物品
【0017】
物品は、人の体内に入る物、人の体内に入る物に触れる物、人体に触れる物、人体に触れる物に触れる物、および汚物に触れる物、のいずれかに該当し得る。具体的には、物品は、飲食物、飲食物、入れ歯、ベビー用品、食器、調理器具、エアコン、スチーマ、加湿器、エアクリーナ、衣類、履物、被り物、装飾品、マットレス、スイッチ、歯ブラシ、ヘアブラシ、トレーニングマシーン、レンタルシューズ、自販機のボタンまたはタッチスクリーン、ソープトレイ、アイロン、汚物処理時に供する道具、などであり得る。
【0018】
標的は、以下の少なくとも1つを含み得る。
・ウィルス
・細菌
・カビ
・寄生虫
・害虫(昆虫類に限られない)
・バイオフィルム
【0019】
すなわち、本実施形態に係る超音波装置1によれば、対象物の表面に付着したウィルス、細菌、カビ、寄生虫、および害虫の少なくとも1つを死滅または失活させることができる。「標的を死滅させる」ことは、「殺菌」、「殺虫」、「除菌」、「除虫」、「減菌」、「滅菌」、「消毒」などの意味で用いられ得る。「標的を失活」させることは、「殺菌」、「除菌」「減菌」、「滅菌」、「消毒」などの意味で用いられ得る。「菌」とは、「ウィルス」および「細菌」の少なくとも1つを意味することもあるし、「ウィルス」、「細菌」、および「カビ」の全てを意味することもある。以降の説明において、「標的を死滅または失活させる」ことを、単に「標的を死滅させる」と表現することがある。
【0020】
図1に示されるように、超音波装置1は、記憶装置11と、プロセッサ12と、入出力インタフェース13と、通信インタフェース14と、駆動部15と、超音波振動子16と、イメージセンサ17と、を備える。
【0021】
記憶装置11は、プログラム及びデータを記憶するように構成される。記憶装置11は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、ストレージ(例えば、フラッシュメモリ又はハードディスク)の組合せである。
【0022】
プログラムは、例えば、以下のプログラムを含む。
・OS(Operating System)のプログラム
・情報処理(例えば、超音波を放射するための制御信号を生成する処理)を実行するアプリケーションのプログラム
【0023】
データは、例えば、以下のデータを含む。
・情報処理において参照されるデータベース
・情報処理を実行することによって得られるデータ(つまり、情報処理の実行結果)
【0024】
プロセッサ12は、記憶装置11に記憶されたプログラムを起動することによって、超音波装置1のコントローラの機能を実現するように構成され前記る。プロセッサ12は、コンピュータの一例である。
【0025】
入出力インタフェース13は、超音波装置1に接続される入力デバイスから情報を取得し、かつ、超音波装置1に接続される出力デバイスに情報を出力するように構成される。
入力デバイスは、例えば、イメージセンサ17、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、リモートコントローラ、プッシュボタン、スイッチ、各種センサ、又は、それらの組合せである。
出力デバイスは、例えば、ディスプレイである。
【0026】
通信インタフェース14は、超音波装置1と外部装置との間の通信を制御するように構成される。外部装置は、例えば、トイレの給排水設備、風呂の給排水設備、電気製品のコントローラ、などであり得る。
【0027】
駆動部15は、プロセッサ12から出力された制御信号に従って、超音波振動子16を駆動させるように構成される。
【0028】
超音波振動子16は、駆動部15からの制御に従って振動することにより、非集束(無限遠で集束するともいえる)の超音波を放射するように構成される。かかる非集束の超音波は、「超音波ビーム」ともいえる。複数の超音波振動子16を設けて、これらを個別に、またはグループ単位で制御することで、超音波ビームの放射角を変更することができる。
【0029】
イメージセンサ17は、撮影を行って画像データを生成する。イメージセンサ17によって生成された画像データは、入出力インタフェース13を介してプロセッサ12によって取得される。
【0030】
(2)実施形態の概要
本実施形態の概要を説明する。
図2は、本実施形態の概要の説明図である。
【0031】
図2に示されるように、超音波装置1は、対象物の表面TSに向けて超音波USWを放射する。これにより、表面TSにおいて熱が生じ、これは表面TSの温度を上昇させるとともに表面TSに付着した水分を蒸発させる。また、超音波USWは、表面TSにおいて凝集している微生物を分散させる効果もある。
【0032】
例えば、細菌、ウィルス、寄生虫などの病原体の多くは、65~75度程度の加熱により死滅または失活する。例えば、大腸菌は、65度程度の加熱により死滅または失活する。また、カビの多くも、50度程度の加熱により死滅するうえ、表面TSに付着した水分を蒸発させることで当該表面TSをカビの生育し辛い環境にすることが可能である。さらに、害虫の多くも、50度程度の加熱によりタンパク質が凝固するため、死滅または死活する。また、水分の蒸発に起因する乾燥により菌の死滅効果または死活効果も同時に得ることができる。
【0033】
このように、超音波装置1は、対象物の表面TSに超音波を放射することで、当該表面TSに付着した種々の標的ETを死滅または失活させることができる。
【0034】
(3)駆除処理
本実施形態の駆除処理について説明する。
図3は、本実施形態の駆除処理の全体フローを示す図である。
【0035】
図3に示されるように、超音波装置1は、トリガイベントの検出(S110)を実行する。
具体的には、プロセッサ12は、以下の少なくとも1つの例示のようにトリガイベントを検出し得る。
・プロセッサ12は、人感センサを介して、対象物の表面TSを含む空間に人間が存在しないことをトリガイベントとして検出する。
・プロセッサ12は、入力デバイスを介して、ユーザの特定の操作を行ったことをトリガイベントとして検出する。
・プロセッサ12は、マイクロホンを介して、ユーザが特定の発話をしたことをトリガイベントとして検出する。
・プロセッサ12は、イメージセンサ17を介して、ユーザが特定のジェスチャをしたことをトリガイベントとして検出する。
・プロセッサ12は、照度センサを介して、対象物の表面TSおよび超音波装置1を含む空間の照度が閾値未満であることをトリガイベントとして検出する。
・プロセッサ12は、開閉センサを介して、超音波装置1を取り付けた蓋、扉などが閉じられたことをトリガイベントとして検出する。
・プロセッサ12は、時刻データを参照して、予め定められたタイミングが到来したことをトリガイベントとして検出する。
・プロセッサ12は、イメージセンサ17を介して、対象物の表面TSに外観上の異常(例えば、水垢またはその他の汚れの付着、害虫の付着、など)が生じていることをトリガイベントとして検出する。
・プロセッサ12は、通信インタフェース14を介して、外部装置が例えば運転終了などの特定の状態にあることをトリガイベントとして検出する。
【0036】
ステップS110の後に、超音波装置1は、超音波の放射(S111)を実行する。
具体的には、プロセッサ12は、超音波振動子16に対象物の表面TSに向けて超音波USWを放射させるための制御信号を生成し、超音波振動子16へ供給する。駆動部15は、この制御信号に従って超音波振動子16に超音波USWを放射させる。プロセッサ12は、複数の超音波振動子16の間で位相差または駆動タイミング差を示す制御信号を生成することにより、超音波USWの放射角を必要に応じて変更可能である。
【0037】
トリガイベントの検出(S110)は、超音波の放射(S111)を実行する準備が整ったことを確認することに相当し得る。すなわち、超音波装置1は、超音波の放射(S111)を実行する準備が整ったことを確認した後、超音波の放射(S111)を実行する。
超音波の放射(S111)を実行する準備は、例えば、標的が存在する空間を閉鎖空間にすることにより整う。これにより、標的が付着した面(以下「対象面」という)で反射した超音波、及び、標的が存在する空間の外部に対象面に付着した水滴が飛散することを防ぐことができる。
【0038】
(4)実施例
本実施形態の実施例について説明する。
【0039】
(4-1)第1の実施例
本実施形態の第1の実施例について説明する。
図4は、第1の実施例に係る超音波装置を便蓋に取り付けた便器を示す。
図5は、第1の実施例におけるトリガイベントの検出の説明図である。
図6は、第1の実施例における超音波の放射の説明図である。
【0040】
図4に示されるように、便器OBJ1は、便蓋OBJ1aと、便座OBJ1bと、便鉢OBJ1cとを備える。第1の実施例に係る超音波装置1は、便器OBJ1の便蓋OBJ1aに設置される。
図5に示されるように、便蓋OBJ1aのうち、閉じた状態において便座OBJ1bおよび便鉢OBJ1cに対向する側を裏側OBJ1dと称する。
図6に示されるように、便鉢OBJ1cのうち便および水を受ける側を内側OBJ1eと称する。便鉢OBJ1cの内側OBJ1eの表面には、大腸菌などを含有した便が付着するうえ、恒常的に水にさらされているので雑菌またはカビが繁殖しやすい。便鉢OBJ1cが、第1の実施例における対象物に相当する。
【0041】
超音波装置1は、便蓋OBJ1aの裏側OBJ1dに設置される。故に、超音波装置1は、便蓋OBJ1aが閉じた状態において、便鉢OBJ1cの内側OBJ1e表面に超音波を放射可能である。便鉢OBJ1cの内側OBJ1eには、細菌またはカビなどの標的が付着し得る。
【0042】
例えば、便座OBJ1bには、開閉センサが配置されている。開閉センサは、便蓋OBJ1aの開閉状態を検出するように構成される。
ステップS110では、
図5に示されるように、プロセッサ12は、例えば開閉センサを介して、便蓋OBJ1aが閉じられたことをトリガイベントとして検出する。
【0043】
ステップS111の第1例では、プロセッサ12は、超音波振動子16に便鉢OBJ1cの内側OBJ1eの表面TSに超音波を放射させるための制御信号を生成する。
【0044】
ステップS111の第2例では、プロセッサ12は、
図6に示されるように、超音波装置1は、例えば便鉢OBJ1cの内側OBJ1eのうち貯水Wの水面付近の表面TS1およびTS2に超音波USWを順次放射させるための制御信号を生成する。
【0045】
第1の実施例によれば、超音波装置1は、便鉢OBJ1cの表面に付着した標的に超音波を照射することにより、当該標的を死滅または失活させることができる。
【0046】
(4-2)第2の実施例
本実施形態の第2の実施例について説明する。
図7は、第2の実施例に係る超音波装置を扉に設置されたクローゼットを示す。
【0047】
図7に示されるように、第2の実施例に係る超音波装置1は、例えばクローゼットの扉に設置される。クローゼットは、扉、天井、床および壁によって区切られた内部空間に、例えば、衣類、履物、被り物、装飾品などの人体に触れる物に相当する物品を収容する。これらの物品の表面に、例えばダニ、細菌、ウィルスなどが付着して長時間生存し続けるおそれがある。クローゼットのかかる収容物が、第2の実施例における対象物に相当する。
【0048】
超音波装置1は、クローゼットの扉が閉じた状態において、当該クローゼットの内部空間に収容される各物品に向けて超音波を放射可能である。
【0049】
例えば、クローゼットの扉には、扉の開閉状態を検出する開閉センサが配置されている。
ステップS110では、プロセッサ12は、例えば開閉センサを介して、クローゼットの扉が閉じられたことをトリガイベントとして検出する。
【0050】
ステップS111の第1例では、プロセッサ12は、超音波振動子16にクローゼットの内部空間に超音波を放射させるための制御信号を生成する。
【0051】
ステップS111の第2例では、超音波装置1は、光学センサを備える。光学センサは、超音波装置1の位置に対する物品の相対位置を検出するように構成される。
プロセッサ12は、光学センサ介して、クローゼットに収容された物品のそれぞれの位置を特定し、且つ、特定された位置に超音波を順次放射するための制御信号を生成する。
【0052】
第2の実施例によれば、超音波装置1は、クローゼットの内部空間に収容された物品の表面に付着した標的に超音波を照射することにより、当該標的を死滅または失活させることができる。
クローゼットを他の建物の区画に置き換えても同様の効果を得ることができる。
【0053】
(4-3)第3の実施例
本実施形態の第3の実施例について説明する。
図8は、第3の実施例に係る超音波装置を天井に設置された浴室を示す。
【0054】
図8に示されるように、第3の実施例に係る超音波装置1は、例えば浴室の天井に設置される。浴室は、扉、天井、床および壁によって区切られた内部空間に、例えば、バスタブ、鏡、水栓、椅子、洗面器、およびその他のバス小物などの物品を収容する。浴室は高温多湿な環境になりやすいので、これらの物品、ならびに浴室の内部空間を区切る扉、天井、床、および壁には、雑菌またはカビが繁殖しやすい。浴室のかかる収容物、および浴室の扉、天井、床および壁の少なくとも1つが、第3の実施例における対象物に相当する。
【0055】
超音波装置1は、浴室の内部空間に収容される各物品、ならびに浴室の扉、床、および壁、の少なくとも1つに向けて超音波を放射可能である。
【0056】
例えば、浴室の扉には、扉の開閉状態を検出する開閉センサが配置されている。
ステップS110では、プロセッサ12は、例えば開閉センサを介して、浴室の扉が閉じられたことをトリガイベントとして検出する。
【0057】
ステップS111の第1例では、プロセッサ12は、超音波振動子16に浴室の内部空間に超音波を放射させるための制御信号を生成する。
【0058】
ステップS111の第2例では、超音波装置1は、例えば、光学センサを備える。光学センサは、超音波装置1の位置に対する物品の相対位置を検出するように構成される。
プロセッサ12は、光学センサを介して、浴室内の物品、浴室の扉、天井、床、および壁のそれぞれの位置を特定し、超音波を順次放射させるための制御信号を生成する。
【0059】
第3の実施例によれば、超音波装置1は、浴室内に収容された物品の表面、または浴室の壁、床、壁もしくは扉の表面に付着した標的に超音波を照射することにより、当該標的を死滅または失活させることができる。
浴室を他の建物の区画に置き換えても同様の効果を得ることができる。
【0060】
(4-4)第4の実施例
本実施形態の第4の実施例について説明する。
図9は、第4の実施例に係る超音波装置を設置された食品工場を示す。
【0061】
図9に示されるように、第4の実施例に係る超音波装置1は、例えば食品工場内のベルトコンベアを見下ろすスタンドに設置される。このベルトコンベアによって運搬される食品が、第4の実施例における対象物に相当する。
【0062】
超音波装置1は、食品工場内で取り扱われる食品に向けて超音波を放射可能である。
【0063】
ステップS110の第1例では、プロセッサ12は、例えばタイマーを参照して、食品が予め定められた地点を通過するタイミングが到来したことをトリガイベントとして検出する。
【0064】
ステップS110の第2例では、超音波装置は、光学センサを備える。光学センサは、食品が予め定められた地点に到達したことを検出するように構成される。
プロセッサ12は、例えば光学センサを介して、食品が予め定められた地点を通過するタイミングが到来したことをトリガイベントとして検出する。
【0065】
ステップS111の第1例では、プロセッサ12は、超音波振動子16に上記地点に向けて超音波を放射させるための制御信号を生成する。
【0066】
ステップS111の第2例では、プロセッサ12は、例えば、ベルトコンベアのスピードに応じて食品に追従して超音波を放射させるための制御信号を生成する。
【0067】
ベルトコンベアによって複数の食品が順次運搬される場合には、ステップS110~ステップS111は繰り返し実行され得る。
【0068】
第4の実施例によれば、超音波装置1は、飲食物を取り扱う場において、飲食物の表面、または飲食物に接触する物品の表面に付着した標的に超音波を照射することにより、当該標的を死滅または失活させることができる。
【0069】
(4-5)第5の実施例
本実施形態の第5の実施例について説明する。
図10は、第5の実施例に係る超音波装置を扉に設置された食洗器を示す。
【0070】
図10に示されるように、第5の実施例に係る超音波装置1は、例えば食洗器の扉に設置される。食洗器は、扉を有する筐体によって区切られた内部空間に、例えば、食器、調理器具、などの飲食物に触れる物品を収容する。食洗器の庫内は高温多湿な環境になりやすいうえに残菜フィルタに有機物が溜まるので、雑菌またはカビが繁殖しやすい。また、洗浄処理により落としきれなかった雑菌またはカビが食器または調理器具に付着するおそれがある。食洗器内に収容される物品、および食洗器の筐体の内側表面の少なくとも1つが、第5の実施例における対象物に相当する。
【0071】
超音波装置1は、食洗器の扉が閉じた状態において、当該食洗器の内部空間に収容される各物品に向けて超音波を放射可能である。
【0072】
ステップS110では、食洗機は、運転状態から運転終了状態に遷移したことを示す通知を超音波装置1に送信する。
プロセッサ12は、例えば通信インタフェース14を介して、食洗機から当該通知を受け取ると、食洗器が運転状態から運転終了状態に遷移したことをトリガイベントとして検出する(ステップS110)。
【0073】
ステップS111の第1例では、プロセッサ12は、超音波振動子16に食洗器の内部空間に超音波を放射させるための制御信号を生成する。
【0074】
ステップS111の第2例では、超音波装置1は、光学センサを備える。光学センサは、食洗器の内側表面、および食洗器内の物品のそれぞれの位置を検出するように構成される。
プロセッサ12は、例えば、光学センサを介して、食洗器の内側表面、および食洗器内の物品のそれぞれの位置を特定し、且つ、特定された位置に向かって超音波を順次放射させるための制御信号を生成する。
【0075】
第5の実施例によれば、超音波装置1は、食洗器内に存在する対象物の表面に付着した標的に超音波を照射することにより、当該標的を死滅または失活させることができる。
食洗器を他の電気製品に置き換えても同様の効果を得ることができる。電気製品を、家具、設備、道具または他の器物に置き換えても同様の効果を得ることができる。
【0076】
(4-6)第6の実施例
本実施形態の第6の実施例について説明する。
【0077】
第6の実施例に係る超音波装置1は、例えば、便器の便鉢部、洗濯機の洗濯槽、ディスポーザー、排水溝、ごみ箱、バケツ、などの開口を塞ぐ蓋に含まれる。具体的には、この蓋は、開口を塞ぐ蓋部材と、この蓋部材の裏側(すなわち、蓋部材が開口に塞いでいる時に当該開口に対向する側)に設置された超音波装置1とを備える。開口に接続する内部空間に収容される物品、および当該内部空間を区切る要素の少なくとも1つが、第6の実施例における対象物に相当する。
【0078】
超音波装置1は、蓋部材が開口を塞いでいる状態において、当該開口の向こうに存在する対象物の表面に向けて超音波を放射可能である。
【0079】
ステップS110では、プロセッサ12は、入力デバイスを介して、ユーザが蓋の電源をONしたことをトリガイベントとして検出する。
【0080】
ステップS111の第1例では、プロセッサ12は、超音波振動子16に開口を通過する超音波を放射させるための制御信号を生成する。
【0081】
ステップS111の第2例では、超音波装置1は、光学センサを備える。光学センサは、開口に接続する内部空間に収容される物品、および当該内部空間を区切る要素(例えば、便鉢部、洗濯槽、ディスポーザー、などの筐体の内側の表面)のそれぞれの位置を検出するように構成される。
プロセッサ12は、例えば、光学センサを介して、開口に接続する内部空間に収容される物品、および当該内部空間を区切る要素のそれぞれの位置を特定し、且つ、特定された位置に超音波を順次放射させるための制御信号を生成する。
【0082】
第6の実施例によれば、超音波装置1は、開口の向こうに存在する対象物の表面に付着した標的に超音波を照射することにより、当該標的を死滅または失活させることができる。
【0083】
(5)小括
以上説明したように、本実施形態に係る超音波装置は、ウィルス、細菌、カビ、寄生虫、害虫などの種々の標的が付着した対象物の表面に向けて超音波を放射する。これにより、この超音波装置は、対象物の表面に付着した、ウィルス、細菌、カビ、寄生虫、害虫などの種々の標的を死滅または失活させることができる。さらに、この超音波装置は、超音波を利用して標的を死滅または失活させるので、駆除処理によって、対象物の表面に人体に有害な成分が残留したり、対象物の着色または破壊が生じたりすることはない。
【0084】
(6)変形例
本実施形態の変形例について説明する。
【0085】
(6-1)変形例1
変形例1について説明する。変形例1は、超音波装置が自律走行可能に構成される。
図11は、変形例1に係る超音波装置の外観を示す図である。
図12は、変形例1に係る超音波装置の構成図である。
【0086】
図11に示されるように、超音波装置1は、移動機構18を備える。超音波装置1は、イメージセンサ17によって撮影された画像データに基づいて移動機構18を制御することで、自律走行する。
【0087】
記憶装置11に記憶されるプログラムは、更に、超音波装置1の自律走行機能を実現するためのプログラムが記憶される。
【0088】
プロセッサ12は、イメージセンサ17から取得した画像データに基づいて、以下の処理を実行する。
・超音波装置1の自己位置の推定
・障害物の検出
・対象物の表面または標的の検出
【0089】
プロセッサ12は、画像データに基づいて、移動機構18による走行を制御するための制御信号を生成し、この制御信号を、入出力インタフェース13を介して移動機構18へ供給する。制御信号は、例えば、発進、停止、加速、減速、及び、進行方向を移動機構18に指示するための信号である。
プロセッサ12は、移動機構18に制御信号を送信することにより、対象物の表面に到達する超音波を放射可能な位置に超音波装置1を移動させる。
【0090】
移動機構18は、超音波装置1の移動を可能にする。移動機構18は、例えば、駆動輪と、この駆動輪の動力を生むモーターと、プロセッサ12からの制御信号に応じてこのモーターに印加する電気信号を制御する制御回路とを含み得る。
【0091】
変形例1によれば、超音波装置1が移動することで超音波を放射可能な範囲を変えられるので、対象物の表面が広域に亘る場合であっても標的を死滅または失活させることができる。
【0092】
(6-2)変形例2
変形例2について説明する。変形例2は、超音波装置が超音波を放射する前に前処理を実行する例である。
図13は、変形例2の駆除処理の全体フローを示す図である。
【0093】
図13に示されるように、超音波装置1は、本実施形態(
図3)と同様に、トリガイベントの検出(S110)を実行する。
【0094】
ステップS110の後に、超音波装置1は、前処理(S210)を実行する。
具体的には、プロセッサ12は、例えば後続するステップS111による駆除効果を高めるために、以下に例示される前処理を実行し得る。
・対象物の表面を加温する処理
・対象物の表面を乾燥させる処理
・超音波の放射時に副次的な効果が得られる処理
・超音波振動子16と対象物の表面との間にある障害物(例えば、水)を取り除く処理
【0095】
例えば、プロセッサ12は、通信インタフェース14を介して、対象物の周囲にある機器のヒーター機能または乾燥機能を有効にすることで、対象物の表面を加温または乾燥させてもよい。
【0096】
例えば、プロセッサ12は、通信インタフェース14を介して、洗浄液のサーバに対象物の表面に活性剤を塗布させてもよい。活性剤は、以下の少なくとも1つを含み得る。
・洗剤
・研磨剤を含有する洗剤
・加温効果を高めるための媒質
・対象物の表面に微細構造を形成するための媒質
【0097】
洗剤を塗布することにより、超音波の放射時に、対象物の表面の汚れを除去して駆除効果を高めることができる。
研磨剤を含有する洗剤を塗布することにより、超音波の放射時に、研磨剤に含まれる微小粒子を振動させて対象物の表面の汚れをより強力に除去すること、および凝集している微生物を分散させる効果を高めることができる。
加温効果を高めるための媒質を塗布することにより、超音波の放射時に、対象物の表面の温度を効率的に上昇させ、標的を短時間で死滅または失活させることができる。
【0098】
対象物の表面に微細構造を形成するための媒質を塗布することにより、超音波の放射時に、対象物の表面の温度を効率的に上昇させられるとともに撥水効果により当該表面から水分を効率的に取り除くことができるので、標的を短時間で死滅または失活させることができる。微細構造は、例えば超音波の放射から見た凹凸構造であって、以下に示す具体例の少なくとも1つを含み得る。
【0099】
図14は、微細構造の第1の例を示す図である。
図15は、微細構造の第2の例を示す図である。
【0100】
図14に示されるように、活性剤ACは、対象物の表面TSに、超音波USWの放射方向から見て溝状の凹凸構造を形成してもよい。
図15に示されるように、活性剤ACは、対象物の表面TSに、超音波の放射方向から見て孔状の凹凸構造を形成してもよい。
【0101】
例えば、プロセッサ12は、通信インタフェース14を介して、便器またはバスタブの排水を行うことで、便鉢やバスタブの貯水を取り除いてもよい。
【0102】
前処理として便器の排水を行う例を説明する。
図16は、排水が行われる前の便器を示す図である。
図17は、排水が行われた後の便器を示す図である。
【0103】
図16に示されるように、便器OBJ1の排水が行われる前、便鉢OBJ1cの内側の表面の一部が貯水Wの水面よりも下にある。貯水Wの水面よりも下にある表面に超音波を放射したとしても、当該表面の加熱乾燥は困難である。
【0104】
図17に示されるように、便器OBJ1の排水が行われた後、便鉢OBJ1cの内側の表面の全体が露出する。故に、便器OBJ1の排水が行われる前に貯水Wの水面よりも下にあった場所、例えば表面TS3およびTS4に超音波USWを放射することで、当該表面TS3およびTS4に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0105】
ステップS210の後に、超音波装置1は、本実施形態(
図3)と同様に、超音波の放射(S111)を実行する。
【0106】
ステップS111の後に、超音波装置1は、後処理(S211)を必要に応じて実行する。
具体的には、プロセッサ12は、前処理(ステップS210)に対応する後処理を実行する。
【0107】
ステップS210において、プロセッサ12が通信インタフェース14を介して便器の排水を行った場合に、ステップS211において、プロセッサ12は通信インタフェース14を介して便器の給水を行ってもよい。これにより、便器の貯水Wの水位を原状復帰させることができる。
【0108】
ステップS210において、プロセッサ12が通信インタフェース14を介してヒーター機能または乾燥機能を有効にした場合に、ステップS211において、プロセッサ12は通信インタフェース14を介してヒーター機能または乾燥機能を無効にしてもよい。これにより、電力の浪費を防ぐとともにユーザの意図しない温度上昇または湿度低下を抑制できる。
【0109】
なお、変形例2では、前処理(S210)に対応する後処理(S211)が存在しない場合には、ステップS211は省略される。
【0110】
変形例2によれば、超音波装置1は、超音波を放射する前に適切な前処理を行うので、超音波の放射による駆除効果を高めることができる。
【0111】
(7)その他の変形例
記憶装置11は、ネットワークを介して、超音波装置1と接続されてもよい。
【0112】
前述の実施形態において、超音波装置1は、非集束の超音波ビームを放射するとした。しかしながら、超音波装置1は、空間中の焦点に集束する超音波を放射させてもよい。この場合、プロセッサ12は、対象物の表面付近に焦点を設定し、超音波振動子16にこの焦点に集束する超音波を放射させることにより、対象物の表面に局所的に高い音圧をかけて標的を死滅または失活させることができる。プロセッサ12は、複数の超音波振動子16の間で位相差または駆動タイミング差を制御することで、焦点の位置を変更することも可能である。
【0113】
超音波装置1は、ステップS111において2種類の超音波を対象物の表面に向けて放射してもよい。
具体的には、プロセッサ12は、超音波振動子16に、第1の種類の超音波を対象物の表面に向けて放射させた後に、第2の種類の超音波を当該表面に向けて放射させ得る。第1の種類の超音波は、振幅がパルス状に変化するように変調された超音波であって、第2の種類の超音波は振幅が一定の超音波であり得る。第1の種類の超音波は、対象物の表面に付着したバイオフィルム、水分、ほこり、泥、などの障害物を除去し、または分散させる。これにより、第2の種類の超音波は、障害物が除去され、または分散した後の対象物の表面を効果的に加熱乾燥させることが可能となるので、超音波装置1による駆除効果を高めることができる。
【0114】
前述の実施形態の説明では、超音波振動子16によって放射される超音波の放射角を変更可能とした。しかしながら、超音波の放射角は固定であってもよい。
【0115】
前述の実施形態および変形例の説明では、複数の超音波振動子16の間で位相差または駆動タイミング差を制御することにより、超音波振動子16によって放射される超音波の放射角または焦点を変更可能とした。しかしながら、以下の少なくとも1つの方法を利用してかかる超音波の放射各または焦点を変更することもできる。
・音響レンズまたは他のメタマテリアルを用いて、超音波振動子16から放射された超音波の進行態様(例えば、進行方向)を変更する。
・メカニカルな可動機構を用いて超音波振動子16の位置、超音波振動子16の姿勢、メタマテリアルの位置、およびメタマテリアルの姿勢のうち少なくとも一方を変更する。
【0116】
前述の実施形態および変形例の説明では、超音波装置1は、建物の区画の内部空間または器物の内部空間が概ね密閉された状態で超音波を放射することを前提としていた。しかしながら、これらの内部空間が密閉されていない状態であっても、対象物の表面に超音波を放射することで標的を死滅または失活させることは可能である。
【0117】
前述の実施形態および変形例の説明では、超音波装置1は、建物の区画の提供する内部空間、器物の筐体の提供する内部空間、または器物の筐体などに設置され得る。超音波装置1の設置とは、超音波装置1を移動可能に設置することを含み得る。例えば、超音波装置1を建物の扉に設置した場合に、当該超音波装置1は当該扉に沿って移動可能であってもよい。これにより、超音波装置1は建物または器物の内部空間のより広い範囲に超音波を放射して標的を死滅または失活させることができる。
【0118】
前述の実施形態および変形例の説明では、超音波装置1は、建物の区画または器物の提供する内部空間に収容された物品の表面に超音波を放射し得る。これらの内部空間には、物品を移動可能とする機構が設けられてもよい。この機構は、例えば、物品を順次選択して超音波装置1によって放射される超音波が当該物品の表面に到達可能となる位置に移動させ得る。例えば、ハンガーに掛かった衣類を運搬するレーン機構がクローゼットの内部空間に設けられてもよい。これにより、超音波装置1は建物または器物の内部空間に収容されている種々の範囲に超音波を放射して標的を死滅または失活させることができる。
【0119】
前述の変形例2では、活性剤として対象物の表面に微細構造を形成するための媒質を説明した。対象物の表面がかかる微細構造を備えている場合にも同様の効果を得ることができる。さらに、微細構造を備えた対象物の表面に、かかる活性剤を塗布することで、効果をいっそう高めることができる。
【0120】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。また、上記の実施形態及び変形例は、組合せ可能である。
【0121】
(8)付記
実施形態で説明した事項を、以下に付記する。
【0122】
(付記1)
対象物の表面(TS)に付着した標的(ET)を死滅または失活させる超音波装置(1)であって、
超音波振動子(16)と、
超音波振動子に、標的が付着した対象物の表面に向けて超音波を放射させるコントローラ(12)と
を具備する、超音波装置。
【0123】
(付記1)によれば、対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0124】
(付記2)
標的は、ウィルス、細菌、カビ、寄生虫および害虫の少なくとも1つを含む、(付記1)に記載の超音波装置。
【0125】
(付記2)によれば、対象物の表面に付着したウィルス、細菌、カビ、寄生虫、および害虫の少なくとも1つを死滅または失活させることができる。
【0126】
(付記3)
コントローラは、トリガイベントを検出し(S110)、トリガイベントの検出後に超音波振動子に対象物の表面に向けて超音波を放射させる(S111)、(付記1)または(付記2)に記載の超音波装置。
【0127】
(付記3)によれば、超音波の放射を実行する準備が整ったことを確認してから超音波の放射を開始できる。
【0128】
(付記4)
超音波装置は、便蓋(OBJ1a)および便鉢(OBJ1c)を備えた便器(OBJ1)のうち便蓋の裏側(OBJ1d)に設置され、
コントローラは、便蓋が閉じられた状態にあるときに超音波振動子に便鉢の内側(OBJ1e)の表面(TS1,TS2,TS3,TS4)に向けて超音波を放射させる、
(付記1)乃至(付記3)のいずれかに記載の超音波装置。
【0129】
(付記4)によれば、便鉢の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0130】
(付記5)
超音波装置は、建物の区画内に設置され、
コントローラは、超音波振動子に区画内に存在する対象物の表面に向けて超音波を放射させる、
(付記1)乃至(付記3)のいずれかに記載の超音波装置。
【0131】
(付記5)によれば、建物の区画内に存在する対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0132】
(付記6)
区画は、物品を内部空間に収容可能なクローゼットであって、
コントローラは、超音波振動子に、物品の表面に向けて超音波を放射させる、
(付記5)に記載の超音波装置。
【0133】
(付記6)によれば、クローゼットの内部空間に収容された物品の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0134】
(付記7)
区画は、物品を内部空間に収容可能な浴室であって、
コントローラは、超音波振動子に、物品、浴室の壁、浴室の床、浴室の天井、および浴室の扉の少なくとも1つの表面に向けて超音波を放射させる、
(付記5)に記載の超音波装置。
【0135】
(付記7)によれば、浴室内に収容された物品の表面、または浴室の壁、床、壁もしくは扉の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0136】
(付記8)
区画は、飲食物を取り扱う場であって、
コントローラは、超音波振動子に、飲食物の表面、および飲食物に接触する物品の表面のうち少なくとも1つに向けて超音波を放射させる、
(付記5)に記載の超音波装置。
【0137】
(付記8)によれば、飲食物を取り扱う場において、飲食物の表面、または飲食物に接触する物品の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0138】
(付記9)
超音波装置は、器物の筐体の提供する内部空間に設置され、
コントローラは、超音波振動子に、内部空間に収容されている物品の表面、および筐体のうち内部空間に接する側の表面のうち少なくとも1つに向けて超音波を放射させる、
(付記1)乃至(付記3)のいずれか1項に記載の超音波装置。
【0139】
(付記9)によれば、器物内に存在する対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0140】
(付記10)
器物は、電気製品、家具、設備、または道具のいずれかである、請求項9に記載の超音波装置。
【0141】
(付記10)によれば、電気製品、家具、設備、または道具内に存在する対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0142】
(付記11)
超音波装置を移動させるための移動機構(18)をさらに具備し、
コントローラは、移動機構に、超音波振動子が対象物の表面に到達する超音波を放射可能な位置に超音波装置を移動させる、
(付記1)乃至(付記3)のいずれかに記載の超音波装置。
【0143】
(付記11)によれば、超音波装置が移動することで超音波を放射可能な範囲を変えられるので、対象物の表面が広域に亘る場合であっても標的を死滅または失活させることができる。
【0144】
(付記12)
便蓋(OBJ1a)と、
便鉢(OBJ1c)と、
便蓋の裏側(OBJ1d)に設置され、便鉢の内側(OBJ1e)の表面(TS1,TS2,TS3,TS4)に付着した標的(ET)を死滅または失活させる超音波装置(1)と
を具備し、
超音波装置は、
超音波振動子(16)と、
便蓋が閉じられた状態にあるときに超音波振動子に標的が付着した便鉢の内側の表面に向けて超音波を放射させるコントローラ(12)と
を備える、
便器(OBJ1)。
【0145】
(付記12)によれば、便鉢の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0146】
(付記13)
物品を収容可能な内部空間を提供する筐体と、
筐体のうち内部空間に接する側に設置され、筐体の内部空間に存在する対象物の表面(TS)に付着した標的(ET)を死滅または失活させる超音波装置(1)と
を具備し、
超音波装置は、
超音波振動子(16)と、
超音波振動子に、標的が付着した対象物の表面に向けて超音波を放射させるコントローラ(12)と
を備える、
器物。
【0147】
(付記13)によれば、器物内に存在する対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【0148】
(付記14)
開口を塞ぐ蓋部材と、
蓋部材のうち当該蓋部材が開口を塞いでいる時に当該開口に対向する側に設置され、開口の向こうに存在する対象物の表面(TS)に付着した標的(ET)を死滅または失活させる超音波装置(1)と
を具備し、
超音波装置は、
超音波振動子(16)と、
超音波振動子に、標的が付着した対象物の表面に向けて開口を通過する超音波を放射させるコントローラ(12)と
を備える、
蓋。
【0149】
(付記14)によれば、開口の向こうに存在する対象物の表面に付着した標的を死滅または失活させることができる。
【符号の説明】
【0150】
1 :超音波装置
11 :記憶装置
12 :プロセッサ
13 :入出力インタフェース
14 :通信インタフェース
15 :駆動部
16 :超音波振動子
17 :イメージセンサ
18 :移動機構