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特開2022-188334転造盤及びこの転造盤を用いたウォームの製造方法とウォーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188334
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】転造盤及びこの転造盤を用いたウォームの製造方法とウォーム
(51)【国際特許分類】
   B21H 3/04 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
B21H3/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096278
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】中谷 喬
(72)【発明者】
【氏名】古澤 雄介
(72)【発明者】
【氏名】西村 年克
(72)【発明者】
【氏名】真子 正登
(57)【要約】
【課題】ウォームの螺旋状歯部の転造加工時における軸状素材の酔歩現象(軸方向の前後移動)の発生を抑えることのできる転造盤を提供する。
【解決手段】軸部本体12の両端部に第1、第2テーパ面13,14を有する軸状素材11の外周面に加工歯4a、4aを押し付けて軸部本体の外周面と第1、第2テーパ面を塑性変形させて螺旋状の歯部17を成形する一対の第1、第2転造ダイス4,4を有し、第1転造ダイスと第2転造ダイスが軸状素材の外周面を転造加工している際に、第1テーパ面に対して両転造ダイスの各軸方向の一端部の加工歯が当接して加工を開始するタイミングと、第2テーパ面に対して両転造ダイスの軸方向の他端部の加工歯が当接して加工を開始するタイミングがほぼ同一となるように設定した。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部本体の両端部に第1、第2テーパ面を有する軸状素材の外周面に加工歯を押し付けて前記軸部本体の外周面と前記第1、第2テーパ面を塑性変形させて螺旋状の歯部を成形する一対の第1、第2転造ダイスを有し、
前記第1転造ダイスと第2転造ダイスが前記軸状素材の外周面を転造加工している際に、前記第1テーパ面に対して前記第1,第2転造ダイスの各軸方向の一端部の加工歯が当接して加工を開始するタイミングと、前記第2テーパ面に対して前記第1、第2転造ダイスの軸方向の他端部の加工歯が当接して加工を開始するタイミングがほぼ同一となるように設定されていることを特徴とする転造盤。
【請求項2】
第1、第2転造ダイスのそれぞれの加工歯を、軸状素材に押し付けて螺旋状の歯部を転造により成形するウォームの製造方法であって、
前記軸状素材は、中央の軸部本体を挟んだ軸方向の一端部と他端部に、前記軸部本体から漸次縮径状に設けられた第1テーパ面と第2テーパ面とを有し、
前記第1、第2転造ダイスの加工歯が、前記軸部本体の外周面を加工した後に、前記第1テーパ面と第2テーパ面を加工する際に、前記第1、第2転造ダイスのそれぞれの加工歯が第1テーパ面と第2テーパ面に当接して加工するタイミングがほぼ同一になっていることを特徴とするウォームの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のウォームの製造方法であって、
前記第1テーパ面と第2テーパ面のそれぞれの外径が最も小さい部位は、前記ウォームの歯部の歯底径よりも小さいことを特徴とするウォームの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のウォームの製造方法であって、
前記第1テーパ面と第2テーパ面は、それぞれが軸状素材の回転軸に対して角度が0°より大きく、かつ45°よりも小さなテーパ角度であることを特徴とするウォームの製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載のウォームの製造方法であって、
前記第1テーパ面と第2テーパ面の第1、第2転造ダイスにより加工されたそれぞれ終端縁の位置は、前記軸状素材の円周方向の±10°の範囲内にあることを特徴とするウォームの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のウォームの製造方法であって、
前記各終端縁は、前記軸状素材の軸方向でオーバーラップした位置になっていることを特徴とするウォームの製造方法。
【請求項7】
転造盤の第1、第2転造ダイスのそれぞれの加工歯を軸状素材に押し付けて歯部が転造により成形されるウォームであって、
前記軸状素材は、軸部本体を挟んだ軸方向の一端部と他端部に前記軸部本体から漸次縮径状に設けられた第1テーパ面と第2テーパ面とを有し、
前記第1テーパ面と第2テーパ面は、前記第1、第2転造ダイスの加工歯によって前記軸部本体の外周面が加工された後に、続いて加工される際に、前記第1、第2転造ダイスのそれぞれの加工歯が前記第1、第2テーパ面のそれぞれの外周面を当接加工するタイミングがほぼ同一になっていることを特徴とするウォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造盤及びこの転造盤を用いたウォームの製造方法とウォームに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転造盤としては、以下の特許文献1に記載されたウォームの歯部を成形加工する丸ダイス転造盤が知られている。
【0003】
前記ウォームは、円柱状の軸状素材の軸部本体の両端部にそれぞれ連続した一対のテーパ面を有している。転造盤は、予め設定された転造荷重で両転造ダイスの各加工歯が軸状素材の外周面を押し込むと共に、軸方向へ移動させる。これによって、隣接する加工歯の間で盛り上がった肉によりウォームの歯部を転造加工するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-1095号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の転造盤にあっては、軸部本体の外周面の加工の後に、加工歯が軸部本体の両端部に形成された一方のテーパ面の外周面のみに当接して加工し始めるが、この時点では他方のテーパ面の外周面には殆ど当接せずに一方のテーパ面の加工開始後に加工が開始されるようになっている。このため、両転造ダイスで転造加工をし始めるときに、一方のテーパ面と加工歯が当接することによって、軸状素材に軸方向の力(加振力)が発生して軸状素材がいわゆる酔歩状態になる可能性がある。この結果、ウォームの加工された歯面の波打ちや歯筋のうねりなどが発生するおそれがある。
【0006】
本発明は、前記従来技術の技術的課題に鑑みて案出されたもので、ウォームの螺旋状歯部の転造加工時における軸状素材の酔歩現象(軸方向の前後移動)の発生を抑えて、加工された歯面の波打ちや歯筋のうねりなどの発生を抑制できる転造盤を提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の態様としては、とりわけ、第1転造ダイスと第2転造ダイスが前記軸状素材の外周面を転造加工している際に、前記第1テーパ面に対して前記第1,第2転造ダイスの各軸方向の一端部の加工歯が当接して加工を開始するタイミングと、前記第2テーパ面に対して前記第1、第2転造ダイスの軸方向の他端部の加工歯が当接して加工を開始するタイミングがほぼ同一となるように設定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
この発明の態様によれば、転造加工時における軸状素材の酔歩現象(軸方向の前後移動)の発生が抑えられて、加工された歯面の波打ちや歯筋のうねりなどの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るウォームが適用される流量制御弁のカバーを外した平面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る転造ダイス転造盤の全体構成図である。
図4】本実施形態に供されるウォームの軸状素材が転造ダイスで加工され始められる状態を一部断面して示す要部拡大図である。
図5】本実施形態のウォームの軸状素材を示す正面図である。
図6】本実施形態における軸状素材を転造盤で転造加工によって成形された後のウォームを示す正面図である。
図7】転造ダイスの各加工歯が軸部本体から第1テーパ面と第2テーパ面に当接して転造作業を開始し始めた状態を示す説明図である。
図8】転造ダイスの各加工歯が軸部本体から第1テーパ面と第2テーパ面に当接して転造作業を開始し始めた際に各テーパ面が受ける荷重のベクトルを示す説明図である。
図9】は転造ダイスによるウォームを転造加工した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る転造盤及びこの転造盤を用いたウォームの製造方法とウォームの実施形態を図面に基づいて詳述する。
【0011】
本実施形態の転造盤は、転造ダイス転造盤であって、被転造物(軸状素材)としては、本出願人が先に出願した例えば特開2020-008144号公報などに記載された流量制御弁(MCV)に用いられるウォームギアの一つである金属製のウォームを対象としている。
【0012】
図1はハウジングカバーを取り外した状態を示す流量制御弁の平面図、図2は流量制御弁の要部断面図である。
【0013】
概略を説明すると、流量制御弁は、図外のエンジンのシリンダヘッドの側部に配置され、合成樹脂材によって成形されたハウジング20と、該ハウジング20の内部に設けられた駆動機構21と、図外のロータ(弁体)及び回転軸と、を有している。
【0014】
ハウジング20は、合成樹脂材によって一体に形成され、基部20aや周壁20b、排出口20c及び図外の導入口や軸受部などを有している。
【0015】
駆動機構21は、基部20aの内部に設けられており、電動モータ22と、電動モータ22のモータ出力軸22aの先端部に設けられた第1ウォーム10と、軸方向の一端部に有するヘリカルギア23aが第1ウォーム10と噛み合う中間歯車23と、該中間歯車23の他端部に有する第2ウォーム23bに噛み合うウォームホイール24と、を備えている。このウォームホイール24から回転軸25などを介してロータ(弁体)26を正逆回転させて、ウォータポンプから導入された冷却水を、ヒータ、オイルクーラ及びラジエータへとそれぞれ分配制御するようになっている。
【0016】
第1ウォーム10(以下、ウォーム10という。)は、後述する転造盤によって転造加工されるようになっている。
【0017】
図3は本発明の実施形態に係る転造ダイス転造盤の全体構成図、図4は被転造材であるウォームの軸状素材が転造ダイスで加工され始められる状態を一部断面して示す要部拡大図である。
【0018】
概略を説明すれば、転造ダイス転造盤は、図3に示すように左右対称形状に形成されており、基台1上に配置された一対の主軸台2,2と、該各主軸台2,2の対向位置に配置されて図外の駆動機構によって回転駆動される一対の主軸3,3と、該主軸3,3の外周に取り付けられた一対の丸ダイスである転造ダイス4,4と、を備えている。
【0019】
主軸台2,2は、支持フレーム5,5によって支持された移動機構6,6の図外の一対の電動モータや減速機によって相対的に図中左右横方向(矢印方向)、つまり、近接あるいは離間する方向へ相対移動可能になっている。また、各主軸台2,2は、支持フレーム5,5の上下に跨って配置された上下2本ずつの4本の支柱7、8によって左右横方向へ案内支持されている。なお、前記移動機構6,6は、電動モータなどを用いて各主軸台2,2を電気的に相対移動させるようになっているが、油圧シリンダやカム機構によって相対移動させることも可能である。
【0020】
主軸3,3は、主軸台2,2の内部に設けられた図外の電動モータや減速機からなる駆動機構によって図3の矢印で示すように、同一方向へ同期回転するように構成されている。また、主軸3,3は、主軸台2,2に設けられた傾動機構9,9によって上下方向へ傾斜できるように構成されている。なお、駆動機構は、いわゆるCNC制御によって駆動制御されるようになっている。
【0021】
各転造ダイス4,4は、図3及び図4に示すように、転造に適した合金工具鋼または高速度工具鋼の金属材でそれぞれ円筒状に形成されている。各転造ダイス4、4は、内部中心軸方向に各主軸3,3が挿入される図外の貫通孔が貫通形成されていると共に、外周には後述する軸状素材11外周面の歯部加工用の加工歯4a、4aが形成されている。
【0022】
また、転造ダイス4,4は、図外の貫通孔の内周面に軸方向に直線状に形成された目印部であるキー溝及び該キー溝に挿入されるキーによって主軸3,3に相対回転が規制されている。各転造ダイス4,4は、各主軸3,3から回転力が伝達されて、図3の矢印で示すように、各主軸3,3と同じく反時計方向へ回転するようになっている。各転造ダイス4のキー溝及びキーは、貫通孔の周方向の同じ位置(基準位置)に設けられている。
【0023】
この両転造ダイス4,4の間には、図4に示すように、後述するウォーム10の軸状素材11が挟持状態に配置されており、この軸状素材11の軸部本体12と各テーパ面13、14のそれぞれ外周面を加工歯4a,4aによって連続的に塑性変形させて螺旋状の歯部17を成形するようになっている。ウォーム10は、基台1の上面に設けられた支持部材1aの上端部に回転可能に載置されている。支持部材1aは、板状に形成されていると共に、両転造ダイス4,4の間の下方に配置されて下端部が基台1上に固定されている。
【0024】
図5はウォームの軸状素材を示す正面図、図6は軸状素材を転造盤で転造加工によって成形された後のウォームを示す正面図である。
【0025】
ウォーム10の転造加工前の被転造物である軸状素材11は、図4及び図5に示すように、塑性変形可能な金属材料によって一体に形成され、中央の軸部本体12と、該軸部本体12の軸方向の図中上下の両端部に一体に設けられた第1テーパ面13及び第2テーパ面14と、該第1、第2テーパ面13、14の軸方向の各外端からそれぞれ軸方向に延びた一対の軸部15、16と、を有している。
【0026】
軸部本体12は、外径が均一のストレート形状に形成されて、所定の軸方向長さを有している。
【0027】
第1テーパ面13と第2テーパ面14は、軸部本体12の軸方向の両端縁から各軸部15,16方向へ下り傾斜状に形成されて、ほぼ截頭円錐状に形成されている。第1テーパ面13と第2テーパ面14は、図5に示すように、それぞれが同じテーパ角度θに設定され、軸状素材11の回転軸の軸方向に対してテーパ角度θが0°よりも大きく、かつ45°よりも小さなテーパ角度になっており、本実施形態では、約40°に設定されている。
【0028】
各軸部15,16は、軸方向の長さが同じでかつ同じ外径を有している。
【0029】
また、転造加工後におけるウォーム10は、図6に示すように、外周面に螺旋状の歯部17が形成されており、この歯部17は、軸状素材11の軸部本体12の外周面から第1テーパ面13及び第2テーパ面14の各軸部15,16近傍まで形成されている。歯部17は、一方の終端縁17bの位置と他方の終端縁17cの位置が回転軸Pを中心とした軸状素材11の円周方向の範囲Sが±10°の範囲内になっている。特に、本実施形態では、歯部17の両終端縁17b、17cは、軸状素材11の軸方向で僅かながらも互いにオーバーラップした位置になっている。
【0030】
また、ウォーム10は、図6に示すように、各テーパ面13,14の外径が最も小さい部位13a、14aの外径dがウォーム10の歯部17の歯底17aの外径d1よりも小さく形成されている。
【0031】
図7は転造ダイスの各加工歯が軸部本体から第1テーパ面と第2テーパ面に当接して転造作業を開始し始めた状態を示す説明図である。
【0032】
そして、本実施形態では、図7に示すように、転造盤の両転造ダイス4,4が軸部本体12の外周面を転造加工した後に、第1テーパ面13と第2テーパ面14を転造加工する。このとき、各加工歯4a、4aは、第1テーパ面13と第2テーパ面14に対する当接位置が対称位置でかつほぼ同じタイミングで当接して転造加工が開始されるように設定されている。
【0033】
すなわち、第1、第2転造ダイス4、4の各加工歯4a、4aは、各テーパ面13,14の加工を開始する際に、第1テーパ面13に当接する位置と第2テーパ面14に当接する位置が軸部本体12の軸方向中心を挟んだほぼ対称位置になっている。また、各加工歯4a、4aは、第1テーパ面13と第2テーパ面14に対する当接タイミングがほぼ同じとなるように設定されている。
【0034】
なお、転造ダイス転造盤によって軸状素材11の外周面に歯部17を転造してウォーム10を成形する方法は、CNC制御に基づく一般的な方法によって行われる。
【0035】
〔ウォームの製造工程〕
図8図7と同じく転造ダイスの各加工歯が軸部本体から第1テーパ面と第2テーパ面に当接して転造作業を開始し始めた際に各テーパ面が受ける荷重のベクトルを示す説明図、図9は転造ダイスによるウォームを転造加工した状態を示す説明図である。
【0036】
この転造作業工程の概略を説明すると、まず、図3及び図4に示すように、軸状素材11を、支持部材1aの上端部に位置決めしつつ載置支持させる。その後、移動機構6,6によって主軸台2,2を互いに接近移動させながら、両転造ダイス4,4間に軸状素材11を挟み込んで転造加工の準備を行う。次に、両転造ダイス4,4を、主軸3,3を介して同方向へかつ同一速度で回転させる。
【0037】
これによって、軸状素材11の外周面に歯部17を転造加工するわけであるが、軸部本体12の外周面の歯部17の転造加工に続いて、第1テーパ面13と第2テーパ面14の各外周面の歯部17の加工をほぼ同一のタイミングで加工をし始める。つまり、両転造ダイス4,4の加工歯4a、4aは、図7及び図8に示すように、第1テーパ面13と第2テーパ面14の同じ対称位置でかつ第1テーパ面13と第2テーパ面14に対してほぼ同じタイミングで当接して連続して転造加工を始める。ここで、「第1テーパ面13と第2テーパ面14の各外周面の歯部17の加工をほぼ同一のタイミングで加工をし始める」とは、第1テーパ面13と第2テーパ面14の各転造ダイス4,4により加工されたそれぞれの終端縁17b、17cの位置が、最大でも軸状素材11の円周方向の±10°の範囲内にあることでも分かる。
【0038】
このとき、各加工歯4a、4aの押し込み力による第1テーパ面13と第2テーパ面14に作用するベクトルは、図8の矢印で示すよう有向線分となる。すなわち、ベクトルは、各テーパ面13,14に対して各加工歯4a、4aから直接受ける傾斜状の成分aに対して、径方向のX成分と軸方向のY成分となり、第1テーパ面13と第2テーパ面14には、同じタイミングで同じ方向に同一量の力が加わる。このため、両テーパ面13,14に対する力が互いに相殺される。つまり、軸状素材11に対する軸方向の加振力が打ち消し合うように作用させることができる。
【0039】
これによって、軸状素材11の酔歩現象(軸方向の移動)の発生が抑制される。この結果、加工された歯部17の歯面の波打ちや歯筋のうねりなどの発生を抑制できる。
【0040】
各転造ダイス4,4による軸部本体12と各テーパ面13,14の転造加工が終了すると、図9に示すようなウォーム10が成形される。
【0041】
そして、本実施形態では、前述したように、各転造ダイス4,4による各テーパ面13,14の歯部17の加工開始時には、各テーパ面13、14には、同じタイミングで同じ方向に同一量の力が加わることから、両テーパ面13,14に対する力が互いに相殺される。これによって、軸状素材11の酔歩現象(軸方向の移動)の発生が抑制される。この結果、加工された歯部17の歯面の波打ちや歯筋のうねりなどの発生を抑制できるのである。
【0042】
また、本実施形態では、第1、第2テーパ面13,14は、テーパ角度が45°よりも小さい約40°になっている。このため、各転造ダイス4,4の各テーパ面13,14に対する加工歯4a、4aによる加工開始時における軸方向の加振力を小さく抑えることが可能になる。これにより、軸状素材11の酔歩現象をさらに効果的に抑制することができる。
【0043】
さらに、第1テーパ面13と第2テーパ面14の各転造ダイス4,4により加工されたそれぞれ終端縁17b、17cの位置は、最大でも軸状素材11の円周方向の±10°の範囲内にあることから、各テーパ面13,14のそれぞれの加工後の終端縁17b、17cの位相が近くなっている。つまり、両終端縁17b、17cの間の円周方向での距離が短くなっている。この距離が短い方が加工の位置ずれが少なくなるの、軸状素材11の酔歩現象をさらに抑制することができる。
【0044】
特に、本実施形態では、各終端縁17b、17cの位置は、軸状素材11の軸方向で互いにオーバーラップした位置になっていることから、各転造ダイス4,4による各テーパ面13,14での加工位置がほぼ等しくなる。したがって、軸状素材11に対する各転造ダイス4,4の各加工歯4a、4aによる軸方向の加振力を効果的に相殺させることが可能になる。これにより、軸状素材11の酔歩現象をさらに抑制することができる。
【0045】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、転造対象物である被転造物もウォームに限らず、軸方向の端部に一対のテーパ面がある歯車であればいずれのものにも適用可能である。
【0046】
また、歯部として外歯に限定されず、内歯転造、内径ギアホーニングでも適用が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…基台、2…主軸台、3…主軸、4・4…転造ダイス(転造ダイス)、4a・4a…加工歯、10…ウォーム、11…軸状素材、12…軸部本体、13…第1テーパ面、14…第2テーパ面、17…歯部、17a…歯底、P…軸状素材の回転軸線、θ…テーパ角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9