(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188339
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】耐局部腐食性に優れるAl合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/04 20060101AFI20221214BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20221214BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20221214BHJP
C22C 21/12 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C22C1/04 C
B22F3/14 101B
C22C21/00 E
C22C21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096288
(22)【出願日】2021-06-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・刊行物 公益社団法人日本金属学会 2021年春期(第168回)講演大会講演概要集 発行日 2021年(令和3年)3月2日 ・集会名 公益社団法人日本金属学会 2021年春期(第168回)講演大会 開催日 2021年(令和3年)3月16日~19日
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】海老名 航
(72)【発明者】
【氏名】武藤 泉
(72)【発明者】
【氏名】菅原 優
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA15
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018EA21
4K018KA58
4K018KA62
(57)【要約】
【課題】海水、河川水、雨水、水道水、温泉水、工場排水、各種化学薬品、飲料食品、血液、唾液など、主に塩化物イオンを含有することにより局部腐食性を有する水溶液に対して高い耐局部腐食性を有する、耐局部腐食性に優れるAl合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、マトリックスが、純AlあるいはAl合金であり、分散相が、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrのうち1種または2種以上の純金属、あるいは、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrの総計が20質量%以上の合金であり、分散相の体積比率が、0.4%以上30%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、
前記マトリックスが、純AlあるいはAl合金であり、
前記分散相が、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrのうち1種または2種以上の純金属、あるいは、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrの総計が20質量%以上の合金であり、
前記分散相の体積比率が、0.4%以上30%以下であることを
特徴とする耐局部腐食性に優れるAl合金。
【請求項2】
前記マトリックスが、0.1質量%以上8質量%以下のCuを含有するAl合金であることを特徴とする請求項1記載の耐局部腐食性に優れるAl合金。
【請求項3】
前記マトリックスが、0.1質量%以上8質量%以下のCuと3質量%以上8質量%以下のZnとを含有するAl合金であることを特徴とする請求項1または2記載の耐腐食性に優れるAl合金。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法であって、
前記分散相となる純金属あるいは合金から成る金属粉末と、前記マトリックスとなる純AlあるいはAl合金から成るAl粉末とを、均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことを
特徴とする耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法。
【請求項5】
前記金属粉末は、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrの粉末のうち1種または2種以上から成り、
前記Al粉末は、Al合金の粉末から成ることを
特徴とする請求項4記載の耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法。
【請求項6】
前記焼結が放電プラズマ焼結であることを特徴とする請求項4または5記載の耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐局部腐食性に優れるAl合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Alは、MgやZnなどの合金元素を添加することにより、比強度に加え成形性などの向上が可能である。しかし、Alに対する各種元素の合金化は、純Alに比較して、耐食性が低下することが多い。たとえば、2000系や7000系のAl合金は、純AlにCuやZnなどを添加した材料であるが、その耐孔食性は純Alよりも低いことが知られている。
【0003】
一般に、Al合金を腐食環境で使用する場合、化成処理や陽極酸化などの表面処理を施して、耐局部腐食性を向上させることで耐食性を確保している。化成処理とは、金属イオンなどを含む処理液とAl合金との化学的反応により、金属表面に薄い保護皮膜を生成させるものである。処理液には、Cr、Ce、Zrなどの金属元素の塩が含まれているものを用いるのが一般的である。しかし、化成処理は、その工程によるコストの増加を生じることが多い。陽極酸化とは、電解質溶液の中で、Al合金を陽極として電解することで、金属表面に酸化被膜を生成させるものである。この手法も、化成処理と同様に製造コストの増加を生じることが多い。
【0004】
このような製造コストの増加を回避できる防食技術として、腐食性の水溶液にインヒビター(腐食抑制剤)を添加することが行われている。たとえば、Al合金を熱交換器などに用いる場合には、合金と接触する溶液に、Cr、Mn、Mo、Niなど金属元素の塩を添加したものが利用されることが多い。例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金材料の防食用インヒビターとして、水溶液中に溶解したMnまたはNiの塩化物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、金属と接触している水溶液に、防食用インヒビターを添加できない場合も多い。たとえば、建材用金物などは雨水により腐食することが多いが、このような自然環境で生じる水に対しては、防食用インヒビターを添加することは原理的に困難である。
【0005】
ところで、焼結や積層造形といった金属粉末を原料とした手法を用いることで、従来工業的に幅広く利用されてきた「凝固」を経由する工程では作製不可能な相が組み込まれた、複雑な金属組織を有する材料を製造することができる。たとえば、AlもしくはAl合金の母材粉末と遷移金属元素の粉末とを混合し焼結することで、遷移金属元素の粉末と母材粉末との金属間化合物が分散した組織を有するAl焼結合金及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。このように、AlもしくはAl合金のマトリックス中に異なる遷移金属の相を分散させることで、高強度で耐熱性及び耐摩耗性に優れたAl焼結合金が開発されている。また、Mn及びCrの1種類以上を含有するAl合金からなる金属粉末を原料とし、積層工法によって高強度のAl合金積層成形体を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-162047号公報
【特許文献2】特開2010-077475号公報
【特許文献3】特許第6393008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2および3に記載のような従来のAl合金やその製造方法では、焼結や積層造形といった金属粉末を原料とした手法を用いて、主に塩化物イオンを含有することにより局部腐食性を有する水溶液に対して、高い耐局部腐食性を有するAl合金およびその製造方法に関する具体的な条件は見出されていないという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、主に塩化物イオンの存在により局部腐食性を有する水溶液に対して高い耐孔食性を有する、耐局部腐食性に優れるAl合金およびその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、以上のような従来技術の限界を克服し、未解明の課題を解決するため、種々の試験研究を行い、本発明を完成させた。本発明の主旨は、以下の通りである。
【0010】
本発明に係る耐局部腐食性に優れるAl合金は、マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、前記マトリックスが、純AlあるいはAl合金であり、前記分散相が、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrのうち1種または2種以上の純金属、あるいは、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrの総計が20質量%以上の合金であり、前記分散相の体積比率が、0.4%以上30%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る耐局部腐食性に優れるAl合金は、前記マトリックスが、0.1質量%以上8質量%以下のCuを含有するAl合金であってもよく、0.1質量%以上8質量%以下のCuと3質量%以上8質量%以下のZnとを含有するAl合金であってもよい。
【0012】
本発明に係る耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法は、前記分散相となる純金属あるいは合金から成る金属粉末と、前記マトリックスとなる純AlあるいはAl合金から成るAl粉末とを、均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法で、前記金属粉末は、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrの粉末のうち1種または2種以上から成り、前記Al粉末は、Al合金の粉末から成っていてもよい。また、前記焼結が放電プラズマ焼結であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、海水、河川水、雨水、水道水、温泉水、工場排水、各種化学薬品、飲料食品、血液、唾液など、主に塩化物イオンを含有することにより局部腐食性を有する水溶液に対して高い耐局部腐食性を有する、耐局部腐食性に優れるAl合金およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の耐局部腐食性に優れるAl合金は、マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、マトリックスがAlまたはAl合金で、分散相がMn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrのうち1種または2種以上の純金属、あるいはMn、Ce、Cr、Ni、Mo、およびZrの総計が20質量%以上の合金であって、分散相の体積比率が0.4%以上30%以下であることが必要である。
【0016】
本発明の実施の形態の耐局部腐食性に優れるAl合金では、作用機構の詳細は不明であるが、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrは、塩化物イオンが存在する水溶液中で、比較的低い酸化還元電位でアノード溶解が生じ、生成したイオン種など(たとえば、MnO4-、CeOH2+、CrO4
2-、MoO4
2-など)が、塩化物イオンの腐食性を軽減し、AlあるいはAl合金の局部腐食性を軽減する。したがって、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrを、AlあるいはAl合金であるマトリックス中に固溶させる必要はなく、分散相として添加することができる。また、分散相とすることで、Al合金の固溶限を超えて、多量に添加することも可能である。
【0017】
本発明の実施の形態の耐局部腐食性に優れるAl合金で、分散相は、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrの純金属に限定されるものではない。これらのうち2種類以上の合金であってもよい。さらに、分散相には、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zr以外の成分が含まれていてもよい。しかし、分散相からMn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrが電気化学的に溶解する必要があるため、分散相は金属(金属間化合物を含む)である必要がある。炭化物、窒化物、ホウ化物、ケイ化物などでは、腐食環境下でのMn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrのアノード溶解が不十分で、所定の効果を期待できない。分散相がMn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrを主成分とする合金相の場合には、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrの質量%の合計が、合金全体の20質量%以上である必要がある。20質量%未満では、耐食性改善の効果を期待できない。
【0018】
本発明の実施の形態の耐局部腐食性に優れるAl合金で、分散相の体積比率は、0.4%以上30%以下である必要がある。これよりも比率が小さいと、耐食性向上の効果が弱く、これよりも比率が大きいと、分散相を起点として割れ状の表面欠陥が生じるためである。耐孔食性としては、分散相の体積比率が30%を越えることは問題とはならないが、機械特性が低下するため工業材料としては好ましくない。また、分散相の粒径は、材質の均一性確保の観点から、直径を0.5μm以上200μm以下に制御することが望ましい。
【0019】
本発明の実施の形態の耐局部腐食性に優れるAl合金で、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrは、Al合金やAlに対して、特に良好な防食効果を発揮する。このため、マトリックスがAlあるいはAl合金である必要がある。特に、CuやZnを含有する7000系などの高い強度を有するAl合金は耐食性に乏しいが、これらのAl合金に対して、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrによる高い防食効果が期待できるため、マトリックスを、0.1質量%以上8質量%以下のCuを含有するAl合金、あるいは、マトリックスを、0.1質量%以上8質量%以下のCuと3質量%以上8質量%以下のZnとを含有するAl合金とすることが好ましい。
【0020】
以上のような分散相とマトリックスとからなるAl合金を製造する、本発明の実施の形態の耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法としては、純金属あるいは合金の粉末と、マトリックスとなるAlあるいはAl合金の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことが好適である。粉末同士を混合し、圧縮成形と焼結とを行うことで、分散相を均一に分散させた金属材料を、容易に低価格で製造することができる。粉末冶金の手法は、複雑な形状の最終部品を単純な工程で製造できるという利点を有している。
【0021】
さらに、Mn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrの金属粉末のうち1種類または2種類以上と、Al合金の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことで、広く一般に市販されている廉価な粉末原料のみから、高い耐局部腐食性を有するAl合金を製造することができる。Al合金粉末として、AA7075などの大量生産品を使用することで、完成品の価格を大幅に下げることができる。
【0022】
本発明の実施の形態の耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法は、焼結の手法を限定するものではないが、空隙などの内部欠陥や表面欠陥の少ないものを必要とする場合には、放電プラズマ焼結法により焼結することが望ましい。放電プラズマ焼結法とは、パルス通電法、パルス通電加圧焼結法、プラズマ活性化焼結法、通電加熱焼結法などとも呼ばれ、粉体や固体などを黒鉛製焼結型などに充填し、加圧を行いながらパルス通電により加熱を行う方法である。圧縮成形した粉末に直接電流を流して加熱するため、低温でしかも短時間で焼結が完了し、空隙が少ないものとなる。さらに、放電プラズマ焼結によれば、低温・短時間で焼結が完了するため、分散相を狙いの組成に保ったまま、焼結を完了することも容易である。放電プラズマ焼結以外の方法としては、積層造形が考えられる。さらに、半溶融凝固状態のマトリックに対して、分散相をパウダーインジェクションの手法で添加することなども考えられる。
【0023】
ここで、本明細書中の分散相とは、マトリックスとは異なる結晶構造や結晶系を有し、異相界面により囲まれたものに加え、結晶構造や結晶系は同じであるが、組成がマトリックスとは大きく異なる領域も包含するものである。たとえば、面心立方構造を有するAl合金のマトリックス中に、体心立方構造に類似した構造を有するMnが分散相として存在している場合に加え、面心立方構造を有するAl合金のマトリックス中に、面心立方構造のMn濃化領域が存在している場合にも、このMn成分の濃化領域を分散相と定義するものとする。マトリックスと分散相(成分濃化領域)とが同じ結晶構造や結晶系であっても、その部分のMn、Ce、Cr、Ni、Mo、Zrの原子濃度の合計が、マトリックスの濃度に対して、質量%で30%以上の差異がある場合には、その部分を分散相と定義する。したがって、本明細書中での分散相とは、平衡論的な二相分離で現れる第二相などに加え、程度の激しい偏析や焼結における未固溶領域も包含するものである。
【0024】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例0025】
本発明の実施の形態の耐局部腐食性に優れるAl合金の製造方法により試験片を作製し、腐食試験を行った。試験片には、マトリックスとなる純AlあるいはAl合金として、純Alは純度99.9質量%のものを、Al合金は、表1に化学組成を示したAA7075合金の粉末を用いた。マトリックスとなる金属粉末と、分散相となる金属の粉末とを混合し、厚さ約5mm、直径約15mmの焼結体を作製した。粒径は、マトリックスとなる金属の粉末は150μm以下、分散相となる金属の粉末は75μm以下とした。粉末の混合は、Arガス雰囲気のグローブボックス中で行った。粉末を内径15mmの円筒形の黒鉛容器に装填し、Arガス雰囲気中で15MPaの圧力で成形し、その後、放電プラズマ焼結により30MPaの圧力下で焼結体を作製し、試験片とした。放電プラズマ焼結における保持温度は500℃とした。この温度は、焼結体の温度ではなく、粉末を充填した黒鉛容器の温度である。温度は熱電対により計測した。
【0026】
【0027】
各試験片のマトリックスと分散相となる金属の粉末の種類を、表2に示す。また、分散相の組成を、走査型電子顕微鏡に組み込んだエネルギー分散型X線分析装置による面分析により評価した。Si、Fe、Cu、Zn、Mn、Mg、Ni、CrとAlを分析し、それらの相対質量%で整理した。焼結に伴い、マトリックスと分散相との境界にAlを含む金属間化合物が形成されると共に、分散相中心部の金属濃度にも、焼結前の粉末の状態に比較して濃度変化が見られた。マトリックスと分散相との境界に形成される金属間化合物の部分と、分散相中心部までを含むマトリックスとは組成が異なる領域とを対象として、各領域の相対濃度と面積比率とから、分散相中の分散相用金属の濃度(質量%)の平均値を求め、表2に示す。分散相として二種類以上の金属を添加した場合には、それらの合計濃度で評価した。また、分散相の体積比率を、試料表面の光学顕微鏡画像から画像解析ソフトを用いて算出し、表2に示す。
【0028】
【0029】
各試験片に対して、非脱気のNaCl水溶液を用いた乾湿繰り返し腐食試験を行い、そのときの質量減少量により、耐局部腐食性を評価した。使用したNaCl水溶液のpHは、NaOHにより6.0に調整した。乾湿繰り返し腐食試験は、NaCl水溶液への試料の浸漬時間を20分間とし、25℃で行った。この浸漬後、気温が25℃で、相対湿度を50%に維持した環境に、試験片を移動し、60分間乾燥を行った。この浸漬と乾燥との組み合わせを1サイクルとし、20サイクルの腐食試験を行い、質量減少量を測定した。腐食試験の結果を、表2に示す。
【0030】
なお、試験片は、腐食試験に先立ち、表面をSiC研磨紙で粗研磨した後に、ダイヤモンドペーストで鏡面研磨している。表面研磨した試験片表面を、倍率10倍の顕微鏡画像により観察し、割れ状の表面欠陥の有無について判定した結果も、表2に示す。ここでは、5mm四方に、100μmよりも長い割れ状に欠陥が5個以上見られた際には、割れ状の表面欠陥有りと判定した。
【0031】
表2の番号1は、分散相用の粉末金属を添加せずに作製した、単なるAl合金粉末(AA7075)の焼結試料の腐食試験の結果である。番号1~10の腐食試験の結果から、分散相の比率の増加に伴い、質量減少量が小さくなり、Al合金の耐局部腐食性が高まることが分かる。しかし、番号10のように、分散相の体積比率を35%とした場合、耐食性には優れるが、割れ状の表面欠陥が生じることが分かる。このように、過度の分散相の存在は、耐食性には優れるものの、表面欠陥を起点とした破壊が生じる可能性を否定することができず好ましくない。
【0032】
表2の番号1~10は、焼結後に熱処理は行わなかったが、番号11は、焼結後に500℃で30分、番号12は、焼結後に500℃で4時間の熱処理を行った結果である。これらの結果から、分散相中のMn濃度の低下に伴い、耐食性が低下することが分かる。
【0033】
表2の番号13~16は、マトリックスとして純Alを、分散相としてMnを用いた例である。分散相が存在しない場合(番号13)と、分散相の体積比率が0.2%の場合(番号14)とに比較して、分散相の体積比率が大きい番号15および16では、著しく耐食性が向上することが分かる。なお、番号13~16は、焼結後に熱処理は行わなかった。また、番号13~16と番号1~6との比較から、マトリックスとしては、純Alよりも、CuとZnとを含有するAl合金の方が、耐食性の向上の程度が大きいことが分かる。
【0034】
番号17~21は、分散相をCe、Cr、Ni、Mo、Zrとした例である。比較例である番号1との対比から、これらの分散相の存在により、AA7075合金の耐食性が向上することが分かる。番号22~27は、分散相を二種類の金属あるいは合金とした例である。これらも、高い耐食性示している。
本発明に係る耐局部腐食性に優れるAl合金の活用例としては、海水などの塩化物イオン濃度が高い溶媒を扱う化学機器を構成する材料が想定される。また、大面積の材料表面に、溶射などにより焼結された金属層を形成し、耐食性を付与することも可能である。