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特開2022-188346地震動データ処理モデル生成方法、地震動データ処理方法、地震動データ処理モデル生成装置、及び、地震動データ処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188346
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】地震動データ処理モデル生成方法、地震動データ処理方法、地震動データ処理モデル生成装置、及び、地震動データ処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20221214BHJP
   G01H 1/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G01V1/00 D
G01H1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096302
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100119220
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 透
(72)【発明者】
【氏名】小穴 温子
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105GG04
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】専門家の知見を取り込んで地震動時刻歴データに対して適切な処理内容を実施することを可能とする地震動データ処理モデル生成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】地震動データ処理モデル生成方法は、コンピュータを用いて、地震動時刻歴データを処理するための地震動データ処理モデル15を機械学習により生成する。地震動データ処理モデル生成方法は、地震動時刻歴データ11に基づく事例データ12と、専門家が地震動時刻歴データ11に対して実施する処理内容を判定したときの判定結果を含む判定データ13とを関連付けて記憶するデータベース10から、事例データ12及び判定データ13で構成される学習用データ14を複数取得する取得工程と、複数の学習用データ14に基づいて、事例データ12及び判定データ13の相関関係を機械学習により学習することにより、機械学習の学習済みモデルとして地震動データ処理モデル15を生成する生成工程と、を含む。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて、地震動時刻歴データを処理するための地震動データ処理モデルを機械学習により生成する地震動データ処理モデル生成方法であって、
前記地震動時刻歴データに基づく事例データと、専門家が前記地震動時刻歴データに対して実施する処理内容を判定したときの判定結果を含む判定データとを関連付けて記憶するデータベースから、前記事例データ及び前記判定データで構成される学習用データを複数取得する取得工程と、
前記取得工程にて取得された複数の前記学習用データに基づいて、前記事例データ及び前記判定データの相関関係を前記機械学習により学習することにより、前記機械学習の学習済みモデルとして前記地震動データ処理モデルを生成する生成工程と、を含む、
地震動データ処理モデル生成方法。
【請求項2】
前記判定データは、
複数の前記地震動時刻歴データにより地震動データ群を構成する際に、前記地震動データ群から前記地震動時刻歴データを除外するデータ除外処理を実施するか否かを判定したときの判定結果を含む、
請求項1に記載の地震動データ処理モデル生成方法。
【請求項3】
前記判定データは、
前記地震動時刻歴データから所定のノイズを除去するノイズ除去処理を実施するか否かを判定したときの判定結果を含む、
請求項1又は請求項2に記載の地震動データ処理モデル生成方法。
【請求項4】
前記判定データは、
前記ノイズ除去処理として、前記地震動時刻歴データから時刻歴ノイズを除去するときの時刻条件、及び、前記地震動時刻歴データから周波数ノイズを除去するときの周波数条件の少なくとも一方をさらに含む、
請求項3に記載の地震動データ処理モデル生成方法。
【請求項5】
コンピュータを用いて、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の地震動データ処理モデル生成方法により生成された前記地震動データ処理モデルに基づいて前記地震動時刻歴データを処理する地震動データ処理方法であって、
処理対象の前記地震動時刻歴データを受け付ける受付工程と、
前記受付工程にて受け付けられた前記処理対象の前記地震動時刻歴データに基づく前記事例データを前記地震動データ処理モデルに入力することにより当該地震動データ処理モデルから出力される前記判定データに基づいて、前記処理対象の前記地震動時刻歴データに対して実施する前記処理内容を判定する判定工程と、を含む、
地震動データ処理方法。
【請求項6】
コンピュータであって、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の地震動データ処理モデル生成方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える、
地震動データ処理モデル生成装置。
【請求項7】
コンピュータであって、
請求項5に記載の地震動データ処理方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える、
地震動データ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動データ処理モデル生成方法、地震動データ処理方法、地震動データ処理モデル生成装置、及び、地震動データ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本列島及びその周辺は世界屈指の地震多発地帯であり、特に1995年兵庫県南部地震以降、世界でも稀な地震観測網が日本列島全体に展開されている。そして、地震観測網によって地震動波形を観測したときの観測記録が、地震動時刻歴データとして日々蓄積されている。このように観測・蓄積された地震動時刻歴データは、その有用性ゆえ、地震動の特徴分析・解釈はもとより、地震の震源断層破壊性状の解明、地下構造の推定、建築物・構造物の挙動予測・構造設計等、更には地震防災等に至るまで、社会で広く活用されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-215221号公報
【特許文献2】特開2010-144487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地震動時刻歴データは、その活用に先立ち、その活用目的に応じて、対象として不適切なものや支障があるものを除外したり、対象として条件に合致するものを選択したり、地震動時刻歴データに含まれるノイズを除去したりする等の適切な処理が実施されることを必要とする。その際、地震動時刻歴データに対して必要な処理内容を判定する作業は、地震動時刻歴データの扱いに習熟した専門家の判定に委ねられるのが一般的である。
【0005】
しかしながら、近年の地震観測網の充実に伴うデータ量の急増や、専門分野の細分化・高度化と少子化に伴う専門家の減少といった環境変化もあって、地震動時刻歴データに対する判定作業に個々の専門家が直接取り組める時間・労力は限られてきている。また、近年のコンピュータの情報処理能力の向上は、その問題の改善に大きく寄与する可能性を秘めているが、地震動時刻歴データに対して必要な処理内容を判定し、地震動時刻歴データを自動的に処理可能なシステムの構築はまだ実現されていない。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであって、専門家の知見を取り込んで地震動時刻歴データに対して適切な処理内容を実施することを可能とする地震動データ処理モデル生成方法、地震動データ処理方法、地震動データ処理モデル生成装置、及び、地震動データ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明の一実施形態に係る地震動データ処理モデル生成方法は、
コンピュータを用いて、地震動時刻歴データを処理するための地震動データ処理モデルを機械学習により生成する地震動データ処理モデル生成方法であって、
前記地震動時刻歴データに基づく事例データと、専門家が前記地震動時刻歴データに対して実施する処理内容を判定したときの判定結果を含む判定データとを関連付けて記憶するデータベースから、前記事例データ及び前記判定データで構成される学習用データを複数取得する取得工程と、
前記取得工程にて取得された複数の前記学習用データに基づいて、前記事例データ及び前記判定データの相関関係を前記機械学習により学習することにより、前記機械学習の学習済みモデルとして前記地震動データ処理モデルを生成する生成工程と、を含む。
【0008】
また、本発明の一実施形態に係る地震動データ処理モデル生成装置は、
コンピュータであって、上記地震動データ処理モデル生成方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える。
【0009】
また、本発明の一実施形態に係る地震動データ処理方法は、
コンピュータを用いて、上記地震動データ処理モデル生成方法により生成された前記地震動データ処理モデルに基づいて前記地震動時刻歴データを処理する地震動データ処理方法であって、
処理対象の前記地震動時刻歴データを受け付ける受付工程と、
前記受付工程にて受け付けられた前記処理対象の前記地震動時刻歴データに基づく前記事例データを前記地震動データ処理モデルに入力することにより当該地震動データ処理モデルから出力される前記判定データに基づいて、前記処理対象の前記地震動時刻歴データに対して実施する前記処理内容を判定する判定工程と、
を含む。
【0010】
また、本発明の一実施形態に係る地震動データ処理装置は、
コンピュータであって、上記地震動データ処理方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に係る地震動データ処理モデル生成方法、及び、地震動データ処理モデル装置によれば、専門家が地震動時刻歴データに対して実施する処理内容を判定するときの知見を機械学習により地震動データ処理モデルに取り込むことができるので、専門家に代わって、地震動時刻歴データに対して適切な処理内容を判定することが可能な地震動データ処理モデルを生成することができる。
【0012】
また、本発明の一実施形態に係る地震動データ処理方法、及び、地震動データ処理装置によれば、専門家の知見が学習された地震動データ処理モデルを用いることで、処理対象の地震動時刻歴データに対して必要な処理内容が判定されるので、専門家に代わって、処理対象の地震動時刻歴データに対して適切な処理内容を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る地震動時刻歴データ処理システム1の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る地震動時刻歴データ処理システム1の一例を示すブロック図である。
図3】専門家により適切なデータと判定される地震動時刻歴データ11の一例を示す図である。
図4】専門家により不適切なデータと判定される地震動時刻歴データ11の一例を示す図である。
図5】地震動時刻歴データ11に基づいて作成されたフーリエ振幅スペクトルの一例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る地震動データ処理モデル生成装置4及び地震動データ処理モデル生成方法の一例を示す機能説明図である。
図7】データベース10の一例を示すデータ構成図である。
図8】本発明の実施形態に係る地震動データ処理装置5及び地震動データ処理方法の一例を示す機能説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る地震動時刻歴データ処理システム1の一例を示す概略構成図である。図2は、本発明の実施形態に係る地震動時刻歴データ処理システム1の一例を示すブロック図である。
【0016】
地震動時刻歴データ処理システム1は、地震による地震動が複数の観測点にてそれぞれ観測された地震動時刻歴データ11を収集し、その地震動時刻歴データ11を外部に提供する観測データ提供装置2と、地震に関する専門家が使用する専門家端末装置3と、地震動時刻歴データ11を処理するための地震動データ処理モデル15を機械学習により生成する地震動データ処理モデル生成装置4と、地震動データ処理モデル生成装置4により生成された地震動データ処理モデル15に基づいて地震動時刻歴データ11を処理する地震動データ処理装置5と、各装置間を接続するネットワーク6とを備える。ネットワーク6は、無線通信又は有線通信により各種のデータや信号を通信するものであり、任意の通信規格が用いられる。
【0017】
観測データ提供装置2は、地震が発生したときに、複数の観測点に設置された地震計(不図示)にて測定された、例えば、南北方向、東西方向及び上下方向に対する三成分の地震動時刻歴データ11を収集し、その収集した地震動時刻歴データ11を外部に提供する。地震動時刻歴データ11は、例えば、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、「防災科研」という)の強震観測網K-NETにより提供されるデータであって、図1に示す関東地方を例にすると、関東地方の一都六県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬)に設置された観測点138地点(図1参照)にて観測されるデータである。その際、地震動時刻歴データ11は、南北方向と東西方向の水平二成分に代えて、観測点固有の軸線に沿った直交座標系の水平二成分に対して観測されたものでもよい。
【0018】
なお、観測データ提供装置2は、地震が発生したときに、当該地震に関する地震動時刻歴データ11をリアルタイムに地震動データ処理モデル生成装置4又は地震動データ処理装置5に提供してもよいし、地震動データ処理モデル生成装置4又は地震動データ処理装置5からデータの要求を受けたときに、その要求に関する地震動時刻歴データ11(過去に発生した地震のうち所定の条件に合致する複数の地震に関する地震動時刻歴データ11でもよい)を地震動データ処理モデル生成装置4又は地震動データ処理装置5に提供してもよい。
【0019】
専門家端末装置3は、例えば、汎用又は専用のコンピュータで構成される。専門家端末装置3は、専門家が複数の地震動時刻歴データ11からなる地震動データ群に基づいて地震の震源や規模に関する地震動指標を評価する際に使用される。地震動データ群を解析することで、例えば、地震動の振幅特性、周期特性、及び、経時特性等が、地震動指標として評価される。したがって、地震動時刻歴データ11は、地震動の特徴分析・解釈はもとより、地震の震源断層破壊性状の解明、地下構造の推定、建築物・構造物の挙動予測・構造設計等、更には地震防災等に至るまで、社会で幅広く活用することが可能である。
【0020】
地震動時刻歴データ11は、地震動の波形を観測し、データとして記録したものであるが、地震動時刻歴データ11の活用目的によっては、対象として不適切なものや支障があるものも含まれる。そのため、専門家は、不適切なデータを除外したり、データにノイズが含まれている場合には、ノイズを除去したりするような処理を実施する必要がある。そこで、専門家端末装置3は、例えば、解析プログラムやブラウザ等を介して地震動時刻歴データ11を表示可能に構成されるとともに、専門家が、地震動時刻歴データ11に対して実施する処理内容(データ除外処理やノイズ除去処理)を判定したときに、その専門家による判定結果の入力を受け付けて、判定結果を含む判定データ13を生成し、地震動データ処理モデル生成装置4に提供する。
【0021】
なお、図1には、図面の簡略化のため、1つの専門家端末装置3が図示されているが、専門家端末装置3の数は複数でもよい。その場合には、複数の専門家端末装置3の各々が、各専門家による判定結果を含む判定データ13を地震動データ処理モデル生成装置4に提供する。
【0022】
図3は、専門家により適切なデータと判定される地震動時刻歴データ11の一例を示す図である。地震動時刻歴データ11は、所定のサンプリング周期(例えば、0.01秒)にて、南北成分、東西成分及び上下成分のパラメータ(加速度、速度又は変位)を時系列で観測したものである。図3(a)に示すように、地震動の初動に相当するP波部分では、高周波数成分が多く含まれ、地震動の主要動に相当するS波部分では、振幅が大きくなる傾向が高い。また、後続動では、卓越周期や波形性状が多様に変化することが多い。震源から近距離に位置する観測点で観測された地震動時刻歴データ11では、図3(b)に示すように、初動の振幅が、主要動と同等以上の振幅になる場合もある。大規模地震では、図3(c)に示すように、複雑かつ長時間に及び断層破壊過程が地震動の特性に影響を与える。
【0023】
図4は、専門家により不適切なデータと判定される地震動時刻歴データ11の一例を示す図である。図4(a)に示す地震動時刻歴データ11は、波形全体に亘って高周波数ノイズが含まれているため、周波数領域にて周波数ノイズを除去するノイズ除去処理が必要であると判定される。その際、周波数ノイズを周波数フィルタで除去するときの周波数条件が判定されてもよい。図4(b)に示す地震動時刻歴データ11は、後続動収束後に別地震又は別事象が混在しているため、時間領域にて時刻歴ノイズを除去するノイズ除去処理が必要であると判定される。その際、時刻歴ノイズを時刻歴フィルタで除去するときの時刻条件が判定されてもよい。
【0024】
図4(c)に示す地震動時刻歴データ11は、S/N比(信号雑音比)が低く、かつ、時刻歴波形の冒頭部分の記録が欠落しているため、データを除外するデータ除外処理が必要であると判定される。図4(d)に示す地震動時刻歴データ11は、時刻歴波形の冒頭部分及び末尾部分の記録が欠落しているため、データ除外処理が必要であると判定される。図4(e)に示す地震動時刻歴データ11は、時刻歴波形の冒頭部分の記録が欠落し、かつ、後続動収束後に別地震又は別事象が混在しているため、データ除外処理が必要であると判定される。
【0025】
図5は、地震動時刻歴データ11に基づいて作成されたフーリエ振幅スペクトルの一例を示す図である。図5に示すフーリエ振幅スペクトルは、地震動時刻歴データ11をフーリエ変換して得られたフーリエ振幅をスペクトル表示したものであり、横軸の周期(周波数でもよい)と、縦軸の振幅とを対数軸表示したものである。
【0026】
図5(a)に示すフーリエ振幅スペクトルは、ノイズ成分が少なく、専門家により適切なデータと判定される。一方、図5(b)、(c)に示すフーリエ振幅スペクトルは、低周波数ノイズ及び高周波数ノイズがそれぞれ多く含まれているため、周波数領域にて周波数ノイズを除去するノイズ除去処理が必要であると判定される。その際、周波数ノイズを周波数フィルタで除去するときの周波数条件が判定されてもよい。
【0027】
(地震動データ処理モデル生成装置4の構成と各部による工程について)
地震動データ処理モデル生成装置4は、観測データ提供装置2から提供された地震動時刻歴データ11に基づく事例データ12と、専門家端末装置3から提供された判定データ13とを関連付けてデータベース10に登録する。地震動データ処理モデル生成装置4は、そのデータベース10を参照して、例えば、勾配ブースティング木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)等の任意の機械学習アルゴリズムを実行することにより、機械学習の学習済みモデルとして、地震動データ処理モデル15を生成する。地震動データ処理モデル生成装置4は、その地震動データ処理モデル15を外部(本実施形態では、地震動データ処理装置5)に提供する。
【0028】
地震動データ処理モデル生成装置4は、汎用又は専用のコンピュータで構成されており、図2に示すように、HDD、メモリ等により構成される記憶部40と、CPU、GPU等のプロセッサにより構成される制御部41と、ネットワーク6との通信インターフェースである通信部42と、キーボード、マウス等により構成される入力部43と、ディスプレイ、タッチパネル等により構成される表示部44とを備える。
【0029】
記憶部40には、地震動時刻歴データ11に基づく事例データ12及び判定データ13が登録・更新されるデータベース10と、学習済みモデルである地震動データ処理モデル15と、地震動データ処理モデル生成装置4の動作を制御して地震動データ処理モデル生成方法を実現する地震動データ処理モデル生成プログラム400とが記憶されている。なお、データベース10は、記憶部40に代えて、外部記憶装置に記憶されていてもよく、その場合には、地震動データ処理モデル生成装置4は、ネットワーク6を介して当該外部記憶装置と通信し、データベース10にアクセスするようにすればよい。
【0030】
制御部41は、地震動データ処理モデル生成プログラム400を実行することにより、DB管理部410、取得部411、及び、生成部412として機能する。なお、各部の機能の詳細は後述する。
【0031】
図6は、本発明の実施形態に係る地震動データ処理モデル生成装置4及び地震動データ処理モデル生成方法の一例を示す機能説明図である。図7は、データベース10の一例を示すデータ構成図である。
【0032】
(DB管理部410によるデータベース管理工程と、データベース10について)
DB管理部410は、観測データ提供装置2から提供された地震動時刻歴データ11に基づく事例データ12と、専門家端末装置3から提供された判定データ13とを受信し、データベース10に登録する。具体的には、DB管理部410は、地震動時刻歴データ11を所定のデータ形式である事例データ12に変換し、データベース10に登録する。また、DB管理部410は、専門家が地震動時刻歴データ11に対して実施する処理内容を判定したときの判定結果を含む判定データ13を、その地震動時刻歴データ11に基づく事例データ12に関連付けてデータベース10に登録する。なお、DB管理部410は、地震動時刻歴データ11に代えて、事例データ12を受信するようにしてもよい。また、DB管理部410は、専門家端末装置3から判定データ13を受信する際に、その判定データ13に対応する地震動時刻歴データ11(事例データ12でもよい)を合わせて受信するようにしてもよい。
【0033】
データベース10には、図7に示すように、地震動時刻歴データ11に基づく事例データ12と、判定データ13とが関連付けられた状態で、複数組の事例データ12及び判定データ13が記憶されている。
【0034】
事例データ12は、地震動時刻歴データ11に基づくデジタルデータであり、例えば、加速度、速度又は変位を時系列順に並べた時刻毎の数値データでもよいし、ベクタ形式又はラスタ形式の図化データでもよいし、それらの任意の組み合わせでもよい。また、事例データ12は、地震動時刻歴データ11に代えて、フーリエスペクトル(例えば、図5に示すフーリエ振幅スペクトル等)を記録したデータでもよいし、応答スペクトルを記録したデータでもよいし、それらの任意の組み合わせでもよい。
【0035】
判定データ13は、専門家が地震動時刻歴データ11に対して実施する処理内容を判定したときの判定結果を含むデータである。なお、判定データ13は、入力部43を介して編集可能であってもよい。
【0036】
具体的には、判定データ13は、複数の地震動時刻歴データ11により地震動データ群を構成する際に、地震動データ群から地震動時刻歴データ11を除外するデータ除外処理を実施するか否かを判定したときの判定結果、及び、地震動時刻歴データ11から所定のノイズを除去するノイズ除去処理を実施するか否かを判定したときの判定結果の少なくとも一方を示すものである。図7の例では、上記の判定結果は、要及び不要のいずれかに分類される。なお、データ除外処理の判定結果は、例えば、地震動データ群から地震動時刻歴データ11を除外する理由で細分類されていてもよく、例えば、S/N比が低い、頭部部分が欠落している、末尾部分が欠落している、別地震又は別事象が混在している等に分類されていてもよい。
【0037】
さらに、判定データ13は、ノイズ除去処理として、地震動時刻歴データ11から時刻歴ノイズを除去するときの時刻条件、及び、地震動時刻歴データ11から周波数ノイズを除去するときの周波数条件の少なくとも一方を判定したときの判定結果をさらに含むものである。図7の例では、上記の時刻条件は、冒頭部分の境界となる時刻を定める冒頭時刻境界、及び、末尾部分の境界となる時刻を定める末尾時刻境界の少なくとも一方を含む。また、上記の周波数条件は、低い側の境界となる周波数を定める低周波数境界、及び、高い側の境界となる周波数を定める高周波数境界の少なくとも一方を含む。
【0038】
(取得部411による取得工程と、学習用データ14について)
取得部411は、図6に示すように、データベース10から、事例データ12及び判定データ13で構成される学習用データ14を複数取得する。学習用データ14は、教師あり学習における教師データ(トレーニングデータ)、検証データ及びテストデータとして用いられるデータである。また、複数の学習用データ14からなる学習用データ14の集合は、学習用データセットという。
【0039】
(生成部412による生成工程と、地震動データ処理モデル15について)
生成部412は、図6に示すように、取得部411にて取得された複数の学習用データ14に基づいて、事例データ12及び判定データ13の相関関係を機械学習により学習することにより、学習済みモデルとして地震動データ処理モデル15を生成し、記憶部40に記憶する。
【0040】
なお、地震動データ処理モデル15は、複数の学習済みモデルから構成されていてもよい。例えば、生成部412は、事例データ12と、判定データ13のうちのデータ除外処理の判定結果との相関関係を第1の学習済みモデルに学習させるとともに、事例データ12と、判定データ13のうちのノイズ除外処理の判定結果との相関関係を第2の学習済みモデルに学習させるようにしてもよい。また、地震動データ処理モデル15は、地震動時刻歴データ11の活用目的毎にそれぞれ生成されてもよく、その場合には、例えば、データベース10を活用目的毎に用意すればよい。
【0041】
以上のように、本実施形態に係る地震動データ処理モデル生成装置4及び地震動データ処理モデル生成方法によれば、専門家が地震動時刻歴データ11に対して実施する処理内容を判定するときの知見を機械学習により地震動データ処理モデル15に取り込むことができるので、専門家に代わって、地震動時刻歴データ11に対して適切な処理内容を判定することが可能な地震動データ処理モデル15を生成することができる。
【0042】
(地震動データ処理装置5の構成と各部による工程について)
地震動データ処理装置5は、地震動データ処理モデル生成装置4により生成された地震動データ処理モデル15に基づいて処理対象の地震動時刻歴データ11aに対して実施する処理内容を判定し、その処理内容に従って処理対象の地震動時刻歴データ11aを処理することで、処理後の地震動時刻歴データ11bを出力媒体(例えば、記憶媒体、表示媒体、紙媒体等)に出力する。処理対象の地震動時刻歴データ11aに対する処理内容(データ除外処理やノイズ除去処理)は、専門家により判定されることなく、地震動データ処理装置5が専門家の知見を機械学習により学習させた地震動データ処理モデル15を用いることで判定される。
【0043】
地震動データ処理装置5は、地震動データ処理モデル生成装置4と同様に、汎用又は専用のコンピュータで構成されており、図2に示すように、HDD、メモリ等により構成される記憶部50と、CPU、GPU等のプロセッサにより構成される制御部51と、ネットワーク6との通信インターフェースである通信部52と、キーボード、マウス等により構成される入力部53と、ディスプレイ、タッチパネル等により構成される表示部54とを備える。
【0044】
記憶部50には、地震動データ処理モデル生成装置4により学習済みモデルとして生成された地震動データ処理モデル15と、地震動データ処理装置5の動作を制御して地震動データ処理方法を実現する地震動データ処理プログラム500が記憶されている。
【0045】
制御部51は、地震動データ処理プログラム500を実行することにより、受付部510、判定部511、及び、データ処理部512として機能する。なお、各部の機能の詳細は後述する。
【0046】
図8は、本発明の実施形態に係る地震動データ処理装置5及び地震動データ処理方法の一例を示す機能説明図である。
【0047】
(受付部510による受付工程について)
受付部510は、処理対象の地震動時刻歴データ11aを受け付ける。処理対象の地震動時刻歴データ11aは、例えば、観測データ提供装置2から提供されるものであり、専門家により処理内容(データ除外処理やノイズ除去処理)が判定されていることを要しない。なお、受付部510は、処理対象の地震動時刻歴データ11aとして、1つの地震動時刻歴データ11aを受け付けてもよいし、複数の地震動時刻歴データ11aをまとめて受け付けてもよい。また、受付部510は、観測データ提供装置2以外の装置(例えば、専門家端末装置3)から処理対象の地震動時刻歴データ11aを受け付けてもよい。
【0048】
(判定部511による判定工程について)
判定部511は、受付部510にて受け付けられた処理対象の地震動時刻歴データ11aに基づく事例データ12を地震動データ処理モデル15に入力することにより当該地震動データ処理モデル15から出力される判定データ13に基づいて、処理対象の地震動時刻歴データ11aに対して実施する処理内容を判定する。
【0049】
その際、判定部511は、処理対象の地震動時刻歴データ11aを、地震動データ処理モデル15に入力可能な事例データ12の形式に変換し、地震動データ処理モデル15に入力すればよい。また、受付部510が、処理対象として複数の地震動時刻歴データ11を受け付けた場合には、判定部511は、複数の地震動時刻歴データ11の各々を地震動データ処理モデル15に入力することにより当該地震動データ処理モデル15からそれぞれ出力される判定データ13に基づいて、複数の地震動時刻歴データ11の各々に対して処理内容を実施すればよい。
【0050】
なお、地震動データ処理モデル15が、複数の学習済みモデルから構成されている場合には、事例データ12を学習済みモデルの各々に入力すればよい。例えば、判定部511は、事例データ12とデータ除外処理の判定結果との相関関係を学習させた第1の学習済みモデルに事例データ12を入力することにより、処理対象の地震動時刻歴データ11aに対してデータ除外処理を実施するようにすればよい。また、判定部511は、事例データ12とノイズ除去処理の判定結果との相関関係を学習させた第2の学習済みモデルに事例データ12を入力することにより、処理対象の地震動時刻歴データ11aに対してノイズ除去処理を実施するようにすればよい。
【0051】
(データ処理部512による出力処理工程について)
データ処理部512は、判定部511にて判定された処理内容に従って処理対象の地震動時刻歴データ11aを処理することで、処理後の地震動時刻歴データ11bを出力媒体(例えば、記憶媒体、表示媒体、紙媒体等)に出力する。
【0052】
例えば、判定部511により判定された処理内容が、データ除外処理の実施である場合には、データ処理部512は、地震動データ群から処理対象の地震動時刻歴データ11aを除外する。また、判定部511により判定された処理内容が、ノイズ除去処理の実施である場合には、データ処理部512は、処理対象の地震動時刻歴データ11aからノイズを除去する。その際、処理内容にて時刻条件が定められている場合には、データ処理部512は、その時刻条件に基づく時刻歴ノイズを除外し、処理内容にて周波数条件が定められている場合には、データ処理部512は、その周波数条件に基づく周波数ノイズを除外する。
【0053】
そして、出力媒体が、記憶部50のような記憶媒体である場合には、データ処理部512は、処理後の地震動時刻歴データ11bを記憶部50に記憶出力する。出力媒体が、表示部54のような表示媒体である場合には、データ処理部512は、表示媒体に表示するためのデータ(出力データ)を生成し、表示部54に表示出力する。出力媒体が、紙媒体である場合には、データ処理部512は、紙媒体に印刷するためのデータ(出力データ)を生成し、紙媒体に印刷出力する。なお、データ処理部512は、処理後の地震動時刻歴データ11bを、通信部52を介して外部に提供するようにしてもよい。また、データ処理部512は、処理後の地震動時刻歴データ11bを出力することに代えて又は加えて、処理対象の地震動時刻歴データ11aに対する判定データ13を出力するようにしてもよい。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る地震動データ処理装置5及び地震動データ処理方法によれば、専門家の知見が学習された地震動データ処理モデル15を用いることで、処理対象の地震動時刻歴データ11aに対して必要な処理内容が判定されるので、専門家に代わって、処理対象の地震動時刻歴データ11aに対して適切な処理内容を実施することができる。
【0055】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0056】
なお、上記実施形態では、地震動データ処理モデル生成装置4及び地震動データ処理装置5は、別々の装置で構成されるものとして説明したが、1つの装置で構成されていてもよい。また、専門家端末装置3が、地震動データ処理モデル生成装置4及び地震動データ処理装置5の少なくとも一方の装置として構成されていてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、地震動データ処理モデル生成プログラム400及び地震動データ処理プログラム500は、記憶部40、50にそれぞれ記憶されたものとして説明したが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、DVD、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、地震動データ処理モデル生成プログラム400及び地震動データ処理プログラム500は、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…地震動時刻歴データ処理システム、2…観測データ提供装置、3…専門家端末装置、
4…地震動データ処理モデル生成装置、5…地震動データ処理装置、6…ネットワーク、
10…データベース、11、11a、11b…地震動時刻歴データ、12…事例データ、
13…判定データ、14…学習用データ、15…地震動データ処理モデル、
40…記憶部、41…制御部、42…通信部、43…入力部、44…表示部、
50…記憶部、51…制御部、52…通信部、53…入力部、54…表示部、
400…地震動データ処理モデル生成プログラム、
410…DB管理部、411…取得部、412…生成部、
500…地震動データ処理プログラム、
510…受付部、511…判定部、512…データ処理部
図1
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図5
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図7
図8