(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188351
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】コーティング用組成物、架橋ポリマー、ハードコーティングおよびハードコーティングを備える物品
(51)【国際特許分類】
C09D 4/00 20060101AFI20221214BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C09D4/00
C09D4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096317
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100130041
【弁理士】
【氏名又は名称】成岡 郁子
(74)【代理人】
【識別番号】100160956
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 俊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(72)【発明者】
【氏名】林 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】山村 祥史
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038FA111
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好な伸長性と耐擦傷性とを両立する分子設計およびそれらを用いたコーティング組成物を提供する。
【解決手段】式Iで表される重合性モノマーを含む、コーティング用組成物が開示される。
式I中、R
1は、特定の構造単位を含む有機基を表し、R
1には、n個の置換基Xが構造単位を介して結合されており、nは3以上の整数を表し、Xは式IIで表される基である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iで表される重合性モノマーを含む、コーティング用組成物。
【化1】
[式I中、
R
1は、ウレタン結合、ウレア結合、ビューレット結合、アロファネート結合、イミノオキサジアジンジオン環およびイソシアヌレート環からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を含む有機基を表し、
R
1には、n個の置換基Xが前記構造単位を介して結合されており、
nは3以上の整数を表し、
Xは式IIで表される基であり、
【化2】
式II中、
*は式IにおけるR
1との結合点を表し、
R
2は、鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、
Aは、窒素原子を有する脂環構造を表し、
前記脂環構造において、
窒素原子に隣接する各炭素原子は1つまたは2つのアルキルを有していてもよく、
窒素原子に隣接する各炭素原子はアルキレンを介して互いに結合してさらに環構造を構成していてもよく、
R
3は、少なくとも1つの重合性不飽和結合を有する基である。]
【請求項2】
R2が炭素数4~12の鎖状アルキレンである、請求項1に記載のコーティング用組成物。
【請求項3】
前記脂環構造が5~7員の脂環構造である、請求項1または請求項2に記載のコーティング用組成物。
【請求項4】
R1は、ビューレット結合、イミノオキサジアジンジオン環およびイソシアヌレート環からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を含む有機基を表し、
R1には、n個の置換基Xが前記構造単位を介して結合されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティング用組成物。
【請求項5】
R1は、少なくとも1つイソシアヌレート環を含む有機基を表し、
R1には、n個の置換基Xが前記イソシアヌレート環を介して結合されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティング用組成物。
【請求項6】
R1は、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールおよびポリカプロラクトンジオールから選択される少なくとも1つのジオールに由来するジオール由来構造単位をさらに含む有機基を表す、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング用組成物。
【請求項7】
R1は、ポリカプロラクトンジオールに由来するジオール由来構造単位をさらに含む有機基を表す、
請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティング用組成物。
【請求項8】
Xが式IIIで表される基である、請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティング用組成物。
【化3】
[式III中、
*は式IにおけるR
1との結合点を表し、
R
2は、鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、
R
3は、少なくとも1つの重合性不飽和結合を有する基であり、
各R
4は、Hまたはメチルであり、
各R
5は、H、メチルまたは互いに結合して炭素数2のアルキレンを構成する基である。]
【請求項9】
Xが式IVで表される基である、請求項1~8のいずれか一項に記載のコーティング用組成物。
【化4】
[式IV中、
*は式IにおけるR
1との結合点を表し、
R
2は、鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、
R
6は、Hまたはメチルである。]
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の重合性モノマーに由来するモノマー単位を含む架橋ポリマー。
【請求項11】
請求項10に記載の架橋ポリマーを含むハードコーティング。
【請求項12】
請求項11に記載のハードコーティングを備える物品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
Ying, H.らは、ヒンダードウレアボンド(Hindered Urea Bond:HUB)と呼称される尿素結合の1種を報告している(Ying, H., Zhang, Y., & Cheng, J., (2014),“Dynamic urea bond for the design of reversible and self-healing polymers”, Nature communications, 5(1), 1-9)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
高い架橋密度を有するポリマーネットワークに基づく、高耐擦傷性を有する光硬化性ハードコーティングが多く報告されている。しかしながら、それらのほとんどは、架橋点において安定な共有結合を形成しているため、伸長性については好ましくない。伸びる大きさも小さく、伸長時には亀裂や剥がれといった現象が起きてしまう。また、架橋密度を下げると伸長性は向上するが、耐擦傷性は低くなるといったことが報告されている。
【0003】
そのような背景のもと、良好な伸長性と耐擦傷性とを両立する分子設計およびそれらを用いたコーティング組成の開発が求められていた。特に、自動車の加飾では、従来の溶剤を用いたコーティングの代替として、環境に優しいハードコート性を有する熱成型可能な加飾フィルムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、「室温では共有結合を形成するが高温時には結合開裂に平衡が大きく傾く結合」、具体的には「熱可逆性HUB」、をポリマーネットワークの架橋点として導入することにより、良好な伸長性と耐擦傷性と両立するコーティング組成を見出した。当該HUBは鎖状構造を有するイソシアネートと脂環構造を有する二級アミンとによって形成される。
【0005】
式Iで表される重合性モノマーを含むコーティング用組成物が、本明細書において開示される。
【化1】
[式I中、
R
1は、ウレタン結合、ウレア結合、ビューレット結合、アロファネート結合、イミノオキサジアジンジオン環およびイソシアヌレート環からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を含む有機基を表し、
R
1には、n個の置換基Xが前記構造単位を介して結合されており、
nは3以上の整数を表し、
Xは式IIで表される基であり、
【化2】
式II中、
*は式IにおけるR
1との結合点を表し、
R
2は、鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、
Aは、窒素原子を有する脂環構造を表し、
前記脂環構造において、
窒素原子に隣接する各炭素原子は1つまたは2つのアルキルを有していてもよく、
窒素原子に隣接する各炭素原子はアルキレンを介して互いに結合してさらに環構造を構成していてもよく、
R
3は、少なくとも1つの重合性不飽和結合を有する基である。]
【0006】
また、上述のような重合性モノマーに由来するモノマー単位を含む架橋ポリマー、そのような架橋ポリマーを含むハードコーティング、およびそのようなハードコーティングを備える物品も、本明細書において開示される。
【発明の効果】
【0007】
特定のHUB結合を有する多官能性モノマーを用いた高架橋密度を有するコーティングは、高温時にはHUB結合の平衡が開裂に大きく傾くことで、高温時において高い熱伸長性を示す。一方で、室温では平衡がHUB結合形成に大きく傾く結果、高い架橋密度を形成し高い耐擦傷性を示す。これにより従来困難であった、良好な耐擦傷性と伸長性とを両立できる。良好な耐擦傷性と伸長性との両立が可能となることで、例えば、高熱伸長性ハードコーティングとして自動車用加飾フィルム等への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例のID:2のHUBモノマーの合成における原料と生成物とのIRスペクトルを示す図である。
【
図2】実施例のID:4のHUBモノマーの合成における原料と生成物とのIRスペクトルを示す図である。
【
図3】実施例のID:14のHUBモノマーの合成における原料と生成物とのIRスペクトルを示す図である。
【
図4】実施例のTOM成形試験後のHUBフィルムにおけるNCO由来のピークの減衰の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明において、本発明を実施できる具体的な実施形態を例示する。この例示された実施形態は、本発明に係る全ての実施形態を網羅することを意図していない。他の実施形態を利用することもでき、また、本発明の範囲から逸脱することなく構造的又は論理的な変更がなされ得ることを理解されたい。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0010】
本実施形態のコーティング用組成物は、特定のHUBを備える重合性モノマーを含む。当該重合性モノマーは以下の式Iで表される。
【化3】
[式I中、R
1は、ウレタン結合、ウレア結合、ビューレット結合、アロファネート結合、イミノオキサジアジンジオン環およびイソシアヌレート環からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を含む有機基を表し、R
1には、n個の置換基Xが前記構造単位を介して結合されており、nは3以上の整数を表す。]
【0011】
上記式Iにおける置換基Xは以下の式IIで表される。
【化4】
[式II中、*は式IにおけるR
1との結合点を表し、R
2は、鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、Aは、窒素原子を有する脂環構造を表し、前記脂環構造において、窒素原子に隣接する各炭素原子は1つまたは2つのアルキルを有していてもよく、窒素原子に隣接する各炭素原子はアルキレンを介して互いに結合してさらに環構造を構成していてもよく、R
3は、少なくとも1つの重合性不飽和結合を有する基である。]
【0012】
式IのR
1は、ポリアルコールとポリイソシアネートとの反応により形成されたウレタン結合やポリアミンとポリイソシアネートとの反応により形成されたウレア結合を含む有機基でありうる。ポリアルコールとしては3以上のヒドロキシ基を有するものであってもよい。ポリアミンとしては3以上のアミノ基を有するものであってもよい。ポリイソシアネートとしては、2以上のイソシアネート基を有するものであってもよい。R
1としては、例えば、以下の一般式で表されるトリオールとイソシアネートの反応に由来する構造単位を含む有機基が挙げられる。
【化5】
[一般式中、*は置換基Xとの結合点を表す。]
【0013】
R
1は、ビューレット結合、アロファネート結合、イミノオキサジアジンジオン環およびイソシアヌレート環からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を含む有機基でありうる。式IのR
1は、Golling, Florian E., et al. “Polyurethanes for coatings and adhesives‐chemistry and applications.” Polymer International 68.5 (2019):848-855に開示されるジイソシアネートの反応に由来する構造単位を含む有機基でありうる。当該構造単位は、3以上のイソシアネート基を有する構造単位であってもよく、例えば、以下の一般式で表されるビューレット結合、イミノオキサジアジンジオン環およびイソシアヌレート環からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位でありうる。R
1には、n個の置換基Xが以下の一般式で表されるビューレット結合、イミノオキサジアジンジオン環およびイソシアヌレート環からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を介して結合されてもよい。ジイソシアネートの反応により形成されるビューレット結合、イミノオキサジアジンジオン環およびイソシアヌレート環からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位は、単量体のものに限らず、例えば当該構造単位の二量体、三量体などに含まれるものでありうる。二量体、三量体においては3より大きい数の置換基XがR
1に結合されうる。
【化6】
[一般式中、*は置換基Xとの結合点を表す。]
【0014】
式IのR1は、少なくとも1つイソシアヌレート環を含む有機基でありうる。R1には、n個の置換基Xが前記イソシアヌレート環を介して結合されてもよい。ジイソシアネートの反応により形成されるイソシアヌレート環は単量体のものに限らず、例えばイソシアヌレートの二量体、三量体などに含まれるものでありうる。二量体、三量体においては3より大きい数の置換基XがR1に結合されうる。
【0015】
式IのR
1は、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールおよびポリカプロラクトンジオールから選択される少なくとも1つのジオールに由来するジオール由来構造単位をさらに含む有機基でありうる。当該ジオール由来構造単位は、置換基Xが結合された構造単位の間にソフトセグメント成分として存在しうる。
式IのR
1は、ポリカプロラクトンジオールに由来するジオール由来構造単位をさらに含む有機基でありうる。例えば、置換基Xが結合されたイソシアヌレート環の間にポリカプロラクトンジオールに由来するジオール由来構造単位がソフトセグメント成分として存在する有機基としては以下の一般式で表されるものが挙げられる。
【化7】
[一般式中、*は置換基Xとの結合点を表し、n
1およびn
2は互いに同一でも異なってもよい正数を表し、R
2は鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、Zはジオール等のポリカプロラクトンジオール形成の開始剤に由来する基である。]
【0016】
式IIのR2または前段落の一般式のR2は、炭素数1~22の鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンでありうる。また、当該R2は、炭素数2~18の鎖状アルキレンでありうる。また、当該R2は、炭素数4~12の鎖状アルキレンでありうる。炭素数4~12の鎖状アルキレンとしては、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン、ウンデカメチレン、ドデカメチレンが挙げられる。R2が炭素数4~12の鎖状アルキレンであると、耐擦傷性と熱伸長性とを向上できる。また、当該R2は、炭素数5または6の鎖状アルキレンでありうる。
【0017】
式IIのAは、窒素原子を有する5~7員の脂環構造でありうる。窒素原子を有する5~7員の脂環構造としては、例えば、ピロリジン構造、ピペリジン構造、又はヘキサメチレンイミン構造が挙げられる。Aは、窒素原子を有する6員の脂環構造でありうる。
式IIの脂環構造の窒素原子に隣接する各炭素原子が有する1つまたは2つのアルキルは、炭素数1~20のアルキルでありうる。また、当該アルキルは炭素数1~10のアルキルでありうる。また、当該アルキルは炭素数1~5のアルキルでありうる。当該アルキルとしては、メチル、エチル、プロピルが好ましく、メチルが更に好ましい。
式IIの脂環構造の窒素原子に隣接する各炭素原子はアルキレンを介して互いに結合してさらに環構造を構成していてもよい。当該アルキレンとしては、炭素数1~5のアルレンでありうる。また、当該アルキレンは、メチレン、エチレン(炭素数2のアルキレン)、プロピレンが好ましく、エチレンが更に好ましい。
【0018】
式IIのR3は、少なくとも1つの重合性不飽和結合を有し、式IIのAの任意の箇所に結合する基である。R3は、ビニル、(メタ)アクリレートなどのエチレン性不飽和構造単位を含む炭素数2~10の基でありうる。R3は、(メタ)アクリレート基であると好ましい。
【0019】
式IのXが以下の式IIIで表される基でありうる。式IIIにおけるR
2およびR
3には、式IIにおいて説明した態様が適用されうる。
【化8】
[式III中、
*は式IにおけるR
1との結合点を表し、
R
2は、鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、
R
3は、少なくとも1つの重合性不飽和結合を有する基であり、
各R
4は、Hまたはメチルであり、
各R
5は、H、メチルまたは互いに結合して炭素数2のアルキレンを構成する基である。]
【0020】
式IのXが以下の式IVで表される基でありうる。式IVにおけるR
2には、式IIにおいて説明した態様が適用されうる。
【化9】
[式IV中、
*は式IにおけるR
1との結合点を表し、
R
2は、鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、
R
6は、Hまたはメチルである。]
【0021】
式IのXが以下の式Vで表される基でありうる。式VにおけるR
2には、式IIにおいて説明した態様が適用されうる。
【化10】
[式V中、
*は式IにおけるR
1との結合点を表し、
R
2は、鎖状アルキレンおよび置換鎖状アルキレンから選択され、
R
6は、Hまたはメチルである。]
【0022】
式Iで表される重合性モノマーは、多官能イソシアネート原料と二級アミン原料とを溶媒中で混合することで調製できる。
多官能イソシアネート原料としては、住化コベストロウレタン株式会社より入手可能なHDI(1,6‐ヘキサメチレンジイソシアネート)トリマー(商品名:Desmodur N3300、Desmodur N3800等)、三井化学株式会社より入手可能なPDI(1,6‐ペンタメチレンジイソシアネート)トリマー(商品名:TAKENATE D-370N、TAKENATE D-376N、TAKENATE D-3725N等)が例示される。NMR分析に基づいて、「Desmodur N3800」は、以下の化学構造:
【化11】
[一般式中、*はHDI残基との結合点を表し、n
1およびn
2は互いに同一でも異なってもよい正数を表し、Zはジオール等のポリカプロラクトン形成の開始剤に由来する基である。]
を有する分子を含むと考えられる。
【0023】
多官能イソシアネート原料としては、置換または無置換の鎖状アルキレンジイソシアネート同士の反応物、鎖状アルキレンジイソシアネートと3以上のヒドロキシ基を有するポリオールとの反応物またはその混合物が挙げられる。鎖状アルキレンジイソシアネート同士の反応物としては、ビューレット、イミノオキサジアジンジオン、イソシアヌレートなどが挙げられる。鎖状アルキレンジイソシアネートとしては、1,4‐ジイソシアナートブタン、1,6‐ヘキサメチレンジイソシアネート、1,8‐ジイソシアネートオクタン、1,12‐ジイソシアネートドデカンなどが挙げられる。3以上のヒドロキシ基を有するポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。多官能イソシアネート原料は、イソシアヌレート等の単量体に限らず、二量体、三量体などを含むジイソシアネート同士の反応物の混合物でありうる。
【0024】
多官能イソシアネート原料としては、固形分あたりのNCO%が5~30%のものを用いてもよい。多官能イソシアネート原料の固形分あたりのNCO%の下限は、7%、9%、10%でもよく、多官能イソシアネート原料の固形分あたりのNCO%の上限は、25%、23%、21%、15%でもよい。
【0025】
二級アミン原料としては、以下の一般式で表される化合物が挙げられる。以下の一般式におけるAおよびR
3には、式IIにおいて説明した態様が適用されうる。
【化12】
【0026】
二級アミン原料としては、昭和電工マテリアルズ株式会社(旧日立化成株式会社)より入手可能な2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート(商品名:FANCRYL FA-712HM)が挙げられる。FANCRYL FA-712HMは、脂環構造とメチル基とによる立体障害が存在する、二級アミン原料である。この例の他、脂環構造を有し、脂環構造に少なくとも1つの重合性不飽和結合を有する基が結合している二級アミン原料を用いることで、脂環構造に由来する立体障害により、室温では共有結合を形成するが高温時には結合開裂に平衡が大きく傾く熱可逆性HUBを形成できる。また、脂環構造に加えて窒素原子に隣接する各炭素原子に立体障害を生じさせる置換基が存在する場合には、高温時に結合開裂に平衡がより大きく傾く熱可逆性HUBを形成できる。
【0027】
溶媒は、単一の有機溶媒または溶媒のブレンドを用いることができる。溶媒は、用いられる多官能イソシアネート原料と二級アミン原料とに応じて適宜選択される。好適な溶媒としては、アルコール(例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、2-メトキシプロパノール又はエタノール等)、ケトン(例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)等)、シクロヘキサノン又はアセトン、芳香族炭化水素(例えば、トルエン等)、イソホロン、ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、エステル(例えば、ラクテート、ブチルアセテート等のアセテート、例えば、3Mから商標名「3M Scotchcal Thinner CGS10」(「CGS10」)」として市販されているようなプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3Mから商標名「3M Scotchcal Thinner CGS50」(「CGS50」)」として市販されているような2-ブトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(DEアセテート)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート(EBアセテート)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DPMA)、イソ-アルキルエステル(例えば、イソヘキシルアセテート、イソヘプチルアセテート、イソオクチルアセテート、イソノニルアセテート、イソデシルアセテート、イソドデシルアセテート、イソトリデシルアセテート、又は他のイソ-アルキルエステル)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
多官能イソシアネート原料と二級アミン原料とは、イソシアネート基に対して1当量~1.5当量のアミノ基が存在するように、混合されてもよい。多官能イソシアネート原料と二級アミン原料とは、イソシアネート基に対して1当量のアミノ基が存在するように、混合されると好ましい。多官能イソシアネート原料と二級アミン原料とが混合されると、HUBが形成され式Iで表される重合性モノマーが合成されると考えられる。ただし、HUBが形成される反応は基本的に平衡反応であり、温度等の条件によりHUBが開裂しうる。
【0029】
式Iで表される重合性モノマーの濃度は、典型的に、全コーティング用組成物中、10、15、又は20重量%以上でありえ、100、90、80、70、60、50、又は40重量%以下でありうる。式Iで表される重合性モノマーを含むコーティング用組成物は、任意で、様々な添加剤を含んでもよい。例えば、硬化促進剤(重合開始剤)、架橋剤、スリップ剤、防汚剤、光安定剤、着色剤、溶媒などを含むことができる。
【0030】
硬化を促進するために、コーティング用組成物は、少なくとも1種のフリーラジカル熱開始剤及び/又は光開始剤を更に含んでよい。このような開始剤が存在する場合、これらは、コーティング用組成物の総重量に基づいて、典型的には、コーティング用組成物の約10重量%未満、より典型的には、約5重量%未満含まれる。フリーラジカル硬化技術は、当該技術分野において周知な方法(例えば、熱硬化法、及び電子ビーム又は紫外線等の放射線硬化法)を適宜採用できる。有用なフリーラジカル光開始剤としては、例えば、国際公開第2006/102383号に記載されているようなアクリレートポリマーのUV硬化において有用であることが知られているものが挙げられる。
【0031】
コーティング用組成物は、架橋剤として、式Iで表される重合性モノマー以外の(メタ)アクリレートモノマーを含んでもよい。例えば、架橋性シリコーン(メタ)アクリレート添加剤又は架橋性フッ素化(メタ)アクリレート添加剤を添加してもよい。架橋性シリコーン添加剤又は架橋性フッ素化添加剤を添加することで、ハードコートの表面エネルギーを低下させることができる。架橋剤の濃度は、典型的に、全コーティング用組成物中、0.1重量%以上でありえ、2重量%以下でありうる。
【0032】
参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009/029438号に記載されているように、特定のシリコーン添加剤も、低いリント吸引力(lint attraction)と合わせて撥インク性を提供することが見出されている。このようなシリコーン(メタ)アクリレート添加剤は、一般に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)主鎖、及び(メタ)アクリレート基で終端する少なくとも1つのアルコキシ側鎖を含む。アルコキシ側鎖は、任意で、少なくとも1つのヒドロキシル置換基を含んでもよい。このようなシリコーン(メタ)アクリレート添加剤は、様々な供給元から市販されており、例えば、Tego Chemieから商標名TEGO Rad、「TEGO Rad 2250」、「TEGO Rad 2300」、「TEGO Rad 2500」、及び「TEGO Rad 2700」として市販されている。NMR分析に基づいて考えられる、「TEGO Rad 2100」及び「TEGO Rad 2500」の化学構造が、国際公開第2015/108834号に記載されている。架橋性シリコーン(メタ)アクリレート添加剤の濃度は、典型的に、全コーティング用組成物中、0.1重量%以上でありえ、2重量%以下でありうる。
【0033】
例示的な架橋性フッ素化(メタ)アクリレート添加剤は、信越化学工業株式会社からKY-1200シリーズとして入手可能なもの(商品名「KY1203」等)が挙げられる。KY-1200シリーズは防汚剤としても作用する。架橋性フッ素化(メタ)アクリレート添加剤の濃度は、典型的に、全コーティング用組成物中、0.1重量%以上でありえ、2重量%以下でありうる。
【0034】
コーティング用組成物は、例えば、米国特許第7,178,264号に記載されている、少なくとも0.005、好ましくは少なくとも0.01重量%の1つ以上のペルフルオロポリエーテルウレタン添加剤を更に含みうる。ペルフルオロポリエーテルウレタン添加剤の合計量は、単独で又は他のフッ素化添加剤と組み合わせて、典型的に、最大0.5又は1重量%でありうる。
【0035】
ペルフルオロポリエーテルウレタン材料は、好ましくは、イソシアネート反応性HFPO-材料から調製される。特に指定しない限り、「HFPO-」とは、メチルエステルF(CF(CF3)CF2O)aCF(CF3)C(O)OCH3(式中、「a」は、平均2~15である)の末端基F(CF(CF3)CF2O)aCF(CF3)-を指す。幾つかの実施形態では、aは、平均3~10であるか、平均5~8である。このような種は、一般に、aについてある範囲の値を有するオリゴマーの分散物又は混合物として存在し、その結果、aの平均値は非整数となることがある。例えば、1つの実施形態では、「a」は、平均6.2である。HFPO-ペルフルオロポリエーテル材料の分子量は、繰り返し単位の数(「a」)に依存して、約940g/モル~約1600g/モルで変動し、典型的には約1100g/モル~約1400g/モルが好ましい。
【0036】
例示的な光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などを含むことができる。なお、本開示における添加剤としてのHALSは、上述の重合性モノマーの二級アミン原料とは異なるものとして定義される。例えばFANCRYL FA-712HMは光重合性HALSとしても用いられる場合があるが、本開示において添加剤としてのHALSは、上述の重合性モノマーの二級アミン原料とは異なるものとして定義される。HALSは、ほとんどのポリマーの光誘導性の劣化に対して効果的な安定剤である。HALSは一般には紫外線は吸収しないが、ポリマーの劣化を抑制するように作用する。HALSとしては、典型的には、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジンアミン及び2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールなどのテトラアルキルピペリジンが挙げられる。他の好適なHALSとしては、CibaからTINUVIN123、144及び292として入手可能な化合物が挙げられる。光安定剤の濃度は、典型的に、全コーティング用組成物中、0.1重量%以上でありえ、5重量%以下でありうる。
【0037】
コーティング用組成物は、式Iで表される重合性モノマーを、任意に種々の添加剤と共に相溶性有機溶媒に溶解させて、調製することができ、単一の有機溶媒または溶媒のブレンドを用いることができる。コーティング用組成物を調製する際の重合性モノマーは、溶媒を含む溶液の状態で提供されてもよい。溶媒は用いられる重合性モノマーに応じて適宜選択される。好適な溶媒としては、アルコール(例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、2-メトキシプロパノール又はエタノール等)、ケトン(例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)等)、シクロヘキサノン又はアセトン、芳香族炭化水素(例えば、トルエン等)、イソホロン、ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、エステル(例えば、ラクテート、ブチルアセテート等のアセテート、例えば、3Mから商標名「3M Scotchcal Thinner CGS10」(「CGS10」)」として市販されているようなプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3Mから商標名「3M Scotchcal Thinner CGS50」(「CGS50」)」として市販されているような2-ブトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(DEアセテート)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート(EBアセテート)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DPMA)、イソ-アルキルエステル(例えば、イソヘキシルアセテート、イソヘプチルアセテート、イソオクチルアセテート、イソノニルアセテート、イソデシルアセテート、イソドデシルアセテート、イソトリデシルアセテート、又は他のイソ-アルキルエステル)、これらの組み合わせ等が挙げられる。コーティング用組成物は、溶液として提供されてもよく、溶媒を除去して無溶媒の固体として提供されてもよい。コーティング用組成物の固形分は10~100重量%であってもよい。
【0038】
コーティング用組成物は、従来のフィルム適用技術を使用して基材に適用することができる。ディップコーティング、正転及び逆転ロールコーティング、巻線ロッドコーティング、並びにダイコーティング等を含む様々な技術を用いて、薄いフィルムを形成することができる。ダイコーターとしては、例えば、ナイフコーター、スロットコーター、スライドコーター、流体ベアリングコーター、スライドカーテンコーター、ドロップダイカーテンコーター、及び押出コーターが挙げられる。多くの種類のダイコーターが、文献に記載されている。通常、基材は連続ウェブのロールの形状であるのが好都合であるが、個々のシートにコーティング用組成物を塗布してもよい。
【0039】
基材に適用されたコーティング用組成物は、オーブン内で乾燥させて溶媒を除去し、次いで、例えば、所定の温度で熱処理をして硬化されてもよい。また、基材に適用されたコーティング用組成物は、オーブン内で乾燥させて溶媒を除去し、次いで、例えば、H電球又は所望の波長の他のランプを用いて、好ましくは不活性雰囲気(酸素50ppm未満)下で紫外線に曝露することによって硬化されてもよい。この反応機序によって、式Iで表される重合性モノマーを架橋して、上記重合性モノマーに由来するモノマー単位を含む架橋ポリマーが形成され、当該架橋ポリマーを含むハードコーティングを形成する。
【0040】
ハードコーティングは、ヘッド面積2.7×2.7cm2の#0000スチールウールを使用して、負荷350グラム、速度60サイクル/分、およびストローク長さ85mmの条件で、10サイクルのスチールウール摩耗試験を行う前後でのヘイズの変化量Δhazeが20.00以下であると好ましい。また、Δhazeが10.00以下であるとより好ましく、7.00以下であると更に好ましく、5.00以下であると特に好ましい。
【0041】
ハードコーティングは、80~160℃、好ましくは120℃の温度で引き伸ばした際に、破断や剥離の発生なく伸長できると好ましく、元のハードコーティングの長さに対して300%以上伸長できるとさらに好ましい。熱伸長性が良好であるハードコーティングは、真空熱成形に好適に適用できる。真空熱成形としては公知の種々の方法を採用しうる。好適には、3次元表面加飾成形(Three dimension Overlay Method:TOM)により、車両用部品などの対象物に適用して加飾コーティングとすることができる。また、真空熱成形によりハードコーティングにエンボス加工を施すこともでき、レリーフを施すこともできる。冷却後のハードコーティングは形状が記憶されうる。
【0042】
ハードコーティングは、良好な耐薬品性も備えることが好ましい。具体的には、IPA等の溶剤に対して溶解しないことが好ましい。また、酸や塩基に対して良好な耐性を示すことが好ましい。また、ハードコーティングは、熱真空成形後においても良好な耐擦傷性が維持されることが好ましい。熱真空成型後の耐擦傷性の評価は、以下の手順に従うナノスクラッチ試験によって行われてもよい。まず、試験前にハードコーティングの試験片の光沢(グロス)を測定しておく。次いで、JIS Z8901 3級ダストと水を重量比1:3に混合したものを試験片に薄く塗って一日置いて乾燥させる。その後、自動洗車機の直径500mmの洗車ブラシで100rpmの速度で1分間こすってから水洗いして水分を拭きとった後にグロスを測定して光沢保持率を計算する。ナノスクラッチ試験の前後の20°での光沢保持率は90%以上であると好ましい。
【0043】
実施形態のハードコーティングは、鎖状構造を有するイソシアネートと脂環構造を有する二級アミンとに由来するHUBを有することにより、従来困難であった良好な熱伸長性と耐擦傷性とを両立できる。さらに熱成形後も良好な耐擦傷性を維持しうる。例えば、実施形態のハードコーティングを備える車両用部品などの物品が、ハードコーティングの熱真空成形により得られうる。
【実施例0044】
本開示の目的及び利点を以下の実施例で更に例示する。これらの実施例において列挙される特定の材料及び量、並びにその他の条件及び詳細は、本開示を過度に制限しないように使用されるべきである。表1は実施例に使用した原料の表記とその説明とを示す。
【0045】
【0046】
[HUBモノマーの合成]
下記表2に示すイソシアネートおよびアミン(メタ)アクリレートを使用して、各IDのHUBモノマーを合成した。具体的には、まず、ガラス容器にイソシアネートおよび溶媒を入れ混合した。次いで、アミノ(メタ)アクリレートを加えた。反応はIR測定(Thermo SCIENTIFIC、NICOLET iS10を使用)により観察し、平衡状態に到達するまで確認した。HUBモノマー溶液は、イソシアネートおよびアミン(メタ)アクリレートの化学量論的(stoichiometric)混合物として調製された。当該反応は基本的に平衡反応である。典型的には、ID:2のHUBモノマー溶液の調製には、30.0gのDesmodur N3800、17.70gのFANCRYL FA-712HM、および20.4gのBuAcを使用した。
【0047】
【0048】
図1~
図3に、ID:2,4,14において用いたイソシアネートと、ID:2,4,14において合成されたHUBモノマーと、のIRスペクトルをそれぞれ示す。HUBモノマーの出発原料ではイソシアネート基に由来するピーク(2270cm
-1付近)が大きく表れたが、合成されたHUBモノマーではイソシアネート基に由来するピークは非常に小さくなり、ウレア結合に由来するピーク(1650cm
-1付近)が表れ、ウレア結合の形成が確認された。
【0049】
[コーティング用組成物の調製]
HUBモノマーのBuAc溶液に、表3に示す量でIrgacure 184、TEGO Rad 2250、KY1203、Tinuvin 123を添加して、コーティング用組成物C1~C18をそれぞれ調製した。なお、表3における「部」は「重量部」を意味し、コーティング用組成物の全重量部を100とした場合の値である。固形分重量%を30重量%に調整するために、MP-OHを溶媒として加えた。混合物を褐色バイアル中でスピードミキサーによって混合して、均質化された溶液を得た。後述するコーティングを施す工程の前に、1μmのグラスファイバーフィルターによって均質化された溶液を濾過した。
【0050】
【0051】
[塗布およびUV硬化]
調製したコーティング用組成物C1~C18を、バーコーター(Meyer rod ♯30)を用いてS014G(住化アクリル販売株式会社、PMMA)上に塗布し、60℃のオーブンで2分間乾燥した。次いで、窒素雰囲気下でHバルブを用いて乾燥した表層を硬化して、各組成物に対応するハードコーティングH1~H18を作成した。
【0052】
[ハードコーティングの分析および特性評価]
(耐擦傷性試験)
調製したハードコーティングH1~H18の耐擦傷性試験を実施した。耐擦傷性は、ヘッド面積2.7×2.7cm2の#0000スチールウールを使用して、負荷350グラム、速度60サイクル/分、およびストローク長さ85mmの条件で、10サイクルのスチールウール摩耗試験後の表面変化によって評価した。試験には、摩耗試験機(株式会社井元製作所、商品名「IMC-157C」)を用いた。スチールウール摩耗性試験が完了した後、ヘイズメーター(BYK‐Gardner、商品名「Haze‐Gard Plus」)を使用してハードコーティングのヘイズを測定し、摩耗試験前後でのヘイズの変化量Δhazeを評価した。評価結果を表4に示す。Δhazeが20.00以下のハードコーティングは耐擦傷性が良好である。
【0053】
(熱伸長試験)
調製したハードコーティングH1~H18の熱延性試験を実施した。ハードコーティングから5~10cm離れた位置からヒートガン(石崎電機製作所、商品名「プラジェット PJ-206A1」)を用いてハードコーティングに温風をあて、100℃まで加熱した。そして、ヒートガンから温風をあてた状態でハードコーティングを引き伸ばした。元のハードコーティングの長さに対して、破断や剥離の発生なく300%以上の伸長が確認されたものをA、伸長を確認できたが300%未満の伸長で破断や剥離が発生したものをB、ほとんど伸長しなかったものをCとした。評価結果を表4に示す。
【0054】
(耐薬品性試験)
調製したハードコーティングH1~H18の耐薬品性試験を実施した。耐薬品性は、ハードコーティングに油性マーカーでインクをつけ、IPAを含ませたコットンでインクをふき取ることによって評価した。IPAを含ませたコットンでのふき取りにより、ハードコーティング面上のインクの濃さを大きく減少もしくは消失でき、且つハードコーティング面が溶解せず白濁が生じなかったものをO、IPAを含ませたコットンでのふき取りにより、ハードコーティング面が溶解して白濁したものをXとした。評価結果を表4に示す。
【0055】
【0056】
コーティング用組成物C4,C6~C9,C13~C16,C18から形成したハードコーティングH4,H6~H9,H13~16,H18では、良好な耐擦傷性、および良好な熱伸長性が確認された。特にハードコーティングH7では、Δhazeが0.77であり、特に良好な耐擦傷性が確認された。
【0057】
[3次元表面加飾成形(Three dimension Overlay Method:TOM)試験]
3次元表面加飾成形(TOM)試験を、コーティング用組成物C7を用いて調製したハードコーティング(HUBフィルム)H7に対して実施した。試験は、布施真空株式会社製の装置を用いて実施した。組成物を硬化したその日にTOM試験を実施した即日試験サンプルH7-Aと、組成物を硬化して一週間経過した後にTOM試験を実施した経過試験サンプルH7-Bと、においてそれぞれ2種類の温度条件(H7-A:155℃、142℃;H7-B:142℃、120℃)でTOM試験を実施した。いずれのサンプルにおいてもクラックの発生なしに熱成形することができ、TOMプロセスに有望な材料であることが示された。
【0058】
(TOM試験後のHUB結合の評価)
熱成形に成功したHUBフィルムをATRサンプラーに取り付けて、ATR-IR測定装置(Thermo SCIENTIFIC、NICOLET iS10)で、HUB結合を評価した。TOM試験後のHUBフィルムでは、解離したNCO由来のピークが2270cm
-1にはっきりと観察された。TOM試験後の残留NCO含有量はTOM試験温度(155、142または120℃)に依存していた。また、NCO由来のピークの減衰を3週間にわたってモニターした。結果を
図4に示す。H7-AおよびH7-Bのいずれの場合も、NCO含有量は最初の週に減少した。このことは、熱により開裂したHUBのイソシアネートが、アミノメタクリレート(FANCRYL FA-712HM)由来のアミンと再架橋していることを意味する。
【0059】
(TOM試験後の耐擦傷性試験)
TOM試験から1週間経過したH7-A:142℃およびH7-B:120℃のHUBフィルムのナノスクラッチ試験を実施した。まず、試験前にハードコーティングの試験片の光沢(グロス)を測定した。そして、JIS Z8901 3級ダストと水を重量比1:3に混合したものを試験片に薄く塗って一日置いて乾燥させた。その後、自動洗車機の直径500mmの洗車ブラシで100rpmの速度で1分間こすってから水洗いして水分を拭きとった後にグロスを測定して光沢保持率を計算した。いずれのサンプルにおいてもナノスクラッチ試験の前後の20°での光沢保持率は92%以上であり、良好な耐擦傷性が確認された。
【0060】
(TOM試験後の耐薬品性試験)
TOM試験から1週間経過したH7-A:142℃およびH7-B:120℃のHUBフィルムの耐薬品性を評価した。耐薬品性については、薬品スポット試験により評価した。室温にて、サンプルに1重量%塩酸水溶液または1重量%水酸化ナトリウム水溶液をHUBフィルムに滴下し、85℃のオーブンに30分間曝露した。その後、室温にて軽く水洗を行い、色変化、白濁、破れの有無を目視により評価した。いずれのサンプルにおいても、塩酸水溶液および水酸化ナトリウム水溶液に対して良好な耐性を示した。
【0061】
[イソシアネートおよびアミンのモル比を変更したコーティングの試験]
HUBモノマーを調整する際のイソシアネートおよびアミン(メタ)アクリレートのモル比(NCO/NH2)を変更した以外は、ハードコーティングH7の作成の手順と同じ手順に沿って、コーティング用組成物C7-1,C7-2,C7-3を調製し、表5に示すハードコーティングH7-1,H7-2,H7-3を形成した。なお、ハードコーティングH7-1は、ハードコーティングH7を再現したものである。そして、ハードコーティングH7-1,H7-2,H7-3について、上述の方法に従って、耐擦傷性試験、熱伸長試験および耐薬品性試験を実施した。結果を表5に示す。
【0062】