(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188356
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096325
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】荻原 裕樹
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061CB01
2G061CB07
2G061CB20
2G061CC04
2G061DA01
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB04
2G061EB07
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】十字形状の板状試験片に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させてしわ発生の起点となる限界ひずみを測定する二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る二軸応力試験装置1は、板状試験片100における十字形状が交差する測定部101に面する矩形の中央部13と、中央部13の四辺の縁部に形成された櫛歯状の第1櫛歯部15と、を有し、板状試験片100の両面を挟み込む一対の中央金型11と、中央金型11の四辺の側方に配設されて第1櫛歯部15に噛合する櫛歯状の第2櫛歯部23と、板状試験片100の十字形状の片部103を保持する保持部25と、を有する側部金型21と、を備え、一対の中央金型11のいずれか一方の中央部13に測定部101の面外座屈を誘発させることができるようにする開口部17が形成されていることを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内二軸方向に十字形状の板状試験片に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させる二軸応力試験装置であって、
前記板状試験片における十字形状が交差する測定部に面する矩形の中央部と、該中央部の四辺の縁部に形成された櫛歯状の第1櫛歯部と、を有し、前記板状試験片の両面を挟み込む一対の中央金型と、
該中央金型の四辺の側方に配設されて前記第1櫛歯部に噛合する櫛歯状の第2櫛歯部と、前記板状試験片の十字形状の片部を保持する保持部と、を有する側部金型と、を備え、
前記一対の中央金型のいずれか一方の前記中央部に前記測定部の面外座屈を誘発させることができるようにする開口部が形成されていることを特徴とする二軸応力試験装置。
【請求項2】
前記中央金型の前記開口部に、前記板状試験片の前記測定部の面外方向の変位を計測する変位計が設けられていることを特徴とする請求項1記載の二軸応力試験装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二軸応力試験装置を用いて、前記板状試験片に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させる二軸応力試験方法であって、
前記一対の中央金型により前記板状試験片の前記測定部の両面を挟み込み、
前記4つの側部金型により前記板状試験片の前記4つの片部それぞれを保持するとともに、前記中央金型の前記第1櫛歯部に前記側部金型の前記第2櫛歯部を噛合させ、
前記片部を介して前記測定部に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させ、
前記中央金型の前記開口部に前記測定部の面外座屈を誘発させることを特徴とする二軸応力試験方法。
【請求項4】
前記測定部に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させる過程における前記測定部のひずみと圧縮荷重との関係を取得し、
該取得したひずみと圧縮荷重との関係に基づいてひずみの一次微分を算出し、
該算出したひずみの一次微分が極大となるひずみを前記測定部の面外座屈に対する安定挙動限界ひずみとして求め、
前記取得したひずみと圧縮荷重との関係において、圧縮荷重の増分に対してひずみ増分の極性が反転するひずみを前記測定部におけるしわ発生開始ひずみとして求めることを特徴とする請求項3記載の二軸応力試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法に関し、特に、十字形状の板状試験片に少なくとも一軸方向から圧縮荷重を作用させる二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属材料の材料試験として、金属薄板を破断させずにプレス成形可能な領域を測定するFLD(Forming Limit Diagram;成形限界線図)試験が行われている(非特許文献1等)。そして、当該FLD試験により得られた成形限界線図を用いることで、金属薄板のプレス成形時に発生する張り出し割れや絞り割れ等の発生の危険性を客観的かつ定量的に評価することが可能となる。
【0003】
また、金属材料の材料試験として、金属薄板に圧縮荷重を作用させる材料試験も行われている(特許文献1、特許文献2、特許文献3等)。
例えば、特許文献3に開示されている材料試験においては、金属薄板の薄板試験片に対して面内二軸方向の圧縮荷重を作用させることで、二軸圧縮応力状態における金属薄板の材料特性を精度よく測定することができるとされている。そして、これらの金属薄板に圧縮荷重を作用させる材料試験により圧縮応力状態における金属薄板の材料特性を測定することで、プレス成形過程のCAE解析(プレス成形シミュレーション)の予測精度向上に寄与することが期待されている。
【0004】
一般に、プレス成形中に金属薄板が圧縮荷重を受けると、金属薄板がプレス成形品の目標形状から急に面外変形してはみ出す現象(面外座屈)が生じ、該プレス成形品にしわ(以下、「プレスしわ」と称する場合あり)が発生することがある。このようなプレスしわの発生メカニズムは、(1)金属薄板の弾性的あるいは塑性的座屈現象、(2)金属薄板の過剰な又は不均一な材料流入による肉余り・肉寄り、の2つに分類される。
【0005】
このうち、(1)の弾性的あるいは塑性的座屈現象については、例えば、天板部と縦壁部とフランジ部とを有してハット断面形状をなすプレス成形品のプレス成形過程における縮みフランジ変形によって、フランジ部に発生する圧縮応力やフランジ部への材料流入により縦壁部に発生する圧縮応力等に起因する場合と、不均一荷重や非軸対称荷重等による金属薄板の不均一変形に起因する場合とがある。
一方、(2)の肉余り・肉寄りについては、プレス成形品の形状が急激に変化する部位に発生するとされている(非特許文献2参照)。
【0006】
また、プレスしわは、金属薄板の板厚が薄く、強度が高いほど生じやすい。張り出し成形においては、加工部へその周辺から材料が流入することによる張り出し成形面の材料余りが直接的な要因となりやすいため、プレスしわの発生を防ぎつつ目標形状のプレス成形品を得ることが難しいという問題があった。
【0007】
そこで、プレスしわの発生を防いだプレス成形品を得るためには、プレス成形過程におけるしわ発生の要因を明らかにし、金属薄板の材料特性やプレス成形品の目標形状等に応じてプレス成形条件を決定する必要がある。
【0008】
プレスしわの発生を予測する方法としては、弾塑性有限要素解析法等によるプレス成形シミュレーションを行い、該プレス成形シミュレーションにより求められた成形途中や成形終了後のプレス成形品をコンピュータ画面上に表示する際に、圧縮応力や圧縮ひずみの度合いに応じて陰影をつけ(シェーディング)、目視でしわ発生の有無を判断する技術がある。
【0009】
さらに、プレス成形シミュレーションにより算出されるひずみや応力等により、しわ発生のメカニズムを推定するとともに、しわ発生の有無を定量的に判断する指標を求める技術がいくつか提案されている。
例えば、特許文献4には、弾塑性有限要素法に基づく板状素材のプレス成形シミュレーションによりプレス成形過程における各要素の相当応力および相当歪を求め、該求めた相当歪に対し板状素材の加工硬化曲線から得られる相当応力とプレス成形シミュレーションにより求めた相当応力との差が大きい場合には、当該要素の位置に座屈が発生していると考え、その差を皺評価パラメータとして求めて皺発生の有無を評価する技術が開示されている。
また、特許文献5には、天板部と外方に向かって湾曲する縦壁部とを備えたプレス成形品をフォーム(曲げ)成形により縮みフランジ成形をするに際し、縦壁部の先端に生じる圧縮ひずみがしわ発生限界ひずみを超えるか否かにより、プレス成形品のしわの発生の有無を予め判定する技術が開示されている。
さらに、特許文献6には、プレス成形における下死点での被成形材の厚み方向断面における曲げ応力に基づいて、除荷(離型)した後の曲率半径又は曲率を推定し、該推定した曲率半径又は曲率に応じてプレス成形における被成形材の皺の発生の有無を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許6246074号公報
【特許文献2】特開2016-3951号公報
【特許文献3】特開2019-35603号公報
【特許文献4】特開平11-319971号公報
【特許文献5】特開2017-100165号公報
【特許文献6】特開2007-229761号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ISO 12004-2:2008, "Metallic materials - Sheet and strip - Determination of forming-limit curves - Part 2: Determination of forming-limit curves in the laboratory", 2008
【非特許文献2】薄鋼板成形技術研究会編、プレス成形難易ハンドブック第4版、p.226、日刊工業新聞社、(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4~特許文献6に開示されている技術はいずれも、しわ発生のメカニズムを予め想定し、該メカニズムに基づいてしわ発生の有無に関する判断指標を求めるものである。しかしながら、しわ発生の有無に対する判断指標の境界値(臨界値)は、実験又はプレス成形シミュレーションによるプレス成形品のしわ発生の有無を目視による官能的な判断により決定するので、客観性に欠けることが問題であった。
また、特許文献4~特許文献6に開示されている技術は、特定のプレス成形方式(フォーム成形など)や特定の形状のプレス成形品を対象としたものであり、プレス成形方式やプレス成形品の形状が異なるとひずみや応力の状態も異なるため、これらの技術で求められるしわ発生の有無に係る判断指標は汎用性がないことが問題であった。
【0013】
そこで、前述した破断に関するFLD試験と同様に、しわ発生の有無を客観的かつ定量的に判断することが容易に可能であり、プレス成形方式やプレス成形品の形状によらず汎用的にしわ発生を評価することが可能な試験方法が求められていた。
しかしながら、FLD試験は、プレス成形過程において金属薄板に破断(割れ)が発生する起点(限界ひずみ等)を求めるものであり、プレス成形過程において金属薄板に圧縮荷重が作用して生じる面外座屈に起因するしわ発生の起点を求めることはできない。
【0014】
また、特許文献1~特許文献3に開示されている技術はいずれも、金属薄板に圧縮荷重を作用させる際に面外座屈を抑制して材料試験を行うものであるため、金属薄板の圧縮応力状態における面外座屈変形、すなわち、しわ発生の起点となる指標(ひずみ等)を求めることはできなかった。
さらに、金属薄板を素材(ブランク)とするプレス成形時にブランクが受ける変形は、面内二軸方向の少なくとも一方向に圧縮荷重が作用する二軸応力状態で生じるものがほとんどである。そのため、プレス成形におけるしわ発生の有無を評価するためには、少なくとも面内一軸方向に圧縮荷重が作用した二軸応力状態におけるしわ発生の起点となる指標を求めることが必要であった。
【0015】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、十字形状の板状試験片に少なくとも一軸方向から圧縮荷重を作用させ、二軸応力状態においてしわ発生の起点となる指標を求めることができる二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者は、金属薄板の板状試験片を用いて二軸応力状態におけるしわ(面外座屈)の発生を再現し、しわ発生の起点となる指標を官能的な評価によらず客観的かつ定量的に測定することができる手法を鋭意検討した。
【0017】
前述のとおり、金属薄板を素材(ブランク)とするプレス成形時にブランクが受ける変形は、面内一軸方向の変形ではなく、二軸方向以上の圧縮又は圧縮と引張を組み合わせた変形がほとんどである。よって、プレス成形時に発生するプレスしわ(面外座屈)の発生の有無を評価するために、発明者は、前述した特許文献3に開示されている二軸面内圧縮試験方法において、板状試験片の面内二軸方向に作用させる荷重やひずみの比率を種々変更することで、変形状態を様々に変えることが可能であることに着目した。
【0018】
そこで、発明者は、特許文献3に開示されている二軸面内圧縮試験方法において、中央金型の押圧面部に開口部を設け、二軸圧縮状態における板状試験片の測定部の面外方向の変形を当該開口部に生じさせることで、様々な圧縮応力状態において面外座屈、すなわち、しわを発生させて、しわ発生の起点となる指標の測定が可能となることを想起するに至った。
本発明は、上記検討に基づいてなされたものであり、以下の構成を備えている。
【0019】
(1)本発明に係る二軸応力試験装置は、面内二軸方向に十字形状の板状試験片に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させる二軸応力試験装置であって、
前記板状試験片における十字形状が交差する測定部に面する矩形の中央部と、該中央部の四辺の縁部に形成された櫛歯状の第1櫛歯部と、を有し、前記板状試験片の両面を挟み込む一対の中央金型と、
該中央金型の四辺の側方に配設されて前記第1櫛歯部に噛合する櫛歯状の第2櫛歯部と、前記板状試験片の十字形状の片部を保持する保持部と、を有する側部金型と、を備え、
前記一対の中央金型のいずれか一方の前記中央部に前記測定部の面外座屈を誘発させることができるようにする開口部が形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記中央金型の前記開口部に、前記板状試験片の前記測定部の面外方向の変位を計測する変位計が設けられていることを特徴とするものである。
【0021】
(3)本発明に係る二軸応力試験方法は、上記(1)又は(2)に記載の二軸応力試験装置を用いて、前記板状試験片に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させるものであって、
前記一対の中央金型により前記板状試験片の前記測定部の両面を挟み込み、
前記4つの側部金型により前記板状試験片の前記4つの片部それぞれを保持するとともに、前記中央金型の前記第1櫛歯部に前記側部金型の前記第2櫛歯部を噛合させ、
前記片部を介して前記測定部に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させ、
前記中央金型の前記開口部に前記測定部の面外座屈を誘発させることを特徴とするものである。
【0022】
(4)上記(3)に記載のものにおいて、
前記測定部に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させる過程における前記測定部のひずみと圧縮荷重との関係を取得し、
該取得したひずみと圧縮荷重との関係に基づいてひずみの一次微分を算出し、
該算出したひずみの一次微分が極大となるひずみを前記測定部の面外座屈に対する安定挙動限界ひずみとして求め、
前記取得したひずみと圧縮荷重との関係において、圧縮荷重の増分に対してひずみ増分の極性が反転するひずみを前記測定部におけるしわ発生開始ひずみとして求めることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、板状試験片における十字形状が交差する測定部に面する矩形の中央部と、該中央部の四辺の縁部に形成された櫛歯状の第1櫛歯部と、を有し、前記板状試験片の両面を挟み込む一対の中央金型と、該中央金型の四辺の側方に配設されて前記第1櫛歯部に噛合する櫛歯状の第2櫛歯部と、前記板状試験片の十字形状の片部を保持する保持部と、を有する側部金型と、を備え、前記一対の中央金型のいずれか一方の前記中央部に前記測定部の面外座屈を誘発させることができるようにする開口部が形成されていることにより、前記板状試験片に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させることで、前記中央金型の前記開口部に前記測定部の面外座屈を誘発させて、しわ発生の起点を捉える材料試験を行うことができる。
また、本発明においては、十字形状の板状試験片に圧縮荷重を作用させる過程におけるひずみと圧縮荷重との関係を取得し、該取得したひずみと圧縮荷重との関係からしわ発生の起点となるひずみを求めることで、面外座屈の有無をしわ発生の起点となるひずみにより評価することができるため、プレス成形品のプレス成形シミュレーションにおいてしわ発生の有無を目視による官能的な評価によらず客観的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施の形態に係る二軸応力試験装置の構成を説明する図である((a)中央金型及び側部金型、(b)中央金型)。
【
図2】本発明の実施の形態において試験対象とする十字形状の板状試験片の形状の一例を示す図である((a)平面図、(b)十字形状の角部の拡大図)。
【
図3】本発明の実施の形態に係る二軸応力試験装置の中央金型及び側部金型の押さえ機構を説明する図である((a)中央金型及び側部金型に押さえ機構を設置した状態、(b)押さえ機構)。
【
図4】本発明の実施の形態に係る二軸応力試験装置の平面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る二軸応力試験方法において、十字形状の板状試験片の測定部に二軸圧縮荷重を作用させたときに測定部に発生するひずみ、圧縮荷重及びしわ高さの関係を示すグラフである。
【
図6】十字形状の板状試験片に面内二軸方向(X軸方向、Y軸方向)の圧縮荷重を作用させたときのひずみ-荷重線図の一例である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る二軸応力試験方法において、十字形状の板状試験片の測定部に作用させる面内二軸方向の荷重比を変更したときのひずみ-荷重線図の例である((a)荷重比-1:-4、(b)荷重比-2:-1、(c)荷重比-1:-1)。
【
図8】実施例において、プレス成形シミュレーションの成形対象としたプレス成形品と、該プレス成形品のプレス成形に用いた金型を説明する図である。
【
図9】実施例において、プレス成形シミュレーションにより求めたプレス成形品のシェーディング図と、該プレス成形品の側面部における面内二軸方向の圧縮荷重が等しい部位におけるひずみと、二軸応力試験方法により求めたひずみ-荷重線図との対応を示す説明図である((a)成形高さ40mmのプレス成形品、(b)成形高さ30mmのプレス成形品、(c)成形高さ20mmのプレス成形品、(d)ひずみ-荷重線図)。
【
図10】本発明の実施の形態に係る二軸応力試験装置の断面図であって、板状試験片の測定部の面外方向の変位を計測する変位計を設置した状態の説明図である(
図1(b)のA-A断面図)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法について説明するのに先立ち、本実施の形態において試験対象として用いる板状試験片について説明する。
【0026】
<板状試験片>
板状試験片100は、
図2に一例として示すように、面内二軸方向に十字形状であって、十字形状の中央となる矩形の測定部101と、測定部101の四辺から面内二軸方向に延出する4つの片部103と、を有してなるものである。
【0027】
測定部101は、二軸応力試験において後述する中央金型11aの中央部13aに設けられた開口部17に面する部位に面外座屈を誘発させて、ひずみや応力等の測定対象となる部位である。なお、
図2は、矩形の測定部101が正方形のものを例示しているが、本発明において、測定部は長方形であってもよい。
【0028】
片部103は、測定部101を挟んで対向する一対の片部103aと一対の片部103bとからなり、測定部101を挟んで一対の片部103aが延出する方向と一対の片部103bが延出する方向とが測定部101において直交し、これらの方向が、板状試験片100の測定部101に対して所定の荷重を作用させる面内二軸方向に対応する。
【0029】
すなわち、一対の片部103a及び一対の片部103bを介して測定部101に面内二軸方向の圧縮荷重を作用させることにより、測定部101を二軸圧縮状態とする二軸圧縮試験を行うことができる。
【0030】
または、一方の片部103aを介して測定部101に向かって圧縮荷重を作用させ、他方の片部103bを介して測定部101に対して引張荷重を作用させることにより、測定部101を一軸圧縮・他軸引張状態とする一軸圧縮・他軸引張試験を行うことができる。
【0031】
そして、測定部101にひずみゲージを貼付することで、二軸応力状態(二軸圧縮状態、一軸圧縮・他軸引張状態)における測定部101のひずみを測定することができる。
【0032】
なお、
図2に示す板状試験片100は、以下の参考文献に記載のように、十字形状の各角部を円形状に切り欠いた円形切欠部105と、測定部101を囲って隣り合う円形切欠部105の中心を結ぶ各線上に複数個設けられた孔形状部107と、を有するものである。
(参考文献:特開2019-35603号公報)
【0033】
円形切欠部105は、片部103aと片部103bのそれぞれを介して測定部101に二軸の圧縮荷重を作用させる際に、片部103aと片部103bとが膨らんで角部が折り重なるのを防止するものであり、材料特性の測定に要求される圧縮ひずみを測定部101に生じさせることを可能とする。
【0034】
孔形状部107は、測定部101における局所的な応力集中を分散して応力のばらつきを小さくするためのものである。
【0035】
もっとも、本発明に係る二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法は、
図2に示す形状の板状試験片100を用いることに限定されるものではなく、円形切欠部105や孔形状部107の有無は問わず、二軸応力試験の条件(荷重比等)に応じて板状試験片の形状や寸法を適宜変更すればよい。
【0036】
<二軸応力試験装置>
本発明の実施の形態に係る二軸応力試験装置1は、一例として
図2に示すような、面内二軸方向に十字形状の板状試験片100に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させるものであって、一例として
図1及び
図3に示すように、中央金型11と、側部金型21と、押さえ機構31と、を備えたものである。以下、二軸応力試験装置1の各構成について説明する。
【0037】
≪中央金型≫
中央金型11は、
図1(b)及び
図4に示すように、板状試験片100の十字形状が交差する測定部101に面する矩形の中央部13と、中央部13の四辺の縁部に形成された櫛歯状の第1櫛歯部15と、を有し、板状試験片100の両面を挟み込む一対の中央金型11a及び中央金型11bからなる。
【0038】
第1櫛歯部15は、矩形の中央金型11における対向する二辺の縁部に形成された一対の第1櫛歯部15aと一対の第1櫛歯部15bとからなる。
対向する一対の第1櫛歯部15aが配設される方向と、対向する一対の第1櫛歯部15bが配設される方向とは、中央部13において直交する。そして、これらの方向は、
図4に示すように、板状試験片100の一対の片部103a又は一対の片部103bを介して測定部101に圧縮荷重又は引張荷重を作用させる面内二軸方向に対応する。
【0039】
さらに、一対の中央金型11のうち一方の中央金型11aの中央部13aには測定部101の形状変形の自由度を与えて面外座屈を誘発させることができるようにする開口部17が形成されている。
また、中央金型11は、板状試験片100の面内方向への移動を防止するため、
図1(b)及び
図3に示すように、その四隅が位置決めピン19により押さえ機構31(
図3)のベース部33に固定される。
【0040】
≪側部金型≫
側部金型21は、
図1(a)及び
図4に示すように、中央金型11の四辺の側方に配設されて第1櫛歯部15に噛合する櫛歯状の第2櫛歯部23と、板状試験片100の十字形状の片部103を保持する保持部25と、を有するものであり、中央金型11を挟んで配設される一対の側部金型21aと一対の側部金型21bとからなる。
【0041】
側部金型21aは、中央金型11の第1櫛歯部15aに抜き差し可能に噛合する第2櫛歯部23aと、板状試験片100の片部103aを保持する保持部25aと、を有する。
【0042】
側部金型21bは、中央金型11の第1櫛歯部15bに抜き差し可能に噛合する第2櫛歯部23bと、板状試験片100の片部103bを保持する保持部25bと、を有する。
【0043】
このように、第2櫛歯部23が第1櫛歯部15に噛合しながら側部金型21が移動することで、片部103を介して板状試験片100に圧縮荷重を作用させる過程において片部103における座屈を抑制することができる。
【0044】
なお、本実施の形態において、側部金型21a及び側部金型21bは、押さえ機構31のベース部33の上面に設けられたコロ27a及び27b上にそれぞれ設置され、第2櫛歯部23a及び23bそれぞれが、中央金型11の第1櫛歯部15a及び15bに噛合した状態で、面内一軸方向に移動することができる。
【0045】
≪押さえ機構≫
押さえ機構31は、挟持力付与手段として、第1櫛歯部15aに噛合している第2櫛歯部23aと第1櫛歯部15bに噛合している第2櫛歯部23bとを抜き差し可能に板状試験片100の板厚方向に所定の挟持力を付与するものであり、
図3に示すように、ベース部33と、天板部35と、ボルト37と、を備えてなる。
【0046】
押さえ機構31においては、ベース部33と天板部35の四隅をボルト37により所定の締付力で締め付けることにより、噛合している第1櫛歯部15と第2櫛歯部23とが抜き差し可能に板状試験片100の板厚方向に所定の挟持力を付与することができ、片部103における座屈変形を確実に防ぐことができて好ましい。
【0047】
なお、本発明に係る二軸応力試験装置1は、後述するように、中央金型11aの開口部17に、板状試験片100の測定部101の面外方向の変位を計測する変位計51(
図10、
図1(b)のA-A断面図)が設けられたものが好ましい。これにより、十字形状の板状試験片100に少なくとも面内一軸方向に圧縮荷重が作用された二軸応力状態における測定部101の面外方向の変位を測定することが可能となり、面外座屈53の発生の起点を直接的かつ定量的に確認することできる。なお、変位計として、レーザ変位計や接触式変位計を用いることができる。
【0048】
<二軸応力試験方法>
本発明の実施の形態に係る二軸応力試験方法は、前述した
図1に示す二軸応力試験装置1を用いて、
図2に示すような面内二軸方向に十字形状の板状試験片100に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させるものである。
以下、二軸応力試験装置1を用いて板状試験片100に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させる場合について説明する。
【0049】
まず、
図1(b)に示すように、一対の中央金型11a及び中央金型11bにより板状試験片100における十字形状が交差する測定部101の両面を挟み込む。
【0050】
次に、
図1(a)に示すように、中央金型11の四辺の側方に側部金型21a及び側部金型21bを配設し、保持部25a及び保持部25bにより板状試験片100の片部103a及び片部103bをそれぞれ保持するとともに、
図4に示すように、中央金型11の第1櫛歯部15aに側部金型21aの第2櫛歯部23aを噛合させ、中央金型11の第1櫛歯部15bに側部金型21bの第2櫛歯部23bを噛合させる。
そして、
図3に示すように、押さえ機構31により、中央金型11と側部金型21とを板状試験片100の板厚方向に所定の挟持力で挟持する。
【0051】
続いて、
図4に示すとおり、第1櫛歯部15aに第2櫛歯部23aを噛合させながら側部金型21aを面内一軸方向に移動させ、かつ、第1櫛歯部15bに第2櫛歯部23bを噛合させながら側部金型21bを面内一軸方向に移動させる。
【0052】
ここで、側部金型21a及び側部金型21bは、それぞれが互いに干渉することなく測定部101の面内二軸方向に沿って移動させることができるため、片部103a及び片部103bを介して測定部101に少なくとも面内一軸方向から圧縮荷重が作用する。そして、中央金型11aの中央部13aに開口部17が設けられているので、板状試験片100の測定部101における開口部17に面する部位に面外座屈を誘発させることができる。
【0053】
≪しわ発生の起点となるひずみの測定≫
本実施の形態に係る二軸応力試験方法により、板状試験片100の測定部101にしわが発生する起点となるひずみ(しわ発生起点ひずみ)を求めることができる。
以下、一例として、板状試験片100の測定部101に二軸圧縮荷重を作用させたときの測定部101におけるしわ発生起点ひずみを求める手順について説明する。
【0054】
なお、以下の説明は、引張強度270MPa級、板厚1.2mmの鋼板を用いて板状試験片100を作製し、板状試験片100における測定部101のサイズを30mm×30mm、円形切欠部105の半径r1を2.5mm、孔形状部107の形状は、長軸長さ2rxを5.0mm、短軸長さ2ryを1.0mm、中央金型11aにおける開口部17をφ25mmの円形形状とした場合である。
【0055】
(ひずみと圧縮荷重の関係の取得)
まず、板状試験片100の測定部101の開口部17の位置であって、中央部を避けた部位にひずみゲージを貼付し、一対の中央金型11a、11bにより板状試験片100の両面を挟み込む。ここでは、板状試験片100に対して圧縮荷重を作用させる面内二軸方向それぞれの軸方向のひずみを測定する2つの単軸のひずみゲージを測定部101に貼付する。なお、2つの単軸のひずみゲージの替りに、2つのセンサーが互いに垂直に取り付けられている2軸のひずみゲージを用いてもよい。
【0056】
次に、板状試験片100の片部103を介して側部金型21を用いて測定部101に二軸圧縮荷重を作用させ、測定部101におけるひずみと測定部101に作用させる圧縮荷重との関係を取得する。なお、圧縮荷重は一方の一軸の値でもよいし、二軸を平均又は合算した値であってもよい。
そして、取得したひずみと圧縮荷重との関係に基づいて、
図5に示すひずみ-荷重線図を作成する。
図5において、横軸は板状試験片100に作用させた荷重(プラスは引張荷重、マイナスは圧縮荷重)及びひずみの圧縮荷重に対する一次微分を表し、左縦軸はひずみゲージによる測定ひずみ(プラスは引張ひずみ、マイナスは圧縮ひずみ)を表し、右縦軸は測定部101の板厚方向(面外方向)の変形量であるしわ高さを表している。
図6は、面内二軸方向(X軸方向、Y軸方向)それぞれについてひずみ-荷重線図を作成した例である。
【0057】
(安定挙動限界ひずみの取得)
図5に示すように、測定部101に圧縮荷重の負荷を徐々に作用させる(
図5の横軸左側に進む)と、縦軸下方向に圧縮ひずみが蓄積されるが、やがて圧縮荷重の負荷に対する圧縮ひずみの蓄積が鈍くなり、その後圧縮ひずみが(マイナスの)最大値を示し、その後面外座屈が生じて蓄積された圧縮ひずみが一気に引張側に開放される。
【0058】
そこで、圧縮荷重の負荷に対する圧縮ひずみが(マイナスの)最大値を示す前に蓄積が鈍くなり始める時点の圧縮ひずみを、最初に現れる面外座屈の予兆を示す起点となる圧縮ひずみとして捉え、本発明では、この起点となる圧縮ひずみを安定挙動限界ひずみと定義する。
【0059】
本実施の形態では、
図5に示すひずみ-荷重線図に基づいて圧縮ひずみの一次微分を算出し(図中の点線)、圧縮ひずみの一次微分が極大値となるひずみを、測定部101の面外座屈に対する安定挙動限界ひずみとして求める。
【0060】
安定挙動限界ひずみは、
図5に示すように、中央金型11の開口部17に変位計51を設けて測定部101の面外方向の表面の変位である面外座屈53の高さ(しわ高さ)を測定(
図10)した結果において、しわ高さの急激な変化が開始するひずみと一致している。
【0061】
(しわ発生開始ひずみの取得)
測定部101におけるひずみが安定挙動限界ひずみを超えてもなお測定部101に圧縮荷重を作用させると、蓄積された圧縮ひずみが一気に開放され、明瞭な面外座屈が発生し、引張ひずみとなる。
【0062】
このとき、ひずみゲージによるひずみ測定値は(マイナスの)最大値を示し、圧縮荷重の負荷の増分(
図5の横軸左方向)に対するひずみの増分は負(圧縮)から正(引張)へと反転する。そこで、本発明では、圧縮荷重の負荷の増分に対するひずみの増分の極性が反転する時点のひずみを面外座屈(しわ)の発生が開始するしわ発生開始ひずみと定義する。
そして、
図5に示すひずみ-荷重線図において、圧縮荷重の負荷の増分に対するひずみの増分の極性が反転する時点のひずみをしわ発生開始ひずみとして求める。
【0063】
また、
図5に示すように、しわ発生開始ひずみは、変位計により測定したしわ高さが加速的に上昇を開始するひずみとも一致している。そのため、しわ発生開始ひずみは、実際のプレス成形品の成形過程においてわずかに視認できる程度のしわが急激に変化して明瞭なしわに転じるタイミングを示す指標に相当すると考えられる。
【0064】
以上、本実施の形態に係る二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法によれば、十字形状の板状試験片100に少なくとも面内一軸方向の圧縮荷重を作用させる際に、板状試験片100の測定部101における開口部17に面する部位に面外座屈を誘発させることができ、しわ発生の起点を捉えることができる。
【0065】
さらに、本実施の形態に係る二軸応力試験方法においては、板状試験片100に圧縮荷重を作用させる過程におけるひずみと圧縮荷重との関係を取得し、該取得したひずみと圧縮荷重との関係に基づいてしわ発生の起点となるひずみ(安定挙動限界ひずみ及びしわ発生開始ひずみ)を求めることにより、従来のプレス成形シミュレーションによるしわ発生の有無の官能的な評価によらず、しわ発生の起点となるひずみに基づいて面外座屈の有無を客観的に評価することができる。
【0066】
なお、上記の説明は、十字形状の板状試験片の測定部に対して二軸方向の等圧縮荷重を作用させるものであったが、本発明は、二軸圧縮変形(例えば、X軸方向とY軸方向の荷重比-1:-1、-2:-1等)や、片軸圧縮・片軸引張(例えば、-2:+1等)、単軸圧縮(例えば、-1:0、0:-1)のように様々な二軸応力状態として、
測定部に作用させる面内二軸方向の荷重が異なる場合においても、測定部にしわ(面外座屈)を発生させることができる。
【0067】
異なる荷重比におけるひずみ-荷重線図の具体例として、
図7に、板状試験片の測定部に作用させる面内二軸方向の圧縮荷重を荷重の比で-1:-4、-2:-1及び-1:-1としたときのひずみと圧縮荷重との関係を示す。
【0068】
このように、本発明によれば、異なる様々な二軸応力状態(単軸圧縮、平面歪圧縮、等二軸圧縮、引張圧縮)でのしわ発生の起点となるひずみ(安定挙動限界ひずみ、しわ発生開始ひずみ)を求めることにより、プレス成形方式やプレス成形品の形状に応じて、汎用的にしわ発生の起点となる指標(しわ発生条件)を求めることができる。
【0069】
さらに、プレス成形品のプレス成形シミュレーションにより明瞭なしわが発生した部位のひずみ条件を本実施の形態に係る二軸応力試験方法により再現することにより、当該プレス成形品のプレス成形過程において明瞭なしわの発生に至る直前の不安定挙動、すなわち、しわ発生の起点となる指標(安定挙動限界ひずみ、しわ発生開始ひずみ)を実際の金属薄板を用いた板状試験片で確認することができる。そして、当該二軸応力試験の結果をプレス成形シミュレーションに反映させることで、しわ発生の危険性をプレス成形シミュレーションにおいて精度良く判定することが可能となる。
【0070】
なお、本実施の形態に係る二軸応力試験装置において、一方の中央金型11aの中央部13aに設ける開口部17の形状は、
図4に示すように、円形とすることが好ましい。開口部17を円形とすることで、測定部101の変形時の方向性の影響を無視できるからである。
また、開口部17を形成するに際し、
図1(b)に示すように、中央部13の厚み部分を下面側から上面側に向かって拡径するテーパー形状にするのが好ましい。これにより、板状試験片100の測定部101の面外座屈を目視によっても確認できる。
【0071】
さらに、開口部は特定の径に定められた円形でなくともよく、正方形や長方形、その他、多角形や多角形と円弧形状を組み合わせた形状でもよく、このような形状であっても測定部101に誘発する面外座屈の起点を捉える上で問題とならない。
【0072】
また、開口部17の大きさを調整することで、面外座屈53の発生しやすさを調整することができる。開口部17が小さいほど面外座屈は生じにくく、大きいほど面外座屈は生じやすくなる。開口部17の大きさは、板状試験片100の測定部101に二軸応力状態を発生させるシミュレーションを行い、当該シミュレーションの解析条件や結果に基づいて、板状試験片100の測定部101の表面を抑える拘束状況を勘案して決定すればよい。また、プレス成形品のプレス成形シミュレーションにより、明瞭なしわが発生した部位の範囲の大きさを勘案して決定してもよい。
【0073】
なお、本発明に係る二軸応力試験装置には、中央金型11の開口部17に変位計51(
図10)を設けるのが好ましい。
変位計51が設けられていることで、二軸応力状態における測定部101の面外方向の変位を測定することができ、面外座屈の発生を直接的かつ定量的に実測できる。
また、変位計51は、測定部101のひずみを測定するのに支障がないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、レーザー変位計や接触式変位計等を用いることができる。
【0074】
本発明に係る二軸応力試験方法において、板状試験片の面外変形は座屈現象であるので、板状試験片の板厚が大きく影響する。そのため、板状試験片の板厚は、しわ発生を再現させたいプレス成形のブランク板厚に合わせるのが好ましい。
なお、板状試験片の材料強度も板状試験片の面外座屈に影響するが、板状試験片の板厚や中央金型に設ける開口部の穴径の大きさに比べると影響は小さいので、本発明は、板状試験片の材料強度を特に制限するものではない。
【0075】
また、上記の説明は、面外座屈の起点となるひずみを捉えるために、測定部101に貼付したひずみゲージによりひずみを測定するものであったが、本発明にかかる二軸応力試験方法はこれに限るものではなく、開口部からデジタル画像相関法を用いて測定部101のひずみを測定するものであってもよい。
さらに、本発明は、測定部101のひずみを測定するものに限らず、板状試験片の面外方向における測定部101の変位を測定することにより、面外座屈の起点を捉えるものであってもよい。
【0076】
また、上記の説明では、ひずみと圧縮荷重の関係を取得し、ひずみ-荷重線図を作成するものであったが、本発明は、測定した圧縮荷重から圧縮応力を求めることでひずみと圧縮応力の関係を取得し、該取得したひずみと圧縮応力の関係に基づいてしわ発生の起点となるひずみを求めるものであってもよい。
【実施例0077】
本発明に係る二軸応力試験装置及び二軸応力試験方法の作用効果を検証する実験及び解析を行ったので、以下、これについて説明する。
【0078】
本実施例では、十字形状の板状試験片に面内二軸方向の圧縮荷重を作用させてしわ発生の起点となるひずみを求める二軸応力試験と、該二軸応力試験により求めたしわ発生の起点となるひずみに基づいて
図8に示すプレス成形品200のプレス成形シミュレーションによるしわ発生の判定を検証した。
【0079】
<二軸圧縮試験>
まず、
図1及び
図3に示す二軸応力試験装置1を用い、
図2に示す十字形状の板状試験片100の二軸応力試験を行い、測定部101に面内二軸方向の圧縮荷重を作用させたときの測定部101におけるひずみと板状試験片100に作用させた圧縮荷重とを測定した。
【0080】
板状試験片100には、供試材として引張強度270MPa級、板厚1.2mmの鋼板を用い、測定部のサイズを30mm×30mmとし、二軸応力試験装置1の中央金型11aに形成された開口部17はφ25mmの円形とした。
【0081】
そして、二軸応力試験装置1の一対の中央金型11a、11bの間に板状試験片100を挟み込むとともに、片部103a、103bをそれぞれ側部金型21a、側部金型21bの保持部25a、25bで保持し、片部103a、103bを介して測定部101に面内二軸方向から圧縮荷重を作用させた。ここで、側部金型21aにより圧縮荷重する方向をX軸方向、側部金型21bにより圧縮荷重を作用する方向をY軸方向とし、X軸方向とY軸方向の圧縮荷重を等しくした(X軸方向の荷重:Y軸方向の荷重=-1:-1、マイナスは圧縮荷重を示す)。
【0082】
図6に、測定されたひずみとX軸方向及びY軸方向の圧縮荷重との関係を示すひずみ-荷重線図を示す。
さらに、
図9に、Y軸方向のひずみ-荷重線図について算出したひずみの一次微分及びひずみ増分と、該算出したひずみの一次微分及びひずみ増分から求めた安定挙動限界ひずみ及びしわ発生開始ひずみを示す。
安定挙動ひずみは、ひずみ-荷重線図においてひずみの一次微分が極大値となるひずみであり、荷重-6.9kNにおいて-1353μεであった。
しわ発生開始ひずみは、ひずみ-荷重線図においてひずみの増分が反転、すなわち、ひずみ-荷重線図が下に凸となり(マイナスの)最大値となるひずみであり、荷重-7.2kNにおいて-1671μεであった。
【0083】
<プレス成形シミュレーションによるしわ発生の判定>
次に、
図8に示す張り出し成形面部201と側面部203とを有するプレス成形品200のFEM解析によるプレス成形シミュレーションを行い、プレス成形品200におけるしわ発生の有無を判定した。なお、
図8ではパンチ211の状態がわかるように、プレス成形品200の左半分のみを示した。プレス成形シミュレーションでは、プレス成形品200はダイ213の全周に渡っている。
【0084】
プレス成形品200は、
図8に示すように、パンチ211とダイ213とホルダー215とを備えた金型210を用いて張り出し成形したものであり、ブランクには引張強度270MPa、板厚1.2mmの円形の鋼板を用いた。
さらに、プレス成形品200の成形高さを20mm、30mm及び40mmに変更し、成形高さの違いによるしわ発生の有無を判定した。
表1に、ブランクの材料、金型条件及びFEM解析条件を示す。
【0085】
【0086】
前述した
図9に、プレス成形シミュレーションにより求めたプレス成形品200のシェーディング図を示す。
成形高さ20mm(
図9(c))及び30mm(
図9(b))では、プレス成形品200の側面部203にしわ発生は認められなかったが、成形高さ40mm(
図9(a))では、側面部203にしわ発生が認められた。
【0087】
さらに、
図9に示すプレス成形品200のシェーディング図には、側面部203において面内二軸方向の圧縮荷重が等しい等二軸圧縮荷重条件である部位を○印で示しており、当該○印の部位におけるひずみと、前述した二軸応力試験により求めたしわ発生有無の判定との対応を検証した。
【0088】
図9に示すように、プレス成形品200の成形高さが20mm、30mm、40mmと高くなるにつれて等二軸圧縮荷重条件となる部位の成形高さ方向の位置も変化している。
【0089】
成形高さ20mmのときのひずみは-228μεであり、二軸応力試験により求めた安定挙動限界ひずみ(=-1353με)よりもその絶対値が小さい値であった。そのため、当該部位ではひずみが発生する予兆は認められないと判定される。この判定は、プレス成形シミュレーションにより求められたプレス成形品200のシェーディング図においてもしわ発生が認められなかったことと一致した。
【0090】
成形高さ30mmのときのひずみは-1230μであり、二軸圧縮試験により求めた安定挙動限界ひずみ(=-1353με)よりもその絶対値が小さい値であった。そのため、成形高さ20mmのときと同様、当該部位ではひずみが発生する予兆は認められないと判定される。この判定は、プレス成形シミュレーションにより求められたプレス成形品のシェーディング図においてもしわ発生が認められなかったことと一致した。
【0091】
成形高さ40mmのときのひずみは-1660μであり、二軸圧縮試験により求めた安定挙動限界ひずみ(=-1353με)よりもその絶対値が大きく、しわ発生限界ひずみ(=-1671με)とほぼ同じ値であった。そのため、当該部位ではしわが発生すると判定される。この判定は、プレス成形シミュレーションにより求められたプレス成形品200のシェーディング図においてもしわ発生が認められたことと一致した。
【0092】
以上、本発明に係る二軸応力試験方法により求めたしわ発生の起点となるひずみ(安定挙動限界ひずみ、しわ発生開始ひずみ)により、プレス成形品におけるしわ発生の有無を判定できることが示された。