IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社竹中工務店の特許一覧

特開2022-188379ランナー部材、及び設置構造体の固定構造
<>
  • 特開-ランナー部材、及び設置構造体の固定構造 図1
  • 特開-ランナー部材、及び設置構造体の固定構造 図2
  • 特開-ランナー部材、及び設置構造体の固定構造 図3
  • 特開-ランナー部材、及び設置構造体の固定構造 図4
  • 特開-ランナー部材、及び設置構造体の固定構造 図5
  • 特開-ランナー部材、及び設置構造体の固定構造 図6
  • 特開-ランナー部材、及び設置構造体の固定構造 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188379
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ランナー部材、及び設置構造体の固定構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/82 20060101AFI20221214BHJP
   E04B 2/74 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
E04B2/82 501A
E04B2/82 511A
E04B2/74 531L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096372
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和典
(72)【発明者】
【氏名】石田 篤芳
(72)【発明者】
【氏名】小池 達夫
(72)【発明者】
【氏名】桜井 和男
(57)【要約】
【課題】設置構造体の設置性を確保することが可能となる、ランナー部材、及び設置構造体の固定構造を提供すること。
【解決手段】上側ランナー部材20は、設置構造体10と建物1の上側躯体2aとの相互間に設けられ、設置構造体10を上側躯体2aに対して固定するためのランナー部材であって、上側ランナー部材20を、所定の基準で定められた上側躯体2aの許容寸法誤差を吸収可能に構成し、上側ランナー部材20の断面形状を、一対の側壁部21及び底部22を有する略溝状の開放断面とし、側壁部21の部分のうち設置構造体10が挿通される部分以外の余剰部分の長さを、上側躯体2aの許容寸法誤差以上とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置構造体と建物の躯体との相互間に設けられるランナー部材であり、前記設置構造体を前記躯体に対して固定するためのランナー部材であって、
当該ランナー部材を、所定の基準で定められた前記躯体の許容寸法誤差を吸収可能に構成した、
ランナー部材。
【請求項2】
当該ランナー部材の断面形状を、一対の側壁部及び底部を有する略溝状の開放断面とし、
前記側壁部の部分のうち前記設置構造体が挿通される部分以外の余剰部分の長さを、前記躯体の許容寸法誤差以上とした、
請求項1に記載のランナー部材。
【請求項3】
前記躯体は、コンクリート構造体であり、
前記余剰部分の長さの最大長さを、下記式(1)に基づいて設定し、
前記側壁部の長さを、下記式(2)に基づいて設定した、
請求項2に記載のランナー部材。
H1≧A+B+C+D・・・式(1)
H2=H1+E・・・式(2)
(ここで、
H1:前記余剰部分の長さの最大長さ、
H2:前記側壁部の長さ、
A:前記躯体の位置に伴う許容誤差、
B:前記躯体の断面寸法に伴う許容誤差、
C:前記躯体の仕上がりの平坦さに伴う許容誤差、
D:前記躯体のたわみ量に伴う許容誤差、
E:当該ランナー部材と前記設置構造体とのかかりしろの最小限界値)
【請求項4】
前記側壁部の先端部が基端部よりも内側に位置するように、前記側壁部をテーパー状に形成した、
請求項2又は3に記載のランナー部材。
【請求項5】
前記設置構造体と、前記設置構造体よりも上方に位置する前記躯体との相互間に、当該ランナー部材を設けた、
請求項1から4のいずれか一項に記載のランナー部材。
【請求項6】
建物の上側躯体と下側躯体との相互間に設けられる設置構造体を当該上側躯体及び当該下側躯体の各々に対して固定するための固定構造であって、
前記上側躯体と前記設置構造体との相互間に設けられる上側ランナー部材であり、前記設置構造体を前記上側躯体に対して固定するための上側ランナー部材と、
前記下側躯体と前記設置構造体との相互間に設けられる下側ランナー部材であり、前記設置構造体を前記下側躯体に対して固定するための下側ランナー部材と、を備え、
前記上側ランナー部材を、所定の基準で定められた前記上側躯体又は前記下側躯体の許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、前記下側ランナー部材よりも前記上側躯体又は前記下側躯体の寸法誤差を吸収できるように構成した、
設置構造体の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランナー部材、及び設置構造体の固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の間仕切り材を躯体に固定するための技術の一つとして、建物の天井面に取り付けられた溝状のランナー部材に間仕切り材の上端部を嵌め込むことにより、ランナー部材を介して建物の間仕切り材を躯体に固定する技術が提案されている(特許文献1参照)。また、ランナー部材の内部に弾性部材が設けられているので、当該弾性部材を介してランナー部材に間仕切り材の上端部を嵌め込むことにより、ランナー部材の内部に隙間が生じることを回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-007796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えば、間仕切り材が設計図面に基づいて工場で切断加工された場合には、当該間仕切り材が躯体に固定される際に、躯体のたわみ等による寸法誤差等によって、ランナー部材における当該間仕切り材が挿入される長さが強度上必要な寸法等となるように当該間仕切り材を固定することが難しくなることが想定される。しかしながら、上記従来の技術においては、ランナー部材の上記寸法誤差の吸収性能の詳細については開示されておらず、且つ、上述したように、弾性部材を介してランナー部材に間仕切り材の上端部が嵌め込まれるので、ランナー部材が上記寸法誤差を十分に吸収することが難しくなるおそれがあることから、間仕切り材の如き設置構造体の設置性の観点からは改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、設置構造体の設置性を確保することが可能となる、ランナー部材、及び設置構造体の固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載のランナー部材は、設置構造体と建物の躯体との相互間に設けられるランナー部材であり、前記設置構造体を前記躯体に対して固定するためのランナー部材であって、当該ランナー部材を、所定の基準で定められた前記躯体の許容寸法誤差を吸収可能に構成した。
【0007】
請求項2に記載のランナー部材は、請求項1に記載のランナー部材において、当該ランナー部材の断面形状を、一対の側壁部及び底部を有する略溝状の開放断面とし、前記側壁部の部分のうち前記設置構造体が挿通される部分以外の余剰部分の長さを、前記躯体の許容寸法誤差以上とした。
【0008】
請求項3に記載のランナー部材は、請求項2に記載のランナー部材において、前記躯体は、コンクリート構造体であり、前記余剰部分の長さの最大長さを、下記式(1)に基づいて設定し、前記側壁部の長さを、下記式(2)に基づいて設定した、請求項2に記載のランナー部材。
H1≧A+B+C+D・・・式(1)
H2=H1+E・・・式(2)
(ここで、
H1:前記余剰部分の長さの最大長さ、
H2:前記側壁部の長さ、
A:前記躯体の位置に伴う許容誤差、
B:前記躯体の断面寸法に伴う許容誤差、
C:前記躯体の仕上がりの平坦さに伴う許容誤差、
D:前記躯体のたわみ量に伴う許容誤差、
E:当該ランナー部材と前記設置構造体とのかかりしろの最小限界値)
【0009】
請求項4に記載のランナー部材は、請求項2又は3に記載のランナー部材において、前記側壁部の先端部が基端部よりも内側に位置するように、前記側壁部をテーパー状に形成した。
【0010】
請求項5に記載のランナー部材は、請求項1から4のいずれか一項に記載のランナー部材において、前記設置構造体と、前記設置構造体よりも上方に位置する前記躯体との相互間に、当該ランナー部材を設けた。
【0011】
請求項6に記載の設置構造体の固定構造は、建物の上側躯体と下側躯体との相互間に設けられる設置構造体を当該上側躯体及び当該下側躯体の各々に対して固定するための固定構造であって、前記上側躯体と前記設置構造体との相互間に設けられる上側ランナー部材であり、前記設置構造体を前記上側躯体に対して固定するための上側ランナー部材と、前記下側躯体と前記設置構造体との相互間に設けられる下側ランナー部材であり、前記設置構造体を前記下側躯体に対して固定するための下側ランナー部材と、を備え、前記上側ランナー部材を、所定の基準で定められた前記上側躯体又は前記下側躯体の許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、前記下側ランナー部材よりも前記上側躯体又は前記下側躯体の寸法誤差を吸収できるように構成した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載のランナー部材によれば、ランナー部材を、所定の基準で定められた躯体の許容寸法誤差を吸収可能に構成したので、躯体の許容寸法誤差を吸収でき、設置構造体の設置性を確保することが可能となる。また、例えば、特定の断面寸法のランナー部材を工場で製造した場合でも設置構造体の設置性を確保できると共に、寸法誤差に応じたランナー部材をストックしておく必要がなく、且つ設置現場での設置作業を低減できるので、ランナー部材の製造性(具体的には、製造の手間(いわゆる歩掛)及び製造コストの低減等)及び設置構造体の設置性(具体的には、設置コストの低減等)を向上させることができる。
【0013】
請求項2に記載のランナー部材によれば、側壁部の部分のうち設置構造体が挿通される部分以外の余剰部分の長さを、躯体の許容寸法誤差以上としたので、略溝状の開放断面を有するランナー部材である場合に、上側躯体又は下側躯体の許容寸法誤差を確実に吸収でき、設置構造体の設置性を確保しやすくなる。
【0014】
請求項3に記載のランナー部材によれば、余剰部分の長さの最大長さを、下記式(1)に基づいて設定し、側壁部の長さを、下記式(2)に基づいて設定したので、余剰部分の長さ及び側壁部の長さを最適な長さに設定でき、設置構造体の設置性を一層確保しやすくなる。
H1≧A+B+C+D・・・式(1)
H2=H1+E・・・式(2)
(ここで、
H1:余剰部分の長さの最大長さ、
H2:側壁部の長さ、
A:躯体の位置に伴う許容誤差、
B:躯体の断面寸法に伴う許容誤差、
C:躯体の仕上がりの平坦さに伴う許容誤差、
D:躯体のたわみ量に伴う許容誤差、
E:当該ランナー部材と設置構造体とのかかりしろの最小限界値)
【0015】
請求項4に記載のランナー部材によれば、側壁部の先端部が基端部よりも内側に位置するように、側壁部をテーパー状に形成したので、一対の側壁部によって設置構造体を強固に嵌合でき、一対の側壁部の長さが比較的長く構成される場合でも、設置構造体の設置の安定性を高めることができる。
【0016】
請求項5に記載のランナー部材によれば、設置構造体と、設置構造体よりも上方に位置する躯体との相互間に、当該ランナー部材を設けたので、上側躯体又は下側躯体の許容寸法誤差を効果的に吸収でき、設置構造体の設置性を一層確保しやすくなる。
【0017】
請求項6に記載の設置構造体の固定構造によれば、上側ランナー部材を、所定の基準で定められた上側躯体又は下側躯体の許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、下側ランナー部材よりも上側躯体又は下側躯体の寸法誤差を吸収できるように構成したので、少なくとも上側ランナー部材によって上側躯体又は下側躯体の許容寸法誤差を効果的に吸収でき、設置構造体の設置性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る建物及び設置構造体の固定構造を概念的に示す斜視図である。
図2図1のA-A矢視断面図である(一部図示省略)。
図3図1のB-B矢視断面図である(一部図示省略)。
図4】第1性能確認試験の各種のランナー部材の詳細を示す図である。
図5】第1性能確認試験の試験結果を示す図である。
図6】第2性能確認試験の各種の固定構造の詳細を示す図である。
図7】第2性能確認試験の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、この発明に係るランナー部材、及び設置構造体の固定構造の実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕実施の形態の基本的概念を説明した後、〔II〕実施の形態の具体的内容について説明し、最後に、〔III〕実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0020】
〔I〕実施の形態の基本的概念
まず、実施の形態の基本的概念について説明する。実施の形態は、概略的に、設置構造体と建物の躯体との相互間に設けられるランナー部材であり、設置構造体を躯体に対して固定するためのランナー部材に関する。
【0021】
ここで、「設置構造体」とは、建物の躯体同士の相互間に設けられる構造体を意味し、例えば、仕切り材(一例として、間仕切り体等)、壁材(一例として、内装用壁材等)、及び枠材(一例として、内装用枠材等)等を含む概念であるが、実施の形態では、間仕切り体として説明する。
【0022】
また、「建物」の具体的な構造や種類は任意であるが、例えば、戸建て住宅、集合住宅(一例として、マンション等)、オフィスビル、公共施設、及び商業施設等を含む概念であるが、実施の形態では、既設の商業施設として説明する。また、「建物の躯体」とは、例えば、建物の基本的な構造体であり、例えば、床材、柱材、梁材、壁材、天井材等を含む概念である。
【0023】
〔II〕実施の形態の具体的内容
次に、実施の形態の具体的内容について説明する。
【0024】
(構成)
最初に、実施の形態に係るランナー部材を備える設置構造体10の固定構造の構成と、この固定構造が適用される建物1の構成とについて説明する。
【0025】
(構成-建物)
最初に、建物1の構成について説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態に係る建物1及び設置構造体10の固定構造を概念的に示す斜視図である。以下の説明では、図1のX方向を建物1の左右方向(-X方向を建物1の左方向、+X方向を建物1の右方向)、図1のY方向を建物1の前後方向(+Y方向を建物1の前方向、-Y方向を建物1の後方向)、図1のZ方向を建物1の上下方向(+Z方向を建物1の上方向、-Z方向を建物1の下方向)と称する。
【0027】
建物1は、既設の商業施設(具体的には、複数の階層を有する鉄筋コンクリート造)の商業施設)であり、図1に示すように、床材2、柱材(図示省略)、梁材(図示省略)、及び壁材(図示省略)を備えている。
【0028】
床材2は、建物1の階層を構成するコンクリート構造体であり、図1に示すように、相互に間隔を隔てて上下方向に向けて複数並設される。
【0029】
なお、以下では、必要に応じて、複数の床材2のうち、図1に示す上側に位置する床材2aを「上側躯体2a」と称し、図1に示す下側に位置する床材2bを「下側躯体2b」と称する。
【0030】
柱材は、床材2を支持するものであり、床材2同士の相互間(すなわち、建物1の各階層の空間)に複数設けられる。
【0031】
梁材は、床材2を支持するものであり、各床材2の下面と当接可能な位置に複数設けられたり、又は同一階の床材2同士の相互間に設けられる。
【0032】
また、壁材は、床材2同士の相互間を仕切るためのものであり、床材2同士の相互間に複数設けられる。
【0033】
(構成-建物-設置構造体)
また、建物1のその他の構成については任意であるが、図1に示すように、建物1の所定の階層には、設置構造体10が設けられている。
【0034】
設置構造体10は、公知の間仕切り体であり、図1に示すように、上側躯体2aと下側躯体2bとの相互間に設けられており、骨材11及び振れ止め材12を備えている。
【0035】
(構成-建物-設置構造体-骨材)
骨材11は、設置構造体10の基本構造体である。この骨材11は、例えば長尺な公知の間仕切り用骨材(一例として、比較的軽量な鋼製の間仕切り用骨材)等を用いて構成され、具体的には、図1に示すように、前後方向に相互に間隔を隔てて設けられた一対のスタッド材11aと、一対のスタッド材11aを接続するスペーサ材11bであって、相互に間隔を隔てて上下方向に略沿って複数並設されたスペーサ材11bとを備えている。
【0036】
また、この骨材11は、当該骨材11の長手方向が上下方向に略沿うように設けられると共に、相互に間隔を隔てて左右方向に略沿って複数並設されている(図1では、3つ並設されている)。
【0037】
(構成-建物-設置構造体-振れ止め材)
振れ止め材12は、骨材11の揺れを抑制するための振れ止め手段である。この振れ止め材12は、例えば長尺な公知の間仕切り用振れ止め材(一例として、比較的軽量な鋼製の振れ止め材)等を用いて構成され、複数の骨材11を挿通するように設けられている。
【0038】
具体的には、図1に示すように、振れ止め材12の長手方向が左右方向に略沿うように設けられると共に、相互に間隔を隔てて上下方向に略沿って複数並設されており(図1では、2つ並設されている)、各骨材11に対して溶接又は固定具等によってそれぞれ接続されている。
【0039】
また、設置構造体10の製造方法については任意であるが、実施の形態では、工場において、公知の3次元モデル作成手法(例えば、BIM(Building Information Modeling)を利用したモデル作成手法)を用いて作成された3次元モデルに基づいて骨材11及び振れ止め材12を切断加工し、当該切断加工した骨材11及び振れ止め材12を組み合わせることにより、設置構造体10を製造している(いわゆる、プレカット工法で、設置構造体10を製造している)。ただし、これに限らず、例えば、工場において、設計図面に基づいて骨材11及び振れ止め材12を切断加工し、当該切断加工した骨材11及び振れ止め材12を組み合わせることにより、設置構造体10を製造してもよい。
【0040】
(構成-設置構造体の固定構造)
次に、設置構造体10の固定構造について説明する。
【0041】
図2は、図1のA-A矢視断面図である(一部図示省略)。図3は、図1のB-B矢視断面図である(一部図示省略)。
【0042】
設置構造体10の固定構造は、設置構造体10を上側躯体2a及び下側躯体2bの各々に対して固定するための固定構造であり、図1から図3に示すように、上側ランナー部材20及び下側ランナー部材30を備えている。
【0043】
(構成-設置構造体の固定構造-上側ランナー部材)
図2に戻り、上側ランナー部材20は、設置構造体10を上側躯体2aに対して固定するためのランナー部材である。この上側ランナー部材20は、長尺状体(例えば、比較的軽量な鋼製の長尺状体)にて構成されており、図2に示すように、上側躯体2aと設置構造体10との相互間(すなわち、設置構造体10よりも上方に位置する躯体との相互間)に設けられている。
【0044】
また、上側ランナー部材20の具体的な形状及び大きさについては任意であるが、実施の形態では以下の通りに設定している。
【0045】
すなわち、まず、上側ランナー部材20の断面形状(具体的には、Y-Z平面に沿った断面形状)については、一対の側壁部21及び底部22を有する略溝状の開放断面に設定しており、具体的には、図2に示すように、上側ランナー部材20の下端が開放された開放断面に設定している。
【0046】
また、上側ランナー部材20の左右方向の長さについては、設置構造体10の左右方向の長さと略同一に設定している。ただし、これに限らず、例えば、設置構造体10の左右方向の長さよりも長く設定してもよい。あるいは、設置構造体10の左右方向の長さよりも短く、且つ、設置構造体10の各骨材11を挿通可能な長さに設定してもよい。
【0047】
また、上側ランナー部材20の前後方向の長さについては、設置構造体10(具体的には、骨材11)の前後方向の長さよりも長く又は略同一に設定している。
【0048】
また、上側ランナー部材20の上下方向の長さについては、設置構造体10の骨材11の上端部が上側ランナー部材20に挿通可能な長さに設定している。
【0049】
また、上側ランナー部材20の取付方法については任意であるが、実施の形態では、図2に示すように、相互に間隔を隔てて左右方向に沿って並設された複数の固定部材23(例えば、ネジ、ビス等)を介して上側ランナー部材20の底部22と上側躯体2aとを接続することにより、取り付けている。
【0050】
また、上側ランナー部材20と設置構造体10との固定方法については任意であるが、実施の形態では、上側ランナー部材20の一対の側壁部21によって設置構造体10の各骨材11が嵌合されることにより、固定している。
【0051】
この場合において、実施の形態では、一対の側壁部21の各々の先端部が基端部よりも内側に位置するように、一対の側壁部21がテーパー状に形成されており、具体的には、一対の側壁部21の各々の角度が3°程度となるテーパー状に形成されている。
【0052】
これにより、一対の側壁部21によって設置構造体10の各骨材11を強固に嵌合でき、特に、後述するように、下側ランナー部材30に比べて、一対の側壁部21の長さが長く構成される場合でも、設置構造体10の設置の安定性を高めることができる。
【0053】
(構成-設置構造体の固定構造-上側ランナー部材-その他の構成)
また、上側ランナー部材20のその他の構成については任意であるが、実施の形態では、後述する第1性能確認試験の試験結果に基づいて、上側ランナー部材20は、所定の基準で定められた上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、下側ランナー部材30よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できるように構成されている。
【0054】
ここで、「所定の基準」とは、例えば、所定の法令、省令、又は規格で定められる基準を意味し、一例として、建築基準法で定められる基準、国土交通省で定められる基準、又はJIS規格で定められる基準等が該当する。
【0055】
また、「上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差」とは、所定の基準において上側躯体2a又は下側躯体2bの誤差として許容される寸法を意味し、例えば、±30mm程度等が該当する。
【0056】
また、上側ランナー部材20が上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収可能に構成される理由については、以下に示す通りとなる。
【0057】
すなわち、上述したように、工場で切断加工された上側ランナー部材20が上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できる量が比較的少ない場合に、上側躯体2a又は下側躯体2bのたわみ量が上記吸収できる量を上回ると、設置構造体10を上側躯体2a及び下側躯体2bの各々に対して固定しづらくなるおそれがあった。このような問題を回避するために、例えば、上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差に応じた複数の上側ランナー部材20をストックしておくことも考えられるが、この場合には、設置構造体10が設置される現場(以下、「設置現場」と称する)又は工場での上側ランナー部材20の管理が煩雑になる可能性がある。また、設置現場において、上側躯体2a又は下側躯体2bのたわみ量を実測し、且つこの実測結果を考慮して上側ランナー部材20を切断加工することも考えられるが、この場合には、設置現場において騒音作業や火気作業が発生すると共に、工場に比べて上側ランナー部材20の製造性が低下する可能性がある。よって、以上のような問題を回避できるように、上側ランナー部材20が上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収可能に構成されることで、上側ランナー部材20が工場で製造された場合でも設置構造体10の設置性を確保しながら、上側ランナー部材20の製造性を高めている。
【0058】
また、上側ランナー部材20のその他の構成の詳細については、上側ランナー部材20の側壁部21の部分のうち、設置構造体10(具体的には、設置構造体10の骨材11)が挿通される部分21a(以下、「挿通部分21a」と称する)以外の部分21b(以下、「余剰部分21b」と称する)の長さが、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差以上に設定されている。これにより、略溝状の開放断面を有する上側ランナー部材20である場合に、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を確実に吸収できる。
【0059】
ここで、余剰部分21bの長さUH1(図2では、上下方向の長さ)及び上側ランナー部材20の側壁部21の長さUH2(図2では、上下方向の長さ)の設定方法については任意であるが、実施の形態では、余剰部分21bの長さUH1及び側壁部21の長さUH2を最適な長さに設定する観点から、余剰部分21bの長さUH1を下記式(1)に基づいて設定し、側壁部21の長さUH2を、下記式(2)に基づいて設定している。
H1≧A+B+C+D・・・式(1)
H2=H1+E・・・式(2)
(ここで、
H1:余剰部分の長さの最大長さ、
H2:側壁部の長さ、
A:躯体の位置に伴う許容誤差、
B:躯体の断面寸法に伴う許容誤差、
C:躯体の仕上がりの平坦さに伴う許容誤差、
D:躯体のたわみ量に伴う許容誤差、
E:ランナー部材と設置構造体10とのかかりしろの最小限界値)
【0060】
例えば、国土交通省の公共建築工事標準仕様書、後述する第1性能確認試験の試験結果、構造計算の結果、及び経験則等に基づいて、A=20mm、B=20mm、C+D=5mm、E=25mmが導かれる場合には、UH1=H1≧A+B+C+D=20mm+20mm+5mm=45mmに設定され、UH2=H2=H1+E=45mm+25mm=70mmに設定されてもよい。
【0061】
このような上側ランナー部材20により、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収でき、設置構造体10の設置性を確保することが可能となる。また、例えば、特定の断面寸法の上側ランナー部材20を工場で製造した場合でも設置構造体10の設置性を確保できると共に、寸法誤差に応じた上側ランナー部材20をストックしておく必要がなく、且つ設置現場での設置作業を低減できるので、上側ランナー部材20の製造性(具体的には、製造の手間(いわゆる歩掛)及び製造コストの低減等)及び設置構造体10の設置性(具体的には、設置コストの低減等)を向上させることができる。
【0062】
(構成-設置構造体の固定構造-下側ランナー部材)
下側ランナー部材30は、設置構造体10を下側躯体2bに対して固定するための部材である。この下側ランナー部材30は、長尺状体(例えば、比較的軽量な鋼製の長尺状体)にて構成されており、図3に示すように、下側躯体2bと設置構造体10との相互間に設けられている。
【0063】
また、下側ランナー部材30の具体的な形状及び大きさについては任意であるが、実施の形態では以下の通りに設定している。
【0064】
すなわち、まず、下側ランナー部材30の断面形状(具体的には、Y-Z平面に沿った断面形状)については、一対の側壁部31及び底部32を有する略溝状の開放断面に設定しており、具体的には、図3に示すように、下側ランナー部材30の上端が開放され、且つ、一対の側壁部31が勾配のない直線状である開放断面に設定している。
【0065】
また、下側ランナー部材30の左右方向の長さについては、設置構造体10の左右方向の長さと略同一に設定している。ただし、これに限らず、例えば、設置構造体10の左右方向の長さよりも長く設定してもよい。あるいは、設置構造体10の左右方向の長さよりも短く、且つ、設置構造体10の各骨材11を挿通可能な長さに設定してもよい。
【0066】
また、下側ランナー部材30の前後方向の長さについては、設置構造体10(具体的には、骨材11)の前後方向の長さよりも長く又は略同一に設定している。
【0067】
また、下側ランナー部材30の上下方向の長さについては、設置構造体10の骨材11の下端部が下側ランナー部材30に挿通可能な長さに設定している。
【0068】
また、下側ランナー部材30の取付方法については任意であるが、実施の形態では、図3に示すように、相互に間隔を隔てて左右方向に沿って並設された複数の固定部材33(例えば、ネジ、ビス等)を介して下側ランナー部材30の底部32と下側躯体2bとを接続することにより、取り付けている。
【0069】
また、下側ランナー部材30と設置構造体10との固定方法については任意であるが、実施の形態では、下側ランナー部材30の一対の側壁部31によって設置構造体10の各骨材11が嵌合されることにより、固定している。
【0070】
(構成-設置構造体の固定構造-下側ランナー部材-その他の構成)
また、下側ランナー部材30のその他の構成については任意であるが、実施の形態では、後述する第2性能確認試験の試験結果に基づいて、下側ランナー部材30は、上側ランナー部材20よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できないように構成されている。
【0071】
ここで、下側ランナー部材30が上側ランナー部材20よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できないように構成された理由については、以下に示す通りとなる。
【0072】
すなわち、下側ランナー部材30が上側ランナー部材20よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できるように構成された場合でも、下側躯体2bの下端部が下側ランナー部材30の底部32と当接又は近接するように設けられるので、下側ランナー部材30によって上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差をほとんど吸収できず、上記構成を採用しても機能しないことから、下側ランナー部材30が上側ランナー部材20よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できないように構成されている。なお、上述したように、下側ランナー部材30によって上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差をほとんど吸収されないものの、下側躯体2bは比較的精度良く施工できることで下側躯体2bの上面の寸法誤差がわずかであることから、上側ランナー部材20のみによって上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を十分に吸収できるものと考えられる。
【0073】
具体的には、図3に示すように、下側ランナー部材30の側壁部31の部分のうち、挿通部分31aの長さ(図3では、上下方向の長さ)が、下側ランナー部材30の挿通部分31aの長さと略同一に設定されており、余剰部分31bの長さLH1(図3では、上下方向の長さ)が、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差未満に設定されており、一例として、5mm~10mm程度に設定されている。
【0074】
なお、この場合において、下側ランナー部材30の側壁部31の長さLH2(図3では、上下方向の長さ)については、35mm程度に設定してもよい。
【0075】
以上のような設置構造体10の固定構造により、少なくとも上側ランナー部材20によって上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を効果的に吸収でき、設置構造体10の設置性を確保することが可能となる。
【0076】
(設置構造体の固定方法)
次に、設置構造体10の固定方法について説明する。
【0077】
設置構造体10の固定方法は、設置構造体10を上側躯体2a及び下側躯体2bの各々に対して固定するための方法であり、第1取付工程、第2取付工程、及び固定工程を含んでいる。
【0078】
(設置構造体の固定方法-第1取付工程)
最初に、第1取付工程について説明する。
【0079】
第1取付工程は、上側ランナー部材20を上側躯体2aに取り付ける工程である。
【0080】
具体的には、上側ランナー部材20の底部22を上側躯体2aの下面と当接した後に、固定部材23を介して当該当接した底部22を上側躯体2aとを接続することにより、取り付ける。
【0081】
(設置構造体の固定方法-第2取付工程)
次に、第2取付工程について説明する
【0082】
第2取付工程は、第1取付工程の後に(又は、第1取付工程の前又は同時に)、下側ランナー部材30を下側躯体2bに取り付ける工程である。
【0083】
具体的には、下側ランナー部材30の底部32を下側躯体2bの上面と当接した後に、固定部材33を介して当該当接した底部32を下側躯体2bとを接続することにより、取り付ける。
【0084】
(設置構造体の固定方法-固定工程)
続いて、第1取付工程及び第2取付工程の後に、設置構造体10を上側ランナー部材20及び下側ランナー部材30に対して固定する工程である。
【0085】
具体的には、工場又は設置現場において設置構造体10を組み立てる。次に、この設置構造体10の各骨材11の下端部を下側ランナー部材30に挿通することにより、当該各骨材11の下端部を下側ランナー部材30の底部32に当接又は近接させる。また、この設置構造体10の各骨材11の上端部を上側ランナー部材20に挿通することにより、当該各骨材11の上端部を上側ランナー部材20の一対の側壁部21に嵌合させる。
【0086】
この場合において、上述したように、上側ランナー部材20が、所定の基準で定められた上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、下側ランナー部材30よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できるように構成されているので、上側ランナー部材20によって上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収でき、設置構造体10の設置性を確保することが可能となる。
【0087】
このような固定方法により、設置構造体10を上側躯体2a及び下側躯体2bの各々に対して簡易に固定することができる。
【0088】
(試験結果)
次に、本件出願人が行った各種の試験結果について説明する。ここでは、第1性能確認試験及び第2性能確認試験の試験結果について説明する。
【0089】
(試験結果-第1性能確認試験-概要)
最初に、第1性能確認試験の概要について説明する。図4は、第1性能確認試験の各種のランナー部材の詳細を示す図である。
【0090】
第1性能確認試験は、各種の上側ランナー部材20の性能を確認するための試験である。
【0091】
この第1性能確認試験の試験方法については任意であるが、以下の通りとなる。すなわち、各種の上側ランナー部材20及び下側ランナー部材30を用いて設置構造体10(間仕切り体)を固定することで、当該固定時における上側ランナー部材20の強度(例えば、公知の強度試験から得られる強度)、設置構造体10の設置性(施工性)、及び上側ランナー部材20の誤差吸収性を評価した。
【0092】
また、第1性能確認試験で用いられる上側ランナー部材20については、図4に示すように、第1上側ランナー部材から第3上側ランナー部材に分けられる。
【0093】
このうち、第1上側ランナー部材から第3上側ランナー部材については、略溝状の開放断面を有する鋼製の長尺状体である。また、第1上側ランナー部材の側壁部21の長さUH2=60mmであり、第2上側ランナー部材の側壁部21の長さUH2=70mmであり、第3上側ランナー部材の側壁部21の長さUH2=80mmである。
【0094】
また、第1性能確認試験で用いられる下側ランナー部材30については、略溝状の開放断面を有する鋼製の長尺状体である。また、下側ランナー部材30の側壁部31の長さLH2=35mmである(すなわち、上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できないように構成されている)。
【0095】
(試験結果-第1性能確認試験-試験結果の詳細)
次に、第1性能確認試験の試験結果の詳細について説明する。
【0096】
図5は、第1性能確認試験の試験結果を示す図である。また、図5の「◎」は非常に良い旨を示し、図5の「〇」は良い旨を示し、図5の「△」は可もなく不可もない旨を示し、図5の「×」は良くなかった旨を示し、図5の「-」は評価しなかった旨を示す(なお、後述する図7についても同様とする)。
【0097】
図5に示すように、第1上側ランナー部材については、強度の評価が高いものの、設置構造体10の設置性及び誤差吸収性の評価がやや低かった。また、第2上側ランナー部材については、強度、設置構造体10の設置性、及び誤差吸収性の評価が高かった。また、第3上側ランナー部材については、誤差吸収性の評価が高いものの、設置構造体10の設置性の評価が低かった。
【0098】
以上のことから、上側ランナー部材20の側壁部21の長さUH2を70mm(すなわち、余剰部分21bの長さUH1を45mm)にすることの有効性が確認できた。
【0099】
(試験結果-第2性能確認試験-概要)
次に、第2性能確認試験の概要について説明する。図6は、第2性能確認試験の各種の固定構造の詳細を示す図である。
【0100】
第2性能確認試験は、各種の固定構造の性能を確認するための試験である。
【0101】
この第2性能確認試験の試験方法については任意であるが、以下の通りとなる。すなわち、各種の固定構造を用いて設置構造体10(間仕切り体)を固定することで、当該固定時における固定構造の材料コスト、設置構造体10の設置性、及び固定構造の誤差吸収性を評価した。
【0102】
また、第2性能確認試験で用いられる固定構造については、図6に示すように、第1固定構造から第4固定構造に分けられる。
【0103】
このうち、第1固定構造の上側ランナー部材20及び下側ランナー部材30については、第1性能確認試験の下側ランナー部材30の構成と同一にそれぞれ構成されており、具体的には、側壁部21の長さUH2=35mmとしており、側壁部31の長さLH2=35mmとしている。
【0104】
また、第2固定構造の上側ランナー部材20については、第1性能確認試験の第2上側ランナー部材の構成と同一に構成されており、具体的には、側壁部21の長さUH2=70mmとしている。また、第2固定構造の下側ランナー部材30については、第1性能確認試験の下側ランナー部材30の構成と同一に構成されており、具体的には、側壁部31の長さLH2=35mmとしている。
【0105】
また、第3固定構造の上側ランナー部材20については、第1性能確認試験の下側ランナー部材30の構成と同一に構成されており、具体的には、側壁部21の長さUH2=35mmとしている。また、第3固定構造の下側ランナー部材30については、第1性能確認試験の第2上側ランナー部材の構成と同一に構成されており、具体的には、側壁部31の長さLH2=70mmとしている。
【0106】
また、第4固定構造の上側ランナー部材20及び下側ランナー部材30については、第1性能確認試験の第2上側ランナー部材の構成と同一にそれぞれ構成されており、具体的には、側壁部21の長さUH2=70mmとしており、側壁部31の長さLH2=70mmとしている。
【0107】
(試験結果-第2性能確認試験-試験結果の詳細)
次に、第2性能確認試験の試験結果の詳細について説明する。図7は、第2性能確認試験の試験結果を示す図である。
【0108】
図7に示すように、第1固定構造については、材料コストの評価が高いものの、設置構造体10の設置性及び誤差吸収性の評価が低かった。また、第2固定構造については、材料コスト、設置構造体10の設置性、及び誤差吸収性の評価が高かった。また、第3固定構造については、材料コストの評価が高かった。一方で、下側ランナー部材30の下端部が下側躯体2bと当接又は近接するため、設置構造体10の設置性の評価がやや低く、且つ誤差吸収性の評価が低かった。また、第4固定構造については、材料コストの評価がやや低いものの、設置構造体10の設置性の評価がやや高く、且つ誤差吸収性の評価が高かった。
【0109】
以上のことから、上側ランナー部材20を、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、下側ランナー部材30よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できるように構成することの有効性が確認できた。
【0110】
(実施の形態の効果)
このように実施の形態によれば、上側ランナー部材20を、所定の基準で定められた躯体の許容寸法誤差を吸収可能に構成したので、躯体の許容寸法誤差を吸収でき、設置構造体10の設置性を確保することが可能となる。また、例えば、特定の断面寸法の上側ランナー部材20を工場で製造した場合でも設置構造体10の設置性を確保できると共に、寸法誤差に応じた上側ランナー部材20をストックしておく必要がなく、且つ設置現場での設置作業を低減できるので、上側ランナー部材20の製造性(具体的には、製造の手間(いわゆる歩掛)及び製造コストの低減等)及び設置構造体10の設置性(具体的には、設置コストの低減等)を向上させることができる。
【0111】
また、上側ランナー部材20の側壁部21の部分のうち設置構造体10が挿通される部分以外の余剰部分21bの長さUH1を、躯体の許容寸法誤差以上としたので、略溝状の開放断面を有する上側ランナー部材20である場合に、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を確実に吸収でき、設置構造体10の設置性を確保しやすくなる。
【0112】
また、余剰部分21bの長さUH1の最大長さを、下記式(1)に基づいて設定し、側壁部21の長さを、下記式(2)に基づいて設定したので、余剰部分21bの長さ及び側壁部21の長さを最適な長さに設定でき、設置構造体10の設置性を一層確保しやすくなる。
H1≧A+B+C+D・・・式(1)
H2=H1+E・・・式(2)
(ここで、
H1:余剰部分の長さの最大長さ、
H2:側壁部の長さ、
A:躯体の位置に伴う許容誤差、
B:躯体の断面寸法に伴う許容誤差、
C:躯体の仕上がりの平坦さに伴う許容誤差、
D:躯体のたわみ量に伴う許容誤差、
E:ランナー部材と設置構造体10とのかかりしろの最小限界値)
【0113】
また、側壁部21の先端部が基端部よりも内側に位置するように、側壁部21をテーパー状に形成したので、一対の側壁部21によって設置構造体10を強固に嵌合でき、一対の側壁部21の長さUH2が比較的長く構成される場合でも、設置構造体10の設置の安定性を高めることができる。
【0114】
また、設置構造体10と、設置構造体10よりも上方に位置する躯体との相互間に、上側ランナー部材20を設けたので、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を効果的に吸収でき、設置構造体10の設置性を一層確保しやすくなる。
【0115】
また、上側ランナー部材20を、所定の基準で定められた上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、下側ランナー部材30よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できるように構成したので、少なくとも上側ランナー部材20によって上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を効果的に吸収でき、設置構造体10の設置性を確保することが可能となる。
【0116】
〔III〕実施の形態に対する変形例
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0117】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0118】
(形状、数値、構造、時系列について)
実施の形態や図面において例示した構成要素に関して、形状、数値、又は複数の構成要素の構造若しくは時系列の相互関係については、本発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。
【0119】
(設置構造体について)
上記実施の形態では、設置構造体10が、一対の床材2同士の相互間に設けられていると説明したがこれに限らず、例えば、一対の壁材同士の相互間、又は一対の柱材同士の相互間に設けられてもよい。
【0120】
なお、設置構造体10が一対の壁材同士の相互間に設けられる場合には、躯体の許容寸法誤差を吸収可能に構成されたランナー部材が設置構造体10と少なくとも一対の壁材のいずれか一方との相互間に設けられてもよい。また、設置構造体10が一対の柱材同士の相互間に設けられる場合には、躯体の許容寸法誤差を吸収可能に構成されたランナー部材が設置構造体10と少なくとも一対の柱材のいずれか一方との相互間に設けられてもよい。
【0121】
(ランナー部材について)
上記実施の形態では、上側ランナー部材20の余剰部分21bの長さUH1が、式(1)に基づいて設定されていると説明したが、これに限らず、例えば、式(1)以外の方法で設定されてもよく、一例として、施工実績から得られる長さに基づいて設定されてもよい。
【0122】
また、上記実施の形態では、上側ランナー部材20及び下側ランナー部材30の各々が、一対の側壁部及び底部を有する略溝状の開放断面を有すると説明したが、これに限らず、例えば、略半円環状の開放断面を有してもよい。
【0123】
また、上記実施の形態では、上側ランナー部材20の一対の側壁部21の各々が、テーパー状に形成されていると説明したが、これに限らない。例えば、一対の側壁部21のいずれか一方の先端部が基端部よりも内側に位置するように、当該側壁部21がテーパー状に形成され、一対の側壁部21のいずれか他方は、勾配のない直線状に形成されてもよい。あるいは、上側ランナー部材20の一対の側壁部21の各々が勾配のない直線状に形成されてもよい。
【0124】
また、上記実施の形態では、下側ランナー部材30の一対の側壁部31の各々が、勾配のない直線状に形成されていると説明したが、これに限らない。例えば、上側ランナー部材20の一対の側壁部21と同様に、テーパー状に形成されてもよい。
【0125】
また、上記実施の形態では、上側ランナー部材20と設置構造体10との固定方法について、上側ランナー部材20の一対の側壁部21によって設置構造体10の各骨材11が嵌合されることにより、固定していると説明したが、これに限らない。例えば、上記嵌合に加えて、設置構造体10の各骨材11を上記一対の側壁部21の少なくともいずれか一方に対して固定具によって接続することにより、固定してもよい。
【0126】
また、上記実施の形態では、上側ランナー部材20が、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、下側ランナー部材30よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できるように構成され、下側ランナー部材30が、上側ランナー部材20よりも上側躯体2a又は下側躯体2bの寸法誤差を吸収できないように構成されていると説明したが、これに限らない。例えば、下側躯体2bの下端部が下側ランナー部材30の底部32と離れて設置されることで、下側ランナー部材30によって寸法誤差の吸収が期待できる場合には、上側ランナー部材20及び下側ランナー部材30は、上側躯体2a又は下側躯体2bの許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ寸法誤差の吸収性能が同一となるように構成されてもよい。この場合には、下側ランナー部材30は、特許請求の範囲における「ランナー部材」に対応する。
【0127】
(付記)
付記1のランナー部材は、設置構造体と建物の躯体との相互間に設けられるランナー部材であり、前記設置構造体を前記躯体に対して固定するためのランナー部材であって、当該ランナー部材を、所定の基準で定められた前記躯体の許容寸法誤差を吸収可能に構成した。
【0128】
付記2のランナー部材は、付記1に記載のランナー部材において、当該ランナー部材の断面形状を、一対の側壁部及び底部を有する略溝状の開放断面とし、前記側壁部の部分のうち前記設置構造体が挿通される部分以外の余剰部分の長さを、前記躯体の許容寸法誤差以上とした。
【0129】
付記3のランナー部材は、付記2に記載のランナー部材において、前記躯体は、コンクリート構造体であり、前記余剰部分の長さの最大長さを、下記式(1)に基づいて設定し、前記側壁部の長さを、下記式(2)に基づいて設定した、付記2に記載のランナー部材。
H1≧A+B+C+D・・・式(1)
H2=H1+E・・・式(2)
(ここで、
H1:前記余剰部分の長さの最大長さ、
H2:前記側壁部の長さ、
A:前記躯体の位置に伴う許容誤差、
B:前記躯体の断面寸法に伴う許容誤差、
C:前記躯体の仕上がりの平坦さに伴う許容誤差、
D:前記躯体のたわみ量に伴う許容誤差、
E:当該ランナー部材と前記設置構造体とのかかりしろの最小限界値)
【0130】
付記4のランナー部材は、付記2又は3に記載のランナー部材において、前記側壁部の先端部が基端部よりも内側に位置するように、前記側壁部をテーパー状に形成した。
【0131】
付記5のランナー部材は、付記1から4のいずれか一項に記載のランナー部材において、前記設置構造体と、前記設置構造体よりも上方に位置する前記躯体との相互間に、当該ランナー部材を設けた。
【0132】
付記6の設置構造体の固定構造は、建物の上側躯体と下側躯体との相互間に設けられる設置構造体を当該上側躯体及び当該下側躯体の各々に対して固定するための固定構造であって、前記上側躯体と前記設置構造体との相互間に設けられる上側ランナー部材であり、前記設置構造体を前記上側躯体に対して固定するための上側ランナー部材と、前記下側躯体と前記設置構造体との相互間に設けられる下側ランナー部材であり、前記設置構造体を前記下側躯体に対して固定するための下側ランナー部材と、を備え、前記上側ランナー部材を、所定の基準で定められた前記上側躯体又は前記下側躯体の許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、前記下側ランナー部材よりも前記上側躯体又は前記下側躯体の寸法誤差を吸収できるように構成した。
【0133】
(付記の効果)
付記1に記載のランナー部材によれば、ランナー部材を、所定の基準で定められた躯体の許容寸法誤差を吸収可能に構成したので、躯体の許容寸法誤差を吸収でき、設置構造体の設置性を確保することが可能となる。また、例えば、特定の断面寸法のランナー部材を工場で製造した場合でも設置構造体の設置性を確保できると共に、寸法誤差に応じたランナー部材をストックしておく必要がなく、且つ設置現場での設置作業を低減できるので、ランナー部材の製造性(具体的には、製造の手間(いわゆる歩掛)及び製造コストの低減等)及び設置構造体の設置性(具体的には、設置コストの低減等)を向上させることができる。
【0134】
付記2に記載のランナー部材によれば、側壁部の部分のうち設置構造体が挿通される部分以外の余剰部分の長さを、躯体の許容寸法誤差以上としたので、略溝状の開放断面を有するランナー部材である場合に、上側躯体又は下側躯体の許容寸法誤差を確実に吸収でき、設置構造体の設置性を確保しやすくなる。
【0135】
付記3に記載のランナー部材によれば、余剰部分の長さの最大長さを、下記式(1)に基づいて設定し、側壁部の長さを、下記式(2)に基づいて設定したので、余剰部分の長さ及び側壁部の長さを最適な長さに設定でき、設置構造体の設置性を一層確保しやすくなる。
H1≧A+B+C+D・・・式(1)
H2=H1+E・・・式(2)
(ここで、
H1:余剰部分の長さの最大長さ、
H2:側壁部の長さ、
A:躯体の位置に伴う許容誤差、
B:躯体の断面寸法に伴う許容誤差、
C:躯体の仕上がりの平坦さに伴う許容誤差、
D:躯体のたわみ量に伴う許容誤差、
E:当該ランナー部材と設置構造体とのかかりしろの最小限界値)
【0136】
付記4に記載のランナー部材によれば、側壁部の先端部が基端部よりも内側に位置するように、側壁部をテーパー状に形成したので、一対の側壁部によって設置構造体を強固に嵌合でき、一対の側壁部の長さが比較的長く構成される場合でも、設置構造体の設置の安定性を高めることができる。
【0137】
付記5に記載のランナー部材によれば、設置構造体と、設置構造体よりも上方に位置する躯体との相互間に、当該ランナー部材を設けたので、上側躯体又は下側躯体の許容寸法誤差を効果的に吸収でき、設置構造体の設置性を一層確保しやすくなる。
【0138】
付記6に記載の設置構造体の固定構造によれば、上側ランナー部材を、所定の基準で定められた上側躯体又は下側躯体の許容寸法誤差を吸収可能であり、且つ、下側ランナー部材よりも上側躯体又は下側躯体の寸法誤差を吸収できるように構成したので、少なくとも上側ランナー部材によって上側躯体又は下側躯体の許容寸法誤差を効果的に吸収でき、設置構造体の設置性を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0139】
1 建物
2 床材
2a 上側躯体
2b 下側躯体
10 設置構造体
11 骨材
11a スタッド材
11b スペーサ材
12 振れ止め材
20 上側ランナー部材
21 側壁部
21a 挿通部分
21b 余剰部分
22 底部
23 固定部材
30 下側ランナー部材
31 側壁部
31a 挿通部分
31b 余剰部分
32 底部
33 固定部材
LH1 余剰部分の長さ
LH2 側壁部の長さ
UH1 余剰部分の長さ
UH2 側壁部の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7