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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188394
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ひずみゲージ、ロードセル
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20221214BHJP
   G01L 1/22 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G01B7/16 R
G01L1/22 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096391
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 彩
(72)【発明者】
【氏名】小笠 洋介
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】湯口 昭代
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
【テーマコード(参考)】
2F049
2F063
【Fターム(参考)】
2F049BA17
2F049DA01
2F049DA04
2F063EC03
2F063EC05
(57)【要約】
【課題】はかり用途に使用可能なひずみゲージを提供する。
【解決手段】本ひずみゲージは、ロバーバル型の起歪体に搭載されるひずみゲージであって、可撓性を有する基材と、前記基材上に、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成された抵抗体と、を有し、前記抵抗体の膜厚は、6nm以上100nm以下である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロバーバル型の起歪体に搭載されるひずみゲージであって、
可撓性を有する基材と、
前記基材上に、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成された抵抗体と、を有し、
前記抵抗体の膜厚は、6nm以上100nm以下である、ひずみゲージ。
【請求項2】
前記抵抗体の膜厚は、6nm以上50nm以下である、請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記抵抗体の膜厚は、11nm以上50nm以下である、請求項2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
ゲージ率が10以上である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記抵抗体に含まれるCrN及びCrNの割合は、20重量%以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
前記CrN及び前記CrN中の前記CrNの割合は、80重量%以上90重量%未満である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
ロバーバル型の起歪体と、
前記起歪体に搭載された請求項1乃至6のいずれか一項に記載のひずみゲージと、を有するロードセル。
【請求項8】
複数の前記抵抗体を有する請求項7に記載のロードセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージ、ロードセルに関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に抵抗体を備え、測定対象物に貼り付けて、測定対象物の特性を検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、例えば、材料のひずみを検出するセンサや、周囲温度を検出するセンサ等のセンサ用途として使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-221696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ひずみゲージはセンサ用途に用いる以外に、はかり用途に用いる場合もあり、その場合には、センサ用途よりも厳しいクリープに関する規格を満足する必要がある。そのため、センサ用途に使用できるひずみゲージであっても、はかり用途には使用できない場合があった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、はかり用途に使用可能なひずみゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ひずみゲージは、ロバーバル型の起歪体に搭載されるひずみゲージであって、可撓性を有する基材と、前記基材上に、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成された抵抗体と、を有し、前記抵抗体の膜厚は、6nm以上100nm以下である。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、はかり用途に使用可能なひずみゲージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るロードセルを例示する平面図である。
図2】第1実施形態に係るロードセルを例示する側面図である。
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図4】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
図5】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
図6】クリープ量及びクリープリカバリー量の測定方法について説明する図である。
図7】抵抗体の膜厚とクリープ量及びクリープリカバリー量の検討結果を示す図である。
図8】ひずみ限界の実験結果を示す図である。
図9】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
[ロードセル]
図1は、第1実施形態に係るロードセルを例示する平面図である。図2は、第1実施形態に係るロードセルを例示する側面図である。図1及び図2を参照すると、ロードセル100は、起歪体110と、ひずみゲージ1とを有している。
【0011】
起歪体110は、略直方体状の金属ブロックに貫通孔120、溝131、及び溝132を設けたロバーバル型の起歪体である。起歪体110は、例えば、SUS304、アルミニウム合金、鉄等の金属から形成される。
【0012】
貫通孔120は、起歪体110の一方の側面から他方の側面まで貫通する。貫通孔120は、例えば、側面視で、互いに離隔して配置された2つの円形孔の対向する部分の一部が連通した眼鏡状に形成されている。
【0013】
溝131及び132は、起歪体110の上下方向に、貫通孔120を挟んで互いに対向するように配置されている。溝131は起歪体110の上面から貫通孔120側に窪んでおり、溝132は起歪体110の下面から貫通孔120側に窪んでいる。
【0014】
貫通孔120と溝131及び132の各々とに挟まれた部分は、薄肉部141~144となる。薄肉部141~144は、外力によりひずみが発生する起歪部である。溝131内の薄肉部141上及び薄肉部142上には、4つのひずみゲージ1が行列状に配置されている。各々のひずみゲージ1において、抵抗体のグリッド方向は、例えば、起歪体110の長手方向を向いている。
【0015】
各々のひずみゲージ1は、例えば、接着層を介して、溝131内の薄肉部141上及び薄肉部142上に貼り付けられている。接着層は、ひずみゲージ1と起歪体110とを固着する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、変性ウレタン樹脂等を用いることができる。また、ボンディングシート等の材料を用いても良い。接着層の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.1μm~50μm程度とすることができる。
【0016】
ロードセル100が外部から荷重を受けると、起歪部である薄肉部141~144に応力が発生し、ひずみが生じる。ひずみゲージ1は、薄肉部141~144のひずみにより生じる抵抗値の変化を検知する。例えば、4つのひずみゲージ1をフルブリッジ接続して抵抗値の変化を演算処理することで、外部から受けた荷重を算出できる。
【0017】
[ひずみゲージ]
図3は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。図4は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、図3のA-A線に沿う断面を示している。図5は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)であり、図3のB-B線に沿う断面を示している。
【0018】
図3図5を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、配線40と、電極50と、カバー層60とを有している。図3図5では、便宜上、カバー層60の外縁のみを破線で示している。なお、カバー層60は、必要に応じて設ければよい。
【0019】
なお、図3図5では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体30が設けられていない側を下側又は他方の側とする。また、各部位の抵抗体30が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体30が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。ただし、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。また、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0020】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の膜厚は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の膜厚が5μm~200μmであると、ひずみの伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0021】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、膜厚が500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0022】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0023】
基材10の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO、ZrO(YSZも含む)、Si、Si、Al(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO、BaTiO)等の結晶性材料が挙げられ、更に、それ以外に非晶質のガラス等が挙げられる。また、基材10の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。この場合、金属製の基材10上に、例えば、絶縁膜が形成される。
【0024】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、図3では、便宜上、抵抗体30を濃い梨地模様で示している。
【0025】
抵抗体30は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(図3のA-A線の方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(図3のB-B線の方向)となる。
【0026】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eを形成する。抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eは、配線40を介して、電極50と電気的に接続されている。言い換えれば、配線40は、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eと各々の電極50とを電気的に接続している。
【0027】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0028】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、CrN等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0029】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0030】
また、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
【0031】
また、CrN及びCrN中のCrNの割合は80重量%以上90重量%未満であることが好ましく、90重量%以上95重量%未満であることが更に好ましい。CrN及びCrN中のCrNの割合が90重量%以上95重量%未満であることで、半導体的な性質を有するCrNにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
【0032】
一方で、膜中に微量のNもしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
【0033】
配線40は、基材10上に形成され、抵抗体30及び電極50と電気的に接続されている。配線40は直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線40は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、図3では、便宜上、配線40及び電極50を抵抗体30よりも薄い梨地模様で示している。
【0034】
電極50は、基材10上に形成され、配線40を介して抵抗体30と電気的に接続されており、例えば、配線40よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極50は、抵抗体30の、ひずみにより生じる抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。
【0035】
なお、抵抗体30と配線40と電極50とは便宜上別符号としているが、これらは同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、抵抗体30と配線40と電極50とは、厚さが略同一である。
【0036】
配線40及び電極50上に、抵抗体30よりも低抵抗の材料から形成された導電層を積層してもよい。積層する導電層の材料は、抵抗体30よりも低抵抗の材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。導電層の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、3μm~5μm程度とすることができる。
【0037】
このように、配線40及び電極50上に、抵抗体30よりも低抵抗の材料から形成された導電層を積層すると、配線40は抵抗体30よりも抵抗が低くなるため、配線40が抵抗体として機能してしまうことを抑制できる。その結果、抵抗体30によるひずみ検出精度を向上できる。
【0038】
言い換えれば、抵抗体30よりも低抵抗な配線40を設けることで、ひずみゲージ1の実質的な受感部を抵抗体30が形成された局所領域に制限できる。そのため、抵抗体30によるひずみ検出精度を向上できる。
【0039】
特に、抵抗体30としてCr混相膜を用いたゲージ率10以上の高感度なひずみゲージにおいて、配線40を抵抗体30よりも低抵抗化して実質的な受感部を抵抗体30が形成された局所領域に制限することは、ひずみ検出精度の向上に顕著な効果を発揮する。また、配線40を抵抗体30よりも低抵抗化することは、横感度を低減する効果も奏する。
【0040】
カバー層60は、基材10上に形成され、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出する。配線40の一部は、カバー層60から露出してもよい。抵抗体30及び配線40を被覆するカバー層60を設けることで、抵抗体30及び配線40に機械的な損傷等が生じることを防止できる。また、カバー層60を設けることで、抵抗体30及び配線40を湿気等から保護できる。なお、カバー層60は、電極50を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0041】
カバー層60は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成することができる。カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0042】
[抵抗体の膜厚(1)]
ここで、ひずみゲージ1をはかり用途に用いる場合の、抵抗体30の好適な膜厚について説明する。
【0043】
ひずみゲージ1をはかり用途に用いる場合には、クリープに関する規格を満足する必要がある。クリープに関する規格とは、例えば、OIML R60に基づく精度等級C1(以降、C1規格とする)や、OIML R60に基づく精度等級C2(以降、C2規格とする)が挙げられる。
【0044】
C1規格では、クリープ量及びクリープリカバリー量を±0.0735%以下にする必要がある。また、C2規格では、クリープ量及びクリープリカバリー量を±0.0368%以下にする必要がある。なお、ひずみゲージ1をセンサ用途に用いる場合には、クリープ量及びクリープリカバリー量の規格は±0.5%程度である。
【0045】
発明者らが鋭意検討したところ、クリープは抵抗体30の膜厚に対する依存性が高く、ひずみゲージ1をロバーバル型の起歪体に搭載し、かつC1規格やC2規格を満足するためには、抵抗体30の膜厚を比較的薄くする必要があるとの知見に至った。
【0046】
そこで、発明者らは、クリープ量及びクリープリカバリー量を低減するために必要な、抵抗体30の膜厚について検討した。具体的には、ロバーバル型の起歪体を備えたミネベアミツミ製FSU-15Kにおいて、ひずみゲージ1の抵抗体30の膜厚を変えた複数のサンプルを作製し(4つのひずみゲージ1において、各抵抗体30の膜厚は同一である)、各々のサンプルのクリープ量及びクリープリカバリー量を測定した。ひずみゲージ1において、基材10としては、膜厚25μmのポリイミド樹脂製のフィルムを用いた。また、抵抗体30には、Cr混相膜を用いた。なお、FSU-15Kは、SUS304から形成されたロバーバル型の起歪体を備えた定格容量が15kgfのロードセルである。
【0047】
クリープ量及びクリープリカバリー量は、ひずみゲージ1において抵抗体30が設けられた面の弾性変形の量(ひずみ量)が時間経過と共に変化する量であるため、4つのひずみゲージ1をフルブリッジ接続して演算処理することで測定できる。図6を参照して、詳しく説明する。
【0048】
図6は、クリープ量及びクリープリカバリー量の測定方法について説明する図である。図6において、横軸は時間、縦軸はひずみ電圧[mV]である。
【0049】
まず、測定装置に電源を投入して10秒後に、起歪体に貼り付けられたひずみゲージ1に150%荷重を10秒間かけ、その後、除荷する。除荷後、20分が経過したら、起歪体に貼り付けられたひずみゲージ1に100%荷重を20分間かけ、その後、除荷する。そして、除荷後20分経過するのを待つ。
【0050】
ひずみ電圧は、例えば、図6に示すように変化する。図6において、150%荷重を除荷後20分経過した時点と、100%荷重をかけた直後の時点のひずみ電圧の差の絶対値Bを測定する。また、100%荷重をかけた直後の時点と、100%荷重をかけ始めてから20分経過した時点のひずみ電圧の差の絶対値ΔAを測定する。このとき、ΔA/Bがクリープ量となる。次に、100%荷重を除荷した直後の時点と、100%荷重を除荷後20分経過した時点のひずみ電圧の差の絶対値ΔCを測定する。このとき、ΔC/Bがクリープリカバリー量となる。
【0051】
なお、100%荷重とは2kgであり、150%荷重とは100%荷重の1.5倍の荷重である。
【0052】
図7は、抵抗体の膜厚とクリープ量及びクリープリカバリー量の検討結果を示す図であり、抵抗体30の膜厚を変えた複数のひずみゲージ1のクリープ量及びクリープリカバリー量を図6の測定方法で測定した結果をまとめたものである。
【0053】
図7に示すように、抵抗体30の膜厚が6nm以上100nm以下であれば、C1規格のクリープ量及びクリープリカバリー量を満足できる。また、図7に示すように、抵抗体30の膜厚が11nm以上50nm以下であれば、C2規格のクリープ量及びクリープリカバリー量を満足できる。すなわち、ロバーバル型の起歪体に搭載されるひずみゲージ1において、抵抗体30の膜厚を所定範囲内に制御することで、クリープ量及びクリープリカバリー量が改善するため、ひずみゲージ1をはかり用途に使用可能となる。また、発明者らは、C1規格又はC2規格を満足する抵抗体30の上記の膜厚範囲は、少なくとも抵抗体30の幅が50μm以上500μm以下の範囲で成立することを確認した。
【0054】
なお、発明者らの検討によれば、C1規格又はC2規格のクリープ量及びクリープリカバリー量を満足できる抵抗体30の膜厚は、起歪体の構造にも依存する。すなわち、ロバーバル型の起歪体を用いる場合の抵抗体30の好適な膜厚範囲は上記のとおりであるが、コラム型、リング型、ダイヤフラム型等の起歪体を用いる場合には、抵抗体30の好適な膜厚範囲が上記とは異なる場合もあり得る。
【0055】
[抵抗体の膜厚(2)]
起歪体に貼り付けられたひずみゲージ1がより大きなひずみ量を検出するためには、抵抗体30が伸び縮みする過程で抵抗体30自身が破損(断線等)してはならないため、ひずみ限界(耐ひずみ性)をできるだけ向上することが好ましい。なお、ひずみ限界とは、ひずみゲージにひずみを与えたときに、クラック又は断線が生じ始める機械的ひずみの値である。
【0056】
発明者らが鋭意検討したところ、抵抗体30の膜厚は、クリープに影響するだけでなく、ひずみ限界にも影響するとの知見に至った。すなわち、抵抗体30の膜厚が薄い方が、抵抗体30がひずみを受けたときにクラックや断線が発生しにくいことがわかった。
【0057】
そこで、発明者らは、ひずみ限界の向上のために必要な、抵抗体30の膜厚について検討した。具体的には、発明者らは、抵抗体30の膜厚が50nm、220nm、800nmの3種類のひずみゲージ1を各々複数個ずつ作製して各々にひずみを与え、クラックや断線の発生について調べた。ひずみゲージ1において、基材10としては、膜厚25μmのポリイミド樹脂製のフィルムを用いた。また、抵抗体30には、Cr混相膜を用いた。
【0058】
検討の結果、抵抗体30の膜厚がある点よりも薄くなると、薄くなるにつれてクラックや断線が減少する傾向が確認され、ひずみ限界が抵抗体30の膜厚に依存することがわかった。
【0059】
図8は、ひずみ限界の実験結果を示す図であり、複数個のひずみゲージにおけるひずみ限界の最小値をプロットしたものである。図8に示すように、発明者らの実験結果では、抵抗体30の膜厚が220nm及び800nmの場合のひずみ限界が7000με以上で略一定であったのに対し、抵抗体30の膜厚が50nmの場合のひずみ限界は10000με以上であった。
【0060】
つまり、抵抗体30の膜厚が220nmよりも薄くなると、薄くなるにつれてクラックや断線が減少する傾向が確認された。そして、抵抗体30の膜厚が50nmの場合には、抵抗体30の膜厚が220nm及び800nmの場合に比べ、ひずみ限界が約30%向上することが確認された。
【0061】
この結果を、[抵抗体の膜厚(1)]の結果と合わせて考えると、ロバーバル型の起歪体に搭載されるひずみゲージにおいて、抵抗体30の膜厚が6nm以上100nm以下であれば、C1規格のクリープ量及びクリープリカバリー量を満足できる。そして、抵抗体30の膜厚が6nm以上50nm以下であれば、C1規格のクリープ量及びクリープリカバリー量を満足できるとともに、ひずみ限界を向上できる。
【0062】
また、抵抗体30の膜厚が11nm以上50nm以下であれば、C2規格のクリープ量及びクリープリカバリー量を満足できる。この場合、抵抗体30の膜厚にかかわらず、10000με以上の十分なひずみ限界であるといえる。
【0063】
[ひずみゲージの製造方法]
ここで、ひずみゲージ1の製造方法について説明する。ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体30、配線40、及び電極50となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体30、配線40、及び電極50の材料や厚さと同様である。
【0064】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0065】
ゲージ特性を安定化する観点から、金属層Aを成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により所定の膜厚の機能層を真空成膜することが好ましい。
【0066】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能や、基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0067】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に金属層AがCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が金属層Aの酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0068】
機能層の材料は、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0069】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。また、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si、TiO、Ta、SiO等が挙げられる。
【0070】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/20以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
【0071】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
【0072】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
【0073】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0074】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.8μmとすることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
【0075】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
【0076】
なお、機能層の平面形状は、例えば、図3に示す抵抗体の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層の平面形状は、抵抗体の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層が絶縁材料から形成される場合には、抵抗体の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層は少なくとも抵抗体が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。あるいは、機能層は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0077】
また、機能層が絶縁材料から形成される場合に、機能層の厚さを50nm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材10側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ1において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0078】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0079】
ただし、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0080】
機能層の材料と金属層Aの材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、金属層Aとしてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0081】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、金属層Aを成膜できる。あるいは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、金属層Aを成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNの割合、並びにCrN及びCrN中のCrNの割合を調整できる。
【0082】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。また、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0083】
なお、金属層AがCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、金属層Aの結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0084】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上できる。
【0085】
次に、フォトリソグラフィによって金属層Aをパターニングし、抵抗体30、配線40、及び電極50を形成する。
【0086】
その後、必要に応じ、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するカバー層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。カバー層60は、例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層60は、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0087】
なお、抵抗体30、配線40、及び電極50の下地層として基材10の上面10aに機能層を設けた場合には、ひずみゲージ1は図9に示す断面形状となる。符号20で示す層が機能層である。機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の平面形状は、例えば、図3と同様となる。但し、前述のように、機能層20は、基材10の上面10aの一部又は全部にベタ状に形成される場合もある。
【0088】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0089】
例えば、図1等では、ロードセル100に4つのひずみゲージ1を搭載する例を示したが、1つの基材上に4つの抵抗体が形成された1つのひずみゲージを搭載してもよい。その場合、ブリッジ接続に都合がよいように、基材上に設けた配線で各抵抗体を接続してもよい。
【0090】
また、ロードセル100に搭載する抵抗体は2つでもよい。この場合、各々の抵抗体をハーフブリッジ接続することができる。
【0091】
また、ロードセル100に搭載する抵抗体は、ロードセル100の上面又は下面の何れか一方には限定されず、上面と下面の両方に搭載してもよい。例えば、ロードセル100の上面に2つの抵抗体を搭載し、さらに下面に2つの抵抗体を搭載してもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、20 機能層、30 抵抗体、30e,30e 終端、40 配線、50 電極、60 カバー層、100 ロードセル、110 起歪体、120 貫通孔、131,132 溝、141~144 薄肉部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9