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特開2022-188401ポリプロピレン系樹脂発泡粒子、その製造方法及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体
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  • 特開-ポリプロピレン系樹脂発泡粒子、その製造方法及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188401
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子、その製造方法及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20221214BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20221214BHJP
   B29C 44/44 20060101ALI20221214BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20221214BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
C08J9/16 CES
B29C44/00 G
B29C44/44
B29K23:00
B29K105:04
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096402
(22)【出願日】2021-06-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北原 泰三
(72)【発明者】
【氏名】千葉 琢也
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA24
4F074AA98
4F074AB03
4F074AC02
4F074AC33
4F074AE04
4F074AE07
4F074AG07
4F074BA32
4F074BA84
4F074BC12
4F074CA35
4F074CA39
4F074CA42
4F074CA49
4F074CC04X
4F074CC04Y
4F074CC04Z
4F074CC10X
4F074CC22X
4F074CC26Y
4F074CC28Z
4F074CC34X
4F074CC47Z
4F074DA02
4F074DA20
4F074DA24
4F074DA33
4F214AA11
4F214AB18
4F214AE03
4F214AG20
4F214UA21
4F214UB01
4F214UC30
4F214UF01
(57)【要約】
【課題】発泡粒子成形体に静電気拡散性を付与するとともにカーボンナノチューブの脱落を抑制することができ、優れた発泡性を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子、その製造方法及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子1は芯層2と芯層2を被覆する被覆層3とを有している。被覆層3は、融点が125~150℃であるポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、融点が70~100℃であるポリプロピレン系樹脂(D)とからなる組成物(X)を基材樹脂(II)とする。ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対するカーボンナノチューブ(C)の配合量が3~20質量部であり、ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量が6~120質量部である。カーボンナノチューブ(C)の配合量に対するポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)が2~10である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯層と、前記芯層を被覆する被覆層と、を有するポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させる、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法であって、
前記芯層は、ポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)とし、
前記被覆層は、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)とからなる組成物(X)を基材樹脂(II)とし、
前記カーボンナノチューブ(C)の配合量が前記ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して3質量部以上20質量部以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量が前記ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して6質量部以上120質量部以下であり、
前記カーボンナノチューブ(C)の配合量に対する前記ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)が2以上10以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項2】
前記基材樹脂(II)の融解熱量Q(II)[J/g]に対する前記ポリプロピレン系樹脂(B)の融解熱量Q(B)[J/g]の比Q(B)/Q(II)が1.2以上3.5以下である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量が4万以上10万以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂(D)の融解熱量Q(D)が0J/g以上50J/g以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項5】
前記基材樹脂(II)の融点Tm(II)が120℃以上140℃以下であり、かつ、融解熱量Q(II)が5J/g以上50J/g以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項6】
温度230℃、荷重2.16kgにおける前記基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)が1g/10分以上30g/10分以下であり、かつ、前記基材樹脂(I)のメルトフローレイトMFR(I)に対する前記基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)の比MFR(II)/MFR(I)が0.2以上4以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項7】
発泡状態の芯層と前記芯層を被覆する被覆層とを有する発泡粒子であって、
前記芯層はポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)とし、
前記被覆層は、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)とからなる組成物(X)を基材樹脂(II)とし、
前記カーボンナノチューブ(C)の配合量が前記ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して3質量部以上20質量部以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量が前記ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して6質量部以上120質量部以下であり、
前記カーボンナノチューブ(C)の配合量に対する前記ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)が2以上10以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項8】
請求項7に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体であって、
表面抵抗率が1×10Ω以上1×10Ω以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子、その製造方法及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡粒子成形体は、衝撃吸収性に優れているという特性を活かし、スペーサや箱等の梱包資材として使用されることがある。梱包資材によって保護される対象物としては、例えば、精密機器や電子機器、電子部品などがある。
【0003】
例えば電子機器や電子部品の梱包のために使用される梱包資材には、衝撃吸収性に加えて、静電気を緩やかに放電することができる、静電気拡散性と呼ばれる性質や、その他の電気的特性が求められることがある。なお、本明細書において、「静電気拡散性」とは、具体的には、表面抵抗率が1×10Ω以上1×10Ω以下の範囲内となる電気的特性をいう。この種の梱包資材を作製するために用いられる発泡粒子には、導電性カーボンブラックやカーボンナノチューブなどの導電性物質が含まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、多層カーボンナノチューブ分散配合水性ゲルを予備発泡させたポリスチレンビーズに添加し、加熱混合してなる発泡成形材料が記載されている。また、特許文献2には、発泡粒子のポリオレフィン樹脂;平均外径が8~50nmであり、平均内径が前記平均外径の40%以上である複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体;および発泡剤を含む樹脂組成物からなり、平均直径が10~200μmである複数のセルを含む、導電性発泡ビーズが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-87041号公報
【特許文献2】特開2019-108540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように発泡粒子に導電性物質を塗布する場合には、発泡性樹脂粒子を発泡させて発泡粒子とした後に、発泡粒子に導電性物質を塗布する作業が必要となり、発泡粒子の製造工程が煩雑となっていた。また、このようにして発泡粒子の表面に塗布された導電性物質の量が多い場合には、例えば型内成形などの際に発泡粒子の表面から脱落することがあった。
【0007】
一方、特許文献2のように、発泡粒子中に導電性物質を配合する場合には、所望する電気的特性を発現させるために、導電性物質の配合量を比較的多くする必要があった。しかし、導電性物質の配合量が多くなると、樹脂粒子を発泡させる際の発泡性が悪化し、発泡粒子の気泡径が小さくなったり、気泡径のばらつきが大きくなりやすかった。また、発泡粒子の2次発泡性が悪化すると、例えば型内成形の際に気泡が破れやすくなり、発泡粒子成形体の見掛け密度を小さくすることが難しくなる場合があった。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、発泡粒子成形体に所望の電気的特性を付与するとともにカーボンナノチューブの脱落を抑制することができ、優れた発泡性を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子、その製造方法及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、芯層と、前記芯層を被覆する被覆層と、を有するポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させる、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法であって、
前記芯層は、ポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)とし、
前記被覆層は、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)とからなる組成物(X)を基材樹脂(II)とし、
前記カーボンナノチューブ(C)の配合量が前記ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して3質量部以上20質量部以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量が前記ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して6質量部以上120質量部以下であり、
前記カーボンナノチューブ(C)の配合量に対する前記ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)が2以上10以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法にある。
【0010】
また、本発明の他の態様は、発泡状態の芯層と前記芯層を被覆する被覆層とを有する発泡粒子であって、
前記芯層はポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)とし、
前記被覆層は、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)とからなる組成物(X)を基材樹脂(II)とし、
前記カーボンナノチューブ(C)の配合量が前記ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して3質量部以上20質量部以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量が前記ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して6質量部以上120質量部以下であり、
前記カーボンナノチューブ(C)の配合量に対する前記ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)が2以上10以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子にある。
【発明の効果】
【0011】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子(以下、「発泡粒子」という。)の製造方法における、樹脂粒子の芯層はポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)として形成され、前記芯層を被覆する被覆層は、前記ポリプロピレン系樹脂(B)、前記カーボンナノチューブ(C)及び前記ポリプロピレン系樹脂(D)からなる組成物(X)を基材樹脂(II)として形成されている。このように、特定の基材樹脂(II)を用いて被覆層を形成することにより、前記樹脂粒子の芯層に被覆層を容易に被覆するとともに、カーボンナノチューブを被覆層に均一に分散させることができる。また、前記樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子は、前記発泡粒子の芯層に被覆層が被覆されるとともに、カーボンナノチューブが被覆層に均一に分散されている。
【0012】
また、前記発泡粒子は、発泡した芯層が前記被覆層で被覆されているため、発泡粒子の表面の電気抵抗を低減することができる。さらに、前記発泡粒子においては、被覆層を構成する基材樹脂(II)中にカーボンナノチューブ(C)が含有されているので、カーボンナノチューブ(C)の発泡粒子からの脱落を抑制することができるとともに、所望の電気的特性を発揮することができる。
【0013】
そして、かかる発泡粒子を型内成形することにより、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体(以下、「発泡粒子成形体」という。)に所望の電気的特性を容易に付与することができる。
【0014】
以上のように、前記の態様によれば、発泡粒子成形体に所望の電気的特性を付与するとともにカーボンナノチューブの脱落を抑制することができ、優れた発泡性を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子、その製造方法及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を提供ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、高温ピークの面積の算出方法を示す説明図である。
図2図2は、実施例における、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法)
前記発泡粒子の製造方法においては、芯層と、芯層を被覆する被覆層と、を有する樹脂粒子が用いられる。樹脂粒子の前記芯層はポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)とし、被覆層は、ポリプロピレン系樹脂(B)、カーボンナノチューブ(C)及びポリプロピレン系樹脂(D)からなる組成物(X)を基材樹脂(II)としている。以下、芯層に用いられる基材樹脂(I)及び被覆層に用いられる基材樹脂(II)について詳説する。
【0017】
なお、前記樹脂粒子を発泡させることにより、発泡状態の芯層と前記芯層を被覆する被覆層とを有する発泡粒子が得られる。樹脂粒子を発泡させる前後において、前記樹脂粒子の芯層を構成する樹脂成分と、前記発泡粒子の芯層を構成する樹脂成分とに変化はないと考えられる。それ故、発泡粒子の芯層は、樹脂粒子の芯層と同様の樹脂組成を有するものとなる。同様に、発泡粒子の被覆層は、樹脂粒子の被覆層と同様の樹脂組成を有するものとなる。
【0018】
[芯層]
前記芯層は、ポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)として含有している。本発明において、前記樹脂粒子の前記芯層は前記ポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)とするとは、前記芯層を構成する基本となる樹脂成分が前記ポリプロピレン系樹脂(A)であることを意味する。より具体的には、基材樹脂(I)である前記ポリプロピレン系樹脂(A)の割合は、芯層の全質量に対して好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。
【0019】
・ポリプロピレン系樹脂(A)
ポリプロピレン系樹脂(A)としては、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレン系共重合体からなる群より選択される1種または2種以上のポリプロピレン系樹脂を使用することができる。なお、本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレンに由来する構造単位を50質量%以上含むプロピレン系共重合体をいう。
【0020】
プロピレン単量体の単独重合体としては、例えば、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン等を使用することができる。
【0021】
プロピレン系共重合体としては、例えば、プロピレンと、エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、3-メチル-1-ヘキセンなどの炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体や、プロピレン-アクリル酸共重合体、プロピレン-無水マレイン酸共重合体等を使用することができる。これらの共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。また、共重合体は、二元系共重合体であってもよいし、三元系あるいはそれ以上の多元系共重合体であってもよい。前記共重合体中におけるプロピレンに由来する構造単位以外の構造単位の含有量は、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0022】
・その他の成分
前記芯層には、基材樹脂(I)の他に、気泡調整剤、触媒中和剤、滑剤、結晶核剤等の添加剤が添加されていてもよい。芯層中の添加剤の添加量は、例えば、芯層の基材樹脂(I)100質量部に対して15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部以下であることが特に好ましい。また、芯層には、被覆層との着色度合いを調整する目的で、着色剤を添加することができる。この場合、着色剤の添加量は、芯層の基材樹脂(I)100重量部に対して1質量部以上5質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。
【0023】
また、前記芯層には、基材樹脂(I)としてのポリプロピレン系樹脂(A)の他に、本発明の目的及び作用効果を損なわない範囲でポリプロピレン系樹脂(A)以外の樹脂やエラストマー等が添加されていてもよい。ポリプロピレン系樹脂(A)以外の樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂や、オレフィン系熱可塑エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等が例示される。芯層中におけるポリプロピレン系樹脂(A)以外の樹脂やエラストマー等の添加量は、芯層の基材樹脂(I)100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0024】
[被覆層]
被覆層は、ポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、ポリプロピレン系樹脂(D)とからなる組成物(X)を基材樹脂(II)として含有している。本発明において、前記樹脂粒子の前記被覆層が前記組成物(X)を基材樹脂(II)としているとは、前記被覆層を構成する基本となる樹脂成分が前記組成物(X)であることを意味する。より具体的には、基材樹脂(II)である組成物(X)の割合は、被覆層の全質量に対して好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。なお、本発明において、基材樹脂(II)は、樹脂ではないカーボンナノチューブが配合される態様を含む概念として定義される。
【0025】
前記組成物(X)は、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)とからなる。前記基材樹脂(II)におけるカーボンナノチューブ(C)の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して3質量部以上20質量部以下である。前記基材樹脂(II)におけるポリプロピレン系樹脂(D)の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して6質量部以上120質量部以下である。前記基材樹脂(II)におけるカーボンナノチューブ(C)の配合量に対するポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)は、2以上10以下である。なお、基材樹脂(II)中のポリプロピレン系樹脂(B)、カーボンナノチューブ(C)及びポリプロピレン系樹脂(D)の含有量は、それぞれ、基材樹脂(II)中に配合されたポリプロピレン系樹脂(B)、カーボンナノチューブ(C)及びポリプロピレン系樹脂(D)の配合量とほぼ同一である。
【0026】
・ポリプロピレン系樹脂(B)
基材樹脂(II)には、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)が配合されている。基材樹脂(II)には、1種類のポリプロピレン系樹脂(B)が配合されていてもよいし、2種以上のポリプロピレン系樹脂(B)が配合されていてもよい。ポリプロピレン系樹脂(B)の融点Tm(B)を前記特定の範囲とすることにより、芯層と被覆層との接着性を向上させることができる。
【0027】
ポリプロピレン系樹脂(B)の融点Tm(B)は、JIS K7121:1987に記載された熱流束示差走査熱量測定法により測定することができる。具体的には、まず、ポリプロピレン系樹脂(B)からなる試験片の状態調節を行う。その後、10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温し、次いで10℃/分の冷却速度で23℃まで降温する。その後、再び10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温した際に得られるDSC曲線により定まる吸熱ピークの頂点温度をポリプロピレン系樹脂(B)の融点Tm(B)とすることができる。なお、DSC曲線に複数の吸熱ピークが現れている場合には、最も面積の大きな吸熱ピークの頂点温度を融点とする。
【0028】
・カーボンナノチューブ(C)
基材樹脂(II)中には、ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して3質量部以上20質量部以下のカーボンナノチューブ(C)が配合されている。基材樹脂(II)中のカーボンナノチューブ(C)の配合量を前記特定の範囲内とすることにより、所望の電気的特性を有する発泡粒子を容易に得ることができる。そして、かかる発泡粒子を型内成形することにより、発泡粒子成形体に所望の電気的特性を容易に付与することができる。発泡粒子成形体に所望の電気的特性をより確実に付与する観点からは、カーボンナノチューブ(C)の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対し3質量部以上18質量部以下であることが好ましい。
【0029】
カーボンナノチューブ(C)の配合量が過度に少ない場合には、被覆層内に導電ネットワークが形成されにくくなり、発泡粒子に所望の電気的特性を付与することができなくなるおそれがある。一方、カーボンナノチューブ(C)の配合量が過度に多い場合には、発泡粒子の製造過程において樹脂粒子を製造する際に、カーボンナノチューブ(C)を配合した基材樹脂(II)の溶融粘度の上昇を招きやすくなる。その結果、芯層を形成するための芯層形成用樹脂溶融物に、被覆層を形成するための被覆層形成用樹脂溶融物を積層させることが難しくなり、多層構造の発泡粒子を得ることができなくなるおそれがある。
【0030】
カーボンナノチューブ(C)は、単層カーボンナノチューブであってもよく、多層カーボンナノチューブであってもよい。また、基材樹脂(II)中には、カーボンナノチューブ(C)として、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとの両方が含まれていてもよい。カーボンナノチューブ(C)としては、例えば、アスペクト比が80以上1000以下であり、外径が9.5nm以上25nm以下のカーボンナノチューブを用いることが好ましく、アスペクト比が100以上200以下であり、外径が9.5nm以上12nm以下のカーボンナノチューブを用いることがより好ましい。
【0031】
・ポリプロピレン系樹脂(D)
基材樹脂(II)中には、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)が配合されている。なお、ポリプロピレン系樹脂(D)の融点Tm(D)の測定方法は、ポリプロピレン系樹脂(B)からなる試験片に替えてポリプロピレン系樹脂(D)からなる試験片を用いる以外は、前述したポリプロピレン系樹脂(B)の融点Tm(B)の測定方法と同様である。
【0032】
基材樹脂(II)中には、1種類のポリプロピレン系樹脂(D)が配合されていてもよいし、2種以上のポリプロピレン系樹脂(D)が配合されていてもよい。また、ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して6質量部以上120質量部以下である。また、カーボンナノチューブ(C)の配合量に対するポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)は2以上10以下である。
【0033】
ポリプロピレン系樹脂(D)は、ポリプロピレン系樹脂(B)に比べて軟化しやすい性質を有している。基材樹脂(II)中にポリプロピレン系樹脂(D)を配合することにより、カーボンナノチューブ(C)の添加によるポリプロピレン系樹脂(B)の結晶化を抑制することができる。そのため、ポリプロピレン系樹脂(B)の結晶化による基材樹脂(II)の急激な粘度上昇を抑制することができ、芯層への被覆層の積層を容易に行うとともに、芯層の露出を回避することができる。また、基材樹脂(II)中にポリプロピレン系樹脂(D)を配合することにより被覆層中におけるカーボンナノチューブ(C)の分散性が向上するので、発泡粒子及び発泡粒子成形体に所望の電気的特性を容易に付与することができる。
【0034】
多層構造を有する発泡粒子をより得やすくする観点からは、ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量は、ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して10質量部以上100質量部以下であることが好ましく、15質量部以上90質量部以下であることがより好ましく、20質量部以上80質量部以下であることがさらに好ましい。同様の観点から、カーボンナノチューブ(C)の配合量に対するポリプロピレン系樹脂(D)の質量比(D)/(C)は、3以上8以下であることが好ましい。
【0035】
ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量がポリプロピレン系樹脂(B)に対して過度に少ない場合、または、カーボンナノチューブ(C)の配合量に対するポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の比(D)/(C)が過度に低い場合には、基材樹脂(II)の流動性が極端に低下して、芯層上に被覆層を均一に形成できなくなるおそれがある。
【0036】
一方、ポリプロピレン系樹脂(D)の配合量がポリプロピレン系樹脂(B)に対して過度に多い場合、または、カーボンナノチューブ(C)の配合量に対するポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の比(D)/(C)が過度に高い場合においても、芯層上に被覆層を均一に形成することが難しくなり、所望の積層構造を有する発泡粒子の作製が困難となるおそれがある。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量は、4万以上10万以下であることが好ましい。融点Tm(D)に加えて重量平均分子量が前記特定の範囲内であるポリプロピレン系樹脂(D)は、ポリプロピレン系樹脂(B)とカーボンナノチューブ(C)の相互作用を低減させる効果があり、カーボンナノチューブ(C)の添加に伴うポリプロピレン系樹脂(B)の結晶化をより効果的に抑制することができる。そのため、このような低分子量のポリプロピレン系樹脂(D)が添加された基材樹脂(II)を用いて被覆層を形成することにより、ポリプロピレン系樹脂(B)の結晶化による流動性の変化を抑制し、芯層に被覆層を均一に積層することができる。その結果、被覆層中でカーボンナノチューブが均一に分散された、良好な発泡粒子を製造することができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、ポリプロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量は、4.2万以上8万以下であることがより好ましい。
【0038】
なお、ポリプロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定されたポリスチレン換算分子量である。
【0039】
ポリプロピレン系樹脂(D)の融解熱量Q(D)は、0J/g以上50J/g以下であることが好ましい。融点Tm(D)に加えて融解熱量Q(D)が前記特定の範囲内であるポリプロピレン系樹脂(D)を基材樹脂(II)に配合することにより、芯層上に被覆層をより容易に形成することができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、ポリプロピレン系樹脂(D)の融解熱量Q(D)は、1J/g以上20J/g以下であることがより好ましく、2J/g以上10J/g以下であることがさらに好ましい。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂(D)の融解熱量Q(D)は、以下の方法により測定することができる。まず、前述したポリプロピレン系樹脂(D)の融点Tm(D)の測定方法と同様の方法により試験片の状態調節を行う。その後、10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温し、次いで10℃/分の冷却速度で23℃まで降温する。その後、再び10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温することにより、DSC曲線を取得する。このDSC曲線に現れる吸熱ピークの面積(単位:J)を試験片の質量(単位:g)で除した値をポリプロピレン系樹脂(D)の融解熱量Q(D)(単位:J/g)とする。
【0041】
・その他の成分
被覆層には、基材樹脂(II)の他に、触媒中和剤、滑剤、結晶核剤、帯電防止剤等の添加剤を添加することができる。また、被覆層には、前述した作用効果を損なわない範囲であれば、導電性のカーボンブラックを添加することもできる。被覆層中の添加剤の配合量は、前記基材樹脂(II)100質量部に対して15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0042】
また、被覆層には、基材樹脂(II)に配合されるポリプロピレン系樹脂(B)及びポリプロピレン系樹脂(D)の他に、前述した作用効果を損なわない範囲で他の樹脂やエラストマー等の材料が含まれていてもよい。被覆層中におけるポリプロピレン系樹脂(B)及びポリプロピレン系樹脂(D)以外の樹脂やエラストマー等の添加量は、前記基材樹脂(II)100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
・基材樹脂(II)の物性
上記基材樹脂(II)は、以下の特性を有していることが好ましい。以下に示す特性を有する基材樹脂(II)は、発泡粒子の多層構造の形成に特に適している。
【0044】
被覆層に用いられる基材樹脂(II)の融点Tm(II)は、120℃以上140℃以下であることが好ましい。融点Tm(II)が前記特定の範囲内である基材樹脂(II)を用いて被覆層を形成することにより、多層構造の発泡粒子をより容易に作製することができる。また、基材樹脂(II)の融点Tm(II)は、基材樹脂(I)の融点Tm(I)よりも低いことが好ましい。この場合には、発泡粒子の融着性をより高めることができる。かかる作用効果をより高める観点からは、基材樹脂(II)の融点Tm(II)は、135℃以上138℃以下であることがより好ましい。
【0045】
なお、基材樹脂(I)の融点Tm(I)及び基材樹脂(II)の融点Tm(II)の測定方法は、ポリプロピレン系樹脂(B)からなる試験片に替えて基材樹脂(I)または基材樹脂(II)からなる試験片を用いる以外は、前述したポリプロピレン系樹脂(B)の融点Tm(B)の測定方法と同様である。
【0046】
基材樹脂(II)の融解熱量Q(II)は、5J/g以上50J/g以下であることが好ましい。融解熱量Q(II)が前記特定の範囲内である基材樹脂(II)を用いて被覆層を形成することにより、基材樹脂(II)中のポリプロピレン系樹脂(B)の結晶化による流動性の変化をより小さくすることができ、被覆層をより均一に芯層に被覆することができる。かかる作用効果をより高める観点からは、基材樹脂(II)の融解熱量Q(II)は、15J/g以上45J/g以下であることがより好ましく、20J/g以上40J/g以下であることがさらに好ましい。
【0047】
なお、基材樹脂(II)の融解熱量Q(II)の測定方法は、ポリプロピレン系樹脂(D)からなる試験片に替えて基材樹脂(II)からなる試験片を用いる以外は、前述したポリプロピレン系樹脂(D)の融解熱量Q(D)の測定方法と同様である。
【0048】
芯層に用いられる基材樹脂(I)の融解熱量Q(I)と、被覆層に用いられる基材樹脂(II)の融解熱量Q(II)との差Q(II)-Q(I)の絶対値は、10J/g以上であることが好ましい。融解熱量の差Q(II)-Q(I)の絶対値を前記特定の範囲内とすることにより、発泡粒子の発泡性をより向上させることができる。かかる作用効果をより高める観点からは、基材樹脂(I)の融解熱量Q(I)と、基材樹脂(II)の融解熱量Q(II)との差Q(II)-Q(I)の絶対値は、40J/g以上であることがより好ましい。
【0049】
なお、基材樹脂(I)の融解熱量Q(I)の測定方法は、ポリプロピレン系樹脂(D)からなる試験片に替えて基材樹脂(I)からなる試験片を用いる以外は、前述したポリプロピレン系樹脂(D)の融解熱量Q(D)の測定方法と同様である。
【0050】
温度230℃、荷重2.16kgにおける基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)は3g/10分以上30g/10分以下であり、かつ、基材樹脂(I)のメルトフローレイトMFR(I)に対する基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)の比(MFR(II)/MFR(I))は0.2以上4.5以下であることが好ましい。このように、基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)を前記特定の範囲内にするとともに、基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)と基材樹脂(I)のメルトフローレイトMFR(I)との比MFR(II)/MFR(I)を前記特定の範囲内とすることにより、発泡粒子の製造過程において、被覆層を芯層により均一に被覆することができる。
【0051】
かかる作用効果をより高める観点からは、基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)は5g/10分以上15g/10分以下であることがより好ましい。また、基材樹脂(I)のメルトフローレイトMFR(I)に対する基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)の比MFR(II)/MFR(I)は0.4以上3.8以下であることがより好ましい。
【0052】
なお、基材樹脂(II)のメルトフローレイトMFR(II)及び基材樹脂(I)のメルトフローレイトMFR(I)は、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0053】
基材樹脂(II)の融解熱量Q(II)に対するポリプロピレン系樹脂(B)の融解熱量Q(B)の比Q(B)/Q(II)は、1.2以上3.5以下であることが好ましく、1.3以上3.2以下であることがより好ましい。融解熱量の比Q(B)/Q(II)を前記特定の範囲内とすることにより、発泡粒子の製造過程において、被覆層を芯層により均一に被覆することができる。
【0054】
なお、ポリプロピレン系樹脂(B)の融解熱量Q(B)の測定方法は、ポリプロピレン系樹脂(D)からなる試験片に替えてポリプロピレン系樹脂(B)からなる試験片を用いる以外は、前述したポリプロピレン系樹脂(D)の融解熱量Q(D)の測定方法と同様である。
【0055】
[製造工程]
前記発泡粒子の製造方法は、例えば、溶融状態の基材樹脂(I)を含む芯層形成用樹脂溶融物と、溶融状態の基材樹脂(II)を含む被覆層形成用樹脂溶融物とを共押出し、次いで押出物を切断することにより、前記ポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)とする未発泡状態の芯層と、前記組成物(X)を基材樹脂(II)とし、前記芯層を被覆する被覆層と、を有するポリプロピレン系樹脂粒子(以下、「樹脂粒子」という。)を作製する造粒工程と、
前記ポリプロピレン系樹脂粒子の芯層を発泡させる発泡工程と、を有している。
【0056】
・造粒工程
造粒工程においては、まず、芯層形成用樹脂溶融物と、被覆層形成用樹脂溶融物とを、被覆層形成用樹脂溶融物が芯層形成用樹脂溶融物を被覆するようにして共押出し、押出物を得る。この押出物を切断することにより、未発泡状態の樹脂粒子を得ることができる。押出物の作製には、例えば、芯層形成用樹脂溶融物を押し出すための芯層形成用押出成形機と、被覆層形成用樹脂溶融物を押し出すための被覆層形成用押出成形機と、これらの押出成形機の押出口に接続された押出ダイとを有する共押出装置を用いることができる。
【0057】
押出物の切断は、共押出の直後に行ってもよいし、押出ダイから押し出されたストランド状の押出物を冷却した後に行ってもよい。より具体的には、押出物の切断方法としては、例えば、冷却が完了した後の押出物を切断するストランドカット法や、冷却が完了する前の押出物を切断するホットカット法、水中に押し出された押出物を切断するアンダーウォーターカット法などの種々の方法を採用することができる。
【0058】
切断後に得られる樹脂粒子の芯層は、被覆層により覆われている。例えば、上記のようにして樹脂粒子を形成した場合には、円柱状の芯層の側周面に被覆層が被覆された、円柱状の樹脂粒子を形成することができる。樹脂粒子における芯層と被覆層との質量比は、例えば、芯層:被覆層=70:30~99:1の範囲内から適宜設定することができる。
【0059】
・発泡工程
発泡工程においては、前記樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得る。樹脂粒子を発泡させるに当たっては、1回の発泡で所望の嵩密度まで発泡させてもよいし、複数回の発泡で所望の嵩密度まで発泡させてもよい。以下、1回目の発泡工程を「一段発泡工程」といい、2回目の発泡工程を「二段発泡工程」という。
【0060】
・一段発泡工程
一段発泡工程においては、まず、樹脂粒子を密閉容器内に入れ、水などの水性の分散媒中に分散させる。この際、必要に応じて、密閉容器内の分散媒に樹脂粒子を分散させるための分散剤を添加してもよい。
【0061】
分散剤としては、例えば、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、マイカ等の無機微粒子や、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤を使用することができる。分散剤としては、これらの無機微粒子及び界面活性剤から選択された1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
密閉容器を密封した後、容器内に無機系物理発泡剤を加え、無機系物理発泡剤を樹脂粒子に含浸させる。この際、密閉容器内を加圧しつつ加温することにより、樹脂粒子への無機系物理発泡剤の含浸を促進することができる。そして、発泡剤が十分に樹脂粒子に含浸した後に、密閉容器の内容物を容器の内圧よりも低い圧力下に放出することにより、樹脂粒子を発泡させて発泡粒子とすることができる。
【0063】
無機系物理発泡剤としては、例えば、二酸化炭素、窒素、空気等の無機系ガス及び水等を使用することができる。無機系物理発泡剤としては、これらの物質を単独で使用してもよいし、2種以上の物質を併用してもよい。発泡倍率が高く、粒度分布の狭い発泡粒子をより容易に得る観点からは、一段発泡工程における無機系物理発泡剤は二酸化炭素であることが好ましい。
【0064】
前記無機系物理発泡剤の添加量は、芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂(A)の種類や発泡剤の種類、目的とする発泡粒子の嵩倍率等に応じて適宜設定することができる。無機系物理発泡剤の添加量は、例えば、芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下、好ましくは1質量部以上9質量部以下、より好ましくは3質量部以上8質量部以下の範囲から適宜設定されていてもよい。
【0065】
前記一段発泡工程は、樹脂粒子を発泡させる前に、後述する高温ピークを生成させる工程を含んでいてもよい。高温ピークを生成させる方法としては、例えば、密閉容器内で樹脂粒子を分散媒内で特定の温度範囲内に保持して熱処理を行う方法を採用することができる。熱処理を行うタイミングは特に限定されることはなく、発泡剤の含浸前、含浸中及び含浸後のいずれかの時点で熱処理を行ってもよいし、前述した時点のうちいずれかの時点から他の時点までに亘って行われてもよい。この熱処理により、ポリプロピレン系樹脂(A)固有の結晶に由来する融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークよりも高温側に位置する融解ピーク(高温ピーク)を示す結晶構造を有する発泡粒子を得ることができる。
【0066】
前記製造方法においては、一段発泡工程により、樹脂粒子を所望の発泡粒子の嵩密度まで発泡させてもよいし、所望の発泡粒子の嵩密度よりも高い嵩密度まで発泡させてもよい。前者の場合、得られた発泡粒子をそのまま型内成形に用いることができる。後者の場合、更に二段発泡工程などを行い、発泡粒子の嵩密度を所望する値まで低下させればよい。
【0067】
・二段発泡工程
二段発泡工程においては、まず、耐圧容器内に、一段発泡工程により得られた発泡粒子を充填する。次いで、耐圧容器内を無機系ガスで加圧し、発泡粒子に無機系ガスを含浸させる。このようにして無機系ガスを含浸させることにより、発泡粒子の気泡内の圧力を含浸前よりも上昇させることができる。なお、二段発泡工程を行う場合には、一段発泡工程において得られた樹脂粒子を「一段発泡粒子」ということがある。
【0068】
二段発泡工程においては、耐圧容器内の一段発泡粒子を加温しながら加圧してもよい。この場合には、一段発泡粒子への無機系ガスの含浸をより促進することができる。二段発泡工程において一段発泡粒子を加温する場合、ブロッキング、つまり、一段発泡粒子同士が融着して塊を形成する現象を抑制する観点から、被覆層を構成する基材樹脂(II)の融点Tm(II)よりも一段発泡粒子の加熱温度を低くすることが好ましい。
【0069】
二段発泡工程において使用する無機系ガスとしては、二酸化炭素、窒素、空気、スチーム等を使用することができる。これらの無機系ガスは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。二段発泡工程において使用する無機系ガスは、スチームと空気との混合ガスであることが好ましい。この場合には、一段発泡粒子を適度に加温して無機系ガスの含浸をより促進するとともに、一段発泡粒子のブロッキングをより効果的に抑制することができる。
【0070】
なお、気泡内の圧力(内圧)は、例えば特開2003-201361号公報に記載された方法により測定することができる。
【0071】
一段発泡粒子への無機系ガスの含浸が完了した後、一段発泡粒子を耐圧容器から取り出す。この一段発泡粒子を気泡の内部の圧力よりも低圧下でスチーム等を用いて加熱して、個々の気泡を膨張させることができる。その結果、一段発泡粒子をさらに発泡させ、所望の嵩密度を有する発泡粒子を得ることができる。
【0072】
なお、本明細書において、一段発泡工程において使用する容器を「密閉容器」、二段発泡工程において使用する容器を「耐圧容器」と称したが、いずれも密閉可能であり、圧力を付与できる容器であればよい。また、一段発泡工程における密閉容器と二段発泡工程における耐圧容器とは、同一の容器であってもよく、互いに異なる容器であってもよい。
【0073】
(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子)
前記発泡粒子は、発泡状態の芯層と、芯層を被覆する被覆層とを有する多層構造の発泡粒子である。被覆層は、芯層全体を被覆していてもよいし、芯層の一部を被覆していてもよいが、芯層の一部が被覆層で覆われていることが好ましい。特に、発泡状態の芯層が円柱状であり、芯層の側周面に被覆層が均一に形成されていることが好ましい。また、被覆層内においてカーボンナノチューブ(C)が均一に分散されていることがより好ましい。
【0074】
前記芯層は前記ポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂(I)としており、前記被覆層は、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)とからなる組成物(X)を基材樹脂(II)としている。また、カーボンナノチューブ(C)の含有量がポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して3質量部以上20質量部以下である。ポリプロピレン系樹脂(D)の含有量がポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して6質量部以上120質量部以下である。カーボンナノチューブ(C)の含有量に対するポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)が2以上10以下である。
【0075】
上記の構成を備える発泡粒子は、被覆層にカーボンナノチューブが含有されているので、カーボンナノチューブの脱落を効果的に抑制することができる。さらに、芯層に対して被覆層が均一に積層されている多層構造を有しており、且つ芯層においてカーボンナノチューブが均一に分散されているので、安定した電気的特性を発揮することができる。
【0076】
[嵩密度]
前記発泡粒子の嵩密度は、18g/L以上180g/L以下であることが好ましく、20g/L以上150g/L以下であることがより好ましく、25g/L以上120g/L以下であることがさらに好ましい。一般的には、樹脂粒子を発泡させる際の発泡倍率を高め、発泡粒子の嵩密度が低いほど、発泡時に被覆層を均一に形成することが難しくなる。これに対し、前記発泡粒子においては、被覆層の基材樹脂(II)に前記組成物(X)が用いられているため、嵩密度が低い場合においても芯層上に均一に被覆層を形成することができ、本発明の効果が得られやすくなる。
【0077】
発泡粒子の嵩密度は、以下の方法により算出される値である。まず、500個以上の発泡粒子からなる粒子群を気温23℃、相対湿度50%、1atmの環境中で24時間以上放置する。このようにして得られる粒子群をメスシリンダー内に自然に堆積するようにして充填し、メスシリンダーの目盛から粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取る。そして、メスシリンダー内の粒子群の質量(単位:g)を前述した嵩体積で除した値を、発泡粒子の嵩密度(単位:g/L)とする。
【0078】
[高温ピーク]
前記発泡粒子は、熱流束示差走査熱量測定により得られるDSC曲線において、ポリプロピレン系樹脂(A)固有の吸熱ピーク(以下、「固有ピーク」という。)の頂点よりも高温側に、1つ以上の吸熱ピーク(以下、「高温ピーク」という。)が現れる結晶構造を有していることが好ましい。この場合には、発泡粒子の独立気泡率をより高めることができるとともに、発泡粒子成形体を成形する際の成形条件を広い範囲から選択することができる。また、得られる発泡粒子成形体の剛性をより高めることができる。かかる観点からは、高温ピークにおける吸熱量(以下、「高温ピーク熱量」という。)は、5J/g以上であることが好ましく、8J/g以上であることがより好ましい。また、高温ピーク熱量は、50J/g以下であることが好ましく、40J/g以下であることがより好ましい。
【0079】
発泡粒子の高温ピーク熱量は、以下の方法により算出することができる。まず、約1~3mgの発泡粒子を試験片とし、JIS K7122-1987に規定されたプラスチックの転移熱測定方法に従って試験片を加熱溶融させる際のDSC曲線を取得する。DSC曲線の温度範囲は30℃から融解ピーク終了時の温度よりも30℃高い温度までとし、加熱中の昇温速度は10℃/分とする。発泡粒子が高温ピークを有する場合、DSC曲線には、図1に示すように、固有ピークΔH1と、固有ピークΔH1の頂点よりも高温側に頂点を有する高温ピークΔH2とが現れる。
【0080】
次に、DSC曲線上における80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当する点βとを結ぶ直線L1を引く。なお、融解終了温度Tは、高温ピークΔH2における高温側の端点、つまり、DSC曲線における、高温ピークΔH2と、高温ピークΔH2よりも高温側のベースラインとの交点である。
【0081】
直線L1を引いた後、固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間に存在する極大点γを通り、グラフの縦軸に平行な直線L2を引く。この直線L2により固有ピークΔH1と高温ピークΔH2とが分割される。高温ピークΔH2の吸熱量は、DSC曲線における高温ピークΔH2を構成する部分と、直線L1と、直線L2とによって囲まれた部分の面積に基づいて算出することができる。
【0082】
なお、前述の方法によってDSC曲線を取得した後、発泡粒子を一旦冷却し、再度DSC曲線を取得した場合、DSC曲線には固有ピークΔH1のみが現れ、高温ピークΔH2はDSC曲線から消失する。
【0083】
[芯層]
発泡粒子の芯層は基材樹脂(I)を用いて形成されている。基材樹脂(I)として用いられるポリプロピレン系樹脂(A)は前述した発泡粒子の製造方法において用いられるポリプロピレン系樹脂(A)と同様である。
【0084】
[被覆層]
発泡粒子の芯層は、被覆層により覆われている。被覆層は、芯層全体を被覆していてもよいし、芯層の一部を被覆していてもよい。また、被覆層は発泡状態であってもよいし、非発泡状態であってもよい。発泡粒子における芯層と被覆層との質量比は、例えば、芯層:被覆層=70:30~99:1の範囲内から適宜設定することができる。
【0085】
被覆層は、基材樹脂(II)を用いて形成されている。基材樹脂(II)の組成は、前述した発泡粒子の製造方法において用いられる基材樹脂(II)の組成と同様である。
【0086】
また、被覆層に用いられる基材樹脂(II)は、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)とからなる組成物(X)である。カーボンナノチューブ(C)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して3質量部以上20質量部以下である。ポリプロピレン系樹脂(D)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂(B)100質量部に対して6質量部以上120質量部以下である。カーボンナノチューブ(C)の含有量に対するポリプロピレン系樹脂(D)の配合量の質量比(D)/(C)は、2以上10以下である。すなわち、基材樹脂(II)中のポリプロピレン系樹脂(B)、カーボンナノチューブ(C)及びポリプロピレン系樹脂(D)の含有量は、それぞれ、基材樹脂(II)中に配合されるポリプロピレン系樹脂(B)、カーボンナノチューブ(C)及びポリプロピレン系樹脂(D)の配合量とほぼ同一となると考えられる。
【0087】
(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体)
前記発泡粒子を型内成形することにより、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を得ることができる。前記発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体の表面抵抗率は1×10Ω以上1×10Ω以下である。かかる範囲の表面抵抗率を備えた発泡粒子成形体は、被包装物等に帯電した静電気を緩やかに放電することができるため、例えば電子部品や電子機器等の緩衝材や包装材として好適である。
【0088】
発泡粒子成形体の表面抵抗率は、JIS K6271-1:2015に準拠した測定方法により測定された値とする。具体的には、まず、発泡粒子成形体から、縦100mm、横100mm、厚み20mmの直方体形状を有する試験片を採取する。この際、試験片における縦100mm×横100mmの寸法を有する2つの面のうち少なくとも一方の面が、スキン面、つまり、型内成形の際に金型と接触していた面となるように、試験片を採取する。この試験片のスキン面に電極を取り付けた後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で電極間に10Vの電圧を印加する。そして、電圧を印加してから30秒経過した時点での表面抵抗率(単位:Ω)を、発泡粒子成形体の表面抵抗率とする。
【実施例0089】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の実施例を説明する。なお、本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の具体的な態様は以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。また、以下の実施例においては、「ポリプロピレン」を「PP」、カーボンナノチューブを「CNT」と省略することがある。
【0090】
本例において用いたポリプロピレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂の融点、メルトフローレイト、融解熱量及び重量平均分子量は、以下の通りである。
【0091】
PP1;プロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体(密度:900g/cm、MFR:6g/10分、融点:133℃、融解熱量:63J/g、曲げ弾性率:650MPa、エチレン成分含量:3.1%)
PP2;低融点ポリプロピレン系樹脂(出光興産株式会社製「L-MODU(登録商標) S400」、密度:870g/cm、MFR:2600g/10分、融点:84℃、融解熱量:3J/g、重量平均分子量:45000)
PP3;エチレン-プロピレンランダム共重合体(密度:900g/cm、MFR:8g/10分、融点:143℃、融解熱量:79J/g、曲げ弾性率:950MPa、エチレン成分含量;3.1%)
【0092】
上記のポリプロピレン系樹脂の物性は、以下のようにして測定される。
【0093】
[ポリプロピレン系樹脂の融点及び融解熱量]
ポリプロピレン系樹脂の融点及び融解熱量は、JIS K7121:1987に記載されている熱流束示差走査熱量測定法に基づいて測定した。まず、ポリプロピレン系樹脂からなる試験片を準備し、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に1日以上静置して試験片の状態を調節した。状態調節後の試験片を10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温した後に、10℃/分の冷却速度で23℃まで降温し、再度10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温した。そして、2回目の昇温時に得られるDSC曲線により定まる吸熱ピークの頂点温度を樹脂の融点とした。なお、上記2回目のDSC曲線に複数の吸熱ピークが表れる場合は、最も面積の大きな吸熱ピークの頂点温度を融点とした。DSC曲線の取得には、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「DSC7020」)を用いた。
【0094】
また、前述した方法により得られる2回目のDSC曲線において、ポリプロピレン系樹脂の融解に対応する吸熱ピークの面積(単位:J)を算出した。この吸熱ピークの面積を試験片の質量(単位:g)で除した値をポリプロピレン系樹脂の融解熱量(単位:J/g)とした。
【0095】
[ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト]
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイトは、JIS K7210-1:2014に準拠した方法により、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定された値(単位:g/10分)である。
【0096】
[ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量]
ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により得られるクロマトグラムに基づいて算出した。
【0097】
クロマトグラムの取得にはWATERS社製の150Cを使用した。測定試料としての樹脂を1,2,4-トリクロロベンゼンに溶解させて濃度2.2mg/mlの試料溶液を調製した後、TSKgel(登録商標) GMHHR-H(S)HTをカラムとし、溶離液:1,2,4-トリクロロベンゼン、流量:1.0ml/分、温度:145℃という分離条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定試料を分子量の違いによって分離し、クロマトグラムを得た。
【0098】
そして、標準ポリスチレンを用いて作成した較正曲線によって得られたクロマトグラムにおける保持時間を分子量に換算し、微分分子量分布曲線を得た。この微分分子量分布曲線からポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量Mwを算出した。
【0099】
また、本例において使用したカーボンナノチューブの種類、平均長さ、平均外径及びアスペクト比を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
(実施例1)
本例の発泡粒子1は、図2に示すように、発泡状態の芯層2と、芯層2を被覆する被覆層3と、を有している。表2に示すように、芯層2は、ポリプロピレン系樹脂(A)としてのPP3を基材樹脂(I)としている。被覆層3は、融点Tm(B)が125℃以上150℃以下であるポリプロピレン系樹脂(B)としてのPP1と、カーボンナノチューブ(C)と、融点Tm(D)が70℃以上100℃以下であるポリプロピレン系樹脂(D)としてのPP2とからなる組成物(X)を基材樹脂(II)としている。
【0102】
本例の発泡粒子1を作製するに当たっては、まず、以下の方法により、被覆層を形成するための基材樹脂(II)を準備した。ポリプロピレン系樹脂PP1中に、表2に示すカーボンナノチューブ(C)が分散したカーボンナノチューブ(C)のマスターバッチを準備した。なお、マスターバッチ中のカーボンナノチューブ(C)の含有量は15質量%とした。このマスターバッチと、表1に示すポリプロピレン系樹脂(B)及びポリプロピレン系樹脂(D)とを押出機内で混練し、ポリプロピレン系樹脂(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、ポリプロピレン系樹脂(D)との質量比が表2に示す割合となるように基材樹脂(II)のペレットを作製した。
【0103】
次に、内径26mmの芯層形成用押出成形機および内径25mmの被覆層形成用押出成形機が併設され、多数本の複層ストランド状の共押出が可能なダイが出口側に付設された共押出装置を使用してストランドを作製した。芯層形成用押出成形機には、表2に示したポリプロピレン系樹脂(A)と、ポリプロピレン系樹脂(A)の質量に対して1000質量ppmの気泡調整剤とを供給し、芯層形成用押出成形機内で両者を混練した。また、被覆層形成用押出成形機には、前述した方法により準備され、表2の「被覆層」欄に示した組成を有する基材樹脂(II)のペレットを供給した。なお、気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛粉末を使用した。
【0104】
その後、各押出成形機から、芯層と被覆層との質量比が表2の「芯層:被覆層」欄に示す値となるように芯層形成用樹脂溶融物と被覆層形成用樹脂溶融物とを共押出した。各押出成形機から押し出された溶融混練物は、ダイ内で合流し、押出成形機先端に取り付けた口金の細孔から、芯層の外周が被覆層により覆われた複層のストランド状に押し出される。この押出物を水冷することにより、複層のストランドを得た。
【0105】
得られたストランドを、ファンカッターを用いて質量が約1.0mgとなるように切断した。これにより、未発泡状態の芯層と、芯層の側周面を覆う被覆層とを備えた樹脂粒子を得た。
【0106】
次に、以下のようにして一段発泡工程を行い、樹脂粒子を発泡させた。密閉容器内に、1000gの樹脂粒子と、分散媒としての水3Lと、分散剤としてのカオリン3gと、0.2gの界面活性剤と、0.1gの硫酸アルミニウムとを封入した。界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム20%水溶液(第一工業製薬株式社製「ネオゲン(登録商標)S-20F」)を使用した。
【0107】
その後、密閉容器内に、発泡剤としての二酸化炭素を、容器内の圧力がゲージ圧で2.1MPa(G)となるよう供給して容器内を加圧した。この状態で容器内を攪拌しながら加熱し、容器内を149.8℃まで昇温させた。この発泡温度を10分間保持した後、二酸化炭素で加圧することにより密閉容器内の圧力をゲージ圧で2.6MPa(G)に維持した状態で密閉容器を開放し、内容物を大気圧下に放出することにより樹脂粒子を発泡させた。以上により、発泡状態の芯層と、芯層を覆う被覆層とを備えた複層構造の一段発泡粒子を得た。なお、密閉容器から放出した直後の一段発泡粒子は水分を含んでいるため、23℃の温度で24時間養生させた。
【0108】
次に、以下のようにして二段発泡工程を行い、一段発泡粒子をさらに発泡させた。耐圧容器内に一段発泡粒子を充填した後、耐圧容器内に無機系ガスとしての空気を注入することにより、無機系ガスを気泡内に含浸させた。耐圧容器から取り出した一段発泡粒子における気泡内の圧力は、ゲージ圧で0.45~0.5MPa(G)であった。次いで、耐圧容器から取り出した一段発泡粒子にスチームを供給し、大気圧下で加熱した。加熱時に供給したスチームの圧力は、ゲージ圧で0.02~0.12MPa(G)とし、加熱時間は15秒とした。以上により、一段発泡粒子をさらに発泡させ、発泡粒子(二段発泡粒子)を得た。
【0109】
次に、以下のようにして型内成形を行い、発泡粒子成形体を作製した。まず、二段発泡粒子を密閉容器内に封入した後、密閉容器内を圧縮空気で加圧し、二段発泡粒子の気泡内圧を、ゲージ圧で0.09~0.13MPa(G)となるまで上昇させた。この二段発泡粒子をEPP成形機の成形型内に充填し、スチームを用い、成形した。スチーム成形圧は、ゲージ圧で0.22~0.36MPa(G)であった。
【0110】
(実施例2~実施例6及び比較例3)
実施例2~実施例6及び比較例3の発泡粒子は、被覆層の構成を表2、表3または表5に示すように変更した以外は、実施例1の発泡粒子と同様の構成を有している。
【0111】
(実施例7~実施例9)
実施例7~実施例9の発泡粒子は、被覆層中に含まれるカーボンナノチューブ(C)を表4に示すように変更した以外は、実施例1の発泡粒子と同様の構成を有している。
【0112】
(比較例1、比較例2)
比較例1及び比較例2の発泡粒子は、表5に示すように、被覆層における基材樹脂(II)中にポリプロピレン系樹脂(D)が含まれていない以外は、実施例1の発泡粒子と同様の構成を有している。
【0113】
(比較例4~比較例6)
比較例4~比較例6の発泡粒子は、表6に示すように、ポリプロピレン系樹脂(A)を基材樹脂とする芯層のみから構成されており、被覆層を有しない。また、比較例4の基材樹脂中には導電性物質が含まれていない。比較例5の基材樹脂中には、導電性物質としてのカーボンブラックが含まれており、比較例6の基材樹脂中には、導電性物質としてのカーボンナノチューブが含まれている。
【0114】
比較例4の発泡粒子を作製するに当たっては、ポリプロピレン系樹脂(A)を押出機から押し出して表6に示す組成を有する単層のストランドを作製する。このストランドを切断して樹脂粒子を得る。そして、実施例1の発泡粒子と同様の方法により樹脂粒子を発泡させることにより、比較例4の発泡粒子を得ることができる。
【0115】
比較例5及び比較例6の発泡粒子を作製するに当たっては、押出機内において導電性物質とポリプロピレン系樹脂(A)と混練した後、押出機から押し出して表6に示す組成を有する単層のストランドを作製する。このストランドを切断して樹脂粒子を得る。そして、実施例1の発泡粒子と同様の方法により樹脂粒子を発泡させることにより、比較例5及び比較例6の発泡粒子を得ることができる。
【0116】
次に、表2~表6に示す諸特性の評価方法を説明する。
【0117】
[基材樹脂(II)の融点Tm(II)及び融解熱量Q(II)
基材樹脂(II)の融点Tm(II)及び融解熱量Q(II)の測定方法は、ポリプロピレン系樹脂からなる試験片に替えて基材樹脂(II)からなる試験片を用いて示差走査熱量測定を行う以外は、前述したポリプロピレン系樹脂の融点及び融解熱量の測定方法と同様である。
【0118】
[被覆層の被覆性]
多層構造を有する実施例1~実施例9及び比較例1~比較例3において、共押出装置から押し出された丸棒状のストランドを目視観察し、被覆層の被覆状態を評価した。表2~表5の「被覆性」欄における記号「A」は、ストランドの側周面全体が被覆層により均一に被覆されていることを示し、記号「B」は、被覆層の厚みのバラツキがあるものの、丸棒状のストランドの側周面全体が被覆層により被覆されていることを示し、記号「C」は、被覆層が芯層全体を被覆することが困難であり、ストランドの側周面の一部に芯層が露出していることを示す。
【0119】
[被覆層の押出性]
多層構造を有する実施例1~実施例9及び比較例1~比較例3において、芯層及び被覆層を共押出する際における、被覆層形成用押出成形機のモータの負荷に基づいて被覆層の押出性の評価を行った。表2~表5の「被覆層の押出性」欄における記号「A」は、被覆層を問題なく押し出すことができることを示し、記号「B」は、基材樹脂(II)の粘度が上昇し、被覆層形成用押出成形機のモータに過負荷がかかる等の不具合が発生することを示す。
【0120】
[高温ピーク熱量]
高温ピーク熱量の測定に用いる測定試料は、一段発泡粒子であってもよいし、発泡粒子であってもよい。本例においては、一段発泡粒子を測定試料として示差走査熱量測定を行った。具体的には、約2mgの一段発泡粒子を試験片とし、JIS K7122-1987に記載されたプラスチックの転移熱測定方法に従って試験片を加熱溶融させ、この際のDSC曲線を得た。測定温度範囲は30℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度までとし、加熱時の昇温速度は10℃/分とした。
【0121】
このようにして得られたDSC曲線における吸熱ピークを、前述の方法により固有ピークΔH1と高温ピークΔH2とに分割した(図1参照)。そして、固有ピークΔH1の面積と高温ピークΔH2の面積との合計を総熱量の値とし、高温ピークΔH2の面積を高温ピーク熱量の値とした。
【0122】
[発泡粒子の嵩密度]
500個以上の発泡粒子を気温23℃、相対湿度50%、1atmの環境中で24時間放置した。このようにして得られた発泡粒子群をメスシリンダー内に自然に堆積するようにして充填し、メスシリンダーの目盛から発泡粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取った。そして、メスシリンダー内の発泡粒子群の質量(単位:g)を前述した嵩体積(単位:L)で除した値を発泡粒子の嵩密度(単位:g/L)とした。
【0123】
[発泡粒子成形体の成形性]
発泡粒子成形体の成形性は、以下の方法により算出される融着率の値に基づいて評価した。まず、発泡粒子成形体を長手方向に略等分となるように折り曲げて破断させた。これにより露出した破断面を目視観察し、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数とを数えた。そして、破断面に露出している発泡粒子の総数、つまり、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数との合計に対する発泡粒子の内部で破断した発泡粒子の数の割合を算出した。この割合を百分率(%)で表した値を融着率とした。
【0124】
表2~表6の「成形性」欄に示した記号「A+」は融着率が95%を超えることを示し、記号「A」は融着率が80%を超え95%以下であることを示し、記号「B」は融着率が70%を超え80%以下であることを示す。成形性の評価においては、融着率が80%以上である記号「A+」または「A」の場合を、成形性に優れているため合格と判断した。
【0125】
[発泡粒子成形体の見掛け密度]
発泡粒子成形体の質量(単位:kg)を、外形寸法に基づいて算出した発泡粒子成形体の体積(単位:m)で除した値を発泡粒子成形体の見掛け密度(単位:kg/m)とした。
【0126】
[発泡粒子成形体の表面抵抗率]
JIS K6271-1:2015に準拠した測定方法により発泡粒子成形体の表面抵抗率を測定した。具体的には、まず、発泡粒子成形体から、縦100mm、横100mm、厚み20mmの直方体形状を有する試験片を採取した。この際、試験片における縦100mm×横100mmの寸法を有する2つの面のうち少なくとも一方の面が、スキン面、つまり、型内成形の際に金型と接触していた面となるように、試験片を採取した。この試験片のスキン面に電極を取り付けた後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で電極間に10Vの電圧を印加した。そして、電圧を印加してから30秒経過した時点での表面抵抗率(単位:Ω)を、発泡粒子成形体の表面抵抗率とした。
【0127】
[基材樹脂(II)の表面抵抗率]
基材樹脂(II)を用いて縦100mm、横100mm、厚み20mmの直方体形状を有する試験片を作製した。JIS K6271-1:2015に準拠した測定方法により、試験片の表面抵抗率を測定した。具体的には、試験片における縦100mm×横100mmの面に電極を取り付けた後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で電極間に10Vの電圧を印加した。そして、電圧を印加してから30秒経過した時点での表面抵抗率(単位:Ω)を、発泡粒子成形体の表面抵抗率とした。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
【表5】
【0132】
【表6】
【0133】
表2~表4に示すように、実施例1~実施例9の発泡粒子における芯層は、基材樹脂(I)を用いて形成されており、被覆層は前記特定の組成を有する基材樹脂(II)を用いて形成されている。そのため、実施例1~実施例9の発泡粒子は、融着性及び成形性に優れている。また、実施例1~実施例9の発泡粒子を型内成形することにより、静電気拡散性を備えた発泡粒子成形体を容易に得ることができる。
【0134】
表5に示すように、比較例1の樹脂粒子の被覆層には、ポリプロピレン系樹脂(D)が含まれていない。そのため、比較例1の樹脂粒子を作製する際に、被覆層を形成し、被覆層を芯層に積層させることが難しい。
【0135】
比較例2の樹脂粒子の被覆層には、比較例1よりも多量のカーボンナノチューブ(C)が配合されている。そのため、被覆層の形成がさらに困難となった。また、比較例2においては、カーボンナノチューブ(C)の配合量が多かったため、成形性の低下を招いた。
【0136】
比較例3の発泡粒子におけるカーボンナノチューブ(C)の配合量は、前記特定の範囲よりも少ない。そのため、被覆層を芯層に被覆し、発泡粒子を形成することはできるが、比較例3の発泡粒子を型内成形しても、発泡粒子成形体に所望の電気的特性を付与することは難しい。
【0137】
比較例4は、芯層のみからなり、芯層中に導電性物質を含まない発泡粒子の例である。比較例4の発泡粒子は、成形性に劣っている。
【0138】
比較例5及び比較例6は、芯層のみからなる発泡粒子に導電性物質を添加した例である。これらの発泡粒子においては、発泡粒子の電気抵抗を低減するために多量の導電性物質を添加する必要がある。そのため、比較例5及び比較例6の発泡粒子は、成形性に劣っている。
【符号の説明】
【0139】
1 発泡粒子
2 芯層
3 被覆層
図1
図2