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特開2022-188418蓄電装置、及び、蓄電装置の異常放電検出方法
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  • 特開-蓄電装置、及び、蓄電装置の異常放電検出方法 図1
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  • 特開-蓄電装置、及び、蓄電装置の異常放電検出方法 図4A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188418
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】蓄電装置、及び、蓄電装置の異常放電検出方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20221214BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20221214BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20221214BHJP
   B60L 58/22 20190101ALI20221214BHJP
【FI】
H02J7/02 H
H02J7/04 Q
H02J7/34 C
B60L58/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096428
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今中 佑樹
【テーマコード(参考)】
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
5G503BA03
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503DA04
5G503DA07
5G503EA05
5G503FA06
5G503FA19
5G503GD06
5G503HA01
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC16
5H125EE23
5H125EE25
5H125EE26
5H125EE27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バランサ放電電気量が最も小さい蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断するための基準値を適切に決定する蓄電装置及び異常放電検出方法を提供する。
【解決手段】蓄電装置は、複数の蓄電セルと、各蓄電セルを個別に放電させるバランサ回路と、管理部と、を備える。管理部は、相対的に電圧又は残存電気量が高い蓄電セルをバランサ回路によって放電させて複数の蓄電セルの電圧の差又は残存電気量の差を低減する低減処理と、所定期間にバランサ回路によって放電されたバランサ放電電気量が最も小さい特定蓄電セルのバランサ放電電気量と他の蓄電セルのバランサ放電電気量との差を基準値と比較し、特定蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断する判断処理と、所定期間における複数の蓄電セルのバランサ放電電気量のばらつき及び所定期間における複数の蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの一方に基づいて基準値を決定する決定処理を実行する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置であって、
複数の蓄電セルと、
各蓄電セルを個別に放電させるバランサ回路と、
管理部と、
を備え、
前記管理部は、
相対的に電圧または残存電気量が高い蓄電セルを前記バランサ回路によって放電させて前記複数の蓄電セルの電圧の差または残存電気量の差を低減する低減処理と、
所定期間に前記バランサ回路によって放電されたバランサ放電電気量が最も小さい特定蓄電セルのバランサ放電電気量と他の蓄電セルのバランサ放電電気量との差を基準値と比較することにより、前記特定蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断する判断処理と、
前記所定期間における前記複数の蓄電セルのバランサ放電電気量のばらつき、及び、前記所定期間における前記複数の蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの少なくとも一方に基づいて前記基準値を決定する決定処理と、
を実行する、蓄電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電装置であって、
前記管理部は、
前記所定期間に、前記特定蓄電セルと他の蓄電セルが前記バランサ回路によって放電される頻度に起因して生じ得る第1パラメータと、
前記所定期間における、前記特定蓄電セルと他の蓄電セルの自己放電電気量に起因して生じ得る第2パラメータと、
に基づいて前記基準値を決定する、蓄電装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蓄電装置であって、
前記他の蓄電セルのバランサ放電電気量として、2以上の他の蓄電セルのバランサ放電電気量の平均値を用いる、蓄電装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の蓄電装置であって、
前記蓄電セルの温度を計測する温度計測部を備え、
前記管理部は、
前記蓄電セルの温度及び充電状態と、一定時間における前記蓄電セルの自己放電電気量とが対応付けられているテーブルを用いてばらつきを取得して記録する記録処理を実行し、
前記記録処理によって記録したばらつきのうち前記所定期間に記録したばらつきを合計することによって前記複数の蓄電セルの自己放電電気量のばらつきを求める、蓄電装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の蓄電装置であって、
前記複数の蓄電セルは、充電状態の変化に対する電圧の変化が小さいプラトー領域を有する、蓄電装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の蓄電装置であって、
前記蓄電セルの温度を計測する温度計測部を備え、
前記管理部は、前記決定処理において、前記バランサ放電電気量のばらつき、及び、前記自己放電電気量のばらつきのいずれに基づいて前記基準値を決定するかを、前記温度計測部によって計測された温度に基づいて決定する、蓄電装置。
【請求項7】
複数の蓄電セルと各蓄電セルを個別に放電させるバランサ回路とを有する蓄電装置の異常放電検出方法であって、
相対的に電圧または残存電気量が高い蓄電セルを前記バランサ回路によって放電させて前記複数の蓄電セルの電圧の差または残存電気量の差を低減する低減工程と、
所定期間に前記バランサ回路によって放電されたバランサ放電電気量が最も小さい特定蓄電セルのバランサ放電電気量と他の蓄電セルのバランサ放電電気量との差を基準値と比較することにより、前記特定蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断する判断工程と、
前記所定期間における前記複数の蓄電セルのバランサ放電電気量のばらつき、及び、前記所定期間における前記複数の蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの少なくとも一方に基づいて前記基準値を決定する決定工程と、
を含む、異常放電検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蓄電装置、及び、蓄電装置の異常放電検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの蓄電セルは、蓄電セルの内部で金属コンタミネーション(製造から包装・移送までの間に、原材料として使用していない異物が混入してしまうこと。以下、金属コンタミと略す)などによって微小な内部短絡(異常放電の一例)が生じることがある。蓄電セルは、蓄電セルを管理する管理システムの基板上での故障(マイグレーション、デンドライトなど)によって放電経路が形成され、微小な放電(異常放電の一例)が生じることもある。
【0003】
蓄電セルは異常放電が生じると電圧や残存電気量が低下する。相対的に電圧が高い蓄電セルあるいは相対的に残存電気量が高い蓄電セルを放電させることによって各蓄電セルの電圧の差や残存電気量の差を低減する場合、異常放電が生じている蓄電セルは電圧や残存電気量が低いことから、バランサ回路によって放電される機会が少なくなる。
内部短絡が発生しているか否かを、バランサ回路によって放電された電気量(以下、バランサ放電電気量という)の差に基づいて判断する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、特許文献1に記載のバッテリー管理システムは複数のバッテリーセルをバランシングするセルバランシング部を含んでいる。当該バッテリー管理システムは、各バッテリーセルのセルバランシング放電容量のうち最大値(CB_max)と各バッテリーセルのセルバランシング放電容量(CB_n)との差を基準値(REF)と比較して、複数のバッテリーセルのうち差が基準値より大きいバッテリーセルを短絡バッテリーセルと判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5117537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載のバッテリー管理システムの場合、内部短絡が発生しているか否かを精度よく判断するためには基準値(REF)を適切に決定する必要がある。しかしながら、特許文献1には基準値をどのように決定するかについては開示されておらず、適切な基準値を決定する上で改善の余地があった。
【0006】
本明細書では、バランサ放電電気量が最も小さい蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断するための基準値を適切に決定できる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
蓄電装置であって、複数の蓄電セルと、各蓄電セルを個別に放電させるバランサ回路と、管理部と、を備え、前記管理部は、相対的に電圧または残存電気量が高い蓄電セルを前記バランサ回路によって放電させて前記複数の蓄電セルの電圧の差または残存電気量の差を低減する低減処理と、所定期間に前記バランサ回路によって放電されたバランサ放電電気量が最も小さい特定蓄電セルのバランサ放電電気量と他の蓄電セルのバランサ放電電気量との差を基準値と比較することにより、前記特定蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断する判断処理と、前記所定期間における前記複数の蓄電セルのバランサ放電電気量のばらつき、及び、前記所定期間における前記複数の蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの少なくとも一方に基づいて前記基準値を決定する決定処理と、を実行する。
【発明の効果】
【0008】
上記構成により、バランサ放電電気量が最も小さい蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断するための基準値を適切に決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係る蓄電装置が搭載されている車両の模式図
図2】車両の電源システムの模式図
図3】蓄電装置の分解斜視図
図4A】蓄電素子の平面図
図4B図4Aに示すA-A線の断面図
図5】蓄電装置の電気的構成を示すブロック図
図6】バランサ回路の動作を説明するための模式図
図7】内部短絡の判断処理のフローチャート
図8】プラトー領域を説明するための模式図
図9】蓄電セルの電気量ばらつきを説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本実施形態の概要)
(1)本発明の一局面によれば、蓄電装置は、複数の蓄電セルと、各蓄電セルを個別に放電させるバランサ回路と、管理部と、を備え、前記管理部は、相対的に電圧または残存電気量が高い蓄電セルを前記バランサ回路によって放電させて前記複数の蓄電セルの電圧の差または残存電気量の差を低減する低減処理と、所定期間に前記バランサ回路によって放電されたバランサ放電電気量が最も小さい特定蓄電セルのバランサ放電電気量と他の蓄電セルのバランサ放電電気量との差を基準値と比較することにより、前記特定蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断する判断処理と、前記所定期間における前記複数の蓄電セルのバランサ放電電気量のばらつき、及び、前記所定期間における前記複数の蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの少なくとも一方に基づいて前記基準値を決定する決定処理と、を実行する。
【0011】
他の蓄電セルが複数ある場合、上述した「他の蓄電セルのバランサ放電電気量」は他のいずれか1つの蓄電セルのバランサ放電電気量であってもよいし、他の2以上の蓄電セルのバランサ放電電気量の平均値であってもよいし、他の2以上の蓄電セルのバランサ放電電気量の中央値であってもよい。他のいずれか1つの蓄電セルである場合、当該他のいずれか1つの蓄電セルは、所定期間におけるバランサ放電電気量が最も小さい蓄電セルの次にバランサ放電電気量が小さい蓄電セルであってもよいし、所定期間におけるバランサ放電電気量が最も大きい蓄電セルであってもよい。
【0012】
蓄電セルは電気負荷に接続されていなくても自己放電によって電圧や残存電気量が低下する。蓄電セルの自己放電電気量[Ah]は蓄電セルの充電状態や温度などによって異なるが、充電状態や温度などが同じであっても自己放電電気量がばらつくことがある。例えば2つの蓄電セルがあり、いずれの蓄電セルも異常放電が生じていない場合を考える。この場合、所定期間における2つの蓄電セルのバランサ放電電気量の差は理想的には0になるはずであるが、実際には自己放電電気量がばらつくことによって差が生じる。制御部はバランサ回路によって2つの蓄電セルの電圧の差または残存電気量の差を低減させるため、所定期間における2つの蓄電セルのバランサ放電電気量の差は、所定期間における2つの蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの真値に相当する。
【0013】
ただし、上述した自己放電電気量のばらつきに加えて、あるいは自己放電電気量のばらつきに替えて、バランサ放電電気量のばらつきによってバランサ放電電気量に差が生じる場合もある。例えば、蓄電セル毎に放電抵抗を備えているバランサ回路の場合は、放電抵抗の許容誤差によってバランサ放電電気量にばらつきが生じることもある。
【0014】
いずれの蓄電セルも異常放電が生じていない場合は、2つの蓄電素子のバランサ放電電気量に差が生じたとしても、自己放電電気量のばらつきやバランサ放電電気量のばらつきによってその差を説明できる。これに対し、いずれか一方の蓄電セルに異常放電が生じている場合は、異常放電が生じている蓄電セルがバランサ回路によって放電される機会が少なくなることから、それらの蓄電セルのバランサ放電電気量に、自己放電電気量のばらつきやバランサ放電電気量のばらつきでは説明できない大きな差が生じる。
【0015】
上記の蓄電装置によると、所定期間における複数の蓄電セルのバランサ放電電気量のばらつき、及び、所定期間における複数の蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの少なくとも一方に基づいて基準値を決定する。このため、特定蓄電セルに異常放電が生じているか否かを判断するための基準値を、バランサ放電電気量のばらつきや自己放電電気量のばらつきを考慮して適切に決定できる。
上記の説明では蓄電セルが2つである場合を例に説明したが、蓄電セルは2つに限られるものではなく、3つ以上であってもよい。
【0016】
(2)前記管理部は、前記所定期間に、前記特定蓄電セルと他の蓄電セルが前記バランサ回路によって放電される頻度に起因して生じ得る第1パラメータと、前記所定期間における、前記特定蓄電セルと他の蓄電セルの自己放電電気量に起因して生じ得る第2パラメータと、に基づいて前記基準値を決定してもよい。
【0017】
例えば、所定期間における特定蓄電セルのバランサ放電電気量と他の蓄電セルのバランサ放電電気量との差が、バランサ放電電気量のばらつきに起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第1パラメータの一例)と、自己放電電気量のばらつきに起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第2パラメータの一例)とを合計した値以下である場合は、バランサ放電電気量のばらつきと自己放電電気量のばらつきとによってその差を説明できる。これに対し、差が上述した合計した値より大きい場合は、バランサ放電電気量のばらつきや自己放電電気量のばらつきではその差を説明できないことから、特定蓄電セルが内部短絡している可能性が高い。このため、上述した合計した値を基準値として決定すると、特定蓄電セルが内部短絡しているか否かを判断するための基準値を適切に決定できる。
【0018】
基準値は上述した各最大値を合計した値に限定されるものではなく、各最大値の二乗平方根であってもよい。上述した最大値を用いるのではなく、ばらつきの2σ(バランサ放電電気量や自己放電電気量の正規分布における95%信頼区間)に基づいてばらつきの幅を決定し、決定した幅を合計した値あるいは二乗平方和を基準値としてもよい。
【0019】
(3)前記他の蓄電セルのバランサ放電電気量として、2以上の他の蓄電セルのバランサ放電電気量の平均値を用いてもよい。
【0020】
上記の蓄電装置によれば、他のいずれか1つの蓄電セルのバランサ放電電気量を用いる場合に比べてより適切に基準値を決定できる。
【0021】
(4)前記蓄電セルの温度を計測する温度計測部を備え、前記管理部は、前記蓄電セルの温度及び充電状態と、一定時間における前記蓄電セルの自己放電電気量とが対応付けられているテーブルを用いてばらつきを取得して記録する記録処理を実行し、前記記録処理によって記録したばらつきのうち前記所定期間に記録したばらつきを合計することによって前記複数の蓄電セルの自己放電電気量のばらつきを求めてもよい。
【0022】
本願発明者は、蓄電セルの自己放電電気量のばらつきは蓄電セルの充電状態(SOC:State of Charge)や蓄電セルの温度などによって異なることを見出した。充電状態(SOC)は残存電気量と言い換えることもできる。
上記の蓄電装置によると、蓄電セルの温度と蓄電セルのSOCとの組み合わせ毎に一定時間における蓄電セルの自己放電電気量のばらつきが対応付けられているテーブルから自己放電電気量のばらつきを取得することにより、蓄電セルのSOCや温度に応じたばらつきを求めることができる。
【0023】
(5)前記複数の蓄電セルは、充電状態の変化に対する電圧の変化が小さいプラトー領域を有してもよい。
【0024】
リチウムイオン二次電池などの蓄電セルは、充電器や電気負荷等の周辺装置の故障や、複数の蓄電セル間での電気量ばらつき等により、過充電や過放電となる可能性がある。このため、一般に蓄電装置は、蓄電セルの異常状態を検出すると、蓄電セルと充電器との間(あるいは蓄電セルと電気負荷との間)に接続されているリレーや半導体スイッチといった電流遮断装置を遮断状態(開、オープン、オフ)にすることによって蓄電セルを保護する。
【0025】
一方で、自動車などの車両に蓄電装置が搭載された場合は、電流遮断装置を遮断状態にして蓄電セルを保護すると、車両の各電気負荷への電源供給が不安定になる。例えば車両のオルタネータ(発電機)が故障して蓄電セルが過充電になった場合、電流遮断装置を遮断状態にすると、電気負荷への電源供給は故障したオルタネータのみによって維持される。このため、いつ電源喪失してもおかしくないという状況に陥る。このような場合は、オルタネータが故障しても運転者が車両を安全な路側帯などに停車させるまでの間、蓄電装置が車両への電源供給を維持することが好ましい。すなわち、車両に搭載されている蓄電装置の場合は、例え蓄電装置が異常な状態であっても一定時間は電流遮断装置を通電状態(閉、クローズ、オフ)に維持し続けることが好ましい。
【0026】
図8に示すように、蓄電セルの中にはSOCの変化に対する蓄電セルの開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)の変化が小さいプラトー領域を有するものがある。プラトー領域は、具体的には例えばSOCの変化量に対するOCVの変化量が2[mV/%]以下の領域である。プラトー領域を有する蓄電セルとしては、例えば正極活物質にLiFePO4(リン酸鉄リチウム)が含有され、負極活物質にGr(グラファイト)が含有されたLFP/Gr系(所謂鉄系)のリチウムイオン二次電池が例示される。
【0027】
図9に示すように、プラトー領域を有する蓄電セルの電気量ばらつきが生じていると、蓄電装置を充電したとき、SOCがプラトー領域にある蓄電セルは充電が進行しても電圧が上昇し難いが、SOCがプラトー領域より高い領域にある蓄電セル(言い換えると残存電気量の多い蓄電セル)は電圧が急激に上昇する。このため、電気量ばらつきが生じていない場合と比較して電流遮断装置を一定時間通電状態に維持し続けることが困難となる。このため、プラトー領域を有する蓄電装置の場合は電圧の差あるいは残存電気量の差を低減することがより望まれる。しかしながら、蓄電セルの異常放電が生じるとバランサ回路によって差を低減してもばらつきが生じる。
【0028】
蓄電セルの異常放電が生じた場合、車両を介して運転者に蓄電装置の交換を促せば、運転者が正常な蓄電装置に交換することにより、異常放電による電圧や残存電気量のばらつきを抑制できる。このため、プラトー領域を有する蓄電装置の場合は、蓄電セルが異常放電しているか否かを判断することが特に求められる。
上記の蓄電装置によると、蓄電セルが異常放電しているか否かを判断できるので、プラトー領域を有する蓄電装置の場合に特に有用である。
【0029】
(6)前記蓄電セルの温度を計測する温度計測部を備え、前記管理部は、前記決定処理において、前記バランサ放電電気量のばらつき、及び、前記自己放電電気量のばらつきのいずれに基づいて前記基準値を決定するかを、前記温度計測部によって計測された温度に基づいて決定してもよい。
【0030】
例えば、蓄電セルの温度が低いとき(低温時)は蓄電セルの自己放電電気量のばらつきが無視できる程度に小さくなるため、自己放電電気量のばらつきは用いず、バランサ放電電気量のばらつきだけから基準値を決定してもよい。蓄電セルの温度が高いとき(高温時)は自己放電電気量の影響度がバランサ放電電気量より十分支配的であるため、バランサ放電電気量のばらつきは用いず、自己放電電気量のばらつきだけから基準値を決定してもよい。低温時と高温時との間のとき(常温時)は自己放電電気量のばらつき及びバランサ放電電気量のばらつきの両方に基づいて基準値を決定してもよい。
【0031】
本明細書によって開示される発明は、装置、方法、これらの装置または方法の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の種々の態様で実現できる。
【0032】
<実施形態1>
実施形態1を図2ないし図7によって説明する。以降の説明では同一の構成部材には一部を除いて図面の符号を省略している場合がある。
【0033】
(1)蓄電装置
図1及び図2を参照して、実施形態1に係る蓄電装置1について説明する。図1に示すように、蓄電装置1は自動車などの車両に搭載されるものである。図2に示すように、蓄電装置1は車両が備えるエンジン始動装置10(セルモータ)や各種の補機類12(パワーステアリング、ブレーキ、ヘッドライト、エアコン、カーナビゲーションなど)に電力を供給する。蓄電装置1は車両発電機13(オルタネータ)によって充電される。
【0034】
(2)蓄電装置の構成
図3に示すように、蓄電装置1は収容体71を備える。収容体71は合成樹脂材料からなる本体73と蓋体74とを備えている。本体73は有底筒状である。本体73は底面部75と4つの側面部76とを備えている。4つの側面部76によって上端部分に上方開口部77が形成されている。
【0035】
収容体71は複数の蓄電セル30Aからなる組電池30と回路基板ユニット72とを収容する。回路基板ユニット72は組電池30の上部に配置されている。
蓋体74は本体73の上方開口部77を閉鎖する。蓋体74の周囲には外周壁78が設けられている。蓋体74は平面視略T字形の突出部79を有する。蓋体74の前部のうち一方の隅部に正極の外部端子80Pが固定され、他方の隅部に負極の外部端子80Nが固定されている。
【0036】
蓄電セル30Aは繰り返し充放電可能な二次電池であり、具体的にはリチウムイオン二次電池である。より具体的には、蓄電セル30AはSOCの変化に対するOCVの変化が小さいプラトー領域を有するリチウムイオン二次電池である。プラトー領域を有するリチウムイオン二次電池としては、正極活物質に鉄が含有された鉄系のリチウムイオン二次電池が例示される。鉄系のリチウムイオン二次電池としては、正極活物質にLiFePO4(リン酸鉄リチウム)、負極活物質にGr(グラファイト)が含有されたLFP/Gr系のリチウムイオン二次電池が例示される。
【0037】
図4A及び図4Bに示すように、蓄電セル30Aは直方体形状のケース82内に電極体83を非水電解質と共に収容したものである。ケース82はケース本体84とその上方の開口部を閉鎖する蓋85とを有している。
電極体83は、詳細については図示しないが、銅箔からなる基材に負極活物質を塗布した負極要素と、アルミニウム箔からなる基材に正極活物質を塗布した正極要素との間に多孔性の樹脂フィルムからなるセパレータを配置したものである。これらはいずれも帯状であり、セパレータに対して負極要素と正極要素とを幅方向の反対側にそれぞれ位置をずらした状態で、ケース本体84に収容可能となるように扁平状に巻回されている。
【0038】
正極要素には正極集電体86を介して正極端子87が接続されており、負極要素には負極集電体88を介して負極端子89が接続されている。正極集電体86及び負極集電体88は平板状の台座部90とこの台座部90から延びる脚部91とからなる。台座部90には貫通孔が形成されている。脚部91は正極要素又は負極要素に接続されている。正極端子87及び負極端子89は、端子本体部92と、その下面中心部分から下方に突出する軸部93とからなる。そのうち、正極端子87の端子本体部92と軸部93とは、アルミニウム(単一材料)によって一体成形されている。負極端子89においては、端子本体部92がアルミニウム製で、軸部93が銅製であり、これらを組み付けたものである。正極端子87及び負極端子89の端子本体部92は、蓋85の両端部に絶縁材料からなるガスケット94を介して配置され、このガスケット94から外方へ露出されている。
【0039】
図4Aに示すように、蓋85は圧力開放弁95を有している。圧力開放弁95は正極端子87と負極端子89の間に位置している。圧力開放弁95はケース82の内圧が制限値を超えた時に開放してケース82の内圧を下げる。
【0040】
(3)蓄電装置の電気的構成
図5に示すように、蓄電装置1は組電池30、BMU31(管理装置の一例)及び通信コネクタ32を備える。組電池30はパワーライン34Pによって正極の外部端子80Pに接続されており、パワーライン34Nによって負極の外部端子80Nに接続されている。
【0041】
組電池30は12個の蓄電セル30Aが3並列で4直列に接続されている。図5では並列に接続された3つの蓄電セル30Aを1つの電池記号で表している。
BMU31は電流センサ33、電圧計測回路35、温度センサ36(温度計測部の一例)、バランサ回路38、電流遮断装置39及び管理部37を備えている。
【0042】
電流センサ33は組電池30の負極側に位置し、負極のパワーライン34Nに設けられている。電流センサ33は組電池30の充放電電流[A]を計測して管理部37に出力する。
電圧計測回路35は信号線によって各蓄電セル30Aの両端にそれぞれ接続されている。電圧計測回路35は各蓄電セル30Aの電池電圧[V]を計測して管理部37に出力する。組電池30の総電圧[V]は直列に接続された4つの蓄電セル30Aの合計電圧である。
【0043】
温度センサ36は接触式あるいは非接触式であり、蓄電セル30Aの温度[℃]を計測して管理部37に出力する。図5では省略しているが、温度センサ36は2つ以上設けられている。各温度センサ36は互いに異なる蓄電セル30Aの温度を計測する。
バランサ回路38は各蓄電セル30Aのうち相対的に電圧が高い蓄電セル30Aを放電させることによって各蓄電セル30Aの電圧の差を低減するパッシブ方式のバランサ回路38である。バランサ回路38は蓄電セル30A毎に放電抵抗38Aとスイッチ素子38Bとを有している。放電抵抗38Aとスイッチ素子38Bとは直列に接続されており、対応する蓄電セル30Aと並列に接続されている。スイッチ素子38Bがオンになると対応する蓄電セル30Aの電力が放電抵抗38Aによって放電される。
【0044】
電流遮断装置39はパワーライン34Pに設けられている。電流遮断装置39としてはリレーなどの有接点スイッチ(機械式)や、FET(Field Effect Transistor)などの半導体スイッチなどを用いることができる。電流遮断装置39は管理部37によって通電状態(閉状態、オン状態、クローズ状態)と遮断状態(開状態、オフ状態、オープン状態)とが切り替えられる。
【0045】
管理部37はCPUやRAMなどが1チップ化されたマイクロコンピュータ37A、記憶部37B及び通信部37Cを備える。記憶部37Bはデータを書き換え可能な記憶媒体であり、各種のプログラムやデータ(後述するテーブルを含む)などが記憶されている。マイクロコンピュータ37Aは記憶部37Bに記憶されているプログラムを実行することによって蓄電装置1を管理する。通信部37CはBMU31が車両ECU14(Engine Control Unit)と通信するための回路である。
通信コネクタ32はBMU31が車両ECU14と通信するための通信ケーブルが接続されるコネクタである。
【0046】
(4)管理部によって実行される処理
管理部37によって実行される以下の4つの処理について説明する。
・SOC推定処理
・バランサ放電電気量、及び、バランサ放電電気量のばらつきの記録処理
・蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの記録処理
・内部短絡の判断処理
【0047】
(4-1)SOC推定処理
管理部37は電流積算法によって蓄電装置1のSOCを推定する。電流積算法は、電流センサ33によって所定の時間間隔(10ミリ秒など)で蓄電装置1の充放電電流の電流値を計測し、計測した電流値を初期値に加減することによって蓄電装置1のSOCを推定する方法である。電流積算法は一例であり、SOCを推定する方法はこれに限られない。
【0048】
(4-2)バランサ放電電気量及びバランサ放電電気量のばらつきの記録処理
図6に示すように、蓄電装置1は蓄電セル30A間で電圧のばらつきが生じることがある。便宜上、図6では4つの蓄電セル30Aに1~4の符号を付している。管理部37はいずれかの蓄電セル30Aの電圧が所定の電圧まで上昇すると、バランサ回路38を制御して、その蓄電セル30Aの電圧が、他の蓄電セル30Aのうち電圧が最も低い蓄電セル30Aの電圧と略同じになるようにその蓄電セル30Aを放電させることによって各蓄電セル30Aの電圧の差を低減する(低減処理)。
【0049】
各蓄電セル30Aの電圧の差を低減するのではなく、各蓄電セル30AのSOC(残存電気量の一例)の差を低減してもよい。具体的には、管理部37は蓄電セル30A毎にSOCを計測し、いずれかの蓄電セル30AのSOCが所定のSOCまで上昇すると、バランサ回路38を制御して、その蓄電セル30AのSOCが、他の蓄電セル30AのうちSOCが最も低い蓄電セル30AのSOCと略同じになるようにその蓄電セル30Aを放電させてもよい。
【0050】
管理部37は、バランサ回路38によって蓄電セル30Aを放電させるとき、放電させた電気量(バランサ放電電気量[Ah])を計測する。具体的には、管理部37はある蓄電セル30Aを放電させるとき、電圧計測回路35によってその蓄電セル30Aの電圧を計測する。管理部37は、その蓄電セル30Aの電圧と、その蓄電セル30Aに対応する放電抵抗38Aの抵抗値とから、バランサ回路38によって放電される電流の電流値をオームの法則によって所定期間毎に計算する。管理部37は所定期間毎に計算した電流値を積算することでバランサ放電電気量を計測する。
【0051】
管理部37は、バランサ回路38によって1つの蓄電セル30Aを放電させる毎に、計測したバランサ放電電気量、以下に説明するバランサ放電電気量のばらつき、及び、放電した日時を、放電させた蓄電セル30Aに対応付けて記憶部37Bに記録する。
バランサ放電電気量のばらつきについて説明する。バランサ回路38は放電抵抗38Aによって蓄電セル30Aを放電するので、放電抵抗38Aの許容誤差によってバランサ放電電気量にばらつきが生じる。例えばある蓄電セル30Aの放電に用いる放電抵抗38Aの許容誤差が±1%であり、計測したバランサ放電電気量が10mAhであったとする。この場合、以下の式1及び式2より、計測したバランサ放電電気量に対して、実際にバランサ回路38が放電した放電電気量のばらつきは±0.1mAhとなる。
10×(100/101)×(0.01)≒+0.1mAh ・・・ 式1
10×(100/99)×(-0.01)≒-0.1mAh ・・・ 式2
【0052】
バランサ放電電気量のばらつきは、計測されたバランサ放電電気量に含まれているばらつきの成分の大きさ、あるいは、バランサ放電電気量に含まれているばらつきの大きさの範囲ということもできる。
【0053】
(4-3)蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの記録処理
蓄電セル30Aの自己放電電気量を実際に計測することは困難であるため、管理部37は蓄電セル30Aの温度と蓄電セル30AのSOCとの組み合わせに基づいて各蓄電セル30Aの自己放電電気量を推定する。具体的には、以下の表1に示すように、記憶部37Bには、蓄電セル30Aの温度毎、且つ、蓄電セル30AのSOC毎に、一定時間(例えば1時間)における蓄電セル30Aの標準的な自己放電電気量とその自己放電電気量のばらつきとが対応付けられているテーブルが記憶されている。
【表1】
【0054】
表1に示す例の場合、例えば温度が50℃であり、SOCが100%である場合、一定時間における標準的な自己放電電気量は1mAhであり、そのときの自己放電電気量のばらつきは±0.1mAである。管理部37は一定時間毎に蓄電セル30AのSOCと温度とに対応する自己放電電気量のばらつきをテーブルから取得し、日時と対応付けて記憶部37Bに記録する。例えば温度が50℃であり、SOCが100%である場合、自己放電電気量のばらつきとして±0.1mAが記録される。
【0055】
便宜上、実施形態1ではいずれか1つの蓄電セル30Aについてのみ記録処理を実行し、他の蓄電セル30Aについては当該1つの蓄電セル30Aについて記録された自己放電電気量のばらつきを共通に用いるものとする。このため、所定期間における自己放電電気量のばらつきはいずれの蓄電セル30Aも同じ値となる。蓄電セル30A毎にSOCの推定と温度の計測とを行い、蓄電セル30A毎に個別に記録処理を実行してもよい。
【0056】
自己放電電気量のばらつきは、自己放電電気量の推定値に含まれているばらつきの成分の大きさ、あるいは、自己放電電気量の推定値に含まれているばらつきの大きさの範囲ということもできる。
【0057】
(4-4)内部短絡の判断処理
管理部37は、所定期間におけるバランサ放電電気量が最も小さい蓄電セル30A(特定蓄電セル30A)のバランサ放電電気量と、当該所定期間における他の蓄電セル30Aのバランサ放電電気量との差を基準値と比較することにより、特定蓄電セル30Aが内部短絡しているか否か(特定蓄電セル30Aに異常放電が生じているか否か)を判断する。
【0058】
実施形態1では、上述した基準値として、所定期間に、特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aがバランサ回路38によって放電される頻度に起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第1パラメータの一例)と、所定期間における、特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aの自己放電電気量に起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第2パラメータの一例)と、を合計した値を用いる。
以降の説明では上述した所定期間として直近の1カ月を例に説明する。所定期間は直近の1カ月に限定されるものではなく、適宜に決定可能である。
【0059】
図7を参照して、内部短絡の判断処理のフローチャートについて説明する。本処理は例えば車両のエンジンが始動されたときに実行される。本処理は、車両のエンジンが始動された後、10分間隔などの所定の時間間隔で繰り返し実行されてもよい。
【0060】
S101では、管理部37は各蓄電セル30Aについて直近の1カ月におけるバランサ放電電気量、及び、バランサ放電電気量のばらつきを求める。具体的には、管理部37は、各蓄電セル30Aについて、記憶部37Bに記録されているバランサ放電電気量、及び、バランサ放電電気量のばらつきのうち直近の1カ月に記録されたバランサ放電電気量、及び、バランサ放電電気量のばらつきをそれぞれ合計する。以降の説明では、直近の1カ月に記録されたバランサ放電電気量のばらつきの合計値のことを単に「直近の1カ月のバランサ放電電気量のばらつき」という。
【0061】
各蓄電セル30Aについて直近の1カ月におけるバランサ放電電気量、及び、バランサ放電電気量のばらつきを求めた結果の一例を以下の表2に示す。便宜上、表2では4つの蓄電セル30Aに1~4の符号を付している。以降の説明では表2に示すばらつきを例に説明する。
【表2】
【0062】
S102では、管理部37はS101で求めた各蓄電セル30Aのバランサ放電電気量から、直近の1カ月におけるバランサ放電電気量が最も小さい蓄電セル30A(ここでは蓄電セル4)を特定する。蓄電セル4は特定蓄電セルの一例である。
S103では、管理部37は直近の1カ月における特定蓄電セル30A(蓄電セル4)のバランサ放電電気量と、直近の1カ月における他の蓄電セル30A(蓄電セル1~3)のバランサ放電電気量との差を求める。具体的には、管理部37は以下の式3により、直近の1カ月における特定蓄電セル30Aのバランサ放電電気量と、直近の1カ月における他の全ての蓄電セル30Aのバランサ放電電気量の平均値との差を求める。
|(105mAh+110mAh+85mAh)/3-30mAh|=70mAh ・・・ 式3
【0063】
S104では、管理部37は、直近の1カ月における、特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aがバランサ回路38によって放電される頻度に起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第1パラメータの一例)を求める。
具体的には、管理部37は以下の式4によって他の全ての蓄電セル30Aのバランサ放電電気量のばらつきの平均値を求める。
(|±5.25mAh|+|±5.5mAh|+|±4.25mAh|)/3=5.0mAh ・・・ 式4
【0064】
管理部37は、以下の式5により、特定蓄電セル30Aのバランサ放電電気量のばらつきと、他の全ての蓄電セル30Aのバランサ放電電気量のばらつきの平均値とを合計することにより、特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aがバランサ回路38によって放電される頻度に起因して生じ得るバランサ放電容量の差の最大値を求める。
|±1.5mAh|+5.0mAh=6.5mAh ・・・ 式5
【0065】
上述した式5より、特定蓄電セル30Aのバランサ放電電気量が下に1.5mAhばらつき、他の全ての蓄電セル30Aのバランサ放電電気量が上に5.0mAhばらついた場合、特定蓄電セル30Aのバランサ放電電気量と他の全ての蓄電セル30Aのバランサ放電電気量の平均値とには最大で6.5mAhの差が生じ得ることになる。
【0066】
S105では、管理部37は、前述した「蓄電セルの自己放電電気量のばらつきの記録処理」によって記録された自己放電電気量のばらつきのうち直近の1カ月に記録されたばらつきを合計することにより、1つの蓄電セル30Aの直近の1カ月の自己放電電気量のばらつきの合計値を求める。例えば、直近の1カ月に記録された自己放電電気量のばらつきが±0.1mAh、±0.05mAh、±0.01mAhの3つであったとする。この場合、直近の1カ月に記録された自己放電電気量のばらつきの合計値は±0.16mAh(=±0.1mAh±0.05mAh±0.01mAh)となる。
以降の説明では、直近の1カ月における自己放電電気量のばらつきの合計値のことを単に「直近の1カ月における自己放電電気量のばらつき」という。
【0067】
S106では、管理部37は、直近の1カ月における、特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aの自己放電電気量に起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第2パラメータの一例)を求める。
前述したように管理部37はいずれか1つの蓄電セル30Aについてのみ自己放電電気量のばらつきの記録処理を実行し、他の蓄電セル30Aについては当該1つの蓄電セルについて記録された自己放電電気量のばらつきを共通に用いるので、直近の1カ月における各蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきは同じ値になる。このため、上述した差の最大値はいずれか1つの蓄電セル30Aの直近の1カ月における自己放電電気量のばらつきを2倍した値の絶対値となる。例えば自己放電電気量のばらつきの合計値が±0.16mAhである場合、上述した差の最大値は0.32mAhとなる。
【0068】
便宜上、以降の説明では、直近の1カ月における各蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきが±20mAhであったとして説明する。この場合、特定蓄電セル30Aの自己放電電気量が下に20mAhばらつき、他の全ての蓄電セル30Aの自己放電電気量が上に20mAhばらついたとすると、特定蓄電セル30Aのバランサ放電電気量と他の全ての蓄電セル30Aのバランサ放電電気量の平均値とには、自己放電電気量のばらつきに起因して最大で40mAhの差が生じ得ることになる。
【0069】
S107では、管理部37は、以下の式6に示すように、S104で求めたバランサ回路38によって放電される頻度に起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第1パラメータの一例)と、S106で求めた自己放電電気量に起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第2パラメータの一例)とを合計することによって基準値を決定する。
6.5mAh+40mAh=46.5mAh ・・・ 式6
【0070】
S108では、管理部37はS103で求めた差と基準値とを比較することにより、バランサ放電電気量が最も小さい蓄電セル30Aが内部短絡しているか否かを判断する(判断処理の一例)。上述した例の場合、以下の式7に示すように、S103で求めた差(70mAh)の方が基準値(46.5mAh)より大きい。この場合、バランサ放電電気量のばらつきや自己放電電気量のばらつきではその差が生じた理由を説明できないことから、管理部37は特定蓄電セル30Aが内部短絡していると判断する。
46.5mAh<70mAh ・・・ 式7
【0071】
これに対し、S103で求めた差が基準値以下である場合は、管理部37は蓄電セル30Aが内部短絡していないと判断する。管理部37は、内部短絡していると判断した場合はS109に進み、内部短絡していないと判断した場合は本処理を終了する。
【0072】
S109では、管理部37は蓄電セル30Aが内部短絡していることを車両ECU14に通知する。車両ECU14は内部短絡していることを通知されると、蓄電装置1に関する警告ランプを点灯させるなどにより、正常な蓄電装置1に交換するよう運転者に促す。
【0073】
(5)実施形態の効果
蓄電装置1によれば、所定期間における蓄電セル30Aのバランサ放電電気量のばらつき、及び、所定期間における蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきの両方に基づいて基準値を決定する。このため、所定期間における特定蓄電セル30Aが内部短絡しているか否かを判断するための基準値を、バランサ放電電気量のばらつきや自己放電電気量のばらつきを考慮して適切に決定できる。
【0074】
蓄電装置1によれば、基準値は、所定期間における特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aとのバランサ放電電気量のばらつきに起因して生じるバランサ放電電気量の差の最大値と、所定期間における特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aとの自己放電電気量のばらつきに起因して生じるバランサ放電電気量の差の最大値と、を合計した値であるので、特定蓄電セル30Aが内部短絡しているか否かを判断するための基準値を適切に決定できる。
【0075】
蓄電装置1によれば、他の蓄電セル30Aのバランサ放電電気量は、2以上の他の蓄電セル30Aのバランサ放電電気量の平均値であるので、他のいずれか1つの蓄電セル30Aのバランサ放電電気量を用いる場合に比べてより適切に基準値を決定できる。
【0076】
蓄電装置1によれば、蓄電セル30Aの温度と蓄電セル30AのSOCとの組み合わせ毎に一定時間における蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきが対応付けられているテーブルから自己放電電気量のばらつきを取得することにより、蓄電セル30AのSOCや温度に応じた自己放電電気量のばらつきを求めることができる。
【0077】
蓄電装置1によれば、蓄電セル30Aが内部短絡しているか否かを判断できるので、プラトー領域を有する蓄電装置1の場合に特に有用である。
【0078】
<他の実施形態>
本明細書によって開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書によって開示される技術的範囲に含まれる。
【0079】
(1)上記実施形態では、基準値として、特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aがバランサ回路38によって放電される頻度に起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第1パラメータ)と、所定期間における、特定蓄電セル30Aと他の蓄電セル30Aの自己放電電気量に起因して生じ得るバランサ放電電気量の差の最大値(第2パラメータ)とを合計した値を用いる場合を例に説明した。
【0080】
これに対し、各蓄電セル30Aのバランサ放電電気量のばらつき、及び、各蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきのいずれに基づいて基準値を決定するかを、温度センサ36によって計測された温度に基づいて決定してもよい。
例えば、蓄電セル30Aの温度が低いとき(低温時)は自己放電し難くなるので、蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきは無視できる程度に小さくなる。このため、低温時は自己放電電気量のばらつきは用いず、バランサ放電電気量のばらつきだけから基準値を決定してもよい。蓄電セル30Aの温度が高いとき(高温時)は自己放電電気量の影響度がバランサ放電電気量より十分支配的であるため、バランサ放電電気量のばらつきは用いず、自己放電電気量のばらつきだけから基準値を決定してもよい。低温時と高温時との間のとき(常温時)は、自己放電電気量のばらつき及びバランサ放電電気量のばらつきの両方に基づいて基準値を決定してもよい。
【0081】
あるいは、放電抵抗38Aの許容誤差が非常に小さい場合はバランサ放電電気量のばらつきが無視できる程度であるので、自己放電電気量のばらつきだけから基準値を決定してもよい。
あるいは、バランサ回路によっては複数の蓄電セル30Aを1つの放電抵抗38Aによって放電することもある。この場合は放電抵抗38Aの許容誤差によるバランサ放電電気量のばらつきは生じないので、自己放電電気量のばらつきだけから基準値を決定してもよい。
【0082】
基準値は上述した各最大値を合計した値に限定されるものではなく、各最大値の二乗平方根であってもよい。上述した最大値を用いるのではなく、例えばばらつきの2σ(バランサ放電電気量や自己放電電気量の正規分布における95%信頼区間)に基づいてばらつきの幅を決定し、決定した幅を合計した値あるいは二乗平方和を基準値としてもよい。
【0083】
(2)上記実施形態では他の蓄電セル30Aのバランサ放電電気量として他の全ての蓄電セル30Aのバランサ放電電気量の平均値を例に説明した。しかしながら、他の蓄電セル30Aのバランサ放電電気量はこれに限られない。例えば、他の蓄電セル30Aのバランサ放電電気量は、他の全ての蓄電セル30Aのバランサ放電電気量の中央値であってもよい。あるいは、他のいずれか1つの蓄電セル30Aのバランサ放電電気量であってもよい。他のいずれか1つの蓄電セル30Aは、特定蓄電セル30Aの次にバランサ放電電気量が小さい蓄電セル30Aであってもよいし、バランサ放電電気量が最も大きい蓄電セル30Aであってもよい。
【0084】
(3)上記実施形態では記憶部37Bに記録されている自己放電電気量のばらつきを合計することによって蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきを求める場合を例に説明した。しかしながら、蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきを求める方法はこれに限られない。例えば所定期間における蓄電セル30Aの自己放電電気量の正規分布における95%信頼区間の幅を自己放電電気量のばらつきとして用いてもよい。あるいは、所定期間における蓄電セル30Aの自己放電電気量のばらつきは予め決められた固定値であってもよい。
【0085】
(4)上記実施形態ではバランサ回路38としてパッシブ方式のバランサ回路38を例に説明した。これに対し、バランサ回路38は電圧が高い蓄電セル30Aによって電圧が低い蓄電セル30Aを充電することによって差を低減するアクティブ方式のバランサ回路であってもよい。
【0086】
(5)上記実施形態では、蓄電セル30Aの電圧と、その蓄電セル30Aに対応する放電抵抗38Aの抵抗値とから、オームの法則によりバランサ回路38によって放電される電流を所定期間毎に計算して積算することで、バランサ放電電気量を計算する場合を例に説明したが、バランサ放電電気量を計測する方法はこれに限られない。例えば、管理部37は、電圧計測回路35によって蓄電セル30Aの電圧を計測し、その蓄電セル30Aの電圧が、電圧が最も低い蓄電セル30Aの電圧と同じ電圧まで低下すると、放電前の電圧と放電後の電圧との電圧差を所定の計算式(あるいはテーブル)によって放電電気量[Ah]に換算してもよい。
あるいは、放電前の電圧から蓄電セル30Aの現在の電気量[Ah]を推定するとともに、放電後の電圧から蓄電セル30Aの現在の電気量を推定し、それらの差をバランサ放電電気量としてもよい。
【0087】
あるいは、管理部37に、バランサ回路38の放電抵抗38Aの抵抗値を記憶させ、逐次的に電圧変化を計測することで、放電電気量を積算してもよい。具体的には、以下の式8~10からバランサ放電電気量を計算してもよい。
【0088】
時間t1でのバランサ電流I1=t1時点のセル電圧/放電抵抗値 ・・・ 式8
時間t2でのバランサ電流I2=t2時点のセル電圧/放電抵抗値 ・・・ 式9
時間t1と時間t2の区間でのバランサ放電電気量=(I2-I1)×(t2-t1) ・・・ 式10
【0089】
あるいは、バランサ回路38が動作する通常の電圧(例えば3.5V)と放電抵抗38Aとから、バランサ電流の平均値を記憶させてもよい。そして、管理部37は、バランサ動作時間とバランサ電流の平均値との乗算によってバランサ放電電気量を計算してもよい。
【0090】
(6)上記実施形態では蓄電セル30Aが内部短絡しているか否かを判断する場合を例に説明した。これに対し、内部短絡以外にもBMU31(管理システムに相当)の故障によって微小な放電が発生する場合もある。このため、管理部37は、S103で求めた差が基準値より大きい場合は、内部短絡していると判断するのではなく、内部短絡及びBMU31の故障による微小な放電の少なくとも一方が生じていると判断してもよい。
【0091】
(7)上記実施形態では、管理部37はいずれかの蓄電セル30Aの電圧が所定の電圧まで上昇すると、バランサ回路38を制御して、その蓄電セル30Aの電圧が、他の蓄電セル30Aのうち電圧が最も低い蓄電セル30Aの電圧と略同じになるようにその蓄電セル30Aを放電させる場合を例に説明した。
これに対し、管理部37は、最も電圧が低い蓄電セル30Aを基準とし、他の全ての蓄電セル30Aの電圧が、基準となる蓄電セル30Aの電圧と略同じになるように他の全ての蓄電セル30Aをそれぞれ放電させてもよい。あるいは、最も残存電気量が低い蓄電セル30Aを基準とし、他の全ての蓄電セル30Aの残存電気量が、基準となる蓄電セル30Aの残存電気量と略同じになるように他の全ての蓄電セル30Aをそれぞれ放電させてもよい。
【0092】
電圧の差(あるいは残存電気量の差)を低減する方法はこれに限られない。例えば電圧が最も高い蓄電セル30Aは18mAh、2番目に高い蓄電セル30Aは12mAh、3番目に高い蓄電セル30Aは6mAhなどのように、放電する電気量(あるいは放電時間)が順位に応じて予め決められていてもよい。
【0093】
(8)上記実施形態では自動車などの車両に搭載される蓄電装置1を例に説明したが、蓄電装置1は車両に搭載されるものに限定されるものではなく、任意の目的に用いることができる。
【0094】
(9)上記実施形態では蓄電セル30Aとしてリチウムイオン二次電池を例に説明したが、蓄電セル30Aは電気化学反応を伴うキャパシタであってもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…蓄電装置
30A…蓄電セル
36…温度センサ(温度計測部の一例)
37…管理部
38…バランサ回路
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9