(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188434
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ガスキャリア気化器、これを含む蒸着装置、及びこれを用いた有機EL素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20221214BHJP
C23C 16/448 20060101ALI20221214BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221214BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C23C14/24 D
C23C16/448
H05B33/14 A
H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096457
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊文
(72)【発明者】
【氏名】足立 弘樹
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC33
3K107CC45
3K107DD59
3K107FF15
3K107GG04
3K107GG34
4K029BA62
4K029BD00
4K029CA01
4K029DB06
4K029DB10
4K029DB15
4K030EA01
4K030KA46
4K030LA18
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、気化残りがなく、材料利用効率及び製膜速度が安定する、粉体材料のガスキャリア気化器を提供することである。
【解決手段】本発明のガスキャリア気化器は、キャリアガスと共に連続的に流入する材料の粉体を、その流通経路にて気化し、該気化した材料ガス、及び該キャリアガスを含む流出ガスを連続的に流出する、ガスキャリア気化器であって、その内部に、該流通経路の全断面に亘る多孔質構造体であって、該流通経路の最上流側に平均孔径が大きい大径孔を、該流通経路の最下流側に該大径孔より平均孔径が小さい小径孔を有する、加熱可能な多孔質構造体を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスと共に連続的に流入する材料の粉体を、その流通経路にて気化し、該気化した材料ガス、及び該キャリアガスを含む流出ガスを連続的に流出する、ガスキャリア気化器であって、
その内部に、該流通経路の全断面に亘る多孔質構造体であって、
該流通経路の最上流側に平均孔径が大きい大径孔を、
該流通経路の最下流側に該大径孔より平均孔径が小さい小径孔を有する、
加熱可能な多孔質構造体を備える、ガスキャリア気化器。
【請求項2】
前記平均孔径につき、下流側の値が、上流側の値以下である、請求項1に記載のガスキャリア気化器。
【請求項3】
その内部に前記多孔質構造体を含む直管であって、
その外部にヒーターが配された直管を含む、請求項1、又は2に記載のガスキャリア気化器。
【請求項4】
前記多孔質構造体が、少なくとも2以上の、離散的な前記平均孔径の多孔質構造体部分を含む、請求項1~3のいずれかに記載のガスキャリア気化器。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のガスキャリア気化器を含み、かつ、
被製膜面に材料を着膜する蒸着装置であって、
該材料の少なくとも一部を、前記流出ガスを介し該被製膜面の上に供給する、蒸着装置。
【請求項6】
請求項5に記載の蒸着装置を用いた、有機EL素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の粉体をその流通経路にて気化する、ガスキャリア気化器に関し、また、これを含む蒸着装置、さらに、そのような蒸着装置を用いた、有機EL素子の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機EL(Electro Luminesence)素子を構成する、有機材料等の蒸気を含むガスの流れである、ガスフローにより気化器から製膜室へ材料を輸送して、製膜室で被製膜面に該材料を着膜するガスフロー蒸着装置は、これを構成する要素として、ガスキャリア気化器を含むこととなる。
【0003】
このようなガスキャリア気化器は、キャリアガスと共に連続的に流入する材料の粉体を、その流通経路にて気化すると共に、気化した材料ガス、及びキャリアガスを含む流出ガスを連続的に流出する機能を有するものとなる。
【0004】
ところで、有機EL素子は、物質に電界を印加した際に発光を生じる現象を利用した面発光素子で、自発光型、薄型にできるなどの特徴を生かし、平面状光源やディスプレイ等への応用展開が図られている。ここで有機EL素子は、ガラス基板や透明樹脂フィルム等の基材に、有機EL材料を真空蒸着により積層することで製造出来、その代表的な層構成は、
図1の通りである。ここで、
図1は有機EL素子100の一実施態様を表す断面図である。
図1に示される有機EL素子100は、ガラス基板110に形成されており、透明電極層120、有機EL材料層130、及び裏面電極層140が積層され、その重畳部分が有機EL素子であり、一般に封止部150によって封止される。
【0005】
このような有機EL材料層130を形成する為の製膜に適した真空蒸着として、例えば特許文献1が開示する、ガスフロー蒸着装置があり、キャリアガス流量の制御により蒸着速度を制御でき、製膜室の最適化により膜厚均一性の高い蒸着が実現でき、かつ高純度な薄膜が得られる等の利点を有する。
【0006】
この様なガスフロー蒸着装置は、気化器内で有機材料を加熱して蒸発させ、蒸発させた有機材料ガスをキャリアガスにより輸送し、基板へ噴射することで有機材料を基材に蒸着する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のガスフロー蒸着技術で使用される気化室では、その中の材料配置領域に配置した材料の粉体がキャリアガスの吹付により舞い上がることで蒸着速度が不安定になることや、未蒸発材料がそのまま製膜室に搬送され、生成された膜の品質低下を招き、有機EL素子等の信頼性が損なわれるという問題があった。
【0009】
また、高い蒸発速度を得るためには材料配置領域の面積を大きくすることが効果的であるが、材料配置領域の面積を大きくした場合に、キャリアガスと有機材料の接触が不均一になり蒸発速度が不安定になりやすいという問題もあった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決すべく為されたものであり、気化残りがなく、材料利用効率及び製膜速度が安定する、粉体材料のガスキャリア気化器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが、かかる課題解決のため検討を行なったところ、気化器のキャリアガスの流通経路の全断面に亘って加熱可能な多孔質構造体を載置し、その上流側に本発明に係る気化に係る粉体材料及びキャリアガスを供給し、その下流側から気化した材料ガス及びキャリアガスを含む流出ガスを流出することで、キャリアガス吹付に伴う舞い上がり起因の蒸着速度の不安定化や未蒸発材料の製膜室への搬送起因の膜質低下を抑制可能であることを見出した。
【0012】
しかしながら、このように気化器に多孔質構造体を適用した場合に、気化器使用の初期には、安定的に設計通りの製膜が可能であるものの、しだいに多孔質体の孔が粉体により閉塞され、製膜速度が低下する問題が生じることが判った。
【0013】
そこで、この様な多孔質構造体を適用することで、安定な蒸着速度と良質な膜質を維持しつつ、長期間の使用によっても、製膜速度が低下しない、気化器を提供すべく検討した結果、本発明を為すに至った。
【0014】
即ち、本発明は、キャリアガスと共に連続的に流入する材料の粉体を、その流通経路にて気化し、該気化した材料ガス、及び該キャリアガスを含む流出ガスを連続的に流出する、ガスキャリア気化器であって、
その内部に、該流通経路の全断面に亘る多孔質構造体であって、
該流通経路の最上流側に平均孔径が大きい大径孔を、
該流通経路の最下流側に該大径孔より平均孔径が小さい小径孔を有する、
加熱可能な多孔質構造体を備える、ガスキャリア気化器に関する。
【0015】
この様な本発明のガスキャリア気化器においては、粉体であり、即ち、粒子形状の材料は、各々の粒子の粒径に応じた多孔質構造体の部分でトラップされ、当該多孔質構造体部分と(疑似的に)接触する面積に応じ効率的に(接触)伝熱気化されることで、その粒径が減少しつつ、流通経路中の、より小径の多孔質構造体部分へと進むので、全体として(接触)伝熱効率が向上し、気化残り無く、材料利用効率/レートが安定した気化が可能である。換言すれば、本発明のガスキャリア気化器は、粒子状材料の気化を、疑似接触伝熱を積極的に活用して、伝熱効率を増大せしめることで、気化を促進させることを一つの特徴とし、生産性が良く、トラブルでの稼働率低下が少ない。
【0016】
また、このように高い伝熱効率の下で気化するので、局所的な高温部分を設けなくとも、気化実施部分である多孔質構造体の全体を均一に加熱可能であり、局所高温部分で生じる可能性がある高温劣化した材料によるコンタミの影響がなく、生産性の高い気化(製膜)が可能となる。即ち、構造体の使用により、これに含まれる気化面の加熱が効率的に実施できるので、加熱部位、例えば流通経路壁面、を必要以上に高温とする必要が無くなり、例えば有機材料の炭化等の、材料の高温劣化を抑制可能で、材料効率が向上すると共に、高温劣化した材料に起因する汚染(コンタミ)が防止できる。
【0017】
さらに、穴径を段階的に変えることで、材料の粒子径に対応し段階的に気化されるので、材料による閉塞と、閉塞部分での材料の高温劣化を防ぐことができる。
【0018】
また、前記平均孔径については、下流側の値が、上流側の値以下であるであることが好ましく、本発明に係る閉塞抑制効果がより向上し、生産性が向上する。
【0019】
また、このような本発明のガスキャリア気化器は、加熱機構としてヒーターを含み、かつ、その内部に前記多孔質構造体を含む直管であって、その外部に当該ヒーターが配された直管を含むことが好ましく、安価・簡便に作製できるだけでなく、温度の均一性をより高めることができ、さらに、有害なガス溜まりが生じることを抑制できる。
【0020】
また、前記多孔質構造体は、少なくとも2(段)以上の、離散的な前記平均孔径の多孔質構造体部分を含むことが好ましく、所定の孔径分布の多孔質構造体を安価に形成できる。
【0021】
さらに、本発明は、このような本発明のガスキャリア気化器を含み、かつ、
被製膜面に材料を着膜する蒸着装置であって、
該材料の少なくとも一部を、前記流出ガスを介し該被製膜面の上に供給する、蒸着装置に関し、このような本発明の蒸着装置で製膜することで、粉体材料の巻き上がりや、過加熱に起因する材料の劣化が抑制され、高材料利用効率での高製膜レートが安定的に実現でき、例えば有機EL素子等の、製品の信頼性が向上する共に製造コストを安価にすることもでき、具体的には、高製膜レートで製膜するために、例えば容器温度をより高温にした場合に生じる、材料が劣化し素子性能が低下しないように、更に連続製膜した場合に蒸気化し難い劣化材料の割合の増加等に起因しレートが著しく低下して廃棄材料が多くなり生産コストが高くならないように、することができる。
【0022】
またさらに、本発明は、このような本発明の蒸着装置を用いる、有機EL素子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガスキャリア気化器は、気化残りがなく、高い材料利用効率で、安定した気化が可能であり、気化した材料ガス及びキャリアガスを含む流出ガスを、連続的に供給可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】有機EL素子100の一実施態様を表す断面図である。
【
図2】本発明のガスキャリア気化器の一実施態様を図示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のガスキャリア気化器、これを含む蒸着装置、及びこれを用いた有機EL素子の製造方法の実施態様につき、これを構成する構成要素の説明と共に、詳述する。
【0026】
(ガスキャリア気化器)
図2は、本発明のガスキャリア気化器の一実施態様を図示する模式図であり、例えば、有機EL素子の作製に係る有機EL材料を気化させるために用いられるものである。
【0027】
本発明のガスキャリア気化器は、キャリアガスと共に連続的に流入する、材料の粉体を、その流通経路にて気化し、当該気化した材料ガス及びキャリアガスを含む、流出ガスを連続的に流出する機能を有し、当該流通経路となる内部空間を外部から隔離する壁を有する管状の本体部を含み、当該本体部は、好ましくは、直管であり、このような本体部の内部に、流通経路の全断面に亘る多孔質構造体を含むことを特徴とする。ここで「流通経路の全断面に亘る」とは、多孔質構造体の少なくとも一部が、本体部の内部の、キャリアガス、材料粉体、及び流出ガスが流通する可能性がある空間において、当該流通方向に直角な平面の、前記壁の内部側の内壁と交差する線を周とする断面の中の、いずれかの断面において、その断面の全面に存在することを言い、このように多孔質構造体を配することで、未蒸発材料の流出である、「気化残り」が発生するなく、気化が可能となる。
【0028】
このような本発明に係る多孔質構造体において、流通経路の流入側である最上流側に平均孔径が大きい大径孔が、そして、流通経路の流出側である最下流側に該大径孔より平均孔径が小さい小径孔が、存在するようにすることが本発明の特徴の一つであり、好ましくは、平均孔径につき、下流側の値が、上流側の値以下である。
【0029】
また、このような多孔質構造体は、加熱可能であることを要し、好ましくは、本発明のガスキャリア気化器に含まれるヒーターにより、より好ましくは、前記管の外壁の外側に配置されたヒーターにより、前記壁を介して加熱される。
【0030】
さらに、多孔質構造体は、好ましくは、少なくとも2(段)以上の、離散的な前記平均孔径の孔質構造体部分を含む。
【0031】
言い換えれば、本発明においては、流通経路の全断面に亘る多孔質構造体であって、その最上流側に平均孔径が大きい大径孔を、その最下流側に該大径孔より小さい小径孔を有す、加熱可能な多孔質構造体具備の、ガスキャリア気化器とする。
【0032】
そして、好ましくは、平均孔径を上流から下流に向かって減少することにより、粒径の異なる有機材料をそれぞれの部位でトラップし、閉塞なく気化させる。
【0033】
このような平均孔径の好ましい範囲は、1000~1μmであり、構造体の平均穴径を段階的に減少させることが好ましい。
【0034】
従来の気化器として、本発明の多孔質構造体としても使用できる、焼結体に、材料を充填してから、そのような充填済み焼結体を、気化用構造体として、流出ガス供給源として、例えば、蒸着装置に装填し、ここで、焼結体を導電体で構成することで、充填済み焼結体そのものに通電し加熱するものがあるが、このような溜め込み式できなく、流入する材料を連続的に気化することが、本発明の特徴の一つである。そして、このような多孔質構造体、換言すればポーラス構造体にて材料を連続的に気化させた場合に生じる、気化せず残る材料の偏在とそれによる閉塞との問題は、本発明に至る検討で見出された問題であり、溜め込み方式を基本とする従来技術では想定できない問題であり、この問題を解決できる気化器を提供することが、本発明の課題である。
【0035】
このような本発明に係る多孔質構造体の好ましい材質は、安価に多孔質体として形成可能であり、かつ、加熱されて高温になっても、孔の大きさ等、その形状が変化しないものであれば任意の材料を用いることができ、例えば、ステンレス鋼や、アルミナ、シリコンカーバイド等が挙げられるが、材料強度と熱伝導性の観点から好ましくはステンレス鋼である。
【0036】
(蒸着装置)
本発明の蒸着装置は、本発明のガスキャリア気化器、及び製膜室を含み、当該製膜室にて被製膜面に材料を着膜する装置であり、当該材料の少なくとも一部を、本発明に係る流出に係る流出ガスを介して、当該被製膜面の上に供給することを特徴とし、ガスキャリア気化器、及びこれにキャリアガスを供給するキャリアガス供給部を含む、ガスフロー蒸着系を、その蒸着に係る一系統として含み、他の蒸着系統として、抵抗加熱や電子ビーム加熱の、分子や原子の平均自由行程に基づく、平均自由行程真空蒸着系、被製膜面やその近傍での化学反応を利用する化学反応蒸着系等を含んでいても良い。
【0037】
このような本発明に係るガスフロー蒸着系は、材料の蒸気を含む、蒸気含有ガスの流れであるガスフローにより、材料を、好ましくは、有機材料を、気化器から製膜室へ輸送して、製膜室での着膜に供しようとする、蒸着に係る材料の供給系である。
【0038】
(蒸着に係る材料)
本発明に係る蒸着に係る材料は、粉体材料とでき、かつ、蒸気化可能であれば、特に制限はないが、比較的低温で蒸気化可能であり、本発明の効果が奏され易いことから、有機材料であることが好ましく、より好ましくは、有機EL素子の機能層である有機EL材料層130に使用される有機材料とすることであり、その場合には、例えばp-ドープ材料や、n-ドープ材料、正孔輸送性材料、電子輸送性材料、これら両性質を有する電荷輸送性材料の他、発光材料として用いられる、蛍光材料、燐光材料等が挙げられる。
【0039】
(キャリアガス)
前記キャリアガスとしては、特に制約されないが、製膜する膜に応じ、例えば、有機EL材料層130を構成する膜を製膜する場合には、有機材料と反応しない、N2、He、Ne、Ar、Kr、Xeなどの不活性ガスが好ましく、コストの観点から、N2、及び又は、Arがより好ましく、高温配管との反応防止の観点からArが最も好ましい。
【符号の説明】
【0040】
10 基材
100 有機EL素子
110 ガラス基板
120 透明電極層
130 有機EL材料層
140 裏面電極層
150 封止部