(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188463
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】マニピュレーションシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 21/32 20060101AFI20221214BHJP
B25J 7/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G02B21/32
B25J7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096508
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 諭
【テーマコード(参考)】
2H052
3C707
【Fターム(参考)】
2H052AD14
2H052AF14
2H052AF19
3C707AS09
3C707BS03
3C707JS02
3C707JU12
3C707KT01
3C707KT06
(57)【要約】
【課題】操作性を向上させることができるマニピュレーションシステムを提供する。
【解決手段】マニピュレーションシステムは、駆動装置の駆動位置及び駆動速度に応じて操作部材の位置及び速度が制御されるマニピュレータと、駆動装置の駆動位置及び駆動速度を制御するためのジョイスティックと、操作部材の移動制御モードとして、ジョイスティックの操作量に応じた位置に駆動装置の駆動位置を制御する位置制御モード、又は、ジョイスティックの操作量に応じた速度で駆動装置の駆動速度を制御する速度制御モードの少なくとも一方を有する制御回路と、を有し、制御回路は、位置制御モード又は速度制御モードの少なくとも一方で、ジョイスティックからの出力信号に基づいて、駆動装置の目標速度を演算する演算回路と、演算回路から出力された駆動装置の目標速度の情報に基づいて駆動信号を生成し、駆動装置に駆動信号を供給する駆動制御回路と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小対象物を操作する操作部材と、前記操作部材を移動させる駆動装置と、を備え、前記駆動装置の駆動位置及び駆動速度に応じて前記操作部材の位置及び速度が制御されるマニピュレータと、
前記駆動装置の前記駆動位置及び前記駆動速度を制御するためのジョイスティックと、
前記操作部材の移動制御モードとして、前記ジョイスティックの操作量に応じた位置に前記駆動装置の前記駆動位置を制御する位置制御モード、又は、前記ジョイスティックの操作量に応じた速度で前記駆動装置の前記駆動速度を制御する速度制御モードの少なくとも一方を有する制御回路と、を有し、
前記制御回路は、前記位置制御モード又は前記速度制御モードの少なくとも一方で、前記ジョイスティックからの出力信号に基づいて、前記駆動装置の目標速度を演算する演算回路と、前記演算回路から出力された前記駆動装置の前記目標速度の情報に基づいて駆動信号を生成し、前記駆動装置に前記駆動信号を供給する駆動制御回路と、を有する
マニピュレーションシステム。
【請求項2】
前記演算回路は、前記速度制御モードで、前記ジョイスティックの操作量に応じた前記駆動装置の前記目標速度を演算し、前記位置制御モードで、前記ジョイスティックの操作量に応じた前記駆動装置の目標位置と、現在の前記駆動装置の前記駆動位置との差分に応じて前記目標速度を演算する
請求項1に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項3】
前記駆動制御回路は、前記位置制御モード及び前記速度制御モードで、前記演算回路からの前記駆動装置の前記目標速度と、前記駆動装置の前記駆動速度とを比較して、前記駆動装置の加減速を制御する
請求項1又は請求項2に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項4】
前記制御回路は、前記操作部材の移動制御モードとして、前記駆動装置の前記駆動位置及び前記駆動速度をあらかじめ決められた順番で実行するシーケンスモードを有し、
前記演算回路は、前記シーケンスモードで、前記駆動装置の前記目標速度をあらかじめ決められた前記駆動速度に設定する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項5】
前記シーケンスモードにおける前記駆動装置の前記駆動位置及び前記駆動速度の一連の動作に関する情報を含むシーケンスデータを記憶する記憶領域を有する
請求項4に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項6】
前記制御回路は、外部制御回路と接続可能に設けられ、
前記記憶領域は、前記外部制御回路から供給された前記シーケンスデータを格納する
請求項5に記載のマニピュレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジ分野において、微小な対象物に微細な操作を行うマイクロマニピュレーションシステムが知られている。下記特許文献1から6には、ハンドルの操作量(例えば傾斜角度)に応じてピペットやキャピラリ等の操作部材の移動を制御するジョイスティック及びマニピュレータシステムが記載されている。
【0003】
マニピュレーションシステムの移動制御は、速度制御モードと位置制御モードとに切り替え可能となっている。速度制御モードは、ハンドルの傾き角度に応じた速度で操作部材を移動させる操作モードである。位置制御モードは、ハンドルの傾き角度に応じた位置に操作部材を移動させる操作モードである。位置制御モードでの、駆動装置(モータ)の駆動速度は、いわゆる台形制御で行われる場合がある(特許文献5、6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-528749号
【特許文献2】特開平7-49715号公報
【特許文献3】国際公開第2016/163401号
【特許文献4】特開2015-205370号公報
【特許文献5】特開2004-282972号公報
【特許文献6】特開2001-327194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
駆動装置(モータ)を台形制御で行う場合、加速度や最高速度が固定されているため、高応答でかつ滑らかな制御が困難となる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、操作性を向上させることができるマニピュレーションシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係るマニピュレーションシステムは、微小対象物を操作する操作部材と、前記操作部材を移動させる駆動装置と、を備え、前記駆動装置の駆動位置及び駆動速度に応じて前記操作部材の位置及び速度が制御されるマニピュレータと、前記駆動装置の前記駆動位置及び前記駆動速度を制御するためのジョイスティックと、前記操作部材の移動制御モードとして、前記ジョイスティックの操作量に応じた位置に前記駆動装置の前記駆動位置を制御する位置制御モード、又は、前記ジョイスティックの操作量に応じた速度で前記駆動装置の前記駆動速度を制御する速度制御モードの少なくとも一方を有する制御回路と、を有し、前記制御回路は、前記位置制御モード又は前記速度制御モードの少なくとも一方で、前記ジョイスティックからの出力信号に基づいて、前記駆動装置の目標速度を演算する演算回路と、前記演算回路から出力された前記駆動装置の前記目標速度の情報に基づいて駆動信号を生成し、前記駆動装置に前記駆動信号を供給する駆動制御回路と、を有する。
【0008】
これによれば、位置制御モード及び速度制御モードのそれぞれで、ジョイスティックの操作量に応じた速度制御がなされる。したがって、位置制御モードにおいても、ジョイスティックの速く大きな操作や、ゆっくりと小さな操作の両方に対応して、駆動装置の駆動速度及び駆動位置が制御される。
【0009】
マニピュレーションシステムの望ましい態様として、前記演算回路は、前記速度制御モードで、前記ジョイスティックの操作量に応じた前記駆動装置の前記目標速度を演算し、前記位置制御モードで、前記ジョイスティックの操作量に応じた前記駆動装置の目標位置と、現在の前記駆動装置の前記駆動位置との差分に応じて前記目標速度を演算する。
【0010】
これによれば、マニピュレーションシステムは、位置制御モードで、駆動装置の目標位置と、現在の駆動装置の駆動位置との差分が大きいほど駆動速度を大きくし、駆動装置の目標位置と、現在の駆動装置の駆動位置との差分が小さいほど駆動速度を小さくするように制御することができる。すなわち、マニピュレーションシステムは、位置制御モードで、ジョイスティックの操作量に応じて滑らかな速度制御が可能である。
【0011】
マニピュレーションシステムの望ましい態様として、前記駆動制御回路は、前記位置制御モード及び前記速度制御モードで、前記演算回路からの前記駆動装置の前記目標速度と、前記駆動装置の前記駆動速度とを比較して、前記駆動装置の加減速を制御する。
【0012】
これによれば、位置制御モード及び速度制御モードで、駆動制御回路は、共通の演算処理を行うことができ、駆動装置には共通の駆動制御回路から駆動信号が供給される。また、駆動制御回路は、位置制御モード及び速度制御モードでそれぞれ異なる演算処理を行う演算回路よりも、演算処理に用いられるプログラミング量を減らすことができ、より安価な演算回路にすることができる。
【0013】
マニピュレーションシステムの望ましい態様として、前記制御回路は、前記操作部材の移動制御モードとして、前記駆動装置の前記駆動位置及び前記駆動速度をあらかじめ決められた順番で実行するシーケンスモードを有し、前記演算回路は、前記シーケンスモードで、前記駆動装置の前記目標速度をあらかじめ決められた前記駆動速度に設定する。
【0014】
これによれば、マニピュレーションシステムは、シーケンスモードで、あらかじめ決められた駆動装置の駆動速度(例えば最大目標速度)で制御することができる。すなわち、マニピュレーションシステムは、あらかじめ決められた駆動位置及び駆動速度にしたがって、シーケンスモードで滑らかな速度制御が可能である。
【0015】
マニピュレーションシステムの望ましい態様として、前記シーケンスモードにおける前記駆動装置の前記駆動位置及び前記駆動速度の一連の動作に関する情報を含むシーケンスデータを記憶する記憶領域を有する。
【0016】
これによれば、マニピュレーションシステムは、記憶領域に格納されたシーケンスデータから所望のシーケンスを選択し、あるいは、所望の駆動位置及び駆動速度を組み合わせて所望のシーケンスを設定することができる。
【0017】
マニピュレーションシステムの望ましい態様として、前記制御回路は、外部制御回路と接続可能に設けられ、前記記憶領域は、前記外部制御回路から供給された前記シーケンスデータを格納する。
【0018】
これによれば、マニピュレーションシステムは、外部制御回路と連動して駆動装置の制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態に係るマニピュレーションシステムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、マニピュレーションシステムの制御ブロック図である。
【
図3】
図3は、ジョイスティックの構成例を示す正面図である。
【
図4】
図4は、ジョイスティックの構成例を示す上面図である。
【
図5】
図5は、位置制御モードにおけるハンドルの傾斜角度と、駆動装置の目標位置との関係を模式的に示すグラフである。
【
図6】
図6は、位置制御モードにおけるマニピュレーションシステムの制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図7は、駆動装置の目標位置及び駆動位置と、時間との関係を模式的に示すグラフである。
【
図8】
図8は、駆動装置の目標速度と、時間との関係を模式的に示すグラフである。
【
図9】
図9は、駆動装置の駆動速度と、時間との関係を模式的に示すグラフである。
【
図10】
図10は、速度制御モードにおけるハンドルの傾斜角度と、駆動装置の目標速度との関係を模式的に示すグラフである。
【
図11】
図11は、速度制御モードにおけるマニピュレーションシステムの制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は、シーケンスモードにおけるマニピュレーションシステムの制御方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
(実施形態)
図1は、実施形態に係るマニピュレーションシステムの構成を模式的に示す図である。マニピュレーションシステム10は、顕微鏡観察下で微小対象物(例えば細胞や卵など)である試料を操作するためのシステムである。
図1に示すように、マニピュレーションシステム10は、顕微鏡ユニット12と、第1マニピュレータ14と、第2マニピュレータ16と、マニピュレーションシステム10を制御するコントローラ43とを備えている。顕微鏡ユニット12の両側に第1マニピュレータ14と第2マニピュレータ16とが分かれて配置されている。
【0023】
顕微鏡ユニット12は、撮像素子を含むカメラ18と、顕微鏡20と、試料ステージ22とを備えている。試料ステージ22は、シャーレなどの試料保持部材11を支持可能であり、試料保持部材11の直上に顕微鏡20が配置される。顕微鏡ユニット12は、顕微鏡20とカメラ18とが一体構造となっており、試料保持部材11に向けて光を照射する光源(図示は省略している)を備えている。なお、カメラ18は、顕微鏡20と別体に設けてもよい。
【0024】
試料保持部材11には、試料を含む溶液が収容される。試料保持部材11の試料に光が照射され、試料保持部材11の試料で反射した光が顕微鏡20に入射する。試料に関する光学像は、顕微鏡20で拡大された後、カメラ18で撮像される。顕微鏡ユニット12は、カメラ18で撮像された画像を基に試料の観察が可能となっている。
【0025】
図1に示すように、第1マニピュレータ14は、第1ピペット保持部材24と、X-Y軸テーブル26と、Z軸テーブル28と、X-Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30と、Z軸テーブル28を駆動する駆動装置32とを備える。第1マニピュレータ14は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
【0026】
なお、本実施形態において、水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と交差する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと交差する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。試料ステージ22の表面は、XY平面と平行であり、Z軸方向と直交する。
【0027】
X-Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル28は、X-Y軸テーブル26上に上下移動可能に配置され、駆動装置32の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置30、32は、コントローラ43に接続されている。
【0028】
第1ピペット保持部材24は、Z軸テーブル28に連結され、先端に毛細管チップである第1ピペット25が取り付けられている。第1ピペット保持部材24は、X-Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動に従って3次元空間を移動領域として移動できる。
【0029】
第1ピペット25には、チューブ等の配管45aを介してポンプ装置45が接続される。第1ピペット25及び配管45aの内部は、液体、気体、又は液体と気体との混合流体によって満たされている。第1ピペット25の内部圧力は、ポンプ装置45から供給される圧力により制御される。ポンプ装置45は、コントローラ43に電気的に接続されている。
【0030】
マニピュレーションシステム10は、第1マニピュレータ14によって第1ピペット25の先端を微小対象物に合わせ、ポンプ装置45によって吸引することによって、微小対象物を第1ピペット25の先端に保持することができる。すなわち、第1マニピュレータ14は、微小対象物の保持に用いられる保持用マニピュレータであり、第1ピペット25は、微小対象物の保持手段として用いられるホールディングピペットである。
【0031】
第2マニピュレータ16は、第2ピペット保持部材34と、X-Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X-Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42とを備える。第2マニピュレータ16は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
【0032】
X-Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル38は、X-Y軸テーブル36上に上下移動可能に配置され、駆動装置42の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。
【0033】
第2ピペット保持部材34は、Z軸テーブル38に連結され、先端にガラス製の第2ピペット35が取り付けられている。第2ピペット保持部材34は、X-Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動に従って3次元空間を移動領域として移動できる。第2ピペット保持部材34は、試料保持部材11に収容された試料を人工操作することが可能である。すなわち、第2マニピュレータ16は、微小対象物の操作(DNA溶液の注入操作や穿孔操作など)に用いられる操作用マニピュレータであり、第2ピペット35は、微小対象物のインジェクション操作手段として用いられるインジェクションピペットである。第1ピペット25及び第2ピペット35は、操作対象を操作するための操作部材である。
【0034】
X-Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、第2ピペット保持部材34を、試料保持部材11に収容された試料などの操作位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル38と第2ピペット保持部材34との連結部には、ナノポジショナとして微動機構44が備えられている。微動機構44は、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。
【0035】
なお、微動機構44は、微小対象物の操作用の第2マニピュレータ16に設けられるとしているが、微小対象物の固定用の第1マニピュレータ14に設けてもよく、省略することも可能である。
【0036】
コントローラ43は、演算手段としてのCPU(Central Processing Unit)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のハードウェア資源を備える。コントローラ43は、記憶領域67(
図2参照)に格納された所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って各種の制御を行うように駆動信号を出力する。
【0037】
コントローラ43は、第1マニピュレータ14の駆動装置30、駆動装置32、第2マニピュレータ16の駆動装置40、駆動装置42、ポンプ装置45等を制御する制御回路である。コントローラ43は、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等(不図示)を介して、第1マニピュレータ14、第2マニピュレータ16、ポンプ装置45等のそれぞれに駆動信号を出力する。コントローラ43は、駆動装置30、32、40、42にそれぞれ駆動信号V
xy、V
z(
図1参照)を供給する。駆動装置30、32、40、42は、駆動信号V
xy、V
zに基づいてX-Y-Z軸方向に駆動する。コントローラ43は、微動機構44にナノポジショナ制御信号V
N(
図1参照)を供給して、微動機構44の制御を行ってもよい。
【0038】
コントローラ43は、情報入力手段としてジョイスティック47、48と、ポンプインターフェース46と、入力部49(
図2参照)とが接続されている。入力部49は、例えばキーボードやタッチパネル、マウス等である。ジョイスティック47、48は、公知のものを用いることができる。ジョイスティック47、48の構成例については
図3、4にて後述する。
【0039】
ポンプインターフェース46は、操作者がポンプ装置45に対する操作情報を入力するためのポンプ操作情報入力部である。ポンプインターフェース46は、操作ノブ46aを備えている。ポンプインターフェース46は、操作ノブ46aを回転させることで、回転変位量に対応してポンプ装置45から供給される圧力を調整することができる。
【0040】
次に、コントローラ43によるマニピュレーションシステム10の制御について
図2を参照して説明する。
図2は、マニピュレーションシステムの制御ブロック図である。
【0041】
図2に示すように、コントローラ43は、ジョイスティック47、48からのジョイスティック出力信号SJ及び選択信号SELに基づいて、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16の駆動を制御する。ジョイスティック出力信号SJは、例えば、ジョイスティック47の操作量(例えば、ハンドル51の傾斜角度及び回転入力部53の回転角度(
図3、4参照))に関する情報を含む。選択信号SELは、例えば、制御モード切替スイッチ55(
図3、4参照)の操作(位置)に応じた情報を含む。
【0042】
コントローラ43は、ジョイスティック出力信号SJ及び選択信号SELに基づいて、駆動装置30、32、40、42に駆動信号を供給し、駆動装置30、32、40、42の駆動位置SP及び駆動速度VPを制御する。これにより、第1ピペット25及び第2ピペット35(操作部材)の位置及び移動速度が制御される。
【0043】
コントローラ43は、第1ピペット25及び第2ピペット35(操作部材)の移動制御モードとして、少なくとも、ジョイスティック47の操作量に応じた位置に駆動装置30、32、40、42の駆動位置SPを制御する位置制御モードM1と、ジョイスティック47の操作量に応じた速度で駆動装置30、32、40、42の駆動速度VPを制御する速度制御モードM2と、を有する。さらに、コントローラ43は、移動制御モードとして、駆動装置30、32、40、42の駆動位置SP及び駆動速度VPをあらかじめ決められた順番で実行するシーケンスモードM3を有する。位置制御モードM1、速度制御モードM2及びシーケンスモードM3は、選択信号SELに基づいて切り替えられる。
【0044】
コントローラ43は、駆動制御回路61と演算回路62とを含む。演算回路62は、位置制御モードM1、速度制御モードM2及びシーケンスモードM3のそれぞれで、ジョイスティック出力信号SJに基づいて、駆動装置30、32、40、42の目標速度VTを演算する回路である。
【0045】
駆動制御回路61は、演算回路62から出力された駆動装置30、32、40、42の目標速度VTの情報に基づいて駆動信号を生成し、駆動装置30、32、40、42に駆動信号を供給する回路である。駆動制御回路61は、駆動装置30、32、40、42に供給される駆動信号(駆動パルス)の周期よりも速い動作が可能となっており、高速だが複雑な演算を必要としない処理が割り当てられている。一方、演算回路62は、駆動制御回路61よりも低速であるが、制御モードごとの各種演算処理や、外部制御回路100との通信等、複雑な演算処理が割り当てられる。
【0046】
コントローラ43は、外部制御回路100が接続可能に設けられる。外部制御回路100は、例えばパーソナルコンピュータ(PC、いわゆるパソコン)である。あるいは、外部制御回路100は、スマートフォンやタブレット等の携帯端末であってもよい。なお、マニピュレーションシステム10は、外部制御回路100と非接続状態で、すなわちコントローラ43単独で第1マニピュレータ14、第2マニピュレータ16、ポンプ装置45等の制御を行うことができる。あるいは、マニピュレーションシステム10は、外部制御回路100と連動して第1マニピュレータ14、第2マニピュレータ16、ポンプ装置45等の制御を行うこともできる。
【0047】
また、外部制御回路100から出力されたシーケンスデータSQFは、コントローラ43の記憶領域67に格納される。シーケンスデータSQFは、シーケンスモードM3の第1ピペット25及び第2ピペット35の移動制御の情報を含む。より具体的には、シーケンスデータSQFは、駆動装置30、32、40、42の駆動位置SP及び駆動速度VPの一連の動作に関する情報を含む。
【0048】
より詳細には、駆動制御回路61は、信号処理回路63、駆動信号演算回路64及び駆動信号出力回路65を含む。演算回路62は、駆動速度演算回路66、記憶領域67及び判定回路68を有する。
【0049】
信号処理回路63は、アナログ信号であるジョイスティック出力信号SJ及び選択信号SELを受け取って、デジタル信号に変換する回路である。また、信号処理回路63は、必要に応じて信号の増幅等の処理を行う。
【0050】
演算回路62は、信号処理回路63で信号処理されたジョイスティック出力信号SJ及び選択信号SELを受け取って、各種演算を行う回路である。判定回路68は、選択信号SELを受け取って、操作部材の移動制御モードが位置制御モードM1、速度制御モードM2及びシーケンスモードM3のいずれであるかを判定する回路である。
【0051】
記憶領域67は、上述したシーケンスデータSQFに加え、位置制御モードM1及び速度制御モードM2の各種設定値(ゲイン量、閾値、目標位置等)の情報を記憶する回路である。
【0052】
駆動速度演算回路66は、判定回路68からの移動制御モードの情報と、信号処理回路63からのジョイスティック出力信号SJとに基づいて、駆動装置30、32、40、42の目標速度VTを演算する回路である。演算回路62及び駆動速度演算回路66は、速度制御モードM2だけではなく、位置制御モードM1及びシーケンスモードM3でも、ジョイスティック出力信号SJ、すなわちジョイスティック47の操作量に応じた目標速度VTを演算する。
【0053】
駆動制御回路61の駆動信号演算回路64は、演算回路62から目標速度VTに関する情報を受け取って、目標速度VTと、駆動装置30、32、40、42の現在の駆動速度VPと、を比較して、駆動装置30、32、40、42の加減速を演算する。駆動信号出力回路65は、駆動信号演算回路64から受け取った加減速の情報に応じて、駆動信号(駆動パルス)を生成し、駆動装置30、32、40、42に駆動信号を供給する。
【0054】
このように、3つの移動制御モードのいずれにおいても、演算回路62は、ジョイスティック47の操作量に応じた目標速度VTを演算する。すなわち、マニピュレーションシステム10は、位置制御モードM1に速度制御方式を組み合わせることで、ジョイスティック47の操作量に応じた駆動速度VPで駆動装置30、32、40、42が駆動される。これにより、位置制御モードM1の速度制御方式で、単純に台形制御を行う場合に比べて、滑らかな速度制御を行うことができる。
【0055】
また、3つの移動制御モードのいずれにおいても速度制御方式が採用されているため、駆動制御回路61での演算処理を3つの移動制御モードで共通化することができる。このため、コントローラ43の演算処理の負荷を抑制することができ、また、コントローラ43の低コスト化を図ることができる。
【0056】
次にジョイスティック47、48の構成例について説明する。
図3は、ジョイスティックの構成例を示す正面図である。
図4は、ジョイスティックの構成例を示す上面図である。なお、
図3及び
図4では、ジョイスティック47を示しているが、ジョイスティック47についての説明はジョイスティック48にも適用できる。
【0057】
また、マニピュレーションシステム10は、2つのジョイスティック47、48を有する構成に限定されず、1つのジョイスティック47を有する構成であってもよい。なお、
図3、
図4では図示を省略するが、ジョイスティック47、48は、微動機構44、ポンプ装置45等の各駆動を操作するためのボタン47A、48A(
図1参照)を備えていてもよい。以下の説明では、ジョイスティック47が第1マニピュレータ14(第1ピペット25)を操作する例を示すが、ジョイスティック47が第2マニピュレータ16(第2ピペット35)の操作に用いられてもよい。
【0058】
図3に示すように、ジョイスティック47は、筐体50と、ハンドル51と、ノブ52と、回転入力部53と、先端スイッチ54と、制御モード切替スイッチ55と、ゲイン調整ダイヤル56と、を有する。ハンドル51は、筐体50から直立して設けられ。中立位置P0を中心に揺動可能に設けられる。
【0059】
ノブ52及び回転入力部53は、ハンドル51の先端に設けられている。操作者は、ノブ52を把持してジョイスティック47のハンドル51を傾斜させるように操作することで、駆動装置30、40のX-Y駆動を行うことができる。なお、操作者がハンドル51を傾斜させた状態で、操作を中断しても(すなわち、ハンドル51から手を放しても)、ハンドル51は、中立位置P0に戻らずに、例えば摩擦力により傾斜した姿勢を維持する。
【0060】
回転入力部53は、ノブ52の上部に設けられている。
図4に示すように、回転入力部53は、中心軸53cを中心として回転可能にノブ52に設けられている。回転入力部53は、基準位置R0を基準として、第1方向R1側の最大回転位置Rmaxから、第2方向R2側の最小回転位置Rminまで回転可能に設けられている。操作者は、マーク53mを目印として、回転入力部53の操作位置(回転角度)を視認することができる。
【0061】
操作者は、回転入力部53をねじることで駆動装置32、42のZ駆動を行うことができる。例えば、操作者が、基準位置R0から第1方向R1に回転入力部53を回転させると、第1ピペット25をZ方向の上側に移動させることができる。また、基準位置R0から第2方向R2に回転入力部53を回転させると、第1ピペット25をZ方向の下側に移動させることができる。なお、回転入力部53も、操作者が回転入力部53を回転させた状態で、操作を中断しても(すなわち、回転入力部53から手を放しても)、基準位置R0に戻らずに、例えば摩擦力により基準位置R0から回転した姿勢を維持する。
【0062】
図3に示すように、先端スイッチ54(操作切替スイッチ)は、回転入力部53の上に設けられる。先端スイッチ54は、ハンドル51の軸方向に押し込まれることで、オン、オフが切り替えられる。先端スイッチ54は、ハンドル51による移動制御の有効及び無効を切り替えるためのスイッチである。
【0063】
制御モード切替スイッチ55は、筐体50の側面に設けられる。制御モード切替スイッチ55は、第1ピペット25(操作部材)の移動制御を、位置制御モードM1、速度制御モードM2又はシーケンスモードM3に切り替えるためのスイッチである。
【0064】
位置制御モードM1は、ハンドル51の傾斜角度θに応じた位置に第1ピペット25を移動させる操作モードである。言い換えると、駆動装置30、40は、傾斜角度θに応じた駆動量でX-Y駆動を行う。位置制御モードM1は、操作部材を小さく動かす際に便利である。
【0065】
速度制御モードM2は、ハンドル51の傾斜角度θに応じた速度で第1ピペット25を移動させる操作モードである。言い換えると駆動装置30、40は、傾斜角度θに応じた速度でX-Y駆動を行う。速度制御モードM2は、操作部材を大きく動かす際に便利である。
【0066】
また、Z軸方向での移動制御においても、制御モード切替スイッチ55により、位置制御モードM1と速度制御モードM2とに切り替えられる。すなわち、位置制御モードM1では、回転入力部53の回転角度(操作量)に応じた位置に、第1ピペット25をZ軸方向に移動させる。速度制御モードM2では、回転入力部53の回転角度(操作量)に応じた速度で、第1ピペット25をZ軸方向に移動させる。
【0067】
また、シーケンスモードM3は、シーケンスデータSQFであらかじめ決められた順番(速度及び位置)で、第1ピペット25及び第2ピペット35の移動を制御する操作モードである。
【0068】
制御モード切替スイッチ55は、水平方向に移動可能に設けられている。ジョイスティック47は、例えば、制御モード切替スイッチ55が
図3の左側に位置した状態で位置制御モードM1に切り替えられ、
図3の右側に位置した状態で速度制御モードM2に切り替えられる。また、制御モード切替スイッチ55が中央に位置した状態でシーケンスモードM3に切り替えられる。
【0069】
ゲイン調整ダイヤル56は、筐体50の側面に設けられる。操作者は、ゲイン調整ダイヤル56を回転させて操作することで、ハンドル51の傾斜角度θに応じた第1ピペット25の移動量又は速度を調整することができる。具体的には、ゲイン調整ダイヤル56の操作により、例えば
図5に示すハンドル51の傾斜角度θxと、駆動装置30(第1ピペット25)の目標位置STとの関係を示す直線の傾きを変えることができる。
【0070】
なお、
図3及び
図4に示したジョイスティック47の構成はあくまで一例であり、適宜変更することができる。例えば、制御モード切替スイッチ55は、スライド式のスイッチに限定されず、押しボタン式のスイッチや回転式のスイッチ等、他の種類を採用してもよい。また、制御モード切替スイッチ55の位置は、筐体50の側面に限定されず、別の位置であってもよい。制御モード切替スイッチ55を設けずに、先端スイッチ54のオン、オフのみで位置制御モードM1、速度制御モードM2及びシーケンスモードM3の切り替えを制御してもよい。
【0071】
次に、
図5から
図9を参照して、位置制御モードM1でのマニピュレーションシステム10の制御方法を説明する。なお、以下の説明では、ジョイスティック47を操作して、第1マニピュレータ14の駆動装置30、32の駆動位置、駆動速度を制御する方法について説明する。ただし、これに限定されず、以下の説明では、ジョイスティック48を操作して、第2マニピュレータ16の駆動装置40、42を制御する場合にも適用できる。
【0072】
図5は、位置制御モードにおけるハンドルの傾斜角度と、駆動装置の目標位置との関係を模式的に示すグラフである。
図5では、位置制御モードM1の一例として、X軸方向に第1ピペット25を移動させる場合の動作例を示す。
図5に示すグラフの横軸は、ハンドル51のX軸方向の傾斜角度θxを示す。縦軸は、駆動装置30のX軸方向の目標位置ST(X)、すなわち第1ピペット25のX軸方向の目標位置を示す。
図5に示すように、位置制御モードM1では、傾斜角度θxが0、すなわち、ハンドル51が中立位置P0である状態の駆動装置30の位置を原点として、駆動装置30の目標位置STは、傾斜角度θxに比例してX軸方向に変化する。例えば、ハンドル51の傾斜角度θaに、駆動装置30の目標位置Xaが対応付けられている。
【0073】
駆動装置30は、コントローラ43からの駆動信号により駆動され、駆動装置30の駆動位置SPが、ハンドル51の傾斜角度θxに応じた目標位置Xaに一致するように、演算された駆動速度VPで制御される。駆動装置30の駆動にしたがって、第1ピペット25のX軸方向の位置が移動する。
【0074】
図6は、位置制御モードにおけるマニピュレーションシステムの制御方法を説明するためのフローチャートである。なお、
図6のフローチャートでは、ジョイスティック47からの選択信号SELに基づいて、信号処理回路63及び判定回路68により、位置制御モードM1であると判定された後のフローについて示している。
【0075】
図6に示すように、位置制御モードM1では、演算回路62の駆動速度演算回路66は、信号処理回路63を介してジョイスティック出力信号SJを取得する(ステップST11)。駆動速度演算回路66は、ジョイスティック出力信号SJに対応する目標位置STを演算する。ジョイスティック出力信号SJと目標位置STとの対応関係(例えば、
図5参照)についての情報は、あらかじめ記憶領域67に格納されている。
【0076】
ここで、
図7は、駆動装置の目標位置及び駆動位置と、時間との関係を模式的に示すグラフである。なお、
図7は、理解を容易にするために、駆動装置30、32の現在の駆動位置SPが時刻t1から時刻t2に亘って線形に示している。
図7は、時刻t1で、ジョイスティック47が操作されてジョイスティック出力信号SJが出力された場合を示す。
図7に示すように、時刻t1で、駆動速度演算回路66は、ジョイスティック出力信号SJを取得し、ジョイスティック出力信号SJに応じた駆動装置30、32の目標位置STを演算する。
【0077】
次に、
図6及び
図7に示すように、駆動速度演算回路66は、駆動制御回路61を介して、駆動装置30、32から現在の駆動位置SPを取得する。そして、駆動速度演算回路66は、目標位置STと駆動位置SPの差分の信号(以下、位置差分信号Sdと表す)を演算する(ステップST12)。
【0078】
次に、駆動速度演算回路66は、位置差分信号Sdと位置差分信号閾値TH-Pとを比較し、ジョイスティック47の操作の有無を判定する(ステップST13)。位置差分信号閾値TH-Pは、あらかじめ記憶領域67に格納された値であり、例えば、ジョイスティック47の原点(中立位置P0)近傍の不感帯領域に対応して設定された値である。不感帯領域は、ジョイスティック47が操作されても駆動装置30、32が駆動されない領域である。
【0079】
位置差分信号Sdが位置差分信号閾値TH-P以下の場合(ステップST13、No)、駆動速度演算回路66は、ジョイスティック47の操作が無いと判定し、各種演算処理を行わずステップST11に戻る。なお、位置差分信号Sdが位置差分信号閾値TH-Pよりも小さい場合とは、ジョイスティック47の操作量が不感帯領域の範囲内の場合である。
【0080】
位置差分信号Sdが位置差分信号閾値TH-Pよりも大きい場合(ステップST13、Yes)、駆動速度演算回路66は、ジョイスティック47の操作が有ると判定し、ジョイスティック47の操作量に応じた駆動装置30、32の目標速度VTを演算する(ステップST14)。
【0081】
図8は、駆動装置の目標速度と、時間との関係を模式的に示すグラフである。
図8に示すように、駆動速度演算回路66は、位置差分信号Sdに、定数Gを乗算することで目標速度VT(=Sd×G)を演算する。つまり、目標速度VTは、ジョイスティック47の操作量に応じた駆動装置30、32の目標位置STに対して、駆動装置30、32の現在の駆動位置SPが離れているほどが大きくなり、駆動装置30、32の目標位置STに駆動装置30、32の現在の駆動位置SPが近づくにしたがって目標速度VTが小さくなる。
【0082】
また、時刻t1から時刻t11までの範囲では、点線に示す目標速度VT(=Sd×G)は、最大目標速度TH-V以上となる。この場合、駆動速度演算回路66は、目標速度VTとして最大目標速度TH-Vを設定する。これにより、ジョイスティック47が速く大きな操作量で操作された場合でも、駆動装置30、32の急激な駆動が抑制される。
【0083】
なお、最大目標速度TH-V及び定数Gはあらかじめ記憶領域67に格納された値である。最大目標速度TH-V及び定数Gは、駆動装置30、32の急激な駆動及び停止を抑制して安定して動作できるように設定される。あるいは、定数Gは、ジョイスティック47のゲイン調整ダイヤル56(
図3参照)で調整することもできる。
【0084】
図6に戻って、駆動速度演算回路66は、演算された目標速度VTを駆動制御回路61に出力する(ステップST15)。
【0085】
駆動信号演算回路64は、目標速度VTを受け取り、さらに駆動装置30、32から現在の駆動速度VPを受け取る。駆動信号演算回路64は、目標速度VTと駆動装置30、32の現在の駆動速度VPとを比較して、駆動装置30、32の加減速を演算する。言い換えると、駆動装置30、32の現在の駆動速度VPが目標速度VTに近づくように、駆動装置30、32の駆動速度VPの加減速を演算する。
【0086】
図9は、駆動装置の駆動速度と、時間との関係を模式的に示すグラフである。
図9の縦軸は、目標速度VTに基づいて、駆動信号演算回路64で演算された駆動速度VPである。
図8及び
図9に示すように、駆動信号演算回路64は、目標速度VTが現在の駆動速度VPよりも大きい場合(時刻t1から時刻t12までの間)、駆動速度VPを増大させるように加速度VAを演算する。駆動信号演算回路64は、目標速度VTが現在の駆動速度VPと一致している場合(時刻t12から時刻t11までの間)、駆動速度VPを維持する。駆動信号演算回路64は、目標速度VTが現在の駆動速度VPよりも小さい場合(時刻t11から時刻t2までの間)、駆動速度VPを減少させるように減速度VBを演算する。
【0087】
図6に戻って、駆動信号演算回路64は、演算された加速度VA、減速度VBを駆動信号出力回路65に出力する。駆動信号出力回路65は、加速度VA、減速度VBに基づいて複数の駆動パルスからなる駆動信号を生成し、駆動装置30、32に駆動信号を出力する(ステップST15)。
【0088】
上述したように、駆動制御回路61は、演算回路62よりも高速の演算処理が可能である。駆動信号演算回路64及び駆動信号出力回路65は、演算回路62で演算された目標速度VTを受け取って、加速度VA、減速度VBに基づいて、駆動パルスを高い周波数で発生させて駆動信号を生成する。これにより、駆動制御回路61は、複数の駆動パルスからなる駆動信号を出力して駆動装置30、32を駆動することができる。したがって、マニピュレーションシステム10は、駆動装置30、32の応答性を向上させることができる。
【0089】
また、演算回路62は、位置制御モードM1で、速度制御を組み合わせて目標速度VTを演算する。すなわち、駆動装置30、32の目標位置STと、現在の駆動装置30、32の駆動位置SPとの差分(位置差分信号Sd)が大きいほど目標速度VTを大きくし、駆動装置30、32の目標位置STと、現在の駆動装置30、32の駆動位置SPとの差分(位置差分信号Sd)が小さいほど目標速度VTを小さくするように制御することができる。すなわち、マニピュレーションシステム10は、位置制御モードM1で、ジョイスティック47の操作量に応じて滑らかな速度制御が可能である。
【0090】
次に、
図10及び
図11を参照して、速度制御モードM2でのマニピュレーションシステム10の制御方法を説明する。
【0091】
図10は、速度制御モードにおけるハンドルの傾斜角度と、駆動装置の目標速度との関係を模式的に示すグラフである。
図10では、速度制御モードM2の一例として、X軸方向に第1ピペット25を移動させる場合の動作例を示す。
図10に示すグラフの横軸は、ハンドル51のX軸方向の傾斜角度θxを示す。縦軸は、駆動装置30のX軸方向での目標速度VT(X)、すなわち第1ピペット25のX軸方向での目標速度を示す。
図10に示すように、速度制御モードM2では、傾斜角度θxが0、すなわち、ハンドル51が中立位置P0である状態では、駆動装置30の目標速度VTは0であり、すなわち駆動装置30及び第1ピペット25は静止している。駆動装置30の目標速度VTは、傾斜角度θxに比例して変化する。例えば、ハンドル51の傾斜角度θbに、駆動装置30の目標速度Vbが対応付けられている。
【0092】
駆動装置30は、コントローラ43からの駆動信号により駆動され、ハンドル51の傾斜角度θxに応じた目標速度VTに一致するように、演算された駆動速度で制御される。駆動装置30の駆動にしたがって、第1ピペット25のX軸方向の位置が移動する。速度制御モードM2では、例えば、ハンドル51が傾斜角度θbで維持された場合に、駆動装置30は、目標速度Vbに対応する一定の駆動速度VPで駆動される。そして、第1ピペット25は、駆動装置30の駆動により、一定の速度で移動を続ける。
【0093】
図11は、速度制御モードにおけるマニピュレーションシステムの制御方法を説明するためのフローチャートである。なお、
図11のフローチャートでは、ジョイスティック47からの選択信号SELに基づいて、信号処理回路63及び判定回路68により、速度制御モードM2であると判定された後のフローについて示している。
【0094】
図11に示すように、速度制御モードM2では、演算回路62の駆動速度演算回路66は、信号処理回路63を介してジョイスティック出力信号SJを取得する(ステップST21)。
【0095】
次に、駆動速度演算回路66は、ジョイスティック出力信号SJと閾値とを比較し、ジョイスティック47の操作の有無を判定する(ステップST22)。
【0096】
ジョイスティック出力信号SJが閾値以下の場合(ステップST22、No)、駆動速度演算回路66は、ジョイスティック47の操作が無いと判定し、各種演算処理を行わずステップST21に戻る。なお、ジョイスティック出力信号SJが閾値よりも小さい場合とは、ジョイスティック47の操作量が不感帯領域の範囲内の場合である。
【0097】
ジョイスティック出力信号SJが閾値よりも大きい場合(ステップST22、Yes)、駆動速度演算回路66は、ジョイスティック47の操作が有ると判定し、ジョイスティック47の操作量に応じた駆動装置30、32の目標速度VTを演算する(ステップST23)。なお、ジョイスティック出力信号SJと目標速度VTとの対応関係についての情報(例えば、
図10参照)は、あらかじめ記憶領域67に格納されている。
【0098】
駆動速度演算回路66は、演算された目標速度VTを駆動制御回路61に出力する(ステップST24)。
【0099】
駆動制御回路61は、ステップST25、ST26で、
図6で説明した位置制御モードM1でのステップST16、ST17と同じ制御がなされる。
【0100】
次に、シーケンスモードM3でのマニピュレーションシステム10の制御方法を説明する。
図12は、シーケンスモードにおけるマニピュレーションシステムの制御方法を説明するためのフローチャートである。
【0101】
なお、
図12のフローチャートでは、ジョイスティック47からの選択信号SELに基づいて、信号処理回路63及び判定回路68により、シーケンスモードM3であると判定された後のフローについて示している。
【0102】
図12に示すように、シーケンスモードM3では、演算回路62の駆動速度演算回路66は、記憶領域67からシーケンスデータSQFを取得する(ステップST31)。シーケンスデータSQFは、駆動装置30、32の目標位置STや移動の順番等、各種情報を含む。
【0103】
次に、駆動速度演算回路66は、駆動制御回路61を介して、駆動装置30、32から現在の駆動位置SPを取得する。そして、駆動速度演算回路66は、シーケンスデータSQFのあらかじめ決められた目標位置STと、現在の駆動位置SPとの差分の信号(位置差分信号Sd)を演算する(ステップST32)。
【0104】
次に、駆動速度演算回路66は、位置差分信号Sdと位置差分信号閾値TH-Pとを比較し、ジョイスティック47の操作の有無を判定する(ステップST33)。
【0105】
ステップST33がYesの場合、駆動速度演算回路66は、シーケンスデータSQFに基づいて、駆動装置30、32の目標速度VTを演算する(ステップST34)。例えば、駆動速度演算回路66は、目標速度VTとしてあらかじめ決められた最大目標速度TH-V(
図8参照)に設定する。以下のステップST35からステップST37では、駆動制御回路61及び演算回路62は、
図6で示した位置制御モードM1のステップST14からステップST17と同じ制御がなされる。
【0106】
また、コントローラ43の、少なくとも駆動制御回路61は、位置制御モードM1、速度制御モードM2及びシーケンスモードM3で、同じプログラムで制御可能であり、各制御モードで共通の演算処理が行われる。
【0107】
なお、上述した
図2に示すブロック図は、あくまで一例であり、適宜変更することができる。例えば、駆動制御回路61が有する機能の一部(例えば、信号処理回路63)は、演算回路62に設けられていてもよい。また、演算回路62が有する機能の一部が駆動制御回路61に設けられていてもよい。また、
図6、
図11、
図12に示すフローチャートも、あくまで模式的に示したものであり、適宜変更することができる。
【0108】
以上説明したように、本実施形態のマニピュレーションシステム10は、微小対象物を操作する操作部材(第1ピペット25)と、操作部材を移動させる駆動装置30、32と、を備え、駆動装置30、32の駆動位置SP及び駆動速度VPに応じて操作部材の位置及び速度が制御されるマニピュレータ(第1マニピュレータ14)と、駆動装置30、32の駆動位置SP及び駆動速度VPを制御するためのジョイスティック47と、操作部材の移動制御モードとして、少なくとも、ジョイスティック47の操作量に応じた位置に駆動装置30、32の駆動位置SPを制御する位置制御モードM1と、ジョイスティック47の操作量に応じた速度で駆動装置30、32の駆動速度VPを制御する速度制御モードM2と、を有する制御回路(コントローラ43)と、を有する。制御回路は、位置制御モードM1及び速度制御モードM2のそれぞれで、ジョイスティック47からの出力信号に基づいて、駆動装置30、32の目標速度VTを演算する演算回路62と、演算回路62から出力された駆動装置30、32の目標速度VTの情報に基づいて駆動信号を生成し、駆動装置30、32に駆動信号を供給する駆動制御回路61と、を有する。
【0109】
これによれば、位置制御モードM1及び速度制御モードM2のそれぞれで、ジョイスティック47の操作量に応じた速度制御がなされる。したがって、位置制御モードM1においても、ジョイスティック47の速く大きな操作や、ゆっくりと小さな操作の両方に対応して、駆動装置30、32の駆動速度VP及び駆動位置SPが制御される。
【0110】
また、マニピュレーションシステム10において、演算回路62は、速度制御モードM2で、ジョイスティック47の操作量に応じた駆動装置30、32の目標速度VTを演算し、位置制御モードM1で、ジョイスティック47の操作量に応じた駆動装置30、32の目標位置STと、現在の駆動装置30、32の駆動位置SPとの差分に応じて目標速度VTを演算する。
【0111】
これによれば、マニピュレーションシステム10は、位置制御モードM1で、駆動装置30、32の目標位置STと、現在の駆動装置30、32の駆動位置SPとの差分が大きいほど駆動速度VPを大きくし、駆動装置30、32の目標位置STと、現在の駆動装置30、32の駆動位置SPとの差分が小さいほど駆動速度VPを小さくするように制御することができる。すなわち、マニピュレーションシステム10は、位置制御モードM1で、ジョイスティック47の操作量に応じて滑らかな速度制御が可能である。
【0112】
また、マニピュレーションシステム10において、駆動制御回路61は、位置制御モードM1及び速度制御モードM2で、演算回路62からの駆動装置30、32の目標速度VTと、駆動装置30、32の駆動速度VPとを比較して、駆動装置30、32の加減速を制御する。
【0113】
これによれば、位置制御モードM1及び速度制御モードM2で、駆動制御回路61は、共通の演算処理を行うことができ、駆動装置30、32には共通の駆動制御回路61から駆動信号が供給される。また、駆動制御回路61は、位置制御モードM1及び速度制御モードM2でそれぞれ異なる演算処理を行う演算回路62よりも、演算処理に用いられるプログラミング量を減らすことができ、より安価な演算回路62にすることができる。
【0114】
また、マニピュレーションシステム10において、制御回路は、操作部材の移動制御モードとして、駆動装置30、32の駆動位置SP及び駆動速度VPをあらかじめ決められた順番で実行するシーケンスモードM3を有する。演算回路62は、シーケンスモードM3で、駆動装置30、32の目標速度VTをあらかじめ決められた駆動速度VPに設定する。
【0115】
これによれば、マニピュレーションシステム10は、シーケンスモードM3で、あらかじめ決められた駆動装置30、32の駆動速度VP(例えば最大目標速度)で制御することができる。すなわち、マニピュレーションシステム10は、あらかじめ決められた駆動位置SP及び駆動速度VPにしたがって、シーケンスモードM3で滑らかな速度制御が可能である。
【0116】
また、マニピュレーションシステム10は、シーケンスモードM3における駆動装置30、32の駆動位置SP及び駆動速度VPの一連の動作に関する情報を含むシーケンスデータSQFを記憶する記憶領域67を有する。
【0117】
これによれば、マニピュレーションシステム10は、記憶領域67に格納されたシーケンスデータSQFから所望のシーケンスを選択し、あるいは、所望の駆動位置SP及び駆動速度VPを組み合わせて所望のシーケンスを設定することができる。
【0118】
また、マニピュレーションシステム10において、制御回路は、外部制御回路100と接続可能に設けられ、記憶領域67は、外部制御回路100から供給されたシーケンスデータSQFを格納する。
【0119】
これによれば、マニピュレーションシステム10は、外部制御回路100と連動して駆動装置30、32の制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0120】
10 マニピュレーションシステム
14 第1マニピュレータ
16 第2マニピュレータ
24 第1ピペット保持部材
25 第1ピペット
30、32、40、42 駆動装置
34 第2ピペット保持部材
35 第2ピペット
43 コントローラ
47、48 ジョイスティック
61 駆動制御回路
62 演算回路
63 信号処理回路
64 駆動信号演算回路
65 駆動信号出力回路
66 駆動速度演算回路
67 記憶領域
68 判定回路
100 外部制御回路
M1 位置制御モード
M2 速度制御モード
M3 シーケンスモード
SEL 選択信号
SJ ジョイスティック出力信号
SP 駆動位置
ST 目標位置
VP 駆動速度
VT 目標速度