(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188497
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
A01M7/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096575
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松家 伸一
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA19
2B121CB03
2B121CB24
2B121CB31
2B121CB42
2B121CB51
2B121CB61
2B121CB69
2B121CB70
2B121CC02
2B121DA63
2B121EA26
(57)【要約】
【課題】
機体周囲の視認性が高く、作業者が作業に集中しやすい作業車両を提供すること。
【解決手段】
走行車体1に前輪2と後輪3を各々左右回動可能に設け、薬剤を散布する散布装置10を左右回動可能に設け、作業者が搭乗する搭乗部200を設け、搭乗部200に走行車体1の後方を視認する後部表示部材201を設けた作業車両において、後部表示部材201の下部に前輪2が表示面に写る前輪表示部材202を設けると共に、後部表示部材201の前方で、且つ散布装置10の回動支点付近に、機体外側方に回動させた散布装置10が表示面に写る散布装置表示部材203を設け、搭乗部200の後部に散布装置10が散布する薬液を貯留する薬液タンク9を設け、薬液タンク9の後方を撮影する撮影装置を設け、搭乗部200には、撮影装置が撮影した映像及び画像を表示する後方表示部材204を設けて構成する。
【選択図】
図28
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(1)に前輪(2)と後輪(3)を各々左右回動可能に設け、薬剤を散布する散布装置(10)を左右回動可能に設け、作業者が搭乗する搭乗部(200)を設け、該搭乗部(200)に走行車体(1)の後方を視認する後部表示部材(201)を設けた作業車両において、
該後部表示部材(201)の下部に前記前輪(2)が表示面に写る前輪表示部材(202)を設けると共に、
前記後部表示部材(201)の前方で、且つ前記散布装置(10)の回動支点付近に、機体外側方に回動させた散布装置(10)が表示面に写る散布装置表示部材(203)を設けたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記搭乗部(200)の後部に前記散布装置(10)が散布する薬液を貯留する薬液タンク(9)を設け、該薬液タンク(9)の後方を撮影する撮影装置(205)を設け、
前記搭乗部(200)には、該撮影装置(205)が撮影した映像及び画像を表示する後方表示部材(204)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記後方表示部材(204)は、反射による像を表示する鏡面状態に切替可能に構成したことを特徴とする請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記後方表示部材(204)に、作業者の動作を検出する動作検出部材(206)を設け、
該動作検出部材(206)が検出する動作に合わせて、後方表示部材(204)が映像または画像の表示状態と、前記鏡面状態を切り替える制御装置(103)を設けたことを特徴とする請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記走行車体(1)の傾斜を検出する傾斜検出部材(300)を設け、前記散布装置(10)が散布する薬液を貯留する薬液タンク(9)を設け、該薬液タンク(9)内の薬液の残量を検出する残量検出部材(111)を設け、
前記制御装置(103)は、該傾斜検出部材(300)が検出する傾斜方向と、該残量検出部材(111)が検出する薬液の量から走行に支障が起こり得ると判断されるときは、前記報知装置(107)を作動させて走行に問題があることを報知する構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブームスプレイヤー等の散布装置を備える作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車両は、走行車体に作業者が搭乗する搭乗部となるキャビンを備え、キャビンには機体後側部を視認可能なミラーを備え、キャビンの後部に散布される薬液を貯留する薬液タンクを備えると共に、機体左右両側に展開して薬液を散布するサイドブームを左右回動可能で、且つ上下回動可能に設けている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021- 29215号公報
【特許文献2】特開2002‐346444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の作業車両において、作業中の作業者は身体の移動が制限されるキャビン内にいるので、機体下側に設けられる前輪の切れ角を視認し辛く、操舵方向や操舵量を正確に取れず、作業位置のズレや前輪と栽培中の作物が接触する問題がある。
【0005】
身を乗り出す等して前輪の位置を視認しようとするときは、走行速度を下げる等して操作ミスを生じにくくするが、これにより作業能率が低下すると共に、無理な姿勢をすることで作業者が疲労しやすくなる問題がある。
【0006】
また、機体側方に回動させて展開したサイドブームと薬液の散布対象の上下間隔が適切であるかどうかを確認するときは、作業者は機体側方に視線を向ける必要があるが、このとき進行方向から視界を外す必要があるので、直進走行ができず前輪と栽培中の作物が接触する問題がある。
【0007】
また、薬液タンクがキャビン後方に位置することにより、作業者がキャビン後方を見る際に薬液タンクにより確認できない死角が大きく生じるので、作業状況を確認し辛く、さらには後進走行し辛いという問題がある。
【0008】
本発明は、従来の作業車両の課題を考慮し、機体周囲の視認性が高く、作業者が作業に集中しやすい作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、走行車体(1)に前輪(2)と後輪(3)を各々左右回動可能に設け、薬剤を散布する散布装置(10)を左右回動可能に設け、作業者が搭乗する搭乗部(200)を設け、該搭乗部(200)に走行車体(1)の後方を視認する後部表示部材(201)を設けた作業車両において、該後部表示部材(201)の下部に前記前輪(2)が表示面に写る前輪表示部材(202)を設けると共に、前記後部表示部材(201)の前方で、且つ前記散布装置(10)の回動支点付近に、機体外側方に回動させた散布装置(10)が表示面に写る散布装置表示部材(203)を設けたことを特徴とする作業車両とした。
【0010】
請求項2の発明は、前記搭乗部(200)の後部に前記散布装置(10)が散布する薬液を貯留する薬液タンク(9)を設け、該薬液タンク(9)の後方を撮影する撮影装置(205)を設け、前記搭乗部(200)には、該撮影装置(205)が撮影した映像及び画像を表示する後方表示部材(204)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両とした。
【0011】
請求項3の発明は、前記後方表示部材(204)は、反射による像を表示する鏡面状態に切替可能に構成したことを特徴とする請求項2に記載の作業車両とした。
【0012】
請求項4の発明は、前記後方表示部材(204)に、作業者の動作を検出する動作検出部材(206)を設け、該動作検出部材(206)が検出する動作に合わせて、後方表示部材(204)が映像または画像の表示状態と、前記鏡面状態を切り替える制御装置(103)を設けたことを特徴とする請求項3に記載の作業車両とした。
【0013】
請求項5の発明は、前記走行車体(1)の傾斜を検出する傾斜検出部材(300)を設け、前記散布装置(10)が散布する薬液を貯留する薬液タンク(9)を設け、該薬液タンク(9)内の薬液の残量を検出する残量検出部材(111)を設け、前記制御装置(103)は、該傾斜検出部材(300)が検出する傾斜方向と、該残量検出部材(111)が検出する薬液の量から走行に支障が起こり得ると判断されるときは、前記報知装置(107)を作動させて走行に問題があることを報知する構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の作業車両とした。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明により、搭乗部(200)に搭乗する作業者は、前輪(2)の状態を身体を移動させることなく前輪表示部材(202)を介して確認できるので、操舵方向を適切に保つことができ、作業精度の向上が図られる。
【0015】
また、後部表示部材(201)により、機体側方を向くことなく機体外側方に回動させた散布装置(10)を確認できるので、散布装置(10)の作業高さを適切に保つことができ、薬剤を効果的に供給できる。
【0016】
また、機体後部側方、前輪(2)及び散布装置(10)を同時に視界に収めることができるので、作業状況に対応していない箇所を見つけやすく、作業精度の低下が防止される。
【0017】
請求項2の発明により、請求項1の発明の効果に加えて、薬液タンク(9)により死角となる箇所を撮影装置(205)で撮影して搭乗部(200)の後方表示部材(204)で確認できるので、機体後方の状況に合わせた適切な作業を行うことができる。
【0018】
請求項3の発明により、請求項2の発明の効果に加えて、後方表示部材(204)を鏡面とすることにより、撮影装置(205)で撮影される箇所とは異なる機体後方の状況が確認しやすくなり、後進走行等を行いやすくなる。
【0019】
請求項4の発明により、請求項3の発明の効果に加えて、動作検出部材(206)で作業者の動作を検出することで後方表示部材(204)の表示を切り替えることができるので、作業者が後方表示部材(204)に触れる必要が無く、作業者の手の汚れが後方表示部材(204)に付着して視認性を低下させることが防止される。
【0020】
請求項5の発明により、請求項1から4のいずれか1項の発明の効果に加えて、薬液タンク(9)の薬液の残量と走行車体(1)の傾斜方向から、機体前後方向の重量バランスから走行に支障を来し得るかどうかを判断できるので、無理な走行が防止され、作業時間の増加や機体の破損の発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明における実施の形態にかかる作業車両の側面図
【
図2】同作業車両のミッションケースを前方からみた斜視図
【
図3】同作業車両のミッションケースを後方からみた斜視図
【
図4】同作業車両のミッションケースを後方下側からみた斜視図
【
図7】同ミッションケースの前側ケースを前方から見た斜視図
【
図8】同ミッションケースの前側ケースを内側から見た斜視図
【
図9】同ミッションケースの中央ケースを前方から見た斜視図
【
図10】同ミッションケースの中央ケースを後方から見た斜視図
【
図11】同ミッションケースの後側ケースを内側から見た斜視図
【
図12】同ミッションケースの後側ケースを後方から見た斜視図
【
図13】本発明における実施の形態にかかるクラッチのプレートの正面図
【
図15】(a)FWS時の前輪操舵を示す平面図 (b)RWS時の後輪操舵を示す平面図 (c)4WS時の前輪及び後輪操舵を示す平面図
【
図16】各制御に関連するセンサ類及び対応する作動装置のブロック図
【
図17】(a)FWSまたはRWS時の前輪または後輪の操舵状態の表示画面を示す模式図 (b)4WS時の前輪及び後輪の操舵状態の表示画面を示す模式図
【
図18】ガイドアイコンを含めた表示装置の表示内容を示す模式図
【
図19】前輪及び後輪の操舵状態を示すアイコンの点灯制御を示すフローチャート
【
図20】前輪及び後輪が側方の防除ブームに接触し得る状態における報知制御を示すフローチャート
【
図21】前輪及び後輪が側方の防除ブームに接触し得る状態におけるフロントブーム及び防除ブームの退避制御を示すフローチャート
【
図22】回動可能なブーム受けを備える作業車両の正面図
【
図23】回動可能なブーム受けと延長ステップを備える作業車両の平面図
【
図24】薬液タンク内の残量が所定値未満になったときの噴霧ポンプ空運転防止に関する報知制御を示すフローチャート
【
図25】薬液タンク内の残量が所定値未満になったときの噴霧ポンプ停止制御を示すフローチャート
【
図26】下降時にアキュムレータで油圧を蓄圧し上昇時の油圧上昇を補助する油圧回路図
【
図27】セーフティランプとバックアップランプを備える表示装置を示す模式図
【
図28】キャビン及び各ミラーを備える作業車両の側面図
【
図29】キャビン内から見た各ミラーの配置を示す模式図
【
図30】キャビンのバイザに上下左右方向に撮影位置を移動可能にカメラを装着した状態を示す背面図
【
図31】(a)デジタルミラーにカメラが撮影した映像を表示した状態を示す模式図 (b)デジタルミラーを鏡面化させて機体後方を写した状態を示す模式図
【
図32】(a)ジェスチャーセンサによりデジタルミラーの明度を上げた状態を示す模式図 (b)ジェスチャーセンサによりデジタルミラーの明度を下げた状態を示す模式図
【
図33】薬液タンクの残量と機体の前後傾斜に基づき走行が困難になる状況であると報知する制御を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明における実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の実施の態様では、作業車両として、農業用の薬液を散布する防除用の作業車両を例にして説明を行う。
【0023】
図1は、作業車両1の略左側面図である。本明細書においては、作業車両1の車両の進行方向となる側を前方、その反対側を後方、進行方向の左手側を左方、進行方向の右手側を右方とする。
【0024】
図1に示されるように、作業車両1は、防除用の薬液を散布する車両であり、前輪2と後輪3とを備え、走行車体1’の前側に設けられたボンネット4により、エンジン(図示せず)が覆われている。ボンネット4の後方には、操縦部5が設けられており、操縦部5には、ステアリングハンドル6と、座席8が設けられている。
【0025】
座席8の後方には、薬液を収容する薬液タンク9が取り外し可能に搭載されている。また、作業車両1は、車両の進行方向の正逆および速度を調節可能な機構である油圧式無段変速装置(HST)と、エンジンの始動を規制するエンジン始動規制装置とを備えている。
【0026】
また、作業車両1の車体前部の左右両側には、左右方向に突出した支持ブラケット12aが設けられており、左右の支持ブラケット12aには、それぞれ上下のリンク体により構成された昇降リンク12が回動可能に支持されている。昇降リンク12の上下のリンク体は、互いに連動するように構成されており、昇降リンク12のリンク体下段には、伸縮自在な昇降シリンダ13が、昇降リンク12のリンク体下段と支持ブラケット12aとを接続させるように設けられているので、昇降シリンダ13を伸縮させることで昇降リンク12を上下方向に搖動させることができる。
【0027】
また、昇降リンク12はボンネット4の前方の位置にまで延びており、昇降リンク12の前端部には、前部フレーム11が、左右の昇降リンク12を連結するように取り付けられている。したがって、左右の昇降シリンダ13を同時に伸縮させることによって、上下動する左右の昇降リンク12を介して、前部フレーム11を昇降させることができる。
【0028】
前部フレーム11の両端には、作業装置の一例としての、薬液を散布する左右一対の防除ブーム10が、上下方向を軸として回動可能に取り付けられており、左右の防除ブーム10それぞれについて、左右方向に個別に展開および折り畳みができるようにするブーム切換シリンダが設けられている。防除ブーム10には複数のノズル10aが、前部フレーム11には複数のノズルを備えるフロントブーム11aが、それぞれ取り付けられており、各防除ブーム10のノズル10aおよびフロントブーム11aの各ノズルは、薬液タンク9から薬液の供給を受け、薬液を噴霧状にして散布することができるように構成されている。なお、
図1では、右側の防除ブーム10は図から省略されている。
【0029】
防除ブーム10を折り畳み、車体に沿わせた状態を収納姿勢と呼び、防除ブーム10を展開して左右に延ばした状態を薬液散布姿勢と呼ぶ。収納姿勢のときは、防除ブーム10を作業車両1の左右両側に設けられたブーム受け15に載置することで、防除ブーム10が車体の後方斜め上に向かった状態を保持することができる。
【0030】
図2は、本実施の形態の作業車両に搭載されたミッションケース20の前方から後方を見た斜視図、
図3はこのミッションケース20を後方から前方を見た斜視図、
図4は
図3のミッションケース20を底面側から見た斜視図である。
【0031】
これら、
図2、
図3、
図4において、21は前側ケース、22は中央ケース、22aは中央ケース22の底面、23は後側ケースである。さらに、24はエンジンからの伝動力の入力軸であり、25,26は第1、第2の油圧ポンプである。また、27は後述するクラッチを入り切りするための軸、28は後部の昇降バルブ、29は前輪2の走行出力軸である。また、30は油圧式無段変速装置(HST)、31はクラッチ潤滑孔である。また、32はブームスプレイヤー等の作業装置用のPTO軸、33は、後述するライブPTO出力軸(増設伝動軸)、34は車速センサ、35はドレイン、36は副変速軸、37はブリーザ、38は後輪3を駆動させる駆動力を伝動する走行出力軸である。
【0032】
さらに、ミッションケース20の中は
図5、
図6に示すような構造を持っている。
図5は全体の略示断面図、
図6はクラッチ55を中心とする拡大図である。
【0033】
まず、前側ケース21を中心に説明する。
図7は前側ケース21を前側から見た斜視図であり、
図8は前側ケース21を後側から見た斜視図である。ここで、
図7、
図8においては軸受けのボールベアリングは省略されている。入力軸24は入力軸受け21aに保持されている。その入力軸24の後端にはギヤ40が連結されている。そのギヤ40にはクラッチ駆動軸42に固定されたギヤ41が噛合している。このクラッチ駆動軸42の前端は前側ケース21に形成されているクラッチ前側軸受け43に支持されている。ここに55はクラッチである。
【0034】
さらに、ギヤ41はその下方に位置するギヤ44に噛合しており、このギヤ44は第1油圧ポンプ25を駆動するギヤポンプ駆動軸45に固定され、このギヤポンプ駆動軸45の軸受けであるギヤポンプ軸受け46は前側ケース21に形成されている。
【0035】
他方、ギヤ40の上方には、軸48に取り付けられたギヤ47が噛合しており、この軸48の先端は前側ケース21に形成されている軸受け49によって支持されている。さらに、その軸48の後端は、中央ケース22側に取り付けられている軸受け板部50の一部に設けられた軸受け50aによって支持されている。その軸48の中央付近にはギヤ51が取り付けられ、そのギヤ51にギヤ52が噛合しており、そのギヤ52は上述したライブPTO出力軸33に固定されている。このライブPTO出力軸33の前端は前側ケース21に形成された軸受け54に支持されており、その後端は軸受け板部50に形成されている軸受け50bに軸支されるとともに、後方へ突出してライブPTO出力軸として利用可能となっている。
【0036】
ここで、入力軸24からエンジンの駆動力が入力されると、ギヤ40が回転する。その回転によって噛合しているギヤ47が回転し軸48が回転する。軸48の回転によってギヤ51が回転して、噛み合っているギヤ52が回転する。
【0037】
その結果、ギヤ52に固定されているライブPTO出力軸33が回転し、外部へエンジンからの駆動力が取り出される。この駆動力はクラッチ55より上流側(上手)から駆動力を取り出しているので、クラッチ55の入り切りに左右されず、エンジンが起動している間は駆動力を取り出すことが出来る。
【0038】
また、ギヤ40にはさらにギヤ41に噛み合っており、このギヤ41はクラッチ駆動軸42に固定されているので、入力軸24からエンジンの駆動力はこのクラッチ駆動軸42にも伝達されている。クラッチ駆動軸42はクラッチ55に連結されている。従って、クラッチ駆動軸42に伝えられた駆動力はクラッチ55の入り切りで左右される。
【0039】
さらに、ギヤ41にはギヤ44が噛み合っており、ギヤ44が固定されているギヤポンプ駆動軸45にも入力軸24からエンジンの駆動力が伝わる。このギヤポンプ駆動軸45の回転によって、第1油圧ポンプ25が駆動されることになる。第1油圧ポンプ25によって作業油圧系統へ油が圧送される。なお、前側ケース21に取り付けられる第2油圧ポンプ26も同様の機構で駆動される。
【0040】
次に、中央ケース22と後側ケース23について説明する。中央ケース22は
図9、
図10に示すように、周辺に前側ケース21と後側ケース23とボルト機構で取り外し可能になっている。
図5に示すように、Aは前側ケース21と中央ケース22との境界面を、Bは中央ケース22と後側ケース23との境界面を示す。また、中央ケース22は、作業車両1の走行車体1’のフレームに連結部53で固定されている(
図10参照)。なお、
図11は後側ケース23を内側からみた斜視図、
図12は後方外側から見た斜視図である。
【0041】
その中央ケース22の内部には、前側の位置に上述した軸受け板部50が、また中央位置にクラッチ軸受け板部57がそれぞれ形成されている。
【0042】
前側の軸受け板部50とクラッチ軸受け板部57の間には、クラッチ55が配置され、クラッチ駆動軸42はクラッチ55を介してクラッチ軸受け板部57の軸受け部60に軸支されている。さらに、このクラッチ駆動軸42の後方部はその軸受け部60の孔61(
図10参照)を貫通して、後側ケース23のクラッチ駆動軸軸受け62で軸支されている。
【0043】
なお、HST駆動軸については後側ケース23に支持されているので、後側ケース23で片持ちされるか、あるいはHSTそのものに固定される。
【0044】
また、ドライブシャフトは前後に長いので、前側ケース21、中央ケース22、及び後側ケース23で支持される。
【0045】
さらに、
図5に示すように、クラッチ駆動軸42には変速ギヤ70が固定されており、その変速ギヤ70は作業装置用PTO軸32のシャフトにフリーに回転可能に取り付けられたギヤ71(遊嵌ギヤ)に噛み合っている。
【0046】
このギヤ71の回転は後述するような機構によって、クラッチ駆動軸42の回転がそのPTO軸32に伝達される。従って、この作業装置用PTO軸32の回転は、クラッチ55の入り切りで左右される。なお、32aは後側ケース23に設けられたPTO軸受けである。
【0047】
他方、クラッチ駆動軸42にはさらにギヤ63が取り付けられており、そのギヤ63はHST入力用ギヤ64に噛み合っている。また、HST出力用ギヤ65は3つのギヤ機構66,67,68を介して、前輪の走行出力軸29と、後輪の走行出力軸38に連結している。
図7において29aは前輪の走行出力軸29の軸受けである。従って、HST30で変速された出力が走行出力軸29、38へ伝達されていく。ここに、30aはHST入力側部であり、30bはHST出力側部である。また、72,73はそれぞれHST入力軸受け、HST出力軸受けである。
【0048】
このように、ミッションケース20を前、中央、後の部分に分割し、中央ケース22を作業車両1の走行車体1’のフレームに固定した(連結部53)ことにより、ミッションケース20全体を機体から降ろすことなくケース内のメンテナンス作業ができる構成となる。
【0049】
次に、本実施の形態におけるクラッチ55はいわゆる乾式ではなく湿式構造となっている。すなわち、
図5、
図6に示すように、クラッチ駆動軸42は前側ケース21と後側ケース23で両方の端部が軸支(43、62)されており、軸と支持部に油路が形成されている。潤滑油はクラッチ潤滑孔31から供給される。その潤滑油は防除機の油圧の戻り(作業油圧系統)をクラッチ駆動軸42の油路に戻す。
【0050】
クラッチ55は、クラッチケース55aに複数のクラッチプレート55bを内装すると共に、クラッチケース55aをクラッチ駆動軸42に設けて構成している。さらに、クラッチ駆動軸42は作動油の流路を有し、クラッチプレート55bの内周側に作動油を供給できる。さらに、クラッチケース55aには、クラッチケース55a内に入り込んだ作動油を油圧回路に戻す戻し孔部が形成されている。なお、
図13はクラッチプレート55bであって、矢印Cに示すように、内周から外周に向けて連通穴92を形成している。
【0051】
クラッチ55はこのような構造であるので、クラッチ駆動軸の流路からクラッチケース55a内に作動油を供給することにより、クラッチプレート55bが焼き付いて動かなくなることを防止できるので、走行伝動及び作業伝動を確実に入切できる。
【0052】
さらにまた、クラッチケース55aに戻し孔部を形成したことにより、クラッチケース55a内に入り込ませた作動油をミッションケース20内に戻すことができるので、内圧の上昇や、作動油の不足が防止される。
【0053】
また、連通穴92を形成したことにより、クラッチプレート55bとクラッチケース55aの間に入り込んだ作動油をクラッチケース55a外に移動させることができるので、流路に戻らなくなった作動油が古くなることで問題を発生させることが防止される。
【0054】
言い換えると、連通孔92をクラッチプレート55bに外周縁部に向かって一か所、または複数個所に貫通させて形成しているので、ミッションケース20内に貯まっている作動油に浸かっている場合は、その部分から連通穴92の内部に作動油が入り込んでクラッチケース55aの内部に作動油を浸透させることが出来る(特に停止時にその現象が起こる)。また、クラッチ駆動軸42の回転による遠心力により、連通孔92に入り込んでいる作動油をクラッチケース55aの外部に飛散させる場合は、ミッションケース20内に作動油を送り込むことになる。言い換えれば、作動油の内部への進入も外部への放出のいずれも可能な構成としている。
また、
図14はブームスプレイヤー等の作業装置用のPTO軸32を中心とする
図5の一部拡大図である。
【0055】
ここで、上述したように、クラッチ駆動軸42には変速ギヤ70が固定されており、その変速ギヤ70は作業装置用PTO軸32のシャフトにフリーに回転可能に取り付けられたギヤ71(遊嵌ギヤ)に噛み合っている。このギヤ71はカウンター軸76に固定された第1カウンターギヤ75に噛合されている。このカウンター軸76にはもう一つの第2カウンターギヤ77が固定されており、この第2カウンターギヤ77は、PTO軸32の軸に固定されたギヤ78に噛合している。なお、71aは溝付き座金である。
【0056】
従って、クラッチ駆動軸42の回転によってギヤ70が回転し、その回転は遊嵌ギヤのギヤ71に伝わり、ギヤ71の回転は第1カウンターギヤ75に伝わり、その回転はカウンター軸76に伝わり、その回転は第2カウンターギヤ77へ伝わり、その回転はギヤ78に伝わり、その結果、PTO軸32に伝達され回転することになる。
【0057】
他方、90は、作業油圧系統からミッションケース20内に作動油を戻し排出する潤滑送油管である。79は、後側ケース23に設けられた潤滑送油管90の排出口79である。その潤滑送油管90の排出口79は、ミッションケース20の内部の上部側に配置される、作業駆動力の伝動機構よりも上側に配置されている、ここに伝動機構とは作業機構に駆動力を伝動するための機構であって、例えば、PTO軸32であり、本発明の作業伝動軸の一例である。
【0058】
このような構造であることによって、ミッションケース20の上部側から作動油を排出することにより、内部の潤滑油が不足しやすい上部側の伝動機構を確実に潤滑できるので、摩耗や焼き付きが軽減され、ミッションケース20の耐久性の低下が抑えられる。
なお、この場合、ミッションケース20自体がオイルタンクを兼ねていることになる。上述した第1油圧ポンプ25がこのオイルタンクの油を作動油として再び駆動シリンダへ圧送していく。
【0059】
さらに、このPTO軸(作業伝動軸)32には、排出口79から排出される作動油を受けつつ周囲に拡散させる拡散部材が回転可能に装着されている。本発明の拡散部材の一例が上述したフリー回転するギヤ71である。
【0060】
このようなPTO軸32に設けた拡散部材のギヤ71の回転により、作動油を遠心力で広い範囲に拡散させることができるので、いっそう作動油の不足による摩耗や焼き付きが防止される。
【0061】
さらに、この拡散部材であるギヤ71には、作動油が内部に進入可能な通油孔91を形成している。これにより、回転方向以外にも広範囲に作動油を拡散させやすくなる。通油孔91は複数個設けるのが望ましい。例えば、軸周りに90度ずつ4個などである。ギヤ71の内側にも潤滑油が流れ込む効果もある。
【0062】
拡散部材であるギヤ71は一定方向に回転しているので、これだけでは回転する方向にやや偏って作動油が撒かれがちになるが、通油孔911をギヤ71に貫通させて形成しておくことによって、排出口79から内部へ入り込んだ作動油がギヤ71の羽部分(ギヤ歯部分に相当)に弾かれる位置以外において遠心力で放出される構成となり、回転方向の下手側にも作動油が拡散されやすくなる。
【0063】
なお、潤滑送油管90は、ミッションケース20の前側または後側に装着されており、潤滑送油管90の排出口79にはオリフィスが形成され、オリフィスはミッションケース20の内部に臨んでいる。これによって、より遠くへ作動油を飛散させることが出来る。
【0064】
以上のように、防除機からミッションケース20内に戻る油圧の戻り(作業油圧系統)には、クラッチ潤滑孔31からクラッチ55を介して戻る系統と、ミッションケース20の後側ケース23の潤滑送油管90の排出口79から戻る系統があるが、その他に、昇降バルブ、及びロワーリンクシリンダから排出される作動油が、ミッションケースケース20の側面に設けるメインバルブからミッションケース20内に戻る系統もある。
【0065】
図15(c)に示すとおり、前記作業車両1に設ける左右の前輪2,2及び後輪3,3は、圃場端で旋回走行する際の旋回走行に必要なスペースを抑えるべく、ステアリングハンドル6の操舵により左右の前輪2,2と後輪3,3の操舵角が連動して切り替えられる、所謂四輪操舵(4WS)状態に切替可能に構成されている。
【0066】
また、
図15(a)(b)に示すとおり、圃場での作業走行時や路上での走行時には、左右の前輪2,2の操舵角だけを切り替えて自動車と同様の進行方向操作を行わせるべく、四輪操舵から前輪操舵(FWS)に切り替えることが可能であると共に、畝に機体の位置を合わせる際に作物や畝に前輪2,2が接触することを防止すべく、ステアリングハンドル6の操舵操作により後輪3,3の操舵角だけを切り替え可能とする、後輪操舵(RWS)に切替可能とする。
【0067】
上記の4WS、FWS及びRWSの切り替えは、操縦部5に設ける操舵切替スイッチを操作する、あるいは、自動切替モードを作動させ、所定の作動条件を満たすことで行われる。
【0068】
上記の手動、自動の切り替えのいずれにおいても、切替後の予期せぬ走行を防止すると共に、栽培中の作物に接触することを防止すべく、前輪2,2及び後輪3,3は操舵位置の中央位置(中立位置)、言い換えれば前進または後進方向に直進する位置に合わせることが望ましい。
【0069】
しかしながら、乗用管理機での作業を行う圃場では、前輪2,2及び後輪3,3の上下長さよりも作物の茎葉部の丈が長く、座席8に搭乗した作業者は前輪2,2及び後輪3,3の操舵角を目視し辛いことが多い。特に、後輪3,3は薬液タンク9よりも下方に位置するので、いっそう視認が困難である。また、図 に示す、座席8や操縦部5を覆うキャビン200を搭載したものにおいては、作業者が身体を移動させられる範囲が限定されるので、いっそう前輪2,2や後輪3,3の視認性は低下する。
【0070】
これにより、作業者はステアリングハンドル6を左右どちらにどの程度操作すればよいかを判別し辛く、操舵操作に時間を要することになる。また、操舵方向を誤ると、前輪2,2や後輪3,3が栽培中の作物に接触し、作物を傷付けて生育不良や品質の低下をもたらすおそれがある。
【0071】
この問題を解消すべく、
図16に示すとおり、操縦部5、または作業者が視認可能な位置に操舵表示装置100を設け、現在の操舵モードが4WS、FWS、RWSのいずれであるかを検知する操舵検知センサ101を設けると共に、ステアリングハンドル6の操作量と操作方向を検知するハンドルポテンショ102を設ける。
【0072】
走行車体1に設ける制御装置103は、操舵検知センサ101の検知する操舵モードと、ハンドルポテンショ102が検知するステアリングハンドル6の操作量及び操作方向に基づき、操舵表示装置100に現在の前輪2,2及び後輪3,3の切れ方向SWと、大まかな切れ角SAを表示する。
【0073】
なお、切れ方向SW及び切れ角SAの表示は、
図17(a)及び(b)で示すとおり、タイヤの画像を直進や左右方向に傾斜した状態で表示するものとし、作業者が感覚的に前輪2,2及び後輪3,3の状態を把握し、ステアリングハンドル6の操作すべき方向及び操作量を考えやすくすることが望ましいが、
図18で示すとおり、切れ方向SWを「右」「左」「中央(直進)」と文字で表示すると共に、切れ角度SAを数値で表示してもよい。使用者によっては、文字列や数値の方がステアリングハンドル6の操作すべき方向及び操作量を考えやすい可能性もあるので、操舵表示装置100の表示内容を作業者が変更可能に構成してもよい。
【0074】
また、前輪2,2及び後輪3,3が直進位置になく、右側か左側に回動していると判断される切れ角度SAであるときは、作業者がステアリングハンドル6を左右どちら側に操舵操作すべきであるかを、文字や矢印等のガイドアイコンSIとして表示させてもよい。
【0075】
また、操舵表示装置100は、操舵検知センサ101の検知に基づき、現在の操舵モードが4WS、FWS、RWSのいずれであるかについても表示させてもよい。
【0076】
この操舵表示装置100は、操縦部5に埋め込む、あるいは着脱可能に設けるものが望ましいが、タブレット等の通信が可能な情報端末とペアリングし、インストールされたアプリケーションを用いて前輪2,2及び後輪3,3の切れ方向SWや切れ角SAを逐次表示するものとしてもよい。このとき、走行車体1には、座席8に搭乗した作業者が情報端末を視認しやすい位置に載置する、端末載置台(図示省略)を設けることが望ましい。
【0077】
あるいは、スマートグラスや網膜投影型ディスプレイ等、作業者が身に着けるウェアラブル端末に上記の情報端末と同じアプリケーションをインストールし、操舵表示装置100を構成してもよい。
【0078】
以下、操舵モードの切り替えパターンについて説明する。
【0079】
図19に示すとおり、操舵検知センサ101がFWSを検知しているときは、制御装置103は、ハンドルポテンショ102の検出値に基づき、ステアリングハンドル6の操作量と操作方向を算出し、前輪2,2の切れ状態を操舵表示装置100に表示させる。
【0080】
このとき、ハンドルポテンショ102の検出値が直進位置、即ち0から正負の方向に所定の範囲内(0±所定値)であるときは、前輪2,2が左右方向に切れていないことを示すアイコンが表示される。なお、同時に操舵モードの切り替えが可能である表示(『切替OK』等)を操舵表示装置100に示してもよい。上記の条件を満たさないときには、作業者が操舵切替スイッチを押しても操舵モードが切り替わらない制御構成とすると、前輪2,2及び後輪3,3が作物に接触して傷つけることが防止される。
【0081】
一方、ハンドルポテンショ102の検出値が左右どちらかに切られた状態を示すものであるときは、ステアリングハンドル6の操作に連動した切れ状態の前輪2,2を操舵表示装置100に示す。この傾斜した前輪2,2の表示は、複数の傾斜角度の異なるものの中から一つが、ハンドルポテンショ102の検出値に合わせて近似するものが選ばれる構成とすると、操舵量の大小を作業者が把握しやすくなる。
【0082】
上記は操舵モードがFWSであるときであり、操舵モードがRWSであるときは、前輪2,2が後輪3,3に置き換わる。なお、FWSにおける後輪3,3、及びRWSにおける前輪2,2は、操舵表示装置100に表示しないか、あるいは常に直進位置に表示されるものとする。
【0083】
一方、4WSであるときは、前輪2,2及び後輪3,3の両方が同時に表示されるものとし、ハンドルポテンショ102の検出値に合わせて傾斜角度の異なる前輪2,2及び後輪3,3が表示されるものとする。
【0084】
なお、4WSにおいては、前輪2,2と後輪3,3は、ステアリングハンドル6を操作すると、一方の切れ角SAが正方向に大きくなると共に他方の切れ角SAは負方向に大きくなる構成であり、直進位置でのみ前後共に0となる。なお、直進位置以外での切れ角SAの絶対値は略同一である。
【0085】
上記構成により、前輪2,2または後輪3,3、あるいは両方を視認しなくても、操舵表示装置100を見てステアリングハンドル6を操作する方向と操作量を考えることができるので、作業者が作業を中断して前輪2,2及び後輪3,3を視認する必要が無く、操舵モードの切り替え時に余分な時間を費やすことが防止される。
【0086】
また、誤った方向にステアリングハンドル6を操舵操作することを防止できるので、前輪2,2や後輪3,3が作物に接触して傷つき、生育不良や品質の低下が生じることが防止される。
【0087】
本件の乗用管理機は、走行車体1の前側に配置されるフロントブーム11aと、左右の防除ブーム10から薬剤を散布するものであり、フロントブーム11aは上下高さを調節可能であり、左右の防除ブーム10はフロントブーム11aの左右両側付近を基部として上下回動及び左右回動可能である。
【0088】
これにより、作物の種類や生育状況等の作業条件に合わせてフロントブーム11aを上下動させて薬剤の散布高さを調節し、作物に適量の薬剤を供給することが可能になり、薬剤不足により病害虫の影響を受け、収穫量が減少することや作物の商品価値が低下することが防止される。
【0089】
上記の薬剤不足は、フロントブーム11a及び左右の防除ブーム10と作物の上下間隔が広過ぎ、風の影響を受けることで薬剤が散布されない領域が生じることにより発生する問題である。一方、風の影響を抑えるべく上下間隔を狭め過ぎると、薬剤が偏って散布され(例:茎葉部に薬剤の大部分が受けられ、周辺の地面に殆ど薬剤が散布されない)、薬剤の効果が及びにくい箇所で病害虫が発生することになり、収穫量の減少や商品価値の低下といった問題が生じる。
【0090】
この問題に対応すべく、上述のとおりフロントブーム11a及び左右のサイドブーム10の上下位置調節を適切に行うことにより、薬剤をできるだけ偏りなく散布する必要がある。
【0091】
大根や人参等の地下茎作物といった、茎葉部の丈が比較的短い作物に薬剤を散布する際は、フロントブーム11aを大幅に下方移動させる必要があり、このとき、フロントブーム11a及び防除ブーム10は前輪2及び後輪3の上下幅内に位置することになる。左右の防除ブーム10を機体両側に拡げた状態、即ちフロントブーム11aの左右に直線状に並ぶ状態においては、上下位置調節を間違えていなければ問題は生じないが、圃場端付近、特に片方の防除ブーム10がそのままの姿勢では圃場外に突出するときに、片方のブームを機体後方に向けて回動させ、走行車体1に略平行な姿勢とすると、次の問題が生じるおそれがある。
【0092】
走行車体1と略平行な姿勢とした防除ブーム10は、前輪2及び後輪3の回動範囲内に位置するので、前輪2及び後輪3の上下幅内において側方に位置していると、前輪2または後輪3が回動操作された際に接触して破損するおそれがある。作業条の終端でフロントブーム11aを上昇させながら旋回走行しているときに、この問題は生じやすい。
【0093】
この問題の発生を防止すべく、
図1、
図16及び
図20に示すとおり、フロントブーム11aの上下動リンク104に上下リンクセンサ105を設けてフロントブーム11aの上下高さを検出可能とすると共に、左右の防除ブーム10の機体上下方向の前後回動軸(図示省略)にブームポテンショ106を各々設け、防除ブーム10の前後位置を検出可能とする。
【0094】
そして、制御装置103は、上下リンクセンサ105の検出値からフロントブーム11aが所定高さ未満にあり、且つブームポテンショ106の検出値から防除ブーム10が走行車体1の側方に略平行に位置する状態であると判定すると、ステアリングハンドル6の操舵操作によりハンドルポテンショ102が操舵角の変化を検出した際に、ブザー107aやランプ107b等の報知装置107を作動させ、操舵操作される前輪2や後輪3が側方の防除ブーム10に接触して破損させるおそれがある状態であることを作業者に報知する。この報知装置107は、操縦部5や、着脱可能なタブレット等の情報端末、ウェアラブル端末のいずれか、複数のうち一部のもの、あるいは全てに設ける。
【0095】
これにより、前輪2及び後輪3の上下幅内に防除ブーム10が位置する状態で旋回走行を行い、防除ブーム10を曲げたり折ったりすることが防止されるので、作業が中断させることが防止されると共に、防除ブーム10の交換に要する時間や労力や費用の発生が防止される。
【0096】
なお、上下リンクセンサ105が検出する上下高さが所定高さ未満になると、防除ブーム10の位置に関係なくランプ107bが点灯される、あるいは警告アイコン(図示省略)が表示され、防除ブーム10が前輪2及び後輪3の上下幅内に位置し得る状態であることを先行して作業者に報知する構成としてもよい。
【0097】
これにより、作業者は防除ブーム10が操作次第で破損するおそれがある高さにあることを認識できるので、防除ブーム10が破損する可能性を一層低下させることができる。
【0098】
上記の防除ブーム10は、機体左右方向(機体前後方向)の回動位置が走行車体1に最も接近する位置であっても、上方に回動させて圃場面に対して垂直、乃至垂直付近の角度まで回動させると、フロントブーム11aの上下位置にかかわらず、後輪3,3は勿論、前輪2,2にも接触しなくなる。したがって、防除ブーム10の上下方向の回動量を検出する上下回動センサ(図示省略)を設け、検出される上下方向の回動量が所定角度以上であれば、報知装置107を作動させない構成としてもよい。
【0099】
なお、ブザー107aは、ブームポテンショ106の検出値が防除ブーム10と前輪2や後輪3と接触し得ないと判断できる値であるときには、ステアリングハンドル6の操作をハンドルポテンショ102が検出しても作動しないものとすると、余分な騒音の発生を防止できる。
【0100】
上記の報知装置107の作動による報知は、作業環境によっては作業者が気付かないことがあり、また、報知により焦って誤操作することにより前輪2や後輪3を継続して回動操作してしまうおそれがあるので、
図21に示すとおり、報知装置107が作動した状態でハンドルポテンショ102の操舵角の変化が検出され続けているときは、送油ポンプ(図示省略)の送油量を増加させ、上下動リンク104の昇降シリンダ108への作動油の供給量を多くし、フロントブーム11aの上昇速度を速くする構成としてもよい。
【0101】
これにより、前輪2や後輪3が回動して防除ブーム10に接触する前に、防除ブーム10を前輪2及び後輪3の上端部よりも上方に退避させることができるので、防除ブーム10の破損が防止される。
【0102】
なお、ステアリングハンドル6の操作に要する力を軽減すべく、油圧式のパワーステアリング機構を備えるものにおいては、パワーステアリング機構への作動油の給排出を停止し、作業者がステアリングハンドル6を操作しにくくしてもよい。
【0103】
上記の防除ブーム10は、作業を行わない際には機体後側に向けて回動させると共に、下方に回動させて収納位置に移動させておく必要があるが、下方に回動させ過ぎると前輪2や後輪3と接触し得る位置に防除ブーム10が位置してしまうので、前述のとおり走行車体1には、所定位置で防除ブーム10に接触し、防除ブーム10を後上がり傾斜姿勢で支持するブーム受け15を左右に各々設けている。
【0104】
これにより、防除ブーム10は前輪2及び後輪3の上端部よりも機体上側に位置するので、旋回走行時等に防除ブーム10に前輪2及び後輪3が接触して破損することが防止される。
【0105】
また、収納位置では防除ブーム10の下部及び左右両側をブーム受け15が包囲するので、走行に伴い防除ブーム10が振動してもブーム受け15から脱落しにくく、長尺な防除ブーム10が揺れて周辺とぶつかり破損することが防止される。
【0106】
乗用管理機は、薬液タンク9、フロントブーム11a、及び左右の防除ブーム10を用いた薬剤の散布作業以外にも用いるものであり、作業内容によっては上記の部材は取り外される。しかしながら、左右のブーム受け15は走行車体1から機体側方に突出する姿勢で組み付けられており、他の作業に用いる部材を装着するときに干渉する、あるいは着脱作業を妨げる問題がある。強度を確保すべく走行車体1に強固に組み付けているので、ブーム受け15を取り外すことは可能ではあるが、余分な時間と労力を費やす必要がある。
【0107】
なお、ブーム受け15は、機体外側端部で上方に屈曲させ、この上端部に防除ブーム10を受ける正背面視でコの字形状の受け部を有している。
【0108】
この問題を解消すべく、
図22に示すとおり、ブーム受け15を機体左右方向に伸びる回動ボス15aに側面視で前後回動可能に装着する。
【0109】
これにより、不要な時はブーム受け15を機体前側または機体後側に、例えば90度回動させることで上方への突出を抑えることができ、他の作業部材の装着の妨げとなることや、動作に干渉することが防止される。
【0110】
なお、フロントブーム11a及び左右の防除ブーム10を取り外した状態では、左右のブーム受け15の前方は開放されているので、左右のブーム受け15は少なくとも機体前方には90度程度の回動量を確保できる。この空間部を有効に活用し、地面から離間した位置で作業者が移動や作業を行いやすくすべく、ブーム受け15の外側端部よりも機体内側に位置する空間部に、板状の延長ステップ109を装着する。
【0111】
該延長ステップ109は、作業者及び資材から受ける重量に対する強度を確保すべく、厚みのある金属板や、薄い金属板を複数組み合わせて板状に形成する、あるいは、金属板を格子状に切り抜く、枠の内部に複数の棒材を交差させて格子状に形成することが望ましい。
【0112】
また、強度を重要視するのであれば、延長ステップ109はブーム受け15に溶接で取り付けるが、着脱可能として不要な際には別の場所に移しておける構成とすると、利便性が向上する。
【0113】
なお、着脱式の場合は延長ステップ109の形状はブーム受け15に装着可能なものとすればよいが、溶接するときは、防除ブーム10がコの字形状の受け部に到達する前に接触することを防止すべく、延長ステップ109の上下長さは受け部よりも下側までに留めるものとする。
【0114】
これにより、作業者は延長ステップ109に乗って作業ができるので、走行車体1の上側に位置するボンネット4の内部により近づいてメンテナンス等の作業を行うことができるので、作業能率が向上する。
【0115】
前記薬液タンク9に貯留された薬液は、ライブPTO出力軸33によりクラッチ55の入切にかかわらず作動可能な噴霧ポンプ9aによりフロントブーム11a及び左右の防除ブーム10に送られて圃場に散布される構成であるが、薬液タンク9に貯留されていた薬液が使い尽くされたことに作業者が気付かず作動させ続けると、空運転を行うことになる。
【0116】
薬液を送り出している間は、この薬液が冷却剤となって噴霧ポンプ9aの作動による摩擦熱を抑制しているが、薬液が無くなると加熱されていき、軸受け等の構成部品が破損するおそれがある。
【0117】
また、空運転が続いたあと、冷却時間を取らずに薬液を薬液タンク9に投入し、薬剤の散布作業を開始すると、噴霧ポンプ9aが薬液によって急激に冷却され、噴霧ポンプ9aの構造材が劣化して耐久性が低下したり、ひび割れが生じて破損したりする、ヒートショックが生じ得る。
【0118】
この問題を防止すべく、
図16及び
図24に示すとおり、薬液タンク9の内部に薬液の残量が一定未満になったことを検知する薬液残量センサ111を設けると共に、ライブPTO出力軸33の回転を検知する回転センサ112を設ける。
【0119】
そして、制御装置103は、薬液残量センサ111が薬液切れ、あるいは薬液の残量が僅少であることを検出している状態で、回転センサ112がライブPTO出力軸33の回転を検出しているときは、報知装置107を作動させて噴霧ポンプ9aが空運転状態であることを作業者に報知する構成とする。
【0120】
これにより、噴霧ポンプ9aが空運転になり得る状況であることを作業者に早期に認識させることができるので、噴霧ポンプ9aの耐久性の低下や破損が防止される。
【0121】
また、薬液が不足したまま走行することで、薬液が散布されていない区間が生じることを防止できるので、薬液不足による作物の生育不良や品質の低下が防止される。
【0122】
なお、薬液残量センサ111は、おおよその液体に対して表面付近に浮かぶことができる浮体と、この浮体に連結された吊下げワイヤと、吊下げワイヤが浮体の重量で下方に引っ張られて張り状態になると通電する、あるいは通電が遮断されることで薬液切れ、あるいは僅少範囲まで減少したことを検出する構成とする。そして、この薬液残量センサ111は、薬液タンク9の内壁または着脱可能な蓋部から薬液タンク9の底部に向けて吊り下げる構成とする。
【0123】
これにより、薬液が十分あるうちは浮体が薬液の表面付近に浮いて吊下げワイヤを弛ませるので、薬液切れは検出されない。一方、薬液の残量が極僅か、あるいは完全になくなると、浮体の重量により吊下げワイヤが下方に引っ張られ、通電可能、または通電停止となることで薬液切れ、または減少を検出することができる。
【0124】
但し、薬液の散布作業を止めている、即ちライブPTO出力軸33への伝動を遮断し、噴霧ポンプ9aが動いていなければ、空運転による破損や加熱は発生しないので、回転センサ112がライブPTO出力軸33の回転を検出したときのみ報知することで、非作業時の移動中にもかかわらず報知装置107が作動し続けることを防止でき、騒音問題を起こすことが防止される。
【0125】
なお、
図16及び
図25に示すとおり、ライブPTO出力軸33と噴霧ポンプ9aの間に噴霧クラッチ120を設け、この噴霧クラッチ120を入切する噴霧ソレノイド121を設けて、薬液残量センサ111と回転センサ112が共に検出状態になると、噴霧ソレノイド121を作動させて噴霧クラッチ120を作動させ、噴霧ポンプ9aへの伝動を遮断すると共に、報知装置107を作動させて薬液の補充の必要があることを報知する構成としてもよい。
【0126】
この構成であれば、噴霧ポンプ9aが破損することが確実に防止される。なお、ライブPTO出力軸33は元々クラッチ55を遮断した状態でも噴霧ポンプ9aを動作可能とすべく動く構成としているので、空転させても問題は特に生じない。
【0127】
フロントブーム11aや防除ブーム10は、旋回走行時や圃場内の位置、作物の生育状況等に合わせて作業中に上下動させるものであるが、重量や長さの影響で、下降動作に比べて上昇動作に要する時間が長くなる傾向にある。
【0128】
これにより、旋回走行速度を速められず、作業に要する時間が長くなる問題や、作物の丈に合わせて上下間隔を調節する際に上昇が遅れ、薬剤が不均等に供給される問題が生じる。また、障害物を回避させる際に上昇が遅いことで、特に防除ブーム10が障害物と接触し、破損する問題が生じる。
【0129】
この問題を上昇すべく、下降動作時に生じる油圧を蓄積し、上昇時にこの油圧を開放することで、作動油の送油速度を速めて上昇動作にかかる時間を軽減する構成が考えられる。
【0130】
この構成の具体例として、フロントブーム11aを昇降させる防除昇降シリンダ113が伸縮する際に作動油の流量を制御するチェックバルブ114よりも油路上手側において、防除昇降シリンダ113の下降動作時に開状態となって作動油の一部を引き込む蓄圧電磁バルブ115と、蓄圧電磁バルブ115が開状態となって引き込んだ作動油の油圧を保持するアキュムレータ116を設けると共に、防除昇降シリンダ113の上昇動作時に油圧が一定未満になると開状態となり、アキュムレータ116に保持されていた作動油を開放して油路の油圧を上昇させる油圧調整バルブ117を設けるものとする。
【0131】
下降動作時にチェックバルブ114を通過して油路上手側に移動する作動油を、必要な時までアキュムレータ116で留めて蓄圧しておくことにより、上昇動作時が行われた際に油圧の上昇をアキュムレータ116の蓄圧分で速めることができる。
【0132】
したがって、フロントブーム11aや防除ブーム10が素早く上方に移動できるので、作物に対する薬剤の散布高さを適切に保って薬剤の供給の偏りを防止できると共に、障害物を回避させて破損を防止することができる。
【0133】
操縦部5には、走行速度や現在の作業設定、異常の発生などを示すメータパネル5aが設けられており、このメータパネル5aに、
図27に示すとおり、キー入操作後にエンジン出力や油圧系統が安定するまでの間、各装置の操作の受付を拒否するセーフティモードであるかどうかを示すセーフティランプ118と、走行車体1の後部に装着する作業装置(図示省略)を装着した状態で後進操作する際に自動的に所定高さまで作業装置を上昇させ、前進に切り替えると上昇前の作業高さまで自動的に戻させるバックアップモードを使用しているかどうかを示すバックアップランプ9を設ける。
【0134】
セーフティランプ118の点灯の有無により、作業者は機体各部の操作を開始してよいかどうかを視覚的に判断できるので、エンジン出力が走行や各作業装置への伝動に不足が無く、且つ油圧系統が制御設計どおりに作動可能な状態で作業を開始でき、作業能率や作業精度の向上が図られる。
【0135】
なお、セーフティランプ118に相当する部品が従来は無いので、作業者がセーフティモード中に走行操作や各作業装置の操作を行ってしまい、作業装置を適切な高さに位置しないまま作業が開始されたり、走行開始位置から移動できずに重複した作業が行われたりする問題があった。
【0136】
また、油圧系統に余分な負荷がかかり、油圧系統の構成部品の耐久性の低下や破損といった問題もあった。
【0137】
上記のセーフティモードの終了はセーフティランプ118の消灯によるものであり、作業者が見落とす可能性があるので、セーフティランプ118が消灯される際には報知装置107のブザー107bが作動し、音声で報知すると、速やかに作業に移行でき、時間の無駄が抑えられる。
【0138】
バックアップランプ119の点灯の有無により、作業者は後進操作を行う前に走行車体1の後側に装着した作業装置を手動で上昇させる必要があるかどうかを視覚的に判断できるので、バックアップモードへの切り替え忘れや、バックアップモードが使用できない条件下であることを忘れて作業装置が下降したまま後進することを防止できる。
【0139】
これにより、作業装置作業を行った圃場面を荒らしてしまい、再度作業をやり直す必要が無くなると共に、栽培中の作物と接触して作物を傷付けてしまうことが防止される。
【0140】
また、作業装置が作業方向とは反対方向に押し込まれることを防止できるので、作業装置が破損することが防止される。
【0141】
なお、従来構成でもバックアップランプ119に相当する部品は存在するが、操縦座席の左右側方に配置されていたので、操縦しながら確認することが困難であり、バックアップモードを入れ忘れていることに気付けない問題があった。
【0142】
走行車体1の操縦部5及び座席8の周囲にキャビン200を設け、作業者を風雨や日光、散布中の薬剤から保護する乗用管理機が存在する。このキャビン200の機体前側の上部には、キャビン200内の作業者が機体後方の状況や、防除ブーム10の収納状態を確認する範囲を写すバックミラー201,201が装着されている。
【0143】
キャビン200を装着した乗用管理機は、キャビン200の強度を維持するピラー等により、前後四隅に視界を遮る部材が配置されている。また、ピラー等の間にはガラスが設けられているが、このガラスにより作業者は出入口を開けなければ身を乗り出せないので、作業中に前輪2,2の切れ角を確認することが困難である。
【0144】
また、作業中の防除ブーム10は機体左右外側に向かう姿勢になるので、作業者が防除ブーム10の端部側を視認するときは視線が側方に集中しやすく、機体前側や後側の確認がおろそかになり、問題の発生に気付きにくくなる。
【0145】
こうした作業時の死角を減らすべく、
図28、
図29に示すとおり、左右のバックミラー201,201の下部に、前輪2,2を写し込む前輪ミラー202,202を、ボールジョイントを介して角度調節可能に設ける。この前輪ミラー202は、作業者が前輪2,2の切れ角を判断しやすい姿勢に調節するものとする。
【0146】
これにより、作業者はキャビン200内の座席8に搭乗したまま前輪2,2の切れ角を目視することができるので、前輪2,2が作物に接触し得る切れ角であるときに速やかにステアリングハンドル6を操作して進路を修正でき、作物が傷付き生育不良や商品価値の低下が生じることが防止される。
【0147】
また、バックミラー201の下方に前輪ミラー202を設けたことにより、機体後方の状況と前輪2の切れ角を同時に視認できるので、一方に気を取られて他方の問題を見落とすことが防止される。
【0148】
上記構成に加えて、フロントブーム11aの左右端部に防除ブーム10を装着する回動ヒンジ11bの上部には、機体外側に向けて回動させた防除ブーム10を写すブームミラー203を各々角度調節可能に設ける。
【0149】
これにより、作業者は作業中の防除ブーム10の端部側を、前方を向いたまま視認することができるので、防除ブーム10が薬剤の散布作業に適した高さであるかどうかを速やかに確認できる。これにより、薬剤が高所から散布され、風の影響で偏った供給となることが防止されると共に、防除ブーム10が低過ぎる位置にあり、接触した作物を傷付けることが防止される。
【0150】
また、作業者が機体側方に視線を集中させる必要が無くなるので、進路の乱れや問題の発生に気付きやすくなり、薬剤の散布精度の向上や、作物を傷付けることが防止される。
【0151】
なお、フロントブーム11aの上下高さの変更は平行リンクで行われるので、回動ヒンジ11b上に設けるブームミラー203の角度は上下位置の変更に関係せず、高さ調節の度にブームミラー203の角度調節の必要が無い。
【0152】
しかしながら、この配置構成としても、機体後方は薬液タンク9等に遮られるので、視認できる範囲が限られる。
【0153】
機体後方を視認しやすくすべく、キャビン200の内部で、且つ機体前側の上部には、液晶パネル等で構成され、カメラ205による撮影画像を表示可能なデジタルミラー204を装着する。
【0154】
このカメラ205は、
図30、
図31(a)に示すとおり、キャビン200の上部に設ける屋根部材、即ちバイザ200aの上下幅内に取付空間部を形成し、この取付空間部内に上下及び左右方向に撮影範囲を移動可能に設けるものとする。また、カメラ205の撮影した映像や画像データをデジタルミラー204に送るケーブル(図示省略)についても、バイザ200aの内部を通過させてキャビン200内に引き込む構成とする。
【0155】
なお、薬液タンク9はキャビン200の左右幅と同程度の左右幅を有するものであるので、カメラ205の撮影範囲は少なくとも左右方向に広角なものとすると共に、デジタルミラー204は左右幅の長いアスペクト比のものを用いると、一画面に機体後方の状態を表示しやすい。
【0156】
また、
図31(b)に示すとおり、デジタルミラー204はオフにする、あるいは表示の切り替えにより鏡と同様に反射した像を写す状態にできるものとし、ルームミラーとして活用可能にしてもよい。その際、デジタルミラー204の装着位置は、薬液タンク9の後部と後輪3,3が写される高さとするとよい。
【0157】
これにより、走行車体1の後側の、薬液タンク9により視界が塞がれている範囲を作業者が前を向いたまま視認できるので、薬剤の散布作業により栽培中の作物に異常を発生させているかどうかや、後輪3,3の切れ角度の適切な調節が可能になる。
【0158】
また、後方を振り向く必要が無いので、進行方向のズレや操作ミスの発生が生じにくく、作業性の向上が図られる。
【0159】
薬剤の散布作業を含めた圃場内の作業では、土や薬液等が作業者の手に付着する機会が多く、カメラ205の映像を映す状態とルームミラー状態を切り替える等でデジタルミラー204に触れると汚れで表示面の一部の視認性を低下させることになる。
【0160】
この問題を防止すべく、
図30及び
図31に示すとおり、デジタルミラー204の側部または下部に、作業者が手や腕を通過させる方向に基づき、カメラ205の撮影した映像を映す状態とルームミラー状態を切り替えるジェスチャーセンサ206を設ける。このジェスチャーセンサ206は、作業者の手や腕の移動する方向、例えば右から左、左から右、を座標の変化から判断可能なものとする。
【0161】
例えば、デジタルミラー204はキーオンに伴い起動するとカメラ205の映像を映す状態となるものとし、ジェスチャーセンサ206から下方または側方に離間した位置で手や腕を一方向に動かすと、ルームミラー状態に切り替わるものとする。そして、デジタルミラー204がルームミラー状態であるときに手や腕を反対方向に動かすと、カメラ205の映像を映す状態となる制御構成が考えられる。
【0162】
これにより、作業者はデジタルミラー204に触れることなく状態を切り替えることができるので、デジタルミラー204の表示面が汚れて視認性が低下することが防止される。
【0163】
なお、ジェスチャーセンサ206が故障したときのことを想定して、表示状態を切り替えるスイッチ(図示省略)をデジタルミラー204に設けてもよい。
【0164】
より多くの操作を割り当てる場合、デジタルミラー204が映像または画像を写す状態と、ルームミラー状態の切り替えとする動作を、作業者の手や腕の右から左への動きとし、交互に繰り返すものとしてもよい。
【0165】
そして、左から右への動きを、例えば、
図32(a)(b)に示すとおり、作業時間帯や天候に合わせてデジタルミラー204の明度を、明から暗、暗から明に切り替えるものとしてもよい。これにより、日照により明るい時間帯には明度を下げ、曇天や夕方または早朝の作業時には明度を上げることで、写っているものを正確に判別でき、作業能率の向上や問題の発生に早期に対応することが可能になる。
【0166】
また、作業者の腕の前から後、後から前への動作を、カメラ205の上下角度の操作に割り当て、機体の前後傾斜等により撮影される映像または画像が後方の確認に不適当となったときに、撮影範囲を容易に変更することが可能になる。さらには、左右方向の手または腕の動作が、カメラ205の左右方向への撮影範囲の変更を可能としてもよい。
【0167】
上記にて、薬液タンク9内の薬液が不足した際に噴霧ポンプ9aが破損し得るおそれがあることを述べたが、この問題は薬剤の散布作業中に生じるものであり、薬剤の散布作業を行わない際に生じ得る問題が別途存在する。
【0168】
薬液タンク9の容量は数百リットルに及ぶものであることが多く、薬液を使用して減少するにつれ、機体の前後バランスが大きく変動することになる。平地においては、機体前側のフロントブーム11a等の重量がかかることで問題は生じにくいが、圃場は基本的に出入口が傾斜しているので、ここを通過する際に機体の前後バランスの影響が大きく生じることになる。
【0169】
例えば、薬液タンク9に薬液が大量に入っていると、重量バランスは機体後側に偏るので、登り坂を移動する、即ち圃場から出る際に機体前側が浮き上がり、走行不能に陥る等の問題が生じるおそれがある。
【0170】
逆に、薬液タンク9に薬液がほとんど入っていないと、フロントブーム11a等の重量で重量バランスは機体前側に偏るので、下り坂を移動する、即ち圃場に進入する際に機体後側が浮き上がり、走行不能に陥る等の問題が生じるおそれがある。
【0171】
重量バランスの偏りを解消すべく、数百リットルの薬液を放出することや、薬液タンク9に数百リットルの薬液、あるいはこの薬液と同重量の重りを設けることは現実的ではないので、薬液残量が多いときは後進走行で圃場から退出し、薬液残量が少ないときは後進走行で圃場に進入する必要がある。
【0172】
なお、薬液タンク9は大部分が合成樹脂で構成されるものであり、薬液を投入していない状態では軽量である。
【0173】
上記の適切な走行を作業者に確実に行わせるべく、
図16及び
図33に示すとおり、走行車体1に前後傾斜センサ300を設けて機体の前後傾斜角度を検出可能とし、制御装置103は、前後傾斜センサ300が傾斜を検出したときに、薬液タンク9内に設ける容量センサ301が検出する残量に基づき、条件が合致すると操縦部5や情報端末に、後進により圃場の進入または退出を行うべき状態であることを表示させる。
【0174】
例えば、前後傾斜センサ300が走行車体1の前上がり傾斜角度を検出しているときは、走行車体1は登り坂を移動していると判定できるので、容量センサ301の検出する薬液の残量が所定量以上であるときには、後進走行で圃場から退出すべき状態である旨を操縦部5や情報端末に表示する。一方、薬液の残量が所定量未満であり、前後の重量バランスが取れている、あるいは機体前側に偏っているときには、上記の表示は行わないものとする。
【0175】
上記の容量センサ301は、超音波やレーザー等を用いて薬液の残量を逐次検出できるものとする必要があるので、上述の薬液残量センサ111と置き換えるか、あるいは別途設けるものとする。薬液タンク9に貯留される薬液が、水や不燃性の農薬であるときは、発火のおそれは無いので検出手段は通電や多少の加熱を伴うものでも問題ないが、発火性のある油性成分を含む農薬を用いるときには、発火点に温度を到達させないものを用いる必要がある。
【0176】
なお、後進走行すべきである旨を表示する際、作業者に確実に気付かせるべく、ブザー107bを作動させてもよい。
【0177】
そして、前後傾斜センサ300が走行車体1の前下がり傾斜角度を検出しているときは、走行車体1は下り坂を移動していると判定できるので、容量センサ301の検出する薬液の残量が所定量未満であるときには、後進走行で圃場に進入すべき状態である旨を操縦部5や情報端末に表示する。一方、薬液の残量が所定量以上であり、前後の重量バランスが取れている、あるいは機体後側に偏っているときには、上記の表示は行わないものとする。
【0178】
上記により、走行不能になり得る状態であることに気付かずに圃場の出入口を走行することを防止できるので、走行車体1を別の作業機、例えばトラクタ等を用いて圃場の内外に移動させる必要が無く、不要な作業に要する時間、労力及びコストの発生が防止される。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明は、機体下部、機体側方及び機体後方の状態を、機体の進行方向を向いたまま把握することができ、薬剤散布装置を搭載する作業車両に最適である。
【符号の説明】
【0180】
1 走行車体
2 前輪
3 後輪
9 薬液タンク
9a 噴霧ポンプ
103 制御装置
107 報知装置
111 薬液残量センサ(残量検出部材)
200 キャビン(搭乗部)
201 バックミラー(後部表示部材)
202 前輪ミラー(前輪表示部材)
203 ブームミラー(散布装置表示部材)
204 デジタルミラー(後方表示部材)
205 カメラ(撮影装置)
206 ジェスチャーセンサ(動作検出部材)
300 前後傾斜センサ(傾斜検出部材)