(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188514
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】トラクタ
(51)【国際特許分類】
A01B 71/00 20060101AFI20221214BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20221214BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20221214BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20221214BHJP
【FI】
A01B71/00
B60L50/60
B60L3/00 H
B60L58/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096609
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 信行
(72)【発明者】
【氏名】菅生 雄基
【テーマコード(参考)】
2B041
5H125
【Fターム(参考)】
2B041AA02
2B041AB05
2B041AC03
2B041EA01
2B041EA11
2B041EA21
2B041EB11
2B041EB20
5H125AA01
5H125AA20
5H125AC12
5H125BA09
5H125BC06
5H125CD02
5H125DD01
5H125EE06
5H125EE26
5H125EE52
5H125EE55
(57)【要約】
【課題】トラクタが走行不能になる前にトラクタを圃場の外に退避させる。
【解決手段】トラクタが圃場に位置していると判定された場合(ステップS10:YES)、第1条件が成立したときに(ステップS20:YES)異常に対処するための第1処置を行う第1対処処理(ステップS40)と、第2条件が成立したときに(ステップS30:YES)異常に対処するための第2処置を行う第2対処処理(ステップS50、ステップS60、ステップS80)とを実行する。第1条件は、第2条件が成立したときに成立し、且つ第2条件が成立していない一部の状況でも成立する条件である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源となる電動モータと、
作業機械を連結可能であり、前記電動モータの駆動力で走行する車体と、
前記電動モータに電力を供給するバッテリと、
前記バッテリ及び前記モータ間の電気系統の異常を検出する異常検出装置とを有し、
前記異常検出装置は、
前記車体が圃場に位置しているか否かを判定する判定処理と、
前記判定処理において前記圃場に位置していると判定されているときであって予め定められた第1条件が成立したときに前記異常に対処するための第1処置を行う第1対処処理と、
前記判定処理において前記圃場に位置していると判定されているときであって前記異常の発生を示す条件として予め定められた第2条件が成立したときに、前記異常に対処するための処置として前記第1処置とは異なる第2処置を行う第2対処処理と
を実行し、
前記第1条件は、前記第2条件が成立したときに成立し、且つ前記第2条件が成立していない一部の状況でも成立する条件である
トラクタ。
【請求項2】
光及び音の少なくとも一方により報知を行う報知装置と、
前記車体に連結している前記作業機械と、
前記作業機械を昇降させる昇降機構とを有し、
前記異常検出装置は、前記昇降機構を、前記作業機械を地面に接した位置にするための下降状態、及び前記作業機械を地面から離れた位置にするための上昇状態のいずれかに制御し、
前記異常検出装置は、
前記第1処置として、前記異常の発生を前記報知装置に報知させ、
前記第2処置として、前記作業機械を停止状態に切り替え且つ前記昇降機構を上昇状態に切り替える
請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
光及び音の少なくとも一方により報知を行う報知装置を有し、
前記異常検出装置は、
前記第1処置として、前記異常の発生を前記報知装置に報知させ、
前記第2処置として、前記バッテリからの出力を、前記第2処置を行っていない状態での前記バッテリの出力未満に制限する
請求項1に記載のトラクタ。
【請求項4】
前記異常検出装置は、前記圃場と当該圃場を囲む周囲の路面との境界を、前記圃場側から前記路面側へと移動するのに必要な単位時間当たりの電力である必要電力を予め記憶しており、
前記異常検出装置は、前記第2処置として、単位時間あたりに前記バッテリから出力可能な電力の上限値を、前記必要電力に制限する
請求項3に記載のトラクタ。
【請求項5】
前記異常検出装置は、前記車体の走行速度が、予め定められた規定車速以下の場合、前記第2処置の実行を禁止する
請求項3又は4に記載のトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたトラクタは、バッテリ、電動モータ、及びロータリ耕耘機を有する。バッテリは、電動モータに電力を供給する。電動モータは、バッテリからの電力供給を受けて駆動する。電動モータの駆動力は、トラクタを走行させたり、ロータリ耕耘機を動作させたりする。トラクタは、例えば田畑といった圃場内を走行する。その際、ロータリ耕耘機を動作させることにより、圃場を耕耘できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような技術において、バッテリから電動モータへと至る電力系統に何らかの異常が生じた場合、トラクタの走行に支障が生じ得る。ここで、圃場の路面は、凹凸があったり、ぬかるんでいたりする。すなわち、圃場内の走行環境は、舗装された路面に比べて悪い。そのため、仮に圃場内でトラクタの走行に支障が生じてトラクタが走行不能な状態にまで陥った場合、例えば牽引を行うといった、舗装された道路で普通の自動車に適用できる対処を必ずしも採用できない。したがって、圃場内で上記の異常が発生したときには、トラクタが走行不能になる前にトラクタを圃場の外に退避させることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのトラクタは、駆動源となる電動モータと、作業機械を連結可能であり、前記電動モータの駆動力で走行する車体と、前記電動モータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリ及び前記モータ間の電気系統の異常を検出する異常検出装置とを有し、前記異常検出装置は、前記車体が圃場に位置しているか否かを判定する判定処理と、前記判定処理において圃場に位置していると判定されているときであって予め定められた第1条件が成立したときに前記異常に対処するための第1処置を行う第1対処処理と、前記判定処理において圃場に位置していると判定されているときであって前記異常の発生を示す条件として予め定められた第2条件が成立したときに、前記異常に対処するための処置として前記第1処置とは異なる第2処置を行う第2対処処理とを実行し、前記第1条件は、前記第2条件が成立したときに成立し、且つ前記第2条件が成立していない一部の状況でも成立する条件である。
【0006】
上記構成では、第1条件は第2条件よりも緩い条件であり、第1条件は第2条件よりも成立しやすい。したがって、異常の疑いがある場合に第1処置を行い、その後、異常が発生している可能性が高くなった場合に第2処置を行うことができる。つまり、上記構成では、異常の発生を二段階で監視してその都度異なる処置を行う。このように、異常が発生する前段階で第1処置を行うことで、トラクタの乗員等にトラクタを圃場の外に退避させることを促せる。
【0007】
トラクタは、光及び音の少なくとも一方により報知を行う報知装置と、前記車体に連結している前記作業機械と、前記作業機械を昇降させる昇降機構とを有し、前記異常検出装置は、前記昇降機構を、前記作業機械を地面に接した位置にするための下降状態、及び前記作業機械を地面から離れた位置にするための上昇状態のいずれかに制御し、前記異常検出装置は、前記第1処置として、前記異常の発生を前記報知装置に報知させ、前記第2処置として、前記作業機械を停止状態に切り替え且つ前記昇降機構を上昇状態に切り替えてもよい。
【0008】
上記構成によれば、第1処置として異常の発生を報知することで、異常が発生している可能性があることを、早い段階で乗員等に把握させることができる。さらに、第2処置として作業機械を停止状態にすることで、それ以降は作業機械の動作に伴うバッテリの電力消費がなくなる。また、昇降機構を上昇状態にしておけば、その後にトラクタを走行させるにあたって作業機械が路面との接触を通じてトラクタを制動することもない。したがって、上記構成によれば、トラクタを圃場の外に退避させる前に、バッテリの容量不足により圃場内でトラクタが走行不能になることを防げる。
【0009】
トラクタは、光及び音の少なくとも一方により報知を行う報知装置を有し、前記異常検出装置は、前記第1処置として、前記異常の発生を前記報知装置に報知させ、前記第2処置として、前記バッテリからの出力を、前記第2処置を行っていない状態での前記バッテリの出力未満に制限してもよい。
【0010】
上記構成によれば、第1処置として異常の発生を報知することで、異常が発生している可能性があることを、早い段階で乗員等に把握させることができる。さらに、第2処置としてバッテリからの出力を制限することで、それ以降はバッテリの電力消費を抑えることができる。これらの処置を行うことで、トラクタを圃場の外に退避させる前に、バッテリの容量不足により圃場内でトラクタが走行不能になることを防げる。
【0011】
トラクタにおいて、前記異常検出装置は、前記圃場と当該圃場を囲む周囲の路面との境界を、前記圃場側から前記路面側へと移動するのに必要な単位時間当たりの電力である必要電力を予め記憶しており、前記異常検出装置は、前記第2処置として、単位時間あたりに前記バッテリから出力可能な電力の上限値を、前記必要電力に制限してもよい。
【0012】
上記構成によれば、第2処置を実行したとしても、圃場から路面へと移動するのに必要な電力は確保される。つまり、上記構成であれば、例えば水田のように、圃場が周囲の路面よりも低い位置にある場合でも、トラクタを確実に圃場の外に退避させることができる。
【0013】
トラクタにおいて、前記異常検出装置は、前記車体の走行速度が、予め定められた規定車速以下の場合、前記第2処置の実行を禁止してもよい。
圃場の路面の凹凸の度合いが大きかったり、ぬかるみの度合いが大きかったりすると、トラクタの進みが遅くなる。このような、圃場の走行環境が悪い状況下では大きな駆動力が必要である。そこで、上記構成では、トラクタの走行速度が低くて圃場の走行環境が悪いと見込まれる状況下では出力制限を禁止する。このことにより、圃場の走行環境が悪い場合でも、トラクタを走行可能にすることを優先できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】トラクタの電気的構成及び動力伝達経路を表した図。
【
図4】異常対処処理の処理手順を表したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、トラクタの一実施形態を、図面を参照して説明する。
<トラクタの全体構成>
図1に示すように、トラクタ10は、車両11を有する。車両11は、車体13、及び複数の車輪12を有する。複数の車輪12は、車体13に連結している。車体13は、キャビン14を有する。キャビン14は、車体13に区画された空間である。キャビン14は、乗員が乗り込む操縦室である。
【0016】
車両11は、操作台16及びディスプレイ15を有する。操作台16は、キャビン14内に位置している。ディスプレイ15は操作台16上に位置している。ディスプレイ15は各種の情報を表示可能である。すなわち、ディスプレイ15は、各種の情報を光によって報知する報知装置である。
【0017】
トラクタ10は、作業機械20を有する。作業機械20は、車両11から視て後方に位置している。作業機械20は、支持体22と回転体21とを有する。支持体22は、後述の昇降機構30を介して車体13に連結している。回転体21は、回転軸21A及び複数のブレード21Bを有する。回転軸21Aは、支持体22で回転可能に支持された状態にある。複数のブレード21Bは、回転軸21Aと一体回転する。なお、
図1では、ブレード21Bを簡略化して円柱状に図示している。ブレード21Bが圃場の地面200に触れている状態で回転軸21Aが回転すると、圃場を耕耘できる。
【0018】
トラクタ10は、昇降機構30を有する。昇降機構30は、複数のアーム32、及び油圧装置35を有する。複数のアーム32は互いに連結している。また、複数のアーム32は、車体13と作業機械20の支持体22とを連結している。油圧装置35は、油圧を発生する。この油圧に応じて、各アーム32は動作する。それに伴い、
図1の矢印Dで示すように、作業機械20は昇降する。それとともに、作業機械20の回転体21は、地面200に接したり地面200から離れたりする。以下では、作業機械20の回転体21を地面200に接した位置にするための昇降機構30の状態を下降状態と呼称する。また、回転体21を地面200から離れた位置にするための昇降機構30の状態を上昇状態と呼称する。なお、
図1では、昇降機構30が下降状態であるときの作業機械20の位置を実線で示している。また、
図1では、昇降機構30が上昇状態であるときの作業機械20の位置を二点鎖線で示している。
【0019】
図2に示すように、トラクタ10は、車速センサ59を有する。車速センサ59は、車両11の走行速度を車速SPとして検出する。
トラクタ10は、操作部として、複数のスイッチ及びレバーを有する。複数のスイッチ及びレバーは、乗員がトラクタ10の走行速度を切り替えたり、乗員が作業機械20及び昇降機構30を動作させたりするためのものを含んでいる。複数のスイッチの1つは、トラクタ10の起動を指示するためのスタートスイッチ55である。複数のスイッチの1つは、トラクタ10が圃場内に位置しているか否かに応じて乗員がオンオフする位置情報スイッチ51である。複数のスイッチの1つは、後述の異常対処処理に伴うディスプレイ15の表示を消去するためのリセットスイッチ52である。これらスタートスイッチ55、位置情報スイッチ51、及びリセットスイッチ52は、例えば操作台16上に位置している。また、
図1に示すように、車両11は、操舵用のステアリングハンドル57を有する。
【0020】
<トラクタの動力伝達経路>
図2に示すように、トラクタ10は、第1電動モータ41、第2電動モータ42、第3電動モータ43、動力伝達機構19、及びPTO25を有する。第1電動モータ41、第2電動モータ42、及び第3電動モータ43は、発電電動機である。
【0021】
第1電動モータ41は、トラクタ10を走行させるための駆動源である。第1電動モータ41は、動力伝達機構19を介して車輪12に連結している。動力伝達機構19は、例えば、トルクを増幅して出力する減速機構を含んでいる。
【0022】
第2電動モータ42は、作業機械20の駆動源である。第2電動モータ42は、PTO25を介して作業機械20の回転体21に連結している。PTO25は、第2電動モータ42のトルクを回転体21に伝達するための装置である。PTO25は、例えば減速機構を含んでいる。
【0023】
第3電動モータ43は、油圧装置35の駆動源である。第3電動モータ43は、油圧装置35の油圧ポンプに連結している。第3電動モータ43は、油圧ポンプを駆動する。
なお、上記のとおり、第1電動モータ41、第2電動モータ42、及び第3電動モータ43は発電電動機である。そのため、これらの電動モータは、発電機として機能させることができる。例えば第1電動モータ41であれば、トラクタ10が減速する際に当該第1電動モータ41を発電機として機能させることができる。その際、トラクタ10には、第1電動モータ41の発電量に応じた回生制動力が発生する。
【0024】
トラクタ10は、第1回転センサ61、第2回転センサ62、及び第3回転センサ63を有する。第1回転センサ61は、第1電動モータ41の回転子の回転位置を第1位置A1として検出する。第2回転センサ62は、第2電動モータ42の回転子の回転位置を第2位置A2として検出する。第3回転センサ63は、第3電動モータ43の回転子の回転位置を第3位置A3として検出する。
【0025】
<トラクタの電気的構成>
図2に示すように、トラクタ10は、電源回路99を有する。電源回路99は、車体13に搭載されている。電源回路99は、バッテリ77、正極ライン81、負極ライン82、正極リレー83、及び負極リレー84を有する。また、電源回路99は、第1コンバータ85、第1インバータ71、第2インバータ72、及び第3インバータ73を有する。また、電源回路99は、電流センサ91、電圧センサ92、及び温度センサ93を有する。
【0026】
バッテリ77は二次電池である。バッテリ77は、第1電動モータ41、第2電動モータ42、及び第3電動モータ43との間で電力を授受する。電圧センサ92は、バッテリ77の端子間に接続している。電圧センサ92は、バッテリ77の出力電圧をバッテリ電圧92Vとして検出する。温度センサ93は、バッテリ77に取り付けられている。温度センサ93は、バッテリ77の温度をバッテリ温度93Tとして検出する。
【0027】
正極ライン81は、バッテリ77の高電位側の端子と第1コンバータ85とを接続している。負極ライン82は、バッテリ77の低電位側の端子と第1コンバータ85とを接続している。第1コンバータ85は、電圧の大きさを変換して出力する。
【0028】
正極リレー83は、正極ライン81の途中に位置している。負極リレー84は、負極ライン82の途中に位置している。正極リレー83及び負極リレー84は、バッテリ77と第1コンバータ85との間の電気的接続をオンオフする。
【0029】
電流センサ91は、正極ライン81の途中に取り付けられている。詳細には、電流センサ91は、正極ライン81上におけるバッテリ77と正極リレー83との間に取り付けられている。電流センサ91は、バッテリ77に流れる充放電電流をバッテリ電流91Aとして検出する。
【0030】
第1インバータ71及び第2インバータ72は、第1コンバータ85に接続している。第1インバータ71及び第2インバータ72は、互いに並列になっている。第1インバータ71は、第1電動モータ41に接続している。第1インバータ71は、第1コンバータ85と第1電動モータ41との間で直流交流の電力変換を行う。第2インバータ72は、第2電動モータ42に接続している。第2インバータ72は、第1コンバータ85と第2電動モータ42との間で直流交流の電力変換を行う。
【0031】
第3インバータ73は、バッテリ77に接続している。第3インバータ73は、第1コンバータ85と並列になっている。第3インバータ73は、第3電動モータ43に接続している。第3インバータ73は、バッテリ77と第3電動モータ43との間で直流交流の電力変換を行う。
【0032】
<制御装置の概略構成>
トラクタ10は、制御装置100を有する。制御装置100は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、制御装置100は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU102及び、RAM並びにROM104等のメモリを含む。メモリは、処理をCPU102に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御装置100は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置を有する。
【0033】
制御装置100は、各操作部からの信号を受信する。すなわち、制御装置100は、スタートスイッチ55からの信号55Nを受信する。制御装置100は、位置情報スイッチ51からの信号51Nを受信する。制御装置100は、リセットスイッチ52からの信号52Nを受信する。
【0034】
また、制御装置100は、各種センサからの検出信号を受信する。制御装置100は、車速センサ59が検出する車速SPを受信する。制御装置100は、電流センサ91が検出するバッテリ電流91Aを受信する。制御装置100は、電圧センサ92が検出するバッテリ電圧92Vを受信する。制御装置100は、温度センサ93が検出するバッテリ温度93Tを受信する。制御装置100は、これらバッテリ電流91A、バッテリ電圧92V、及びバッテリ温度93Tに基づいて、バッテリ77の充電率SOCを算出する。なお、バッテリ77の充電率SOCとは、バッテリ77の残容量を満充電容量で除した値である。
【0035】
制御装置100は、第1回転センサ61が検出する第1位置A1、第2回転センサ62が検出する第2位置A2、及び第3回転センサ63が検出する第3位置A3を受信する。制御装置100は、第1位置A1に基づいて、第1電動モータ41の回転子の回転速度である第1回転速度Smg1を算出する。同様に、制御装置100は、第2位置A2に基づいて、第2電動モータ42の回転子の回転速度である第2回転速度Smg2を算出する。同様に、制御装置100は、第3位置A3に基づいて、第3電動モータ43の回転子の回転速度である第3回転速度Smg3を算出する。
【0036】
制御装置100は、第1電動モータ41を制御対象とする。制御装置100は、第1電動モータ41を制御することによって、トラクタ10を走行させたり、トラクタ10の走行を停止させたりする。なお、制御装置100は、実質的には、第1インバータ71を制御することによって第1電動モータ41を制御する。制御装置100は、第1電動モータ41を制御するにあたっては、第1回転速度Smg1を参照する。制御装置100は、予め定められた複数の目標走行速度を記憶している。制御装置100は、例えば乗員からの指示に応じて、複数の目標走行速度のうちのいずれかに基づいて第1電動モータ41を制御する。
【0037】
制御装置100は、作業機械20を制御対象とする。具体的には、制御装置100は、第2電動モータ42の制御を通じて作業機械20を制御する。すなわち、制御装置100は、第2電動モータ42を制御することによって、回転体21を回転させたり回転体21の回転を停止させたりする。なお、制御装置100は、実質的には、第2インバータ72を制御することによって第2電動モータ42を制御する。制御装置100は、第2電動モータ42を制御するにあたっては、第2回転速度Smg2を参照する。制御装置100は、例えば乗員から指示に応じて回転体21を回転させたり回転体21の回転を停止させたりする。
【0038】
制御装置100は、昇降機構30を制御対象とする。具体的には、制御装置100は、第3電動モータ43、及び油圧装置35における油路の制御弁等の制御を通じて、油圧装置35が発する油圧を制御する。それによって昇降機構30を上昇状態又は下降状態にする。なお、制御装置100は、実質的には、第3インバータ73を制御することによって第3電動モータ43を制御する。制御装置100は、第3電動モータ43を制御するにあたっては、第3回転速度Smg3を参照する。制御装置100は、例えば乗員からの指示に応じて昇降機構30を上昇状態又は下降状態にする。
【0039】
制御装置100は、ディスプレイ15を制御対象とする。制御装置100は、各種情報をディスプレイ15に表示させるための表示信号をディスプレイ15に出力する。ディスプレイ15は、表示信号を受信すると、当該表示信号に応じた内容を表示する。
【0040】
制御装置100は、正極リレー83及び負極リレー84を制御対象とする。すなわち、制御装置100は、スタートスイッチ55のオンオフに応じて正極リレー83及び負極リレー84による電気的接続のオンオフを切り替える。
【0041】
<異常検出装置としての機能>
制御装置100は、バッテリ77及び第1電動モータ41間の電気系統の異常を検出する異常検出装置として機能する。バッテリ77及び第1電動モータ41間の電気系統は、上記のとおり、バッテリ77、正極ライン81、負極ライン82、正極リレー83、負極リレー84、第1コンバータ85、第1インバータ71、及び第1電動モータ41を含んでいる。本実施形態では、制御装置100は、バッテリ77及び第1電動モータ41間の電気系統の異常として、バッテリ77の異常を検出する。なお、ここでいうバッテリ77の異常とは、バッテリ77から第1電動モータ41への電力供給ができない故障の状態を指すのではなく、バッテリ77から第1電動モータ41への電力供給が可能な範囲でのものである。つまり、バッテリ77から第1電動モータ41への電力供給そのものはできておりトラクタ10は走行可能であるものの、バッテリ77が完全に正常とはいえない状態を、バッテリ77の異常という。
【0042】
制御装置100は、上記異常検出装置としての機能の一環として、フェールセーフ処理を実行可能である。フェールセーフ処理は、バッテリ77の異常、又はその前兆を検出するとともに、それに対して対処するための処理である。
図3に示すように、フェールセーフ処理には、圃場用のものと、通常用のもとがある。圃場用のフェールセーフ処理は、トラクタ10が圃場に位置しているときに行うものである。通常用のフェールセーフ処理は、トラクタ10が圃場の外に位置しているとき、すなわちトラクタ10が舗装された道路を走行しているときに行うものである。
【0043】
<圃場用のフェールセーフ処理>
制御装置100は、圃場用のフェールセーフ処理では、予め定められた第1条件が成立したときに、バッテリ77の異常に対処するための処置として、圃場用の第1処置を行う。
図3に示すように、圃場用の第1処置は、第1メッセージをディスプレイ15に表示させることである。第1メッセージの内容は、バッテリ77に異常の発生の疑い(以下、単に異常の疑いと記す。)がある旨、及びトラクタ10を圃場の外に退避させる必要がある旨を含んでいる。つまり、圃場用の第1処置では、異常の疑いという、バッテリ77の異常の前兆に対して対処することになる。本実施形態の第1処置では、バッテリ77の異常の前兆に対して対処することで、本格的な異常が生じる前に異常に対処する。なお、上記の第1処置を行う処理は、圃場用のフェールセーフ処理のうちの第1対処処理である。
【0044】
制御装置100は、第1条件を予め記憶している。第1条件は、バッテリ77の充電率SOCが第1値L1以下になっていることである。第1値L1は、例えば20[%]である。第1値L1は、次のような値として例えば実験又はシミュレーションで予め定めてある。すなわち、第1値L1は、バッテリ77の充電率SOCとして、未だバッテリ77が正常ではあるものの、現状のままバッテリ77から電力を出力し続けると過放電等で不可逆的な劣化がバッテリ77に生じる可能性が高い値である。
【0045】
制御装置100は、圃場用のフェールセーフ処理では、予め定められた第2条件が成立したときに、バッテリ77の異常に対処するための処置として、圃場用の第2処置を行う。
図3に示すように、圃場用の第2処置は、次の3つの内容を含んでいる。圃場用の第2処置の1つは、第2メッセージをディスプレイ15に表示させることである。第2メッセージの内容は、バッテリ77に異常が生じている可能性が高い旨を含んでいる。また、圃場用の第2処置の1つは、作業機械20を停止状態に切り替え、且つ昇降機構30を上昇状態に切り替えることである。また、圃場用の第2処置の1つは、バッテリ77からの出力を、第2処置を行っていない状態でのバッテリ77の出力未満に制限することである。バッテリ77の出力制限については後で詳しく説明する。なお、上記の第2処置を行う処理は、圃場用のフェールセーフ処理のうちの第2対処処理である。
【0046】
制御装置100は、第2条件を予め記憶している。第2条件は、バッテリ77における異常の発生を示す条件として予め定められている。第2条件は、バッテリ77の充電率SOCが第2値L2に以下になっていることである。第2値L2は、第1値L1よりも低い値であり、例えば5[%]である。第2値L2は、バッテリ77の出力電圧が定格の出力電圧に比べて相当に低い、バッテリ77に過放電が生じている等、バッテリ77に異常が発生している可能性が極めて高いと値として、例えば実験又はシミュレーションで定めてある。なお、第2条件と第1条件とを比較してわかるように、上記の第1条件は、第2条件が成立したときに成立し、且つ第2条件が成立していない一部の状況でも成立する条件である。
【0047】
バッテリ77の出力制限について説明する。バッテリ77の出力を制限することは、具体的には、単位時間あたりにバッテリ77から出力可能な電力の上限値を制限することである。すなわち、制御装置100は、第2処置では、バッテリ77から単位時間あたりに出力可能な電力の総量の上限として出力上限値Woutを設定する。そして、制御装置100は、バッテリ77から出力する電力が出力上限値Woutを超えない範囲で第1電動モータ41、第2電動モータ42、及び第3電動モータ43を制御する。
【0048】
制御装置100は、第2処置に係る出力上限値Woutを予め記憶している。ここで、例えば水田のような圃場は、周囲の路面よりも一段低い位置に存在している。そして、圃場と路面との境界には、圃場に出入りするための坂道が設けられている。この坂道を圃場側から路面側へと移動するのに必要な単位時間当たりの電力を必要電力と呼称する。制御装置100は、この必要電力を、第2処置に係る出力上限値Woutとして記憶している。上記の必要電力は、例えば実験又はシミュレーションで定めてある。なお、上記の坂道の傾斜角度は圃場によって異なる。ここで、圃場の坂道が取り得る傾斜角度の最大値を最大傾斜角と呼称する。上記の必要電力を設定する際の坂道の傾斜角度としては、最大傾斜角を見込んでいる。
【0049】
なお、制御装置100は、トラクタ10の車速SPが規定車速SPK以下の場合、バッテリ77の出力制限を禁止する。つまり、制御装置100は、トラクタ10の車速SPが規定車速SPK以下の場合には、第2条件が成立していても、バッテリ77の出力制限を行わない。ここで、圃場の路面は、例えば凹凸の度合いが大きかったり、ぬかるみの度合いが大きかったりしていて走行環境が悪いことがある。このような環境下をトラクタ10が走行する場合、トラクタ10の車速SPは遅くなりがちである。そして、このような環境下をトラクタ10が走行する場合、トラクタ10には相当に大きな駆動力が要求されるとともに、その駆動力を出力するのに足りるバッテリ77からの電力供給が要求される。そこで、上記のような環境下をトラクタ10が走行する際に十分な電力供給ができるように、トラクタ10の車速SPが相当に低いときにはバッテリ77の出力制限を禁止する。上記の規定車速SPKは、圃場の走行環境が悪いと見込まれるときにトラクタ10が取り得る車速SPの最大値として、例えば実験又はシミュレーションで予め定めてある。規定車速SPKの一例は、時速1~3kmである。
【0050】
<通常用のフェールセーフ処理>
制御装置100は、通常用のフェールセーフ処理では、上記第1条件が成立したときに、バッテリ77の異常に対処するための通常用の第1処置を行う。
図3に示すように、通常用の第1処置は、第3メッセージをディスプレイ15に表示させることである。第3メッセージの内容は、バッテリ77に異常の疑いがある旨、及び圃場への進入禁止を指示する旨を含んでいる。また、制御装置100は、通常用のフェールセーフ処理では、上記第2条件が成立したときに、バッテリ77の異常に対処するための通常用の第2処置を行う。通常用の第2処置は、次の2つの内容を含んでいる。通常用の第2処置の1つは、第4メッセージをディスプレイ15に表示させることである。第4メッセージの内容は、バッテリ77に異常が生じている可能性が高い旨を含んでいる。また、通常用の第2処置の1つは、バッテリ77の出力を制限することである。制御装置100は、通常用の第2処置に係る出力上限値Woutを予め記憶している。トラクタ10が舗装された道路を走行することを前提としたとき、トラクタ10に設定されている複数の目標走行速度のうちの最低値でトラクタ10を走行させる上で必要な単位時間当たりの電力を最低走行電力と呼称する。制御装置100は、この最低走行電力を、通常用の第2処置に係るバッテリ77の出力上限値Woutとして記憶している。最低走行電力は、例えば実験又シミュレーションで定めてある。最低走行電力は、必要電力よりも小さい。
【0051】
<異常対処処理>
制御装置100は、上記の圃場用のフェールセーフ処理、及び通常用のフェールセーフ処理を実行するための統括的な処理として、異常対処処理を実行可能である。制御装置100は、異常対処処理の一環として、上記の圃場用のフェールセーフ処理、及び通常用のフェールセーフ処理に加え、さらに判定処理を行う。制御装置100は、判定処理では、トラクタ10が圃場に位置しているか否かを判定する。制御装置100は、判定処理においてトラクタ10が圃場に位置していると判定した場合に圃場用のフェールセーフ処理を行う。また、制御装置100は、判定処理においてトラクタ10が圃場の外に位置していると判定した場合に通常用のフェールセーフ処理を行う。
【0052】
異常対処処理の具体的な処理手順を説明する。制御装置100は、スタートスイッチ55がオンになっている間、異常対処処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
図4に示すように、制御装置100は、異常対処処理を開始すると、先ずステップS10の処理を行う。ステップS10において、制御装置100は、トラクタ10が圃場に位置しているか否かを判定する。制御装置100は、位置情報スイッチ51からの信号51Nに基づいてステップS10の判定を行う。制御装置100は、位置情報スイッチ51からオン状態を示す信号51Nを受信しているときには、トラクタ10は圃場に位置していると判定する(ステップS10:YES)。この場合、制御装置100は、処理をステップS20に進める。なお、ステップS10の処理は、判定処理である。
【0053】
ステップS20において、制御装置100は、バッテリ77の充電率SOCが第1値L1以下であるか否かを判定する。具体的には、制御装置100は、最新の充電率SOCを参照する。そして、制御装置100は、最新の充電率SOCと、予め記憶している第1値L1とを比較する。制御装置100は、最新の充電率SOCが第1値L1よりも大きい場合(ステップS20:NO)、異常対処処理の一連の処理を一旦終了する。この場合、制御装置100は、再度ステップS10の処理を実行する。
【0054】
一方、ステップS20において、制御装置100は、最新の充電率SOCが第1値L1以下の場合(ステップS20:YES)、処理をステップS30に進める。
ステップS30において、制御装置100は、バッテリ77の充電率SOCが第2値L2以下であるか否かを判定する。具体的には、制御装置100は、最新の充電率SOCを参照する。そして、制御装置100は、最新の充電率SOCと、予め記憶している第2値L2とを比較する。制御装置100は、最新の充電率SOCが第2値L2よりも大きい場合(ステップS30:NO)、処理をステップS40に進める。
【0055】
ステップS40において、制御装置100は、第1メッセージをディスプレイ15に表示させる。ステップS40の具体的な処理として、制御装置100は、第1表示信号J1をディスプレイ15に出力する。第1表示信号J1は、バッテリ77に異常の疑いがある旨、及びトラクタ10を圃場の外に退避させる必要がある旨をディスプレイ15に表示させるための信号である。ディスプレイ15は、第1表示信号J1を受信すると、第1表示信号J1に応じたメッセージを表示する。なお、上記のとおり、フェールセーフ処理用のメッセージには、第1メッセージ~第4メッセージの4種類がある。そして、それらのメッセージを表示させるための表示信号も、第1表示信号J1~第4表示信号J4の4種類がある。制御装置100は、ステップS40に処理が進んだ時点で第1表示信号J1以外のフェールセーフ用の表示信号を出力している場合、その表示信号の出力をキャンセルし、第1表示信号J1を出力する。また、制御装置100は、ステップS40に処理が進んだ時点で既に第1表示信号J1を出力している場合、第1表示信号J1の出力を継続する。
【0056】
ステップS40の処理は、実質的に、第1表示信号J1の出力を開始する処理である。制御装置100は、異常対処処理におけるステップS40以外の処理において、第1表示信号J1以外のフェールセーフ用の表示信号を出力する場合、又は、リセットスイッチ52が操作されるまでは、第1表示信号J1の出力を継続する。制御装置100は、ステップS40の処理を実行すると、異常対処処理の一連の処理を一旦終了する。そして、制御装置100は、再度ステップS10の処理を実行する。なお、ステップS40の処理は、第1対処処理である。
【0057】
一方、ステップS30において、制御装置100は、最新の充電率SOCが第2値L2以下の場合(ステップS30:YES)、処理をステップS50に進める。
ステップS50において、制御装置100は、第2メッセージをディスプレイ15に示させる。ステップS50の具体的な処理として、制御装置100は、第2表示信号J2をディスプレイ15に出力する。第2表示信号J2は、バッテリ77に異常が生じている可能性が高い旨、圃場の外にトラクタ10を退避させる必要がある旨、及びトラクタ10の各種部位に適宜必要な処理を行う旨、をディスプレイ15に表示させるための表示信号である。上記必要な処理とは、具体的には、作業機械20を停止すること、昇降機構30を上昇状態にすること、及び状況に応じてバッテリ77の出力制限をすることである。ステップS40と同様、制御装置100は、ステップS50に処理が進んだ時点でフェールセーフ処理用の他の表示信号を出力している場合、その表示信号の出力をキャンセルして第2表示信号J2を出力する。また、制御装置100は、ステップS50に処理が進んだ時点で既に第2表示信号J2を出力している場合、第2表示信号J2の出力を継続する。ステップS40の処理と同様、ステップS50の処理は、実質的に、第2表示信号J2の出力を開始する処理である。また、第1表示信号J1と同様、制御装置100は、第2表示信号J2以外のフェールセーフ用の表示信号を出力する場合、又は、リセットスイッチ52が操作されるまでは、第2表示信号J2の出力を継続する。制御装置100は、ステップS50の処理を実行すると、処理をステップS60に進める。
【0058】
ステップS60において、制御装置100は、第2電動モータ42を制御して、作業機械20の回転体21を停止状態に切り替える。すなわち、制御装置100は、第2電動モータ42を停止させる。なお、ステップS60の処理を行う時点で既に回転体21が停止状態である場合、制御装置100は、その状態を維持する。また、制御装置100は、ステップS60では、第3電動モータ43及び油圧回路等を制御して、昇降機構30を上昇状態に切り替える。なお、ステップS60の処理を行う時点で既に昇降機構30が上昇状態である場合、制御装置100は、その状態を維持する。制御装置100は、ステップS60の処理を実行すると、処理をステップS70に進める。
【0059】
ステップS70において、制御装置100は、車速SPが規定車速SP以下であるか否かを判定する。制御装置100は、最新の車速SPを参照する。そして、制御装置100は、最新の車速SPと、予め記憶している規定車速SPKとを比較する。制御装置100は、最新の車速SPが規定車速SPKよりも大きい場合(ステップS70:NO)、処理をステップS80に進める。
【0060】
ステップS80において、制御装置100は、バッテリ77の出力制限を行う。すなわち、制御装置100は、バッテリ77の出力上限値Woutを必要電力に設定する。なお、制御装置100は、ステップS80に処理が進んだ時点で既に出力上限値Woutを必要電力に設定している場合、その状態を維持する。制御装置100は、ステップS80の処理を実行すると、異常対処処理の一連の処理を一旦終了する。そして、再度ステップS10の処理を行う。
【0061】
一方、ステップS70において、制御装置100は、最新の車速SPが規定車速SPK以下の場合(ステップS70:YES)、処理をステップS90に進める。
ステップS90において、制御装置100は、バッテリ77の出力制限を禁止する。具体的には、制御装置100は、ステップS90に処理が進んだ時点でバッテリ77の出力制限を行っている場合、その出力制限をキャンセルする。すなわち、制御装置100は、出力上限値Woutの設定を解除する。制御装置100は、ステップS90に処理が進んだ時点でバッテリ77の出力制限を行っていない場合には、その状態を維持する。制御装置100は、ステップS90の処理を実行すると、異常対処処理の一連の処理を一旦終了する。そして、再度ステップS10の処理を行う。なお、ステップS50、ステップS60、及びステップS80の処理は、第2対処処理である。また、ステップS20~ステップS90の処理は、圃場用のフェールセーフ処理である。
【0062】
さて、ステップS10において、制御装置100は、位置情報スイッチ51からオン状態を示す信号51Nを受信していないときには、トラクタ10は圃場に位置していないと判定する(ステップS10:NO)。この場合、制御装置100は、処理をステップS300に進める。
【0063】
ステップS300において、制御装置100は、通常用のフェールセーフ処理を行う。すなわち、制御装置100は、バッテリ77の最新の充電率SOCが第1値L1以下であり且つ当該充電率SOCが第2値L2よりも大きい場合、上記した通常用の第1処置として第3メッセージをディスプレイ15に表示させる。制御装置100は、実質的には、第3表示信号J3をディスプレイ15に出力する。第3表示信号J3は、バッテリ77に異常の疑いがある旨、及び圃場への進入禁止を指示する旨をディスプレイ15に表示させるための表示信号である。制御装置100は、ステップS40で説明した第1表示信号J1の出力と同様の要領で、第3表示信号J3の出力を開始したり、第3表示信号J3の出力を継続したりする。
【0064】
また、ステップS300において、制御装置100は、バッテリ77の最新の充電率SOCが第2値L2以下である場合、通常用の第2処置としてバッテリ77の出力を制限する。制御装置100は、実質的には、バッテリ77の出力上限値Woutを最低走行電力に設定する。また、制御装置100は、第4メッセージをディスプレイ15に表示させる。制御装置100は、実質的には、第4表示信号J4をディスプレイ15に出力する。第4表示信号J4は、バッテリ77に異常が生じている可能性が高い旨、圃場への進入禁止を指示する旨、及びバッテリ77の出力制限を行う旨をディスプレイ15に表示させるための表示信号である。なお、制御装置100は、通常用の第2処置では、ステップS80で説明したバッテリ77の出力制限と同様の要領で、バッテリ77の出力制限を開始したり、出力制限を継続したりする。また、制御装置100は、ステップS40で説明した第1表示信号J1の出力と同様の要領で、第4表示信号J4の出力を開始したり、第4表示信号J4の出力を継続したりする。制御装置100は、ステップS300の処理を実行すると、異常対処処理の一連の処理を一旦終了する。そして、再度ステップS10の処理を行う。
【0065】
<実施形態の作用>
いま、トラクタ10は圃場に位置しているものとする(ステップS10:YES)。そして、トラクタ10は、圃場を耕耘中であるものとする。すなわち、昇降機構30は下降状態である。また、作業機械20は動作中である。
【0066】
さて、何らかの要因でバッテリ77の充電率SOCが低下したとする。そして、バッテリ77の充電率SOCが第1値L1以下(ステップS20:YES)、且つ第2値L2よりも大きい状態になったとする(ステップS30:NO)。この場合、制御装置100は、圃場用の第1処置として、第1メッセージをディスプレイ15に表示させる(ステップS40)。
【0067】
この後、ディスプレイ15の表示に気づいた乗員が、トラクタ10を圃場から退避させるべくトラクタ10を走行させたものの、圃場からの退避が完了する前にバッテリ77の充電率SOCが第2値L2以下になったとする(ステップS30:YES)。この場合、制御装置100は、圃場用の第2処置として、それまでディスプレイ15に表示していた上記の第1メッセージを第2メッセージに切り替える(ステップS50)。また、制御装置100は、強制的に作業機械20を停止し且つ強制的に昇降機構30を上昇状態にする(ステップS60)。さらに、制御装置100は、車速SPが規定車速SPKよりも大きい場合に限り、バッテリ77の出力制限を行う(ステップS80)。すなわち、制御装置100は、バッテリ77の出力上限値Woutを必要電力にする。作業機械20の停止、及びバッテリ77の出力制限により、トラクタ10はバッテリ77からの電力消費を抑えつつ走行する。なお、バッテリ77の出力上限値Woutは必要電力であることから、トラクタ10は、圃場と周囲の路面との境界の坂道を上りきることができる。
【0068】
この後、トラクタ10は圃場の外への退避を完了したものとする(ステップS10:NO)。また、これに伴い、乗員が位置情報スイッチ51をオフ操作したものとする。このとき、バッテリ77の充電率SOCは第2値L2以下のままであることから、制御装置100は、通常用の第2処置を行う(ステップS300)。すなわち、制御装置100は、それまでディスプレイ15に表示していた第2メッセージを第4メッセージに切り替える。また、制御装置100は、出力上限値Woutを、必要電力よりも小さい最低走行電力に設定する。そして、トラクタ10は、バッテリ77からの電力消費をさらに抑えた状態で走行し、例えば路肩に停車する。
【0069】
<実施形態の効果>
(1)本実施形態において、第1条件は第2条件よりも緩い条件であり、第1条件は第2条件よりも成立しやすい。したがって、異常対処処理では、バッテリ77に異常の疑いがある場合に第1処置を行い、その後、バッテリ77に異常が生じている可能性が高くなった場合に第2処置を行うことになる。本実施形態では、このようにして異常の発生を二段階で監視した上で、その都度異なる処置を行う。そして、トラクタ10が圃場に位置しているときの一段階目の処置である第1処置では、バッテリ77の異常の疑いを報知する。第1処置として、バッテリ77の異常が発生する前段階で異常の疑いを報知することで、バッテリ77の異常が本格化する前に、乗員にトラクタ10を圃場の外に退避させることを促せる。
【0070】
(2)本実施形態では、トラクタ10が圃場に位置しているときの第2処置として、作業機械20を停止状態に切り替え、且つ、昇降機構30を上昇状態に切り替える。作業機械20を停止状態にすれば、それ以降は作業機械20の動作に伴うバッテリ77の電力消費がなくなる。また、昇降機構30を上昇状態にすれば、その後にトラクタ10を走行させるにあたって作業機械20の回転体21が路面との接触を通じてトラクタ10を制動することもない。したがって、本実施形態によれば、トラクタ10を圃場の外に退避させる前に、バッテリ77の容量不足により圃場内でトラクタ10が走行不能になることを防げる。
【0071】
(3)本実施形態では、トラクタ10が圃場に位置しているときの第2処置として、バッテリ77からの出力を制限する。バッテリ77からの出力を制限すれば、それ以降はバッテリ77の電力消費を抑えることができる。上記した作業機械20の停止に加え、さらにバッテリ77の出力制限を行うことで、バッテリ77の容量不足により圃場内でトラクタ10が走行不能になることをより確実に防げる。
【0072】
(4)本実施形態では、上記(3)のようにバッテリ77の出力制限を行う上での出力上限値Woutを、圃場側から周囲の路面側へと坂道を上るのに必要な電力である必要電力に設定している。そのため、バッテリ77の出力制限を行った場合でも、圃場から路面へと移動するのに必要な電力を確保できる。したがって、例えば水田のように、圃場が周囲の路面よりも低い位置にある場合でも、トラクタ10を確実に圃場の外に退避させることができる。
【0073】
(5)トラクタ10が圃場に位置しているときの第2処置に関して、本実施形態では、車速SPが規定車速SPK以下のとき、すなわち圃場の走行環境が悪くて大きな駆動力が必要と見込まれるときには、バッテリ77の出力制限を禁止する。このことにより、圃場の走行環境が悪い場合でも、トラクタ10を走行可能にできる。
【0074】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0075】
・車速SPの大小に応じてバッテリ77の出力制限を禁止することは必須ではない。例えば、出力上限値Woutとして設定する電力が相応に大きければ、バッテリ77の出力制限を禁止しなくても、走行に必要な駆動力を出力できる。
【0076】
・必要電力の定め方は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、必要電力は、様々な圃場に適用可能な汎用的な値でなくてもよく、ある特定の圃場の坂道を上るのに必要な電力でもよい。トラクタ10で耕耘する圃場が、ある特定の圃場のみに限定されているのであれば、その圃場にあった必要電力を定めればよい。ある特定の圃場の坂道を上るのに必要な電力は、例えば、過去にその坂道を上ったときに要した電力から把握できる。
【0077】
・必要電力は、圃場と周囲の路面との坂道の走行を考慮したものでなくてもよい。例えば、圃場によっては、周囲の路面との境界が段差になっていることもあり得る。このような場合には、その段差を乗り越えるのに必要な電力を必要電力として定めればよい。また、圃場と周囲の路面との間に坂道及び段差等がない場合、必要電力は、最低走行電力と一致することもある。このように、必要電力は、圃場と周囲の路面との境界を圃場側から路面側へと移動するのに必要な電力であればよい。
【0078】
・さらに、必要電力は、実際に圃場側から路面側へと移動するのに必要な電力をシミュレーション等で算出することなく定めることも可能である。例えば、必要電力は、最低走行電力に対して一定値大きな電力値、又は最低走行電力に対して一定割合大きな電力値として定めてもよい。
【0079】
・圃場用の第2処置における出力上限値Woutを必要電力以外に設定してもよい。出力上限値Woutは、第2処置の内容に応じて必要な値に設定すればよい。
・圃場用の第2処置の内容は、上記実施形態の例に限定されない。上記実施形態で行っていた3つの内容のうちの2つのみを行ってもよいし、1つのみを行ってもよい。また、上記実施形態で行っていた内容とは異なる処置を行ってもよい。圃場用の第2処置は、圃場用の第1処置とは異なる内容であり、且つ圃場内において異常に対して適切に対処できるものであればよい。
【0080】
・圃場用の第1処置の内容は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、第1処置において、バッテリ77の出力制限を行ってもよい。圃場用の第1処置は、バッテリ77の異常に対処するものであればよい。
【0081】
・圃場用の第1処置と第2処置との双方でバッテリ77の出力制限を行ってもよい。この場合、第2処置での出力上限値Woutを、第1処置のものより小さくすることが考えられる。そうした態様の一例として、第2処置での出力上限値Woutを最低走行電力とし、第1処置での出力上限値Woutを必要電力とすることも可能である。
【0082】
・上記実施形態では、第2条件が成立したときに、圃場用の第1処置をキャンセルして圃場用の第2処置を行っていた。しかし、第2条件が成立したときに、第1処置を継続し、且つ第2処置を行ってもよい。
【0083】
・通常用の第2処置における出力上限値Woutの設定の仕方は、上記実施形態の例に限定されない。上記の出力上限値Woutを最低走行電力より高くしても低くしてもよい。舗装された路面であれば、トラクタ10をけん引することができる。そのため、上記の出力上限値Woutを最低走行電力より低くしたとしても、トラクタ10を整備工場まで移動させることが可能である。
【0084】
・通常用の第2処置の内容は、上記実施形態の例に限定されない。通常用の第2処置は、圃場の外において異常に対して適切に対処できるものであればよい。同様に、通常用の第1処置の内容は、上記実施形態の例に限定されない。
【0085】
・圃場用の第1処置と同様、第2条件が成立したときに通常用の第1処置を継続してもよい。
・第1メッセージ~第4メッセージの内容は、上記実施形態の例に限定されない。各メッセージは、バッテリ77の現状を乗員に伝える上で適切な内容を含んでいればよい。
【0086】
・圃場用の第1処置及び第2処置での報知の仕方は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、ディスプレイ15にメッセージを表示することに代えて、又は加えて、ディスプレイ15に表示していたメッセージの内容についての音声案内を行ってもよい。この場合、トラクタ10に、音により報知を行う報知装置としてのスピーカを設ければよい。そして、スピーカを制御装置100の制御対象とすればよい。
【0087】
・圃場用の第1処置及び第2処置での報知の仕方に関して、例えば、警告灯による報知を行ってもよい。この場合、光による報知を行う報知装置として、警告灯を設ければよい。そして、警告灯を制御装置100の制御対象とすればよい。例えば、第1処置と第2処置とで点灯させる警告灯の色を異なるものにすれば、状況の違いを乗員に把握させることができる。こうした警告灯による報知を、メッセージの表示及び音声案内の少なくとも一方と併用してもいし、警告灯のみを利用した報知を行ってもよい。
【0088】
・圃場用の第1処置及び第2処置での報知の仕方に関して、例えば、ブザーによる報知を行ってもよい。この場合、上記音声案内の変更例と同様、トラクタ10に報知装置としてのスピーカを設ければよい。また、警告灯の変更例と同様、例えば第1処置と第2処置とで音色を異なるものにすれば、状況の違いを乗員に把握させることができる。こうしたブザーによる報知を、メッセージの表示、音声案内、及び警告灯の少なくとも1つと併用してもいし、ブザーのみを利用した報知を行ってもよい。
【0089】
・圃場用の第1処置と第2処置とで、異なる報知装置を利用してもよい。
・上記した圃場用の第1処置と第2処置とでの報知の仕方についての変更例を、通常用の第1処置と第2処置とでの報知の仕方に適用してもよい。
【0090】
・圃場用の第1処置と通常用の第1処置とで、異なる報知装置を利用してもよい。圃場用の第2処置と通常用の第2処置とについても同様である。
・第1条件及び第2条件は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、第1条件をバッテリ温度93Tで定めてもよい。この場合、例えば、バッテリ温度93Tが第1温度以上であることを第1条件にし、バッテリ温度93Tが第2温度以上であることを第2条件にしてもよい。第2温度は、第1温度よりも高い温度である。第1温度を、バッテリ77の異常が疑われる値とし、第2温度を、バッテリ77で異常が生じている可能性が高い値とすれば、上記実施形態と同様にして異常の前兆及び異常の発生に対して対処できる。第1条件及び第2条件を上記実施形態から変更する場合でも、第2条件は、異常の発生を示す条件として定められていればよい。第1条件は、第2条件が成立したときに成立し、且つ第2条件が成立していない一部の状況でも成立する条件であればよい。
【0091】
・第1条件及び第2条件を、異なるパラメータによって規定してもよい。例えば、第1条件をバッテリ77の充電率SOCに基づく条件とし、第2条件をバッテリ温度93Tに基づく条件としてもよい。また、複数のパラメータを組み合わせて第1条件及び第2条件を規定してもよい。第2条件が成立したときに第1条件が成立し、且つ第2条件が成立していない一部の状況でも第1条件が成立するのであれば、第1条件及び第2条件とで同一のパラメータを採用する必要はない。
【0092】
・異常の検出対象は、バッテリ77に限定されない。バッテリ77から第1電動モータ41に至る電気系統であれば、どの部品を異常の検出対象としてもよい。例えば、正極ライン81を異常の検出対象としてもよい。異常の検出対象を上記実施形態から変更する場合、その検出対象での異常を検出するのに必要となるパラメータをセンサで検出したり、推定したりすればよい。そして、そのパラメータを利用して第1条件及び第2条件を規定すればよい。例えば正極ライン81の異常を検出する上では、当該正極ライン81の温度を、異常の検出のためのパラメータとすることが考えられる。
【0093】
・上記実施形態では、圃場用の第1処置を実行するための条件と、通常用の第1処置を実行するための条件とが同じであった。しかし、これらの条件を互いに異なるものにしてもよい。圃場用の第2処置を実行するための条件と、通常用の第2処置を実行するための条件についても同様である。
【0094】
・トラクタ10が圃場に位置しているか否かを把握するための手法は、位置情報スイッチ51を利用するものに限定されない。例えば、GPSの位置情報と地図情報とを利用してもよい。この場合、トラクタ10にGPS受信器を設け、制御装置100に地図情報を記憶させておけばよい。
【0095】
・制御装置100とは別に、異常検出装置としての処理装置を設けてもよい。この場合でも、異常検出装置は、異常対処処理を実行可能であり、且つ、報知装置、作業機械20、及び昇降機構30を制御対象とする構成になっていればよい。
【0096】
・トラクタ10の全体構成は上記実施形態の例に限定されない。昇降機構30の構成を変更してもよい。例えば、昇降機構30において、油圧装置35に代えて、第3電動モータ43の回転運動を直線運動に変換する機械的な機構を採用してもよい。そして、この機械的な機構をアーム32に接続してもよい。
【0097】
・作業機械20の構成を変更してもよい。作業機械20は、PTO25からのトルクによって動作する機械であれば、どのようなものでも構わない。
・電動モータの数を変更してもよい。例えば、上記実施形態において、第2電動モータ42が昇降機構30の駆動を担うように諸々の構成を変更すれば、第3電動モータ43を廃止することも可能である。
【符号の説明】
【0098】
10…トラクタ
15…ディスプレイ
20…作業機械
30…昇降機構
41…第1電動モータ
77…バッテリ
100…制御装置