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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188557
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】充電条件決定方法及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20221214BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H01M10/44 A
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096688
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】山野井 明日香
(72)【発明者】
【氏名】熊林 慧
(72)【発明者】
【氏名】浅田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祥太
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AA01
5H030AA06
5H030BB01
5H030FF43
(57)【要約】      (修正有)
【課題】金属リチウムの析出が抑制された充電を行うことができる条件を決定する充電条件決定方及び蓄電素子を提供する。
【解決手段】充電条件決定方法は、実験装置10において、正極12と、負極13と、参照極14とを備える三電極セル11を準備することと、三電極セル11に対し、参照極14を基準とした負極電位の制御により充電操作を行うことと、充電操作により得られるプロファイルを用いて充電条件を決定することと、を備える。参照極14は、多孔性部位を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、参照極とを備える三電極セルを準備すること、
上記三電極セルに対し、上記参照極を基準とした負極電位の制御により充電操作を行うこと、及び
上記充電操作により得られるプロファイルを用いて充電条件を決定すること
を備え、
上記参照極が、多孔性部位を有する充電条件決定方法。
【請求項2】
上記参照極が、先端部以外が絶縁層で被覆された銅線を有し、
上記銅線の先端部を被覆するように上記多孔性部位が配置されている請求項1に記載の充電条件決定方法。
【請求項3】
上記充電操作が、定電流定電位充電を含む請求項1又は請求項2に記載の充電条件決定方法。
【請求項4】
上記多孔性部位の多孔度が50%以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の充電条件決定方法。
【請求項5】
正極と、負極と、参照極とを備え、
上記参照極が、多孔度が50%以上である多孔性部位を有する蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電条件決定方法及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の場合、通常、負極には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられるが、充電条件によっては、負極表面に金属リチウムの析出が生じることがある。金属リチウムの析出は、内部短絡の原因等となるため好ましくない。このようなリチウムイオン二次電池における負極表面の金属リチウムの析出を判定する方法として、特許文献1には、定電流充電における電池電圧の時間当たり変化量を検出し、この変化量に基づいて金属リチウムが析出したことを判定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-89363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、蓄電素子の使用に伴う金属リチウムの析出自体を抑制するためには、設計段階において、その蓄電素子に対応した適切な充電条件を設定する必要がある。特に、急速充電や低温充電を行う場合は金属リチウムの析出が生じ易くなるため、金属リチウムの析出が抑制された急速充電や低温充電を行うことができる条件を決定する方法の開発が期待される。そしてこのためには、負極電位を精度高く測定できることが重要となる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、金属リチウムの析出が抑制された充電を行うことができる条件を決定する方法、及び負極電位を精度高く測定可能な蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る充電条件決定方法は、正極と、負極と、参照極とを備える三電極セルを準備すること、上記三電極セルに対し、上記参照極を基準とした負極電位の制御により充電操作を行うこと、及び上記充電操作により得られるプロファイルを用いて充電条件を決定することを備え、上記参照極が、多孔性部位を有する。
【0008】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、正極と、負極と、参照極とを備え、上記参照極が、多孔度が50%以上である多孔性部位を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、金属リチウムの析出が抑制された充電を行うことができる条件を決定する方法、及び負極電位を精度高く測定可能な蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、充電条件決定方法の一実施形態に用いられる実験装置を示す模式図である。
図2図2は、充電条件決定方法の一実施形態に用いられる参照極を示す模式的断面図である。
図3図3は、10Cの電流での定電流充電における、参照極を基準とした負極電位の推移についてのシミュレーション結果を示すグラフである。
図4図4は、20Cの電流での定電流充電における、参照極を基準とした負極電位の推移についてのシミュレーション結果を示すグラフである。
図5図5は、充電条件決定方法の一実施形態として、充電操作として定電流定電位充電を行ったときに得られるプロファイル(参照極を基準とした負極電位及び電流の推移)の一例を示すグラフである。
図6図6は、蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
図7図7は、蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本明細書によって開示される充電条件決定方法及び蓄電素子の概要について説明する。
【0012】
本発明の一側面に係る充電条件決定方法は、正極と、負極と、参照極とを備える三電極セルを準備すること、上記三電極セルに対し、上記参照極を基準とした負極電位の制御により充電操作を行うこと、及び上記充電操作により得られるプロファイルを用いて充電条件を決定することを備え、上記参照極が、多孔性部位を有する。
【0013】
当該充電条件決定方法によれば、以下のような理由から、金属リチウムの析出が抑制された充電を行うことができる条件を決定することができる。負極における金属リチウムの析出は、熱力学的には負極電位が0V(vs.Li/Li)以下になったときに生じる。そのため、金属リチウムの析出を抑制するためには、負極電位を正確に把握する必要があり、この場合、参照極を用い、参照極を基準として負極電位を測定することが一般的に行われる。しかし、従来の非多孔性の参照極は、正極と負極との間に配置すると電解質中のリチウムイオンの移動を阻害し、測定結果に影響を与える。リチウムイオンの移動を阻害しないように負極の裏面側(正極と対向する面とは反対面側)等の正極と負極との間以外に参照極を配置すると、正確な負極電位を測定することができない。これに対し、当該充電条件決定方法においては、多孔性部位を有する参照極を用いるため、正極と負極との間に参照極を配置しても、リチウムイオンの移動が阻害されにくい。そのため、負極電位を正確に把握するにあたり、負極と参照極との間のIRドロップ(電解質等の抵抗による電圧降下)のみを実質的に考慮すればよくなり、負極電位を精度高く測定することができる。従って、このような参照極を用い、この参照極を基準とした負極電位の制御による充電操作により得られるプロファイルを用いて充電条件を決定することで、金属リチウムの析出が抑制された充電を行うことができる条件を決定することができる。
【0014】
なお、「多孔性」とは、多孔度が10%超であることを意味する。すなわち、多孔性部位とは、多孔度が10%超である部位である。また、「多孔度」は、下記式1で求められる値とする。
多孔度(%)={1-(かさ密度/理論密度)}×100 ・・・1
かさ密度は、測定対象の部位(多孔性部位)の質量を体積で除した値である。理論密度は、測定対象の部位を構成する部材自体の密度(真密度)である。測定対象の部位の体積は、デジタルカメラまたは電子顕微鏡などにより取得される画像の画像処理により求められる面積と、マイクロメータにより測定される厚さとから求めることができる。後述する蓄電素子に備わる参照極においては、蓄電素子を解体し、参照極を取り出して、ジメチルカーボネートにより充分に洗浄した後、室温にて減圧乾燥を行ったものに対して測定する。
【0015】
上記参照極は、先端部以外が絶縁層で被覆されたリチウムと合金化しない金属からなる線を有し、上記リチウムと合金化しない金属からなる線の先端部を被覆するように上記多孔性部位が配置されていることが好ましい。このような参照極を用いることで、より精度高く負極電位を測定することができ、また、このような参照極は製造も比較的容易である。上記リチウムと合金化しない金属からなる線としては、例えば、銅線、SUS線、コバルト線等を用いることができる。これらの中でも、コストの観点から銅線が好ましい。
【0016】
上記充電操作は、定電流定電位充電を含むことが好ましい。定電流定電位充電により得られるプロファイルを用いることで、金属リチウムの析出が生じにくい充電条件を効率的に決定することなどができる。
【0017】
上記多孔性部位の多孔度は50%以上であることが好ましい。このような高い多孔度の多孔性部位を有する参照極を用いることで、より精度高く負極電位を測定することができ、その結果、より正確に金属リチウムの析出が生じにくい充電条件を決定することができる。
【0018】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、正極と、負極と、参照極とを備え、上記参照極が、多孔度が50%以上である多孔性部位を有する。
【0019】
当該蓄電素子は、多孔度が50%以上である多孔性部位を有する参照極を備えるため、負極電位を精度高く測定可能である。また、当該蓄電素子によれば、正極電位も精度高く測定することができる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る充電条件決定方法、蓄電素子、蓄電装置、蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0021】
<充電条件決定方法>
本発明の一実施形態に係る充電条件決定方法は、正極と、負極と、参照極とを備える三電極セルを準備すること、上記三電極セルに対し、上記参照極を基準とした負極電位の制御により充電操作を行うこと、及び上記充電操作により得られるプロファイルを用いて充電条件を決定することを備える。
【0022】
図1に、三電極セル11を含む実験装置10を示す。三電極セル11は、正極12と、負極13と、参照極14とを備える。正極12と、負極13と、参照極14とは、電解質15に浸されている。三電極セル11は、その他、各電極間に配置されたセパレータ(図示せず)等をさらに備えていてもよい。三電極セル11は、充放電装置16を介して制御用PC(パーソナルコンピュータ)17に接続されている。制御用PC17は、メモリに格納される充放電プログラムに従って充放電装置16を制御する。三電極セル11は、充放電装置16によって、充電及び放電される。
【0023】
正極12と、負極13と、参照極14とは、充放電装置16に接続されている。正極12及び負極13は特に限定されず、従来公知の正極及び負極を用いることができる。リチウムイオン二次電池の場合、通常、正極12又は負極13の少なくとも一方の活物質として、リチウム元素を含む活物質が用いられる。正極及び負極の具体例としては、後述する本発明の一実施形態に係る蓄電素子に備わる正極及び負極が挙げられる。参照極14については、後に詳述する。また、電解質15は、従来公知の電解質を用いることができる。リチウムイオン二次電池の場合、電解質15としては、リチウム塩と非水溶媒とを含む非水電解液を用いることができる。電解質15の具体例としては、後述する本発明の一実施形態に係る蓄電素子に備わる電解質が挙げられる。制御用PC17は、充放電装置16を介して、参照極14を基準とした負極13の電位を検出する。制御用PC17は、参照極14を基準とした正極12の電位をさらに検出することができるものであってもよい。
【0024】
図1の三電極セル11において、参照極14は、正極12と負極13との間に配置されている。参照極14は、多孔性部位を有する。図2に、参照極14の好適な形態を示す。
【0025】
図2の参照極14は、先端部18a以外が絶縁層19で被覆された銅線18を有する。図2の参照極14においては、絶縁層19で被覆されていない先端部18aは、銅線18の端面である。銅線18の先端部18a(端面)を被覆するように多孔性部位20が配置されている。
【0026】
絶縁層19を形成する材料は、絶縁性を有するものであれば特に限定されず、例えば樹脂等を用いることができる。絶縁性とは、導電性を有さないことをいう。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cmを閾値として判定する。絶縁層19で被覆された銅線18の直径(絶縁層19の厚さも含む直径)としては、例えば10μm以上100μm以下程度である。また、参照極14に銅線18を用いること、すなわち参照極14の芯材が金属銅であることで、多孔性部位20が金属リチウムである場合に金属リチウムと金属銅とが合金化せず、金属リチウム基準での電位をより精度高く取得できるといった利点がある。
【0027】
多孔性部位20は、参照極14の電位の基準となる部分である。多孔性部位20は、三電極セル11の充放電性能に実質的に影響を与えず、負極13との電位差を測定可能な材質であれば特に限定されないが、金属リチウムであることが好ましい。なお、金属リチウムは、リチウム元素のみからなる純金属リチウムであってもよく、他の元素を含むリチウム合金であってもよい。
【0028】
多孔性部位20の長さLとしては、例えば500μm以上10mm以下とすることができる。多孔性部位20の厚さTとしては、例えば5μm以上100μm以下とすることができる。多孔性部位20の厚さTは、例えば絶縁層19で被覆された銅線18の直径と同等程度であってもよく、それより大きくてもよい。多孔性部位20は、平板状の形状であってもよい。平板状の多孔性部位20は、例えば平面視において、銅線18の先端部18aを中心とした略円形状であってもよく、略方形状等であってもよい。多孔性部位20の平面視における幅(平面視における長さLと直交する方向の最大長さ)としては、例えば500μm以上10mm以下とすることができる。
【0029】
多孔性部位20が金属リチウムである場合、このような多孔性部位20は、例えば三電極セル11において、多孔性部位20を設けていない参照極14から正極12へ電流を流す(正極と参照極との間で充電操作を行う)ことにより形成することができる。このような操作をすることで、電解質中に通常含まれるリチウムイオンが、銅線18の先端部18aに金属リチウムとして析出し、金属リチウムである多孔性部位20が形成される。なお、板状の正極12と板状の負極13との間に、セパレータを介して、多孔性部位20を設けていない参照極14(先端部18aが絶縁層19で被覆されていない銅線18)を配置して電極体を形成し、この電極体を圧迫した状態で上記のような充電操作を行うことで、金属リチウムである平板状の多孔性部位20を形成することができる。
【0030】
多孔性部位20の多孔度の下限としては、例えば30%であってもよいが、50%が好ましく、60%がより好ましく、70%がさらに好ましい。多孔性部位20の多孔度を高めることで、測定される負極電位の精度を高めることができる。一方、多孔性部位20の強度等の観点から、多孔性部位20の多孔度は、例えば90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい場合もある。多孔性部位20の多孔度は、例えば上記の充電操作における電流密度、時間、温度、正極と参照極との間の距離等を変更することによって調整することができる。
【0031】
多孔性部位20の多孔度の影響に関し、図3及び図4に、10C又は20Cの電流での定電流充電における参照極を基準とした負極電位の推移についてのシミュレーション結果を示す。各シミュレーションにおいては、参照極における多孔性部位としての金属リチウムの多孔度(porosity)を1%(非多孔性)、10%(非多孔性)、50%(多孔性)及び100%とそれぞれ仮定した場合の結果を示している。多孔度100%は、参照極による阻害が全くないと仮定したものである。図3は、充電電流10Cとした結果であり、図4は、充電電流20Cとした結果である。また、これらのシミュレーションは、参照極を正極と負極との間に配置したモデルに基づいたものである。参照極を基準とした負極電位は、真の負極電位に対して、理論上IRドロップ分低下した値として測定される。IRドロップは、設定した電流Iと、インピーダンス測定等から得られる抵抗Rとから求めることができる。多孔度100%の参照極を基準とした負極電位は、真の負極電位に対してIRドロップ分低下した値として測定されるものであり、理論上最も精密に取得できる負極電位といえる。図3及び図4に示されるように、多孔度50%の参照極を基準とした負極電位は、多孔度100%の参照極を基準とした負極電位とほぼ一致しており、負極電位を精度高く測定できるため、IRドロップ分だけ補正すれば、精度高く真の負極電位を求めることができることがわかる。一方、多孔度1%及び多孔度10%の参照極を基準とした負極電位は、特に電流が大きい図4において、多孔度100%の参照極を基準とした負極電位との差が大きく、負極電位を精度高く測定できていないため、IRドロップ分を補正するだけでは真の負極電位を精度高く求めることができないことがわかる。
【0032】
次いで、プロファイル(充電操作の際の電流等の推移のデータ)を得るための充電操作について説明する。充電操作は、三電極セルに対し、参照極を基準とした負極電位の制御により行う。この充電操作は、例えば、定電流定電位充電として行うことができる。定電流定電位充電を用いた一例を、図5に示す。この例では、負極電位が0V(vs.Li/Li)に達するまでは定電流で充電を行い、負極電位が0V(vs.Li/Li)に達した後は、この負極電位が保たれるように制御して充電を行っている。
【0033】
このような充電操作により得られるプロファイルを用いて充電条件を決定することができる。例えば図5の結果に基づいて、多段階の充電条件を設定することができる。具体的には、図5における充電電気量が0からaの間は電流A、充電電気量がaからbの間は電流B、充電電気量がbからcの間は電流C、充電電気量がcからdの間は電流D、及び充電電気量がdからeの間は電流Eの各電流で充電を行う充電条件とすることで、負極電位が0V(vs.Li/Li)未満とならないように制御された、すなわち金属リチウムの析出が抑制された充電条件を得ることができる。
【0034】
なお、例えば定電流定電位充電等を行う場合の定電位充電時の負極電位は、0V(vs.Li/Li)以外の電位で制御してもよい。例えば電流密度等によって生じる過電圧が異なり、金属リチウムの析出が生じる電位が異なるため、これらを考慮して定電位充電時の負極電位を所定の値で制御してもよい。また、得られたプロファイルに対してIRドロップ分の補正を加味して充電条件を決定してもよい。
【0035】
また、プロファイルを得るための充電操作は、一段階の定電流定電位充電に限定されず、多段階定電流充電、多段階定電流定電位充電等を採用してもよい。多段階定電流充電等を行うときの、各電流値で行う充電の終止条件は、例えば負極電位が0V(vs.Li/Li)等の所定の電位となったときとすることができる。また、各段階における充電終止時の負極電位は、同一でも異なってもよい。多段階定電流充電等でプロファイルを得た場合も、この得られたプロファイルに基づいて、上記の定電流定電位充電により得られたプロファイルを用いた場合と同様に充電条件を決定することができる。
【0036】
本発明の一実施形態に係る充電条件決定方法は、急速充電や低温充電における多段階の充電条件を決定する方法として好適に採用することができる。急速充電とは、最大値が2C以上の電流で充電することをいい、上記電流の最大値は10C以上又は20C以上であってもよい。上記電流の最大値の上限は、例えば100Cであってもよい。低温充電とは、0℃以下の環境で充電することをいい、この場合の電流値は上記に限定されない。
【0037】
上記のような急速充電や低温充電は、例えば電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、ハイブリッド自動車(HEV)等の自動車用電源(蓄電素子)、産業用途の電源(蓄電素子)、定置用途の電源(蓄電素子)などで採用され得る。従って、本発明の一実施形態に係る充電条件決定方法は、自動車用電源(蓄電素子)、産業用途の電源(蓄電素子)、定置用途の電源(蓄電素子)などの充電条件決定方法として好適に用いることができる。
【0038】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、電解質と、上記電極体及び電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。電解質は、正極、負極及びセパレータに含浸された状態で存在する。また、当該蓄電素子は、参照極をさらに備える。蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0039】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0040】
正極基材は、導電性を有する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0041】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0042】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0043】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0044】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0046】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0047】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0048】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0049】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0050】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0051】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0052】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0053】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0054】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0055】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0056】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0057】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0058】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0059】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba、等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0060】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0062】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0063】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0064】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0065】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0066】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質がSiやSn等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0067】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0068】
(参照極)
参照極は、多孔度が50%以上である多孔性部位を有する。当該蓄電素子に備わる参照極の具体的形態及び好適形態は、本発明の一実施形態に係る充電条件決定方法で用いられる参照極として説明した参照極であって多孔性部位の多孔度が50%以上であるものの形態が挙げられる。
【0069】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、電解質(電解液)の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0070】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0071】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0072】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0073】
(電解質)
非水電解質二次電池には、電解質として非水電解質が用いられる。非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0074】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0075】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0076】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0077】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0078】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0079】
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0080】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm以上2.5mol/dm以下であると好ましく、0.3mol/dm以上2.0mol/dm以下であるとより好ましく、0.5mol/dm以上1.7mol/dm以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm以上1.5mol/dm以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0081】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0083】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0084】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0085】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、LiS-P、LiI-LiS-P、Li10Ge-P12等が挙げられる。
【0086】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0087】
図6に角型電池の一例としての蓄電素子101を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体102が角型の容器103に収納される。正極は正極リード141を介して正極端子104と電気的に接続されている。負極は負極リード151を介して負極端子105と電気的に接続されている。
【0088】
また、蓄電素子101においては、電極体102を構成する正極と負極との間に参照極106の先端部分が差し込まれている。一実施形態において、参照極106の先端部分(多孔性部位を含む部分)は、正極と負極との間に配置される。参照極106は、例えばセパレータを介して、正極及び負極と接触しないように正極と負極との間に配置することができる。また、参照極106は、容器103の上面に設けられた参照極端子107と電気的に接続されている。参照極106の具体的構成としては、例えば図2の参照極14と同様の構成が挙げられる。
【0089】
当該蓄電素子101は、多孔度が50%以上である多孔性部位を有する参照極106を備えるため、従来の装置を用いてこの蓄電素子101の負極電位を精度高く測定することができる。また、当該蓄電素子101の正極電位も同様に精度高く測定することができる。
【0090】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の蓄電素子は、EV、HEV、PHEV等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、産業用途の電源、定置用途の電源又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも1つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0091】
図7に、電気的に接続された2つ以上の蓄電素子101が集合した蓄電ユニット120をさらに集合した蓄電装置130の一例を示す。蓄電装置130は、2つ以上の蓄電素子101を電気的に接続するバスバ(図示せず)、2つ以上の蓄電ユニット120を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット120又は蓄電装置130は、1つ以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。状態監視装置としては、例えば参照極を基準とした負極電位等を監視する装置が挙げられる。
【0092】
<蓄電素子の製造方法>
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、電解質を準備することと、電極体及び電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極、負極及び参照極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0093】
なお、電極体を形成することにおいては、正極と負極との間に参照極を配置した状態で電極体を形成することができる。また、多孔性部位を有さない参照極を用いて蓄電素子を組み立て、上述のように、正極と参照極との間で充電操作を行うことにより、参照極に多孔性部位を形成してもよい。
【0094】
<その他の実施形態>
尚、本発明の充電条件決定方法及び蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0095】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0096】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【0097】
また、上記実施形態における充電条件決定方法及び蓄電素子において、参照極は正極と負極との間に配置したが、参照極の配置箇所は任意である。本発明の蓄電素子には、例えば図1の三電極セル11のような、充電条件決定方法に用いられる蓄電素子(三電極セル)も含まれる。また、本発明の充電条件決定方法及び蓄電素子で用いられる参照極は、先端部以外が絶縁層で被覆された銅線以外の材料の先端に多孔性部位が設けられたものなどであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、自動車等の電源として使用される蓄電素子における充電条件を決定する方法等に適用できる。
【符号の説明】
【0099】
10 実験装置
11 三電極セル
12 正極
13 負極
14 参照極
15 電解質
16 充放電装置
17 制御用PC
18 銅線
18a 先端部
19 絶縁層
20 多孔性部位
101 蓄電素子
102 電極体
103 容器
104 正極端子
141 正極リード
105 負極端子
106 参照極
107 参照極端子
151 負極リード
120 蓄電ユニット
130 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7