(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188562
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】シール材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 15/02 20060101AFI20221214BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20221214BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20221214BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20221214BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C08L15/02
C08J3/24 Z CEW
C08L61/06
C08L27/18
C09K3/10 M
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096694
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】浜村 武広
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
【テーマコード(参考)】
4F070
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA23
4F070AA44
4F070AB11
4F070AC23
4F070AC56
4F070AC66
4F070AE01
4F070AE08
4F070GA05
4F070GA07
4F070GC02
4H017AA04
4H017AB12
4H017AB17
4H017AD06
4H017AE05
4J002BD151
4J002CC032
4J002FD010
4J002FD142
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】架橋効率の高い未架橋フッ素ゴム組成物を提供する。
【解決手段】未架橋フッ素ゴム組成物は、分子鎖にプロピレン単位を有するフッ素ゴムを主成分とするゴム成分と、フェノール樹脂とを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子鎖にプロピレン単位を有するフッ素ゴムを主成分とするゴム成分と、フェノール樹脂と、を含有する未架橋フッ素ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載された未架橋フッ素ゴム組成物において、
前記分子鎖にプロピレン単位を有するフッ素ゴムが、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、及び/又は、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体である未架橋フッ素ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された未架橋フッ素ゴム組成物において、
前記フェノール樹脂が前記ゴム成分に分散した粉体である未架橋フッ素ゴム組成物。
【請求項4】
請求項3に記載された未架橋フッ素ゴム組成物において、
前記フェノール樹脂の粉体の平均粒子径が20μm以下である未架橋フッ素ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された未架橋フッ素ゴム組成物において、
架橋剤を更に含有する未架橋フッ素ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5に記載された未架橋フッ素ゴム組成物において、
前記架橋剤が有機過酸化物を含む未架橋フッ素ゴム組成物。
【請求項7】
請求項6に記載された未架橋フッ素ゴム組成物において、
架橋助剤を更に含有する未架橋フッ素ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載された未架橋フッ素ゴム組成物の前記ゴム成分を架橋させた架橋フッ素ゴム組成物で形成されたシール材。
【請求項9】
請求項8に記載されたシール材において、
前記架橋フッ素ゴム組成物の圧縮永久ひずみが40%未満であるシール材。
【請求項10】
請求項8又は9に記載されたシール材において、
前記架橋フッ素ゴム組成物の100℃のN-メチルジエタノールアミンに168時間浸せきした後の体積変化率が10%以下であるシール材。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれかに記載されたシール材において、
前記架橋フッ素ゴム組成物におけるゴム配合剤由来の金属含有量が500ppm以下である未架橋フッ素ゴム組成物。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれかに記載されたシール材において、
半導体製造装置に使用されるシール材。
【請求項13】
請求項1乃至8のいずれかに記載された未架橋フッ素ゴム組成物をシール材形状に形成して前記ゴム成分を架橋させるシール材の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載されたシール材の製造方法において、
前記シール材形状に形成した未架橋フッ素ゴム組成物に、所定温度で所定時間の加熱を行って前記ゴム成分を一次架橋させることにより一次架橋物を得る一次架橋ステップと、
前記一次架橋物に、前記一次架橋ステップよりも高温で長時間の加熱を行って前記ゴム成分を二次架橋させることにより二次架橋物を得る二次架橋ステップと、
を備えたシール材の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載されたシール材の製造方法において、
放射線の照射を行って前記ゴム成分を架橋させる放射線架橋ステップを更に備えたシール材の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載されたシール材の製造方法において、
前記放射線架橋ステップでは、前記二次架橋ステップ後の前記二次架橋物に放射線の照射を行うシール材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未架橋フッ素ゴム組成物並びにそれを用いて製造されるシール材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体(以下「FEPM」ともいう。)は、耐アミン性に優れるゴム材料として、種々のゴム製品に使用されている。特許文献1には、FEPMとシラン化合物とを含有する架橋フッ素ゴム組成物が開示されている。特許文献2には、FEPMとフッ素系熱可塑性エラストマーとを含有する架橋フッ素ゴム組成物が開示されている。特許文献3乃至5には、FEPMを放射線照射により架橋させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-118536号公報
【特許文献2】特開2004-277496号公報
【特許文献3】特開2004-263038号公報
【特許文献4】特開2004-292486号公報
【特許文献5】特許第4129946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、架橋効率の高い未架橋フッ素ゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、分子鎖にプロピレン単位を有するフッ素ゴムを主成分とするゴム成分と、フェノール樹脂とを含有する未架橋フッ素ゴム組成物である。
【0006】
本発明は、本発明の未架橋フッ素ゴム組成物の前記ゴム成分を架橋させた架橋フッ素ゴム組成物で形成されたシール材である。
【0007】
本発明は、本発明の未架橋フッ素ゴム組成物をシール材形状に形成して前記ゴム成分を架橋させるシール材の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分子鎖にプロピレン単位を有するフッ素ゴムをゴム成分の主成分とし、且つフェノール樹脂を含有することにより、高い架橋効率を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0010】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物は、分子鎖にプロピレン単位を有するフッ素ゴム(以下「フッ素ゴムA」という。)を主成分とするゴム成分と、フェノール樹脂とを含有する。この未架橋フッ素ゴム組成物によれば、フッ素ゴムAをゴム成分の主成分とし、且つフェノール樹脂を含有することにより、高い架橋効率を得ることができる。
【0011】
ここで、ゴム成分におけるフッ素ゴムAの含有量は、50質量%以上であり、優れた耐アミン性を得る観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。ゴム成分は、フッ素ゴムA以外のフッ素ゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム等を含んでいてもよい。
【0012】
フッ素ゴムAとしては、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体(FEPM)が挙げられ、具体的には、例えば、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニル共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-トリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体等が挙げられる。フッ素ゴムAは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、優れた耐アミン性を得る観点から、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、及び/又は、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体を含むことがより好ましい。
【0013】
フェノール樹脂は、高い架橋効率を得る観点から、レゾール型及びノボラック型のいずれでもないことが好ましい。フェノール樹脂は、同様の観点から、分子内にメチロール基を有することが好ましい。
【0014】
フェノール樹脂は、高い架橋効率を得る観点から、ゴム成分に分散した粉体であることが好ましい。この場合、フェノール樹脂の粉体の平均粒子径は、同様の観点から、好ましくは0.5μm以上20μm以下、より好ましくは1μm以上10μm以下、更に好ましくは1.2μm以上2μm以下である。
【0015】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物におけるフェノール樹脂の含有量Pは、フェノール樹脂以外の充填剤を含有する場合、高い架橋効率を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上30質量部以下、より好ましくは1質量部以上20質量部以下、更に好ましくは1質量部以上10質量部以下である。フェノール樹脂以外の充填剤を含有しない場合には、高い架橋効率及び十分な機械的特性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上50質量部以下、より好ましくは5質量部以上40質量部以下、更に好ましくは10質量部以上30質量部以下である。
【0016】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物は、充填剤としてシリカを更に含有していてもよい。シリカとしては、例えば、ヒュームドシリカなどの乾式法シリカ、沈澱シリカなどの湿式法シリカが挙げられる。また、シリカは、オルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシラン、ヘキサオルガノジシラザン、オルガノシロキサンオリゴマー等で表面が疎水化処理されていてもよい。シリカは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、高い架橋効率を得る観点から、オルガノクロロシランで表面が疎水化処理された乾式法シリカを含むことがより好ましく、ジメチルジクロロシランで表面が疎水化処理されたヒュームドシリカを含むことが更に好ましい。
【0017】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物におけるシリカの含有量Qは、十分な機械的特性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは5質量部以上15質量部以下である。未架橋フッ素ゴム組成物におけるシリカの含有量Qは、フェノール樹脂の含有量P以上であることが好ましい。未架橋フッ素ゴム組成物におけるシリカの含有量Qのフェノール樹脂の含有量Pに対する比(Q/P)は、同様の観点から、好ましくは1以上15以下、より好ましくは1以上3以下である。
【0018】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物は、カーボンブラックを含有していないことが好ましい。
【0019】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物は、架橋剤を更に含有していてもよい。架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、ポリオール、ポリアミン、トリアジン等が挙げられる。架橋剤は、高い架橋効率を得る観点から、これらのうちの有機過酸化物を含むことが好ましい。
【0020】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、1,3-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、1,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-3などのジアルキルパーオキサイド;1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレートなどのパーオキシケタール;2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエートなどのパーオキシエステル等が挙げられる。有機過酸化物は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、1,3-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、1,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンのうちの1種又は2種以上を含むことがより好ましい。
【0021】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物における架橋剤の有機過酸化物の含有量Xは、高い架橋効率を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上4質量部以下、更に好ましくは1質量部以上2質量部以下である。
【0022】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物は、架橋剤の有機過酸化物を含有する場合、架橋助剤を更に含有していてもよい。架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリメタリルイソシアヌレートなどのアリル系架橋助剤;N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、マレイミド、フェニルマレイミドなどのマレイミド系架橋助剤;トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレートなどのメタクリレート系架橋助剤;1,2-ポリブタジエン等が挙げられる。架橋助剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、高い架橋効率を得る観点から、アリル系架橋助剤を含むことがより好ましく、トリアリルイソシアヌレートを含むことが更に好ましい。
【0023】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物における架橋助剤の含有量Yは、高い架橋効率を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上8質量部以下、更に好ましくは2質量部以上6質量部以下である。
【0024】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物における架橋助剤の含有量Yは、高い架橋効率を得る観点から、有機過酸化物の含有量Xよりも多いことが好ましい。未架橋フッ素ゴム組成物における架橋助剤の含有量Yの有機過酸化物の含有量Xに対する比(Y/X)は、同様の観点から、好ましくは1以上10以下、より好ましくは1.5以上4以下である。
【0025】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物は、必要に応じて、その他のゴム配合剤を含有していてもよい。
【0026】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物は、オープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練機に、フッ素ゴムAを主成分とするゴム成分を投入して素練りし、そこにフェノール樹脂を含む各種のゴム配合剤を添加して混練することにより得ることができる。
【0027】
以上の構成の実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物は、各種ゴム製品のゴム材料として用いることができ、例えばOリング等のシール材、特に半導体製造装置に使用されるシール材のシール材用ゴム材料として好適に用いることができる。
【0028】
実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物を用いて製造したシール材において、それを形成する架橋フッ素ゴム組成物の硬さHsは、A50以上A95以下であることが好ましい。この硬さHsは、JIS K6253-3:2012に基づいて、タイプAデュロメータを用い、加圧板を試験片に接触させた瞬間値として測定されるものである。
【0029】
シール材を形成する架橋フッ素ゴム組成物の引張強さTbは、10MPa以上であることが好ましい。伸びEbは、100%以上であることが好ましい。100%伸びにおける引張応力S100は、1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。これらの引張強さTb、伸びEb、及び100%伸びにおける引張応力S100は、JIS K6251:2017に基づいて、ダンベル状3号形の試験片で測定されるものである。
【0030】
シール材を形成する架橋フッ素ゴム組成物の圧縮永久ひずみは、好ましくは40%未満、より好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下である。この圧縮永久ひずみは、JIS K6262:2013に基づいて、試験温度を200℃及び試験時間を72時間として測定されるものである。
【0031】
シール材を形成する架橋フッ素ゴム組成物の耐アミン性は、JIS K6258:2016に準拠して、試験片を100℃のN-メチルジエタノールアミンに168時間浸せきした後の体積変化率として測定される。この体積変化率は、10%以下であることが好ましい。
【0032】
シール材を形成する架橋フッ素ゴム組成物は、半導体製造装置のシール材の製造に用いた場合に半導体への金属の混入を抑制する観点から、一般に受酸剤として用いられるステアリン酸カルシウムなどの金属塩、酸化カルシウムなどの金属酸化物、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物等の金属化合物の含有量が少ないことが好ましい。
【0033】
ゴム成分のフッ素ゴムAは、通常、その合成過程において金属成分が混入する。しかしながら、この金属成分は、フッ素ゴムAのポリマー中に取り込まれるため、外部には流出しにくい。そのため、ここで問題となるのは、ゴム配合剤由来の金属成分である。そこで、架橋フッ素ゴム組成物におけるゴム配合剤由来の金属含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、更に好ましくは100ppm以下である。このゴム配合剤由来の金属含有量は、後述の実施例に記載の方法の通り、架橋フッ素ゴム組成物における総金属含有量から、そのうちのゴム成分由来の金属含有量を引いた差である。また、これらの金属含有量は、ICP発光分光分析装置を用いて求められるNa、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、及びSbの合計量である。
【0034】
次に、実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物を用いたシール材の製造方法について説明する。
【0035】
まず、実施形態に係る未架橋フッ素ゴム組成物を所定量とり、それを金型に形成されたシール材形状のキャビティに充填した後、金型を型締めして未架橋フッ素ゴム組成物を、そのシール材形状に形成する。
【0036】
続いて、金型を熱盤間に挟み、シール材形状に形成した未架橋フッ素ゴム組成物に、所定温度(例えば160℃乃至170℃)及び所定圧力(例えば10MPa乃至20MPa)で所定時間(例えば5分乃至30分)の加熱及び加圧をするプレス成形を行い、ゴム成分を一次架橋させることにより一次架橋物を得る(一次架橋ステップ)。
【0037】
そして、一次架橋物を金型から脱型した後にオーブンに入れ、一次架橋物に、一次架橋ステップよりも高温(例えば190℃乃至210℃)で長時間(例えば3乃至5時間)の加熱をするアニーリングを行い、ゴム成分を二次架橋させることにより二次架橋物を得る(二次架橋ステップ)。
【0038】
シール材の製造方法は、一次架橋ステップと二次架橋ステップとで構成し、二次架橋物をそのままシール材としてもよい。しかしながら、高い架橋効率を得る観点からは、シール材の製造方法は、一次架橋ステップ及び二次架橋ステップに加えて、放射線の照射を行ってゴム成分を架橋させる放射線架橋ステップを更に備えていてもよい。この場合、放射線架橋ステップでは、同様の観点から、二次架橋ステップ後の二次架橋物に放射線の照射を行う、つまり、放射線架橋ステップを二次架橋ステップの後に実施することが好ましい。ここで、放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、電子線、イオン等が挙げられる。放射線は、これらのうちの電子線又はγ線が好ましい。放射線の照射線量は、例えば10kGy以上100kGy以下である。
【実施例0039】
(未架橋フッ素ゴム組成物)
以下の実施例1乃至4及び比較例1乃至3の未架橋フッ素ゴム組成物を調製した。それぞれの構成は表1にも示す。
【0040】
<実施例1>
FEPM(アフラス600S AGC社製)をゴム成分とし、このゴム成分100質量部に対して、粉体のフェノール樹脂(ベルパールR100 エア・ウォーター・ベルパール社製 平均粒子径1.5μm)1質量部、ジメチルジクロロシランで表面が疎水化処理されたヒュームドシリカ(アエロジルR976S 日本アエロジル社製)10質量部、有機過酸化物の2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B 日油社製)1.5質量部、及び架橋助剤のトリアリルイソシアヌレート(TAIC 三菱ケミカル社製)4質量部を配合して混練した未架橋フッ素ゴム組成物を実施例1とした。
【0041】
<実施例2>
粉体のフェノール樹脂の配合量を、ゴム成分100質量部に対して5質量部としたことを除いて実施例1と同様にして調製した未架橋フッ素ゴム組成物を実施例2とした。
【0042】
<実施例3>
ヒュームドシリカを配合せずに、粉体のフェノール樹脂の配合量を、ゴム成分100質量部に対して25質量部としたことを除いて実施例1と同様にして調製した未架橋フッ素ゴム組成物を実施例3とした。
【0043】
<実施例4>
ヒュームドシリカを配合せずに、カーボンブラック(ThermaxN990 Cancarb社製)を、ゴム成分100質量部に対して25質量部配合したことを除いて実施例1と同様にして調製した未架橋フッ素ゴム組成物を実施例4とした。
【0044】
<比較例1>
粉体のフェノール樹脂を配合していないことを除いて実施例1と同様にして調製した未架橋フッ素ゴム組成物を比較例1とした。
【0045】
<比較例2>
受酸剤のステアリン酸カルシウム(SC-P 堺化学工業社製)を、ゴム成分100質量部に対して1質量部配合したことを除いて比較例1と同様にして調製した未架橋フッ素ゴム組成物を比較例2とした。
【0046】
<比較例3>
粉体のフェノール樹脂を配合していないことを除いて実施例4と同様にして調製した未架橋フッ素ゴム組成物を比較例3とした。
【0047】
【0048】
(試験方法及びその結果)
上記未架橋フッ素ゴム組成物を架橋させた架橋フッ素ゴム組成物の試験片を作製し、それを用いて以下の試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0049】
<硬さ>
実施例1乃至4及び比較例1乃至3のそれぞれの未架橋フッ素ゴム組成物から、厚さ6mmのシート状の架橋フッ素ゴム組成物の試験片を作製し、JIS K6253-3:2012に基づいて、タイプAデュロメータを用い、加圧板を試験片に接触させた瞬間値として硬さHsを測定した。
【0050】
試験片の作製では、未架橋フッ素ゴム組成物を一次架橋及び二次架橋させた。一次架橋における温度条件は165℃及び時間条件は、実施例1乃至3及び比較例2乃至3では10分、実施例4では20分、比較例1では15分とした。二次架橋における温度条件は200℃及び時間条件は4時間とした。実施例2については、二次架橋後に80kGyの放射線(電子線)を照射して架橋させた試験片も作製した。以下の試験も同様である。
【0051】
<引張特性>
実施例1乃至4及び比較例1乃至3のそれぞれの未架橋フッ素ゴム組成物から架橋フッ素ゴム組成物のダンベル状3号形の試験片を作製し、JIS K6251:2017に基づいて、引張強さTb、伸びEb、及び100%伸びにおける引張応力S100を測定した。
【0052】
<圧縮永久ひずみ>
実施例1乃至4及び比較例1乃至3のそれぞれの未架橋フッ素ゴム組成物から架橋フッ素ゴム組成物で形成されたAS-214 Oリングを作製するとともに、それを半分に切ったものを試験片とし、JIS K6262:2013に基づいて、試験温度を200℃及び試験時間を72時間として圧縮永久ひずみCSを測定した。
【0053】
<耐アミン性>
実施例1乃至4及び比較例1乃至3のそれぞれの未架橋フッ素ゴム組成物から架橋フッ素ゴム組成物で形成されたAS-214 Oリングを作製するとともに、それを試験片とし、JIS K6258:2016に準拠して、試験片を100℃のN-メチルジエタノールアミンに168時間浸せきした後の体積変化率を耐アミン性として測定した。
【0054】
<ゴム配合剤由来の金属含有量>
実施例1乃至4及び比較例1乃至3のそれぞれの未架橋フッ素ゴム組成物から作製した架橋フッ素ゴム組成物の試料0.5gを98質量%濃硫酸1mlに入れて、240℃のホットプレート上で加熱することにより、試料を炭化させた後、更に270℃程度まで加熱して濃硫酸から白煙を発生させた。その後、電気炉で700℃×30分加熱して試料を灰化させた。灰化物を50質量%フッ化水素酸5ml、60質量%硝酸2ml、及び35質量%塩酸2mlを混合した混合液に溶解させた後、ホットプレートで200℃程度まで加熱し、試料を蒸発乾固させた。その乾固物を60質量%硝酸水溶液3mlに加え、20mlに希釈した後、ICP発光分光分析装置を用いて、その金属含有量Maを測定した。また、実施例1乃至4及び比較例1乃至3のそれぞれの未架橋フッ素ゴム組成物で用いたゴム成分についても、同様にして金属含有量を測定し、それを未架橋フッ素ゴム組成物0.5gに含まれるゴム成分量に対応するように換算してゴム成分由来の金属含有量Mbを求めた。そして、下記式に基づいて、それらの差をゴム配合剤由来の金属含有量として算出した。
(ゴム配合剤由来の金属含有量)=Ma-Mb