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特開2022-188581ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188581
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/00 20060101AFI20221214BHJP
   C01B 6/10 20060101ALI20221214BHJP
   C01B 6/04 20060101ALI20221214BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C01B6/10
C01B6/04
C01B3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096732
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】大宮 奈津子
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140AA11
4G140AA12
4G140AA33
4G140AA34
4G140AA36
4G140AA42
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、優れた水素の貯蔵及び輸送方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本願発明のB-H-B結合、B-H結合、及びB-OH結合を有する、ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体であって、FT-IRスペクトルの測定において、下記式(1)0.80≦a/c≦0.96、及び(2)0.95≦b/c≦1.12(式中、aはFT-IRスペクトルにおける1400cm-1の透過率であり、bはFT-IRスペクトルにおける2500cm-1の透過率であり、そしてcはFT-IRスペクトルにおける3200cm-1の透過率である)を満たす構造体によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B-H-B結合、B-H結合、及びB-OH結合を有する、ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体であって、FT-IRスペクトルの測定において、下記式
(1)0.80≦a/c≦0.96、及び
(2)0.95≦b/c≦1.12、
(式中、ベースラインを100%としたときに、aはFT-IRスペクトルにおける1400cm-1の透過率であり、bはFT-IRスペクトルにおける2500cm-1の透過率であり、そしてcはFT-IRスペクトルにおける3200cm-1の透過率である)
を満たす構造体。
【請求項2】
MB(但し、Mは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、Ti及びVからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属と、前記二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合する工程を含む、ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法であって、
前記二ホウ化金属のシェラーの式による平均結晶子サイズが2~5μmである、製造方法。
【請求項3】
前記二ホウ化金属のシェラーの式による平均結晶子サイズが3~5μmである、請求項2に記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法。
【請求項4】
前記二ホウ化金属のシェラーの式による平均結晶子サイズが2~3μmである、請求項2に記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程の後に、3μm以下のフィルターでろ過する工程を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法。
【請求項6】
前記イオン交換樹脂は、スルホ基を有することを特徴とする請求項2~5のいずれか一項に記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法。
【請求項7】
前記極性有機溶媒は、アセトニトリル又はメタノールである請求項2~6のいずれか一項に記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の構造体に、紫外線を照射する工程を含む、水素分子(H)の産生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体、及びその製造方法に関する。本発明によれば、水素を効率的に貯蔵することができる。
【背景技術】
【0002】
水素は、クリーンで貯蔵及び輸送が可能な二次エネルギーである。水素は、常温常圧で気体であり、液化するために極低温(-253℃)にする必要がある。従って、水素を液体状態で、安全かつ高密度で大量に貯蔵及び輸送することは困難である。
水素を貯蔵及び輸送するためには、高圧タンク又は吸蔵合金などを用いる方法がある。しかしながら、これらの方法は重量又は体積当たりの水素貯蔵量が少ない。水素を多く貯蔵できる方法として、ホウ化水素シートを用いる方法が開発されている(特許文献1、及び非特許文献1~3)。しかしながら、水素貯蔵量を増加させるための更なる改良が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/074518号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「ケム(Chem)」(米国)2020年、第6巻、p406-
【非特許文献2】「ネイチャー・コムニュケーションズ(nature communications)」(英国)2019年、第10巻、p4880-
【非特許文献3】「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ-(Journal of the American Chemical Society)」(米国)2017年、第139巻、p13761-13769
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた水素の貯蔵及び輸送方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、優れた水素の貯蔵及び輸送方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定の物性を有するホウ化水素シートが、多くの水素を貯蔵できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]B-H-B結合、B-H結合、及びB-OH結合を有する、ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体であって、FT-IRスペクトルの測定において、下記式(1)0.80≦a/c≦0.96、及び(2)0.95≦b/c≦1.12、
(式中、ベースラインを100%としたときに、aはFT-IRスペクトルにおける1400cm-1の透過率であり、bはFT-IRスペクトルにおける2500cm-1の透過率であり、そしてcはFT-IRスペクトルにおける3200cm-1の透過率である)を満たす構造体、
[2]MB(但し、Mは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、Ti及びVからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属と、前記二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合する工程を含む、ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法であって、前記二ホウ化金属のシェラーの式による平均結晶子サイズが2~5μmである、製造方法、
[3]前記二ホウ化金属のシェラーの式による平均結晶子サイズが3~5μmである、[2]に記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法、
[4]前記二ホウ化金属のシェラーの式による平均結晶子サイズが2~3μmである、[2]に記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法、
[5]前記混合工程の後に、3μm以下のフィルターでろ過する工程を含む、[2]~[4]のいずれかに記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法、
[6]前記イオン交換樹脂は、スルホ基を有することを特徴とする[2]~[5]のいずれかに記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法、
[7]前記極性有機溶媒は、アセトニトリル又はメタノールである[2]~[6]のいずれかに記載のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体の製造方法、及び
[8][1]に記載の構造体に、紫外線を照射する工程を含む、水素分子(H)の産生方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のホウ化水素シートによれば、従来のホウ化水素シートと比較して、多くの水素を貯蔵し、そして輸送することができる。本発明の構造体の製造方法によれば、多くの水素を貯蔵できるホウ化水素シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ホウ素、水素、及び酸素を含むホウ化水素シートの構造を模式的に示した図(A)及びホウ素及び水素のみからなる理想的なホウ化水素シート構造を3次元で示した図(B)である。
図2】実施例1(A)及び実施例2及び比較例1で用いたMgBのX線回折による分析結果を示したチャートである。
図3】実施例1で得られたホウ化水素シートのFT-IRスペクトルの分析結果を示したチャートである。
図4】実施例2で得られたホウ化水素シートのFT-IRスペクトルの分析結果を示したチャートである。
図5】比較例1で得られたホウ化水素シートのFT-IRスペクトルの分析結果を示したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]ホウ素、水素、及び酸素を含む構造体
本発明の構造体は、B-H-B結合、B-H結合、及びB-OH結合を有し、ホウ素、水素、及び酸素を含む。
【0010】
本発明の構造体は、ホウ素、水素、及び酸素を含み、B-H-B結合、B-H結合、及びB-OH結合を有する。従って、図1(A)に示すように、BH及びBOHの組み合わされた(BH)n(BOH)mの構造を有する。図1(B)は、ホウ素及び水素のみからなる理想的な構造体の3次元の構造を示している。本発明のホウ素、水素、及び酸素を含む構造体においては水素(H)の一部が水酸基(OH)に置換された構造となっており、BHn(OH)m(n+m=1)となっている。
【0011】
《FT-IRスペクトル》
本発明の構造体のFT-IRスペクトルを測定した場合、下記式
(1)0.80≦a/c≦0.96、及び
(2)0.95≦b/c≦1.12、
(式中、aはFT-IRスペクトルにおける1400cm-1の透過率であり、bはFT-IRスペクトルにおける2500cm-1の透過率であり、そしてcはFT-IRスペクトルにおける3200cm-1の透過率である)
を満足する。
前記FT-IRスペクトルにおける1400cm-1の透過率(a)は、「B-H-B結合」を示しており、2500cm-1の透過率(b)は「B-H結合」を示しており、3200cm-1の透過率(c)は、「B-OH結合」を示している。なお、透過率が小さいほど各結合の含有量が多いことを意味している。
なお、各波長の透過率は、ベースラインを100%とした場合の相対的な透過率であるが、ベースラインは、1725cm-1の値を100%として設定する。
【0012】
前記a/cの下限は、限定されるものではないが、0.80以上であり、好ましくは0.82以上であり、より好ましくは0.84以上であり、更に好ましくは0.86以上であり、最も好ましくは0.88以上である。前記a/cの上限は、限定されるものではないが、0.96以下であり、好ましくは0.95以下であり、より好ましくは0.94以下である。前記下限及び上限は、それぞれ組み合わせることができる。前記範囲であることにより、多くの水素を貯蔵し、そして輸送することができる。
【0013】
前記b/cの下限は、限定されるものではないが、0.95以上であり、好ましくは0.98以上であり、より好ましくは1.01以上であり、より好ましくは1.02以上であり、最も好ましくは1.03以上である。前記b/cの上限は、限定されるものではないが、1.12以下であり、好ましくは1.10以下であり、より好ましくは1.08以下であり、更に好ましくは1.07以下であり、最も好ましくは1.06以下である。前記下限及び上限は、それぞれ組み合わせることができる。前記範囲であることにより、多くの水素を貯蔵し、そして輸送することができる。
【0014】
本発明の構造体は、好ましくは(3)d≦bである。ここで、dはFT-IRスペクトルにおける700cm-1の透過率を示している。
また、(b)2500cm-1の透過率、及び(d)700cm-1の透過率は、いずれも「B-H結合」の透過率を意味しているが、波数の違いはB-H結合の振動種の違いを意味している。bの波数はB-H結合の伸縮振動、dの波数はB-H結合の変角運動を示す。また、FT-IR分析において、一般的には小さい波数ほど、結合が弱いと考えられている。したがって、dがb以下であることは、比較的結合の弱いB-H結合から優先的に水素が放出されやすくなり、構造体からの効率的な水素放出を可能にすると推定される。しかしながら、本発明は前記の推定によって限定されるものではない。
【0015】
本発明の構造体、すなわちホウ化水素シートにおいて、B-H結合の水素原子は、ホウ化水素シートに紫外線を照射することによって、水素分子(H)となり、そしてホウ化水素シートから放出される。一方、B-OH結合の水素原子は、ホウ化水素シートから放出されない。従って、ホウ化水素シート中のB-OH結合に対してB-H結合が多い方が、放出される水素分子(H)の量が多くなる。すなわち、より多くの水素を貯蔵し、そして輸送することができる。
前記FT-IRスペクトルにおける3200cm-1の透過率(c)は「B-OH結合」を示している。前記透過率(c)が小さいほど、「B-OH結合」が多いことを意味している。従って、前記b/cの値が大きいほど「B-OH結合」が多く、「B-H結合」が少ない。逆に前記b/cの値が小さいほど「B-OH結合」が少なく、「B-H結合」が多く、大量の水素を貯蔵することができる。
【0016】
FT-IRスペクトルの測定は、特に限定されるものではないが、本分野において通常用いられる方法を使用できる。測定方法としては、全反射法、透過法、拡散反射法、垂直入射透過法、又は顕微赤外法が挙げられるが、全反射法(Attenuated Total Reflection Spectroscopy:ATR分光法)が好ましい。
例えば、PIKE MIRacle ATRを用い、ATR法で測定する。測定は一つの条件において、4回サンプルを取り出して測定するのが好ましい。測定する波数範囲は、例えば4500~600cm-1である。
【0017】
本発明の構造体の厚さは、特に限定されるものではないが、0.23nm~0.50nmである。本発明の構造体において、少なくとも一方向の長さ(例えば、図1BにおいてX方向又はY方向の長さ)が100nm以上であることが好ましい。本発明の構造体において、少なくとも一方向の長さが100nm以上であれば、本発明の構造体は、水素の貯蔵材料として有効に利用することができる。
本発明の構造体の大きさ(面積)は、特に限定されない。本発明の構造体の大きさは、後述する本発明の構造体の製造方法によって、任意の大きさに形成することができる。
【0018】
本発明の構造体は、結晶構造を有する物質である。また、本発明の構造体では、六角形の環を形成するホウ素原子(B)間、及び、ホウ素原子(B)と水素原子(H)の間の結合力が強い。そのため、本発明の構造体は、製造時に複数積層されてなる結晶(凝集体)を形成したとしても、グラファイトと同様に結晶面に沿って容易に劈開し、単層の二次元シートとして分離(回収)することができる。
【0019】
[2]構造体の製造方法
本発明の構造体の製造方法は、MB(但し、Mは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、Ti及びVからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属と、前記二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合する工程(以下、混合工程と称することがある)を含む。
【0020】
MB型構造の二ホウ化金属は、六角形の環状の構造を有するものが用いられる。例えば、二ホウ化アルミニウム(AlB)、二ホウ化マグネシウム(MgB)、二ホウ化タンタル(TaB)、二ホウ化ジルコニウム(ZrB)、二ホウ化レニウム(ReB)、二ホウ化クロム(CrB)、二ホウ化チタン(TiB)、又は二ホウ化バナジウム(VB)が用いられる。極性有機溶媒中にて、容易にイオン交換樹脂とのイオン交換を行うことができることから、二ホウ化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0021】
前記MB型構造の二ホウ化金属の結晶子サイズは、本発明の効果が得られる構造体を製造できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、好ましくは平均結晶子サイズが2~5μmであり、1つの態様として2~3μmであり、別の態様として3~5μmである。前記範囲であることによって、より多くの水素を貯蔵することができる。
結晶子サイズの測定方法は、特に限定されるものではないが、好ましくはX線回折法(XRD)によって測定することができる。
MBの粉末を粉末回折のΘ-2Θ法により、2Θ軸の回折強度を測定すればよい。具体的には、MB粉末を粉末測定用のサンプルホルダーに固定する。MB粉末が固定されたサンプルホルダーをXRD装置のサンプルホルダー工程治具に設置する。Θ-2Θ法で粉末を測定する。X線源としては、Cuターゲット(波長1.54Å)、又はMoターゲット(波長0.7Å)などの汎用される波長を用いることができる。得られた回折パターンより、回折ピークの半値幅β(radians)、X線波長λ(m)、回折角度Θ(radians)、及び結晶形状の因子K(単位無し、結晶形状を近似的に考え、0.9が用いられることが多い)から、以下のシェラーの式により結晶子サイズL(m)を計算する。
L=(K×λ)/(β×cosΘ)
MBのいずれの結晶面で回折が生じたかによって、回折角度は変わるため、各回折角度について、結晶子サイズを計算する。得られる結晶子サイズは平均の値である。更に、各回折から計算される結晶子サイズの範囲より、結晶子サイズの平均の範囲を測定する。
【0022】
二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂は、特に限定されない。このようなイオン交換樹脂としては、例えば、二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位した官能基(以下、「官能基α」と言う。)を有するスチレンの重合体、官能基αを有するジビニルベンゼンの重合体、官能基αを有するスチレンと官能基αを有するジビニルベンゼンの共重合体等が挙げられる。官能基αとしては、例えば、スルホ基、カルボキシル基等が挙げられる。これらの中でも、極性有機溶媒中にて、容易に二ホウ化金属を構成する金属イオンとのイオン交換を行うことができることから、スルホ基が好ましい。
【0023】
極性有機溶媒は、特に限定されず、例えば、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール等が挙げられる。これらの中でも、酸素を含んでいない点からアセトニトリルが好ましい。
【0024】
前記混合工程では、極性有機溶媒に二ホウ化金属とイオン交換樹脂を投入し、極性有機溶媒、二ホウ化金属及びイオン交換樹脂を含む混合溶液を撹拌し、二ホウ化金属とイオン交換樹脂を充分に接触させる。これにより、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換して、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する原子によって形成される本発明の構造体、すなわちホウ化水素シートが生成される。
【0025】
例えば、二ホウ化金属として二ホウ化マグネシウムを用い、イオン交換樹脂としてスルホ基を有するイオン交換樹脂を用いれば、二ホウ化マグネシウムのマグネシウムイオン(Mg+)と、イオン交換樹脂のスルホ基の水素イオン(H+)とが置換して、上述のようなホウ素原子(B)と水素原子(H)からなる本発明のホウ化水素シートが生成される。
【0026】
前記混合工程では、混合液に超音波等を加えることなく、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換する反応を、穏やかに進めることが好ましい。
【0027】
混合溶液を撹拌する際、混合溶液の温度は、15℃~35℃であることが好ましい。
混合溶液を撹拌する時間は、特に限定されないが、例えば、700分~7000分とする。
【0028】
また、混合工程は、窒素(N2)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気下で行う。
【0029】
本発明の構造体の製造方法においては、好ましくは撹拌が終了した混合溶液を濾過する(以下、濾過工程と称することがある)。混合溶液の濾過方法は、特に限定されず、例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の方法が用いられる。また、濾材としては、例えば、セルロースを基材とする濾紙、メンブレンフィルター、セルロースやグラスファイバー等を圧縮成型した濾過板等が用いられる。
例えば、メンブレンフィルターを用いる場合、フィルターサイズは、本発明の効果が得られる構造体を製造できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μm以下であり、好ましくは4μm以下であり、より好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは2μm以下であり、最も好ましくは1μm以下である。フィルターサイズの下限は、限定されないが、濾過時間を短くする観点から0.1μm以上が好ましい。
【0030】
濾過により沈殿物と分離されて回収された生成物を含む溶液を、自然乾燥するか、又は、加熱により乾燥することにより、最終的に生成物のみを得る。この生成物は、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する水素原子によって形成されるホウ化水素シートである。
【0031】
[3]水素分子(H)の放出方法
本発明の水素分子(H)の産生方法は、前記構造体に紫外線を照射する工程を含む。用いる紫外線の波長は、前記構造体から水素分子(H)が放出される限りにおいて、特に限定されるものではないが、10nm~400nmの紫外線を用いることができる。
【0032】
紫外線の光源としては、特に限定されるものではないが、例えば水銀キセノンランプ、高圧水銀UVランプ、低圧水銀UVランプ、紫外線LED、紫外線LD、又はメタルハライドUVランプが挙げられる。
【実施例0033】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
《実施例1》
本実施例では、結晶子の粒子径3~5μmのMgBを用いて、ホウ化水素シートを作製した。
30mLのイオン交換樹脂(アンバーライトIR120B H型 オルガノ製)を、20mLのアセトニトリル溶媒に湿潤し、ドラフト内に一晩静置した。グローブボックス内でMgBを500mg秤量し、500mLのフラスコに入れた。前記イオン交換樹脂及びアセトニトリル溶媒の混合物を漏斗によりろ過して、イオン交換樹脂をとりだした。イオン交換樹脂及び200mLのアセトニトリルをMgBのフラスコに入れた。フラスコに撹拌子を入れて、攪拌しながら3日間置いた。攪拌時にはフラスコ内に窒素を流し、サンプルの大気暴露を軽減させた。得られた溶液を5μmのろ過フィルターでろ過した。ろ過は窒素雰囲気下で行った。得られた溶液の溶媒を除去するために、減圧溶媒乾燥し、100mgの黄色の粉末を得た。
【0035】
使用したMgBは、X線回折によって結晶子サイズを測定した。XRDのΘ-2Θ測定をMgBに対して行い、得られた回折ピークの半値幅から下記のシェラーの式を用いて、結晶子サイズを算出した。
【数1】
K: 結晶構造因子(一般的に0.9(文献1))、λ:X線波長(今回は15.4nm)
β:X線回折ピークの半値幅、Θ:X線の回折角度
(参考文献:A.Monshi et al.,World Journal of Science and Engineering Vol.2 154-160(2012)
XRDの測定結果及びシェラーの式を用いた計算結果を、図2及び表1及び2に示す。MgBの平均結晶子サイズは3~5μmであった。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
《実施例2》
本実施例では、結晶子粒子径2~3μmのMgBを用いて、ホウ化水素シートを作製した。
結晶子の粒子径が2~3μmのMgBを用いたこと、及び0.2μmのろ過フィルターを用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、90mgの黄色の粉末を得た。XRDの測定結果及びシェラーの式を用いた計算結果を、図3及び表1及び2に示す。MgBの結晶子サイズは2~3μmであった。
【0039】
《比較例1》
本実施例では、結晶子粒子径2~3μmのMgBを用いて、ホウ化水素シートを作製した。
結晶子の粒子径が2~3μmのMgBを用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、95mgの黄色の粉末を得た。XRDの測定結果及びシェラーの式を用いた計算結果を、図4及び表1及び2に示す。MgBの結晶子サイズは2~3μmであった。
【0040】
《FT-IRスペクトルの測定》
実施例1及び2、並びに比較例1で得られたホウ化水素シートのFT-IRスペクトルを、ATR測定ユニットを用いて測定した。
赤外光の全反射に用いられる結晶(ダイヤモンド)上に、約10mgのホウ化水素シート粉末を乗せた。粉末をピンで押さえ、結晶と密着させた。ATR測定ユニットをFT-IR装置にセットし、結晶側から赤外光を入射し、結晶から全反射して得られた光を分光した。粉末無しで測定した結果をバックグラウンドとし、このバックグラウンドデータを粉末測定データから差し引くことで、ホウ化水素シートの透過率を測定した。
実施例1及び2、並びに比較例1のホウ化水素シートの測定結果を、それぞれ図3~5に示す。
【0041】
実施例1及び2、並びに比較例1のホウ化水素シートの1400cm-1の透過率をB-H-B結合(a)、2500cm-1の透過率をB-H結合(b)、3200cm-1の透過率をB-OH結合(c)に由来するものとして、透過率比a/cと透過率比b/cをそれぞれのサンプルで得られたスペクトルについて平均値を算出した。合成条件ごとで平均した値を表3に示す。透過率が小さいほど含有量が多いことを示す。すなわち、値が大きいほど、BOHが多く含まれることを意味している。
【0042】
【表3】
【0043】
《水素放出試験》
実施例1及び2、並びに比較例1で得られたホウ化水素シートについて、紫外線を照射して、水素分子(H2)の産生量を測定した。
密閉容器にサンプルを10mg入れた。サンプルへのUV照射時に光が透過するように、密閉容器の窓には石英ガラスを用いた。密閉容器中に、アルゴンガスを10mL/minの速度で流した。水銀キセノンランプを用いて、10cmの距離でサンプルへUV照射し、発生した水素ガス濃度をマイクロGCで測定した。水素濃度の変化を480分間測定した。各サンプルについて、測定時間中に得られた水素濃度の積算値を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
照射後にはサンプルは茶色く変化していた。側面から見ると、茶色く変化したのはサンプルの厚み方向の半分程度だった。従って、約5mgが光照射により反応したと考えられた。そのため、サンプル重量を5mgとし、チャンバーの体積と水素濃度積算値とから、サンプル重量当たりの水素発生重量、及びサンプル体積当たり水素発生体積の計算を行った。結果を表5に示す。体積当たりの計算においては、ホウ化水素シートの密度をホウ素の密度と同等と仮定して計算した。
【0046】
【表5】
比較例1と比較して、実施例1及び2で得られたホウ化水素シートは、多くの水素の貯蔵し、放出できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の構造体は、水素の貯蔵及び輸送に用いることが可能であり、多くの水素分子(H)を産生することができる。
図1
図2
図3
図4
図5