(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188612
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】移動電源車用油圧装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/10 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
B60K17/10 D
B60K17/10 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096783
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】592014218
【氏名又は名称】株式会社諸岡
(71)【出願人】
【識別番号】521252151
【氏名又は名称】株式会社東京電機
(74)【代理人】
【識別番号】100110179
【弁理士】
【氏名又は名称】光田 敦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正敏
(72)【発明者】
【氏名】芹川 京兵
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清生
(72)【発明者】
【氏名】中根 和彦
【テーマコード(参考)】
3D042
【Fターム(参考)】
3D042AB07
3D042BA02
3D042BA08
3D042BA12
3D042BC02
3D042BC03
3D042BC13
3D042BD03
3D042BD05
(57)【要約】
【課題】エンジンで油圧ポンプを作動し油圧モータで駆動輪を回転する移動電源車用油圧装置に、アンロード油路を設けて、寒冷環境におけるエンジンの始動性を、高める。
【解決手段】移動電源車の駆動輪5を回転駆動する駆動油圧系7と、制御油圧系8を備えた移動電源車用油圧装置1において、駆動油圧系7は、エンジン2で作動する油圧ポンプ3と、駆動輪5回転用の油圧モータ4と、油圧ポンプ3と油圧モータ4の間で油を流す駆動用油路15と、を備えており、駆動用油路15には、カウンタバランス弁16が設けられており、制御油圧系8は、制御用油路9と、制御用油路9を介して油圧を駆動用油路15に供給するためのギアポンプ35と、を備え、制御用油路9は、カウンタバランス弁16に接続されているとともに、アンロード弁38を有するアンロード油路10を分岐して備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動電源車の駆動輪を回転駆動する駆動油圧系と、制御油圧系を備えた移動電源車用油圧装置であって、
駆動油圧系は、エンジンで作動する油圧ポンプと、駆動輪回転用の油圧モータと、油圧ポンプと油圧モータの間で油を流す駆動用油路と、を備えており、
駆動用油路には、カウンタバランス弁が設けられており、
制御油圧系は、制御用油路と、制御用油路を介して油圧を駆動用油路に供給するためのポンプとを備え、
制御用油路は、カウンタバランス弁に接続されているとともに、アンロード弁を有するアンロード油路を分岐して備えている構成であることを特徴とする移動電源車用油圧装置。
【請求項2】
移動電源車の駆動輪を回転駆動する駆動油圧系と、駆動油圧系の油圧を制御する制御油圧系を備えた移動電源車用油圧装置であって、
駆動油圧系は、エンジンで作動する油圧ポンプと、油圧ポンプによって生じる油圧で回転される油圧モータと、油圧ポンプと油圧モータの間で油圧用の油を送還する駆動用油路と、を備えており、
駆動用油路には、カウンタバランス弁が設けられており、
制御油圧系は、制御用油路と、制御用油路に設けられエンジンで作動するギアポンプと、制御用油路の先端に設けられたリリーフ弁と、制御用油路において分岐されたアンロード油路と、アンロード油路に設けられたアンロード弁と、を備え、
制御用油路は、その先端側において分岐され、該分岐された部分はカウンタバランス弁に接続されている構成であることを特徴とする移動電源車用油圧装置。
【請求項3】
移動電源車の駆動輪を回転駆動する駆動油圧系と、駆動油圧系に油圧を制御する制御油圧系を備えた移動電源車用油圧装置であって、
駆動油圧系は、エンジンで作動する油圧ポンプと、油圧ポンプによって生じる油圧で回転され、移動電源車の駆動輪を回転駆動する正転及び逆転可能な油圧モータと、油圧ポンプと油圧モータの間で油圧用の油を送還する駆動用油路と、を備えており、
駆動用油路において、油圧モータの正転時に油が送られる駆動用油路側及び逆転時に油が送られる駆動用油路側に、それぞれカウンタバランス弁が設けられており、
制御油圧系は、制御用油路と、制御用油路の途中に設けられエンジンで作動するギアポンプと、制御用油路の先端に設けられたリリーフ弁と、制御用油路において分岐されたアンロード油路と、アンロード油路に設けられたアンロード弁と、を備え、
制御用油路は、その基端部の開口は油タンクに装入されており、その先端側は分岐され、該分岐された部分はカウンタバランス弁に接続されており、
ギアポンプは、油タンクから吸いあげた油をカウンタバランス弁、リリーフ弁及びアンロード弁側に送る構成であることを特徴とする移動電源車用油圧装置
【請求項4】
エンジンを制御するエンジン制御装置からの信号を入力する入力部と、アンロード弁に信号を出力する出力部と、データバスと、CPUと、メモリと、を有したアンロード弁制御器を備え、
CPUは、エンジンのエンジン制御装置から送られてくるエンジンの冷却水温度信号に基づいてアンロード弁の開信号を生成するとともに、エンジンの完爆信号基づいてアンロード弁への閉信号を生成し、アンロード弁に送り、アンロード弁の開閉の制御を行う構成であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の移動電源車用油圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンで駆動される油圧ポンプを介し油圧モータによって走行する車両において、寒冷環境での始動性を高める移動電源車用油圧装置に関し、例えば、ゴムクローラを備え発電機を搭載し、地震、風水害、原子力災害等で被災した寒冷地等で使用する移動電源車等に適したものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンで油圧ポンプを作動する装置では、寒冷地等の寒冷環境では作動油の温度が低く、粘度が高くなり、それがフリクション(抵抗)となって、エンジンの始動性が悪くなる。その解決のために、従来、作動油の温度を検出してエンジンの予熱を行う発熱手段を備えるという技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来例のように、作動油の温度を検出してエンジンを予熱する技術は、エンジンの始動を高めるという点では、一定の効果があるが、エンジンをある程度予熱するための時間が必要となる。
【0005】
つまり、作動油の状態を検出しエンジンを予熱して始動性能を高めることは、あくまでも間接的な解決手段である。本発明者等は、このような間接的な手段ではなく、寒冷環境において、作動油(以下、油という)の粘度が高く、大きな抵抗となる状態でも、より直接的に始動性を高める解決手段を鋭意、研究し開発してきた。
【0006】
本発明は、上記従来例の問題を解決することを目的とするものであり、寒冷環境において、エンジンを予熱してエンジンの始動性を高めるような間接的な解決手段ではなく、始動時に、エンジン始動装置(セルモータ)に対して大きな負荷となる粘度の高い状態の油に着目し、油自体を逃がしてエンジンの始動性を高めるという、寒冷環境の油の粘度に即したより直接的な解決手段を備えた移動電源車用油圧装置を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、移動電源車の駆動輪を回転駆動する駆動油圧系と、制御油圧系を備えた移動電源車用油圧装置であって、駆動油圧系は、エンジンで作動する油圧ポンプと、駆動輪回転用の油圧モータと、油圧ポンプと油圧モータの間で油を流す駆動用油路と、を備えており、駆動用油路には、カウンタバランス弁が設けられており、制御油圧系は、制御用油路と、制御用油路を介して油圧を駆動用油路に供給するためのポンプとを備え、制御用油路は、カウンタバランス弁に接続されているとともに、アンロード弁を有するアンロード油路を分岐して備えている構成であることを特徴とする移動電源車用油圧装置を提供する。
【0008】
本発明は上記課題を解決するために、移動電源車の駆動輪を回転駆動する駆動油圧系と、駆動油圧系の油圧を制御する制御油圧系を備えた移動電源車用油圧装置であって、駆動油圧系は、エンジンで作動する油圧ポンプと、油圧ポンプによって生じる油圧で回転される油圧モータと、油圧ポンプと油圧モータの間で油圧用の油を送還する駆動用油路と、を備えており、駆動用油路には、カウンタバランス弁が設けられており、制御油圧系は、制御用油路と、制御用油路に設けられエンジンで作動するギアポンプと、制御用油路の先端に設けられたリリーフ弁と、制御用油路において分岐されたアンロード油路と、アンロード油路に設けられたアンロード弁と、を備え、制御用油路は、その先端側において分岐され、該分岐された部分はカウンタバランス弁に接続されている構成であることを特徴とする移動電源車用油圧装置を提供する。
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、移動電源車の駆動輪を回転駆動する駆動油圧系と、駆動油圧系に油圧を制御する制御油圧系を備えた移動電源車用油圧装置であって、駆動油圧系は、エンジンで作動する油圧ポンプと、油圧ポンプによって生じる油圧で回転され、移動電源車の駆動輪を回転駆動する正転及び逆転可能な油圧モータと、油圧ポンプと油圧モータの間で油圧用の油を送還する駆動用油路と、を備えており、駆動用油路において、油圧モータの正転時に油が送られる駆動用油路側及び逆転時に油が送られる駆動用油路側に、それぞれカウンタバランス弁が設けられており、制御油圧系は、制御用油路と、制御用油路の途中に設けられエンジンで作動するギアポンプと、制御用油路の先端に設けられたリリーフ弁と、制御用油路において分岐されたアンロード油路と、アンロード油路に設けられたアンロード弁と、を備え、制御用油路は、その基端部の開口は油タンクに装入されており、その先端側は分岐され、該分岐された部分はカウンタバランス弁に接続されており、ギアポンプは、油タンクから吸いあげた油をカウンタバランス弁、リリーフ弁及びアンロード弁側に送る構成であることを特徴とする移動電源車用油圧装置を提供する。
【0010】
エンジンを制御するエンジン制御装置からの信号を入力する入力部と、アンロード弁に信号を出力する出力部と、データバスと、CPUと、メモリと、を有したアンロード弁制御器を備え、CPUは、エンジンのエンジン制御装置から送られてくるエンジンの冷却水温度信号に基づいてアンロード弁への開信号を生成するとともに、エンジンの完爆信号基づいてアンロード弁への閉信号を生成し、アンロード弁に送り、アンロード弁の開閉の制御を行う構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジンで油圧ポンプを回転し作動することにより生じる駆動油圧系特有の構成に則し、粘度が高くなりエンジンの回転の抵抗となる負荷となった制御用の油を放出するという、より直接的なアンロード油路を採用したので、エンジンの始動性は、エンジン吸気を予熱する等従来の技術に比較して、迅速かつ効果的に高まる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る移動電源車用油圧装置の実施例を示す図であり、通常運転の状態を説明するである。
【
図2】上記実施例であって、エンジン始動時の状態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る移動電源車用油圧装置を実施するための形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【実施例0014】
本発明に係る移動電源車用油圧装置の実施例を、
図1及び
図2を参照して説明する。本発明に係る移動電源車用油圧装置1は、移動電源車において、エンジン2で作動する油圧ポンプ3によって生じる油圧で油圧モータ4を回動して、移動電源車の駆動輪5を回転駆動するための油圧装置である。
【0015】
本発明に係る移動電源車用油圧装置1は、寒冷環境、例えば、地震、風水害、原子力災害等で被災した寒冷な被災地等で使用されるゴムクローラで走行する移動電源車等の使用に、特に最適である。
【0016】
本実施例では、移動電源車用油圧装置1の適用される移動電源車は、前輪駆動車とし、前方移動方向に向いて左右を左右側とする。
【0017】
本発明に係る移動電源車用油圧装置1の実施例であり、特に特徴とする構成を全体的に
図1、
図2に示す。移動電源車用油圧装置1は、駆動輪5を回転するための駆動油圧系7と、主に駆動油圧系7に制御用の油を供給又は受容し、駆動油圧系7の圧力変動に対して、所定の油圧範囲に維持する補償を行う制御油圧系8と、を備えている。
【0018】
本発明の特徴は、後で詳記するが、寒冷の環境においてエンジン2の始動時に、駆動油圧系7に作用する制御油圧系8からの制御油圧による反力(抵抗又は負荷)を解放するために、制御油圧系8において、制御用油路9から分岐し制御油圧を逃がすためのアンロード油路10が設けられている構成である。
【0019】
駆動油圧系7は、左右の駆動輪5をそれぞれ回転するための油圧系であり、左右の駆動輪5に対応してそれぞれ設けられている。左側の駆動輪5に対応する左側の駆動油圧系7と右側の駆動輪5に対応する右側の駆動油圧系7は、互いに構成が同じである。
【0020】
左右の駆動油圧系7は、それぞれ油圧ポンプ3、油圧モータ4、駆動用油路15、カウンタバランス弁16(圧力調整弁の一種)等を備えている。
【0021】
左右の駆動油圧系7における油圧ポンプ3は、エンジン2の回転出力軸20で回転される。エンジン2は、本実施例では、ディーゼルエンジンが使用され、始動用のセルモータ21が付設されており、エンジン制御装置(ECU)22によって制御される周知の構成である。
【0022】
油圧ポンプ3は、駆動輪5の前進及び後進に対応し、油圧ポンプ3を正転(実線矢印方向)及び逆転(点線矢印方向)させるために、一方向(実線矢印方向)及び逆方向(点線矢印方向)に油を送る構成とされる。
【0023】
油圧モータ4は、周知の回転斜板式油圧モータ等が使用され、その回転軸25は減速器26を介して駆動輪5に結合されている。
【0024】
駆動用油路15は、油圧ポンプ3と油圧モータ4の間を油が循環するための閉じた油路(閉回路)である。前記したとおり、前進時には油圧モータ4を正転させるために、実線矢印方向に油が送られ、後進時には油圧モータ4を逆転させるために、点線矢印方向に油が送られる。
【0025】
左右の駆動油圧系7のそれぞれについて、カウンタバランス弁16は、駆動用油路15における正転側の油路(正転時に油圧ポンプ3から油が吐出する側の流路)内及び逆転側の油路(逆転時に油圧ポンプ3から油が吐出する側の流路)に対応してそれぞれ設けられている。
【0026】
カウンタバランス弁16は、駆動用油路15における正転側の油路内及び逆転側の油路内の油圧を、設定圧力に維持されるように抑制するものである。カウンタバランス弁16は、その構成要素として、チェック弁部30と圧力制御弁部31を有している。
【0027】
正転側の油路に対応するカウンタバランス弁16は、そのチェック弁部30の出口側と圧力制御弁部31の入口側が、正転側の油路に接続するように設けられている。同様に、逆転側の油路に対応するカウンタバランス弁16は、そのチェック弁部30の出口側と圧力制御弁部31の入口側が、逆転側の油路に接続するように設けられている。
【0028】
より具体的には、左右の駆動油圧系7のそれぞれについて、油圧ポンプ3に対するバイパス油路32が設けられており、バイパス油路32の一端は、駆動用油路15における正転側の油路に連通し、他端は駆動用油路15における逆転側の油路に連通している。
【0029】
バイパス油路32に、2つのカウンタバランス弁16が直列して設けられ、その内一方のカウンタバランス弁16は、そのチェック弁部30の出口側と圧力制御弁部31の入口側が正転側の油路に連通して設けられ、他方のカウンタバランス弁16は、そのチェック弁部30の出口側と圧力制御弁部31の入口側が逆転側の油路に連通して設けられている。
【0030】
そして、後記するが、直列に配置された2つのカウンタバランス弁16の間のバイパス油路32に、後記する制御油圧系8の制御用油路9の先端側が連通するように構成されている。
【0031】
制御油圧系8は、駆動油圧系7に生じる油圧の変動を補償し、駆動油圧系7の油圧を所定範囲に維持するために、カウンタバランス弁16を介して、駆動用モータ4内部に装着されたフラッシングバルブ(図示せず)から温度上昇した一部の油を吐出させた同量の油を閉回路である駆動用油路15に補充する機能を有している。その構成機器として、ギアポンプ35、制御用油路9、フィルタ36、リリーフ弁37、アンロード油路10、アンロード弁38等を備えている。
【0032】
ギアポンプ35は、油タンク43から油を吸い込み、制御用油路9を通して駆動油圧系7に送油するものであり、油圧ポンプ3と同様に、走行用のエンジン2の回転出力軸20によって回転されて作動する。
【0033】
制御用油路9は、その基端は油タンク43に装入されており、ギアポンプ35によって、油タンク43から吸い込んだ油を、フィルタ36を通し、さらに先端側が分岐して接続されたカウンタバランス弁16及び先端に設けられたリリーフ弁37に向けて送る。
【0034】
ギアポンプ35から送られる油は、後で詳記するがエンジンの始動時に、制御用油路9から分岐して設けられたアンロード油路10側にも流される。なお、本発明の特徴とは直接関係ないが、制御用油路9は、フィルタ36を通して、ブレーキ用油圧器44にも油を送る。
【0035】
ブレーキ用油圧器44は、制御用油路9から分岐部46で分岐されたブレーキ用油路45を通して送られてくる油の油圧によって、車両のブレーキ装置(図示せず)を制御するための周知の機器である。
【0036】
本発明は、寒冷環境におけるエンジン2の始動を促進するために、制御用油路9をアンロード状態にする構成を特徴とするものであるので、ブレーキ用油圧器44の構成については、詳細な説明及び図示は、省略する。
【0037】
制御用油路9は、その先端にはリリーフ弁37が設けられている。リリーフ弁37は、制御用油路9内の制御圧力を設定値に保持しながら余剰油を逃がすものである。
【0038】
制御用油路9は、その先端側においてリリーフ弁37の手前側において、分岐して2つの分岐路48が形成されており、2つの分岐路48は、それぞれ左右の駆動油圧系7のバイパス油路32において、直列に設けられた正転側のカウンタバランス弁16と逆転側のバランス弁16の間に接続するように構成されている。
【0039】
前記したとおり、本発明の特徴として、制御油圧系8には、寒冷時のエンジン2の始動時に、駆動油圧系7に作用する制御油圧系か8らの油圧による負荷を軽減するために、制御用油路9内の油を逃がすアンロード油路10が設けられている。
【0040】
アンロード油路10は、その基端は制御用油路9から分岐部39において分岐し、その先端側にアンロード弁38が設けられており、そのさらに先端はチェック弁49を介して、油タンク43に面するように構成されている。
【0041】
アンロード弁38は、その開閉はアンロード弁制御器52によって制御される。アンロード弁制御器52は、入力部53、データバス54、CPU55、メモリ56及び出力部57を備えており、マイコン等が利用される。入力部53には、エンジン2の冷却水温度信号及びエンジン2の完爆信号(所定の回転数以上である場合生じる信号)が入力される。
【0042】
CPU56は、メモリ56に搭載されたソフトによって、所定温度以下の冷却水温度信号が入力されると、アンロード弁38の開信号を生成し、また完爆信号が入力されると、アンロード弁38の閉信号を生成し、これらの信号を出力部57からアンロード弁38に送り、アンロード弁38の開閉を制御するように構成されている。
【0043】
(作用)
以上の構成から成る本発明に係る移動電源車用油圧装置1の作用を、
図1、
図2を参照して、以下説明する。移動電源車用油圧装置1によると、エンジン2を始動し、回転出力軸20が回転すると、左右の駆動油圧系7において、それぞれ油圧ポンプ3が作動し、油を駆動用油路15を通して左右の油圧モータ4に送って回転駆動させ、減速器26を介して駆動輪5が回転し、移動電源車は移動する。
【0044】
左右の油圧ポンプ3の作動と同時に、エンジン2によってギアポンプ35も作動し、
図1に示すように、油を制御用油路9を通して、正転側及び逆転側のカウンタバランス弁16とリリーフ弁37に向けて送る。
【0045】
通常の運転状態では、制御油圧系8は、車両走行負荷(路面状況等)による駆動油圧系7の油圧の変動に対応して、カウンタバランス弁16を介して、駆動用圧力を保持する。
【0046】
即ち、正転側及び逆転側のカウンタバランス弁16は、それぞれ駆動油圧系7の駆動方向(油圧ポンプ3→駆動モータ4)にある回路については、駆動方向圧力(高圧)を最高設定圧力まで保持を行い、被駆動方向(駆動モータ4→油圧ポンプ3)にある回路(定圧状態にある)については、カウンタバランス弁16内部のチェックバルブ30を介して熱交換され温度が下がった油を補充する。
【0047】
エンジン2を始動する際に、操作者が、エンジン2の始動キーによって、セルモータ21を回転し、エンジン2を初爆ないし完爆させて、油圧ポンプ3を回転させようとするが、この始動時に、油圧ポンプ3の回転抵抗以外、制御用油路9からの油(制御油圧)が作用しているので、油圧ポンプ3ないしエンジン2への負荷は上昇し、エンジン2の始動を妨げる。
【0048】
特に、寒冷地等において温度が低いと、油の粘度が高くなり、従来の油圧モータ4で駆動する車両では、特に、油の粘度が高くなると、エンジン2の始動時に制御用の油による反力(抵抗又は負荷)が大きくなり、エンジン2に対して油圧ポンプ3の回転に対する負荷が上昇するために、エンジン2が始動しにくくなる。
【0049】
しかしながら、本発明では、制御用油路9にアンロード油路10を分岐して設け、
図2に示すように、アンロード弁38を通して制御用油路9の油が放出されるので、制御用油路9の圧力は解放されるためセルモータへの反力が低減され、エンジン2の始動がし易くなる。この点についてさらに詳細に説明する。
【0050】
本発明に係る移動電源車用油圧装置1では、エンジン2の始動の際に、アンロード弁制御器52は、エンジン制御装置22から入力されたエンジン2の冷却水温度信号に基づき、CPU55においてアンロード弁38の開信号を生成し、これを出力部57からアンロード弁38に送り、アンロード弁38を開く。
【0051】
すると、制御用油路9の油は、
図2に示すように、アンロード油路10を通してアンロード弁38及びチェック弁49を通して、油タンク43に吐出される。これによって、駆動油圧系7に作用する制御用油路9からの油による反力(負荷又は抵抗)が減少し、油圧ポンプ3ないしエンジン2の回転に対する負荷が小さくなるので、エンジン2の始動性は高まる。
【0052】
上記のとおり、エンジン2を始動する際に、操作者が、エンジン2の始動キーによって、セルモータ21を回転することで、エンジン2を初爆し、さらに完爆するが、完爆状態となると、アンロード弁制御器52には、エンジン制御装置22から完爆状態のエンジンの回転信号(完爆信号という。)が入力される。
【0053】
アンロード弁制御器52は、完爆信号に基づいて、CPU55においてアンロード弁38の閉信号を生成し、これを出力部57からアンロード弁38に送り、アンロード弁38を閉じる。これによって、制御用油路9は、制御用の油を駆動油圧系7に供給する通常の動作状態となる。
【0054】
従来は、エンジンを暖め油の温度を上げることによって油の粘度を下げる方法と併せ、吸気温度を予熱させ、エンジンの始動性を高めるという技術手段が知られていた。しかし、本発明に係る移動電源車用油圧装置1は、エンジン2で油圧ポンプ3を回転し、油を油圧モータ4に送り回転駆動するという駆動油圧系7に特有の構成に着目し、その構成に即した解決手段である。
【0055】
即ち、本発明に係る移動電源車用油圧装置1は、上記特有の構成に着目し、エンジン2の負荷となる制御用の油自体を解放して負荷を軽減するという、より直接的な手段を採用したので、エンジン2の始動性は、エンジン2が暖まるの待つ従来の技術に比較して、始動は、迅速となる。
【0056】
以上、本発明に係る移動電源車用油圧装置を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
本発明に係る移動電源車用油圧装置は、寒冷環境で使用する車両への利用に適し、特に、ゴムクローラを備え発電機を搭載し、地震、風水害、原子力災害等で被災した寒冷地等で使用する移動電源車等の利用に適したものである。