(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188619
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ハイブリッドロープおよびハイブリッドロープの製造方法
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20221214BHJP
D07B 1/16 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
D07B1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096797
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】吉松 宣明
【テーマコード(参考)】
3B153
【Fターム(参考)】
3B153AA12
3B153AA33
3B153AA44
3B153BB01
3B153CC13
3B153CC22
3B153CC53
3B153GG01
(57)【要約】
【課題】樹脂繊維と金属線とを備えるハイブリッドロープの強度を高める。
【解決手段】樹脂繊維を備える芯線と、金属線を備える側線と、を備え、前記芯線の外周上に複数の側線が撚り合わされているハイブリッドロープにおいて、芯線および複数の側線によって構成されるロープ部、および、ハイブリッドロープから芯線以外を除去して得られる芯線について、JIS Z2241(2011年)に準じて引張試験を実施したときの、「ロープ部の最大試験力時全伸び/芯線の最大試験力時全伸び」の値が、0.8以上、1.5以下である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂繊維を備える芯線と、金属線を備える側線と、を備え、前記芯線の外周上に複数の側線が撚り合わされているハイブリッドロープであって、
前記ハイブリッドロープのうちの前記芯線および前記複数の側線によって構成されるロープ部、および、前記ハイブリッドロープから前記芯線以外を除去して得られる前記芯線の各々について、JIS Z2241(2011年)に準じて引張試験を実施したときの、「ロープ部の最大試験力時全伸び/芯線の最大試験力時全伸び」の値が、0.8以上、1.5以下である
ハイブリッドロープ。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッドロープであって、
前記「ロープ部の最大試験力時全伸び/芯線の最大試験力時全伸び」の値が、0.9以上、1.3以下である
ハイブリッドロープ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリッドロープであって、
前記樹脂繊維は、分子量が、100万以上、750万以下である超高分子量ポリエチレン繊維であり、
前記ハイブリッドロープは、さらに、前記ロープ部の外周を覆い、ナイロンによって形成されて、厚みが0.2mm未満である被覆層を備える
ハイブリッドロープ。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッドロープであって、
前記金属線は、ステンレス線である
ハイブリッドロープ。
【請求項5】
樹脂繊維を備える芯線と、金属線を備える側線と、を備え、前記芯線の外周上に複数の側線が撚り合わされているハイブリッドロープの製造方法であって、
前記ハイブリッドロープのうちの前記芯線および前記複数の側線によって構成されるロープ部を形成するために、前記芯線上で複数の前記側線を撚り合わせる際に、前記側線を撚り合わせる前の前記芯線、および、前記芯線を撚り合わせて得られる前記ロープ部の各々について、JIS Z2241(2011年)に準じて引張試験を実施したときの、「ロープ部の最大試験力時全伸び/芯線の最大試験力時全伸び」の値が、0.8以上、1.5以下となるように設定された巻き付けピッチにて、前記側線を撚り合わせる
ハイブリッドロープの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のハイブリッドロープの製造方法であって、
前記樹脂繊維は、分子量が、100万以上、750万以下である超高分子量ポリエチレン繊維であり、
前記ハイブリッドロープの製造方法は、前記ロープ部を形成した後、前記ロープ部の外周を覆い、ナイロンによって形成されて、厚みが0.2mm未満である被覆層を形成する
ハイブリッドロープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイブリッドロープ、および、ハイブリッドロープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂繊維ロープや金属製ロープなど、種々のロープが知られている。紡糸加工によって高強度化が可能な樹脂繊維ロープは、一般に、単位重量当たりの強度は比較的高いものの、単位断面積当たりの強度が比較的低い。そのため、樹脂繊維ロープを、例えば重量物の吊り下げ等の用途に用いる場合には、ロープをより太くすることで、ロープ全体の体積が大きくなり、ロープを取り扱うための装置全体を大型化する必要が生じる場合があった。これに対して、金属製ロープは、単位断面積当たりの強度が比較的高いものの、単位重量当たりの強度は比較的低い。そのため、金属製ロープは、例えば、同一重量の物品を吊り下げる目的で使用する場合に、樹脂繊維ロープに比べてロープ重量が重くなり、ロープを取り扱うための装置として、より大きな重量に耐える装置を用いる必要が生じ得た。さらに、ロープとしては、樹脂繊維と金属線とを複合したハイブリッドロープが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂繊維と金属線のように、基本的物性が異なる異種材料を複合して使用する場合に、それぞれのメリットを生かすための検討が、十分になされていなかった。そのため、樹脂繊維と金属線とのそれぞれのメリットを生かして、より強度が高められたハイブリッドロープが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、樹脂繊維を備える芯線と、金属線を備える側線と、を備え、前記芯線の外周上に複数の側線が撚り合わされているハイブリッドロープが提供される。このハイブリッドロープは、前記ハイブリッドロープのうちの前記芯線および前記複数の側線によって構成されるロープ部、および、前記ハイブリッドロープから前記芯線以外を除去して得られる前記芯線の各々について、JIS Z2241(2011年)に準じて引張試験を実施したときの、「ロープ部の最大試験力時全伸び/芯線の最大試験力時全伸び」の値が、0.8以上、1.5以下である。
この形態のハイブリッドロープによれば、樹脂繊維を備える芯線と金属線を備える側線とのメリットを生かしつつ、芯線と側線との強度を生かして、強度に優れたハイブリッドロープとすることができる。
(2)上記形態のハイブリッドロープにおいて、前記「ロープ部の最大試験力時全伸び/芯線の最大試験力時全伸び」の値が、0.9以上、1.3以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、ハイブリッドロープの強度を、さらに高めることができる。
(3)上記形態のハイブリッドロープにおいて、前記樹脂繊維は、分子量が100万以上、750万以下である超高分子量ポリエチレン繊維であり、前記ハイブリッドロープは、さらに、前記ロープ部の外周を覆い、ナイロンによって形成されて、厚みが0.2mm未満である被覆層を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、被覆層を設けることにより、ハイブリッドロープの耐摩耗性や耐久性と共に、ハイブリッドロープの強度を高めることができる。
(4)上記形態のハイブリッドロープにおいて、前記金属線は、ステンレス線であることとしてもよい。このような構成とすれば、金属線としてステンレス線を備えるハイブリッドロープにおいて、強度をさらに高めることができる。
(5)本開示の他の一形態によれば、樹脂繊維を備える芯線と、金属線を備える側線と、を備え、前記芯線の外周上に複数の側線が撚り合わされているハイブリッドロープの製造方法が提供される。このハイブリッドロープの製造方法は、前記ハイブリッドロープのうちの前記芯線および前記複数の側線によって構成されるロープ部を形成するために、前記芯線上で複数の前記側線を撚り合わせる際に、前記側線を撚り合わせる前の前記芯線、および、前記芯線を撚り合わせて得られる前記ロープ部の各々について、JIS Z2241(2011年)に準じて引張試験を実施したときの、「ロープ部の最大試験力時全伸び/芯線の最大試験力時全伸び」の値が、0.8以上、1.5以下となるように設定された巻き付けピッチにて、前記側線を撚り合わせる。
この形態のハイブリッドロープの製造方法によれば、樹脂繊維を備える芯線と金属線を備える側線とのメリットを生かしつつ、芯線と側線との強度を生かして、強度に優れたハイブリッドロープ10を得ることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、ハイブリッドロープの設計方法や、ハイブリッドロープを備える器具あるいは装置などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態のハイブリッドロープの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図2】ハイブリッドロープの製造方法を表すフローチャート。
【
図3】ハイブリッドロープの製造の途中の様子を表す説明図。
【
図4】撚りピッチを異ならせた樹脂繊維についての引張試験の結果を示す説明図。
【
図5】撚線ピッチを異ならせた芯線についての引張試験の結果を示す説明図。
【
図6】巻き付けピッチを異ならせたハイブリッドロープについての引張試験の結果を示す説明図。
【
図7】「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値と最大試験力との関係を示す説明図。
【
図8】芯線と側線の最大試験力時全伸びが等しい場合を示す説明図。
【
図9】側線の方が芯線よりも最大試験力時全伸びが大きい場合を示す説明図。
【
図10】芯線の方が側線よりも最大試験力時全伸びが大きい場合を示す説明図。
【
図11】芯線と側線の最大試験力時全伸びが等しい場合を示す説明図。
【
図12】側線の方が芯線よりも最大試験力時全伸びが大きい場合を示す説明図。
【
図13】芯線の方が側線よりも最大試験力時全伸びが大きい場合を示す説明図。
【
図14】芯線の方が側線よりも最大試験力時全伸びが大きい場合を示す説明図。
【
図15】芯線の方が側線よりも最大試験力時全伸びが大きい場合を示す説明図。
【
図16】第2実施形態のハイブリッドロープの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図17】ハイブリッドロープについて引張試験を行った結果の一例を示す説明図。
【
図18】被覆厚が強度に与える影響を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
(A-1)ハイブリッドロープの構成:
図1は、第1実施形態のハイブリッドロープ10の概略構成を模式的に表す断面図である。本実施形態のハイブリッドロープ10は、樹脂繊維を含む芯線20と、金属線を含む側線30と、を備えており、1本の芯線20の外周上で、複数の側線30を撚り合わせた(巻き付けた)構造を有している。以下では、芯線20と、芯線20上に巻き付けられた複数の側線30と、によって構成される構造を、「ロープ部15」とも呼ぶ。本実施形態では、ハイブリッドロープ10とロープ部15とは同じである。なお、
図1は、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0008】
芯線20は、樹脂繊維を撚って形成した撚り糸22を複数本備え、これら複数の撚り糸22を撚り合わせることにより形成されている。
図1のハイブリッドロープ10は、3本の撚り糸22を備えることとしたが、芯線20を構成する撚り糸22の本数は、製造すべきハイブリッドロープ10のサイズなどに応じて、適宜設定することができる。
【0009】
撚り糸22を構成する樹脂繊維としては、種々の樹脂繊維を用いることができる。例えば、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維からなる群から選ばれる1種以上を用いることができる。ハイブリッドロープ10全体の強度を高めるためには、撚り糸22を構成する樹脂繊維の強度もより高い方が望ましい。例えば、樹脂繊維として、超高分子量ポリエチレン繊維を用いることが望ましい。超高分子量ポリエチレン繊維とは、通常のポリエチレンが分子量2~30万のところ、平均分子量を100万以上、700万以下程度まで高めたポリエチレン繊維である。超高分子量ポリエチレンとしては、延伸によって伸び切り鎖構造となったものを用いることができる。超高分子量ポリエチレン繊維の具体例として、ダイニーマ(DSM株式会社製、ダイニーマは登録商標)、スペクトラ(ハネウエル社製)、イザナス(東洋紡製、イザナスは登録商標)を挙げることができる。
【0010】
撚り糸22は、上記した樹脂繊維を、予め設定した撚りピッチにて、Z撚り、あるいはS撚りにて撚ることで作製される。撚り糸22のばらけが許容範囲であるならば、樹脂繊維を撚ることなく撚り糸22とすることも可能である。芯線20は、予め設定した本数の撚り糸22を、予め設定した撚線ピッチにて、Z撚り、あるいはS撚りにて撚ることで作製される。このとき、芯線20を形成するための撚り糸22の撚り方を、撚り糸22を形成するための樹脂繊維の撚り方とは異ならせる普通撚りとすることが望ましい。樹脂繊維および撚り糸22の撚りの条件については、後に詳しく説明する。
【0011】
側線30は、金属線を複数本束ねて撚ることにより形成される。側線30を形成する金属線の本数や直径の長さは、製造すべきハイブリッドロープ10のサイズなどに応じて、適宜設定することができる。側線30を構成する金属線としては、種々の金属線を用いることができる。例えば、ステンレス線、ピアノ線、チタン線、チタン合金線、アルミニウム合金線、タングステン合金線、タンタル合金線、マグネシウム合金線、ベリリウム銅線、ニッケル・チタン合金線、コバルトクロム合金線、ジルコニウム合金線からなる群から選ばれる1種以上を用いることができる。側線30は、予め設定した本数の金属線を、予め設定した撚りピッチにて、Z撚り、あるいはS撚りにて撚ることで作製される。金属線のばらけ易さが許容範囲であれば、金属線を撚ることなく単に束ねて側線30を形成してもよい。
【0012】
ハイブリッドロープ10は、芯線20の外側に、予め設定した本数の側線を、予め設定した撚線ピッチ(巻き付けピッチ)にて、Z撚り、あるいはS撚りにて撚り合わせることにより作製する。このとき、側線30の撚り方を、側線30を形成するための金属線の撚り方とは異ならせる普通撚りとすることが望ましい。
図1のハイブリッドロープ10は、12本の側線30を備えることとしたが、側線30の数は、製造すべきハイブリッドロープ10のサイズなどに応じて、適宜設定することができる。金属線および側線30の撚りの条件については、後に詳しく説明する。
【0013】
(A-2)ハイブリッドロープの製造方法:
図2は、ハイブリッドロープ10の製造方法を表すフローチャートである。また、
図3は、ハイブリッドロープ10の製造の途中の様子を表す説明図である。具体的には、
図3では、樹脂繊維から撚り糸22が作製され、撚り糸22を用いて芯線20が作製され、芯線20を用いてハイブリッドロープ10が作製される様子の具体例が示されている。
【0014】
ハイブリッドロープ10を製造する際には、まず、予め設定した撚り方向と撚りピッチにて、樹脂繊維から撚り糸22を作製する(工程T100)。ここで、撚り糸22を作製するために用いる樹脂繊維としては、既述したように種々の繊維を用いることができる。また、樹脂繊維の撚り方向は、既述したように、Z撚りまたはS撚りを予め設定すればよい。撚り糸22の撚りピッチが短いほど、一般に、撚り糸22の伸び(破断伸び)は増加し、撚り糸22の撚りピッチは、撚り糸22の強度にも影響する。以下では、撚り糸22の撚りピッチの設定方法について説明する。
【0015】
図4は、撚りピッチを種々異ならせた撚り糸について引張試験を行い、伸び率と荷重との関係を調べた結果の一例を示す説明図である。
図4では、樹脂繊維として、1760dtex(外径約0.5mm)のダイニーマを用いた例を示す。ここでは、撚糸前の樹脂繊維と、撚りピッチが2mm、3mm、6mm、9mm、12mmとなるようにZ撚りした撚り糸とを用いて、引張試験を行った。
図4、および、後述する
図5、
図6、
図17に結果を示す引張試験は、JIS Z2241(2011年)に準拠して行った。
図4において、横軸は伸び(%)を示し、縦軸は試験荷重(N)を示す。
図4の横軸の「伸び(%)」は、引張試験前の長さに対する伸び分の比率を表しており、「弾性伸び」と「塑性伸び」とを合わせた伸びの比率(以下、「全伸び」とも呼ぶ)を示す。
図4において、試験荷重のピーク時の大きさが大きいほど、各撚り糸の強度が高いことを示す。各グラフのピーク時の伸び率(試験荷重が最大となるときの伸び率)を、「最大試験力時全伸び」とも呼ぶ。
【0016】
図4に基づいて撚り糸22の撚りピッチを設定する場合には、例えば、引張試験時の荷重の最大値が最も大きくなる撚りピッチ9mmを設定すればよい。なお、
図4に示す各撚り糸および撚糸前の樹脂繊維の試験荷重の最大値を比較すると、撚糸前の樹脂繊維が最も大きいが、これは、樹脂繊維から撚り糸22を作製する撚り加工(工程T100)に伴い、樹脂繊維の強度が低下するためである。
図4の結果から、より強度が高い芯線20を得るためには、撚り加工を行わない樹脂繊維を用いればよいとも考えられるが、撚り加工を行わない樹脂繊維を用いると、芯線20を作製するための芯線加工(後述する工程T110)の際に樹脂繊維がばらけ、かえって芯線20の強度が低下してしまう(データ示さず)。したがって、繊維のばらけによる不都合等を抑えるためには、樹脂繊維を撚って撚り糸22を作製することが望ましい。工程T100における撚り糸22の撚りピッチは、用いる樹脂繊維に応じて、十分な強度の撚り糸22が得られるように適宜設定すればよい。
【0017】
工程T100で撚り糸22を作製すると、次に、予め設定した撚り糸22の数と撚り方向と撚線ピッチにて、撚り糸22から芯線20を作製する(工程T110)。撚り糸22の数は、製造すべきハイブリッドロープ10の大きさに応じて、適宜設定すればよい。一般に、撚り糸22の数を多くするほど、芯線20全体の伸びは低下する。撚り糸22の撚り方向は、製造すべきハイブリッドロープ10に望まれる性質に応じて、普通撚りとラング撚りのいずれを採用するのかを決定し、撚り糸22における樹脂繊維の撚り方向に応じて設定すればよい。例えば、芯線20において普通撚りを採用する場合であって、撚り糸22をZ撚りにて作製した場合には、工程T110における芯線20の撚り方向は、
図3に示すようにS撚りとすればよい。以下では、芯線20の撚線ピッチの設定方法について説明する。
【0018】
図5は、撚線ピッチを種々異ならせて作製した芯線について引張試験を行い、伸び率と荷重との関係を調べた結果の一例を、
図4と同様にして示す説明図である。
図5では、
図4に示した撚りピッチ9mmの撚り糸22を3本用いて、S撚りする際の撚線ピッチを、12mm、18mm、24mm、30mmのように異ならせて作製した芯線についての結果を示している。
図5の各グラフにおける引張試験時の試験荷重の最大値は、各芯線における「破断強度」として評価することができる。
【0019】
図5に基づいて芯線20の撚線ピッチを設定する場合には、例えば、引張試験時の荷重の最大値が最も大きくなる撚線ピッチ18mmを設定すればよい。ダイニーマを撚りピッチ9mmにてZ撚りして得た撚り糸22の最大試験力時全伸びは、
図4に示すように3%であるが、これを3本用いて撚線ピッチ18mmにて普通撚りして得た芯線20の最大試験力時全伸びは、
図5に示すように5%であった。工程T110における芯線20の撚線ピッチは、用いる撚り糸22に応じて、十分な強度の芯線20が得られるように適宜設定すればよい。
【0020】
工程T110で芯線20を作製すると、次に、予め設定した金属線の数と撚り方向と撚りピッチにて、金属線から側線30を作製する(工程T120)。ここで、側線30を作製するために用いる金属線としては、既述したように種々の金属線を用いることができる。金属線の数は、製造すべきハイブリッドロープ10の大きさに応じて、適宜設定すればよい。また、金属線の撚り方向は、既述したように、Z方向またはS方向を予め設定すればよい。金属線の撚りピッチは、
図4に示した撚り糸22の撚りピッチと同様にして、十分な強度の側線30が得られるように適宜設定すればよい。既述したように、金属線のばらけ易さが許容範囲であれば、金属線を撚ることなく単に束ねて側線30を形成してもよい。
【0021】
工程T120で側線30を作製すると、次に、予め設定した側線30の数と撚り方向と巻き付けピッチにて、芯線20上で側線30を撚り合わせて(工程T130)、ロープ部15、すなわち、第1実施形態のハイブリッドロープ10を完成する。側線30の数は、製造すべきハイブリッドロープ10の大きさに応じて、適宜設定すればよい。一般に、側線30の数を多くするほど、ハイブリッドロープ10全体の伸びは低下する。側線30を芯線20上で撚り合わせる撚り方向は、製造すべきハイブリッドロープ10に望まれる性質に応じて、普通撚りとラング撚りのいずれを採用するのかを決定し、側線30における金属線の撚り方向に応じて設定すればよい。例えば、普通撚りを採用する場合であって、側線30をZ撚りで作製した場合には、工程T130における側線30の撚り方向は、S撚りとすればよい。金属線を撚ることなく側線30を形成した場合には、工程T130における側線30の撚り方向は、任意に設定すればよい。以下では、芯線20上で側線30を撚り合わせる際の巻き付けピッチの設定方法について説明する。
【0022】
図6は、巻き付けピッチを種々異ならせて作製したハイブリッドロープについて引張試験を行い、伸び率と荷重との関係を調べた結果の一例を、
図4と同様にして示す説明図である。
図6の各ハイブリッドロープでは、芯線20として、
図5に示した撚線ピッチ18mmの芯線20を用いた。また、
図6のハイブリッドロープでは、金属線としてステンレス線であるSUS304WPBを用い、この金属線を、撚らずに7本束ねて側線30として用いた。上記芯線20は、直径が約0.9mmであり、側線30は、直径が約0.15mmである。そして、上記芯線20上において、上記側線30を12本用いて、S撚りにて側線30を撚り合わせた。
図6では、側線30を撚り合わせる際の巻き付けピッチを、2mm、5mm、6mm、10mm、15mmのように異ならせた結果を示している。
図6の各ハイブリッドロープの断面積はほぼ同じであり、
図6の各グラフにおける引張試験時の試験荷重の最大値は、各ハイブリッドロープにおける「破断強度」として評価することができる。
【0023】
側線30の巻き付けピッチは、
図6に示すような引張試験により評価される破断強度に基づいて、十分な強度のハイブリッドロープ10が得られるように、適宜設定すればよい。
図6に示すように、共通する芯線20を用いると共に、同じ数の共通する側線30を用いる場合には、ハイブリッドロープ10において、「芯線20の部分」の強度、および、「側線30の部分」の強度は、ほぼ一定と考えられる。そして、
図6に示すように、側線30の巻き付けピッチを変更することによって、ハイブリッドロープ10全体の伸び、および強度(試験荷重の最大値)が変更される。既述した芯線20および側線30を用いてハイブリッドロープを作製する場合には、
図6に示す5種のハイブリッドロープのうち、巻き付けピッチを、2mm、5mm、6mm、あるいは10mmにしたハイブリッドロープにおいて、試験荷重の最大値が比較的高くなり、望ましい強度のハイブリッドロープが得られた。
【0024】
しかしながら、上記のように、側線30の巻き付けピッチを異ならせてハイブリッドロープを作製し、得られた各ハイブリッドロープについて引張試験を行って、所望の強度のハイブリッドロープ10を得るための巻き付けピッチに係る条件を設定するためには、過大な試行錯誤が必要になる可能性がある。本実施形態では、用いる芯線20と側線30とが定まったときに、これらを用いて巻き付けピッチを異ならせた多数のハイブリッドロープを作製して破断強度を調べることなく、望ましい強度を有するハイブリッドロープを得るための巻き付けピッチの設定を可能にしている。具体的には、「ロープ部最大試験力時全伸び」と「芯線最大試験力時全伸び」との比によって、得られるハイブリッドロープの強度を判断している。ここで、「ロープ部最大試験力時全伸び」とは、得られたロープ部15(ハイブリッドロープ10)について引張試験を行ったときに、試験荷重が最大となるときのハイブリッドロープ10の伸び率を指す。また、「芯線最大試験力時全伸び」とは、芯線20を単独で用いて引張試験を行ったときに、試験荷重が最大となるときの芯線20の伸び率を指す。
【0025】
図7は、
図6に示した5種のハイブリッドロープについて、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値と、最大試験力(試験荷重の最大値)との関係についてまとめた説明図である。ここで、「ロープ部最大試験力時全伸び」とは、
図6に示すハイブリッドロープの各々における最大試験力時全伸びである。また、「芯線最大試験力時全伸び」とは、各ハイブリッドロープが共通して有する芯線、すなわち、
図5に示す撚線ピッチ18mmの芯線における最大試験力時全伸び(5%)である。
【0026】
図7に示すように、十分な強度のハイブリッドロープとするためには、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値は、下限値に関しては、0.8以上とすることが望ましく、0.9以上とすることがより望ましい。また、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値は、上限値に関しては、1.5以下とすることが好ましく、1.3以下とすることがより好ましい。工程T130で用いる側線30の巻き付けピッチは、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」が上記の範囲となるように設定すればよい。
【0027】
以上のように構成された本実施形態のハイブリッドロープ10の製造方法によれば、ハイブリッドロープ10の製造に用いる芯線20と、得られたハイブリッドロープ10と、について引張試験を行い、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値が、0.8以上、1.5以下となるように、側線30の巻き付けピッチを設定している。そのため、芯線20と側線30とのメリットを生かして、強度に優れたハイブリッドロープ10を得ることができる。すなわち、樹脂繊維を備える芯線20と、金属線を備える側線30とを組み合わせることにより、単位重量当たりの強度と単位断面積当たりの強度とのバランスを取りつつ、芯線20と側線30との強度を生かして、強度に優れたハイブリッドロープ10を得ることができる。また、ハイブリッドロープ10において、使用前のハイブリッドロープ10から側線30を除去して得られる芯線20と、ハイブリッドロープ10と、について引張試験を行ったときに、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値を、0.8以上、1.5以下とすることで、樹脂繊維を備える芯線20と金属線を備える側線30とのメリットを生かしつつ、芯線20と側線30との強度を生かして、強度に優れたハイブリッドロープ10とすることができる。以下では、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値と、ハイブリッドロープ10の強度との関係についてさらに説明する。
【0028】
図8は、ハイブリッドロープ10において、「芯線20の部分の最大試験力時の全伸び」と、「側線30の部分の最大試験力時の全伸び」と、が等しい場合(以下、条件Aとも呼ぶ)の、芯線20と側線30とハイブリッドロープ10(ロープ部15)とにおける、伸び率と試験荷重との関係を模式的に示す説明図である。なお、
図8、および、後述する
図9~
図15では、
図6および
図7に示したハイブリッドロープと同様に、「芯線20の部分の最大試験力」の方が「側線30の部分の最大試験力」よりも大きい例を示している。
【0029】
上記したハイブリッドロープ10における「芯線20の部分」あるいは「側線30の部分」とは、芯線20や側線30がハイブリッドロープ10の内部に組み込まれている状態を指す。しかしながら、芯線20と複数の側線30とを一体化したハイブリッドロープ10において、芯線20と側線30とのそれぞれについて、ハイブリッドロープ10の内部に組み込まれた状態としての、伸び率と試験荷重との関係を、引張試験等により測定することはできない。そのため、
図8では、ハイブリッドロープ10の内部に組み込まれた状態としての芯線20と側線30とについて、引張試験が可能であると想定した場合の「仮想値」を示している。ハイブリッドロープ10については、引張試験が可能であるため、「測定可能値」としている。以下では、ハイブリッドロープ10における「芯線20の部分の最大試験力時の全伸びの仮想値」を「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」とも呼び、「側線30の部分の最大試験力時の全伸びの仮想値」を「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」とも呼び、「ハイブリッドロープ10全体の最大試験力時全伸び(測定可能値)」を「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」とも呼ぶ。
【0030】
なお、
図5および
図6に示すように、芯線20やハイブリッドロープ10は、引張試験の際に、最大試験力を示した後に直ちに破断するため、
図8、および、後述する
図9~
図15では、芯線20と側線30とに係る後述する仮想値のグラフについても、最大試験力時全伸びと、各部が破断するときの破断時全伸びとが同じであるように表している。
図8および後述する
図11のように、条件Aが成立する場合には、ハイブリッドロープ10全体の破断時全伸びも、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」と等しくなる。「ハイブリッドロープ10全体の破断時全伸び(測定可能値)」を「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total」とも呼ぶ。
【0031】
図8に示すように、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」と、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」とが等しいときには、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」も、芯線20や側線30の最大試験力時全伸びと等しくなる(
図8では6%)。そして、「ハイブリッドロープ10の最大試験力(c)」は、「芯線20の最大試験力の仮想値(b)」と「側線30の最大試験力の仮想値(a)」との合計になる。このように、条件Aが成立するとき、すなわち、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」と、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」とが等しいときに、芯線20と側線30との強度が最大限生かされて、「ハイブリッドロープ10の最大試験力(c)」(強度)は、最大になると考えられる。
図8に示すように、条件Aが成立するときには、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」の値は、1.0となる(
図8では、6%/6%=1.0)。
【0032】
図9は、ハイブリッドロープ10において、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」よりも、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」の方が大きい場合(以下、条件Bとも呼ぶ)の、芯線20と側線30とハイブリッドロープ10とにおける、伸び率と試験荷重との関係を模式的に示す説明図である。
図9では、
図8と同様に、ハイブリッドロープ10の内部に組み込まれた状態としての芯線20と側線30とについて、引張試験が可能であると想定した場合の仮想値を示している。また、
図9、および、後述する
図10~
図15では、
図8と共通する芯線20および側線30を用いると共に、用いる側線の数が同数のハイブリッドロープについて示しており、側線30の巻き付けピッチを異ならせることにより、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」を異ならせた様子を示している。
【0033】
図9および後述する
図12のように、条件Bが成立する場合には、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total」は、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」よりも大きくなり、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」と等しくなる。
【0034】
図9に示すように、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」よりも、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」の方が大きいときには、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」は、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」と等しくなる(
図9では6%)。そして、「ハイブリッドロープ10の最大試験力(c)」は、「芯線20の最大試験力の仮想値(b)」と、「側線30の伸び率が、芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CVと等しくなるときに、側線30にかかる試験荷重の仮想値(a
1)」と、の合計になる。「側線30の伸び率が、芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CVと等しくなるときに、側線30にかかる試験荷重の仮想値(a
1)」は、「側線30の最大試験力の仮想値(a)」よりも小さい。そのため、条件Bが成立するとき、すなわち、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」よりも、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」の方が大きいときには、条件Aが成立するときよりも、「ハイブリッドロープ10の最大試験力(c)」(強度)は小さくなる。
図9に示すように、条件Bが成立するときには、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」の値は、1.0となる。
【0035】
図10は、ハイブリッドロープ10において、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」の方が、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」よりも大きい場合(以下、条件Cとも呼ぶ)の、芯線20と側線30とハイブリッドロープ10とにおける、伸び率と試験荷重との関係を模式的に示す説明図である。
図10では、
図8および
図9と同様に、ハイブリッドロープ10の内部に組み込まれた状態としての芯線20と側線30とについて、引張試験が可能であると想定した場合の仮想値を示している。
【0036】
図10および後述する
図13~
図15のように、条件Cが成立する場合には、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total」は、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」よりも大きくなり、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」と等しくなる。
【0037】
図10に示すように、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」の方が、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」よりも大きいときには、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」は、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」と等しくなる(
図9では5%)。そして、「ハイブリッドロープ10の最大試験力(c)」は、「側線30の最大試験力の仮想値(a)」と、「芯線20の伸び率が、側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SVと等しくなるときに、芯線20にかかる試験荷重の仮想値(b
1)」との合計になる。「芯線20の伸び率が、側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SVと等しくなるときに、芯線20にかかる試験荷重の仮想値(b
1)」は、「芯線20の最大試験力の仮想値(b)」よりも小さい。そのため、条件Cが成立するとき、すなわち、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」の方が、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」よりも大きいときには、条件Aが成立するときよりも、ハイブリッドロープ10の最大試験力(強度)は小さくなる。
図10に示すように、条件Cが成立するときには、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」の値は、1.0よりも小さくなる。
【0038】
図8~
図10では、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」と「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」との関係に基づいて、条件A~条件Cの各々が成立する場合に場合分けして、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」と「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」との関係について説明した。以下では、さらに、「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」を考慮して、条件A~条件Cの各々が成立する場合について、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」と「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」との関係について説明する。
【0039】
「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)ECM」は、ハイブリッドロープ10の製造に用いる芯線20、あるいは、使用前のハイブリッドロープ10から側線30を除去して得られる芯線20(以下、「芯線20単体」とも呼ぶ)について、引張試験を行って得られる最大試験力時全伸びの値である。この値は、ハイブリッドロープ10内に組み込まれた状態の芯線20に係る「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)ECV」とは異なる値であり、実際に測定できる値である。
【0040】
なお、芯線20単体も、引張試験の際に、最大試験力を示した後に直ちに破断する。そのため、
図11、および、後述する
図12~
図15では、芯線20単体に係る測定可能値のグラフについても、「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」と「芯線20単体の破断時全伸び(測定可能値)」とが同じであるように表している。以下では、「芯線20単体の破断時全伸び(測定可能値)」を、「芯線破断時全伸び(測定可能値)B
CM」とも呼ぶ。
【0041】
図11は、条件Aが成立する場合に関するグラフであって、芯線20単体について引張試験を行って得られる伸び率と試験荷重との関係(測定可能値)を模式的に表すグラフを、
図8に加えて示す説明図である。
図11に示すように、「芯線20単体の最大試験力の測定可能値(b
0)」は、「芯線20の最大試験力の仮想値(b)」よりも小さいと考えられる。また、試験荷重b
0に対応する「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」も、試験荷重bに対応する「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」(
図11では6%)よりも小さくなると考えられる。ハイブリッドロープ10内において側線30が巻き付けられた芯線20は、側線30によって支えられるため、芯線20単体に比べて、引張力を加えたときに受けるダメージが低減されるためである。なお、
図11では、一例として、「芯線20単体の最大試験力の測定可能値(b
0)」の方が「側線30の最大試験力の仮想値(a)」よりも大きい場合を示している。そして、既述したように、条件Aが成立する場合には、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」と「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」とが等しくなる。その結果、「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」は、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」よりも小さくなる。
【0042】
また、
図11、および、後述する
図12~
図15において、芯線20単体の測定可能値のグラフは、ハイブリッドロープ10内の芯線20の仮想値のグラフと同等の傾きとなるように記載しているが、芯線20単体の測定可能値のグラフの方が、ハイブリッドロープ10内の芯線20の仮想値のグラフよりも、傾きが小さくなり得ると考えられる。ただし、この場合であっても、芯線20単体の測定可能値と、ハイブリッドロープ10内の芯線20の仮想値との間で、最大試験力および最大試験力時全伸びの大小関係は、上記の関係が成立すると考えられる。
【0043】
そのため、
図11に示すように、条件Aが成立するときに、ハイブリッドロープ10と芯線20単体とのそれぞれについて、最大試験力時全伸びを測定すると、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値は、1.0よりも大きくなると考えられる。また、このとき、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total/芯線破断時全伸び(測定可能値)B
CM」の値も、1.0よりも大きくなると考えられる。
【0044】
図12は、条件Bが成立する場合に関するグラフであって、芯線20単体について引張試験を行って得られる伸び率と試験荷重との関係(測定可能値)を模式的に表すグラフを、
図9に加えて示す説明図である。この場合であっても、既述したように、「芯線20単体の最大試験力の測定可能値(b
0)は、「芯線20の最大試験力の仮想値(b)」よりも小さいと考えられる。また、試験荷重b
0に対応する「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」も、試験荷重bに対応する「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」(
図12では6%)よりも小さくなると考えられる。そして、既述したように、条件Bが成立する場合には、「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」と「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」とが等しくなる。その結果、「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」は、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」よりも小さくなる。
【0045】
そのため、
図12に示すように、条件Bが成立するときに、ハイブリッドロープ10と芯線20単体とのそれぞれについて、最大試験力時全伸びを測定すると、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値は、1.0よりも大きくなると考えられる。また、このとき、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total/芯線破断時全伸び(測定可能値)B
CM」の値も、1.0よりも大きくなると考えられる。
【0046】
図13は、条件Cが成立する場合に関するグラフであって、芯線20単体について引張試験を行って得られる伸び率と試験荷重との関係(測定可能値)を模式的に表すグラフを、
図10にさらに加えて示す説明図である。ここで、
図13では、特に、条件Cが成立する場合であって、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」が、「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」よりも小さい場合について示している。そして、既述したように、条件Cが成立する場合には、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」と「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」とが等しくなる。
【0047】
このような場合には、
図13に示すように、ハイブリッドロープ10と芯線20単体とのそれぞれについて、最大試験力時全伸びを測定すると、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値は、1.0よりも小さくなると考えられる。また、このとき、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total/芯線破断時全伸び(測定可能値)B
CM」の値は、1.0よりも大きくなると考えられる。
【0048】
図14は、条件Cが成立する場合に関するグラフであって、芯線20単体について引張試験を行って得られる伸び率と試験荷重との関係(測定可能値)を模式的に表すグラフを、
図10にさらに加えて、
図13と同様にして示す説明図である。ただし、
図14は、
図13とは異なり、条件Cが成立する場合であって、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」と、「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」とが等しい場合について示している。このとき、条件Cが成立することにより、既述したように、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」と「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」とが等しくなる。
【0049】
このような場合には、
図14に示すように、ハイブリッドロープ10と芯線20単体とのそれぞれについて、最大試験力時全伸びを測定すると、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値は、1.0になると考えられる。また、このとき、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total/芯線破断時全伸び(測定可能値)B
CM」の値は、1.0よりも大きくなると考えられる。
【0050】
図15は、条件Cが成立する場合に関するグラフであって、芯線20単体について引張試験を行って得られる伸び率と試験荷重との関係(測定可能値)を模式的に表すグラフを、
図10にさらに加えて、
図13と同様にして示す説明図である。ただし、
図15は、
図13とは異なり、条件Cが成立する場合であって、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」が、「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」よりも大きい場合について示している。このとき、条件Cが成立することにより、既述したように、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」と「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」とが等しくなる。
【0051】
このような場合には、
図15に示すように、ハイブリッドロープ10と芯線20単体とのそれぞれについて、最大試験力時全伸びを測定すると、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値は、1.0よりも大きくなると考えられる。また、このとき、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total/芯線破断時全伸び(測定可能値)B
CM」の値も、1.0よりも大きくなると考えられる。
【0052】
予め、用いる芯線20および側線30を作製すると共に、側線30の本数を設定すると、側線30の巻き付けピッチを変更することにより、ハイブリッドロープ10内における「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」を変更して、
図8~
図10に示した各状態のハイブリッドロープ10を作製することができる。すなわち、ハイブリッドロープ10内における「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」と、「芯線最大試験力時の全伸び(測定可能値)E
CM」および「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」と、の間の大小関係を変更して、
図11~
図15に示した各状態のハイブリッドロープ10を作製することができる。
【0053】
このように、ハイブリッドロープ10内における「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」を変更して次第に大きくすると、
図13、
図14、
図15、
図11、
図12の順で状態が変化する。そして、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値は、既述したように、
図13の状態では1.0より小さく、
図14の状態では1.0となり、
図15、
図11、
図12の状態では1.0より大きくなる。ハイブリッドロープ10において最大試験力が最大になるのは、
図11の状態(条件Aが成立するとき)であり、このとき、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値は1.0より大きくなる。そして、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値が、条件Aが成立する
図11の状態のときの値に近いほど、ハイブリッドロープ10における最大試験力は、より大きくなると考えられる。
【0054】
実際に、種々のハイブリッドロープを作製して上記した比の値を調べると、
図7に示すように、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値、すなわち、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値が、0.8以上、1.5以下のときに、ハイブリッドロープ10における最大試験力は、より大きな値となった。なお、
図7では、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値が1.0のときに、ハイブリッドロープ10の最大試験力は、最も大きな値となっているが、
図11に示すように、ハイブリッドロープ10の最大試験力が最大になるときには、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値は、1.0よりも大きいと考えられる。具体的には、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値が1.0以上1.1以下のときに、ハイブリッドロープ10の最大試験力は最大になると考えられる。
【0055】
既述したように、条件Aが成立する
図8(
図11)のときに、ハイブリッドロープ10における最大試験力は最大となる。しかしながら、条件Aが成立するか否かを直接的に判断することはできない。「芯線最大試験力時全伸び(仮想値)E
CV」や、「側線最大試験力時全伸び(仮想値)E
SV」を測定することができないためである。そのため、得られたハイブリッドロープが、条件Aを満たす状態に十分に近いか否かを判断するためには、あるいは、条件Aを満たすハイブリッドロープに近い強度を有するハイブリッドロープを製造するための条件を設定するためには、得られるハイブリッドロープの強度が最大値に近いことを判定するための、過度の試行錯誤が必要となる可能性がある。
【0056】
本実施形態によれば、測定可能な値である「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)Etotal」と「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)ECM」との比(「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値)を、0.8以上、1.5以下に設定することにより、ハイブリッドロープ10が、条件Aが成立する状態に近く、最大試験力が最大値により近い高強度なものであるか否かを判断することが容易になる。また、このようなハイブリッドロープを製造する条件を設定することが、容易になる。ハイブリッドロープが上記の数値範囲を満たすか否かは、ハイブリッドロープ全体について引張試験を行うと共に、ハイブリッドロープから芯線以外である側線を除去して芯線20単体を取り出し、取り出した芯線20単体について引張試験を行うことにより、確認することができる。
【0057】
なお、ハイブリッドロープ10に関して測定可能な値としては、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」および「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の他に、例えば、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total」および「芯線破断時全伸び(測定可能値)B
CM」がある。しかしながら、「ハイブリッドロープ破断時全伸び(測定可能値)B
total」と「芯線破断時全伸び(測定可能値)B
CM」との比は、
図11~
図15に示したように、常に1.0よりも大きく、条件Aに関する判定に用いることができない。本実施形態では、ハイブリッドロープ10に関する測定可能値の中でも、特に、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total」および「芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」を用いて、これらの比を算出することにより、条件Aに関する既述した判定を行うことを可能にしている。
【0058】
図8~
図15に示したような、芯線20と側線30とハイブリッドロープ10との間における、伸び率と試験荷重に係る仮想値と測定可能値との間の条件A~Cに応じた大小関係の変化は、用いる芯線20や側線30の種類、あるいは、側線30の本数等にかかわらず成立する。すなわち、芯線20や側線30の材質、撚りピッチ、太さ、撚り方向、芯線20の撚線ピッチ、側線30の本数等にかかわらず成立する。そのため、「ハイブリッドロープ最大試験力時全伸び(測定可能値)E
total/芯線最大試験力時全伸び(測定可能値)E
CM」の値が、既述した数値範囲を満たすか否かを判断することで、用いる芯線20単体や側線30の種類や側線30の本数等にかかわらず、ハイブリッドロープが、芯線と側線の強度を生かした高強度なものであるか否かを判断することができる。また、高強度のハイブリッドロープを製造するための条件を設定することができる。
【0059】
B.第2実施形態:
第1実施形態のハイブリッドロープ10は、芯線20と複数の側線30とによって構成されるロープ部15のみによって構成されることとしたが、ハイブリッドロープは、ロープ部に加えてさらに他の構成要素を備えていてもよい。この場合であっても、ハイブリッドロープのうちのロープ部15において、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値が既述した数値範囲を満たすことにより、ハイブリッドロープ全体の強度を高めることができる。以下では、第2実施形態として、ロープ部15に加えて、ロープ部15を覆う被覆層をさらに備えるハイブリッドロープ110について説明する。
【0060】
図16は、第2実施形態のハイブリッドロープ110の概略構成を模式的に表す断面図である。第2実施形態のハイブリッドロープ110は、
図1のハイブリッドロープ10と同様の構成を有するロープ部15を備えると共に、側線30の外側に、さらに被覆層40を備えている。
【0061】
被覆層40は、樹脂により構成される層であり、被覆層40を設けることにより、ハイブリッドロープ110の強度や耐摩耗性や耐久性を高め、ハイブリッドロープ110のばらけを防止することができ、また、ハイブリッドロープ110の着色が可能になる。被覆層40を構成する樹脂としては、例えば、ナイロン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など、種々の樹脂を採用可能である。
【0062】
被覆層40を形成する方法としては、例えば、ディップ法を採用することができる。ディップ法は、被覆層40において厚み等のムラが比較的生じ難く、均一な厚さの被覆層40を容易に形成可能な方法である。具体的には、被覆層40を形成するための樹脂を熱溶融させて流動化した後、流動化した樹脂を金型内に圧送し、ワークとしてのロープ部15を金型内に走行させて、ワーク表面に流動化した樹脂を付着させた後、冷却によりロープ部15上で樹脂を定着させる方法である。これにより、ロープ部15に対して連続的に被覆加工を行って、被覆層40を形成することができる。このような方法を採用する場合には、被覆層40の厚さは、ワークの走行速度(送り速度)や、樹脂の溶融温度や、金型の加熱温度や、金型に対する流動化した樹脂の圧送量等により、調節することができる。
【0063】
第2実施形態では、被覆層40の厚さを調節することにより、ハイブリッドロープ110全体の強度をより高く確保している。
図16では、被覆層40の厚さを厚さTcとして表している。被覆層40の厚さは、ハイブリッドロープ110を、サンプル固定用の樹脂に埋め込んで切断し、切断面を研磨仕上げして観察することにより測定できる。被覆層40の厚さを測定する際に、被覆層40の厚みのばらつきの影響を抑えるためには、互いに離間した4点以上の箇所で被覆層40の厚さを測定して、平均値を算出すればよい。以下では、被覆層40の厚さとハイブリッドロープ110の強度との関係について説明する。
【0064】
図17は、共通する構成のロープ部15に対して、厚さの異なる被覆層40を形成してハイブリッドロープ110を作製し、各々のハイブリッドロープ110について引張試験を行った結果の一例を示す説明図である。ここでは、ロープ部15として、
図6に示した巻き付けピッチ6mmのハイブリッドロープ10を用いた。具体的には、1760dtex(外径約0.5mm)のダイニーマ3本を普通撚りして形成した芯線20と、ステンレス線であるSUS304WPBを金属線として7本用いて形成した側線30を12本備えるハイブリッドロープ10を用いた。被覆層40を構成する樹脂としては、ナイロンを用いた。そして、被覆層40は、ディップ法により形成した。具体的には、ナイロンペレットを200℃で溶融させ、被覆層の形成に係る既述した種々の条件を変更することにより被覆層40の厚さを異ならせ、被覆層40の厚さが0.1mm、0.2mmの2種類のハイブリッドロープ110を作製して、被覆層40を設けないロープ部15のみから成るハイブリッドロープ(
図17では「被覆層無し」)と比較した。
【0065】
図17に示すように、被覆層40を設けたハイブリッドロープ110は、いずれも、被覆層40を設けないハイブリッドロープに比べて、引張試験時の荷重の最大値が大きくなった。すなわち、被覆層40を設けることにより、ハイブリッドロープの強度が高まることが確認された。しかしながら、被覆層40が厚いほどハイブリッドロープ110の強度が高まるのではなく、被覆層40の厚さが0.1mmであるハイブリッドロープ110の方が、被覆層40の厚さが0.2mmであるハイブリッドロープ110よりも引張試験時の試験荷重の最大値が大きかった。このような、被覆層40の厚さとハイブリッドロープ110の強度との関係について、さらに以下で説明する。
【0066】
図18は、ハイブリッドロープ110内における「ロープ部15の部分」の強度(以下、「ロープ部強度」とも呼ぶ)の仮想値と、「被覆層40の部分」の強度(以下、「被覆層強度」とも呼ぶ)の仮想値と、ハイブリッドロープ110全体の強度(以下、「合算強度」とも呼ぶ)と、のそれぞれについて、被覆層40の厚さ(以下では、「被覆厚」とも呼ぶ)の影響を概念的に示す説明図である。
図18では、被覆厚を横軸に示し、各部の強度を縦軸に示している。
図18に示すように、被覆厚が厚いほど、被覆層強度は高くなると考えられる。これに対して、ロープ部強度は、被覆厚が厚くなるほど、次第に低くなる。その結果、合算強度は、特定の被覆厚においてピークを示す。
【0067】
上記のように、被覆厚が厚くなるほどロープ部強度が低下するのは、被覆厚が厚いほど、流動化のために加熱された被覆層40を構成する樹脂からロープ部15に加えられる熱が増加して、ロープ部15が劣化するためと考えられる。より具体的には、被覆厚が厚いほど、被覆層40の熱容量が増加して被覆層40の冷却に時間を要するため、ロープ部15に対して、被覆層40の形成時に被覆層40から加えられる熱が増加する。その結果、ロープ部15のうちの、樹脂によって形成される芯線20において、劣化が進行し易くなるためと考えられる。
図17に示した例では、被覆層40をナイロンで構成しており、被覆層40の形成時には、ナイロンペレットを200℃に加熱することによりナイロンを流動化している。また、
図17に示すハイブリッドロープ110は、芯線20として、高強度ポリエチレン(ダイニーマ)を用いている。ポリエチレンの融点は、120~150℃程度である。そのため、200℃に加熱して流動化したナイロンでハイブリッドロープ10を覆って被覆層40を形成する場合には、被覆層40の厚さに応じた熱を被覆層40から受けて芯線20の劣化が進行し、芯線20の強度が低下する。
【0068】
このとき、ロープ部15のうち、金属製の側線30の部分については、被覆層40から受ける熱による強度低下の影響を、実質的に受けないと考えられる。そして、被覆層40を設けて被覆層40の強度が加わることによる合算強度の向上の影響と、芯線20が熱により劣化して強度が低下する影響と、のバランスにより定まる特定の被覆厚において、ハイブリッドロープ110全体の合算強度が最も高くなると考えられる。そして、被覆層40がさらに厚くなると、芯線20の強度劣化の程度は、被覆層40の強度向上の程度を上回り、ハイブリッドロープ110全体の強度が低下すると考えられる。
【0069】
したがって、
図17に示すように、芯線20を高強度ポリエチレンにより形成し、被覆層40をナイロンにより形成する場合には、被覆層40の厚さを、0.2mm未満、より望ましくは0.15mm未満とすることで、ハイブリッドロープ110全体の強度を、より高めることができる。また、被覆層40を設けることによる耐摩擦性を確保し、被覆厚を調整する安定性を確保する観点からは、被覆厚は、0.05mmよりも厚いことが望ましい。被覆厚を0.05mmとして、
図17と同様にして引張試験を行った場合には、被覆厚0.2mmの場合と同程度の強度(最大試験力)を示した(データ示さず)。そのため、芯線20を高強度ポリエチレンにより形成し、被覆層40をナイロンにより形成する場合には、被覆層40の厚さは、0.05mmを超える厚さとすることが望ましいと考えられる。
【0070】
第2実施形態のハイブリッドロープ110を製造する際には、第1実施形態のハイブリッドロープ10と同様にして、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値が既述した数値範囲となる条件(側線30の巻き付けピッチ)でロープ部15を作製し、ロープ部15の強度を確保すればよい。そして、得られたロープ部15の外周を覆うように、既述した数値範囲を満たす厚さの被覆層40を形成することにより、ハイブリッドロープ110全体の強度を高めればよい。なお、被覆層40を形成することにより、既述したように芯線20の強度が低下する。したがって、ハイブリッドロープ110について、ロープ部15と、芯線20以外を除去して得られる芯線20と、について引張試験を行うと、被覆層40の形成前と形成後とでは、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値が変化する可能性がある。しかしながら、この場合であっても、得られたハイブリッドロープ110において、「ロープ部最大試験力時全伸び/芯線最大試験力時全伸び」の値が既述した数値範囲を満たせば、ハイブリッドロープ110において高い強度を実現することができると考えられる。
【0071】
ハイブリッドロープ110の各部を、上記とは異なる材料により形成する場合であっても、被覆層40の形成時に、芯線20が、芯線20を構成する樹脂の融点に近い温度に晒される場合には、被覆厚と合算強度との関係は同様の傾向を示し、合算強度は、特定の被覆厚においてピークを示す。例えば、被覆層40を構成する樹脂として、融点が180~250℃程度の樹脂を用い、芯線20を構成する樹脂として融点が120~170℃程度の樹脂を用い、被覆層40を構成する樹脂の流動化のための加熱温度を180~230℃程度とする場合には、合算強度は、
図17と同様に特定の被覆厚においてピークを示す。芯線20および被覆層40を構成する樹脂の融点が、上記温度範囲とは異なる場合であっても、加熱により流動化した被覆層40を構成する樹脂の温度により、芯線20の劣化が進行する場合には同様である。そのため、ハイブリッドロープ110を製造する際には、被覆厚を種々異ならせたハイブリッドロープを予め作製して引張試験を行い、ハイブリッドロープ110においてピーク近傍の強度が得られるように、被覆厚を予め設定すればよい。
【0072】
また、ディップ法のように、樹脂を加熱により流動化して被覆層40を形成する製造方法を採用する場合に限らず、被覆層40の形成時に加熱を行い、被覆層40の厚さと芯線20が受ける熱の量との間に相関がある場合には、同様に、被覆後のハイブリッドロープ110の合算強度は、特定の被覆厚においてピークを示す。例えば、被覆層40を形成する樹脂としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いる場合には、ポリテトラフルオロエチレンのディスパーションを、ロープ部15の外側に塗布して焼成することにより、被覆層40を形成することができる。この場合にも、加熱された被覆層40によって芯線20に加えられる熱は、形成する被覆層40が厚いほど多くなる。そのため、
図17の例と同様にして、全体強度を高めるための適切な被覆層40の厚さを設定することができる。なお、被覆層40を構成する際の樹脂の加熱温度が、より高い場合、例えば400℃を超える場合には、金属製の側線30も熱により劣化する場合がある。この場合には、
図18に示したロープ部強度の低下は、側線30の劣化の影響を含むことになる。
【0073】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
10,110…ハイブリッドロープ
15…ロープ部
20…芯線
22…撚り糸
30…側線
40…被覆層