(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188620
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】土砂の脱水方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/147 20190101AFI20221214BHJP
C02F 11/148 20190101ALI20221214BHJP
【FI】
C02F11/147
C02F11/148 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096800
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】淺井 貴恵
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA09
4D059BE25
4D059BE55
4D059BE56
4D059BE57
4D059BE58
4D059BE59
4D059DA16
4D059DA17
4D059DA23
4D059DB11
4D059DB25
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4D059EA02
4D059EA04
4D059EA07
4D059EA11
4D059EA14
4D059EA20
4D059EB11
(57)【要約】
【課題】高分子凝集剤を用いて水分を多量に含んだ土砂を早期に効率的に脱水できる土砂の脱水方法を提供する。
【解決手段】原土砂に混合した高分子凝集剤の重量に対する原土砂の土粒子の重量比と、排水初期段階における原土砂の排水効率に対する処理土砂の排水効率の向上度合いを示す初期排水評価比率との関係データを取得しておく。そして、その関係データに基づいて、脱水対象となる原土砂に混合する高分子凝集剤の添加量を決定し、原土砂に高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂を製造初期の期間で脱水処理する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原土砂に高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂を製造初期の期間で脱水処理する土砂の脱水方法において、
前記原土砂に混合した前記高分子凝集剤の重量に対する前記原土砂の土粒子の重量比と、排水初期段階における前記原土砂の排水効率に対する前記処理土砂の排水効率の向上度合いを示す初期排水評価比率との関係データとに基づいて、脱水対象となる前記原土砂に混合する前記高分子凝集剤の添加量を決定することを特徴とする土砂の脱水方法。
【請求項2】
前記処理土砂および前記原土砂の予め設定された所定条件下での排水量の経時変化データに対して双曲線近似によってそれぞれ前記土砂の最終排水量を推定して、排水の開始時点から前記最終排水量の所定割合の中間排水量に到達する時点までの中間経過時間によって前記中間排水量を除してそれぞれの前記土砂の初期排水勾配を算出し、前記原土砂の前記初期排水勾配に対する前記処理土砂の前記初期排水勾配の比率を、前記初期排水評価比率とする請求項1に記載の土砂の脱水方法。
【請求項3】
前記原土砂の塑性指数と前記原土砂に含まれる所定値以下の粒径の粘土含有量とを用いて算出される前記原土砂の活性度の大きさ毎にそれぞれ前記関係データを予め取得しておき、脱水対象となる前記原土砂の活性度に対応する前記関係データに基づいて、その原土砂に混合する前記高分子凝集剤の添加量を決定する請求項1または2に記載の土砂の脱水方法。
【請求項4】
前記関係データにおいて前記初期排水評価比率が設定した閾値以上となる前記重量比の許容範囲内になるように、前記高分子凝集剤の添加量を決定する請求項1~3のいずれかに記載の土砂の脱水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂の脱水方法に関し、さらに詳しくは、高分子凝集剤を用いて水分を多量に含んだ土砂を早期に効率的に脱水できる土砂の脱水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浚渫土などの水分を多量に含んだ土砂に対して、改質剤として高分子凝集剤を混合して流動性を低下させて、搬送作業などでの取扱性を向上させることがある。このように高分子凝集剤は原土砂の保水性を高める効果に注目されて使用されている。
【0003】
土砂に所定の配合割合の高分子凝集剤を混合して改質することにより、土砂の排水効率を高める方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。原土砂に所定の配合割合の高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂は、製造初期の期間(例えば、製造時から48時間以内)では、高分子凝集剤を混合する前の原土砂に比して排水初期段階の排水効率が向上する。一方で、処理土砂は製造初期の期間を超えると高分子凝集剤によって保水性が高まるため、処理土砂の最終排水量は原土砂の最終排水量に比して少なくなる。そのため、単純に原土砂に対する高分子凝集剤の添加量と処理土砂の最終排水量との関係データを取得するだけでは、処理土砂の排水初期段階の排水効率を高めるのに有効な原土砂に対する高分子凝集剤の適正な添加量を精度よく決定することはできない。その故、高分子凝集剤を用いて土砂を早期に効率よく脱水するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高分子凝集剤を用いて水分を多量に含んだ土砂を早期に効率的に脱水できる土砂の脱水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の土砂の脱水方法は、原土砂に高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂を製造初期の期間で脱水処理する土砂の脱水方法において、前記原土砂に混合した前記高分子凝集剤の重量に対する前記原土砂の土粒子の重量比と、排水初期段階における前記原土砂の排水効率に対する前記処理土砂の排水効率の向上度合いを示す初期排水評価比率との関係データに基づいて、脱水対象となる前記原土砂に混合する前記高分子凝集剤の添加量を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原土砂に混合した高分子凝集剤の重量に対する原土砂の土粒子の重量比と、排水初期段階における原土砂の排水効率に対する処理土砂の排水効率の向上度合いを示す初期排水評価比率との関係データに注目することで、排水初期段階の排水効率を高めるのに有効な原土砂に対する高分子凝集剤の適正な添加量を簡便に精度よく決定することが可能になる。これにより、高分子凝集剤を用いて水分を多量に含んだ土砂を早期に効率よく脱水できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】原土砂と、原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂の所定条件下での排水量の経時変化データを例示するグラフ図である。
【
図2】
図1の処理土砂の製造初期の期間における排水量の経時変化データを例示するグラフ図である。
【
図4】土砂の予め設定された所定条件下での排水量の経時変化データと、経時変化データから算出した土砂の初期排水勾配を例示するグラフ図である。
【
図5】原土砂の活性度と原土砂に高分子凝集剤が混合された処理土砂の初期排水評価比率との関係を例示するグラフ図である。
【
図6】原土砂に混合した高分子凝集剤の重量に対する原土砂の土粒子の重量比(土粒子ポリマー比)と、原土砂に高分子凝集剤が混合された処理土砂の初期排水評価比率との関係を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の土砂の脱水方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
本発明は、原土砂に高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂を製造初期の期間で脱水処理する方法である。
【0011】
高分子凝集剤は一般的に、保水性を高める効果に注目されて、浚渫土などの水分を多量に含んだ土砂の流動性を低下させる改質剤や水処理の凝集剤として使用されている。原土砂に高分子凝集剤を所定の配合割合で混合すると、高分子凝集剤による凝集作用によって土砂内に多数のフロックが形成される。そして、フロックを形成する土粒子間に土中の水分の一部が保持された状態となり、原土砂よりも流動性が低下した処理土砂となる。フロックを形成する土粒子間に取り込まれなかった土中の残りの水分は遊離水(自由水)となり、排水され易い状態になる。
【0012】
原土砂に混合する高分子凝集剤の所定の配合割合は、高分子凝集剤の種類などによって異なるが、例えば、原土砂1m3当たり0.1kg~20kg程度である。高分子凝集剤として、例えば、カチオン系ポリマーや、アニオン系ポリマー、ノニオン系ポリマー、両性系ポリマーなどの有機系の高分子ポリマーや、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機系凝集剤を用いることができる。高分子凝集剤として、水分中で多価のプラスイオンや金属イオンを有するもの、具体的には、ポリ塩化アルミニウムや、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ硫酸第二鉄、ミョウバン等を用いることもできる。或いは、高分子凝集剤として、ポリアクリル酸塩を主成分とした改質剤や、ヘキサメタリン酸ナトリウム等を用いることもできる。
【0013】
図1は、高分子凝集剤が混合されていない原土砂と、原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤を混合して製造された処理土砂のそれぞれの排水量の経時変化データを示している。図中の破線で示しているデータRは、原土砂のデータを示している。原土砂の初期含水比は液性限界の1.6倍に設定している。図中の太い実線で示しているデータKは、原土砂にカチオン系ポリマー(ハイモロック MX-9134A:ハイモ株式会社製)とポリ塩化アルミニウム(PAC)を混合して製造された処理土砂のデータを示している。原土砂に対するカチオン系ポリマーの添加量は10.0kg/m
3、ポリ塩化アルミニウムの添加量は2.5kg/m
3に設定している。使用した高分子凝集剤(カチオン系ポリマー)は、液体状でありポリマー成分の他に水分等を含んでいる。
【0014】
ポリ塩化アルミニウムは水中のアルカリ分と反応してプラスの電荷を帯びた水酸化アルミニウムを生成し、土粒子のマイナスの電荷を中和することで、フロックの形成を促進する機能を有している。カチオン系ポリマーなどの特定の高分子凝集剤を使用する場合には、ポリ塩化アルミニウムを混合することで処理土砂の排水性が向上する。
図1に示すそれぞれの排水量データは、
図3に例示する載荷機構4を有する排水試験装置1を用いて、土砂に対する載荷応力を20kPaに設定した場合の排水量の測定結果を示している。載荷応力は、土砂に作用させる載荷力を載荷面積で除して算出される。
【0015】
図1に示すように、どちらの土砂も、単位時間当りの排水量が経時的に低下するが、最終的な排水量は原土砂(データR)が最大になる。したがって、高分子凝集剤によって土砂の保水性が高まって、処理土砂(データK)の最終的な排水量が抑制されることが分かる。ここで、
図1の経過時間の初期の期間における排水量の経時変化データに注目すると
図2に示すとおりであった。
【0016】
図2に示すように、処理土砂の製造初期の期間では、
図1の最終的な排水量とは異なり、原土砂に適正量の高分子凝集剤を混合すると、原土砂(データR)よりも処理土砂(データK)の排水性が向上する。
図2では、処理土砂が製造された時点から3時間までのデータを示しているが、この製造初期の期間は例えば、製造時から48時間を超えない期間程度であり、24時間を超えない期間、さらには6時間を超えない期間であると、この排水特性が顕著である。本発明はこの点に着目して創作されている。
【0017】
図3に示すように、本発明者らは、排水試験装置1と様々な種類の土砂を使用して、それぞれの原土砂と、それぞれの原土砂に高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂の排水試験を行った。排水試験装置1は、土砂S(原土砂または処理土砂)が収容される有底筒状の収容容器2と、土砂Sから排出された水Wを収容容器2の外部に排出する上部および下部の排水管3と、土砂Sに載荷応力を作用させる載荷機構4と、排水管3から排出された水Wを貯留する貯水部5とを有している。収容容器2の内部に土砂Sを収容し、載荷機構4により土砂Sに載荷応力を作用させた場合について、排水量を測定した。そして、原土砂のコンシステンシーを示す様々な指標と処理土砂の排水特性との関係性の分析を行った。
【0018】
その結果、原土砂の活性度に注目してデータを整理すると、原土砂の活性度と、原土砂に高分子凝集剤を混合して処理土砂を製造することによる製造初期の期間での排水効率の向上度合いとの間に高い相関性があることが分かった。そして、原土砂の活性度の大きさに基づいて、原土砂に高分子凝集剤を混合することが処理土砂の製造初期の期間での排水効率を高めるのに有効であるか否かを判定できることが分かった。
【0019】
活性度は土粒子どうしの化学的な結合の強さを示す指標であり、原土砂の塑性指数を、その原土砂に含まれる所定値以下の粒径の粘土含有量(%)で除した値である。前述した所定値は一般的に2μmと定義されており、この実施形態では、所定値を2μmとしている。塑性指数は、液性限界と塑性限界との差であり、例えば、JIS A 1205に規定されている土の液性限界・塑性限界試験を行うことで把握できる。原土砂に含まれる所定値以下の粒径の粘土含有量は、例えば、JIS A 1204に規定されている土の粒度試験方法を行うことで把握できる。原土砂を構成する粘土母材が同じ種類であれば原土砂の活性度はほぼ同じ値となる。尚、前述した所定値は、2μm~5μm程度であればよく、この範囲であれば所定値を2μmとした場合と同等に活性度の指標として用いることができる。
【0020】
さらに、本発明者らは、原土砂に対する高分子凝集剤の添加量と、処理土砂の製造初期の期間での排水効率との関係性について分析を重ねた。その結果、原土砂に混合した高分子凝集剤の重量に対する原土砂の土粒子の重量比(以下、土粒子ポリマー比という)と、排水初期段階(処理土砂の製造初期の期間)における原土砂の排水効率に対する処理土砂の排水効率の向上度合いを示す初期排水評価比率との間に高い相関性があることが分かった。
【0021】
そこで、本発明では、土粒子ポリマー比と初期排水評価比率との関係データに基づいて、脱水対象となる原土砂に混合する高分子凝集剤の添加量を決定する。前述した原土砂の土粒子の重量は、水分を含んだ状態の原土砂(土粒子+水分)の重量から原土砂に含まれる水分の重量を差し引いた重量である。以下では、土粒子ポリマー比における高分子凝集剤の重量を、高分子凝集剤に含まれているポリマー成分以外の水分等も含んだ重量としている。なお、初期排水評価比率に高い相関性があるのは主に高分子凝集剤に含まれているポリマー成分の重量に対する原土砂の土粒子の重量比であるため、例えば、高分子凝集剤に含まれているポリマー成分のみの重量を高分子凝集剤の重量として、土粒子ポリマー比を算出することもできる。
【0022】
以下に、原土砂の活性度と、原土砂に高分子凝集剤を混合して処理土砂を製造することによる製造初期の期間での排水効率の向上度合いとの相関性を示すデータの具体例を説明する。
【0023】
排水試験装置1を使用して、複数種類の原土砂と、それぞれの原土砂から製造した処理土砂の排水試験を行い、
図4に例示するような、原土砂と処理土砂の予め設定された所定条件下での排水量の経時変化データをそれぞれ作成した。そして、排水量の経時変化データに対して双曲線近似によってそれぞれの土砂(原土砂、処理土砂)の最終排水量を推定した。
【0024】
図4に例示するように、原土砂と処理土砂のいずれにおいても、土砂の排水の開始時点(t=0)から概ね6時間を超えない期間は単位時間当たりの排水量が多く、排水の開始時点から概ね6時間を超えると時間が経過するにつれて単位時間当たりの排水量が徐々に減少する。そして、排水の開始時点から概ね20時間を超えると、単位時間当たりの排水量は大幅に減少し、やがて最終排水量W
fを迎える。それ故、排水の開始時点から20時間程度までの排水量の経時変化データを取得すれば、双曲線近似により土砂(原土砂、処理土砂)の最終排水量W
fを推定することが可能である。
【0025】
図4に示すように、本発明では、土砂(原土砂、処理土砂)の最終排水量W
fの所定割合を中間排水量W
mとし、土砂の排水の開始時点から中間排水量W
mに到達する時点までの経過時間を中間経過時間t
mとする。そして、
図4の一点鎖線で示すように、中間経過時間t
mによって中間排水量W
mを除した値を初期排水勾配E
d(=W
m/t
m)とする。即ち、排水の開始時点を示すグラフの原点(0,0)と、グラフ上の中間排水量W
mに対応する点P(t
m,W
m)を通る割線の勾配が初期排水勾配E
dである。
【0026】
この実施形態では、土砂の最終排水量Wfの5割を中間排水量Wm(=Wf/2)としている。中間排水量Wmは、例えば、最終排水量Wfの3割以上7割以下の範囲内で適宜設定する。初期排水勾配Edの大きさは、土砂の排水の開始時点から中間排水量Wmに到達する時点までの排水のし易さを示し、初期排水勾配Edが大きいほど排水の初期の期間での土砂の排水効率が高いことを示している。
【0027】
図5は、原土砂の活性度と、その原土砂から製造した処理土砂の初期排水評価比率との関係をグラフ化したデータである。図中のデータKは、既述した所定の配合割合で原土砂に高分子凝集剤としてカチオン系ポリマー(ハイモロック MX-9134A:ハイモ株式会社製)およびポリ塩化アルミニウムを混合して製造した処理土砂のデータを示している。
図5では、処理土砂に載荷する載荷応力を複数水準に異ならせた場合(載荷応力の大きさを10kPa、20kPa、30kPaとした場合)についてそれぞれデータを示している。
【0028】
前述した処理土砂の初期排水評価比率は、原土砂の初期排水勾配Edに対する処理土砂の初期排水勾配Edの比率であり、原土砂に高分子凝集剤を混合して処理土砂を製造することによる製造初期の期間での排水効率の向上度合いを示している。初期排水評価比率は、処理土砂の初期排水勾配Edを原土砂の初期排水勾配Edで除することで算出される。初期排水評価比率が1より大きい場合には原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果があり、初期排水評価比率が高いほど高分子凝集剤を混合することによる製造初期の期間での排水効率の向上度合いが高いことを示している。初期排水評価比率が1以下の場合には原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果がないことを示している。
【0029】
図5のデータから分かるように、初期排水評価比率は原土砂の活性度と相関性を有しており、原土砂の活性度が大きいほど初期排水評価比率が高くなり、高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果は大きくなる。特に、活性度が大きい原土砂に高分子凝集剤を混合すると、処理土砂の製造初期の期間での排水効率の向上度合いが大幅に高まることが分かる。
【0030】
このように、原土砂の活性度と、原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果との間には相関性がある。そのため、原土砂の活性度を把握することで、原土砂に高分子凝集剤を混合することが、処理土砂の製造初期の期間での排水効率を高めるのに有効であるか否かを判断することが可能である。
【0031】
図6は、原土砂に混合した高分子凝集剤の重量に対する原土砂の土粒子の重量比(土粒子ポリマー比)と、排水初期段階における原土砂の排水効率に対する処理土砂の排水効率の向上度合いを示す初期排水評価比率との関係データを示している。図中のデータX(三角の記号)、データY(丸の記号)、データZ(四角の記号)はそれぞれ、原土砂に高分子凝集剤としてカチオン系ポリマー(ハイモロック MX-9134A:ハイモ株式会社製)およびポリ塩化アルミニウムを混合して製造した処理土砂のデータを示している。データX、Y、Zはそれぞれ、原土砂の初期含水比が液性限界の1.1倍、1.6倍、2.5倍である場合を示している。さらに、
図6では、データX、Y、Zについてそれぞれ、処理土砂に載荷する載荷応力を複数水準に異ならせた場合について3通りのデータ(白抜きの記号、黒塗りの記号、二重線の記号)を示している。また、
図6では、載荷応力を白抜きの記号で示す条件に設定した場合の試験結果から予見される土粒子ポリマー比と初期排水評価比率との関係を破線の曲線で示している。
【0032】
高分子凝集剤は原土砂の土粒子に作用する性質を有している。原土砂の土粒子の重量に対して適正な重量の高分子凝集剤が混合された処理土砂は、高分子凝集剤による凝集作用によって多数のフロックが形成され、フロックを形成する土粒子間に土中の水分の一部が保持された状態となり、流動性が適度に低下した状態となる。また、フロックを形成する土粒子間に取り込まれなかった土中の残りの水分は遊離水となり、その遊離水が外部に排水され易い状態になる。そのため、
図6に例示するように、原土砂に混合した高分子凝集剤の重量に対する原土砂の土粒子の重量比である土粒子ポリマー比が適正な値であるデータYの初期排水勾配比率は高い数値を示している。
【0033】
原土砂の土粒子に対して高分子凝集剤が不足している場合には、高分子凝集剤により土中の水分を保持するフロックが十分に形成されない。それ故、処理土砂の流動性が十分に低下せず、処理土砂の排水初期段階における脱水効率は比較的低くなる。そのため、土粒子ポリマー比が過大なデータXの初期排水勾配比率は比較的低くなっている。一方で、原土砂の土粒子に対して高分子凝集剤が過剰に添加されている場合には、高分子凝集剤により土砂内にフロックが過多に形成される。そして、土中の多くの水分はフロックに保持された状態となり、フロックに取り込まれない遊離水が少なくなる。そのため、処理土砂の土中の水分が外部に排出され難くなり、処理土砂の排水初期段階における脱水効率は比較的低くなる。そのため、土粒子ポリマー比が過小なデータZの初期排水勾配比率は比較的低くなっている。
【0034】
このように、処理土砂の排水初期段階における排水促進効果を高めるのに適正な土粒子ポリマー比、或いはその範囲が存在する。それ故、本発明では、土粒子ポリマー比と初期排水評価比率との関係データを用いることで、排水初期段階の排水効率を高めるのに有利な原土砂に対する高分子凝集剤の適正な添加量を簡便に精度よく決定することが可能になる。これにより、高分子凝集剤を用いて水分を多量に含んだ土砂を早期に効率よく脱水できる。
【0035】
具体的には、例えば、
図6に示すように、土粒子ポリマー比と初期排水評価比率との関係データにおいて初期排水評価比率の閾値Tを設定する。閾値Tは、目標排水量や工事期間などに応じて適宜決定できる。そして、初期排水評価比率が設定した閾値T以上となる土粒子ポリマー比の許容範囲R1内になるように、原土砂に対する高分子凝集剤の添加量を決定する。
【0036】
排水処理後の土砂量を少なくするには、処理土砂の排水効率を高めつつ、高分子凝集剤の添加量を出来るだけ少なくすることが好ましい。そのため、例えば、前述した許容範囲R1内において、土粒子ポリマー比が上位50%以内、より好ましくは上位30%以内となる範囲R2内になるように、原土砂に対する高分子凝集剤の添加量を決定すると、処理土砂の排水効率を高めつつ、高分子凝集剤の添加量を少なくできるので、水分を多量に含んだ土砂を早期に効率よく脱水処理するには有利になる。例えば、処理土砂の排水初期段階の排水効率を最重要視する場合には、土粒子ポリマー比と初期排水評価比率との関係データにおいて、初期排水評価比率が最も高くなる土粒子ポリマー比を採用するとよい。
【0037】
図5に示すように、処理土砂の初期排水評価比率は、原土砂の活性度によって異なる。そして、処理土砂の排水初期段階における排水促進効果を高めるのに適正な土粒子ポリマー比も、原土砂の活性度の大きさに応じて異なる。それ故、原土砂の活性度の大きさ毎にそれぞれ土粒子ポリマー比と初期排水評価比率との関係データを予め取得しておき、脱水対象となる原土砂の活性度に対応する関係データに基づいて、その原土砂に混合する高分子凝集剤の添加量を決定するとよい。
【0038】
原土砂を構成する粘土母材の種類が同じであれば原土砂の活性度はほぼ同じ値となる。そのため、原土砂を構成する粘土母材が活性度を予め把握している種類であれば、原土砂の活性度を把握するための液性限界・塑性限界試験や粒度試験を行わずとも、原土砂の活性度は容易に把握することが可能である。
【0039】
図5に示すような、原土砂の活性度と初期排水評価比率との関係データを予め取得しておけば、脱水対象となる原土砂の活性度を把握するだけで、原土砂に高分子凝集剤を混合する場合と混合しない場合とでどちらが適当であるかを容易に判断できる。例えば、原土砂の活性度が高く、初期排水評価比率が1よりも大きい場合には、原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果があるため、原土砂に高分子凝集剤を混合することが、脱水処理に要する時間を短縮するには有効であると判断できる。一方で、例えば、原土砂の活性度が低く、初期排水評価比率が1以下の場合には、原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果がないため、原土砂に高分子凝集剤を混合しない原土砂の状態で脱水処理を行うほうが、コストを抑えるには有利であると判断できる。
【0040】
上記では、原土砂に混合した高分子凝集剤の重量に対する原土砂の土粒子の重量比(土粒子ポリマー比)と、初期排水評価比率との関係データに基づいて、脱水対象となる原土砂に混合する高分子凝集剤の添加量を決定する場合を例示したが、本発明では、同様に、原土砂の土粒子の重量に対する原土砂に混合した高分子凝集剤の重量比(土粒子ポリマー比の逆数)と、初期排水評価比率との関係データに基づいて、脱水対象となる原土砂に混合する高分子凝集剤の添加量を決定することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 排水試験装置
2 収容容器
3 排水管
4 載荷機構
5 貯水部
S 土砂
W 水