(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188623
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物および導電性シート
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20221214BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20221214BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20221214BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20221214BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221214BHJP
C09K 3/16 20060101ALI20221214BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/12
C08K5/11
C08K5/42
C08K3/013
C09K3/16 102
H01B5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096811
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 光典
【テーマコード(参考)】
4J002
5G307
【Fターム(参考)】
4J002BD031
4J002DE238
4J002DF027
4J002EH047
4J002EH096
4J002EH146
4J002EV259
4J002FD018
4J002FD026
4J002FD039
4J002FD107
4J002FD116
4J002GL00
4J002GR00
5G307AA04
(57)【要約】
【課題】導電性に優れ、かつ可塑剤のブリードを抑制して導電性を長期にわたり維持し得る、塩化ビニル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】以下の条件(1)~(5)をすべて満たす、塩化ビニル系樹脂組成物。(1)前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および帯電防止剤を含む;(2)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30~70質量部である;(3)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対し、導電性可塑剤および前記帯電防止剤の合計の割合が10~100質量%である;(4)前記導電性可塑剤は、フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤を含み、(5)前記帯電防止剤が、界面活性剤系帯電防止剤及び/又は脂肪酸系帯電防止剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(1)~(5)をすべて満たす、塩化ビニル系樹脂組成物。
(1)前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および帯電防止剤を含む。
(2)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30~70質量部である。
(3)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対し、導電性可塑剤および前記帯電防止剤の合計の割合が10~100質量%である。
(4)前記導電性可塑剤は、フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤を含む。
(5)前記帯電防止剤が、界面活性剤系帯電防止剤及び/又は脂肪酸系帯電防止剤である。
【請求項2】
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに無機充填剤を5~400質量部配合してなる、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩を5質量部以下で配合してなる、請求項1または2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物の成形物である、導電性シート。
【請求項5】
NFPA99に準拠して測定した2点間表面抵抗値が、2.5×104Ω~1.0×107Ωであり、
NFPA99に準拠して測定した上下間抵抗値が、2.5×104Ω~1.0×107Ωであり、
JIS K7215に準拠して測定した硬さが、73~95である、
請求項4に記載の導電性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂組成物および導電性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、難燃性に優れ、また機械的特性や成形性等の調整が容易であることから、様々な分野で用いられている。
その塩化ビニル系樹脂の一つの用途に、クリーンルームにおける床材がある。
【0003】
クリーンルーム内で使用される床材には厳重な防塵性が求められる。そこで、塩化ビニル系樹脂に導電性材料を添加した導電性シートが多数提案されている。この導電性材料としては、例えばカーボンブラック等の導電性カーボン、ステンレス繊維等の金属繊維、酸化錫等の金属粒子等が用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、導電性シートの導電性を向上するには界面活性剤系帯電防止剤や脂肪酸系帯電防止剤並びにアジピン酸エステル系導電性可塑剤を併用することが有効であるが、これらを多量に配合すると導電性シートからブリードし、導電性が損なわれ、導電性を長期にわたり維持できないという問題点がある。
【0006】
また、導電性シートの膨張や収縮に代表される変形性を抑制するために、塩化ビニル系樹脂に炭酸カルシウム等の無機充填材を多量配合する技術も知られている。しかし、このような手法では変形性は抑制されるものの、導電性が低下するため、上記のような導電性カーボンや金属繊維等を多量に配合することになり、導電性カーボンを使用すると黒のみとなり意匠性が低下し、また硬度が上昇し、導電性シートのクッション性が悪化するという問題点がある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電性に優れ、かつ可塑剤のブリードを抑制して導電性を長期にわたり維持し得る、塩化ビニル系樹脂組成物および導電性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る「塩化ビニル系樹脂組成物」は、下記[1]~[3]を特徴としている。
[1]
以下の条件(1)~(5)をすべて満たす、塩化ビニル系樹脂組成物であること。
(1)前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および帯電防止剤を含む。
(2)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30~70質量部である。
(3)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対し、導電性可塑剤および前記帯電防止剤の合計の割合が10~100質量%である。
(4)前記導電性可塑剤は、フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤を含む。
(5)前記帯電防止剤が、界面活性剤系帯電防止剤及び/又は脂肪酸系帯電防止剤である。
[2]
上記[1]に記載の塩化ビニル系樹脂組成物において、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに無機充填剤を5~400質量部配合してなること。
[3]
上記[1]または[2]に記載の塩化ビニル系樹脂組成物において、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩を5質量部以下で配合してなること。
【0009】
上記[1]の構成の塩化ビニル系樹脂組成物によれば、該組成物が塩化ビニル系樹脂、可塑剤および帯電防止剤を含み、前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計量および前記可塑剤中の導電性可塑剤および帯電防止剤の合計の割合を特定の範囲に定め、かつ前記導電性可塑剤および帯電防止剤の種類を特定している。
すなわち、(1)前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および帯電防止剤を含み、(2)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30~70質量部であり、(3)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対し、導電性可塑剤および前記帯電防止剤の合計の割合が10~100質量%であり、(4)前記導電性可塑剤は、フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤を含み、(5)前記帯電防止剤が、界面活性剤系帯電防止剤及び/又は脂肪酸系帯電防止剤である。
上述のように、導電性を向上するには界面活性剤系帯電防止剤や脂肪酸系帯電防止剤並びにアジピン酸エステル系導電性可塑剤を併用することが有効であるが、これらを多量に配合すると導電性シートからブリードし、導電性を長期にわたり維持できないという問題点があった。本発明では、前記(1)および(2)のように可塑剤および帯電防止剤の配合量を特定し、前記(3)~(5)のように導電性可塑剤および帯電防止剤の種類並びに導電性可塑剤および帯電防止剤の配合量をさらに特定することにより、導電性に優れ、かつ可塑剤のブリードを抑制して導電性を長期にわたり維持し得る、塩化ビニル系樹脂組成物を提供できる。
【0010】
上記[2]の構成の塩化ビニル系樹脂組成物によれば、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに無機充填剤を5~400質量部配合している。上述のように、導電性シートの膨張や収縮に代表される変形性を抑制するために、塩化ビニル系樹脂に炭酸カルシウム等の無機充填材を多量配合する技術も知られているが、硬度が上昇し、得られる導電性シートのクッション性が悪化するという問題点があった。
上記[2]の構成の塩化ビニル系樹脂組成物では、無機充填材の配合量を適切な範囲としているため、硬度の上昇を抑制し、得られる導電性シートのクッション性を高めることができる。
【0011】
上記[3]の構成の塩化ビニル系樹脂組成物によれば、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩を5質量部以下で配合すると、吸湿性による導電性の悪化を防止した塩化ビニル系樹脂組成物を提供できる。
【0012】
更に、上述した目的を達成するために、本発明に係る「導電性シート」は、下記[4]~[5]を特徴としている。
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物の成形物である、導電性シートであること。
[5]
上記[4]に記載の導電性シートにおいて、NFPA99に準拠して測定した2点間表面抵抗値が、2.5×104Ω~1.0×107Ωであり、NFPA99に準拠して測定した上下間抵抗値が、2.5×104Ω~1.0×107Ωであり、JIS K7215に準拠して測定した硬さが、73~95であること。
【0013】
上記[4]の構成の導電性シートによれば、上記[1]~[3]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物の成形物を使用しているので、導電性に優れ、かつ可塑剤のブリードを抑制して導電性を長期にわたり維持し得る導電性シートを提供できる。
【0014】
上記[5]の構成の導電性シートによれば、NFPA99に準拠して測定した2点間表面抵抗値が特定の範囲であるため、優れた導電性を有する導電性シートを提供でき、NFPA99に準拠して測定した上下間抵抗値が特定の範囲であるため、優れた導電性を有する導電性シートを提供でき、JIS K7215に準拠して測定した硬さが特定の範囲であるため、優れたクッション性を有する導電性シートを提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導電性に優れ、かつ可塑剤のブリードを抑制して導電性を長期にわたり維持し得る、塩化ビニル系樹脂組成物および導電性シートを提供できる。
【0016】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物の一実施形態について説明する。
【0018】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる塩化ビニル系樹脂としては、とくに制限されないが、例えば、塩化ビニルの単独重合体;塩化ビニルモノマーと、該塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体;ポリ塩化ビニル系樹脂以外の重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられる。前記ポリ塩化ビニル系樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド類等が挙げられる。前記他のモノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、800~3000が好ましく、800~2000がさらに好ましい。
【0021】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる可塑剤としては、フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤の2つの導電性可塑剤の使用が必須である。
上述のように、導電性を向上するには界面活性剤系帯電防止剤や脂肪酸系帯電防止剤並びにアジピン酸エステル系導電性可塑剤を併用することが有効であるが、これらを多量に配合すると導電性シートからブリードし、導電性を長期にわたり維持できないという問題点があった。本発明では、フタル酸エステル系導電性可塑剤を使用することにより、アジピン酸エステル系導電性可塑剤および帯電防止剤のブリードを抑制し、この問題点を解決することができる。
【0022】
フタル酸エステル系導電性可塑剤としては、例えば、以下の式で表されるフタル酸ジブトキシエチルを挙げることができる。
【0023】
【0024】
アジピン酸エステル系導電性可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブトキシエチルを挙げることができる。
【0025】
フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤は、市販されているものを使用することができ、例えばフタル酸エステル系導電性可塑剤として株式会社ADEKA製LV-848、アジピン酸エステル系導電性可塑剤として株式会社ADEKA製LV-808等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、前記以外の可塑剤も用いることができる。
例えば、フタル酸エステル系{例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)等}、トリメリット酸エステル系{例えば、トリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリノルマルオクチルトリメリテート(TnOTM)等}、ポリエステル系等の高分子量可塑剤等が挙げられる。
【0027】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる帯電防止剤としては、界面活性剤系帯電防止剤及び/又は脂肪酸系帯電防止剤を用いる。
界面活性剤系帯電防止剤としては、とくに制限されず、公知のアニオン系、カチオン系、非イオン系、ベタイン類等が挙げられる。
アニオン系の界面活性剤系帯電防止剤としては、例えばアルキルサルフェート型、アルキルアリルサルフェート型、アルキルホスフェート型、アルキルアミンサルフェート型、アルキルスルホン酸型等が挙げられる。
カチオン系の界面活性剤系帯電防止剤としては、例えば第四級アンモニウム塩型、第四級アンモニウム樹脂型、イミダゾリン型、アルキルアミンサルフェート型等が挙げられる。
非イオン系の界面活性剤系帯電防止剤としては、例えばソルビタン型、エーテル型、アミンおよびアミド型、エタノールアミド型等が挙げられる。
中でも、ブリードを抑制し、導電性を向上させるという観点から、カチオン系の界面活性剤系帯電防止剤が好ましい。
【0028】
カチオン系の界面活性剤系帯電防止剤は、帯電防止剤の中でも特に、ブリードを抑制し、導電性を向上させることができる。
カチオン系の界面活性剤系帯電防止剤としては、例えば、過塩素酸アンモニウム塩、および過塩素酸バリウム等が挙げられる。
カチオン系の界面活性剤系帯電防止剤は、市販されているものを使用することができ、例えば株式会社ADEKA製LV-70等が挙げられる。
【0029】
脂肪酸系帯電防止剤とは、ステアリン酸やラウリン酸等の脂肪酸を含む帯電防止剤であり、例えば、グリセリン脂肪酸エステルやソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。具体的には、グリセリンモノステアレート、クエン酸脂肪酸モノグリセライド、デカグリセリンラウレート、ソルビタンラウレート等が挙げられる。
【0030】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、以下の条件(1)~(5)をすべて満たすことが必要である。
(1)前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および帯電防止剤を含む。
(2)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30~70質量部である。
(3)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対し、導電性可塑剤および前記帯電防止剤の合計の割合が10~100質量%である。
(4)前記導電性可塑剤は、フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤を含む。
(5)前記帯電防止剤が、界面活性剤系帯電防止剤及び/又は脂肪酸系帯電防止剤である。
【0031】
前記条件(2)において、前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30~60質量部がさらに好ましい。なお、前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対し、可塑剤の割合は、15~100質量%が好ましい。
前記条件(3)において、前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対する、導電性可塑剤および前記帯電防止剤の合計の割合は、20~100質量%がさらに好ましい。
なお、本明細書中で言う導電性可塑剤と帯電防止剤とは異なるものとする。良く知られているように、導電性可塑剤とは、導電性を有し、かつ可塑化効果を対象物に付与する化合物を指す。また本明細書中で言う帯電防止剤とは、前記導電性可塑剤以外のものであって、帯電防止効果を対象物に付与する化合物を指す。
【0032】
また本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに無機充填剤を5~400質量部配合してなる形態が好ましい。この形態によれば、無機充填材の配合量が適切な範囲であり、硬度の上昇を抑制し、得られる導電性シートのクッション性を高めることができる。
無機充填材としては、炭酸カルシウム、焼成クレー、タルク、シリカ等が挙げられる。
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物において、前記無機充填材の配合量は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、40~300質量部が好ましく、40~250質量部がさらに好ましい。
【0033】
また本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩を5質量部以下で配合してなる形態が好ましい。この形態によれば、吸湿性による導電性の悪化を防止できる。直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩は公知であり、代表的なものとして、直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物において、前記直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩の配合量は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、1~5質量部が好ましい。
【0034】
また本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、必要に応じて、公知の安定剤、滑剤、難燃剤、架橋剤、カーボン、加工助剤、着色剤等をさらに配合することができる。またその配合量も本発明の効果を損ねない限り、任意である。
【0035】
また本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、公知の混練機を用いて前記各種材料を混練することにより、容易に調製することができる。
【0036】
本発明の導電性シートは、前記本発明の塩化ビニル系樹脂組成物の成形物からなる。
したがって本発明の導電性シートは、導電性に優れ、かつ可塑剤のブリードを抑制して導電性を長期にわたり維持し得る。
【0037】
本発明の導電性シートは、前記本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を調製した後、これを従来公知の方法である押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法、プレス成形法等を適用し、製造することができる。
【0038】
本発明の導電性シートの厚さは、1.85mm~2.65mmが好ましい。
【0039】
本発明の好適な形態において、本発明の導電性シートは、NFPA99に準拠して測定した2点間表面抵抗値が、2.5×104Ω~1.0×107Ωであるのが好ましい。当該形態では、優れた導電性を有する導電性シートを提供できる。
【0040】
本発明の好適な形態において、本発明の導電性シートは、NFPA99に準拠して測定した上下間抵抗値が、2.5×104Ω~1.0×107Ωであるのが好ましい。当該形態では、優れた導電性を有する導電性シートを提供できる。
【0041】
本発明の好適な形態において、本発明の導電性シートは、JIS K7215に準拠して測定した硬さが、73~95であるのが好ましく、73~92であるのがさらに好ましい。当該形態では、優れたクッション性を有する導電性シートを提供できる。
【0042】
本発明の導電性シートは、とくに、クリーンルームにおける床材として好適である。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0044】
下記表1~5に記載の材料および配合量に基づき、各成分をニーダーにて混練し、各種塩化ビニル系樹脂組成物を調製した。続いて、各種塩化ビニル系樹脂組成物を押出成形し、下記各種試験法に適切な導電性シートを製造した。各導電性シートの厚みは2.0mmである。
【0045】
実施例および比較例で用いた各種材料は以下の通りである。
塩化ビニル系樹脂:TK-1000(信越化学工業株式会社製、JIS K6720-2に基づく平均重合度=1030)
フタル酸エステル系導電性可塑剤(フタル酸ジブトキシエチル):LV-848(株式会社ADEKA製)
アジピン酸エステル系導電性可塑剤(アジピン酸ジブトキシエチル):LV-808(株式会社ADEKA製)
カチオン系帯電防止剤(過塩素酸アンモニウム塩):LV-70(株式会社ADEKA製)
脂肪酸系帯電防止剤(グリセリン脂肪酸エステル):リケマールS-100(理研ビタミン株式会社製)
その他の可塑剤:ジイソノニルフタレート(DINP)(株式会社ジェイ・プラス製)
無機充填材:ソフトン1500(白石カルシウム株式会社製炭酸カルシウム)
安定剤:RUP-14、AC-186(株式会社ADEKA製)
直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸Na(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製商品名LH-200)
【0046】
前記製造された各種導電性シートについて、下記物性を測定した。
・硬さ(JIS K7215に準拠して測定)
・2点間表面抵抗値(NFPA99に準拠して測定)
・上下間抵抗値(NFPA99に準拠して測定)
・ブリード(導電性シートのサイズを厚さ2mm、5インチ×1/5インチとし、半分に折り曲げて、常温×168時間放置し、折り曲げ部の内側から可塑剤の滲出の有無を確認する。ブリードがほぼ無い場合を○、ブリードがやや有る場合を△、ブリードが有る場合を×とした。)
【0047】
結果を下記表1~5に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
表1~5の各実施例の結果から、(1)塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および帯電防止剤を含む;(2)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30~70質量部である;(3)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対し、導電性可塑剤および前記帯電防止剤の合計の割合が10~100質量%である;(4)前記導電性可塑剤は、フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤を含み;(5)前記帯電防止剤が、界面活性剤系帯電防止剤及び/又は脂肪酸系帯電防止剤である、という各条件を満たした場合、該組成物から成形された導電性シートは、導電性に優れ、かつ可塑剤のブリードを抑制して導電性を長期にわたり維持し得、なおかつ硬さが適切でありクッション性に優れることが分かった。
【0054】
比較例1は、可塑剤および帯電防止剤の合計に対する、導電性可塑剤および帯電防止剤の合計の割合が約6.7質量%であり、本発明で規定する下限未満であるので、硬さが上昇し、クッション性に劣り、また、導電性が悪化した。
比較例2~4は、可塑剤および帯電防止剤の合計が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し29質量部であり、本発明で規定する下限未満であるので、硬さおよび導電性を同時に満足することができなかった。
比較例5は、可塑剤および帯電防止剤の合計に対する、導電性可塑剤および帯電防止剤の合計の割合が約8.6質量%であり、本発明で規定する下限未満であるので、導電性が悪化した。
比較例6~8は、可塑剤および帯電防止剤の合計が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し71質量部であり、本発明で規定する上限を超えているので、硬さが低下し、クッション性が悪化した。
比較例9~10、13~14は、フタル酸エステル系導電性可塑剤を配合していないので、硬さ、導電性、ブリードを同時に満足することができなかった。
比較例11~12、15~16は、アジピン酸エステル系導電性可塑剤を配合していないので、硬さが上昇または低下し、クッション性が悪化した。
【0055】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0056】
ここで、上述した本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物および導電性シートの実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
以下の条件(1)~(5)をすべて満たす、塩化ビニル系樹脂組成物。
(1)前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および帯電防止剤を含む。
(2)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30~70質量部である。
(3)前記可塑剤および前記帯電防止剤の合計に対し、導電性可塑剤および前記帯電防止剤の合計の割合が10~100質量%である。
(4)前記導電性可塑剤は、フタル酸エステル系導電性可塑剤およびアジピン酸エステル系導電性可塑剤を含む。
(5)前記帯電防止剤が、界面活性剤系帯電防止剤及び/又は脂肪酸系帯電防止剤である。
[2]
上記[1]の塩化ビニル系樹脂組成物において、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに無機充填剤を5~400質量部配合してなる、塩化ビニル系樹脂組成物。
[3]
上記[1]または[2]の塩化ビニル系樹脂組成物において、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、さらに直鎖状アルキルベンゼンスルホン酸塩を5質量部以下で配合してなる、塩化ビニル系樹脂組成物。
[4]
上記[1]~[3]のいずれかの塩化ビニル系樹脂組成物の成形物である、導電性シート。
[5]
上記[4]の導電性シートにおいて、
NFPA99に準拠して測定した2点間表面抵抗値が、2.5×104Ω~1.0×107Ωであり、
NFPA99に準拠して測定した上下間抵抗値が、2.5×104Ω~1.0×107Ωであり、
JIS K7215に準拠して測定した硬さが、73~95である、
導電性シート。