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特開2022-188678制御装置、制御システム、および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188678
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】制御装置、制御システム、および制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0245 20060101AFI20221214BHJP
   A61M 21/02 20060101ALI20221214BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20221214BHJP
   B60H 1/34 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
A61B5/0245 C
A61M21/02 J
B60H1/00 102V
B60H1/34 671Z
B60H1/34 671A
B60H1/34 651A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096903
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山城 博幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 琢也
【テーマコード(参考)】
3L211
4C017
【Fターム(参考)】
3L211BA08
3L211BA44
3L211BA60
3L211DA53
3L211EA01
3L211FA45
3L211FB05
3L211GA53
4C017AA02
4C017AA10
4C017AB02
4C017AB08
4C017BC07
4C017BC26
4C017BD06
4C017DD14
(57)【要約】
【課題】移動体の乗員の乗り物酔いが解消したか否かを、正確に判定する。
【解決手段】制御装置(10)は、生体センサ(20)から乗員の生体情報を取得する生体情報取得部(11)と、乗員の生体情報に基づいて乗員が乗り物酔いになったかを判定する酔い判定部(12)と、乗員が乗り物酔いになったと判定された後、心拍センサ(21)が測定する乗員の心拍に基づき算出されるVLF値に基づいて、乗員の乗り物酔いが解消したか否かを判定する解消判定部(15)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の内部空間に滞在している乗員の生体情報を生体センサから取得する生体情報取得部と、
前記乗員の生体情報に基づいて前記乗員が乗り物酔いになったかを判定する酔い判定部と、
前記乗員が乗り物酔いになったと判定された後、心拍センサが測定する前記乗員の心拍に基づき算出される超低周波成分の値に基づいて、前記乗員の乗り物酔いが解消したか否かを判定する解消判定部と、を備えることを特徴とする、制御装置。
【請求項2】
前記内部空間に配置された刺激付与装置を制御する出力制御部を備え、
前記出力制御部は、
前記乗員が前記乗り物酔いになったと判定された場合は、前記刺激付与装置に前記乗員に対する刺激の付与を開始させ、
前記乗員の乗り物酔いが解消したと判定された場合は、前記刺激付与装置に前記乗員に対する前記刺激の付与を停止させることを特徴とする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記刺激付与装置は送風装置であって、前記乗員に対する前記刺激は、前記送風装置の送風する風による刺激であることを特徴とする、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記送風装置の送風口は前記移動体の座席シートのネック部分に設けられており、
前記出力制御部は、前記送風口から送出された風が、前記乗員の首筋に当たるように前記送風口の位置および向きの少なくとも一方を調節することを特徴とする、請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記超低周波成分の値のうち、前記刺激付与装置による前記刺激の付与の影響を受けていない期間中の心拍を解析して得られた前記超低周波成分の値の中で最新の値を基準値に決定する基準値決定部と、
前記超低周波成分の値のうち、前記刺激付与装置による前記刺激の付与の影響を受けている期間中の心拍を解析して得られた前記超低周波成分の値を比較値に決定する比較値決定部と、を備え、
前記解消判定部は、前記比較値が前記基準値よりも大きい場合に、前記乗員の乗り物酔いが解消したと判定することを特徴とする、請求項2~4のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記比較値決定部は、前記刺激の付与の影響を受けている期間中の心拍を解析して得られた前記超低周波成分の値の中で最も大きい値を前記比較値と決定することを特徴とする、請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の制御装置と、
前記生体センサと、
前記心拍センサと、を含むことを特徴とする、制御システム。
【請求項8】
移動体の内部空間に滞在している乗員の生体情報を生体センサから取得する生体情報取得ステップと、
生体センサから取得した前記乗員の生体情報に基づいて、前記乗員が乗り物酔いになったかを判定する酔い判定ステップと、
心拍センサが測定する前記乗員の心拍に基づいて、前記心拍の超低周波成分の値を算出する算出ステップと、
前記乗員が乗り物酔いになったと判定された後、前記超低周波成分の値に基づいて、前記乗員の乗り物酔いが解消したか否かを判定する解消判定ステップと、を含むことを特徴とする、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は制御装置、制御システム、および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の乗員に刺激を与えることによって、乗員の眠気等の望ましくない状態を改善する技術が開発されている。例えば、特許文献1には、乗員の居眠りを検知した場合に当該乗員に温度刺激を与えることによって、居眠りを防止する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-131007号公報
【特許文献2】特開2008-161664号公報
【特許文献3】特開2014-012042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、移動体の乗員は、乗り物酔いの状態になることがある。乗り物酔いの不快な症状を予防、軽減、または解消するための技術が近年、種々開発されている。当該技術に関して、乗員が一度乗り物酔いになった後、回復したか(すなわち、乗り物酔いが解消したか)を正確に判定する技術が求められている。
【0005】
本開示の一態様は、移動体の乗員の乗り物酔いが解消したか否かを、正確に判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る制御装置は、移動体の内部空間に滞在している乗員の生体情報を生体センサから取得する生体情報取得部と、前記乗員の生体情報に基づいて前記乗員が乗り物酔いになったかを判定する酔い判定部と、前記乗員が乗り物酔いになったと判定された後、心拍センサが測定する前記乗員の心拍に基づき算出される超低周波成分の値に基づいて、前記乗員の乗り物酔いが解消したか否かを判定する解消判定部と、を備える。
【0007】
一説には、副交感神経の異常な活性化が乗り物酔いの原因の1つであると言われている。また、心拍の超低周波成分の値は、交感神経の活性と連動していると言われている。
【0008】
前記の構成によれば、心拍の超低周波成分の値に基づいて乗員の乗り物酔いが解消したか否かを判定する。したがって、制御装置は、移動体の乗員の乗り物酔いが解消したか否かを正確に判定することができる。
【0009】
前記制御装置は、前記内部空間に配置された刺激付与装置を制御する出力制御部を備えていてもよく、前記出力制御部は、前記乗員が前記乗り物酔いになったと判定された場合は、前記刺激付与装置に前記乗員に対する刺激の付与を開始させ、前記乗員の乗り物酔いが解消したと判定された場合は、前記刺激付与装置に前記乗員に対する前記刺激の付与を停止させてもよい。
【0010】
前記の構成によれば、乗員が乗り物酔いになった場合に、乗り物酔い解消のための刺激を付与することができる。そして、乗員の乗り物酔いが解消した場合に、前記刺激の付与を停止させることができる。これにより、乗員の乗り物酔いを効率的に解消することができる。
【0011】
前記刺激付与装置は送風装置であってもよいし、前記乗員に対する前記刺激は、前記送風装置の送風する風による刺激であってもよい。
【0012】
前記の構成によれば、送風によって乗員の乗り物酔いを効率的に解消することができる。例えば、移動体の空調の調整等に使用する送風装置を用いて乗員の乗り物酔いを解消することも可能になる。
【0013】
前記送風装置の送風口は前記移動体の座席シートのネック部分に設けられていてもよい。そして、前記制御装置の前記出力制御部は、前記送風口から送出された風が、前記乗員の首筋に当たるように前記送風口の位置および向きの少なくとも一方を調節してもよい。
【0014】
人間の首筋表面は、肌が露出している箇所である。そのため、首筋表面に送風した場合、同条件で他の部位に送風した場合に比べて、より強い刺激を与えることができる。したがって、前記の構成によれば、乗り物酔いの軽減効果を高めることができる。具体的には、例えば乗り物酔いをより迅速に軽減することができる。また例えば、乗り物酔いをより大きく軽減することができる。
【0015】
前記制御装置は、前記超低周波成分の値のうち、前記刺激付与装置による前記刺激の付与の影響を受けていない期間中の心拍を解析して得られた前記超低周波成分の値の中で最新の値を基準値に決定する基準値決定部と、前記超低周波成分の値のうち、前記刺激付与装置による前記刺激の付与の影響を受けている期間中の心拍を解析して得られた前記超低周波成分の値を比較値に決定する比較値決定部と、を備えていてもよく、前記解消判定部は、前記比較値が前記基準値よりも大きい場合に、前記乗員の乗り物酔いが解消したと判定してもよい。
【0016】
前記の構成によれば、乗員の乗り物酔いが解消したか否かをより正確に判定することができる。
【0017】
前記制御装置の前記比較値決定部は、前記刺激の付与の影響を受けている期間中の心拍を解析して得られた前記超低周波成分の値の中で最も大きい値を前記比較値と決定してもよい。
【0018】
前記の構成によれば、乗員の乗り物酔いが解消したか否かをより正確に判定することができる。
【0019】
前記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る制御システムは、前記制御装置と、前記生体センサと、前記心拍センサと、を含む。前記の構成によれば、前記制御装置と同様の効果を奏する。
【0020】
前記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る制御方法は、移動体の内部空間に滞在している乗員の生体情報を生体センサから取得する生体情報取得ステップと、生体センサから取得した前記乗員の生体情報に基づいて、前記乗員が乗り物酔いになったかを判定する酔い判定ステップと、心拍センサが測定する前記乗員の心拍に基づいて、前記心拍の超低周波成分の値を算出する算出ステップと、前記乗員が乗り物酔いになったと判定された後、前記超低周波成分の値に基づいて、前記乗員の乗り物酔いが解消したか否かを判定する解消判定ステップと、を含む。前記の方法によれば、前記制御装置と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
本開示の一態様によれば、移動体の乗員の乗り物酔いが解消したか否かを、正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示に係る制御システムの要部構成を示すブロック図である。
図2】送風装置の設置例を示した図である。
図3】基準値および比較値の一例を視覚的に示したグラフである。
図4】基準値および比較値の他の一例を視覚的に示したグラフである。
図5】前記制御装置における定期処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】前記制御装置における乗り物酔いの判定および出力制御に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】実施例1の試験の結果得られた、グループ別の乗り物酔い解消までの所要時間を示すグラフである。
図8】実施例2の試験の結果得られた、被験者の心拍のVLFのZスコアの推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔実施形態〕
本実施形態に係る制御システムは、移動体の内部空間に滞在している乗員が乗り物酔いの状態であるか否かを判定するためのシステムである。
【0024】
乗り物酔いの諸症状は、副交感神経が活性化することで発生すると考えられている。例えば、感覚情報が混乱すると脳内でミスマッチ信号が発生し、このミスマッチ信号が大脳辺縁系および視床下部を介して自律神経機能の失調を主体とした種々の乗り物酔い症状を引き起こすという説がある(平柳,2006,「乗り物酔い(動揺病)研究の現状と今後の展望」,人間工学 42巻3号 p.200-211)。
【0025】
また例えば、乗り物酔いによる強い吐き気症状が現れる直前に、迷走神経の緊張が増加する(すなわち、副交感神経が活性化する)という説もある(LaCount et al., 2010, “Dynamic Cardiovagal Response to Motion Sickness: A Point-Process Heart Rate Variability Study”, Comput Cardiol 2009 January 1; 36: 49-52. および、石井,1990,「動揺病と自律神経系の変動について」日本耳鼻咽喉科学会会報 93巻 10sokai号 p.1802)。そして、交感神経の活性化と副交感神経の活性化とがトレードオフの関係であることは広く知られている。
【0026】
本開示の発明者らは、副交感神経の活性化と乗り物酔いの発症の因果関係と、交感神経と副交感神経のトレードオフの関係とに着目することで、新たな乗り物酔いの判定方法を見出した。具体的には、発明者らは、移動体の乗員の乗り物酔いが解消したか否かを、乗員の交感神経の活性度合いに基づいて判定する方法を見出した。
【0027】
そして、発明者らは、移動体の乗員が乗り物酔いになった場合は当該乗員に対し乗り物酔いを解消するための刺激を与え、乗員の乗り物酔いが解消した場合は当該乗員に対する刺激の付与を止めることで、乗員の乗り物酔いを効率よく解消するシステムを考案した。
【0028】
以下、図1図6を用いて、本開示の実施形態について説明する。なお、以降の説明では、移動体の内部空間に滞在している乗員のことを、単に「乗員」と称する。
【0029】
≪要部構成≫
図1は、制御システム100の要部構成を示すブロック図である。制御システム100は、制御装置10と、生体センサ20と、記憶装置30と、送風装置40とを含む。制御装置10は、生体センサ20、記憶装置30、および送風装置40とそれぞれ有線または無線で接続されている。
【0030】
(移動体1)
なお、本実施形態では、制御装置10、生体センサ20、記憶装置30、および送風装置40は、移動体1の内部空間に配置されている。移動体1は、自動車、電車、航空機等、内部に人間が滞在可能な空間を有する移動体である。移動体1の内部空間には、1つ以上の座席シートが設けられていてもよい。
【0031】
(生体センサ20)
生体センサ20は、乗員の生体情報を測定または取得する、1つ以上のセンサまたはセンサ群である。本実施形態において、「生体情報」とは、乗員の体調を特定するための種々の情報を示す。例えば、生体情報とは、乗員のバイタルデータであってもよいし、乗員を撮影した静止画または動画であってもよいし、乗員の発話音声であってもよい。本実施形態では、生体センサ20は少なくとも心拍センサ21を含んでおり、生体情報として、乗員の心拍信号を心拍センサ21で測定する。
【0032】
なお、心拍センサ21をはじめとする各種の生体センサ20の配置位置および配置数は特に限定されない。例えば、生体センサ20は、移動体1の内部空間または移動体1に設けられた装置に配置されているセンサであってもよい。例えば、生体センサ20は、座席シートのアームレストの部分に配置されていてもよい。また例えば、生体センサ20は、ヘッドホン、イヤホン、リストバンド等の乗員が装着しているウェアラブルデバイスに設けられたセンサであってもよい。
【0033】
心拍センサ21は、生体情報の一種として乗員の心拍を測定する。本実施形態の心拍センサ21は、定期的に、または常時、乗員の心拍を測定している。心拍センサ21は、測定した心拍を信号(心拍信号)として、随時、制御装置10の生体情報取得部11に送信する。換言すると、制御装置10は心拍センサ21を用いて、乗員の心拍をモニタリングしているといえる。
【0034】
なお、生体センサ20は、心拍信号に加えて他の生体情報も測定または取得して、制御装置10に送信してもよい。すなわち、生体センサ20には、心拍センサ21以外のセンサが含まれていてもよい。例えば、生体センサ20は、心拍信号以外に、脈拍・呼吸・体温・血圧・意識・反射等のバイタルデータを測定するためのバイタルセンサを含んでいてもよい。また例えば、生体センサ20は、乗員の姿が写った静止画および/または動画を生体情報として取得するカメラを含んでいてもよい。また例えば、生体センサ20は、乗員の発話音声を取得するマイクを含んでいてもよい。いずれの場合も、各種の生体センサ20は、測定または取得した生体情報を、制御装置10の生体情報取得部11へ送信する。
【0035】
移動体1の乗員が複数存在する場合、心拍センサ21は、各乗員の心拍信号をそれぞれ別個に測定して、各乗員の心拍信号を区別可能な状態で制御装置10に送信する。また、心拍センサ21以外の生体センサ20も同様に、各乗員の生体情報をそれぞれ別個に測定して、各乗員の生体情報を区別可能な状態で制御装置10に送信する。
【0036】
例えば、各座席に座った乗員の生体情報を測定または取得可能なように生体センサ20を配置しておいてもよい。そして、生体センサ20は、生体情報を測定または取得する際に、どの座席に座った乗員の生体情報を取得したかを特定してもよい。この場合、生体センサ20は、測定または取得した生体情報に座席の識別情報を対応付けてから、当該生体情報および識別情報を制御装置10に送信してもよい。また例えば、生体センサ20がウェアラブルデバイスに設けられている場合、生体センサ20は生体情報に当該ウェアラブルデバイスの識別情報を対応付けてから、当該生体情報および識別情報を制御装置10に送信してもよい。このような構成とすることで、生体情報を受信した制御装置10において、各乗員の生体情報を区別して取り扱うことができる。
【0037】
(送風装置40)
送風装置40は、乗員に向けて風(例えば、冷風)を送るための装置である。より詳しくは、送風装置40は、例えば、送風口と、風を作り出して送風口から送るためのモータ等の駆動機構と、を有する。送風装置40は、移動体1の機能の一部を担う機構であってもよい。例えば、送風装置40は、移動体1におけるエアーコンディショナー(エアコン)であってもよく、前述の送風口はエアコンの吹き出し口であってもよい。
【0038】
送風装置40は、出力制御部13の制御指示に従って動作する。例えば、送風装置40は、出力制御部13の制御指示にしたがって、送風口の位置および向きの少なくとも一方を調節する。また、送風装置40は、出力制御部13の制御指示に応じた出力態様で、送風口から乗員に向けて風を送る。例えば、送風装置40は、出力制御部13の制御指示に応じた温度および強度の風を出力する。
【0039】
図2は、送風装置40の設置例を示した図である。図2の例では、送風装置40は座席シートのネック部分に設けられている。このように、送風装置40は座席シートに設けられていてもよい。これにより、座席シートに乗員が座ったときに、当該乗員の首筋に送風口からの風を当てることができる。
【0040】
送風装置40および送風口は複数設けられていてもよい。また、一つの送風装置40が複数の送風口から送風する構成であってもよい。送風口が複数存在する場合、送風装置40は各送風口の位置または向きをそれぞれ調整することができる。なお、ここで言う「送風口の向き」とは、送風口全体の向き以外に、送風口の内部に設けられたファンの角度、または送風口内部の風の流路の方向のことであってもよい。
【0041】
なお、移動体1の座席シートには、リクライニング機構等、移動体1の座席としての機能を実現するための、種々の機構が設けられていてもよい。また、移動体1の内部空間には、複数の座席が設けられていてもよい。座席が複数設けられている場合、送風装置40の送風口は、座席毎に設けられていることが望ましい。これにより、各座席に座った乗員に対し個別に送風することができる。
【0042】
(制御装置10)
再び図1に基づいて説明する。制御装置10は、生体センサ20からの生体情報に基づいて送風装置40を制御する装置である。制御装置10は、生体情報取得部11と、酔い判定部12と、出力制御部13と、VLF算出部14と、解消判定部15と、を含む。
【0043】
生体情報取得部11は、生体センサ20から、乗員の生体情報を取得する。生体情報取得部11は、取得した生体情報を酔い判定部12へ出力する。また、生体情報取得部11は、取得した生体情報のうち、心拍信号をVLF算出部14に出力する。
【0044】
なお、生体情報取得部11は、生体センサ20から各乗員の生体情報を区別可能な状態で取得した場合、当該生体情報を別個に酔い判定部12およびVLF算出部14に出力する。例えば、生体情報取得部11は、生体情報と当該生体情報に対応付けられた座席またはウェアラブルデバイスの識別情報とを受信した場合、当該生体情報および識別情報を、対応付けはそのままの状態で酔い判定部12およびVLF算出部14に出力すればよい。
【0045】
生体情報取得部11は、生体センサ20の心拍センサ21から受信した心拍信号を、随時、VLF算出部14に出力する。一方、生体情報取得部11から酔い判定部12への生体情報の出力タイミングは、特に限定されない。例えば、生体情報取得部11は酔い判定部12における酔い判定の実行周期に合わせて酔い判定部12に生体情報を供給してもよい。
【0046】
酔い判定部12は、生体情報取得部11から入力された生体情報に基づいて、乗員が乗り物酔いの状態であるか否かを判定する。酔い判定部12は、判定結果を出力制御部13に出力する。酔い判定部12における判定は、生体情報取得部11から酔い判定部12へと生体情報が入力される度に行われてよい。
【0047】
乗員が乗り物酔いの状態であるか否かを判定できるのであれば、酔い判定部12における判定方法は特に限定されない。例えば、酔い判定部12は、生体センサ20としてのカメラの撮影画像等、乗員の表情やしぐさを示す生体情報を参照してもよい。そして、酔い判定部12は該生体情報に基づき、乗員が、乗り物酔いの状態の時に特有の表情またはしぐさをしているか否かを分析することで、該乗員が乗り物酔いの状態であるか否かを特定してもよい。また例えば、酔い判定部12は、乗員のバイタルデータから該乗員の体調を推定することで、該乗員が乗り物酔いの状態であるか否かを特定してもよい。
【0048】
なお、酔い判定部12は、乗り物酔いの強度を示す指標値を算出することで、乗員が乗り物酔いの状態であるか否かを特定してもよい。より具体的には、酔い判定部12は例えば前述の指標値として「酔いレベル」を算出してもよい。酔いレベルの区分は、適宜定められる。例えば、酔い判定部12は、乗員の酔いレベルをレベル0~レベル4の5段階で算出する。
【0049】
酔いレベルを算出する場合、酔い判定部12は、算出した酔いレベルの値が所定の第1閾値以上であるか否かを判定する。酔いレベルが第1閾値以上である場合、酔い判定部12は、乗員が乗り物酔いの状態であると判定する。酔いレベルが第1閾値未満である場合、酔い判定部12は、乗員が乗り物酔いの状態ではないと判定する。第1閾値の具体的な数値は特に限定されないが、本実施形態の場合、第1閾値は0より大きい値である。
【0050】
乗員が複数存在する場合、酔い判定部12は、各乗員の生体情報に基づいて、各乗員が乗り物酔いの状態であるか否かをそれぞれ別個に判定する。例えば、酔い判定部12は、生体情報と座席またはウェアラブルデバイスの識別番号とが対応付けられた情報を取得した場合、識別番号毎に、別個に乗り物酔いの状態か否かの判定を実行してよい。
【0051】
出力制御部13は、酔い判定部12および解消判定部15の判定結果に応じて送風装置40を制御する。具体的には、出力制御部13は、酔い判定部12によってある乗員が乗り物酔いの状態であると判定された場合、送風装置40を制御して、当該乗員に対して送風する。また、出力制御部13は、解消判定部15によってある乗員の乗り物酔いが解消したと判定された場合、送風装置40を制御して、当該乗員に対する送風を停止させる。
【0052】
なお、本開示に係る出力制御部13は、不規則な強度で乗員に風が当たるように送風装置40を制御してもよい。ここで「不規則な強度で乗員に風が当たる」とは、例えば、風の出力強度を、2段階以上に、ランダムまたは規則的に切り替えて風を送出することである。なお、出力強度を制御するとは、出力をゼロにすること、すなわち、送風を行わない場合も含まれる。なお、本開示において、送風中に間欠的に風を止めることは、「送風を停止させる」および「送風を終了させる」と言う処理動作には含まれない。本開示において、送風を停止させる(または終了させる)とは、間欠的な送風を含め、送風に係る動作自体を停止(終了)させることを意味する。
【0053】
出力制御部13は、送風装置40の送風口を物理的に開閉させることで、不規則な強度で乗員に風が当たるような送風を実現させてもよい。また、出力制御部13は、送風口の向きを時間経過とともに動かすことで、不規則な強度で乗員に風が当たるような送風を実現させてもよい。また、出力制御部13は、送風装置40の送風口から送出する風の温度を制御してもよい。
【0054】
例えば、出力制御部13は送風装置40に対し、送風有りと、送風無しとの2段階の出力強度を間欠的に切り替えて出力するように指示してもよい。これにより、乗員に無風状態から送風状態になるときの環境変化の刺激と、送風状態から無風状態になるときの環境変化の刺激とを繰り返し与えることができる。したがって、乗員により効率的に刺激を与えることができる。また、前述の2種類の環境変化の刺激は、それぞれ交互に起きるため、乗員はこれらの刺激に慣れにくい。したがって、常時送風する場合に比べて、乗り物酔いの軽減効果が高まる。
【0055】
また、出力制御部13は、記憶装置30に記憶された出力パターン情報32を参照して、送風装置40における出力強度の切り替えパターンを決定してもよい。以降、出力強度の切り替えパターンのことを「出力パターン」とも称する。なお、出力パターンには、送風口から送出する風の温度を示す情報が含まれていてもよい。また、出力パターンには、送風口から送出する風の温度変化のパターンを示す情報が含まれていてもよい。
【0056】
なお、酔い判定部12から出力制御部13に酔いレベルが入力される場合、出力制御部13は酔いレベルに応じて出力パターンを決定してもよい。そして、出力制御部13は、酔いレベルに応じた出力パターンで送風装置40に風を送出させてもよい。
【0057】
例えば、乗員が強く酔っている場合、すなわち、重度の乗り物酔いの場合、乗員に強い刺激を与えて、早急に乗り物酔いを解消することが望ましい。そのため、出力制御部13は例えば、酔いレベルが高いほど、風速を速くしたり、出力強度の落差を大きくしたりしてもよい。これにより、乗り物酔いの軽減により効果的な出力態様で、乗員に送風することができる。
【0058】
VLF算出部14は、生体情報取得部11から入力された心拍信号を解析することで、心拍周期の超低周波(VLF)成分の振幅スペクトルパワーの値を算出する。なお、以降の説明では、「心拍周期の超低周波成分の振幅スペクトルパワーの値」のことを、単に「VLF値」と称する。
【0059】
VLF値の算出方法は、従来ある方法を使用してよい。VLF算出部14は算出したVLF値を記憶装置30のVLFデータ31に記録する。すなわち、VLF算出部14はVLFデータ31に最新のVLF値を追記する。
【0060】
ところで、ある1人の乗員のVLF値を算出するためには、当該乗員のある程度の期間分の心拍信号を解析する必要がある。そのためVLF算出部14は、生体情報取得部11から随時入力される心拍信号を所定期間分だけ一時記憶しておき、一時記憶している心拍信号のデータを定期的に解析する。これにより、VLF算出部14は定期的にVLF値を算出することができる。なお、前述の「所定期間」は、VLF値が算出可能な期間であれば、具体値は特に限定されない。例えば所定期間は60秒程度であってよい。
【0061】
なお、本実施形態の制御装置10は、記憶している所定期間分の心拍信号に基づき算出したVLF値を、乗員の「現在のVLF値」とみなしてもよいし、「過去のある時点でのVLF値である」とみなしてもよい。
【0062】
より具体的に説明すると、例えば、生体情報取得部11が過去60秒間の心拍信号のデータを記憶していることとする。この場合、制御装置10は、60秒前~現在(すなわち、0秒前)までの心拍信号に基づいて算出されたVLF値を、「過去60秒間の心拍信号を解析して得られた、現在のVLF値」とみなしてもよい。
【0063】
もしくは、制御装置10は、60秒前~現在までの心拍信号に基づいて算出されたVLF値を、「30秒前時点の前後30秒間の心拍信号を解析して得られた、30秒前のVLE値」とみなしてもよい。なぜならば、生体情報取得部11が過去60秒間の心拍信号を記憶しているという事は、現在から30秒前の時点を定点とすると、生体情報取得部11がその定点の前後30秒の心拍信号を記憶しているという事でもあるためである。
【0064】
本実施形態では、特段の記載が無い限り、生体情報取得部11は過去60秒間の心拍信号を一時記憶していることとする。また、本実施形態では、特段の記載が無い限り、制御装置10は60秒前~現在までの心拍信号に基づいて算出したVLF値を「現在のVLF値」とみなすこととする。
【0065】
解消判定部15は、送風によって乗員の乗り物酔いが解消したか否かを判定する。以降、乗り物酔いが解消したか否かの判定を「解消判定」とも称する。換言すると、解消判定部15は、酔い判定部12の判定において「乗り物酔いの状態である」と判定された乗員について解消判定を実行する。
【0066】
解消判定部15は、基準値決定部151と、比較値決定部152と、比較部153と、を含む。解消判定部15は、VLFデータ31を読み出して、基準値決定部151および比較値決定部152において解消判定のための前処理を行う。その後、解消判定部15は比較部153において解消判定を実行する。
【0067】
基準値決定部151は、VLFデータ31に記録されたVLF値から基準値を決定する。「基準値」とは、ある乗員が乗り物酔いの状態であるときの、当該乗員の標準的なVLF値を指す。本実施形態では、基準値決定部151は、送風装置40による送風の影響を受けていない期間中の心拍を解析して得られたVLF値の中で最新のVLF値を、基準値と決定する。基準値の決定方法については、後で詳述する。基準値決定部151は決定した基準値を比較部153に出力する。なお、乗員が複数存在する場合、基準値決定部151は各乗員の基準値を別個に決定する。
【0068】
比較値決定部152は、VLFデータ31に記録されたVLF値から比較値を決定する。「比較値」とは、ある乗員に乗り物酔い解消のための刺激(本実施形態では、送風)を与えたときのVLF値を指す。本実施形態では、比較値決定部152は、送風装置40による送風の影響を受けている期間中の心拍を解析して得られたVLF値の最大値を、比較値と決定する。比較値の決定方法については、後で詳述する。比較値決定部152は決定した比較値を比較部153に出力する。なお、送風開始直後などで比較値を決定できないときは、比較値決定部152は比較値を0と決定してもよいし、比較値が決定不能であることを比較部153に通知してもよい。また、乗員が複数存在する場合、比較値決定部152は各乗員の比較値を別個に決定する。
【0069】
比較部153は、基準値と比較値に基づいて解消判定を実行する。より詳しくは、比較部153は、比較値決定部152から入力された比較値が、基準値決定部151から入力された基準値よりも大きいか否かを判定する。比較値が基準値よりも大きい場合、比較部153は乗員の乗り物酔いが解消したと判定する。比較値が基準値以下の場合、比較部153は乗員の乗り物酔いが解消していないと判定する。
【0070】
なお、送風開始直後など、比較値決定部152が比較値を決定不能であるときは、比較部153は比較値を0とみなして解消判定を行ってよい。また、乗員が複数存在する場合、比較部153は各乗員についての基準値および比較値に基づいて、乗員毎に解消判定を実行する。
【0071】
比較部153によって乗員の乗り物酔いが解消したと判定された場合、解消判定部15は、出力制御部13に対し乗員の乗り物酔いが解消したことを通知する。なお、乗員が複数存在する場合、解消判定部15は出力制御部13に対し、どの乗員の乗り物酔いが解消したかも併せて通知する。
【0072】
VLF値は、活動、休息、睡眠、および覚醒といった乗員の状態および行動、ならびに、乗員の体内の概日リズム等の要素によって変動することが一般的に知られている。したがって、VLF値自体の大小に基づいて解消判定を行うと、十分な判定精度が得られない虞がある。
【0073】
これに対し、基準値決定部151は前述のように、送風の影響を受けていない期間中の心拍を解析して得られたVLF値のうち、最新のVLF値を基準値に決定する。そして、比較部153は、当該基準値と、送風の影響を受けている期間の心拍を解析して得られたVLF値(本実施形態では、当該期間中の最大値)と、を比較することで、乗り物酔いが解消したか否かを判定する。したがって、本実施形態に係る解消判定によれば、乗員の状態、行動、および概日リズム等によってVLF値自体が変動した場合でも、正確な判定結果を出すことができる。したがって、解消判定部15は、乗員が乗り物酔いの状態であるか否かを、正確に判定することができる。
【0074】
(記憶装置30)
記憶装置30は、制御装置10の動作に必要な各種データを記憶する。記憶装置30は例えば、VLFデータ31と、出力パターン情報32とを記憶している。なお、制御システム100が記憶装置30を備えていない場合、記憶装置30が記憶している各種データは、制御装置10の図示しない内部メモリが記憶していてもよい。
【0075】
VLFデータ31は、乗員のVLF値を時系列で記録したデータである。乗員が複数存在する場合、VLFデータ31は乗員毎に記憶される。VLFデータ31はVLF算出部14によって更新され、解消判定部15によって読み出される。
【0076】
出力パターン情報32は、送風装置40における出力態様を規定するデータである。なお、ここで言う「出力態様」とは、例えば、出力強度、出力をオンにしている時間、オフにしている時間、ならびに、出力のオンおよびオフのタイミング等を示す。なお、出力パターン情報32は、乗員の乗り物酔いの強度(例えば、前述した酔いレベル)毎に出力態様を規定しているデータであってもよい。
【0077】
≪基準値と比較値≫
次に、基準値および比較値の決定方法について、図3~4を参照してより具体的に説明する。なお、以下の説明では、VLF算出部14は1秒間隔でVLF値を算出してVLFデータ31に記録していることとする。つまり、図3および図4のグラフでは便宜上、VLF値を点ではなく線で示しているが、この線は実際は1秒ごとのVLF値をプロットした点の集まりである。
【0078】
図3は、基準値および比較値の一例を視覚的に示したグラフである。図3では、制御装置10が、60秒前~現在までの心拍信号に基づいて算出されたVLF値を、「現在のVLE値」とみなす場合の、基準値と比較値の決定方法、および、解消判定について説明する。
【0079】
図3の上段のグラフは、乗員に対する送風を開始した時点t1におけるVLFデータ31をグラフで示したものである。図3の例では、t1の時点で算出されたVLF値は現在(すなわち、t1時点)のVLF値とみなされる。t1の時点では、グラフ中の全てのプロットが「送風の影響を受けていない期間の心拍を解析して得られたVLF値」である。ゆえに、基準値決定部151は、グラフ中の最新のVLF値、すなわち、時点t1におけるVLF値を基準値と決定する。
【0080】
また、時点t1では、「送風の影響を受けている期間の心拍を解析して得られたVLF値」はグラフ中に存在しない。したがって、比較値決定部152は比較値を0とみなす。もしくは、比較値決定部152は、比較値が算出不能であることを解消判定部15へと通知する。このように、時点t1では基準値>比較値となるため、解消判定部15は時点t1では「乗員の乗り物酔いが解消していない」と判定する。
【0081】
図3の中段のグラフは、乗員に対する送風を開始した後の時点t2におけるVLFデータ31をグラフで示したものである。時点t2では送風が継続しているため、基準値は時点t1のときと同一である。時点t2では「送風の影響を受けている期間の心拍を解析して得られたVLF値」は、グラフ中のグレーの点描部分の区間のVLF値である。比較値決定部152は例えば、グレーの点描部分の区間のVLF値のうち最大値を比較値に決定する。図示の通り、時点t2においては、基準値>比較値である。したがって、時点t2でも、解消判定部15は「乗員の乗り物酔いが解消していない」と判定する。
【0082】
図3の下段のグラフは、乗員に対する送風を開始した後の時点であって、t2よりも後の時点t3におけるVLFデータ31をグラフで示したものである。時点t3でも送風が継続しているため、基準値は時点t1のときと同一である。また、図3の下段のグラフにおけるグレーの点描部分の区間のVLF値が、時点t3における「送風の影響を受けている期間の心拍を解析して得られたVLF値」である。比較値決定部152は時点t2と同様に、グレーの点描部分の区間のVLF値のうち最大値を比較値に決定する。図示の通り、時点t3においては、基準値<比較値である。したがって、時点t3において解消判定部15は「乗員の乗り物酔いが解消した」と判定する。
【0083】
図4は、基準値および比較値の他の一例を視覚的に示したグラフである。図4では、制御装置10が、60秒前~現在までの60秒間の心拍信号に基づいて算出されたVLF値を、「定点(すなわち、現在から30秒前の時点)の前後30秒間の心拍信号を解析して得られた、当該定点のVLE値」とみなす場合の、基準値と比較値の決定方法、および、解消判定について説明する。
【0084】
図4の上段のグラフは、乗員に対する送風を開始した時点t4におけるVLFデータ31をグラフで示したものである。前述の通り、図4の例では、t4時点で算出されたVLF値は「30秒前(t4-30)の時点のVLF値」であるとみなされる。
【0085】
図4の例の場合、現在から30秒前のVLF値が順次算出されていく。よってt4の時点では、グラフ中の全てのプロットが「送風の影響を受けていない期間の心拍を解析して得られたVLF値」である。ゆえに、基準値決定部151は、グラフ中の最新のVLF値、すなわち、時点「t4-30」におけるVLF値を基準値と決定する。
【0086】
また、時点t4では、「送風の影響を受けている期間の心拍を解析して得られたVLF値」はグラフ中に存在しない。したがって、比較値決定部152は比較値を0とみなす。もしくは、比較値決定部152は、比較値が算出不能であることを解消判定部15へと通知する。このように、時点t4では基準値>比較値となるため、解消判定部15は「乗員の乗り物酔いが解消していない」と判定する。
【0087】
図4の中段のグラフは、乗員に対する送風を開始した後の時点t5におけるVLFデータ31をグラフで示したものである。時点t5では送風が継続しているため、基準値は時点t4のときと同一(t4-30時点のVLF値)である。時点t5では「送風の影響を受けている期間の心拍を解析して得られたVLF値」は、グラフ中のグレーの斜線部分の区間のVLF値である。比較値決定部152は例えば、グレーの斜線部分の区間のVLF値のうち最大値を比較値に決定する。図示の通り、時点t5においては、基準値>比較値である。したがって、時点t5でも、解消判定部15は「乗員の乗り物酔いが解消していない」と判定する。
【0088】
図4の下段のグラフは、乗員に対する送風を開始した後の時点であって、t5よりも後の時点t6におけるVLFデータ31をグラフで示したものである。時点t6でも送風が継続しているため、基準値は時点t4のときと同一である。また、図4の下段のグラフにおけるグレーの斜線部分の区間のVLF値が、時点t6における「送風の影響を受けている期間の心拍を解析して得られたVLF値」である。比較値決定部152は時点t2と同様に、グレーの斜線部分の区間のVLF値のうち最大値を比較値に決定する。図示の通り、時点t6においては、基準値<比較値である。したがって、時点t6において解消判定部15は「乗員の乗り物酔いが解消した」と判定する。
【0089】
このように、VLF値の算出方法が異なる場合でも、基準値および比較値の算出手順、および解消判定の方法は同様であってよい。なお、図4の例では、現在から30秒前までのVLF値に基づいて解消判定を行うことになるが、解消判定部15は判定結果を「30秒前の判定結果」としてもよいし、「現在の判定結果」としてもよい。
【0090】
(定期処理)
制御装置10において、生体情報取得部11による心拍信号の取得、VLH値の算出、およびVLFデータ31へのVLH値の記録は、乗員が乗り物酔いであるか否かに関わらず、定期的に実行される定期処理である。図5は、制御装置10における定期処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0091】
前述した通り、制御装置10の生体情報取得部11は、心拍センサ21から心拍信号を受信する(S11)。生体情報取得部11は取得した心拍信号を、VLF算出部14(および、酔い判定部12)に出力する。
【0092】
VLF算出部14は、生体情報取得部11から随時入力される心拍信号を、所定期間分だけ一時記憶している。VLF算出部14は、この所定期間分の心拍信号に基づいてVLF値を算出する(S12)。VLF算出部14は算出したVLF値を、記憶装置30にVLFデータ31として記憶させる(S13)。これにより、VLFデータ31に最新のVLF値が時系列で記録される。
【0093】
制御装置10は、図5に示した定期処理を所定の時間間隔で実行する。これにより、乗員のVLF値が所定の時間間隔でVLFデータ31に記録されていくこととなる。例えば、定期処理の実行間隔が1秒である場合、VLFデータ31には1秒ごとのVLF値が記録される。また、制御装置10は、図3に示した定期処理を、乗員毎に実行する。これにより、VLFデータ31には乗員毎のVLF値が記録されていく。
【0094】
≪処理の流れ≫
最後に、制御装置10における乗り物酔いの判定と、送風装置40に対する出力制御との関係について説明する。図6は、制御装置10における乗り物酔いの判定および出力制御に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0095】
移動体1に人間が乗り込むと、生体センサ20は乗員の存在を検知し、生体情報を測定または取得する。生体センサ20は生体情報を制御装置10の生体情報取得部11へと送信する。この中には、心拍センサ21が測定した心拍信号も含まれる。
【0096】
生体情報取得部11は、種々の生体センサ20から生体情報を定期的に受信している。生体情報取得部11は取得した生体情報を酔い判定部12およびVLF算出部14へ出力する。
【0097】
酔い判定部12は、生体情報に基づいて、乗員が乗り物酔いになったか判定する(S21)。乗員が乗り物酔いになっていないと判定した場合(S22でNO)、酔い判定部12は出力制御部13に特に指示をせず、制御装置10は生体センサ20から次の生体情報を取得するまで待機する。一方、乗員が乗り物酔いになっていると判定した場合(S22でYES)、酔い判定部12は出力制御部13に対し、判定結果を出力する。そして、出力制御部13は送風装置40を制御することで、乗員に対する送風を開始させる(S23)。なお、出力制御部13は送風を開始したことを解消判定部15に伝えてよい。
【0098】
送風開始後、すなわち、酔い判定部12が乗員が乗り物酔いになったと判定した後、解消判定部15は、定期処理によって随時記録されているVLFデータ31を読み出す。そして、解消判定部15の基準値決定部151は、VLFデータ31に基づいて基準値を決定する(S24)。次に、比較値決定部152はVLFデータ31に基づいて比較値を決定する(S25)。そして、比較部153は、決定された基準値と比較値との大小を比較する。
【0099】
基準値より比較値の方が大きい場合(S26でYES)、解消判定部15は乗員の乗り物酔いが解消したと判定し(S27)、判定結果を出力制御部13に出力する。出力制御部13は送風装置40を制御することで、乗員に対する送風を終了させる(S28)。なお、出力制御部13は送風を終了したことを酔い判定部12に伝えてもよい。
【0100】
一方、比較値が基準値以下の場合(S26でNO)、解消判定部15は乗員の乗り物酔いが解消していないと判定する(S29)。そして、解消判定部15は新たにVLFデータ31を読み出して、S25から処理を繰り返す。
【0101】
前述のように、定期処理によってVLFデータ31には最新のVLF値が記録されていく。したがって、解消判定部15はVLFデータ31の再読出しを行うことで、最新のVLF値を含めて、S25からの判定を再試行することができる。
【0102】
なお、前述の通り、乗員が複数存在する場合、解消判定部15は乗員毎に決定された基準値および比較値に基づいて、乗員毎に解消判定を実行する。したがって、解消判定部15における解消判定は、送風装置40がある乗員に対する送風を停止するまでの間、定期的に実行される。ある乗員についての解消判定の実行間隔は特に限定されない。例えば、解消判定部15は、ある乗員についての解消判定を、VLF算出部14におけるVLF値の算出周期と同周期で実行してもよい。
【0103】
図6に示す処理によれば、VLF値に基づいて乗員の乗り物酔いが解消したか否かを判定する。より詳しくは、制御装置10は乗員が乗り物酔いの状態であるときのVLF値の基準値を設定し、送風後に、その基準値からVLF値が増加しているか否かを判定する。このように、図6に示す処理によれば、ある乗員自身の「乗り物酔いのときのVLF値」を比較対象としているため、当該乗員の現在行っている行動や、乗員の体調、退室、ならびに移動体1の内部空間の環境(温度等)の解消判定に与える影響を低減させることができる。したがって、制御装置10は、乗員の乗り物酔いが解消したか否かを正確に判定することができる。
【0104】
〔変形例〕
(制御システム100の変形例)
本開示に係る制御システム100において、記憶装置30は制御装置10の内蔵メモリであってもよい。また、本開示に係る制御システム100は、送風装置40以外に乗員に刺激を与えるための刺激付与装置を備えていてもよい。例えば、移動体1の座席シートに、刺激付与装置として、各座席の乗員に対して温感または冷感を与える素子が設けられていてもよい。
【0105】
(VLF値の算出の変形例)
本開示に係る生体情報取得部11は、心拍センサ21からVLF値を取得してもよい。この場合、心拍センサ21は、乗員の心拍を測定し、所定期間分の心拍データを一時記憶する。そして、当該所定期間分の心拍データに基づいて、VLF値を算出する。VLF値の算出方法は、生体情報取得部11の説明で記載した方法と同様であってよい。心拍センサ21は算出したVLF値を生体情報取得部11に送信する。生体情報取得部11はVLF値を受信すると、当VLF値をVLF算出部14(および酔い判定部12)に出力する。
【0106】
(基準値および比較値の変形例)
基準値決定部151は、前述の実施形態にて説明した方法以外の方法で基準値を決定してもよい。また、比較値決定部152も、前述の実施形態にて説明した方法以外の方法で比較値を決定してもよい。
【0107】
例えば、基準値決定部151は、送風の影響を受けていない期間の心拍から算出されたVLF値のうち、直近の所定期間のVLF値の平均値を求め、当該平均値を基準値にしてもよい。また例えば、比較値決定部152は、送風の影響を受けている期間の心拍から算出されたVLF値の平均値を、比較値にしてもよい。
【0108】
(解消判定の変形例)
前述の実施形態では、解消判定部15は、比較部153が一度「基準値よりも比較値の方が大きい」と判定すると、「乗員の乗り物酔いが解消した」と判定していた。しかしながら、本開示に係る解消判定部15は、比較部153における値の比較判定を複数回行った結果に基づいて、解消判定の最終結果を下してもよい。
【0109】
例えば、解消判定部15は、比較部153において連続して所定回数、「基準値よりも比較値の方が大きい」と判定された場合に、乗員の乗り物酔いが解消したと判定してもよい。これにより、前述の所定回数の設定を変更することで、解消判定の基準を調整することができる。例えば、前述の所定回数を多く設定すればするほど、「乗員の乗り物酔いが解消した」と判定する基準を厳しくすることができる。
【0110】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御装置10の制御ブロックは、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0111】
後者の場合、制御装置10は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサを備えていると共に、前記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、前記コンピュータにおいて、前記プロセッサが前記プログラムを前記記録媒体から読み取って実行することにより、本開示の目的が達成される。
【0112】
前記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。前記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、前記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、前記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して前記コンピュータに供給されてもよい。なお、本開示の一態様は、前記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。この他にも、例えば量子コンピュータにより前記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0113】
本開示は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【実施例0114】
(1:目的)
乗り物酔いの状態である人間に送風することで、乗り物酔いが解消するか否かを調べるため、以下の試験を行った。
【0115】
(2:試験条件)
乗り物酔いの状態の被験者を下記(a)~(d)の4種類の状態におき、各被験者の乗り物酔いが解消するまでにかかった時間を測定した。なお、(a)~(d)それぞれの状態におかれた被験者はいずれも4人であった。
【0116】
(a)非介入:何も処置を行わずに放置する。
【0117】
(b)インターバル送風:各被験者の首筋に対して風速10m/sで間欠的に送風する。
【0118】
(c)連続送風:各被験者の首筋に対して風速10m/sで連続的に送風する。
【0119】
(d)連続強送風:各被験者の首筋に対して風速25m/sで連続的に送風する。
【0120】
なお、本試験では、被験者が乗り物酔いの状態であるか否かは被験者自身の官能評価により判定した。すなわち、「乗り物酔いである」と申告した人間を被験者とし、当該被験者が「乗り物酔いでない」と申告した場合に、乗り物酔いが解消したと判定した。より具体的には、本試験では、ある人間が頭痛、吐き気、倦怠感等の症状を感じた場合に「乗り物酔いである」と申告させることとし、前述の各種症状が解消した場合に「乗り物酔いが解消した」と申告させることとした。
【0121】
(3:結果と考察)
図7は、本試験の結果得られた、グループ別の乗り物酔い解消までの所要時間を示すグラフである。図7に示す通り、送風を行わなかった「非介入」のグループの被験者は、送風を行った他の3グループの被験者と比べ、乗り物酔いの解消に時間を要した。また、「インターバル送風」のグループ、「連続送風」のグループ、および「連続強送風」のグループでは、乗り物酔いの解消までの所要時間がほぼ同一であった。
【0122】
以上のことから、少なくとも、乗り物酔いの状態の人間の首筋に対して10m/s以上の風速で送風することで、乗り物酔いの解消効果が認められることが分かった。また、少なくとも10m/s程度の風速であれば、間欠的に送風しても連続的に送風しても、乗り物酔いの解消効果はほぼ変わらないことが分かった。また、少なくとも10m/sでの送風と、25m/sでの送風とでは、乗り物酔いの解消効果はほぼ変わらないことが分かった。
【実施例0123】
(1:目的)
乗り物酔いの状態である人間に送風したときの、VLFの値の変動を調べるため、以下の試験を行った。
【0124】
(2:試験条件)
下記(e)および(f)の2種類の試験を行った。
【0125】
(e)被験者3人を乗り物酔いの状態になるまで車に乗せて、乗り物酔いになる前後の心拍を測定した。
【0126】
(f)(e)の試験と同じ被験者3人を、(e)の試験と同様に乗り物酔いの状態になるまで車に乗せ、乗り物酔いになる前後の心拍を測定した。ただし、本試験では、被験者が乗り物酔いの状態になったタイミングで、当該被験者の首筋へ風速20m/sでの送風を開始した。
【0127】
なお、本試験では、実施例1と同様に、被験者が乗り物酔いの状態であるか否かは被験者自身の官能評価により判定した。さらに、(e)および(f)の試験で得られた心拍信号をそれぞれ解析することで、(e)の試験および(f)の試験における被験者のVLFのZスコアを算出した。算出したZスコアをグラフにプロットした。
【0128】
(3:結果と考察)
図8は、本試験の結果得られた、被験者の心拍のVLFのZスコアの推移を示すグラフである。図8の縦軸はZスコアを示しており、横軸は時間を示している。なお、横軸については、各被験者が乗り物酔いの状態に達したタイミングを0としている。
【0129】
一般的に、心拍のVLFのZスコアの上昇は、交感神経の活性化を示すと言われている。図8のグラフに示した通り、乗り物酔いの状態になった被験者に送風しなかった場合、VLFのZスコアが低下していくことが分かった。一方、乗り物酔いの状態になった被験者に送風を行うと、VLFの値が増加することが分かった。
【0130】
したがって、本試験の結果によれば、乗り物酔いの状態の人間の首筋に送風することによって、VLFのZスコアを上昇させる、すなわち、当該人間の交感神経を活性化させることができることが分かった。
【符号の説明】
【0131】
1 移動体
10 制御装置
11 生体情報取得部
12 判定部
13 出力制御部
14 VLF算出部
15 解消判定部
20 生体センサ
21 心拍センサ
30 記憶装置
31 VLFデータ
32 出力パターン情報
40 送風装置
60 過去
100 制御システム
151 基準値決定部
152 比較値決定部
153 比較部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8