(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188686
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】フラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20221214BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20221214BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20221214BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
H05K3/34 507C
H05K3/34 512C
B23K35/26 310A
C22C13/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096918
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 宣宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 武
【テーマコード(参考)】
5E319
【Fターム(参考)】
5E319AA03
5E319AC01
5E319BB05
5E319CC36
5E319CD27
5E319CD29
5E319GG03
(57)【要約】
【課題】大型基板の製造にも対応できるフラックス組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤、および(D)ヒンダードアミン化合物を含有し、前記(D)成分が、下記一般式(D1)で表される構造を有する、フラックス組成物。
(前記一般式(D1)において、R
1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、Xは、水素、炭素数1から12のアルキル基、または炭素数1から12のアルコキシ基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤、および(D)ヒンダードアミン化合物を含有し、
前記(D)成分が、下記一般式(D1)で表される構造を有する、
フラックス組成物。
【化1】
(前記一般式(D1)において、R
1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、Xは、水素、炭素数1から12のアルキル基、または炭素数1から12のアルコキシ基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(D)成分が、下記一般式(D1-1)で表される構造を有する、
フラックス組成物。
【化2】
(前記一般式(D1-1)において、R
1は、独立して、メチル基、またはエチル基である。)
【請求項3】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(D)成分が、下記一般式(D1-2)で表される構造を有する、
フラックス組成物。
【化3】
(前記一般式(D1-2)において、R
1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、R
2は、炭素数1から12のアルキル基である。)
【請求項4】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(D)成分が、下記一般式(D1-3)で表される構造を有する、
フラックス組成物。
【化4】
(前記一般式(D1-3)において、R
1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、R
3は、炭素数1から12のアルキル基である。)
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のフラックス組成物において、
前記(A)の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下である、
フラックス組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のはんだ組成物において、
前記(E)成分におけるはんだ合金が、スズ、銅、亜鉛、銀、アンチモン、鉛、インジウム、ビスマス、ニッケル、金、コバルトおよびゲルマニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、
はんだ組成物。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載のはんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、
前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により加熱するリフロー工程を備え、
前記リフロー工程における溶融温度の到達時間が330秒間以上である、
電子基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤などを含む組成物)を混練してペースト状にした混合物である。このはんだ組成物においては、はんだ溶融性やはんだが濡れ広がりやすいという性質(はんだ濡れ広がり)などのはんだ付け性が要求されている。そして、これらの要求に対応するために、フラックス組成物中の活性剤などの検討がされている(例えば、特許文献1)。
一方で、はんだ組成物は、大型基板でも使用される。この大型基板ではんだ組成物を使用する場合には、リフロー工程におけるプリヒートの時間を長くする必要がある。このような場合、低分子量の有機酸のような活性剤は、失活しやすく、微小面積における溶融性が低下する。一方で、活性剤を増量する場合には、絶縁信頼性の低下や、銅腐食といった問題が発生しやすい。このように、電子部品の微細化に対応しつつ、大型基板の製造にも対応できるはんだ組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、大型基板の製造にも対応できるフラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤、および(D)ヒンダードアミン化合物を含有し、前記(D)成分が、下記一般式(D1)で表される構造を有する、フラックス組成物が提供される。
【0006】
【0007】
前記一般式(D1)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、Xは、水素、炭素数1から12のアルキル基、または炭素数1から12のアルコキシ基である。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有するはんだ組成物が提供される。
【0009】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るはんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により加熱するリフロー工程を備え、前記リフロー工程における溶融温度の到達時間が330秒間以上である、電子基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大型基板の製造にも対応できるフラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に係るフラックス組成物について説明する。本実施形態に係るフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤、および(D)ヒンダードアミン化合物を含有するものである。
【0012】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらのロジン系樹脂の中でも、水添酸変性ロジンを用いることが好ましく、水添酸変性ロジンと、これ以外のロジン系樹脂(不均化ロジン、重合ロジン、または水素添加ロジンなど)とを併用することがより好ましい。
【0013】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、34質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、35質量%以上50質量%以下であることが特に好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0014】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤は、(B1)炭素数10以上(より好ましくは11以上)の有機酸を含有することが好ましい。この(B1)成分は、プリヒート時間が長い場合でも、失活しにくく、微小面積における溶融性を向上できる。また、この(B1)成分は、銅腐食の要因にもなりにくい傾向にある。
【0015】
(B1)成分としては、ドデカン二酸、エイコサン二酸、ダイマー酸、トリマー酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、および1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
(B1)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。(B1)成分の配合量が前記下限以上であれば、微小面積における溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0017】
(B)成分は、本発明の効果を達成できる範囲内において、(B2)炭素数10未満の有機酸を含有していてもよい。
(B2)成分としては、炭素数10未満であるモノカルボン酸、ジカルボン酸、およびその他の有機酸が挙げられる。
炭素数10未満のモノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、およびブチリック酸などが挙げられる。
炭素数10未満のジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、およびアゼライン酸などが挙げられる。
炭素数10未満のその他の有機酸としては、乳酸、安息香酸、サリチル酸、およびクエン酸などが挙げられる。
【0018】
(B)成分は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(B1)成分および(B2)成分以外に、その他の活性剤((B3)ハロゲン系活性剤、およびアミン系活性剤など)をさらに含有してもよい。また、(B1)成分および(B2)成分の配合量の合計は、(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
また、(B3)成分を使用する場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましく、1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
(B3)成分としては、塩素化物、臭素化物、フッ化物のように塩素、臭素、フッ素の各単独元素の共有結合による化合物でもよいが、塩素、臭素およびフッ素の任意の2つまたは全部のそれぞれの共有結合を有する化合物でもよい。これらの化合物は、水性溶媒に対する溶解性を向上させるために、例えばハロゲン化アルコールやハロゲン化カルボキシル化合物のように水酸基やカルボキシル基などの極性基を有することが好ましい。
【0019】
(B)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、6質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0020】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(DEH)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
(C)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0022】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)ヒンダードアミン化合物は、下記一般式(D1)で表される構造を有するものである。この(D)成分により、リフロー時での溶融温度の到達時間が長い場合において、微小面積における溶融性を向上できる。また、この(D)成分により、黄銅に対するぬれ性を向上できる。
【0023】
【0024】
一般式(D1)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、メチル基であることが好ましい。
Xは、水素、炭素数1から12のアルキル基、または炭素数1から12のアルコキシ基である。また、Xが水素の場合は、下記一般式(D1-1)で表される構造である。Xが炭素数1から12のアルキル基の場合は、下記一般式(D1-2)で表される構造である。Xが炭素数1から12のアルコキシ基の場合は、下記一般式(D1-3)で表される構造である。
なお、(D)成分において、波線より先の部分の構造は、特に限定されない。
(D)成分の1分子中における一般式(D1)で表される構造の数は、1以上10以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましい。
【0025】
【0026】
一般式(D1-1)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、メチル基であることが好ましい。
一般式(D1-1)で表される構造を有する化合物としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバシケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、および、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0027】
【0028】
一般式(D1-2)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、メチル基であることが好ましい。
R2は、炭素数1から12のアルキル基であり、炭素数1から8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1から3のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
一般式(D1-2)で表される構造を有する化合物としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]エチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-(メチル)-8-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、および、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0029】
【0030】
一般式(D1-3)において、R1は、独立して、メチル基、またはエチル基であり、メチル基であることが好ましい。
R3は、炭素数1から12のアルキル基であり、炭素数4から11のアルキル基であることが好ましく、炭素数8から11のアルキル基であることがより好ましく、オクチル基またはウンデシル基であることが特に好ましい。
一般式(D1-3)で表される構造を有する化合物としては、ビス(3,3,5,5-テトラメチルピペリジン-4-イル)デカンジオアート、および、ビス(1-ウンデカオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネートなどが挙げられる。
【0031】
(D)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以上7質量%以下であることが特に好ましい。(D)成分の配合量が前記下限以上であれば、特にリフロー時での溶融温度の到達時間が長い場合において、微小面積における溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0032】
[チクソ剤]
本実施形態のフラックス組成物においては、印刷性などの観点から、さらにチクソ剤を含有することが好ましい。ここで用いるチクソ剤としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
チクソ剤の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、ダレが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、印刷不良となりやすい傾向にある。
【0034】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、およびチクソ剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、酸化防止剤(ヒンダードフェノール等)、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂、およびポリブタジエンなどが挙げられる。
【0035】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態のはんだ組成物について説明する。本実施形態のはんだ組成物は、前述の本実施形態のフラックス組成物と、以下説明する(E)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0036】
[(E)成分]
本発明に用いる(E)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、金(Au)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。本実施形態のフラックス組成物によれば、アンチモン、ビスマスおよびニッケルなどの酸化しやすい添加元素を含むはんだ合金を用いた場合でも、ボイドの発生を抑制できる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0037】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、Sn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0038】
(E)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0039】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(E)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0040】
[電子基板の製造方法]
次に、本実施形態の電子基板の製造方法について説明する。本実施形態の電子基板の製造方法は、以上説明したはんだ組成物を用いることを特徴とするものである。本実施形態の電子基板の製造方法によれば、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで、電子基板を製造できる。
前述した本実施形態のはんだ組成物は、大型基板の製造にも対応できる。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、前記塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0041】
リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、電子部品をプリント配線基板などに実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましい。プリヒート時間は、大型基板に対応するという観点から、100秒間以上250秒間以下であることが好ましく、120秒間以上200秒間以下であることがより好ましい。ピーク温度は、230℃以上270℃以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、大型基板に対応するという観点から、40秒間以上160秒間以下であることが好ましく、100秒間以上150秒間以下であることがより好ましい。
また、プリヒート温度(例えば140℃)の到達時間は、大型基板に対応するという観点から、180秒間以上であることが好ましく、200秒間以上であることがより好ましく、220秒間以上500秒間以下であることが特に好ましい。溶融温度(例えば、220℃)の到達時間は、大型基板に対応するという観点から、330秒間以上であることが好ましく、350秒間以上であることがより好ましく、360秒間以上700秒間以下であることが特に好ましい。
なお、上記のようなリフロー条件のように、リフロー炉内で曝される時間が長くなるほど、はんだ粉末の酸化は進み、はんだ溶融性は劣化する傾向にある。これに対し、前述した本実施形態のはんだ組成物は、このようなリフロー条件にも対応できる。
【0042】
また、本実施形態のはんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例0043】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂B:完全水添ロジン、商品名「フォーラルAXE」、理化ファインテク社製
((B1)成分)
有機酸A:ダイマー酸、商品名「UNIDYME14」、アリゾナケミカル社製
((B2)成分)
有機酸B:グルタル酸
((B3)成分)
ハロゲン系活性剤:トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール(TDBD)
((C)成分)
溶剤:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(DEH、ヘキシルジグルコール)
((D)成分)
ヒンダードアミン化合物A:1分子中に一般式(D1-1)で表される構造を2つ有する化合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバシケート、商品名「Tinuvin 770DF」、BASF社製
ヒンダードアミン化合物B:1分子中に一般式(D1-1)で表される構造を4つ有する化合物、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、商品名「アデカスタブLA-57」、ADEKA社製
ヒンダードアミン化合物C:1分子中に一般式(D1-1)で表される構造を1つ有する化合物、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、商品名「アデカスタブLA-87」、ADEKA社製
ヒンダードアミン化合物D:1分子中に一般式(D1-2)で表される構造を2つ有する化合物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]エチル]ブチルマロネート、商品名「Tinuvin PA144」、BASF社製
ヒンダードアミン化合物E:1分子中に一般式(D1-2)で表される構造を2つ有する化合物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート+1-(メチル)-8-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、商品名「Tinuvin 765」、BASF社製
ヒンダードアミン化合物F:1分子中に一般式(D1-2)で表される構造を4つ有する化合物、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、商品名「アデカスタブLA-52」、ADEKA社製
ヒンダードアミン化合物G:1分子中に一般式(D1-2)で表される構造を1つ有する化合物、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、商品名「アデカスタブLA-82」、ADEKA社製
ヒンダードアミン化合物H:1分子中に一般式(D1-3)で表される構造を2つ有する化合物、ビス(3,3,5,5-テトラメチルピペリジン-4-イル)デカンジオアート、商品名「Tinuvin 123」、BASF社製
ヒンダードアミン化合物I:1分子中に一般式(D1-3)で表される構造を1つ有する化合物、ビス(1-ウンデカオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート、商品名「アデカスタブLA-81」、ADEKA社製
(他の成分)
酸化防止剤A:ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、商品名「イルガノックス245」、BASF社製
酸化防止剤B:ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、商品名「ANOX20」、SI Group社製
酸化防止剤C:2,2’-メチレンビス[6-(1-メチルシクロヘキシル)-p-クレゾール]、商品名「LOWINOX WSP」、SI Group社製
酸化防止剤D:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、東京化成工業社製
チクソ剤A:商品名「ターレンVA-79」、共栄社化学社製
チクソ剤B:商品名「スリパックスH」、日本化成社製
((E)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は15~25μm、はんだ融点は217~220℃
【0044】
[実施例1]
ロジン系樹脂A37質量%、ロジン系樹脂B5質量%、有機酸A4質量%、有機酸B5質量%、溶剤36質量%、ヒンダードアミン化合物A5質量%、チクソ剤A2質量%およびチクソ剤B6質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物12質量%およびはんだ粉末88質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0045】
[実施例2~11]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~5]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0046】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(微小ランドの溶融性、ピン間ボール、ボイド、ぬれ効力(黄銅)、銅板腐食、銅鏡腐食、絶縁抵抗)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)微小ランドの溶融性
基板上に、厚み0.08mmのメタルマスクを用いて、はんだ組成物を印刷した。なお、直径が1.00mm、0.50mm、0.40mm、0.35mm、0.30mm、0.28mm、0.26mm、0.24mm、0.22mm、0.20mm、0.18mmおよび0.16mmの銅箔パッドの試験パターン各100個を印刷した。その後、下記加熱条件Aまたは下記加熱条件Bでリフローを行い、それぞれ試験基板を作製した。試験基板を顕微鏡にて観察して、最小溶融パッドの直径(単位:mmφ)を測定した。直径が小さいほど、溶融性が優れる。
(加熱条件A)
プリヒート温度:140~200℃で100秒間(140℃の到達時間85秒)
220℃以上の保持時間:50秒間(220℃(溶融温度)の到達時間210秒)
ピーク温度:250℃
(加熱条件B)
プリヒート温度:140~200℃で160秒間(140℃の到達時間235秒)
220℃以上の保持時間:120秒間(220℃(溶融温度)の到達時間415秒)
ピーク温度:240℃
(2)ピン間ボール
基板上に、厚み0.08mmのメタルマスクを用いて、はんだ組成物を印刷し、0.8mmピッチのQFP(Quad Flat Package)を実装し、さらに、微小ランドの溶融性の評価における加熱条件Bと同様の条件にて、リフロー処理を行い、評価用基板を作製した。QFPのスリット部分を拡大鏡にて観察し、スリット間におけるはんだボールの発生数をカウントした。そして、以下の基準に従って、はんだボールを評価した。
◎:1ピンあたりのボール発生数が、25個以下である。
〇:1ピンあたりのボール発生数が、25個超50個以下である。
△:1ピンあたりのボール発生数が、50個超75個以下である。
×:1ピンあたりのボール発生数が、75個超である。
(3)ボイド
基板上に、厚み0.08mmのメタルマスクを用いて、はんだ組成物を印刷し、0.5mmピッチのQFN(Quad Flat Non-leaded package)を実装し、さらに、微小ランドの溶融性の評価における加熱条件Bと同様の条件にて、リフロー処理を行い、評価用基板を作製した。そして、X線検査装置として、名古屋電機工業社製の「NLX-5000」を使用して、ボイドを測定し、装置の標準アプリケーションを用いて、QFNのパッド部におけるボイド面積率[(総ボイド面積/総ランド面積)×100]を算出した。そして、以下の基準に従って、ボイドを評価した。
○:ボイド面積率が、20%以下である。
△:ボイド面積率が、20%超30%以下である。
×:ボイド面積率が、30%超である。
(4)ぬれ効力(黄銅)
JIS Z 3284(2014)に記載の方法に準拠して、はんだのぬれ性(ディウェッティング)の試験を行う。すなわち、金属板(黄銅、大きさ:30mm×30mm、厚み:0.3mm)を準備し、研磨剤で研磨した。この金属板に、直径6.5mmφの円形のパターン孔を有する厚み0.2mmのメタルマスクを使用し、はんだ組成物を印刷して試験片を得た。この試験片を微小ランドの溶融性の評価における加熱条件Bと同様の条件にて加熱した。試験片を顕微鏡にて観察し、下記の基準に従って、ディウエッティング(黄銅)を評価した。
区分1:はんだ組成物から溶融したはんだが、試験板をぬらし、はんだ組成物を塗布した面積以上に広がった状態である。
区分2:はんだ組成物を塗布した部分はすべて、はんだでぬれた状態である。
区分3:はんだ組成物を塗布した部分の大半は、はんだでぬれた状態(ディウェッティングも含まれる。)である。
区分4:試験板は、はんだがぬれた様子はなく、溶融したはんだは一つまたは複数のはんだボールとなった状態(ノンウェッティング)である。
(5)銅板腐食
IPC TM650 2.6.15Cに記載の方法に準拠して、銅箔腐食試験を行い、銅腐食を評価した。そして、銅箔腐食試験の結果が、合格となる場合には「○」と判定し、それ以外の場合には「×」と判定した。
(6)銅鏡腐食
IPC TM650 2.3.32Dに記載の方法に準拠して、銅箔腐食試験を行い、銅腐食を評価した。そして、以下の基準に従って、銅鏡腐食を評価した。
〇:銅鏡の薄膜の剥落が、全くない。
△:銅鏡の薄膜の剥落が、50%未満である。
×:銅鏡の薄膜の剥落が、50%以上である。
(7)絶縁抵抗
JIS Z3197(2012)に記載の絶縁抵抗試験に準拠して、絶縁抵抗値を測定した。そして、以下の基準に従って、絶縁抵抗を評価した。
○:絶縁抵抗値が、1.0×1010以上である。
△:絶縁抵抗値が、1.0×109以上1.0×1010未満である。
×:絶縁抵抗値が、1.0×109未満である。
【0047】
【0048】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~11)は、微小ランドの溶融性、ピン間ボール、ボイド、ぬれ効力、銅板腐食、銅鏡腐食、および絶縁抵抗の全ての結果が良好であることが確認された。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、大型基板の製造にも対応できることが確認された。